説明

GPSを利用した物体観測システム

【目的】 GPS電波に対する物体の掩蔽を測定することにより、物体の存在あるいは非存在を識別し、もって人や車両などの物体の移動の検知、土砂崩れなどの検知、水位あるいは積雪の観測を行う。
【構成】 GPSアンテナ素子を点状あるいは線状または面状に配置して、各GPSアンテナ素子のGPS電波の受信状態の時間変化を解析することにより、当該素子が物体で掩蔽されているか否かを識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGPSによる物体の観測に関する。
【背景技術】
【0002】
水位および波浪の観測は、目視、写真、標尺、超音波、ブイ、圧力センサー、GPSブイなどを用いて行われている。積雪の深さは目視、写真、雪尺、秤、超音波などを用いて行われている。他方、車両の盗難防止などには、鍵のほか、監視カメラ、光学的センサー、振動センサー、GPSなどが用いられている。また、人や動物の建物あるいは土地への侵入の検知には、光学的センサー、圧力センサーなどが利用されている。土砂やがけ崩れの監視には、目視、監視カメラ、光学センサー、歪センサー、ワイヤーなどが利用されている。
【0003】
水位の観測や物体の存在を識別する方法は、上述のように広範かつ多岐にわたっているが、本発明はGPSを利用したものであることを前提に、背景技術を見る。
【0004】
波浪および津波の高さをGPSブイを利用して観測する技術が開示されている(特許公開平11−63984)。この技術は、ブイにGPS局を搭載し、その鉛直方向の変位あるいは高さをGPSの測位機能を用いて行うものである。
【0005】
降水量の観測には、一般に雨量計が用いられており、直径が20cmの円筒容器の水平断面を通過する降水を計測して行われている。しかしながら、GPSを利用したものは見当たらない。
【0006】
積雪の深さ(以下、積雪深という)の観測に、GPSを利用した技術は見当たらない。
【0007】
車両や金庫などの盗難防止にGPSを用いる技術は、それらにGPS局を搭載し、GPSの測位機能を利用して移動を検知するものである。
【0008】
人や動物の建物あるいは土地への侵入の検知に、GPSを利用した技術は見当たらない。なお、動物にGPSを装着して、その行動を追跡する方法がある。
【0009】
土砂崩れの監視にGPSを用いて行う方法が開示されているが、土砂崩れに伴う、土砂の地理学的変位を、GPSを用いて検知するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、人あるいは動物、それ以外の物体の存在の識別あるいは観測は、光学的手段、電気的手段、音波的手段、圧力的手段、電波的手段などで行われているが、GPSを利用して、それらの識別や観測を、従来に比べてより簡便に行うことができれば、盗難防止や防犯対策などに役立つ。一方、水位および波浪、積雪深の観測を、GPSを利用したシステムにより、従来に比べてより簡便に行うことができれば、その利益は大きい。このようにGPS技術のより有効な利用が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
GPSで用いられる電波は365日24時間、昼夜の区別なく、上空からあたかも太陽のごとく地表に射出されており、その仕様も公開されているため、軍事以外に民生用に利用されている。すなわち、現在、GPSは測量、船舶や航空機の航行、カーナビゲーション、携帯電話端末など多方面で利用されており、また、GPSアンテナの素子化およびGPS局の小型化および省電力が図られている。GPS技術は、本来、GPS電波を受信する場所において、信号が正常に受信できる環境が大前提である。すなわち、GPS局の上空には電波を掩蔽する物体が存在しないことである。しかしながら、逆に上空にGPS電波を掩蔽する何らかの物体が存在する場合は、電波が吸収あるいは遮蔽されるため、GPSの正常な受信が困難あるいは阻害される。
【0012】
本発明は、GPSアンテナに対する物体によるこのような掩蔽の影響を利用して、物体の存在の識別、監視、あるいは観測を行う方法であって、GPS本来の測位機能を全く用いない点が本質的な特徴である。本発明は、3次元空間における物体の存在あるいは非存在、移動などを識別あるいは観測することが可能である。
【0013】
ある場所に置かれたGPSアンテナ素子が、物体に掩蔽されている場合と掩蔽されていない場合で、GPSの受信強度が異なることを利用して、物体がGPSアンテナ素子の上部あるいは周辺に存在するか、あるいは存在しないかを識別することができるので、人、動物、車両などの建物および土地への接近、侵入あるいは移動を観測し、防犯などに役立てることが可能である。
【0014】
GPSアンテナ素子が、ある厚さ以上の水あるいは雪で掩蔽された場合、GPSの受信状態が正常から非正常に変化することを利用して、水位あるいは積雪深、波浪を観測することが可能である。
【0015】
GPSアンテナ素子を、ロープや布などの資材に付着させておき、それらが移動することによって生じるGPS受信状態を解析することにより、その資材自身の移動あるいは非移動を識別することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、人、車両、物品、動物などの物体の存在あるいは非存在を、GPSを用いて簡便に識別できるほか、水位および積雪深、波浪が簡便に観測できるので、防犯対策および産業活動の安全性の確保に寄与できるほか、水および雪氷、海洋に係わる学術分野の進歩に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0017】
物体として、車両を対象にした場合の識別システムの例を示す。図1に示すように、識別システムは、素子化されたGPSアンテナ(以下、アンテナ素子(1)という)、アンテナ素子を線状あるいは面状に配列したGPSアンテナ装置(2)、各アンテナ素子のGPS受信状態が正常であるか否かを識別するGPS信号解析装置(3)で構成される。あるアンテナ素子(例えば、図中に陰影を施したアンテナ素子)が車両(4)によって、電波的に掩蔽されれば、そのアンテナ素子の受信状態が、正常から非正常に変化する。逆に掩蔽がなくなれば、その受信状態が非正常から正常に変化する。各アンテナ素子の受信状態を総合的に解析することにより、車両の通過、停車あるいは駐車を認識する。アンテナ素子の配列間隔を密にするほど車両の解像度が向上し、また、解析の時間間隔を短くするほど車両の動態がより正確に識別できる。
【実施例2】
【0018】
人あるいは動物の土地への侵入に対しても、実施例1と同様の手法が適用できる。
【実施例3】
【0019】
ある物体(本例では、物体としてロープの場合を考える)の移動を識別するシステムについて述べる。図2に示すように、ロープにGPSアンテナ素子(1)を付着させて、GPSアンテナ装置(2)を構成し、GPS信号解析装置(3)によって各アンテナ素子の受信状態を解析する。ロープを図中の下段のように展開後、上段のように変化あるいは移動したとすれば、あるアンテナ素子の受信状態が、正常から非正常へ、あるいは非正常から正常へと、変化し得ることを利用して、ロープの移動および非移動を識別する。図中の陰影は、移動によって掩蔽を受けたアンテナ素子を示す。本例では線状のロープの場合を述べたが、GPSアンテナ素子を面状に展開しても、同様の識別が可能であることは明らかである。
【実施例4】
【0020】
GPSを利用して、水位あるいは積雪深を観測するシステムについて記述する。システムは、図3に示すように、支柱にGPSアンテナ素子A、A、A、A(以下、アンテナ素子という)を装着し、直立させる。各素子の受信状態をGPS信号解析装置(2)を用いて、最下層のアンテナ素子から順に解析し、アンテナ素子が水あるいは雪によって掩蔽されているか否かを識別することによって、水位あるいは積雪深を観測する。すなわち、水位あるいは積雪深がゼロの場合は、掩蔽がないので、すべてのアンテナ素子で正常に受信できる。今、水位あるいは積雪深が増加し、アンテナ素子Aを超えたとすると、水あるいは雪による掩蔽が生じ、受信状態が正常から非正常に変化するため、水位あるいは積雪面がその高さまで達したことが識別できる。さらに同様にして、時間が経過してAが掩蔽を受ければ、Aを超えたと認識する。アンテナ素子の鉛直方向の配列間隔は、目的とする観測精度によって調整可能であることは明らかである。
なお、GPS電波は、水中および雪中を吸収を受けながら、ある厚さまで進入するが、その厚さを事前に求めておくことは可能である。
【実施例5】
【0021】
GPSを用いて、波高を観測するシステムについて記述する。図4に示すように、GPSアンテナ素子(1)を配列した支柱を浮遊ブイ(2)に直立させ、海中に半水没させる。実施例4と同様の方法で、GPS信号解析装置(3)を用いて、各GPSアンテナ素子の受信状態を解析することにより、波高が観測できる。なお、支柱が極力鉛直を保持できるように、ブイを海水の運動が十分小さい深度まで水没させる。また、必要に応じて適当な抵抗体(4)を取り付ける。
【実施例6】
【0022】
GPSを利用した土砂やがけ崩れなどの検知システムについて説明する。図5に示すように、GPSアンテナ素子(1)を付帯させたワイヤーを、対象とする土砂などに埋設し、各アンテナ素子の受信状態を解析する。GPSアンテナ素子が土砂中にある限り電波が掩蔽されるため、受信状態はすべて非正常である。あるGPSアンテナ素子の受信状態が非正常から正常に変化すれば、そのアンテナ素子の周囲にGPS電波の受信が可能な空隙あるいは露出が生じたことになり、亀裂あるいは土砂やがけ崩れが生じていると認識する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
新たな防犯装置の製作のほか、水文および海洋に関連する産業に波及が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 土地への車両の侵入などを識別するシステム
【図2】 ロープの移動を識別する場合のシステム
【図3】 水位あるいは積雪深を観測するシステム
【図4】 GPS波高観測システム
【図5】 土砂・がけ崩れ検知システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPSアンテナ素子で受信されるGPS信号を解析して、GPSアンテナ素子が物体により掩蔽されていること、あるいは掩蔽されていないことを観測する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−220987(P2011−220987A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101453(P2010−101453)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(308005017)
【Fターム(参考)】