Hedgehogシグナル活性調節剤、細胞増殖調節剤及びその使用方法
【課題】基底細胞癌及び膵癌治療剤、並びにそれらの使用方法の提供。
【解決手段】基底細胞癌由来の細胞株ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。そこで、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を、基底細胞癌に対する治療薬とする。同時に、膵癌由来の細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。そこで、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を、膵癌に対する治療薬とする。
【解決手段】基底細胞癌由来の細胞株ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。そこで、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を、基底細胞癌に対する治療薬とする。同時に、膵癌由来の細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。そこで、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を、膵癌に対する治療薬とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hedgehogシグナル活性調節剤、細胞増殖調節剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子標的薬という新しいタイプの抗悪性腫瘍薬が導入されている。この分子標的薬は、それぞれの悪性腫瘍に特異的に発現する分子を標的にして製剤設計された薬剤である。そのため、分子標的薬は、従来の抗悪性腫瘍薬よりも腫瘍に対する特異性が高く、副作用が少ないと考えられている。しかし、現在までに上市された分子標的薬は、慢性骨髄性白血病治療薬のイマニチブ(例えば、非特許文献1参照)、非小細胞肺癌治療薬のゲフィチニブ(例えば、非特許文献2及び3参照)、急性前骨髄球性白血病治療薬のトレチノイン、CD20陽性B細胞性非ホジキンリンパ腫治療薬のリツキシマブ、転移性乳癌治療薬のトラスツズマブ等しかない。
【0003】
Hedgehogシグナル経路は、細胞の分化、増殖及び成長等、脊椎動物の発生の過程において重要な役割を果たしているが、その一方で、このシグナル制御からの逸脱は各種の腫瘍発生を引き起こす。このようなHedgehogシグナル経路に起因する疾患を治療するために、Hedgehogシグナル経路を阻害する薬剤が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特表2002-511415号公報
【特許文献2】特表2004-529067号公報
【非特許文献1】B. J. Druker et al., Nat Med 2, 561-6. (1996)
【非特許文献2】Fukuoka, M. et al, J. Clin. Oncol., 21, 2237-2246 (2003)
【非特許文献3】Miller, V. A. et al, J. Clin. Oncol., 1103-1109 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、新規Hedgehogシグナル活性増強剤及び抑制剤、新規細胞増殖促進剤及び抑制剤、新規基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤、並びにそれらの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、基底細胞癌において特異的に発現する分子を解明すべく鋭意努力した結果、以下の実施例に示す通り、基底細胞癌患者の病巣部位においてgpr49遺伝子の発現量が有意に増加することを見出した。さらに、このgpr49遺伝子が、分子標的として基底細胞癌治療に有用かどうかを調べた結果、gpr49の発現遺伝子を抑制した基底細胞癌細胞株(ASZ001)は、細胞増殖が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明にかかる細胞増殖促進剤は、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0007】
また、本発明にかかる細胞増殖抑制剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0008】
さらに、本発明にかかる基底細胞癌治療剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0009】
また、本発明にかかる膵癌治療剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0010】
さらに、本発明にかかるhedgehogシグナル活性増強剤は、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0011】
また、本発明にかかるhedgehogシグナル活性抑制剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0012】
さらに、本発明にかかる発現抑制剤は、hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤であって、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0013】
また、本発明にかかる発現亢進剤は、hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進する発現亢進剤であって、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0014】
さらに、本発明にかかる診断キットは、基底細胞癌を診断する診断キットであって、gpr49の発現を診断マーカーとして使用することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるスクリーニング方法は、基底細胞癌又は膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法であって、培養条件下で、癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、前記細胞におけるgpr49の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明にかかる細胞増殖抑制方法は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、細胞増殖を抑制する方法であって、前記細胞増殖抑制剤を前記脊椎動物内に投与することを特徴とする。また、前記方法は、基底細胞癌又は膵癌に対する治療に用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、新規Hedgehogシグナル活性増強剤及び抑制剤、新規細胞増殖促進剤及び抑制剤、新規基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤、並びにそれらの使用方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態において実施例を挙げながら具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
(1)薬理作用
悪性腫瘍は、増殖力が強く、周囲の組織を破壊したり浸潤したりして転移し、生体に致命的な害を与える腫瘍である。そのため、悪性腫瘍の治療で用いられる抗悪性腫瘍薬は、悪性腫瘍の消滅又は縮小を図ったり、あるいは悪性腫瘍細胞の増殖を抑制したりする目的で投与される。
【0022】
本発明者らは、以下の実施例に示すように、基底細胞癌由来の細胞株ASZ001においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、基底細胞癌に対する治療に用いることができる。なお、基底細胞癌の治療においては、本発明の基底細胞癌治療剤の投与の他に、掻爬法、電気焼灼法、手術、放射線療法等を組み合わせてもよい。
【0023】
同時に、本発明者らは、以下の実施例に示すように、膵癌由来の細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、膵癌に対する治療に用いることができる。なお、膵癌の治療においては、本発明の膵癌治療剤の投与の他に、他の抗膵癌治療薬(例えば、5-FU、マイトマイシン、ストレプトゾトシン、ドクソルビシン、ゲムシタビン等)の投与、手術、放射線療法等を組み合わせてもよい。
【0024】
上記Gpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制することができる物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制してもよく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的とする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。一般に、細胞内で遺伝子の発現を抑制すると、発現の最終産物であるタンパク質の量が減少し、そのタンパク質の全体的な機能が低下するからである。なお、遺伝子の発現抑制は、その遺伝子の転写から、機能的なタンパク質の産生までのどの段階で抑制してもよい。
【0025】
このように、本発明の基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤は、従来の抗悪性腫瘍薬とは異なる作用機序を有する、Gpr49タンパク質を標的にした分子標的薬である。
【0026】
(2)本発明の薬剤
(i)Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤
(a)細胞増殖促進
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子発現ベクターをヒトケラチノサイトHaCaT細胞にトランスフェクトすることにより、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞の増殖能を促進させることができる。従って、Gpr49タンパク質機能増強因子を含有する薬剤は、細胞増殖を促進するのに有用である。
【0027】
なお、本発明の薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能増強因子は、Gpr49タンパク質の機能を増強する物質であればよいが、gpr49遺伝子の発現を増強する物質であることが好ましく、例えば、gpr49遺伝子発現ベクターを用いることができる。
【0028】
Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤に用いられ得る薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いてもよく、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等を含有してもよい。さらに必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量含有してもよい。また、剤形としては、経口剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、徐放性錠・カプセル・顆粒剤、カシュー剤、咀嚼錠剤又はドロップ剤等が、注射剤は、例えば、溶液性注射剤、乳濁性注射剤、又は固形注射剤等が、外用剤は、例えば、撤布粉剤、ローション、軟膏・クリーム、スプレー、テープ剤等が挙げられる。
【0029】
(b)Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現亢進
Hedgehogシグナル経路は、細胞の分化、増殖及び成長等、脊椎動物の発生の過程において重要な役割を果たしている(Nybaken K, Perrimon N: Curr Opinion Genet Dev 12, 503-511 (2002))。ここで、Gli1タンパク質とGli2タンパク質は、脊椎動物のHedgehogシグナル経路において、標的遺伝子の転写活性化に関与している。
【0030】
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子発現ベクターをヒトケラチノサイトHaCaT細胞にトランスフェクトすると、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現は亢進した。従って、Gpr49タンパク質の機能を増強する機能増強因子を含有する薬剤は、Hedgehogシグナル活性を増強させるのに有用である。
【0031】
なお、本発明の薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能増強因子は、Gpr49タンパク質の機能を促進する物質であればよいが、gpr49遺伝子の発現を増強させる物質であることが好ましく、例えば、gpr49遺伝子発現ベクターを用いることができる。一般に、細胞内で遺伝子の発現を増強すると、発現の最終産物であるタンパク質の量が増加し、そのタンパク質の全体的な機能が増強するからである。なお、遺伝子の発現増強は、その遺伝子を強制発現させてもよく、その遺伝子の発現を正に調節する上流の遺伝子を強制発現させてもよい。
【0032】
Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤に用いられ得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0033】
(ii)Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤
(a)細胞増殖抑制
以下の実施例に示す通り、マウスBCC細胞株(ASZ001)においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、ASZ001細胞の増殖を抑制することができる。従って、Gpr49タンパク質機能抑制因子を含有する薬剤は、細胞増殖を抑制するのに有用である。
【0034】
なお、本薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制してもよく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的にする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。
【0035】
Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤に用い得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0036】
(b)Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現抑制
以下の実施例に示すように、マウスBCC細胞株(ASZ001)においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、ASZ001細胞におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制することができる。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する機能抑制因子を含有する薬剤は、Hedgehogシグナル活性を抑制するのに有用である。
【0037】
なお、本薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制することが好ましく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的とする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。
【0038】
Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤に用い得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0039】
(iii)Hedgehogシグナル経路を阻害する因子を有効成分として含有する薬剤
以下の実施例に示すように、Hedgehogシグナル経路のSmo (smoothened)を特異的に阻害する薬剤であるシクロパミン(Daya-Grosjean L, Sarasin A, Mutat Res, 450, 193-199 (2000))をマウスBCC細胞株(ASZ001)に投与することにより、ASZ001細胞におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することができる。従って、シクロパミン等のHedgehogシグナル経路を阻害する因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制するのに有用である。ここで、Hedgehogシグナル経路を阻害する因子としては、シクロパミンの他、AY9944、トリパラノール、ジェルビン、トマチジン等の薬剤や、Hedgehogシグナル経路のSmoタンパク質の機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物、smo遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤(siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等)等が挙げられる。
【0040】
(3)ヒト又はヒト以外の脊椎動物への上記薬剤の投与量及び投与方法
上記薬剤の投与量は、年齢、体重、適応症又は投与・摂取経路によって異なるが、上記作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。
【0041】
また、上記薬剤の投与経路は、上記薬剤が基底細胞癌又は膵癌に送達される投与経路であれば、特に限定されないが、基底細胞癌の治療の場合は経皮投与、皮下投与、真皮下投与、皮内投与、又は局所投与が、また、膵癌の治療の場合は経口投与、静脈内投与、又は局所投与が好ましい。
【0042】
具体的な投与方法としては、例えば、ヒト又はヒト以外の脊椎動物の、基底細胞癌又は膵癌を含む細胞を採取し、その細胞においてgpr49遺伝子の発現量を測定するという生検を行い、gpr49遺伝子又の発現量が正常値以上である場合に、本発明のGpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤を投与することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0043】
ここで、「正常値」とは、例えば、一般的に健常人におけるgpr49遺伝子の発現量または当該患者の基底細胞癌又は膵癌発症前のgpr49遺伝子の発現量等が考えられる。なお、一般に、遺伝子の発現量は、基底細胞癌又は膵癌を含む細胞を採取し、RT-PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、ELISA法、ウエスタンブロット法、免疫組織学的方法等によって、その遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるタンパク質の量を測定することにより算出することができる。
【0044】
また、gpr49遺伝子の発現量を測定すること無く、必要な時に各薬剤を投与してもよい。例えば、母斑様基底細胞腫症候群等の遺伝的疾患を有している場合や、膵癌になりやすいといわれる疾患(例えば、慢性膵炎、糖尿病、胆石症等)を合併している場合等に、基底細胞癌又は膵癌の発症を予防または治療する目的で、Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤を投与してもよい。
【0045】
(4)診断マーカー
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子は、基底細胞癌において、特異的に発現する。従って、gpr49遺伝子の発現は、基底細胞癌を診断するマーカーとして利用できる。
【0046】
(i)gpr49遺伝子の発現を調べる場合
診断対象の個体から得た基底細胞(もしくは皮膚細胞)において、gpr49遺伝子の転写産物の量をノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCRで検出することにより、あるいは、Gpr49タンパク質の量をELISA法などによって調べることにより、gpr49遺伝子の発現を調べることができる。
このようにして調べた結果、診断対象の個体において、基底細胞におけるgpr49遺伝子の発現が正常値より高い場合には、基底細胞癌を発症していると診断する。
【0047】
(ii)診断マーカーの有用性
本発明のマーカーは、基底細胞癌を含む細胞に適用することができる。
また、基底細胞癌を診断するためには、gpr49遺伝子の発現量を測定するための試薬をキットとすることにより、簡便に診断することができるようになる。このキットに含まれる試薬としては、例えば、gpr49遺伝子の転写産物量を測定するためのRT-PCR用の酵素やプライマー、Gpr49タンパク量を測定するためのELISA用の抗体やバッファー等が挙げられる。
【0048】
(5)基底細胞癌及び膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法
gpr49遺伝子の発現量を基底細胞癌及び膵癌のマーカーとし、本発明の基底細胞癌及び膵癌に対する治療に効果を有する物質をスクリーニングすることができる。例えば、培養条件下で、gpr49遺伝子を発現している癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、これらの細胞におけるgpr49遺伝子の発現量を抑制する物質を選択する。このようにして選択された物質は、gpr49遺伝子の発現抑制を通じて、基底細胞癌又は膵癌の細胞増殖を抑制することができる。従って、このようにして選択された物質は、基底細胞癌又は膵癌の治療に効果があり、抗悪性腫瘍薬として用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0050】
<実施例1:基底細胞癌>
(1)ヒト基底細胞癌特異的に発現する分子の解析
基底細胞癌において特異的に発現している遺伝子を同定するために、GeneChipデータベース(バイオエクスプレス)の解析と、その結果に基づき、基底細胞癌の手術材料から抽出した総RNAを用いた定量PCRを行なった。
【0051】
(a)GeneChip解析
GeneChipによる遺伝子発現データベース(バイオエクスプレス)から、50例のヒト正常皮膚と11例のヒト皮膚基底細胞癌の遺伝子発現を解析した結果、基底細胞癌11例全例でG蛋白共役受容体のgpr49遺伝子が正常皮膚に比べ10〜20倍発現が亢進していることを認めた。それらのサンプルにおいて、発現レベルの平均値と標準偏差を求めたところ(図1A)、ヒト皮膚基底細胞癌において、gpr49遺伝子の発現が亢進していることが認められた。
【0052】
(b)定量RT-PCR法を用いたgpr49遺伝子の発現量測定
しかしながら、(a)の結果だけでは信頼性が低く、データベースでシグナルが認められても、目的の部位での発現が確認されたとは言えないため、基底細胞癌患者の癌組織において、実際にgpr49遺伝子が発現しているかを調べる必要があった。そのため、定量RT-PCR法を用いて、基底細胞癌患者におけるgpr49遺伝子の発現量をより正確に測定した。まず、凍結保存された基底細胞癌組織からRNeasy Mini Kit (Quiagen)を用いて、基底細胞癌患者20人から癌組織20例、基底細胞癌以外の皮膚疾患を有する患者(ボーエン病、扁平上皮癌及び脂漏性角化症)3人から3例、および同患者6人から非癌組織の皮膚6例を採取して総RNAを抽出し、得られた総RNAの1μgから、First-Strand cDNA Synthesis Kit (GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて、cDNAを合成した。次に、得られたcDNAの1.5μl(0.1μgRNA相当量)を用いてSYBR Green PCR Core Reagents (Applied Biosystems, Warrington UK)を使用し、ABI7700にて、PCRを行なった。定量RT-PCRに用いたプライマーは、図13に記載の通りである。なお、増幅産物量(X)は、式X=2-ΔΔCtを用いて計算した。(ここで、ある反応で得られた蛍光が閾値(Threshold)に達するときのサイクル数をCtとし、gpr49遺伝子のCtとGAPDH遺伝子のCtとの比をΔCtとした時、gpr49遺伝子のΔCtとGAPDH遺伝子のΔCtの比を算出し、ΔΔCtとした。)
このようにして基底細胞癌患者20人の癌組織においてgpr49遺伝子の発現量を測定し、非癌組織の平均値に対する発現量を計算したところ、2例(症例6および10)を除き、非癌組織の平均値に比べgpr49遺伝子の発現量の著しい亢進(50〜1000倍以上)が認められた(図1B)。一方、基底細胞癌以外の皮膚疾患を有する患者では、gpr49遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図1B)。これにより、gpr49遺伝子は、基底細胞癌に特異的に発現が著しく亢進することが明らかになった。なお、gpr49遺伝子の発現量が上昇しなかった2例の患者では、サンプルの基底細胞層を単離するとき、他の細胞の混入が大きかったものと考えられた。
【0053】
(c)in situハイブリダイゼーション
次に、基底細胞癌患者の癌組織において、どの細胞がgpr49遺伝子を発現しているかを調べるために、in situハイブリダイゼーションを行なった。
【0054】
まず、120bpのgpr49遺伝子断片(GenBank NM_003667、2548-2667ヌクレオチド(配列番号25))をpBluescript II(Stratagene社)に両方向にクローニングし、AmpliScribe T7-Flash Transcription Kit (EPICENTRE, Wisconsin, USA)を用いて、ジゴキシゲニン標識のgpr49センスプローブ及びgpr49アンチセンスプローブを作製した。
【0055】
次に、症例7及び症例19の患者のサンプルを用い、10μmのパラフィン切片を作製した。この切片を、4mg/mlサーモリシン(37℃、15分)及び10μg/mlproteinase K(37℃、15分)で処理した後、PBSで洗浄(室温)した。さらに、2mg/mlグリシン含有PBS(室温、10分)、0.1M TEA (pH8.0)(室温、15分)、0.25% AC2O(室温、15分)で順次処理をした後、4×SSCで洗浄(室温)し、50〜100% EtOHを用いて脱水した。この切片に、センスプローブまたはアンチセンスプローブ(80〜10ng)を含有したハイブリダイゼーションバッファー(50%ホルムアミド、2×SSC、1mg/ml transferRNA、1mg/mlsalmon sperm DNA、10%硫酸デキストラン、1%SDS、1×Denhardts solution)をのせ、37℃、オーバーナイトでハイブリダイゼーションを行なった。
【0056】
翌日、これらの切片を、2×SSC-50%ホルムアミドで20分間、2×SSCで2分間(×2回)、NTEバッファー(10mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、1mM EDTA)内で5分間(×2回)洗浄し、10μg/ml RNaseAで37℃30分間処理した後、NTEバッファーで洗浄した。次に、これらの切片を、2×SSCで42℃10分間、0.1×SSCで42℃5分間洗浄し、NTバッファー(100mM Tris-HCl、150mM NaCl pH7.5)でリンスした。これらの切片を、5%ヤギ血清(NGS)含有NTバッファーで30分間ブロッキングし、NTバッファーで250倍希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体(Roche社)を入れて1時間インキュベートし、その後、NTバッファーで15分間(×2回)、NTMバッファー(100mM Tris-HCl pH9.5、100mM NaCl、50mM MgCl2)で2分間洗浄した。最後に、BCIP/NBTを基質にして発色させた。図2(a)-(d)には症例19の結果を、図2(e)(f)には症例7の結果を示したが、センスプローブ(ネガティブコントロール)を用いた場合(図2(b)(d)(f))、gpr49遺伝子の発現は検出されず、アンチセンスプローブを用いた場合(図2(a)(c)(e))、gpr49遺伝子の発現は腫瘍病巣部位に強く検出された。
【0057】
以上より、gpr49遺伝子の発現が、基底細胞癌において特異的に、著しく亢進することが明らかになった。
【0058】
(2)Gpr49タンパク質の機能解析
Gpr49タンパク質の機能を解析するために、gpr49遺伝子を高レベルで発現しているマウスのBCC細胞株ASZ001(Aszterbaum M, Epstein J, Oro A, et al, Nat Med, 5, 1285-1291 (1999))(Dr Ervin Epstein (Department of dermatology, University of California, San Francisco, USA)から入手)において、shRNAを用いて、gpr49遺伝子の発現を抑制した。
【0059】
(a)shRNAを用いたgpr49遺伝子の発現抑制
gpr49遺伝子の発現抑制には、Sigma社において合成されたoligos64-nt hairpin-loop配列(21-nt shRNA標的配列を含む)(GPR49-585、GPR49-662)を使用した。なお、コントロール(Control-Ri)には、ランダムな配列を有する同じ長さのオリゴヌクレオチドを用いた。
GPR49-585 RiS(配列番号26):
gatcccc-gaacaaaatacaccacata-ttcaagaga-tatgtggtgtattttgttc-tttttggaaa
GPR49-585 RiAS(配列番号27):
agcttttccaaaaa-gaacaaaatacaccacata-tctcttgaa-tatgtggtgtattttgttc - ggg
GPR49-662 RiS(配列番号28):
gatcccc-gaatccactccctgggaaa -ttcaagaga-tttcccagggagtggattc-tttttggaaa
GPR49-662 RiAS(配列番号29):
agcttttccaaaaa-gaatccactccctgggaaa-tctcttgaa-tttcccagggagtggattc - ggg
Control RiS(配列番号30):
gatcccc -taaggctatgaagagatac-ttcaagaga-gtatctcttcatagcctta-tttttggaaa
Control RiAS(配列番号31):
agcttttccaaaaa-taaggctatgaagagatac-tctcttgaa - gtatctcttcatagcctta-ggg
【0060】
上記のGPR49-585 Ri, GPR49-662-Ri, Control-Ri のそれぞれの対の合成オリゴヌクレオチドをアニールしてpuromycin耐性遺伝子を持つ発現ベクターのCMVプロモーターの下流に挿入した。作成したshRNA発現ベクターを、Fugene6 (Roche社)を用いてASZ001細胞にトランスフェクトした。72時間後以降、0.6μg/ml puromycin(Invitrogen社)を添加し、puromycin耐性細胞を選択した。こうして選択された細胞(以下、GPR49-585 Ri、GPR49-662-Ri、及び Control-Riを用いて得られた細胞に対し、それぞれASZ-sh585、ASZ-sh662及びASZ-shcontrolと記載する。)において、(1)(b)と同様に定量RT-PCRでgpr49遺伝子の発現を調べ、ASZ-shcontrolに対するASZ-sh585とASZ-sh662の発現量比を計算したところ、 ASZ-sh585とASZ-sh662では、gpr49遺伝子の発現が1/2〜1/3に低下していた(図3(a))。そこで、これらの細胞を用いて、以下の実験を行なった。
【0061】
(b)ASZ-sh585及びASZ-sh662における細胞増殖アッセイ
まず、これらの細胞の増殖能を調べるために、ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、6穴プレートに5×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で培養し、24時間毎に細胞数を計測した(4回計測し、その平均をとった)。
その結果、図3(b)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)は、コントロール(ASZ-shcontrol)より生細胞数が少なくなり、培養開始4日目には、コントロール(ASZ-shcontrol)に比べて、約0.56倍の細胞数になった。
【0062】
(c)ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるWST-1アッセイ
そこで、培養開始4日目における細胞数の減少が、細胞増殖活性の減少によるのか、細胞死によるのかを調べるため、これらの細胞に対し、WST-1アッセイ(Roche diagnostics, Mannheim, Germany)を行い、ミトコンドリアの代謝機能を調べた。
ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、24穴プレートに1×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で培養し、WST-1試薬を24時間毎に各ウェルに入れ、30分間インキュベートした後、吸光度を450/690nmで測定した。
【0063】
その結果、図3(c)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)では、吸光度の上昇率が低く、例えば、培養開始4日目において、コントロール(ASZ-shcontrol)と比べて、吸光度が約0.3〜0.5倍になった。すなわち、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、ミトコンドリアの代謝機能が低減しており、培養中、これらの細胞の細胞数が正常細胞より少なくなるのは、細胞増殖活性の低下によることが示唆された。
【0064】
(d)ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるBrdU取り込みアッセイ
そこで、各細胞におけるDNA合成能の低下を確認するため、Cell Proliferation ELISA(BrdU kit (Roche diagnostics))を用いて、BrdU取り込みアッセイを行った。
まず、ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、96穴プレートに1×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で24時間培養した後、各ウェルにBrdUを入れて、24時間、37℃、5%CO2でインキュベートした。そして、各細胞のDNAを変性させた後、細胞を固定し、ペルオキシダーゼ結合抗BrdU抗体を結合させ、ルミノール基質を添加し、吸光度を370/492nmで測定してシグナルの強さを測定した。
【0065】
その結果、図3(d)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)は、コントロール(ASZ-shcontrol)と比べて、吸光度が約0.7〜0.8倍になり、BrdUの取りこみ能力が低下していた。このことにより、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、DNA合成能が低下していることが確認された。
このように、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、基底細胞癌由来の細胞の増殖を抑制することができるため、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、細胞増殖抑制剤及び基底細胞癌治療剤の有効成分として有用である。
【0066】
(e)gpr49遺伝子の発現を亢進させたヒトケラチノサイトHaCaT細胞の作製
そこで、今度はgpr49遺伝子を強制発現させた場合、細胞増殖がどのように変化するかを調べた。
【0067】
まず、10%胎仔ウシ血清(FBS, Moregate, Blimba, Australia)、100mg/Lストレプトマイシン、62.5mg/Lペニシリン含有Dulbeccos’s modified Eagle medium (DMEM, Sigma-Aldrich, st Louis, USA)を用いて、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞(Dr Norbert Fusenig(German Cancer Research Center, Heidelberg, Germany)から入手)を37℃、5%CO2で培養した。このヒトケラチノサイトHaCaT細胞に、Fugene6 (Roche社)を用いて、ヒトgpr49遺伝子発現ベクターをトランスフェクトした。72時間後以降、0.5μg/mlネオマイシン(G418)を添加し、G418耐性細胞を選択した。なお、ヒトgpr49遺伝子発現ベクターは、pcDNA3(Invitrogen社)にヒトgpr49 cDNA全長(RZPD, Berlin, Germany)を挿入して構築したが、一方、コントロールとしては、挿入DNAのないpcDNA3を用いた。
【0068】
こうしてネオマイシンで選択されたG418耐性細胞の中から、gpr49遺伝子の発現が亢進した細胞gpr49expを選択し、以下の実験に用いた。なお、gpr49exp細胞において、gpr49遺伝子の発現をRT-PCT及びウエスタンブロット法で調べた結果を、それぞれ図4(a)及び図2(g)に示した。ウエスタンブロット法では、ブロッティング用メンブレンにHybond-ECL (GE)を、一次抗体にウサギ抗GPR49ポリクローナル抗体(Cascade bio. Inc, Winchester, UK、500培希釈)、マウス抗HSC70ポリクローナル抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000倍希釈)を用い、化学発光基質を用いてHyperfilm ECL (GE Healthcare)に感光させた。なお、RT-PCRは、(1)(b)と同様に行った。
【0069】
(f)gpr49expにおける細胞増殖アッセイ
まず、コントロール及びgpr49expの各細胞を、6穴プレートに5×104個/ウェルの密度で播種した。37℃、5%CO2で培養し、24時間毎に細胞数を計測したところ、gpr49expは、コントロールと比べて細胞数増加率が高く、培養開始3日目には、細胞数がコントロールの約1.5倍になった(図4(b))。
【0070】
(g)gpr49expにおけるWST-1アッセイ
そこで、(2)(c)と同様に、WST-1アッセイによってミトコンドリアの代謝機能を測定し、細胞増殖活性を調べたところ、gpr49expは、コントロールより吸光度の増加率が高く、培養開始3日目において、コントロールと比べて、約1.3倍吸光度が高くなった(図4(c))。
このように、gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞は、細胞増殖活性が亢進していた。従って、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子は、細胞増殖促進剤の有効成分として有用である。
【0071】
(h)gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞の免疫不全(SCID)マウスにおける腫瘍形成能
gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞の免疫不全(SCID)マウスにおける腫瘍形成能を調べるため、(2)(e)で作製したgpr49exp細胞 1×107個を、免疫不全マウスの背部皮下に移植した。コントロールには、(2)(e)で作製した、挿入DNAのないpcDNA3を導入したHaCaT細胞を用いた。図5、6に免疫不全マウスにおける腫瘤形成を示す。
【0072】
図5(A)(B)及び図6(A)に示すように、gpr49expは、免疫不全マウスにおいて生着し、増殖したことが明らかに認められたが、コントロール細胞では、矮小腫瘍の形成又は腫瘍形成は認められなかった。また、(1)(b)に記載の定量RT-PCR法により、形成した腫瘤においてgpr49遺伝子の発現量を測定したところ、コントロールに比べ、gpr49遺伝子の発現量の亢進が認められた。以上より、gpr49遺伝子の発現亢進により、HaCaT細胞は免疫不全マウスにおいて腫瘍形成能を獲得することが示された。
【0073】
さらに、HE染色法を用いて、これらの腫瘤の組織像を観察したところ、図7に示すように、コントロール細胞では、嚢胞性腫瘤の形成が認められ、これらの嚢腫壁には、比較的均一な重層扁平上皮様構造が認められた(図7(B)及び(D))。一方、gpr49expでは、不規則に肥厚した嚢腫壁が認められ、これらの嚢腫壁には、核異型を伴った細胞と周囲間質への浸潤傾向を示す細胞が認められた(図7(A)及び(C))。
【0074】
このように、in vivoにおいても、gpr49遺伝子の発現亢進により細胞増殖が促進され、Gpr49タンパク質が生体内でも細胞増殖促進剤の有効成分として作用した。
【0075】
(3)シクロパミン投与によるマウスBCC細胞株におけるgpr49遺伝子の発現変化
基底細胞癌は、Hedgehogシグナル経路の脱制御により発生すると考えられている(Oro Ae, et al, Science, 276 (5313), 817-21 (1997))。そこで、基底細胞癌において特異的に発現が亢進するgpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路との関係を調べるために、 Hedgehogシグナル経路を阻害する薬剤として知られているシクロパミンを用いて、以下の実験を行った。なお、このシクロパミンはShh受容体複合体の構成要素であるSmo (smoothened)タンパク質を特異的に阻害することが知られている。
【0076】
まず、シクロパミンの投与が、gpr49遺伝子の発現にどのように影響するかを調べた。2%胎仔ウシ血清(FBS, Moregate, Blimba, Australia)、100mg/Lストレプトマイシン、62.5mg/Lペニシリン含有154CF medium (Cascade biogics, Portlan, USA)を用いて、ASZ001を37℃、5%CO2で培養した。シクロパミン(Biomol int, Philadelphia, USA)を0.19%エタノールで希釈し、最終10μMの濃度になるようにASZ001に投与した。投与開始0時間後(コントロール)、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後に、定量RT-PCR法によりgpr49遺伝子及びgli1遺伝子の発現量を測定した。なお、定量RT-PCR法は(1)(b)に、プライマーは図13に記載の通りであり、各遺伝子の発現量は、GAPDH遺伝子の発現量に対して標準化を行なった。
【0077】
その結果、シクロパミンを投与後、時間が経過するにつれて、ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現量は減少した(図8(a)左上)。また、シクロパミン投与後すぐに、ASZ001におけるgli1遺伝子の発現量が減少し、その後gli1遺伝子の発現量が減少しないことから、実際にシクロパミン投与によってHedgehogシグナル経路が抑制されたことが確認された(図8(a)左下)。
【0078】
次に、シクロパミンの濃度を0、2、10μMに変え、これらの濃度がgpr49遺伝子の発現量にどのように影響するかを調べた。まず、ASZ001の培養液中に、0μM(コントロール)、2μM又は10μMの濃度のシクロパミンを投与し、48時間後、RT-PCR及びウエスタンブロット法により、gpr49遺伝子の発現量を測定した。また、Hedgehogシグナルのマーカーであるgli1遺伝子の発現量も、上記と同様に定量RT-PCR法を用いて測定した。なお、プライマーは図13に記載の通りである。なお、図8(b)のウエスタンブロット法において、ブロッティング用メンブレンにはHybond-ECL (GE)を、一次抗体にはウサギ抗GPR49ポリクローナル抗体(Cascade bio. Inc, Winchester, UK、500培希釈)、マウス抗βアクチン抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にはHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000培希釈)をそれぞれ用い、感光にはHyperfilm ECL (GE Healthcare)を用いた。
【0079】
その結果、シクロパミンの濃度が増加するにつれて、ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現量は減少した(図8(a)右上及び(b))。また、シクロパミンの濃度が増加するにつれて、ASZ001におけるgli1遺伝子の発現量も減少し、実際にHedgehogシグナル経路が抑制されていることが確認された(図8(a)右下)。
このように、Hedgehogシグナルの抑制によって、gpr49遺伝子の発現が抑制された。
【0080】
(4)gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路との相関
そこで、gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路の相互作用をより詳細に調べるため、gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路の各遺伝子(ptch1、gli1、gli2、wnt5a)との関係を調べた。
【0081】
(1)で用いた基底細胞癌患者20例の癌組織において、図13に記載のプライマーを用い、(1)(b)と同様に定量RT-PCR法を行い、gpr49遺伝子及びHedgehogシグナル伝達経路に関与する遺伝子(ptch1、gli1、gli2、wnt5a)の発現を調べたところ、gpr49遺伝子の発現とgli1遺伝子の発現は、高い相関(有意差0.01、ピアソンの相関係数0.802)を示した(表1)。一方、gpr49遺伝子の発現とgli2遺伝子の発現又はwnt5aの発現には、gli1遺伝子の発現ほど高い相関は認められなかった。
【0082】
[表1]
【0083】
(5)gli1によるgpr49遺伝子の発現変化
そこで、Hedgehogシグナル経路において、gli1遺伝子とgpr49遺伝子の上下関係を調べるために、以下の実験を行った。
【0084】
まず、Fugene6 (Roche社)を用いて、HaCaT細胞に、マウスgli1遺伝子発現ベクターをトランスフェクトした(図ではHaCaT+ mus gli1 exp)。なお、ここで使用するマウスgli1遺伝子発現ベクター(マウスgli1 cDNA全長をpcDNA3に挿入)は、Dr Hiroshi Sasaki (Riken, Kobe, Japan)から譲渡されたものである。また、コントロールには、何もトランスフェクトしない細胞(図ではHaCaT+none)と、pcDNA3をトランスフェクトした細胞(図ではHaCaT+ pcDNA3)を用いた。72時間後以降、0.5μg/mlネオマイシン(G418)を添加して、安定に遺伝子が導入された細胞を選択し、定量RT-PCR又はウエスタンブロット法を用いて、gli1遺伝子の発現が亢進していることを確認した(図9(a)左下及び(b))。さらに、HaCaT細胞におけるgpr49遺伝子の発現量を測定した。なお、ウエスタンブロット法において、ブロッティング用メンブレンにはHybond-ECL (GE)を、一次抗体にはウサギ抗Gli1ポリクローナル抗体(GeneTex Inc. USA、500培希釈)、ヤギ抗PTCH1ポリクローナル抗体(Santacruzbio inc, CA, U.S.A.、500培希釈)、マウス抗βアクチン抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にはHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗ヤギ抗体(1000培希釈)を、感光にはHyperfilm ECL (GE Healthcare)を用いた。その結果、gli1遺伝子を強制発現した細胞(gli1 exp)では、gpr49遺伝子の発現が亢進していた(図9(a)左上及び(b))。また、ポジティブコントロールである、Gli1タンパク質の標的遺伝子の一つであるptch1遺伝子の発現量も、上記と同様に定量RT-PCR法を用いて測定し、その発現量は増加していることが確認された(図9(a)右上及び(b))。なお、用いたプライマーは図13に記載の通りである。
このように、gpr49遺伝子は、Gli1因子によって転写活性化される下流遺伝子群の一つであった。
【0085】
(6)gpr49遺伝子の発現抑制又は強制発現によるgli1及びgli2の発現変化
今度は逆に、gpr49遺伝子の発現を制御することによりgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現がどのように変化するかを調べた。
gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)とgpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞(gpr49exp)における、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現量を、図13に記載のプライマーにより(1)(b)と同様に定量RT-PCR法を行って測定したところ、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現は低下しており(図10(a)(b))、gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞では、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現は増加した(図10(c))。
このように、Gpr49タンパク質は、gli1遺伝子及びgli2遺伝子の転写を調節するため、Gpr49タンパク質の機能を増強/抑制する増強因子/抑制因子は、Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進/抑制する発現亢進剤/抑制剤として有用である。
【0086】
<実施例2:膵癌>
(1)定量RT-PCR法を用いたgpr49遺伝子及びshh遺伝子の発現量測定
膵癌由来の培養細胞におけるgpr49遺伝子及びshh遺伝子の発現量を測定した。まず、RNeasy Mini Kit (Quiagen)を用いて、10種類の膵癌細胞株(Capan1、Capan2、AsPC1、HPAF II、Panc1、CFPAC、HPAC、MPanc96、BxPC3、Hs766T)から総RNAを抽出し、得られた総RNAから、First-Strand cDNA Synthesis Kit (GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて、cDNAを合成した。次に、得られたcDNAを用いてSYBR PremixExTaq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社)を使用し、ABI PRIZM 7000(Applied Biochem)にて、PCRを行なった。定量RT-PCRに用いたプライマーは、図13に記載の通りである。なお、遺伝子発現量は、gpr49遺伝子及びshh遺伝子のct値を、GAPDH遺伝子発現量で補正した相対量で表した。
【0087】
このようにして各々の膵癌細胞株においてgpr49遺伝子の発現量を測定したところ、AsPC-1細胞株およびMPanc96細胞株において、gpr49遺伝子の発現量の著しい上昇(800〜1000倍以上)が認められた。一方、他の7種の膵癌細胞株では、gpr49遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図11(a))。また、同様に、shh遺伝子の発現量を測定したところ、MPanc96細胞株やAsPC-1細胞株において、shh遺伝子の発現量の著しい上昇(2.5〜10倍以上)が認められたが、Capan-1細胞株やPanc-1細胞株、その他の膵癌細胞株では、shh遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図11(b))。
このように、gpr49遺伝子及びshh遺伝子は、一部の膵癌細胞において発現が亢進している。
【0088】
(2)Gpr49タンパク質の機能解析
膵癌細胞におけるGpr49タンパク質の機能を解析するために、gpr49遺伝子を高レベルで発現しているマウスのAsPC-1細胞株において、shRNAを用いて、gpr49遺伝子の発現を抑制した。
【0089】
(a)shRNAを用いたgpr49遺伝子の発現抑制
gpr49遺伝子の発現抑制には、実施例1に記載のoligos64-nt hairpin-loop配列(GPR49-585、GPR49-662)を使用した。なお、コントロールとして、実施例1に記載のAsPC-shcontrolを用いて、同様の実験を行った。
Fugene6を用いて、各shRNA発現ベクター6μgを1×107個のAsPC-1細胞にトランスフェクトした。72時間後以降、2.5μg/ml puromycin(Invitrogen社)を添加して、3週間培養し、puromycin耐性細胞を選択した。
こうして得られたpuromycin耐性細胞(以下、GPR49-585、GPR49-662、及びAsPC-shcontrol を用いて得られた細胞に対し、それぞれAsPC-sh585、AsPC-sh662、及び AsPC-shcontrolと記載する。)において、実施例1に記載の(1)(b)と同様に定量RT-PCRでgpr49遺伝子の発現を調べたところ、AsPC-sh662では、gpr49遺伝子の発現が、AsPC-shcontrolと比べて約0.37倍に低下していたが、AsPC-sh585では、gpr49遺伝子の発現量の低下はほとんど認められなかった(図12(a))。
【0090】
(b)AsPC-sh662における細胞増殖アッセイ
そこで、AsPC-sh662において、細胞の増殖能を調べるために、AsPC-sh662及びAsPC-shcontrolを、実施例1に記載の(2)(b)の方法を用いて培養し、24時間ごとに細胞数を計測した。
その結果、図12(b)に示すように、AsPC-sh662は、AsPC-shcontrolより生細胞数が少なくなり、培養開始3日目には、AsPC-shcontrolに比べて、約0.3倍の細胞数になった。
【0091】
このように、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、膵癌細胞の細胞増殖を抑制することができるため、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、細胞増殖抑制剤及び膵癌治療剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(A)本発明の一実施例において行なった、GeneChip解析の結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、基底細胞癌患者の癌組織におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。症例1〜症例20は、基底細胞癌の患者である。
【図2】(a)〜(f)は本発明の一実施例において、基底細胞癌患者の癌組織におけるgpr49遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションで調べた結果を示す図である。(a)、(b)、(c)、(d)は症例19を、(e)、(f)は症例7における結果を示す。また、(a)、(c)、(e)はアンチセンスシグナルを、(b)、(d)、(f)はセンスシグナル(ネガティブコントロール)を示す。(g)は本発明の一実施例において、ASZ001及びgpr49expにおけるgpr49遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図3(a)】(a)本発明の一実施例において、gpr49遺伝子の発現を抑制したASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図3(b)】(b)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図3(c)】(c)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖活性をWST-1アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図3(d)】(d)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖をBrdU取り込みアッセイによって調べた結果を示す図である。
【図4(a)】(a)本発明の一実施例において、gpr49expにおけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図4(b)】(b)本発明の一実施例において、gpr49expの細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図4(c)】(c)本発明の一実施例において、gpr49expの細胞増殖促進活性をWST-1アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図5】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍形成能(10週目)を調べた結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍形成能(18週目)を調べた結果を示す図である。
【図6】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍の増殖を調べた結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、腫瘍部位におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図7】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:100倍)。(B)本発明の一実施例において、コントロール細胞を免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:100倍)。(C)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:400倍)。(D)本発明の一実施例において、コントロール細胞を免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:400倍)。
【図8】(a)本発明の一実施例において、シクロパミン投与時及び投与後のASZ001細胞におけるgpr49遺伝子及びgli1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、シクロパミン投与後のASZ001細胞におけるgpr49遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図9】(a)本発明の一実施例において、gpr49expにおけるgpr49遺伝子、gli1遺伝子、及びptch1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、gli1遺伝子を強制発現したHaCaT細胞におけるgpr49遺伝子、gli1遺伝子、及びptch1遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図10(a)】本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgli1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図10(b)】本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgli2遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図10(c)】本発明の一実施例において、gpr49expのgli1遺伝子の発現及びgli2遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図11】(a)本発明の一実施例において、各種膵癌細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、各種膵癌細胞株におけるshh遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図12】(a)本発明の一実施例において、AsPC-shcontrol(shControl)、AsPC-sh585 (sh585)及びAsPC-sh662 (sh662)におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、AsPC-shcontrol(Control)及びAsPC-sh662細胞(662)の細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施例において、定量RT-PCR法に用いたプライマーの配列を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hedgehogシグナル活性調節剤、細胞増殖調節剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子標的薬という新しいタイプの抗悪性腫瘍薬が導入されている。この分子標的薬は、それぞれの悪性腫瘍に特異的に発現する分子を標的にして製剤設計された薬剤である。そのため、分子標的薬は、従来の抗悪性腫瘍薬よりも腫瘍に対する特異性が高く、副作用が少ないと考えられている。しかし、現在までに上市された分子標的薬は、慢性骨髄性白血病治療薬のイマニチブ(例えば、非特許文献1参照)、非小細胞肺癌治療薬のゲフィチニブ(例えば、非特許文献2及び3参照)、急性前骨髄球性白血病治療薬のトレチノイン、CD20陽性B細胞性非ホジキンリンパ腫治療薬のリツキシマブ、転移性乳癌治療薬のトラスツズマブ等しかない。
【0003】
Hedgehogシグナル経路は、細胞の分化、増殖及び成長等、脊椎動物の発生の過程において重要な役割を果たしているが、その一方で、このシグナル制御からの逸脱は各種の腫瘍発生を引き起こす。このようなHedgehogシグナル経路に起因する疾患を治療するために、Hedgehogシグナル経路を阻害する薬剤が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特表2002-511415号公報
【特許文献2】特表2004-529067号公報
【非特許文献1】B. J. Druker et al., Nat Med 2, 561-6. (1996)
【非特許文献2】Fukuoka, M. et al, J. Clin. Oncol., 21, 2237-2246 (2003)
【非特許文献3】Miller, V. A. et al, J. Clin. Oncol., 1103-1109 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、新規Hedgehogシグナル活性増強剤及び抑制剤、新規細胞増殖促進剤及び抑制剤、新規基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤、並びにそれらの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、基底細胞癌において特異的に発現する分子を解明すべく鋭意努力した結果、以下の実施例に示す通り、基底細胞癌患者の病巣部位においてgpr49遺伝子の発現量が有意に増加することを見出した。さらに、このgpr49遺伝子が、分子標的として基底細胞癌治療に有用かどうかを調べた結果、gpr49の発現遺伝子を抑制した基底細胞癌細胞株(ASZ001)は、細胞増殖が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明にかかる細胞増殖促進剤は、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0007】
また、本発明にかかる細胞増殖抑制剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0008】
さらに、本発明にかかる基底細胞癌治療剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0009】
また、本発明にかかる膵癌治療剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0010】
さらに、本発明にかかるhedgehogシグナル活性増強剤は、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0011】
また、本発明にかかるhedgehogシグナル活性抑制剤は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0012】
さらに、本発明にかかる発現抑制剤は、hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤であって、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記抑制因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0013】
また、本発明にかかる発現亢進剤は、hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進する発現亢進剤であって、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有することを特徴とする。ここで、前記増強因子は、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強してもよい。
【0014】
さらに、本発明にかかる診断キットは、基底細胞癌を診断する診断キットであって、gpr49の発現を診断マーカーとして使用することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるスクリーニング方法は、基底細胞癌又は膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法であって、培養条件下で、癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、前記細胞におけるgpr49の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明にかかる細胞増殖抑制方法は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、細胞増殖を抑制する方法であって、前記細胞増殖抑制剤を前記脊椎動物内に投与することを特徴とする。また、前記方法は、基底細胞癌又は膵癌に対する治療に用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、新規Hedgehogシグナル活性増強剤及び抑制剤、新規細胞増殖促進剤及び抑制剤、新規基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤、並びにそれらの使用方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態において実施例を挙げながら具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
(1)薬理作用
悪性腫瘍は、増殖力が強く、周囲の組織を破壊したり浸潤したりして転移し、生体に致命的な害を与える腫瘍である。そのため、悪性腫瘍の治療で用いられる抗悪性腫瘍薬は、悪性腫瘍の消滅又は縮小を図ったり、あるいは悪性腫瘍細胞の増殖を抑制したりする目的で投与される。
【0022】
本発明者らは、以下の実施例に示すように、基底細胞癌由来の細胞株ASZ001においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、基底細胞癌に対する治療に用いることができる。なお、基底細胞癌の治療においては、本発明の基底細胞癌治療剤の投与の他に、掻爬法、電気焼灼法、手術、放射線療法等を組み合わせてもよい。
【0023】
同時に、本発明者らは、以下の実施例に示すように、膵癌由来の細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、この細胞の増殖を抑制することを可能にした。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、膵癌に対する治療に用いることができる。なお、膵癌の治療においては、本発明の膵癌治療剤の投与の他に、他の抗膵癌治療薬(例えば、5-FU、マイトマイシン、ストレプトゾトシン、ドクソルビシン、ゲムシタビン等)の投与、手術、放射線療法等を組み合わせてもよい。
【0024】
上記Gpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制することができる物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制してもよく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的とする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。一般に、細胞内で遺伝子の発現を抑制すると、発現の最終産物であるタンパク質の量が減少し、そのタンパク質の全体的な機能が低下するからである。なお、遺伝子の発現抑制は、その遺伝子の転写から、機能的なタンパク質の産生までのどの段階で抑制してもよい。
【0025】
このように、本発明の基底細胞癌治療剤及び膵癌治療剤は、従来の抗悪性腫瘍薬とは異なる作用機序を有する、Gpr49タンパク質を標的にした分子標的薬である。
【0026】
(2)本発明の薬剤
(i)Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤
(a)細胞増殖促進
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子発現ベクターをヒトケラチノサイトHaCaT細胞にトランスフェクトすることにより、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞の増殖能を促進させることができる。従って、Gpr49タンパク質機能増強因子を含有する薬剤は、細胞増殖を促進するのに有用である。
【0027】
なお、本発明の薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能増強因子は、Gpr49タンパク質の機能を増強する物質であればよいが、gpr49遺伝子の発現を増強する物質であることが好ましく、例えば、gpr49遺伝子発現ベクターを用いることができる。
【0028】
Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤に用いられ得る薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いてもよく、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等を含有してもよい。さらに必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量含有してもよい。また、剤形としては、経口剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、徐放性錠・カプセル・顆粒剤、カシュー剤、咀嚼錠剤又はドロップ剤等が、注射剤は、例えば、溶液性注射剤、乳濁性注射剤、又は固形注射剤等が、外用剤は、例えば、撤布粉剤、ローション、軟膏・クリーム、スプレー、テープ剤等が挙げられる。
【0029】
(b)Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現亢進
Hedgehogシグナル経路は、細胞の分化、増殖及び成長等、脊椎動物の発生の過程において重要な役割を果たしている(Nybaken K, Perrimon N: Curr Opinion Genet Dev 12, 503-511 (2002))。ここで、Gli1タンパク質とGli2タンパク質は、脊椎動物のHedgehogシグナル経路において、標的遺伝子の転写活性化に関与している。
【0030】
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子発現ベクターをヒトケラチノサイトHaCaT細胞にトランスフェクトすると、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現は亢進した。従って、Gpr49タンパク質の機能を増強する機能増強因子を含有する薬剤は、Hedgehogシグナル活性を増強させるのに有用である。
【0031】
なお、本発明の薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能増強因子は、Gpr49タンパク質の機能を促進する物質であればよいが、gpr49遺伝子の発現を増強させる物質であることが好ましく、例えば、gpr49遺伝子発現ベクターを用いることができる。一般に、細胞内で遺伝子の発現を増強すると、発現の最終産物であるタンパク質の量が増加し、そのタンパク質の全体的な機能が増強するからである。なお、遺伝子の発現増強は、その遺伝子を強制発現させてもよく、その遺伝子の発現を正に調節する上流の遺伝子を強制発現させてもよい。
【0032】
Gpr49タンパク質機能増強因子を有効成分として含有する薬剤に用いられ得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0033】
(ii)Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤
(a)細胞増殖抑制
以下の実施例に示す通り、マウスBCC細胞株(ASZ001)においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、ASZ001細胞の増殖を抑制することができる。従って、Gpr49タンパク質機能抑制因子を含有する薬剤は、細胞増殖を抑制するのに有用である。
【0034】
なお、本薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制してもよく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的にする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。
【0035】
Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤に用い得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0036】
(b)Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現抑制
以下の実施例に示すように、マウスBCC細胞株(ASZ001)においてgpr49遺伝子の発現を抑制することにより、ASZ001細胞におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制することができる。従って、Gpr49タンパク質の機能を抑制する機能抑制因子を含有する薬剤は、Hedgehogシグナル活性を抑制するのに有用である。
【0037】
なお、本薬剤に含まれるGpr49タンパク質機能抑制因子は、Gpr49タンパク質の機能を抑制する物質であればよく、例えば、Gpr49タンパク質に特異的に結合し、その機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物等であってもよい。また、Gpr49タンパク質の機能を抑制するために、gpr49遺伝子の発現を抑制することが好ましく、例えば、gpr49遺伝子の転写産物を標的とする、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等を含有する発現抑制剤を用いてもよい。
【0038】
Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤に用い得る薬学的に許容される担体及び剤形は、(2)(i)(a)に記載の通りである。
【0039】
(iii)Hedgehogシグナル経路を阻害する因子を有効成分として含有する薬剤
以下の実施例に示すように、Hedgehogシグナル経路のSmo (smoothened)を特異的に阻害する薬剤であるシクロパミン(Daya-Grosjean L, Sarasin A, Mutat Res, 450, 193-199 (2000))をマウスBCC細胞株(ASZ001)に投与することにより、ASZ001細胞におけるgpr49遺伝子の発現を抑制することができる。従って、シクロパミン等のHedgehogシグナル経路を阻害する因子は、gpr49遺伝子の発現を抑制するのに有用である。ここで、Hedgehogシグナル経路を阻害する因子としては、シクロパミンの他、AY9944、トリパラノール、ジェルビン、トマチジン等の薬剤や、Hedgehogシグナル経路のSmoタンパク質の機能を特異的に抑制する抗体やアプタマーや、化合物、smo遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤(siRNA、miRNA、アンチセンスRNA等)等が挙げられる。
【0040】
(3)ヒト又はヒト以外の脊椎動物への上記薬剤の投与量及び投与方法
上記薬剤の投与量は、年齢、体重、適応症又は投与・摂取経路によって異なるが、上記作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。
【0041】
また、上記薬剤の投与経路は、上記薬剤が基底細胞癌又は膵癌に送達される投与経路であれば、特に限定されないが、基底細胞癌の治療の場合は経皮投与、皮下投与、真皮下投与、皮内投与、又は局所投与が、また、膵癌の治療の場合は経口投与、静脈内投与、又は局所投与が好ましい。
【0042】
具体的な投与方法としては、例えば、ヒト又はヒト以外の脊椎動物の、基底細胞癌又は膵癌を含む細胞を採取し、その細胞においてgpr49遺伝子の発現量を測定するという生検を行い、gpr49遺伝子又の発現量が正常値以上である場合に、本発明のGpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤を投与することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制してもよい。
【0043】
ここで、「正常値」とは、例えば、一般的に健常人におけるgpr49遺伝子の発現量または当該患者の基底細胞癌又は膵癌発症前のgpr49遺伝子の発現量等が考えられる。なお、一般に、遺伝子の発現量は、基底細胞癌又は膵癌を含む細胞を採取し、RT-PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、ELISA法、ウエスタンブロット法、免疫組織学的方法等によって、その遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるタンパク質の量を測定することにより算出することができる。
【0044】
また、gpr49遺伝子の発現量を測定すること無く、必要な時に各薬剤を投与してもよい。例えば、母斑様基底細胞腫症候群等の遺伝的疾患を有している場合や、膵癌になりやすいといわれる疾患(例えば、慢性膵炎、糖尿病、胆石症等)を合併している場合等に、基底細胞癌又は膵癌の発症を予防または治療する目的で、Gpr49タンパク質機能抑制因子を有効成分として含有する薬剤を投与してもよい。
【0045】
(4)診断マーカー
以下の実施例に示すように、gpr49遺伝子は、基底細胞癌において、特異的に発現する。従って、gpr49遺伝子の発現は、基底細胞癌を診断するマーカーとして利用できる。
【0046】
(i)gpr49遺伝子の発現を調べる場合
診断対象の個体から得た基底細胞(もしくは皮膚細胞)において、gpr49遺伝子の転写産物の量をノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCRで検出することにより、あるいは、Gpr49タンパク質の量をELISA法などによって調べることにより、gpr49遺伝子の発現を調べることができる。
このようにして調べた結果、診断対象の個体において、基底細胞におけるgpr49遺伝子の発現が正常値より高い場合には、基底細胞癌を発症していると診断する。
【0047】
(ii)診断マーカーの有用性
本発明のマーカーは、基底細胞癌を含む細胞に適用することができる。
また、基底細胞癌を診断するためには、gpr49遺伝子の発現量を測定するための試薬をキットとすることにより、簡便に診断することができるようになる。このキットに含まれる試薬としては、例えば、gpr49遺伝子の転写産物量を測定するためのRT-PCR用の酵素やプライマー、Gpr49タンパク量を測定するためのELISA用の抗体やバッファー等が挙げられる。
【0048】
(5)基底細胞癌及び膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法
gpr49遺伝子の発現量を基底細胞癌及び膵癌のマーカーとし、本発明の基底細胞癌及び膵癌に対する治療に効果を有する物質をスクリーニングすることができる。例えば、培養条件下で、gpr49遺伝子を発現している癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、これらの細胞におけるgpr49遺伝子の発現量を抑制する物質を選択する。このようにして選択された物質は、gpr49遺伝子の発現抑制を通じて、基底細胞癌又は膵癌の細胞増殖を抑制することができる。従って、このようにして選択された物質は、基底細胞癌又は膵癌の治療に効果があり、抗悪性腫瘍薬として用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0050】
<実施例1:基底細胞癌>
(1)ヒト基底細胞癌特異的に発現する分子の解析
基底細胞癌において特異的に発現している遺伝子を同定するために、GeneChipデータベース(バイオエクスプレス)の解析と、その結果に基づき、基底細胞癌の手術材料から抽出した総RNAを用いた定量PCRを行なった。
【0051】
(a)GeneChip解析
GeneChipによる遺伝子発現データベース(バイオエクスプレス)から、50例のヒト正常皮膚と11例のヒト皮膚基底細胞癌の遺伝子発現を解析した結果、基底細胞癌11例全例でG蛋白共役受容体のgpr49遺伝子が正常皮膚に比べ10〜20倍発現が亢進していることを認めた。それらのサンプルにおいて、発現レベルの平均値と標準偏差を求めたところ(図1A)、ヒト皮膚基底細胞癌において、gpr49遺伝子の発現が亢進していることが認められた。
【0052】
(b)定量RT-PCR法を用いたgpr49遺伝子の発現量測定
しかしながら、(a)の結果だけでは信頼性が低く、データベースでシグナルが認められても、目的の部位での発現が確認されたとは言えないため、基底細胞癌患者の癌組織において、実際にgpr49遺伝子が発現しているかを調べる必要があった。そのため、定量RT-PCR法を用いて、基底細胞癌患者におけるgpr49遺伝子の発現量をより正確に測定した。まず、凍結保存された基底細胞癌組織からRNeasy Mini Kit (Quiagen)を用いて、基底細胞癌患者20人から癌組織20例、基底細胞癌以外の皮膚疾患を有する患者(ボーエン病、扁平上皮癌及び脂漏性角化症)3人から3例、および同患者6人から非癌組織の皮膚6例を採取して総RNAを抽出し、得られた総RNAの1μgから、First-Strand cDNA Synthesis Kit (GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて、cDNAを合成した。次に、得られたcDNAの1.5μl(0.1μgRNA相当量)を用いてSYBR Green PCR Core Reagents (Applied Biosystems, Warrington UK)を使用し、ABI7700にて、PCRを行なった。定量RT-PCRに用いたプライマーは、図13に記載の通りである。なお、増幅産物量(X)は、式X=2-ΔΔCtを用いて計算した。(ここで、ある反応で得られた蛍光が閾値(Threshold)に達するときのサイクル数をCtとし、gpr49遺伝子のCtとGAPDH遺伝子のCtとの比をΔCtとした時、gpr49遺伝子のΔCtとGAPDH遺伝子のΔCtの比を算出し、ΔΔCtとした。)
このようにして基底細胞癌患者20人の癌組織においてgpr49遺伝子の発現量を測定し、非癌組織の平均値に対する発現量を計算したところ、2例(症例6および10)を除き、非癌組織の平均値に比べgpr49遺伝子の発現量の著しい亢進(50〜1000倍以上)が認められた(図1B)。一方、基底細胞癌以外の皮膚疾患を有する患者では、gpr49遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図1B)。これにより、gpr49遺伝子は、基底細胞癌に特異的に発現が著しく亢進することが明らかになった。なお、gpr49遺伝子の発現量が上昇しなかった2例の患者では、サンプルの基底細胞層を単離するとき、他の細胞の混入が大きかったものと考えられた。
【0053】
(c)in situハイブリダイゼーション
次に、基底細胞癌患者の癌組織において、どの細胞がgpr49遺伝子を発現しているかを調べるために、in situハイブリダイゼーションを行なった。
【0054】
まず、120bpのgpr49遺伝子断片(GenBank NM_003667、2548-2667ヌクレオチド(配列番号25))をpBluescript II(Stratagene社)に両方向にクローニングし、AmpliScribe T7-Flash Transcription Kit (EPICENTRE, Wisconsin, USA)を用いて、ジゴキシゲニン標識のgpr49センスプローブ及びgpr49アンチセンスプローブを作製した。
【0055】
次に、症例7及び症例19の患者のサンプルを用い、10μmのパラフィン切片を作製した。この切片を、4mg/mlサーモリシン(37℃、15分)及び10μg/mlproteinase K(37℃、15分)で処理した後、PBSで洗浄(室温)した。さらに、2mg/mlグリシン含有PBS(室温、10分)、0.1M TEA (pH8.0)(室温、15分)、0.25% AC2O(室温、15分)で順次処理をした後、4×SSCで洗浄(室温)し、50〜100% EtOHを用いて脱水した。この切片に、センスプローブまたはアンチセンスプローブ(80〜10ng)を含有したハイブリダイゼーションバッファー(50%ホルムアミド、2×SSC、1mg/ml transferRNA、1mg/mlsalmon sperm DNA、10%硫酸デキストラン、1%SDS、1×Denhardts solution)をのせ、37℃、オーバーナイトでハイブリダイゼーションを行なった。
【0056】
翌日、これらの切片を、2×SSC-50%ホルムアミドで20分間、2×SSCで2分間(×2回)、NTEバッファー(10mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、1mM EDTA)内で5分間(×2回)洗浄し、10μg/ml RNaseAで37℃30分間処理した後、NTEバッファーで洗浄した。次に、これらの切片を、2×SSCで42℃10分間、0.1×SSCで42℃5分間洗浄し、NTバッファー(100mM Tris-HCl、150mM NaCl pH7.5)でリンスした。これらの切片を、5%ヤギ血清(NGS)含有NTバッファーで30分間ブロッキングし、NTバッファーで250倍希釈したアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体(Roche社)を入れて1時間インキュベートし、その後、NTバッファーで15分間(×2回)、NTMバッファー(100mM Tris-HCl pH9.5、100mM NaCl、50mM MgCl2)で2分間洗浄した。最後に、BCIP/NBTを基質にして発色させた。図2(a)-(d)には症例19の結果を、図2(e)(f)には症例7の結果を示したが、センスプローブ(ネガティブコントロール)を用いた場合(図2(b)(d)(f))、gpr49遺伝子の発現は検出されず、アンチセンスプローブを用いた場合(図2(a)(c)(e))、gpr49遺伝子の発現は腫瘍病巣部位に強く検出された。
【0057】
以上より、gpr49遺伝子の発現が、基底細胞癌において特異的に、著しく亢進することが明らかになった。
【0058】
(2)Gpr49タンパク質の機能解析
Gpr49タンパク質の機能を解析するために、gpr49遺伝子を高レベルで発現しているマウスのBCC細胞株ASZ001(Aszterbaum M, Epstein J, Oro A, et al, Nat Med, 5, 1285-1291 (1999))(Dr Ervin Epstein (Department of dermatology, University of California, San Francisco, USA)から入手)において、shRNAを用いて、gpr49遺伝子の発現を抑制した。
【0059】
(a)shRNAを用いたgpr49遺伝子の発現抑制
gpr49遺伝子の発現抑制には、Sigma社において合成されたoligos64-nt hairpin-loop配列(21-nt shRNA標的配列を含む)(GPR49-585、GPR49-662)を使用した。なお、コントロール(Control-Ri)には、ランダムな配列を有する同じ長さのオリゴヌクレオチドを用いた。
GPR49-585 RiS(配列番号26):
gatcccc-gaacaaaatacaccacata-ttcaagaga-tatgtggtgtattttgttc-tttttggaaa
GPR49-585 RiAS(配列番号27):
agcttttccaaaaa-gaacaaaatacaccacata-tctcttgaa-tatgtggtgtattttgttc - ggg
GPR49-662 RiS(配列番号28):
gatcccc-gaatccactccctgggaaa -ttcaagaga-tttcccagggagtggattc-tttttggaaa
GPR49-662 RiAS(配列番号29):
agcttttccaaaaa-gaatccactccctgggaaa-tctcttgaa-tttcccagggagtggattc - ggg
Control RiS(配列番号30):
gatcccc -taaggctatgaagagatac-ttcaagaga-gtatctcttcatagcctta-tttttggaaa
Control RiAS(配列番号31):
agcttttccaaaaa-taaggctatgaagagatac-tctcttgaa - gtatctcttcatagcctta-ggg
【0060】
上記のGPR49-585 Ri, GPR49-662-Ri, Control-Ri のそれぞれの対の合成オリゴヌクレオチドをアニールしてpuromycin耐性遺伝子を持つ発現ベクターのCMVプロモーターの下流に挿入した。作成したshRNA発現ベクターを、Fugene6 (Roche社)を用いてASZ001細胞にトランスフェクトした。72時間後以降、0.6μg/ml puromycin(Invitrogen社)を添加し、puromycin耐性細胞を選択した。こうして選択された細胞(以下、GPR49-585 Ri、GPR49-662-Ri、及び Control-Riを用いて得られた細胞に対し、それぞれASZ-sh585、ASZ-sh662及びASZ-shcontrolと記載する。)において、(1)(b)と同様に定量RT-PCRでgpr49遺伝子の発現を調べ、ASZ-shcontrolに対するASZ-sh585とASZ-sh662の発現量比を計算したところ、 ASZ-sh585とASZ-sh662では、gpr49遺伝子の発現が1/2〜1/3に低下していた(図3(a))。そこで、これらの細胞を用いて、以下の実験を行なった。
【0061】
(b)ASZ-sh585及びASZ-sh662における細胞増殖アッセイ
まず、これらの細胞の増殖能を調べるために、ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、6穴プレートに5×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で培養し、24時間毎に細胞数を計測した(4回計測し、その平均をとった)。
その結果、図3(b)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)は、コントロール(ASZ-shcontrol)より生細胞数が少なくなり、培養開始4日目には、コントロール(ASZ-shcontrol)に比べて、約0.56倍の細胞数になった。
【0062】
(c)ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるWST-1アッセイ
そこで、培養開始4日目における細胞数の減少が、細胞増殖活性の減少によるのか、細胞死によるのかを調べるため、これらの細胞に対し、WST-1アッセイ(Roche diagnostics, Mannheim, Germany)を行い、ミトコンドリアの代謝機能を調べた。
ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、24穴プレートに1×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で培養し、WST-1試薬を24時間毎に各ウェルに入れ、30分間インキュベートした後、吸光度を450/690nmで測定した。
【0063】
その結果、図3(c)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)では、吸光度の上昇率が低く、例えば、培養開始4日目において、コントロール(ASZ-shcontrol)と比べて、吸光度が約0.3〜0.5倍になった。すなわち、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、ミトコンドリアの代謝機能が低減しており、培養中、これらの細胞の細胞数が正常細胞より少なくなるのは、細胞増殖活性の低下によることが示唆された。
【0064】
(d)ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるBrdU取り込みアッセイ
そこで、各細胞におけるDNA合成能の低下を確認するため、Cell Proliferation ELISA(BrdU kit (Roche diagnostics))を用いて、BrdU取り込みアッセイを行った。
まず、ASZ-sh585、ASZ-sh662、及びASZ-shcontrolを、96穴プレートに1×104個/ウェルの密度で播種して37℃、5%CO2で24時間培養した後、各ウェルにBrdUを入れて、24時間、37℃、5%CO2でインキュベートした。そして、各細胞のDNAを変性させた後、細胞を固定し、ペルオキシダーゼ結合抗BrdU抗体を結合させ、ルミノール基質を添加し、吸光度を370/492nmで測定してシグナルの強さを測定した。
【0065】
その結果、図3(d)に示すように、gpr49遺伝子をノックダウンした細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)は、コントロール(ASZ-shcontrol)と比べて、吸光度が約0.7〜0.8倍になり、BrdUの取りこみ能力が低下していた。このことにより、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、DNA合成能が低下していることが確認された。
このように、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、基底細胞癌由来の細胞の増殖を抑制することができるため、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、細胞増殖抑制剤及び基底細胞癌治療剤の有効成分として有用である。
【0066】
(e)gpr49遺伝子の発現を亢進させたヒトケラチノサイトHaCaT細胞の作製
そこで、今度はgpr49遺伝子を強制発現させた場合、細胞増殖がどのように変化するかを調べた。
【0067】
まず、10%胎仔ウシ血清(FBS, Moregate, Blimba, Australia)、100mg/Lストレプトマイシン、62.5mg/Lペニシリン含有Dulbeccos’s modified Eagle medium (DMEM, Sigma-Aldrich, st Louis, USA)を用いて、ヒトケラチノサイトHaCaT細胞(Dr Norbert Fusenig(German Cancer Research Center, Heidelberg, Germany)から入手)を37℃、5%CO2で培養した。このヒトケラチノサイトHaCaT細胞に、Fugene6 (Roche社)を用いて、ヒトgpr49遺伝子発現ベクターをトランスフェクトした。72時間後以降、0.5μg/mlネオマイシン(G418)を添加し、G418耐性細胞を選択した。なお、ヒトgpr49遺伝子発現ベクターは、pcDNA3(Invitrogen社)にヒトgpr49 cDNA全長(RZPD, Berlin, Germany)を挿入して構築したが、一方、コントロールとしては、挿入DNAのないpcDNA3を用いた。
【0068】
こうしてネオマイシンで選択されたG418耐性細胞の中から、gpr49遺伝子の発現が亢進した細胞gpr49expを選択し、以下の実験に用いた。なお、gpr49exp細胞において、gpr49遺伝子の発現をRT-PCT及びウエスタンブロット法で調べた結果を、それぞれ図4(a)及び図2(g)に示した。ウエスタンブロット法では、ブロッティング用メンブレンにHybond-ECL (GE)を、一次抗体にウサギ抗GPR49ポリクローナル抗体(Cascade bio. Inc, Winchester, UK、500培希釈)、マウス抗HSC70ポリクローナル抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000倍希釈)を用い、化学発光基質を用いてHyperfilm ECL (GE Healthcare)に感光させた。なお、RT-PCRは、(1)(b)と同様に行った。
【0069】
(f)gpr49expにおける細胞増殖アッセイ
まず、コントロール及びgpr49expの各細胞を、6穴プレートに5×104個/ウェルの密度で播種した。37℃、5%CO2で培養し、24時間毎に細胞数を計測したところ、gpr49expは、コントロールと比べて細胞数増加率が高く、培養開始3日目には、細胞数がコントロールの約1.5倍になった(図4(b))。
【0070】
(g)gpr49expにおけるWST-1アッセイ
そこで、(2)(c)と同様に、WST-1アッセイによってミトコンドリアの代謝機能を測定し、細胞増殖活性を調べたところ、gpr49expは、コントロールより吸光度の増加率が高く、培養開始3日目において、コントロールと比べて、約1.3倍吸光度が高くなった(図4(c))。
このように、gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞は、細胞増殖活性が亢進していた。従って、Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子は、細胞増殖促進剤の有効成分として有用である。
【0071】
(h)gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞の免疫不全(SCID)マウスにおける腫瘍形成能
gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞の免疫不全(SCID)マウスにおける腫瘍形成能を調べるため、(2)(e)で作製したgpr49exp細胞 1×107個を、免疫不全マウスの背部皮下に移植した。コントロールには、(2)(e)で作製した、挿入DNAのないpcDNA3を導入したHaCaT細胞を用いた。図5、6に免疫不全マウスにおける腫瘤形成を示す。
【0072】
図5(A)(B)及び図6(A)に示すように、gpr49expは、免疫不全マウスにおいて生着し、増殖したことが明らかに認められたが、コントロール細胞では、矮小腫瘍の形成又は腫瘍形成は認められなかった。また、(1)(b)に記載の定量RT-PCR法により、形成した腫瘤においてgpr49遺伝子の発現量を測定したところ、コントロールに比べ、gpr49遺伝子の発現量の亢進が認められた。以上より、gpr49遺伝子の発現亢進により、HaCaT細胞は免疫不全マウスにおいて腫瘍形成能を獲得することが示された。
【0073】
さらに、HE染色法を用いて、これらの腫瘤の組織像を観察したところ、図7に示すように、コントロール細胞では、嚢胞性腫瘤の形成が認められ、これらの嚢腫壁には、比較的均一な重層扁平上皮様構造が認められた(図7(B)及び(D))。一方、gpr49expでは、不規則に肥厚した嚢腫壁が認められ、これらの嚢腫壁には、核異型を伴った細胞と周囲間質への浸潤傾向を示す細胞が認められた(図7(A)及び(C))。
【0074】
このように、in vivoにおいても、gpr49遺伝子の発現亢進により細胞増殖が促進され、Gpr49タンパク質が生体内でも細胞増殖促進剤の有効成分として作用した。
【0075】
(3)シクロパミン投与によるマウスBCC細胞株におけるgpr49遺伝子の発現変化
基底細胞癌は、Hedgehogシグナル経路の脱制御により発生すると考えられている(Oro Ae, et al, Science, 276 (5313), 817-21 (1997))。そこで、基底細胞癌において特異的に発現が亢進するgpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路との関係を調べるために、 Hedgehogシグナル経路を阻害する薬剤として知られているシクロパミンを用いて、以下の実験を行った。なお、このシクロパミンはShh受容体複合体の構成要素であるSmo (smoothened)タンパク質を特異的に阻害することが知られている。
【0076】
まず、シクロパミンの投与が、gpr49遺伝子の発現にどのように影響するかを調べた。2%胎仔ウシ血清(FBS, Moregate, Blimba, Australia)、100mg/Lストレプトマイシン、62.5mg/Lペニシリン含有154CF medium (Cascade biogics, Portlan, USA)を用いて、ASZ001を37℃、5%CO2で培養した。シクロパミン(Biomol int, Philadelphia, USA)を0.19%エタノールで希釈し、最終10μMの濃度になるようにASZ001に投与した。投与開始0時間後(コントロール)、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後に、定量RT-PCR法によりgpr49遺伝子及びgli1遺伝子の発現量を測定した。なお、定量RT-PCR法は(1)(b)に、プライマーは図13に記載の通りであり、各遺伝子の発現量は、GAPDH遺伝子の発現量に対して標準化を行なった。
【0077】
その結果、シクロパミンを投与後、時間が経過するにつれて、ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現量は減少した(図8(a)左上)。また、シクロパミン投与後すぐに、ASZ001におけるgli1遺伝子の発現量が減少し、その後gli1遺伝子の発現量が減少しないことから、実際にシクロパミン投与によってHedgehogシグナル経路が抑制されたことが確認された(図8(a)左下)。
【0078】
次に、シクロパミンの濃度を0、2、10μMに変え、これらの濃度がgpr49遺伝子の発現量にどのように影響するかを調べた。まず、ASZ001の培養液中に、0μM(コントロール)、2μM又は10μMの濃度のシクロパミンを投与し、48時間後、RT-PCR及びウエスタンブロット法により、gpr49遺伝子の発現量を測定した。また、Hedgehogシグナルのマーカーであるgli1遺伝子の発現量も、上記と同様に定量RT-PCR法を用いて測定した。なお、プライマーは図13に記載の通りである。なお、図8(b)のウエスタンブロット法において、ブロッティング用メンブレンにはHybond-ECL (GE)を、一次抗体にはウサギ抗GPR49ポリクローナル抗体(Cascade bio. Inc, Winchester, UK、500培希釈)、マウス抗βアクチン抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にはHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000培希釈)をそれぞれ用い、感光にはHyperfilm ECL (GE Healthcare)を用いた。
【0079】
その結果、シクロパミンの濃度が増加するにつれて、ASZ001におけるgpr49遺伝子の発現量は減少した(図8(a)右上及び(b))。また、シクロパミンの濃度が増加するにつれて、ASZ001におけるgli1遺伝子の発現量も減少し、実際にHedgehogシグナル経路が抑制されていることが確認された(図8(a)右下)。
このように、Hedgehogシグナルの抑制によって、gpr49遺伝子の発現が抑制された。
【0080】
(4)gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路との相関
そこで、gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路の相互作用をより詳細に調べるため、gpr49遺伝子とHedgehogシグナル経路の各遺伝子(ptch1、gli1、gli2、wnt5a)との関係を調べた。
【0081】
(1)で用いた基底細胞癌患者20例の癌組織において、図13に記載のプライマーを用い、(1)(b)と同様に定量RT-PCR法を行い、gpr49遺伝子及びHedgehogシグナル伝達経路に関与する遺伝子(ptch1、gli1、gli2、wnt5a)の発現を調べたところ、gpr49遺伝子の発現とgli1遺伝子の発現は、高い相関(有意差0.01、ピアソンの相関係数0.802)を示した(表1)。一方、gpr49遺伝子の発現とgli2遺伝子の発現又はwnt5aの発現には、gli1遺伝子の発現ほど高い相関は認められなかった。
【0082】
[表1]
【0083】
(5)gli1によるgpr49遺伝子の発現変化
そこで、Hedgehogシグナル経路において、gli1遺伝子とgpr49遺伝子の上下関係を調べるために、以下の実験を行った。
【0084】
まず、Fugene6 (Roche社)を用いて、HaCaT細胞に、マウスgli1遺伝子発現ベクターをトランスフェクトした(図ではHaCaT+ mus gli1 exp)。なお、ここで使用するマウスgli1遺伝子発現ベクター(マウスgli1 cDNA全長をpcDNA3に挿入)は、Dr Hiroshi Sasaki (Riken, Kobe, Japan)から譲渡されたものである。また、コントロールには、何もトランスフェクトしない細胞(図ではHaCaT+none)と、pcDNA3をトランスフェクトした細胞(図ではHaCaT+ pcDNA3)を用いた。72時間後以降、0.5μg/mlネオマイシン(G418)を添加して、安定に遺伝子が導入された細胞を選択し、定量RT-PCR又はウエスタンブロット法を用いて、gli1遺伝子の発現が亢進していることを確認した(図9(a)左下及び(b))。さらに、HaCaT細胞におけるgpr49遺伝子の発現量を測定した。なお、ウエスタンブロット法において、ブロッティング用メンブレンにはHybond-ECL (GE)を、一次抗体にはウサギ抗Gli1ポリクローナル抗体(GeneTex Inc. USA、500培希釈)、ヤギ抗PTCH1ポリクローナル抗体(Santacruzbio inc, CA, U.S.A.、500培希釈)、マウス抗βアクチン抗体(Santacruz bio inc, CA, U.S.A.、1000倍希釈)を、二次抗体にはHRP標識ブタ抗ウサギ抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗マウス抗体(1000培希釈)、HRP標識ウサギ抗ヤギ抗体(1000培希釈)を、感光にはHyperfilm ECL (GE Healthcare)を用いた。その結果、gli1遺伝子を強制発現した細胞(gli1 exp)では、gpr49遺伝子の発現が亢進していた(図9(a)左上及び(b))。また、ポジティブコントロールである、Gli1タンパク質の標的遺伝子の一つであるptch1遺伝子の発現量も、上記と同様に定量RT-PCR法を用いて測定し、その発現量は増加していることが確認された(図9(a)右上及び(b))。なお、用いたプライマーは図13に記載の通りである。
このように、gpr49遺伝子は、Gli1因子によって転写活性化される下流遺伝子群の一つであった。
【0085】
(6)gpr49遺伝子の発現抑制又は強制発現によるgli1及びgli2の発現変化
今度は逆に、gpr49遺伝子の発現を制御することによりgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現がどのように変化するかを調べた。
gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞(ASZ-sh585、ASZ-sh662)とgpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞(gpr49exp)における、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現量を、図13に記載のプライマーにより(1)(b)と同様に定量RT-PCR法を行って測定したところ、gpr49遺伝子の発現を抑制した細胞では、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現は低下しており(図10(a)(b))、gpr49遺伝子の発現を亢進させた細胞では、gli1遺伝子とgli2遺伝子の発現は増加した(図10(c))。
このように、Gpr49タンパク質は、gli1遺伝子及びgli2遺伝子の転写を調節するため、Gpr49タンパク質の機能を増強/抑制する増強因子/抑制因子は、Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進/抑制する発現亢進剤/抑制剤として有用である。
【0086】
<実施例2:膵癌>
(1)定量RT-PCR法を用いたgpr49遺伝子及びshh遺伝子の発現量測定
膵癌由来の培養細胞におけるgpr49遺伝子及びshh遺伝子の発現量を測定した。まず、RNeasy Mini Kit (Quiagen)を用いて、10種類の膵癌細胞株(Capan1、Capan2、AsPC1、HPAF II、Panc1、CFPAC、HPAC、MPanc96、BxPC3、Hs766T)から総RNAを抽出し、得られた総RNAから、First-Strand cDNA Synthesis Kit (GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて、cDNAを合成した。次に、得られたcDNAを用いてSYBR PremixExTaq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社)を使用し、ABI PRIZM 7000(Applied Biochem)にて、PCRを行なった。定量RT-PCRに用いたプライマーは、図13に記載の通りである。なお、遺伝子発現量は、gpr49遺伝子及びshh遺伝子のct値を、GAPDH遺伝子発現量で補正した相対量で表した。
【0087】
このようにして各々の膵癌細胞株においてgpr49遺伝子の発現量を測定したところ、AsPC-1細胞株およびMPanc96細胞株において、gpr49遺伝子の発現量の著しい上昇(800〜1000倍以上)が認められた。一方、他の7種の膵癌細胞株では、gpr49遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図11(a))。また、同様に、shh遺伝子の発現量を測定したところ、MPanc96細胞株やAsPC-1細胞株において、shh遺伝子の発現量の著しい上昇(2.5〜10倍以上)が認められたが、Capan-1細胞株やPanc-1細胞株、その他の膵癌細胞株では、shh遺伝子の発現量の上昇は認められなかった(図11(b))。
このように、gpr49遺伝子及びshh遺伝子は、一部の膵癌細胞において発現が亢進している。
【0088】
(2)Gpr49タンパク質の機能解析
膵癌細胞におけるGpr49タンパク質の機能を解析するために、gpr49遺伝子を高レベルで発現しているマウスのAsPC-1細胞株において、shRNAを用いて、gpr49遺伝子の発現を抑制した。
【0089】
(a)shRNAを用いたgpr49遺伝子の発現抑制
gpr49遺伝子の発現抑制には、実施例1に記載のoligos64-nt hairpin-loop配列(GPR49-585、GPR49-662)を使用した。なお、コントロールとして、実施例1に記載のAsPC-shcontrolを用いて、同様の実験を行った。
Fugene6を用いて、各shRNA発現ベクター6μgを1×107個のAsPC-1細胞にトランスフェクトした。72時間後以降、2.5μg/ml puromycin(Invitrogen社)を添加して、3週間培養し、puromycin耐性細胞を選択した。
こうして得られたpuromycin耐性細胞(以下、GPR49-585、GPR49-662、及びAsPC-shcontrol を用いて得られた細胞に対し、それぞれAsPC-sh585、AsPC-sh662、及び AsPC-shcontrolと記載する。)において、実施例1に記載の(1)(b)と同様に定量RT-PCRでgpr49遺伝子の発現を調べたところ、AsPC-sh662では、gpr49遺伝子の発現が、AsPC-shcontrolと比べて約0.37倍に低下していたが、AsPC-sh585では、gpr49遺伝子の発現量の低下はほとんど認められなかった(図12(a))。
【0090】
(b)AsPC-sh662における細胞増殖アッセイ
そこで、AsPC-sh662において、細胞の増殖能を調べるために、AsPC-sh662及びAsPC-shcontrolを、実施例1に記載の(2)(b)の方法を用いて培養し、24時間ごとに細胞数を計測した。
その結果、図12(b)に示すように、AsPC-sh662は、AsPC-shcontrolより生細胞数が少なくなり、培養開始3日目には、AsPC-shcontrolに比べて、約0.3倍の細胞数になった。
【0091】
このように、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、膵癌細胞の細胞増殖を抑制することができるため、Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子は、細胞増殖抑制剤及び膵癌治療剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(A)本発明の一実施例において行なった、GeneChip解析の結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、基底細胞癌患者の癌組織におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。症例1〜症例20は、基底細胞癌の患者である。
【図2】(a)〜(f)は本発明の一実施例において、基底細胞癌患者の癌組織におけるgpr49遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションで調べた結果を示す図である。(a)、(b)、(c)、(d)は症例19を、(e)、(f)は症例7における結果を示す。また、(a)、(c)、(e)はアンチセンスシグナルを、(b)、(d)、(f)はセンスシグナル(ネガティブコントロール)を示す。(g)は本発明の一実施例において、ASZ001及びgpr49expにおけるgpr49遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図3(a)】(a)本発明の一実施例において、gpr49遺伝子の発現を抑制したASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図3(b)】(b)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図3(c)】(c)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖活性をWST-1アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図3(d)】(d)本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662の細胞増殖をBrdU取り込みアッセイによって調べた結果を示す図である。
【図4(a)】(a)本発明の一実施例において、gpr49expにおけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図4(b)】(b)本発明の一実施例において、gpr49expの細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図4(c)】(c)本発明の一実施例において、gpr49expの細胞増殖促進活性をWST-1アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図5】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍形成能(10週目)を調べた結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍形成能(18週目)を調べた結果を示す図である。
【図6】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍の増殖を調べた結果を示す図である。(B)本発明の一実施例において、腫瘍部位におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図7】(A)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:100倍)。(B)本発明の一実施例において、コントロール細胞を免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:100倍)。(C)本発明の一実施例において、gpr49expを免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:400倍)。(D)本発明の一実施例において、コントロール細胞を免疫不全マウスに移植した時の腫瘍組織を、HE染色法で調べた図である(倍率:400倍)。
【図8】(a)本発明の一実施例において、シクロパミン投与時及び投与後のASZ001細胞におけるgpr49遺伝子及びgli1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、シクロパミン投与後のASZ001細胞におけるgpr49遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図9】(a)本発明の一実施例において、gpr49expにおけるgpr49遺伝子、gli1遺伝子、及びptch1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、gli1遺伝子を強制発現したHaCaT細胞におけるgpr49遺伝子、gli1遺伝子、及びptch1遺伝子の発現をウエスタンブロット法で調べた結果を示す図である。
【図10(a)】本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgli1遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図10(b)】本発明の一実施例において、ASZ-sh585及びASZ-sh662におけるgli2遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図10(c)】本発明の一実施例において、gpr49expのgli1遺伝子の発現及びgli2遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図11】(a)本発明の一実施例において、各種膵癌細胞株におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、各種膵癌細胞株におけるshh遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。
【図12】(a)本発明の一実施例において、AsPC-shcontrol(shControl)、AsPC-sh585 (sh585)及びAsPC-sh662 (sh662)におけるgpr49遺伝子の発現を定量RT-PCR法で調べた結果を示す図である。(b)本発明の一実施例において、AsPC-shcontrol(Control)及びAsPC-sh662細胞(662)の細胞増殖を細胞増殖アッセイによって調べた結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施例において、定量RT-PCR法に用いたプライマーの配列を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有する細胞増殖促進剤。
【請求項2】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項1に記載の細胞増殖促進剤。
【請求項3】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項3に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する基底細胞癌治療剤。
【請求項6】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項5に記載の基底細胞癌治療剤。
【請求項7】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する膵癌治療剤。
【請求項8】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項7に記載の膵癌治療剤。
【請求項9】
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有するhedgehogシグナル活性増強剤。
【請求項10】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項9に記載のhedgehogシグナル活性増強剤。
【請求項11】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有するhedgehogシグナル活性抑制剤。
【請求項12】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項11に記載のhedgehogシグナル活性抑制剤。
【請求項13】
Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤であって、
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有すること、
を特徴とする発現抑制剤。
【請求項14】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項13に記載の発現抑制剤。
【請求項15】
Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進する発現亢進剤であって、
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有すること、
を特徴とする発現亢進剤。
【請求項16】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項15に記載の発現亢進剤。
【請求項17】
基底細胞癌を診断する診断キットであって、
gpr49の発現を診断マーカーとして使用すること、
を特徴とする診断キット。
【請求項18】
基底細胞癌又は膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
培養条件下で、癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、前記細胞におけるgpr49の発現量を測定する工程を含むこと、
を特徴とするスクリーニング方法。
【請求項1】
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有する細胞増殖促進剤。
【請求項2】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項1に記載の細胞増殖促進剤。
【請求項3】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項3に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する基底細胞癌治療剤。
【請求項6】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項5に記載の基底細胞癌治療剤。
【請求項7】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有する膵癌治療剤。
【請求項8】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項7に記載の膵癌治療剤。
【請求項9】
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有するhedgehogシグナル活性増強剤。
【請求項10】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項9に記載のhedgehogシグナル活性増強剤。
【請求項11】
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有するhedgehogシグナル活性抑制剤。
【請求項12】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項11に記載のhedgehogシグナル活性抑制剤。
【請求項13】
Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を抑制する発現抑制剤であって、
Gpr49タンパク質の機能を抑制する抑制因子を有効成分として含有すること、
を特徴とする発現抑制剤。
【請求項14】
前記抑制因子が、gpr49遺伝子の発現を抑制することにより、Gpr49タンパク質の機能を抑制することを特徴とする請求項13に記載の発現抑制剤。
【請求項15】
Hedgehogシグナル経路におけるgli1遺伝子及びgli2遺伝子の発現を亢進する発現亢進剤であって、
Gpr49タンパク質の機能を増強する増強因子を有効成分として含有すること、
を特徴とする発現亢進剤。
【請求項16】
前記増強因子が、gpr49遺伝子の発現を亢進させることにより、Gpr49タンパク質の機能を増強することを特徴とする請求項15に記載の発現亢進剤。
【請求項17】
基底細胞癌を診断する診断キットであって、
gpr49の発現を診断マーカーとして使用すること、
を特徴とする診断キット。
【請求項18】
基底細胞癌又は膵癌に対する治療に効果を有する物質のスクリーニング方法であって、
培養条件下で、癌化した基底細胞又は膵臓細胞に被験物質を投与し、前記細胞におけるgpr49の発現量を測定する工程を含むこと、
を特徴とするスクリーニング方法。
【図3(a)】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図6】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図3(b)】
【図3(c)】
【図3(d)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図6】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−125491(P2008−125491A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317576(P2006−317576)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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