説明

GPSR多周計測型電離層遅延補正装置、GPSR多周計測型電離層遅延補正方法及びプログラム

【課題】 2周波に限定せず多周波を用いたGPS信号に関する擬似距離の算出において、電離層の影響を簡単かつ精度良く補正し、ノイズに対する耐力も有するGPS電離層遅延補正機構を提供する。
【解決手段】 多周波の観測量としての擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する電離層遅延補正部9を有する構成として構築する。GPS受信機或いは測位ツールで計測した多周波の観測量として測定した擬似レンジデータを収得し、その擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定する。次に、前記推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPSR(GPS受信機)による測位・航法の分野に属し、GPS電離層遅延補正装置、GPS電離層遅延補正方法、GPS電離層遅延補正プログラム、GPS受信機に関する。特に、擬似レンジデータの電離層遅延補正機構として、2周波に限らず一般的な多周波受信型のGPSRによる測位・航法に好適に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来の2周波受信型GPS受信機では、周波数搬送波L1(1575.42MHz)、L2(1227.6MHz)の2周波による擬似レンジについての線型結合により、電離層遅延を補正した擬似レンジデータを合成している。
【0003】
例えば、特許文献1に示す特開2000−310674号公報「2衛星を用いた単一周波数のGPS受信機に対するイオン層修正法」には、一般的なGPS受信機ではセキュリティの理由から1つの周波数L1のみしか受信できない点を克服するための技術が開示されている。前記特許文献1の従来技術の欄に記載されているように、2つの異なるGPS周波数L1、L2を用いることができれば、両者の到達時間の差を求めることにより、観測ノイズによる影響を度外視すれば理論上は、電離層の干渉によるGPS信号の遅延を完全に補正することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の方法は、受信周波数が2波の場合に限定され、将来に予定している複数の周波数L1,L2,L5(1176.45MHz)等を含む一般的な多周波のGPS信号については考慮されていない。したがって、例えば、各擬似レンジデータ、すなわち、GPS受信機の時間情報を用いて求めた伝搬時間差から算出したGPS衛星とGPS受信機との間のレンジデータの中から、最適な組み合わせのアルゴリズムを用いて、電離層遅延を補正した擬似レンジデータを求めることができない。
【0005】
また、2周波のGPS信号の場合、2周波の組み合わせのうち、1周波のデータが欠落することに対して耐性がない。更に、データを取得した1ショットごとの補正であるので、補正値自身が各観測データに含まれる観測ノイズに影響されて左右され易いという課題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2000−310674号公報(第3頁)
【0007】
本発明の目的は、2周波に限定せず、2以上の多周波でも、多周波の各観測データを最適に重み付け合成することにより、共通的な同一のアルゴリズムに従って、電離層遅延補正済み擬似距離データを算出することを可能にするGPS電離層遅延補正装置、その遅延補正方法、そのプログラム、GPS受信機を提供することにある。
【0008】
さらに本発明の目的は、各観測データに含まれる観測ノイズの影響による、電離層遅延の補正量の誤差を最小化するための簡単で実際的な手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置は、多周波の観測量として測定した擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する電離層遅延補正部を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、GPS受信機或いは測位ツールで計測した多周波の観測量として測定した擬似レンジデータを収得し、その擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定する。次に、前記推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する。
【0011】
前記電離層遅延係数を推定するにあたっては、電離層の遅延量を設定する電離層遅延モデルに定数変化法を応用したカルマンフィルタ技術を用いる、或いは前記カルマンフィルタ技術に代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタ技術を用いる。或いは、観測残差に最小2乗法を適用した多周波アルゴリズムを用いる。
【0012】
以上のように本発明では、多周波の観測量としての擬似レンジ観測データに基づき、これらの最適合成として電離層遅延を補正した値を算出し、電離層遅延モデルのモデル定数にカルマンフィルタ技術などのフィルタ推定技術を応用して、各観測データに含まれる観測ノイズの影響を極小化して、高精度に電離層遅延補正量を算出する。
【0013】
本発明は、GPSR多周波計測型電離層遅延補正装置を構成するコンピュータに電離層遅延補正量を算出させるためのプログラムとして構築してもよいものである。本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正プログラムは、多周波の観測量として測定した擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する機能を実行させる構成として構築する。
【0014】
前記プログラムは、前記コンピュータに、電離層の遅延量を設定する電離層遅延モデルに定数変化法を応用したカルマンフィルタ技術を用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させる、或いは前記カルマンフィルタ技術に代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタ技術を用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させる構成として構築してもよいものである。また前記プログラムは、前記コンピュータに、観測残差に最小2乗法を適用した多周波アルゴリズムを用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させる構成として構築してもよいものである。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、2周波の観測データのみに限定せず、2周波以上の一般的な多周波の観測データに対して、最適配分の下に電離層遅延補正値の算出を行うことができる。
【0016】
さらに、電離層遅延係数の推定に、補正値に対する観測のノイズの影響が極小化されるアルゴリズムを用いているため、電離層遅延補正の精度を向上させることができる。さらに、電離層遅延係数の推定にフィルタ推定を用いるため、データ欠落に対する耐性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置は基本的構成として、電離層遅延係数にあたって、カルマンフィルタ技術の推定技術を適用し、フィルタを変分形式に定式化することにより、多周波の観測量として測定した複数の擬似レンジデータに対する対応性を確保する。前記変分形式に定式化する定数変化法(method of variation of constant)とは、線形微分方程式(linear differential equation)の解法の一つで、類似の方程式の解の表式に基づき、表式は流用しながら、解の表式中の一般定数(積分定数)を改めて変数と看做して方程式の変数変換を行う手法を意味する。
【0019】
さらに、観測ノイズの影響の極小化、測距精度の向上、データ欠落への耐性獲得に配慮して、状態変数の選択に関し、電離層遅延モデルに対して定数変化法を応用した形式を採用する。なお、フィルタを変分形式に定式化する際には、観測作用を「擬似レンジに関する観測残差形式を観測ノイズレベルで規格化した形式の2乗和」によって与えることにより、観測精度の最適配分を実現する。
【0020】
さらに、本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置は、上述したアルゴリズムを利用した電離層遅延補正プログラムを、GPS受信機などのコンピュータのMPU(Micro Processing Unit)に実装し、電離層遅延係数を高精度・高信頼度で推定し、かつ観測量に高精度の電離層遅延補正計算を実施し、補正した擬似レンジデータ、およびpears点での電離層垂直遅延係数を出力する装置である。
【0021】
本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置は、多周波の観測量として測定した擬似レンジデータを読み込み、フィルタ推定により電離層遅延係数を高精度に推定し、かつ、その推定した電離層遅延係数を用いて、観測量として測定した擬似レンジデータに電離層遅延補正計算を実施し、補正した擬似レンジデータを出力する。これにより、電離層遅延を補正した高精度の電離層遅延補正済み擬似レンジデータが出力され、これに基づいて、高精度な測位・航法が可能になる。また、pears点での電離層垂直遅延係数が算出される。なお、前記pears点とは、多周波のGPS信号の電離層を通り抜ける電離層貫通点を意味する。
【0022】
次に、本発明に係るGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置をGPS受信機に適用した例を実施形態として説明する。
【0023】
前記GPS受信機Aは図1に示すように、アンテナ1からGPS信号を受信する受信部2と、局部発振器(Local Oscillator)・シンセサイザ3と、code生成器4と、中間周波数アンプ5と、code同調・復調部6と、相関器・位相カウンタ7と、本発明に係るGPS多周波計測型電離層遅延補正装置Bを有している。前記GPS多周波計測型電離層遅延補正装置Bは、MPUにGPS電離層遅延補正プログラムによる処理アルゴリズムを実行させて、データ部8と、クロック・遅延補正部9と、電離層遅延補正部10と、対流圏遅延補正部11と、測位計算部12の機能を実行する構成として構築されている。
【0024】
前記局部発振器・シンセサイザ3は、受信機1の基準周波数を生成し、複数のコヒーレント(coherent)な周波数を出力する機能を有している。前記受信部2は、前記アンテナ1からのGPS信号を受信し、前記局部発振器・シンセサイザ3からの周波数信号に基づいて、前記GPS信号に対して周波数変換(down convert)させて、その周波数変換した信号を前記中間周波数アンプ5に出力する機能を有している。前記中間周波数アンプ5は、前記受信部2から出力される周波数変換された信号を増幅させて、その増幅した信号を前記相関器・カウンタ7に出力する機能を有している。
【0025】
前記code生成器4は、前記局部発振器・シンセサイザ3からの信号に基づいてPRNcode信号を生成し、そのPRNcode信号を前記相関器・カウンタ7に出力する機能を有している。前記code同調・復調部6は、前記code生成器4からの信号に基づいてcode同調処理を行い、拡散符号のレプリカの拡散信号との相関を計算し、拡散符号をロックし、航法信号を復調し、その航法信号を前記相関器・カウンタ7に出力する機能を有している。
【0026】
前記相関器・カウンタ7は、前記拡散符号のロックの保持のための時間差、搬送ロックを保持するための位相差を計測して、多周波の擬似レンジデータρjと搬送波位相データΦjとを出力すると共に、その結果に基づいて航法(Nav)MSGパラメータを生成してGPS電離層遅延補正装置Bに出力する機能を有している。
【0027】
以上の構成により、GPS受信機の擬似距離計測機能により、多周波の観測量として測定した擬似レンジデータρjが算出される。なお、前記jは周波数に関するインデックスである。
【0028】
前記GPS電離層遅延補正装置Bの前記データ部8は、前記相関器・位相カウンタ7が出力する多周波の観測量としての擬似レンジデータρjを取得する機能を有している。前記前記電離層遅延補正部9は、前記データ部8が取得した前記擬似レンジデータρj対して、衛星クロックの補正処理と衛星内遅延の補正処理及び、多重周波数対応の高精度電離層遅延補正の処理を行う機能を有している。
【0029】
本発明の実施形態での特徴は、前記電離層遅延補正部9による多重周波数対応の高精度電離層遅延補正の処理にある。すなわち、前記電離層遅延補正部9は、前記データ部8から出力される信号に対して、定数変化法を応用したフィルタ推定を電離層遅延モデルとして採用して、観測した多周波の擬似距離データρjに関する電離層垂直遅延係数を高精度に推定する。更に、前記推定した電離層遅延係数を用いて、観測した多周波の擬似レンジデータに対して電離層遅延補正計算を施し、かつ、観測ノイズレベルに応じて最適に重み付けした配分により電離層遅延補正量を合成して、電離層遅延補正済みの擬似レンジデータを出力する機能を有している。
【0030】
具体的に説明すると、前記前記電離層遅延補正部9は、推定系の初期設定の後、略標準的なカルマンフィルタ技術の手法に基づき、下記のデータ処理を行う。すなわち、
1)観測データとして測定した多周波の擬似レンジρjを取得する。
2)前回取得時刻から、最新のデータ取得までの電離層群遅延補正指数νの推定標準偏差σを伝搬する。
3)観測データ(多周波の擬似レンジデータρj )に基づく電離層群遅延補正指数νの推定値ν0とその推定標準偏差σを更新する。
4)電離層遅延係数Kの推定値を更新する。前記電離層遅延係数Kは、後述するように電離層群遅延補正指数νの函数として定義されている。
5)最適合成により、電離層遅延補正済み擬似レンジρとそのnoise level σG を算出する。
【0031】
前記電離層遅延係数Kは、図4に示す各GPS衛星13,14,15,16の測位信号についての電離層群遅延をK・(fL/fj)-2 として表現した際の比例係数である。前記電離層遅延係数Kに対する既存の電離層遅延モデルM(LST,φ)に補正因子exp(ν) を考慮して、K=exp(ν)・M(LST,φ)/cos(E) として与える。
【0032】
前記電離層遅延モデルのMは、電離層の垂直遅延量に関するモデル式で、GPSでは例えばKlobuchar Modelが知られている。前記電離層遅延モデルのLSTはpears点のLocal Sun Time、前記電離層遅延モデルのφは磁気緯度である。また、信号のEは図4に示す電離層交角を表す。これらは、GPS衛星とユーザの位置、受信時刻の概略が得られれば決まる量である。
【0033】
前記電離層群遅延の変化についてはモデルが概略を捉えているから、ある時間尺度τで見れば、νは定数であると言える。即ち、上記の変換は1種の定数変化法の考え方の応用と言える。
【0034】
上記の概要の下に電離層遅延補正指数のフィルタを次の様に定義する。すなわち、
状態変数:ν (群遅延補正指数)
運動方程式 dν/dt=0
観測量としては、擬似レンジデータρjを考える。観測方程式は以下の通りである。慣性系表現とし、光速C=1とする。
ρj=ρ+K・(fj/fL)-2+NGj
なお、ρ=電離層補正済み擬似距離、NGj=擬似レンジ観測ノイズである。ノイズレベルをσGj とし、情報散逸時定数をτとする。
【0035】
前記対流圏遅延補正部10は、前記電離層遅延補正部9から出力される信号に対して、例えば対流圏・系内などその他の遅延補正を行い、その補正信号を前記測位計算部11に出力する機能を有している。前記測位計算部11は、前記対流圏遅延補正部10から出力される信号を処理して、受信機位置、CLOCK推定結果などの測位・航法計算用の測位・航法データを外部に出力する機能を有している。
【0036】
なお、本発明の実施形態においては、電離層遅延係数の推定に当たって、電離層遅延モデルとして、定数変化法を応用した形式のフィルタ推定を使用して、瞬間的なノイズの影響を低減して推定精度を高める構成を採用したが、これに限られるものではなく、同型のアイデアであれば、前記カルマンフィルタに代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタ(spline filter)の適用等も可能である。斯かるフィルタ推定を用いることにより、観測データの欠落や瞬時的なノイズに対する耐性を獲得することができる。また、各周波の擬似距離観測データに対して同一アルゴリズムを用いて電離層遅延補正量を求め、更に、観測ノイズレベルに応じて重み付けをした最適配分を行って、それぞれの電離層遅延補正量を合成することにより、観測データに含まれる観測ノイズの影響を極小化することができる。
【0037】
次に、本発明の実施形態に係るGPS受信機Aを用いて、電離層遅延補正の処理を行う方法について説明する。
【0038】
図4に示すように、周波数の異なるGPS衛星13,14,15,16から電離層17に通して地上に出力されるGPS信号を図1に示すGPS受信機Aのアンテナ1が受信すると、そのGPS信号は受信部2に入力する。この場合、図1に示す局部発振器・シンセサイザ3は、受信機1の基準周波数を生成し、複数のコヒーレント(coherent)な周波数を受信部2及びcode生成器4に出力している。
【0039】
受信部2は、前記アンテナ1からのGPS信号を受信し、局部発振器・シンセサイザ3からの周波数信号に基づいて、前記GPS信号に対して周波数変換(down convert)させて、その周波数変換した信号を中間周波数アンプ5に出力する。中間周波数アンプ5で増幅された信号は、code同調・復調部6に入力し、前記信号は、code同調・復調器6により、code生成器4からの信号に基づいてcode同調処理が行われる。code同調・復調部6は、拡散符号のレプリカの拡散信号との相関を計算し、拡散符号をロックし、航法信号を復調し、その航法信号を相関器・カウンタ7に出力する。
【0040】
相関器・位相カウンタ7は、code同調・復調部6から出力される信号と、code生成器4から出力される信号を入力として、前記拡散符号のロックの保持のための時間差、搬送ロックを保持するための位相差を計測して、多周波の観測量としての擬似距離データρjをGPS多周波計測型電離層遅延補正装置Bに出力する。
【0041】
次に前記GPS多周波計測型電離層遅延補正装置Bで行われる一連の処理について図2に基づいて説明する。
【0042】
前記GPS多周波型電離層遅延補正装置Bは、プログラムを実行して、初期設定を行う。
電離層群補正指数νを0に設定し、電離層群補正指数の相対推定標準偏差σを1に設定する。すなわち、この場合、電離層遅延係数Kの先験的範囲として
e-1K0<K<e1・K0 (e≒2.718) 程度を想定している。
【0043】
次に図2のステップS1において、GPS受信機が計測した多周波の観測量として測定した擬似レンジデータρjが入力すると、観測データとして多周波観測によう擬似レンジρjを読み込む。GPS受信機の相関器出力から周期的に擬似レンジデータρjが得られるので、この値を推定プログラムへの入力とする。
【0044】
また、図2のステップS2において、データ部8からの信号に基づいて航法MSG(GPS位置情報,クロック情報等)を読み込み、ステップS3,S4において、通例通りの衛星クロックの補正及び通例どおりの衛星内遅延の補正を行う。
【0045】
次に、ステップS5において、本発明の特徴である多周波対応の電離層遅延補正の処理を行う。この処理は、推定伝搬過程と、推定更新過程からなる。
【0046】
前記推定伝搬過程は、推定状態の伝搬過程と、推定標準偏差の伝搬過程からなる。前記推定状態の伝搬過程では、定数変化法を採用しているため、一般のKalman Filter計算過程のうち、この過程は省略できる。また、状態変数νの伝搬については、運動方程式dν/dt=0の仮定から省略される。
【0047】
前記推定標準偏差の伝搬過程では、電離層補正指数νの推定標準偏差σに関して、推定情報散逸による伝搬は、次の式に基づいて行われる。
σ=σ・exp(Δt/τ)
Δtは伝搬のintervalで、具体的には前回更新からの経過時間である。τは推定の情報散逸時定数(プログラム定数)である。
【0048】
前記推定更新過程は、推定状態の更新過程と、推定標準偏差の更新過程からなる。
【0049】
前記推定状態の更新過程では、電離層補正指数ν、および電離層遅延補正済み擬似レンジρの更新値を算出する。前記更新は、最小作用原理に基づいて計算する。
この場合、観測作用Aobsを以下の式を以って与える。
Aobs=0.5Σ(ρj−ρ−K・(fj/fL)-2)2・σGj-2 ρj として観測値を代入する。
また、K≡exp(ν)・M(LST,φ)/cos(E)とする。
観測前推定作用Aest を以下の式を以って与える。
Aest=0.5・(ν−ν0)2・σ-2 ν0は、更新前のν推定値である。
全作用をA=Aobs+Aestとして定義する。
以下の方程式を解いて、電離層群補正係数νの更新値と電離層群遅延補正後の擬似レンジρの推定値を求める。解き方については、供述するように一部にiterationを使用する。
∂A/∂ρ=0 ; ρに関する 一次式
∂A/∂ν=0 ; 即ち、 K・∂Aobs/∂K+(ν−ν0)・σ-2=0
初期値ν=ν0 としてNewton法等を用いて一般的な方法で解かれる。或いは逐次近似として、ν=ν0+σ2K・∂Aobs/∂K としてνを更新する。
続いて電離層群遅延補正後の擬似レンジρを再計算する。方程式解法の技巧として、逐次近似は1サイクルで十分と判断する。
【0050】
次に、推定標準偏差の更新の処理は、電離層群補正指数νの推定標準偏差σの更新の処理と、電離層遅延補正済み擬似レンジρの推定標準偏差σGの算出の処理からなる。
【0051】
電離層群補正指数νの推定標準偏差σの更新について説明する。νに関する共分散更新をσ-2=σ-2+∂2Aobs/∂2ν により実行する。
また、∂2Aobs/∂2νは、K・∂Aobs/∂K+K22Aobs/∂2Kとして計算可能である。
【0052】
次に電離層遅延補正済み擬似レンジρの推定標準偏差σGの算出について説明する。
電離層群遅延補正後の擬似レンジの推定標準偏差σG
G)-2=∂2A/∂2ρ=∂2Aobs/∂2ρ 即ち (σG)-2=Σ(σGj)-2
により算出する。
【0053】
以上の処理が終了すると、ステップS6において、通例通りの対流圏遅延の補正が行われ、ステップS7において、通例通りの測位航法計算が行われ、次に、ステップS1に擬似レンジデータ入力に戻る。なお、ステップS7において、受信機位置、CLOCK推定結果が出力される。
【0054】
本発明の実施形態は、以上説明したものに限られるものではない。すなわち、電離層遅延係数Kの算出にカルマンフィルタ技術の推定手法を使わずに、観測残差に最小2乗法を適用した一般多周波アルゴリズムだけを採用し、2周波に限定されない(2周波、3周波何れにも適合する)電離層遅延補正方式を実現してもよいものである。また、電離層遅延係数Kの算出に採用するカルマンフィルタ技術に代えて、スプライン フィルタ等の技術を採用することで、観測ノイズの影響を低減化するようにしてもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように本発明は、多周波受信型のGPS受信機(GPSR)を組み込んだ測量機器、航空、船舶等の航法機器等に、多周波計測型高精度電離層遅延補正機能を組み込むことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係るGPS受信機の概略構成の一例を示すブロック構成図である。
【図2】本発明によるGPS電離層遅延補正プログラムの処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】GPS衛星とGPS受信機の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
A GPS受信機
B 多周波計測型電離層遅延補正装置
9 電離層遅延補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多周波の観測量として測定した擬似距離データに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する電離層遅延補正部を有することを特徴とするGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置。
【請求項2】
前記電離層遅延補正部は、電離層の遅延量を設定する電離層遅延モデルに定数変化法を応用したカルマンフィルタ技術を用いて、前記電離層遅延係数を推定することを特徴とする請求項1に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置。
【請求項3】
前記電離層遅延補正部は、前記カルマンフィルタ技術に代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタ技術を用いることを特徴とする請求項2に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置。
【請求項4】
前記電離層遅延補正部は、観測残差に最小2乗法を適用した多周波アルゴリズムを用いて、前記電離層遅延係数を推定することを特徴とする請求項1に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正装置。
【請求項5】
GPSR多周波計測型電離層遅延補正装置を構成するコンピュータに、
多周波の観測量として測定した擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する機能を実行させることを特徴とするGPSR多周波計測型電離層遅延補正プログラム。
【請求項6】
前記コンピュータに、電離層の遅延量を設定する電離層遅延モデルに定数変化法を応用したカルマンフィルタを用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させることを特徴とする請求項5に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、前記カルマンフィルタに代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタを用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させることを特徴とする請求項6に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータに、観測残差に最小2乗法を適用した多周波アルゴリズムを用いて、前記電離層遅延係数を推定する機能を実行させることを特徴とする請求項5に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正プログラム。
【請求項9】
多周波の観測量として測定した擬似レンジデータを取得する第1のステップと、
前記擬似レンジデータに基づいて電離層遅延係数を推定し、その推定した電離層遅延係数を用いて、電離層遅延補正を行った擬似レンジデータを生成する第2のステップを実行することを特徴とするGPSR多周波計測型電離層遅延補正方法。
【請求項10】
電離層の遅延量を設定する電離層遅延モデルに定数変化法を応用したカルマンフィルタ技術を用いて、前記電離層遅延係数を推定することを特徴とする請求項9に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正方法。
【請求項11】
前記カルマンフィルタ技術に代えて、モデル定数が時間に関する多項式で近似されるように変化すると仮定するスプラインフィルタ技術を用いて、前記電離層遅延係数を推定することを特徴とする請求項10に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正方法。
【請求項12】
観測残差に最小2乗法を適用した多周波アルゴリズムを用いて、前記電離層遅延係数を推定することを特徴とする請求項10に記載のGPSR多周波計測型電離層遅延補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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