説明

GER抑制乳清ペプチド栄養剤

【課題】長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GER(胃食道逆流)を抑制する乳清ペプチド栄養剤を提供するものである.
【解決手段】蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類として0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GER(胃食道逆流)を抑制する乳清ペプチド栄養剤である.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,乳清ペプチド栄養剤に関し,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)を抑制する無脂肪消化態栄養剤に関するものである.
【背景技術】
【0002】
高齢者では,脳血管障害の後遺症や,パーキンソン病などの神経疾患の進行に伴う嚥下障害のため,経皮的内視鏡胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が施行され,胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行うケースが増加している.これにともない,GERによる誤嚥性肺炎や液状の栄養剤による下痢といった合併症もしばしば見られるようになった.これらの合併症は,患者の苦痛となり,QOL(quality of life)を低下させている.
こうした問題点を解決する方法の一つとして,増粘剤を用いた栄養剤の半固形化や,寒天を用いた栄養剤の固形化が開発され,普及しつつある(非特許文献1および2).半固形化あるいは固形化された栄養剤を胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養が行われた症例では,GERの発症頻度の減少などの効果が認められている.その反面,全身状態の悪化などに伴い,半固形化あるいは固形化した栄養剤を胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行っても,繰り返し誤嚥性肺炎などを発症する症例もあり,その限界もある.これは,胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行う高齢者にとって多大な苦痛であるとともに,看護・介護の側面からは,ケアの増加,マン・パワーの不足へとつながるほか,感染対策上でも,抗菌剤の使用量の増加,抗菌剤に対する耐性菌の出現など,医療上のデメリットも大きく,深刻な問題である.また,半固形化あるいは固形化に用いられる栄養剤の蛋白源は,一般的に分子量の大きい10000〜100000ダルトン程度の蛋白質であるため,消化を必要とすることから,全身状態が悪化した高齢者の消化管に負担がかかる.
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】合田文則,胃瘻からの半固形短時間注入法の手技とそのエビデンス.合田文則編.胃瘻からの半固形短時間摂取法ガイドブック−胃瘻患者のQOL向上を目指して.医歯薬出版,東京,P.19−26(2006).
【非特許文献2】蟹江治郎,固形化栄養の実践,蟹江治郎編.胃瘻PEG合併症の看護と固形化栄養の実践.日総研出版,名古屋,P.120−171(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は,上記の状況を鑑みてなされたもので,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GERを抑制する乳清ペプチド栄養剤を提供するものである.
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は,上記の状況を鑑みて,前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類を0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GERを抑制する乳清ペプチド栄養剤が得られることを見出し,この知見に基づき本発明を完成するに至った.
【0006】
すなわち,本発明は,以下の(1)〜(4)に示したものである.
(1)蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類を0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
(2)前記乳清ペプチド栄養剤は、蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcalとなる乳清ペプチド栄養主剤と、該乳清ペプチド栄養主剤に配合したときに粘度が5000〜15000mPa・sとなるように増粘多糖類を乳清ペプチド栄養主剤に対して0.1〜1.0重量%となる量含有するとろみ剤とからなる上記(1)に記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
(3)乳清ペプチドが,チーズホエイ由来,スイートホエイ由来,脱乳糖ホエイ由来,脱塩ホエイ由来のいずれかである上記(1)または(2)に記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
(4)デキストリンが,とうもろこしデキストリン,馬鈴薯デキストリン,甘藷デキストリン,ワキシーコーンデキストリン,ワキシーライスデキストリン,タピオカデキストリンのいずれかである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように,本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤は,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類を0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GERを抑制する乳清ペプチド栄養剤を提供することができる.蛋白源が平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドで,脂質が実質的に配合されていないため,胃が刺激されることが抑制され,消化吸収も良好であり,増粘性多糖類による粘度が5000〜15000mPs・sであるため,物理的にも胃食道逆流し難い粘度を有している.
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤を詳細に説明する.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤で使用する蛋白源としては,従来から食品に慣用される平均分子量300〜1500ダルトン,好ましくは300〜1200ダルトン,より好ましくは300〜1000ダルトンの乳清ペプチドであれば特に限定されるものではない.また,平均分子量の異なる乳清ペプチドを組み合わせて使用しても良い.なお,本発明において平均分子量とは,重量平均分子量を意味する.
乳清ペプチドの平均分子量の平均分子量が300ダルトンより小さいと,アミノ酸に近くなり,消化を必要とせず直接吸収されるジペプチドの割合が少なくなるので消化吸収性に劣る.ペプチドの平均分子量が1500ダルトンより大きいと,摂取後に消化を必要とし,消化管に負担をかけることになる.
本発明において,乳清ペプチドの平均分子量を求める方法としては,当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま,もしくは適宜変更を加えた形で適用され,代表的にはゲルろ過クロマトグラフィーが挙げられる.すなわち,高速液体クロマトグラフィー装置に紫外可視分光検出器を連結し,ペプチドをゲルろ過カラムに供し,溶離液を流すことによって溶離したペプチドを分析する方法である.この方法を用いた場合,ペプチドの平均分子量は,紫外可視分光検出器の感度から高速液体クロマトグラフィーのデータ処理装置に従って計算することにより,求めることができる.
【0009】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤で使用する乳清ペプチドの原料となる乳清(ホエイ)は,従来の方法によって製造されるものが使用できる.例えば,乳清ペプチドは,チーズやカゼインの製造工程で副生成物として得られた乳清をスプレードライ,真空濃縮法,浸透膜法,逆浸透(RO)法,限界濾過(UF)法,極微濾過法,電気透析法,イオン交換法,結晶化等の加工法でタンパク成分を分離し,これをペプシンやトリプシン等の酵素を用いて加水分解することによって得ることができる.また,原料となる乳清は,チーズホエイ(酸ホエイ),スイートホエイ,脱乳糖ホエイ,脱塩ホエイなどから適宜選択することができる.また,乳清蛋白濃縮物(WPC),乳清蛋白単離物(WPI),α−ラクトアルブミン,β―ラクトグロブリン,ラクトフェリン等乳清から加工・製造されたものを乳清タンパクとして用いることができる.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の乳清ペプチドの配合量としては,2.8〜6.0重量%,好ましくは3.0〜5.8重量%,より好ましくは3.0〜5.5重量%の範囲内である.乳清ペプチドの配合量が2.8重量%より少ないと,蛋白源として栄養学的に不十分である.乳清ペプチドの配合量が6.0重量%より多いと,血清尿素窒素の上昇が問題となる.
【0010】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤には,本発明の主旨を逸脱しない範囲内でアミノ酸を配合させても良い.アミノ酸としては,必須アミノ酸または非必須アミノ酸などの各種アミノ酸が挙げられる.具体的には,例えば,イソロイシン,ロイシン,バリン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,トレオニン,トリプトファン,アルギニン,ヒスチジン,グリシン,アラニン,プロリン,アスパラギン酸,セリン,チロシン,グルタミン酸,システイン,タウリン,カルニチン,オルニチンなどが挙げられる.これらのアミノ酸は,必ずしも遊離アミノ酸の形で含有されている必要はなく,無機酸塩(例えば,L−リジン塩酸塩等),有機酸塩(例えば,L−リジン酢酸塩,L−リジンリンゴ酸塩等),生体内で加水分解可能なエステル体(例えば,L−チロシンメチルエステル,L−メチオニンメチルエステル,L−メチオニンエチルエステル等),N−置換体(例えば,N−アセチル−L−トリプトファン,N−アセチル−L−システイン,N−アセチル−L−プロリン等)などの形で配合されていても良い.
【0011】
本発明のGER乳清抑制栄養剤で使用する糖質源としては,従来から食品に慣用されるDE10〜20,好ましくはDE10〜19,より好ましくはDE10〜18のデキストリンであれば特に限定されるものではない.デキストリンのDEが10より小さいと,摂取後に消化を必要とし,消化管に負担をかけることになる.デキストリンのDEが20より大きいと,GER乳清抑制栄養剤の浸透圧が高くなり,下痢の発生の頻度が高くなる.また,これらの中から1種類以上ないし数種類のデキストリンの組み合わせでも良い.
ここで,デキストリンのDEとは,Dextrose Equivalentの略称で,デキストリンの加水分解の程度を意味し,次の式で表される.
DE=直接還元糖(グルコース換算)/固形分×100
デキストリンのDEを求める方法は,当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま,もしくは適宜変更を加えた形で適用され,代表的にはソモジ法が挙げられる.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤のDE10〜20のデキストリンの配合量としては,15〜30重量%,好ましくは18〜28重量%,より好ましくは20〜25重量%の範囲内である.DE10〜20のデキストリンの配合量が15重量%より少ないと,糖質として栄養学的に不十分である.DE10〜20のデキストリンの配合量が30重量%より多いと,熱量が過多となる.
【0012】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤で使用するデキストリンは,従来の方法によって製造されるものが使用できる.すなわち,澱粉を酸分解して得られるデキストリンや,α−アミラーゼなどの酵素で処理することにより得られるデキストリンのいずれでも良い.デキストリンの原料となる澱粉は,いずれの由来でも良いが,とうもろこし,馬鈴薯,甘藷,ワキシーコーン,ワキシーライス,タピオカなどの澱粉が利用でき,これらの中から1種類以上ないし数種類の原料の組み合わせでも良い.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤には,本発明の主旨を逸脱しない範囲で,DE10〜20以外のデキストリン,または,デキストリン以外の糖質,例えば,単糖類,二糖類,オリゴ糖類を配合させても良い.具体的には,単糖類としては,ブドウ糖,果糖,ガラクトース,糖アルコール,マンニトール,キシリトール,イノシトール,ソルビトールなどが挙げられる.二糖類としては,ショ糖,乳糖,麦芽糖,トレハオースなどが挙げられる.オリゴ糖としては,3〜6単位程度の上記の単糖類の重合体が挙げられる.
【0013】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤で使用する増粘多糖類としては,従来から食品に慣用される増粘多糖類であれば特に限定されるものではない.増粘多糖類としては,カラギーナン,ペクチン,ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,アルギン酸ナトリウム,寒天,ゼラチン,グァーガム,サイリウムシードガム,タマリンドガム,マンナン,およびタラガムなどが挙げられ,これらの中から1種以上ないし数種類の組み合わせでも良い.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の増粘多糖類の配合量としては,0.1〜1.0重量%,好ましくは0.2〜0.9重量%,より好ましくは0.3〜0.8重量%の範囲内である.増粘多糖類の配合量が0.1重量%より少ないと,粘度が低くなるため,投与速度によっては下痢を発生する可能性がある.増粘多糖類の配合量が1.0重量%より多いと,粘度が高くなり,胃瘻からの投与が困難となる.
【0014】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の製造方法としては,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcalとなる乳清ペプチド栄養主剤と,当該乳清ペプチド栄養主剤に配合したときに粘度が5000〜15000mPa・sとなるように増粘多糖類を0.1〜1.0重量%となる量含有するとろみ剤とを用意して,混合して用事使用できるように製造しても良いし,予め乳清ペプチド主剤と増粘多糖類とを混合したものを乳清ペプチド栄養剤としても良い.この場合,とろみ剤に含まれる増粘多糖類は,栄養成分中に表示されている食物繊維の量が該当する.具体的なとろみ剤としては,ソフティア1ゾル(ニュートリー株式会社),つるりんこ牛乳・流動食用(株式会社クリニコ),トロメリンA(株式会社三和化学研究所),エンガードセレクト(協和発酵バイオ株式会社),イージーゲル(株式会社大塚製薬工場)などがある.
【0015】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤に用いる電解質およびミネラルとしては,ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,微量元素としては,鉄,銅,亜鉛,マンガン,セレン,ヨウ素,クロム,およびモリブデン等が挙げられ,これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい.これらは,無機電解質成分として配合されていても良いし,有機電解質成分,として配合されていても良い.無機電解質成分としては,例えば,塩化物,硫酸化物,炭酸化物,リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる.また,有機電解質成分としては,有機酸,例えばクエン酸,乳酸,アミノ酸(例えば,グルタミン酸,アスパラギン酸など),アルギン酸,リンゴ酸またはグルコン酸と,無機塩基,例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる.また,微量元素については,高濃度の微量元素化合物を含有する培地内で培養して得られる微量元素蓄積性を有する微生物由来の微量元素含有微生物菌体を用いても良い.
【0016】
電解質,ミネラル,および微量元素の配合量としては,栄養組成物100mLあたり,下記の範囲が適当である.
ナトリウム 5〜6000mg,好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg,好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg,好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg,好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg,好ましくは25〜1500mg
鉄 0.1〜55mg,好ましくは1〜10mg
銅 0.01〜10mg,好ましくは0.1〜6mg
亜鉛 0.1〜30mg,好ましくは1〜15mg
マンガン 0.01〜11mg,好ましくは0.1〜4mg
セレン 0.1〜450μg,好ましくは1〜35μg
クロム 0.1〜40μg,好ましくは1〜35μg
ヨウ素 0.1〜3000μg,好ましくは1〜150μg
モリブデン 0.1〜320μg,好ましくは1〜25μg
【0017】
本発明のGER乳清ペプチド栄養剤に用いるビタミンとしては,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ナイアシン,パントテン酸,ビオチン,葉酸,ビタミンC,ビタミンA,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンKなどが挙げられ,これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい.ビタミンとして,ビタミン誘導体を使用しても良い.
ビタミンの配合量としては,栄養組成物100mLあたり,下記の範囲が適当である.
ビタミンB1 0.1〜40mg,好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg,好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg,好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg,好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg,好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg,好ましくは1.65〜30mg
ビオチン 1〜1000μg,好ましくは14〜500μg
葉酸 10〜1000μg,好ましくは60〜200μg
ビタミンC 10〜2000mg,好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg,好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg,好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg,好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg,好ましくは2〜700μg
【0018】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤としては,実質的に脂質を含まないが,各原料由来の夾雑物や脂溶性ビタミンなど,少量の脂質の配合を排除するものではなく,従来栄養剤として使用されているものはいずれも本発明の主旨を逸脱しない範囲で許容される.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の1mLあたりの熱量としては,0.8〜1.2kcal,好ましくは0.9〜1.1kcalである.GER抑制乳清ペプチド栄養剤の1mLあたりの熱量が0.8kcalより低いと,栄養学的に十分な熱量が得られない.GER抑制乳清ペプチド栄養剤の1mLあたりの熱量が,1.2kcalより高いと,GER抑制乳清ペプチド栄養剤の水分量が少なくなり,脱水の可能性がある.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の粘度としては,5000〜15000mPa・s,好ましくは6000〜15000mPa・sである.GER抑制乳清ペプチド栄養剤の粘度が,5000mPa・sより低いと,GERの抑制が低くなる.GER抑制乳清ペプチド栄養剤の粘度が,15000mPa・sより高いと,PEGチューブの通過性が悪くなり,胃瘻からPEGチューブを介して経腸栄養を行うことが困難となる.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤で使用されるペプチドの含有量とDE10〜20のデキストリンの含有量の比率としては,特に限定されるものではないが,非蛋白熱量/窒素比から設定することができ,好ましくは80〜200である.非蛋白熱量/窒素比が80より低いと,侵襲時において最も効率よく窒素源を利用できない.非蛋白熱量/窒素比が200より高いと,正常時において最も効率よく窒素源を利用できない.
ここで,非蛋白熱量/窒素比は,次の式で表される.
非蛋白熱量/窒素比=蛋白源以外の成分の総熱量(kcal)/蛋白源の窒素含量(g)
【0019】
以上,本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤について説明したが,本発明は,これらに限定されるものではなく,必要に応じて,他の成分類や添加剤などを添加しても良い.例えば,クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,コハク酸,乳酸,グリセリン,プロピレングリコール,グリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ショ糖脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,アラビアゴム,色素,香料,保存剤など,通常の食品原料として使用されている添加剤などを適宜添加しても良い.
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤は,容器などに充填された状態にあるものも含まれる.容器に充填した場合,上記栄養剤をあらかじめ加熱殺菌した後に,無菌的に容器に充填する方法,例えば,UHT殺菌法とアセプティック充填法を併用する方法や上記栄養剤を容器に充填した後に,容器と一緒に加熱殺菌する方法,例えば,レトルト殺菌法などを採用することができる.なお,UHT殺菌法では,間接加熱方式および直接加熱方式のどちらでも行うことができる.加熱殺菌処理方法では,高圧蒸気殺菌,熱水殺菌,熱水シャワー殺菌などの公知の方法を適宜採用することができる.また,殺菌方法の操作条件,例えば,殺菌時間,殺菌温度などは通常のこの種の殺菌操作条件などと同様のものとすることができる.さらに,上記加熱殺菌は,必要に応じて窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことができる.
【0020】
本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤を収容する容器としては特に限定されない.
例えば,プラスチックボトル,ペットボトルやカート缶,テトラパックなどの紙製容器,または,アルミパウチ,もしくは,金属缶などが挙げられる.
容器の材質としては,食品用容器などに通常使用されている軟質合成樹脂,例えば,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリブタジエン,エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン類に,スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン共重合体,プロピレン−αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドし柔軟化した軟質樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH),ポリ塩化ビニリデン(PVDC),ポリアクリロニトリル,ポリビニルアルコール,ポリアミド,ポリエステルなど,およびこれらの少なくとも1つを含むフィルムシートなどからの構成包装材,またこれらの素材に酸化ケイ素,酸化アルミ,アルミニウムなどのガスバリアー性物質を蒸着処理した包装材およびこれらの素材を組み合わせた多層フィルムなどが挙げられる.
容器への充填,収容は常法に従って行うことができ,例えば,上記栄養剤を不活性ガス雰囲気下で充填し,施栓し,加熱殺菌する方法が挙げられる.
加熱殺菌する場合,常法による殺菌方法を採用することができ,例えば,レトルト殺菌を採用する場合は,110〜120℃,10〜30分程度の加熱処理が好適である.UHT殺菌法を採用する場合は,130〜150℃,2〜120秒程度の加熱処理が好適である.
このようにして得られた本発明のGER抑制乳清ペプチド栄養剤は,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GERを抑制する乳清ペプチド栄養剤として使用できる.
【実施例】
【0021】
次に,実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない.
(実施例1)
表1および表2に示す配合でGER抑制乳清ペプチド栄養主剤を後述する調製法1の方法により調製した.
【0022】
【表1】

【0023】
なお,表中※1の乳清ペプチドは,Lacprodan DI−3065(商品名),アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社製であり,※2のデキストリンは,TK−16(商品名),松谷化学工業株式会社製である.※3のビタミンミックスは表2に示す組成である.
【0024】
【表2】

【0025】
一方,とろみ剤として市販のソフティア1ゾル(100g当たり食物繊維換算で27.9g含有,ニュートリー株式会社製)5gを用意して包装した.
【0026】
(調製法1)
約65℃の温水を撹拌しながら,乳清ペプチドおよびデキストリンを少しずつ投入した.その後,約70℃に昇温し,クエン酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウムを投入した.グリセロリン酸カルシウム,クエン酸鉄,グルコン酸亜鉛,グルコン酸銅を一部のデキストリンと粉体混合して,投入した.次に,約20℃まで冷却した後,ピーチフレーバー,ビタミンミックス,ビタミンCを投入して撹拌保持した.その後,温水を加え,全量を規定量にした.この溶液をUHT殺菌後に200mL容量のテトラ・ブリック・アセプテッィク200スリム容器(日本テトラパック株式会社)にアセプティック充填を行い,放冷した乳清ペプチド栄養主剤を製造した.容器から取り出したこの主剤100mLに対して包装から取り出したとろみ剤5gを添加して攪拌した後に,GER抑制乳清ペプチド栄養剤を得た.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した粘度は,6000mPa・sであった.
【0027】
(実施例2)
表2および表3に示す配合でGER抑制乳清ペプチド栄養剤を後述する調製法2の方法により調製した.
【0028】
【表3】

【0029】
なお,表中※1の乳清ペプチドは,Lacprodan DI−3065(商品名),アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社製,※2のデキストリンは,TK−16(商品名),松谷化学工業株式会社製,※3のキサンタンガムは,GRINDSTED XANTHAN TSC(商品名),ダニスコジャパン株式会社製である.※4のビタミンミックスは表2に示す組成である.
【0030】
(調製法2)
約65℃の温水を撹拌しながら,乳清ペプチドおよびデキストリンを少しずつ投入した.その後,約90℃に昇温し,キサンタンガムを一部のデキストリンと粉体混合して,投入した.その後,クエン酸ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウムを投入した.グリセロリン酸カルシウム,クエン酸鉄,グルコン酸亜鉛,グルコン酸銅を一部のデキストリンと粉体混合して,投入した.次に,約20℃まで冷却した後,ピーチフレーバー,ビタミンミックス,ビタミンCを投入して撹拌保持した.その後,温水を加え,全量を規定量にした.この溶液をUHT殺菌後に200mL容量のテトラ・ブリック・アセプテッィク200スリム容器(日本テトラパック株式会社)にアセプティック充填を行い,放冷した後に,GER抑制乳清ペプチド栄養剤を得た.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した粘度は,7200mPa・sであった.
【0031】
(実施例3)
表2および表3に示す配合において,キサンタンガムの配合量を18.75kgに変更した以外は前述の調製法2の方法により調製した.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した粘度は,118000mPa・sであった.
【0032】
(比較例1)
脂質として植物油を配合した市販の乳清タンパク配合半消化態栄養剤(商品名:レナウエル3,容量:125mL,熱量:250kcal,テルモ株式会社)1パックあたり市販のとろみ剤であるリフラノン(25g当たり食物繊維換算で0.3g含有,ヘルシーフード株式会社製)50gを添加して攪拌したものを用いた.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した粘度は,760mPa・sであった.
【0033】
(比較例2)
脂質として植物油を配合し、増粘性多糖類として食物繊維換算で1.1g配合した市販の乳清タンパク配合半消化態栄養剤(商品名:PGソフト,容量:200g,熱量:300kcal,テルモ株式会社)を用いた.B型粘度計(RB−80L,東機産業株式会社)で測定した粘度は,20000mPa・sであった.
【0034】
(試験例1)
対象は,男性は5名,女性は4名,年齢は66〜96歳,平均年齢は84.2±10.5歳であった.いずれも投与開始前に,腎機能低下が認められた.
比較例1の栄養剤88mL(100kcal)を1日3回胃瘻から投与を開始し,患者の状態を見ながら,1回の投与量を175mL(200kcal)に増加させた.誤嚥性肺炎による中断を繰り返した時点で投与を中止し,比較例1の栄養剤投与に代えて,実施例1のGER抑制乳清ペプチド栄養剤103mL(100kcal)を1日3回胃瘻から投与を開始し,患者の状態を見ながら,1回の投与量を210mL(200kcal)に増加させた.投与期間中における1日の投与熱量は,患者の状態に応じて800〜1000kcalとし,比較例1または実施例1の栄養剤投与で不足する熱量は静脈栄養で投与した.
9例について,胃内残留量,嘔吐,肺炎の発症頻度,経腸栄養継続平均期間につき検討した.胃内残留量は,比較例1の栄養剤の最終投与時および実施例1のGER抑制乳清ペプチド栄養剤の最終投与時において,PEGチューブから栄養剤投与開始4時間後,PEGチューブよりシリンジで胃内容をすべて吸引し,吸引時のシリンジの目盛りから量を測定した.嘔吐,肺炎の発症頻度の評価は,経腸栄養開始から終了までの期間で嘔吐が消失,肺炎が改善,または1日あたりの嘔吐の回数が減少,肺炎の治療期間が短縮した症例を「改善あり」,それ以外を「改善なし」と分類した.経腸栄養継続平均期間は,栄養剤の初回投与から胃食道逆流による誤嚥性肺炎を繰り返し中止するまでの期間において,初回あるいは中断後の再開から,嘔吐,肺炎の発症,胃食道逆流などによる中断あるいは中止するまでに継続して投与できた期間の平均値とした.
9例のうち,比較例1の投与終了時と実施例1の投与開始後の胃内容残留量を測定した4例の結果を表4に示した.実施例1を投与した場合,全例で比較例1を投与した場合と比較して,胃内容残留量が減少する傾向が認められた.
【0035】
【表4】

【0036】
9例について,嘔吐,肺炎の発症頻度の結果を表5に示した.比較例1を投与した場合,全例で嘔吐,肺炎の発症頻度は「改善なし」となった.実施例1を投与した場合,全例で嘔吐,肺炎の発症頻度は「改善あり」となった.
【0037】
【表5】

【0038】
9例について,経腸栄養継続平均期間の結果を表6に示した.9例中1例では変化が認められなかったが,残りの8例では増加傾向が見られた.
【0039】
【表6】

【0040】
(試験例2)
比較例2の半消化態栄養剤を胃瘻から投与された症例のうち,GERによる誤嚥性肺炎を繰り返した時点で投与を中止し,比較例2の栄養剤投与に代えて,実施例2のGER抑制乳清ペプチド栄養剤を投与した5例を対象とした.対象は,男性は2名,女性は3名,年齢は67〜80歳,平均年齢は76.8±6.6歳であった.
比較例2の栄養剤100g(150kcal)を1日3回胃瘻から投与を開始し,患者の状態を見ながら,1回の投与量を200g(300kcal)に増加させた.誤嚥性肺炎を繰り返した時点で,比較例2の栄養剤の投与に代えて,実施例2のGER抑制乳清ペプチド栄養剤100mL(100kcal)を1日3回胃瘻から投与を開始し,患者の状態を見ながら,1回の投与量を200mL(200kcal)に増加させた.投与期間中における1日の投与熱量は,患者の状態に応じて800〜1000kcalとし,比較例1または実施例1の栄養剤投与で不足する熱量は静脈栄養で投与した.
胃内残留量,嘔吐,肺炎の発症頻度の評価,経腸栄養継続平均期間は,それぞれ試験例1と同様に測定・評価した.
5例のうち,実施例2の投与開始前後の胃内容残留量を測定した3例の結果を表7に示した.実施例2を投与した場合,全例で比較例2を投与した場合より比較して,胃内容残留量が減少する傾向が認められた.
【0041】
【表7】

【0042】
5例について,嘔吐,肺炎の発症頻度の結果を表8に示した.比較例1を投与した場合,全例で嘔吐,肺炎の発症頻度は「改善なし」となった.実施例1を投与した場合,全例で嘔吐,肺炎の発症頻度は「改善あり」となった.
【0043】
【表8】

【0044】
5例について,経腸栄養継続平均期間の結果を表9に示した.全例で経腸栄養継続期間が増加する傾向が見られた.
【0045】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は,蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類を0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,GER(胃食道逆流)を抑制する乳清ペプチド栄養剤に関するものであって,蛋白源が平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを配合し,実質的に脂質を配合していないため,胃が刺激されることが抑制され,消化吸収も良好であり,増粘性多糖類による粘度が5000〜15000mPs・sであるため,物理的にも胃食道逆流し難い粘度を有しているため,産業上十分に利用できるものである.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%,増粘多糖類を0.1〜1.0重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal,粘度が5000〜15000mPa・sとなる乳清ペプチド栄養剤であって,長期間,経腸栄養を継続する高齢者に対して,胃内残留量を減少させ,胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)を抑制する乳清ペプチド栄養剤.
【請求項2】
前記乳清ペプチド栄養剤は、蛋白源として平均分子量300〜1500ダルトンである乳清ペプチドを2.8〜6.0重量%,糖質源としてDE10〜20のデキストリンを15〜30重量%を配合し,実質的に脂質を配合せず,1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcalとなる乳清ペプチド栄養主剤と、該乳清ペプチド栄養主剤に配合したときに粘度が5000〜15000mPa・sとなるように増粘多糖類を乳清ペプチド栄養主剤に対して0.1〜1.0重量%となる量含有するとろみ剤とからなる請求項1に記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
【請求項3】
乳清ペプチドが,チーズホエイ由来,スイートホエイ由来,脱乳糖ホエイ由来,脱塩ホエイ由来のいずれかである請求項1または2に記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.
【請求項4】
デキストリンが,とうもろこしデキストリン,馬鈴薯デキストリン,甘藷デキストリン,ワキシーコーンデキストリン,ワキシーライスデキストリン,タピオカデキストリンのいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載のGERを抑制する乳清ペプチド栄養剤.

【公開番号】特開2011−105677(P2011−105677A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264346(P2009−264346)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】