説明

GM3糖鎖プローブ

【課題】GM3糖鎖を部分構造とする新規な両親媒性物質である糖鎖プローブ、及び、そのGM3糖鎖プローブを固定化してGM3糖鎖に結合する物質を精製する方法、及び、その精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質の提供。
【解決手段】GM3ガングリオシドの糖鎖構造を、オリゴエチレングリコールを介して、脂質構造に結合した両親媒性物質、より詳しくは、式(1)で示される両親媒性物質。
【化11】


(ただし、式中で、mは1から100までの整数を、nは11から17までの整数を、RはO(CH2nCH3またはHを表す。)
及び、上記の両親媒性物質、または、それを含む混合物を疎水表面に固定化して得られるGM3糖鎖提示素材を用いることを特徴とするGM3糖鎖に結合する物質の精製法、及び、この精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GM3糖鎖を部分構造とする新規な両親媒性物質である糖鎖プローブ、及び、そのGM3糖鎖プローブを固定化してGM3糖鎖に結合する物質を精製する方法、及び、その精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガングリオシドはシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質の総称であり、複雑な糖鎖構造を持つことから、その生理的な機能が注目されている(例えば、非特許文献1参照)。その中で、GM3は比較的簡単な糖鎖構造を持ち、脂質部分であるセラミドからの生合成経路の出発点近くに位置するガングリオシドであるが、その欠失によって癲癇が起こることが報告され(非特許文献2参照)、また、その存在量が糖尿病等の病態と関わる可能性が議論される(非特許文献3参照)等、診断等への応用の可能性を持つガングリオシドである。
【0003】
典型的なGM3糖鎖結合物質として、これまでに数種の抗GM3抗体が報告されている(非特許文献4〜6参照)。これらの抗GM3抗体は、黒色腫細胞(非特許文献4参照)、あるいは、GM3ガングリオシドをサルモネラ菌に吸着させたもの(非特許文献5参照)をマウスに免疫して得られたか、または、黒色腫患者由来のリンパ球をクローニングして得られたもの(非特許文献6参照)である。しかし、これらの抗GM3抗体は、いずれもIgMであり、特異性も高くない。診断薬等への応用を考えると、より特異性の高い抗体、あるいはGM3結合物質が望まれる。また、GM3ガングリオシドは細胞表面で特徴的な分子集合体を形成することが知られている(例えば、非特許文献3参照)ので、そうしたGM3ガングリオシドの存在様式を解析するために、より多くの種類のGM3結合物質が望まれる。
【0004】
近年、上記の動物の免疫反応を用いた抗体取得法とは異なる、ファージペプチドライブラリー、ファージ抗体ライブラリー、核酸アプタマーライブラリー等のスクリーニングが、古典的なランダムスクリーニングと並んで、様々な生体物質を特異的に認識する分子の取得法として注目されている。動物免疫とは異なるこれらの手法は、生体中に存在する物質に対して、高選択的かつ多種多様な結合物質を提供する手段となり得る。しかし、糖脂質であるGM3ガングリオシドそのものを糖鎖プローブとして用いると、均質な固定化が難しい、脂質部分の疎水性相互作用により糖鎖以外の部分に結合する物質が優先的に選別されるといった問題点があった。
【0005】
我々はこれまでに、長鎖アルキルオキシベンジルアルコール誘導体あるいは長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を基本骨格とする人工脂質に糖鎖を結合した種々の糖鎖プローブを提供してきた(特許文献1〜4参照)。それらの糖鎖プローブを改良し、疎水性相互作用に由来する非特異的な相互作用をできる限り低く抑える目的で、オリゴエチレングリコールが結合した長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を合成し(特許文献5参照)、その末端に糖鎖を導入した糖鎖プローブを合成し(特願2005−159038参照)、その糖鎖プローブのミセル溶液を用いた固定化方法(特願2006−198104参照)を開発することにより、均質で、かつ、非特異的相互作用が抑えられた糖鎖提示素材を提供することができた。この手法は糖脂質の糖鎖部分に結合する物質の精製法にも応用できると考え、GM3糖鎖プローブの合成に挑戦した。
【特許文献1】特開2001−122889
【特許文献2】特開2001−253896
【特許文献3】特開2002−30091
【特許文献4】特開2004−75641
【特許文献5】特開2005−232061
【非特許文献1】鈴木康夫、安藤進編、「ガングリオシド研究法I・I I」(学会出版センター、1995年)
【非特許文献2】ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)、2004年、36巻、p.1225−1229
【非特許文献3】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、2002年、277巻、3085−3092
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)、1985年、260巻、13328−13333
【非特許文献5】バイオキミカ・バイオフィジカ・アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、1992年、1117巻、97−103
【非特許文献6】キャンサー・リサーチ(Cancer Res.)、1989年、49巻、191−196
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、GM3糖鎖を部分構造とする新規な両親媒性物質である糖鎖プローブ、及び、そのGM3糖鎖プローブを固定化してGM3糖鎖に結合する物質を精製する方法、及び、その精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鋭意検討した結果、本発明者らは、多段階を要する合成反応を経て、オリゴエチレングリコール誘導体を介してGM3糖鎖と長鎖アルキルオキシベンズアミド誘導体を結合した糖鎖プローブを完成し、これまでの研究成果として得られた知見と合わせて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、GM3ガングリオシドの糖鎖構造を、オリゴエチレングリコールを介して、脂質構造に結合した両親媒性物質、より詳しくは、式(1)で示される両親媒性物質を提供する。
【化2】

(ただし、式中で、mは1から100までの整数を、nは11から17までの整数を、RはO(CH2nCH3またはHを表す。)
また、本発明は、上記の両親媒性物質、または、それを含む混合物を疎水表面に固定化して得られるGM3糖鎖提示素材を用いることを特徴とするGM3糖鎖に結合する物質の精製法、及び、この精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、GM3糖鎖を部分構造とする両親媒性物質である新規なGM3糖鎖プローブを用いて、既存の方法と異なる精製方法によって、新たな特異性を持ったGM3結合物質を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の両親媒性物質の合成は如何なる方法によっても好い。具体的な合成方法の一例として、式(1)で示される化合物の合成法を示す。式(1)で示される化合物は、既知の合成法(特開2005−232061、特許願2005−159038参照)に従って、下のように合成される。
【0010】
式(1)において、mは1から100までの整数が有効であるが、充分に低い非特異相互作用を与えること、化合物調製に必要とする工程数等を考慮すると、好ましくは2から11の整数である。GM3糖鎖の調製法は、如何なる方法を用いても構わない。例えば、下の実施例に示す様に、市販の原料から有機合成のみを用いて調製することも可能であるし、天然由来のGM3糖鎖を用いたトランスグリコシル化(有機合成化学協会誌、2006年、64巻、p.34−48参照)を用いることも可能である。天然由来のGM3ガングリオシドから糖鎖部分を得るには、例えば、市販のエンドグライコセラミダーゼ等の酵素反応が利用できる。
エチレングリコールのオリゴマーまたはポリマーの原料として、市販の化合物を用いることができる。また、任意の長さを持つ単一のオリゴマーおよびその一端または両端の保護体は、例えば、F. A. Loiseau等の方法(J. Org. Chem., 69, 639-647, 2004)に従って合成できる。
【0011】
エチレングリコールのオリゴマーまたはポリマーの一端をアミンに変換した化合物は、例えば、エチレングリコールのオリゴマーまたはポリマーの一端を、まず、トシル化して、次いで、トシル基をヨウ素に置換し、さらに、フタルイミドに変換した化合物をヒドラジンで脱保護することによって得られる。
この様にして得られたエチレングリコールのオリゴマーまたはポリマーの一端がアミノ基に置換された化合物を、長鎖のアルキル基がエーテル結合した3,5−ジヒドロキシ安息香酸あるいは3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(バイオオーガニック・アンド・メディシナル・ケミストリー(Bioorg. Med. Chem.)2002年、10巻、p.4013−4022参照)と、ジシクロヘキシルカルボジイミドや水溶性カルボジイミド等の適当な縮合剤を用いた縮合、あるいは、活性エステル、酸無水物、酸塩化物等のカルボン酸側の活性化法によって結合させることにより、人工脂質部分が合成される。
【0012】
式(1)で示される化合物は、末端が水酸基である上記の化合物に対して、通常用いられるグリコシレーション(例えば、木曽眞編、「生理活性糖鎖研究法」(学会出版センター、東京、1999年)参照)によってGM3糖鎖を導入後、糖鎖部分の脱保護を行うことにより合成される。
【0013】
GM3糖鎖の導入手順は、上記の人工脂質中間体を経て最後にGM3糖鎖導入を行う上記の方法以外に、一端がアミノ基に変換されたエチレングリコールのオリゴマーまたはポリマーのアミノ基を適当な保護基で保護した化合物、あるいは、保護されたアミノ基の代わりに容易にアミノ基に変換可能な官能基(例えば、アジド等)とした化合物に対して、まず、水酸基側に上記と同様の方法でGM3糖鎖導入を行い、次いで、アミノ基の脱保護、あるいは、アミノ基への変換を行い、その後、長鎖のアルキル基がエーテル結合した3,5−ジヒドロキシ安息香酸あるいは3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸との縮合を行う、下の実施例に示した手順を用いることもできる。
【0014】
本発明のGM3糖鎖プローブの固定化は、例えば、以下の手順によって行う。まず、式(1)で示される化合物、あるいは、式(1)で示される化合物を含む混合物を水に懸濁させ、1nMから1M、好ましくは0.1mMから100mMのミセル溶液とし、プラスチックディッシュ、マイクロビーズ、中空糸等の適当な形状を持った疎水性表面に接触させることにより、当該化合物またはその混合物を、それらの疎水性表面上に固定化する。
このようにして固定化されたGM3糖鎖を用いて、GM3糖鎖と結合する物質を精製するには、例えば、以下の手順によって行う。まず、目的とするGM3糖鎖に結合する物質を含む溶液を、式(1)で示される化合物が固定された表面と接触させることにより、GM3糖鎖に結合する物質を捕捉し、次いで、結合しない物質を洗い流す。こうして捕捉されたGM3糖鎖に結合する物質を、例えば、より強い洗いの条件を用いる、あるいは、pHや温度を変化させる、あるいは、酸化や還元や光反応等を用いる、あるいは、蛋白質や糖鎖の消化酵素を用いる等の、適当な手段によって回収することによって、GM3糖鎖構造と選択的に結合する物質を精製することができる。
【0015】
以下に、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記述に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
(GM3糖鎖プローブの合成)
アルゴン雰囲気下、式(2)で示されるラクトース誘導体(458.1mg、0.51mmol;J.Carbohydr.Chem.、1992年、11巻、p.699−714)と、式(3)で示されるチオグリコシド誘導体(603.2mg、1.0mmol;Carbohydr.Res.、1989年、187巻、p.35−42)をアセトニトリル(5ml)に溶解し、モレキュラーシーブス3A(1.75g)を加え、室温で2時間撹拌後、−35℃で17時間撹拌した。N−ヨードコハク酸イミド(466.3mg、2.1mmol)とトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート(38μl、0.21mmol)を加え、−30℃に昇温し24時間撹拌した。トリエチルアミンを用いて中和した後、室温まで昇温し、セライトろ過によりモレキュラーシーブス3Aを除去した。ろ液をクロロホルムで抽出し、有機層をチオ硫酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥した。ろ過、溶媒留去したのち、残さをシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:アセトン=10:1)により精製し、式(4)で示される化合物(347.9mg、50%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 600MHz) Lac unit δ=1.00(m, 2H, Me3SiCH2), 7.15-7.45(m, 25H, 5Ph); NeuAc unit δ=1.87(s, 3H, AcN), 1.88, 1.98, 2.00, 2.09(4s, 12H, 4AcO), 2.47(dd, 1H, Jgem=13.1 Hz, J3e,4=4.8 Hz, H-3e), 3.76(s, 3H, MeO), 4.85(m, 1H, H-4), 5.31(dd, 1H, J6,7=2.1 Hz, J7,8=8.3 Hz, H-7), 5.41(ddd, 1H, H-8).
【化3】

【化4】

【化5】

【0017】
式(4)で示される化合物(340.2mg、0.25mmol)をエタノール(5ml)に溶解し、エタノール(6ml)に懸濁させた20%水酸化パラジウム/炭素粉末(680mg)を加えた。水素ガス流通下25時間撹拌し、セライトろ過により水酸化パラジウムを除去した。溶媒を留去したのち、残さにピリジン(20ml、250mmol)と無水酢酸(10ml、110mmol)を加え、室温にて24時間撹拌した。反応液にメタノール(5ml)を加え、溶媒を留去した。残さをシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:8)により精製し、式(5)で示される化合物(254.5mg、87%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 600MHz) δ=0.84-0.98(m, 2H, Me3SiCH2), 1.85-2.25(m, 33H, 11Ac), 1.68(dd, 1H, Jgem=13.1 Hz, J3a'',4''=13.1 Hz, H-3a''), 2.58(dd, 1H, Jgem=13.1 Hz, J3e'',4''=4.8 Hz, H-3e''), 3.52-3.65(m, 3H), 3.84 (s, 3H, MeO), 3.82-3.91(m, 2H), 3.92-4.06(m, 5H), 4.11(dd, 1H, J=5.5 Hz, 11.7 Hz), 4.39-4.49(m, 3H), 4.52(dd, 1H, J=3.4 Hz, 10.3 Hz), 4.68(d, 1H, J=8.2 Hz), 4.84-4.92(m, 3H), 4.93(dd, 1H, J=8.2 Hz, 10.3 Hz), 5.02(d, 1H, J=10.3 Hz), 5.18(t, 1H, d=9.5 Hz), 5.39(dd, 1H, J6'',7''=2.8 Hz, J7'',8''=9.6 Hz, H-7''), 5.55(ddd, 1H, H-8'').
【化6】

【0018】
式(5)で示される化合物(28.1mg、24.1μmol)を乾燥ジクロロメタン(1ml)に溶解し、トリフルオロ酢酸(0.4ml)を加え、アルゴン雰囲気下、0℃から室温に戻しながら、3時間撹拌した。溶媒を留去した後、残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=15:1)により精製し、還元末端の1位脱保護体(25.2mg、98%)を得た。この脱保護体(25.2mg、23.5μmol)を乾燥ジクロロメタン(1ml)に溶解し、トリクロロアセトニトリル(18.5μl、0.18mmol)と1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(3.6μl、23.5μmol)を加え、アルゴン雰囲気下、0℃で3時間撹拌した。溶媒を留去したのち、残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=15:1、1%トリエチルアミン)により精製し、式(6)で示される化合物(28.0mg、98%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 600MHz) δ=1.68(dd, 1H, Jgem=12.7 Hz, J3a'',4''=12.7 Hz, H-3a''), 2.24, 2.16, 2.09, 2.08, 2.07×2, 2.06×2, 2.05, 2.00, 1.86(11s, 33H, 11Ac), 2.58(dd, 1H, Jgem=12.7 Hz, J3e'',4''=4.5 Hz, H-3e''), 3.73(dd, 1H, J5'',6''=10.3 Hz, J6'',7''=2.8 Hz, H-6''), 3.84-3.87(m, 4H, H-5', OMe), 3.95(t, 1H, J3,4=10.0 Hz, J4,5=10.0 Hz, H-4), 3.98-4.06(m, 4H, H-5'', H-9b'', H-6a', H-6b'), 4.12(ddd, 1H, J4,5=10.0 Hz, J5,6a=2.1 Hz, J5,6b=4.8 Hz, H-5), 4.24(dd, 1H, J5,6b=4.8 Hz, J6a,6b=12.4 Hz, H-6b), 4.42(dd, 1H, J8'',9a''=2.8 Hz, J9a'',9b''=12.0 Hz, H-9a''), 4.43(dd, J5,6a=2.1 Hz, J6a,6b=12.4 Hz, H-6a), 4.51(dd, 1H, J2',3'=10.3 Hz, J3',4'=3.4 Hz, H-3'), 4.67(d, 1H, J1',2'=8.3 Hz, H-1'), 4.88-4.92(m, 2H, H-4'', H-4'), 4.96(dd, 1H, J1',2'=8.3 Hz, J2',3'=10.3 Hz, H-2'), 5.04(d, 1H, J5'',NH=10.3 Hz, NHAc), 5.08(dd, 1H, J1,2=4.1 Hz, J2,3=10.0 Hz, H-2), 5.42 (dd, 1H, J6'',7''=2.8 Hz, J7'',8''=9.6 Hz, H-7''), 5.50(ddd, 1H, J7'',8''=9.6 Hz, J8'',9a''=2.8 Hz, J8'',9b''=4.1 Hz, H-8''), 5.55(t, 1H, J2,3=10.0 Hz, J3,4=10.0 Hz, H-3), 6.49(d, 1H, J1,2=4.1 Hz, H-1), 8.64(s, 1H, NH)
【化7】

【0019】
式(6)で示される化合物(80.2mg、66.2μmol)と17−アジド−3、6、9、12、15−ペンタオキサヘプタデカノール(22.4mg、72.8μmol)を乾燥ジクロロメタン(1.5ml)に溶解し、乾燥ジクロロメタン(0.3ml)で希釈した三フッ化ホウ素エーテル錯体(8.58μl、66.2μmol)を加え、0℃で1時間撹拌した。トリエチルアミンを加えて中和し、溶媒を留去した。残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=25:1)で精製した後、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH−20、クロロホルム:メタノール=7:3)により精製し、式(7)で示される化合物(21.5mg、24%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 600MHz) δ=1.68(dd, 1H, Jgem=12.4 Hz, J3a'',4''=12.4 Hz, H-3a''), 2.24, 2.16, 2.09, 2.08, 2.07×2, 2.06, 2.04, 2.03, 2.01, 1.86(11s, 33H, 11Ac), 2.58(dd, 1H, Jgem=12.4 Hz, J3e'',4''=4.8 Hz, H-3e''), 3.39(m, 2H, CH2), 3.59-3.73(m, 23H, H-6'', H-5, CH2), 3.83-3.93(m, 6H, H-5', H-4, OMe, CH2), 3.97-4.06(m, 4H, H-5'', H-9b'', H-6a', H-6b'), 4.18(dd, 1H, J5,6b=5.5 Hz, J6a,6b=11.7 Hz, H-6b), 4.42(dd, 1H, J8'',9a''=2.8 Hz, J9a'',9b''=13.0 Hz, H-9a''), 4.44(dd, 1H, J5,6a=2.1 Hz, J6a,6b=11.7 Hz, H-6a), 4.52(dd, 1H, J2',3'=10.3 Hz, J3',4'=3.4 Hz, H-3'), 4.55(d, 1H, J1,2=7.6 Hz, H-1), 4.67(d, 1H, J1',2'=7.6 Hz, H-1'), 4.86-4.90(m, 3H, H-4'', H-4', H-2), 4.93(dd, 1H, J1',2'=7.6 Hz, J2',3'=10.3 Hz, H-2'), 5.03(d, 1H, J5'',NH=10.3 Hz, NHAc), 5.18(t, 1H, J2,3=8.9 Hz, J3,4=8.9 Hz, H-3), 5.39(dd, 1H, J6'',7''=2.8 Hz, J7'',8''=9.6 Hz, H-7''), 5.54(ddd, 1H, J7'',8''=9.6 Hz, J8'',9a''=2.8 Hz, J8'',9b''=4.1 Hz, H-8'')
【化8】

【0020】
式(7)で示される化合物(14.9mg、11.0μmol)をエタノール(0.5ml)に溶解し、エタノール(1ml)に懸濁させた10%パラジウムカーボン(14.5mg)を加えた。水素ガス雰囲気下、室温で3時間撹拌した後、セライトろ過によりパラジウムカーボンを除去した。溶媒を留去し、アジド基をアミノ基に変換した誘導体を得た。次に、3、5−ビス(ドデシロキシ)安息香酸(5.60mg、11. 4μmol)を乾燥ジクロロメタン(0.5ml)に溶解し、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(3.01mg、15.7μmol)と1−ヒドロキシトリアゾール(1.97mg、14.6μmol)を加え、室温で1時間撹拌した。乾燥ジクロロメタン(1ml)に溶解させたアミノ基に変換した誘導体を加え、さらに4.5時間撹拌した。溶媒を留去し、残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)により精製し、式(8)で示される化合物(8.2mg、41%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 600MHz) δ=0.88(t, 6H, J=6.9 Hz, terminal H), 1.26-1.34(m, 32H, PhOC3-C8H16), 1.44(m, 4H, PhOC2-CH2), 1.68(dd, 1H, Jgem=12.4 Hz, J3a'',4''=12.4 Hz, H-3a''), 1.76(m, 4H, PhOC-CH2), 2.24, 2.16, 2.09, 2.08×2, 2.07, 2.06, 2.04, 2.02, 2.01, 1.85(11s, 33H, 11Ac), 2.58(dd, 1H, Jgem=12.4 Hz, J3e'',4''=4.5 Hz, H-3e''), 3.59-3.72(m, 25H, H-6'', H-5, CH2), 3.83-3.92(m, 6H, H-5', H-4, OMe, CH2), 3.95-4.06(m, 8H, H-5'', H-9b'', H-6a', H-6', PhOCH2), 4.17(dd, 1H, J5,6b=5.5 Hz, J6a,6b=11.7 Hz, H-6b), 4.42(dd, 1H, J8'',9a''=2.8 Hz, J9a'',9b''=12.7 Hz, H-9a''), 4.44(dd, 1H, J5,6a=2.1 Hz, J6a,6b=11.7 Hz, H-6a), 4.51(dd, 1H, J2',3'=10.3 Hz, J3',4'=3.4 Hz, H-3'), 4.54(d, 1H, J1,2=7.6 Hz, H-1), 4.67(d, 1H, J1',2'=8.3 Hz, H-1'), 4.86-4.91(m, 3H, H-4'', H-4', H-2), 4.93(dd, 1H, J1',2'=8.3 Hz, J2',3'=10.3 Hz, H-2'), 5.05(d, 1H, J5'',NH=10.3 Hz, NHAc), 5.18(t, 1H, J2,3=8.9 Hz, J3,4=8.9 Hz, H-3), 5.39(dd, 1H, J6'',7''=2.8 Hz, J7'',8''=9.6 Hz, H-7''), 5.54(ddd, 1H, J7'',8''=9.6 Hz, J8'',9a''=2.8 Hz, J8'',9b''=5.5 Hz, H-8''), 6.55(t, 1H, J=2.4 Hz, Aromatic H), 6.75(t, 1H, J=5.5 Hz, NHCO), 6.89(d, 2H, J=2.1 Hz, Aromatic H)
【化9】

【0021】
式(8)で示される化合物(10.7mg、5.93μmol)を乾燥メタノール(1ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(0.30mg、5.24μmol)を加え、室温で2時間撹拌した。アンバーライトIR-120(H+)を加え中和し、ろ過した後、溶媒を留去した。残さにテトラヒドロフラン:0.1M水酸化ナトリウム水溶液(1:4、1ml)を加え、室温で1時間撹拌した後、アンバーライトIR-120(H+)を加え中和し、ろ過した。ろ液に0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.0に調整した。溶媒を留去した後、残さをゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH−20、クロロホルム:メタノール=7:3)により精製し、式(9)で示される目的のGM3糖鎖プローブ(7.5mg、89%)を得た。
1H-NMR(CD3OD, 600MHz) δ=0.88(t, 6H, J=7.7 Hz, terminal H), 1.20-1.28(m, 32H, PhOC3-C8H16), 1.38(m, 4H, PhOC2-CH2), 1.65-1.70(m, 5H, H-3a'', PhOC-CH2), 1.91(s, 3H, Ac), 2.75(bd, 1H, Jgem=12.4 Hz, H-3e''), 3.17(t, 1H, J1,2=8.3 Hz, J2,3=8.3 Hz, H-2), 3.31(m, 1H), 3.38-3.59(m, 29H), 3.62-3.69(m, 5H), 3.73-3.83(m, 5H), 3.87-3.91(m, 5H), 3.96(d, 1H, J=9.6 Hz), 4.24(d, 1H, J1,2=8.3 Hz, H-1), 4.33(d, 1H, J1',2'=7.6 Hz, H-1'), 6.51(t, 1H, J=2.1 Hz, Aromatic H), 6.87(d, 2H, J=2.1 Hz, Aromatic H)
MALDI-TOFMS (Dithranol) m/z 1367.4 ([M-H]+)
【化10】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、新規なGM3糖鎖結合物質を提供するものであり、GM3ガングリオシドが関与する疾病、病態の診断等に有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GM3ガングリオシドの糖鎖構造を、オリゴエチレングリコールを介して、脂質構造に結合した両親媒性物質。
【請求項2】
式(1)で示される両親媒性物質。
【化1】

(ただし、式中で、mは1から100までの整数を、nは11から17までの整数を、RはO(CH2nCH3またはHを表す。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した両親媒性物質、または、それを含む混合物を疎水表面に固定化して得られるGM3糖鎖提示素材を用いることを特徴とするGM3糖鎖に結合する物質の精製法。
【請求項4】
請求項3に記載したGM3糖鎖に結合する物質の精製法によって得られるGM3糖鎖結合物質。

【公開番号】特開2008−74720(P2008−74720A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252731(P2006−252731)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】