説明

HPV感染を処置するためのdsDNA組成物および方法

本発明は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を処置する二本鎖リボ核酸(dsRNA)に関する。このdsRNAは、30ヌクレオチド長未満、通常は19〜25ヌクレオチド長であり、かつヒトE6AP遺伝子から選択されるHPV標的遺伝子の少なくとも一部と実質的に相補的なヌクレオチド配列を持つアンチセンス鎖を含む。本発明はさらに、dsRNAと共に薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物;医薬組成物を用いてHPV感染およびE6AP遺伝子の発現により引き起こされる疾患を処置する方法;および細胞のHPV標的遺伝子の発現を阻害する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖リボ核酸(dsRNA:double−stranded ribonucleic acid)と、子宮頸癌、肛門癌、HPV関連前癌病変および性器疣贅などのヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)の感染により媒介される病理学的過程を処置するためのRNA干渉の誘導における、その使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
パピローマウイルス(PV:papillomavirus)は、上皮の過剰増殖病変を引き起こす、エンベロープを持たないDNAウイルスである。このウイルスは自然界に広く存在し、高等脊椎動物に認められている。ウイルスの特徴付けは、特にヒト、ウシ、ウサギ、ウマおよびイヌで行われてきた。最初のパピローマウイルスは1933年にワタウサギパピローマウイルス(CRPV:cottontail rabbit papillomavirus)として報告された。それ以来、ワタウサギおよびウシパピローマウイルス1型(BPV−1:bovine papillomavirus type 1)は、パピローマウイルスに関する研究における実験のプロトタイプとして利用されている。動物パピローマウイルスはほとんどが純粋な上皮増殖性病変に関連しており、動物における病変の大部分は皮膚である。ヒトでは100種類を超えるパピローマウイルス(HPV)が同定されており、皮膚上皮および粘膜上皮(口腔粘膜および生殖器粘膜)といった感染症の部位により分類されている。皮膚関連疾患には扁平疣贅、足底疣贅などがあり、粘膜関連疾患には喉頭乳頭腫、および子宮頸癌を含む肛門生殖器疾患がある(Fields,1996,Virology,3rd ed.Lippincott-Raven Pub.,Philadelphia,N.Y.;非特許文献1)。
【0003】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、世界で最も多く見られる性感染症の1つである。HPV感染症の大部分は無害である。HPVの中には、膣、頸部、外陰部(膣の外側の部分)、陰茎および直腸など、男性および女性の性器周辺に単独または複数の隆起物として認められる性器疣贅の原因となるタイプもある。HPVに感染した人の多くは症状を示さない。
【0004】
大部分のHPVサブタイプが起こすのは良性病変であるが、一部のサブタイプはハイリスクと考えられ、子宮頸部異形成および肛門異形成などの重篤な病変を引き起こす恐れがある。15種のHPV型が最近ハイリスク型に分類された(非特許文献2)これらのハイリスクサブタイプは遺伝的に多様であり、ウイルスの主要カプシドタンパク質L1遺伝子の配列の相違が>10%であることが明らかにされている。(非特許文献1)。
【0005】
多くの場合、HPVに感染した女性は無症状であり、子宮頸部のスクリーニングを行わない限り、発見されないことがある。子宮頸部のスクリーニングは、パップテストを用いて広く行われている。パップテストは子宮頸部組織を組織学的に評価するもので、異常な子宮頸部細胞を同定するために用いられる。パップテストの一環として、PCRまたは市販のハイブリッドキャプチャーII技法(HCII:Hybrid Capture II)(Digene,Gaithersburg,Maryland,U.S.A)などの核酸ベースアッセイを用いて、HPV感染症および特異的なサブタイプの存在を判定することができる。
【0006】
異常な子宮頸部細胞が同定された場合、癌(CIN−I:cervical intraepithelial neoplasia−1(「子宮頸部上皮内腫瘍−1」)と呼ばれる細胞など)に進行するリスクが低いLSIL(low−grade squamous intraepithelial lesion:軽度扁平上皮内病変);または癌に進行する可能性が高いCIN−2およびCIN−3と呼ばれる細胞などのHSEL(high−grade squamous intraepithelial lesion:高度扁平上皮内病変)に分類される。
【0007】
軽度病変の約85%は自然消退し、残りはそのままの状態であるか、あるいは高度病変に進行する。高度病変は処置を行わないでいると、約10%が癌性組織に変化すると予想される。ほとんどの場合、異形性に関連しているのはHPV−16およびHPV−18であるが、これに関連しているトランスフォーミングHPVサブタイプは他にもいくつかある。
【0008】
最近の研究によれば、HIV陽性の男性同性愛者の最大89%がこうしたハイリスクサブタイプのHPVに感染している可能性がある。また、HIV陽性患者は同時にHPVの複数のサブタイプにも感染しやすいため、異形性進行のリスクが増大する。
【0009】
過去20年間の証拠から、子宮頸癌の発症にはHPV感染が十分条件ではないけれども必要条件であることが広く受け入れられている。子宮頸癌には99.7%でHPVが存在すると推定される。肛門癌でもHPV感染と肛門異形成および肛門癌の発症との関連は、子宮頸癌の場合と類似していると考えられる。肛門癌のHIV陰性患者のある研究では、肛門癌の88%でHPV感染が認められた。米国では、2003年に子宮頸癌の新症例が12,200例および子宮頸癌による死亡が4,100例、同様に肛門癌の新症例が4,000例および肛門癌による死亡が500例であったと予測される。予防のためのスクリーニングが広く行われたため子宮頸癌の発生率は過去40年で減少している一方、肛門癌の発生率は上昇している。HIV陽性患者の肛門癌の発生率が一般集団よりも高いことから、肛門癌の発生率の上昇はHIV感染に一部起因しているかもしれない。肛門癌の発生率は、一般集団100,000人当たり0.9例であるのに対し、男性同性愛者集団100,000人当たり35例、HIV陽性の男性同性愛者集団100,000人当たり70〜100例である。こうしたHIV感染患者における肛門異形成の有病率の高さおよび肛門癌の増加傾向を踏まえ、2003 USPHA/IDSA Guidelines for the Treatment of Opportunistic Infections in HTV Positive Patientsには、肛門異形成と診断された患者の処置ガイドラインが盛り込まれる見通しである。
【0010】
HPV感染症には一般に知られる治療法がない。性器疣贅は処置しなくても消失する場合が多いが、処置剤は存在する。処置の方法は、性器疣贅のサイズおよび位置などの因子によって異なる。使用される処置剤にはイミキモドクリーム、20パーセントポドフィリン抗有糸分裂溶液、0.5パーセントポドフィロックス溶液、5パーセント5−フルオロウラシルクリームおよびトリクロロ酢酸がある。ポドフィリンまたはポドフィロックスの使用は、皮膚に吸収され先天性欠損の原因となる場合があるため、妊婦には推奨されない。5−フルオロウラシルクリームの使用も妊婦には推奨されない。小さな性器疣贅については、凍結(冷凍手術)、燃焼(電気焼灼)またはレーザー処置により物理的に除去できる。他の処置が奏効しない大きな疣贅は、手術により除去する必要がある場合もある。性器疣贅は、物理的除去後に再発することが知られており、こうした場合には、その疣贅にα−インターフェロンを直接注射してきた。しかしながら、α−インターフェロンは高価であるうえ、使用しても性器疣贅の再発率は低下しない。
【0011】
したがって、HPVに有効な処置剤には改善すべき点がある。驚いたことに、こうした要求を満たし、しかも他の利益ももたらす化合物が発見された。
【0012】
このほど、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる高度に保存された制御機構において二本鎖RNA分子(dsRNA)が遺伝子発現を阻止することが明らかになった。特許文献1(Fireら、、)には、C.elegansにおいて少なくとも25ヌクレオチド長のdsRNAにより遺伝子の発現が阻害されることが開示されている。また、dsRNAは、植物(たとえば、特許文献2,Waterhouseら、、;および特許文献3、Heifetzら、、を参照されたい)、Drosophila(たとえば、非特許文献3を参照されたい)および哺乳動物(特許文献4,Limmer;およびDE 101 00 586.5,Kreutzerら、、を参照されたい)などの他の生体でも標的RNAを分解することが示されている。この自然機構は、異常または不必要な遺伝子制御により引き起こされる障害を処置する新しいクラスの医薬剤の開発するうえでこのところ注目されるようになった。
【0013】
特許文献5には、HPV感染が原因の疾患を処置する核酸ベースの薬物開発のこれまでの取り組みが開示されている。この公報は、細胞ベースの系でHPV複製を阻害するHPV mRNAに対する2つのsiRNAについて報告するものである。関連の刊行物は非特許文献4に掲載されている。
【0014】
RNAiの分野が著しく進歩し、HPV感染により媒介される病理学的過程の処置に進歩は見られるものの、HPV感染の進行を阻害し、HPV感染に関連する疾患を処置できる薬が依然として求められている。こうした薬は全体として広範な遺伝子型多様性を示すハイリスクHPVサブタイプをすべて阻害するように設計する必要があるため、この課題は一層困難なものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第99/32619号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/53050号パンフレット
【特許文献3】国際公開第99/61631号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/44895号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03/008573号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Bernard,H−U.、J.Clin.Virol.(2005)328:Sl−S6
【非特許文献2】Munoz,N.ら、N.Engl.J.Med.(2003)348(6):518−27
【非特許文献3】Yang,D.,ら、,Curr.Biol.(2000)10:1191−1200
【非特許文献4】Jiang,M.ら、N.A.R.(2005)33(18):el51
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、HPVの繁殖に必須な遺伝子の発現をサイレンシングする二本鎖リボ核酸(dsRNA)を用いて、HPV感染に関連する疾患の処置の問題に対する解決法を提供する。HPVが増殖するのに必要なヒト宿主種の保存された遺伝子にはE6APがある。
【0018】
本発明は、二本鎖リボ核酸(dsRNA)と、このdsRNAを用いて細胞または哺乳動物のE6AP遺伝子の発現を阻害する組成物および方法とを提供する。本発明はまた、子宮頸癌および性器(gential)疣贅のHPV感染に関連するE6AP遺伝子の発現により引き起こされる病態および疾患を処置する組成物および方法も提供する。本発明のdsRNAは、30ヌクレオチド長未満、通常19〜24ヌクレオチド長であり、かつE6AP遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である領域を持つRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。
【0019】
一実施形態では、本発明は、E6AP遺伝子の発現を阻害する二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を提供する。このdsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含む。dsRNAは、第1の配列を含むセンス鎖および第2の配列を含むアンチセンス鎖を含む。アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的であるヌクレオチド配列を含み、この相補性領域は30ヌクレオチド長未満、通常19〜24ヌクレオチド長である。dsRNAは、E6APを発現している細胞と接触すると、E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する。
【0020】
たとえば、本発明のdsRNA分子は、表1のセンス配列からなる群から選択されるdsRNAの第1の配列からなってもよく、第2の配列も表1のアンチセンス配列からなる群から選択される。本発明のdsRNA分子は天然のヌクレオチドからなってもよいし、2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオアート基を含むヌクレオチドおよびコレステリル誘導体に結合した末端ヌクレオチドなどの少なくとも1個の修飾ヌクレオチドからなってもよい。あるいは、修飾ヌクレオチドは、2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ−修飾ヌクレオチド、ロックドヌクレオチド(locked nucleotide)、脱塩基ヌクレオチド、2’−アミノ修飾ヌクレオチド、2’−アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホルアミダートおよび非天然塩基含有ヌクレオチドの群から選択されてもよい。通常、こうした修飾配列は、表1のセンス配列からなる群から選択される前記dsRNAの第1の配列および表1のアンチセンス配列からなる群から選択される第2の配列に基づく。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、本発明のRNAの1種を含む細胞を提供する。この細胞は通常、ヒト細胞などの哺乳動物細胞である。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、生体、通常はヒト被験者のE6AP遺伝子の発現を阻害する医薬組成物であって、本発明のdsRNAの1種または複数種および薬学的に許容されるキャリアまたは送達ビヒクルを含む、医薬組成物を提供する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害する方法であって、
(a)相互に相補的である少なくとも2個の配列を含む二本鎖リボ核酸(dsRNA)を細胞に導入する。このdsRNAは、第1の配列を含むセンス鎖および第2の配列を含むアンチセンス鎖を含む。アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含み、相補性領域は30ヌクレオチド長未満、通常19〜24ヌクレオチド長であり、dsRNAは、E6APを発現している細胞と接触すると、E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する工程;および
(b)工程(a)で作製した細胞を、E6AP遺伝子のmRNA転写物が分解するのに十分な時間維持し、それにより細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害する工程
を含む、方法を提供する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、HPV感染により媒介される病理学的過程、たとえば、癌または性器(gential)疣贅を処置、予防または管理する方法であって、こうした処置、予防または管理を必要とする患者に治療有効量または予防有効量の本発明のdsRNAの1種または複数種を投与することを含む、方法を提供する。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害するベクターであって、本発明のRNAの1種の少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された制御配列を含む、ベクターを提供する。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害するベクターを含む細胞を提供する。このベクターは、本発明のRNAの1種の少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された制御配列を含む。
【0027】
(図面の簡単な説明)
図面はない
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、HPV増殖に必須な遺伝子の発現をサイレンシングする二本鎖リボ核酸(dsRNA)を用いて、HPV感染に関連する疾患の処置の問題に対する解決法を提供する。特に、本発明のdsRNAは、HPVが増殖するのに必要なヒト宿主種の保存された遺伝子、ヒトE6AP遺伝子をサイレンシングする。本明細書では、こうした遺伝子をHPV標的遺伝子と総称する場合がある。
【0029】
本発明は、二本鎖リボ核酸(dsRNA)と、そのdsRNAを用いて細胞または哺乳動物のE6AP遺伝子の発現を阻害する組成物および方法とを提供する。本発明はまた、HPV感染に関連するE6AP遺伝子の発現により引き起こされる哺乳動物の病態および疾患をdsRNAを用いて処置する組成物および方法も提供する。dsRNAは、RNA干渉(RNAi)と呼ばれるプロセスを介してmRNAの配列特異的分解を誘導する。
【0030】
本発明のdsRNAは、30ヌクレオチド長未満、通常19〜24ヌクレオチド長であり、かつHPV標的mRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である領域を持つ、RNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。こうしたdsRNAを用いることで、哺乳動物のHPVの複製および/または維持に関係する遺伝子のmRNAの標的分解が可能になる。本発明者らは、細胞ベースおよび動物ベースのアッセイを用いて、こうしたdsRNAがごく少量の投薬量で特異的かつ効率的にRNAiを誘発し、E6AP遺伝子の発現を顕著に阻害することを明らかにした。したがって、こうしたdsRNAを含む本発明の方法および組成物は、HPVの生活環に関与する宿主因子遺伝子を標的とし、HPV感染により媒介される病理学的過程を処置するのに有用である。
【0031】
HPV標的であるHPV E1、E6、ヒトE6APの説明
ヒト宿主の細胞のユビキチンリガーゼE6APは、ウイルスのE6タンパク質と複合体を形成することでHPV、特に組み込まれた(非エピソームの)形のHPVの複製に関与している。E6は、細胞増殖経路を調節する多くのタンパク質に結合し、その分解を誘発する場合が多い(Chakrabarti,O.and Krishna,S.2003.J.Biosci.28:337−348)。E6はE6APと複合体を形成し、腫瘍抑制因子p53を標的として分解する(Scheffner,M.ら、,1990.Cell.63:1129−1136;and Scheffner,M.ら、,1993.Cell 75:495−505)。このウイルスは、p53を不活化することで、p53による感染細胞のアポトーシスを妨げ(Chakrabarti and Krishna,2003)、本来ならばp53により阻止されるウイルスのDNAの複製を促す(Lepik,D.ら、1998.J.Virol.72:6822−6831)ばかりでなく、ゲノムの完全性に対するp53による制御を低下させることで腫瘍形成を促進する(Thomas,M.ら、1999.Oncogene.18:7690−7700)。
【0032】
E1およびE6はいずれも、「Papillomaviridae:The Viruses and Their Replication」by Peter M.Howley,pp.947−978,in:Fundamental Virology,3rd ed.Bernard N.Fields,David M.Knipe,and Peter M.Howley,eds.Lippincott−Raven Publishers,Philadelphia,1996にかなり詳細に記載されている。E1 ORFは、プラスミドDNA複製に必須な68〜76kDタンパク質をコードする。全長E1産物は、BPV1のLCRの複製起点に結合するリン酸化核タンパク質である。また、E1については、ATP結合することと、E2転写トランス活性化因子(E2TA:E2 transcription transactivator)と呼ばれる全長E2タンパク質にインビトロで結合することでウイルスの転写を促進することも明らかになっている。E2への結合により、DNA複製起点に対するE1の親和性も強まる。HPV−16では、E1は不死化に対して間接的な作用を及ぼしている。
【0033】
E6は、約16〜19kDの塩基性の小さな細胞トランスフォーミングタンパク質(たとえば、HPV16のE6は、151アミノ酸を含む)であり、核マトリックスおよび非核性膜画分に局在する。E6遺伝子産物は、4つのCys−X−X−Cysモチーフを含むことから亜鉛と結合する可能性が示唆され、さらに核酸結合タンパク質として働く可能性もある。HPV−16などのハイリスクHPVでは、E6およびE7タンパク質は、宿主の扁平上皮細胞を不死化するのに必要かつ十分である。ハイリスクHPVのE6遺伝子産物は、p53と複合体を形成し、その分解を促進する。
【0034】
以下の詳細な説明は、本dsRNAと、HPV標的遺伝子の発現を阻害するdsRNAを含む組成物との製造方法および使用方法と、HPV感染により引き起こされる疾患および障害、たとえば、子宮頸癌および性器疣贅を処置する組成物および方法とを開示する。本発明の医薬組成物は、30ヌクレオチド長未満、通常19〜24ヌクレオチド長であり、かつHPV標的遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含むアンチセンス鎖を持つdsRNAと共に薬学的に許容されるキャリアを含む。本発明の一実施形態は、医薬製剤中で組み合わせて、任意に別々のHPV標的遺伝子を標的とする複数種のdsRNAを使用する。
【0035】
したがって、本発明のある種の態様は、本発明のdsRNAと共に薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物と、1個または複数個のHPV標的遺伝子の発現を阻害する組成物の使用方法と、HPV感染により引き起こされる疾患を処置する医薬組成物の使用方法とを提供する。
【0036】
I.定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用するいくつかの用語および語句の意味を以下に示す。本明細書の他の箇所における用語の使用法とこのセクションに示す定義との間に明らかな矛盾がある場合、このセクションの定義が優先するものとする。
【0037】
「G」、「C」、「A」および「U」は通常それぞれ塩基として、グアニン、シトシン、アデニンおよびウラシルを含むヌクレオチドを表す。一方、「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」という語は、以下に詳述するような修飾ヌクレオチドまたは代替置換部分も指す場合があることが理解されよう。当業者であれば、グアニン、シトシン、アデニンおよびウラシルを他の部分で置き換えても、その置換部分を持つヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの塩基対合特性が実質的に変化しない場合があることをよく知っている。たとえば、以下に限定されるものではないが、塩基としてイノシンを含むヌクレオチドは、アデニン、シトシンまたはウラシルを含むヌクレオチドと塩基対合できる。このため、本発明のヌクレオチド配列では、ウラシル、グアニンまたはアデニンを含むヌクレオチドを、たとえば、イノシンを含むヌクレオチドと置き換えてもよい。こうした置換部分を含む配列は、本発明の実施形態である。
【0038】
本明細書で使用する場合、「E6AP」とは、ユビキチンタンパク質リガーゼE3A(ube3A、E6結合タンパク質すなわちE6APともいう)遺伝子またはタンパク質をいう。異なるアイソフォームを示すE6APのヒトmRNA配列は、GenBank受託番号NM_130838.1、NM_130839.1およびNM_000462.2として提供される。
【0039】
本明細書で使用する場合、「E1」とは、ヒトパピローマウイルス16型(HPV16)E1遺伝子(GenBank受託番号NC_001526、ヌクレオチド865〜2813)をいう。本明細書で使用する場合、「E6」とは、ヒトパピローマウイルス16型(HPV16)E6遺伝子(GenBank受託番号NC_001526、ヌクレオチド65〜559)をいう。E1およびE6遺伝子の変異体も一般に多く開示されている。これらおよび今後公表されるE1およびE6遺伝子変異体は、「E1」および「E6」を使用することで、文脈に合わない場合を除き、本明細書に含まれるものとする。
【0040】
本明細書で使用する場合、「標的配列」とは、一次転写産物のRNAプロセシングの産物であるmRNAなど、HPV標的遺伝子の1個の転写の過程で形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の連続する部分をいう。
【0041】
本明細書で使用する場合、「配列を含む鎖」という語は、ヌクレオチドの標準的な命名法で命名される配列により記載されるヌクレオチドの鎖(chain)を含むオリゴヌクレオチドをいう。
【0042】
本明細書で使用する場合、他に記載がない限り、「相補的」という語は、第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列との関係の説明に使用する場合、当業者であれば理解するように、第1のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、何らかの条件下で第2のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとハイブリダイズし、二本鎖構造を形成できることをいう。そうした条件は、たとえば、ストリンジェントな条件であってもよく、ストリンジェントな条件としては、400mMのNaCl、40mMのPIPES、pH6.4、1mMのEDTA、50℃または70℃で12〜16時間、その後の洗浄が挙げられる。生体内で見られることがある生理的に適切な条件などの他の条件を用いてもよい。当業者であれば、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終用途に応じて、2個の配列の相補性テストに最適な一連の条件を決定することができる。
【0043】
「相補的」には、第1のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと、第2のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとの、第1および第2のヌクレオチド配列の全長にわたる塩基対合が含まれる。本明細書では、こうした配列を相互に「完全に相補的」という場合がある。これに対し、本明細書で第1の配列を第2の配列に対して「実質的に相補的」という場合、2つの配列は、完全に相補的であってもよいし、最終用途に最適な条件下でハイブリダイズする能力を保持していれば、ハイブリダイゼーション時に1つまたは複数、ただし、通常は4、3または2以下のミスマッチ塩基対が形成されてもよい。一方、ハイブリダイゼーション時に2個のオリゴヌクレオチドを1つまたは複数の一本鎖オーバーハングが形成されるように設計する場合、こうしたオーバーハングは相補性の判定の際にミスマッチと見なさないものとする。たとえば、一方が21ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドであり、他方が23ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドであるdsRNAにおいて、長い方のオリゴヌクレオチドが短い方のオリゴヌクレオチドと完全に相補的な21ヌクレオチドの配列を含む場合、本発明では、やはり「完全に相補的」という場合がある。
【0044】
さらに、本明細書で使用する場合、「相補的」配列は、ハイブリダイズの能力に関する上記の要件を満たす限り、非ワトソン−クリック塩基対および/または非天然および修飾ヌクレオチドから形成された塩基対を含んでもよいし、完全にそうした塩基対から形成されていてもよい。
【0045】
本明細書では、「相補的」、「完全に相補的」および「実質的に相補的」という語は、使用された文脈から分かるように、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖との間またはdsRNAのアンチセンス鎖と標的配列との間の塩基マッチングに関して使用する場合がある。
【0046】
本明細書で使用する場合、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部と実質的に相補的」であるポリヌクレオチドとは、目的の(たとえば、E6APをコードする)mRNAの連続する部分と実質的に相補的であるポリヌクレオチドをいう。たとえば、ポリヌクレオチドは、その配列がE6APをコードするmRNAの連続部分と実質的に相補的である場合、E6APのmRNAの少なくとも一部と相補的である。
【0047】
「二本鎖RNA」または「dsRNA」という語は、本明細書で使用する場合、逆平行で、かつ上記で定義したような実質的に相補的な核酸鎖を2本含む二本鎖構造を持つリボ核酸分子の複合体をいう。二本鎖構造を形成している2本の鎖は、より大きな1個のRNA分子の異なる部分であってもよいし、別々のRNA分子であってもよい。別々のRNA分子である場合、文献ではそうしたdsRNAをしばしばsiRNA(「低分子干渉RNA(short interfering RNA)」)と呼んでいる。この2本の鎖がより大きな1個の分子の一部であるため、二本鎖構造を形成する一方の鎖の3’末端と、対応する他方の鎖の5’末端との間のヌクレオチドの連続鎖(chain)で連結されている場合、連結されたRNA鎖(chain)は「ヘアピンループ」、「低分子ヘアピン型RNA」または「shRNA」と呼ばれる。二本鎖構造を形成する一方の鎖の3’末端と、対応する他方の鎖の5’末端との間のヌクレオチドの連続鎖(chain)以外の手段により2本の鎖が共有結合で連結されている場合、この連結構造を「リンカー」という。RNAの各鎖は、ヌクレオチドの数が同じでも、異なってもよい。塩基対の最大数は、dsRNAの最も短い鎖のヌクレオチド数から二本鎖に存在する任意のオーバーハング数を引いた数である。dsRNAは、二本鎖構造に加えて、1つまたは複数のヌクレオチドオーバーハングを含んでもよい。さらに、本明細書で使用する場合、「dsRNA」は、リボヌクレオチド、ヌクレオシド間結合、末端基、キャップおよびコンジュゲート部分の化学修飾を含めて、複数のヌクレオチドの実質的な修飾および本明細書に開示されているか、または当該技術分野において公知のすべてのタイプの修飾を含んでもよい。本明細書および特許請求の範囲では、siRNAタイプの分子に用いられるこうした任意の修飾は「dsRNA」により包含される。
【0048】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチドオーバーハング」とは、不対ヌクレオチドをいうか、dsRNAの一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端を超えて伸長またはその逆であるとき、dsRNAの二本鎖構造から突出したヌクレオチドをいう。「平滑」または「平滑末端」とは、dsRNAの末端に不対ヌクレオチドが存在しないこと、すなわち、ヌクレオチドオーバーハングがないことを意味する。「平滑末端」dsRNAは、全長にわたり二本鎖であるdsRNA、すなわち、分子のどちらの末端にもヌクレオチドオーバーハングがないdsRNAである。分かりやすくするため、siRNAがオーバーハングを持つかどうか、あるいは、平滑末端であるかどうかを判断する際にsiRNAの3’末端または5’末端にコンジュゲートされた化学キャップまたは非ヌクレオチドの化学部分については考慮しない。
【0049】
「アンチセンス鎖」という語は、標的配列と実質的に相補的な領域を含むdsRNA鎖をいう。本明細書で使用する場合、「相補性領域」という語は、配列、たとえば、本明細書に定義するような標的配列と実質的に相補的なアンチセンス鎖の領域をいう。相補性領域が標的配列と完全には相補的でない場合、ミスマッチが最も認められるのは末端領域であり、存在する場合は、たとえば、5’および/または3’終端から6、5、4、3または2ヌクレオチドのような末端領域(単数または複数)内にあるのが一般的である。
【0050】
「センス鎖」という語は、本明細書で使用する場合、アンチセンス鎖の領域と実質的に相補的な領域を含むdsRNA鎖をいう。
【0051】
dsRNAについていう場合、「細胞に導入する」とは、当業者が理解するとおり、細胞への取り込みまたは吸収を促進することを意味する。dsRNAの吸収または取り込みは、細胞の受動拡散プロセスまたは能動的プロセスにより、あるいは、助剤または装置により行うことができる。「細胞に導入する」とは、インビトロでの細胞に限定されるものではなく、dsRNAを、生体の一部を構成している「細胞に導入」してもよい。こうした場合、細胞への導入には、生体への送達が含まれる。たとえば、インビボでの送達では、dsRNAを組織部位に注射しても、全身投与してもよい。インビトロで細胞に導入するには、エレクトロポレーションおよびリポフェクションなど当該技術分野において公知の方法がある。
【0052】
本明細書では、HPV標的遺伝子について言及している場合、「発現をサイレンシングする」および「阻害する」という語は、HPV標的遺伝子の発現の少なくとも一部を抑制することをいう。転写の抑制については、HPV標的遺伝子は転写されるが、そのHPV標的遺伝子の発現を阻害するように処置してある第1の細胞または細胞群から単離できるHPV標的遺伝子から転写されるmRNAの量が、第1の細胞または細胞群と実質的に同一であるが、そうした処置をしていない第2の細胞または細胞群(対照細胞)と比較して減少していることで確認される。阻害の程度は、一般に以下の式で表される。
【0053】
【数1】

あるいは、たとえば、細胞から分泌されるHPV標的遺伝子がコードするタンパク質の量または、たとえば、アポトーシスのようなある種の表現型を示す細胞数など、HPV標的遺伝子の転写と機能的に関連するパラメーターの低下により阻害の程度を示してもよい。原則として、構成的に発現しても、ゲノム工学により発現してもこの標的を発現する任意の細胞を用いて、任意の適切なアッセイによりHPV標的遺伝子サイレンシングを判定してもよい。ただし、あるdsRNAがHPV標的遺伝子の発現をある程度阻害し、そのため本発明に包含されるかどうかを判定するため基準が必要である場合、以下の実施例に記載するアッセイがこうした基準として役に立つ。
【0054】
たとえば、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によりE6AP遺伝子の発現は少なくとも約20%、25%、35%または50%抑制される場合がある。いくつかの実施形態では、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によりE6AP遺伝子は少なくとも約60%、70%または80%抑制される。いくつかの実施形態では、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によりE6AP遺伝子は少なくとも約85%、90%または95%抑制される。表2は、様々なE6AP dsRNA分子を種々の濃度で用いたインビトロアッセイから得られた転写阻害の広範な値を示す。
【0055】
「処置する」、「処置」および同種の語は、本明細書においてHPV感染の文脈で使用する場合、HPV感染により媒介される病理学的過程が軽減または緩和することをいう。処置という場合、HPV感染を予防または防止し、HPV感染により引き起こされる症状または病的変化を軽減する本発明の治療薬の使用を含む。本発明の文脈では、本明細書で以下に記載する他の(HPV感染により媒介される病理学的過程以外の)症候に関係する場合、「処置する」、「処置」および同種のという語は、そうした症候に関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和したり、そうした症候を遅延または回復させたりすることを意味する。
【0056】
本明細書で使用する場合、「治療有効量」および「予防有効量」という語句は、HPV感染により媒介される病理学的過程またはHPV感染により媒介される病理学的過程の明確な症状の処置、予防または管理に際し、治療上の有益性を与える量をいう。治療効果のある具体的な量は、一般の開業医が容易に判定できるものであるが、たとえば、HPV感染により媒介される病理学的過程のタイプ、患者の病歴および年齢、HPV感染により媒介される病理学的過程の段階ならびに他の治療剤の投与など、当該技術分野において公知の要因によって異なる場合がある。
【0057】
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」は、薬理学的有効量のdsRNAおよび薬学的に許容されるキャリアを含む。本明細書で使用する場合、「薬理学的有効量」、「治療有効量」または単に「有効量」とは、所期の薬理学的結果、治療結果または予防結果を得るのに有効なdsRNAの量をいう。たとえば、疾患または障害に関連する測定可能なパラメーターが少なくとも25%低下したときにその臨床処置が有効と見なされる場合、その疾患または障害を処置する薬剤の治療有効量は、パラメーターを少なくとも25%低下させるのに必要な量である。
【0058】
「薬学的に許容されるキャリア」という語は、治療薬の投与のためのキャリアをいう。そうしたキャリアとして、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよびこれらの組み合わせがあるが、これに限定されるものではない。ただし、細胞培地は、薬学的に許容されるキャリアとして使用しない。経口投与用の薬剤の薬学的に許容されるキャリアとして、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、着色剤および保存剤などの薬学的に許容される賦形剤があるが、これに限定されるものではない。好適な不活性希釈剤には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムおよびラクトースがあり、好適な崩壊剤にはコーンスターチおよびアルギン酸がある。結合剤にはデンプンおよびゼラチンを含めてもよく、潤滑剤が存在する場合はステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクが一般的である。錠剤については、胃腸管での吸収を遅延させるため必要に応じてグリセリルモノステアラートまたはグリセリルジステアラートなどの材料でコーティングしてもよい。
【0059】
本明細書で使用する場合、「形質転換細胞」とは、dsRNA分子を発現できるベクターを導入してある細胞である。
【0060】
II.二本鎖リボ核酸(dsRNA)
一実施形態では、本発明は、細胞または哺乳動物のHPV標的遺伝子の発現を阻害する二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子であって、dsRNAはHPV標的遺伝子の発現の際に形成されるmRNAの少なくとも一部と相補的である相補性領域を含有するアンチセンス鎖を含み、相補性領域は30ヌクレオチド長未満、通常は19〜24ヌクレオチド長であり、かつ前記dsRNAは前記HPV標的遺伝子を発現している細胞と接触すると、前記HPV標的遺伝子の発現を少なくとも10%、25%または40%阻害する、dsRNA分子を提供する。
【0061】
このdsRNAは、ハイブリダイズして二本鎖構造を形成するのに十分に相補的である2本のRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、HPV標的遺伝子の発現の際に形成されるmRNAの配列に由来する標的配列と実質的に相補的であり、通常完全に相補的である相補性領域を含み、他方の鎖(センス鎖)は、アンチセンス鎖と相補的な領域を含むため、好適な条件下で組み合わせられたとき、2本の鎖がハイブリダイズし、二本鎖構造を形成する。二本鎖構造は、一般的には15〜30塩基対長、より一般的には18〜25塩基対長、なおより一般的には19〜24塩基対長、最も一般的には19〜21塩基対長である。同様に、標的配列の相補性領域は、15〜30ヌクレオチド長、より一般的には18〜25ヌクレオチド長、なおより一般的には19〜24ヌクレオチド長、最も一般的には19〜21ヌクレオチド長である。本発明のdsRNAは、1つまたは複数の一本鎖ヌクレオチドオーバーハング(単数または複数)をさらに含んでもよい。このdsRNAは、以下でさらに考察される当該技術分野において公知の標準的な方法により、たとえば、Biosearch,Applied Biosystems,Inc.から市販されているような自動DNA合成機を用いて合成することができる。好ましい実施形態では、HPV標的遺伝子はヒトE6AP遺伝子である。特定の実施形態では、dsRNAのアンチセンス鎖は、表1のセンス配列から選択される鎖および表1のアンチセンス配列からなる群から選択される第2の配列を含む。表1に記載する標的配列内の他のところを標的とする別のアンチセンス薬については、標的配列およびE6APフランキング配列を用いて容易に決定することができる。
【0062】
さらなる実施形態では、このdsRNAは、表1に記載の配列の群から選択される少なくとも1個のヌクレオチド配列を含む。他の実施形態では、dsRNAは、この群から選択される少なくとも2個の配列を含み、少なくとも2個の配列の1個が少なくとも2個の配列のもう1個の配列と相補的であり、かつ少なくとも2個の配列の1個はE6AP遺伝子の発現の際に産生されるmRNAの配列と実質的に相補的である。dsRNAは通常、一方のオリゴヌクレオチドが表1にセンス鎖として記載され、他方のオリゴヌクレオチドが表1にアンチセンス鎖として記載される、2個のオリゴヌクレオチドを含む。表1は、好ましいdsRNAごとに二本鎖の名称および配列ID番号を示す。
【0063】
当業者であれば、20〜23塩基対、とりわけ21塩基対の二本鎖構造を含むdsRNAがRNA干渉の誘導に特に効果があるとして注目されていることをよく知っている(Elbashirら、、,EMBO 2001,20:6877−6888)。一方で、それより短いdsRNAも長いdsRNAも効果的である場合があることも分かっている。上述の実施形態では、表1に記載のオリゴヌクレオチド配列の性質により、本発明のdsRNAは長さが最低21ntの少なくとも1本の鎖を含んでもよい。表1の配列の1つから一方または両方の末端のヌクレオチドをわずか数個除いた配列を含む短いdsRNAも、上記のようなdsRNAと同様に効果的である場合があると予想することは合理的といえる。このため、表1の配列の1つの少なくとも15、16、17、18、19、20またはそれ以上の連続するヌクレオチドの部分配列を含み、かつFACSアッセイまたは本明細書で以下に記載する他のアッセイでHPV標的遺伝子の発現を阻害する能力の変化率が完全な配列を含むdsRNAと比べて5、10、15、20、25または30%以下であるdsRNAを、本発明は意図している。さらに、表1に記載の標的配列内で切断するdsRNAについては、参照配列および記載の標的配列を用いて容易に製造することができる。
【0064】
さらに、表1に記載のRNAi薬は、RNAiにより切断されやすい各HPV標的のmRNA内の部位も同定する。このため、本発明は、本発明の薬の1つが標的とする配列内で標的するRNAi薬をさらに含む。本明細書で使用する場合、第2のRNAi薬が第1のRNAi薬のアンチセンス鎖と相補的なmRNA内で任意のメッセージを切断する場合、第2のRNAi薬は第1のRNAi薬の配列内で標的するという。こうした第2の薬は通常、表1に記載の配列の1つの連続する少なくとも15個のヌクレオチドを、HPV標的遺伝子から選択した配列に連続する領域から抽出した新たなヌクレオチド配列と結合してなるものである。たとえば、配列番号1の最後の15ヌクレオチド(付加したAA配列を除く)を標的E6AP遺伝子の6ヌクレオチドの隣りに組み合わせて、表1に記載の配列の1つに基づく21ヌクレオチドの一本鎖薬を作製する。
【0065】
本発明のdsRNAは、標的配列に対して1つまたは複数のミスマッチを含んでもよい。好ましい実施形態では、本発明のdsRNAが含むミスマッチは3以下である。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対してミスマッチを含む場合、ミスマッチの領域が相補性領域の中央に位置していないことが好ましい。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対してミスマッチを含む場合、ミスマッチが、たとえば、相補性領域の5’あるいは3’末端から5ヌクレオチド、4ヌクレオチド、3ヌクレオチド、2ヌクレオチドまたは1ヌクレオチドなど、どちらの末端からも5ヌクレオチドまでに含まれることが好ましい。たとえば、HPV標的遺伝子の領域と相補的な23ヌクレオチドのdsRNA鎖の場合、dsRNAは通常、中央よりの13ヌクレオチド内にミスマッチをまったく含まない。標的配列に対してミスマッチを含むdsRNAがHPV標的遺伝子の発現の阻害に有効であるかどうかを判定するには、本発明内に記載する方法を用いてもよい。HPV標的遺伝子の発現の阻害においてミスマッチを含むdsRNAの有効性を考慮することは、HPV標的遺伝子の特定の相補性領域が、ウイルス(E1またはE6)あるいはヒト集団(E6AP)において多型性配列変異を含むことが分かっている場合に特に重要である。
【0066】
一実施形態では、dsRNAの少なくとも一方の末端には1〜4ヌクレオチド、通常は1または2ヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチドオーバーハングがある。少なくとも1つのヌクレオチドオーバーハングを含むdsRNAは、平滑末端のdsRNAよりも予想外に優れた阻害特性を持っている。さらに、本発明者らは、ヌクレオチドオーバーハングが1つだけ存在する場合、全体の安定性に影響を与えることなくdsRNAの干渉活性が増強されることも発見した。オーバーハングが1つだけのdsRNAは、インビボだけでなく種々の細胞、細胞培地、血液および血清で特に安定かつ有効であることが証明された。通常、一本鎖オーバーハングは、アンチセンス鎖の3末端、あるいは、センス鎖の3’末端に位置する。また、本dsRNAは平滑末端を含んでもよく、通常はアンチセンス鎖の5’末端に位置する。こうしたdsRNAは安定性および阻害活性が向上しているため、少量の投薬量、すなわち、5mg/kg被投与者体重未満での投与が可能になる。通常、dsRNAのアンチセンス鎖は、3’末端にヌクレオチドオーバーハングがあり、5’末端は、平滑末端である。別の実施形態では、オーバーハングの1つまたは複数のヌクレオチドは、ヌクレオシドチオホスファートで置き換えられている。
【0067】
なお別の実施形態では、dsRNAを化学修飾して安定性を高める。本発明の核酸については、参照によって本明細書に援用する「Current protocols in nucleic acid chemistry」,Beaucage,S.L.ら、(Edrs.),John Wiley & Sons,Inc.,New York,NY,USAに記載されているような当該技術分野で十分に確立している方法により合成および/または修飾してもよい。化学修飾としては、2’修飾、オリゴヌクレオチドの糖または塩基の他の部位での修飾、オリゴヌクレオチド鎖(chain)への非天然塩基の導入、リガンドまたは化学部分への共有結合およびヌクレオチド間のホスファート結合からチオホスファートなどの別の結合への置換が挙げられるが、これに限定されるものではない。こうした修飾を複数用いても構わない。
【0068】
2本のdsRNA鎖は、たとえば、共有結合、イオン結合または水素結合の導入;疎水性相互作用、ファンデルワールスまたはスタッキング相互作用;金属イオンの配位またはプリンアナログの使用によるなど、種々のよく知られた技法により化学的に結合させることができる。一般に、dsRNAの修飾に使用できる化学基として、以下に限定されるものではないが、メチレンブルー;二官能基、通常はビス−(2−クロロエチル)アミン;N−アセチル−N’−(p−グリオキシルベンゾイル)シスタミン;4−チオウラシル;およびソラレンが挙げられる。一実施形態では、リンカーはヘキサ−エチレングリコールリンカーである。この場合、固相合成によりdsRNAを作製し、標準的な方法に従いヘキサ−エチレングリコールリンカーを導入する(たとえば、Williams,D.J.,and K.B.Hall,Biochem.(1996)35:14665−14670を参照)。特定の実施形態では、アンチセンス鎖の5’末端およびセンス鎖の3’末端を、ヘキサエチレングリコールリンカーを介して化学的に結合させる。別の実施形態では、dsRNAの少なくとも1個のヌクレオチドは、ホスホロチオアートまたはホスホロジチオアート基を含む。dsRNAの末端の化学結合は通常、三重らせん結合により形成される。表1は、本発明の修飾RNAi薬の例を示す。
【0069】
なお別の実施形態では、2本の単鎖の一方または両方のヌクレオチドを修飾して、たとえば、以下に限定されるものではないが、ある種のヌクレアーゼなどの細胞酵素の分解活性を予防または阻害してもよい。核酸に対する細胞酵素の分解活性を阻害する技法は、当該技術分野において公知であり、2’−アミノ修飾、2’−アミノ糖修飾、2’−F糖修飾、2’−F修飾、2’−アルキル糖修飾、非電荷の骨格修飾、モルホリノ修飾、2’−O−メチル修飾およびホスホルアミダートがあるが、これに限定されるものではない(たとえば、Wagner,Nat.Med.(1995)1:1116−8を参照されたい)。したがって、dsRNAのヌクレオチドの少なくとも1つの2’−ヒドロキシル基は、化学基、通常は2’−アミノまたは2’−メチル基により置き換えられている。また、少なくとも1個のヌクレオチドを修飾してロックドヌクレオチドを形成してもよい。こうしたロックドヌクレオチドは、リボースの2’−酸素とリボースの4’−炭素とを連結するメチレン架橋を含む。ロックドヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドについては、Koshkin,A.A.,ら、,Tetrahedron(1998),54:3607−3630)and Obika,S.ら、,Tetrahedron Lett.(1998),39:5401−5404)に記載されている。ロックドヌクレオチドをオリゴヌクレオチドに導入すると、相補配列に対する親和性が向上し、融解温度が数度上昇する(Braasch,D.A.and D.R.Corey,Chem.Biol.(2001),8:1−7)。
【0070】
リガンドをdsRNAにコンジュゲートすると、細胞吸収のほか、特定組織への標的化または膣上皮などの特異的な細胞型による取り込みを高めることができる。場合によっては、疎水性リガンドをdsRNAにコンジュゲートして細胞膜の直接浸透を促進する。あるいは、dsRNAにコンジュゲートするリガンドは、受容体介在性エンドサイトーシスの基質である。こうしたアプローチは、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびdsRNA薬の細胞透過を促進するために使用されている。たとえば、コレステロールは、様々なアンチセンスオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされており、非コンジュゲートアナログと比較して化合物の活性が実質的に高まる。M.Manoharan Antisense & Nucleic Acid Drug Development 2002,12,103を参照されたい。オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされてきた他の親油性化合物として、1−ピレン酪酸、1,3−ビス−O−(ヘキサデシル)グリセロールおよびメントールが挙げられる。受容体介在性エンドサイトーシスのためのリガンドの一例として葉酸がある。葉酸は、ホラート受容体介在性エンドサイトーシスにより細胞に入る。葉酸を含むdsRNA化合物であれば、ホラート受容体介在性エンドサイトーシスを介して効率的に細胞に輸送されると考えられる。Liおよび共同研究者は、オリゴヌクレオチドの3’終端に葉酸が結合すると、オリゴヌクレオチドの細胞取り込みが8倍増加することを報告している。Li,S.;Deshmukh,H.M.;Huang,L.Pharm.Res.1998,75,1540を参照されたい。オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされている他のリガンドには、ポリエチレングリコール、糖質クラスター、架橋剤、ポルフィリンコンジュゲートおよび送達ペプチドがある。
【0071】
オリゴヌクレオチドにカチオン性リガンドをコンジュゲートすると、ヌクレアーゼに対する耐性が高まる場合がある。カチオン性リガンドの代表的な例として、プロピルアンモニウムおよびジメチルプロピルアンモニウムが挙げられる。興味深いことに、カチオン性リガンドをオリゴヌクレオチド全体に分散させると、アンチセンスオリゴヌクレオチドがmRNAに対して高い結合親和性を保持すること報告された。M.Manoharan Antisense & Nucleic Acid Drug Development 2002,12,103およびその参考文献を参照されたい。
【0072】
本発明のリガンドコンジュゲートdsRNAは、dsRNAに対する連結分子の結合から得られるように、ペンダント反応性官能基を含むdsRNAを用いて合成できる。この反応性オリゴヌクレオチドについては、種々の保護基のいずれかを含む合成リガンドまたは連結部分を持つリガンドなど、市販のリガンドと直接反応させてもよい。本発明の方法を用いれば、リガンドコンジュゲートdsRNAを合成しやすくなる。その際、いくつかの好ましい実施形態では、リガンドに適切にコンジュゲートされていて、固体支持体材料にさらに結合できるヌクレオシドモノマーを用いる。この任意に固体支持体材料に結合したリガンド−ヌクレオシドコンジュゲートについては、選択した血清結合リガンドとヌクレオシドまたはオリゴヌクレオチドの5’位に位置する連結部分との反応を介して、本発明の方法のいくつかのましい実施形態に従い調製する。場合によっては、dsRNAの3’終端に結合したアラルキルリガンドを含むdsRNAを調製するには、最初に長鎖(chain)アミノアルキル基を介してモノマー構成要素をコントロールドポアガラス支持体に共有結合させる。次いで標準的な固相合成法により、ヌクレオチドを、固体支持体に結合したモノマー構成要素に結合させる。モノマー構成要素はヌクレオシドでも、固相合成と相性がよい他の有機化合物でもよい。
【0073】
本発明のコンジュゲートに使用するdsRNAは、よく知られた固相合成法により手軽に日常的に作製することができる。その合成用の機器は、たとえば、Applied Biosystems(Foster City,CA)など、複数のベンダーから販売されている。これに加えて、あるいはその代わりに、当該技術分野において公知の任意の他の合成手段を用いてもよい。ホスホロチオアートおよびアルキル化誘導体などの他のオリゴヌクレオチドを調製する類似の技法も知られている。
【0074】
個々の修飾オリゴヌクレオチドの合成に関する教示は、以下の米国特許:ポリアミンコンジュゲートオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,138,045号および同第5,218,105号;キラルリン結合を持つオリゴヌクレオチドを調製するためのモノマーに注目した米国特許第5,212,295号;修飾骨格を持つオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,378,825号および同第5,541,307号;骨格修飾オリゴヌクレオチドおよび還元的カップリングによりその調製に注目した米国特許第5,386,023号;3−デアザプリン環系に基づく修飾核酸塩基およびその合成方法に注目した米国特許第5,457,191号;N−2置換プリンに基づく修飾核酸塩基に注目した米国特許第5,459,255号;キラルリン結合を持つオリゴヌクレオチドを調製するプロセスに注目した米国特許第5,521,302号;ペプチド核酸に注目した米国特許第5,539,082号;β−ラクタム骨格を持つオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,554,746号;オリゴヌクレオチド合成のための方法および材料に注目した米国特許第5,571,902号;ヌクレオシドの様々な位置のいずれかに結合した、他の部分に対するリンカーとして使用できるアルキルチオ基を持つヌクレオシドに注目した米国特許第5,578,718号;キラル純度の高いホスホロチオアート結合を持つオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,587,361号および同第5,599,797号;2’−O−アルキルグアノシンおよび2,6−ジアミノプリン化合物などの関連化合物を調製するプロセスに注目した米国特許第5,506,351号;N−2置換プリンを持つオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,587,469号;3−デアザプリンを持つオリゴヌクレオチドに注目した米国特許第5,587,470号;どちらもコンジュゲート4’−デスメチルヌクレオシドアナログに注目した米国特許第5,223,168号および米国特許第5,608,046号;骨格修飾オリゴヌクレオチドアナログに注目した米国特許第5,602,240号および同第5,610,289号;2’−フルオロ−オリゴヌクレオチドの合成方法に特に注目した米国特許第6,262,241号および同第5,459,255号で確認することができる。
【0075】
本発明の配列特異的結合ヌクレオシドを含むリガンドコンジュゲートdsRNAおよびリガンド分子では、オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオシドを、標準的なヌクレオチド前駆体もしくはヌクレオシド前駆体または結合部分をすでに含んでいるヌクレオチドコンジュゲート前駆体もしくはヌクレオシドコンジュゲート前駆体、リガンド分子をすでに含んでいるリガンドヌクレオチドコンジュゲート前駆体もしくはヌクレオシドコンジュゲート前駆体、または非ヌクレオシドのリガンド含有構成要素を用いて好適なDNA合成機により構築できる。
【0076】
結合部分をすでに含むヌクレオチドコンジュゲート前駆体を使用する場合、一般に配列特異的結合ヌクレオシドを合成しておき、次いで結合部分とリガンド分子を反応させ、リガンドコンジュゲートオリゴヌクレオチドを形成する。ステロイド、ビタミン、脂質およびレポーター分子などの種々の分子を含むオリゴヌクレオチドコンジュゲートについては、以前に記載されている(Manoharanら、、,国際公開第93/07883号を参照されたい)。好ましい実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドまたは結合ヌクレオシドを、リガンドヌクレオシドコンジュゲートから得られたホスホラミダイトに加えて、標準的なホスホラミダイトおよび市販されていてオリゴヌクレオチド合成で日常的に使用される非標準のホスホラミダイトを用いて自動合成機により合成する。
【0077】
2’−O−メチル基、2’−O−エチル基、2’−O−プロピル基、2’−O−アリル基、2’−O−アミノアルキル基または2’−デオキシ−2’−フルオロ基をオリゴヌクレオチドのヌクレオシドに導入すると、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性が向上する。さらに、ホスホロチオアート骨格を含むオリゴヌクレオチドでは、ヌクレアーゼ安定性が高まる。このため、ホスホロチオアート骨格または2’−O−メチル基、2’−O−エチル基、2’−O−プロピル基、2’−O−アミノアルキル基、2’−O−アリル基もしく2’−デオキシ−2’−フルオロ基のいずれか、あるいはその両方を含ませて、本発明の機能性結合ヌクレオシドを強化することができる。当該技術分野において公知のオリゴヌクレオチド修飾に関する概要リストについては、たとえば、国際公開第200370918号に一部掲載されている。
【0078】
いくつかの実施形態では、DNA合成機を用いて、5’終端にアミノ基を持つ本発明の機能性ヌクレオシド配列を調製し、次いで選択したリガンドの活性エステル誘導体と反応させる。活性エステル誘導体は、当業者によく知られている。代表的な活性エステルとして、N−ヒドロスクシンイミドエステル、テトラフルオロフェノールエステル、ペンタフルオロフェノールエステルおよびペンタクロロフェノールエステルが挙げられる。アミノ基と活性エステルとの反応により、結合基を介して選択したリガンドが5’位に結合したオリゴヌクレオチドが生成される。5’終端のアミノ基は、5’−Amino−Modifier C6試薬を用いて調製することができる。一実施形態では、リガンドヌクレオシドホスホラミダイトを用いて、リガンド分子を5’位でオリゴヌクレオチドにコンジュゲートしてもよい。その際、リガンドは、直接的に、あるいは、リンカーを介して間接的に5’ヒドロキシ基に結合する。自動合成手順の最後でこうしたリガンドヌクレオシドホスホラミダイトを用いて、5’終端にリガンドを含むリガンドコンジュゲートオリゴヌクレオチドを得るのが一般的である。
【0079】
修飾ヌクレオシド間結合または骨格の例として、たとえば、ホスホロチオアート、キラルホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’−アルキレンホスホナートおよびキラルホスホナートなどのメチルおよび他のアルキルホスホナート、ホスフィナート、3’−アミノホスホルアミダートおよびアミノアルキルホスホルアミダートなどのホスホルアミダート、チオノホスホルアミダート、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステルおよび通常の3’−5’結合を持つボラノホスファート、これらの2’−5’結合アナログならびにヌクレオシド単位の隣接対が3’−5から5’−3’または2’−5’から5’−2’に結合している逆極性を持つアナログが挙げられる。さらに、様々な塩形、混合塩形および遊離酸形も含まれる。
【0080】
上記のリン原子含有結合体の調製に関する代表的な米国特許には、各々を参照によって本明細書に援用する米国特許第3,687,808号;同第4,469,863号;同第4,476,301号;同第5,023,243号;同第5,177,196号;同第5,188,897号;同第5,264,423号;同第5,276,019号;同第5,278,302号;同第5,286,717号;同第5,321,131号;同第5,399,676号;同第5,405,939号;同第5,453,496号;同第5,455,233号;同第5,466,677号;同第5,476,925号;同第5,519,126号;同第5,536,821号;同第5,541,306号;同第5,550,111号;同第5,563,253号;同第5,571,799号;同第5,587,361号;同第5,625,050号;および同第5,697,248号があるが、これに限定されるものではない。
【0081】
リン原子を含まない修飾ヌクレオシド間結合または骨格(すなわち、オリゴヌクレオシド)の例は、短鎖(chain)アルキルもしくはシクロアルキルの糖間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルの糖間結合または1個もしくは複数個の短鎖(chain)ヘテロ原子または複素環の糖間結合により形成される骨格を持っている。こうした骨格として、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される)を含む骨格;シロキサン骨格;硫化物骨格、スルホキシド骨格およびスルホン骨格;ホルムアセチル骨格およびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチル骨格およびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファマート骨格;メチレンイミノ骨格およびメチレンヒドラジノ骨格;スルホナート骨格およびスルホンアミド骨格;アミド骨格ならびに混合N、O、SおよびCH構成部分を持つ前述以外の骨格が挙げられる。
【0082】
上記のオリゴヌクレオシドの調製に関する代表的な米国特許として、各々を参照によって本明細書に援用する米国特許第5,034,506号;同第5,166,315号;同第5,185,444号;同第5,214,134号;同第5,216,141号;同第5,235,033号;同第5,264,562号;同第5,264,564号;同第5,405,938号;同第5,434,257号;同第5,466,677号;同第5,470,967号;同第5,489,677号;同第5,541,307号;同第5,561,225号;同第5,596,086号;同第5,602,240号;同第5,610,289号;同第5,602,240号;同第5,608,046号;同第5,610,289号;同第5,618,704号;同第5,623,070号;同第5,663,312号;同第5,633,360号;同第5,677,437号;および同第5,677,439号があるが、これに限定されるものではない。
【0083】
場合によっては、オリゴヌクレオチドを非リガンド基で修飾してもよい。オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布または細胞取り込みを高めるため、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされている非リガンド分子は多くあり、そうしたコンジュゲーションを行う手順は科学文献に示されている。このような非リガンド部分として、コレステロールなどの脂質部分(Letsingerら、、,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86:6553)、コール酸(Manoharanら、、,Bioorg.Med.Chem.Lett.,1994,4:1053)、チオエーテル、たとえば、ヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharanら、、,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1992,660:306;Manoharanら、、,Bioorg.Med.Chem.Let.,1993,3:2765)、チオコレステロール(Oberhauserら、、,Nucl.Acids Res.,1992,20:533)、脂肪族鎖(chain)、たとえば、ドデカンジオールまたはウンデシル残基(Saison−Behmoarasら、、,EMBO J.,1991,10:11 1;Kabanovら、、,FEBS Lett.,1990,259:327;Svinarchukら、、,Biochimie,1993,75:49)、リン脂質、たとえば、ジ−ヘキサデシル−rac−グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホナート(Manoharanら、、,Tetrahedron Lett.,1995,36:3651;Sheaら、、,Nucl.Acids Res.,1990,18:3777)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(chain)(Manoharanら、、,Nucleosides & Nucleotides,1995,14:969)またはアダマンタン酢酸(Manoharanら、、,Tetrahedron Lett.,1995,36:3651)、パルミチル部分(Mishraら、、,Biochem.Biophys.Acta,1995,1264:229)またはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分(Crookeら、、,J.Pharmacol.Exp.Ther.,1996,277:923)が挙げられる。こうしたオリゴヌクレオチドコンジュゲートの調製を教示する代表的な米国特許は上述した。典型的なコンジュゲーションプロトコルでは、配列の1つまたは複数の位置にアミノリンカーを含むオリゴヌクレオチドの合成を行う。次いでこのアミノ基をコンジュゲーション対象の分子と、適当なカップリング試薬または活性化試薬を用いて反応させる。コンジュゲーション反応に関しては、固体支持体に結合したままのオリゴヌクレオチドで行っても、オリゴヌクレオチドを溶液相で切断してから行ってもよい。一般に、HPLCによりオリゴヌクレオチドコンジュゲートを精製すると、純粋なコンジュゲートが得られる。コレステロールコンジュゲートを用いると、HPV感染の部位である膣上皮細胞の標的化が高まる場合があるため、特に好ましい。
【0084】
本開示では、HPV標的遺伝子をサイレンシングするため、HPV関連障害の処置に有用なdsRNAの種々の実施形態が記載されている。個々の治療薬の設計は様々な形をとる場合があるが、何らかの機能上の特徴により好ましいdsRNAとそうでないdsRNAとに分けられる。特に、良好な血清安定性、高度の活性、免疫応答のないこと、および優れた薬剤に似た挙動など、当業者により測定可能なあらゆる特徴を検査して、本発明の好ましいdsRNAを同定する。状況によっては、好ましいdsRNAにこうした機能的側面がすべて含まれているとは限らない。しかし、当業者であれば、こうした評価項目などを最適化し、本発明の好ましい化合物を選択することができる。
【0085】
ヌクレオチドには多くの修飾が可能であるが、本発明者らは、薬理学的有益性、免疫学的な有益性および最終的な治療上の有益性を著しく高める化学修飾のパターンを特定した。表3は、表1に記載の本発明の二本鎖dsRNAに使用できる好ましい化学修飾のパターンを示す。
【0086】
【表3−1】

【0087】
【表3−2】

RNAi薬をコードするベクター
また、本発明のdsRNAは、インビボで細胞内の組換えウイルスベクターから発現させてもよい。本発明の組換えウイルスベクターは、本発明のdsRNAをコードする配列およびdsRNA配列を発現する好適な任意のプロモーターを含む。好適なプロモーターとして、たとえば、U6またはH1 RNApol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。これ以外の好適なプロモーターに何を選択するかは、当該技術分野の技術の範囲内にある。また、本発明の組換えウイルスベクターは、特定の組織または特定の細胞内環境でdsRNAを発現させるための誘導性プロモーターまたは調節可能なプロモーターをさらに含んでもよい。インビボで本発明のdsRNAを細胞へ送達する組換えウイルスベクターの使用については、以下に詳細に考察されている。
【0088】
本発明のdsRNAは、組換えウイルスベクターから別々の2個の相補的RNA分子として発現させても、2つの相補的領域を含む1個のRNA分子として発現させてもよい。
【0089】
発現対象のdsRNA分子(単数または複数)のコード配列を組み込めるのであればどのウイルスベクターを用いてもよく、たとえば、アデノウイルス(AV:adenovirus);アデノ随伴ウイルス(AAV:adeno−associated virus);レトロウイルス(レンチウイルス(LV:lentivirus)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルスなど);疱疹ウイルスおよび同種のもの由来のベクターがある。ウイルスベクターのトロピズムについては、必要に応じてエンベロープタンパク質または他のウイルスの別の表面抗原でベクターをシュードタイプ化するか、または様々なウイルスカプシドタンパク質を置換して改変することができる。
【0090】
たとえば、本発明のレンチウイルスベクターを、水疱性口内炎ウイルス(VSV:vesicular stomatitis virus)、狂犬病、エボラ、モコラおよび同種のものの表面タンパク質でシュードタイプ化することができる。本発明のAAVベクターは、ベクターを操作してカプシドタンパク質の異なる血清型を発現させて様々な細胞を標的とするように作製してもよい。たとえば、血清型2ゲノム上に血清型2カプシドを発現するAAVベクターをAAV2/2と呼ぶが、AAV2/2ベクターのこの血清型2カプシド遺伝子を血清型5カプシド遺伝子で置き換えてAAV2/5ベクターを製造してもよい。カプシドタンパク質の様々な血清型を発現するAAVベクターを構築する技法は、当該技術分野の技術の範囲内にある。たとえば、その開示全体を参照によって本明細書に援用するRabinowitz J Eら、、(2002),J Virol 76:791−801を参照されたい。
【0091】
本発明で使用するのに好適な組換えウイルスベクターの選択、dsRNAをベクターに発現させるための核酸配列の挿入方法およびウイルスベクターを目的の細胞に送達する方法は、当該技術分野の技術の範囲内にある。たとえば、その開示全体を参照によって本明細書に援用するDornburg R(1995),Gene Therap.2:301−310;Eglitis M A(1988),Biotechniques 6:608−614;Miller A D(1990),Hum Gene Therap.1:5−14;Anderson W F(1998),Nature 392:25−30;and Rubinson D Aら、、,Nat.Genet.33:401−406を参照されたい。
【0092】
好ましいウイルスベクターは、AVおよびAAV由来のベクターである。特に好ましい実施形態では、たとえば、U6もしくはH1RNAプロモーターあるいはサイトメガロウイルス(CMV:cytomegalovirus)プロモーターのどちからかを含む組換えAAVベクターから本発明のdsRNAを相補的な別々の2個の一本鎖RNA分子として発現させる。
【0093】
本発明のdsRNAを発現する好適なAVベクター、組換えAVベクターの構築方法およびベクターを標的細胞に送達する方法は、Xia Hら、、(2002),Nat.Biotech.20:1006−1010に記載されている。
【0094】
本発明のdsRNAを発現する好適なAAVベクター、組換えAVベクターの構築方法およびベクターを標的細胞に送達する方法は、その開示全体を参照によって本明細書に援用するSamulski Rら、、(1987),J.Virol.61:3096−3101;Fisher K Jら、、(1996),J.Virol,70:520−532;Samulski Rら、、(1989),J.Virol.63:3822−3826;米国特許同第5,252,479号;米国特許第5,139,941号;国際公開第94/13788号;および国際公開第93/24641号に記載されている。
【0095】
III.dsRNAを含む医薬組成物
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載するようなdsRNAおよび薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物を提供する。dsRNAを含む医薬組成物は、HPV感染により媒介される病理学的過程など、HPV標的遺伝子の発現または活性に関連する疾患または障害の処置に有用である。こうした医薬組成物は、送達モードを踏まえて製剤化される。たとえば、組成物を頸部の局所投与用に製剤化したり、非経口送達による全身投与用に製剤化したりする。
【0096】
本発明の医薬組成物は、HPV標的遺伝子の発現を阻害する十分な投薬量で投与する。本発明者らは、その効率を高めることで、本発明のdsRNAを含む組成物を驚くほど少量の投薬量で投与できることを明らかにした。HPV標的遺伝子の発現を阻害または抑制するには、1日に被投与者体重1キログラム当たりdsRNA5mgの投薬量で十分であり、疣贅または子宮頸部または肛門の処置の場合、感染組織に直接塗布しても構わない。
【0097】
一般にdsRNAの1日の好適な用量は、被投与者の体重1キログラム当たり0.01〜5.0ミリグラムの範囲であり、通常は体重1キログラム当たり1マイクログラム〜1mgの範囲である。本医薬組成物は1日1回の投与でもよいし、あるいはこのdsRNAは、適当な間隔をとってその日のうちに2回、3回またはそれ以上の分割用量で、さらには持続注入または膣ゲルの放出制御製剤による送達を用いて投与してもよい。その場合、各分割用量に含まれるdsRNAは、分割数が増えるにつれて少なくする必要がある。たとえば、dsRNAを数日間にわたり徐放する従来の徐放性製剤を用いて、数日間送達できるように投薬量単位を配合してもよい。徐放性製剤は、当該技術分野において周知であり、特に本発明の薬と共に使用できるような薬の経膣送達に有用である。この実施形態では、投薬量単位の1日用量は、徐放性に応じて様々になる。
【0098】
当業者であれば、以下に限定されるものではないが、疾患または障害の重症度、これまでの処置、被検体の全体的な健康状態および/または年齢および他の疾患の存在など、何らかの要因により被検体の効果的な処置に必要な投薬量およびタイミングが影響を受ける場合があることを理解するであろう。さらに、治療有効量の組成物による被検体の処置は、1回の処置の場合もあれば、何度かの処置になる場合もある。本発明により包含される個々のdsRNAの効果的投薬量およびインビボでの半減期については、従来の手法を用いて、あるいは、本明細書の別の箇所で記載するように適当な動物モデルを用いたインビボ試験に基づき推計することができる。
【0099】
発明者らは、HPV遺伝子型の多様性など様々な理由から、本発明の複数種のdsRNAを同時に用いてHPV感染を処置することが望ましいであろうと考える。実施形態の1つでは、dsRNAの混合物の複雑度を最小限に抑えながら最も多くのHPV遺伝子型が標的となるようにdsRNAの組み合わせを選択する。複数タイプのdsRNAを含む本発明の医薬組成物は、本明細書に記載するような各投薬量のdsRNAを含むことが予想される。
【0100】
dsRNAの組み合わせについては、単一剤形の医薬組成物として一緒に提供してもよい。あるいは、別々の剤形としてdsRNAの組み合わせを提供してもよく、この場合、その組み合わせを同時に投与してもよいし、異なる時間に場合によっては別の手段で投与しても構わない。このため、本発明は、本発明のdsRNAの所望の組み合わせを含む医薬組成物を意図しているほか、併用レジメンの一部として提供されることを目的とした単一のdsRNA医薬組成物も意図している。したがって、後者の場合の併用療法剤の発明は、組成物そのものではなく、投与方法になる。
【0101】
マウス遺伝学の進歩により、HPV感染により媒介される病理学的過程など、様々なヒト疾患の研究用に多くのマウスモデルが作製されるようになった。こうしたモデルを用いてdsRNAのインビボ検査ばかりでなく、治療有効用量の判定が行われている。
【0102】
本発明のdsRNAをHPVに感染した細胞を持つ哺乳動物に投与するには任意の方法を用いてよい。たとえば、投与は、局所(たとえば、経膣、経皮など)投与;経口投与;または非経口(たとえば、皮下、脳室内、筋肉内または腹腔内注射または点滴静注)投与であってもよい。投与は、急速投与(たとえば、注射)でもよいし、一定の期間続いても構わない(たとえば、持続注入または持続放出製剤の投与)。
【0103】
一般に、HPVに感染した細胞を持つ哺乳動物を処置する場合、膣ゲルまたはクリームでdsRNA分子を局所投与する。たとえば、リポソームを使用してあるいは使用せずに製剤化したdsRNAを、頸部、肛門管または性器疣贅などのHPV病変部に局所塗布してもよい。局所投与では、無菌および非無菌水溶液、アルコール類などの一般的な溶媒に溶かした非水溶液または液体もしくは固体油基剤中の溶液などの組成物としてdsRNA分子を製剤化してもよい。こうした溶液は、緩衝液、希釈液および他の好適な添加剤をさらに含んでも構わない。局所投与用の組成物については、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、噴霧剤、液剤および散剤の形態で製剤化することもできる。当該技術分野において公知のポリマーおよび透過剤を用いて、ゲルおよびクリームを製剤化してもよい。子宮頸部キャップ、ペッサリー、コーティングコンドーム、グローブおよび同種のものを用いて、dsRNAおよび関連する賦形剤を含むゲルまたはクリームを頸部に塗布してもよい。従来の薬学的キャリア、水性基剤、粉末基剤、油性基剤、増粘剤および同種のものを加えても構わない。
【0104】
非経口投与、髄膜内投与または脳室内投与の場合、無菌水溶液などの組成物としてdsRNA分子を製剤化することができ、組成物は緩衝液、希釈液および他の好適な添加剤(たとえば、浸透促進剤、キャリア化合物および他の薬学的に許容されるキャリア)をさらに含んでもよい。
【0105】
さらに、たとえば、米国特許第6,271,359号に記載されているような生物学的または非生物学的手段などの非ウイルス方法を用いて、HPV感染細胞を持つ哺乳動物にdsRNA分子を投与することもできる。非生物学的送達は、以下に限定されるものではないが、(1)本明細書に記載のdsRNA酸分子のリポソームへの導入および(2)dsRNA分子と脂質またはリポソームとの複合体形成による核酸脂質複合体または核酸リポソーム複合体の形成など、様々な方法により行うことができる。リポソームは、インビトロでの細胞のトランスフェクションに一般に使用されるカチオン性脂質および中性脂質で構成されていてもよい。カチオン性脂質は、負に荷電した核酸と複合体を形成(たとえば、電荷による会合)してリポソームを形成することができる。カチオン性リポソームの例として、リポフェクチン、リポフェクタミン、リポフェクタク、DOTAP(1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン)、DOTMA(N−[1,2(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド)、DOSPA(2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−デイメチル−1−プロパンアミニウム)、DOGS(ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン)およびDC−chol(3,[N−N’,N−ジメチルエチレンジアミン)−カルバモイル]コレステロール)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0106】
リポソームの形成手順は当該技術分野において周知である。リポソーム組成物は、たとえば、ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルグリセロールまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンから形成することができる。リポフェクチン(登録商標)(Invitrogen/Life Technologies,Carlsbad,Calif.)およびEffectene(商標)(Qiagen,Valencia,Calif.)など、数多くの親油性薬が市販されている。さらに、DDABまたはDOTAPなどの市販されているカチオン性脂質を用いて、全身送達法を最適化することもできる。カチオン性脂質はそれぞれDOPEまたはコレステロールのような中性脂質と混合してもよい。場合によっては、Templetonら、、(Nature Biotechnology,15:647−652(1997))に記載されているようなリポソームを使用してもよい。他の実施形態では、ポリエチレンイミンなどのポリカチオンを用いてインビボおよびエキソビボ送達を行うこともできる(Bolettaら、、,J.Am Soc.Nephrol.7:1728(1996))。核酸を送達するためのリポソームの使用に関する追加情報については、米国特許第6,271,359号、国際公開第96/40964号およびMorrissey,D.ら、2005.Nat Biotechnol.23(8):1002−7で確認することができる。
【0107】
HPV感染細胞を持つ哺乳動物にdsRNA分子を投与するこれ以外の非ウイルス方法として、(リプソームに加えて)リポプレックスおよびナノエマルジョンなどのカチオン性脂質ベースの送達系が挙げられる。さらに、以下に限定されるものではないが、キトサン、ポリ(L−リジン)(PLL:poly(L−lysine))、ポリエチレンイミン(PEI:polyethylenimine)、デンドリマー(たとえば、ポリアミドアミン(PANAM:polyamidoamine)デンドリマー)およびポロキサミンなどの縮合重合体送達系(すなわち、DNAポリマー複合体すなわち「ポリプレックス」)を用いてもよい。加えて、以下に限定されるものではないが、ポロキサマー、ゼラチン、PLGA(polylactic−co−glycolic acid:ポリ乳酸−コ−グリコール酸)、PVP(polyvinylpyrrolidone:ポリビニルピロリドン)およびPVA(polyvinyl alcohol:ポリビニルアルコール)などの非縮合重合体送達系を用いてもよい。
【0108】
上述の送達または投与法の手順は当該技術分野において周知である。たとえば、縮合重合体送達系は、アニオン性DNA分子との複合体形成により容易に利用できる。例として、ポリ(L−リジン)(PLL)は、負に荷電した細胞表面と相互作用する正に荷電した複合体を形成し、続いて急速にインターナリゼーションを受けることで機能する。
【0109】
生物学的送達は、以下に限定されるものではないが、ウイルスベクターの使用などの様々な方法により行うことができる。たとえば、ウイルスベクター(たとえば、アデノウイルスベクターおよびヘルペスウイルスベクター)を用いて、dsRNA分子を皮膚細胞および子宮頸部細胞に送達してもよい。標準的な分子生物学技法を用いれば、核酸を細胞に送達するために以前に開発された多種多様なウイルスベクターの1つに、本明細書に記載の1個または複数個のdsRNAを導入することができる。こうして得られたウイルスベクターを用いて、たとえば、感染により1個または複数個のdsRNAを細胞に送達できる。
【0110】
本発明のdsRNAについては、薬学的に許容されるキャリアまたは希釈液中で製剤化できる。「薬学的に許容されるキャリア」(本明細書では「賦形剤」ともいう)とは、薬学的に許容される溶媒、懸濁化剤または任意の他の薬理学的不活性なビヒクルである。薬学的に許容されるキャリアについては液体でも固体でもよく、所望のバルク特性、稠度特性のほか、適切な輸送特性および化学的特性が得られると考えられる投与形式に合わせて選択すればよい。典型的な薬学的に許容されるキャリアには、限定としてではなく例として、水;食塩水溶液;結合剤(たとえば、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(たとえば、ラクトースおよび他の糖、ゼラチンまたは硫酸カルシウム);潤滑剤(たとえば、デンプン、ポリエチレングリコールまたは酢酸ナトリウム);崩壊薬(たとえば、デンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);および湿潤剤(たとえば、ラウリル硫酸ナトリウム)がある。
【0111】
さらに、HPV標的遺伝子を標的とするdsRNAについては、他の分子、分子構造体または核酸の混合物と混合したり、封入したり、コンジュゲートしたり、あるいはその他の方法で結合したりしたdsRNAを含む組成物として製剤化してもよい。たとえば、E6AP遺伝子を標的とする1種または複数種のdsRNA薬を含む組成物は、抗炎症剤(たとえば、非ステロイド系抗炎症剤およびコルチコステロイド)および抗ウイルス剤(たとえば、リビビリン、ビダラビン、アシクロビルおよびガンシクロビル)などの他の治療薬を含んでも構わない。いくつかの実施形態では、組成物は、HPV標的遺伝子と相補的な配列を持つ1個または複数個のdsRNAを角質溶解薬と共に含んでもよい。角質溶解薬は、表皮の角質層を剥離または軟化する薬である。角質溶解薬の例として、サリチル酸があるが、これに限定されるものではない。これ以外の例は、米国特許第5,543,417号に記載されている。角質溶解薬を効果的な量で用いれば、たとえば、皮膚などの組織へのdsRNAの浸透を促進することができる。たとえば、角質溶解薬を一定の量で用いれば、性器疣贅に塗布したdsRNAを疣贅全体に浸透させることができる。
【0112】
こうした化合物の毒性および薬効については、細胞培養または実験動物を用いて、たとえば、LD50(集団の50%致死用量)およびED50(集団の50%治療有効用量)を測定する標準的な製剤手順で判定することができる。毒性作用と治療効果との用量比が治療係数であり、LD50/ED50比で表すことができる。治療係数が大きい化合物が好ましい化合物である。
【0113】
ヒトに使用する投薬量の範囲を求める(formulation)には、細胞培養アッセイおよび動物試験から得たデータを用いることができる。本発明の組成物の投薬量は通常、ほとんど毒性がないか、まったく毒性がないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量はこの範囲内で、使用する剤形および選択した投与経路によって変わる場合がある。本発明の方法に使用する任意の化合物の治療有効用量は、まず細胞培養アッセイから推計してもよい。細胞培養で判定されるようなIC50(すなわち、症状に対する最大作用の50%を害する被検化合物の濃度)を含む化合物、あるいは、適切な場合、標的配列のポリペプチド産物が、ある循環血漿中濃度範囲に達する(たとえば、そのポリペプチドの濃度が減少する)ように、動物モデルを用いてを求めてもよい。こうした情報を用いれば、ヒトで有用な用量をより正確に判定することができる。血漿中レベルは、たとえば、高速液体クロマトグラフィーで測定してもよい。
【0114】
本発明のdsRNAは、上記で論じたように1個ずつまたは複数まとめて投与するばかりでなく、HPV感染により媒介される病理学的過程の処置に効果があることが分かっている他の薬と組み合わせて投与してもよい。いずれにしても、当該技術分野において公知であるか、本明細書に記載された有効性の標準的な指標を用いて観察された結果に基づき、管理医師はdsRNA投与の量およびタイミングを調整することができる。
【0115】
dsRNAの組み合わせについては、単独で有効なdsRNAを同定したのと同じ方法を用いてインビトロおよびインビボで検査することができる。こうした組み合わせは、最小数で最も広範な遺伝子型をカバーするsiRNAを選択する純粋な生物情報学を基礎にして選択してもよい。あるいは、こうした組み合わせを、単一のdsRNA薬に関する本明細書の記載に沿って、インビトロまたはインビボ評価に基づき選択してもよい。dsRNAの組み合わせを検査するのに好ましいアッセイは、HPV16陽性癌細胞株(たとえば、Hengstermannら、、(2005)Journal Vir.79(14):9296;and Butzら、、(2003)Oncogene 22:5938に記載のSiHaまたはCaskiなど)または、たとえば、Jeonら、、(1995)Journal Vir.69(5):2989に記載されているような器官型培養系を用いたsiRNAによるHPV標的のノックダウンの表現型を評価するものである。
【0116】
本発明者らは、HPV感染の処置に使用できるdsRNAの好ましい組み合わせをいくつか同定した。ごく一般的に言えば、dsRNAの組み合わせは、表1の中から選択される複数種のdsRNAを含む。よって、本発明は、併用療法剤中に表1の中から選択される2、3、4、5またはそれ以上のdsRNA二本鎖の使用を意図している。原則として、治療製品の簡便性のため、dsRNAは最小数にすることが好ましい。このため、有害な、あるいは潜在的に有害なHPV遺伝子型の最大数をカバーするdsRNAを選択しても、実際には、そうしたHPV遺伝子型をすべてカバーするとは限らない組み合わせを選択せざるを得ない場合もある。
【0117】
HPV感染により引き起こされる疾患を処置する方法
本明細書に記載の方法および組成物を用いて、臨床症状が見られるあるいは見られないパピローマウイルス感染が原因である可能性があり、ヒトパピローマウイルスにより引き起こされる疾患および症候を処置することができる。本明細書では、こうした疾患および症候を「HPV関連障害」または「HPV感染により媒介される病理学的過程」という場合があり、たとえば、上皮性悪性腫瘍、皮膚癌(非メラノーマ性またはメラノーマ性)、子宮頸癌などの肛門性器悪性腫瘍、HPV関連前癌病変(LSILまたはHSIL子宮頸部組織など)、肛門癌(carcinoma)、悪性病変、良性病変、乳頭癌腫、乳頭腺嚢腫、神経障害性乳頭腫、乳頭腫症、皮膚および粘膜乳頭腫、コンジローマ、線維芽細胞腫瘍ならびにパピローマウイルスに関連する他の病態が挙げられる。
【0118】
たとえば、本明細書に記載の組成物を用いて、HPVが引き起こす疣贅を処置することができる。こうした疣贅として、たとえば、手掌、足底および爪周囲疣贅などの普通の疣贅(尋常性疣贅);扁平および糸状疣贅;肛門、口頭、咽頭、喉頭および舌乳頭腫;およびHPV感染の最も重篤な所見の1つで、性器疣贅とも呼ばれる性病性疣贅(condyloma accuminata)(たとえば、陰茎、外陰、膣および子宮頸部疣贅)が挙げられる。HPVのDNAは子宮頸部上皮内腫瘍(CIN I〜III)のどの段階でも認められ得るが、子宮頸部上皮内癌ではHPV型の特定のサブセットが認められる場合がある。したがって、特定のHPV型を持つ性器疣贅の女性は、子宮頸癌を発症するリスクが高いと考えられる。
【0119】
パピローマウイルス感染に関連して最も多く見られる疾患は、良性皮膚疣贅または普通の疣贅である。普通の疣贅には通常、HPV1型、2型、3型、4型または10型が認められる。パピローマウイルスにより引き起こされる他の症候として、たとえば、喉頭の良性上皮性腫瘍である喉頭乳頭腫が挙げられる。喉頭乳頭腫に最も一般的に関連しているのは2つのパピローマウイルス型、HPV−6およびHPV−11である。本明細書に記載の組成物を用いてこうした疾患および症候を処置することができる。
【0120】
また、本明細書に記載の組成物は、赤みを帯びた小さな斑として現れる散在性の扁平疣贅を特徴とする稀な遺伝的疾患、疣贅状表皮発育異常症(EV:epidermodysplasia verruciformis)の処置に用いることもできる。
【0121】
さらに、本明細書に記載の組成物を用いて、HPVが病原体である細胞形質転換に起因する病変の処置、たとえば、子宮頸癌の処置を行うこともできる。
【0122】
さらに、本明細書に記載の組成物は、たとえば、陰茎、外陰、子宮頸部、膣 口頭、肛門および咽頭の異形性のようなHPVによる異形性の処置および、たとえば、陰茎、外陰、子宮頸部、膣、肛門、口頭、咽頭および頭頸部の癌のようなHPVによる癌の処置に用いることができる。
【0123】
本発明は、従来の任意の化学療法剤など他の抗癌化学療法剤と組み合わせて特定のdsRNAを含ませることにより実施してもよい。こうした他の薬と特異的な結合薬とを組み合わせれば、化学療法プロトコルが促進される場合がある。当業者であれば、本発明の方法に組み込むことができる数多くの化学療法プロトコルを思いつくであろう。アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモンおよびアンタゴニスト、放射性同位元素ならびに天然物など、どのような化学療法剤を用いてもよい。たとえば、本発明の化合物を、ドキソルビシンおよび他のアントラサイクリンアナログなどの抗生物質、シクロホスファミドなどのナイトロジェンマスタード、5−フルオロウラシルなどのピリミジンアナログ、シスプラチン、ヒドロキシ尿素、タキソールおよびその天然合成誘導体と合成誘導体ならびに同種のものと共に投与しても構わない。別の例として、腫瘍がゴナドトロピン依存性およびゴナドトロピン非依存性細胞を含む乳腺腺癌などの混合腫瘍の場合、ロイプロリドまたはゴセレリン(LH−RHの合成ペプチドアナログ)と共に本化合物を投与してもよい。他の抗腫瘍薬プロトコルとして、テトラサイクリン化合物と、たとえば、手術、放射線など他の処置方式との併用があり、本明細書ではこれを「補助的抗腫瘍薬方式」ともいう。このように、本発明の方法を前述のような従来のレジメンと併用すれば、副作用の低下および有効性の向上といった効果が得られる。
【0124】
あるいはまた、E6APを標的とするdsRNAを用いて、神経障害および行動障害を処置してもよい。E6APは、アンジェルマン症候群の患者でE6AP突然変異が同定されたことで神経障害および行動障害に関係していると言われている。アンジェルマン症候群(AS:Angelman syndrome)とは、精神遅滞、言語障害、過度の笑い、発作、運動失調および特有のEEGパターンを特徴とする、遺伝子刷り込みによる神経行動学的疾患である。(Hitchins,M.P.ら、2004.Am J Med Genet A.125(2):167−72。)こうした症候を挙げることが処置の目的ではないように思われる。それよりも、多くの遺伝的欠損で観察されるように、E6APが神経症候および行動症候において重要な役割を果たしているというこの知見から同時に示唆されるものは、この標的がヒトの病的変化において様々な役割を担っている可能性があり、このクラスの他の疾患の好適な標的となることが予想され、E6APのサイレンシングにより他の生化学的欠損または疾患が改善されるであろうということである。本明細書で使用する場合、「E6AP関連障害」は、上記のHPV関連障害ならびに他の神経障害および行動障害を含む。
【0125】
E6AP遺伝子の発現を阻害する方法
なお別の態様では、本発明は、哺乳動物のE6AP遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。この方法では、本発明の表1の組成物を哺乳動物に投与して標的E6AP遺伝子の発現をサイレンシングする。本発明のこのdsRNAは特異性が高いため、標的E6AP遺伝子のRNA(一次またはプロセシング後)を特異的に標的とする。こうしたdsRNAを用いてこのE6AP遺伝子の発現を阻害する組成物および方法は、本明細書の別の箇所で記載したように行うことができる。
【0126】
一実施形態では、本方法は、dsRNAを含有する組成物を投与することを含み、dsRNAは、処置対象の哺乳動物のE6AP遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部と相補的なヌクレオチド配列を含む。処置対象の生体がヒトなどの哺乳動物である場合、以下に限定されるものではないが、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経気道(エアロゾル)投与、経鼻投与、直腸投与、経膣投与および局所(頬粘膜および舌下など)投与のような経口または非経口経路など、当該技術分野において公知の任意の手段で組成物を投与してもよい。好ましい実施形態では、組成物を局所/膣内投与で投与するか、点滴静注または注射により投与する。
【0127】
他に定義しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。本発明の実施または試験には、本明細書の記載と類似または同等の方法および材料を用いてもよいが、好適な方法および材料は以下に記載する。本明細書に記載の刊行物、特許出願、特許および他の参考文献については、参照によってその全体を援用する。矛盾が生じた場合、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法および例は単に例示のためのものであり、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0128】
E6AP遺伝子の遺伝子歩行
ヒトユビキチンタンパク質リガーゼE3A(ube3A、E6APともいう)を標的とするsiRNAを同定するため、siRNAの設計を行った。異なるアイソフォームを示すE6APのヒトmRNA配列(NM_130838.1、NM_130839.1、NM_000462.2)を使用した。
【0129】
すべてのヒトE6APアイソフォームについてBioEditソフトウェアのClustalWマルチプルアライメント機能(Thompson J.D.,ら、,Nucleic Acids Res.1994,22:4673)を用いて、最小配列としてのmRNA配列NM_130838.1を同定し、さらに、すべてのE6APアイソフォームの効率的な標的化に必須となる参照配列の5〜4491位(末端位)の配列保存性を確認した。
【0130】
E6APの参照配列NM_130838.1中にあり重複すると推察される19mer(siRNAセンス鎖配列を示す)をすべて同定し、4473個の19mer候補配列を得た。こうした候補標的配列を合わせると、E6AP mRNAの5’UTRドメイン、コードドメインおよび3’UTRドメインならびにこれらのドメインの結合部位がカバーされる。
【0131】
候補のプールからsiRNAのランク付けおよび選択を行うため、無関係な標的と相互作用すると予想されるポテンシャル(標的外ポテンシャル)をランク付けのパラメーターとして用いた。標的外ポテンシャルが低いsiRNAを好ましいものと規定し、インビボでの特異性が高いと考えた。
【0132】
siRNAに特異的な標的外ポテンシャルの予測には、以下の仮説を設定した:
1)標的遺伝子から転写されるmRNAと、ある鎖(シード領域)との相互作用およびその後のダウンレギュレーションを行うには、その鎖の2〜9位(5’から3’にカウント)において標的遺伝子に対する相補性があれば十分である(Jackson AL,ら、Nat Biotechnol.2003 Jun;21(6):635−7)
2)各鎖の1位および19位は標的外相互作用に無関係である
3)シード領域は、それ以外の配列よりも標的外ポテンシャルに強く関与している可能性がある
4)ある鎖の切断部位領域の10位および11位(5’から3’にカウント)は、3’から切断部位への配列(非シード領域)よりも標的外ポテンシャルに強く関与する場合があるが、シード領域ほどではない
5)1〜4の仮説を考慮しながら、遺伝子配列に対するsiRNA鎖配列の相補性およびミスマッチの位置に基づき、遺伝子および鎖ごとに標的外スコアを算出することができる
6)内部修飾の導入によりセンス鎖の活性が抑制され得ることを想定すれば、関係するのはアンチセンス鎖の標的外ポテンシャルのみになる
7)我々の基準で最も高い相同性を示す遺伝子(最良の標的外遺伝子)からsiRNAの標的外ポテンシャルを推定できるため、このポテンシャルをその遺伝子の標的外スコアで表すことができる
潜在的な標的外遺伝子を同定するため、19merアンチセンス配列を、一般に入手可能なヒトmRNA配列に対して相同性検索に供した。このため、すべての19mer候補アンチセンス配列についてヒトRefSeqデータベースに対してFastA(バージョン3.4)検索を行った。候補の19mer配列からアンチセンス配列を作成するにはPerlスクリプトを用いた(perlスクリプト2)。FastA検索については、19merの全長にわたる相同性を考慮に入れ、次の工程でこのスクリプト解析に好適なアウトプットをフォーマットするため、パラメーター/対ペア値−g30−f30−L−i−Hを用いて実行した。検索の結果、候補siRNAの潜在的な標的外遺伝子のリストが得られた。
【0133】
さらに、完全な19mer長との相同性を示しつつ、FastAアウトプットファイルに転送される可能性が非常に高い、19merセンス鎖配列と同一の8個を超えて連続する核酸塩基のデータベースエントリーを作成するため、FastA検索をパラメーターの値をE15000として行った(仮説1を参照されたい)。
【0134】
最良の標的外遺伝子およびその標的外スコアを同定するため、FastAのアウトプットファイルを解析した。潜在的な標的外遺伝子それぞれについて、19merインプット配列ごとに以下の標的外特性を抽出した:
シード領域におけるミスマッチ数
非シード領域におけるミスマッチ数
切断部位領域におけるミスマッチ数
以下のように標的外遺伝子ごとに標的外スコアを算出した:
(シードのミスマッチ数に10を掛ける)+(切断部位のミスマッチ数に1.2を掛ける)+非シードのミスマッチ数
19merのインプット配列ごとに最低標的外スコアを抽出し、アウトプットファイルに連続的に書き込ませ、19merのインプット配列に対応するsiRNAすべてについて標的外スコアのリストを得た。
【0135】
siRNAのランキング表を作成するため、標的外スコアを結果表に記入した。最後に、すべてのsiRNAを標的外スコアに従い降順に並べ替え、連続して3個を超えるGのつながりを含む配列を選択から除外した。
【0136】
標的外スコアが>=3の327個のsiRNAを選択し、合成した(表1)。
【0137】
【表1−1】

【0138】
【表1−2】

【0139】
【表1−3】

【0140】
【表1−4】

【0141】
【表1−5】

【0142】
【表1−6】

【0143】
【表1−7】

【0144】
【表1−8】

【0145】
【表1−9】

【0146】
【表1−10】

【0147】
【表1−11】

dsRNA合成
試薬の入手先
本明細書に試薬の入手先が具体的に記載されていない場合、その試薬は、分子生物学で使用される品質/純度標準で分子生物学用試薬の任意のサプライヤーから入手できる。
【0148】
siRNAの合成
一本鎖RNAを1μmoleのスケールで固相合成により作製した。その際、Expedite8909合成機(Applied Biosystems,Applera Deutschland GmbH,Darmstadt,Germany)と、固体支持体としてコントロールドポアガラス(CPG,500Å,Proligo Biochemie GmbH,Hamburg,Germany)とを用いた。RNAおよび2’−O−メチルヌクレオチドを含むRNAを、それぞれに対応するホスホラミダイトおよび2’−O−メチルホスホラミダイト(Proligo Biochemie GmbH,Hamburg,Germany)を用いて固相合成により作製した。こうした構成要素を、Current protocols in nucleic acid chemistry, Beaucage,S.L.ら、(Edrs.),John Wiley & Sons,Inc.,New York,NY,USAに記載されているような標準的なヌクレオシドホスホラミダイト化学を用いてオリゴリボヌクレオチド鎖(chain)の配列内の選択部位に組み込んだ。ヨウ素酸化剤溶液の代わりにアセトニトリルに溶かしたBeaucage試薬(Chruachem Ltd,Glasgow,UK)溶液(1%)を用いてホスホロチオアート結合を導入した。追加の補助試薬をMallinckrodt Baker(Griesheim,Germany)から入手した。
【0149】
確立した手順に従い、この粗オリゴリボヌクレオチドの脱保護および精製をイオン交換HPLCにより行った。分光光度計(DU640B,Beckman Coulter GmbH,Unterschleiβheim,Germany)を用いて波長260nmにおける各RNAの溶液のUV吸収により収率および濃度を判定した。二本鎖RNAを、アニーリング緩衝液(20mMのリン酸ナトリウム、pH6.8;100mMの塩化ナトリウム)中で相補鎖の等モル溶液を混合し、水浴中にて85〜90℃で3分間加熱し、3〜4時間かけて室温まで冷却して作製した。アニーリング済みのRNA溶液を使用時まで−20℃で保存した。
【0150】
3’−コレステロールコンジュゲートsiRNA(本明細書ではChol−3’という)の合成では、適切に修飾された固体支持体を用いてRNAを合成した。この修飾固体支持体は、以下のとおり調製した:
ジエチル−2−アザブタン−1,4−ジカルボキシラート AA
【0151】
【化1】

水(50mL)に溶かしたエチルグリシナートヒドロクロリド(32.19g、0.23モル)の氷冷した撹拌溶液に、4.7Mの水酸化ナトリウム水溶液(50mL)を加えた。次いで、エチルアクリラート(23.1g、0.23モル)を加え、この混合物を反応の終了がTLCで確認されるまで室温で撹拌した。19時間後、この溶液をジクロロメタンで分割(3×100mL)した。この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、蒸発させた。残留物を蒸留してAA(28.8g、61%)を得た。
【0152】
3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル−アミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステル AB
【0153】
【化2】

Fmoc−6−アミノ−ヘキサン酸(9.12g、25.83mmol)をジクロロメタン(50mL)に溶解し、氷冷した。0℃の溶液にジイソプロピルカルボジイムド(3.25g、3.99mL、25.83mmol)を加えた。次いでジエチル−アザブタン−1,4−ジカルボキシラート(5g、24.6mmol)およびジメチルアミノピリジン(0.305g、2.5mmol)を加えた。溶液を室温まで冷まし、さらに6時間撹拌した。反応の終了をTLCで確認した。反応混合物を真空下で濃縮し、酢酸エチルを加えてジイソプロピル尿素を沈殿させた。この懸濁液を濾過した。濾液を5%水性塩酸、5%重炭酸ナトリウムおよび水で洗浄した。合わせた有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮して粗生成物を得た。この生成物をカラムクロマトグラフィー(50%EtOAC/ヘキサン)により精製してAB11.87g(88%)を得た。
【0154】
3−[(6−アミノ−ヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチル−アミノ]−プロピオン酸エチルエステル AC
【0155】
【化3】

3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステルAB(11.5g、21.3mmol)を0℃のジメチルホルムアミドに加えた20%ピペリジンに溶解した。この溶液の撹拌を1時間続けた。反応混合物を真空下で濃縮し、残留物に水を加え、生成物を酢酸エチルで抽出した。この粗生成物をヒドロクロリド塩に変換して精製した。
【0156】
3−({6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}エトキシカルボニルメチル−アミノ)−プロピオン酸エチルエステル AD
【0157】
【化4】

3−[(6−アミノ−ヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチル−アミノ]−プロピオン酸エチルエステルACのヒドロクロリド塩(4.7g、14.8mmol)をジクロロメタンに溶解した。この懸濁液を0℃まで氷冷した。懸濁液にジイソプロピルエチルアミン(3.87g、5.2mL、30mmol)を加えた。得られた溶液にコレステリルクロロホルマート(6.675g、14.8mmol)を加えた。この反応混合物を一晩撹拌した。反応混合物をジクロロメタンで希釈し、10%塩酸で洗浄した。生成物をフラッシュクロマトグラフィー(10.3g、92%)により精製した。
【0158】
1−{6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−4−オキソ−ピロリジン−3−カルボン酸エチルエステル AE
【0159】
【化5】

カリウムt−ブトキシド(1.1g、9.8mmol)を30mLの乾燥トルエンでスラリー化した。この混合物を0℃まで氷冷し、20分以内に5g(6.6mmol)のジエステルADを撹拌しながらゆっくりと加えた。添加中の温度を5℃未満に保った。撹拌を0℃で30分間続け、1mLの氷酢酸を加え、直後に40mLの水に加えたNaHPO−HO4gを加えた 得られた混合物を、それぞれ100mLのジクロロメタンで2回抽出し、合わせた有機抽出物を、それぞれ10mLのリン酸塩緩衝液で2回洗浄し、乾燥させ、蒸留乾固した。残留物を60mLのトルエンに溶解し、0℃まで冷却し、pH9.5の冷たい炭酸塩緩衝液50mLで3回に分けて抽出した。この水性抽出物をリン酸でpH3に調整し、合わせて40mLのクロロホルムで5回に分けて抽出し、乾燥させ、蒸留乾固した。残留物を、25%酢酸エチル/ヘキサンを用いてカラムクロマトグラフィーにより精製し、1.9gのb−ケトエステル(39%)を得た。
【0160】
[6−(3−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−ピロリジン−1−イル)−6−オキソ−ヘキシル]−カルバミン酸17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10、11,12,13、14,15、16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステル AF
【0161】
【化6】

テトラヒドロフラン(10mL)に加えたb−ケトエステルAE(1.5g、2.2mmol)と水素化ホウ素ナトリウム(0.226g、6mmol)との還流混合物に1時間かけてメタノール(2mL)を滴下した。撹拌を還流温度で1時間続けた。室温まで冷ました後、1NのHCl(12.5mL)を加え、混合物を酢酸エチル(3×40mL)で抽出した。合わせた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空下で濃縮して生成物を得て、生成物をカラムクロマトグラフィー(10%MeOH/CHCl)により精製した(89%)。
(6−{3−[ビス−(4−メトキシ−フェニル)−フェニル−メトキシメチル]−4−ヒドロキシ−ピロリジン−1−イル}−6−オキソ−ヘキシル)−カルバミン酸17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステル AG
【0162】
【化7】

ジオールAF(1.25gm 1.994mmol)をピリジン(2×5mL)で減圧蒸発させて乾燥させた。無水ピリジン(10mL)および4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(0.724g、2.13mmol)を撹拌しながら加えた。この反応を室温で一晩行った。メタノールを添加して反応をクエンチした。反応混合物を真空下で濃縮し、残留物にジクロロメタン(50mL)を加えた。この有機層を1Mの水性重炭酸ナトリウムで洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。残留ピリジンをトルエンで蒸発させて除去した。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(2%MeOH/クロロホルム、5%MeOH/CHClでのRf=0.5)により精製した(1.75g、95%)。
【0163】
コハク酸モノ−(4−[ビス−(4−メトキシ−フェニル)−フェニル−メトキシメチル]−1−{6−[17−(1,5−ジメチル−ヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−ピロリジン−3−イル)エステル AH
【0164】
【化8】

化合物AG(1.0g、1.05mmol)をコハク酸無水物(0.150g、1.5mmol)およびDMAP(0.073g、0.6mmol)と混合し、40℃で一晩真空乾燥させた。この混合物を無水ジクロロエタン(3mL)に溶解し、トリエチルアミン(0.318g、0.440mL、3.15mmol)を加え、この溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて16時間撹拌した。次いで溶液をジクロロメタン(40mL)で希釈し、氷冷水性クエン酸(5wt%、30mL)および水(2×20mL)で洗浄した。この有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮乾固した。残留物を次の工程でそのまま使用した。
【0165】
コレステロール誘導体化CPG AI
【0166】
【化9】

スクシナートAH(0.254g、0.242mmol)をジクロロメタン/アセトニトリル(3:2、3mL)の混合物に溶解した。この溶液にアセトニトリル(1.25mL)に加えたDMAP(0.0296g、0.242mmol)、アセトニトリル/ジクロロエタン(3:1、1.25mL)に加えた2,2’−ジチオ−ビス(5−ニトロピリジン)(0.075g、0.242mmol)を連続的に加えた。得られた溶液に、アセトニトリル(0.6ml)に加えたトリフェニルホスフィン(0.064g、0.242mmol)を加えた。この反応混合物の色は鮮やかなオレンジ色になった。この溶液をリストアクションシェイカーを用いて短時間(5分)かき混ぜた。長鎖(chain)アルキルアミン−CPG(LCAA−CPG:long chain alkyl amine−CPG)(1.5g、61mM)を加えた。この懸濁液を2時間かき混ぜた。CPGを焼結漏斗で濾過し、アセトニトリル、ジクロロメタンおよびエーテルで続けて洗浄した。酢酸無水物/ピリジンを用いて未反応アミノ基をマスクした。得られたCPGの量をUVの測定により測定した(37mM/g)。
【0167】
5’−12−ドデカン酸ビスデシルアミド基(本明細書では「5’−C32−」という)または5’−コレステリル誘導体基(本明細書では「5’−Chol−」という)を含むsiRNAの合成を行った。その際、コレステリル誘導体の場合に核酸オリゴマーの5’末端にホスホロチオアート結合を導入するため、Beaucage試薬を用いて酸化工程を行ったことが以外は国際公開第2004/065601号に記載されているように行った。
【0168】
dsRNA発現ベクター
本発明の別の態様では、E6AP遺伝子の発現活性を調節するE6AP特異的dsRNA分子を、DNAベクターまたはRNAベクターに挿入した転写ユニットから発現させる(たとえば、Couture,A,ら、,TIG.(1996),12:5−10;Skillern,A.,ら、,国際公開第00/22113号,Conrad,国際公開第00/22114号,and Conrad,米国特許第6,054,299号を参照されたい)。この導入遺伝子については、線状コンストラクト、環状プラスミドまたはウイルスベクターとして導入してもよく、こうしたベクターは宿主ゲノムに組み込まれる導入遺伝子として導入され、遺伝し得る。また、導入遺伝子は、染色体外プラスミドとして遺伝するように構築することもできる(Gassmann,ら、,Proc.Natl.Acad.Sci USA(1995)92:1292)。
【0169】
dsRNAの個々の鎖は、2種の別々の発現ベクターのプロモーターにより転写され、標的細胞にコトランスフェクトされてもよい。あるいは、dsRNAの1本1本の鎖は、共に同一の発現プラスミドにある2つのプロモーターにより転写されてもよい。好ましい実施形態では、dsRNAがステムループ構造を含むようにリンカーポリヌクレオチド配列により結合された逆方向反復としてdsRNAを発現させる。
【0170】
組換えdsRNA発現ベクターは通常、DNAプラスミドまたはウイルスベクターである。dsRNA発現ウイルスベクターに関しては、以下に限定されるものではないが、アデノ随伴ウイルス(総説として、Muzyczka,ら、,Curr.Topics Micro.Immunol.(1992)158:97−129)を参照されたい);アデノウイルス(たとえば、Berkner,ら、,BioTechniques(1998)6:616を参照されたい),Rosenfeldら、、(1991,Science 252:431−434)and Rosenfeldら、、(1992),Cell 68:143−155));あるいはアルファウイルスおよびこれ以外の当該技術分野において公知のものを用いて構築してもよい。インビトロおよび/またはインビボで様々な遺伝子を上皮細胞などの多種多様な細胞型に導入するには、レトロウイルスが用いられている(たとえば、Eglitis,ら、,Science(1985)230:1395−1398;Danos and Mulligan,Proc.Natl Acad.Sci.USA(1998)85:6460−6464;Wilsonら、、,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014−3018;Armentanoら、、,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:61416145;Huberら、、,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8039−8043;Ferryら、、,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377−8381;Chowdhuryら、、,991,Science 254:1802−1805;van Beusechem.ら、,1992,Proc.Nad.Acad.Sci.USA 89:7640−19 ;Kayら、、,1992,Human Gene Therapy 3:641−647;Daiら、、,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892−10895;Hwuら、、,1993,J.Immunol.150:4104−4115;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;国際公開第89/07136号;国際公開第89/02468号;国際公開第89/05345号;および国際公開第92/07573号を参照されたい)。細胞のゲノムに挿入された遺伝子の形質導入および発現が可能な組換えレトロウイルスベクターについては、組換えレトロウイルスのゲノムをPA317およびPsi−CRIPなどの好適なパッケージング細胞株にトランフェクトすることで作製できる(Cometteら、、,1991,Human Gene Therapy 2:5−10;Coneら、、,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6349)。組換えアデノウイルスベクターを用いれば、感受性宿主(たとえば、ラット、ハムスター、イヌおよびチンパンジー)の種々の細胞および組織に感染させることができ(Hsuら、、,1992,J.Infectious Disease,166:769)、感染の際に分裂活性のある細胞を必要としないという利点もある。
【0171】
本発明のDNAプラスミドあるいはウイルスベクターにおいてdsRNA発現を誘導するプロモーターは、真核生物RNAポリメラーゼI(たとえば、リボソームRNAプロモーター)、RNAポリメラーゼII(たとえば、CMV初期プロモーターまたはアクチンプロモーターまたはU1 snRNAプロモーター)または一般にはRNAポリメラーゼIIIプロモーター(たとえば、U6 snRNAまたは7SK RNAプロモーター)あるいは原核生物プロモーター、たとえば、T7プロモーターであってもよい。ただし、T7プロモーターの場合、発現プラスミドはT7プロモーターからの転写に必要なT7RNAポリメラーゼもコードする。このプロモーターは、膵臓に導入遺伝子発現を誘導することもできる(たとえば、the insulin regulatory sequence for pancreas(Bucchiniら、、,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:2511−2515)を参照されたい)。
【0172】
さらに、導入遺伝子の発現に関しては、たとえば、循環血中のグルコースレベルまたはホルモンといった何らかの生理的な制御因子に感受性を示す制御配列など、誘導型の制御配列および発現系を用いることで正確に制御できる(Dochertyら、、,1994,FASEB J.8:20−24)。細胞または哺乳動物における導入遺伝子発現の制御に好適なこうした誘導発現系には、エクジソン、エストロゲン、プロゲステロン、テトラサイクリン、二量体化を誘導する化学物質およびイソプロピル−β−D1−チオガラクトピラノシド(EPTG)による制御がある。当業者であれば、dsRNA導入遺伝子の用途に応じて、適切な制御/プロモーター配列を選択することができるであろう。
【0173】
通常、dsRNA分子の発現が可能な組換えベクターについては下記のように送達し、標的細胞に存在し続ける。あるいは、dsRNA分子の一過性発現が可能なウイルスベクターを用いてもよい。こうしたベクターは、必要に応じて反復投与することができる。発現したら、dsRNAは標的RNAに結合し、その機能または発現を調節する。dsRNA発現ベクターの送達は、静脈内または筋肉内投与により、患者から外植した標的細胞に投与してから患者に再導入することにより、あるいは所望の標的細胞への導入が可能な他の任意の手段によるなど、全身性であってもよい。
【0174】
dsRNA発現DNAプラスミドは一般に、カチオン性脂質キャリア(たとえば、オリゴフェクタミン)または非カチオン性脂質ベースのキャリア(たとえば、Transit−TKO(商標))との複合体として標的細胞にトランフェクトする。1週間またはそれ以上かけて単一のE6AP遺伝子または複数のE6AP遺伝子の異なる領域を標的とする、dsRNAによるノックダウンのための複数回の脂質トランスフェクションも本発明は意図している。本発明のベクターが宿主細胞にうまく導入されたどうかは、様々な既知の方法によりモニターすることができる。たとえば、緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)のような蛍光マーカーなどのレポーターで一過性トランスフェクション.を伝達させることができる。エキソビボでの細胞の安定なトランスフェクション.は、特異的な環境要因(たとえば、抗生物質および薬剤)に対する耐性、たとえば、ハイグロマイシンB耐性があるトランスフェクト細胞を認識するマーカーを用いて確認することができる。
【0175】
E6AP特異的dsRNA分子はベクターに挿入し、ヒト患者の遺伝子治療ベクターとして用いてもよい。遺伝子治療ベクターは、たとえば、静脈内注射、局所的投与(米国特許第5,328,470号を参照されたい)により、または定位的注入(たとえば、Chenら、、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3054−3057を参照されたい)により被検体に送達することができる。遺伝子治療ベクターの医薬調製物は、許容可能な希釈液に遺伝子治療ベクターを含ませてもよいし、遺伝子送達ビヒクルが包埋された徐放性マトリックスを含んでもよい。あるいは、たとえば、レトロウイルスベクターのような完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞からインタクトな状態で産生できる場合、医薬調製物は、その遺伝子送達系を産生する1つまたは複数の細胞を含んでも構わない。
【0176】
HCT−116細胞を用いたE6AP siRNAスクリーニング
HCT−116細胞をDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)(Braunschweig,Germany,cat No.ACC581)から入手し、加湿インキュベーターにおいて10%ウシ胎仔血清(FCS:fetal calf serum)、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlおよび2mMのL−Glutaminを含むように補充したMcCoys(Biochrom AG,Berlin,Germany,cat No.F1015)で5%CO雰囲気、37℃にて培養した。
【0177】
siRNAのトランスフェクションでは、96ウェルプレートに密度2.0×10細胞/ウェルでHCT−116細胞を播種し、直接トランスフェクトした。製造者の記載のとおり、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてsiRNAのトランスフェクション(単一用量スクリーニング用の30nMおよび3nM、)を行った。
【0178】
トランスフェクションから24時間後、HCT−116細胞を溶解し、標準的なプロトコルに従い、Quantigene Exploreキット(Panomics,Inc.(Fremont,CA)(以前のGenospectra,Inc.))を用いてE6APにおけるmRNAの発現レベルを定量した。E6APにおけるmRNAレベルをGAP−DH mRNAを基準に補正した。siRNAごとに4種のデータポイントを集めた。E6AP遺伝子に無関係のsiRNA二本鎖を対照として用いた。E6AP特異的siRNA二本鎖の各活性を、処置を行った細胞中のE6APにおけるmRNA濃度と、対照siRNA二本鎖で処置した細胞中のE6APにおけるmRNA濃度との比で表した。
【0179】
その結果を以下の表2に示す。E6AP遺伝子を標的とする多くの活性siRNA分子が同定された。
【0180】
【表2−1】

【0181】
【表2−2】

【0182】
【表2−3】

【0183】
【表2−4】

当業者であれば、本開示に具体的に記載した以外にも、以下に添付される特許請求の範囲の及ぶ範囲で本発明を実施する方法および組成物をよく知っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のヒトE6AP遺伝子の発現を阻害する二本鎖リボ核酸(dsRNA)であって、該dsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含み、かつセンス鎖は第1の配列を含み、アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含有する第2の配列を含み、該相補性領域は30ヌクレオチド長未満であり、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する、dsRNA。
【請求項2】
前記第1の配列が表1からなる群から選択され、前記第2の配列が表1からなる群から選択される、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項3】
前記dsRNAは少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項4】
前記dsRNAは少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む、請求項2に記載のdsRNA。
【請求項5】
前記修飾ヌクレオチドは、2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオアート基を含むヌクレオチド、およびコレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に結合した末端ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項6】
前記修飾ヌクレオチドは、2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックドヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’−アミノ−修飾ヌクレオチド、2’−アルキル−修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホルアミダートおよび非天然塩基含有ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項7】
前記第1の配列が表1からなる群から選択され、前記第2の配列が表1からなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項8】
前記第1の配列が表1からなる群から選択され、前記第2の配列が表1からなる群から選択される、請求項6または7に記載のdsRNA。
【請求項9】
請求項1に記載のdsRNAを含む、細胞。
【請求項10】
生体のE6AP遺伝子の発現を阻害するための医薬組成物であって、dsRNAおよび薬学的に許容されるキャリアを含み、該dsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含み、かつセンス鎖は第1の配列を含み、アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含有する第2の配列を含み、該相補性領域は30ヌクレオチド長未満であり、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現を少なくとも20%阻害する、医薬組成物。
【請求項11】
前記dsRNAの前記第1の配列が表1からなる群から選択され、該dsRNAの前記第2の配列が表1からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記dsRNAの前記第1の配列が表1からなる群から選択され、該dsRNAの前記第2の配列が表1からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害するための方法であって:
(a)該細胞に二本鎖リボ核酸(dsRNA)を導入する工程であって、該dsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含み、かつセンス鎖は第1の配列を含み、アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含有する第2の配列を含み、該相補性領域は30ヌクレオチド長未満であり、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する、工程;および
(b)工程(a)で作製した細胞を該E6AP遺伝子の該mRNA転写物が分解するのに十分な時間維持し、それにより該細胞の該E6AP遺伝子の発現を阻害する工程
を含む、方法。
【請求項14】
HPV感染により媒介される病理学的過程を処置、予防または管理する方法であって、そうした処置、予防または管理を必要とする患者に治療有効量または予防有効量のdsRNAを投与することを含み、該dsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含み、かつセンス鎖は第1の配列を含み、アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含有する第2の配列を含み、該相補性領域は30ヌクレオチド長未満であり、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する、方法。
【請求項15】
細胞のE6AP遺伝子の発現を阻害するためのベクターであって、該ベクターは、dsRNAの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された制御配列を含み、該dsRNAの鎖の一方は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的であり、該dsRNAは30塩基対長未満であり、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現を少なくとも40%阻害する、ベクター。
【請求項16】
請求項16に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項17】
細胞のヒトE6AP遺伝子の発現レベルを低下させる二本鎖リボ核酸(dsRNA)であって、該dsRNAは、相互に相補的である少なくとも2個の配列を含み、かつセンス鎖は第1の配列を含み、アンチセンス鎖は、E6APをコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を含有する第2の配列を含み、該dsRNAは、該E6APを発現している細胞と接触すると、該E6AP遺伝子の発現レベルを低下させる、dsRNA。
【請求項18】
前記接触は前記E6AP遺伝子の発現レベルを少なくとも40%低下させる、請求項17に記載のdsRNA。
【請求項19】
前記接触は30nMまたはそれ未満にてインビトロで行われる、請求項17に記載のdsRNA。
【請求項20】
生体のE6AP遺伝子の発現レベルを低下させるための医薬組成物であって、請求項17に記載のdsRNAおよび薬学的に許容されるキャリアを含む、医薬組成物。
【請求項21】
HPV関連障害を処置する方法であって、そうした処置を必要とする患者に請求項17に記載のdsRNAを治療有効量で投与することを含む、方法。
【請求項22】
E6AP関連障害を処置する方法であって、そうした処置を必要とする患者に請求項17に記載のdsRNAを治療有効量で投与することを含む、方法。
【請求項23】
請求項2に記載のdsRNAから選択される少なくとも2種のdsRNAを含む、医薬組成物。
【請求項24】
HPV関連障害を処置する方法であって、そうした処置を必要とする患者に請求項23に記載の医薬組成物を治療有効量で投与することを含む、方法。

【公表番号】特表2010−522547(P2010−522547A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500243(P2010−500243)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053475
【国際公開番号】WO2008/116860
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【出願人】(508290910)アルニラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】