説明

GTA溶接装置および同溶接方法

【課題】異材または板厚の異なる溶接部においても機械的な揺動を必要とすることなく、良質の溶接部を得ることができる孔あき電極を有するGTA溶接装置および溶接方法を提供する。
【解決手段】管状のトーチ12内に軸方向に沿って電極を配置し、この電極をトーチに設けたガス供給部からガスを噴出する孔を有する孔あき電極13として構成し、この孔あき電極をトーチの内周面にシール部14によって気密に支持するとともに、孔あき電極の先端をトーチから突出させ、トーチに供給した溶接ガスを孔あき電極内を介して被溶接物15に噴出させてアークを発生させる構成とし、孔あき電極の孔の少なくとも先端部のガス噴出口13bの断面形状または開口断面積を、溶接進行方向とこれに直交する方向とで異なる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタングステンアーク(GTA)溶接装置(以下、「GTA溶接装置」という。)および同装置を使用した溶接方法に係り、特に孔あき電極の構成を改良したGTA溶接装置および同装置を使用して効率よく溶接を行う溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GTA溶接装置は、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属合金や鉄鋼材料等の金属材料溶接用として開発され、真空環境下で適用される溶接装置である。このGTA溶接装置は一般に、中空管状のトーチの内部中心位置にタングステン電極を同軸的に配置し、この電極の外周側にArガス等の溶接ガスを供給しながら、被溶接物との間にアークを発生させて溶接を行う構成とされている。
【0003】
従来では、タングステン電極を中実棒状に構成していたが、真空中でGTA溶接を行うと圧力の低下と共にアーク柱の電位傾度が低下し、アークが不安定となり、溶接が困難であった。
【0004】
そこで、この解決方法が種々検討され、タングステン電極を中空管状に構成し、トーチを介して供給される溶接ガスを電極先端内部から噴出させ、高真空雰囲気下でも中空電極を通ってきた溶接ガス中にてアークを安定的に発生させる溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この従来例を図5および図6を参照して説明する。
【0005】
図5に示すように、従来のGTA溶接装置1では、中空管状のトーチ2の内部中心位置にタングステン製の孔あき電極3を同軸的に配置し、この孔あき電極3の外周面をトーチ2の内周面にシール部4によって気密に支持した構成となっている。
【0006】
そして、トーチ2の一端側(基端側)には図示省略のホースを介して溶接ガス(矢印a)が供給される。トーチ2の他端側(先端側)には、孔あき電極3の先端が突出し、供給された溶接ガスはトーチ2内を経て孔あき電極3内を流通し、孔あき電極3の先端から被溶接物5に向って噴出する(矢印b)。孔あき電極3には、トーチ2内に設けた給電部6から溶接電流が供給され、被溶接物5との間で電圧印加により、溶接ガス中にてアークを発生させ、これによりアークが安定し、良好な溶接が行われる。
【0007】
但し、この孔あき電極3を有する従来のGTA溶接装置1においては、図6に拡大断面として示すように、孔あき電極3がトーチ2と同心円状の円管とされ、溶接ガスの孔3aの噴出口断面形状が円形となっている。
【特許文献1】特開2000−170273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の孔あき電極を有するGTA溶接装置においては、孔あき電極が円管状で、溶接ガスの孔の断面形状が円形となっている。
【0009】
このため、溶接ガスがトーチと同心円状の中空電極で励起された状態となってアーク発生が行われるため、アークの中心部の温度が他の部分に比べて非常に高い円柱状のアークとなる。
【0010】
被溶接物が同一材質で同板厚の溶接においては問題無いが、異材または板厚が異なる場合には、被溶接物への熱の入り方を制御しなければ良質の溶接部が得られない。一般的にはトーチを機械的に揺動させて対応することになり、機械的構造が増えてしまう欠点がある。
【0011】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、異材または板厚の異なる溶接部においても機械的な揺動を必要とすることなく、良質の溶接部を得ることができる孔あき電極を有するGTA溶接装置および同装置を使用する溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、管状のトーチ内に軸方向に沿って電極を配置し、この電極を、前記トーチに設けたガス供給部から供給されたガスを流通させて噴出する孔を有する孔あき電極として構成し、この孔あき電極を前記トーチの内周面にシール部によって気密に支持するとともに、この孔あき電極の先端を前記トーチから突出させ、前記トーチに供給した溶接ガスを前記孔あき電極内を介して被溶接物に噴出させてアークを発生させる構成としたGTA溶接装置において、前記孔あき電極の孔の少なくとも先端部のガス噴出口の断面形状または開口断面積を、溶接進行方向とこれに直交する方向とで異なる構成としたことを特徴とするGTA溶接装置を提供する。
【0013】
請求項2に係る発明では、前記孔あき電極のガス噴出口の断面形状は長孔形状で、単数の孔または長さ方向を一致もしくは異ならせた複数の孔として開口しているGTA溶接装置を提供する。
【0014】
請求項3に係る発明では、前記孔あき電極のガス噴出口の断面形状は円形または均等な長さの辺で囲まれた多角形状で、溶接進行方向とこれに直交する方向とで総開口量が異なる配置または大きさをもった複数の孔として開口しているGTA溶接装置を提供する。
【0015】
請求項4に係る発明では、請求項1記載のGTA溶接を用いるGTA溶接方法であって、前記電極内の径方向に長孔で更に長手軸方向に貫通した孔を設け、この孔から溶接ガスを供給し、溶接ガス中にアークを発生させて溶接することを特徴とするGTA溶接方法を提供する。
【0016】
請求項5に係る発明では、請求項1記載のGTA溶接を用いるGTA溶接方法であって、前記電極内に複数の孔を設け、これらの孔から溶接ガスを供給し、溶接ガス中にアークを発生させて溶接することを特徴とするGTA溶接方法を提供する。
【0017】
請求項6に係る発明では、請求項4記載のGTA溶接方法において、前記各孔へ供給する溶接ガス流量またはガス成分を制御することにより、アークの強度分布を変化させ、またはアーク発生点を移動させることを特徴とするアーク溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るGTA溶接装置によれば、孔あき電極の少なくとも先端部のガス噴出口の断面形状または開口断面積を、溶接進行方向とこれに直交する方向とで異なる構成としたことにより、ガス噴出口の形状または開口断面積の差を溶接種類に基づいて予め設定することにより、異材または板厚が異なる場合等において、被溶接物への熱の入り方を制御することができる。したがって、トーチを機械的に揺動させて対応する必要がなく、従来のような機械的構造を増大することなく、良質の溶接部が得られるようになる。
【0019】
また、本発明に係るGTA溶接方法においては、請求項4の発明では、孔あき電極から流れてくる溶接ガスが帯状になり、ここに発生するアークも帯状に幅を持った状態となる。溶接部で帯状アークの位置をずらして溶接すると各被溶接材への入熱量を変えることができ、機械的な揺動をしなくても良質の溶接部が得られる。すなわち、電極の孔が長孔になっているので発生するアークが帯状の扁平なアークとなり、狙い位置をずらすことによって被溶接物の両者に与える熱量に違いを与えることができる。また、熱源が幅広いので溶接部のギャップが多少大きくても良好な溶接が行える。
【0020】
また、請求項5の発明では、溶接ガス中に各孔の形状に基づく複数のピーク点を持ったアークが得られ、溶接部への入熱量の変化が付けられることにより、良質の溶接部が得られる。すなわち、複数のピーク点を持つアークが得られるので、これらのピーク点を被溶接物の熱容電差および異材による材質特性の差に応じた熱の与え方ができる溶接方法なので、従来困難であった組合わせの溶接が良質に溶接できる。
【0021】
請求項6の発明では、各孔からの溶接ガス流量を変化させたり、溶接ガスの種類を変えることにより、アークの強度分布が変化する。また、或る孔の溶接ガス流量を止めると、その孔からのアークは止まり、他の溶接ガスの流れている孔からのアークが維持される。溶接ガスを止める孔を順番にずらしていくと、アーク発生点が順番に移動していき、回転または揺動を与えることができる。同様に、ガス成分の異なるガスを流す孔を順番にずらしていくと、アークの強度分布が変化している状態が移動していき、回転または揺動を与えることができる。複数の孔でこのような回転または移動を行うと、トーチを固定していてもアークを揺動させることができ、良質の溶接部を得ることができる。すなわち、アーク発生点を移動したり、大きなアーク強度変化を付けることができるので、従来の機械的な揺動を行わなくても、トーチを固定した状態でアークの揺動または回転が行え、機械的に簡単な装置で良質な溶接が容易に得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るGTAアーク溶接装置および同溶接方法の実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0023】
[第1実施形態](図1、図2)
図1は本発明の第1実施形態によるGTA溶接装置の構成を示す縦断面図であり、図2は、図1に示したGTA溶接装置の電極のガス噴出口の形状を示す拡大横断面図(図1のB−B線拡大断面図)である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態のGTA溶接装置11は、管状のトーチ12の内部中心位置に、軸方向に貫通した孔13aを有する孔あき電極13を同軸的に配置し、この孔あき電極13の外周面をトーチ12の内周面にシール部14によって気密に支持した構成となっている。すなわち、シール部14は孔あき電極13とトーチ12とをシールして溶接ガスが孔あき電極13の内部以外から流出するのを防ぐようになっている。
【0025】
トーチ12の一端側(基端側:図示上端側)には、溶接ガスとしてのArガス等を供給するためのガス供給部16が設けられ、このガス供給部16に図示省略のホースを介して溶接ガス(矢印c)が供給できるようになっている。
【0026】
トーチ12の他端側(先端側:図示下端側)には、孔あき電極13の先端が突出し、ガス供給部16からトーチ12内に供給された溶接ガスがトーチ12内を経て孔あき電極13内を流通し、孔あき電極13の先端から被溶接物15に向って噴出するようになっている(矢印d)。
【0027】
孔あき電極13には、トーチ12内に設けた給電部17から溶接電流が供給され、被溶接物15との間における電圧印加により、溶接ガス中にてアークを発生させ、これにより溶接が行われる構成となっている。
【0028】
このような構成において、本実施形態では、孔あき電極13の孔13aの少なくとも先端部のガス噴出口13bの断面形状が、溶接進行方向(例えば図1の紙面上下方向)と、これに直交する方向(例えば図1の紙面横方向)とで、図2(a)、(b)に示すように、開口断面積を異ならせた構成となっている。
【0029】
図2(a)、(b)は、電極13を例えばガス噴出口13b部分で切断した横断面形状(例えば、図1におけるB−B断面)を、異なる二つの構成例について示したものである。これらの例では、孔あき電極13のガス噴出口13bが単数の長孔として形成されている。そして、トーチ12から流れる溶接ガスが孔あき電極13の孔13aを通過し、帯状になってガス噴出口13bから噴出する。そして、給電部16からの給電により孔あき電極13と被溶接物15との聞に電圧をかけてアークを発生させると、電極13のガス噴出口13bである長孔によって帯状に励起されたアークが発生する。
【0030】
なお、図2(a)の例では、円管状の電極13の外側肉部を、例えばガス噴出口13b部分で長孔輪郭に沿って削除した形状を示している。また、図2(b)の例は、円管状の電極13の外側肉部を削除せず、ガス噴出口13b部分も円管状とした形状を示している。
【0031】
このような構成の本実施形態において、例えば孔あき電極13の先端が、図2(a)に示したように、先端付近の電極板厚がほぼ均一な場合、溶接ガスが励起される程度は、長孔方向に広がり、中央部が少し強くなる。従って、帯状中央部が少し強い幅広いアークとなる。
【0032】
また、図2(b)に示したように、孔あき電極13の先端付近の電極板厚が長孔状のガス噴出口13bの中央部で増大する形状の場合には、電極板厚が大きい長孔中央部分で電極13の温度が少し下がる。従って、長孔両端位置にピークを持つような帯状のアークが得られる。
【0033】
したがって、このような熱源が得られれば、板厚の異なる被溶接物15、あるいは熱伝導度の異なる異材継手の溶接において、狙い位置をずらすことにより、各被溶接部へ異なった入熱を与えることが容易に行え、トーチ12を機械的に揺動させて対応する必要がない。
【0034】
以上のように、本実施形態のGTA溶接装置11によれば、孔あき電極13の少なくとも先端部のガス噴出口13bの断面形状を、溶接進行方向とこれに直交する方向とで開口断面積が異なる構成としたことにより、ガス噴出口13bの開口断面積の差を溶接種類に基づいて予め設定することで、異材または板厚が異なる場合、その他の溶接において、被溶接物15への熱の入り方を制御することができる。よって、トーチ12を機械的に揺動させて対応する必要がなく、従来のような機械的構造を増大することなく、良質の溶接部が得られる。
【0035】
また、本実施形態によれば、孔あき電極13から流れてくる溶接ガスが帯状になり、ここに発生するアークも帯状に幅を持った状態となる。これにより、溶接部で帯状アークの位置をずらして溶接することにより、被溶接物15への入熱量を変えることができ、機械的な揺動をしなくても良質の溶接部が得られる。すなわち、孔あき電極13の孔が長孔になっているので、発生するアークが帯状の扁平なアークとなり、狙い位置をずらすことによって被溶接物の両者に与える熱量に違いを与えることができる。また、熱源が幅広いので溶接部のギャップが多少大きくても良好な溶接が行える。
【0036】
[第2実施形態](図3)
本発明の第2実施形態では、孔あき電極13のガス噴出口13bの断面形状が長孔形状で、長さ方向を一致もしくは異ならせた複数の孔として開口させたGTA溶接装置、またはガス噴出口13bの断面形状が円形で、溶接進行方向とこれに直交する方向とで総開口量が異なる配置または大きさをもった複数の孔として開口されているGTA溶接装置について説明する。
【0037】
図3(a)は、孔あき電極13の二つのガス噴出口13b1、13b2の断面形状が長孔形状で、これらの噴出口13b1,13b2が長さ方向を一致させた場合の孔あき電極13の端面形状を示している。また、図3(b)は、孔あき電極13の二つのガス噴出口13b3、13b4の断面形状が長孔形状で、これらの噴出口13b3,13b4が長さ方向を90°異ならせた場合の孔あき電極13の端面形状を示している。
【0038】
図3(a)に示した構成においては、電極13内に二つの噴出口13b1,13b2が同一方向に設けられているので、上述した第1実施形態で示した図2(a),(b)の場合における帯状アークをより広くし、アーク強度分布を変えることができる。例えば図3(a)に示したように、二つの噴出口13b1,13b2を仕切っている部分13cを長くすると、各噴出口13b1,13b2から生じたアークの間隔が離れてピーク点が二点生じることが可能である。
【0039】
また、この電極13を用いた溶接方法においては、各噴出口13b1,13b2の間隔を調整することにより、図2(a)に示した長孔で生じていた横長方向の中央部でアーク強度が強くなる現象を低減し、横方向強度分布があまり変化しない広い帯状アークが得られる効果がある。
【0040】
また、図3(b)に示したように、二つの長孔形状の噴出口13b3,13b4を直交配置した場合には、溶接進行方向を例えば図3(b)の上下方向に設定すると、図3(b)の右側の縦状態の噴出口13b4から生じたアークは、溶接方向と同一方向に分布した帯状アークである為に被溶接物を強く加熱し、また左の横長な噴出口13bからのアークは溶接方向に対して分散したアークとなり、被溶接物への加熱は弱まる。このように、溶接方向と噴出口13b3,13b4の位置関係によって、被溶接物へ入る熱分布を変える効果がある。
【0041】
図3(c)は三つの円形孔からなる噴出口13bを断面円形の電極13の中心に対して等角度で配置し、例えば左側には一つの噴出口13b5、右側には二つ噴出口13b6,13b7を配置した例を示している。
【0042】
この場合においても、図3(b)と同様に、溶接進行方向を例えば図3(c)の上下方向に設定すると、図の右側の縦配置の二つの噴出口13b6,13b7から生じたアークは溶接方向で多くなるため被溶接物を強く加熱し、また左の一つの噴出口13b5からのアークでは被溶接物への加熱は弱まる。このように、溶接進行方向と噴出口13bの位置関係によって被溶接物へ入る熱分布を図3(b)の場合と同様に変化させる効果を得ることができる。
【0043】
なお、本実施形態における噴出口13bの形状、数、配置は例示であり、溶接進行方向とこれに直交する方向の溶接設定に対応して、図示以外の各種形状、数、または配置として種々実施できることは勿論である。
【0044】
[第3実施形態](図3,図4)
図4は、本発明の第3実施形態によるGTA溶接装置11の構成を示す縦断面図である。
【0045】
本実施形態が第1実施形態と異なる点は、孔あき電極13の孔を複数の孔13d、13eに区分し、この孔13d、13eの区分数に対応して複数のガス噴出口13b8,13b9と、ガス供給部16a,16bとを設けた点にある。
【0046】
すなわち、図4に示すように、本実施形態では、孔あき電極13の複数のガス噴出口13b8,13b9へ個別に溶接ガスを供給するために、孔あき電極13に複数の孔13d、13eが仕切り壁18により区分して設けられている。なお、孔あき電極13のガス噴出口13b8,13b9と反対側の端部13fは、ロー付けまたは機械的手段によって封止されている。なお、各孔13d、13eへ溶接ガスを供給するための供給部16a,16bは、トーチ12の軸方向位置をずらして設けられている。そして、供給部16a,16bの位置に対応して、シール部14a,14b,14cを設けることにより、ガス供給部16a,16bが独立するようにシールされている。これにより、各ガス供給部16a,16bから溶接ガス矢印c1、c2で示すように、別々に供給することができる。
【0047】
このような構成によると、被溶接部の中心を狙っても、左右に異なった熱量を与えることが容易に行え、良質な品質の溶接部を得ることができる。
【0048】
このような構成に対応して、上述した図3(a)、図3(b)に示した二つの孔を設けた孔あき電極13を適用した場合、各孔13d,13e毎に供給する溶接ガスおよび電流に差を設けると、各孔13d,13eのガス噴出口13b8,13b9から発生するアークの強度に差が生じる。また、供給する溶接ガスの種類を変えると、ガスの種類による電位傾度が異なるため、アーク電圧の異なった分布のアークを得ることができる。アーク電圧が異なれば、アークエネルギも当然異なり、被溶接物への入熱量にも差異が生じる。
【0049】
さらに、図3(c)に示した三つの孔13bを対応させた場合にも、同様の方法によって更に複雑なアーク分布を得ることができる。
【0050】
また、図3(a)において、片側のガス噴出口(例えば13b1)へ溶接ガスの供給を止めると、供給されている側の噴出口13b1からアークが発生する。これに対し、両方の孔13b1,13b2から溶接ガスを供給すると、両方の孔13b1,13b2からアークが発生する。ここで、両方の孔13b1,13b2から溶接ガスを供給して、二つのピーク点を持つ帯状アークを発生させた後、片方の孔13b1の溶接ガス供給を止め、アークの発生点を片側に寄せ、次に止めていた側の孔13b2に溶接ガスを再供給して、再度二つのピーク点を持つ帯状アークにする。その後、反対側孔13b1への溶接ガスの供給を止めると、アーク発生点が前状態から反対側に移動する。この操作を繰り返すと、トーチ12を固定していても、アーク発生点を孔あき電極13の両端に振ることができる。即ち、従来の機械的に揺動させ場合と同様の効果が得られる。
【0051】
また、図3(c)において、上述の溶接ガスを止める作業を三つの孔13bにて順番に繰り返せば、アーク発生点が順番に移動して、回転するアークを得ることができる。溶接ガス供給を止める時間を制御すれば、アークの回転速度を制御することができる。
【0052】
これらのアーク強度分布の制御およびアーク発生点を移動させてアークを揺動および回転制御により、異材継手および熱容量の異なる板厚を溶接する場合に、極めて良質な溶接部が容易に得られる効果がある。
【0053】
[他の実施形態]
本発明は、以上の第1〜第3実施形態のほか、種々の態様で実施することが可能である。例えば第2、第3実施形態では図3(c)において円形状の電極の外形を示したが、この電極の外周側の肉部を研削し、外側の肉厚を均一または不均一にし、あるいは孔の数を増加する等の実施が可能である。また、前記実施形態では、ガス噴出口の断面形状を図3(c)において円形状として示したが、ガス噴出口の断面形状は均等な長さの辺で囲まれた多角形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態によるGTA溶接装置の構成を示す縦断面図。
【図2】(a),(b)は、本発明の第1実施形態による孔あき電極のガス噴出口の異なる例を示す拡大断面図(図1のB−B線拡大断面図)。
【図3】(a),(b),(c)は、本発明の第2実施形態による孔あき電極のガス噴出口の異なる例を示す拡大断面図。
【図4】本発明の第2実施形態によるGTA溶接装置の構成を示す縦断面図。
【図5】従来例によるGTA溶接装置の構成を示す縦断面図。
【図6】従来例における孔あき電極のガス噴出口の異なる例を示す拡大断面図(図5のA−A線拡大断面図)。
【符号の説明】
【0055】
11 GTA溶接装置
12 トーチ
13a 孔
13b ガス噴出口
13d 孔
13e 孔
13 孔あき電極
14 シール部
16 ガス供給部
15 被溶接物
17 給電部
18 仕切り壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のトーチ内に軸方向に沿って電極を配置し、この電極を、前記トーチに設けたガス供給部から供給されたガスを流通させて噴出する孔を有する孔あき電極として構成し、この孔あき電極を前記トーチの内周面にシール部によって気密に支持するとともに、この孔あき電極の先端を前記トーチから突出させ、前記トーチに供給した溶接ガスを前記孔あき電極内を介して被溶接物に噴出させてアークを発生させる構成としたGTA溶接装置において、前記孔あき電極の孔の少なくとも先端部のガス噴出口の断面形状または開口断面積を、溶接進行方向とこれに直交する方向とで異なる構成としたことを特徴とするGTA溶接装置。
【請求項2】
前記孔あき電極のガス噴出口の断面形状を長孔形状とし、このガス噴出口を単数、または長孔形状の長さ方向を一致もしくは交差させて複数設けた請求項1記載のGTA溶接装置。
【請求項3】
前記孔あき電極のガス噴出口の断面形状は円形または均等な長さの辺で囲まれた多角形状で、溶接進行方向とこれに直交する方向とで総開口量が異なる配置または大きさをもった複数の孔として開口している請求項1記載のGTA溶接装置。
【請求項4】
請求項1記載のGTA溶接を用いるGTA溶接方法であって、前記電極内の径方向に長孔で更に長手軸方向に貫通した孔を設け、この孔から溶接ガスを供給し、溶接ガス中にアークを発生させて溶接することを特徴とするGTA溶接方法。
【請求項5】
請求項1記載のGTA溶接を用いるGTA溶接方法であって、前記電極内に複数の孔を設け、これらの孔から溶接ガスを供給し、溶接ガス中にアークを発生させて溶接することを特徴とするGTA溶接方法。
【請求項6】
請求項4記載のGTA溶接方法において、前記各孔へ供給する溶接ガス流量またはガス成分を制御することにより、アークの強度分布を変化させ、またはアーク発生点を移動させることを特徴とするアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−51521(P2006−51521A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234813(P2004−234813)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】