説明

HGFRの高親和結合部位およびその拮抗剤の同定方法

【課題】癌治療に対するより有効な治療戦略の開発のために、感受性の増加と副作用の減少を伴う肝細胞増殖因子受容体(HGFR)拮抗剤の同定を可能にする手段を提供する。
【解決手段】テスト薬剤を、i)肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインをコードするポリヌクレオチド、ii)または該ドメインを含むポリペプチド、またはiii)HGFRの細胞外IPT−3ドメインおよびIPT−4ドメインを発現する細胞と接触させ、HGFRの活性、機能、安定性および/または発現を測定することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞増殖因子受容体(HGFR)たんぱく質の分野に関する。より詳細には、本発明は、そのリガンドである肝細胞増殖因子(HGF)に対するHGFRの高親和結合部位の同定、ならびHGFRの高親和性結合部位を標的とするHGFR拮抗剤の同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞増殖因子受容体(Metとも呼ばれる)は、チロシンキナーゼであり、c−met癌原遺伝子の産物である。それは、50kDaのα−サブユニットと145kDaのβ−サブユニットからなり、ジスルフィド結合により結合され、α−サブユニットは完全に細胞外である一方、β−サブユニットは(NからC末端まで)細胞外領域、膜貫通ドメインおよび細胞質チロシンキナーゼドメインを含む。成熟α/βヘテロ二量体受容体は、170kDaの単一鎖前駆体からたんぱく質分解過程とグリコシル化により作成される。
【0003】
HGFは、細胞分散因子としても知られ、細胞の増殖、運動、生存および形態形成を含む、広範囲の生物学的活性を有するヘアピン結合性の糖たんぱく質である。プロテオグリカンに対するその高い親和性のため細胞外マトリックスに貯蔵される、不活性な単一鎖前駆体(プロ−HGF)として合成され、分泌される。プロ−HGFは、残基R494−V495でたんぱく質分解の切断を経て、生物学的に活性のある形態、ジスルフィド結合α/βヘテロ二量体を生じ、ここで、α鎖は、N−末端ドメインの後に4つのクリングルドメインからなり、β鎖は、キモトリプシンファミリーのセリンプロテアーゼと構造の相同性を共有する。しかしながら、β鎖は、セリンプロテアーゼの触媒三連構造を形成する3つの不可欠な残基のうちの2つがHGFで保存されていないため、たんぱく質分解活性を欠如する。シグナル伝達できないにもかかわらず、プロ−HGFは、高親和性でMetに結合し、活性なHGFを置換する。
【0004】
近年、多くの構造機能研究は、MetとHGFの細胞外部分間の相互作用をいくらか明らかにした。
【0005】
Met細胞外領域は、モジュラー(modular)構造を有し、3つの機能ドメイン:たんぱく質のN−末端において最初の500残基にわたり、7枚羽根のβ−プロペラ構造を有する(セマフォリンおよびプレキシンにも存在する)Semaドメイン、約50残基にわたり、4つの保存されたジスルフィド結合を含む(プレキシン、セマフォリンおよびインテグリンにも見出される)PSIドメイン、ならびにPSIドメインを膜貫通へリックスに連結させ、4つのIPTドメイン(プレキシンおよび転写因子に存在する免疫グロブリン関連ドメイン)により占められるさらなる400残基を含む。
【0006】
HGFは、二価リガンドであり、α−鎖のMetに対する高い親和性結合部位およびβ−鎖における低い親和結合部位を含む。α−とβ−鎖の協調は、HGFの生物学的活性に必要であるが、一方で、α−鎖、より正確には、N−ドメインと第1のクリングルは、Met結合に十分であり、β−鎖は、Met活性に必要である。
【0007】
HGFのβ−鎖との複合体におけるMetのSEMAおよびPSIドメインの結晶構造解析(国際公開第2005/108424号Aを参照)は、HGFに対する低い親和性結合部位がβ−プロペラの羽根2−3に位置し、Metに結合するHGF−βの部分が、セリンプロテアーゼがそれらの物質または阻害剤に結合するのに用いるのと同一の領域であることを明らかにした。重要なことに、2.53Å分解能におけるHGFのβ−鎖の結晶構造測定および特異的な突然変異分析は、HGF β−鎖の活性ポケットにおけるMet結合に関連する残基がプロ−HGFのたんぱく質分解変換後のみに曝露するようになることを明らかにし、それによりプロ−HGFが活性化することなく高い親和性でMetに結合する理由を説明する。HGFのβ−鎖とMetのSemaドメインの間の低い親和性相互作用が構造的かつ機能的に十分特徴付けられる一方で、Metのどの領域が高い親和性でHGFのα−鎖に結合するか明確ではない。それゆえ、HGFがMetを活性化する主なメカニズムは、いまだにあまり理解されていない。このことは、この経路の生物学的および治療上の大きな重要性を考慮するといくらか驚きである。
【0008】
HGF−Metシグナル伝達は、胚形成の期間および成人期の組織再生時に必要不可欠である。重要なことに、調節解除されたHGF−Metシグナル伝達は、腫瘍形成および転移において重要な役割を担っている。自己分泌HGF刺激、受容体過剰発現、遺伝子増幅および点変異を含む、異なるメカニズムによる不適切なMet活性は、多種類のヒト悪性腫瘍で現れ、好ましくない予後と相関する。これらの知見は、癌治療の標的としてのHGF−Met経路における大きな関心を生じ、多種のMet/HGF阻害剤の開発を導いた。これらは、Metキナーゼ活性を標的とする小分子化合物、中和する抗Metまたは抗HGF抗体、デコイ受容体およびHGF由来因子を含む。それにもかかわらず、かかる分子がHGFに対する高親和性結合を標的とするかどうか、高い親和性でMetに結合するHGFに基づく正確な分子メカニズムがどんなものであるかは、いまだ知られていない。このことが、感受性の増加と副作用の減少を伴う、より選択的な治療剤を単離することから妨げうる。HGFに対するMet高親和性結合部位の正確な知見は、極めて特異的なMetの拮抗剤を設計することを確実に助長する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、癌治療に対するより有効な治療戦略の開発のために、感受性の増加と副作用の減少を伴うMet拮抗剤の同定を可能にする改善された解決手段が必要とされる。
【0010】
本開示の目的は、かかる改善された解決手段を提供することである。
【0011】
本発明によると、かかる目的は、特に下記の請求項で記載される特徴を有する解決手段により達成される。請求項は、本発明に関して提供される本明細書における技術的な教示の不可欠な部分を形成する。
【0012】
それゆえ、本開示の目的は、肝細胞増殖因子受容体(HGFR)、すなわち、HGFの細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインに対するHGF高親和性結合部位の同定である。本発明のさらなる目的は、癌治療の新しい治療戦略の開発のために、HGFに対するHGFRの高親和性結合部位を標的とするHGFRの拮抗剤の同定方法を提供することである。
【0013】
1の具体例において、本発明は、癌、特に肝細胞増殖因子受容体活性の調節不良を伴う癌の治療に有用な薬理学的に活性のある薬剤のスクリーニングおよび/または開発のための、少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインを含むポリペプチド、またはコードするポリヌクレオチドの使用を提供する。
【0014】
1の具体例において、薬理学的に活性のある薬剤は、肝細胞増殖因子受容体阻害剤および/または拮抗剤であり、小分子阻害剤、アプタマー、アンチセンスヌクレオチド、RNAを基にした阻害剤、siRNA、抗体、ペプチド、ドミナントネガチィブ因子から選択されうる。
【0015】
さらなる具体例において、本発明は、癌、特に肝細胞増殖受容体活性の調節不良を伴う癌に有用な肝細胞増殖因子受容体の拮抗剤/阻害剤として作用するテスト薬剤の能力を検出する方法であって、
(a)テスト薬剤を、少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメイン、あるいは少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインを発現する細胞と接触させ、
(b)肝細胞増殖因子受容体の活性、機能、安定性および/または発現を測定し、次いで
(c)肝細胞増殖因子受容体の活性、機能、安定性および/または発現を減少させる薬剤を選択する
工程を含む方法に関する。
【0016】
なおさらなる具体例において、本発明は、癌を治療するための医薬として、肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインの使用に関する。
【0017】
ここで、本発明は、付属の図面に関する非限定的な例としていずれかの好ましい具体例について詳細に記載される。図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】−図1は、MetとHGFサブドメインの改変と精製を示す。(A)本研究で用いられた改変たんぱく質の模式図。左図:改変された受容体。W.T.MET、野生型Met;EXTRA、細胞外部分;INTRA、細胞内部分;SP、シグナルペプチド;SEMA、セマフォリン相同ドメイン;PSI、プレキシン−セマフォリン−インテグリン相同ドメイン;IPT1−4、免疫グロブリン−プレキシン−転写因子相同ドメイン1−4;TM、膜貫通ドメイン;JM、膜近傍ドメイン;KD、キナーゼドメイン;CT、C末端尾部;E、FLAGまたはMYCエピトープ;H、ポリ−ヒスチジンタグ。赤色の三角形は、α−とβ−鎖の間のたんぱく質分解切断部位を示す。右図:改変されたリガンド。W.T.HGF、野生型HGF;ND、N−ドメイン;K1−4、クリングル1−4;PLD、プロテアーゼ様ドメイン;UNCL.HGF、未切断HGF。星印は、たんぱく質分解部位におけるR494Qアミノ酸置換を示す。(B)アフィニティー精製された受容体とリガンドのクーマシー染色。各たんぱく質群(Sema、Sema−PSI、デコイMet;PSI−IPT、IPT;HGF−α、未切断HGF、HGF;HGF NK1、HGF−β)を、非還元状態におけるSDS−PAGEにより解析し、ウシ血清アルブミン(BSA)の標準曲線に対して定量化する。MW、分子量マーカー;kDa、キロダルトン。
【図2】−図2は、HGF−Met相互作用のELISA解析を示す。(A)Metサブドメインの活性HGFへの結合。改変された受容体を、固相に固定し、液相における上昇濃度の活性HGFに対して曝露した。抗−HGF抗体を用いて結合を明確にした。固相中で精製された受容体の代わりにBSAを用いることにより非特異的な結合を測定した。(B、C、D)デコイMet、Sema−PSI、およびIPTのHGFの異なる形態への結合。改変された受容体を固相に固定し、液相においてMYC−タグの活性HGF、プロ−HGF、HGF−αまたはHGF NK1の上昇濃度に曝露した。抗−MYC抗体を用いて結合を明確にした。液相中でMYC−タグのアンジオスタチン(AS)を用いることにより非特異的な結合を測定した。
【図3】−図3は、IPTドメイン3および4が高い親和性でHGF−αに結合するのに十分であることを示す。(A)欠失されたIPT変異体の模式図。図1Aと同じ色分けと説明。(B)IPT変異体とHGF−α間相互作用のELISA解析。改変されたIPTを固相で固定し、液相中で上昇濃度のHGF−αに曝露した。抗−HGF抗体を用いて結合を明確にした。
【図4】−図4は、IPTドメイン3および4が生存細胞でHGFに結合するのに十分であることを示す。(A)欠失Met△25−741受容体の模式図。図1Aと同じ色分けと説明。(B)表面ビオチン化解析。細胞たんぱく質を、MetのC末端部分に対する抗体を用いて免疫沈殿(IP)させ、西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合ストレプトアビジン(SA)を用いてウェスタンブロッティング(WB)により解析した。同一のブロット物を抗−Met抗体で再結合させた。W.T.、野生型;A549、A549ヒト肺癌細胞;MDA、MDA−MB−435ヒトメラノーマ細胞;TOV、TOV−112Dヒト卵巣癌細胞;Empty V.、空ベクター;p170バンドは未処理Metに相当する;p145は受容体の成熟形態である。(C)化学的架橋解析。Met△25−741を発現するTOV−112D細胞(Met △25−741)および野生型TOV−112D細胞(W.T.TOV)をHGFとインキュベートし、次いで化学的架橋にかけた。細胞溶解物を、抗−Met抗体を用いて免疫沈殿させ、抗−HGF抗体を用いてウェスタンブロッティングにより解析した。矢印は、HGF−Met△25−741複合体を示す。(D)Metリン酸化解析。Met△25−741を発現するTOV−112D細胞を、ネガティブコントロールとして1%PBSおよび等量のHGF、プロ−HGF、HGF NK1またはNK1−NK1で刺激した。抗−Met抗体を用いた免疫沈殿および抗−ホスホチロシン(抗−pTyr)抗体を用いたウェスタンブロッティングにより受容体のリン酸化を調べた。同一のブロット物を抗−Met抗体を用いて再結合させた。矢印は、Met△25−741または免疫グロブリン(Ig)に相当するバンドを示す。(E)NK1−NK1の模式図。N−からC−末端まで:SP、シグナルペプチド;ND、N−ドメイン;K1、クリングル1;H、ポリヒスチジンタグ。
【図5】−図5は、可溶性IPTがインビトロでHGF誘導侵襲性増殖を阻害することを示す。(A)レンチウイルスを形質導入したMDA−MB−435細胞を、組み換えHGFで刺激し、抗−ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロッティングによりMetリン酸化を調べた(上図)。同一のブロット物を抗−Met抗体を用いて再結合させた(下図)。Empty V.、空ベクター。(B)分枝形態形成アッセイ。レンチウイルスベクターを形質導入させたMDA−MB−435細胞の前もって形成させた球状体を、コラーゲン中に包埋し、次いで、組み換えHGFで刺激すると分枝した細管を形成した。各球状体から生じる細管の平均数をスコア化することによりコラーゲン侵襲を定量化した。EV、空ベクター;DM、デコイMet;SP、Sema−PSI。(C)Bに記載される実験からの代表的な図。倍率:200X。
【図6】−図6は、可溶性IPTがマウスにおいて抗−腫瘍および抗−転移活性を示すことを表す。CD−1ヌル−/−マウスに、レンチウイルスベクターを形質導入したMDA−MB−435細胞を皮下注射し、腫瘍増殖を経時的にモニターした。(A)腫瘍潜伏のカプラン−マイヤー類似ブロット(X軸、日数;Y軸、腫瘍非存在の動物のパーセンテージ)。空 v.、空ベクター。(B)経時的な平均腫瘍体積。(C)抗−FLAG抗体を用いた腫瘍切片の免疫組織化学的解析。倍率:400X。(D)腫瘍血管解析。腫瘍切片を抗−フォンヴィレブランド因子抗体で染色した。腫瘍切片の球状体mmあたりの血管数を顕微鏡により調べた。EV、空ベクター;DM、デコイMet;SP、Sema−PSI。(E)転移発生率解析。死体解剖により、連続的な肺切片を顕微鏡で解析して微少転移の存在を調べた。転移発生率、−すなわち、マウス全数に対する転移を有するマウス数−を、パーセンテージ(バー)と(バーの末端における)フラクションの両方で示す。(F)空ベクターの群に由来する微少転移の代表的な図。肺切片をヘマトキシリンとエオシンで染色した。点線は血管の壁(vs)を同定する。転移細胞(mc)は塞栓として血管内部または実質で見出すことができる。倍率:400X。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示で提示されるデータは、HGFのα−鎖が、高親和性でMetのIPT領域に結合し、リガンドのたんぱく質分解処理を単独で行うことを示唆する。それらはまた、Semaドメインを欠く膜貫通MetにおけるHGFのIPTへの結合が、リガンドの不活性および活性形態の区別にかかわらず、細胞質キナーゼドメインへの受容体活性のシグナル伝達に十分であることを示唆する。したがって、それらは、MetのIPT領域とSemaドメインに由来する改変たんぱく質が、インビトロとインビボの両方でHGFのプロ侵襲活性(pro−invasive activity)を中和することができる証拠を提供する。
【0020】
HGFが二価因子であることは長い間知られてきた。初期のたんぱく質改変研究は、HGFのNドメインと第1クリングルにおける高い親和性Met結合部位を同定した。後に、生化学および生物学的解析を合わせた解析は、HGFセリンプロテアーゼ様ドメイン(β−鎖)が必ずしも結合に必要ではないが、受容体活性を介在するのに重要な役割を担うことを示した。より最近では、詳細な結晶学および変異原性データは、HGFのβ−鎖上の低い親和性Met結合部位およびMetのSemaドメインとの相互作用を構造的かつ機能的に完全に特徴付けた。しかしながら、HGFのα−鎖とMet間の接触はいまだ解明されていない。少角X線分散および低温電子顕微鏡研究は、HGFのN−末端と第1クリングルおよびMetのSemaドメインの間の接触の存在を示唆した。しかし、プラズモン共鳴解析は、この相互作用が極めて低い親和性(Semaに対するHGF−βのものより約2倍低く、無傷な受容体に対するHGF−αのものより100倍低い)を有することを明らかにした。この弱い相互作用はそれ自体でHGFとMetの間の堅固な結合を説明できないので、Met上の高い親和性HGF結合部位はいまだ同定されていなかった。
【0021】
本明細書で示される結果は、このギャップ(gap)を埋めることに貢献し、この長い間探索されてきたHGF結合部位がMetのIPT領域、より正確には、細胞膜に近接する最後の2つの免疫グロブリン様ドメインに存在することを示唆する。第一に、4つのIPTドメインのみを含む可溶性の欠失Met受容体(IPT)は、Metの全細胞外部分と実質的に同一の親和性を有するHGFに結合する。逆に、Semaは、HGFに対して極めて低い親和性を示す。第二に、IPTは、変わらない強さで活性HGF、プロ−HGFまたはHGF−αに結合する。第三に、IPT1およびIPT2の欠失は、HGFの形態のいずれに対するIPTの親和性に影響しない。第四に、Semaドメイン、PSIモジュールおよび第1の2つの免疫グロブリン様ドメインに相当する細胞外ドメインに大きな欠失を保有する改変Met受容体(Met△25−741)は、活性HGFとプロ−HGFの間を区別できないが、HGFに結合し、細胞の内部へキナーゼ活性に対してシグナルを伝達する能力を保有する。最終的に、HGF NK1の二量体形態は、HGF−αの最小Met結合ドメインを含むことが知られ、HGFより効率的ではないにしてもMet△25−741の活性を引き起こし、それによりIPT3−4のHGF NK1結合部位を同定することができる。
【0022】
これらのデータがHGF結合におけるIPTの重要な役割を指摘する一方で、Metの細胞外部分の2つの以前の構造/機能研究が、この領域のリガンド結合部位を同定することに失敗したことに注目すべきである。Met細胞外ドメインのマップの第1の案は、ELISAアッセイに基づくHGF結合にはSemaドメインが必要かつ十分であることを示唆した。第2の研究は、受容体二量体におけるSemaドメインの役割を解析し、Semaドメインの欠失を含むMet細胞外部部分の改変された形態がHGFを共沈殿できないことを示唆した。
【0023】
本開示は、さらに、Metの細胞外部分がHGF誘導の侵襲性増殖を抑制する生物学的技術の道具として用いられる場合に、SemaとIPTの間の協調が観察されることを示す。インビトロ解析およびマウス移植実験において、IPTとSema−IPT可溶性たんぱく質の両者が有意な抑制効果を示した。しかし、それらのいずれもが、低親和性と高親和性HGF結合部位の両方を含む全Met細胞外ドメインにより示される強力な抑制を達成することができなかった。このことは、これらの相互作用の両方がMet活性の調節に貢献することを示唆する。HGF−β−Semaの接触がすでに治療の標的として同定されてきた一方で、本明細書で示される結果は、薬理学的介入の機会を提供する第2の手段を明らかにする。組み換えたんぱく質または抗体は、真正なHGFの代わりにIPT領域に結合し、HGF/Met依存性の癌治療のための、Metの高い競合抑制剤としての応用を示す。
【0024】
材料と方法
たんぱく質の改変
本明細書に記載される可溶性または膜貫通型受容体および改変されたリガンドを、一般的なPCRおよび遺伝学的改変技術により作成した。全ての因子は、N−末端にそれらの親たんぱく質のリーダー配列を保存する。可溶性Metたんぱく質のアミノ酸(aa)配列(Gene Bank番号X54559)は、aa1−24(シグナルペプチド)および:デコイMet、aa25−932;Sema、aa25−515;Sema−PSI、aa25−562;PSIIPT、aa516−932;IPT、aa563−932;IPT△1、aa657−932;IPT△1−2、aa742−932;IPT−3、aa742−838;IPT−4、aa839−932に相当する。各分子のC−末端において、二重FLAG(SDYKDDDDK−配列番号:19)または単一MYC(EQKLISEEDLN−配列番号:20)エピトープ配列およびポリ−ヒスチジンタグ(HHHHHHH−配列番号:21)をたんぱく質の検出および精製のために付加した。膜貫通型の改変Met△25−741は、欠失した領域(aa25−741)を除いて野生型Metと同一である。改変されたHGFたんぱく質のアミノ酸配列(Gene Bank番号M73239)は、aa1−31(シグナルペプチド)および:HGF、aa32−728;HGF−α、aa32−473;HGF NK1、aa32−205;HGF−β、aa495−728に相当する。上記MYCまたはFLAGエピトープおよびポリ−ヒスチジンタグをC−末端に付加した。未切断HGFは以前に公表されている(Mazzone, M. et al. (2004) J Clin Invest. 114(10), 1418-1432)。NK1−NK1は、タンデムに繰り返される同一のN−末端領域HGFからなるHGF NK1の二量体形態である(隙間なくaa32−205に直接連結させたaa1−205)。全ての改変されたたんぱく質をコードするcDNAを、Follenzi, A. et al. (2000) Nat Genet. 25(2), 217-222で開示されるようにgfp cDNAの代わりにレンチウイルストランスファーベクターpRRLsin.PPT.CMV.eGFP.Wpre(配列番号:1)にサブクローン化した。GFPをコードする配列を、以下のcDNA:デコイmet FLAG.his(配列番号:2)、Sema FLAG.his(配列番号:3)、Sema−PSI FLAG.his(配列番号.:4)、PSI−IPT FLAG.his(配列番号:5)、IPT FLAG.his(配列番号:6)、IPT△1 FLAG.his(配列番号:7)、IPT△1−2 FLAG.his(配列番号:8)、IPT3 FLAG.his(配列番号:9)、IPT4 FLAG.his(配列番号:10)、Met△25−741(配列番号:11)、HGF MYC his(配列番号:12)、HGF−αMYC his(配列番号:13)、HGF−NK1 MYC his(配列番号:14)、HGF−β MYC his(配列番号:15)、未切断HGF MYC his(配列番号:16)、NK1−NK1 his(配列番号:17)、アンジオスタチンMYC his(配列番号:18)に置き換えた。
【0025】
酵素免疫吸着測定法
全ての改変された受容体と因子を、血清の非存在下で、レンチウイルスベクターを形質導入したMDA−MB−345ヒトメラノーマ細胞の条件培地から回収した。Michieli P. et al. (2002) Nat Biotechnol. 20(5), 488-495に記載されるごとく、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーにより因子の精製を行った。精製したプロ−HGF(最大濃度100ng/μg)を2−10% FBS(ミズーリ州、セントルイスのSigma)で37℃において24時間インキュベートすることにより、プロ−HGFの活性HGFへの変換を行った。因子の変換を、抗−HGF抗体(ミネソタ州、ミネアポリスのR&D Systems)を用いてウェスタンブロッティングにより解析した。FBSとの同一のインキュベートにかけた未切断HGFを全ての測定中でプロ−HGFとして用いて、活性HGFを未処理HGFと比較した。改変リガンドの可溶性受容体への結合を、固相中のFLAG−タグ可溶性受容体および液相中のMYG−タグ改変リガンドを用いてELISAにより測定した。固定濃度(100ng/ウェル)の精製した可溶性受容体を96−ウェルELISAプレートに吸着させた。たんぱく質でコートしたプレートを改変リガンドの濃度の増加とともにインキュベートし、ビオチン化された抗−HGF抗体(ミネソタ州、ミネアポリスのR&D Systems)または抗−MYC抗体(カリフォルニア州、サンタクルーズのSanta Cruz Biotechnology)を用いて結合を明らかにした。結合データをプリズムソフトウェア(カリフォルニア州、サンディエゴのGraph Pad Software)を用いて解析し適合させた。
【0026】
細胞培養
MDA−MB−435ヒトメラノーマ細胞をジョージタウン大学のTissue Culture Shared Resource(ワシントン、コロンビア特別区)から購入した。10% FBSを添加したDMEM(Sigma)で細胞を維持した。TOV−112Dヒト卵巣癌細胞をATCC(メリーランド州、ロックビル;ATCC番号CRL−11731)から取得し、15% FBSを添加したMCDB105培地と培地199(全てSigma)の1:1の混合物を用いて培養した。A549ヒト肺癌細胞もATCCから取得し(ATCC番号CCL−185)、10% FBSを添加したRPMI中で維持した。
【0027】
レンチウイルスベクター
Follenzi, A. et al. (2000) Nat Genet. 25 (2), 217-222に記載されるごとく、293T細胞の一過的なトランスフェクションによりベクターストックを生成した。簡単に説明すると、トランスフェクション用のプラスミドDNAミックスを以下のとおりに調製した:ENVプラスミド(VSV−G)、9μg;PACKAGINGプラスミドpMDLg/pRRE 16.2μg;REVプラスミド、6.25μg;TRANSFER VECTOR(プラスミド番号2−18)、37.5μg。プラスミドをTE/CaCl溶液に希釈し、HBS溶液を加えて最大速度でボルテックスを行った。DNA/CaCl/HBSミックスを即座に細胞プレートに滴下し、次いで37℃でインキュベートした。14−16時間後、培養した培地を新しいものに交換した。ベクター粒子を含む細胞培養上澄み液を、培地を交換してから約36時間後に回収した。回収後、上澄み液を0.2μmの細孔膜に通してろ過し、−80℃で保存した。ウイルスp24の抗原濃度をHIV−1 p24 core profile ELISA kit(マサチューセッツ州、ボストンのNEN Life Science Products)により製造業者の説明書に従って調べた。Vigna, E. and Naldini, L. (2000) J Gene Med. 2(5), 308-316に記載されるごとく、細胞を、8μg/mlのポリブレン(Sigma)の存在下で、40ng/mlのp24を用いて6ウェルプレート(2mlの培地中に10細胞/ウェル)中で形質導入させた。培地を、形質導入後約18時間で交換した。細胞の増殖とたんぱく質の産生を経時的にモニターした。次に、形質導入した細胞株を15cmプレートに播種し、80%コンフルエンスまで増殖させ、無血清培地中でインキュベートした。72時間後、組み換え可溶性たんぱく質を含む上澄み液を回収し、ろ過し、アフィニティークロマトグラフィーにより精製するか、または−30℃で保存した。
【0028】
免疫沈殿とウェスタンブロット解析
Longati, P. et al. (1994) Oncogene 9(1), 49-57に記載されるごとく、抽出緩衝液(EB)を用いて、細胞溶解、免疫沈殿およびウェスタンブロット解析を行った。ECLシステム(ニュージャージー州、ピスカタウェイのAmersham Biosciences)を製造業者の説明書に従って用い、シグナルを検出した。免疫沈殿用の抗−Met抗体は、Ruco, L.P. et al. (1996) J Pathol. 180(3), 266-270により記載され、UBI(ニューヨーク州、プラシド湖)から購入された。ウェスタンブロット用の抗−Met抗体をSanta Cruzから購入した。抗−FLAG抗体をSigmaから取得した。レンチウイルスベクターを形質導入したMDA−MB−435細胞におけるMetリン酸化解析を、Michieli, P. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73に記載されるごとく行った。
【0029】
HGF架橋およびMet活性解析
Met△25−741を発現する、レンチウイルスベクターを形質導入したTOV−112D細胞を、ECL(登録商標) Surface Biotinylation Module kit(Amersham Biosciences)を製造業者の説明書に従って用いて表面ビオチン化解析にかけた。Mazzone, M. et al. (2004) J Clin Invest. 114(10), 1418-1432に記載されるごとく、化学的な架橋を行った。簡単に説明すると、細胞から3日間血清増殖因子を取り除き、次いで1nM HGFで3時間インキュベートした。細胞溶解物を、Ruco, L.P. et al. (1996) J Pathol. 180(3), 266-270に開示されるごとく、MetのC末端の一部に対する抗体を用いて免疫沈殿し、3−10%のポリアクリルアミド勾配を用いてSDS−PAGEにより解析し、次いで抗−HGF抗体(R&D)を用いてウェスタンブロッティングにより分析した。受容体活性解析では、Met△25−741を発現するTOV−112D細胞から血清増殖因子を3日間取り除き、次に1nM HGF、未切断HGF、HGF NK1またはNK1−NK1で10分間刺激した。Longati, P. et al. (1994) Oncogene 9(1), 49-57に記載されるごとく、細胞をEBを用いて溶解した。細胞たんぱく質を上述のごとく抗−Met抗体で免疫沈殿し、抗−ホスホチロシン抗体(UBI)を用いてウェスタンブロッティングにより解析した。同一のブロット物を抗−Met抗体と再結合させた(Ruco, L.P. et al. (1996) J Pathol. 180(3), 266-270)。
【0030】
生物学的アッセイ
MDA−MB−435細胞を用いたコラーゲン侵襲アッセイを、Michieli, P. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73に記載されるごとく前もって形成させた球状体を用いて行った。簡単に説明すると、細胞(700細胞/ウェル)を、0.24g/mlのメチルセルロース(Sigma)の存在下で非接着性96−ウェルプレート(ドイツ、フリッケンハウゼンのGreiner)中で一晩インキュベートすることにより球状体を作成した。球状体を、ラットの尻尾に由来する1.3mg/ml I型コラーゲンマトリックス(マサチューセッツ州、ベッドフォードのBD Biosciences)および10% FBSを含むコラーゲンマトリックスに96−ウェルプレート(40球状体/ウェル)を用いて包埋した。包埋した球状体を37℃で24時間培養し、次いで、30ng/ml HGF(R&D)または因子なしでさらに24時間刺激した。各球状体から伸びる細管の数を顕微鏡を用いて評価した。1箇所の実験地点あたり少なくとも12個の球状体を分析した。
【0031】
腫瘍形成アッセイ
0.2mlのDMED中のレンチウイルスベクターを形質導入したMDA−MB−435腫瘍細胞(3x10細胞/マウス)を、Swiss CD−1バックグラウンドの6週齢の免疫不全nu−/−雌マウス(イタリア、カルコのCharles River Laboratories)の右後方の側腹部に皮下注射した。腫瘍の大きさを、ノギスを用いて2日ごとに測定した。腫瘍の体積を、式 V=4/3πx2y/2(式中、xは腫瘍の短径であり、yは腫瘍の長径である)を用いて算出した。注射した細胞により占められる最初の体積にほぼ相当する、15mmの腫瘤を腫瘍陽性の閾値として選別した。腫瘍がこの閾値より低いマウスを腫瘍なしと見なした。約4週間後、マウスに麻酔をかけ、解析のために腫瘍を抽出した。動物を死体解剖した。腫瘍と肺をパラフィンで包埋し、組織学的解析用に処理した。ヘマトキシリンとエオシンで染色した連続的な肺の切片において顕微鏡により微少転移解析を行った。腫瘍切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、サンプルの同定を知らされていない各々の病理学者が分析した。導入遺伝子の発現を、抗−FLAG抗体(Sigma)を用いて免疫組織化学により腫瘍切片上で調べた。切片をメイヤーヘマトキシリン(Sigma)で対比染色した。腫瘍の血管形成を抗−フォンヴィレブランド因子抗体(デンマーク、グロストラップのDAKO)を用いて免疫組織化学により分析した。切片を上述のごとく対比染色した。血管密度を顕微鏡により測定した。1匹の動物あたり少なくとも12領域を解析した。全ての動物実験の手順は、イタリアのトリノ大学およびイタリア保健省により承認された。
【0032】
統計的解析
統計的有意性を、両側等分散性スチューデント(Student’s)t−検定(アレイ1、コントロール群;アレイ2、実験群)を用いて調べた。解析した全てのデータについて、p<0.05を有意な閾値と想定した。全ての図において、値を平均±標準偏差として表し、統計的有意性を1個(p<0.05)または2個(p<0.01)の星により示す。
【0033】
結果
HGF/Met機能ドメインの改変
MetとHGFに含まれる機能ドメインの模式図を図1Aに表す。Metの細胞外部分は、Semaドメイン、PSIヒンジ、および4つのIPTモジュール(左図)を含む。HGFは、成熟たんぱく質においてジスルフィド結合により連結されたα−およびβ−鎖からなる。次に、α−鎖は、N末端ドメインと4つのクリングルを含む(右図)。MetとHGF間の相互作用を解析するため、本発明者らは、全てのこれらの機能ドメインを、各々、可溶性たんぱく質として発現させた。それらが適切に分泌できるように、機能ドメインを、N末端で親たんぱく質のシグナルペプチドを含むように改変した。C末端には、抗体認識用に外因性エピトープ(FLAGまたはMYC)およびたんぱく質精製用にポリヒスチジンタグを付加した。全ての改変された因子をコードするcDNAを、レンチウイルスベクターpRRLsin.PPT.CMV.Wpreにサブクローン化し、組み換えレンチウイルス粒子を材料と方法に記載されるごとく産生した。組み換えたんぱく質をレンチウイルスベクター形質導入MDA−MB−435ヒトメラノーマ細胞の条件培養から回収し、アフィニティークロマトグラフィーにより均一になるまで精製した。精製したたんぱく質をSDS−PAGEによる標準物質に対して定量化した(図1B)。
【0034】
Met−HGF相互作用のELISA解析
HGFと相互作用するMet細胞外ドメインの能力をELISA結合アッセイでテストした。可溶性受容体(デコイMet、Sema−PSI、Sema、PSI−IPT、IPT)を固相に固定し、上昇濃度の活性HGFに晒した。ビオチン化抗−HGF抗体を用いて結合を明らかにした。可溶性Metドメインの代わりに固相中のウシ血清アルブミン(BSA)を用いて非特異的HGF結合を調べた。材料と方法に記載されるごとく非線形回帰分析により結合親和性を調べた。これらの条件において、デコイMetはHGFに約0.2−0.3nMのKで結合した。以前の測定と一致して、Sema−PSIとSemaは、デコイMetと比較して少なくとも1log低い親和性でHGFに結合した。驚くべきことに、PSI−IPTとIPTの両方は、デコイMetとほぼ同一の親和性をもって極めて効果的にHGFに結合した(図2A)。PSIドメインの有無は、SemaまたはIPTのいずれもHGFに対する結合親和性に影響しない。それゆえ、今まで天然に見出されるほぼ全てのSemaドメインがC末端でPSIモジュールを有することから、本発明者らは、デコイMet、Sema−PSI、およびIPTを用いて結合解析を続けた。
【0035】
プロ−HGF、HGF−α、HGF NK1およびHGF−βに対する各Metモジュールの親和性を調べ、それを活性HGFに対するものと比較するため、改変された受容体を固相に固定し、上昇濃度のMYC−タグリガンドに晒した。抗−MYC抗体を用いて結合を明らかにした。液相中でクリングル含有たんぱく質アンジオスタチン(AS)−MYCエピトープでもタグを付けた−を用いて非特異的結合を調べた。プロ−HGF、HGF α−鎖およびHGF NK1は、HGF α−鎖の最小Met結合モジュールを表し、活性HGFと比較してそれぞれ3−、4−および10−倍低い親和性でデコイMetに結合した(図2B)。HGF−βのデコイMet(またはいずれか他のMetドメイン)への結合は極めて低いため、この種のアッセイで検出できなかった。Sema−PSIが顕著な親和性で活性HGFへ結合したのみで、他方、プロ−HGF、HGF−αまたはHGF NK1への結合は非特異的結合と区別できなかった(図2C)。対照的に、IPTは、活性HGF、プロ−HGFおよびHGF−αに同一の高い親和性で結合した(図2D)。HGF NK1は、IPTに活性HGFより10倍低く、すなわち、デコイMetへ結合したものと同一の親和性で結合した。これらのデータは、MetのIPT領域が、リガンドのたんぱく質分解処理とは無関係にHGFのα−鎖に高い親和性で結合することを示唆する。
【0036】
HGFのα−鎖はIPTドメイン3と4に高い親和性で結合する
MetのIPT領域は、約400個のアミノ酸まで伸長し、4つのIPTドメインを含む。IPT−HGF接触面をより細かく位置付けするため、1つまたはそれ以上のドメインを欠失させた一連のIPT変異体を設計した(図3A)。IPT△1とIPT△1−2は、第1または第1の2つの免疫グロブリン様ドメインをそれぞれ欠失する、2つのIPTのN末端欠失形態である。IPT−3とIPT−4は、単一のたんぱく質として表される2つのC末端免疫グロブリン様ドメインに相当する。たんぱく質の産生と精製を上述のごとく行った。HGFのα−鎖と相互作用する改変IPTの能力を、コントロールとして全IPT領域を用いてELISA結合アッセイで調べた。IPT、IPT△1、IPT△1−2、IPT−3およびIPT−4を固相に固定し、上昇濃度のHGF−αに晒した。抗−HGF抗体を用いて結合を明らかにした。非特異的結合を上述のごとくBSAを用いて測定した。図3Bに示されるように、第1の2つの免疫グロブリン様ドメインの欠失は、実質的にHGF結合に影響しなかった。
【0037】
実際に、IPT△1−2は、Metの最後の2つの免疫グロブリン様ドメインに相当するたんぱく質であり、HGFのα−鎖に、IPTより高いとはいかないまでも同等の強さで結合した。しかしながら、第3または第4の免疫グロブリン様ドメインのさらなる欠失は、ほぼ完全にHGF−α結合を妨げた。同様の結果をHGF−αの代わりに活性HGFまたはプロ−HGFを用いて得た。これらのデータは、Metの最後の2つの免疫グロブリン様ドメインが、真性Metとの関連で膜貫通へリックスに近接して存在し、HGFのα−鎖に高い親和性で結合するのに十分であることを示唆する。
【0038】
IPTドメイン3と4は、生存細胞でHGFに結合するのに十分である。
HGFが膜アンカー受容体との関連でIPT3と4に結合できるかどうかを調べるために、細胞外領域に大きな欠失を保有するMetたんぱく質を設計した。Semaドメイン(aa25−515)、PSIドメイン(aa516−562)および第1の2つのIPTドメイン(IPT1と2、aa563−741)に相当する、アミノ酸25−741を欠失させ、IPT3と4、膜貫通へリックスおよび全細胞質領域を含む組み換え受容体を作成した(図4A)。改変された受容体Met△25−741をコードするcDNAを、上述のごとく同一のレンチウイルスベクターにサブクローン化した。組み換えレンチウイルス粒子を、RT−PCR解析により調べられるごとく、内在性Met発現を欠失するヒト卵巣癌細胞株TOV−112Dを形質導入するのに用いた(Michieli, P., et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73)。表面ビオチン化解析は、Met△25−741がTOV−112D細胞の膜上に適切に発現され、曝露されることを明らかにした(図4B)。
【0039】
Met△25−741がHGFに結合できるかどうかを調べるために、レンチウイルスベクターを形質導入した細胞を、組み換えHGFの存在下または非存在下でインキュベートし、その後、それらを架橋剤BS3で処理した。細胞溶解物をMetのC末端部分に対する抗体で免疫沈殿し、SDS PAGEにより分析し、抗−HGFでビオチン化した抗体を用いてウェスタンブロッティングにより解析した。コントロールとして、野生型TOV−112D細胞について同一の解析を行った。免疫ブロットは、HGFで処理したMet△25−741を発現する細胞に相当するレーンにおいて約180kD分子量の異なるバンドを示すが、リガンドの存在または非存在のいずれにおいても、HGFなしの同一細胞または野生型TOV−112D細胞に相当するレーンでは該バンドを示さなかった(図4C)。Met△25−741とHGFの両方が約90kDaの分子量を有することを考慮すると、免疫沈殿された架橋たんぱく質は、HGFとMet△25−741により形成された複合体と一致する。
【0040】
IPTドメイン3および4へのHGFの結合は生存細胞でMet活性を生じる。
次に、本発明者らは、Met△25−741へのHGF結合がMetキナーゼ活性を誘導できるかどうかをテストした。この目的を達成するため、レンチウイルスベクターを形質導入したTOV−112D細胞をプロ−HGFまたは活性HGFで刺激し、細胞溶解物を上述のごとき抗−Met抗体で免疫沈殿した。受容体活性を、抗ホスホチロシン抗体を用いてウェスタンブロット解析により調べた。同一のブロット物を抗−Met抗体で再結合させて免疫沈殿した受容体の量を標準化した。特に、プロ−HGFと活性HGFの両方はMet△25−741の強いリン酸化を誘導することができた(図4D)。プロ−HGFの全長Metへの結合がキナーゼ活性を誘導せず、このことは、Semaドメインが何らかの形で活性HGF受容体への結合に依存して遊離されるMet触媒活性上の自己抑制効果を及ぼすことを示唆する。受容体刺激をまた、HGF NK1およびタンデムに繰り返される2つのNK1フラグメントからなる改変二量体リガンド(NK1−NK1;図4E)を用いて行った。図4Dに示されるように、レンチウイルスベクター形質導入TOV−112D細胞のNK1−NK1刺激がMet△25−741の強力なリン酸化を生じる一方、単量体NK1による刺激は効果を示さなかった。これらの結果は、Metの2つのC末端IPTドメイン(IPT3および4)が、HGF(より正確には、HGFのα−鎖における最小Met結合モジュールを表すHGF NK1)に結合し、細胞質キナーゼドメイン、推定上、以後のリガンド誘導受容体二量体への受容体活性のシグナルを伝達するのに十分であることを示唆する。しかしながら、それらはまた、IPT3とIPT4単独では、HGFの生物学的に活性な形態を不活性な前駆体、プロHGFと区別するのに十分でないことを示唆する。
【0041】
可溶性IPTは、インビトロでHGF誘導性侵襲増殖を抑制する。
以前の研究において、可溶性たんぱく質(デコイMet)として発現されたMetの細胞外部分が、インビトロおよび癌のマウスモデルでHGF誘導性侵襲増殖を抑制することが示された(Michieli P. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73)。組み換え可溶性Sema−PSIもまた、リガンド−依存性および−非依存性Metリン酸化の両方を抑制することが示された(Kong-Beltran M. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 75-84)。これらの結果に基づいて、可溶性IPTが生存細胞でHGF/Met拮抗性活性を示すかどうかをテストした。MDA−MB−435ヒトメラノーマ細胞は、Metを発現し、HGF介在侵襲性増殖の解析用に樹立されたモデル系であり、これを可溶性デコイMet、Sema−PSIまたはIPTをコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。空ベクターで形質導入した細胞をコントロールとして用いた。比較レベルの可溶性因子(約50pmol/10細胞/24時間)を分泌するレンチウイルスベクター形質導入細胞を、数日間血清飢餓とし、組み換え因子を培地中に蓄積させ、次いで組み換えHGFで刺激した。Metチロシンリン酸化を、上述のごとき抗−ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロッティングにより調べた。図5Aに示されるように、IPTとSema−PSIの両方がHGF誘導Metリン酸化を部分的に抑制したが、一方で、デコイMetは、Met活性を誘導するHGFの能力を完全に中和した。MetのC末端に対する抗体を用いた同一の免疫ブロット物の再結合は、免疫沈殿させたたんぱく質の量に実質的な相違がないことを明らかにした。
【0042】
より生物学的な状況におけるMet細胞外ドメインの抑制能力をテストするために、同一の細胞を用いてHGF依存性の分岐形態形成アッセイを行った。前もって形成された細胞の球状体を三次元コラーゲンマトリックスに播種し、次いで、組み換えHGFで刺激して管状構造を形成させた。各コロニーから生じる細管の平均数をスコア化することにより分岐を定量化した。図5Bで示されるように、可溶性IPTとSema−PSIの両方は、HGF誘導性コロニー分岐を抑制した(空ベクター、17.5個の細管/コロニー;IPT、4.0個の細管/コロニー;Sema−PSI、6.7個の細管/コロニー)。しかしながら、リン酸化実験で得られた結果と一致して、デコイMetは、そのサブドメインのいずれよりも強力なHGF−阻害剤であった(2.5個の細管/コロニー)。コロニー形態の代表的な図を図5Cに示す。
【0043】
可溶性IPTはマウスにおける抗腫瘍および抗転移活性を示す。
上記の結果は、本発明者らに癌のマウスモデルにおける可溶性IPTの治療能力を探索することを想起させた。レンチウイルスベクターを形質導入したMDA−MB−435メラノーマ細胞を、CD−1 nu−/−マウスに皮下注射し、腫瘍増殖を経時的にモニターした。約3週間後、解析のために腫瘍を抽出し、マウスを死体解剖にかけた。カプラン−マイヤー類似解析において、腫瘍非存在の動物のパーセンテージを時間に対してプロットし、腫瘍潜伏を平均日数を算出して定量化する場合、全ての改変可溶性受容体が実験上の腫瘍の出現を遅らせた。しかしながら、IPTはSema−PSIよりわずかに効率的であり、デコイMetはIPTまたはSema−PSIのいずれよりも強力であった(図6A)。経時的な腫瘍組織量解析は、IPTがデコイMetよりわずかに効率的である一方、Sema−PSIが実験の極めて早い期間のみに腫瘍増殖を抑制することを明らかにした(図6B)。導入遺伝子発現の免疫組織化学解析は、デコイMet、Sema−PSIおよびIPTが腫瘍における同様のレベルと分布となることを示した(図6C)。
【0044】
HGFが強力なプロ−血管形成因子であることから、腫瘍におけるHGF/Metの抑制が血管形成の障害を生じるかどうかを調べた。腫瘍切片を、フォンヴィレブランド因子に対する抗体を用いて免疫組織化学により解析し、血管密度を顕微鏡により測定した(図6D)。IPTが腫瘍血管密度を1.5倍まで減少させる一方、デコイMetはさらにより強い抑制を達成した(約4倍);Sema−PSIは腫瘍血管形成にあまり影響しなかった。死体解剖により、上述のマウスから肺を抽出し、組織学用に処理した。連続的な肺の切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、顕微鏡により解析することにより微少転移の存在を調べた。結果を図6Aに示す。コントロール群では、6匹中4匹のマウス(67%)が微少転移を生じていた。IPTとSema−PSI群においては、微少転移は、6匹中1匹のみのマウス(17%)にしか見出されなかったが、デコイMet群では転移を見出すことができなかった。転移病巣は、実質性(血管外)と塞栓性(血管内;代表的な図として図6Fを参照)の両方であった。
【0045】
本開示で提供されるHGF上の高親和性HGF結合部位の同定は、HGFおよびHGFRのより特異的な阻害剤/拮抗剤の作成を導く新しい手法の設計を可能にする。以下は、HGFRの高親和性結合部位を標的とするか、または新しい阻害剤/拮抗剤を作成する道具としてHGFRの高親和性部位を利用する、HGF/HGFRの高親和性/拮抗剤の同定のための新しい方法の非限定的な例である。
【0046】
HGF結合を抑制するHGFRの細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインに結合するモノクローナル抗体の開発
HGFと細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインとの相互作用が高親和性HGF結合に不可欠である場合、IPT−3およびIPT−4に結合し、HGFR結合に関してHGFと競合する特異的なモノクローナル抗体を作成することができる。このことはいくつかの方策により行うことができる。
【0047】
(A)IPT−3およびIPT−4から生じる組み換えたんぱく質またはペプチドは、一般的な遺伝子改変技術または化学合成により作成される。このたんぱく質またはペプチドは、適当な実験動物(一般的にはマウスまたはラット)に注入されて免疫応答を生じさせる。次いで、脾細胞は、免疫された動物から単離され、骨髄腫細胞株に融合され、抗体産生ハイブリドーマクローンが一般的なモノクローナル抗体技術により選択される。次に、IPT−3およびIPT−4に対する抗体は、固相中の組み換えIPT−3とIPT−4および液相中のハイブリドーマ産生抗体を利用する、本開示に記載されるものと同様のELISA法によりスクリーニングされる。市販されている抗−マウス免疫グロブリン抗体を用いて結合が明らかにされる。代替的に、抗体は、(液相中の)組み換えHGFを(固相中の)IPT−3とIPT4から置換するそれらの能力、または組み換えIPT−3およびIPT−4たんぱく質を免疫沈殿するそれらの能力についてスクリーニングされる。
【0048】
(B)適切な発現ベクターに挿入されたIPT−3およびIPT−4をコードするポリヌクレオチド配列が実験動物に直接注入されて遺伝子産物に対する免疫応答が生じる。次いで、IPT−3およびIPT−4に対する抗体は、上述のごとく単離され、スクリーニングされる。
【0049】
(C)適切な発現ベクターに挿入されたIPT−3およびIPT−4をコードするポリヌクレオチド配列がHGFRを発現しない哺乳動物細胞株に移入されて細胞表面上のIPT−3およびIPT−4の発現が得られる。次いで、IPT−3およびIPT−4を発現する細胞が実験動物に注入されて免疫応答が生じ、IPT−3およびIPT−4に対する抗体は、上述のごとく単離され、スクリーニングされる。
【0050】
(D)哺乳動物リンパ球に由来する(好ましくは、ヒトであって、例えば、HGFRを発現する腫瘍を侵襲するリンパ球に由来する)一般的な遺伝子改変技術(例えば、ファージディスプレイ)により作成された固有(native)の抗体ライブラリーは、組み換えIPT−3およびIPT−4たんぱく質を用いてスクリーニングされる。次に、陽性クローン(すなわち、高親和性でIPT−3およびIPT−4に結合するクローン)が単離され、増殖され、抗体が生化学的に特徴付けされる。
【0051】
(E)ヒト記憶B細胞は、Traggiai E. et al. (2004) Nat Med. 10(8), 871-875を含むいくつかの研究により開示されるごとく、HGFRを発現する腫瘍を保有する患者の末梢血から単離される。不死化記憶B細胞の培養が樹立されると、当業者は、上記(A)に記載される方法を用いて、IPT−3およびIPT−4に対する抗体を分泌する細胞をスクリーニングすることができる。かかる抗体産生細胞を同定した後、望ましい抗体がポリメラーゼ連鎖反応および一般的な遺伝子改変方法によりクローン化されうる。
【0052】
HGFR活性を抑制するHGFRの細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインに結合するテスト化合物の同定
異なる方法を用いて、HGFRの高親和性HGF結合部位に結合し、HGF誘導性HGFR活性を抑制する、多様な起源のテスト化合物を単離することが可能である。このことはいくつかの方策により行うことができる。
【0053】
(A)本開示に記載されるものと同様のELISAアッセイを用いて、当業者は、HGFとIPT−3およびIPT−4との相互作用を置換する薬剤について、(合成化学物質ライブラー、天然化合物ライブラリー、低分子ライブラリー、ペプチドライブリーを含むが、これらだけに限定されない)化合物ライブラリーをスクリーニングすることができる。この種のアッセイにおいて、組み換えIPT−3およびIPT−4たんぱく質は、固相で不死化され、液相で一定量のHGFとインキュベートされる。ライブリー化合物への曝露後、HGF結合は市販されている抗−HGF抗体を用いて測定される。
【0054】
(B)本開示に記載されるもの(Met△25−741)と同様の細胞外部分におけるIPT−3およびIPT−4のみを含むHGFRの改変された形態を発現する細胞株を用いて、当業者は、HGFのIPT−3およびIPT−4との相互作用を置換するか、またはHGF誘導性HGFR活性を抑制する薬剤について、(合成化学物質ライブラー、天然化合物ライブラリー、低分子ライブラリー、ペプチドライブリーを含むが、これらだけに限定されない)化合物ライブラリーをスクリーニングすることができる。このことは、前記改変された細胞をライブラリーと接触させ、次いで、本研究に記載されるごとく、あるいは分散アッセイ(Scatter assay)、再構成基質侵襲アッセイ、分岐形態形成アッセイ、細胞生存アッセイまたはMichieli, P. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73に記載されるごとくその他のインビトロ生物学的試験を含む、HGFR活性を明確にするその他の手法により、HGF誘導性HGFRリン酸化を測定することにより行うことができる。
【0055】
上述のごとく改変された細胞株を用いて、当業者は、HGFのIPT−3およびIPT−4との相互作用を置換するか、またはHGF誘導性HGFR活性を抑制するポリヌクレオチドまたは遺伝子産物について、(cDNA発現ライブラリー、低分子ヘアピンRNAライブラリー、アンチセンスDNAライブラリー、ランダムヌクレオチドライブラリーを含むが、これらだけに限定されない)遺伝学的ライブラリーをスクリーニングすることができる。このことは、トランスフェクト、形質導入またはヌクレオチドライブラリーを前記細胞に導入するいずれかの方法、次いで、同一細胞により発現されたHGFRの欠失形態を活性化するHGFの能力をテストすることにより行うことができる。HGFR活性は、(B)に記載されるごとく測定される。
【0056】
HGFRの細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインに結合する化合物の生物学的活性を測定する典型的な機能アッセイ
抗−IPT抗体またはIPT−結合化合物を作成するいかなる方策が用いられる場合であっても、最終産物(すなわち、IPT−3またはIPT−4に対するモノクローナル抗体、あるいはIPT−3およびIPT−4に結合する天然または合成化合物)は、これらの薬剤がHGFR活性を抑制する能力を有するかどうかを調べることを目的とした生物学的アッセイにかけられる。これらのアッセイは、培養した哺乳類動物の細胞を用いてインビトロで、または実験動物を用いてインビボで行うことができる。
【0057】
(A)分散アッセイ。ペトリ皿中において密集コロニーで増殖し、HGFRを発現する上皮細胞は、HGFを用いる刺激により「分散」を誘導される。HGF刺激の結果として、ペトリ皿中の細胞は、より分離し、分散した状態を表す。このアッセイは、数種類のテスト化合物の存在下で行われうる。テストされる化合物間において、HGF刺激に反応して分散される表現型の非存在により、HGF/HGFR阻害剤/拮抗剤が同定されうる。
【0058】
(B)細胞移動アッセイ。HGFRを発現する細胞は、HGF濃度勾配に沿って移動する能力を有する。言い換えると、細胞は、HGFのより高濃度に向かう走化作用により誘引される。この能力は、ボーデン(Boyden)チャンバーアッセイにおけるHGF阻害剤のスクリーニングに用いることができる。細胞が第1のチャンバーに播種され、多孔性膜により第1のチャンバーから分離される第2のチャンバーにHGFがアプライされる。細胞は、膜を通過して移動し、HGFがより濃縮される第2のチャンバーに到達する。この工程を抑制する薬剤が、HGF/HGFR阻害剤/拮抗剤として同定される。
【0059】
(C)Transwell(商標)移動アッセイまたは再構成基質侵襲アッセイ。これは、多孔性膜がコラーゲン、Matrigel(商標)、またはその他の再構成有機マトリックスの膜で覆われる(B)に記載されるアッセイの変形である。細胞は、有機マトリックスを通って移動するため、有機マトリックスを消化しなくてはならない。これは、細胞の単純な移動よりむしろ侵襲を測定する、より厳密なアッセイである。
【0060】
(D)コラーゲン侵襲アッセイまたは分岐形態形成アッセイ。このアッセイでは、HGFRを発現する哺乳類動物細胞(好ましくは、上皮細胞または癌細胞)は、コラーゲンの三次元層中に播種され、次いで、それらが各々約1000個の細胞の球状体を形成するまで増殖される。代替的に、球状体は、Michieli, P. et al. (2004) Cancer Cell 6(1), 61-73で開示されるごとくメチルセルロースの存在下で非接着性96ウェルプレートにて一晩細胞をインキュベートすることにより前もって前形成されうる。球状体がコラーゲン層に包埋されると、それらはHGFで刺激され、37℃でインキュベートされる。これにより、球状体から中が空洞の細管を生じる;各細管は、管状構造で組織される数種類の細胞により形成され、内腔が見える一方の細胞側と培地の外側に見える第2の側が存在するように極性化される。アッセイが細管を生じるとともに、分岐し、より複雑な構造を形成するようになる。このアッセイは、HGFに極めて特異的である。この工程を抑制する薬剤は、極めて特異的なHGF/HGFR拮抗剤を示す高い可能性を有する。
【0061】
(E)細胞分裂アッセイ。HGFは、HGFRを発現するいずれかの細胞でDNA複製と細胞分裂を誘導する能力を有する。最も反応性の高い細胞は、一定の初代肝細胞、通常、マウスまたはラットである。HGF誘導性DNA複製をテストするために、細胞は血管増殖因子から生じ、次いで上昇濃度のHGFで刺激される。即座に、放射活性チミジンが添加され、細胞は37℃で約1日インキュベートされる。強い洗浄と固定後、細胞のDNAに取り込まれた放射活性チミジンは、液体シンチレーション計測または放射性の定量化を可能にするその他の一般的な方法により測定される。
【0062】
(F)生存アッセイ。HGFは、アポトーシスまたはプログラムされた細胞死からHGFRを発現する細胞を保護する能力を有する。このことは、生存アッセイでHGFR活性を測定するのに用いられうる。細胞は、HGFおよびテスト化合物(潜在的なHGFR阻害剤)で前インキュベートされ、次いで、毒性薬物、接着の非存在、低酸素、熱ショック、放射能、またはDNA傷害のごときアポトーシス刺激にかけられる。適当な時間経過後、細胞死は、TUNEL(ターミナル デオキシヌクレオチジル トランスフェラーゼ ビオチン−dUTPニック末端標識)、ヌクレオソーム、DNAラダー、カスパーゼ活性、生体染色色素、またはこれらのいずれかの変形を含む一般的な方法により測定される。
【0063】
(G)マウス腫瘍形成アッセイ。この種のアッセイにおいて、潜在的なHGF/HGFR阻害剤の活性は、実験動物、好ましくはマウスまたはラットにおいて直接テストされる。マウスにおいて腫瘍を得るいくつかの方法が存在する。最も利用される方策は、移植片を作り出すこと、すなわち、腫瘍細胞(通常、ヒト起源)を動物レシピエント(通常、免疫不全マウス)に移植することである。細胞は、皮下(実験上の腫瘍を得るのに迅速かつ単純な方法)または同所、すなわち、腫瘍細胞が単離された場所と同一の器官(例えば、乳癌を哺乳動物の脂肪体へ、大腸癌を腸粘膜へ、肝細胞癌を肝臓実質へなど)に移植されうる。用いられる細胞がいかなるものであっても、腫瘍細胞の実験動物への注入は、実験上の腫瘍を生じる。この腫瘍を生じる動物は、現在、テスト化合物の抗腫瘍能力を評価するのに用いられうる。抗−HGF/HGFR抗体または化合物は、静脈注射、腹腔内注射、浸透圧ポンプ、経口投与、座剤、遺伝子治療プロトコル、局所投与などを含む最も適当な既存の方法により、調節不良のHGF/HGFRシグナル伝達を伴う腫瘍病巣を保有する動物に送達されうる。適当な処置期間後、動物は安楽死させられ、その腫瘍と器官が解析のために取り出される。
【0064】
(H)マウス転移形成アッセイ。実験上の転移は、腫瘍細胞の全身注射によりマウスで誘導されうる。これらは、肺の毛細血管で捕捉されるようになり、次いで溶出して肺転移を生じる。これらは、顕微鏡、組織学的解析、免疫組織化学的方法、全身イメージングを含む、いくつかのアプローチにより死体解剖時に測定されうる。テスト化合物は、(G)に記載されるごとく送達される。
【0065】
(I)遺伝子治療プロトコル。HGF/HGFR阻害剤が、抗体、組み換えたんぱく質、ペプチドまたは低分子干渉RNAである場合、腫瘍を生じる動物への送達は、遺伝子治療法により行うことができる。このことは、所望のポリヌクレオチドを、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ネイクド(naked)DNA、またはこれらの変形型から選択することができる適当な送達ベクターに導入することにある。ベクター調製物は、腫瘍部位、ベクターまたは腫瘍組織型に応じて腫瘍に全身的または局所的に送達されうる。遺伝子治療の生物学的な効果は、(G)にてその他の化合物について記載されるごとく解析される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に有用な薬理学的な活性を有する薬剤のスクリーニングおよび/または開発のための、少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインをコードするポリヌクレオチドの使用。
【請求項2】
癌の治療に有用な薬理学的な活性を有する薬剤のスクリーニングおよび/または開発のための、少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインを含むポリペプチドの使用。
【請求項3】
前記薬理学的な活性を有する薬剤が、肝細胞増殖因子受容体の触媒活性、機能、安定性および/または発現を阻害する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記薬理学的な活性を有する薬剤が、肝細胞増殖因子受容体の触媒活性、機能、安定性および/または発現を下方調節する、請求項1または2記載の使用。
【請求項5】
前記薬理学的な活性を有する薬剤が、肝細胞増殖因子受容体の阻害剤および/または拮抗剤である、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記薬理学的な活性を有する薬剤が、小分子阻害剤、アプタマー、アンチセンスヌクレオチド、RNAを基にした阻害剤、siRNA、抗体、ペプチド、ドミナントネガティブ因子から選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
癌が、肝細胞増殖因子受容体活性の調節不良を伴う癌である、請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
癌、好ましくは肝細胞増殖因子受容体活性の調節不良を伴う癌の治療に有用な肝細胞増殖因子受容体の拮抗剤/阻害剤として作用するテスト薬剤の能力を検出する方法であって、
(a)テスト薬剤を、i)少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインをコードするポリヌクレオチド、ii)少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインを含むポリペプチド、またはiii)少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインを発現する細胞と接触させ、
(b)肝細胞増殖因子受容体の活性、機能、安定性および/または発現を測定し、次いで
(c)肝細胞増殖因子受容体の活性、機能、安定性および/または発現を減少させる薬剤を選別する:
工程を含む方法。
【請求項9】
前記工程(b)の測定が、細胞シグナル伝達、細胞生存、および細胞増殖を測定することを含む、請求項8から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
癌を治療する医薬としての使用のための肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメイン。
【請求項11】
癌を治療するための医薬としての使用のための、少なくとも肝細胞増殖因子受容体の細胞外IPT−3およびIPT−4ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む、ベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−291191(P2009−291191A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−117725(P2009−117725)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(508238336)メセレシス・トランスレイショナル・リサーチ・ソシエタ・アノニマ (4)
【氏名又は名称原語表記】METHERESIS TRANSLATIONAL RESEARCH S.A.
【Fターム(参考)】