説明

GNSS受信装置および測位装置

【課題】BOC信号を用いた場合にコード初期値が取り得るコード位相差値の範囲を広くすることができるGNSS受信装置を実現する。
【解決手段】コード位相差検出部250は、E相関値とL相関値との和からE+L相関値を算出する。コード位相差検出部250は、E+L相関値に定数Kを乗算してP相関値に加算することで相関係数を設定する。コード位相差検出部250は、設定した相関係数を、E相関値とL相関値との差分からなるE−L相関値に乗算することで、ドットプロダクト演算値を算出する。この際、E相関値の元となるEarlyコード信号およびL相関値の元となるLateコード信号を決める位相差τ2、および定数Kは、P相関特性の負値領域をE相関値およびL相関値の正値領域で補正して正値方向へ拡張するような値に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定周波数のキャリア信号に対して擬似雑音コード(PNコード)およびバイナリオフセットキャリア(BOC)信号でスペクトル拡散を行った測位信号を受信するGNSS受信装置および該GNSS受信装置を備える測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GNSS(Global Navigation Satellite System;全世界的航法衛星システム)に用いるGNSS測位装置では、所定周波数のキャリア信号を擬似雑音コード(PNコード)等によりスペクトル拡散させた測位信号を受信して復調する。このようなGNSS測位装置の復調部は、一般的にDLL回路を備え、PNコードに基づくレプリカコードを生成し、受信した測位信号(受信信号)と、当該レプリカコードとの相関処理を行い、相関処理結果に基づくコード位相差を利用して、PNコードの捕捉および追尾を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
そして、このようなPNコードの捕捉、ロックおよび追尾には、一般的にドットプロダクト方式が用いられている。ドットプロダクト方式を用いた復調部では、コード制御データに基づいてレプリカコードを生成し、当該レプリカコードから互いに異なる位相で生成された三つのEarlyコード、Promptコード、Lateコードを用いる。ここで、Promptコードはコード制御データから得られる目的とするタイミングのコードであり、EarlyコードはPromptコードよりも所定位相進んだ位相のコードであり、LateコードはPromptコードよりも所定位相遅れた位相のコードである。復調部は、これら三つのコードと受信信号との相関処理を行い、Earlyコードと受信信号との相関処理結果であるE相関値、Promptコードと受信信号との相関処理結果であるP相関値、Lateコードと受信信号との相関処理結果であるL相関値とを取得する。復調部は、E相関値とL相関値との差分値であるE−L相関値を算出し、該E−L相関値とP相関値と乗算値からコード位相差を算出する。このような演算処理を行うことで、例えば、従来のGPSのL1波(C/Aコード)に用いる復調部では、図5に示すような相関特性が得られる。
【0004】
図5は、Earlyコード、Promptコード、Lateコード間のコード位相差を0.1chipとした場合の従来のL1波(C/Aコード)を用いたコード相関特性を示す図である。図5(A)はE相関値、P相関値、L相関値の各特性を示し、図5(B)はE−L相関特性を示し、図5(C)はドットプロダクト演算値(DP演算値)の特性を示す。ここでは、現実的な処理で利用するI,Q信号のことを省略して概念的に単純化した、DP演算値=E−L相関値/P相関値から得られるものとする。
【0005】
そして、コードをロックさせる場合、コード位相差が「0」になるように、すなわちP相関値が極大値となるようにすれば良く、これはDP演算値がコード位相差の増加する方向に対して相関値が正から負方向へ変化しながらゼロクロスさせるように、もしくはコード位相差の減少する方向に対して相関値が負から正方向へ変化しながらゼロクロスさせるようにコード制御データを設定すればよい。
【0006】
一方で、このようなドットプロダクト方式の場合、DP演算値がコード位相差の増加する方向に対して相関値が負から正方向へ変化しながらゼロクロスするタイミングやコード位相差の減少する方向に対して相関値が正から負方向へ変化しながらゼロクロスするタイミングでは、発散点となり、コードのロックに利用することができない。したがって、図5に示すように、従来のL1波(C/Aコード)でコードをロックするためには、±1.0chipの範囲内に捕捉後のコード初期値が与えられればよい。
【特許文献1】特開2007−208904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、GNSSの一種であるGalileoシステムでは、キャリア信号に対して、上述のPNコードと当該PNコードの1chipよりも短い周期で反転を繰り返すサブキャリアとを重畳することでスペクトル拡散を行っている。このようなスペクトル拡散が行われた信号は、一般にBOC(バイナリオフセットキャリア)信号と呼ばれており、特に、Galileoシステムでは、PNコードの1chipの半分の周期のサブキャリアが用いられており、BOC(1,1)信号と呼ばれている。図6は、PNコード、サブキャリア、BOC(1,1)信号の波形を示す図である。
【0008】
このようなBOC(1,1)信号を用いた場合、従来のドットプロダクト方式をそのまま用いると、以下に示す問題が発生する。
【0009】
図7(A)はBOC(1,1)信号のコード相関特性とサブキャリアを用いないGPSのL1C/Aコードの相関特性とのPromptコードでの関係を示し、図7(B)はEarlyコード、Promptコード、Lateコード間のコード位相差を0.1chipとした場合のBOC(1,1)信号を用いたコード相関特性を示す図である。さらに、図7(C)はBOC(1,1)信号のE-L相関特性を示し、図7(D)はBOC(1,1)信号の従来のドットプロダクト演算値(DP演算値)の特性を示す。
【0010】
図7(A)に示すように、BOC(1,1)信号のP相関値は、コード位相差0の位置を正の極大とするメインローブを有し、コード位相差+0.5chipおよび−0.5chipの位置を負の極大とする二つのサイドローブを有する。
【0011】
このため、BOC(1,1)信号のPコード相関値では、コード位相差0を挟む正負の方向にそれぞれ1chipのコード位相差範囲(サブキャリアを利用しない場合のコード相関特性においてゼロクロスが発生しない範囲)内において、二回のゼロクロス点が発生する。このゼロクロス点は、コード位相差0を中心にして±0.33chipのコード位相差位置となる。この場合、コード相関特性は、コード位相差0を中心にした±0.33chipの範囲内で正値になり、これ以外の範囲(−1.0〜−0.33chip,+0.33chip〜+1.0chip)で負値となる。
【0012】
このようなコード相関特性を有するBOC(1,1)信号において、コード位相差を0.1chipとして、図7(B)に示すEarlyコード、Promptコード、Lateコードを生成した場合、図7(C)に示すE−L相関特性となる。そして、このE−L相関特性に基づくE−L相関値とP相関値とを用いて、従来のDP演算値を算出すると、図7(D)に示すDP演算値の特性となる。
【0013】
BOC(1,1)信号を用いた場合、上述のようにコード相関特性がPNコードの2chip範囲内で二度反転するので、図7(D)に示すように、従来方式のDP演算値を用いると、発散点となるゼロクロス点が、−1.0chip位置および+1.0chip位置にならず、よりコード位相差0に近い−0.33chip位置および+0.33chip位置になる。このため、±0.33chipの範囲内に捕捉後のコード初期値が入っていなければ、目的とするメインローブへコードをロックさせることができず、二つのサイドローブの何れかにロックしてしまう。特に、受信環境によりC/Noが低い場合にはメインローブとサイドローブとのピーク値の差がなくなってくるので、従来のように0.5chip毎の相関レベルを観測しながら捕捉を行うと、サイドローブにロックする範囲内に捕捉後のコード初期値が入ってしまい、サイドローブへのロックである所謂「False Lock」が生じる可能性が高くなる。一方、捕捉時点での相関レベルの観測のチップ間隔を狭くすれば、「False Lock」の生じる可能性は低くなるが、「False Lock」を完全に防止することは難しく、捕捉時間も長くなり、実用的ではなくなる。
【0014】
したがって、本発明の目的は、バイナリオフセットキャリアを用いても「Fasle Lock」を防止することができるGNSS受信装置およびこれを備える測位装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、擬似雑音コードとサブキャリアとによって変調されている測位信号を受信するGNSS受信装置に関するものである。そして、このGNSS受信装置は、レプリカコード生成部、相関処理部、およびコード位相差検出部を備える。レプリカコード生成部は、互いに位相が異なるアーリレプリカコード、プロンプトレプリカコード、およびレイトレプリカコードを生成する。相関処理部は、受信した測位信号とアーリレプリカコードとの相関値であるE相関値、受信した測位信号とプロンプトレプリカコードとの相関値であるP相関値、および、受信した測位信号とレイトレプリカコードとの相関値であるL相関値、を算出する。コード位相差検出部は、E相関値とL相関値との加算値であるE+L相関値、E相関値とL相関値との差分値であるE−L相関値およびP相関値に基づいて、受信した測位信号とプロンプトレプリカコードとのコード位相差を検出する。
【0016】
また、この発明のGNSS受信装置のコード位相差検出部は、E+L相関値の定数倍値とP相関値との加算値にE−L相関値を乗算することでコード位相差を検出する。
【0017】
さらに、この発明のGNSS受信装置のレプリカコード生成部は、P相関値が負となるコード位相差において、E+L相関値が正となるようにアーリレプリカコードおよびレイトレプリカコードを生成する。
【0018】
このような構成では、コード位相差領域の0近傍におけるP相関値が負値の領域でE+L相関値が正値となり、さらにE+L相関値の定数倍値とP相関値とが加算されることで、これらの加算値からなる相関係数は、元のP相関値と比較して正方向へ大きくなる。したがって、当該相関係数をE−L相関値に乗算すれば、乗算後の相関値すなわち本願方法による新たなドットプロダクト演算値の特性は、(E−L)/P相関値の特性よりも、発散点間の相関値が正値を取る範囲が広くなる(図4参照)。
【0019】
また、この発明のGNSS受信装置のレプリカコード生成部は、互いに位相が異なる第1アーリレプリカコード、第2アーリレプリカコード、第1レイトレプリカコード、および第2レイトレプリカコードを生成する。コード位相差検出部は、第1アーリレプリカコードと第1レイトレプリカコードとに基づいてE−L相関値を算出し、第2アーリレプリカコードと第2レイトレプリカコードとに基づいてE+L相関値を算出する。
【0020】
この構成では、E+L相関値に利用する第2アーリレプリカコードおよび第2レイトレプリカコードの位相差と、E−L相関値に利用する第1アーリレプリカコードおよび第1レイトレプリカコードとで位相差とが異なることで、コード位相差領域の0近傍におけるP相関値が負値の領域でE+L相関値を正値とする構成がより容易に実現可能となる。
【0021】
また、この発明の測位装置は、上述のGNSS受信装置を有する。そして、当該GNSS受信装置は、さらに、コード位相差から擬似距離を算出する擬似距離算出部を備えるとともに、GNSS受信装置で受信されて復調された測位信号から航法メッセージを取得する航法メッセージ取得部と、擬似距離と航法メッセージとを用いて測位演算を行う測位部と、を備える。
【0022】
この構成では、上述のGNSS受信装置を用いることでコードロックが正確に行えるようになる。これにより、高精度な擬似距離の算出が可能になるとともに、航法メッセージを正確に取得することが可能となり、確実且つ高精度な測位を実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、BOC(1,1)信号等のバイナリオフセットキャリアを用いた場合であっても、捕捉後のコード初期値が取り得るコード位相差値の範囲を、従来よりも広くすることができる。これにより、「False Lock」を生じさせないコード初期値のコード位相差範囲が広くなるので、より確実に、目的とするコードにロックすることができる。これにより、より確実に、正確なコード追尾を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るGNSS受信装置の構成について、図を参照して説明する。
【0025】
図1は本実施形態のGNSS受信装置を備える測位装置の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
測位装置は、測位信号受信アンテナ11、本発明のGNSS受信装置に対応する復調部12、航法メッセージ取得部13、および測位部14を備える。
【0027】
測位信号受信アンテナ11は、測位衛星から送信される測位用の電波信号を受信して、電気信号変換したRF信号を復調部12へ出力する。ここで、送信される信号すなわちRF信号は、航法メッセージが重畳された所定周波数からなるキャリア信号を、PNコードとサブキャリアとによりスペクトル拡散したBOC(1,1)信号である。PNコードは測位衛星毎に予め設定された信号であり、サブキャリアはPNコードの1チップの時間長の半周期を反転周期とする矩形信号である(図6参照)。
【0028】
復調部12の詳細な構成は後述し、機能的には、復調部12は、RF信号のベースバンド信号とレプリカコードとの相関処理により得られるコード位相差を観測しながら、レプリカコードの位相を制御することでコードのロックを行う。復調部12は、コードのロックに成功するとコード追尾を行いながらRF信号の復調(逆拡散処理)を行い、復調信号を航法メッセージ取得部13へ与え、観測されるコード位相差から擬似距離を算出して測位部14へ与える。
【0029】
航法メッセージ取得部13は、復調部12からの航法メッセージが重畳された復調信号に基づいて航法メッセージを取得し、測位部14に与える。測位部14は、航法メッセージ取得部13からの航法メッセージと、復調部12からの擬似距離とを用いて測位演算を行い、測位装置の位置を算出する。
【0030】
次に、本発明の特徴部である復調部12の構成について、より具体的に説明する。
図2は、図1に示した復調部12の主要構成を示すブロック図である。
【0031】
復調部12は、A/D変換部21、ベースバンド変換部22、相関器231〜240、コード位相差検出部250を有する復調制御部25、コード生成部26、キャリア生成部27を備える。
【0032】
A/D変換部21は、BOC(1,1)信号方式のRF信号を所定周波数からなる中間周波数信号(IF信号)にダウンコンバートするとともに、アナログ形式からデジタル形式に変換してベースバンド変換部22へ出力する。
【0033】
ベースバンド変換部22は、キャリア生成部27から出力されたレプリカキャリア信号Scarrのsin成分とcos成分とを用いてIF信号からベースバンドのI信号およびQ信号を生成する。I信号は相関器231〜235へ入力され、Q信号は相関器236〜240へ入力される。ここで、キャリア生成部27は復調制御部25からのキャリア制御データDcarrに基づいてキャリア信号Scarrを生成し、復調制御部25は、コード位相差や図示しないキャリア追尾ループによって得られるキャリア誤差に基づいて、キャリア制御データDcarrを生成する。
【0034】
コード生成部26は、復調制御部25からのコード制御データDcodに基づいて、各サンプリングタイムで位相を制御したレプリカコード信号を生成する。さらに、コード生成部26は、シフトレジスタ等を備え、生成したレプリカコード信号を所定タイミングずつずらしてなる二種類のEarlyコード信号CE1,CE2、Promptコード信号CP、二種類のLateコード信号CL1,CL2を出力する。
【0035】
Promptコード信号CPは相関器233,238へ入力される。Earlyコード信号CE1はPromptコード信号CPに対してコード位相差τ1だけ進む位相からなり、相関器232,237へ入力される。Lateコード信号CL1はPromptコード信号CPに対してコード位相差τ1だけ遅れる位相からなり、相関器234,239へ入力される。また、Earlyコード信号CE2はPromptコード信号CPに対してコード位相差τ2だけ進む位相からなり、相関器231,236へ入力される。Lateコード信号CL2はPromptコード信号CPに対してコード位相差τ2だけ遅れる位相からなり、相関器235,240へ入力される。
【0036】
相関器231は、Earlyコード信号CE2とI信号との相関処理を行い相関値RIE2を出力する。相関器232は、Earlyコード信号CE1とI信号との相関処理を行い相関値RIE1を出力する。相関器233は、Promptコード信号CPとI信号との相関処理を行い相関値RIPを出力する。相関器234は、Lateコード信号CL1とI信号との相関処理を行い相関値RIL1を出力する。相関器235は、Lateコード信号CL2とI信号との相関処理を行い相関値RIL2を出力する。
【0037】
相関器236は、Earlyコード信号CE2とQ信号との相関処理を行い相関値RQE2を出力する。相関器237は、Earlyコード信号CE1とQ信号との相関処理を行い相関値RQE1を出力する。相関器238は、Promptコード信号CPとQ信号との相関処理を行い相関値RQPを出力する。相関器239は、Lateコード信号CL1とQ信号との相関処理を行い相関値RQL1を出力する。相関器240は、Lateコード信号CL2とQ信号との相関処理を行い相関値RQL2を出力する。
【0038】
復調制御部25は、コード位相差検出部250を備える。コード位相差検出部250は、各相関器231〜240からの相関値に基づいて、本願の新たなドットプロダクト方式を用いてコード位相差を検出する。復調制御部25は取得したコード位相差に基づいて、コード制御データDcodを生成してコード生成部26へ出力する。また、復調制御部25は、取得したコード位相差から擬似距離を算出して、測位部14へ出力する。
【0039】
このような復調制御部25のコード位相差検出部250は、次に示す方法でコード位相差検出を行う。
【0040】
図3は、本実施形態のコード位相差検出の概念を説明するための図である。図3(A)は相関値RIP,RQPの相関特性であるP相関特性、相関値RIE2,RQE2の特性であるE相関特性、相関値RIL2,RQL2の特性であるL相関特性の関係を示す相関特性図である。図3(B)は従来のドットプロダクト方式の相関係数CoPと本願のドットプロダクト方式の相関係数CoP’との関係を示す相関特性図である。図3(C)はBOC(1,1)信号のE-L相関特性を示し、図3(D)はBOC(1,1)信号に対する本実施形態の方法によるドットプロダクト演算値(DP演算値)の特性を示す。なお、図3ではI成分、Q成分の区別を付けることなく相関特性を記載している。
【0041】
コード位相差検出部250は、相関値RIPと相関値RIE2,RIL2とを用いて、次式からI相関係数CoP’Iを算出する。なお、式(1)においてKは正の定数である。
【0042】
CoP’I=K(RIE2+RIL2)+RIP −(1)
同様に、コード位相差検出部250は、相関値RQPと相関値RQE2,RQL2とを用いて、次式からQ相関係数CoP’Qを算出する。なお、式(2)においてKは式(1)と同じ正の定数である。
【0043】
CoP’Q=K(RQE2+RQL2)+RQP −(2)
すなわち、相関係数CoP’I、CoP’Qは、E相関値とL相関値との和であるE+L相関値に定数Kを乗算し、P相関値に加算することで得られる。
【0044】
コード位相差検出部250は、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Q、相関値RIE1,RIL1、および相関値RQE1,RQL1を用いて、次式からコード位相差Ecodを算出する。
【0045】
Ecod={CoP’I・(RIE1−RIL1)+CoP’Q・(RQE1−RQL1)}/{(CoP’I2+(CoP’Q2} −(3)
すなわち、コード位相差Ecodは、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qの二乗和を分母とし、I信号におけるE相関値とL相関値との差分であるE−L相関値に相関係数CoP’Iを乗算した値と、Q信号におけるE相関値とL相関値との差分であるE−L相関値に相関係数CoP’Qを乗算した値との加算値を分子として、除算することで得られる。
【0046】
ここで、相関値RIE2,RIL2、および相関値RQE2,RQL2を決定するPromptコード信号CPに対するEarlyコード信号CE2およびLateコード信号CL2の位相差であるτ2は、Promptコード信号CPの相関値RIP,RQPが負値となるコード位相差範囲が、Earlyコード信号CE2およびLateコード信号CL2の相関値RIE2,RIL2,RQE2,RQL2が正値となるコード位相差範囲に重なるように設定されている。さらに定数Kは、当該重なり合うコード位相差範囲において、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qが可能な限り正値となるように設定されている。
【0047】
このような演算処理を行うことで、図3(B)に示すように、従来の単にP相関特性に基づいた相関係数CoPを用いた場合よりも、メインローブに対応する正値の領域におけるゼロクロス点近傍の相関値を正値側に押し上げるとともに、ゼロクロス点となるコード位相差位置がコード位相差「0」から離れるように、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qを設定することができる。
【0048】
これにより、例えば、図3の場合であれば、位相差τ2=0.38とし、定数K=0.9とすることで、P相関値のみを用いた場合のゼロクロス点が±0.33chipであったものを、図3(D)に示すように、±約0.5chipまで広げることができる。
【0049】
なお、このような本実施形態のI相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qは、次に示す条件を満たすように設定されている。
【0050】
(条件1)ドットプロダクト演算処理後の真のゼロクロス点(Promptコード信号CPの極大値に対応する点)での傾きが負値になること。ここで、E−L相関値は、真のゼロクロス点で必ず傾きが負値となる。したがって、真のゼロクロス点付近では、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qは、正値であることが必要である。
【0051】
(条件2)ドットプロダクト演算処理後の特性は、航法メッセージによるビット反転の影響を無くせるものであること。これは、ベースバンド信号には航法メッセージが重畳されており、航法メッセージがビット反転するために、E−L相関値もこのビット反転のタイミングで反転する。したがって、I相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Qも、このビット反転のタイミングで反転させる必要があり、絶対値化や二乗操作により得られるものであってはならない。すなわち、P相関値、E相関値、およびL相関値の和もしくは差のみでI相関係数CoP’I、Q相関係数CoP’Q を決定する。
【0052】
このような設定を行うことで、コード位相差検出部250は、図4に示すようなコード位相差検出特性を得ることができる。
【0053】
図4は、本実施形態のドットプロダクト方式を用いた場合のコード位相差検出器出力値(ドットプロダクト演算値DPに対応)のコード位相差特性をシミュレーションした結果を示した図であり、図4(A)がC/No=50[dB−Hz]の場合を示し、図4(B)がC/No=40[dB−Hz]の場合を示し、図4(C)がC/No=30[dB−Hz]の場合を示す。図4において、白抜き○で表される濃色の特性曲線が本実施形態のドットプロダクト方式を用いた結果であり、黒ドットで表される淡色の特性曲線が従来のドットプロダクト方式を用いた結果である。
【0054】
図4に示すように、本実施形態のドットプロダクト方式を用いることで、発散点を±約0.33chipから±約0.5chipまでシフトさせることができる。これにより、真のゼロクロス点を含むコード位相初期値の取り得るコード位相差範囲を広げることができる。この結果、上述の所謂「False Lock」の発生する可能性を低くすることができる。
【0055】
さらに、図4に示すように、真のゼロクロス点での特性曲線の傾きが従来のドットプロダクト方式の場合に対して殆ど変化しないので、真のゼロクロス点の検出を、従来と同等のレベルで行うことができる。これにより、従来の方法と同じ精度でコードロック及び追尾を行うことができる。
【0056】
このように、コード位相差検出部250により、上述の式(3)からなるドットプロダクト方式を用いてドットプロダクト演算値(DP演算値)を算出し、コード位相差を検出すると、復調制御部25は、当該コード位相差が「0」に向かうようにコード制御データを設定する。すなわち、復調制御部25は、コード位相差特性上において、ドットプロダクト演算値が正値であれば、真のゼロクロス点に向かってドットプロダクト演算値が変化するように、コード位相を進めるコード制御データを生成する。一方、復調制御部25は、ドットプロダクト演算値が負値であれば、真のゼロクロス点に向かってドットプロダクト演算値が変化するように、コード位相を遅延させるコード制御データを生成する。復調制御部25は、このように生成したコード制御データを、コード生成部26へフィードバックする。コード生成部26は、得られたコード制御データを次のサンプリングタイミングでの相関処理に用いる。
【0057】
なお、復調制御部25は、コードがロックされて追尾状態になると、擬似距離を算出して測位部14へ出力する。
【0058】
以上のように、本実施形態の構成からなるGNSS受信装置を用いることで、「False Lock」の発生する可能性を抑圧し、且つ従来に劣ることない精度でコード位相差を検出することができるので、確実且つ高精度にコードのロックおよび追尾を行うことができる。
【0059】
そして、このような確実且つ高精度なコードロックと追尾を行うことができるので、復調制御部25では、高精度なRF信号の復調が可能になるとともに、高精度な擬似距離を得ることもできる。これにより、本実施形態の測位装置は、高精度な測位を実現することができる。
【0060】
なお、上述の条件に加えて、次の条件を満たすようにすることで、より高精度なコード位相差検出を行うことができる。すなわち、上述の位相差τ2の大きさによっては、Promptコード信号CPの相関値RIP,RQPが正値となるコード位相差範囲において、Earlyコード信号CE2およびLateコード信号CL2の相関値RIE2,RIL2,RQE2,RQL2が負値となることも考えられる。このような場合には、相関値RIP,RQPが低下しすぎないようにKを設定する必要があり、当該設定を行うことで高精度なコード位相差検出を行うことができる。
【0061】
また、上述の実施形態では、E+L相関値のための位相差τ2=0.38、定数K=0.9の場合で、E−L相関値のための位相差が0.1の場合を例に説明したが、上述の条件1、条件2を満たすような組み合わせを備えていれば、E−L相関値に応じたE+L相関値のための位相差τ2および定数Kを、適宜設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係るGNSS受信装置に相当する復調部を含む測位装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す復調部12の主要構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態のコード位相差検出の概念を説明するための図である。
【図4】本実施形態のドットプロダクト方式を用いた場合のコード位相差検出器出力値のコード位相差特性をシミュレーションした結果を示した図である。
【図5】Earlyコード、Promptコード、Lateコード間のコード位相差を0.1chipとした場合の従来のL1波(C/Aコード)を用いたコード相関特性を示す図である。
【図6】BOC(1,1)信号、PNコード、サブキャリアの波形を示す図である。
【図7】BOC(1,1)信号のコード相関特性を説明するための図である。
【符号の説明】
【0063】
11−測位信号受信アンテナ、12−復調部、13−航法メッセージ取得部、14−測位部、21−A/D変換部、22−ベースバンド変換部、231〜240−相関器、25−復調制御部、250−コード位相差検出部、26−コード生成部、27−キャリア生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似雑音コードとサブキャリアとによって変調されている測位信号を受信するGNSS受信装置であって、
互いに位相が異なるアーリレプリカコード、プロンプトレプリカコード、およびレイトレプリカコードを生成するレプリカコード生成部と、
受信した前記測位信号と前記アーリレプリカコードとの相関値であるE相関値、受信した前記測位信号と前記プロンプトレプリカコードとの相関値であるP相関値、および、受信した前記測位信号と前記レイトレプリカコードとの相関値であるL相関値、を算出する相関処理部と、
前記E相関値と前記L相関値との加算値であるE+L相関値、前記E相関値と前記L相関値との差分値であるE−L相関値および前記P相関値に基づいて、前記受信した測位信号と前記プロンプトレプリカコードとのコード位相差を検出するコード位相差検出部と、
を備えたGNSS受信装置。
【請求項2】
前記コード位相差検出部は、E+L相関値の定数倍値と前記P相関値との加算値に、前記E−L相関値を乗算することで前記コード位相差を検出する、請求項1に記載のGNSS受信装置。
【請求項3】
前記レプリカコード生成部は、前記P相関値が負となる前記コード位相差において、前記E+L相関値が正となるように前記アーリレプリカコードおよび前記レイトレプリカコードを生成する、請求項1または請求項2に記載のGNSS受信装置。
【請求項4】
前記レプリカコード生成部は、互いに位相が異なる第1アーリレプリカコード、第2アーリレプリカコード、第1レイトレプリカコード、および第2レイトレプリカコードを生成し、
前記コード位相差検出部は、前記第1アーリレプリカコードと前記第1レイトレプリカコードとに基づいてE−L相関値を算出し、前記第2アーリレプリカコードと前記第2レイトレプリカコードとに基づいてE+L相関値を算出する、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のGNSS受信装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のGNSS受信装置を有し、
該GNSS受信装置は、前記コード位相差から擬似距離を算出する擬似距離算出部を備えるとともに、
前記GNSS受信装置で受信されて復調された前記測位信号から航法メッセージを取得する航法メッセージ取得部と、前記擬似距離と前記航法メッセージとを用いて測位演算を行う測位部と、を備えた測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−60436(P2010−60436A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226555(P2008−226555)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】