説明

GIP分泌抑制剤

【課題】医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤を提供すること。
【解決手段】モノアシルグリセロールを有効成分とする食後GIP分泌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の食生活は、1960年当時からの摂取カロリーはほぼ横ばいながら、摂取される脂質の比率は1.1割から2.7割に増え、大きく変化している(国民栄養調査)。このように高脂肪食は胃に負担をかけ、胃もたれ等を引き起こすとされている。
【0003】
Gastric inhibitory polypeptide(GIP)は、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用を有することが知られている消化管ホルモンであり、摂食時、食餌中の脂質等によりその分泌が亢進されることが知られている(非特許文献1〜3)。このため、GIPの分泌を少なくすることは、消化促進や胃もたれの改善に有用であると考えられている。そして、これまでの研究によって、GIPの機能を阻害する物質として3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−7−オール(BMPP)が知られ、GIPの分泌を抑制する物質としてグアガム等が知られている(特許文献1、非特許文献4〜9)。しかしながら、前者のBMPPは、in vivoにおけるGIP機能阻害効果が確認されておらず、また後者のグアガム等は脂質摂取時のGIP分泌抑制効果が検討されていないという問題があり、その上、胃もたれ改善効果等の点で必ずしも十分なものとはいえない。さらに、日々摂取しても安全性に優れたものであることが望まれる。
【0004】
一方、モノアシルグリセロール(以下MAGともいう)は、食品分野で乳化剤等として広く用いられる安全性にすぐれた物質であり、マーガリン、乳飲料、アイスクリーム、パン等に通常0.2〜0.5%程度配合されている(非特許文献10、11)。また、モノアシルグリセロールは、食後の血中トリグリセリドの上昇抑制作用(特許文献2)を有することが知られている。
しかしながら、モノアシルグリセロールとGIP分泌との関係については知られていなかった。
【特許文献1】国際公開第01/87341号パンフレット
【特許文献2】特開平5−310567号公報
【非特許文献1】J.C.Brown等、Canadian J Physiol Pharmacol 47 : 113-114, 1969
【非特許文献2】J. M. Falko等、J Clin Endocrinol Metab 41(2) : 260-265, 1975
【非特許文献3】織田敏次等、消化管 機能と病態、1981年、中外医学社、P205−216
【非特許文献4】Gagenby S J等、Diabet Med. 1996 Apr; 13(4):358-64
【非特許文献5】Ellis PR等、Br J Nutr. 1995 Oct;74(4):539-56
【非特許文献6】Simoes NunesC等、Reprod Nutr Dev. 1992;32(1):11-20
【非特許文献7】Morgan LM等、Br J Nutr. 1990 Jul;64(1):103-10
【非特許文献8】Requejo F等、Diabet Med. 1990 Jul;7(6):515-20
【非特許文献9】Morgan等、Br J Nutr. 1985 May;53(3):467-75
【非特許文献10】岡村一弘等、食品添加物の使用法、1973年、食品と科学社、P288-289
【非特許文献11】藤井清次等、食品添加物ハンドブック、1997年、光生館、P236-238
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、モノアシルグリセロールが、食後のGIP分泌を著しく抑制し、消化促進や胃もたれ改善に有用であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、モノアシルグリセロールを有効成分とする食後GIP分泌抑制剤を提供するものである。
【0008】
また、本発明はモノアシルグリセロールを含有し、消化促進または胃もたれの改善効果を有することを特徴とし、消化促進または胃もたれの改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲料及び食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のGIP分泌抑制剤を用いれば、食後のGIPを減少させることができ、消化吸収を促進することができ、胃もたれの改善等胃の状態の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
モノアシルグリセロールとしては、グリセリンの1位の水酸基が脂肪酸でエステル化されたもの(1−モノアシルグリセロール)、2位の水酸基が脂肪酸でエステル化されたもの(2−モノアシルグリセロール)及び3位の水酸基が脂肪酸でエステル化されたもの(3−モノアシルグリセロール)が挙げられるが、1−モノアシルグリセロールが好ましい。脂肪酸残基の炭素数に特に制限はないが、8〜24、特に16〜22が好ましい。脂肪酸残基としては、飽和のもの及び不飽和のものが挙げられ、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸由来のアシル基、或いはこれらの混合物や、これらの酸を含有する牛脂、豚脂等の動物油、パーム油、菜種油、大豆油、サフラワー油、トウモロコシ油、シソ油、トウハゼ油、アマニ油、エノ油等の植物油から誘導される脂肪酸等由来のアシル基が挙げられる。これらのモノアシルグリセロールは一種又は二種以上を用いることができる。
【0011】
なお、かかるモノアシルグリセロールを混合物として用いる場合、不飽和脂肪酸残基の量は、全脂肪酸残基の55%以上であることが好ましく、更には70%以上、特に90%以上が好ましい。更に不飽和脂肪酸がオレイン酸15〜85%、リノール酸15〜85%で構成されることが好ましい。更に不飽和脂肪酸がオレイン酸50〜100%で構成されることが最も好ましい。なお、構成脂肪酸含量は、構成アシル基を脂肪酸に換算して算出する。
【0012】
本発明で使用するモノアシルグリセロールは、不飽和アシル基を含有するアマニ油、エゴマ油、シソ油、大豆油、ナタネ油等の加水分解反応、これら各種油脂とグリセリンとのエステル交換反応、かかる油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応等任意の方法により得ることができる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。得られた反応生成物を分画して所期のモノアシルグリセロールを単離することができる。
【0013】
後記実施例に示すように、モノアシルグリセロールは、トリアシルグリセロール(以下TAGともいう)と共に摂取した場合に、グルコース及びトリアシルグリセロールの摂取によるGIP分泌量の増加を有意に抑制する作用を有する。従って、モノアシルグリセロールは、食後GIP分泌抑制剤として、ヒト若しくは動物用の食品若しくは医薬品又はこれらの素材となり得る。なお、「食後のGIP分泌抑制」とは、脂質及び糖質を含む食事、特に脂質を多く含む食事、そのなかでもトリアシルグリセロールを多く含む食事を摂取することにより消化管からのGIP分泌量が増えるのを抑制することをいう。
【0014】
本発明の食後GIP分泌抑制剤は、本発明のモノアシルグリセロールを単体でヒト及び動物に投与できる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品又は飲料としては、モノアシルグリセロールを含有し、消化促進または胃もたれの改善効果を有することを特徴とし、消化促進または胃もたれの改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲料及び食品として使用することができる。また、胃酸分泌抑制、消化促進、胃もたれ改善等胃の状態の改善のために用いられるものである旨の表示を付した美容食品、病者用食品、特定保健用食品等の食品又は飲料に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0015】
なお、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のモノアシルグリセロールに賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
上記各剤中のモノアシルグリセロールの配合量は、全組成物中通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。
【0016】
上記各剤中の有効投与(摂取)量は、モノアシルグリセロールとして、1日当たり0.01〜10gとするのが好ましい。また、本発明の食後GIP分泌抑制剤は、食前・食中・食後に用いると効果的である。
【実施例】
【0017】
実施例1 モノアシルグリセロールのGIP分泌抑制作用
トリアシルグリセロール(TAG)としてトリオレイン、モノアシルグリセロール(MAG)として1−モノオレインを用い、下記の実験を行った。
マウス(C57BL/6J雄、8週令)を1群12または14匹とし、グルコース2mg/g体重のみ、及びさらにトリオレイン2mg/g体重を0.02mg/g体重卵黄レシチンにより乳化させたもの(それぞれグルコース,TAG1)、またはTAG1の乳化物にそれぞれ0.08,0.2,0.4mg/g体重の1−モノオレイン(それぞれMAG1,MAG2,MAG3)を添加したものを、ゾンデにより経口投与した。乳化物の組成を表1に示す。10分後、腹部大静脈より採血し、血中GIPを、ELISA法(Gastric Inhibitory Peptide EIA Kit, Phoenix Pharmaceutical Inc.)により測定した。乳化剤を投与しなかったマウスの血中GIP値を初期値と仮定して、10分後のマウス血中のGIP増加量を表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
表2の結果から、TAGを摂取すると、グルコースのみを摂取した場合に比べて血中GIPが増加する。しかし、TAG1にMAGをさらに添加すると(MAG1,MAG2,MAG3)、TAGによって増加したGIP分泌量を統計学的に有意に濃度依存的に抑制することができ、GIP分泌抑制効果を示すことがわかった。具体的には、例えば、TAGに対して5分の1のMAGを摂取したマウスでは、MAG無添加の場合に比べて血中GIPの増加量が低く、血中へのGIP分泌抑制効果が認められることがわかる。
【0021】
配合例
製剤例
(1)コーヒー飲料
1−MAG 0.1 質量%
コーヒー豆 5.5 質量%
牛乳 7.0 質量%
砂糖 6.0 質量%
香料 若干量
重曹 (pH6.5に調整)
水 残分

(2)キャンデー
1−MAG 0.1 質量%
ショ糖エステル(乳化剤) 0.2 質量%
水飴 35 質量%
砂糖 35 質量%
小麦粉 5 質量%
練乳 17 質量%
ミルク 6 質量%
バター 2 質量%
香料 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノアシルグリセロールを有効成分とする食後GIP分泌抑制剤。
【請求項2】
モノアシルグリセロールを含有し、消化促進または胃もたれの改善効果を有することを特徴とし、消化促進または胃もたれの改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲料及び食品。

【公開番号】特開2007−290989(P2007−290989A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119048(P2006−119048)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】