説明

HLA結合ペプチド及びその使用

【課題】HLA対立遺伝子によりコードされる糖タンパク質に特異的に結合し、そしてその対立遺伝子により制限されたT細胞内でのT細胞の活性化を誘発することができる、免疫原性ペプチドの選択手段及び方法並びに当該免疫原性ペプチド組成物の提供。
【解決手段】免疫原性ペプチドが特定のペプチドである、HLA結合モチーフを有する免疫原性ペプチドを含む組成物。これらのペプチドは、所望の抗原に対する免疫応答を顕出するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、HLA分子のための結合モチーフを有する免疫原性ペプチドを含む組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
本願発明は、多数の病理学的症状、例えば、ウイルス疾患及び癌の予防、治療又は診断のための組成物及び方法に関する。特に、本願発明は、選択された主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合し、そして免疫応答を誘発することができる新規のペプチドを提供する。
【0003】
MHC分子は、クラスI又はクラスIIのいずれかの分子として分類される。クラスII MHC分子は、免疫応答を開始し、そして持続させることに関係する細胞、例えば、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ、等の上で主に発現される。クラスII MHC分子は、ヘルパーT細胞により認識され、そしてヘルパーTリンパ球の増殖を、そして提示される特定の免疫原性ペプチドに対する免疫応答の増幅を、誘導する。クラスI MHC分子は、ほとんど全ての有核細胞上で発現され、そして細胞毒性Tリンパ球(CTLs)により認識される、これは次に抗原担持細胞により破壊される。CTLsは、腫瘍拒絶において、そしてウイルス感染との戦いにおいて特に重要である。
【0004】
CTLは、無傷の外来抗原自体よりもMHCクラスI分子に結合したペプチド断片の形態にある抗原を認識する。抗原は、通常、細胞により内因的に合成されなければならず、そしてそのタンパク質抗原の一部は、細胞質内の小ペプチド断片に分解される。これらの小ペプチドのいくつかは、プレ−ゴルジ(pre−Golgi)区画内に輸送され、そしてクラスIの重鎖と相互作用して、適当な折り畳み、及びサブユニットβ2マイクログロブリンとの会合を容易にする。次に、このペプチド−MHCクラスI複合体は、特異的CTLsによる発現及び潜在的な認識のために細胞表面に運ばれる。
【0005】
ヒトMHCクラスI分子、HLA−A2.1の結晶構造の調査は、ペプチド結合性溝(groove)が、クラスI重鎖のα1ドメインとα2ドメインの折り畳みにより創られるということを示している(Bjorkman et al., Nature 329 : 506 (1987))。しかしながら、これらの調査においては、上記溝に結合するペプチドの同一性は、決定されなかった。
【0006】
Buus et al., Science 242 : 1065 (1988)は、MHCからの結合ペプチドの酸溶離の方法を最初に記載した。その後、Rammensee と共同研究者(Falk et al.,Nature 351 : 290 (1991))らは、クラスI分子に結合した天然にプロセスされたペプチドを特徴付けるためのアプローチを開発した。他の研究者らは、Bタイプの(Jardetzky, et al., Nature 353 : 326 (1991))及びマス・スペクトロメトリーによるA2.1タイプの(Hunt, et al., Science 225 : 1261 (1992)) のクラスI分子から溶離されたペプチドの慣用の自動配列決定によりさまざまなHPLC画分内のより多量のペプチドの直接的アミノ酸配列決定を首尾よく達成した。MHCクラスIにおける天然にプロセスされたペプチドの特徴付けのレビューは、Roetzschke and Falk (Roetzschke and Falk, Immunol. Today 12 : 447(1991)) により提示されている。
【0007】
Sette et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 : 3296 (1989) は、MHC対立遺伝子特異的モチーフが、MHC結合能力を予測するために使用されることができるであろうということを示した。Schaeffer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 : 4649 (1989) は、MHC結合が、免疫原性に関係していることを示した。いくらかの著者(De Bruijn et al., Eur. J. Immunol., 21 : 2963-2970 (1991) ; Pamer et al., 991 Nature 353 : 852-955 (1991))は、クラスI結合モチーフが、動物モデルにおける潜在的に免疫原性のペプチドの同定に適用されることができるという予備的な証拠を提供した。与えられたクラスIアイソタイプの多数のヒト対立遺伝子に特異的なクラスIモチーフは、未だ記載されていない。これらの異なる対立遺伝子の組合せの頻度は、大きな画分又はたぶんヒト異系交配集団の大部分をカバーするために十分に高くなければならないということが望ましい。
【0008】
本分野における発展にも拘らず、従来技術は、未だ、上記研究に基づき有用なヒトペプチド−ベースのワクチン又は治療剤を提供していない。本願発明は、上記その他の利点を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本願発明の要約
本願発明は、HLA分子のための結合モチーフを有する免疫原性ペプチドを含む組成物を提供する。適当なMHC対立遺伝子に結合する免疫原性ペプチドは、上記ペプチドが所望のHLA分子に結合することを許容する特定の位置に、保存された残基を含む。
【0010】
多数の免疫原性標的タンパク質上のエピトープは、本願発明のペプチドを使用して同定されることができる。好適な抗原の例は、前立腺癌特異的抗原(PSA)、B型肝炎コア及び表面抗原(HBVc,HBVs)、C型肝炎抗原、Epstein−Barrウイルス抗原、ヒト免疫不全1型ウイルス(HIV1)、カポジ肉腫ヘルペス・ウイルス(KSHV)、ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)抗原、ラッサ(Lassa)ウイルス、マイコバクテリウム・チューバーキュローシス(結核菌MT)、p53,CEA、トリパノソーム表面抗原(TSA)、及びHer2/neuを含む。従って、上記ペプチドは、治療と診断の両者の適用のための医薬組成物において有用である。
【0011】
特に、本発明は、その免疫原性ペプチドが表3〜14に示すペプチドである、HLA結合モチーフを有する免疫原性ペプチドを含む組成物を提供する。表3〜14中に示すペプチド内の残基の保存的置換を含むペプチドをも提供する。本願発明の免疫原性ペプチドは、第2のオリゴペプチドにさらに連結されることができる。いくつかの態様においては、第2のオリゴペプチドは、ヘルパーT応答を含むペプチドである。
【0012】
本願発明は、表3〜14中に示すような免疫原性ペプチド、又は表3〜14中に示すペプチドの残基の保存的置換を含むペプチドをコードする核酸をさらに提供する。上記核酸は、さらに、第2の免疫原性ペプチド又はヘルパーT応答を誘発するペプチドをコードする配列を含むことができる。
【0013】
本願発明において提供するペプチドは、インビボ又はインビトロのいずれかにおいて細胞毒性T細胞応答を誘発するために使用されることができる。上記方法は、細胞毒性T細胞を本願発明のペプチドと接触させることを含む。
【0014】
定義
用語“ペプチド”は、典型的には、隣接アミノ酸のアルファ−アミノ基とカルボニル基の間のペプチド結合により互いに結合された、一連の残基、典型的にはL−アミノ酸を指すために、本願明細書中、“オリゴペプチド”と互換的に使用される。本願発明のオリゴペプチドは、長さ約15残基未満であり、そして通常、約8〜約11の残基、好ましくは9又は10の残基から成る。
【0015】
“免疫原性ペプチド”は、そのペプチドがMHC分子に結合し、そしてCTL応答を誘発するであろうように、対立遺伝子特異的モチーフを含むペプチドである。本願発明の免疫原性ペプチドは、適当なHLA分子に結合し、そしてその免疫原性ペプチドが由来するところの抗原に対する細胞毒性T細胞応答を誘発することができる。
【0016】
免疫原性ペプチドは、便利には、本願発明のアルゴリズムを使用して同定される。このアルゴリズムは、免疫原性ペプチドの選択を可能にする等級(スコア)を作る数学的手順である。典型的には、当業者は、特定のアフィニティーにおける高い結合確率をもち、そして次に免疫原性となるであろう、ペプチドの選択を可能にする“結合しきい値(binding threshold)" をもつ上記アルゴリズム等級を使用する。このアルゴリズムは、ペプチドの特定の位置において特定のアミノ酸のMHC結合に対する効果、又はモチーフ含有ペプチド内の特定の置換物の結合に対する効果のいずれかに基づく。
【0017】
“保存(された)残基”は、ペプチドの特定の位置においてランダム分布により予測されるであろう有意に高い頻度において生じるアミノ酸である。典型的には、保存された残基は、そのMHC構造が、接触点に上記免疫原性ペプチドを提供することができるようなものである。所定長のペプチド内の少なくとも1〜3以上、好ましくは2の、保存された残基は、免疫原性ペプチドのためのモチーフを規定する。これらの残基は、典型的には、上記ペプチド結合性溝と密に接しており、それらの側鎖はその溝の特定のポケット内に埋められている。典型的には、免疫原性ペプチドは、3までの保存された残基、より普通には2つの保存された残基を含むであろう。
【0018】
本願明細書中に使用するとき、“結合陰性残基(negative binding residues)" とは、特定の位置に存在する場合、非結合又は弱結合材(non binder or poor binder)であるペプチドをもたらし、そして次に免疫原性であること、すなわちCTL応答の誘発に失敗するであろうアミノ酸である。
【0019】
用語“モチーフ(motif)”とは、特定のMHC対立遺伝子により認識される、所定長の、通常、約8〜約11のアミノ酸をもつペプチド内の残基のパターンをいう。このペプチド・モチーフは、典型的には、各ヒトMHC対立遺伝子について異なり、そして高く保存された残基及び陰性の残基のパターンにおいて相違する。
【0020】
対立遺伝子のための結合モチーフは、高い精度(increasing degrees of precision)をもって定義されることができる。ある場合には、保存された残基の全てがペプチド内の正しい位置に存在し、そして位置し、3、及び/又は7において陰性残基が存在しない。
【0021】
句“単離された”又は“生物学的に純粋”とは、その天然の状態において見られるような、通常それに同伴する成分を実質的に又は本質的に含有しない材料をいう。従って、本願発明のペプチドは、それらのイン・サイチュー環境と通常係わる材料、例えば抗原提示細胞上のMHC I分子を含まない。タンパク質が、均一又は優勢なバンドにまで単離されている場合にさえ、所望のタンパク質と同時に精製される、天然タンパク質の5〜10%の範囲において、微量の汚染物質が存在する。本願発明の単離されたペプチドは、このような内因性の同時精製タンパク質は含まない。
【0022】
用語“残基”とは、アミド結合又はアミド結合擬態によりオリゴペプチド内に取り込まれたアミノ酸又はアミノ酸擬態をいう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好ましい態様の説明
本願発明は、(ときにHLAという)ヒト・クラスI MHC対立遺伝子サブタイプのための対立遺伝子特異的ペプチド・モチーフ、特にHLA対立遺伝子により認識されるペプチド・モチーフの決定に関する。
【0024】
HLA−A2.1については、9アミノ酸のペプチドが、好ましくは、以下のモチーフをもつ:I,V,A、及びTから成る群から選ばれたN−末端から2番目の位置における第1の保存アミノ残基、並びにV,L,I,A、及びMから成る群から選ばれたC−末端位における第2の保存残基。他のモチーフは、選ばれたN−末端から2番目の位置における第1の保存残基がL,M,I,V,A、及びTから成る群に由来し、そして選ばれたC−末端位における第2の保存残基がA及びMから成る群に由来するものである。1位のアミノ酸は、好ましくは、D及びPから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から3番目にあるアミノ酸は、D,E,R,K、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から6番目のアミノ酸は、R,K、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から7番目にあるアミノ酸は、R,K,H,D、及びEから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。
【0025】
10残基をもつペプチドのためのHLA−A2.1結合モチーフは以下のものである:L,M,I,V,A、及びTから成る群から選ばれたN−末端から2番目にある第1の保存残基、並びにV,I,L,A、及びMから成る群から選ばれたC−末端位にある第2の保存残基。この第1及び第2保存残基は、7残基離れている。好ましくは、1位におけるアミノ酸は、D,E、及びPから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。このN−末端残基は、D、及びEから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から4位にある残基は、A,K,R、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から5位にあるアミノ酸はPではない。N−末端から7位にあるアミノ酸は、R,K、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から8位にあるアミノ酸は、D,E,R,K、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。N−末端から9位にあるアミノ酸は、R,K、及びHから成る群から選ばれたアミノ酸ではない。
【0026】
HLA−A3.2のためのモチーフは、そのN−末端からC−末端まで、2位に、L,M,I,V,S,A,T、及びFからの第1保存残基、並びにそのC−末端にK,R、又はYからの第2保存残基を含む。他の第1保存残基は、C,G又はD、そしてあるいはEである。他の第2保存残基はH又はFである。この第1及び第2保存残基は、好ましくは、6〜7残基離れている。
【0027】
HLA−A1のためのモチーフは、そのN−末端からC−末端まで、T,S、又はMの第1保存残基、D又はEの第2保存残基、そしてYの第3保存残基を含む。他の第2保存残基は、A,S又はTである。第1保存残基と第2保存残基は隣接し、そして好ましくは、6〜7残基程、第3保存残基から離れている。第2モチーフは、E又はDからの第1保存残基、及びYからの第2保存残基から成り、ここで第1保存残基と第2保存残基は5〜6残基離れている。
【0028】
HLA−A11のためのモチーフは、そのN−末端からC−末端まで、2位に、T,V,M,L,I,S,A,G,N,C,D又はFからの第1保存残基、並びにK,R,Y又はHからのC−末端保存残基を含む。第1保存残基と第2保存残基は、好ましくは、6又は7残基離れている。
【0029】
HLA−A24.1のためのモチーフは、そのN−末端からC−末端まで、2位に、Y,F又はWからの第1保存残基、並びにF,I,W,M又はLからのC−末端保存残基を含む。この第1保存残基と第2保存残基は、好ましくは6〜7残基離れている。
【0030】
次にこれらのモチーフが、いずれかの所望の抗原由来のT細胞エピトープ、特に、ヒト・ウイルス疾患、癌又は自己免疫疾患に関係するものであって、それについて、潜在的な抗原又は自己抗原標的のアミノ酸配列が知られているものを定義するために使用される。
【0031】
多数の潜在的な標的タンパク質上のエピトープがこのやり方で同定されることができる。好適な抗原の例は、前立腺特異的抗原(PSA)、B型肝炎コア及び表面抗原(HBVc,HBVs)、C型肝炎抗原、Epstein−Barrウイルス抗原、メラノーマ抗原(例えば、MAGE−1)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原、ヒト・ペピローマ・ウイルス(HPV)抗原、ラッサ(Lassa)ウイルス、マイコバクテリウム・チューバーキュローシス(結核菌MT)、p53,CEA、トリパノソーム表面抗原(TSA)、及びHer2/neuを含む。
【0032】
上記抗原からのエピトープを含むペプチドを合成し、そして次に、例えば、免疫蛍光染色及びフロー・マイクロフルオロメトリー、ペプチド依存性クラスIアセンブリー・アッセイ、及びペプチド競合によるCTL認識の阻害による、例えば、純粋クラスI分子及び放射性ヨウ素化ペプチド、及び/又は空クラスI分子を発現する細胞を使用したアッセイにおいて、適当なMHC分子に結合するそれらの能力についてテストする。上記クラスI分子に結合するようなペプチドを、感染又は免疫感作された個体から得られたCTLsのための標的として働くそれらの能力について、並びに潜在的な治療剤として事実上感染した標的細胞又は腫瘍細胞と反応することができるCTL集団を生ぜしめることができる1次インビトロ又はインビボCTL応答を誘発するそれらの能力について評価する。
【0033】
上記MHCクラスI抗原は、HLA−A,B、及びC座によりコードされる。HLA−AとB抗原は、ほぼ等しい密度において細胞表面に発現され、一方、HLA−Cの発現は、有意に低い(おそらく、10−倍低い)。上記の座のそれぞれが、多数の対立遺伝子をもつ。本願発明のペプチド結合性モチーフは、各対立遺伝子サブタイプに比較的特異的である。
【0034】
ペプチド−ベース・ワクチンのためには、本願発明のペプチドは、好ましくは、ヒト集団において広い分布をもつMHC I分子により認識されるモチーフを含む。このMHC対立遺伝子は、異なる人種 (ethnic groups and races)内で異なる頻度で生じるので、標的MHC対立遺伝子の選択は、その標的集団に依存することができる。表1は、異なる人種間のHLA−A座産物における各対立遺伝子の頻度を示す。例えば、白色人種集団の大多数は、4つのHLA−A対立遺伝子サブタイプ、特にHLA−A2.1,A1,A3.2、及びA24.1に結合するペプチドによりカバーされることができる。同様に、アジア人集団の大多数は、第5の対立遺伝HLA−A11.2に結合するペプチドの付加により包含される。
【0035】
【表1】

【0036】
ペプチド化合物を記載するために使用される命名法は、以下の慣例に従う。ここで、アミノ基は、各アミノ酸残基の左(N−末端)に表され、そしてカルボキシル基は、右(C−末端)に表される。本願発明の選ばれた特定の態様を表す式においては、特に示さないが、アミノ−末端基とカルボキシル末端基は、特にことわらない限り、生理学的pHにおいてそれらが呈するであろう形態にある。アミノ酸構造式中、各残基は、一般的に、標準的な3文字又は1文字命名法により表される。アミノ酸残基のL−型は、大文字1文字又は3文字記号の第1の大文字で表され、そしてD−型をもつそれらアミノ酸のD型は、小文字1文字又は小文字3文字記号で表される。グリシンは、不斉炭素原子をもたず、そして単に、“Gly”又はGという。
【0037】
本願発明のペプチドを同定するために使用される手順は、一般に、Falk et al., Nature 351 : 290 (1991) (これを、本願明細書中に援用する)中に開示された方法に従う。簡単に言えば、これらの方法は、適当な細胞又は細胞系からの、典型的には、免疫沈降又はアフィニティー・クロマトグラフィーによる、MHCクラスI分子の大規模単離を含む。当業者に等しく周知の所望のMHC分子の単離のための別法の例は、イオン交換クロマトグラフィー、レクチン・クロマトグラフィー、サイズ排除、高性能リガンド・クロマトグラフィー、及び上記技術の全ての組合せを含む。
【0038】
典型的な場合には、免疫沈降は、所望の対立遺伝子を単離するために使用される。使用される抗体の特異性に依存して、多くのプロトコールを使用することができる。例えば、対立遺伝子特異的mAb試薬が、HLA−A,HLA−B1、及びHLA−C分子のアフィニティー精製のために使用されることができる。HLA−A分子の単離のためのいくつかのmAb試薬が入手可能である。モノクローナルBB7.2は、HLA−A2分子を単離するために好適である。標準的な技術を使用して上記mAbsにより調製されたアフィニティー・カラムは、対応のHLA−A対立遺伝子産物を精製するために首尾よく使用される。
【0039】
対立遺伝子特異的mAbsに加えて、広い反応性をもつ抗−HLA−A,B,C mAbs、例えば、W6/32とB9.12.1、及び1の抗−HLA−B,C mAb,B1.23.2が、先の出願中に記載したような他のアフィニティー精製プロトコールにおいて使用されることができるであろう。
【0040】
単離されたMHC分子のペプチド結合性溝に結合したペプチドは、典型的には、酸処理を使用して溶離される。ペプチドは、さまざまな標準的な変性手段、例えば、熱、pH、洗剤、塩、カオトロピズム剤、又はそれらの組合せにより、クラスI分子から解離されることもできる。
【0041】
ペプチド画分は、さらに、逆相高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によりMHC分子から分離され、そして配列決定される。ペプチドは、濾過、限外濾過、電気泳動、サイズ・クロマトグラフィー、特異性抗体による沈降、イオン交換クロマトグラフィー、等電点電気泳動、その他を含む、当業者によく知られた、さまざまな他の標準的な手段により分離されることができる。
【0042】
単離されたペプチドの配列決定は、標準的な技術、例えば、Edman分解(Hunkapiller, M.W., et al., Methods Enzymol. 91, 399 [1983]) に従って行われることができる。配列決定のために好適な他の方法は、先に記載されたような、個体のペプチドのマス・スペクトロメトリー配列決定を含む(Hunt, et al.,
【0043】
Science 225 : 1261 (1992)、これを本願明細書中に援用する)。異なるクラスI分子からのバルク外来ペプチド(例えば、プールされたHPLC画分)のアミノ酸配列決定は、典型的には、各クラスI対立遺伝子に特徴的な配列モチーフを表す。
【0044】
異なるクラスI対立遺伝子に特異的なモチーフの定義は、そのアミノ酸配列が知られているところの抗原性タンパク質からの潜在的ペプチド・エピトープの同定を許容する。典型的には、潜在的ペプチド・エピトープの同定は、まず、モチーフの存在について所望の抗原のアミノ酸配列を走査するためのコンピューターを使用して行われる。次に、エピトープ配列が合成される。MHCクラス分子に結合する能力は、さまざまな異なる方法で計測される。1の手段は、上記の、関連出願中に記載されたようなクラスI分子結合アッセイである。上記文献中に記載された別法は、抗原提示の阻害(Sette, et al., J. Immunol. 141 : 3893 (1991))、インビトロ・アセンブリー・アッセイ(Townsend, et al., Cell 62 : 285 (1990)) 、及び突然変異された細胞、例えばRMA.Sを使用したFACSベースのアッセイ(Melief, et al., Eur. J. Immunol. 21 : 2963 (1991))を含む。
【0045】
次に、MHCクラスI結合アッセイにおいて陽性結果であるペプチドを、インビトロにおいて特異的CTL応答を誘導するそのペプチドの能力についてアッセイする。例えば、ペプチドと共にインキュベートされた抗原提示細胞を、応答物細胞集団内でCTL応答を誘導するその能力についてアッセイすることができる。抗原提示細胞は、正常細胞、例えば、末梢血単核細胞又は樹状細胞であることができる(Inaba, et al., J. Exp. Med. 166 : 182 (1987) ; Boog, Eur. J. Immunol. 18 : 219 [1988]) 。
【0046】
あるいは、内部でプロセスされたペプチドでクラスI分子をロードするそれらの能力において欠陥がある突然変異体哺乳類細胞系、例えばマウス細胞系RMA−S(Kaerre, et al., Nature, 319 : 675 (1986) ; Ljunggren, et al., Eur. J. Immunol. 21 : 2963-2970 (1991)) 、及びヒト体細胞T細胞ハイブリッド、T−2(Cerundolo, et al., Nature 345 : 449-452 (1990))、並びに適当なヒト・クラスI遺伝子でトランスフェクトされている突然変異体哺乳類細胞系を、ペプチドがそれらに添加されるとき、インビトロにおける1次CTL応答を誘発するそのペプチドの能力についてテストするために、便利には使用する。使用されることができるであろう他の真核細胞系は、さまざまな昆虫細胞系、蚊の幼虫(ATCC細胞系CCL 125,126,1660,1591,6585,6586)、カイコ(ATCC CRL 8851)、アワヨトウ(ATCC CRL 1711)、ガ(ATCC CCL 80)、及びショウジョウバエ(Drosophila) 細胞系、例えば、Schneider 細胞系 (Schneider J. Embryol. Exp. Morphol. 27 : 353-365 [1927] 参照)を含む。
【0047】
末梢血リンパ球は、便利には、正常ドナー又は患者の単なる静脈穿刺又は白血球分離に従って単離され、そしてCTL前駆体の応答物細胞源として使用される。1の態様においては、適当な抗原−提示細胞を、適当な培養条件下4時間、無血清培地中、10〜100μMのペプチドと共にインキュベートする。次に、ペプチド−ロードされた抗原提示細胞を、最適化された培養条件下、7〜10日間、インビトロにおいて応答者細胞集団と共にインキュベートする。陽性CTL活性化を、放射標識された標的細胞、すなわち、特異的ペプチド−パルス化標的、並びに上記ペプチド配列がそれに由来するところの関連ウイルス又は腫瘍抗原の内因的にプロセスされた形態を発現する標的細胞の両者を殺生するCTLsの存在について上記培養物をアッセイすることにより測定することができる。
【0048】
CTLの特異性及びMHC制限を、適当な又は不適当なヒトMHCクラスIを発現する異なるペプチド標的細胞に対してテストすることにより決定する。上記MHC結合アッセイにおいて陽性結果となり、そして特異的CTL応答を生じるペプチドを、本願明細書中、免疫原性ペプチドという。
【0049】
この免疫原性ペプチドを、合成により、又は組換えDNA技術により又は天然源、例えば、ウイルス又は腫瘍の全体から調製することができる。上記ペプチドは、好ましくは、他の天然宿主細胞タンパク質及びその断片を実質的に含有しないであろうが、ある態様においては、上記ペプチドは、生来の断片又は粒子に合成により結合されることができる。
【0050】
上記ポリペプチド又はペプチドは、それらの中性(無電荷)形態又は塩である形態のいずれかにおいて、さまざまな長さをもつことができ、そして修飾、グリコシル化、側鎖酸化、又はリン酸化されていないか、又はその修飾が本願明細書中に記載するようなポリペプチドの生物学的活性を破壊しないという条件に従って、これらの修飾を含むかのいずれかであることができる。
【0051】
望ましくは、上記ペプチドは、大ペプチドの生物学的活性の実質的に全てを未だ維持しながら、できるだけ小さいものであるであろう。可能な場合、細胞表面上のMHCクラスI分子に結合する内因的にプロセスされたウイルス・ペプチド又は腫瘍細胞ペプチドとサイズにおいて均り合う、9又は10アミノ酸残基の長さに、本願発明のペプチドを最適化することが望ましい。
【0052】
所望のMHC分子に結合し、かつ、適当なT細胞を活性化させる、非修飾ペプチドの生物学的活性の実質的に全てを高め又は少なくとも保持しながら、特定の望ましい特性、例えば改善された薬理学的特性を提供することが必要な場合、所望の活性をもつペプチドを修飾することができる。例えば、上記ペプチドは、そのような変化がそれらの使用においてある利点、例えば改良されたMHC結合を提供するかもしれない場合、保存的であるか非保存的であるかを問わず、さまざまな変化、例えば置換を受けることができる。保存的置換とは、あるアミノ酸残基を、生物学的及び/又は化学的に類似の他のもので置換すること、例えば、1の疎水性残基と他のものの置換、又は1の極性残基と他のものの置換を意味する。上記置換は、Gly,Ala;Val,Ile,Leu,Met;Asp,Glu;Asn,Gln;Ser,Thr;Lys,Arg;及びPhe,Tyrの組合せを含む。単一アミノ酸置換の効果は、D−アミノ酸を使用してプローブされることもできる。このような修飾は、例えば、Merrifield, Science 232 : 341-347 (1986), Barany and Merrifield, The Peptides, Gross and Meienhofer, eds. (N.Y., Academic Press), pp. 1-284 (1979) ;及び Stewart and Young, Solid Phase Peptide Synthesis, (Rockford, Ill., Pierce), 2d Ed. (1984)本願明細書中に援用する)中に記載されているような、よく知られたペプチド合成手順を使用して、行われることができる。
【0053】
上記ペプチドは、その化合物のアミノ酸配列を延長し又は短縮することにより、例えば、アミノ酸の付加又は欠失により修飾されることもできる。本願発明のペプチド又はアナログは、特定の残基の順序又は組成を変えることにより修飾されることもできる。生物学的活性に不可欠な特定のアミノ酸残基、例えば、決定的な接触部位にあるもの又は保存された残基が、一般に、生物学的活性に対する悪影響を及ぼさずに、変更されることはできないということは容易に理解される。決定的ではないアミノ酸は、タンパク質内に天然にあるもの、例えば、L−α−アミノ酸、又はそれらのD−異性体に限られる必要はないが、非天然アミノ酸、例えば、β−γ−δ−アミノ酸並びにL−α−アミノ酸の多くの誘導体を含むこともできる。
【0054】
典型的には、単一アミノ酸置換をもつ一連のペプチドが、結合に対する、静電荷、疎水性の効果を決定するために使用される。例えば、一連の正電荷(例えば、Lys又はArg)又は負電荷(例えば、Glu)アミノ酸置換が、さまざまなMHC及びT細胞レセプターに対する異なるパターンの感受性を現わすペプチドの長さに沿って、行われる。さらに、小さな、比較例中性の成分、例えば、Ala,Gly,Pro、又は類似の残基を使用した多置換が使用されることができる。これらの置換は、ホモ−オリゴマー又はヘテロ−オリゴマーであることができる。置換され又は付加される残基の数とタイプは、本質的な接触点と、求められる特定の機能特性(例えば、疎水性対親水性)の間に必要な空間配置に依存する。MHC分子又はT細胞レセプターについての高い結合アフィニティーも、その親ペプチドのアフィニティーに比較して、上記のような置換により達成されることができる。いずれの場合も、このような置換は、例えば、結合を破壊するかもしれない、立体的及び電気的妨害を回避するように選ばれる、アミノ酸残基又は他の分子断片を使用すべきである。
【0055】
アミノ酸置換は、典型的には、単一の残基を有する。置換、欠失、挿入、又はそのいずれかの組合せは、最終ペプチドを達成するように組み合せられることができる。置換変異体は、ペプチドの少なくとも1の残基が除去されており、そして異なる残基がその場所に挿入されているようなものである。このような置換は、一般に、そのペプチドの特性を細かく調節することが望ましいとき、以下の表2に従って行われる。
【表2】

【0056】
機能(例えば、MHC分子又はT細胞レセプターについてのアフィニティー)における実質的な変更は、表2中のものより保存性ではない置換を選択することにより、すなわち、(a)例えば、シート又はヘリカル立体配置のような、その置換の領域内のペプチド骨格の構造、(b)標的部位におけるその分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩、を維持することに対するそれらの効果においてより有意に異なる残基を選択することにより、行われる。一般に、ペプチド特性において最大の変化を作り出すと予想される置換は、(a)親水性残基、例えばセリルが、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、又はアラニルにより置換されたもの;(b)正電荷を有する側鎖をもつ残基、例えば、リジル、アルギニル又はヒスチジルが、負電荷を有する残基;例えば、グルタミル又はアスパルチルにより置換されたもの;又は(c)嵩高い側鎖をもつ残基、例えば、フェニルアラニンが、側鎖をもたない残基、例えば、グリシンにより置換されたものであるであろう。
【0057】
上記ペプチドは、免疫原性ペプチド内に2以上の残基のアイソスター(isosteres) を含むこともできる。本願明細書中に定義するとき、アイソスターとは、第2の配列で置換されることができる2以上の残基の配列である。なぜなら、第1の配列の立体配置が第2の配列に特異的な結合部位にフィットするからである。上記用語“特異的に”とは、当業者によく知られたペプチド骨格修飾を含む。このような修飾は、アミド窒素、α−炭素、アミド・カルボニル、アミド結合の完全置換、伸長、欠失又は骨格架橋の修飾を含む。一般に、 Spatola, Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, peptides and Proteins, Vol. VII (Weinstein ed., 1983)を参照のこと。
【0058】
さまざまなアミノ酸擬態又は非天然アミノ酸によるペプチドの修飾は、インビボにおけるそのペプチドの安定性を高めるに際し特に有用である。安定性は多くの方法でアッセイされることができる。例えば、ペプチダーゼ及びさまざまな生物学的媒質、例えば、ヒト血漿及び血清が安定性をテストするために使用されてきた。例えば、Verhoef et al., Eur. J. Drug Metab. Pharmacokin, 11 : 291-302 (1986) を参照のこと。本願発明のペプチドの半減期は、便利には25%ヒト血清(v/v)アッセイを使用して測定される。このプロトコールは一般に以下のようである。プールされたヒト血清(AB型、非加熱失活)を、使用前に遠心分離により脱脂する。次に、この血清を、RPMI組織培養基で25%に希釈し、そしてペプチド安定性をテストするために使用する。所定の時間間隔において、少量の反応溶液を除去し、そして6%水性トリクロロ酢酸又はエタノールのいずれかに添加する。濁った反応サンプルを15分間、冷却し(4℃)、そして次にその沈殿した血清タンパク質をペレット化するために回転させる。次に、そのペプチドの存在を、安定性−特異的クロマトグラフィー条件を使用して逆相HPLCにより測定する。
【0059】
CTL刺激活性をもつ本願発明のペプチド又はそのアナログを、改良された血清半減期以外の所望の特性を提供するように修飾することができる。例えば、CTL活性を誘発する上記ペプチドの能力を、Tヘルパー細胞応答を誘発することができる少なくとも1のエピトープを含む配列への連結により高めることができる。特に好ましい免疫原性ペプチド/Tヘルパー抱合体(conjugates) はスペーサー分子により連結される。このスペーサーは、典型的には、生理学的条件下で、実質的に変えられていない、比較的小さな、中性の分子、例えば、アミノ酸又はアミノ酸擬態から成る。これらのスペーサーは、典型的には、例えば、Ala,Gly、又は非極性アミノ酸又は中性極性アミノ酸の他の中性スペーサーから選ばれる。場合により存在するスペーサーは、同一残基から成る必要はなく、そしてこれ故、ヘテロ−又はホモ−オリゴマーであることができるということが理解されよう。存在するとき、スペーサーは、通常、少なくとも1又は2の残基、より普通には、3〜6の残基であるであろう。あるいは、上記CTLペプチドは、スペーサーを伴わずにTヘルパー・ペプチドに連結されることができる。
【0060】
上記免疫原性ペプチドは、上記CTLペプチドのアミノ又はカルボキシ末端のいずれかにおいて直接的にか又はスペーサーを介して、Tヘルパー・ペプチドに連結されることができる。上記免疫原性ペプチド又はTヘルパー・ペプチドのいずれかのアミノ末端はアシル化されることができる。例示的なTヘルパー・ペプチドは破傷風 (tetanus) 毒素830−843、インフルエンザ307−319、マラリア・サーカンスポロゾイド(circumsporozoite)382−398及び378−389を含む。
【0061】
ある態様においては、CTLをプライムする少なくとも1の成分を、本願発明の医薬組成物中に含むことが望ましい。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボにおいてCTLをプライムすることができる剤として同定されている。例えば、パルミチン酸残基は、Lys残基のアルファ及びエプシロン・アミノ基に結合されることができ、そして次に、例えば、1以上のリンキング残基、例えば、Gly,Gly−Gly,Ser,Ser−Ser、その他を介して、免疫原性ペプチドに連結されることができる。次に、この脂質化ペプチドは、ミセル形態で直接に注射され、リポソーム内に取り込まれ、又はアジュバント、例えば、不完全Freund’sアジュバント中に乳化されることができる。好ましい態様においては、特に有効な免疫原は、リンケージ、例えば、Ser−Serを介して、上記免疫原性ペプチドのアミノ末端に結合されたLysのアルファ及びエプシロン・アミノ基に付着されたパルミチン酸を含む。
【0062】
CTL応答の脂質刺激の別例として、E.コリ(E. coli)リポタンパク質、例えばトリパルミトイル−S−グリセリルシステイニルセリル−セリン(P3 CSS)を、適当なペプチドに共有結合させてウイルス特異的CTLを刺激するのに用いることができる。Deres 他、Nature 342 : 561-564 (1989) を参照のこと(これは参考として本明細書中に組み入れられる)。本発明のペプチドは、例えばP3 CSSに結合させてリポペプチドとして個体に投与することにより、標的抗原に対するCTL応答を特異的に刺激することができる。更に、適当なエピトープを提示するペプチドに結合させたP3 CSSにより中和抗体の誘導も刺激することができるので、2つの組成物を組み合わせることによって、感染に対する体液性応答と細胞性応答の両方を一層効率的に惹起せしめることができる。
【0063】
その上、ペプチドを互いに連結する簡便性、担体支持体もしくは大型ペプチドへの結合、ペプチドもしくはオリゴペプチドの物理的もしくは化学的性質の変更などに備えて、ペプチドの末端に追加のアミノ酸を付加することができる。チロシン、システイン、リジン、グルタミン酸またはアスパラギン酸等のようなアミノ酸を、ペプチドまたはオリゴペプチドのC末端またはN末端に導入することができる。C末端での修飾は、場合によりペプチドの結合特性を変更することがある。その上、ペプチドまたはオリゴペプチド配列は、末端NH2 アシル化、例えばアルカノイル(C1 −C20)もしくはチオグリコリルアセチル化、末端カルボキシルアミド化、例えばアンモニア、メチルアミン等によって修飾することにより、生来の配列と異なることができる。場合により、それらの修飾が支持体または別の分子への結合のための部位を提供することがある。
【0064】
本発明のペプチドは様々な方法で調製することができる。それらが比較的短いサイズであるために、常用技術に従って溶液中でまたは固体支持体上でペプチドを合成することが可能である。様々な自動合成装置が市販されており、既知のプロトコルに従って利用できる。例えば、 Stewart & Young, Solid Phase Peptide Synthesis 、第2版、Pierce Chemical Co. (1984)前掲を参照のこと。
【0065】
あるいは、組換えDNA技術を使用してもよい。その場合、着目の免疫原性ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを用いて適当な宿主細胞を形質転換またはトランスフェクションさせ、そしてそれらの細胞を発現に適した条件下で培養する。このような手法は当該技術分野で一般に周知であり、Sambrook他、Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (1982) に総説されている(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。よって、本発明は、適当なT細胞エピトープを提示させるために1または複数の本発明のペプチド配列を含んで成る融合タンパク質を用いることができる。
【0066】
本発明において期待される長さのペプチドのコード配列は化学技術により、例えばMatteucci 他、J. Am. Chem. Soc. 103 : 3185 (1981)のホスホトリエステル法により合成することができるので、生来のペプチド配列をコードする1または複数の塩基を適当な塩基によって置き換えることにより、簡単に修飾を行うことができる。次いでコード配列に適当なリンカーを提供し、当該技術分野で商業的に入手可能である発現ベクター中に連結し、そして該ベクターを用いて適当な宿主を形質転換せしめることにより、所望の融合タンパク質を生産させることができる。そのようなベクターと適当な宿主系は現在多数入手できる。融合タンパク質の発現には、作用可能に連結された開始および終止コドン、プロモーターおよびターミネーター領域並びに通常は複製系をコード配列に提供して、所望の細胞宿主中での発現に向けて発現ベクターが用意されるだろう。例えば、所望のコード配列の挿入に便利な制限部位を含むプラスミドの中に、細菌宿主と適合性のプロモーター配列が用意されるだろう。得られた発現ベクターを用いて適当な細菌宿主が形質転換される。もちろん、適当なベクターと調節配列を使うことによって酵母や哺乳動物細胞宿主を使用することもできる。
【0067】
本発明のペプチド並びにそれの医薬組成物およびワクチン組成物は、ウイルス感染や癌を治療および/または予防するため、哺乳動物、特にヒトへの投与に有用である。本発明の免疫原性ペプチドを使って治療できる疾病の例としては、前立腺癌、B型肝炎、C型肝炎、エイズ(AIDS)、腎臓癌、子宮頚癌、リンパ腫、CMV、尖圭コンジローム (condyloma acuminatum) が挙げられる。
【0068】
医薬組成物の場合、本発明の免疫原性ペプチドは既に着目のウイルスに感染しているかまたは癌にかかっている個体に投与される。感染の潜伏期または急性期の個体は、適当ならば、個別にまたは別の治療と組み合わせて免疫原性ペプチドで治療することができる。治療用途では、組成物はウイルスまたは腫瘍抗原に対して有効なCTL応答を惹起せしめ、そして症状および/または合併症を治癒させるかまたは少なくとも緩和するのに十分な量で患者に投与される。これを達成するのに十分な量は「治療有効量」として定義される。この用途に有効な量は、例えばペプチド組成、投与の方法、治療すべき病気の段階および重症度、患者の体重および総合的な健康状態、並びに担当医の判断に依存するだろうが、通常は70kgの患者に対して約1.0μg〜約5000μgのペプチドの初回量(すなわち治療または予防投与)に続き、患者の血液中の特異的CTL活性を測定することにより、患者の応答や状況に応じて数週間から数ヶ月に及ぶ追加免疫処置に従って約1.0μg〜約1000μgのペプチドの追加抗原投与量が用いられる。本発明のペプチドおよび組成物は一般に深刻な病気状態、すなわち生命を脅かすかまたは潜在的に生命を脅かす状態に使用できることを念頭におかなければならない。そのような場合には、該ペプチドが相対的に非毒性であり且つ外来物質が最少である点から見て、それらのペプチド組成物の実質的過剰量を投与することが可能であり且つまた望ましいと治療医は感じるかもしれない。
【0069】
治療用途では、ウイルス感染の最初の徴候時または腫瘍の検出もしくは外科的切除時または急性感染の場合には診断直後に、投与を開始すべきである。この後で少なくとも症状が実質的に治まるまでそして更にその後一定期間に渡り、追加免疫処置が行われる。慢性感染の場合、負荷投与量に続いて追加抗原投与量が必要となり得る。
【0070】
本発明の組成物による感染個体の処置は、急性感染個体において感染の消退を早めることができる。慢性感染を発生しやすい(または慢性感染にかかりやすい)個体の場合、急性感染から慢性感染への進行を防ぐ方法において本発明の組成物が特に有用である。例えば本明細書中に記載するように感受性個体が感染前にまたは途中で同定される場合、本発明の組成物をそのような個体に特異的に差し向ける(ターゲッティングする)ことができ、より大きい母集団に投与する必要性を最少にすることができる。
【0071】
ペプチド組成物は、慢性感染の治療のためにおよび免疫系を刺激してウイルス保持者においてウイルス感染細胞を除去するために用いることができる。細胞傷害性T細胞応答を効率的に刺激するのに十分な製剤中の免疫強化ペプチド量および投与方法を提供することが重要である。よって、慢性感染の治療の場合、典型的な投与量は1回あたり体重70kgの患者に対して約1.0μg〜約5000μg、好ましくは約5〜1000μgの範囲内である。
【0072】
免疫量に続いて、決められた間隔、例えば1〜4週間おきでの追加抗原投与量が、おそらく個体を効率的に免疫処置するためには更に長期間に渡り、必要となり得る。慢性感染の場合、少なくとも臨床症状または実験検査の上でウイルス感染が排除されたことまたは実質的に消散したことが示されるまで、そして更にその後も一定期間に渡り、投与を続けるべきである。
【0073】
治療処置用の医薬組成物は、非経口、局所、経口または局部投与用に製造される。好ましくは、医薬組成物は非経口、例えば静脈内、皮下、皮内または筋内に投与される。よって、本発明は、適当な担体、好ましくは水性担体中に溶解または懸濁された免疫原性ペプチドの溶液を含んで成る非経口投与用組成物を提供する。様々な水性担体、例えば水、緩衝水、0.8%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などを使用することができる。それらの組成物は、常用の周知滅菌技術により滅菌することができ、または滅菌ろ過してもよい。得られた水性溶液はそのままの状態での使用のために包装するか、または凍結乾燥することができ、凍結乾燥製剤は投与前に無菌溶液と混合することができる。組成物は、生理的条件に近づけるのに必要な医薬上許容される補助物質、例えばpH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、湿潤剤など、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、トリエタノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン等を含んでもよい。
【0074】
医薬組成物中の本発明のCTL刺激ペプチドの濃度は広範囲に渡って異なり、すなわち、約0.1重量%未満、通常少なくともまたは約2重量%から、20〜50重量%ほどにまで及び、そしてそれは選択した特定の投与方法に従って、例えば主に液量、粘度などにより選択決定されるだろう。
【0075】
本発明のペプチドはリポソームを介して投与することができる。リポソームは、リンパ系組織のような特定組織に該ペプチドを差し向けるか、または感染細胞に特異的に差し向ける働きをするだけでなく、更にペプチド組成物の半減期も増加させる働きをする。リポソームは、乳濁液、フォーム、ミセル、不溶性単分子層、液晶、リン脂質分散体、多層膜などを包含する。送達させようとするペプチドは、単独でまたはそれに結合する分子と共に、例えばリンパ系細胞中に広く存在するレセプター、例えばCD45抗原に結合するモノクローナル抗体と共に、リポソームの一部としてそれらの製剤中に混和される。本発明で用いられるリポソームは、通常は中性リン脂質および負電荷を有するリン脂質とステロール、例えばコレステロールとを含んで成る、標準的な小胞形成性脂質から構成される。脂質の選択は、例えばリポソームの大きさ、酸不安定性および血流中でのリポソームの安定性を考慮することにより行われる。リポソームの調製には様々な方法、例えばSzoka 他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9 : 467 (1980) 、米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号および同第5,019,369号明細書(これらは参考として本明細書中に組み込まれる)に記載のような方法が利用可能である。
【0076】
免疫細胞をターゲッティングするために、リポソーム中に混和させるべきリガンドとしては、例えば、所望の免疫系細胞の細胞表面決定基に特異的な抗体またはその断片が挙げられる。ペプチドを含有するリポソーム懸濁液は、特に投与形式、送達させようとするペプチドおよび治療すべき疾病の段階に従って異なる投与量で、静脈内、局所、局部等に投与される。
【0077】
固体組成物には、例えば薬用マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム等をはじめとする常用の非毒性固形担体を使用することができる。経口投与用には、常用される賦形剤、例えば前に列挙した担体のいずれかと、通常は10〜95%の活性成分、すなわち1または複数の本発明のペプチド、好ましくは25%〜75%の濃度の本発明のペプチドを含めることにより、医薬上許容される非毒性組成物が調製される。
【0078】
エーロゾル投与には、好ましくは界面活性剤と噴射剤と一緒に、微粉末の形で本発明の免疫原性ペプチドが提供される。典型的なペプチドの割合は、0.01重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%である。もちろん、界面活性剤は非毒性でなければならず、噴射剤中に可溶であるのが好ましい。そのような剤の典型例は、炭素原子数6〜22の脂肪酸(例えばカプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン酸およびオレイン酸)と脂肪族多価アルコールまたはそれの環状無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合エステル、例えば混合グリセリドまたは天然グリセリドを使用してもよい。界面活性剤は組成物の0.1重量%〜20重量%、好ましくは0.25〜5重量%を占めるだろう。組成物の平衡は大抵は噴射剤で行う。所望により担体を含めてもよく、経鼻投与にはレシチンを含めてもよい。
【0079】
別の観点において、本発明は活性成分として本明細書に記載の免疫学的に有効な量の免疫原性ペプチドを含むワクチンに関連する。かかるペプチドはヒト等の宿主に、それ自体の担体に連結されて、又は活性ペプチド単位のホモポリマーもしくはヘテロポリマーとして導入されうる。かかるポリマーは増強された免疫学的反応の利点、及び種々のペプチドをこのポリマーの構築のために使用した場合、ウイルス又は腫瘍細胞の種々の抗原決定基と反応する抗体及び/又はCTLを誘導する追加の能力という利点を有する。有用な担体は当業界において周知であり、そして例えばチログロブリン、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン、破傷風毒素、ポリアミノ酸、例えばポリ(リジン:グルタミン酸)、インフレンザ、B型肝炎ウイルスコアタンパク質、B型肝炎ウイルス組換ワクチン等が挙げられる。これらのワクチンは更に生理学的に寛容(許容)される希釈剤、例えば水、リン酸緩衝食塩水、又は食塩水を含んでよく、そして更に典型的にはアジュバントを含む。アジュバント、例えば不完全フロインドアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム又はみょうばんは当業界において周知の材料である。また、前述の通り、CTL応答は本発明のペプチドを脂質、例えばP3 CSSに接合させることによりプライミングされることができる。本明細書に記載のペプチド組成物による、注射、エアゾール、経口、経皮又はその他のルートを介する免疫により、宿主の免疫系はこのワクチンに対し所望の抗原に特異的な大量のCTLを産生することにより応答し、そしてこの宿主は少なくともその後の感染に対して部分的に免疫されるか、又は慢性感染症の発症に対して耐性となる。
【0080】
本発明のペプチドを含むワクチン組成物はウイルス感染症又は癌に対して感受性である又はそうでなければそれらに罹るおそれのある患者に投与され、抗原に対する免疫応答を誘導せしめ、その結果患者自身の免疫応答能力を強める。かかる量は「免疫学的に有効な用量」と定義される。使用の際、正確な量はここでも患者の健康状態及び体重、投与の方式、製剤の種類、等に依存するが、一般的な範囲は体重70kgの患者当り約1.0μg〜約5,000μg、より一般的には体重70kgの患者当り約10μg〜約500μg mgである。
【0081】
状況によっては、本発明のペプチドワクチンを、注目のウイルス、特にウイルスエンベロープ抗原に対する中和抗体応答を誘導するワクチンと組合せることが所望されうる。
【0082】
治療的又は免疫的目的のため、本発明の1又は複数のペプチドをコードする核酸を患者に投与してもよい。核酸を患者に導入するのにはいくつかの方法が好適に利用される。例えば、核酸は「裸DNA」として直接導入できうる。このアプローチは例えばWolff ら、Science 247 : 1465-1468 (1990)並びに米国特許第5,580,859号及び同第5,589,466号に記載されている。核酸はまた例えば米国特許第5,204,253号に記載されているようにバリスチック導入を利用して投与してもよい。DNAだけを含む粒子を投与してよい。他方、DNAを粒子、例えば金粒子に付着させてよい。核酸はカチオン化合物、例えばカチオン脂質に複合させて導入してもよい。脂質媒介式遺伝子導入法は例えばWO96/18372;WO93/24640;Mannino and Gould-Fogerite (1988) BioTechniques 6 (7) : 682-691 ;Rose米国特許第5,279,833号;WO91/06303;及びFelgner ら (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 : 7413-7414 に記載されている。本発明のペプチドは弱毒化ウイルス宿主、例えばワクシニア又はフォウルポックスを介して発現させることもできうる。このアプローチは本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現するためのベクターとしてのワクシニアウイルスの利用を包含する。急性もしくは慢性感染宿主又は感染していない宿主への導入により、組換ワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それ故宿主のCTL応答を誘導する。免疫プロトコールに有用なワクシニアベクター及び方法は例えば引用することで本明細書に組入れる米国特許第4,722,848号に記載されている。その他のベクターはBCG(バチル・カルメッテ・グエリン:Bacille Calmette Guerin)である。BCGベクターは引用することで本明細書に組入れるStoverら(Nature 351 : 456-460 (1991))に記載されている。本発明のペプチドの治療的な投与又は免疫のために有用な多種多様なその他のベクター、例えばサルモネラ・チフィ(Salmonella typhi) ベクター等は本明細書の説明から当業者に明らかとなるであろう。
【0083】
本発明のペプチドをコードする核酸を投与する好適な手段は本発明の多重エピトープをコードするミニジーン構築体を利用する。ヒト細胞における発現のための選定のCTLエピトープをコードするDNA配列(ミニジーン)を構築するため、このエピトープのアミノ酸配列を逆転写させる。各アミノ酸についてのコドン選択のガイドのため、ヒトコドン用法表を使用する。このようなエピトープをコードするDNA配列は直接連結し、連続ポリペプチド配列を構築する。発現及び/又は免疫原性の最適化を図るため、このミニジーンデザインの中に追加の要素を組込んでよい。逆転写され、そしてこのミニジーン配列の中に含ませることのできるアミノ酸配列の例には:ヘルパーTリンパ球エピトープ、リーダー(シグナル)配列、及び小胞体固定配列が挙げられる。更に、CTLエピトープのMHC提示はCTLエピトープの隣りに合成(例えばポリアラニン)又は天然隣接配列を含ませることにより向上しうる。
【0084】
ミニジーン配列はミニジーンの正及び負の鎖をコードするオリゴヌクレオチドを集成させることによりDNAへと変換される。周知の技術を利用して重複オリゴヌクレオチド(長さ30〜100塩基)を合成し、リン酸化し、精製し、そして適当な条件下でアニーリングさせる。オリゴヌクレオチドの末端はT4 DNAリガーゼを用いて連結させる。CTLエピトープポリペプチドをコードするこの合成ミニジーンを次に所望の発現ベクターの中にクローニングすることができる。
【0085】
当業者に周知の標準的な調節配列をベクターの中に含ませ、標的細胞内での発現を確実なものとする。いくつかのベクター要素が必要とされる:ミニジーン挿入のための下流クローニング部位を有するプロモーター;効率的な転写終止のためのポリアデニル化シグナル;E.コリ(E. coli)複製起点;及びE.コリ選択マーカー(例えば、アンピシリン又はカナマイシン耐性)。この目的のために数多くのプロモーター、例えばヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーターが使用できる。その他の適当なプロモーター配列については、米国特許第5,580,859号及び同第5,589,466号を参照のこと。
【0086】
ミニジーン発現及び免疫原性の最適化を図るために追加のベクター修飾が所望されうる。状況によっては、効率的な遺伝子発現のためにイントロンが必要とされ、そして1又は複数の合成又は天然イントロンをミニジーンの転写領域の中に組込んでよい。mRNA安定化配列の組込みもミニジーン発現のために考慮されうる。DNAワクチンの免疫原性において免疫刺激配列(ISS又はCpGs)が一役かっていることが最近になって提唱されている。このような配列は、免疫原性を高めることが認められているのなら、ベクターの中に、ミニジーンコード配列の外側にて含ませてよい。
【0087】
ある態様においては、ミニジーンコードエピトープの生産と免疫原性を強化又は低下するために含ませる第二タンパク質の生産とを可能とするバイシストロン発現ベクターを使用することができる。同時発現されると免疫応答を有利に増強しうるタンパク質又はポリペプチドの例にはサイトカイン(例えばIL2,IL12,GM−CSF)、サイトカイン誘導性分子(例えばLeLF)、又は共刺激分子が挙げられる。ヘルパー(HTL)エピトープを細胞内ターゲッティングシグナルに連結し、そしてCTLエピトープとは独立に発現させることができる。これはHTLエピトープの、CTLエピトープ以外の細胞区画への誘導を可能とするであろう。適宜、これはHTLエピトープのMHCクラスII経路へのより効率的な進入を促進し、それ故CTL誘導を向上させる。CTL誘導に反し、免疫抑制分子(例えばTGF−β)の同時発現による免疫応答の特異的な下降が所定の疾患において有利でありうる。
【0088】
発現ベクターが選定できたら、ミニジーンをプロモーター下流のポリリンカー領域にクローニングする。このプラスミドを適当なE.コリ株に形質転換せしめ、そして標準の技術を利用してDNAを調製する。ミニジーン及びこのベクター内に含まれているその他の要素の配向及びDNA配列を制限マッピング及びDNA配列分析により確認する。適正なプラスミドが定着した細菌細胞をマスター細胞バンク及び作業用細胞バンクとして保存することができる。
【0089】
治療的な量のプラスミドDNAはE.コリの発酵、しかる後の精製により生産される。作業用細胞バンク由来のアリコートを発酵培地(例えばTerrific Broth) の接種に用い、そして周知の技術に従ってシェーカーフラスコ又はバイオリアクター内で飽和に至るまで増殖させる。プラスミドDNAは標準のバイオ分離技術、例えばQuiagen供給の固相アニオン交換樹脂を利用して精製できる。必要なら、スーパーコイルDNAをゲル電気泳動又はその他の方法を利用して開環又は線形形態から単離できる。
【0090】
精製プラスミドDNAは様々な製剤を利用して注射用に調製できる。その最も簡単なものは、無菌リン酸緩衝食塩水(PBS)中での凍結乾燥DNAの再構築である。様々な方法が発表され、そして新たな技術が有用となってきている。前述の通り、核酸はカチオン脂質で簡単に調剤される。更に、集約的に保護性、相互作用性、非凝縮性(PINC)と称される糖脂質、フソゲンリポソーム、ペプチド及び化合物を精製プラスミドDNAに複合させ、変動因子、例えば安定性、筋肉内分散性、又は特定の器官もしくは細胞タイプへの輸送性を左右させることができる。
【0091】
標的細胞の感作をミニジーンコードCTLエピトープの発現及びMHCクラスI提示の機能的アッセイのために利用できうる。プラスミドDNAを標準のCTLクロム放出アッセイのための標的として適切な哺乳動物細胞系の中に導入する。使用するトランフェクション方法は最終製剤に依存するであろう。「裸」DNAのためにはエレクトロポレーションを利用でき、一方カチオン脂質は直接in vitroトランスフェクションを可能とする。グリーンフルオレセントタンパク質(GFP)を発現するプラスミドを同時トランスフェクションし、蛍光活性セルソーティング(FACS)を利用することでトランスフェクション細胞の富化が可能となる。このような細胞を次いでクロム−51ラベルし、そしてエピトープ特異的CTL系のための標的細胞として用いる。51Cr放出により検出される細胞溶解はミニジーンコードCTLエピトープのMHC提示の結果を示唆する。
【0092】
in vivo免疫原性はミニジーンDNA製剤の機能試験のための第二のアプローチである。適当なヒトMHC分子を発現する遺伝子導入マウスをこのDNA生成物で免疫する。用量及び投与ルートは製剤依存性である(例えば、PBS中のDNAは1M、脂質複合DNAは1P)。免疫の21日後、脾臓細胞を回収し、そして試験すべき各々のエピトープをコードするペプチドの存在下で1週間再刺激する。これらのエフェクター細胞(CTL)を標準の技術を利用してペプチド負荷クロム−51ラベル化標的細胞の細胞溶解についてアッセイする。ミニジーンコードエピトープに対応するペプチドのMHC負荷により感作された標的細胞の溶解は、CTLのin vivo誘導についてのDNAワクチンの機能を証明する。
【0093】
抗原性ペプチドは同様にCTLをex vivoで誘導するのに利用されうる。得られるCTLはその他の慣用の治療形態に応答しない、又はペプチドワクチン治療アプローチに応答しないであろう患者の慢性感染症(ウイルス性又は細菌性)又は腫瘍の処置に利用できる。特定の病原体(感染因子又は腫瘍抗原)に対するex vivo CTL応答を組織培養物において患者のCTL前駆細胞(CTLp)を抗原提示細胞(APC)の起源及び適当な免疫原性ペプチドと一緒にインキュベーションすることにより誘導する。CTLpが活性化して成熟し、そしてエフェクターCTLへと発達するのに適当なインキュベーション時間経過後(典型的には1〜4週間)、細胞を患者に戻し、そこでそれらはその特定の標的細胞(感染細胞又は腫瘍細胞)を破壊するであろう。
【0094】
これらのペプチドは診断試薬としての用途も認められうる。例えば、本発明のペプチドは当該ペプチド又は近縁のペプチドを採用する処置養生法に対する特定の個体の感受性を決定するために利用されることができ、かくして現行の処置プロトコールを改訂するのに、又は冒された個体の予後を決定するのに有用でありうる。更に、これらのペプチドは慢性感染症の発症について相当のおそれのあるであろう個体を予測するのにも利用できうる。
以下の実施例は例示であり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0095】
実施例1
クラスI抗原の単離は前述の関連出願に記載の通りに実施した。それに記載の通りに天然プロセシングされたペプチドを単離し、そして配列決定した。アレル特異的モチーフ及びアルゴリズムも決定し、そして定量結合アッセイを実施した。
【0096】
様々なHLAアレルについての上記同定モチーフを利用し、多数の抗原由来のアミノ酸配列をこれらのモチーフの存在について分析した。表3−**はこれらのサーチの結果を供与する。
【0097】
上記例は本発明の例示であり、本発明の範囲を限定しない。本発明のその他の変異体は当業者に自明であり、本発明に包含される。全ての公開物、特許及び特許出願は引用することで本明細書に組入れる。
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
【表8】

【0103】
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【表10】

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【表107】

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【表108】

【0203】
【表109】

【0204】
【表110】

【0205】
【表111】

【0206】
【表112】

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【表113】

【0208】
【表114】

【0209】
【表115】

【0210】
【表116】

【0211】
【表117】

【0212】
【表118】

【0213】
【表119】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA結合モチーフを有する免疫原性ペプチドを含む組成物であって、その免疫原性ペプチドが、表3〜14中に示すペプチド又は表3〜14中に示すペプチド内の残基の保存的置換を含むペプチドである、前記組成物。
【請求項2】
前記免疫原性ペプチドが、第2のオリゴペプチドに結合されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第2のオリゴペプチドが、ヘルパーT応答を誘発するペプチドである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
表3〜14中に示す免疫原性ペプチド、又は表3〜14中に示すペプチドの残基の保存的置換を含むペプチドをコードする核酸分子を含む組成物。
【請求項5】
前記核酸が、さらに、第2の免疫原性ペプチドをコードする配列を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記核酸がさらに、ヘルパーT応答を誘発するオリゴペプチドをコードする配列を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
細胞毒性T細胞を請求項1に記載のペプチドと接触させることを含む、細胞毒性T細胞を誘導する方法。

【公開番号】特開2010−1303(P2010−1303A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188774(P2009−188774)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【分割の表示】特願2000−535367(P2000−535367)の分割
【原出願日】平成10年3月13日(1998.3.13)
【出願人】(507364090)ファルメクサ インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】