説明

FXR媒介疾患または状態の予防または治療のためのFXRリガンドとしての胆汁酸誘導体

本発明は、Rが水素またはα-ヒドロキシであり、7位のヒドロキシル基がαまたはβ位にある、式(I)の化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはアミノ酸複合体に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、胆汁うっ滞性障害の治療のために使用され得るファルネソイドX受容体(FXR)モジュレータ、特に、C6がエチルを含みかつC24カルボキシ基が硫酸基へ変換されている胆汁酸誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ファルネソイドX受容体(FXR)は、最初にラット肝臓cDNAライブラリから同定されたオーファン核内受容体であり(BM. Forman, et al., Cell 81:687-693 (1995)(非特許文献1))、これは、昆虫エクジソン受容体に最も密接に関連する。FXRは、ステロイド、レチノイド、および甲状腺ホルモンについての受容体を含む、リガンド活性化転写因子の核内受容体ファミリーのメンバーである(DJ. Mangelsdorf, et al., Cell 83:841-850 (1995)(非特許文献2))。ノザンおよびインサイチュー分析によって、FXRは、肝臓、腸、腎臓および副腎において最も豊富に発現されることが示されている(BM. Forman, et al., Cell 81:687-693 (1995)(非特許文献1)およびW. Seol, et al., Mol. Endocrinnol. 9:72-85 (1995)(非特許文献3))。FXRは、9-シスレチノイン酸受容体(RXR)とのヘテロ二量体としてDNAへ結合する。FXR/RXRヘテロ二量体は、逆方向反復配列として組織化されかつ単一のヌクレオチドによって隔てられたコンセンサスAG(G/T)TCA(IR-1モチーフ)の2つの核内受容体半部位から構成される応答エレメントへ優先的に結合する(BM. Forman, et al., Cell 81:687-693 (1995)(非特許文献1))。初期の報告では、ラットFXRは、マイクロモル濃度のファルネソイド、例えば、ファルネソールおよび幼若ホルモンによって活性化されることが示された(BM. Forman, et al., Cell 81:687-693 (1995)(非特許文献1))。しかし、これらの化合物は、マウスおよびヒトFXRを活性化せず、内因性FXRリガンドの性質は不明のままである。いくつかの天然胆汁酸は、生理的濃度でFXRへ結合しかつこれを活性化する(PCT WO 00/37077(特許文献1)、2000年6月29日に公開))。そこで議論されるように、FXRリガンドとして役立つ胆汁酸としては、ケノデオキシコール酸(CDCA)、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、ならびにこれらの胆汁酸のタウリンおよびグリシン複合体が挙げられる。
【0003】
胆汁酸は、肝臓で形成されかつ腸の十二指腸へ分泌されるコレステロール代謝産物であり、ここで、それらは、食事の脂肪およびビタミンの可溶化および吸収において重要な役割を有する。ほとんどの胆汁酸(約95%)は、続いて回腸内で再吸収され、腸肝循環系によって肝臓に戻される。肝臓内でのコレステロールの胆汁酸への変換は、フィードバック調節に基づいており:胆汁酸は、胆汁酸の生合成における律速段階を触媒する酵素をコードするチトクロムP450 7a(CYP7a)の転写を下方調節する。正確なメカニズムは不明のままであるが、FXRが胆汁酸によるCYP7a発現の抑制に関与していることを示唆するデータが存在する(DW. Russell, Cell 97:539-542 (1999)(非特許文献4))。回腸において、胆汁酸は、胆汁酸と高い親和性で結合し、かつ、それらの細胞取り込みおよび輸送に関与しているかもしれない細胞質タンパク質、腸内胆汁酸結合タンパク質(IBABP)の発現を誘発する。現在、2つのグループが、胆汁酸は、ヒト、ラット、およびマウスのIBABP遺伝子プロモータに保存されているIR-1型応答エレメントに結合するFXRの活性化によって、IBABP発現に対するその効果を媒介することを実証している。従って、FXRは、胆汁酸およびコレステロールの恒常性に関与する標的遺伝子の刺激(IBABP)と抑制(CYP7a)のどちらにも関与している。
【0004】
EP 1392714(特許文献2)は、FXR媒介疾患または状態の予防または治療用の医用薬剤の製造において使用され得る、FXRアゴニストとしての3α,7α-ジヒドロキシ-6α-エチル-5β-コラン-24-酸(本明細書以下において、6-エチル-ケノデオキシコール酸、6-EDCAとも呼ぶ)、その溶媒和物およびアミノ酸複合体を開示している。
【0005】
EP 1568796(特許文献3)は、FXRアゴニストとしての6-エチル-ウルソデオキシコール酸(6-EUDCA)誘導体ならびにFXR媒介疾患または状態の予防または治療におけるそれらの使用を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】PCT WO 00/37077
【特許文献2】EP 1392714
【特許文献3】EP 1568796
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】BM. Forman, et al., Cell 81:687-693 (1995)
【非特許文献2】DJ. Mangelsdorf, et al., Cell 83:841-850 (1995)
【非特許文献3】W. Seol, et al., Mol. Endocrinnol. 9:72-85 (1995)
【非特許文献4】DW. Russell, Cell 97:539-542 (1999)
【発明の概要】
【0008】
発明の簡単な概要
第1局面によれば、本発明は、式(I)の化合物、およびその薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはアミノ酸複合体を提供する:

式中、Rは、水素またはα-ヒドロキシであり、
7位のヒドロキシ基は、αまたはβ位にある。
【0009】
1つの態様において、式(I)の化合物は、ケノデオキシコール酸誘導体の形態である。別の態様において、式(I)の化合物は、ウルソデオキシコール酸誘導体の形態である。なお別の態様において、式(I)の化合物は、コール酸誘導体の形態である。
【0010】
別の態様において、式(I)の化合物は、トリエチルアンモニウム塩の形態である。

【0011】
別の態様において、式(I)の化合物は、ナトリウム塩の形態である。

【0012】
別の局面において、本発明は、FXR媒介疾患または状態の予防または治療のための方法を提供する。本方法は、治療的有効量の式(I)の化合物を投与することを含む。本発明はまた、FXR媒介疾患または状態の予防または治療用の医用薬剤の製造のための式(I)の化合物の使用を提供する。
【0013】
ある態様において、FXR媒介疾患または状態は、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、高コレステロール血(hypercholesteremia)、もしくは高脂血症、慢性肝疾患、胃腸疾患、腎疾患、心臓血管疾患、代謝性疾患、癌(即ち、結腸直腸癌)、または神経学的指標、例えば、脳卒中である。ある態様において、慢性肝疾患は、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、脳腱黄色腫症(CTX)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、薬物性胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞、非経口的栄養性胆汁うっ滞(parenteral nutrition associated cholestasis:PNAC)、細菌異常増殖もしくは敗血症関連胆汁うっ滞、自己免疫性肝炎、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝移植関連移植片対宿主病、生体移植肝再生、先天性肝線維症、総胆管結石症、肉芽腫性肝疾患、肝内もしくは肝外悪性疾患、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、ウィルソン病、ゴーシェ病、ヘモクロマトーシス、またはα1-アンチトリプシン欠損症である。ある態様において、胃腸疾患は、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎を含む)、過敏性腸症候群(IBS)、細菌異常増殖、吸収不良、放射線照射後大腸炎、または顕微鏡的大腸炎である。ある態様において、腎疾患は、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎、慢性移植糸球体症、慢性間質性腎炎、または多発性嚢胞腎である。ある態様において、心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、異脂肪血症、高コレステロール血症、または高トリグリセリド血症である。ある態様において、代謝性疾患は、インスリン抵抗性、I型およびII型糖尿病、または肥満症である。
【0014】
別の局面において、本発明は、式(I)の化合物および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0015】
別の局面において、本発明は、式(I)の化合物、およびその薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはアミノ酸複合体を製造するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】グラフ形式でのトランス活性化アッセイ結果を示す。各データポイントは、三重のアッセイの平均値である。CTRL:対照;INT-747;6-ECDCA;UPF-987。
【図2】トランス活性化アッセイにおけるINT-747およびUPF-987の用量反応を示す。
【図3】インビトロでのFXR標的遺伝子発現を示す。結果は、2つの定量的リアルタイムPCR実験の平均値である。
【図4】インビボでのマウス肝臓から誘導された細胞における代表的なFXR標的遺伝子発現を示す。データは、2つの定量的リアルタイムPCR実験の平均値である。
【図5】TNBSによって誘発された体重減少に対するUPF-987の効果を示す。
【図6】便の硬さに対するUPF-987の効果を示す。
【図7】粘膜損傷スコアに対するUPF-987の効果を示す。
【図8】マウス結腸遺伝子発現に対するUPF-987の効果を示す。結果は、2つの定量的リアルタイムPCR実験の平均値である。
【図9】ANIT誘発性胆汁うっ滞における血漿ビリルビンに対するUPF-987の効果を示す。
【図10】ANIT誘発性胆汁うっ滞における血漿ASTに対するUPF-987の効果を示す。
【図11】ANIT誘発性胆汁うっ滞における血漿ALPに対するUPF-987の効果を示す。
【図12】ANIT誘発性胆汁うっ滞における血漿ガンマGTに対するUPF-987の効果を示す。
【図13】ANIT誘発性胆汁うっ滞における血漿コレステロールに対するUPF-987の効果を示す。
【図14】ANIT誘発性胆汁うっ滞における体重に対するUPF-987の効果を示す。
【図15】ANIT誘発性胆汁うっ滞における肝臓重量に対するUPF-987の効果を示す。
【図16】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットの肝臓におけるFXR標的遺伝子発現に対するUPF-987の効果を示す。結果は、2つの定量的リアルタイムPCR実験の平均値である。
【図17】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ビリルビンに対するINT-1103の効果を示す。
【図18】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ASTに対するINT-1103の効果を示す。
【図19】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ALTに対するINT-1103の効果を示す。
【図20】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ALPに対するINT-1103の効果を示す。
【図21】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ガンマGTに対するINT-1103の効果を示す。
【図22】ANIT誘発性胆汁うっ滞ラットにおける体重に対するINT-1103の効果を示す。
【図23】得られた肝臓比率(肝臓重量/体重×100)を示す。
【図24】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ビリルビンに対するINT-1103の効果を示す。
【図25】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ASTに対するINT-1103の効果を示す。
【図26】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ALTに対するINT-1103の効果を示す。
【図27】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ALPに対するINT-1103の効果を示す。
【図28】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける血漿ガンマGTに対するINT-1103の効果を示す。
【図29】BDL誘発性胆汁うっ滞ラットにおける体重に対するINT-1103の効果を示す。
【図30】得られた肝臓比率(肝臓重量/体重×100)を示す。
【図31】未処置ラットにおける胆汁流量に対するINT-1103およびINT-747の効果を示す。
【図32】エストロゲン胆汁うっ滞ラットにおける胆汁流量に対するINT-1103およびINT-747の効果を示す。
【図33】エストロゲン胆汁うっ滞ラットにおける肝臓比率に対するINT-1103およびINT-747の効果を示す。
【図34】エストロゲン胆汁うっ滞ラットにおける体重に対するINT-1103およびINT-747の効果を示す。
【図35】定量的リアルタイムPCRによる得られたインスリン遺伝子発現を示す。
【図36】水中における胆汁酸塩濃度(mM)の対数に対してプロットした表面張力(ダイン/cm)を示す。
【図37】NaCl 0.15 M中における胆汁酸塩濃度(mM)の対数に対してプロットした表面張力(ダイン/cm)を示す。
【図38】タウリン複合体化INT-747の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図39】グリシン複合体化INT-747の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図40】INT-747の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図41】INT-747エピマーの分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図42】タウリン複合体化INT-747エピマーの分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図43】INT-1103の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図44】INT-1103およびその主な代謝産物3-グルクロニドの分泌速度を示す。相対量は分析シグナルとして表される。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図45】質量スペクトルを使用して胆汁中で同定されたINT-1103主要代謝産物の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図46】質量スペクトル拡大表示を使用して胆汁中で同定されたINT-1103主要代謝産物の分泌速度を示す。データは、胆汁中の濃度として報告され、かつ胆汁量によって補正されるべきである。
【図47】図47は、ヒト便培養物中におけるINT-747およびINT-1103の代謝安定性を示す。ケノデオキシコーリックを参照天然アナログとして使用した。
【図48】シミュレートされた膵液中におけるINT-1103の代謝安定性を示す。オリーブオイルを、USPプロトコルにおいて報告されるように参照として使用した。前記化合物は、非常に安定であり、エステル結合(スルフェート)は、膵エステラーゼによって加水分解されず、ヒト十二指腸および上部腸内容物中における高い安定性を示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、一般式(I)の化合物、およびその薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはアミノ酸複合体に関する:

式中、Rは、水素またはα-ヒドロキシであり、
7位のヒドロキシ基は、αまたはβ位にある。
【0018】
本発明に従う好適な薬学的に許容される塩は、当業者によって容易に決定され、例えば、塩基性塩、例えば、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、および亜鉛から生成されるアルカリもしくはアルカリ土類金属塩、または、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン(chlorprocaine)、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、およびプロカインから作製される有機塩を含む。薬学的に許容されるアミン、例えば、リジン、アルギニン、トロメタミン、トリエチルアミンなどを伴う塩もまた使用され得る。式(I)の化合物のこのような塩は、例えば、好適な塩基と式(I)の化合物とを反応させることによって、式(I)の化合物から、従来の技術を使用して調製され得る。
【0019】
医用薬剤において使用される場合、式(I)の化合物の塩は、薬学的に許容されるべきであるが、薬学的に許容されない塩も、好都合なことに、対応する遊離塩基またはその薬学的に許容される塩を調製するために使用され得る。
【0020】
本明細書において使用される場合、用語「溶媒和物」は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩と化学量論もしくは非化学量論量の溶媒とを含有する結晶形態である。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、または酢酸が挙げられる。本明細書以下において、式(I)の化合物への言及は、その特定の形態、塩または溶媒和物が明記される場合を除いて、その化合物の任意の物理的形態へのものである。
【0021】
本明細書において使用される場合、用語「アミノ酸複合体」は、式(I)の化合物と任意の好適なアミノ酸との複合体を指す。好ましくは、式(I)の化合物のこのような好適なアミノ酸複合体は、胆汁または腸液中における増強された完全性という追加の利点を有する。好適なアミノ酸としては、グリシンおよびタウリンが挙げられるが、これらに限定されない。従って、本発明は、式(I)のいずれかの化合物のグリシンおよびタウリン複合体を包含する。
【0022】
1つの態様において、式Iの化合物は、7のヒドロキシル基がα位にあり、かつRが水素である、ケノデオキシコール酸誘導体である。
【0023】
別の態様において、式Iの化合物は、7のヒドロキシル基がβ位にあり、かつRが水素である、ウルソデオキシコール酸誘導体である。
【0024】
別の態様において、式Iの化合物は、式Iの化合物は、7のヒドロキシル基がα位にあり、かつRがα-ヒドロキシである、コール酸誘導体である。
【0025】
本明細書以下において、「式(I)の化合物」への全ての言及は、上記の式(I)の化合物ならびにその薬学的に許容される塩、溶媒和物またはアミノ酸複合体を指す。
【0026】
式Iの化合物は、好適には3-ヒドロキシ部分が保護された、EP 1392714およびEP 1568796に開示されるように調製された、6-エチル-7-ケト-コール酸から出発して、C24カルボキシ基をヨウ素原子へ変換すること、後者をヒドロキシル基へ変換すること、7-ケト基を還元して対応の3-αまたは3-βヒドロキシル基を得ること、C24ヒドロキシ基を選択的にスルホニル化すること、および3-ヒドロキシ基を脱保護することを含む反応順序によって、調製され得る。
【0027】
反応スキームおよび各工程において使用される試薬を、トリエチルアンモニウム塩の形態の3α,7α,23-トリヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-スルフェート(UPF-987または下記の化合物(9))の調製を示す下記スキームにおいて報告する。同一のスキームが、試薬および/または出発材料を適切に置き換えることによって、および任意で反応順序および保護基も変更することによって、式Iの他の化合物の調製に適応され得る。

【0028】
反応スキームおよび各工程において使用される試薬を、ナトリウム塩の形態の3α,7α,23-トリヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-スルフェート(INT-1103または下記の化合物(10))の調製を示す下記スキームにおいて報告する。同一のスキームが、試薬および/または出発材料を適切に置き換えることによって、および任意で反応順序および保護基も変更することによって、式Iの他の化合物の調製に適応され得る。

【0029】
実験セクションにおいてより詳細に説明されるように、無細胞アッセイ、ならびに、ヒト肝細胞系でおよびインタクトなラットとα-ナフチルイソチオシアネート(ANIT)の投与によって胆汁うっ滞にされたマウスのインビボでのトランス活性化アッセイにおいて、化合物9を試験した。FRETアッセイにおいて、本化合物は、FXRを活性化することにおいて、ケノデオキシコール酸(CDCA)よりも約1000倍より強力であるとわかった。トランス活性化アッセイにおいて、化合物9は、胆汁酸輸送体、BSEP(胆汁酸塩排出ポンプ)、および小ヘテロ二量体パートナー(small heterodimeric partner:SHP、DNA結合ドメインを欠く非定型核内受容体)を2倍誘発させた。
【0030】
さらに、それは、Cyp7A1、SREPB-1cおよび脂肪酸シンターゼ(FAS)を強力に抑制し、従って、本発明の化合物によるFXR活性化は、胆汁酸合成、ならびに脂質、コレステロールおよびグルコース代謝に関与する遺伝子の選択的調節を可能にすることを示している。従って、式(I)の化合物は、胆汁酸輸送体の選択的モジュレータとして作用して、肝臓において胆汁酸の流れを増加させ;さらに、それらは、脂質およびコレステロール代謝に関与する遺伝子を強力に調節し、この理由のために、それらは、慢性肝疾患(1または複数の胆汁うっ滞、脂肪症、炎症、線維症、および肝硬変を含む)、胃腸疾患、腎疾患、心臓血管疾患、および代謝性疾患を含むFXR媒介疾患または状態の、予防または治療のために使用され得る。式(I)の化合物を使用して予防または治療され得る慢性肝疾患としては、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、脳腱黄色腫症(CTX)、薬物性胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞、非経口的栄養性胆汁うっ滞(PNAC)、細菌異常増殖または敗血症関連胆汁うっ滞、自己免疫性肝炎、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝移植関連移植片対宿主病、生体移植肝再生、先天性肝線維症、総胆管結石症、肉芽腫性肝疾患、肝内または肝外悪性疾患、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、ウィルソン病、ゴーシェ病、ヘモクロマトーシス、およびα1-アンチトリプシン欠損症が挙げられるが、これらに限定されない。式(I)の化合物を使用して予防または治療され得る胃腸疾患としては、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎を含む)、過敏性腸症候群(IBS)、細菌異常増殖、吸収不良、放射線照射後大腸炎、および顕微鏡的大腸炎が挙げられるが、これらに限定されない。式(I)の化合物を使用して予防または治療され得る腎疾患としては、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎、慢性移植糸球体症、慢性間質性腎炎、および多発性嚢胞腎が挙げられるが、これらに限定されない。式(I)の化合物を使用して予防または治療され得る心臓血管疾患としては、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、異脂肪血症、高コレステロール血症、および高トリグリセリド血症が挙げられるが、これらに限定されない。式(I)の化合物を使用して予防または治療され得る代謝性疾患としては、インスリン抵抗性、I型およびII型糖尿病、ならびに肥満症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の方法は、治療的有効量の式(I)の化合物を投与する工程を含む。本明細書において使用する場合、用語「治療的有効量」は、記載される効果を達成するに十分である式(I)の化合物の量を指す。従って、FXR媒介疾患または状態の予防または治療のための方法において使用する式(I)の化合物の治療的有効量は、FXR媒介疾患または状態を予防または治療するに十分な量である。同様に、胆汁うっ滞性肝疾患を予防もしくは治療するためまたは胆汁流量を増大させるための方法における使用についての式(I)の化合物の治療的有効量は、腸への胆汁流量を増大させるに十分な量である。
【0032】
所望の生物学的効果を達成するために必要とされる式(I)の化合物の量は、多数の因子、例えば、それが意図される用途、投与の手段、およびレシピエントに依存し、最終的には、担当の医師または獣医師の裁量による。一般的に、FXR媒介疾患および状態の治療のための典型的な一日用量は、例えば、約0.01 mg/kg〜約100 mg/kgの範囲内にあると予想され得る。この用量は、単回単位用量として、または数回の別個の単位用量として、または連続注入として投与され得る。同様の投与量が、他の疾患、状態の治療、ならびに胆汁うっ滞性肝疾患の予防および治療を含む療法に適用可能である。
【0033】
従って、さらなる局面において、本発明は、少なくとも1つの薬学的担体もしくは希釈剤と一緒におよび/または少なくとも1つの薬学的担体もしくは希釈剤と混合された式(I)の化合物を有効成分として含む、薬学的組成物を提供する。これらの薬学的組成物は、前述の疾患または状態の予防および治療において使用され得る。
【0034】
担体は、薬学的に許容されなくてはならず、かつ組成物中の他の成分と適合性でなければならず、即ち、組成物中の他の成分に対して有害な効果を有してはならない。担体は、固体または液体であり得、好ましくは、単位用量製剤として、例えば、0.05〜95重量%の有効成分を含有し得る錠剤として、製剤化される。必要に応じて、他の生理学的に有効な成分も、本発明の薬学的組成物中に混合されてもよい。
【0035】
可能な製剤としては、経口、舌下、口腔、非経口(例えば皮下、筋肉内、または静脈内)、直腸、経皮を含む局所、鼻腔内および吸入投与に好適なものが挙げられる。特定の患者に対する最も好適な投与手段は、治療される疾患または状態の性質および重篤度、または使用される療法の性質、ならびに活性化合物の性質に依存するが、可能である場合、経口投与が、FXR媒介疾患および状態の予防および治療に好ましい。
【0036】
経口投与に好適な製剤は、各々が所定量の活性化合物を含有する、錠剤、カプセル剤、カシェ剤、トローチ剤などの分離した単位として;散剤または顆粒剤として;水性または非水性液体中の液剤または懸濁剤として;または水中油型または油中水型エマルジョンとして提供され得る。
【0037】
舌下または口腔投与に好適な製剤としては、活性化合物と、典型的に砂糖およびアカシアまたはトラガカントなどの矯味矯臭された基剤とを含むトローチ剤、ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロース、アカシアなどの不活性基剤中に活性化合物を含む香錠が挙げられる。
【0038】
非経口投与に好適な製剤は、典型的に、所定濃度の活性化合物を含有する滅菌水溶液を含み、この溶液は、好ましくは、意図されるレシピエントの血液と等張である。非経口投与に好適なさらなる製剤としては、生理学的に好適な共溶媒および/または錯化剤、例えば、表面活性剤およびシクロデキストリンを含有する製剤が挙げられる。水中油型エマルジョンも、非経口製剤に適した製剤である。このような液剤は、好ましくは、静脈内に投与され、それらはまた、皮下または筋内注射によって投与されてもよい。
【0039】
直腸投与に好適な製剤は、好ましくは、坐剤基剤を形成する1種または複数種の固体担体、例えば、ココアバター中に有効成分を含む単位用量坐剤として提供される。
【0040】
局所または鼻腔内適用に好適な製剤としては、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、パスタ剤、ゲル剤、スプレー剤、エアロゾル剤および油剤が挙げられる。このような製剤に好適な担体としては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
本発明の製剤は、任意の好適な方法によって、典型的に、活性化合物と液体または微粉化した固体担体またはそれら両方とを、必要とされる割合で、一様かつ均一に混合し、次いで、必要に応じて、得られた混合物を所望の形状に成形することによって、調製され得る。
【0042】
例えば、錠剤は、有効成分および1種または複数種の任意の成分、例えば、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、または界面活性分散剤の粉末もしくは顆粒を含む均一な混合物を圧縮することによって、または、粉末化された有効成分および不活性液体希釈剤の均一な混合物を成型することによって、調製され得る。
【0043】
吸入による投与に好適な製剤としては、種々のタイプの定量加圧型のエアロゾル剤、ネブライザー、または注入器によって発生され得る微粒子ダストまたはミストが挙げられる。
【0044】
口を介しての経肺投与については、気管支樹中への送達を確実にするために、粉末または液滴の粒径は、典型的に、0.5〜10μm、好ましくは1〜5μmの範囲内である。経鼻投与については、鼻腔内における保持を確実にするために、10〜500μmの範囲内の粒径が好ましい。
【0045】
定量吸入器は、典型的に液化噴射剤中の有効成分の懸濁液または溶液製剤を含有する、加圧型エアロゾルディスペンサーである。使用の間、これらの装置は、定量(典型的に10〜150μl)を送達するように適応されたバルブを通して製剤を吐出し、有効成分を含む微粒子スプレーを発生させる。好適な噴射剤としては、特定のクロロフルオロカーボン化合物、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、およびそれらの混合物が挙げられる。製剤は、さらに、1種または複数種の共溶媒、例えば、エタノール、表面活性剤、例えば、オレイン酸またはトリオレイン酸ソルビタン、抗酸化剤、および好適な矯味矯臭剤を含有し得る。
【0046】
ネブライザーは、狭いベンチュリオリフィスを通しての圧縮ガス(典型的に空気または酸素)の加速によって、または超音波撹拌によって、有効成分の液剤または懸濁剤を治療エアロゾルミストに変換する市販の装置である。ネブライザーにおける使用に好適な製剤は、液体担体中の有効成分からなり、かつ製剤の40%w/wまで、好ましくは20%w/w未満を構成する。この担体は、典型的に、好ましくは例えば塩化ナトリウムを加えることによって体液と等張にされた、水または希薄な水性アルコール性溶液である。任意の添加剤としては、製剤が無菌状態に調製されない場合には防腐剤、例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル、抗酸化剤、矯味矯臭剤、揮発性油、緩衝剤、および表面活性剤が挙げられる。
【0047】
吹入による投与に好適な製剤としては、注入器によって送達され得るかまたは嗅剤の様式で鼻腔内に取り入れられ得る微細に粉砕された粉末が挙げられる。注入器中で、粉末は、典型的にゼラチンまたはプラスチックで作製され、インサイチューで貫通しているまたは開いている、カプセルまたはカートリッジに含まれており、粉末は、吸入時に装置から流れる空気によって、または手動操作式のポンプによって、送達される。注入器において使用される粉末は、有効成分のみからなるか、または有効成分と好適な粉末希釈剤(例えば、ラクトース)と任意の表面活性剤とを含む粉末ブレンドからなる。有効成分は、典型的に、製剤の0.1〜100 w/wを構成する。
【0048】
上記で具体的に記載した成分に加えて、本発明の製剤は、対象の製剤のタイプを考慮して、製薬の分野の当業者に公知の他の薬剤を含み得る。例えば、経口投与に好適な製剤は矯味矯臭剤を含んでもよく、鼻腔内投与に好適な製剤は香料を含んでもよい。
【0049】
したがって、本発明のさらなる態様によれば、FXR媒介疾患または状態の予防または治療用の医用薬剤の製造における式(I)の化合物の使用が提供される。
【0050】
本発明を本明細書以下で下記の実施例においてより詳細に例示する。
【0051】
実施例1
化学
融点をBuchi 535電熱装置で測定し、補正しない。NMRスペクトルをBruker AC 200 MHz分光器(spectromer)で得て、化学シフトを100万分の1(ppm)で報告した。使用する略字は、以下の通りである:s、一重線;bs、ブロードな一重線;d、二重線;dd、二重の二重線;m、多重線;q、四重線;t、三重線。フラッシュカラムクロマトグラフィーを、Merckシリカゲル60(0.040〜0.063 mm)を使用して行った。TLCを、シリカゲル60 F-254(Merck)が予めコーティングされたTLCプレートにおいて行った。スポットを、ホスホモリブデート試薬(EtOH中5%溶液)で可視化した。反応を窒素雰囲気下で行った。
【0052】
3α-テトラヒドロピラニルオキシ-7-ケト-5β-コラン-24-酸(2)
ジオキサン(12 ml)中の3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(1.74 ml, 19 mmol)を、ジオキサン(55 ml)中のp-トルエンスルホン酸(115 mg, 0.6 ml)および6α-エチル-7-ケトリトコール酸(5.0 g, 12 mmol)の溶液へ徐々に滴下した。反応混合物を室温で2時間撹拌した。次いで、水(40 ml)を添加し、混合物を真空下で部分的に濃縮し、EtOAc(4×25 ml)で抽出した。合わせた有機フラクションをブライン(1×50 ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、真空下で蒸発させ、6 gの化合物2が得られた。粗誘導体を、さらなる精製なしに、次の工程について使用した。

【0053】
3α-テトラヒドロピラニルオキシ-7-ケト-24-ノル-5β-コラン-23-I(3)
300 wタングステンランプでの照射下で、CCl4(75 ml)中のヨウ素(5 g, 20 mmol)を、CCl4(200 ml)中の2(5.5 g, 11 mmol)および四酢酸鉛(4.9 g, 11 mmol)の溶液へ滴下した。反応混合物を、色が恒常的となるまで(18時間)、撹拌した。混合物を冷却し、セライトで濾過した。有機相を5%Na2S2O3溶液、5%NaOH、ブライン(15 ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、そして減圧下で蒸発させた。残渣を、移動相として石油エーテル(light petroleum)/EtOAc 95/5の混合物を使用してシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、4.6 gの化合物3(収率40%)が得られた。

【0054】
3α-ヒドロキシ-6α-エチル-7-ケト-24-ノル-5β-コラン-23-I(4)
化合物3(2.2 g, 3.8 mmol)を、室温で一晩、THF(50 ml)中のHCl 37%の溶液中で撹拌した。反応混合物を、NaHCO3の飽和水溶液(20 ml)、H2O(20 ml)、ブライン(20 ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、真空下で蒸発させ、1.4 gの化合物4(収率80%)が得られた。粗誘導体を、さらなる精製なしに、次の工程について使用した。

【0055】
3α-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-6α-エチル-7-ケト-24-ノル-5β-コラン-23-I(5)
CH2Cl2(30 ml)中の4(1.4 g, 2.8 mmol)の溶液へ、tert-ブチルジメチルシリルクロリド(496 mg, 3.22 mmol)およびイミダゾール(230 mg, 3.36 mmol)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を、NaHCO3(30 ml)の飽和溶液、ブライン(30 ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥した。有機相を真空下で蒸発させ、1.5 gの化合物5(収率87%)が得られた。粗誘導体を、さらなる精製なしに、次の工程について使用した。

【0056】
3α-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-6α-エチル-7-ケト-24-ノル-5β-コラン-23-オール(6)
アセトン(12 ml)中の5(1.2 g, 1.96 mmol)の溶液へ、Ag2CO3(1.1 g, 3.9 mmol)を添加した。反応混合物を一晩還流し、次いで室温へ冷却し、セライトで濾過し、アセトンで洗浄し、合わせた有機相を濃縮して、1 gの化合物6が得られた。粗誘導体を、さらなる精製なしに、次の工程について使用した。

【0057】
3α-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-7α-ヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-オール(7)
THF(50 ml)およびH2O(12.5ml)の混合物中の6(1 g, 1.96 mmol)の溶液へ、NaBH4(740 mg, 19.6 mmol)を添加し、混合物を室温で1時間30分撹拌した。反応溶液を真空下で部分的に濃縮し、CHCl3(3×20 ml)で抽出した。合わせた有機層をブライン(1×50 ml)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、真空下で蒸発させた。粗残渣を、移動相としてCH2Cl2:MeOH 99:1の混合物を使用して、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、0.8 gの7(収率81%)が得られた。

【0058】
3α-tert-ブチルジメチルシリルオキシ-7α-ヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-硫酸トリエチルアンモニウム塩(8)
-3℃で冷却したTHF(7 ml)中の7(0.5 g, 0.99 mmol)の溶液へ、Et3N(0.3 ml, 2.1 mmol)を添加し、得られた混合物を10分間撹拌した。ClSO3H(0.1 ml, 1.5 mmol)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。次いで、水(10 ml)を添加し、混合物をCH2Cl2(3×15 ml)で抽出し、無水物Na2SO4で乾燥し、真空下で蒸発させた。粗スルフェート誘導体を、さらなる精製なしに、次の工程について使用した。
【0059】
3α,7α,23-トリヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-硫酸トリエチルアンモニウム塩(9)
アセトン(8 ml)中の8(0.5 g, 0.77 mmol)の溶液へ、PdCl2(CH3CN)2(10 mg, 0.05 eq)を添加し、混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物を濾過し、真空下で濃縮し、移動相としてMeOH/H2O 8/2混合物を使用する中圧Lichroprep RP-8によって精製し、0.115 gの9、mp 118〜121℃が得られた。

【0060】
3α,7α,23-トリヒドロキシ-6α-エチル-24-ノル-5β-コラン-23-硫酸ナトリウム塩(10)
アセトン(4 ml)およびH2O(0.08 ml)の混合物中の8(0.4 g, 0.72 mmol)の溶液へ、PdCl2(CH3CN)2(10 mg, 0.05 eq)を添加し、得られた混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物をセライトで濾過し、真空下で濃縮した。得られた残渣を10%NaOHのメタノール性溶液で2時間処理した。得られた混合物を真空下で濃縮し、移動相としてCH3OH/H2O(7:3)の混合物を使用する液体中圧精製へ供し、0.09 gの10(収率25%)が得られた。
【0061】
実施例2
生物学的活性
まず、UPF-987が、ケノデオキシコール酸(CDCA)と比較して、FXR調節遺伝子(FXR-regulated gene)を調節するかどうかを検証するために、試験を行った。CDCAは、ファルネソイドX受容体(FXR;NR1H4)の内因性リガンドとして機能する主要な胆汁酸である。Pellicciari R., et al. J Med Chem. 2002 15;45:3569-72に記載される、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)無細胞アッセイを使用するインビトロアッセイにおいて、FXR活性に対するUPF-987の生物学的活性をまず試験した。
【0062】
簡単に記載すると、反応物は、ユウロピウム標識化抗GST抗体およびストレプトアビジン結合化アロフィコシアニン、FXR GST-LBD融合タンパク質およびビオチニル化SRC1センサーペプチドを含有した。反応物を、FRET緩衝液(10 mM Hepes, pH 7.9, 150 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 1 mM EDTA, 0.1 mg/ml BSA)中、室温で1時間インキュベートした。FRETをVictor 1420マルチラベルカウンターにおいて測定した。
【0063】
FRET無細胞アッセイにおいて、FXRについての共活性化因子であるScr-1の漸増が、天然FXRリガンドCDCAについて必要とされるものよりも約300倍低い化合物濃度で生じる(表1)。
【0064】
(表1)FRETにおけるヒトFXRに対するUPF-987の活性

1 CDCA=100%である場合の、FXRに対するSRC1ペプチドの相対的漸増
全てのデータは平均値±SE、n=4である。
【0065】
また、ヒト肝細胞系(HepG2)を使用する細胞アッセイにおいて、UPF-987がFXR調節遺伝子を調節するかどうかを評価した。HepG2細胞系を使用する細胞トランスフェクションアッセイにおいて、UPF-987は、強力なFXRリガンドであるとわかった。UPF-987へのHepG2細胞の暴露は、FXRをトランス活性化した。ルシフェラーゼ遺伝子の上流へクローニングしたFXR遺伝子または他の核内受容体を有するウイルス構築物をトランスフェクトした肝細胞を使用する他の実験において、UPF-987はマウス、ラット、およびヒト肝細胞において選択的FXRリガンドとして機能することがわかった。これらの方法の詳細な説明は、以下の参考文献において見出すことができる:Fiorucci S., et al. Gastroenterology 2004。
【0066】
簡単に記載すると、ルシフェラーゼアッセイのために、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%L-グルタミンおよび10%ウシ胎仔血清(高グルコース)(CELBIO)が補充されたE-MEM中で、HepG2細胞を培養した。細胞を、5%CO2中、37℃で増殖させた。全てのトランスフェクションを、DNA分解についての阻害剤として25 μMクロロキンの存在下でリン酸カルシウム共沈法を使用して行った。一時的トランスフェクションを、500 ngのレポーターベクターphsp27-TKLUC、200 ngのpCMV-βgal(トランスフェクション効率についての内部対照として)、および50 ngの各々のレポーター発現プラスミドpSG5-FXR、pSG5-RXRを使用して行った。各アッセイにおいてトランスフェクトされたDNAの量を標準化するためにpGEMベクターを添加した(2.5 μg)。前記細胞にpCMV-βgalプラスミドをコトランスフェクトすることによって得られたβ-gal発現によって、トランスフェクション効率を評価した。トランスフェクション後48時間に、HepG2細胞を、18時間、1 μM UPF-987で刺激した。対照培養物にはビヒクル(0.1%DMSO)のみを与えた。細胞を100 μlの希釈したレポーター溶解緩衝液(Promega)中で溶解させ、0.2 μl細胞溶解産物を、Luciferase Assay System(Promega)を使用して、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。発光を、自動照度計を使用して測定した。相対的光単位をβ-ガラクトシダーゼ活性で減算することによって、ルシフェラーゼ活性をトランスフェクション効率について標準化した。
【0067】
HepG2細胞におけるUPF-987によるFXR標的遺伝子発現の調節
UPF-987がFXRモジュレータでありかつ差次的な活性を発揮するかどうかを立証するために、ヒトHepG2細胞を、UPF-987、CDCA(天然FXRリガンド)、および強力なFXRリガンドであるその6-エチル-誘導体6-ECDCAへ暴露した。次いで、FXR応答遺伝子に対するこれらのリガンドの効果を、定量的逆転写PCR(qRT-PCR)によって調べた。
【0068】
簡単に記載すると、NCBIデータベースからの公開された配列データを使用し、PRIMER3-OUTPUTソフトウエアを使用して、全てのPCRプライマーを設計した。トータルRNAを、肝臓から採取した試料から単離した(TRIzol試薬(reagen), Invitrogen srl, Milan, Italy)。1μgの精製RNAを室温にて10分間DNAse Iで処理し、続いて2.5 mmol/L EDTAの存在下において95℃で3分間インキュベートした。RNAを、ランダムプライマーを使用して、20μL反応体積で、Superscript III(Invitrogen, Carsbad, CA)を用いて逆転写した。定量的RT-PCRについて、100 ngテンプレートを、12.5 μLの2X SYBR Green PCR Masterミックス(Fynnzimes-DyN Amo SYBRR Green qPCRミックス)および0.3 μmol/Lの各プライマーを含有する25 μLに溶解した。全ての反応を三重で行い、熱サイクリング条件は以下の通りであった:iCycler iQ機器(Bio-Rad, Hercules, CA)において、95℃で2分、続いて、95℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で30秒間を50サイクル。各サンプルについての複製の平均値を算出し、サイクル閾値(CT;各PCR反応が、全ての反応の線形範囲内に設定された、所定の蛍光閾値に達するサイクル数)として表した。次いで、遺伝子発現量を、標的遺伝子についてのサンプルのCT値と内因性対照(GAPDH)についてのサンプルの平均CT値との差異(ΔCT)として算出した。相対的発現を、各標的遺伝子についての試験対照サンプルのΔCT値間の差異(ΔΔCT)として算出した。相対的mRNA発現を、2-ΔΔCTとして表す(図3)。リアルタイムPCRにおいて使用したプライマーは、以下であった。

【0069】
図3とは対照的に、定量的逆転写PCRを使用する異なるインビトロ実験によって、これらのリガンドへの暴露時に直接的な細胞毒性は観察されなかったが、CDCAおよびその6-ECDCA誘導体へのHepG2細胞の暴露は、FXR調節遺伝子であるSHPの2〜3倍の誘発を生じさせたことが実証された。対照的に、UPF-987はFXRリガンドであるという事実にもかかわらず(上記を参照のこと)、それは、SHP発現を刺激する。試験した全てのFXRリガンド、即ち、CDCA、6-ECDCAおよびUPF-987は、CYP7α1に対して同一の効果を発揮した(全ての薬剤は、CYP7α1 mRNAの発現を60〜70%減少させた)。さらに、UPF-987への暴露は、BSEPおよびSHP mRNA発現を誘発した(約2〜3倍の誘発)。この効果は、他のFXRリガンドよりも、UPF-987で、顕著により明白であった。さらに、他のリガンドと同様に、UPF-987への暴露は、SREPB-1cおよびFAS mRNA発現を強力に阻害した。総合すると、これらのデータは、UPF-987が、強力なFXRリガンドとして機能するFXRモジュレータであり、かつ、予想外なことにFXR調節遺伝子を変化させ、胆汁酸輸送体(例えば、BSEP)の顕著な誘発と脂質関連遺伝子の強力な抑制とを引き起こすことを示唆している。さらに、UPF-987は、コレステロールからの胆汁酸合成に非常に関与する遺伝子である、Cyp7α1の発現を抑制する。これらのFXR標的遺伝子の調節は、UPF-987が、SHP発現を妨げることなく、肝細胞からの胆汁酸分泌を増加させつつ、古典的な経路を介しての胆汁酸生合成を阻害し得る遺伝子選択的FXRリガンドであることを示唆している。この効果は望ましく、何故ならば、それは、これらFXRリガンドの薬理学的活性を狭め、SHP誘発と典型的に関連する代謝活性化を防止し得るためである。
【0070】
UPF-987についてのインビトロ薬理学研究の結果を、下記表2に示す。
【0071】
(表2)UPF-987についてのインビトロ薬理学研究

【0072】
実施例3
インビボでのUPF-987によるFXR標的遺伝子の調節
背景
化合物9はUPF-987とも呼ぶ。FXRは、胆汁酸代謝ならびに脂質/コレステロールおよびグルコース恒常性に関与する遺伝子の転写調節において重要な役割を果たす。これらの相互作用の調節は、非常に複雑であり、転写回路を自己調節するための複数のフィードバックループを含む。アゴニスト性およびアンタゴニスト性リガンドの重複範囲、ならびにFXRによって他の代謝性核内受容体と共有される標的遺伝子(例えば、PPARおよびLXR)の重複範囲は、保護的応答を誘発する二重の安全機構として役立ち得、その結果、1つの経路が損傷される場合でさえ、サルベージ経路が引き継ぐ。代謝性核内受容体の推定上の収束および発散機能の複雑性に不可欠であるのは、FXRモジュレータから種々の様式で補充される、それらの転写コアクチベーターおよびコリプレッサーである。
【0073】
FXRモジュレータは、炎症性、胆汁うっ滞性、線維性肝障害、および代謝性障害(高トリグリセリド血症状態および高コレステロール血症状態を含む)、ならびに、さらには、アテローム性動脈硬化症およびその合併症の治療のために使用される。
【0074】
結論として、FXRは、その調節と関連する有望な適用についてだけでなく、リガンド認識および遺伝子活性化のその特有のメカニズムについても、特に興味深い治療標的として浮上している。
【0075】
材料および方法
動物
6〜8週齢の雌性Balb/cマウスを、Charles River(Charles River Laboratories, Inc., Wilmington, MA)から得た。動物に、標準的なペレット食(chow pellet diet)を与え、自由に水へアクセスさせ、12時間明/暗サイクルに維持した。この研究における全ての手順は、動物のケアについての政府のガイドラインに従うthe Animal Study Committees of the University of Perugia(イタリア)によって承認された。動物を6-ECDCA 5 mg/Kg/日の腹腔内注射によって5日間処置し、一方、対照動物をビヒクル(メチルセルロース)のみで処置した。実験の最後に、マウスを屠殺し、肝臓を切除し、FXR標的遺伝子のリアルタイムPCR分析を行った。
【0076】
定量的リアルタイムPCR
定量的リアルタイムPCRを上記のように行った(1.1 材料および方法を参照のこと)。使用したプライマーは以下であった。

【0077】
結果
UPF-987を5 mg/kgの用量で4日間、インタクトなマウスへインビボ投与することによって、肝臓においてBSEPおよびSHPが強力に誘発された。上記で議論した予備的なインビトロアッセイとなお矛盾する標的遺伝子発現データを推奨するにもかかわらず、観察されたインビボデータは、Cyp7a1の強力なダウンレギュレーション(60〜70%減少)を示唆している。UPF-987はまた、肝臓においてSREBP-1cを90%阻害しかつFAS mRNA発現を減少させた(図5)。
【0078】
実施例4
大腸炎のTNBSマウスモデルにおけるUPF-987抗炎症活性の評価
材料および方法
大腸炎モデル
ハプテンTNBSの結腸内適用は、げっ歯動物において急性および慢性大腸炎を引き起こす。TNBS大腸炎における粘膜炎症は、顕著な好中球浸潤を有し、しかしまた、CCR1+およびCCR5+マクロファージおよび単球の流入ならびに顕著なIL-12およびIFN-依存性Tリンパ球(Th1)活性化を含む。組織病理学的特徴は、ヒトクローン病、貫壁性炎症、肉芽腫、亀裂潰瘍および「スキップ病巣」(正常粘膜の領域によって隔てられた潰瘍形成の領域)と似ている。TNBS大腸炎は、クローン病についての確立した革新的な治療を試験するための有用な前臨床モデルとして役立つ。
【0079】
動物
動物を下痢の様子、体重減少、および生存について毎日モニタリングした。実験の最後に、生存していたマウスを屠殺し、血液サンプルを心穿刺によって回収し、7 cmの結腸断片を切除し、重さを量り、肉眼的損傷を評価した。
【0080】
大腸炎の誘発および研究設計
TNBS(0.5 mg/マウス)の直腸内投与によってBALB/cマウス(8週齢)において大腸炎を誘発した。3時間後から開始し、5日間24時間間隔で継続して、マウスにUPF-987(0.3−1−3mg/kg)またはビヒクル(メチルセルロース1%)を腹腔内投与した。各グループは5または7匹のマウスからなった。試験薬物またはビヒクルの最終投与後18時間で、マウスを屠殺した。大腸炎の重篤度を、肉眼的外観を評価することによって採点した。後者は、組織における顆粒球浸潤の指標である。大腸炎の肉眼的採点は、Fiorucciらによって詳細に記載されており、0(正常)〜4(重篤な損傷)スケールでのブラインドスコアリングを含んだ。体重および便の硬さを、研究の最初と最後に記録した。前述されるように、組織サンプルを各マウスの遠位結腸から回収し、処理した。
【0081】
大腸炎の肉眼による格付け
結腸を、解剖顕微鏡下(×5)で検査し、炎症を反映する基準(例えば、充血、腸の肥厚化、および潰瘍形成の範囲)に基づいて0〜10のスケールで肉眼的病巣について格付けした。
【0082】
定量的リアルタイムPCR
マウス結腸遺伝子発現を、前述したように定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって評価した。トータルRNAを、遠位結腸から採取した試料から単離した。NCBIデータベースからの公開された配列データを使用し、PRIMER3-OUTPUTソフトウエアを使用して、下記のプライマーを設計した。

【0083】
実施例5
ラット胆汁うっ滞モデル(ANIT)におけるUPF-987の効能の評価
背景
胆汁うっ滞は、肝臓損傷を引き起こし最終的には胆管線維症および肝硬変へ導く、細胞傷害性胆汁酸の肝内蓄積を生じさせる。胆汁うっ滞性肝臓損傷は、種々の内因性肝臓保護機構によって打ち消される。このような防衛機構は、肝臓胆汁酸取り込みおよびデノボ胆汁酸合成の抑制を含む。さらに、フェーズIおよびII胆汁酸解毒が誘発され、胆汁酸をより親水性とする。小管エクスポートシステムを介しての「オルソグレード(orthograde)」エクスポートに加えて、これらの化合物はまた、体循環中への基底外側の「代替」エクスポートシステムとその後の腎排出を介して排泄される。親水性胆汁酸の受動的糸球体濾過、能動的腎尿細管分泌、および尿細管胆汁酸再吸収の抑制は、胆汁うっ滞の間、腎臓胆汁酸排出を促進する。基礎をなす分子機構は、主に転写レベルで、核内受容体および他の転写因子を含む複雑なネットワークによって媒介される。今までのところ、ファルネソイドX受容体FXR、プレグナンX受容体PXR、およびビタミンD受容体VDRが、胆汁酸についての核内受容体と同定されている。しかし、胆汁酸に対する内因性適応応答は、胆汁うっ滞において、肝臓損傷を完全には予防し得ない。従って、さらなる治療的戦略、例えば、核内受容体の標的化活性化が、毒性胆汁酸に対する肝臓防衛を増強するために必要とされる。
【0084】
材料および方法
動物
Wistarラット研究は、the Animal Study Committee of the University of Perugiaによって承認された。雄性Wistarラット(200〜250 g)を、Charles River Breeding Laboratories(Portage, MI)から得、12時間の明/暗サイクルにおいて標準的な実験ラット食に維持した。
【0085】
胆汁うっ滞モデル:方法:α-ナフチル-イソチオシアネート(ANIT)
第1ラットグループ(N=6)を、毎日、胃管栄養を介してANIT 100 mg/kg(胆汁うっ滞インデューサ)によって処置し、第2および第3グループ(N=6)を、毎日、胃管栄養を介してANIT 100 mg/kgならびに腹腔内へのUPF-987 5および3 mg/kgによって処置した。対照ラット(N=4)にビヒクル(生理学的溶液I. P.)を投与した。研究の最後に、ラットをペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg i.p.)での麻酔下において屠殺し、心穿刺によって末期的に採血し、実験のために肝臓を切除しかつ重さを量り、血液サンプルを採取した。
【0086】
定量的リアルタイムPCR
ラット遺伝子発現を、本明細書において前述したように、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって評価した。NCBIデータベースからの公開された配列データを使用し、PRIMER3-OUTPUTソフトウエアを使用して、下記のPCRプライマーを設計した。

【0087】
結果
UPF-987を、α-ナフチルイソチオシアネート(ANIT)によってラットにおいて誘発された胆汁うっ滞に対して保護するその能力について、インビボで試験した。ANIT投与は重篤な胆汁うっ滞へ至り、Fiorucciらによる以前の研究(未発行)は、6-ECDCAは、このモデルにおいて肝臓損傷を減少させることにおいて有効ではないことを示した。UPF-987の投与は、AST、γGTおよびアルカリホスファターゼ(胆汁うっ滞の3つのマーカー)の血漿レベルならびに血漿コレステロールを評価することによって測定されるように、ANIT処置したラットにおいて肝臓損傷を軽減する。さらに、UPF-987は、NTCP、CYP7A1およびBSEP発現を調節する。
【0088】
実施例6
ラット胆汁うっ滞モデル(ANIT)におけるINT-1103の効能の評価
背景
INT-1103は、米国特許第7,138,390に開示されかつ参照により本明細書に組み入れられる、6-エチル-ケノデオキシコール酸(6E-CDCAまたはINT-747)のスルフィド誘導体である。
【0089】
材料および方法
胆汁うっ滞モデル:α-ナフチル-イソチオシアネート(ANIT)Wistarラット
研究は、the Animal Study Committee of the University of Perugiaによって承認された。雄性Wistarラット(200〜250 g)を、Charles River Breeding Laboratories(Portage, MI)から得、12時間の明/暗サイクルにおいて標準的な実験ラット食で維持した。第1ラットグループ(N=8)を、毎日、胃管栄養を介してANIT 100mg/kg(胆汁うっ滞インデューサ)によって処置し、第2および第3グループ(N=8)を、毎日、胃管栄養を介してANIT 100mg/kgならびに腹腔内へのINT-1103 5 mg/kgによって処置した。対照ラット(N=8)にビヒクル(生理学的溶液I. P.)を投与した。研究の最後に、ラットをペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg i.p.)での麻酔下で屠殺し、心穿刺によって末期的に採血し、実験のために肝臓の重さを量りかつ切除し、血液サンプルを採取した。
【0090】
定量的リアルタイムPCR
ラットFXR標的遺伝子の発現を、本明細書において前述したように、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって評価した。NCBIデータベースからの公開された配列データを使用し、PRIMER3-OUTPUTソフトウエアを使用して、下記のPCRプライマーを設計した。

【0091】
実施例7
ラット胆汁うっ滞モデル(BTL)におけるINT-1103の効能の評価
材料および方法
(BTL)肝臓胆汁うっ滞モデルを、225〜250 gの高齢雄性Wistarラットの胆管結紮(BDL)によって誘発した。偽手術したラット(N=8)に、胆管を操作したが結紮および切断をしなかったこと以外、同一の腹腔鏡処置を行った。全部で、24匹の動物を手術した。手術後3日目に、生存しているラットを無作為に選び、腹腔内に、プラシーボ(生理学的溶液)(N=6)またはINT-1103 5 mg/kg(N=8)を与えた。次いで、動物を7日間処置した。研究の最後に、ラットをペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg i.p.)での麻酔下で屠殺し、心穿刺によって末期的に採血し、実験のために肝臓の重さを量りかつこれを切除し、血液サンプルを採取した。
【0092】
実施例8
未処置ラットに対する胆汁流量についてのINT-1103およびINT-747の効能の評価
材料および方法
200〜250 gの重さの成体雄性Wistarラットを、研究を通して使用した。実験の前に、動物を不断に標準的な食事および水に維持し、12時間明/暗サイクル下で温度(21〜23℃)および湿度(45〜50%)制御された部屋に収容した。全ての研究が、the Animal Study Committee of the University of Perugiaによって承認された。胆汁流量測定のために、動物を、単回用量のペントバルビタールナトリウム(腹腔内に50 mg/kg体重)で麻酔し、実験を通してこの条件下に維持した。PE-50ポリエチレンチュービング(Intramedic; Clay Adams, Parsippany, NJ)を使用しての頚静脈のカテーテル法後、中央腹部切開を行い、総胆管にもカニューレを挿入した(PE-10, Intramedic; Clay Adams)。体温を加温ランプで37.0〜38.5℃に維持し、胆汁流量の低体温変化を防止した。胆汁サンプルを195分間15分ごとに外胆汁瘻によって回収し、次いで胆汁流量を測定するために重さを量った。1.0 g/mlの胆汁の密度を仮定して、胆汁流量を重量測定によって測定した。日変動の影響を最小限にするために、胆汁回収を9:00〜11:00 AMに開始した。薬物投与を3μmoli/kg/分の用量で頚静脈カニューレによって行い、対照群はビヒクル(生理学的溶液においてBSA 2%)のみを与えた。
【0093】
実施例9
エストロゲン胆汁うっ滞ラットに対する胆汁流量についてのINT-1103およびINT-747の効能の評価
材料および方法
300〜350 gの重さの成体雄性Wistarラットを、研究を通して使用した。実験の前に、動物を不断に標準的な食事および水に維持し、12時間明/暗サイクル下で温度(21〜23℃)および湿度(45〜50%)制御された部屋に収容した。全ての研究が、the Animal Study Committee of the University of Perugiaによって承認された。動物を無作為に4つの実験グループに分けた:
1.未処置(N=5)。
2.17-エチニルエストラジオール5 mg/kg、5日間、腹腔内(N=8)。
3.17-エチニルエストラジオール5 mg/kg+INT-747 5 mg/kg、腹腔内、5日間(N=7);
4.17-エチニルエストラジオール5 mg/kg+INT-1103 5 mg/kg、腹腔内、5日間(N=7)。
【0094】
胆汁回収のために、外科手術を第6日目に行った(E217の最終用量の投与の1日後)。胆汁流量測定のために、動物を、単回用量のペントバルビタールナトリウム(腹腔内に50 mg/kg体重)で麻酔し、実験を通してこの条件下に維持した。中央腹部切開を行い、総胆管にもカニューレを挿入した(PE-10, Intramedic; Clay Adams)。体温を加温ランプで37.0〜38.5℃に維持し、胆汁流量の低体温変化を防止した。日変動の影響を最小限にするために、胆汁回収を9:00〜11:00 AMに開始した。胆汁を120分間15分間隔で回収し、胆汁流量を重量測定法で測定した。実験の最後に、ラットの体および肝臓の重さを量った。
【0095】
実施例10
INT-747対INT-1103によるインスリン遺伝子調節のインビトロ研究
材料および方法
RT-PCRアッセイのために、膵β-TC6細胞を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%L-グルタミンおよび10%ウシ胎仔血清(高グルコース)(CELBIO)が補充されたD-MEMにおいて培養した。細胞を5%CO2において37℃で増殖させ、18時間、最終濃度1μMで、INT-1103およびINT-747で処理した。実験の最後に、細胞をRNA抽出のために回収した。
【0096】
リアルタイムPCR
マウス遺伝子の発現の定量化を、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって行った。NCBIデータベースからの公開された配列データを使用し、PRIMER3-OUTPUTソフトウエアを使用して、全てのPCRプライマーを設計した。トータルRNAを、肝臓から採取した試料から単離した(TRIzol試薬, Invitrogen srl, Milan, Italy)。1μgの精製RNAを、室温で10分間、DNAse Iで処理し、続いて、2.5 mmol/L EDTAの存在下において95℃で3分間インキュベートした。RNAを、ランダムプライマーを使用して20μL反応体積でSuperscript III(Invitrogen, Carsbad, CA)を用いて逆転写した。定量的RT-PCRについて、100 ngテンプレートを、12.5 μLの2X SYBR Green PCR Masterミックス(Fynnzimes-DyN Amo SYBRR Green qPCRミックス)および0.3 μmol/Lの各プライマーを含有する25 μLに溶解した。全ての反応を三重で行い、熱サイクリング条件は以下の通りであった:iCycler iQ機器(Bio-Rad, Hercules, CA)において、95℃で2分、続いて、95℃で20秒間、55℃で20秒間、および72℃で30秒間を50サイクル。各サンプルについての複製の平均値を算出し、サイクル閾値(CT;各PCR反応が、全ての反応の線形範囲内に設定された、所定の蛍光閾値に達するサイクル数)として表した。次いで、遺伝子発現量を、標的遺伝子についてのサンプルのCT値と内因性対照(GAPDH)についてのサンプルの平均CT値との差異(ΔCT)として算出した。相対的発現を、各標的遺伝子についての試験対照サンプルのΔCT値間の差異(ΔΔCT)として算出した。相対的mRNA発現を、2-ΔΔCTとして表す。リアルタイムPCRにおいて使用したプライマーは、以下であった。

【0097】
実施例11
INT-747およびINT-1103の物理化学的特性
背景
2つの胆汁酸アナログ、INT-747およびINT-1103を、以前に開発され、本発明者の研究室において最適化され、かつR. Pellicciari研究室において開発された大きなシリーズの胆汁酸アナログ(UDCAアナログ)の完全なスクリーニングのために以前に適用されたプロトコルに従う完全な物理化学的特性キャラクタライゼーションに入れた。物理化学的特性を選択し、水溶液中および生物学的流体中における挙動を正確に規定し、生体膜に対するそれらの可能性のある毒性、種々の生物学的流体および器官におけるそれらの薬物動態学および薬力学および生体内分布を確立した。天然アナログとの比較データもまた行われかつ議論される。
【0098】
水溶性
側鎖カルボキシル化BA INT-747、CDCAおよびUDCAのみを研究した。固体BAを5 mlの0.1 M HClに懸濁した。この飽和溶液を、1週間インキュベーション後、Milliporeフィルター(0.22 μm)で濾過し、C18カラム(150 mm×2 mm i.d., 4μm)と15 mM酢酸を含有する水(pH 5)およびアセトニトリルの移動相とを使用してHPLC-ESI-MS/MSによって、BAの濃度を測定した。流量を150 μl/分とした。質量スペクトル獲得を、負イオン化においてESI供給源を使用して複数の反応モニタリング様式で行った。水溶性をμmol/リットルで表した。
【0099】
(表3)研究した胆汁酸の水溶性

水溶性は、プロトン化種としてのBAを指し、従って、INT-1103について評価されない
【0100】
水溶性を、pH 1で、カルボキシル化胆汁酸の不溶性プロトン化種について測定した。スルフェート化合物、UPF 1103は、低pHでさえイオン化され、生理学的条件において、全ての生物学的流体に常に可溶である。INT-747の水溶性は、9 μMであり、CDCAよりも低く、UDCAの水溶性と同程度である。INT-747のCMCは比較的低いので(次のパラグラフを参照のこと)、INT-747の低水溶性は、ミセル相における該化合物の挙動に影響を及ぼさず;UDCAの場合、高CMCと関連する低水溶性は、プロトン化された酸が溶液中に入りミセルを形成するpHに影響を及ぼす。実際に、UDCAについて、CMpHは、8.4であり、これは、食後のアルカリ化が十二指腸内容物中に存在しない場合、高すぎる。
【0101】
臨界ミセル濃度(CMC)
この値を、最大泡圧法を使用する表面張力測定によって測定した。張力計は、窒素供給源へ接続された0.5および4.0 mm直径の2つのガラスプローブを備えたSensadyne 6000(Chem-Dyne Research Corp., Milwaukee, WI)であった。気泡頻度は、26℃で蒸留水中1気泡/秒(P=2.7 atm)であり、二重に蒸留した水およびメタノールを用いて較正を行った。水中およびNaCl 0.15 Mの両方におけるBAナトリウム塩溶液の表面張力を、種々の濃度範囲、それぞれ0.2〜75 mMおよび0.3〜100 mMで測定した。表面張力値を、胆汁塩濃度の対数に対してプロットし;曲線の2つの部分(モノマー相およびミセル相)に対応する回帰線を、最小二乗法を使用して計算し、この線の交点をCMC値とした。
【0102】
(表4)研究した胆汁酸の臨界ミセル濃度

STCMC:水中のCMCでの表面張力、ST50:50 mM水溶液の表面張力、:文献値
【0103】
INT-747およびINT-1103のCMCは、非平衡条件、即ち、不純物が結果に影響を与えない条件で表面張力測定によって評価した場合、CDCA天然アナログと同様に、比較的低い。INT-1103は、水中および対イオンNa+ 150 mMの存在下の両方で、より低いCMCを示す。INT-747の低CMC値は、エチルおよびヒドロキシル基のトポグラフィック分布に関連し:6位のエチル基は、β面(ステロイドの背部)に置かれ、この部分の表面積および親油性度ならびに従ってミセルを形成する傾向を増加させることに寄与している。INT-1103は、6位のエチル基および側鎖における23スルフェートの結果として、より低いCMCを示す。硫酸基の特有の特性は、負に帯電した頭部および表面親油性部分を有する親油性尾部の結果として、アニオン性界面活性様特性(ドデシル硫酸ナトリウム様)をINT-1103に与えた。CMCおよびミセル相(50 mM)の両方における表面張力活性の値は、現在のCMCデータと一致し、両方の化合物は、界面活性であり、UDCAおよびTUDCAに関して大いに表面張力を低下させ得る。このデータは、さらに、この化合物がCDCAアナログと同様に(そしてそれ以上でさえある)界面活性剤であるという概念を支持している。INT-747は、比較的高濃度>60 mMでかつNa+ 0.15 Mの存在下でゲル相を形成し、そしてこれは、その条件で見られた比較的不正確なSTデータの説明となる(図1)。これらの結果は、驚くべきことではなく、何故ならば、他の界面活性剤 天然BA、例えば、デオキシコール酸が、特にNa+およびCa++などの対イオンの効果のために、同様にこのゲル(通常、粘弾性)を形成する挙動をとるからである。この相は、比較的低い反応速度論でミセル相へと発達する。さらに、この現象は、非常に高く生理学的でない濃度で生じる。
【0104】
オクタノール/水分配係数
1-オクタノール/水分配係数(log P)を、従来の振盪−フラスコ手順を使用して評価した。実験を、0.1 Mリン酸緩衝液でpH 8に緩衝化された0.1 mM胆汁塩溶液において行い、BAの完全なイオン化を確実にした;log P値は、イオン化形態のBAを参照し、プロトン化種を参照せず、かつ各BAの初期濃度はそれ自体のCMC値未満であった。水性緩衝液を1-オクタノールで前もって予め飽和し、次いで、水で予め飽和した5 mlの1-オクタノールを添加し、かつサンプルを、室温での連続撹拌下で2週間、平衡化させた。遠心分離後、2つの相を注意深く分離した。水相中のBA濃度を、C18カラム(150mm×2mm i.d., 4μm)および移動相:A:15 mM酢酸を含有する水(pH 5)、B:アセトニトリルを使用してHPLC-ESI-MS/MSで測定した。流量を150 μl/分とし、カラムを45℃に維持した。質量スペクトル獲得を、負イオン化においてESI供給源を使用して複数の反応モニタリング様式で行った。
【0105】
(表5)イオン化種としての研究した胆汁酸の1-オクタノール−水分配係数

:文献値
【0106】
1-オクタノール/水分配係数をイオン化種について計算して、カルボキシルおよびスルフェート胆汁酸との間の比較を容易にし、これは、後者が非常に低いpHであってもプロトン化されないためである。INT-747は、他のジヒドロキシ胆汁酸(例えば、UDCAおよびCDCA)に関して僅かに高い親油性を示す。増加した親油性は、6位のエチル基の導入の結果である。従って、脂質ドメインに分布する傾向はより高い。UPF 1103は、INT-747ならびに天然CDCAおよびUDCAアナログよりも僅かに低い値である、2.0のlog Pを示し、これは、硫酸基および側鎖長の寄与の説明となる。さらに、INT-1103の親油性は、依然として、複合体化されていないBAと同様であり、0.9のlog Pを示すTCDCAなどのタウリン複合体化よりも高い。優先的に水ドメインに留まるタウリン複合体に反して、INT-1103は、INT-747のように脂質ドメイン中に蓄積する傾向を有する。
【0107】
アルブミン結合
アルブミン結合を、一定のBA-アルブミン比率での平衡透析によって評価した。BAを5%ウシ血清アルブミン−食塩水溶液中に100 μMの濃度で溶解し、25℃で24時間放置した。この溶液2mlを、25 mlの食塩水溶液に対して12〜14,000の分子量カットオフを有するセルロース嚢(sac)において透析した。系を、25℃で72時間機械的に振盪することによって平衡化した。透析した溶液および出発溶液のBA濃度を、前述の分析と同一条件においてHPLC-ESI-MS/MSで測定した。
【0108】
(表6)研究した胆汁酸のアルブミン結合 :文献値

【0109】
INT-747およびUPF 1103は両方とも、天然ジヒドロキシ胆汁酸、例えば、CDCAおよびUDCAと非常に似ているアルブミンとの強い相互作用を示し、このことは、肝臓取り込みにおける同様の動力学を示唆している。トリヒドロキシ胆汁酸、例えば、コール酸、またはタウリン複合体化胆汁酸は、アルブミンとのより弱い相互作用を示し、そしてこれは、より高い初回通過クリアランスの結果としての同様の腸取り込みでのより低い血清濃度の説明となる。未結合フラクション(例えば多くの薬物について)は、肝臓取り込みを調節する:このフラクションが増加するにつれて、取り込みは高くなる。INT-747およびINT-1103は、低い未結合フラクションを示し、従って、それらの血清濃度は、比較的低い初回通過クリアランスの結果としてより高く、それらの挙動は、天然アナログと似ている。
【0110】
臨界ミセルpH
この値は、所定のBAがミセル溶液から析出し始めるpHを評価することによって、実験的に測定され得る。それは、プロトン化種のCMC水溶性およびpKaから、以下の式を使用して、算出され得る:
CMpH=pKa+log CMC/WS。天然アナログと比較して研究した化合物のCMpHを、表Iに報告する。
【0111】
(表7)研究した胆汁酸の臨界ミセルpH

【0112】
INT747のCMpH値は、CDCAのそれと似ており、そしてUDCAよりも低い。この値によれば、INT747は、腸溶解性の問題を示さず、溶液中に入るために生理学的である7.6のpHを必要とする。例えば、8.4のCMpHを有するUDCAは、十二指腸内容物のより高いアルカリ化を必要とし、そして食後段階においてのみ、ミセル相で可溶化される。硫酸基を有するUP 1103はこれらの問題を示さず、何故ならば、2〜9の生理学的pHに常に可溶であるためであり、何故ならば、pKaが非常に低く、かつ本化合物はプロトン化して不溶性分子を形成しないためである。その挙動は、タウリン複合体化胆汁酸に似ている。
【0113】
実施例12
3umol/Kg/分の用量でのiv注入の1時間後のラットにおけるINT-747およびINT-1103の肝臓代謝および分泌
背景
BAを、胆汁瘻ラットへの注入によって投与し、胆汁を7時間にわたって15分間隔で回収した。胆汁流量を測定し、HPLC-ES-MS-MSを使用して胆汁を分析し、胆汁分泌の速度を同定し、主な肝臓代謝産物を評価した。
【0114】
HPLC-ES-MS/MS法
胆汁酸およびそれらの代謝産物を、負イオン化モードでエレクトロスプレー(ESI)供給源を使用する液体クロマトグラフィータンデム質量分析(HPLC-MS/MS)法によって測定した。ラット胆汁サンプルを、室温へもっていき、15 mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH=5)で1:100 v/v〜1:1000 v/vに希釈した。次いで、10 μLをクロマトグラフィーカラムへ注入した。液体クロマトグラフィーを、オートサンプラーと連結されたWaters Alliance 2695分離モジュールを使用して行った。胆汁酸を、SecurityGuard ODS 4×2.0 mm i.d. プレカラムで保護された、Synergi Hydro-RP C18カラム(150×2.0 mm i.d., 4 μm粒径)(両方ともPhenomenex製)を使用して分析した。移動相Aとして15 mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH=5.00)および移動相Bとしてアセトニトリルを使用する溶離勾配において、胆汁酸を分離した。移動相Bは、12分で30%から64%へ、次いで8分で70%へ増加させ、最終的には10分で100%へもっていき、1分間一定に維持した。流量を150 μL/分とし、カラムを45℃に維持した。カラム流出物を、Multiple Reaction Monitoring(MRM)獲得モードで作動するQuattro-LC (Micromass) triple quadruple質量分析計を使用して、ESI-MS/MSによって分析した。MassLynxソフトウエアバージョン4.0をデータ獲得および処理のために使用した。
【0115】
結果
INT-747は、主にタウリン複合体として胆汁中へ分泌され、その回収はほぼ完全であり:投与用量で、注入された分子の99%超が、図3に示すように、胆汁中へ分泌される。胆汁回収の最後の時点で、比較的多量のタウリン複合体化(conj.)化合物が、胆汁に依然として分泌されている。最大分泌速度は、注入の最後のちょうど120分後に達成される。定常状態濃度がさらに30分間維持される。タウリン複合体化プロセスは、非常に早く始まり、投与された用量で有効であるようである。微量の化合物はまた、グリシンと複合体化され、0.2%未満および同様の量が、胆汁中にそのまま分泌される。INT-747の挙動は、天然ジヒドロキシアナログ、例えば、CDCAまたはUDCAのそれと似ており、これらは、タウリンおよびグリシン複合体としてのみ胆汁中へ分泌される。それとは異なり、トリヒドロキシBA、例えば、CAはまた、複合体化されていない形態でも部分的に分泌され得る。修飾されずに分泌され得るBAの程度は、その親油性に関連し、かつ用量および種依存的である。
【0116】
この分子の肝臓取り込みおよび分泌に関する挙動は、天然アナログ、例えば、CDCAと非常に似ており、かつ肝臓分泌の速度は、CoA活性化およびタウリン肝臓利用可能性によって媒介されるタウリン複合体化のそれに関連する。タウリンとの優先的な複合体化は、ラットおよび他の種(イヌ、マウス、..)に特有であり、ヒトにおいてこの化合物は主にグリシンでアミド化される。これらのデータによれば、INT-747は、肝臓によって効率的に取り込まれて、分泌されるようである。INT-747の肝臓代謝によって、主に、タウリン複合体形態が産生される。微量のグリシン複合体が、胆汁に分泌され、そしてまた非常に少量がそのまま分泌される(図37および38)。複合体化されていないものおよびタウリン複合体化されたものの両方のマイナーなエピマーが胆汁中に存在する(図39および40)。
【0117】
INT-1103は、図41に報告するように、部分的に未修飾の状態で胆汁に分泌される。胆汁中に分泌されるINT-1103の量は、投与される用量の約30〜40%であり、その分泌速度は比較的遅く、回収期間の最後に、比較的多量の分子が胆汁中に依然として分泌される。投与される用量でラットにおけるINT-1103の主な肝臓代謝産物は、図42に報告するように、3-グルクロニドである。純粋な参照基準が入手できないので、この化合物の量は定量しなかった。他の代謝産物が、図43に報告されるように胆汁中に分泌され、図43および図44により詳細に報告される。主な同定された代謝産物は、INT-1103の3-スルフェート複合体、ヒドロキシアナログ(1または複数のヒドロキシル)、ケト誘導体およびエピマーである。標準物がまだ入手可能でないので、これらの化合物の正確な量は定量化しなかった。
【0118】
これらのデータは、INT-1103が胆汁中にそのまま分泌され得、そしてその挙動は、胆汁中へ分泌されるためにタウリンおよびグリシンとの複合体化を必要とする天然ジヒドロキシアナログ(例えば、CDCAおよびINT-747)とは異なることを示唆している。これは、この親油性を有する分子についての主な要件である。これに反して、トリヒドロキシBA、例えば、CAまたはUCAは、そのままでも部分的に胆汁中に分泌され得る。INT1103中に存在する硫酸基は、該分子が依然として非常に親油性であったとしても、分泌プロセスを促進し、その挙動は、複合体化されていない胆汁酸とタウリン複合体化との間である。さらに、肝臓は、この化合物を強力に代謝し、より親水性の化合物、例えば、3-グルクロニド、3-スルフェートおよびヒドロキシル化アナログが形成される。保持された化合物への広範囲の代謝は、動物種および投与される用量に関連し、そしてこれらのデータによれば、本発明者は、この化合物は、一般的な胆汁酸とは僅かに異なる「酸ステロイド」とより似ている代謝を示し、しかし同一の特性を共有し得ると推測し得る。本発明者は、ヒトにおける代謝を知らないが、その挙動がステロイドとより似ている場合、それは、ヒトにおいてさえ3-グルクロン酸抱合を受け得る。前記化合物はiv投与され、タウリン複合体のようにその腸吸収、即ち、受動または能動の程度を評価するために、さらなるデータが必要とされる。
【0119】
実施例13
ヒト便培養物におけるインビトロ代謝安定性
腸内細菌に対する安定性;7α-脱ヒドロキシル化
ホモジナイズした新鮮なヒト糞便(500 mg)を、5 mLの滅菌細断化した食肉グルコース培地(Scott Lab., Fiskville, RI)を添加した滅菌バイアル中へ移した。次いで、BAを、0.05 mMの最終濃度で添加した。バイアルを37℃でインキュベートし;次いで、BAの添加後0、4、8、16、20、24、および72時間で、反応を150 Lの30%KOHで停止した。サンプルを3500 rpmで10分間遠心分離し;上澄みから、BAを、C-18固相抽出によって単離し、TLCおよびHPLC-ES-MS/MSによって分析した。シリカゲル0.25 m厚プレート(Merck, Darmstat, Germany)を使用する薄層クロマトグラフィー(TLC)を、第1スクリーニング試験として使用した。複合体化されたBAの分離のために使用した溶媒系は、プロピオン酸/酢酸イソアミル/水/N-プロパノール(3:4:1:2、v/v/v/v;溶媒I)から構成され、複合体化されていないBAのそれは、酢酸/四塩化炭素/イソプロピルエーテル/酢酸イソアミル/水/N-プロパノール/ベンゼン(1:4:6:8:2:2、v/v/v/v/v/v;溶媒II)であった。分離されたBAを、5%リンモリブデン酸エタノール溶液で明らかにした。INT-747およびINT-1103は両方とも、ヒト便培養物においてインキュベーとした場合、非常に安定であり、24時間後であっても、85%を超える前記化合物が、図45に報告するように、未修飾の状態で回収され得る。これに反して、参照天然アナログCDCAは、約1時間の半減期時間を示し、8時間のインキュベーション後、ほぼ完全に代謝され(7-脱ヒドロキシル化され)、リトコール酸が形成される。
【0120】
結果
図46に示す、これらのデータは、6位におけるエチル基の存在が、立体障害による酸化または除去から7ヒドロキシル基を保護することを示唆している。さらに、両方のアナログ、特にINT-1103は、非常に安定である。側鎖エステル結合は、ヒト便培養物中できわめて安定である。マイナーな代謝産物は、HPLC-ES-MS/MSによって見出されなかった。
【0121】
実施例14
シミュレートされた十二指腸/膵液(USP規格)におけるインビトロ代謝安定性
材料および方法
この研究は、INT1103についてのみ行った。何故ならば、それは、側鎖にエステル結合を含み、そして目的が、十二指腸および膵液中に存在するようなエステラーゼ酵素の存在下での安定性を検証することであったためである。シミュレートされた膵液を、10 g/L Pancreatin(Sigma P8096:ブタの膵臓由来のパンクレアチン、活性1×USP規格)を0.05Mリン酸緩衝液(pH=7.2±0.1)に溶解することによって調製した。次いで、4-mLアリコートの前記シミュレートされた膵液に、50 μM INT-1103を添加し、37℃で異なる時間(0、30、60、90、120、180および240分)、インキュベートした。インキュベーション後、2-mLアリコートの各溶液に、2 mLの0.1M NaOHを添加し、上述のように、SPEによる胆汁酸抽出、ならびに薄層クロマトグラフィーおよび質量分析による分析に供した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物、およびその薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはアミノ酸複合体:

式中、
Rは、水素またはα-ヒドロキシであり、
7位のヒドロキシル基は、αまたはβ位にある。
【請求項2】
7位のヒドロキシ基がα位にあり、かつRが水素である、式(I)の化合物。
【請求項3】
7位のヒドロキシ基がβ位にあり、かつRが水素である、式(I)の化合物。
【請求項4】
7位のヒドロキシ基がα位にあり、かつRがα-ヒドロキシである、式(I)の化合物。
【請求項5】
薬学的に許容される塩が、

である、式(I)の化合物。
【請求項6】
薬学的に許容される塩が、

である、式(I)の化合物。
【請求項7】
哺乳動物におけるFXR媒介疾患または状態の予防または治療のための方法であって、FXR媒介疾患または状態に罹患した哺乳動物へ、治療的有効量の請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項8】
FXR媒介疾患または状態が、慢性肝疾患、胃腸疾患、腎疾患、心臓血管疾患、および代謝性疾患からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項9】
慢性肝疾患が、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、脳腱黄色腫症(CTX)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、薬物性胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞、非経口的栄養性胆汁うっ滞(parenteral nutrition associated cholestasis:PNAC)、細菌異常増殖または敗血症関連胆汁うっ滞、自己免疫性肝炎、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝移植関連移植片対宿主病、生体移植肝再生、先天性肝線維症、総胆管結石症、肉芽腫性肝疾患、肝内または肝外悪性疾患、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、ウィルソン病、ゴーシェ病、ヘモクロマトーシス、およびα1-アンチトリプシン欠損症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
胃腸疾患が、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、細菌異常増殖、吸収不良、放射線照射後大腸炎、および顕微鏡的大腸炎からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項11】
腎疾患が、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎、慢性移植糸球体症、慢性間質性腎炎、および多発性嚢胞腎からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項12】
心臓血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、異脂肪血症、高コレステロール血症、および高トリグリセリド血症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項13】
代謝性疾患が、インスリン抵抗性、I型およびII型糖尿病、ならびに肥満症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、薬学的組成物。
【請求項15】
FXR媒介疾患または状態の予防または治療用の薬学的組成物の調製ための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項16】
慢性肝疾患、胃腸疾患、腎疾患、心臓血管疾患、および代謝性疾患、心臓血管疾患、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、高コレステロール血(hypercholestremia)、および高脂血症からなる群より選択されるFXR媒介疾患または状態の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項17】
原発性胆汁性肝硬変(PBC)、脳腱黄色腫症(CTX)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、薬物性胆汁うっ滞、妊娠性肝内胆汁うっ滞、非経口的栄養性胆汁うっ滞(PNAC)、細菌異常増殖または敗血症関連胆汁うっ滞、自己免疫性肝炎、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝移植関連移植片対宿主病、生体移植肝再生、先天性肝線維症、総胆管結石症、肉芽腫性肝疾患、肝内または肝外悪性疾患、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、ウィルソン病、ゴーシェ病、ヘモクロマトーシス、およびα1-アンチトリプシン欠損症からなる群より選択される胆汁うっ滞性肝疾患慢性肝疾患の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項18】
炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、細菌異常増殖、吸収不良、放射線照射後大腸炎、および顕微鏡的大腸炎からなる群より選択される胃腸疾患の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項19】
糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎、慢性移植糸球体症、慢性間質性腎炎、および多発性嚢胞腎からなる群より選択される腎疾患の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項20】
アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、異脂肪血症、高コレステロール血症、および高トリグリセリド血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、高コレステロール血(hypercholestremia)、および高脂血症からなる群より選択される心臓血管疾患の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項21】
インスリン抵抗性、I型およびII型糖尿病、ならびに肥満症からなる群より選択される代謝性疾患の予防または治療用の薬学的組成物の調製のための、請求項1〜4のいずれか一項記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項22】
薬学的に許容される担体および/または希釈剤と混合された請求項1〜4記載の式(I)の化合物を含有する、薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【公表番号】特表2010−500285(P2010−500285A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518230(P2009−518230)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/014829
【国際公開番号】WO2008/002573
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(506306868)インターセプト ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】