FRET発光における偏光異方性を使用したスクリーニング
【解決手段】第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するための方法及び装置を説明する。第一のフルオロフォアに関連する第一の化学物質を固定化する。第二の化学物質は、固定化した第一の化学物質との結合を可能にする。第二の化学物質は、第一のフルオロフォアとのFRETペアを形成する第二のフルオロフォアであるか、或いは第二のフルオロフォアと結合した状態になる。結合化学物質を、第一または第二のフルオロフォアの何れかの励起周波数での放射に露出し、第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するために、結合化学物質からのFRET蛍光信号の偏光異方性を測定する。ドナーフルオロフォアを含む第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアを含む第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを、ドナー及びアクセプタフルオロフォアの波長での同時異方性測定を用いて検出するための手法も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の高速微量アッセイと、対象物及び細胞に基づく蛍光測定アッセイにおいて使用する、改良された蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)手法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRETは、ドナー及びアクセプタのフルオロフォア間の近接性を示す。ドナーが所定周波数の入射光により励起される時、ドナーが蛍光として通常放出するエネルギの一部は、アクセプタがドナーに十分に近接している場合(通常、殆どのドナーフルオロフォアにおいて約50オングストローム)、アクセプタへ転送される。アクセプタへ転送されたエネルギの少なくとも一部は、アクセプタの蛍光周波数で放射として放出される。FRETは、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、「FRET Imaging」(Jares-Erijman, E.A., and Jovin, T.M., Nature Biotechnology, 21(11), (2003), pg 1387-1395)等、様々な文献で説明されている。
【0003】
本発明の背景におけるもう一つの重要な概念は、異方性である。異方性は、放射が非ランダムに偏光される度合い、即ち、ある偏光配向性が、それに直交する偏光配向性より優勢となる度合いの尺度となる。異方性の高い信号は、強く偏光される(例えば、純粋に直線的に偏光される)。等方性の高い信号は、ランダムな偏光に近くなる。従来の一方法において、異方性(r)は、次の式を用いて計算される。
r=(VV−gVH)/(VV+2gVH)
ここでVH及びVVは、垂直励起偏光と相対的な水平及び垂直発光偏光であり、gは、光学機器の偏光バイアスを補正する。
【0004】
従来、FRET分析は、以下の一つ以上の検出に依存する:(1)アクセプタの発光周波数での蛍光の存在、(2)ドナーに対するアクセプタの蛍光強度の割合、及び(3)ドナーの蛍光発光の継続時間。こうした手法には、それぞれに問題がある。例えば、ドナーフルオロフォアを励起するのに使用する周波数に露出した時、アクセプタは、ある程度の自然蛍光を発生させるため、アクセプタの発光周波数での蛍光の存在を検出するだけでは、一般には十分ではない。更に、時間分解FRET画像化及び分析では、標準的な蛍光画像化及び分析よりも複雑な機器が必要となる。
【0005】
偏光異方性は、FRET検出手法として提案されている。FRETアクセプタフルオロフォアが生成する蛍光は、FRETプロセスにより非偏光化され、一般には、ドナーフルオロフォアから直接生成された蛍光に比べ、相対的に低い異方性を有する。したがって、異方性は、FRETの尺度として使用可能であり、故に、ドナー及びアクセプタフルオロフォアに関連する近接性の尺度として使用できる。ホモFRET、または類似フルオロフォア間でのFRETにおけるこの手法の使用は、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、「Imaging molecular interactions in cells by dynamic and static fluorescence anisotropy (fFLIM and emFRET)」(Lidke, D.S., Nagy, P., Barisas, B.G., Heintzmann, R., Post, J.N., Lidke, K.A., Clayton, A.H.A., Arndt-Jovin, D.J. and Jovin T.M., Biochem. Soc. Trans., 31(5) (2003), pg. 1020-1027)において説明されている。
【0006】
蛍光異方性は、生体細胞におけるFRET検出戦略としても採用できる。「High contrast imaging of fluorescent protein FRET by fluorescence polarization microscopy」(Rizzo, M.A & Piston, D.W., Bophys J, 88 L14-16, 2005)において説明されたように、シアン蛍光蛋白質(CFP)の一種であるmCeruleanの蛍光異方性は、全波長の発光範囲に渡って約0.3の値を有する。しかしながら、mCeruleanが黄色蛍光蛋白質(CFP(YFP)の一種であるmVenusとのFRETペアとなる場合、異方性は、ドナー(即ち、mCerulean)が蛍光を発する時には高い状態を維持し(0.3を僅かに上回る)、アクセプタ(即ち、mVenus)が蛍光を発する時には約0.15に低下する。異方性の差は様々な測定結果の間で非常に一貫しているが、差は比較的小さく、通常は、異方性の変化に影響を与え得る未知の要素とキャリブレーション係数とが多数存在するため、実験状況では用途が限られる。したがって、特に、FRETプロセスに関連する異方性変化を測定する、改良され信頼性が向上した方法を有することが望ましい。
【発明の開示】
【0007】
本発明の一態様は、第一の化学物質と第二の化学物質との間の特異結合を検出するための方法及び装置に関する。第一のフルオロフォアに関連する第一の化学物質は、固定化してよい。第二の化学物質は、固定化した第一の化学物質との結合できるようにする。第二の化学物質は、第一のフルオロフォアとのFRETペアを形成する第二のフルオロフォアであるか、或いは第二のフルオロフォアと結合した状態になる。結合化学物質を、第一または第二のフルオロフォアの何れかの励起周波数での放射に露出し、第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するために、結合化学物質からのFRET蛍光信号の偏光異方性を測定する。
【0008】
有利な実施例は、以下の特徴を一つ以上含むことができる。場合により、異方性に追加して情報を利用し、試料を評価できる。例えば、方法は、第一または第二のフルオロフォアの少なくとも一方のドナー発光継続時間を測定する工程を含んでよい。場合により、方法では、一方または両方のフルオロフォアの相対または絶対強度を測定する。特定の実施形態において、第一及び第二のフルオロフォアは同一である(ホモFRET)。
【0009】
多数の様々な化学物資が、本発明で使用されると考えられる。こうした化学物質は、小分子と、複合体と、蛋白質及び核酸のような生体分子と、分子の集合と、細胞小器官のような生物学的構造等になり得る。特定の実施形態において、第一及び第二の化学物質の一方は、蛋白質を含み、第一及び第二の化学物質の他方は、核酸を含む。一部の実施形態において、方法は、所定の処理の結果として第一及び第二の化学物質の少なくとも一方が特定の状態(例えば、コンホメーション状態、リン酸化のような化学修飾等)になる場合のみ第一及び第二の化学物質間の特異結合が生じるように、第一及び第二の化学物質の少なくとも一方に対して所定の処理を行う工程を含む。
【0010】
アッセイの設計に応じて、偏光異方性は、単一の波長または複数の波長で測定し得ることに留意されたい。更に一般的には、フルオロフォアは、異なるものとなる。一部の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、同時に測定される。一部の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される。系統的な測定変化の例は、生化学的経路でのカスケード反応における生体分子の遷移である。アッセイは、生体分子の遷移を測定するように設計される。
【0011】
本発明の別の態様は、ドナーフルオロフォアを含む第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアを含む第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法及び装置に関する。化学物質は、第一のフルオロフォアの励起波長での放射に露出する。化学物質からの蛍光信号の偏光異方性は、ドナーフルオロフォアの発光波長と、アクセプタフルオロフォアの発光波長とにおいて測定する。第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、測定した異方性を比較する。ドナーフルオロフォアの発光波長での信号の異方性は、アクセプタフルオロフォアの発光波長で測定した異方性を調整するための内部基準を提供し得る。別の実施形態では、アクセプタフルオロフォアの発光波長の異方性を、励起源の放射の異方性、或いは、アッセイ試料において提供される、FRETペアに結合していない別個のフルオロフォアの異方性といった、「外部」基準と比較する。後者の例において、外部基準は、例えば、試料内部にまたは試料に近接して提供された、フルオロフォアのビーズまたはスポットにより提供し得る。
【0012】
有利な実施例は、以下の特徴を一つ以上含むことができる。特定の実施形態において、FRET相互作用が発生したと判断されるのは、アクセプタフルオロフォアの発光波長での測定異方性がドナーフルオロフォアの発光波長での測定異方性に対して変化する時である。場合により、ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアの異方性は、同時に測定される。特定の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される。
【0013】
第一及び第二の化学物質は、FRET分析の標的領域に含み得る。標的領域の例は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管に閉じ込めた試料または対象物と、微小流路に閉じ込めた試料または対象物と、ウェルまたは小滴等の液体領域に閉じ込めた細胞の集合またはコロニと、表面または表層上で固定化した細胞の集合またはコロニとのうち一つ以上を含む。
【0014】
本発明の方法を使用して、多様な種類の相互作用を比較し得る。一例において、化学物質の少なくとも一つは、他方の化学物質との結合時に何らかのコンホメーションの柔軟性が失われた状態となる小分子である。多様なフルオロフォアの組み合わせを利用し得る。一部の例では、ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアは同一である。化学物質は、多様な形でフルオロフォアと関連し得る。一例では、抗体−抗原相互作用またはストレプトアビジン−ビオチン相互作用等、従来の結合メカニズムを利用する。
【0015】
本発明は、以下の利点の一つ以上を含むように実現できる。特異結合を検出するためにFRETにおける偏光異方性を利用するアレイに基づくアッセイの使用では、時間に基づく信号の取り込みを必要とせず、アレイに基づくアッセイにおいて二色の異方性測定が行われない限り、複数の波長(ドナー及びアクセプタフルオロフォア発光のもの)での収集を必要としない。更に、広いダイナミックレンジと、高い信号対雑音比とを提供する。本発明のFRETに基づくアッセイは、様々な種類のサンドイッチアッセイを含め、基本的には現在利用可能な任意のアッセイにおいて利用できる。アッセイは、生体分子と、化学兵器等の様々な非生体分子とを検出するために利用し得る。従来のアッセイは、各結合相手にそれぞれのフルオロフォアが提供され、一方がドナーフルオロフォアとなり、他方がアクセプタフルオロフォアとなるように簡単に修正される。
【0016】
本発明の一つ以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の説明において述べる。本発明の他の特徴及び利点は、説明及び図面と添付特許請求の範囲とから明らかとなろう。
【0017】
以下、各図面の同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一態様によれば、異方性は、特異結合を検出するために、上記のアレイに基づくアッセイ等のアッセイにおけるFRET検出戦略の一部として測定される。本発明の別の態様によれば、本発明は、改良されたFRET検出及び/または定量化のための手法を、一般的には上記のアレイに基づくアッセイにおいて、実現及び使用する方法及び装置を提供する。
【0019】
改良されたFRET検出手法は、FRETペアにおいてアクセプタとして機能する染料の異方性がFRETペアで相互作用していない時に有するものより大幅に低くなるという認識から生じたものである。しかしながら、FRETペアにおいてドナーとして機能する染料は、FRETペアのドナーである時も、FRETペアでドナーとして相互作用していない時も、基本的に同じ異方性を有する。したがって、アクセプタの発光波長領域とドナーの発光波長領域との異方性の比または差を検査することで、FRET相互作用が生じているかを判断できる。更に、ドナーの発光の異方性は、アクセプタの発光の異方性変化を検出及び/または定量化可能な内部基準の役割も果たせる。特定の実施形態において、本発明による装置では、二種類の波長領域において同時異方性測定を実行できる。これにより、両方の種類の異方性は、他の全てのパラメータを同一に維持した状態で測定され、連続測定を実行した場合のように、パラメータを変化させ得るいかなる不確実性も回避される。更に、装置により、検出時及びその後のデジタル化において、測定及び処理をリアルタイムで実行できる。以下、これを「ストリーミングデータ処理」または「オンザフライ」データ処理と呼ぶ。
【0020】
以下、本発明の特定の実施形態を詳細に説明し、添付図面に示す。こうした特定の実施形態に関連して本発明を説明するが、本発明を一実施形態に限定するものではないことは理解されよう。以下の説明では、本発明の完全な理解のために、多数の具体的な詳細について述べる。本発明は、こうして具体的な詳細の一部または全部がなくとも実現し得る。また、周知の処理動作は、本発明を不必要に曖昧にしないために詳細な説明を省略する。
【0021】
特異結合を特定するために、FRETシステムを採用したアレイにおいて異方性を分析するのに適した機器には、様々な種類が存在する。適切な装置の一部の説明は、それぞれ出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする以下の文書に記載される:発明者Cromwellらによる2004年8月26日提出の米国特許出願第10/927,748号(公開出願番号2005−0046848−A1、2005年3月3日公開)「時間依存蛍光測定」、発明者Cromwellらによる2004年8月26日提出の米国特許出願第10/928,484号(公開出願番号2005−0046849−A1、2005年3月3日公開)「時間依存蛍光の測定」、及び2005年2月9日提出の米国特許出願第11/055,244号「少試料量を走査する方法及び装置」。
【0022】
図1は、試料における異方性を検出するのに適した装置(100)の一実施形態の概略図を示す。同等の装置の動作は、上記特許出願で詳細に説明されている。簡単に言うと、並進ステージ(102)上に位置する試料を、レーザ(101)により、一組の光学素子(109)を介して励起する。光学素子は、レーザ(101)からの光の焦点を、画像化すべき試料の領域に合わせる。焦点領域は、例えば、マイクロアレイプレート基部の上方に位置する。試料は、マイクロアレイプレートのマイクロウェル底部に付着させた細胞またはin vitro結合ペアの固定化した構成要素等、蛍光により検査する対象物にできる。
【0023】
試料から結果的に生じた蛍光は、二組の集光レンズ(119)により集光し、二台の検出器(121)それぞれに送る。集光レンズ(119)は、マイクロアレイプレートのような大きなアレイの走査が可能となるように構成できる。一実施形態において、集光レンズ(119)は、試料アレイ基部の一寸法に渡って広がるビームの全範囲を取り込むように設計されたロッドレンズである。集光レンズ(119)は、特定のアッセイタイプ用に、こうしたアッセイにおいて発光から必要な特定の情報を取り込むために選択されるような、別の種類のレンズ或いはレンズの集合体を含むこともできる。一部の実施形態では、収集レンズ(119)の複数の設定を使用して、集光効率を改善できる。
【0024】
二組の集光レンズ(119)により、放出された蛍光の別個の成分(例えば、別の波長、偏光状態等)の同時集光が可能となる。例えば、第一の偏光フィルタを使用して、第一の偏光の光のみを第一の検出器へ送り、第二の偏光フィルタを使用して、第二の直交する偏光の光のみを第二の検出器へ送ることができる。この構成で収集された信号の相互関係と、検出システムでの検出と、格納信号のその後の操作とにより、単一の検出器では入手できない情報が、信号の改善と併せて生じる。したがって、この装置に由来する情報は、定常状態の異方性となる。更に、蛍光継続時間データを取り込むのに適した検出回路を備えて、装置が構成される場合には、蛍光異方性の時間依存性の挙動の相互関係を測定できる。以下で更に詳細に述べるように、この異方性測定能力は、FRET測定において重要な情報を提供するのに使用できるという利点を有する。
【0025】
蛍光の検出器(121)への伝達は、例えば、光ファイバまたは光ファイバ束(120)により達成できる。一実施形態において、検出器(121)は、電気出力信号を生成する、光電子増倍管等の高利得の検出器である。殆どの光ファイバは偏光情報を歪め、光ファイバから出力された光は光ファイバの他端に入力された光と同一の偏光成分を有していないことから、収集光が何れかの光ファイバ(120)に入る前には、通常、何らかの偏光フィルタリングが実行されることに留意されたい。図示した実施形態において、検出器からの出力信号は、ADC/DSP電子機器(114)により処理され、コンピュータ(124)へ送られ、更に処理される。コンピュータ(124)は、信号の強化、平均化、または積算検出システムを利用して、利得及び信号対雑音比(S/N)の最適化等の動作を行う。
【0026】
特定の実施形態において、FRET検出装置は、非常に単純にすることが可能であり、発光放射の変更状態を測定する装備のみが必要となる。しかしながら、更に複雑な機器を利用して、FRETに関連する追加データを提供し得る。例えば、機器の利用により、蛍光信号の継続時間、特に、時間の関数としての強度及び/または時間の関数としての異方性を測定可能となり得る。通常のシステムにおいて、検出回路は、試料から励起エネルギを取り除いた後、約0.5ナノ秒乃至10ナノ秒の期間に渡り、発光信号(または波長の異なる複数の発光信号)を記録及び格納可能である。一部の例では、利用するフルオロフォアに応じて、発光信号の測定継続時間は、数百ナノ秒、或いは数マイクロ秒にも成り得る。特定の希土類金属をドープしたフルオロフォアは、ミリ秒の範囲の蛍光継続時間を有する。前述のように、FRETの発現の一つには、ドナー発光継続時間の減少がある。更に、機器の利用により、ドナー及びアクセプタ、或いはアクセプタと公知の異方性を有する他の何らかの基準放射源との両方の周波数での発光放射を同時に取り込む能力を有し得る。これにより、強度比の測定も機器により提供可能となる。上記の装置は、様々な周波数用の冗長収集器を装備してよく、或いは、基準周波数及び信号周波数の放射を交互に取り込む単一の収集システムを利用してもよい。
【0027】
本明細書の別の部分で更に詳細に説明するように、本発明の特定の実施形態は、基準信号を利用して、FRET信号、特に、こうした信号の異方性、継続時間、及び/または強度を調整する。多くの場合、基準信号は、例えば、FRETペアのドナーフルオロフォアの発光から取り出した内部基準である。
【0028】
更に一般的には、測定の内部基準は、信号が測定されている試料中のフルオロフォア(即ち、アクセプタフルオロフォア)に類似する物理及び/または化学特性を有する分子フルオロフォアが提供し得る。この内部基準源は、基準フルオロフォアに存在する物理/化学的相互作用は試料自体においても同じように作用すると推定されることから、望ましい場合が多い。そのため、類似分子の内部基準は、正確な補正済みの内部基準偏光源を提供する。しかしながら、こうした基準信号の使用が有利にならない状況もあり得る。こうした場合、励起源自体(例えば、レーザ)からの信号といった別の基準源は、特に強い信号を提供し、通常の蛍光信号のように多くの波長には分散しないことから、適切な内部基準となる。こうした基準信号は、散乱チャネルにおいて容易に測定可能であり、測定レンズを経由する以外では非偏光化されない。同様に、スポットアレイでは、基準フルオロフォア信号を発見し、増大させ、集中度を高めることができるため、蛍光基準信号は非常に強力になり、測定が容易になる。
【0029】
外部基準が望ましい別の例は、内部基準の発色団がホモFRETを発生させる場合であり、これにより、内部異方性は非偏光化される。この場合、内部基準は、信頼できないか、或いは、集中等の条件により系統的に変化し得る。そのため、この場合、外部基準、特に試料と共に存在する強力な信号を提供するものが、高い信頼性を有し得る。
【0030】
FRETプロセスの異方性測定結果は、ELISA等の従来のアレイに基づくアッセイ、特に高レベルの非特異結合が問題となるものにおいて利用し得るという利点を有する。こうした非特異結合は、対象の特異結合部以外のリガンド上の位置で生じ、分析に干渉するバックグラウンド信号を発生させ得る。例えば、検体種は、固定化した抗体の可変領域ではなく、Fc領域に付着する場合があり、これにより特異結合が誤って示される。FRET検出戦略を利用することで、非特異結合は、収集された信号に対する寄与が相対的に小さくなり、したがって、検出に著しく干渉しない。ドナー及びアクセプタフルオロフォアが極めて近接した状態で保持されたアレイ位置(通常は特異結合が生じた位置)のみにおいて、信号が生成される。結果として、FRETに基づくアッセイは、従来のアレイに基づくアッセイに比べ、改良された信号対雑音比を提供できる。しかしながら、アレイに基づく検出手法としてのFRETの可能性は、例えば、機器が複雑であることから、実現されていない。本発明の実施形態は、FRETにおける偏光異方性を使用して特異結合を検出する、アレイに基づくアッセイを提供する。
【0031】
図2乃至6は、本発明の実施例において利用し得る、可能なアッセイ形式の小さなサンプルを提示している。各形式では、対象の結合事象が発生する時にFRETペアが形成されるin vitroアッセイを利用している。FRETペアの形成は、高スループットの偏光異方性を使用して検出される。
【0032】
これらの図において提示される例では、FRET異方性により検出可能な蛋白質−蛋白質相互作用は、残基(例えば、チロシン)がリン酸化される時のみ生じる。こうしたリン酸化は、例えば、細胞内での信号伝達中に発生し得る。各図に示したアッセイは、チロシンのリン酸化が関与する信号経路の一部に対する様々な刺激の影響に関する情報を提供できる。例えば、検査中の特定の処理は、信号経路に関与する蛋白質のチロシンをリン酸化するキナーゼの能力に干渉する可能性があり得る。
【0033】
当然ながら、本発明は、インタラクトーム(信号経路における相互作用の特徴)または他のいかなるクラスの反応または分子の特徴の検出にも限定されない。本発明のアッセイは、基本的に任意の小寸法の形態または分子の特徴に応用可能である。アッセイ可能な特徴は、蛋白質領域、核酸配列、エピトープ、様々な複合体、トランスクリプトーム、及びインタラクトームを含む。基本的に任意の化学または生化学種または物質の構造的、物理的、及び/または化学的特徴をアッセイ可能である。これには、蛋白質−蛋白質相互作用、蛋白質−核酸相互作用、及び核酸−核酸相互作用が含まれる。蛋白質アレイアッセイの幾つかの例は、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、Zhu, Bilgin, and Snyder, "Proteomics", Annu. Rev. Biochem. 16 (2003) pages 783-812において説明されている。
【0034】
図2は、実験条件が特定の形で「餌(bait)」蛋白質に影響を与えたかを判断するためのアッセイ設計を示す(この例では、リン酸化チロシン)。実験を行う一方法では、二個のcDNA構築物をコトランスフェクトした細胞を準備し、一方を第一のフルオロフォア(例えば、CFP(シアン蛍光蛋白質))に結合した餌蛋白質とし、他方を第二のフルオロフォア(例えば、YFP(黄色蛍光蛋白質))に結合した「獲物(prey)」タンパク質とする。当然ながら、付与する蛍光蛋白質は、餌と獲物及び/または検査中の他の細胞成分との間で入れ替えが可能であり、或いは、cDNA構築物により、或いはFRETペアのフルオロフォアの取り付けを可能にする別の方法において、修飾可能である。
【0035】
一般的な実験では、トランスフェクト細胞を検査中の特定の刺激(例えば、薬剤の候補)に接触させ、成長させる。その後、細胞を溶解させ、細胞内容物を、場合によっては初期分離手順を施した後でアッセイする。図2の例において、左側の溶解物は、抗餌捕獲抗体を有する基板に接触させる。別の実施形態では、Hisタグを利用して、餌を捕獲する。実験条件により、獲物と結合させる形で餌が修飾された場合(例えば、餌が適切にリン酸化された場合)、捕獲された餌と関連する獲物とは、基板上で極めて近接して有効な形で結合する。結果として、FRETペア、即ち、この例におけるCFP及びYFPは、共鳴エネルギ移動を可能にするのに十分な近さとなる。偏光異方性検出機器を使用することで、FRETは、上記のように検出できる。異方性の度合いは、餌が検査中の修飾を受けたことを間接的に示す。図2の右側も同様の例を示すが、ここでは、固定化された抗体は、餌ではなく獲物と結合する。最終結果は同じとなり、FRETペアは局所的に固定化され、基板上で検出可能となる。
【0036】
図3は、同様の実験プロトコル及び関連アッセイを示す。しかしながら、この場合、細胞は、餌フルオロフォアcDNA構築物のみによりトランスフェクトしている。実験条件は、同じものを与えてよく、例えば、餌が特定の形で修飾(例えば、リン酸化)されるかどうかに影響する条件を与えてよい。適切な時点で細胞を溶解させ、溶解物は、抗餌抗体を付加した固体基板に接触させる。次に、(1)修飾蛋白質に対する選択性(例えば、リン酸化チロシン残基を有する特定の蛋白質領域に対する選択性)のある抗体と、(2)FRETペア内の餌フルオロフォアのパートナの役割を果たすフルオロフォアとを含む新たな試薬に基板を接触させる。新たな試薬の抗体及びフルオロフォアは、利用可能な多数の連結手法の何れかにより連結し得る。図3にはビオチン−ストレプトアビジンのペアを図示している。
【0037】
図4は、アッセイにおける別の利用可能な変形を示す。この場合、餌及びフルオロフォアのために、細胞をcDNA構築物でトランスフェクトする必要はない。フルオロフォアは、溶解後、できれば付加した抗餌抗体を介して餌自体が基板に付着した後で、餌に付着させる。図示した例では、一般的なドナーフルオロフォアが、別の抗餌抗体を介して餌蛋白質に結合し、図示したサンドイッチ構造を形成している。細胞はトランスフェクトされていないため、フルオロフォアは、生細胞に適合する必要はない。具体的な例において、FRETフルオロフォアペアは、カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen Corporationから入手可能なAlexa Fluor488及びAlexa Fluor546を含む。
【0038】
図5は、検査中の種が「餌」蛋白質である必要のない、図4に示したアッセイの一般的なバージョンを示している。基本的に、どのような蛋白質その他の種「A」であっても、本発明のアッセイを使用して検出できる。
【0039】
図6は、対象の特徴(例えば、特定の残基位置のリン酸化チロシン)を、餌−獲物相互作用または抗体−エピトープ相互作用だけでなく、多様な種類の特異結合により検出可能な状況に、図1乃至4のアッセイを拡張可能であることを示している。図示した例において、作用物質「B」は、「A」のリン酸化残基に結合する。検出試薬は、抗B抗体に結合したFRETフルオロフォアを含む。
【0040】
上述のように、本発明の特定の態様は、FRETペアにおいてアクセプタとして機能する固有異方性の高い染料(フルオロフォア)の異方性がFRETペア内で相互作用していない時に有するものより大幅に低くなるという事実に依存する。しかしながら、FRETペアにおいてドナーとして機能する同じく固有異方性の高い染料は、FRETペアのドナーである時も、FRETペアでドナーとして相互作用していない時も、基本的に同じ異方性を有する。
【0041】
「高い」固有異方性を備えたフルオロフォアは、強く偏光された放出光を生成することで直線偏光励起光と相互作用する蛍光種であると理解してよい。定量的には、固有異方性の高いフルオロフォアから放出された光は、フルオロフォアの励起周波数の光によりシミュレートした場合、(本文書の背景の項の式を使用して)少なくとも約0.3、更に好ましくは、少なくとも0.4の計算異方性を有する。
【0042】
次に、本発明の分析方法及びシステムを、光符号化ビーズ及び/または生細胞と共に上記の検出システムを使用する実施形態の一例により説明する。しかしながら、本発明は、ビーズ及び生細胞に限定されず、FRET分析に適した任意の種類の対象物または対象物の組み合わせを使用できることを認識されたい。こうした対象物またはその組み合わせの例は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管または微小流路に閉じ込めた試料または対象物等を含む。中心となる考え方は、明確に定められた標的領域内に閉じ込めた試料の二種類の波長領域の異方性を同時に測定することと、測定異方性の一方を、標的領域内の試料の他方の測定異方性の変化を検出及び/または定量化するための内部基準として使用することであり、これにより、標的領域内のFRETの存在、欠如、及び/または品質の検出を可能にする。本明細書で説明したケースでは、ドナー蛍光を基準として使用したが、アッセイ系に存在する他の非FRET蛍光分子、更には励起源からの散乱光信号を含め、公知の異方性を備えた他のソースも基準として使用できる。また、固有異方性の高い分子間のホモFRETは、FRET時の異方性の減少を観測することで測定できる。ドナーとアクセプタとが同じ発光周波数を有するホモFRETの場合、公知の異方性を備え、試料中に存在する別個の基準発光を、内部基準として使用して、定量化を改善できる。当業者が認識するように、こうした手法は、上記のアレイに基づくアッセイと組み合わせ可能であるという利点を有する。何れの場合も、ホモFRETペア、散乱中心等、内部基準用の信号を生成する特徴は、アッセイの結合ペアと共存させる。
【0043】
次に、蛍光蛋白質を付着させた直径30マイクロメートルの一組のキャリブレーションビーズを示す図7を参照して、実験例を説明する。蛍光蛋白質は、波長440ナノメートル(即ち、本例で利用するCFPドナーの蛍光吸収範囲内)のレーザ光により励起させ、図1の装置を使用して、ビーズからの蛍光を収集した。ビーズセットAは、CFPにより標識しており、青色及び黄色チャネルの両方に渡って広範な蛍光を示す。ビーズセットBは、YFPフルオロフォアにより標識しており、予想通りに黄色チャネルのみで蛍光を示す。ビーズセットCは、FRETペア(CFP−YFP)により標識しており、ドナーからアクセプタへのエネルギ移動のため、黄色チャネルでの蛍光の増大と、青色チャネルでの蛍光の減少とを示す。最後に、ビーズセットDは、ビーズセットA、B、及びCの混合物であり、青色及び黄色の両チャネルで蛍光を示す。
【0044】
図8は、図7のキャリブレーションビーズの強度及び異方性散布プロットを示す。図8の左側のグラフで分かるように、測定黄色強度に対して測定青色強度をプロットする色比プロットでは、CFPビーズセットをFRETビーズセットから分離するのが容易である。図8の右側のグラフは、青色蛍光と黄色蛍光との異方性に関して対応するプロットを示している。異方性のプロットで分かるように、CFPビーズセットがFRETビーズセットから明確に区別されており、異方性がFRETの発生を測定するのに有効な特性であることが確認される。更に、図8の異方性プロットからは、黄色蛍光の異方性は、CFPビーズセットとFRETビーズセットとの間で変化するが、青色蛍光の異方性は、両方のケースで同じ状態を保つことが分かる。別の表現をすると、CFP及びFRETの異方性散布プロットは、水平方向(青色異方性)では基本的に同じ範囲に広がるが、図の垂直方向(黄色異方性)では異なる範囲に広がる。したがって、青色異方性は、黄色い方性の変化を測定するための内部基準として使用できる。上記の装置により二つの異方性を同時に測定できるため、黄色及び青色信号間で共通する何らかの局所的な未知の要素及びキャリブレーション係数が考慮され、これにより、FRET相互作用を測定するための改良された方法が生じる。
【0045】
図9及び10は、それぞれ図8の強度及び異方性散布プロットに対応する棒グラフを示す。図9において、左側の二本の棒は、図7のCFP及びFRETビーズセットで測定された黄色及び青色強度の比((黄色強度)/(青色強度))を示す。右側の二本の棒は、ビーズセットを同じウェル内に混合物として共に配置した時、即ち、「混合」した時に、強度比が基本的に同じ状態を維持することを示している。更に、両方のケースにおいて、FRET相互作用の発生がCFPによる非FRET蛍光から容易に識別されることが、図9から明らかとなる。図10は、キャリブレーションビーズのCFP及びYFPでの平均異方性を示している。左側の二本の棒は、青色及び黄色チャネルの両方において、CFP異方性が約0.3であり、この実験で提供した他の試料に比べて相対的に高いことを示している。黄色チャネルのYFP異方性は僅かに低く、これはYFPの低い「固有異方性」によるものと思われ、即ち、YFPが励起され蛍光を発するメカニズムのために、YFPは初期状態で低い異方性を有する可能性がある。
【0046】
最も右側の二本の棒から分かるように、FRET信号は、青色異方性と黄色異方性との分離の著しい増加を示している。実際、青色異方性が非FRETの例と比べて増加する一方で、FRETの黄色異方性は減少している。FRET青色異方性の増加は、FRETによりCFPの蛍光継続時間が減少し、結果として、発光周波数の偏光状態にランダム性を持ち込む変化を受ける機会が僅かに減ったことに由来する可能性が高い。言い換えると、ドナーフルオロフォアからの発光は、本来は蛍光放射発光へ向かうはずの一部のエネルギがアクセプタフルオロフォアへ伝達されることで限定され、ドナーから放出された残りのエネルギは高い異方性を有する。FRET黄色は、CFPの直接励起(スペクトルの黄色端部におけるCFPによる発光の一部)と、YFPの直接励起(CFPを刺激するのに使用される放射による)と、FRETに由来するYFP発光との組み合わせである。異方性は、これらの成分のそれぞれについて異なるため、最も右側の棒が表すものは、こうした要素のそれぞれにおける異方性の加重平均となる。最初の二要素では、相対的に高い異方性が生じる。そうであっても、FRET黄色の平均異方性は、図10の他の平均異方性よりも大幅に低いため、FRET相互作用の良好なインジケータとなる。
【0047】
図11は、CFPビーズ、YFPビーズ、及びFRETビーズの分離及び混合セットの異方性の差を示す棒グラフである。図11から分かるように、黄色及び青色異方性の差は、ビーズを一度に一種類ずつ調べても、混合したビーズセットとして調べても、基本的に同じである。更に図11から分かるように、FRET相互作用の青色及び黄色異方性には、それぞれCFP及びYFPより遥かに大きい差が存在するため、FRET相互作用は、CFP及びYFPそれぞれから容易に分離できる。
【0048】
次に、CFP/YFPトランスフェクション生細胞において、どのようにFRETを特定できるかを示す例を提示する。図12は、mCer−N3、mVenus−C1、及びSCAT3.1(カスパーゼ−3活性に対するCFP/YFP FRETセンサ)によりトランスフェクトしたCos−7細胞の画像を示している。カスパーゼ活性は、細胞の一部の集団におけるアポトーシスのインジケータとして使用し得る。この例において、トランスフェクションは、96ウェルガラス底プレートで行っており、24時間に渡って細胞をトランスフェクトした。その後、細胞に波長440ナノメートル(CFPの蛍光刺激周波数)のレーザ光を照射し、図1で説明したシステムの一部の特徴を有する装置を使用して、細胞からの蛍光を収集した。図12に示したように、細胞AはCFP(Cerulean)によりトランスフェクトしており、細胞BはYFP(Venus)によりトランスフェクトしており、細胞CはCFP及びYFPによりコトランスフェクト、即ち、CFP及びYFPを別個に、FRETペアとしてではなく追加しており、最後に細胞Dは、相互作用する二種類の蛋白質により、それぞれが互いに40オングストローム以内の距離に位置して、FRET相互作用が発生可能となるようにトランスフェクトした。FRET技術は、生体内の内因性カスパーゼ活性の力学及びパターンについて有意義な情報を提供できる。強化シアン蛍光蛋白質(ECFP)を含む組み換えカスパーゼ基板をFRETドナーとして使用してよく、強化黄色蛍光蛋白質(EYFP)をFRETアクセプタとして、カスパーゼ−3切断配列(DEVD)を含むペプチドにより連結する。こうしたインジケータの開発により、研究者は、単一の細胞レベルにおいて、リアルタイムでのカスパーゼ活性のモニタが可能となる。図12において分かるように、様々な細胞グループの蛍光パターンは、図7に関して上述したキャリブレーションビーズのものに類似する。しかしながら、SCATセンサの場合には、カスパーゼが活性化するとFRETが消滅し、したがってアポトーシスの事象が検知される。SCAT3.1センサとして表現されるFRET相互作用及び信号は、ここではカスパーゼ−3の活性化及び切断の前に示される。
【0049】
図13は、図12の生細胞の強度及び異方性散布プロットを示す。図13で分かるように、図8のキャリブレーションビーズで得られたプロットと非常に似ている。特に、図13の右側の異方性散布プロットで分かるように、FRET異方性は、コトランスフェクション細胞とCFP細胞との両方から容易に分離できる。
【0050】
図14は、図13のそれぞれの強度プロットに対応する棒グラフを示す。図10で分かるように、FRET細胞は、CFP及びコトランスフェクション細胞のそれぞれから容易に識別できる。
【0051】
図15は、CFP/YFPトランスフェクション細胞の平均異方性を示している。ここでも、結果は、キャリブレーションビーズにより得られた、図10に図示したものに類似する。FRET黄色の平均異方性は、図11の他の平均異方性より大幅に低いため、FRET相互作用の良好なインジケータとなる。
【0052】
図16は、CFP細胞、YFP細胞、コトランスフェクション細胞、及びFRET細胞の青色及び黄色異方性の差を示す棒グラフである。図16から分かるように、FRET細胞の青色及び黄色異方性には、CFP細胞、YFP細胞、及びコトランスフェクション細胞のそれぞれよりも遥かに大きな差が存在するため、FRET細胞は、他の細胞からから容易に識別できる。
【0053】
次に、本発明の特定の処理実施形態のまとめを提示する。図17では、一部の実施形態において採用し得る動作の幾つかを示すフローチャートを提示している。フローチャートは連続する一連の動作として提示されているが、本発明は、提示した順序に限定されない。更に、説明したように、動作の一部は同時に実行し得る。他の動作は、示したものと逆の順序で実行し得る。
【0054】
図17に示したプロセスでは、種A及びB間の相互作用に対してアッセイが実行されると仮定する。種A及び種Bは、ここでは第一及び第二の化学物質と呼ばれる場合がある。これらの用語は、様々な分子、分子断片、複合体、分子の集合、分子の超構造、細胞小器官を含む細胞成分等を広範に網羅するものとする。多くの生体分子は、化学物質として機能し得る。例には、核酸と、蛋白質及びペプチドと、脂質と、炭水化物と、その組み合わせとが含まれる。指摘したように、本発明の方法及び装置は、第一及び第二の化学物質間の相互作用における変化を測定し得る。こうした変化は、物質間の結合と、物質を含む構造の切断と、一方または両方の物質のコンホメーションの変化(例えば、蛋白質の折り畳み)と、一方または両方の物質の立体障害と、結合、コンホメーション等に影響を与え得る、物質の化学修飾(例えば、リン酸化)と、オリゴマ形成等により発生し得る。
【0055】
図17の最上ブロック、動作1701に示したように、通常の試料に提供し得る成分には、種Aに関連するドナーフルオロフォアと、種Bに関連するアクセプタフルオロフォアとが含まれる。通常、必ずではないが、試料の成分は、一定期間に渡って(単一の溶液との接触等により)接触状態が維持される。反応の時間分解追跡が望ましい他の実施形態では、FRETについて試料を即座に調査してよい。図17では、ブロック1703が調査を示しており、アッセイを実行するシステムは、ドナーフルオロフォアの蛍光励起波長の範囲内の波長を有する励起放射を提供する。
【0056】
プロセスの何れかの時点で、システムは、異方性の基準に関連する波長で偏光異方性の尺度を取得する。ブロック1705を参照されたい。これには、動作1703で付与したものとは異なる波長での励起放射を提供することが伴い得る。しかしながら、多くの実施形態では、単一の励起源、即ちドナーの励起周波数であるもので十分となる。ブロック1707に示したように、プロセスは、更に、アクセプタフルオロフォアがFRET中に放射を発する波長で偏光異方性の尺度を取得することを含む。この情報により、システムは、アクセプタの発光波長での異方性の尺度を、異方性基準の波長での異方性の尺度と比較する。ブロック1709を参照されたい。この異方性の比較に基づき、プロセスは、種Aと種Bとの間の反応または相互作用を評価する。ブロック1711を参照されたい。
【0057】
このブロック1701で述べた相互作用または反応は、通常、種A、種B、ドナーフルオロフォア、及びアクセプタフルオロフォアが混合その他の形で互いに密接に接触可能となる、小さな、場合によっては閉ざされた範囲等、指定された試料領域において行われる。通常、必ずではないが、試料領域は、マルチウェルプレート上のウェルまたはスポット領域、或いは、流路内の領域である。別の例には、(a)組織または器官試料、血流等の原位置分析と、(b)2005年2月9日提出の米国特許出願第11/055,244号(出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする)において説明されるような平面回転基板と、(c)細胞、或いは核または細胞質等の細胞内の区画の原位置分析、及び(d)個別の領域または特定の集合体がFRET信号を発生させる特定の相互作用を起こしている可能性のある、細胞コロニ等の細胞の集合体の原位置分析とが含まれる。
【0058】
上記のように、ドナー及びアクセプタフルオロフォアは、FRETペアを形成可能となるべきである。多数の適切なフルオロフォアペアが、当業者に知られている。上記の蛍光蛋白質ペアの例に加え、FRETペアへの関与に適した他の蛍光物質には、フルオレセインと、ローダミンと、Bodipyファミリの染料(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen Corporationから入手可能)と、臭化エチジウムと、蛍光クマリンと、シアニン染料等が含まれる。様々な蛍光蛋白質(通常は、生体内でキメラ融合蛋白質として提供)を利用し得る。これらには、Discosomaサンゴからクロン形成した赤色蛍光蛋白質(DsRedまたはdrFP583)と、緑色蛍光蛋白質(GFP)と、GFPの青色、シアン、及び黄色のバリエーションと、シアン蛍光蛋白質と、黄色蛍光蛋白質とが、幾つかの例として含まれる。
【0059】
最初にアッセイの成分を一緒にする時には、種A及びBは、物理的に分離していても、連結していてもかまわない。分離した種は、アッセイ試料内で結合または反応が生じるかを評価するために接触状態にさせる、結合または反応を起こすペアにしてよい。このような場合、アッセイは、アクセプタの発光周波数からの信号において、偏光異方性が相対的に高い状態で開始され得る。しかし、反応が生じた時、或いは生じた場合には、アクセプタの発光による偏光異方性において、検出可能な現象が生じる。別のケースにおいて、種A及びBが当初連結しており、その後、開裂その他の形で互いに更に分離した状態にする可能性のある条件に晒される場合には、検査中の反応または相互作用により、アクセプタの発光波長で収集した信号において、偏光異方性に検出可能な増加が生じる。
【0060】
動作1703に関して、本明細書で説明したアッセイ用の励起源には、通常、直線偏光、或いは強い偏光が施される。励起源は、ドナーフルオロフォアの励起周波数において、狭い周波数帯域で提供されるが、これは常に必要な訳ではなく、特に、アクセプタフルオロフォアの励起周波数と、ドナー及びアクセプタフルオロフォアの発光周波数とがアクセプタの励起周波数から十分に離れている場合には、その必要はない。励起放射の強度は、考慮中のアッセイの必要に応じて選択される。通常は、強いFRET信号を生成するのに十分な高さだが、種が起こしている反応に干渉するほど高くはない強度を提供することが望まれる。多くのin vitroアッセイでは、励起源の強度範囲(試料と相互作用する際のもの―レンズによる損失を考慮する)は、約1×103乃至2×105ワット/cm2である。更に一般的には、強度範囲は、約2×103乃至2×104ワット/cm2である。
【0061】
動作1705に関して、基準は、試料からの偏光異方性信号のキャリブレーションまたは比較のために提供される。上記のように、FRET相互作用以外のアッセイの局所的条件は、単独で異方性に影響を与え得る。結果として、異方性の絶対値ではなく、相対値を測定することが好ましい場合がある。基準からの偏光異方性の取得は、本明細書の別の部分で説明したように、即ち、基準信号が偏光された度合いを決定することで達成し得る。通常、これは、一方が励起源の提供する偏光方向に平行で、他方がその方向に垂直である二つの直交する偏光角度で信号を測定することにより求められる。二方向で得られた強度の大きな差が高い異方性を示すのに対し、二方向に渡って得られた、より等しい強度の値は、等方性を示す。ここでも、基準の異方性は、試料のアクセプタフルオロフォアの発光について測定した異方性をキャリブレーションする目的で取得される。
【0062】
上記のように、基準は、内部基準または外部基準にしてよい。内部基準信号は、通常、ドナーフルオロフォアの発光信号の異方性から求められる。外部基準は、ドナー蛍光発光以外のソースから得られる。上記のように、一例は、ドナーではなく、アクセプタでもない、試料内の基準フルオロフォアからの発光である。こうした基準は、試料格納容器での固定化、試料内のビーズへの提供、溶液中への提供等を行ってよい。外部基準の別の例は、使用中で測定される励起源からの放射であり、例えば、試料から収集された散乱光である。
【0063】
動作1707に関して、アクセプタフルオロフォア発光周波数の偏光異方性は、基準の変更異方性と同じ方法だが異なる波長で測定される。説明したように、検査中の相互作用が種A及びBを極めて近接した状態にするか、分離させるかに応じて、アクセプタの発光周波数での偏光異方性の減少または増加は、相互作用の形跡となる。
【0064】
動作1709及び1711に関して、比較及び評価は、通常、コンピュータ、回路、または特別に構築された論理を使用して行われる。反応または相互作用が生じていることを示すために、試料及び基準間の異方性の差の閾値レベルを使用してよい。また、或いはこれに加えて、反応または相互作用が生じている範囲を示すために、異方性の差の定量値を使用してよい。特定の実施形態において、相対的な異方性の値は、種Aまたは種Bの濃度または効力の示度を提供する。
【0065】
図18は、in vitroアッセイを実行するための一般的な一連の動作を表す別のフローチャートである。最初にブロック1801に示したように、種A及び関連するドナーフルオロフォアを、in vitro試料に提供する。ブロック1803に示したように、種B及び関連するアクセプタフルオロフォアも、in vitro試料に提供する。動作1801及び1803を合わせて、アッセイ試料を形成するために、二種類の溶液、即ち、種A及びそのフルオロフォアを含有するものと、種B及びそのフルオロフォアを含有する別のものとを混合することのみを含んでもよい点に留意されたい。しかしながら、特定の実施形態では、一方または両方のフルオロフォアを別の成分として追加するのが適切である。更に、種A及びBがカスパーゼ−3または他の生体分子のような連結構造を共に形成する場合、動作1801及び1803は、単一の動作として実行される。どのように実行されるかに関係なく、動作1801及び1803は、アッセイ試料を調製することを共に表す。高スループットシステムでは、多くの異なるアッセイ試料を迅速に連続して作成及び調査する。
【0066】
一部の実施形態では、FRET相互作用の検査前に、場合により所定の期間に渡って、或いは、上昇させた温度、低酸素等の特定の刺激に触れさせた後で、種とフルオロフォアとの相互作用を必要に応じて可能にする。ブロック1805を参照されたい。検査する試料は、調製後、ドナーフルオロフォアの蛍光励起波長の範囲内の波長を有する励起放射に露出することで調査する。ブロック1807を参照されたい。
【0067】
アッセイ試料を励起放射に露出した後、システムは、アクセプタフルオロフォアの蛍光発光の波長での偏光異方性を測定する。ブロック1809を参照されたい。説明したように、この情報は、FRETが生じているかを判断するのに使用される。測定された偏光異方性に基づいて、プロセスでは、種A及び種B間で想定される反応または相互作用が生じたかを評価する。ブロック1811を参照されたい。反応が生じたと判断された場合、
本発明の一部の実施形態では、随意的に、反応が生じた度合いを判断する。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、上記の動作を実行するデバイス、システム、または装置に関する。システムは、必要な目的のために特別に構築してよく、或いは、例えば、コンピュータに格納されたコンピュータプログラムにより選択的に起動または構成される、汎用光学機器にしてもよい。上記のプロセスは、特定の光学機器またはコンピューティング装置に本質的に関連するものではない。
【0069】
以上、本発明の多数の実施例を説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変形を施し得ることは理解されよう。例えば、上記説明は、アッセイ用のスポットアレイ及び生細胞形式に重点を置いた。本発明は、もちろん、この形に限定されない。別の例として、固体基板はビーズを含んでもよい。スポットアレイ形式では、用途に応じて、様々な取り込み領域サイズを利用してよい。スポット密度も、用途に応じて変化する。特定の例では、基板は、ウェルを含み、例えば、約50nl以下のスポットサイズ等、用途の必要に応じたサイズとする。ウェルまたはスポットのパターンは、バーコード情報等の特定の情報を符号化または提供してよい。特定の応用において、基板は信号経路の中心要素に対して抗体アレイのパターンを提供するように設計される。スポットのパターンは、アッセイまたは信号読み出しの何れかに対する基準測定値または制御信号を生成するために使用される材料を含んでもよく、或いは、単純にアッセイスポットアレイの位置決めデバイス(基準)として使用してよい。したがって、添付特許請求の範囲には他の実施形態が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明によるFRET分析で使用可能な装置の概略ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による、実験条件が特定の形で「餌」蛋白質に影響を与えたかを判断するためのアッセイ設計を示す図である。
【図3】餌フルオロフォアcDNA構築物のみで形質移入した細胞による、図2に示したものと類似する実験プロトコル及び関連アッセイを示す図である。
【図4】図2及び3において提示したアッセイの別の変形を示す図である。
【図5】図4に示したアッセイの一般的バージョンを示す図である。
【図6】特定の結合メカニズムを使用して作用物を検出する図2及び5のアッセイの拡張を示す図である。
【図7】FRETキャリブレーションビーズの様々なセットから青色及び黄色チャネルにおいて取得した強度信号を示す図である
【図8】図7のキャリブレーションビーズの強度及び異方性散布プロットを示す図である。
【図9】図7のキャリブレーションビーズの平均黄色/青色強度比を示す棒グラフである。
【図10】図7のCFP/YFPキャリブレーションビーズの平均異方性を示す棒グラフである。
【図11】図7のCFP/YFPキャリブレーションビーズの異方性の差を示す棒グラフである。
【図12】形質移入した生細胞の様々なセットから青色及び黄色チャネルにおいて取得した強度信号を示す図である。
【図13】図12の細胞の強度及び異方性散布プロットを示す図である。
【図14】図12の細胞の平均黄色/青色強度比を示す棒グラフである。
【図15】図12のCFP/YFP細胞の平均異方性を示す棒グラフである。
【図16】図12のCFP/YFP形質移入細胞の異方性の差を示す棒グラフである。
【図17】偏光異方性基準を採用した特定の実施形態に関連し得る動作を示すフローチャートである。
【図18】in vitroアッセイにおける偏光異方性を利用する特定の実施形態に関連し得る動作を示すフローチャートである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の高速微量アッセイと、対象物及び細胞に基づく蛍光測定アッセイにおいて使用する、改良された蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)手法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRETは、ドナー及びアクセプタのフルオロフォア間の近接性を示す。ドナーが所定周波数の入射光により励起される時、ドナーが蛍光として通常放出するエネルギの一部は、アクセプタがドナーに十分に近接している場合(通常、殆どのドナーフルオロフォアにおいて約50オングストローム)、アクセプタへ転送される。アクセプタへ転送されたエネルギの少なくとも一部は、アクセプタの蛍光周波数で放射として放出される。FRETは、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、「FRET Imaging」(Jares-Erijman, E.A., and Jovin, T.M., Nature Biotechnology, 21(11), (2003), pg 1387-1395)等、様々な文献で説明されている。
【0003】
本発明の背景におけるもう一つの重要な概念は、異方性である。異方性は、放射が非ランダムに偏光される度合い、即ち、ある偏光配向性が、それに直交する偏光配向性より優勢となる度合いの尺度となる。異方性の高い信号は、強く偏光される(例えば、純粋に直線的に偏光される)。等方性の高い信号は、ランダムな偏光に近くなる。従来の一方法において、異方性(r)は、次の式を用いて計算される。
r=(VV−gVH)/(VV+2gVH)
ここでVH及びVVは、垂直励起偏光と相対的な水平及び垂直発光偏光であり、gは、光学機器の偏光バイアスを補正する。
【0004】
従来、FRET分析は、以下の一つ以上の検出に依存する:(1)アクセプタの発光周波数での蛍光の存在、(2)ドナーに対するアクセプタの蛍光強度の割合、及び(3)ドナーの蛍光発光の継続時間。こうした手法には、それぞれに問題がある。例えば、ドナーフルオロフォアを励起するのに使用する周波数に露出した時、アクセプタは、ある程度の自然蛍光を発生させるため、アクセプタの発光周波数での蛍光の存在を検出するだけでは、一般には十分ではない。更に、時間分解FRET画像化及び分析では、標準的な蛍光画像化及び分析よりも複雑な機器が必要となる。
【0005】
偏光異方性は、FRET検出手法として提案されている。FRETアクセプタフルオロフォアが生成する蛍光は、FRETプロセスにより非偏光化され、一般には、ドナーフルオロフォアから直接生成された蛍光に比べ、相対的に低い異方性を有する。したがって、異方性は、FRETの尺度として使用可能であり、故に、ドナー及びアクセプタフルオロフォアに関連する近接性の尺度として使用できる。ホモFRET、または類似フルオロフォア間でのFRETにおけるこの手法の使用は、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、「Imaging molecular interactions in cells by dynamic and static fluorescence anisotropy (fFLIM and emFRET)」(Lidke, D.S., Nagy, P., Barisas, B.G., Heintzmann, R., Post, J.N., Lidke, K.A., Clayton, A.H.A., Arndt-Jovin, D.J. and Jovin T.M., Biochem. Soc. Trans., 31(5) (2003), pg. 1020-1027)において説明されている。
【0006】
蛍光異方性は、生体細胞におけるFRET検出戦略としても採用できる。「High contrast imaging of fluorescent protein FRET by fluorescence polarization microscopy」(Rizzo, M.A & Piston, D.W., Bophys J, 88 L14-16, 2005)において説明されたように、シアン蛍光蛋白質(CFP)の一種であるmCeruleanの蛍光異方性は、全波長の発光範囲に渡って約0.3の値を有する。しかしながら、mCeruleanが黄色蛍光蛋白質(CFP(YFP)の一種であるmVenusとのFRETペアとなる場合、異方性は、ドナー(即ち、mCerulean)が蛍光を発する時には高い状態を維持し(0.3を僅かに上回る)、アクセプタ(即ち、mVenus)が蛍光を発する時には約0.15に低下する。異方性の差は様々な測定結果の間で非常に一貫しているが、差は比較的小さく、通常は、異方性の変化に影響を与え得る未知の要素とキャリブレーション係数とが多数存在するため、実験状況では用途が限られる。したがって、特に、FRETプロセスに関連する異方性変化を測定する、改良され信頼性が向上した方法を有することが望ましい。
【発明の開示】
【0007】
本発明の一態様は、第一の化学物質と第二の化学物質との間の特異結合を検出するための方法及び装置に関する。第一のフルオロフォアに関連する第一の化学物質は、固定化してよい。第二の化学物質は、固定化した第一の化学物質との結合できるようにする。第二の化学物質は、第一のフルオロフォアとのFRETペアを形成する第二のフルオロフォアであるか、或いは第二のフルオロフォアと結合した状態になる。結合化学物質を、第一または第二のフルオロフォアの何れかの励起周波数での放射に露出し、第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するために、結合化学物質からのFRET蛍光信号の偏光異方性を測定する。
【0008】
有利な実施例は、以下の特徴を一つ以上含むことができる。場合により、異方性に追加して情報を利用し、試料を評価できる。例えば、方法は、第一または第二のフルオロフォアの少なくとも一方のドナー発光継続時間を測定する工程を含んでよい。場合により、方法では、一方または両方のフルオロフォアの相対または絶対強度を測定する。特定の実施形態において、第一及び第二のフルオロフォアは同一である(ホモFRET)。
【0009】
多数の様々な化学物資が、本発明で使用されると考えられる。こうした化学物質は、小分子と、複合体と、蛋白質及び核酸のような生体分子と、分子の集合と、細胞小器官のような生物学的構造等になり得る。特定の実施形態において、第一及び第二の化学物質の一方は、蛋白質を含み、第一及び第二の化学物質の他方は、核酸を含む。一部の実施形態において、方法は、所定の処理の結果として第一及び第二の化学物質の少なくとも一方が特定の状態(例えば、コンホメーション状態、リン酸化のような化学修飾等)になる場合のみ第一及び第二の化学物質間の特異結合が生じるように、第一及び第二の化学物質の少なくとも一方に対して所定の処理を行う工程を含む。
【0010】
アッセイの設計に応じて、偏光異方性は、単一の波長または複数の波長で測定し得ることに留意されたい。更に一般的には、フルオロフォアは、異なるものとなる。一部の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、同時に測定される。一部の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される。系統的な測定変化の例は、生化学的経路でのカスケード反応における生体分子の遷移である。アッセイは、生体分子の遷移を測定するように設計される。
【0011】
本発明の別の態様は、ドナーフルオロフォアを含む第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアを含む第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法及び装置に関する。化学物質は、第一のフルオロフォアの励起波長での放射に露出する。化学物質からの蛍光信号の偏光異方性は、ドナーフルオロフォアの発光波長と、アクセプタフルオロフォアの発光波長とにおいて測定する。第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、測定した異方性を比較する。ドナーフルオロフォアの発光波長での信号の異方性は、アクセプタフルオロフォアの発光波長で測定した異方性を調整するための内部基準を提供し得る。別の実施形態では、アクセプタフルオロフォアの発光波長の異方性を、励起源の放射の異方性、或いは、アッセイ試料において提供される、FRETペアに結合していない別個のフルオロフォアの異方性といった、「外部」基準と比較する。後者の例において、外部基準は、例えば、試料内部にまたは試料に近接して提供された、フルオロフォアのビーズまたはスポットにより提供し得る。
【0012】
有利な実施例は、以下の特徴を一つ以上含むことができる。特定の実施形態において、FRET相互作用が発生したと判断されるのは、アクセプタフルオロフォアの発光波長での測定異方性がドナーフルオロフォアの発光波長での測定異方性に対して変化する時である。場合により、ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアの異方性は、同時に測定される。特定の実施形態において、第一及び第二の波長の異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される。
【0013】
第一及び第二の化学物質は、FRET分析の標的領域に含み得る。標的領域の例は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管に閉じ込めた試料または対象物と、微小流路に閉じ込めた試料または対象物と、ウェルまたは小滴等の液体領域に閉じ込めた細胞の集合またはコロニと、表面または表層上で固定化した細胞の集合またはコロニとのうち一つ以上を含む。
【0014】
本発明の方法を使用して、多様な種類の相互作用を比較し得る。一例において、化学物質の少なくとも一つは、他方の化学物質との結合時に何らかのコンホメーションの柔軟性が失われた状態となる小分子である。多様なフルオロフォアの組み合わせを利用し得る。一部の例では、ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアは同一である。化学物質は、多様な形でフルオロフォアと関連し得る。一例では、抗体−抗原相互作用またはストレプトアビジン−ビオチン相互作用等、従来の結合メカニズムを利用する。
【0015】
本発明は、以下の利点の一つ以上を含むように実現できる。特異結合を検出するためにFRETにおける偏光異方性を利用するアレイに基づくアッセイの使用では、時間に基づく信号の取り込みを必要とせず、アレイに基づくアッセイにおいて二色の異方性測定が行われない限り、複数の波長(ドナー及びアクセプタフルオロフォア発光のもの)での収集を必要としない。更に、広いダイナミックレンジと、高い信号対雑音比とを提供する。本発明のFRETに基づくアッセイは、様々な種類のサンドイッチアッセイを含め、基本的には現在利用可能な任意のアッセイにおいて利用できる。アッセイは、生体分子と、化学兵器等の様々な非生体分子とを検出するために利用し得る。従来のアッセイは、各結合相手にそれぞれのフルオロフォアが提供され、一方がドナーフルオロフォアとなり、他方がアクセプタフルオロフォアとなるように簡単に修正される。
【0016】
本発明の一つ以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の説明において述べる。本発明の他の特徴及び利点は、説明及び図面と添付特許請求の範囲とから明らかとなろう。
【0017】
以下、各図面の同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一態様によれば、異方性は、特異結合を検出するために、上記のアレイに基づくアッセイ等のアッセイにおけるFRET検出戦略の一部として測定される。本発明の別の態様によれば、本発明は、改良されたFRET検出及び/または定量化のための手法を、一般的には上記のアレイに基づくアッセイにおいて、実現及び使用する方法及び装置を提供する。
【0019】
改良されたFRET検出手法は、FRETペアにおいてアクセプタとして機能する染料の異方性がFRETペアで相互作用していない時に有するものより大幅に低くなるという認識から生じたものである。しかしながら、FRETペアにおいてドナーとして機能する染料は、FRETペアのドナーである時も、FRETペアでドナーとして相互作用していない時も、基本的に同じ異方性を有する。したがって、アクセプタの発光波長領域とドナーの発光波長領域との異方性の比または差を検査することで、FRET相互作用が生じているかを判断できる。更に、ドナーの発光の異方性は、アクセプタの発光の異方性変化を検出及び/または定量化可能な内部基準の役割も果たせる。特定の実施形態において、本発明による装置では、二種類の波長領域において同時異方性測定を実行できる。これにより、両方の種類の異方性は、他の全てのパラメータを同一に維持した状態で測定され、連続測定を実行した場合のように、パラメータを変化させ得るいかなる不確実性も回避される。更に、装置により、検出時及びその後のデジタル化において、測定及び処理をリアルタイムで実行できる。以下、これを「ストリーミングデータ処理」または「オンザフライ」データ処理と呼ぶ。
【0020】
以下、本発明の特定の実施形態を詳細に説明し、添付図面に示す。こうした特定の実施形態に関連して本発明を説明するが、本発明を一実施形態に限定するものではないことは理解されよう。以下の説明では、本発明の完全な理解のために、多数の具体的な詳細について述べる。本発明は、こうして具体的な詳細の一部または全部がなくとも実現し得る。また、周知の処理動作は、本発明を不必要に曖昧にしないために詳細な説明を省略する。
【0021】
特異結合を特定するために、FRETシステムを採用したアレイにおいて異方性を分析するのに適した機器には、様々な種類が存在する。適切な装置の一部の説明は、それぞれ出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする以下の文書に記載される:発明者Cromwellらによる2004年8月26日提出の米国特許出願第10/927,748号(公開出願番号2005−0046848−A1、2005年3月3日公開)「時間依存蛍光測定」、発明者Cromwellらによる2004年8月26日提出の米国特許出願第10/928,484号(公開出願番号2005−0046849−A1、2005年3月3日公開)「時間依存蛍光の測定」、及び2005年2月9日提出の米国特許出願第11/055,244号「少試料量を走査する方法及び装置」。
【0022】
図1は、試料における異方性を検出するのに適した装置(100)の一実施形態の概略図を示す。同等の装置の動作は、上記特許出願で詳細に説明されている。簡単に言うと、並進ステージ(102)上に位置する試料を、レーザ(101)により、一組の光学素子(109)を介して励起する。光学素子は、レーザ(101)からの光の焦点を、画像化すべき試料の領域に合わせる。焦点領域は、例えば、マイクロアレイプレート基部の上方に位置する。試料は、マイクロアレイプレートのマイクロウェル底部に付着させた細胞またはin vitro結合ペアの固定化した構成要素等、蛍光により検査する対象物にできる。
【0023】
試料から結果的に生じた蛍光は、二組の集光レンズ(119)により集光し、二台の検出器(121)それぞれに送る。集光レンズ(119)は、マイクロアレイプレートのような大きなアレイの走査が可能となるように構成できる。一実施形態において、集光レンズ(119)は、試料アレイ基部の一寸法に渡って広がるビームの全範囲を取り込むように設計されたロッドレンズである。集光レンズ(119)は、特定のアッセイタイプ用に、こうしたアッセイにおいて発光から必要な特定の情報を取り込むために選択されるような、別の種類のレンズ或いはレンズの集合体を含むこともできる。一部の実施形態では、収集レンズ(119)の複数の設定を使用して、集光効率を改善できる。
【0024】
二組の集光レンズ(119)により、放出された蛍光の別個の成分(例えば、別の波長、偏光状態等)の同時集光が可能となる。例えば、第一の偏光フィルタを使用して、第一の偏光の光のみを第一の検出器へ送り、第二の偏光フィルタを使用して、第二の直交する偏光の光のみを第二の検出器へ送ることができる。この構成で収集された信号の相互関係と、検出システムでの検出と、格納信号のその後の操作とにより、単一の検出器では入手できない情報が、信号の改善と併せて生じる。したがって、この装置に由来する情報は、定常状態の異方性となる。更に、蛍光継続時間データを取り込むのに適した検出回路を備えて、装置が構成される場合には、蛍光異方性の時間依存性の挙動の相互関係を測定できる。以下で更に詳細に述べるように、この異方性測定能力は、FRET測定において重要な情報を提供するのに使用できるという利点を有する。
【0025】
蛍光の検出器(121)への伝達は、例えば、光ファイバまたは光ファイバ束(120)により達成できる。一実施形態において、検出器(121)は、電気出力信号を生成する、光電子増倍管等の高利得の検出器である。殆どの光ファイバは偏光情報を歪め、光ファイバから出力された光は光ファイバの他端に入力された光と同一の偏光成分を有していないことから、収集光が何れかの光ファイバ(120)に入る前には、通常、何らかの偏光フィルタリングが実行されることに留意されたい。図示した実施形態において、検出器からの出力信号は、ADC/DSP電子機器(114)により処理され、コンピュータ(124)へ送られ、更に処理される。コンピュータ(124)は、信号の強化、平均化、または積算検出システムを利用して、利得及び信号対雑音比(S/N)の最適化等の動作を行う。
【0026】
特定の実施形態において、FRET検出装置は、非常に単純にすることが可能であり、発光放射の変更状態を測定する装備のみが必要となる。しかしながら、更に複雑な機器を利用して、FRETに関連する追加データを提供し得る。例えば、機器の利用により、蛍光信号の継続時間、特に、時間の関数としての強度及び/または時間の関数としての異方性を測定可能となり得る。通常のシステムにおいて、検出回路は、試料から励起エネルギを取り除いた後、約0.5ナノ秒乃至10ナノ秒の期間に渡り、発光信号(または波長の異なる複数の発光信号)を記録及び格納可能である。一部の例では、利用するフルオロフォアに応じて、発光信号の測定継続時間は、数百ナノ秒、或いは数マイクロ秒にも成り得る。特定の希土類金属をドープしたフルオロフォアは、ミリ秒の範囲の蛍光継続時間を有する。前述のように、FRETの発現の一つには、ドナー発光継続時間の減少がある。更に、機器の利用により、ドナー及びアクセプタ、或いはアクセプタと公知の異方性を有する他の何らかの基準放射源との両方の周波数での発光放射を同時に取り込む能力を有し得る。これにより、強度比の測定も機器により提供可能となる。上記の装置は、様々な周波数用の冗長収集器を装備してよく、或いは、基準周波数及び信号周波数の放射を交互に取り込む単一の収集システムを利用してもよい。
【0027】
本明細書の別の部分で更に詳細に説明するように、本発明の特定の実施形態は、基準信号を利用して、FRET信号、特に、こうした信号の異方性、継続時間、及び/または強度を調整する。多くの場合、基準信号は、例えば、FRETペアのドナーフルオロフォアの発光から取り出した内部基準である。
【0028】
更に一般的には、測定の内部基準は、信号が測定されている試料中のフルオロフォア(即ち、アクセプタフルオロフォア)に類似する物理及び/または化学特性を有する分子フルオロフォアが提供し得る。この内部基準源は、基準フルオロフォアに存在する物理/化学的相互作用は試料自体においても同じように作用すると推定されることから、望ましい場合が多い。そのため、類似分子の内部基準は、正確な補正済みの内部基準偏光源を提供する。しかしながら、こうした基準信号の使用が有利にならない状況もあり得る。こうした場合、励起源自体(例えば、レーザ)からの信号といった別の基準源は、特に強い信号を提供し、通常の蛍光信号のように多くの波長には分散しないことから、適切な内部基準となる。こうした基準信号は、散乱チャネルにおいて容易に測定可能であり、測定レンズを経由する以外では非偏光化されない。同様に、スポットアレイでは、基準フルオロフォア信号を発見し、増大させ、集中度を高めることができるため、蛍光基準信号は非常に強力になり、測定が容易になる。
【0029】
外部基準が望ましい別の例は、内部基準の発色団がホモFRETを発生させる場合であり、これにより、内部異方性は非偏光化される。この場合、内部基準は、信頼できないか、或いは、集中等の条件により系統的に変化し得る。そのため、この場合、外部基準、特に試料と共に存在する強力な信号を提供するものが、高い信頼性を有し得る。
【0030】
FRETプロセスの異方性測定結果は、ELISA等の従来のアレイに基づくアッセイ、特に高レベルの非特異結合が問題となるものにおいて利用し得るという利点を有する。こうした非特異結合は、対象の特異結合部以外のリガンド上の位置で生じ、分析に干渉するバックグラウンド信号を発生させ得る。例えば、検体種は、固定化した抗体の可変領域ではなく、Fc領域に付着する場合があり、これにより特異結合が誤って示される。FRET検出戦略を利用することで、非特異結合は、収集された信号に対する寄与が相対的に小さくなり、したがって、検出に著しく干渉しない。ドナー及びアクセプタフルオロフォアが極めて近接した状態で保持されたアレイ位置(通常は特異結合が生じた位置)のみにおいて、信号が生成される。結果として、FRETに基づくアッセイは、従来のアレイに基づくアッセイに比べ、改良された信号対雑音比を提供できる。しかしながら、アレイに基づく検出手法としてのFRETの可能性は、例えば、機器が複雑であることから、実現されていない。本発明の実施形態は、FRETにおける偏光異方性を使用して特異結合を検出する、アレイに基づくアッセイを提供する。
【0031】
図2乃至6は、本発明の実施例において利用し得る、可能なアッセイ形式の小さなサンプルを提示している。各形式では、対象の結合事象が発生する時にFRETペアが形成されるin vitroアッセイを利用している。FRETペアの形成は、高スループットの偏光異方性を使用して検出される。
【0032】
これらの図において提示される例では、FRET異方性により検出可能な蛋白質−蛋白質相互作用は、残基(例えば、チロシン)がリン酸化される時のみ生じる。こうしたリン酸化は、例えば、細胞内での信号伝達中に発生し得る。各図に示したアッセイは、チロシンのリン酸化が関与する信号経路の一部に対する様々な刺激の影響に関する情報を提供できる。例えば、検査中の特定の処理は、信号経路に関与する蛋白質のチロシンをリン酸化するキナーゼの能力に干渉する可能性があり得る。
【0033】
当然ながら、本発明は、インタラクトーム(信号経路における相互作用の特徴)または他のいかなるクラスの反応または分子の特徴の検出にも限定されない。本発明のアッセイは、基本的に任意の小寸法の形態または分子の特徴に応用可能である。アッセイ可能な特徴は、蛋白質領域、核酸配列、エピトープ、様々な複合体、トランスクリプトーム、及びインタラクトームを含む。基本的に任意の化学または生化学種または物質の構造的、物理的、及び/または化学的特徴をアッセイ可能である。これには、蛋白質−蛋白質相互作用、蛋白質−核酸相互作用、及び核酸−核酸相互作用が含まれる。蛋白質アレイアッセイの幾つかの例は、出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする、Zhu, Bilgin, and Snyder, "Proteomics", Annu. Rev. Biochem. 16 (2003) pages 783-812において説明されている。
【0034】
図2は、実験条件が特定の形で「餌(bait)」蛋白質に影響を与えたかを判断するためのアッセイ設計を示す(この例では、リン酸化チロシン)。実験を行う一方法では、二個のcDNA構築物をコトランスフェクトした細胞を準備し、一方を第一のフルオロフォア(例えば、CFP(シアン蛍光蛋白質))に結合した餌蛋白質とし、他方を第二のフルオロフォア(例えば、YFP(黄色蛍光蛋白質))に結合した「獲物(prey)」タンパク質とする。当然ながら、付与する蛍光蛋白質は、餌と獲物及び/または検査中の他の細胞成分との間で入れ替えが可能であり、或いは、cDNA構築物により、或いはFRETペアのフルオロフォアの取り付けを可能にする別の方法において、修飾可能である。
【0035】
一般的な実験では、トランスフェクト細胞を検査中の特定の刺激(例えば、薬剤の候補)に接触させ、成長させる。その後、細胞を溶解させ、細胞内容物を、場合によっては初期分離手順を施した後でアッセイする。図2の例において、左側の溶解物は、抗餌捕獲抗体を有する基板に接触させる。別の実施形態では、Hisタグを利用して、餌を捕獲する。実験条件により、獲物と結合させる形で餌が修飾された場合(例えば、餌が適切にリン酸化された場合)、捕獲された餌と関連する獲物とは、基板上で極めて近接して有効な形で結合する。結果として、FRETペア、即ち、この例におけるCFP及びYFPは、共鳴エネルギ移動を可能にするのに十分な近さとなる。偏光異方性検出機器を使用することで、FRETは、上記のように検出できる。異方性の度合いは、餌が検査中の修飾を受けたことを間接的に示す。図2の右側も同様の例を示すが、ここでは、固定化された抗体は、餌ではなく獲物と結合する。最終結果は同じとなり、FRETペアは局所的に固定化され、基板上で検出可能となる。
【0036】
図3は、同様の実験プロトコル及び関連アッセイを示す。しかしながら、この場合、細胞は、餌フルオロフォアcDNA構築物のみによりトランスフェクトしている。実験条件は、同じものを与えてよく、例えば、餌が特定の形で修飾(例えば、リン酸化)されるかどうかに影響する条件を与えてよい。適切な時点で細胞を溶解させ、溶解物は、抗餌抗体を付加した固体基板に接触させる。次に、(1)修飾蛋白質に対する選択性(例えば、リン酸化チロシン残基を有する特定の蛋白質領域に対する選択性)のある抗体と、(2)FRETペア内の餌フルオロフォアのパートナの役割を果たすフルオロフォアとを含む新たな試薬に基板を接触させる。新たな試薬の抗体及びフルオロフォアは、利用可能な多数の連結手法の何れかにより連結し得る。図3にはビオチン−ストレプトアビジンのペアを図示している。
【0037】
図4は、アッセイにおける別の利用可能な変形を示す。この場合、餌及びフルオロフォアのために、細胞をcDNA構築物でトランスフェクトする必要はない。フルオロフォアは、溶解後、できれば付加した抗餌抗体を介して餌自体が基板に付着した後で、餌に付着させる。図示した例では、一般的なドナーフルオロフォアが、別の抗餌抗体を介して餌蛋白質に結合し、図示したサンドイッチ構造を形成している。細胞はトランスフェクトされていないため、フルオロフォアは、生細胞に適合する必要はない。具体的な例において、FRETフルオロフォアペアは、カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen Corporationから入手可能なAlexa Fluor488及びAlexa Fluor546を含む。
【0038】
図5は、検査中の種が「餌」蛋白質である必要のない、図4に示したアッセイの一般的なバージョンを示している。基本的に、どのような蛋白質その他の種「A」であっても、本発明のアッセイを使用して検出できる。
【0039】
図6は、対象の特徴(例えば、特定の残基位置のリン酸化チロシン)を、餌−獲物相互作用または抗体−エピトープ相互作用だけでなく、多様な種類の特異結合により検出可能な状況に、図1乃至4のアッセイを拡張可能であることを示している。図示した例において、作用物質「B」は、「A」のリン酸化残基に結合する。検出試薬は、抗B抗体に結合したFRETフルオロフォアを含む。
【0040】
上述のように、本発明の特定の態様は、FRETペアにおいてアクセプタとして機能する固有異方性の高い染料(フルオロフォア)の異方性がFRETペア内で相互作用していない時に有するものより大幅に低くなるという事実に依存する。しかしながら、FRETペアにおいてドナーとして機能する同じく固有異方性の高い染料は、FRETペアのドナーである時も、FRETペアでドナーとして相互作用していない時も、基本的に同じ異方性を有する。
【0041】
「高い」固有異方性を備えたフルオロフォアは、強く偏光された放出光を生成することで直線偏光励起光と相互作用する蛍光種であると理解してよい。定量的には、固有異方性の高いフルオロフォアから放出された光は、フルオロフォアの励起周波数の光によりシミュレートした場合、(本文書の背景の項の式を使用して)少なくとも約0.3、更に好ましくは、少なくとも0.4の計算異方性を有する。
【0042】
次に、本発明の分析方法及びシステムを、光符号化ビーズ及び/または生細胞と共に上記の検出システムを使用する実施形態の一例により説明する。しかしながら、本発明は、ビーズ及び生細胞に限定されず、FRET分析に適した任意の種類の対象物または対象物の組み合わせを使用できることを認識されたい。こうした対象物またはその組み合わせの例は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管または微小流路に閉じ込めた試料または対象物等を含む。中心となる考え方は、明確に定められた標的領域内に閉じ込めた試料の二種類の波長領域の異方性を同時に測定することと、測定異方性の一方を、標的領域内の試料の他方の測定異方性の変化を検出及び/または定量化するための内部基準として使用することであり、これにより、標的領域内のFRETの存在、欠如、及び/または品質の検出を可能にする。本明細書で説明したケースでは、ドナー蛍光を基準として使用したが、アッセイ系に存在する他の非FRET蛍光分子、更には励起源からの散乱光信号を含め、公知の異方性を備えた他のソースも基準として使用できる。また、固有異方性の高い分子間のホモFRETは、FRET時の異方性の減少を観測することで測定できる。ドナーとアクセプタとが同じ発光周波数を有するホモFRETの場合、公知の異方性を備え、試料中に存在する別個の基準発光を、内部基準として使用して、定量化を改善できる。当業者が認識するように、こうした手法は、上記のアレイに基づくアッセイと組み合わせ可能であるという利点を有する。何れの場合も、ホモFRETペア、散乱中心等、内部基準用の信号を生成する特徴は、アッセイの結合ペアと共存させる。
【0043】
次に、蛍光蛋白質を付着させた直径30マイクロメートルの一組のキャリブレーションビーズを示す図7を参照して、実験例を説明する。蛍光蛋白質は、波長440ナノメートル(即ち、本例で利用するCFPドナーの蛍光吸収範囲内)のレーザ光により励起させ、図1の装置を使用して、ビーズからの蛍光を収集した。ビーズセットAは、CFPにより標識しており、青色及び黄色チャネルの両方に渡って広範な蛍光を示す。ビーズセットBは、YFPフルオロフォアにより標識しており、予想通りに黄色チャネルのみで蛍光を示す。ビーズセットCは、FRETペア(CFP−YFP)により標識しており、ドナーからアクセプタへのエネルギ移動のため、黄色チャネルでの蛍光の増大と、青色チャネルでの蛍光の減少とを示す。最後に、ビーズセットDは、ビーズセットA、B、及びCの混合物であり、青色及び黄色の両チャネルで蛍光を示す。
【0044】
図8は、図7のキャリブレーションビーズの強度及び異方性散布プロットを示す。図8の左側のグラフで分かるように、測定黄色強度に対して測定青色強度をプロットする色比プロットでは、CFPビーズセットをFRETビーズセットから分離するのが容易である。図8の右側のグラフは、青色蛍光と黄色蛍光との異方性に関して対応するプロットを示している。異方性のプロットで分かるように、CFPビーズセットがFRETビーズセットから明確に区別されており、異方性がFRETの発生を測定するのに有効な特性であることが確認される。更に、図8の異方性プロットからは、黄色蛍光の異方性は、CFPビーズセットとFRETビーズセットとの間で変化するが、青色蛍光の異方性は、両方のケースで同じ状態を保つことが分かる。別の表現をすると、CFP及びFRETの異方性散布プロットは、水平方向(青色異方性)では基本的に同じ範囲に広がるが、図の垂直方向(黄色異方性)では異なる範囲に広がる。したがって、青色異方性は、黄色い方性の変化を測定するための内部基準として使用できる。上記の装置により二つの異方性を同時に測定できるため、黄色及び青色信号間で共通する何らかの局所的な未知の要素及びキャリブレーション係数が考慮され、これにより、FRET相互作用を測定するための改良された方法が生じる。
【0045】
図9及び10は、それぞれ図8の強度及び異方性散布プロットに対応する棒グラフを示す。図9において、左側の二本の棒は、図7のCFP及びFRETビーズセットで測定された黄色及び青色強度の比((黄色強度)/(青色強度))を示す。右側の二本の棒は、ビーズセットを同じウェル内に混合物として共に配置した時、即ち、「混合」した時に、強度比が基本的に同じ状態を維持することを示している。更に、両方のケースにおいて、FRET相互作用の発生がCFPによる非FRET蛍光から容易に識別されることが、図9から明らかとなる。図10は、キャリブレーションビーズのCFP及びYFPでの平均異方性を示している。左側の二本の棒は、青色及び黄色チャネルの両方において、CFP異方性が約0.3であり、この実験で提供した他の試料に比べて相対的に高いことを示している。黄色チャネルのYFP異方性は僅かに低く、これはYFPの低い「固有異方性」によるものと思われ、即ち、YFPが励起され蛍光を発するメカニズムのために、YFPは初期状態で低い異方性を有する可能性がある。
【0046】
最も右側の二本の棒から分かるように、FRET信号は、青色異方性と黄色異方性との分離の著しい増加を示している。実際、青色異方性が非FRETの例と比べて増加する一方で、FRETの黄色異方性は減少している。FRET青色異方性の増加は、FRETによりCFPの蛍光継続時間が減少し、結果として、発光周波数の偏光状態にランダム性を持ち込む変化を受ける機会が僅かに減ったことに由来する可能性が高い。言い換えると、ドナーフルオロフォアからの発光は、本来は蛍光放射発光へ向かうはずの一部のエネルギがアクセプタフルオロフォアへ伝達されることで限定され、ドナーから放出された残りのエネルギは高い異方性を有する。FRET黄色は、CFPの直接励起(スペクトルの黄色端部におけるCFPによる発光の一部)と、YFPの直接励起(CFPを刺激するのに使用される放射による)と、FRETに由来するYFP発光との組み合わせである。異方性は、これらの成分のそれぞれについて異なるため、最も右側の棒が表すものは、こうした要素のそれぞれにおける異方性の加重平均となる。最初の二要素では、相対的に高い異方性が生じる。そうであっても、FRET黄色の平均異方性は、図10の他の平均異方性よりも大幅に低いため、FRET相互作用の良好なインジケータとなる。
【0047】
図11は、CFPビーズ、YFPビーズ、及びFRETビーズの分離及び混合セットの異方性の差を示す棒グラフである。図11から分かるように、黄色及び青色異方性の差は、ビーズを一度に一種類ずつ調べても、混合したビーズセットとして調べても、基本的に同じである。更に図11から分かるように、FRET相互作用の青色及び黄色異方性には、それぞれCFP及びYFPより遥かに大きい差が存在するため、FRET相互作用は、CFP及びYFPそれぞれから容易に分離できる。
【0048】
次に、CFP/YFPトランスフェクション生細胞において、どのようにFRETを特定できるかを示す例を提示する。図12は、mCer−N3、mVenus−C1、及びSCAT3.1(カスパーゼ−3活性に対するCFP/YFP FRETセンサ)によりトランスフェクトしたCos−7細胞の画像を示している。カスパーゼ活性は、細胞の一部の集団におけるアポトーシスのインジケータとして使用し得る。この例において、トランスフェクションは、96ウェルガラス底プレートで行っており、24時間に渡って細胞をトランスフェクトした。その後、細胞に波長440ナノメートル(CFPの蛍光刺激周波数)のレーザ光を照射し、図1で説明したシステムの一部の特徴を有する装置を使用して、細胞からの蛍光を収集した。図12に示したように、細胞AはCFP(Cerulean)によりトランスフェクトしており、細胞BはYFP(Venus)によりトランスフェクトしており、細胞CはCFP及びYFPによりコトランスフェクト、即ち、CFP及びYFPを別個に、FRETペアとしてではなく追加しており、最後に細胞Dは、相互作用する二種類の蛋白質により、それぞれが互いに40オングストローム以内の距離に位置して、FRET相互作用が発生可能となるようにトランスフェクトした。FRET技術は、生体内の内因性カスパーゼ活性の力学及びパターンについて有意義な情報を提供できる。強化シアン蛍光蛋白質(ECFP)を含む組み換えカスパーゼ基板をFRETドナーとして使用してよく、強化黄色蛍光蛋白質(EYFP)をFRETアクセプタとして、カスパーゼ−3切断配列(DEVD)を含むペプチドにより連結する。こうしたインジケータの開発により、研究者は、単一の細胞レベルにおいて、リアルタイムでのカスパーゼ活性のモニタが可能となる。図12において分かるように、様々な細胞グループの蛍光パターンは、図7に関して上述したキャリブレーションビーズのものに類似する。しかしながら、SCATセンサの場合には、カスパーゼが活性化するとFRETが消滅し、したがってアポトーシスの事象が検知される。SCAT3.1センサとして表現されるFRET相互作用及び信号は、ここではカスパーゼ−3の活性化及び切断の前に示される。
【0049】
図13は、図12の生細胞の強度及び異方性散布プロットを示す。図13で分かるように、図8のキャリブレーションビーズで得られたプロットと非常に似ている。特に、図13の右側の異方性散布プロットで分かるように、FRET異方性は、コトランスフェクション細胞とCFP細胞との両方から容易に分離できる。
【0050】
図14は、図13のそれぞれの強度プロットに対応する棒グラフを示す。図10で分かるように、FRET細胞は、CFP及びコトランスフェクション細胞のそれぞれから容易に識別できる。
【0051】
図15は、CFP/YFPトランスフェクション細胞の平均異方性を示している。ここでも、結果は、キャリブレーションビーズにより得られた、図10に図示したものに類似する。FRET黄色の平均異方性は、図11の他の平均異方性より大幅に低いため、FRET相互作用の良好なインジケータとなる。
【0052】
図16は、CFP細胞、YFP細胞、コトランスフェクション細胞、及びFRET細胞の青色及び黄色異方性の差を示す棒グラフである。図16から分かるように、FRET細胞の青色及び黄色異方性には、CFP細胞、YFP細胞、及びコトランスフェクション細胞のそれぞれよりも遥かに大きな差が存在するため、FRET細胞は、他の細胞からから容易に識別できる。
【0053】
次に、本発明の特定の処理実施形態のまとめを提示する。図17では、一部の実施形態において採用し得る動作の幾つかを示すフローチャートを提示している。フローチャートは連続する一連の動作として提示されているが、本発明は、提示した順序に限定されない。更に、説明したように、動作の一部は同時に実行し得る。他の動作は、示したものと逆の順序で実行し得る。
【0054】
図17に示したプロセスでは、種A及びB間の相互作用に対してアッセイが実行されると仮定する。種A及び種Bは、ここでは第一及び第二の化学物質と呼ばれる場合がある。これらの用語は、様々な分子、分子断片、複合体、分子の集合、分子の超構造、細胞小器官を含む細胞成分等を広範に網羅するものとする。多くの生体分子は、化学物質として機能し得る。例には、核酸と、蛋白質及びペプチドと、脂質と、炭水化物と、その組み合わせとが含まれる。指摘したように、本発明の方法及び装置は、第一及び第二の化学物質間の相互作用における変化を測定し得る。こうした変化は、物質間の結合と、物質を含む構造の切断と、一方または両方の物質のコンホメーションの変化(例えば、蛋白質の折り畳み)と、一方または両方の物質の立体障害と、結合、コンホメーション等に影響を与え得る、物質の化学修飾(例えば、リン酸化)と、オリゴマ形成等により発生し得る。
【0055】
図17の最上ブロック、動作1701に示したように、通常の試料に提供し得る成分には、種Aに関連するドナーフルオロフォアと、種Bに関連するアクセプタフルオロフォアとが含まれる。通常、必ずではないが、試料の成分は、一定期間に渡って(単一の溶液との接触等により)接触状態が維持される。反応の時間分解追跡が望ましい他の実施形態では、FRETについて試料を即座に調査してよい。図17では、ブロック1703が調査を示しており、アッセイを実行するシステムは、ドナーフルオロフォアの蛍光励起波長の範囲内の波長を有する励起放射を提供する。
【0056】
プロセスの何れかの時点で、システムは、異方性の基準に関連する波長で偏光異方性の尺度を取得する。ブロック1705を参照されたい。これには、動作1703で付与したものとは異なる波長での励起放射を提供することが伴い得る。しかしながら、多くの実施形態では、単一の励起源、即ちドナーの励起周波数であるもので十分となる。ブロック1707に示したように、プロセスは、更に、アクセプタフルオロフォアがFRET中に放射を発する波長で偏光異方性の尺度を取得することを含む。この情報により、システムは、アクセプタの発光波長での異方性の尺度を、異方性基準の波長での異方性の尺度と比較する。ブロック1709を参照されたい。この異方性の比較に基づき、プロセスは、種Aと種Bとの間の反応または相互作用を評価する。ブロック1711を参照されたい。
【0057】
このブロック1701で述べた相互作用または反応は、通常、種A、種B、ドナーフルオロフォア、及びアクセプタフルオロフォアが混合その他の形で互いに密接に接触可能となる、小さな、場合によっては閉ざされた範囲等、指定された試料領域において行われる。通常、必ずではないが、試料領域は、マルチウェルプレート上のウェルまたはスポット領域、或いは、流路内の領域である。別の例には、(a)組織または器官試料、血流等の原位置分析と、(b)2005年2月9日提出の米国特許出願第11/055,244号(出典を明記することで実質上本願明細書の一部とする)において説明されるような平面回転基板と、(c)細胞、或いは核または細胞質等の細胞内の区画の原位置分析、及び(d)個別の領域または特定の集合体がFRET信号を発生させる特定の相互作用を起こしている可能性のある、細胞コロニ等の細胞の集合体の原位置分析とが含まれる。
【0058】
上記のように、ドナー及びアクセプタフルオロフォアは、FRETペアを形成可能となるべきである。多数の適切なフルオロフォアペアが、当業者に知られている。上記の蛍光蛋白質ペアの例に加え、FRETペアへの関与に適した他の蛍光物質には、フルオレセインと、ローダミンと、Bodipyファミリの染料(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen Corporationから入手可能)と、臭化エチジウムと、蛍光クマリンと、シアニン染料等が含まれる。様々な蛍光蛋白質(通常は、生体内でキメラ融合蛋白質として提供)を利用し得る。これらには、Discosomaサンゴからクロン形成した赤色蛍光蛋白質(DsRedまたはdrFP583)と、緑色蛍光蛋白質(GFP)と、GFPの青色、シアン、及び黄色のバリエーションと、シアン蛍光蛋白質と、黄色蛍光蛋白質とが、幾つかの例として含まれる。
【0059】
最初にアッセイの成分を一緒にする時には、種A及びBは、物理的に分離していても、連結していてもかまわない。分離した種は、アッセイ試料内で結合または反応が生じるかを評価するために接触状態にさせる、結合または反応を起こすペアにしてよい。このような場合、アッセイは、アクセプタの発光周波数からの信号において、偏光異方性が相対的に高い状態で開始され得る。しかし、反応が生じた時、或いは生じた場合には、アクセプタの発光による偏光異方性において、検出可能な現象が生じる。別のケースにおいて、種A及びBが当初連結しており、その後、開裂その他の形で互いに更に分離した状態にする可能性のある条件に晒される場合には、検査中の反応または相互作用により、アクセプタの発光波長で収集した信号において、偏光異方性に検出可能な増加が生じる。
【0060】
動作1703に関して、本明細書で説明したアッセイ用の励起源には、通常、直線偏光、或いは強い偏光が施される。励起源は、ドナーフルオロフォアの励起周波数において、狭い周波数帯域で提供されるが、これは常に必要な訳ではなく、特に、アクセプタフルオロフォアの励起周波数と、ドナー及びアクセプタフルオロフォアの発光周波数とがアクセプタの励起周波数から十分に離れている場合には、その必要はない。励起放射の強度は、考慮中のアッセイの必要に応じて選択される。通常は、強いFRET信号を生成するのに十分な高さだが、種が起こしている反応に干渉するほど高くはない強度を提供することが望まれる。多くのin vitroアッセイでは、励起源の強度範囲(試料と相互作用する際のもの―レンズによる損失を考慮する)は、約1×103乃至2×105ワット/cm2である。更に一般的には、強度範囲は、約2×103乃至2×104ワット/cm2である。
【0061】
動作1705に関して、基準は、試料からの偏光異方性信号のキャリブレーションまたは比較のために提供される。上記のように、FRET相互作用以外のアッセイの局所的条件は、単独で異方性に影響を与え得る。結果として、異方性の絶対値ではなく、相対値を測定することが好ましい場合がある。基準からの偏光異方性の取得は、本明細書の別の部分で説明したように、即ち、基準信号が偏光された度合いを決定することで達成し得る。通常、これは、一方が励起源の提供する偏光方向に平行で、他方がその方向に垂直である二つの直交する偏光角度で信号を測定することにより求められる。二方向で得られた強度の大きな差が高い異方性を示すのに対し、二方向に渡って得られた、より等しい強度の値は、等方性を示す。ここでも、基準の異方性は、試料のアクセプタフルオロフォアの発光について測定した異方性をキャリブレーションする目的で取得される。
【0062】
上記のように、基準は、内部基準または外部基準にしてよい。内部基準信号は、通常、ドナーフルオロフォアの発光信号の異方性から求められる。外部基準は、ドナー蛍光発光以外のソースから得られる。上記のように、一例は、ドナーではなく、アクセプタでもない、試料内の基準フルオロフォアからの発光である。こうした基準は、試料格納容器での固定化、試料内のビーズへの提供、溶液中への提供等を行ってよい。外部基準の別の例は、使用中で測定される励起源からの放射であり、例えば、試料から収集された散乱光である。
【0063】
動作1707に関して、アクセプタフルオロフォア発光周波数の偏光異方性は、基準の変更異方性と同じ方法だが異なる波長で測定される。説明したように、検査中の相互作用が種A及びBを極めて近接した状態にするか、分離させるかに応じて、アクセプタの発光周波数での偏光異方性の減少または増加は、相互作用の形跡となる。
【0064】
動作1709及び1711に関して、比較及び評価は、通常、コンピュータ、回路、または特別に構築された論理を使用して行われる。反応または相互作用が生じていることを示すために、試料及び基準間の異方性の差の閾値レベルを使用してよい。また、或いはこれに加えて、反応または相互作用が生じている範囲を示すために、異方性の差の定量値を使用してよい。特定の実施形態において、相対的な異方性の値は、種Aまたは種Bの濃度または効力の示度を提供する。
【0065】
図18は、in vitroアッセイを実行するための一般的な一連の動作を表す別のフローチャートである。最初にブロック1801に示したように、種A及び関連するドナーフルオロフォアを、in vitro試料に提供する。ブロック1803に示したように、種B及び関連するアクセプタフルオロフォアも、in vitro試料に提供する。動作1801及び1803を合わせて、アッセイ試料を形成するために、二種類の溶液、即ち、種A及びそのフルオロフォアを含有するものと、種B及びそのフルオロフォアを含有する別のものとを混合することのみを含んでもよい点に留意されたい。しかしながら、特定の実施形態では、一方または両方のフルオロフォアを別の成分として追加するのが適切である。更に、種A及びBがカスパーゼ−3または他の生体分子のような連結構造を共に形成する場合、動作1801及び1803は、単一の動作として実行される。どのように実行されるかに関係なく、動作1801及び1803は、アッセイ試料を調製することを共に表す。高スループットシステムでは、多くの異なるアッセイ試料を迅速に連続して作成及び調査する。
【0066】
一部の実施形態では、FRET相互作用の検査前に、場合により所定の期間に渡って、或いは、上昇させた温度、低酸素等の特定の刺激に触れさせた後で、種とフルオロフォアとの相互作用を必要に応じて可能にする。ブロック1805を参照されたい。検査する試料は、調製後、ドナーフルオロフォアの蛍光励起波長の範囲内の波長を有する励起放射に露出することで調査する。ブロック1807を参照されたい。
【0067】
アッセイ試料を励起放射に露出した後、システムは、アクセプタフルオロフォアの蛍光発光の波長での偏光異方性を測定する。ブロック1809を参照されたい。説明したように、この情報は、FRETが生じているかを判断するのに使用される。測定された偏光異方性に基づいて、プロセスでは、種A及び種B間で想定される反応または相互作用が生じたかを評価する。ブロック1811を参照されたい。反応が生じたと判断された場合、
本発明の一部の実施形態では、随意的に、反応が生じた度合いを判断する。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、上記の動作を実行するデバイス、システム、または装置に関する。システムは、必要な目的のために特別に構築してよく、或いは、例えば、コンピュータに格納されたコンピュータプログラムにより選択的に起動または構成される、汎用光学機器にしてもよい。上記のプロセスは、特定の光学機器またはコンピューティング装置に本質的に関連するものではない。
【0069】
以上、本発明の多数の実施例を説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変形を施し得ることは理解されよう。例えば、上記説明は、アッセイ用のスポットアレイ及び生細胞形式に重点を置いた。本発明は、もちろん、この形に限定されない。別の例として、固体基板はビーズを含んでもよい。スポットアレイ形式では、用途に応じて、様々な取り込み領域サイズを利用してよい。スポット密度も、用途に応じて変化する。特定の例では、基板は、ウェルを含み、例えば、約50nl以下のスポットサイズ等、用途の必要に応じたサイズとする。ウェルまたはスポットのパターンは、バーコード情報等の特定の情報を符号化または提供してよい。特定の応用において、基板は信号経路の中心要素に対して抗体アレイのパターンを提供するように設計される。スポットのパターンは、アッセイまたは信号読み出しの何れかに対する基準測定値または制御信号を生成するために使用される材料を含んでもよく、或いは、単純にアッセイスポットアレイの位置決めデバイス(基準)として使用してよい。したがって、添付特許請求の範囲には他の実施形態が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明によるFRET分析で使用可能な装置の概略ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による、実験条件が特定の形で「餌」蛋白質に影響を与えたかを判断するためのアッセイ設計を示す図である。
【図3】餌フルオロフォアcDNA構築物のみで形質移入した細胞による、図2に示したものと類似する実験プロトコル及び関連アッセイを示す図である。
【図4】図2及び3において提示したアッセイの別の変形を示す図である。
【図5】図4に示したアッセイの一般的バージョンを示す図である。
【図6】特定の結合メカニズムを使用して作用物を検出する図2及び5のアッセイの拡張を示す図である。
【図7】FRETキャリブレーションビーズの様々なセットから青色及び黄色チャネルにおいて取得した強度信号を示す図である
【図8】図7のキャリブレーションビーズの強度及び異方性散布プロットを示す図である。
【図9】図7のキャリブレーションビーズの平均黄色/青色強度比を示す棒グラフである。
【図10】図7のCFP/YFPキャリブレーションビーズの平均異方性を示す棒グラフである。
【図11】図7のCFP/YFPキャリブレーションビーズの異方性の差を示す棒グラフである。
【図12】形質移入した生細胞の様々なセットから青色及び黄色チャネルにおいて取得した強度信号を示す図である。
【図13】図12の細胞の強度及び異方性散布プロットを示す図である。
【図14】図12の細胞の平均黄色/青色強度比を示す棒グラフである。
【図15】図12のCFP/YFP細胞の平均異方性を示す棒グラフである。
【図16】図12のCFP/YFP形質移入細胞の異方性の差を示す棒グラフである。
【図17】偏光異方性基準を採用した特定の実施形態に関連し得る動作を示すフローチャートである。
【図18】in vitroアッセイにおける偏光異方性を利用する特定の実施形態に関連し得る動作を示すフローチャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の化学物質と第二の化学物質との間の特異結合を検出するための方法であって、
第一のフルオロフォアに関連する前記第一の化学物質を固定化する工程と、
前記第二の化学物質を、前記固定化した第一の化学物質と結合可能にする工程であって、前記第二の化学物質は、前記第一のフルオロフォアとのFRETペアを形成する、第二のフルオロフォアであるか、または、第二のフルオロフォアと結合した状態になる工程と、
前記結合化学物質を、前記第一または前記第二のフルオロフォアの何れかの励起周波数での放射に露出する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するために、前記結合化学物質からのFRET蛍光信号の偏光異方性を測定する工程と、を備える方法。
【請求項2】
更に、前記第一または第二のフルオロフォアの少なくとも一方のドナー発光継続時間を測定する工程を備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一のフルオロフォア及び前記第二のフルオロフォアは、両方とも高い固有異方性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記偏光異方性は、単一の波長で測定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方は、生体分子である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記生体分子は、蛋白質である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第一及び第二のフルオロフォアは、同一(ホモFRET)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第一及び第二の化学物質の一方は、蛋白質を含み、前記第一及び第二の化学物質の他方は、核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
更に、前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方に所定の処理を施す工程を備え、前記第一及び第二の化学物質間の特異結合は、前記所定の処理の結果として前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方が特定の状態になる場合にのみ生じる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記偏光異方性は、第一の波長と第二の波長とで測定される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
更に、FRET相互作用が生じているかを判断するために、前記第一及び第二の波長の前記異方性を比較する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項12】
更に、第一の波長での前記異方性を、前記第二の波長での前記異方性の変化を判断するための基準として使用する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、同時に測定される、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項10記載の方法。
【請求項15】
更に、基準源の偏光異方性を測定する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記基準源は、前記フルオロフォアの一方に対するレーザ励起源である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記基準源は、蛍光のためのレーザ励起源以外の励起源である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
更に、FRET相互作用が生じているかを判断するために、前記第一及び第二の波長の前記異方性を、前記基準源の前記異方性と比較する工程を備える、請求項15記載の方法。
【請求項19】
更に、前記基準源の前記異方性を、前記第一の波長または前記第二の波長の前記異方性の変化を判断するための基準として使用する工程を備える、請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記第一及び第二の波長と前記基準源との前記異方性は、同時に測定される、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記第一及び第二の波長及び基準源の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記基準源は、測定に使用される基板に印刷または堆積させた蛍光染料のスポットである、請求項15記載の方法。
【請求項23】
前記基準源は、測定に使用される基板またはビーズ材料に含浸させたまたは組み込んだ蛍光染料である、請求項15記載の方法。
【請求項24】
ドナーフルオロフォアに関連する第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアに関連する第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法であって、
前記フルオロフォアの少なくとも一方を、前記ドナーフルオロフォアの励起波長での放射に露出する工程と、
蛍光信号の偏光異方性を、前記ドナーフルオロフォアの発光波長と、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長とにおいて測定する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、前記測定した異方性を比較する工程と、を備える方法。
【請求項25】
前記ドナー及び前記アクセプタのフルオロフォアは、両方とも高い固有異方性を有する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記ドナーフルオロフォアの発光波長での前記異方性を使用することは、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長の前記異方性の変化を判定または定量化するための内部基準の役割を果たす、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアの前記異方性は、同時に測定される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項24記載の方法。
【請求項29】
前記ドナーフルオロフォアの前記発光波長での前記測定された異方性に対して、前記アクセプタフルオロフォアの前記発光波長での前記測定された異方性が相対的に変化した場合に、FRET相互作用が生じたと判断される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記第一及び第二の化学物質は、FRET分析の標的領域に含まれ、前記標的領域は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管に閉じ込めた試料または対象物と、微小流路に閉じ込めた試料または対象物と、ウェルまたは小滴等の液体領域に閉じ込めた細胞の集合またはコロニと、表面または表層上で固定化した細胞の集合またはコロニとのうち一つ以上を含む、請求項24記載の方法。
【請求項31】
前記ドナーフルオロフォアは、シアン蛍光蛋白質であり、前記アクセプタフルオロフォアは、黄色蛍光蛋白質である、請求項24記載の方法。
【請求項32】
前記ドナーフルオロフォアは、緑色蛍光蛋白質であり、前記アクセプタフルオロフォアは、赤色蛍光蛋白質である、請求項24記載の方法。
【請求項33】
前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方は、ストレプトアビジンを含む、請求項24記載の方法。
【請求項34】
前記第一及び第二の化学物質の一方は、前記第一及び第二の化学物質の他方との結合時に立体障害を受ける小分子である、請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記ドナーフルオロフォアと前記アクセプタフルオロフォアとは同一である、請求項24記載の方法。
【請求項36】
ドナーフルオロフォアに関連する第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアに関連する第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法であって、
前記フルオロフォアを含有する領域を、前記ドナーフルオロフォアの励起波長での放射に露出する工程と、
蛍光信号の偏光異方性を、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長において測定する工程と、
前記フルオロフォアを含有する前記領域における基準信号の波長において偏光異方性を測定する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、前記測定した異方性を比較する工程と、を備える方法。
【請求項37】
前記基準信号は、前記ドナーフルオロフォアの蛍光以外の放射を含む、請求項36記載の方法。
【請求項1】
第一の化学物質と第二の化学物質との間の特異結合を検出するための方法であって、
第一のフルオロフォアに関連する前記第一の化学物質を固定化する工程と、
前記第二の化学物質を、前記固定化した第一の化学物質と結合可能にする工程であって、前記第二の化学物質は、前記第一のフルオロフォアとのFRETペアを形成する、第二のフルオロフォアであるか、または、第二のフルオロフォアと結合した状態になる工程と、
前記結合化学物質を、前記第一または前記第二のフルオロフォアの何れかの励起周波数での放射に露出する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間の特異結合を検出するために、前記結合化学物質からのFRET蛍光信号の偏光異方性を測定する工程と、を備える方法。
【請求項2】
更に、前記第一または第二のフルオロフォアの少なくとも一方のドナー発光継続時間を測定する工程を備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一のフルオロフォア及び前記第二のフルオロフォアは、両方とも高い固有異方性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記偏光異方性は、単一の波長で測定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方は、生体分子である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記生体分子は、蛋白質である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第一及び第二のフルオロフォアは、同一(ホモFRET)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第一及び第二の化学物質の一方は、蛋白質を含み、前記第一及び第二の化学物質の他方は、核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
更に、前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方に所定の処理を施す工程を備え、前記第一及び第二の化学物質間の特異結合は、前記所定の処理の結果として前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方が特定の状態になる場合にのみ生じる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記偏光異方性は、第一の波長と第二の波長とで測定される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
更に、FRET相互作用が生じているかを判断するために、前記第一及び第二の波長の前記異方性を比較する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項12】
更に、第一の波長での前記異方性を、前記第二の波長での前記異方性の変化を判断するための基準として使用する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、同時に測定される、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項10記載の方法。
【請求項15】
更に、基準源の偏光異方性を測定する工程を備える、請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記基準源は、前記フルオロフォアの一方に対するレーザ励起源である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記基準源は、蛍光のためのレーザ励起源以外の励起源である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
更に、FRET相互作用が生じているかを判断するために、前記第一及び第二の波長の前記異方性を、前記基準源の前記異方性と比較する工程を備える、請求項15記載の方法。
【請求項19】
更に、前記基準源の前記異方性を、前記第一の波長または前記第二の波長の前記異方性の変化を判断するための基準として使用する工程を備える、請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記第一及び第二の波長と前記基準源との前記異方性は、同時に測定される、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記第一及び第二の波長及び基準源の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記基準源は、測定に使用される基板に印刷または堆積させた蛍光染料のスポットである、請求項15記載の方法。
【請求項23】
前記基準源は、測定に使用される基板またはビーズ材料に含浸させたまたは組み込んだ蛍光染料である、請求項15記載の方法。
【請求項24】
ドナーフルオロフォアに関連する第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアに関連する第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法であって、
前記フルオロフォアの少なくとも一方を、前記ドナーフルオロフォアの励起波長での放射に露出する工程と、
蛍光信号の偏光異方性を、前記ドナーフルオロフォアの発光波長と、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長とにおいて測定する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、前記測定した異方性を比較する工程と、を備える方法。
【請求項25】
前記ドナー及び前記アクセプタのフルオロフォアは、両方とも高い固有異方性を有する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記ドナーフルオロフォアの発光波長での前記異方性を使用することは、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長の前記異方性の変化を判定または定量化するための内部基準の役割を果たす、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記ドナーフルオロフォア及びアクセプタフルオロフォアの前記異方性は、同時に測定される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
前記第一及び第二の波長の前記異方性は、信号読み出しの際の系統的な測定変化にとって短い時間枠の中で、連続して測定される、請求項24記載の方法。
【請求項29】
前記ドナーフルオロフォアの前記発光波長での前記測定された異方性に対して、前記アクセプタフルオロフォアの前記発光波長での前記測定された異方性が相対的に変化した場合に、FRET相互作用が生じたと判断される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記第一及び第二の化学物質は、FRET分析の標的領域に含まれ、前記標的領域は、マイクロビーズと、スポットと、スポット上のスポットと、ビーズと組み合わせたスライド上のスポットと、毛細管に閉じ込めた試料または対象物と、微小流路に閉じ込めた試料または対象物と、ウェルまたは小滴等の液体領域に閉じ込めた細胞の集合またはコロニと、表面または表層上で固定化した細胞の集合またはコロニとのうち一つ以上を含む、請求項24記載の方法。
【請求項31】
前記ドナーフルオロフォアは、シアン蛍光蛋白質であり、前記アクセプタフルオロフォアは、黄色蛍光蛋白質である、請求項24記載の方法。
【請求項32】
前記ドナーフルオロフォアは、緑色蛍光蛋白質であり、前記アクセプタフルオロフォアは、赤色蛍光蛋白質である、請求項24記載の方法。
【請求項33】
前記第一及び第二の化学物質の少なくとも一方は、ストレプトアビジンを含む、請求項24記載の方法。
【請求項34】
前記第一及び第二の化学物質の一方は、前記第一及び第二の化学物質の他方との結合時に立体障害を受ける小分子である、請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記ドナーフルオロフォアと前記アクセプタフルオロフォアとは同一である、請求項24記載の方法。
【請求項36】
ドナーフルオロフォアに関連する第一の化学物質とアクセプタフルオロフォアに関連する第二の化学物質との間でFRET相互作用が発生しているかを検出するための方法であって、
前記フルオロフォアを含有する領域を、前記ドナーフルオロフォアの励起波長での放射に露出する工程と、
蛍光信号の偏光異方性を、前記アクセプタフルオロフォアの発光波長において測定する工程と、
前記フルオロフォアを含有する前記領域における基準信号の波長において偏光異方性を測定する工程と、
前記第一及び第二の化学物質間でFRET相互作用が発生しているかを判断するために、前記測定した異方性を比較する工程と、を備える方法。
【請求項37】
前記基準信号は、前記ドナーフルオロフォアの蛍光以外の放射を含む、請求項36記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2008−538004(P2008−538004A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505419(P2008−505419)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/012292
【国際公開番号】WO2006/107864
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(506064991)ブルーシフト・バイオテクノロジーズ・インコーポレーテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】BLUESHIFT BIOTECHNOLOGIES INCORPORATED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/012292
【国際公開番号】WO2006/107864
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(506064991)ブルーシフト・バイオテクノロジーズ・インコーポレーテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】BLUESHIFT BIOTECHNOLOGIES INCORPORATED
【Fターム(参考)】
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