説明

HF帯用アンテナ

【課題】この発明は、これまでのHF帯に比較して小型でありながら、遠距離通信が可能な電波用アンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】上述の課題を解決するため、この発明のHF帯用アンテナ1は、閉曲線をなす導線4より形成されるループ部2と、一端が開放された渦巻き状の導線5より形成される渦巻き3を有し、導線4,5の幅w0および導線同士の間隔w1が使用する電波の波長の10-4倍未満であるものとし、使用周波数において挿入損失が小さいので、電波による通信が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ICタグ、ICリーダライタ、地上デジタルテレビジョン受信装置、全地球測位システムなどに使用するHF帯の電波用の通信用アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路および送受信装置を小型の基板に配置したICタグはすでに普及が始まっており、たとえば、鉄道の運賃支払い等のための電子マネーとして用いるカードなどがあらわれている。さらに、商品管理や狂牛病・鳥インフルエンザ対策として畜産の分野での応用も期待されている。普及しているカードのほんとんどのものには、13.56MHzに代表されるHF帯が使用されている。ダイポールアンテナやループアンテナが使用されている。
【0003】
非接触ICタグなどの使用するアンテナが特許文献1や特許文献2に記載されている。これらは、導線により形成された磁気コイルを有する磁器アンテナである。
また、特許文献1には直行させて配置した2本のダイポールアンテナを切り替え
【特許文献1】特開2006−39899号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2に記載されたアンテナは、電波の送受信によって通信を行うものではなく、磁気コイル間の電磁誘導により情報をやりとりするものである。現在使用されているICタグ付カードのアンテナも同様に磁気コイルである。これらの磁気コイルにおいて、インピーダンスの実数部成分はほとんどゼロである。
【0005】
電磁誘導による通信能力は距離の二乗で急激に低下するので、これらの磁気コイルでは近距離でしか通信することができない。ICタグのリーダーの多くには、「カードを置いてください。」と表示されており、ほとんど接触するくらいまで近づけないと読み取ることができない。
【0006】
しかし、HF帯に属する周波数を使用するICタグ付きカードにおいて、電波での送信を行うものは見当たらない。特に、13.56MHzあたりの周波数では電波の波長が比較的長く、ICタグ付きカードに搭載できるような小型の電波通信アンテナを実現することはほとんど考えられてこなかった。
【0007】
また、HF帯はICタグ付きカードのほかに、FMラジオ放送等にも使用されており、この周波数帯用の小型かつ安価で、高性能の通信用アンテナがのぞまれる。
【0008】
この発明は、これまでのHF帯に比較して小型でありながら、遠距離通信が可能な電波用アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、この発明のHF帯用アンテナは、閉曲線をなす導線より形成されるループ部と、一端が開放された渦巻き状の導線より形成される開放部を有し、導線の幅w0および導線同士の間隔w1が使用する電波の波長の10-4倍未満である。比較的低い周波数においては、開放部の巻き数が30回以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、閉曲線をなす導線より形成されるループ部と、一端が開放された渦巻き状の導線より形成される開放部を有し、導線の幅w0および導線同士の間隔w1が使用する電波の波長の10-4倍未満であることにより、使用する周波数において反射損失が少なく、電波による送信が行うことができるという効果を有する。したがって、遠距離でも良好な通信を行うことができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。図1はHF帯用アンテナの第1の例を示す平面図である。ここで、HF帯とは、10MHz以上100MHz以下の範囲を対象とする。
【0012】
HF帯用アンテナ1は、閉曲線をなす導線より形成されるループ部2と、一端が開放された渦巻き状の導線より形成される渦巻き部3を有する。このHF帯用アンテナ1の外形は特に限定されず、図1のような正方形や円形、後述する十字形状など、アンテナを設置する場所の形状や求める特性等に応じて適宜選択することができる。
【0013】
ループ部2は、周回する導線4により形成されている。2つの端部P1,P2はそれぞれ給電点S1,S2に接続されており、ループアンテナを形成している。ループ部2は渦巻き部3の内側に設けてもよく、外側に設けてもよい。また、渦巻き部3を2つに分割し、その間にループ部2を設けてもよい。
【0014】
渦巻き部3は、渦巻き状に周回する導線5により形成されている。渦巻き部3は、ループ部2に近接して設けられる。渦巻き部3の形状は、ループ部2と実質的に同様である。すなわち、図1のように正方形のループ部2の外側に渦巻き部3を設ける場合、渦巻き部3の最内周はループ部2の導線4に近接して平行に設けられている。
【0015】
渦巻き部3の1つの端部P4は開放されている。渦巻き部3のもう一つの端部P3は、ループ部2とつながっていてもよく、離れていてもよい。
【0016】
導線4,5の線幅をw0とする。また、ループ部2と渦巻き部3の最内周の間隔および渦巻き部3における隣同士の周回の導線間の間隔をw1とする。この線幅w0および間隔w1とこのHF帯用アンテナ1が使用する電波の波長λの10-4倍未満である。さらに通信能力を向上させるためには、10-5倍未満であることが好ましい。
【0017】
このHF帯用アンテナ1はループ2を有することによって、インピーダンスZ(R+jX)の実数部成分Rを有し、電波の送信または受信が可能である。ただし、ループ2のみでは、十分な実数部成分Rを得ることはできず、波長λの10-4倍未満の線幅w0の導線を間隔w1で形成した渦巻き部3を隣接することによって、リターンロス(反射損失)を低くすることができる。電波の強度は距離に反比例して緩やかに低下するので、距離による通信能力の低下は小さく、遠距離通信が可能となる。
【0018】
渦巻き部3はまた、インピーダンスZの虚数部成分Xを発生させる。したがって、このHF帯用アンテナ1は、電波による通信のほか、従来の磁気アンテナのように電磁誘導による通信も行うことができる。したがって、このHF帯用アンテナをICタグ付きカードに適用した場合、従来のリードライタとの通信も可能である。導線5の巻き形状および巻き数を調整することによって、反射損失が最小になる周波数およびインダクタンスXの共振周波数を設定することができる。ICタグに適用する場合には、反射損失が最小になる周波数とインダクタンスXの共振周波数を一致させることにより、電波成分による効果と電磁誘導による効果の双方を得ることができ、良好な通信が行える。一方、FMラジオ受信機に適用する場合、その帯域において反射損失が小さくなること優先する設定とすることができる。
【実施例1】
【0019】
この発明の第1の実施例について説明する。この実施例のHF帯用アンテナは図1に示すものである。ICタグに使用する例であり、すでに普及している13.56MHzの周波数を使用する。基板またはフィルムの表面に導線を設けて形成している。ループ部2の導線4も渦巻き部3の導線5も幅w0は0.18mmである。また、ループ部2と渦巻き部3の最内周の間隔および渦巻き部3における隣同士の周回の導線間の間隔をw1も0.18mmである。したがって、線幅w0および間隔w1は波長λの10万分の1程度となっている。
【0020】
ループ部2は一辺の長さがほぼ25mmの正方形である。このループ部2で囲まれた四角形の内部にICチップ(図示省略)が入るようになっており、一隅に給電点S1,S2が設けられている。
【0021】
渦巻き部3は、ループ部2の外側に設けられている。使用周波数が10MHz以上100MHz以下である場合、渦巻き部3の巻き数は30回以上であることが好ましく、この例では40回である。内側の端部P3とループ2の間にはギャップがあるので、ループ部2と渦巻き部3はつながっていない。外側の端部P4も開放されている。外形は、一辺の長さがほぼ53mmの正方形である。極めて小型のHF帯用アンテナが実現されており、すでに普及しているICタグ付きカードのサイズ内に収まるものである。
【0022】
図2は、シミュレーションにより求めた第1の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。横軸は周波数であり、左側の縦軸は反射損失をデシベルによる対数表示、右側の縦軸はインピーダンスの虚数部成分(単位Ω)である。使用周波数である13.56MHzにおいて反射損失は−20dB以下であり、電波による通信が良好にできることを示している。また、インピーダンスの虚数部成分の共振点も13.56MHz付近になっており、同じ周波数で電磁誘導による通信ができることも確認される。
【0023】
この実施例のHF帯用アンテナは一層の面のみで形成されており、極めて簡易な構造となっているが、それでもICタグ付きカードのサイズ内に収まるとともに、電波による通信能力が高く、遠距離通信が実現される。
【0024】
この発明の第2の実施例について説明するこの実施例において、HF帯用アンテナは2つの層を有する。図3は第2の実施例のHF帯用アンテナの第1層を示す平面図、図4は同じく第2層を示す底面図である。
【0025】
第1層には、内側にほぼ正方形状のループ部2が形成されており、その外周に渦巻き部3aが設けられている。第1の実施例と同様に使用周波数は13.56MHz、ループ部2の導線4も渦巻き部3aの導線5も幅w0は0.18mmである。また、ループ部2と渦巻き部3aの最内周の間隔および渦巻き部3における隣同士の周回の導線間の間隔をw1も0.18mmである。この例においては内側の端部P3とループ2の間にはギャップがなく、つながった状態である。外形は、一辺の長さがほぼ53mmの正方形である。第1層において、渦巻き部3aの巻き数は22回程度であり、第1の実施例の約半分となっている。
【0026】
第2層においてもほぼ同様の渦巻き部3bが設けられている。そして、第1層の渦巻き部3aの内周の終点P3と第2層の渦巻き部3bの内周の終点P5はジャンパー線(図示省略)によって接続されている。また、第1層および第2層の渦巻き部3a,bの外側の終点P4,P6は開放されている。
【0027】
このように、2層で構成することによって、各層における渦巻きの巻き数を少なくすることができ、アンテナ全体の寸法を小さくすることもできる。ここでは、外形は第1の実施例と同じであるが、内部の空間を大きくしているので、より多くの電子部品等を入れることができる。
【0028】
図5は、シミュレーションにより求めた第2の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。使用周波数である13.56MHzにおいて反射損失は−10dB以下であり、電波による通信が良好にできることを示している。また、インピーダンスの虚数部成分の共振点も13.56MHz付近になっており、同じ周波数で電磁誘導による通信ができることも確認される。
【0029】
図6は、実測により求めた第2の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。反射損失が最小になる周波数およびインピーダンスの虚数部成分の共振周波数は約14MHzであり、シミュレーションによる値とほぼ対応している。また、この周波数における反射損失もほぼ−10dBであり、−8dB以下の良好な値となっている。以上、実測においても、この発明のアンテナは良好な通信能力を有することが示されている。
【0030】
この発明の第3の実施例について説明するこの実施例においても、HF帯用アンテナは2つの層を有する。図7は第3の実施例のHF帯用アンテナの第1層を示す平面図、図8は同じく第2層を示す底面図である。
【0031】
第1層の内側に点P1から点P7にかけてほぼ十字形状の周回2aが形成されており、ループ部の一部をなしている。第2層の内側に点P8から点P2にかけてほぼ十字形状の周回2bが形成されている。点P1は給電点S1と、点P2は給電点S2とそれぞれ接続されており、点P7と点P8はジャンパー線(図示省略)によって接続されている。したがって、点P1−点7−点P8−点P2という閉曲線が形成されている。このように複数の層にわたってループ部を形成することもできる。
【0032】
第1層の十字形状の周回2aの外周に十字形状の渦巻き部3aが設けられている。また、第2層の十字形状の周回2bの外周にもほぼ同様の渦巻き部3bが設けられている。第1層の渦巻き部3aの内周の終点P3および第2層の渦巻き部3bの内周の終点P5は、ループ部2a,bとつながっている。したがって、点P3と点P5は点P7−点P8間のジャンパー線を介して接続されている。第1層および第2層の渦巻き部3a,bの外側の終点P4,P6は開放されている。
【0033】
使用周波数は13.56M、ループ部2の導線4も渦巻き部3aの導線4も幅w0は0.18mmである。また、ループ部2と渦巻き部3の最内周の間隔および渦巻き部3における隣同士の周回の導線間の間隔をw1も0.18mmである。
【0034】
図9は、シミュレーションにより求めた第3の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。使用周波数である13.56MHzにおいて反射損失は−20dB以下であり、電波による通信が良好にできることを示している。また、インピーダンスの虚数部成分の共振点も13.56MHz付近になっており、同じ周波数で電磁誘導による通信ができるが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1はHF帯用アンテナの第1の実施例を示す平面図である。
【図2】第1の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。
【図3】第2の実施例のHF帯用アンテナの第1層を示す平面図である。
【図4】同じく第2層を示す底面図である。
【図5】第2の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。
【図6】第2の実施例のHF帯用アンテナの実測による特性を示すグラフである。
【図7】第3の実施例のHF帯用アンテナの第1層を示す平面図である。
【図8】同じく第2層を示す底面図である。
【図9】第3の実施例のHF帯用アンテナの特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1.HF帯用アンテナ
2.ループ部
3.渦巻き部
4,5 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉曲線をなす導線より形成されるループ部と、一端が開放された渦巻き状の導線より形成される渦巻き部を有し、導線の幅w0および導線同士の間隔w1が使用する電波の波長の10-4倍未満であるHF帯用アンテナ。
【請求項2】
渦巻き部の巻き数が30回以上であり、使用周波数が10MHz以上100MHz以下である請求項1から請求項3のいずれかに記載のHF帯用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−207005(P2009−207005A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48772(P2008−48772)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】