説明

GIP分泌抑制剤

【課題】医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤を提供すること。
【解決手段】ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする食後GIP分泌抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Gastric inhibitory polypeptide(GIP)は、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用を有する消化管ホルモンであり、摂食時、食餌中の脂質等によりその分泌が亢進されることが知られている(非特許文献1〜3)。そのため、GIPの分泌を阻害する物質は、消化促進や胃もたれの改善に有用であると考えられる。そして、これまでの研究によって、GIPの機能を阻害する物質として、3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5−a]ピリミジンー7−オール(BMPP)が知られ、食後GIPの分泌を抑制するものとして、グアガム等が知られている(特許文献1、非特許文献4〜9)。しかしながら、前者の物質は、in vivoにおけるGIP機能阻害効果が確認されておらず、また後者の物質は脂質摂取時のGIP分泌抑制効果が検討されていないという問題があり、また、胃もたれ改善効果等の点で必ずしも十分なものとはいえない。
【0003】
一方、アルギン酸塩とは、全ての褐藻類に細胞壁間物質として分布するウロン酸(D-マンヌロン酸とL-グルロン酸)を主要構成糖とする高分子酸性多糖(分子量:数万〜数十万)であり、その生理作用として、コレステロール低下作用、食後血糖上昇抑制作用、便秘改善作用などが報告されている(非特許文献10〜13)。また、ヒドロキシプロピル化澱粉は、例えば食感改善剤として利用されている他、抗肥満効果、便秘改善効果などを有することが知られている(特許文献2、3、4)。
しかしながら、これらの物質とGIPとの関係については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/87341号パンフレット
【特許文献2】特開2004−315405号公報
【特許文献3】特開2004−269458号公報
【特許文献4】特開2005−27643号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.C.Brownら、Canadian J Physiol Pharmacol 47 : 113-114, 1969
【非特許文献2】J. M. Falkoら、J Clin Endocrinol Metab 41(2) : 260-265, 1975
【非特許文献3】織田敏次ら、消化管 機能と病態、1981年、中外医学社、P205−216
【非特許文献4】Gagenby S Jら、Diabet Med. 1996 Apr; 13(4):358-64
【非特許文献5】Ellis PRら、Br J Nutr. 1995 Oct;74(4):539-56
【非特許文献6】Simoes Nunes Cら、Reprod Nutr Dev. 1992;32(1):11-20
【非特許文献7】Morgan LMら、Br J Nutr. 1990 Jul;64(1):103-10
【非特許文献8】Requejo Fら、Diabet Med. 1990 Jul;7(6):515-20
【非特許文献9】Morganら、Br J Nutr. 1985 May;53(3):467-75
【非特許文献10】Seal, C.J.ら、Br J Nutr. 2001;85:317-324.
【非特許文献11】Ohta, A.ら、Int J Vitam Nutr Res 1997;67(1):55-61
【非特許文献12】Torsdottir, I.ら、J Nutr 1991;121:795-799
【非特許文献13】Anderson, D.M.ら、Food Addit Contam. 1991;8:237-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、医薬または食品として有用なGIP分泌抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、食品等に使用されているアルギン酸塩やヒドロキシプロピル化澱粉が、食後のGIP分泌を著しく抑制し、消化促進や胃もたれ改善に有用であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、アルギン酸若しくはその塩又はヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする食後GIP分泌抑制剤を提供するものである。
【0009】
また本発明は、アルギン酸又若しくはその塩又はヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とし、消化促進または胃もたれの改善のために用いられるものである旨の表示を付した食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のGIP分泌抑制剤を用いれば、食後のGIPを減少させることができ、消化吸収を促進することができ、胃もたれの改善を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のヒドロキシプロピル化された澱粉は、澱粉又は加工澱粉を通常の方法によりヒドロキシプロピル化することにより得ることができる。具体的にはプロピレンオキサイドを澱粉に反応させることにより得ることができる。
また、ナショナルフリジェックス(タピオカ由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、ナショナル1658(コーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームフロー(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)、サームテックス(ワキシーコーン由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)等の市販品を用いることもできる。
【0012】
原料澱粉としては、例えばワキシーコーン澱粉、コーン澱粉、小麦澱粉、米澱粉、糯米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘露澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が挙げられるが、アミロペクチン含量が70重量%以上、好ましくは75〜100%、更に好ましくは90〜100%であるものが、糊液の透明性が高く、飲食品に応用した場合にその外観を損わず、適用範囲が広くなることより好ましい。中でも、原料澱粉としては、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉が好ましい。
【0013】
本発明における「ヒドロキシプロピル化された澱粉」には、他の加工処理を組み合わせることにより得られるヒドロキシプロピル化された澱粉も含まれる。組み合わせることのできる加工処理としては酢酸、オクテニルコハク酸、リン酸等のエステル化処理やヒドロキシプロピル化以外のカルボキシメチルエーテル化等によるエーテル化処理、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸、エピクロルヒドリン等、常用の架橋剤を用いた架橋化処理、酸化処理、酸処理、漂白処理、湿熱処理、熱処理、酵素処理等が挙げられ、その内1種又は2種以上の加工を組み合わせても良い。中でも、エステル化処理が好ましく、リン酸化処理、特にリン酸架橋処理が好ましい。リン酸化処理の程度としては、結合リン含量が0.0001〜2%の範囲が挙げられるが、好ましくは0.0001〜0.5%、更に好ましくは0.0001〜0.2%であるものが好ましい。
【0014】
ヒドロキシプロピル化の程度としては、置換度(澱粉中の無水グルコース1残基当たりのヒドロキシプロピル基の数)が0.001〜1であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5であり、更に0.1〜0.3であるのが好ましい。
【0015】
上記ヒドロキシプロピル化された澱粉は、澱粉から簡単な工程で、高純度で比較的安価に製造できる。また安全性が高く、従来の食物繊維や難消化性澱粉と比較して、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に用いたときの違和感がない。また、耐冷凍性に優れているので、解凍による変質が起こりにくいという利点を有し得る。
【0016】
本発明の食後GIP分泌抑制剤で使用するアルギン酸又はその塩(以下、アルギン酸類と記載する)の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられ、特にナトリウム塩が好ましい。アルギン酸類は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で測定した重量平均分子量が、200,000以下、好ましくは100,000以下、特に40,000〜80,000であるのが好ましい。
【0017】
そして、ヒドロキシプロピル化された澱粉又はアルギン酸若しくはその塩は、後記実施例に示すように、糖質、脂質、蛋白質を同時摂取した後の血中GIPが少ないというGIP分泌抑制効果を有することから、食後のGIPを減少させ、消化吸収を促進させるなどの効果を発揮し得る。従って、本発明のヒドロキシプロピル化された澱粉又はアルギン酸若しくはその塩は、食後GIP分泌抑制剤として、ヒト若しくは動物用の食品又は医薬品の素材となり得る。
【0018】
本発明の食後GIP分泌抑制剤は、ヒドロキシプロピル化澱粉の一種以上、又はアルギン酸若しくはその塩を単体でヒト及び動物に投与できる他、各種飲食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、胃酸分泌抑制、消化促進、胃もたれ改善等の改善のために用いられるものである旨の表示を付した美容食品、病者用食品、特定保健用食品等の食品に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0019】
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のヒドロキシプロピル化澱粉、又はアルギン酸若しくはその塩に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0020】
上記各製剤中に配合されるべきヒドロキシプロピル化された澱粉の配合量は、通常0.1−100重量%、好ましくは1−80重量%、更に好ましくは5−50重量%とするのが好ましい。
【0021】
上記各製剤中に配合されるべきアルギン酸若しくはその塩の配合量は、通常0.01−100重量%、好ましくは0.1−80重量%、更に好ましくは1−50重量%とするのが好ましい。
【0022】
本発明の食後GIP分泌抑制剤または食品の投与量(有効摂取量)は、アルギン酸若しくはその塩として、一日当り0.001g/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.01g/kg体重以上、更に0.05g/kg体重以上とするのが好ましく、ヒドロキシプロピル化澱粉として、一日当り0.01g/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.1g/kg体重以上、更に0.4g/kg体重以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0023】
試験例1 ヒドロキシプロピル化澱粉のGIP分泌抑制作用
ヒドロキシプロピル化された澱粉として、一般に市販されているナショナルフリジェックス(タピオカ由来、ナショナルスターチアンドケミカル社)を用いた。比較する澱粉として、高アミロースコーン澱粉(ファイボース、日澱化学(株))を用いた。
上記の澱粉を50重量%となるように蒸留水に懸濁し、120℃にて15分間、オートクレーブ(湿熱処理)した後、凍結乾燥し、α化した試験澱粉を調製した。
マウス(C57BL/6J雄、6週令)を1群8匹とし、各種α化澱粉を用いて、表1に示す配合で調製した粉末飼料1gに蒸留水2gを加えてよく分散した。16時間絶食したマウスに上記分散液0.3g/10g体重をゾンデ針を用いて経口投与した。5分後、腹大静脈より採血し、血漿を調整した。血漿中のGIPをELISA法(General Protocol For EIA Kit、Phoenix Pharmaceuticals Inc.)により測定した。16時間絶食し、経口投与を行わなかったマウスの血中GIPを求め、経口投与後の血中GIP上昇を算出した。同様の試験を再度行い、1群16匹の結果を表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、ヒドロキシプロピル化された澱粉(タピオカ由来)を10%配合した飼料を摂取したマウスでは、高アミロースコーン澱粉を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、血中GIPが少なく、食後GIP分泌抑制効果が認められることがわかる。
【0027】
試験例2 アルギン酸NaのGIP分泌抑制作用
アルギン酸Naは、和光純薬工業(株)から入手した。マウス(C57BL/6J雄、6週令)を1群9匹とし、表3に示す配合で調製した粉末飼料1gに蒸留水2gを加えてよく分散した。16時間絶食したマウスに上記分散液0.3g/10g体重をゾンデ針を用いて経口投与した。15分後、腹大静脈より採血し、血漿を調整した。血漿中のGIPをELISA法(General Protocol For EIA Kit、Phoenix Pharmaceuticals Inc.)により測定した。この結果を表4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
表4の結果から、アルギン酸Naを5%配合した飼料を摂取したマウスでは、アルギン酸Na非配合飼料を摂取したマウスに比較して、血中GIPが少なく、食後GIP分泌抑制効果が認められることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピル化澱粉を有効成分とする食後GIP分泌抑制剤。

【公開番号】特開2011−236239(P2011−236239A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164350(P2011−164350)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2005−168321(P2005−168321)の分割
【原出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】