GNSS受信装置及び測位方法
【課題】マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させること。
【解決手段】GNSS受信装置は、C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号とGNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号とGNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、該重み付けと、第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、該擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部とを有する。
【解決手段】GNSS受信装置は、C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号とGNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号とGNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、該重み付けと、第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、該擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS用周回衛星からの信号を受信し、測位するGNSS受信装置及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星航法(GNSS: Global Navigation Satellite System)とは、航空機から3つの航法衛星(GNSS用周回衛星)(以下、GNSS衛星と呼ぶ)を捕捉することで各GNSS衛星からの距離を得るとともに、4つ目の航法衛星からの信号で時刻合わせを行い、航空機の3次元での飛行位置を得ることができる航法システムである。衛星航法には、全地球的測位システム(GPS: Global Positioning System)、ガリレオ(GALILEO)などが含まれる。
【0003】
例えば、GNSS受信装置は移動体に搭載され、該移動体の位置及び速度を測位する。例えば、GNSS受信装置は、複数のGNSS衛星からの電波を受信することによって、複数のGNSS衛星から当該GNSS受信装置までの距離(擬似距離)をそれぞれ算出し、該擬似距離に基づいて当該GNSS受信装置が搭載された移動体の測位を行う。GNSS衛星により発射された信号は、GNSS衛星とGNSS受信装置との間の距離を電波が伝搬する時間だけ遅れてGNSS受信装置に到達する。従って、複数のGNSS衛星について電波伝搬に要する時間を求めれば、測位演算によってGNSS受信装置の位置を求めることができる。例えば、複数のGNSS衛星により発射された電波は、GNSS受信装置の測距部において、各GNSS衛星からGNSS受信装置までの距離が求められる。そして、測位演算部において、測距部において求められた距離に基づいて、GNSS受信装置の位置が求められる。
【0004】
GNSS受信装置が搭載された移動体において、正確な位置を測定するためには、最低でも4機のGNSS衛星を捕捉できればよい。例えば、郊外では、電波経路を遮蔽する物体が少ないので、移動体で4機以上のGNSS衛星を捕捉することは容易である。一方、都市部では、高層ビル等の建物が密集しており、電波経路を遮蔽する物体が多いので、移動体で4機以上のGNSS衛星を捕捉することは困難である。また、都市部では、GNSS衛星を捕捉できた場合でも、該GNSS衛星からの直接波ばかりでなく、高層ビル等の建物で反射・回折した電波も受信してしまう場合がある。GNSS衛星から送信された電波が反射・回折して、複数の伝搬経路から受信される現象は、マルチパスとも呼ばれる。マルチパスの影響により、受信アンテナとGNSS衛星との間の測距において誤差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-266836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マルチパスによる測位誤差を減少させる方法として、遅延同期ループ(DLL: Delay-lock loop)の帯域幅を狭めることが提案されている。GPS受信装置は、GPS衛星により送信された擬似雑音符号(PN(pseudo-noise) Sequence)を受信し、該擬似雑音符号とGPS受信装置により発生させた局部擬似雑音符号との相関を取ることにより同期をとる。該同期をとるために遅延同期ループが採用される。
【0007】
図1は、GPS受信装置の一例を示す。図1には、主に遅延同期ループ回路が示される。
【0008】
GPS受信装置は、GPS衛星により送信された高周波信号を変換し、中間周波数の信号を出力する高周波回路1と、該高周波回路1により出力される中間周波数の信号に基づいてC/Aコード位相を求める遅延同期ループ回路10と、該遅延同期ループ回路10により出力されるC/Aコード位相に基づいて、衛星距離を算出する距離算出部7とを有する。
【0009】
高周波回路1により入力された中間周波数の信号は、乗算器2に入力される。乗算器2では、該中間周波数の信号と、C/Aコード発生器6により入力されるC/Aコードとが乗算されることにより、中間周波数の信号からC/Aコードが除去される。C/Aコードが除去された中間周波数の信号は、積分器3に入力される。積分器3では、C/Aコードが除去された中間周波数の信号(コード残差)を積算する。残差の積算値(C/Aコード位相)は、LPF(Low-pass filter)4、及び距離算出部7に入力される。LPF4では、C/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF4によりフィルタリングされる帯域幅は、車速に基づいて制御される。LPF4により出力される位相残差は、数値制御発振器5に入力される。数値制御発振器5では、周波数残差に、位相残差を変換し、該周波数残差を出力する。周波数残差は、C/Aコード発生器6に印加される。C/Aコード発生器6は、数値制御発振器5により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整する。一方、距離算出部7は、積分器3により入力されたC/Aコード位相から擬似距離を算出する。
【0010】
GPS衛星からの電波の反射波の変動周期(フェージング帯域幅)Bfと、DLLのループ帯域幅B1と、マルチパスによる測位誤差との間には、以下の関係が成立することが知られている。Bf/B1が大きいと測位誤差は生じず、Bf/B1が小さいと測位誤差が生じる。また、Bfは、GPS受信装置の移動速度に比例する。従って、GPS受信装置の移動速度が低速の時には、測位誤差が生じるので、DLLのループ帯域幅B1を狭くすることにより、測位誤差を低減できる。
【0011】
しかし、GPS受信装置の移動速度が所定の速度よりも低速になった場合には、該移動速度に応じて、DLLのループ帯域幅B1を所定の限度以下にすることは困難である。具体的には、ループ帯域幅が2MHz以下となると、C/Aコードを復調可能な帯域幅以下となる。C/Aコードを復調可能な帯域幅以下では、GPS衛星からの信号をデコードできなくなる。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。ループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅以下にすることは困難であるため、GPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度よりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅B1をC/Aコードを復調可能な帯域幅に設定する。
【0012】
しかし、GPS受信装置の移動速度がさらに低速になってもDLLのループ帯域幅B1をC/Aコードを復調可能な帯域幅に設定し続ける場合、移動速度に応じて、マルチパスによる測位誤差を低減できない。
【0013】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができるGNSS受信装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本GNSS受信装置は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有する。
【0015】
本方法は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該測位演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する。
【発明の効果】
【0016】
開示のGNSS受信装置及び測位方法によれば、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】GNSS受信装置の機能ブロック図の一例である。
【図2】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図3】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるスムージング処理部を示す機能ブロック図である。
【図4】一実施例に従ったGNSS受信装置における重み係数の設定例を示す説明図である。
【図5】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【図6】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図7】車両の速度が異なる場合の時間に対するC/Aコード位相の変動を示す説明図である。
【図8】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるDLLのループ帯域幅の設定例を示す説明図である。
【図9】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【図10】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるPコード位相距離推定部を示す機能ブロック図である。
【図11】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0019】
<第1の実施例>
<システム>
本実施例に従った全世界航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)は、地球周りを周回するGNSS衛星と、地球上に位置し地球上を移動しうるGNSS受信装置100とを備える。本実施例では、GNSSの一例としてGPSについて説明する。GPS以外のGNSSに適用してもよい。
【0020】
GNSS衛星は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGNSS衛星に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナック)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれる。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散され、L1帯の搬送波(周波数:1575.42MHz)に載せられて、地球に向けて常時放送されている。また、航法メッセージは、Pコードにより拡散され、L2帯の搬送波(周波数:1227.6MHz)に載せられて、地球に向けて常時放送されている。
【0021】
L1帯の搬送波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波との合成波であり、直交変調されている。また、L2帯の搬送波は、Pコードで変調されたCos波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1とが不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0022】
尚、現在、約30個のGNSS衛星が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面があり、各々の軌道面に4個以上のGNSS衛星が均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGNSS衛星が観測可能である。
【0023】
<GNSS受信装置>
GNSS受信装置100は、例えば、移動体に搭載される。移動体には、車両、自動二輪車、列車、船舶、航空機、ロボットなど、また、人の移動に伴い移動する携帯端末などの情報端末などが含まれる。本実施例では、移動体の一例として、車両に搭載される場合について説明する。
【0024】
本GNSS受信装置100は、L1帯のC/Aコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L1-C/A)回路」と記載する)と、L1帯のPコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L1-P)回路」と記載する)と、L2帯のPコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L2-P) 回路」と記載する)とを有する。
【0025】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-C/A)回路により算出されたC/Aコード位相と、DLL(L1-P)回路とDLL(L2-P) 回路とにより算出されたPコード位相とを用いて、スムージング処理を行う。該スムージング処理では、C/Aコード位相に基づいて算出される擬似距離(以下、「C/Aコード位相距離」と記載する)と、Pコード位相に基づいて算出される擬似距離(以下、「Pコード位相距離」と記載する)とに対して重み付けを行い、両擬似距離をスムージング化、換言すれば移動平均化する。該重み付けは、車両の速度が遅いほどPコード位相の配分(重み付け)が大きくなるように(C/Aコード位相の配分が小さくなるように)、車両の速度が速いほどC/Aコード位相の配分が大きくなるように(Pコード位相の配分(重み付け)が小さくなるように)設定される。
【0026】
Pコードは、電離層の誤差などを低減するために使用されることが多い。本GNSS受信装置100では、マルチパスによる誤差を低減するために、Pコードを使用する。Pコードを受信し、該Pコードに基づいて測位を行うだけでも測位精度を向上させることができる。しかし、Pコードは軍用コードで秘匿されており、通常は使用できない。そこでクロス相関等の手法でデコードするが、このような手法でデコードしたPコードは副作用として、信号の強度が弱くなる。信号の強度が弱くなるため、Pコードを測位に使用できるかどうかは、電波環境に依存する。従って、車両の速度が速い場合には電波環境の変動が大きくなるため、Pコードに基づいて測位を行うのは好ましくない。従って、速度が速いほど、C/Aコード位相の配分が大きくなるように設定される。一方、車両の速度が遅い場合には電波環境が安定するため、Pコードに基づいて測位を行うのが好ましい。また、車両の速度が遅くなればなるほどマルチパス下ではC/Aコード位相の誤差は大きくなる。従って、速度が遅いほど、Pコード位相の配分が大きくなるように設定される。
【0027】
また、車両の速度が所定の速度より低速となった場合には、Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行う。例えば、Pコード位相のみを用いてスムージング処理が行われるように重み付けが設定される。例えば、該所定の速度は、C/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度であってもよい。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。以下、該所定の速度を「速度A」と呼ぶ。車両の速度が速度Aより低速となった場合にPコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が速度Aより低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星擬似距離を求めることができる。
【0028】
図2は、本実施例に従ったGNSS受信装置の一例を示す。
【0029】
本GNSS受信装置100は、高周波回路102を有する。高周波回路102は、アンテナにより受信されたGNSS衛星からの電波をベースバンド信号に変換する。該ベースバンド信号は、乗算器104に入力される。
【0030】
本GNSS受信装置100は、乗算器104を有する。該乗算器104は、高周波回路102と接続される。乗算器104は、高周波回路102により入力されたベースバンド信号と搬送波(L1帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L1帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L1-C/A))回路106に入力される。
【0031】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-C/A) 回路106を有する。該DLL(L1-C/A) 回路106は、乗算器104と接続される。DLL(L1-C/A) 回路106は、乗算器104により入力された信号から、C/Aコードを除去する。DLL(L1-C/A) 回路106は、L1帯のC/Aコードに対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりC/Aコード同期を行う。C/Aコード同期とは、受信したC/Aコードの位相に対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。C/Aコードのレプリカ信号とは、GNSS衛星からの衛星信号に乗せられるC/Aコードに対して、+1、−1の並びが同一のコードである。C/Aコードは、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300mである。DLL(L1-C/A) 回路106に入力された信号から、C/Aコードを除去することによりC/Aコード位相と、航法メッセージとが得られる。DLL(L1-C/A) 回路106は、C/Aコード位相をスムージング処理部108に入力する。DLL(L1-C/A) 回路106の詳細については後述する。
【0032】
本GNSS受信装置100は、乗算器112を有する。該乗算器112は、高周波回路102と接続される。乗算器112は、高周波回路102により入力されたベースバンド信号と搬送波(L1帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L1帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L1-P))回路114に入力される。
【0033】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-P) 回路114を有する。該DLL(L1-P) 回路114は、乗算器112と接続される。DLL(L1-P) 回路114は、Pコード位相を取得する。Pコードは軍用コードであるWコードにより秘匿されている。Wコードにより秘匿されたPコードは、Yコードと呼ばれる。Pコード位相を取得するためには、L1帯、L2帯の2つの周波数帯を利用するなどの方法によりPコード位相を取得する必要がある。本実施例では、Pコードを取得する方法の一例として、L1帯、L2帯の2つの周波数帯を利用する方法を示す。他の方法により、Pコード位相を取得するようにしてもよい。
【0034】
DLL(L1-P) 回路114は、乗算器112により入力された信号と、Pコードのレプリカ信号との相関値を求める。DLL(L1-P) 回路114は、L1帯のPコードに対して、Pコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりPコード同期を行う。Pコードのレプリカ信号の初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106のC/Aコード発生器1070により通知される。Pコード同期とは、受信したPコードの位相に対して、Pコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。DLL(L1-P)回路114は、該相関値を積算する。該相関値が積算される段階では、PコードはWコードにより秘匿された状態である。該相関値が積算された信号からWコードが除去されることにより、Pコード位相が求められる。DLL(L1-P)回路114の詳細については後述する。
【0035】
本GNSS受信装置100は、高周波回路116を有する。高周波回路116は、アンテナにより受信されたGNSS衛星からの電波をベースバンド信号に変換する。該ベースバンド信号は、乗算器118に入力される。
【0036】
本GNSS受信装置100は、乗算器118を有する。該乗算器118は、高周波回路116と接続される。乗算器118は、高周波回路116により入力されたベースバンド信号と搬送波(L2帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L2帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L2-P))回路120に入力される。
【0037】
本GNSS受信装置100は、DLL(L2-P) 回路120を有する。該DLL(L2-P) 回路120は、乗算器118と接続される。DLL(L2-P) 回路120は、Pコード位相を取得する。DLL(L2-P) 回路120は、乗算器118により入力された信号と、Pコードのレプリカ信号との相関値を求める。DLL(L2-P) 回路120は、L2帯のPコードに対して、Pコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりPコード同期を行う。Pコードのレプリカ信号の初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106のC/Aコード発生器1070により通知される。Pコード同期とは、受信したPコードの位相に対して、Pコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。DLL(L2-P)回路120は、該相関値を積算する。該相関値が積算される段階では、PコードはWコードにより秘匿された状態である。該相関値が積算された信号からWコードが除去されることにより、Pコード位相が求められる。DLL(L2-P)回路120の詳細については後述する。
【0038】
<DLL(L1-C/A)回路>
DLL(L1-C/A)回路106について詳細に説明する。
【0039】
DLL(L1-C/A)回路106は、乗算器1062と、積分器1064と、LPF1066と、数値制御発振器1068と、C/Aコード発生器1070とを有する。乗算器1062と、積分器1064と、LPF1066と、数値制御発振器1068と、C/Aコード発生器1070においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0040】
乗算器1062は、乗算器104と接続される。乗算器1062は、乗算器104により入力された信号と、C/Aコード発生器1070により入力されるC/Aコードのレプリカ信号とを乗算し、C/Aコードを除去する。乗算器1062によりC/Aコードが除去された信号は、積分器1064に入力される。
【0041】
積分器1064は、乗算器1062と接続される。積分器1064は、乗算器1062によりC/Aコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1064は、LPF(Low-pass filter)1066、及びスムージング処理部108に、残差の積算値(C/Aコード位相)を入力する。
【0042】
LPF1066は、積分器1064と接続される。LPF1066は、積分器1064により入力されたC/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。例えば、マルチパスによる反射波の位相変化により変動するC/Aコード位相をフィルタリングする。C/Aコード位相をフィルタリングすることにより、マルチパス誤差を低減できる。LPF1066により出力される位相残差は、数値制御発振器1068に入力される。
【0043】
数値制御発振器1068は、LPF1066と接続される。数値制御発振器1068は、LPF1066により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1068は、C/Aコード発生器1070に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、C/Aコード発生器1070に印加される。
【0044】
C/Aコード発生器1070は、数値制御発振器1068と接続される。C/Aコード発生器1070は、数値制御発振器1068により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、C/Aコードのレプリカ信号を発生する。C/Aコード発生器1070は、C/Aコードのレプリカ信号を乗算器1062に入力する。また、C/Aコード発生器1070は、DLL(L1-C/A)回路106によりC/Aコード位相を算出した後、該C/Aコード位相をDLL(L1-P)回路114に入力する。
【0045】
<DLL(L1-P)回路>
DLL(L1-P)回路114について詳細に説明する。
【0046】
DLL(L1-P)回路114は、乗算器1142と、積分器1144と、Wコード除去部1146と、LPF1148と、数値制御発振器1150と、Pコード発生器1152とを有する。乗算器1142と、積分器1144と、Wコード除去部1146と、LPF1148と、数値制御発振器1150と、Pコード発生器1152においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち、1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0047】
乗算器1142は、乗算器112と接続される。乗算器1142は、乗算器112により入力された信号と、Pコード発生器1152により入力されるPコードのレプリカ信号とを乗算し、Pコードを除去する。乗算器1142によりPコードが除去された信号は、積分器1144に入力される。
【0048】
積分器1144は、乗算器1142と接続される。積分器1144は、乗算器1142によりPコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1144は、Wコード除去部1146、及びDLL(L2-P)回路120に、残差の積算値を入力する。この段階では、Pコードは、Wコードで秘匿された状態である。
【0049】
Wコード除去部1146は、積分器1144と接続される。Wコード除去部1146は、積分器1144により入力されたPコード位相と、DLL(L2-P)回路120により入力されたPコード位相に基づいて、互いに打ち消し合うことにより、Wコードを除去する。Wコード除去部1146によりWコードが除去されたPコード位相は、スムージング処理部108に入力されるとともに、LPF1148に入力される。
【0050】
LPF1148は、Wコード除去部1146と接続される。LPF1148は、Wコード除去部1146により入力されたPコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF1148により出力される位相残差は、数値制御発振器1150に入力される。
【0051】
数値制御発振器1150は、LPF1148と接続される。数値制御発振器1150は、LPF1148により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1150は、Pコード発生器1152に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、Pコード発生器1152に印加される。
【0052】
Pコード発生器1152は、C/Aコード発生器1070と、数値制御発振器1150と、乗算部1142と接続される。Pコード発生器1152には、C/Aコード発生器1070により、C/Aコード位相を示す情報が入力される。Pコード発生器1152は、該C/Aコード位相を示す情報に基づいて、Pコードの初期位相を設定する。Pコードの初期位相を設定した後、Pコード発生器1152は、数値制御発振器1150により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、Pコードのレプリカ信号を発生する。Pコード発生器1152は、Pコードのレプリカ信号を乗算器1142に入力する。
【0053】
<DLL(L2-P)回路>
DLL(L2-P)回路120について詳細に説明する。
【0054】
DLL(L2-P)回路120は、乗算器1202と、積分器1204と、Wコード除去部1206とを有する。乗算器1202と、積分器1204と、Wコード除去部1206においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち、1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0055】
乗算器1202は、乗算器118と、Pコード発生器1152と接続される。乗算器1202は、乗算器118により入力された信号と、Pコード発生器1152により入力されるPコードのレプリカ信号とを乗算し、Pコードを除去する。乗算器1202によりPコードが除去された信号は、積分器1204に入力される。
【0056】
積分器1204は、乗算器1202と接続される。積分器1204は、乗算器1202によりPコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1204は、Wコード除去部1206、及びDLL(L1-P)回路114のWコード除去部1146に、残差の積算値を入力する。この段階では、Pコードは、Wコードで秘匿された状態である。
【0057】
Wコード除去部1206は、積分器1204と接続される。Wコード除去部1206は、積分器1204により入力されたPコード位相と、DLL(L1-P)回路114により入力されたPコード位相に基づいて、互いに打ち消し合うことにより、Wコードを除去する。Wコード除去部1206により、Wコードが除去されたPコード位相は、スムージング処理部108に入力されるとともに、LPF1148に入力される。
【0058】
LPF1148は、Wコード除去部1206と接続される。LPF1148は、Wコード除去部1206により入力されたPコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF1148により出力される位相残差は、数値制御発振器1150に入力される。
【0059】
数値制御発振器1150は、LPF1148により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1150は、Pコード発生器1152に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、Pコード発生器1152に印加される。
【0060】
Pコード発生器1152は、C/Aコード発生器1070により、C/Aコード位相を示す情報が入力される。Pコード発生器1152は、該C/Aコード位相を示す情報に基づいて、Pコードの初期位相を設定する。Pコードの初期位相を設定した後、Pコード発生器1152は、数値制御発振器1150により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、Pコードのレプリカ信号を発生する。Pコード発生器1152は、Pコードのレプリカ信号を乗算器1142及び1202に入力する。
【0061】
<スムージング処理部>
本GNSS受信装置100は、スムージング処理部108を有する。スムージング処理部108は、積分器1064と、Wコード除去部1146、及び1206と接続される。スムージング処理部108は、DLL(L1-C/A)106により入力されたC/Aコード位相に基づいて、擬似距離を求め、DLL(L1-P)114及び/又はDLL(L2-P)120により入力されたPコード位相に基づいて擬似距離を求め、両擬似距離に対して重み付けを行うことによりスムージング処理を行う。
【0062】
図3は、スムージング処理部108の詳細を示す。
【0063】
スムージング処理部108は、重み係数設定部1082と、衛星擬似距離演算部1084とを有する。
【0064】
重み係数設定部1082は、スムージング処理を行う際に、重み係数Mを設定する。該重み係数Mは、衛星捕捉直後は零とし、時間と共に徐々に増加し、ある値に達すると固定するようにしてもよい。該重み係数の最大値は、車両の速度によって変化させるようにしてもよい。該重み係数Mは、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対するものであってもよい。C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けが設定されれば、Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けも一意に設定されるためである。逆に、該重み係数Mは、Pコード位相により得られる擬似距離に対するものであってもよい。Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けが設定されれば、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けも一意に設定されるためである。例えば、Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けと、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けとの和は1であってもよい。
【0065】
図4は、重み係数設定部1082により設定される重み係数Mの最大値の一例を示す。重み係数設定部1082は、低速になるほど搬送波位相の重み係数の最大値を大きな値とする。重み係数設定部1082は、車両の速度が速度A以下となった場合には、重み係数の最大値を無限大とする。
【0066】
また、速度Aは、車両の速度と、GNSS衛星の軌道情報により設定されてもよい。該速度Aの情報は、GNSS受信装置100がマップ情報として有するようにしてもよいし、GNSS受信装置100において、GNSS衛星から受信した軌道情報に基づいて計算するようにしてもよい。また、速度Aは予め一定値に設定されてもよい。
【0067】
衛星擬似距離演算部1084は、重み係数設定部1082と接続される。衛星擬似距離演算部1084には、遅延同期ループ回路106からC/Aコード位相が入力され、重み係数設定部1082により重み係数Mが入力され、DLL(L1-P)回路114及びDLL(L2-P)回路120によりPコード位相が入力される。
【0068】
衛星擬似距離演算部1084は、DLL(L1-C/A)回路106により入力されたC/Aコード位相に基づいて、擬似距離を求める。該擬似距離をC/Aコード位相距離ρ1 (ti)と呼ぶ。添え字の「i」はエポックを示す。一般的に、擬似距離ρは、GNSS衛星でC/Aコードが0ビット目であるとしてC/AコードのNビット目が受信されている場合には、ρ=N×300として求めることができる。すなわち、受信したC/AコードのGNSS衛星のコード位相時刻とGNSS受信装置の時刻との差を測定することにより、擬似距離ρを算出できる。衛星擬似距離演算部1084は、入力されたPコード位相に基づいて、擬似距離を求める。該擬似距離をPコード位相距離ρ2 (ti)と呼ぶ。添え字の「i」はエポックを示す。擬似距離ρは、GNSS衛星でPコードが0ビット目であるとしてPコードのNビット目が受信されている場合には、ρ=N×300として求めることができる。すなわち、受信したPコードのGNSS衛星のコード位相時刻とGNSS受信装置の時刻との差を測定することにより、擬似距離ρを算出できる。
【0069】
衛星擬似距離演算部1084は、C/Aコード位相距離ρ1 (ti)と、Pコード位相距離ρ2 (ti)と、重み係数Mに基づいて、衛星擬似距離を求める。例えば、衛星擬似距離演算部1084は、式(1)により衛星擬似距離を求める。
【0070】
【数1】
衛星擬似距離演算部1084は、衛星擬似距離を測位演算部110に入力する。
【0071】
本GNSS受信装置100は、測位演算部110を有する。測位演算部110は、スムージング処理部108と接続される。測位演算部110は、航法メッセージに含まれる衛星軌道情報に基づいて、GNSS衛星のワールド座標系での現在位置を計算する。尚、GNSS衛星は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GNSS衛星の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGNSS衛星の位置を計算できる。また、GNSS衛星の位置は、GNSS衛星の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGNSS衛星の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。尚、ワールド座標系とは、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
【0072】
測位演算部110は、衛星位置の算出結果と、スムージング処理部108により入力された衛星擬似距離の演算結果に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を測位する。当該GNSS受信装置100の位置は、3つのGNSS衛星100に対して得られるそれぞれの衛星擬似距離及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出されてよい。この場合、衛星擬似距離は時計誤差を含むので、4つ目のGNSS衛星に対して得られる衛星擬似距離及び衛星位置を用いて、時計誤差成分が除去される。測位演算部110は、(現在)位置を出力する。
【0073】
尚、GNSS衛星の位置の測位方法としては、このような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、固定局及び当該GNSS受信装置100にてそれぞれ得られる擬似距離の1重位相差や2重位相差等を用いて当該GNSS受信装置100の位置が測位される。
【0074】
<本GNSS受信装置の動作>
図5は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。
【0075】
本GNSS受信装置100は、C/Aコード位相を求める(ステップS502)。例えば、DLL(L1-C/A) 回路106は、GNSS衛星からの測位信号と、C/Aコードのレプリカ信号との同期をとることによりC/Aコード位相を求める。
【0076】
本GNSS受信装置100は、Pコード位相を求める(ステップS504)。例えば、DLL(L1-P)回路114は、GNSS衛星からの測位信号からL1帯の搬送波が除去された信号とPコードのレプリカ信号との同期をとることによりWコードにより秘匿されたPコード位相を求める。ここで、Pコードの初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106により入力される。DLL(L2-P)回路120は、GNSS衛星からの測位信号からL2帯の搬送波が除去された信号とPコードのレプリカ信号との同期をとることによりWコードにより秘匿されたPコード位相を求める。DLL(L1-P)回路114は、当該DLL(L1-P)回路114により求められたPコード位相と、DLL(L2-P)回路120により求められたPコード位相とを打ち消し合うことによりWコードを除去し、Pコード位相を求める。DLL(L2-P)回路120は、当該DLL(L2-P)回路120により求められたPコード位相と、DLL(L1-P)回路114により求められたPコード位相とを打ち消し合うことによりWコードを除去し、Pコード位相を求める。
【0077】
本GNSS受信装置100は、車両の速度に基づいて、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数を設定する(ステップS506)。例えば、重み係数設定部1082は、DLL(L1-C/A)106により入力されたC/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数を求める。
【0078】
本GNSS受信装置100は、GNSS衛星とGNSS受信装置100との擬似距離を求める(ステップS508)。例えば、スムージング処理部108は、ステップS506により設定されたC/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数に基づいて、C/Aコード位相距離ρ1 (ti)と、Pコード位相距離ρ2 (ti)とに対して重み付けを行い、衛星擬似距離を求める。
【0079】
衛星擬似距離が求められた後、該衛星擬似距離に基づいて、(現在)位置が求められる。
【0080】
本実施例によれば、スムージング処理において、C/Aコード位相により得られる擬似距離と、Pコード位相により得られる擬似距離に対して重み付けを行う。該重み付けは、車両の速度が遅いほど、Pコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が大きく、C/Aコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が小さくなるように設定される。C/Aコード位相と比較して、Pコード位相はマルチパス誤差が小さいため、Pコード位相により衛星距離を求めることにより、測位精度を向上させることができる。
【0081】
また、車両の速度が所定の速度より低速となった場合には、Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行う。Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が所定の速度より低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0082】
また、車両の速度が高速となるに従って、C/Aコード位相による擬似距離の配分を大きくし、Pコード位相による擬似距離の配分を小さくする。C/Aコードと比較して、Pコード位相は当該GNSS受信装置100における受信感度が低くなる場合がある。特に、車両の速度が高速になるほど受信電波の状態の変化が激しくなる。或る速度で、Pコード位相による擬似距離からC/Aコードによる擬似距離に切り換えると、該切り換え前後における擬似距離が不連続となる。そこで、本GNSS受信装置100は、C/Aコードによる擬似距離と、Pコードによる擬似距離を求める。本GNSS受信装置100は、高速域ではC/Aコード位相による擬似距離の重みを大きくし、Pコード位相による擬似距離の重みを小さくする。本GNSS受信装置100は、低速域ではPコード位相による擬似距離の重みを大きくし、C/Aコード位相による擬似距離の重みを小さくする。
【0083】
<第2の実施例>
<システム>
本実施例に従ったGNSSは、第1の実施例と同様である。
【0084】
<GNSS受信装置>
図6は、本実施例に従ったGNSS受信装置100を示す。第1の実施例において示したGNSS受信装置100と、ループ帯域幅設定部122を有する点で異なる。
【0085】
ループ帯域幅設定部122は、LPF1066と接続される。ループ帯域幅設定部122には、車速情報が入力される。
【0086】
図7は、積分器1064により出力されるC/Aコード位相の特性を示す。
【0087】
車速が速い場合には、時間に対して、C/Aコード位相の変動の周期が短くなる。車速が遅い場合には、車速が速い場合とは逆に、時間に対して、C/Aコード位相の変動の周期が長くなる。
【0088】
従って、C/Aコード位相の変動を除去するためには、車両の速度が速い場合にはDLL106におけるループ帯域幅を大きな値に設定し、車両の速度が遅い場合にはDLL106におけるループ帯域幅を小さな値に設定するのが好ましい。
【0089】
ループ帯域幅設定部122は、車速情報に基づいて、DLLのループ帯域幅を変化させる。
【0090】
図8は、DLLのループ帯域幅の設定例を示す。図8に示されるように、例えば、車両の速度が低速となるに従って、DLLのループ帯域幅を狭くする。DLLのループ帯域幅を狭くすることにより、測位誤差を低減できる。
【0091】
また、ループ帯域幅設定部122は、車両の速度が所定の速度Aよりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。該所定の速度Aは、GPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度に設定されるのが好ましい。DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることによりGPS衛星からの信号をデコードできなくなることを防止できる。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。
【0092】
ループ帯域幅設定部122は、DLLのループ帯域幅の設定値をLPF1066に入力する。
LPF1066は、ループ帯域幅設定部122により設定されたループ帯域幅により、C/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。
【0093】
<本GNSS受信装置の動作>
図9は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。図9には、図5を参照して説明したフローチャートにおけるステップS502に含まれる処理が主に示される。
【0094】
GNSS受信装置100は、車両の速度に基づいて、ループ帯域幅を設定する(ステップS902)。例えば、ループ帯域幅設定部122は、車速情報に基づいて、ループ帯域幅を設定する。例えば、ループ帯域幅設定部122は、車両の速度が低速となるに従って、DLLのループ帯域幅を狭くする。また、ループ帯域幅設定部114は、車両の速度がGPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度よりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。該ループ帯域幅は、LPF1066に入力される。
【0095】
GNSS受信装置100は、ステップ902により設定されたループ帯域幅により、C/Aコード位相をフィルタリングする(ステップS904)。例えば、LPF1066は、ループ帯域幅設定部122により設定されたループ帯域幅で、C/Aコード位相をフィルタリングする。
【0096】
本実施例によれば、車両の速度に基づいて、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を変化させることにより、測位誤差を低減できる。該DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅は、車両の速度が低速となるほど狭くする。また、移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度よりも低速の場合には、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることにより、GPS衛星からの信号をデコードできなくなるのを防止できる。
【0097】
本実施例において、車両の速度に基づいて、DLL (L1-P)回路のループ帯域幅を変化させるようにしてもよい。具体的には、車両の速度が低速となるほど狭くする。しかし、PコードのDLLの帯域幅は十分広いため、極低速でのみ制限するのが好ましい。
【0098】
<第3の実施例>
<システム>
本実施例に従ったGNSSは、第1の実施例と同様である。
【0099】
<GNSS受信装置>
本実施例に従ったGNSS受信装置100は、第1及び第2の実施例において示したGNSS受信装置100に、Pコード位相距離推定部124を有するようにしたものである。
【0100】
図10は、Pコード位相距離推定部124を示す。
【0101】
Pコード位相距離推定部124は、衛星追尾判定部1242と、搬送波位相距離差分値演算部1244と、Pコード位相距離演算部1248とを有する。搬送波位相距離差分値演算部1244はメモリ1246を有し、Pコード位相距離演算部1248もメモリ1250を有する。
【0102】
Pコード位相距離推定部124は、DLL(L1-P)回路114、DLL(L2-P)回路120、及びスムージング処理部108と接続される。Pコード位相距離推定部124は、搬送波位相積算値を用いて、位相距離の差分値を算出する。Pコード位相距離推定部124は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしていないかどうかを判定する。DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしたと判定された場合には、Pコード位相距離推定部124は、搬送波位相積算値により求めた相対距離変化によりPコード位相距離を推定する。Pコード位相距離推定部124は、スムージング処理部108に、Pコード位相距離を入力する。スムージング処理部108では、Pコード位相距離推定部124によりPコード位相距離が入力された場合、該Pコード位相距離を用いて衛星擬似距離が求められる。一方、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしたと判定されない場合には、Pコード位相距離推定部124は、スムージング処理部108に、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相を入力する。さらに、Pコード位相距離推定部124は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を算出し、記憶する。
【0103】
衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114、DLL(L2-P)回路120、及びスムージング処理部108と接続される。衛星追尾判定部1242は、当該GNSS受信装置100がGNSS衛星をロストしていないかどうかを判定する。換言すれば、当該GNSS受信装置100によりGNSS衛星が追尾できているかどうかを判定する。例えば、衛星追尾判定部1242には、電波状態情報が入力される。衛星追尾判定部1242は、電波状態情報に基づいて、該電波状態情報が所定の電波状態を満たさない場合に、GNSS衛星を追尾できていないと判定するようにしてもよい。
【0104】
また、衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2−P)回路120における受信信号とPコードのレプリカ信号との間の相関ピークを観測するようにしてもよい。衛星追尾判定部1242は、相関ピークの閾値以下に、相関ピークのピーク値が低下した場合に、追尾できていないと判定するようにしてもよい。該相関ピークの閾値は、GNSS衛星の仰角に基づいて変更するようにしてもよい。
【0105】
また、衛星追尾判定部1242は、地図情報に基づいて、例えば、高層ビルや木々などの障害物によりGNSS衛星からの電波がさえぎられるかどうかを判定するようにしてもよい。電波がさえぎられると判定される場合には、衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できないと判定するようにしてもよい。
【0106】
衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できていると判定した場合には、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相をスムージング処理部108、及びPコード位相距離演算部1248に入力する。また、衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できていないと判定した場合には、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相は誤っていると判断し、該Pコード位相をスムージング処理部108に入力しない。衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相が誤っていると判断した場合、Pコード位相距離演算部1248にPコード位相距離を出力するように命令する。
【0107】
搬送波位相距離差分値演算部1244には、搬送波位相積算値が入力される。該搬送波位相積算値は、位相同期回路(PLL: Phase Locked Loop)(図示なし)により入力される。該搬送波位相積算値は、1エポック毎のドップラー周波数により算出してもよい。例えば、ドップラー周波数を積算する。搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相積算値から擬似距離を求める。該擬似距離は、搬送波位相距離Φとも呼ばれる。搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相距離Φをメモリ1246に記憶する。搬送波位相距離Φをメモリ1246に記憶した後、搬送波位相距離差分値演算部1244は、次のエポックで入力された搬送波位相積算値から搬送波位相距離を求める。搬送波位相距離差分値演算部1244は、該搬送波位相距離と、メモリ1246に記憶されている1エポック前の搬送波擬似距離との差(Φi-Φi-1)(iは、エポックを示す)を求め、メモリ1246に記憶するとともに、Pコード位相距離演算部1248に入力する。
【0108】
Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242、搬送波位相距離差分値演算部1244、及びスムージング処理部108と接続される。Pコード位相距離演算部1248には、搬送波位相距離差分値演算部1244により搬送波位相距離の差分値(Φi-Φi-1)が入力される。また、Pコード位相距離演算部1248には、衛星追尾判定部1242によりPコード位相が入力される。また、Pコード位相距離演算部1248には、所定の場合に衛星追尾判定部1242によりPコード位相距離を出力する命令が入力される。
【0109】
Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242により入力されたPコード位相からPコード位相距離を求める。該Pコード位相距離は、メモリ1250に記憶される。また、Pコード位相距離演算部1248は、搬送波位相距離差分値演算部1244により入力される搬送波位相距離の差分値(Φi-Φi-1)に基づいて、Pコード位相距離を求める。例えば、Pコード位相距離演算部1248は、式(2)により、Pコード位相距離を求める。
【0110】
【数2】
式(2)において、ρ2(ti-1)は、メモリ1250に記憶された値を用いる。Pコード位相距離演算部1248は、新たに求めたPコード位相距離をメモリ1250に記憶する。Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242により入力されるPコード位相距離を出力する命令に従って、スムージング処理部108に、Pコード位相距離を入力する。
【0111】
<本GNSS受信装置の動作>
図11は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。
【0112】
図11において、ステップS1102−S1104、及びS1112−S1114は、図5を参照して説明したS502−S508と同様である。従って、ステップS1106から説明する。
【0113】
本GNSS受信装置100は、GNSS衛星をロストしたかどうかを判定する(ステップS1106)。例えば、衛星追尾判定部1242は、電波状態情報に基づいて、GNSS衛星をロストしたかどうかを判定するようにしてもよい。
【0114】
GNSS衛星をロストしたと判定した場合(ステップS1106:YES)、本GNSS受信装置100は、搬送波位相距離の差分値に基づいて、Pコード位相距離を求める(ステップS1108)。例えば、搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相距離の差分を求める。Pコード位相距離演算部1248は、搬送波位相距離差分値演算部1244により求められた搬送波位相距離の差分値に基づいて、Pコード位相距離を求める。
【0115】
GNSS衛星をロストしたと判定されない場合(ステップS1106:NO)、本GNSS受信装置100は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を求める(ステップS1110)。例えば、スムージング処理部108の衛星擬似距離演算部1084は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を求める。
【0116】
本実施例によれば、GNSS衛星をロストしていないかどうかを判定できる。また、GNSS衛星をロストした場合でも、搬送波位相により衛星距離を求めることができる。
【0117】
上述した実施例によれば、GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置が提供される。
【0118】
該GNSS受信装置は、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める、DLL(L1-C/A)回路としての第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める、DLL(L1-P)回路、DLL(L2-P)回路としての第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める、スムージング処理部108としての擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有する。
【0119】
スムージング処理において、C/Aコード位相により得られる擬似距離と、Pコード位相により得られる擬似距離に対して重み付けを行う際に、車両の速度に基づいて該重み付けを変化させる。例えば、車両の速度が遅いほど、C/Aコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が小さくなるように設定する。その結果、Pコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が大きくなる。C/Aコード位相と比較して、Pコード位相はマルチパス誤差が小さいため、Pコード位相により衛星距離を求めることにより、測位精度を向上させることができる。
【0120】
さらに、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記第1の遅延同期ループ回路のループ帯域幅を設定するループ帯域幅設定部
を有し、
前記第1の遅延同期ループ回路は、前記ループ帯域幅設定部により設定されたループ帯域幅に基づいて、C/Aコードの位相を求める。
【0121】
車両の速度に基づいて、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を変化させることにより、測位誤差を低減できる。すなわち、車両の速度に応じて、ループ帯域幅と、C/Aコード位相、Pコード位相の重み係数とを変化させることにより、マルチパス誤差を低減できる。C/Aコードの変調帯域以下となるような低速域においても、Pコード位相を用いることによりマルチパス誤差を低減できる。すなわち、全速度域において、マルチパス誤差を低減できる。
【0122】
さらに、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記ループ帯域幅を狭い値に設定する。
【0123】
DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を車両の速度が低速となるほど狭くすることにより、測位精度を向上させることができる。
【0124】
さらに、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が、前記第1の遅延同期ループ回路におけるC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度以下となる場合、該C/Aコードを復調可能な帯域幅に、前記ループ帯域幅を設定する。
【0125】
DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることにより、GPS衛星からの信号をデコードできなくなるのを防止できる。
【0126】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記重み付けを小さな値に設定する。
【0127】
C/Aコード位相の重み付けが小さな値となるほどPコード位相の重み付けが大きくなる。Pコード位相の重み付けが大きくなることにより、車両の速度が低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0128】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記Pコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど大きな値に設定する。
【0129】
Pコード位相の重み付けが大きな値となるほどC/Aコード位相の重み付けが小さくなる。Pコード位相の重み付けが大きくなることにより、車両の速度が低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0130】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が所定の速度以下となる場合、前記重み付けを最小値に設定する。
【0131】
Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が所定の速度より低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0132】
さらに、
GNSS衛星を追尾できているかどうかを判定する衛星追尾判定部と、
搬送波位相に基づいて擬似距離を求め、該擬似距離の所定の時間における差分を求める、搬送波位相距離差分値演算部としての差分値演算部と、
該差分値演算部により求められた差分に基づいて、Pコード位相により求められる擬似距離を推定する、Pコード位相距離演算部としての擬似距離推定部と
を有し、
前記擬似距離演算部は、前記衛星追尾判定部によりGNSS衛星を追尾できていないと判定された場合、擬似距離推定部により推定された擬似距離に基づいて、前記GNSS衛星と当該GNSS受信装置との間の擬似距離を求める。
【0133】
本実施例によれば、GNSS衛星をロストした場合でも衛星距離を求めることができる。ノイズなどにより瞬間的にPコードを追尾できない状況となった場合でも、PLLを用いて搬送波位相(キャリア位相)を算出することにより、Pコード位相の変化量を引き継いで使用することができる。ノイズなどにより瞬間的にPコードを追尾できない状況となった場合でも、Pコード位相を使用し続けることができる。
【0134】
本実施例によれば、GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法が提供される。
【0135】
該方法は、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該擬似距離演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する。
【0136】
以上、本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、各実施例は単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。説明の便宜上、本発明の実施例に従った装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウエアで、ソフトウエアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が包含される。
【符号の説明】
【0137】
1 高周波回路
2 乗算器
3 積分器
4 低域通過フィルタ(LPF: Low-Pass Filter)
5 数値制御発振器
6 C/Aコード発生器
7 距離算出部
10 遅延同期ループ(DLL: Delay-Locked Loop)回路
100 GNSS受信装置
102 高周波回路
104 乗算器
106 遅延同期ループ回路(DLL(L1-C/A) 回路)
1062 乗算器
1064 積分器
1066 低域通過フィルタ
1068 数値制御発振器
1070 C/Aコード発生器
108 スムージング処理部
1082 重み係数設定部
1084 衛星擬似距離演算部
110 測位演算部
112 乗算部
114 遅延同期ループ回路(DLL(L1-P) 回路)
1142 乗算部
1144 積分器
1146 Wコード除去部
1148 低域通過フィルタ
1150 数値制御発振器
1152 Pコード発生器
116 高周波回路
118 乗算部
120 遅延同期ループ回路(DLL(L2-P))
1202 乗算部
1204 積分器
1206 Wコード除去部
122 ループ帯域幅設定部
124 Pコード位相距離推定部
1242 衛星追尾判定部
1244 搬送波位相距離差分値演算部
1246 メモリ
1248 Pコード位相距離演算部
1250 メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS用周回衛星からの信号を受信し、測位するGNSS受信装置及び測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星航法(GNSS: Global Navigation Satellite System)とは、航空機から3つの航法衛星(GNSS用周回衛星)(以下、GNSS衛星と呼ぶ)を捕捉することで各GNSS衛星からの距離を得るとともに、4つ目の航法衛星からの信号で時刻合わせを行い、航空機の3次元での飛行位置を得ることができる航法システムである。衛星航法には、全地球的測位システム(GPS: Global Positioning System)、ガリレオ(GALILEO)などが含まれる。
【0003】
例えば、GNSS受信装置は移動体に搭載され、該移動体の位置及び速度を測位する。例えば、GNSS受信装置は、複数のGNSS衛星からの電波を受信することによって、複数のGNSS衛星から当該GNSS受信装置までの距離(擬似距離)をそれぞれ算出し、該擬似距離に基づいて当該GNSS受信装置が搭載された移動体の測位を行う。GNSS衛星により発射された信号は、GNSS衛星とGNSS受信装置との間の距離を電波が伝搬する時間だけ遅れてGNSS受信装置に到達する。従って、複数のGNSS衛星について電波伝搬に要する時間を求めれば、測位演算によってGNSS受信装置の位置を求めることができる。例えば、複数のGNSS衛星により発射された電波は、GNSS受信装置の測距部において、各GNSS衛星からGNSS受信装置までの距離が求められる。そして、測位演算部において、測距部において求められた距離に基づいて、GNSS受信装置の位置が求められる。
【0004】
GNSS受信装置が搭載された移動体において、正確な位置を測定するためには、最低でも4機のGNSS衛星を捕捉できればよい。例えば、郊外では、電波経路を遮蔽する物体が少ないので、移動体で4機以上のGNSS衛星を捕捉することは容易である。一方、都市部では、高層ビル等の建物が密集しており、電波経路を遮蔽する物体が多いので、移動体で4機以上のGNSS衛星を捕捉することは困難である。また、都市部では、GNSS衛星を捕捉できた場合でも、該GNSS衛星からの直接波ばかりでなく、高層ビル等の建物で反射・回折した電波も受信してしまう場合がある。GNSS衛星から送信された電波が反射・回折して、複数の伝搬経路から受信される現象は、マルチパスとも呼ばれる。マルチパスの影響により、受信アンテナとGNSS衛星との間の測距において誤差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-266836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マルチパスによる測位誤差を減少させる方法として、遅延同期ループ(DLL: Delay-lock loop)の帯域幅を狭めることが提案されている。GPS受信装置は、GPS衛星により送信された擬似雑音符号(PN(pseudo-noise) Sequence)を受信し、該擬似雑音符号とGPS受信装置により発生させた局部擬似雑音符号との相関を取ることにより同期をとる。該同期をとるために遅延同期ループが採用される。
【0007】
図1は、GPS受信装置の一例を示す。図1には、主に遅延同期ループ回路が示される。
【0008】
GPS受信装置は、GPS衛星により送信された高周波信号を変換し、中間周波数の信号を出力する高周波回路1と、該高周波回路1により出力される中間周波数の信号に基づいてC/Aコード位相を求める遅延同期ループ回路10と、該遅延同期ループ回路10により出力されるC/Aコード位相に基づいて、衛星距離を算出する距離算出部7とを有する。
【0009】
高周波回路1により入力された中間周波数の信号は、乗算器2に入力される。乗算器2では、該中間周波数の信号と、C/Aコード発生器6により入力されるC/Aコードとが乗算されることにより、中間周波数の信号からC/Aコードが除去される。C/Aコードが除去された中間周波数の信号は、積分器3に入力される。積分器3では、C/Aコードが除去された中間周波数の信号(コード残差)を積算する。残差の積算値(C/Aコード位相)は、LPF(Low-pass filter)4、及び距離算出部7に入力される。LPF4では、C/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF4によりフィルタリングされる帯域幅は、車速に基づいて制御される。LPF4により出力される位相残差は、数値制御発振器5に入力される。数値制御発振器5では、周波数残差に、位相残差を変換し、該周波数残差を出力する。周波数残差は、C/Aコード発生器6に印加される。C/Aコード発生器6は、数値制御発振器5により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整する。一方、距離算出部7は、積分器3により入力されたC/Aコード位相から擬似距離を算出する。
【0010】
GPS衛星からの電波の反射波の変動周期(フェージング帯域幅)Bfと、DLLのループ帯域幅B1と、マルチパスによる測位誤差との間には、以下の関係が成立することが知られている。Bf/B1が大きいと測位誤差は生じず、Bf/B1が小さいと測位誤差が生じる。また、Bfは、GPS受信装置の移動速度に比例する。従って、GPS受信装置の移動速度が低速の時には、測位誤差が生じるので、DLLのループ帯域幅B1を狭くすることにより、測位誤差を低減できる。
【0011】
しかし、GPS受信装置の移動速度が所定の速度よりも低速になった場合には、該移動速度に応じて、DLLのループ帯域幅B1を所定の限度以下にすることは困難である。具体的には、ループ帯域幅が2MHz以下となると、C/Aコードを復調可能な帯域幅以下となる。C/Aコードを復調可能な帯域幅以下では、GPS衛星からの信号をデコードできなくなる。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。ループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅以下にすることは困難であるため、GPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度よりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅B1をC/Aコードを復調可能な帯域幅に設定する。
【0012】
しかし、GPS受信装置の移動速度がさらに低速になってもDLLのループ帯域幅B1をC/Aコードを復調可能な帯域幅に設定し続ける場合、移動速度に応じて、マルチパスによる測位誤差を低減できない。
【0013】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができるGNSS受信装置及び測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本GNSS受信装置は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有する。
【0015】
本方法は、
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該測位演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する。
【発明の効果】
【0016】
開示のGNSS受信装置及び測位方法によれば、マルチパスの影響を低減し、測位精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】GNSS受信装置の機能ブロック図の一例である。
【図2】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図3】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるスムージング処理部を示す機能ブロック図である。
【図4】一実施例に従ったGNSS受信装置における重み係数の設定例を示す説明図である。
【図5】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【図6】一実施例に従ったGNSS受信装置の機能ブロック図である。
【図7】車両の速度が異なる場合の時間に対するC/Aコード位相の変動を示す説明図である。
【図8】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるDLLのループ帯域幅の設定例を示す説明図である。
【図9】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【図10】一実施例に従ったGNSS受信装置におけるPコード位相距離推定部を示す機能ブロック図である。
【図11】一実施例に従ったGNSS受信装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0019】
<第1の実施例>
<システム>
本実施例に従った全世界航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)は、地球周りを周回するGNSS衛星と、地球上に位置し地球上を移動しうるGNSS受信装置100とを備える。本実施例では、GNSSの一例としてGPSについて説明する。GPS以外のGNSSに適用してもよい。
【0020】
GNSS衛星は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGNSS衛星に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナック)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれる。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散され、L1帯の搬送波(周波数:1575.42MHz)に載せられて、地球に向けて常時放送されている。また、航法メッセージは、Pコードにより拡散され、L2帯の搬送波(周波数:1227.6MHz)に載せられて、地球に向けて常時放送されている。
【0021】
L1帯の搬送波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波との合成波であり、直交変調されている。また、L2帯の搬送波は、Pコードで変調されたCos波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1とが不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0022】
尚、現在、約30個のGNSS衛星が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面があり、各々の軌道面に4個以上のGNSS衛星が均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGNSS衛星が観測可能である。
【0023】
<GNSS受信装置>
GNSS受信装置100は、例えば、移動体に搭載される。移動体には、車両、自動二輪車、列車、船舶、航空機、ロボットなど、また、人の移動に伴い移動する携帯端末などの情報端末などが含まれる。本実施例では、移動体の一例として、車両に搭載される場合について説明する。
【0024】
本GNSS受信装置100は、L1帯のC/Aコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L1-C/A)回路」と記載する)と、L1帯のPコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L1-P)回路」と記載する)と、L2帯のPコードと同期を行う遅延同期回路(以下、「DLL(L2-P) 回路」と記載する)とを有する。
【0025】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-C/A)回路により算出されたC/Aコード位相と、DLL(L1-P)回路とDLL(L2-P) 回路とにより算出されたPコード位相とを用いて、スムージング処理を行う。該スムージング処理では、C/Aコード位相に基づいて算出される擬似距離(以下、「C/Aコード位相距離」と記載する)と、Pコード位相に基づいて算出される擬似距離(以下、「Pコード位相距離」と記載する)とに対して重み付けを行い、両擬似距離をスムージング化、換言すれば移動平均化する。該重み付けは、車両の速度が遅いほどPコード位相の配分(重み付け)が大きくなるように(C/Aコード位相の配分が小さくなるように)、車両の速度が速いほどC/Aコード位相の配分が大きくなるように(Pコード位相の配分(重み付け)が小さくなるように)設定される。
【0026】
Pコードは、電離層の誤差などを低減するために使用されることが多い。本GNSS受信装置100では、マルチパスによる誤差を低減するために、Pコードを使用する。Pコードを受信し、該Pコードに基づいて測位を行うだけでも測位精度を向上させることができる。しかし、Pコードは軍用コードで秘匿されており、通常は使用できない。そこでクロス相関等の手法でデコードするが、このような手法でデコードしたPコードは副作用として、信号の強度が弱くなる。信号の強度が弱くなるため、Pコードを測位に使用できるかどうかは、電波環境に依存する。従って、車両の速度が速い場合には電波環境の変動が大きくなるため、Pコードに基づいて測位を行うのは好ましくない。従って、速度が速いほど、C/Aコード位相の配分が大きくなるように設定される。一方、車両の速度が遅い場合には電波環境が安定するため、Pコードに基づいて測位を行うのが好ましい。また、車両の速度が遅くなればなるほどマルチパス下ではC/Aコード位相の誤差は大きくなる。従って、速度が遅いほど、Pコード位相の配分が大きくなるように設定される。
【0027】
また、車両の速度が所定の速度より低速となった場合には、Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行う。例えば、Pコード位相のみを用いてスムージング処理が行われるように重み付けが設定される。例えば、該所定の速度は、C/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度であってもよい。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。以下、該所定の速度を「速度A」と呼ぶ。車両の速度が速度Aより低速となった場合にPコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が速度Aより低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星擬似距離を求めることができる。
【0028】
図2は、本実施例に従ったGNSS受信装置の一例を示す。
【0029】
本GNSS受信装置100は、高周波回路102を有する。高周波回路102は、アンテナにより受信されたGNSS衛星からの電波をベースバンド信号に変換する。該ベースバンド信号は、乗算器104に入力される。
【0030】
本GNSS受信装置100は、乗算器104を有する。該乗算器104は、高周波回路102と接続される。乗算器104は、高周波回路102により入力されたベースバンド信号と搬送波(L1帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L1帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L1-C/A))回路106に入力される。
【0031】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-C/A) 回路106を有する。該DLL(L1-C/A) 回路106は、乗算器104と接続される。DLL(L1-C/A) 回路106は、乗算器104により入力された信号から、C/Aコードを除去する。DLL(L1-C/A) 回路106は、L1帯のC/Aコードに対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりC/Aコード同期を行う。C/Aコード同期とは、受信したC/Aコードの位相に対して、C/Aコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。C/Aコードのレプリカ信号とは、GNSS衛星からの衛星信号に乗せられるC/Aコードに対して、+1、−1の並びが同一のコードである。C/Aコードは、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300mである。DLL(L1-C/A) 回路106に入力された信号から、C/Aコードを除去することによりC/Aコード位相と、航法メッセージとが得られる。DLL(L1-C/A) 回路106は、C/Aコード位相をスムージング処理部108に入力する。DLL(L1-C/A) 回路106の詳細については後述する。
【0032】
本GNSS受信装置100は、乗算器112を有する。該乗算器112は、高周波回路102と接続される。乗算器112は、高周波回路102により入力されたベースバンド信号と搬送波(L1帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L1帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L1-P))回路114に入力される。
【0033】
本GNSS受信装置100は、DLL(L1-P) 回路114を有する。該DLL(L1-P) 回路114は、乗算器112と接続される。DLL(L1-P) 回路114は、Pコード位相を取得する。Pコードは軍用コードであるWコードにより秘匿されている。Wコードにより秘匿されたPコードは、Yコードと呼ばれる。Pコード位相を取得するためには、L1帯、L2帯の2つの周波数帯を利用するなどの方法によりPコード位相を取得する必要がある。本実施例では、Pコードを取得する方法の一例として、L1帯、L2帯の2つの周波数帯を利用する方法を示す。他の方法により、Pコード位相を取得するようにしてもよい。
【0034】
DLL(L1-P) 回路114は、乗算器112により入力された信号と、Pコードのレプリカ信号との相関値を求める。DLL(L1-P) 回路114は、L1帯のPコードに対して、Pコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりPコード同期を行う。Pコードのレプリカ信号の初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106のC/Aコード発生器1070により通知される。Pコード同期とは、受信したPコードの位相に対して、Pコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。DLL(L1-P)回路114は、該相関値を積算する。該相関値が積算される段階では、PコードはWコードにより秘匿された状態である。該相関値が積算された信号からWコードが除去されることにより、Pコード位相が求められる。DLL(L1-P)回路114の詳細については後述する。
【0035】
本GNSS受信装置100は、高周波回路116を有する。高周波回路116は、アンテナにより受信されたGNSS衛星からの電波をベースバンド信号に変換する。該ベースバンド信号は、乗算器118に入力される。
【0036】
本GNSS受信装置100は、乗算器118を有する。該乗算器118は、高周波回路116と接続される。乗算器118は、高周波回路116により入力されたベースバンド信号と搬送波(L2帯)のレプリカ信号とを乗算し、搬送波(L2帯)を除去する。搬送波が除去されたベースバンド信号は、遅延同期ループ(DLL(L2-P))回路120に入力される。
【0037】
本GNSS受信装置100は、DLL(L2-P) 回路120を有する。該DLL(L2-P) 回路120は、乗算器118と接続される。DLL(L2-P) 回路120は、Pコード位相を取得する。DLL(L2-P) 回路120は、乗算器118により入力された信号と、Pコードのレプリカ信号との相関値を求める。DLL(L2-P) 回路120は、L2帯のPコードに対して、Pコードのレプリカ信号の位相をずらすことによりPコード同期を行う。Pコードのレプリカ信号の初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106のC/Aコード発生器1070により通知される。Pコード同期とは、受信したPコードの位相に対して、Pコードのレプリカ信号の位相を同期させることである。DLL(L2-P)回路120は、該相関値を積算する。該相関値が積算される段階では、PコードはWコードにより秘匿された状態である。該相関値が積算された信号からWコードが除去されることにより、Pコード位相が求められる。DLL(L2-P)回路120の詳細については後述する。
【0038】
<DLL(L1-C/A)回路>
DLL(L1-C/A)回路106について詳細に説明する。
【0039】
DLL(L1-C/A)回路106は、乗算器1062と、積分器1064と、LPF1066と、数値制御発振器1068と、C/Aコード発生器1070とを有する。乗算器1062と、積分器1064と、LPF1066と、数値制御発振器1068と、C/Aコード発生器1070においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0040】
乗算器1062は、乗算器104と接続される。乗算器1062は、乗算器104により入力された信号と、C/Aコード発生器1070により入力されるC/Aコードのレプリカ信号とを乗算し、C/Aコードを除去する。乗算器1062によりC/Aコードが除去された信号は、積分器1064に入力される。
【0041】
積分器1064は、乗算器1062と接続される。積分器1064は、乗算器1062によりC/Aコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1064は、LPF(Low-pass filter)1066、及びスムージング処理部108に、残差の積算値(C/Aコード位相)を入力する。
【0042】
LPF1066は、積分器1064と接続される。LPF1066は、積分器1064により入力されたC/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。例えば、マルチパスによる反射波の位相変化により変動するC/Aコード位相をフィルタリングする。C/Aコード位相をフィルタリングすることにより、マルチパス誤差を低減できる。LPF1066により出力される位相残差は、数値制御発振器1068に入力される。
【0043】
数値制御発振器1068は、LPF1066と接続される。数値制御発振器1068は、LPF1066により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1068は、C/Aコード発生器1070に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、C/Aコード発生器1070に印加される。
【0044】
C/Aコード発生器1070は、数値制御発振器1068と接続される。C/Aコード発生器1070は、数値制御発振器1068により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、C/Aコードのレプリカ信号を発生する。C/Aコード発生器1070は、C/Aコードのレプリカ信号を乗算器1062に入力する。また、C/Aコード発生器1070は、DLL(L1-C/A)回路106によりC/Aコード位相を算出した後、該C/Aコード位相をDLL(L1-P)回路114に入力する。
【0045】
<DLL(L1-P)回路>
DLL(L1-P)回路114について詳細に説明する。
【0046】
DLL(L1-P)回路114は、乗算器1142と、積分器1144と、Wコード除去部1146と、LPF1148と、数値制御発振器1150と、Pコード発生器1152とを有する。乗算器1142と、積分器1144と、Wコード除去部1146と、LPF1148と、数値制御発振器1150と、Pコード発生器1152においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち、1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0047】
乗算器1142は、乗算器112と接続される。乗算器1142は、乗算器112により入力された信号と、Pコード発生器1152により入力されるPコードのレプリカ信号とを乗算し、Pコードを除去する。乗算器1142によりPコードが除去された信号は、積分器1144に入力される。
【0048】
積分器1144は、乗算器1142と接続される。積分器1144は、乗算器1142によりPコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1144は、Wコード除去部1146、及びDLL(L2-P)回路120に、残差の積算値を入力する。この段階では、Pコードは、Wコードで秘匿された状態である。
【0049】
Wコード除去部1146は、積分器1144と接続される。Wコード除去部1146は、積分器1144により入力されたPコード位相と、DLL(L2-P)回路120により入力されたPコード位相に基づいて、互いに打ち消し合うことにより、Wコードを除去する。Wコード除去部1146によりWコードが除去されたPコード位相は、スムージング処理部108に入力されるとともに、LPF1148に入力される。
【0050】
LPF1148は、Wコード除去部1146と接続される。LPF1148は、Wコード除去部1146により入力されたPコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF1148により出力される位相残差は、数値制御発振器1150に入力される。
【0051】
数値制御発振器1150は、LPF1148と接続される。数値制御発振器1150は、LPF1148により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1150は、Pコード発生器1152に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、Pコード発生器1152に印加される。
【0052】
Pコード発生器1152は、C/Aコード発生器1070と、数値制御発振器1150と、乗算部1142と接続される。Pコード発生器1152には、C/Aコード発生器1070により、C/Aコード位相を示す情報が入力される。Pコード発生器1152は、該C/Aコード位相を示す情報に基づいて、Pコードの初期位相を設定する。Pコードの初期位相を設定した後、Pコード発生器1152は、数値制御発振器1150により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、Pコードのレプリカ信号を発生する。Pコード発生器1152は、Pコードのレプリカ信号を乗算器1142に入力する。
【0053】
<DLL(L2-P)回路>
DLL(L2-P)回路120について詳細に説明する。
【0054】
DLL(L2-P)回路120は、乗算器1202と、積分器1204と、Wコード除去部1206とを有する。乗算器1202と、積分器1204と、Wコード除去部1206においては、EARLY、LATE、PROMPTに対して処理が行われる。EARLY、LATE、PROMPTのうち、1又は2に対して処理が行われるようにしてもよいし、4以上に対して処理が行われるようにしてもよい。
【0055】
乗算器1202は、乗算器118と、Pコード発生器1152と接続される。乗算器1202は、乗算器118により入力された信号と、Pコード発生器1152により入力されるPコードのレプリカ信号とを乗算し、Pコードを除去する。乗算器1202によりPコードが除去された信号は、積分器1204に入力される。
【0056】
積分器1204は、乗算器1202と接続される。積分器1204は、乗算器1202によりPコードが除去された信号(コード残差)を積算する。積分器1204は、Wコード除去部1206、及びDLL(L1-P)回路114のWコード除去部1146に、残差の積算値を入力する。この段階では、Pコードは、Wコードで秘匿された状態である。
【0057】
Wコード除去部1206は、積分器1204と接続される。Wコード除去部1206は、積分器1204により入力されたPコード位相と、DLL(L1-P)回路114により入力されたPコード位相に基づいて、互いに打ち消し合うことにより、Wコードを除去する。Wコード除去部1206により、Wコードが除去されたPコード位相は、スムージング処理部108に入力されるとともに、LPF1148に入力される。
【0058】
LPF1148は、Wコード除去部1206と接続される。LPF1148は、Wコード除去部1206により入力されたPコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。LPF1148により出力される位相残差は、数値制御発振器1150に入力される。
【0059】
数値制御発振器1150は、LPF1148により入力された位相残差を、周波数残差に変換する。数値制御発振器1150は、Pコード発生器1152に、周波数残差を入力する。換言すれば、周波数残差は、Pコード発生器1152に印加される。
【0060】
Pコード発生器1152は、C/Aコード発生器1070により、C/Aコード位相を示す情報が入力される。Pコード発生器1152は、該C/Aコード位相を示す情報に基づいて、Pコードの初期位相を設定する。Pコードの初期位相を設定した後、Pコード発生器1152は、数値制御発振器1150により印加された周波数残差に基づいて、発振周期を調整し、Pコードのレプリカ信号を発生する。Pコード発生器1152は、Pコードのレプリカ信号を乗算器1142及び1202に入力する。
【0061】
<スムージング処理部>
本GNSS受信装置100は、スムージング処理部108を有する。スムージング処理部108は、積分器1064と、Wコード除去部1146、及び1206と接続される。スムージング処理部108は、DLL(L1-C/A)106により入力されたC/Aコード位相に基づいて、擬似距離を求め、DLL(L1-P)114及び/又はDLL(L2-P)120により入力されたPコード位相に基づいて擬似距離を求め、両擬似距離に対して重み付けを行うことによりスムージング処理を行う。
【0062】
図3は、スムージング処理部108の詳細を示す。
【0063】
スムージング処理部108は、重み係数設定部1082と、衛星擬似距離演算部1084とを有する。
【0064】
重み係数設定部1082は、スムージング処理を行う際に、重み係数Mを設定する。該重み係数Mは、衛星捕捉直後は零とし、時間と共に徐々に増加し、ある値に達すると固定するようにしてもよい。該重み係数の最大値は、車両の速度によって変化させるようにしてもよい。該重み係数Mは、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対するものであってもよい。C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けが設定されれば、Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けも一意に設定されるためである。逆に、該重み係数Mは、Pコード位相により得られる擬似距離に対するものであってもよい。Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けが設定されれば、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けも一意に設定されるためである。例えば、Pコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けと、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み付けとの和は1であってもよい。
【0065】
図4は、重み係数設定部1082により設定される重み係数Mの最大値の一例を示す。重み係数設定部1082は、低速になるほど搬送波位相の重み係数の最大値を大きな値とする。重み係数設定部1082は、車両の速度が速度A以下となった場合には、重み係数の最大値を無限大とする。
【0066】
また、速度Aは、車両の速度と、GNSS衛星の軌道情報により設定されてもよい。該速度Aの情報は、GNSS受信装置100がマップ情報として有するようにしてもよいし、GNSS受信装置100において、GNSS衛星から受信した軌道情報に基づいて計算するようにしてもよい。また、速度Aは予め一定値に設定されてもよい。
【0067】
衛星擬似距離演算部1084は、重み係数設定部1082と接続される。衛星擬似距離演算部1084には、遅延同期ループ回路106からC/Aコード位相が入力され、重み係数設定部1082により重み係数Mが入力され、DLL(L1-P)回路114及びDLL(L2-P)回路120によりPコード位相が入力される。
【0068】
衛星擬似距離演算部1084は、DLL(L1-C/A)回路106により入力されたC/Aコード位相に基づいて、擬似距離を求める。該擬似距離をC/Aコード位相距離ρ1 (ti)と呼ぶ。添え字の「i」はエポックを示す。一般的に、擬似距離ρは、GNSS衛星でC/Aコードが0ビット目であるとしてC/AコードのNビット目が受信されている場合には、ρ=N×300として求めることができる。すなわち、受信したC/AコードのGNSS衛星のコード位相時刻とGNSS受信装置の時刻との差を測定することにより、擬似距離ρを算出できる。衛星擬似距離演算部1084は、入力されたPコード位相に基づいて、擬似距離を求める。該擬似距離をPコード位相距離ρ2 (ti)と呼ぶ。添え字の「i」はエポックを示す。擬似距離ρは、GNSS衛星でPコードが0ビット目であるとしてPコードのNビット目が受信されている場合には、ρ=N×300として求めることができる。すなわち、受信したPコードのGNSS衛星のコード位相時刻とGNSS受信装置の時刻との差を測定することにより、擬似距離ρを算出できる。
【0069】
衛星擬似距離演算部1084は、C/Aコード位相距離ρ1 (ti)と、Pコード位相距離ρ2 (ti)と、重み係数Mに基づいて、衛星擬似距離を求める。例えば、衛星擬似距離演算部1084は、式(1)により衛星擬似距離を求める。
【0070】
【数1】
衛星擬似距離演算部1084は、衛星擬似距離を測位演算部110に入力する。
【0071】
本GNSS受信装置100は、測位演算部110を有する。測位演算部110は、スムージング処理部108と接続される。測位演算部110は、航法メッセージに含まれる衛星軌道情報に基づいて、GNSS衛星のワールド座標系での現在位置を計算する。尚、GNSS衛星は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GNSS衛星の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGNSS衛星の位置を計算できる。また、GNSS衛星の位置は、GNSS衛星の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGNSS衛星の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。尚、ワールド座標系とは、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
【0072】
測位演算部110は、衛星位置の算出結果と、スムージング処理部108により入力された衛星擬似距離の演算結果に基づいて、当該GNSS受信装置100の位置を測位する。当該GNSS受信装置100の位置は、3つのGNSS衛星100に対して得られるそれぞれの衛星擬似距離及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出されてよい。この場合、衛星擬似距離は時計誤差を含むので、4つ目のGNSS衛星に対して得られる衛星擬似距離及び衛星位置を用いて、時計誤差成分が除去される。測位演算部110は、(現在)位置を出力する。
【0073】
尚、GNSS衛星の位置の測位方法としては、このような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、固定局及び当該GNSS受信装置100にてそれぞれ得られる擬似距離の1重位相差や2重位相差等を用いて当該GNSS受信装置100の位置が測位される。
【0074】
<本GNSS受信装置の動作>
図5は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。
【0075】
本GNSS受信装置100は、C/Aコード位相を求める(ステップS502)。例えば、DLL(L1-C/A) 回路106は、GNSS衛星からの測位信号と、C/Aコードのレプリカ信号との同期をとることによりC/Aコード位相を求める。
【0076】
本GNSS受信装置100は、Pコード位相を求める(ステップS504)。例えば、DLL(L1-P)回路114は、GNSS衛星からの測位信号からL1帯の搬送波が除去された信号とPコードのレプリカ信号との同期をとることによりWコードにより秘匿されたPコード位相を求める。ここで、Pコードの初期位相は、DLL(L1-C/A)回路106により入力される。DLL(L2-P)回路120は、GNSS衛星からの測位信号からL2帯の搬送波が除去された信号とPコードのレプリカ信号との同期をとることによりWコードにより秘匿されたPコード位相を求める。DLL(L1-P)回路114は、当該DLL(L1-P)回路114により求められたPコード位相と、DLL(L2-P)回路120により求められたPコード位相とを打ち消し合うことによりWコードを除去し、Pコード位相を求める。DLL(L2-P)回路120は、当該DLL(L2-P)回路120により求められたPコード位相と、DLL(L1-P)回路114により求められたPコード位相とを打ち消し合うことによりWコードを除去し、Pコード位相を求める。
【0077】
本GNSS受信装置100は、車両の速度に基づいて、C/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数を設定する(ステップS506)。例えば、重み係数設定部1082は、DLL(L1-C/A)106により入力されたC/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数を求める。
【0078】
本GNSS受信装置100は、GNSS衛星とGNSS受信装置100との擬似距離を求める(ステップS508)。例えば、スムージング処理部108は、ステップS506により設定されたC/Aコード位相により得られる擬似距離に対する重み係数に基づいて、C/Aコード位相距離ρ1 (ti)と、Pコード位相距離ρ2 (ti)とに対して重み付けを行い、衛星擬似距離を求める。
【0079】
衛星擬似距離が求められた後、該衛星擬似距離に基づいて、(現在)位置が求められる。
【0080】
本実施例によれば、スムージング処理において、C/Aコード位相により得られる擬似距離と、Pコード位相により得られる擬似距離に対して重み付けを行う。該重み付けは、車両の速度が遅いほど、Pコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が大きく、C/Aコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が小さくなるように設定される。C/Aコード位相と比較して、Pコード位相はマルチパス誤差が小さいため、Pコード位相により衛星距離を求めることにより、測位精度を向上させることができる。
【0081】
また、車両の速度が所定の速度より低速となった場合には、Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行う。Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が所定の速度より低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0082】
また、車両の速度が高速となるに従って、C/Aコード位相による擬似距離の配分を大きくし、Pコード位相による擬似距離の配分を小さくする。C/Aコードと比較して、Pコード位相は当該GNSS受信装置100における受信感度が低くなる場合がある。特に、車両の速度が高速になるほど受信電波の状態の変化が激しくなる。或る速度で、Pコード位相による擬似距離からC/Aコードによる擬似距離に切り換えると、該切り換え前後における擬似距離が不連続となる。そこで、本GNSS受信装置100は、C/Aコードによる擬似距離と、Pコードによる擬似距離を求める。本GNSS受信装置100は、高速域ではC/Aコード位相による擬似距離の重みを大きくし、Pコード位相による擬似距離の重みを小さくする。本GNSS受信装置100は、低速域ではPコード位相による擬似距離の重みを大きくし、C/Aコード位相による擬似距離の重みを小さくする。
【0083】
<第2の実施例>
<システム>
本実施例に従ったGNSSは、第1の実施例と同様である。
【0084】
<GNSS受信装置>
図6は、本実施例に従ったGNSS受信装置100を示す。第1の実施例において示したGNSS受信装置100と、ループ帯域幅設定部122を有する点で異なる。
【0085】
ループ帯域幅設定部122は、LPF1066と接続される。ループ帯域幅設定部122には、車速情報が入力される。
【0086】
図7は、積分器1064により出力されるC/Aコード位相の特性を示す。
【0087】
車速が速い場合には、時間に対して、C/Aコード位相の変動の周期が短くなる。車速が遅い場合には、車速が速い場合とは逆に、時間に対して、C/Aコード位相の変動の周期が長くなる。
【0088】
従って、C/Aコード位相の変動を除去するためには、車両の速度が速い場合にはDLL106におけるループ帯域幅を大きな値に設定し、車両の速度が遅い場合にはDLL106におけるループ帯域幅を小さな値に設定するのが好ましい。
【0089】
ループ帯域幅設定部122は、車速情報に基づいて、DLLのループ帯域幅を変化させる。
【0090】
図8は、DLLのループ帯域幅の設定例を示す。図8に示されるように、例えば、車両の速度が低速となるに従って、DLLのループ帯域幅を狭くする。DLLのループ帯域幅を狭くすることにより、測位誤差を低減できる。
【0091】
また、ループ帯域幅設定部122は、車両の速度が所定の速度Aよりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。該所定の速度Aは、GPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度に設定されるのが好ましい。DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることによりGPS衛星からの信号をデコードできなくなることを防止できる。該C/Aコードを復調可能な帯域幅は、C/Aコードの変調帯域のナイキスト周波数であってもよい。
【0092】
ループ帯域幅設定部122は、DLLのループ帯域幅の設定値をLPF1066に入力する。
LPF1066は、ループ帯域幅設定部122により設定されたループ帯域幅により、C/Aコード位相をフィルタリングし、位相残差を出力する。
【0093】
<本GNSS受信装置の動作>
図9は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。図9には、図5を参照して説明したフローチャートにおけるステップS502に含まれる処理が主に示される。
【0094】
GNSS受信装置100は、車両の速度に基づいて、ループ帯域幅を設定する(ステップS902)。例えば、ループ帯域幅設定部122は、車速情報に基づいて、ループ帯域幅を設定する。例えば、ループ帯域幅設定部122は、車両の速度が低速となるに従って、DLLのループ帯域幅を狭くする。また、ループ帯域幅設定部114は、車両の速度がGPS受信装置の移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる速度よりも低速の場合には、DLLのループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。該ループ帯域幅は、LPF1066に入力される。
【0095】
GNSS受信装置100は、ステップ902により設定されたループ帯域幅により、C/Aコード位相をフィルタリングする(ステップS904)。例えば、LPF1066は、ループ帯域幅設定部122により設定されたループ帯域幅で、C/Aコード位相をフィルタリングする。
【0096】
本実施例によれば、車両の速度に基づいて、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を変化させることにより、測位誤差を低減できる。該DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅は、車両の速度が低速となるほど狭くする。また、移動速度がC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度よりも低速の場合には、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とする。DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることにより、GPS衛星からの信号をデコードできなくなるのを防止できる。
【0097】
本実施例において、車両の速度に基づいて、DLL (L1-P)回路のループ帯域幅を変化させるようにしてもよい。具体的には、車両の速度が低速となるほど狭くする。しかし、PコードのDLLの帯域幅は十分広いため、極低速でのみ制限するのが好ましい。
【0098】
<第3の実施例>
<システム>
本実施例に従ったGNSSは、第1の実施例と同様である。
【0099】
<GNSS受信装置>
本実施例に従ったGNSS受信装置100は、第1及び第2の実施例において示したGNSS受信装置100に、Pコード位相距離推定部124を有するようにしたものである。
【0100】
図10は、Pコード位相距離推定部124を示す。
【0101】
Pコード位相距離推定部124は、衛星追尾判定部1242と、搬送波位相距離差分値演算部1244と、Pコード位相距離演算部1248とを有する。搬送波位相距離差分値演算部1244はメモリ1246を有し、Pコード位相距離演算部1248もメモリ1250を有する。
【0102】
Pコード位相距離推定部124は、DLL(L1-P)回路114、DLL(L2-P)回路120、及びスムージング処理部108と接続される。Pコード位相距離推定部124は、搬送波位相積算値を用いて、位相距離の差分値を算出する。Pコード位相距離推定部124は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしていないかどうかを判定する。DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしたと判定された場合には、Pコード位相距離推定部124は、搬送波位相積算値により求めた相対距離変化によりPコード位相距離を推定する。Pコード位相距離推定部124は、スムージング処理部108に、Pコード位相距離を入力する。スムージング処理部108では、Pコード位相距離推定部124によりPコード位相距離が入力された場合、該Pコード位相距離を用いて衛星擬似距離が求められる。一方、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120がGNSS衛星をロストしたと判定されない場合には、Pコード位相距離推定部124は、スムージング処理部108に、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相を入力する。さらに、Pコード位相距離推定部124は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を算出し、記憶する。
【0103】
衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114、DLL(L2-P)回路120、及びスムージング処理部108と接続される。衛星追尾判定部1242は、当該GNSS受信装置100がGNSS衛星をロストしていないかどうかを判定する。換言すれば、当該GNSS受信装置100によりGNSS衛星が追尾できているかどうかを判定する。例えば、衛星追尾判定部1242には、電波状態情報が入力される。衛星追尾判定部1242は、電波状態情報に基づいて、該電波状態情報が所定の電波状態を満たさない場合に、GNSS衛星を追尾できていないと判定するようにしてもよい。
【0104】
また、衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2−P)回路120における受信信号とPコードのレプリカ信号との間の相関ピークを観測するようにしてもよい。衛星追尾判定部1242は、相関ピークの閾値以下に、相関ピークのピーク値が低下した場合に、追尾できていないと判定するようにしてもよい。該相関ピークの閾値は、GNSS衛星の仰角に基づいて変更するようにしてもよい。
【0105】
また、衛星追尾判定部1242は、地図情報に基づいて、例えば、高層ビルや木々などの障害物によりGNSS衛星からの電波がさえぎられるかどうかを判定するようにしてもよい。電波がさえぎられると判定される場合には、衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できないと判定するようにしてもよい。
【0106】
衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できていると判定した場合には、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相をスムージング処理部108、及びPコード位相距離演算部1248に入力する。また、衛星追尾判定部1242は、GNSS衛星を追尾できていないと判定した場合には、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相は誤っていると判断し、該Pコード位相をスムージング処理部108に入力しない。衛星追尾判定部1242は、DLL(L1-P)回路114及び/又はDLL(L2-P)回路120により入力されるPコード位相が誤っていると判断した場合、Pコード位相距離演算部1248にPコード位相距離を出力するように命令する。
【0107】
搬送波位相距離差分値演算部1244には、搬送波位相積算値が入力される。該搬送波位相積算値は、位相同期回路(PLL: Phase Locked Loop)(図示なし)により入力される。該搬送波位相積算値は、1エポック毎のドップラー周波数により算出してもよい。例えば、ドップラー周波数を積算する。搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相積算値から擬似距離を求める。該擬似距離は、搬送波位相距離Φとも呼ばれる。搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相距離Φをメモリ1246に記憶する。搬送波位相距離Φをメモリ1246に記憶した後、搬送波位相距離差分値演算部1244は、次のエポックで入力された搬送波位相積算値から搬送波位相距離を求める。搬送波位相距離差分値演算部1244は、該搬送波位相距離と、メモリ1246に記憶されている1エポック前の搬送波擬似距離との差(Φi-Φi-1)(iは、エポックを示す)を求め、メモリ1246に記憶するとともに、Pコード位相距離演算部1248に入力する。
【0108】
Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242、搬送波位相距離差分値演算部1244、及びスムージング処理部108と接続される。Pコード位相距離演算部1248には、搬送波位相距離差分値演算部1244により搬送波位相距離の差分値(Φi-Φi-1)が入力される。また、Pコード位相距離演算部1248には、衛星追尾判定部1242によりPコード位相が入力される。また、Pコード位相距離演算部1248には、所定の場合に衛星追尾判定部1242によりPコード位相距離を出力する命令が入力される。
【0109】
Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242により入力されたPコード位相からPコード位相距離を求める。該Pコード位相距離は、メモリ1250に記憶される。また、Pコード位相距離演算部1248は、搬送波位相距離差分値演算部1244により入力される搬送波位相距離の差分値(Φi-Φi-1)に基づいて、Pコード位相距離を求める。例えば、Pコード位相距離演算部1248は、式(2)により、Pコード位相距離を求める。
【0110】
【数2】
式(2)において、ρ2(ti-1)は、メモリ1250に記憶された値を用いる。Pコード位相距離演算部1248は、新たに求めたPコード位相距離をメモリ1250に記憶する。Pコード位相距離演算部1248は、衛星追尾判定部1242により入力されるPコード位相距離を出力する命令に従って、スムージング処理部108に、Pコード位相距離を入力する。
【0111】
<本GNSS受信装置の動作>
図11は、本GNSS受信装置100の動作を示すフローチャートである。
【0112】
図11において、ステップS1102−S1104、及びS1112−S1114は、図5を参照して説明したS502−S508と同様である。従って、ステップS1106から説明する。
【0113】
本GNSS受信装置100は、GNSS衛星をロストしたかどうかを判定する(ステップS1106)。例えば、衛星追尾判定部1242は、電波状態情報に基づいて、GNSS衛星をロストしたかどうかを判定するようにしてもよい。
【0114】
GNSS衛星をロストしたと判定した場合(ステップS1106:YES)、本GNSS受信装置100は、搬送波位相距離の差分値に基づいて、Pコード位相距離を求める(ステップS1108)。例えば、搬送波位相距離差分値演算部1244は、搬送波位相距離の差分を求める。Pコード位相距離演算部1248は、搬送波位相距離差分値演算部1244により求められた搬送波位相距離の差分値に基づいて、Pコード位相距離を求める。
【0115】
GNSS衛星をロストしたと判定されない場合(ステップS1106:NO)、本GNSS受信装置100は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を求める(ステップS1110)。例えば、スムージング処理部108の衛星擬似距離演算部1084は、Pコード位相に基づいて、Pコード位相距離を求める。
【0116】
本実施例によれば、GNSS衛星をロストしていないかどうかを判定できる。また、GNSS衛星をロストした場合でも、搬送波位相により衛星距離を求めることができる。
【0117】
上述した実施例によれば、GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置が提供される。
【0118】
該GNSS受信装置は、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める、DLL(L1-C/A)回路としての第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める、DLL(L1-P)回路、DLL(L2-P)回路としての第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める、スムージング処理部108としての擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有する。
【0119】
スムージング処理において、C/Aコード位相により得られる擬似距離と、Pコード位相により得られる擬似距離に対して重み付けを行う際に、車両の速度に基づいて該重み付けを変化させる。例えば、車両の速度が遅いほど、C/Aコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が小さくなるように設定する。その結果、Pコード位相により得られる擬似距離の配分(重み付け)が大きくなる。C/Aコード位相と比較して、Pコード位相はマルチパス誤差が小さいため、Pコード位相により衛星距離を求めることにより、測位精度を向上させることができる。
【0120】
さらに、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記第1の遅延同期ループ回路のループ帯域幅を設定するループ帯域幅設定部
を有し、
前記第1の遅延同期ループ回路は、前記ループ帯域幅設定部により設定されたループ帯域幅に基づいて、C/Aコードの位相を求める。
【0121】
車両の速度に基づいて、DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を変化させることにより、測位誤差を低減できる。すなわち、車両の速度に応じて、ループ帯域幅と、C/Aコード位相、Pコード位相の重み係数とを変化させることにより、マルチパス誤差を低減できる。C/Aコードの変調帯域以下となるような低速域においても、Pコード位相を用いることによりマルチパス誤差を低減できる。すなわち、全速度域において、マルチパス誤差を低減できる。
【0122】
さらに、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記ループ帯域幅を狭い値に設定する。
【0123】
DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅を車両の速度が低速となるほど狭くすることにより、測位精度を向上させることができる。
【0124】
さらに、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が、前記第1の遅延同期ループ回路におけるC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度以下となる場合、該C/Aコードを復調可能な帯域幅に、前記ループ帯域幅を設定する。
【0125】
DLL(L1-C/A)回路のループ帯域幅をC/Aコードを復調可能な帯域幅とすることにより、GPS衛星からの信号をデコードできなくなるのを防止できる。
【0126】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記重み付けを小さな値に設定する。
【0127】
C/Aコード位相の重み付けが小さな値となるほどPコード位相の重み付けが大きくなる。Pコード位相の重み付けが大きくなることにより、車両の速度が低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0128】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記Pコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど大きな値に設定する。
【0129】
Pコード位相の重み付けが大きな値となるほどC/Aコード位相の重み付けが小さくなる。Pコード位相の重み付けが大きくなることにより、車両の速度が低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0130】
さらに、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が所定の速度以下となる場合、前記重み付けを最小値に設定する。
【0131】
Pコード位相のみを用いてスムージング処理を行うことにより、車両の速度が所定の速度より低速となった場合においてもマルチパスの影響を低減して、衛星距離を求めることができる。
【0132】
さらに、
GNSS衛星を追尾できているかどうかを判定する衛星追尾判定部と、
搬送波位相に基づいて擬似距離を求め、該擬似距離の所定の時間における差分を求める、搬送波位相距離差分値演算部としての差分値演算部と、
該差分値演算部により求められた差分に基づいて、Pコード位相により求められる擬似距離を推定する、Pコード位相距離演算部としての擬似距離推定部と
を有し、
前記擬似距離演算部は、前記衛星追尾判定部によりGNSS衛星を追尾できていないと判定された場合、擬似距離推定部により推定された擬似距離に基づいて、前記GNSS衛星と当該GNSS受信装置との間の擬似距離を求める。
【0133】
本実施例によれば、GNSS衛星をロストした場合でも衛星距離を求めることができる。ノイズなどにより瞬間的にPコードを追尾できない状況となった場合でも、PLLを用いて搬送波位相(キャリア位相)を算出することにより、Pコード位相の変化量を引き継いで使用することができる。ノイズなどにより瞬間的にPコードを追尾できない状況となった場合でも、Pコード位相を使用し続けることができる。
【0134】
本実施例によれば、GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法が提供される。
【0135】
該方法は、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該擬似距離演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する。
【0136】
以上、本発明は特定の実施例を参照しながら説明されてきたが、各実施例は単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。説明の便宜上、本発明の実施例に従った装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウエアで、ソフトウエアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が包含される。
【符号の説明】
【0137】
1 高周波回路
2 乗算器
3 積分器
4 低域通過フィルタ(LPF: Low-Pass Filter)
5 数値制御発振器
6 C/Aコード発生器
7 距離算出部
10 遅延同期ループ(DLL: Delay-Locked Loop)回路
100 GNSS受信装置
102 高周波回路
104 乗算器
106 遅延同期ループ回路(DLL(L1-C/A) 回路)
1062 乗算器
1064 積分器
1066 低域通過フィルタ
1068 数値制御発振器
1070 C/Aコード発生器
108 スムージング処理部
1082 重み係数設定部
1084 衛星擬似距離演算部
110 測位演算部
112 乗算部
114 遅延同期ループ回路(DLL(L1-P) 回路)
1142 乗算部
1144 積分器
1146 Wコード除去部
1148 低域通過フィルタ
1150 数値制御発振器
1152 Pコード発生器
116 高周波回路
118 乗算部
120 遅延同期ループ回路(DLL(L2-P))
1202 乗算部
1204 積分器
1206 Wコード除去部
122 ループ帯域幅設定部
124 Pコード位相距離推定部
1242 衛星追尾判定部
1244 搬送波位相距離差分値演算部
1246 メモリ
1248 Pコード位相距離演算部
1250 メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有するGNSS受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のGNSS受信装置において、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記第1の遅延同期ループ回路のループ帯域幅を設定するループ帯域幅設定部
を有し、
前記第1の遅延同期ループ回路は、前記ループ帯域幅設定部により設定されたループ帯域幅に基づいて、C/Aコードの位相を求めるGNSS受信装置。
【請求項3】
請求項2に記載のGNSS受信装置において、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記ループ帯域幅を狭い値に設定するGNSS受信装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のGNSS受信装置において、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が、前記第1の遅延同期ループ回路におけるC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度以下となる場合、該C/Aコードを復調可能な帯域幅に、前記ループ帯域幅を設定するGNSS受信装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記重み付けを小さな値に設定するGNSS受信装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記Pコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど大きな値に設定するGNSS受信装置。
【請求項7】
請求項5に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が所定の速度以下となる場合、前記重み付けを最小値に設定するGNSS受信装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
GNSS衛星を追尾できているかどうかを判定する衛星追尾判定部と、
搬送波位相に基づいて擬似距離を求め、該擬似距離の所定の時間における差分を求める差分値演算部と、
該差分値演算部により求められた差分に基づいて、Pコード位相により求められる擬似距離を推定する擬似距離推定部と
を有し、
前記擬似距離演算部は、前記衛星追尾判定部によりGNSS衛星を追尾できていないと判定された場合、擬似距離推定部により推定された擬似距離に基づいて、前記GNSS衛星と当該GNSS受信装置との間の擬似距離を求めるGNSS受信装置。
【請求項9】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該擬似距離演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する方法。
【請求項1】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成し、該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求める第1の遅延同期ループ回路と、
Pコードのレプリカ信号を生成し、該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求める第2の遅延同期ループ回路と、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定部と、
前記重み付け設定部により設定された重み付けと、前記第1の遅延同期ループ回路により求められたC/Aコードの位相と、前記第2の遅延同期ループ回路により求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算部と、
該擬似距離演算部により求められた擬似距離に基づいて、測位を行う測位演算部と
を有するGNSS受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のGNSS受信装置において、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記第1の遅延同期ループ回路のループ帯域幅を設定するループ帯域幅設定部
を有し、
前記第1の遅延同期ループ回路は、前記ループ帯域幅設定部により設定されたループ帯域幅に基づいて、C/Aコードの位相を求めるGNSS受信装置。
【請求項3】
請求項2に記載のGNSS受信装置において、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記ループ帯域幅を狭い値に設定するGNSS受信装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のGNSS受信装置において、
前記ループ帯域幅設定部は、当該GNSS受信装置の速度が、前記第1の遅延同期ループ回路におけるC/Aコードを復調可能な帯域幅となる所定の速度以下となる場合、該C/Aコードを復調可能な帯域幅に、前記ループ帯域幅を設定するGNSS受信装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど、前記重み付けを小さな値に設定するGNSS受信装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記Pコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを、当該GNSS受信装置の速度が低速になるほど大きな値に設定するGNSS受信装置。
【請求項7】
請求項5に記載のGNSS受信装置において、
前記重み付け設定部は、当該GNSS受信装置の速度が所定の速度以下となる場合、前記重み付けを最小値に設定するGNSS受信装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のGNSS受信装置において、
GNSS衛星を追尾できているかどうかを判定する衛星追尾判定部と、
搬送波位相に基づいて擬似距離を求め、該擬似距離の所定の時間における差分を求める差分値演算部と、
該差分値演算部により求められた差分に基づいて、Pコード位相により求められる擬似距離を推定する擬似距離推定部と
を有し、
前記擬似距離演算部は、前記衛星追尾判定部によりGNSS衛星を追尾できていないと判定された場合、擬似距離推定部により推定された擬似距離に基づいて、前記GNSS衛星と当該GNSS受信装置との間の擬似距離を求めるGNSS受信装置。
【請求項9】
GNSS衛星から送信される測位信号に基づいて測位演算を行うGNSS受信装置における方法であって、
C/Aコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該C/Aコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、C/Aコードの位相を求めるステップと、
Pコードのレプリカ信号を生成するステップと、
該Pコードのレプリカ信号と前記GNSS衛星からの測位信号との同期をとることにより、Pコードの位相を求めるステップと、
当該GNSS受信装置の移動速度に基づいて、前記C/Aコードの位相により得られる擬似距離に対する重み付けを設定する重み付け設定ステップと、
前記重み付け設定ステップにより設定された重み付けと、前記C/Aコードの位相を求めるステップにより求められたC/Aコードの位相と、前記Pコードの位相を求めるステップにより求められたPコードの位相に基づいて、擬似距離を求める擬似距離演算ステップと、
該擬似距離演算ステップにより求められた擬似距離に基づいて測位を行う測位演算ステップと
を有する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−141241(P2011−141241A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3208(P2010−3208)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]