説明

I−κBペプチド抗体、およびその利用

【課題】ヒトI-κBα部分ペプチドに結合し、NF-κBの活性を阻害する抗体、及び、該ヒトI-κBα部分ペプチドに結合する抗体を有効成分として含有する、炎症性疾患または癌疾患の治療剤の提供。
【解決手段】ヒトI-κBαのN末端から75番目のアミノ酸までの部分ペプチドI-κBα(1-75)を大量発現し、ウサギに免疫することで抗I-κBα(1-75)抗体を得る。該抗体に細胞透過性を有するPTDペプチドを付加することにより、該抗体は細胞内において立体構造を保った上でNF-κBと複合体を形成しているI-κBαに結合し、NF-κBの核内移行活性を阻害することができる。PTDペプチドは、Cys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lysのアミノ酸配列からなるペプチドとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写因子NF-κBの阻害タンパク質であるI-κBの部分ペプチドに結合する抗体であって、NF-κBの活性を抑制する機能を有する抗体、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
NF-κBは生体内に広く発現し、炎症に関わる遺伝子や、細胞増殖因子、アポトーシス制御因子など多くの遺伝子発現に関わる転写因子である(非特許文献1)。NF-κBはp50、p65(RelA)、p52、c-Rel、RelBという5種類のファミリーがホモあるいはヘテロ二量体を形成することによって構成されている。これらのメンバーはすべてN末端側に約300アミノ酸残基からなるRelホモロジードメインという癌原遺伝子Relと相同性があるドメインを持っている。Relホモロジードメインは、2つの免疫グロブリン様ドメインを持ち、N末側はDNAとの結合にかかわり、C末側は二量体形成にかかわっている。そのドメインのC末端寄りに核移行シグナルが存在する。p65、c-Rel、RelBはC末側に転写活性化因子を持つ。NF-κBのうち、最も多くとられる形態はp65/p50のヘテロ二量体であり、ユビキタスな発現が見られ、制御する遺伝子も多い(非特許文献2、3)。
【0003】
NF-κBは、成熟B細胞など常に活性化している細胞種を除いて、tumor necrosis factor α (TNFα)、interleukin-1β(IL-1β)、lipopolysaccharide (LPS)、ウィルス感染、免疫反応に関与する各種の細胞分化・増殖因子、あるいはUV照射などによって活性化される(非特許文献4)。こうした刺激が入らない状態では、NF-κBははI-κBと複合体を形成している。I-κBはNF-κBの核移行シグナルを覆う形で結合しており、NF-κBが細胞質から核に移行して、転写活性化を誘導することを阻害している(非特許文献5、6)。細胞外から炎症性あるいは免疫誘導性の刺激が細胞に与えられると、I-κBキナーゼ(IKK)複合体が活性化されて、I-κBの第32番目と第36番目のセリン(serine)残基がリン酸化される。リン酸化されたI-κBは、ユビキチン化酵素により第21番目と第22番目のリジン(lysine)残基がユビキチン化された後、プロテアソームによって分解される。I-κBが結合していないNF-κBはその核移行シグナルが露出し、細胞質から核内に移行して、核内で遺伝子転写を活性化する(非特許文献7、8)。その結果、細胞は炎症性サイトカインなどを放出したり、炎症性細胞接着分子を発現したりすることによって、刺激に応答する。
【0004】
癌細胞では、しばしばNF-κBが活性化されていて、アポトーシスに対して抵抗性を示し、制癌剤に対しても細胞障害性が抑制されている(非特許文献9)。
I-κBファミリーはI-κBα、I-κBβ、I-κBε、I-κBγ、Bcl-3が知られている。これらの分子はアンキリンリピートを5−7個繰り返した構造を持ち、この部分がRelホモロジードメインと結合し、NF-κBの核移行を抑制している。N末側にDSGXXS(配列番号:3)というモチーフを持ち、このモチーフに含まれる2つのセリン残基がリン酸化されることでユビキチン化され、分解される(非特許文献10、11)。
【0005】
I-κBαとI-κBβがp65/p50のホモダイマーと結合する(非特許文献12)が、多くの細胞種でI-κBαがI-κBβよりも強くNF-κBと結合している(非特許文献13)。また、NF-κB活性化刺激が細胞内に伝わったときに、I-κBαは早期にリン酸化され、分解され、再びNF-κBにより発現される(非特許文献14)。一方、I-κBβはI-κBαに比べ、ゆっくりとリン酸化、分解され、NF-κBの活性化シグナルが終息するまで発現が低く保たれる(非特許文献15)。I-κBαが分解されることでNF-κBは活性化し、そのNF-κBが誘導して発現したI-κBαが核内に移行し、転写を活性化しているNF-κBと結合し、再び細胞質に戻してNF-κBの活性化を終息させる(非特許文献16)。
NF-κBと癌との関わりも解明されつつある。NF-κBはアポトーシス抑制タンパク質の発現を誘導することによって癌細胞の増殖を助ける(非特許文献17)。甲状腺癌やすい臓癌等でNF-κB活性化を抑制することにより、癌細胞にアポトーシスを引き起こすことができると報告されている(非特許文献18)。また、制癌剤に対する癌細胞の抵抗性を誘導しているのもNF-κBであり、NF-κBを抑制することによる制癌剤に対する感受性増強も試みられている(非特許文献19)。
【0006】
以上のように、NF-κBを抑制することによって、新しい抗炎症剤、免疫抑制剤あるいは制癌剤が生まれる可能性があり、いろいろな薬物が試みられている。例えば、dehydroxymethylepoxyquinomicinは、抗炎症活性を有するが、NF-κBの核内への移行を抑制することが示されている(非特許文献20)。また、I-κBの分解を抑制するためにI-κB kinase (IKK)を阻害する化合物なども試みられている(非特許文献21)。
これまでに作製されたI-κBに結合する抗体は、20個前後のアミノ酸から構成されるI-κB部分ペプチドを免疫したモノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体が多く、そのほとんどは立体構造を形成しているI-κBには結合しないことから、抗ペプチド抗体の使用はウェスタンブロッティングに限られていた。また、抗I-κB抗体が、NF-κBからのI-κB離脱反応を阻害し、NF-κBの活性阻害の効果を示すか否かについては、これまで検討されてこなかった。
検討されなかった理由は、細胞の外部に存在する抗体はそのままでは決して細胞膜を透過せず、細胞内に入りえないからである。抗体を細胞内に導入してNF-κBの活性化あるいは核内移行が阻害されるかどうかを実証するためには、抗体を細胞内に導入する特別な技術を要する。従来は、抗体断片scFv(single chain Fv)を発現するベクターを細胞に導入し、そのscFvを細胞内で発現する方法がしばしば採られてきた(非特許文献22)。しかしながら、この方法をI-κBαに対する抗体に適用する試みはこれまでに行われてこなかった。
【0007】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】特開平9−216898
【特許文献2】特表2003−518507
【非特許文献1】Hayden, M. S. and Ghosh, S. Genes and Development, 18, 2195-2224 (2004)
【非特許文献2】Beg A.A., et al., Genes and Development, 6, 1899-1913 (1992)
【非特許文献3】Ganchi P.A., et al., Molecular Biology of the Cell, 3, 1339-1352 (1992)
【非特許文献4】Lawrence, T., et al., Nature Med., 7, 1291-1297 (2001)
【非特許文献5】Baeuerle P.A. and Baltimore D., Science, 242, 540-546 (1988)
【非特許文献6】Huxford T., et al., Cell, 95, 759-770 (1998)
【非特許文献7】Karin M. and Ben-Neriah Y., Annu Rev Immunol. 18, 621-663 (2000)
【非特許文献8】May M.J. and Ghosh S., Seminars in Cancer Biology, 8, 63-73 (1997)
【非特許文献9】Luo, J-L., et al., J. Clin. Invest., 115, 2625-2632 (2005)
【非特許文献10】Traenckner E.B., et al., EMBO Journal, 14, 2876-2883 (1995)
【非特許文献11】Baldwin A.S., et al., Annual Review of Immunology, 14, 649-683 (1996)
【非特許文献12】Lin R., et al., J.Biol. Chem., 270, 3123-3131 (1995)
【非特許文献13】Tran K., et al., Molecular and Cellular Biology, 17, 5386-5399 (1997)
【非特許文献14】Johnson C., et al., EMBO Journal, 18, 6682-6693 (1999)
【非特許文献15】Thompson J.E., et al., Cell, 80, 573-582 (1995)
【非特許文献16】Turpin P., et al., J.Biol.Chem., 274, 6804-6812 (1999)
【非特許文献17】Karin, M., and Lin, A. Nature Immunol., 3, 221-227 (2002)
【非特許文献18】Kikuchi E., et al., Cancer Research, 63, 107-110 (2003)
【非特許文献19】Banerjee S., et al., Cancer Res., 65, 9064-9072 (2005)
【非特許文献20】Ariga, A., et al., J. Biol. Chem., 277, 24625-24630 (2002)
【非特許文献21】Rehman KK., et al., J. Biol. Chem., 278, 9862-9868 (2003)
【非特許文献22】Wheeler YY, et al., Mol. Ther., 8, 355-366 (2003)
【非特許文献23】Fujihara S M., et al., J Immunol., 165 (2), 1004-1012 (2000)
【非特許文献24】Ohara I M., et al., J. Biol. Chem., 279, 9, 8403-8408 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その課題は、ヒトI-κBα部分ペプチドに結合する抗体であって、NF-κBの活性を阻害する抗体を提供することにある。また、本発明は、該ヒトI-κBα部分ペプチドに結合する抗体を有効成分として含有する、炎症性疾患または癌疾患の治療剤を提供することも課題とする。さらに本発明は、該ヒトI-κBα部分ペプチドに結合する抗体を、対象に投与する工程を含む、対象において炎症性疾患または癌疾患を治療する方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ヒトI-κBα部分ペプチドに結合する抗体が、NF-κBの活性を阻害する機能を有するか否かを検討した。
まず、I-κBαのN末端から75番目のアミノ酸までの部分ペプチドI-κBα(1-75)の大量発現系を構築し、大量培養後、アフィニティーカラムによりI-κBα部分ペプチドを精製した。作製したI-κBα部分ペプチドをウサギへ免疫し、ウサギ血清からIgG溶液を抽出した。I-κBα部分ペプチドを固定化したカラムに、上記のIgG溶液を流し、抗I-κBα(1-75)抗体を精製した。その後、精製した抗I-κBα(1-75)抗体に、細胞透過性を有するPTDペプチドを付加した。
【0010】
次に、PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体が細胞内に取り込まれるか否かについて検討を行った。その結果、PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体は、HeLa細胞内に導入され、立体構造を保った上でNF-κBと複合体を形成しているI-κBに結合することが明らかとなった。
さらに、PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体が、TNF−αによるNF-κB p65の核移行を抑制するか否かを検討した。その結果、PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体は、細胞内において立体構造を保った上でNF-κBと複合体を形成しているI-κBαに結合し、TNF-αの刺激によるNF-κB p65の核内移行活性を阻害することが明らかとなった。
【0011】
即ち、本発明者らは、抗I-κBα部分ペプチド抗体を投与することにより、NF-κB活性を抑制することが可能であることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔13〕を提供するものである。
〔1〕ヒトI-κBαの32番目および36番目のSer残基を含み、30〜100個のアミノ酸残基からなるヒトI-κBαの部分ペプチドに結合する抗体。
〔2〕ヒトI-κBαの部分ペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドである、〔1〕に記載の抗体。
〔3〕インタクトI-κBの立体構造を認識することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の抗体。
〔4〕NF-κB阻害活性を有することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の抗体。
〔5〕細胞透過性を付与する物質を付加させた、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗体。
〔6〕細胞透過性を付与する物質がPTDペプチドである〔5〕に記載の抗体。
〔7〕PTDペプチドが Cys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチドである、〔6〕に記載の抗体。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、NF-κBの活性を抑制するための薬剤。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
〔10〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、癌疾患を治療または予防するための薬剤。
〔11〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象においてNF-κBの活性を抑制する方法。
〔12〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象において炎症性疾患を治療または予防する方法。
〔13〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提供する抗体は、細胞内に導入されることによって、細胞質に存在するI-κBαに結合して、NF-κBの活性化を阻害し、結果的に細胞の炎症性あるいは免疫性などの細胞応答を抑制する。したがって、本発明が提供する抗体は、NF-κBの活性化を伴う疾患の治療に役立つ。例えば、炎症性疾患である関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、膠原病、全身性エリテマトーデス、腎炎、動脈硬化症の治療に役立つであろう。また、NF-κBの慢性的な活性化を引き起こしている癌細胞に対して、アポトーシスを促進したり、制癌剤に対する感受性を高める効果を有する。さらに、NF-κBの活性化は、エイズの病原体であるhuman immunodeficiency virus (HIV) の増殖にも関与しており、本抗体はエイズ治療にも役立つに違いない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、抗I-κBα部分ペプチド抗体を投与することにより、NF-κB活性を抑制することが可能であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明における抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはヒト由来の抗体を挙げることが出来る。
本発明において「I-κBα部分ペプチド」とは、ヒトI-κBαの32番目のSer残基および36番目のSer残基を含み、30〜100個のアミノ酸残基からなるヒトI-κBαの部分ペプチドを意味する。本発明において、ヒトI-κBαとは配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を意味し、上記32番目および36番目のSer残基とは、配列番号:4に記載のアミノ酸配列における32番目および36番目のSer残基を示す。
本発明のI-κBα部分ペプチドの好ましい例としては、32番目のおよび36番目のSer残基に加えて、ユビキチン化される21番目のLys残基と22番目のLys残基をさらに含む40〜90個のアミノ酸残基からなるペプチドを挙げることができる。
また、本発明の部分ペプチドのより好ましい具体例としては、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることが出来る。
【0014】
本発明の抗I-κBα部分ペプチド抗体は、インタクトI-κBαの立体構造を認識することが好ましい。本発明において、「インタクトI-κBα」とは、細胞内で産生された、活性を有する天然のI-κBαのことを意味する。
本発明で使用される抗I-κBα部分ペプチド抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はI-κBαと結合することにより、NF-κBからI-κBαが解離する反応を阻害して、NF-κBの活性を阻害する。
【0015】
本発明において、「NF-κB阻害活性を有する」とは、本発明の抗体がNF-κBの核内移行を阻害することを意味していてもよいし、または、本発明の抗体が標的遺伝子の転写を促進するNF-κB活性を阻害することを意味していてもよい。細胞にTNF−αあるいはLPSなどの刺激を与えると、NF-κBが活性化され、炎症に関わる炎症性サイトカインinterleukin-8(IL-8)、interleukin-6(IL-6)、tumor necrosis factor receptor associated factor-1(RAF-1)等の遺伝子発現が誘導されることが知られている。結果的に上記のいずれかの炎症性サイトカインの遺伝子発現が抑制された場合にも、NF-κBの活性が阻害されたとみなすことが出来る。
抗I-κBα部分ペプチド抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、I-κBα部分ペプチドを感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0016】
I-κBα部分ペプチドの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のI-κBα部分ペプチドを公知の方法で精製し、この精製I-κBα部分ペプチドを感作抗原として用いればよい。また、本発明の部分ペプチドは、全長I-κBαタンパク質をプロテアーゼにより切断し、得られた断片ペプチドを精製することによって作製してもよい。I-κBα部分ペプチドの大量発現系の作製および精製法は実施例に記載の方法により行ってもよい。また、I-κBα部分ペプチドと他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。融合蛋白質は特に限定されるものではないが、一例としてHisタグ等を挙げることができる。
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0017】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から採血し、血清成分を精製することでポリクローナル抗体を得ることが出来る。血清成分を精製する際には、感作抗原を固定化したアフィニティーカラム等を使用することが出来る。
【0018】
また、モノクローナル抗体を作製する際には、抗体レベルが上昇した哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合を行う。細胞融合を行う際の好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
【0019】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C. 、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0020】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0021】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作Bリンパ球をヒトミエローマ細胞、例えば P3X63Ag8.653と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0022】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0023】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNA を調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0024】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたpolymerase chain reaction(PCR)産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシ法により確認する。
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0025】
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0026】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体またはヒト型化抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(complementarity-determining regions CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0027】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体C 領域が使用される。ヒト抗体C領域としては、Cγが挙げられ、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、ヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
【0028】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(single chain Fv, scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当業者に公知の方法で当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0029】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
【0030】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0031】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0032】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0033】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0034】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
【0035】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
【0036】
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、IgM、IgG、IgAのいずれのクラスもIgGのうちのIgG1、IgG2、IgG3、IgG4のいずれのサブクラスでもよい。また、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたscFvが挙げられる。また、これらの抗原結合活性を有する抗体またはその断片を有する誘導体であってもよい。
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる。
【0037】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0038】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0039】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムに用いる担体として、例えば、HyperD、POROS、SepharoseF.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHigh performance liquid chromatography(HPLC)に適用し得る。また、reverse phase HPLC(逆相HPLC)を用いてもよい。
【0040】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はenzyme -linked immunosorbent assay(ELISA)等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.35ODとして算出する。また、ELISAによる場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6)で1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG(TAG製)100 μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG(CAPPEL社製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG(BIO SOURCE製)100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(BioRad社製)を用いて405nmでの吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0041】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0042】
本発明の抗体は、細胞透過性を付与する物質を付加していてもよい。
本発明において、細胞透過性を付加する物質としては、PTD(Protein Transduction Domain)ペプチドを好ましい例として挙げることが出来る。
一般的にタンパク質は細胞膜を透過出来ない(細胞外から細胞内に透過することか出来ない)が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のTATタンパク質、単純ヘルペスウイルス(HSV)のVP-22タンパク質、ショウジョウバエのAntennapodia(AntP)転写因子などは細胞膜を透過しうる。これらのタンパク質が細胞膜を透過するのに必要なペプチド部分がPTD(Protein Transduction Domain)と呼ばれている(Prochiantz A., Current Opinion in Cell Biology, 12, 400-406 (2000)、Suzuki T., et al., J. Biol. Chem., 277, 2437-2443 (2002))。
【0043】
本発明において抗体に付加するPTDペプチドは、細胞内導入活性を有していれば、特にそのアミノ酸配列は限定されない。本発明において、PTDペプチドの好ましい例としては、HIVのTATタンパク質におけるPTDペプチド:
Tyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg(配列番号:9)、
HSVのVP-22タンパク質におけるPTDペプチド:
Asp-Ala-Ala-Thr-Ala-Thr-Arg-Gly-Arg-Ser-Ala-Ala-Ser-Arg-Pro-Thr-Glu-Arg-Pro-Arg-Ala-Pro-Ala-Arg-Ser-Ala-Ser-Arg-Pro-Arg-Arg-Pro-Val-Glu(配列番号:10)、
ショウジョウバエのAntPにおけるPTDペプチド:
Arg-Gln-Iso-Lys-Iso-Trp-Phe-Gln-Asn-Arg-Arg-Met-Lys-Trp-Lys-Lys(配列番号:11)、Argオリゴマー(5〜15個のArgが連結したペプチド)、Lysオリゴマー(5〜15個のLysが連結したペプチド)を挙げることができる。また、本発明において、PTDペプチドのより好ましい例としては、Cys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることができる。
【0044】
また本発明のPTDポリペプチドは、天然タンパク質由来ポリペプチド、組換えタンパク質由来ポリペプチド、または化学合成ポリペプチド等のいずれのポリペプチドであってもよい。当業者においては、任意のアミノ酸配列からなるポリペプチドを合成することが可能である。例えば、上記アミノ酸配列からなるポリペプチドの合成は、当業者に公知の方法、例えば、市販のポリペプチド合成機等を利用して適宜実施することができる。
本発明の抗体とPTDペプチドは、当業者に公知の方法を利用して結合させることが可能である。一例を示せば、市販のカップリング試薬(アミノ基反応型、カルボキシル基反応型、チオール基反応型等)を用いる方法、クロラミンTを用いる方法、イソチアネート基を導入する方法等により、本発明の抗体とPTDペプチドとを結合させることができる。また、本発明の実施例に記載の方法によっても、本発明の抗体とPTDペプチドとを結合させることができる。
【0045】
また、本発明の抗体が遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体である場合には、該抗体とPTDペプチドとの融合タンパク質をコードするDNAを用いて、PTDペプチドが結合した抗体を作製することも可能である。
より具体的には、以下の工程を含む方法によって作製することができる。
(a)本発明の抗体をコードするDNAと、PTDペプチドをコードするDNAとが結合した構造のDNAを含む発現ベクターを作製する工程
(b)前記発現ベクターを細胞へ導入する工程
(c)前記ベクターからの発現産物を回収する工程
本発明のPTDペプチドは、該抗体の表面上へ配置されるように該抗体と結合させることが望ましい。
【0046】
本発明の抗I-κBα部分ペプチド抗体を有効成分とする薬剤は、炎症性疾患の予防または治療において使用することが可能である。また、該薬剤は、癌疾患の予防または治療において使用することが可能である。
本発明において、「炎症性疾患を治療または予防」とは、炎症性疾患の症状、および炎症性疾患において合併して起こる症状を、改善、軽減または予防することを意味する。上記の方法において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0047】
本発明において、「炎症性疾患」とは、炎症が原因と考えられるか、結果として炎症を併発するか、つまり、病態として炎症症状を随伴する疾患のことを意味する。高等動物の炎症は刺激に対応する一連の微小循環系の反応により特徴づけられる。すなわち、通常の炎症では、微小循環系は一過性に収縮した後、拡大し、通常は閉じている毛細血管床が開き、血流量が増加する。さらに、細静脈領域の内皮細胞間隙が開くことにより、この間隙を通じて血漿成分が組織間質へ滲出する血管透過亢進現象が起こる。この血管透過亢進は普通2相性に起こり、第1相はヒスタミンまたはセロトニンによって起こる弱い反応であり即時型透過と呼ばれ、第2相の遅延型透過が炎症における血管透過の主体をなす。引き続いて、多核白血球、単球(組織内に遊出したあとはマクロファージと呼ばれる)、リンパ球などが、やはり細静脈領域から組織間質へと放出する。これらの血漿成分、細胞成分によって生成される活性因子系の作用が組織細胞の増殖を促し、修復へと導く。この一連の過程は古くから発赤(rubor)、疼痛(dolor)、発熱(calor)、腫脹(tumor)として記載されてきた。基本的には炎症は局所の防衛反応であるが、組織傷害作用をも示しうるので、機能障害も炎症の主徴に加えられる。炎症反応は局所組織、細胞の変性、循環障害、増殖が組み合わさった複合反応であり、その動的過程全体をさす。このような種々の側面のうち、どの様相が強いかにより、変質性炎、滲出性炎、増殖性炎に分類され、その経過により、急性炎、慢性炎に分類される。炎症性疾患の例として、慢性関節リウマチ(RA)、多発性硬化症、手術後の癒着、炎症性大腸炎、乾癬、狼瘡、喘息を挙げることができる。
【0048】
本発明において「癌疾患の治療」とは、癌疾患によって引き起こされる症状を改善または軽減することを意味する。また、進行している癌細胞の増殖を抑制することも、癌疾患の治療を意味する。上記の方法において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。また、「癌疾患の予防」とは、癌細胞の増殖が進行することを予め抑制することを意味する。
本発明において、検査対象となる癌疾患は、人間を含む哺乳動物に発症する癌であれば何でもよく、より具体的には、白血病、大腸癌、肺癌、乳癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、胃癌、甲状腺癌、骨および軟部肉腫、卵巣癌、子宮癌、腎癌、膵癌、またはグリオブラストーマ等を例示することができる。
【0049】
後述の実施例に示されるように、抗I-κBα部分ペプチド抗体の投与により、NF-κBの活性が抑制されることが認められたことから、本発明の抗体を有効成分とする薬剤は、炎症性疾患の予防または治療剤、もしくは癌疾患の予防または治療剤であることが示唆された。
本発明の抗I-κBα部分ペプチド抗体を有効成分とする薬剤が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0050】
本発明の抗I-κBα部分ペプチド抗体を有効成分とする薬剤は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。
本発明において、抗I-κBα部分ペプチド抗体には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記のNF-κB阻害活性を有する材料であってもよいし、当該阻害活性を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、NF-κB阻害活性を有さない材料であっても、抗I-κBα部分ペプチド抗体と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0051】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明は、抗I-κBα部分ペプチド抗体を、対象に投与する工程を含む、対象において炎症性疾患を治療する方法に関する。また、抗I-κBα部分ペプチド抗体を、対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療する方法に関する。
本発明において、「対象」とは、本発明の炎症性疾患または癌疾患を発症している生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくは炎症性疾患または癌疾患が発祥している部位およびその周辺部位を挙げることが出来る。
【0053】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。また、投与すべき組換え型抗体をコードするDNAを遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用により投与することも可能である。また、炎症性疾患または癌疾患の公知の治療法と同時に又は時間を隔てて本発明の薬剤が投与されてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕I-κBαのN末端から75番目のアミノ酸までの部分ペプチドの作製
I-κBαのN末端から75番目のアミノ酸までの部分ペプチドをコードするDNAを単離し、発現用PETベクターに挿入した。その後、目的DNAが挿入されたPETベクターを形質転換により大腸菌に導入し、I-κBα部分ペプチドの大量発現系を構築した。該形質転換体を大量培養後、アフィニティーカラムにより、I-κBα部分ペプチドを精製し、これを免疫原とした。具体的な操作を以下に示す。
【0055】
1)His融合I-κBα発現ベクターの作製
ヒト前骨髄性白血病細胞HL60から、ISOGEN(日本ジーン社製)を用いて、total RNAを抽出した。そのtotal RNA 10μgについて、ReverScriptIV(和光純薬工業社製)を用い40℃で50分間逆転写反応を行ない、95℃で5分間加熱して反応を停止し、cDNAライブラリーを作製した。
このcDNAライブラリーを鋳型としてI-κBα部分ペプチド(N末端より1-75アミノ酸)を以下のように、PCR法で増幅した。上記のcDNA 0.5 μL、10 μMに希釈した下記のForward primer(I-κBα-F、配列番号:5)2.5 μL、10 μMに希釈した下記のReverse primer(I-κBα-R、配列番号:6)2.5 μL、2.5mM dNTP mixture 4.0 μL、High Fidelity PCR Master Polymerase blends(Roche Applied Science社製)0.5 μL、5×Buffer 10 μL、および滅菌milliQ水 30 μLを混合してPCR反応液とした。この反応液をiCycler(BioRad社製)に設置し、以下の反応条件でI-κBαのN末端から75番目のアミノ酸までの部分ペプチドをコードするDNAを増幅させた。95℃で2分間熱変性の後、95℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒を1サイクルとして35サイクル行なった。
Forwardプライマー (IKBa-F):ctcgtcggatccatgttccaggcggcc (配列番号:5)
Reverseプライマー (IKBa-R):ggccaagaattcctagcagtccccgtcctcggt (配列番号:6)
【0056】
PCR産物をアガロース電気泳動し、RECOCHIP(タカラバイオ社製)で回収した。このDNAをフェノール・クロロフォルム抽出とアルコール沈殿によって精製した。このPCR産物6 μLに10×M buffer 2 μL、10×BSA 2 μL、制限酵素EcoRIとBamHIを0.5 μLずつ、および滅菌milliQ水 9 μLを加え、37 ℃、1時間以上インキュベートし、制限酵素処理を行った。同時にpBluescript IIベクター (Stratagene社製) も同様の条件で制限酵素処理を行った。制限酵素処理後、精製したI-κBα (1-75) 遺伝子断片とベクターを混合し、T4 DNA Ligase (Promega社製) 0.5 μL、2×Rapid Ligation Buffer (Promega社製) 5 μLを加えて室温下で20分間静置して、ライゲーションを行なった。このDNA溶液とコンピテントセル(大腸菌DH5α株)100 μLを氷上で静かに混合し、30分間静置した。混合物を42℃で45秒加温した後、速やかに氷上に移して1分間放置した。混合物にさらに900 μL SOC培地を加え、37℃で2時間加温した後に、ampicilin sodium salt入りのプレートに均一になるように広げ、37 ℃で一晩インキュベートした。プレート上に形成されたコロニーの中から、PCR法によって挿入DNAが存在するクローンを選別し、さらにDNA配列決定により目的のDNA断片が挿入されているクローンを選別した。
【0057】
上記のDNA断片を有すpBluescriptIIを、制限酵素HindIIIとBamHIによって切断し、アガロース電気泳動とRECOCHIPを用いた方法で、I-κBαを有す482塩基対の挿入DNAを得た。これを、同じ制限酵素で切断した発現用pET-30a (+) ベクター(Novagen社製)とライゲーションして、DNA断片が挿入されたプラスミドを得た。このプラスミド(I-κBαのアミノ酸配列1〜75残基に該当する塩基配列が挿入されたpET-30a (+) ベクター)で、コンピテントセル(大腸菌RossettaTM(DE3)、Novagen社製)を前述のように形質転換(transformation)した。その大腸菌(RossettaTM)のコロニーを1個ずつLB/Km+培地に植菌し、37℃のウォーターバスで一晩振とう培養した。大腸菌培養液にLB/Km+ 培地を全量が10倍になるように加え、30℃で振とう培養した。培養液の吸光度を測定し、600 nmの吸光度が0.5付近になったところで、培養液にisopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside(IPTG、和光純薬工業)を終濃度 1 mMになるように加え、30℃で3時間振とう培養した。その大腸菌を遠心沈殿して、Sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE)にかけて、タンパク質の発現が著しいクローンを選別した。
His融合I-κBα発現ベクターの作製方法を図1に示す。
【0058】
2)免疫原I-κBα(N末端から第1番目から第75番目までの部分ペプチド)の作製
1Lの大腸菌培養液でリコンビナントI-κBαの発現誘導を行なった。大腸菌培養液を50 mLずつ50 mLコニカルチューブに移し、4000 rpm、30分間の遠心分離を行い、上清を捨て、-80℃で凍結した。凍結した大腸菌体ペレットを氷上で溶解し、可溶化buffer(50 mM sodium phosphate buffer (pH 8.0) + 0.3 M NaCl + 10 mM imidazole + 1% Triton X-100)を10 mL添加して超音波破砕機(Branson sonifier 250、Branson Ultrasonic Corporation社製)でDuty cycle 30、Output control 2の条件で、10回 × 3サイクル処理した。超音波破砕を行った溶液を、10,000 rpm、60分間遠心して上清を回収し、平衡化/洗浄緩衝液(Equilibration and wash buffer)[20 mMリン酸緩衝液 (pH 8.0) + 0.5 M NaCl + 20 mMイミダゾール] で平衡化したNi-NTA agarose(Invitrogen社製)1 mLを詰めたカラムに流した。さらにカラムに平衡化/洗浄緩衝液10 mLを流した後、溶出緩衝液Elution buffer [20 mMsodium phosphate buffer(pH 8.0) + 0.5 M NaCl + 250 mMイミダゾール)10 mLを流し、0.5 mLずつ回収した。各分画の少量を取って、SDS-PAGEで分析し、His-tagを有すリコンビナントI-κBαタンパク質を得た。
【0059】
〔実施例2〕ウサギへの免疫と抗体の精製
実施例1により作製したI-κBα部分ペプチドをウサギへ免疫し、ウサギ血清からIgG溶液を抽出した。その後、I-κBα部分ペプチドを固定化したカラムにIgG溶液を流し、抗I-κBα(1-75)抗体を精製した。具体的な操作を以下に示す。
1)ウサギへの免疫とIgGの精製
Freund’s complete adjuvant 3.3 mLと、リコンビナントI-κBα溶液 3 mL (1.0 mg/mL) を混合し、ソニケーションによりエマルジョンを作製した。このエマルジョンを1mLずつウサギ(ニュージーランド・ホワイト、オス)に10日おきに4回免疫した。最後の免疫から14日目に、ウサギから全採血を行った。
ウサギ抗血清を56℃で30分間非働化した。ウサギ血清に4 ℃で飽和硫安溶液を攪拌しながら等容量加え、30分間攪拌した。ウサギ血清を10000Gで30分間遠心して上清を除き、沈殿物を少量の20 mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.6)で溶解後、20 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.6)で透析した。透析後の溶液を、20 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.6)で平衡化したdiethyaminoethy(DEAE)セルロースを詰めたカラムに流し、素通り分画を回収した。
【0060】
2)抗体のアフィニティー精製
まず、実施例1で作製したI-κBα(1-75)を固定化したカラムを以下のように作製した。NHS-activated SepharoseTM 4 Fast Flow(GE Haelthcare社)0.8 mLを3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除き、沈殿物を冷やした1 mMのHCl 8 mLで懸濁し、さらに3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除いた。この洗浄操作を3回行った。洗浄したNHS-activated Sepharose 4 Fast Flowをカップリングbuffer (50 mM Na・phosphate buffer pH 7.5、0.14 M NaCl) 8 mLで懸濁し、3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除いた。沈殿物にリコンビナントI-κB溶液 3.4 mg/mL 2.7 mL (カップリングbufferで透析した) を混合し、4 ℃、一晩混合した。翌日、室温に戻して1時間混合し、3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除き、沈殿物を5 mLのカップリングbufferで懸濁した。3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除き、沈殿物にブロッキングbuffer(150 mM Tris-HCl pH 8.0)を8 mL加えて懸濁した。さらに、3000 rpm 5分間の遠心分離により上清を除き、ブロッキングbufferを10 mL加え、室温1時間混合した。上記の工程で作製したセファロースをカラムにつめ、ブロッキングbuffer 9 mLを流した後に同量の1 mM HCl pH 3.0を流した。この操作をもう一度行なったあとに、洗浄buffer(20 mM Tris-HCl pH 7.5、1 M NaCl) 8 mLを流し、リコンビナントI-κBαタンパク質結合セファロースカラムを作製した。
【0061】
リコンビナントI-κBα結合セファロースカラムにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を6 mL流し、流速を遅くした後に、上記1)のIgG溶液(1.84 mg/mL, 2.5 mL)を流した。その後、本カラムにPBSを6 mL流した後、洗浄buffer(20 mM リン酸ナトリウム緩衝液 pH 7.5、1 M NaCl)を6 mL、PBSを6 mL、および0.15 M NaClを6 mL流した。さらに、溶出buffer (50 mM Gly-HCl pH 3.0)を4 mL流した。このとき5 μLの0.5 M PB pH 8.0を入れたエッペンチューブに0.1 mLずつ分画を採取し、直ちに中和した。各分画の280 nmの吸光度を測定し、分画に溶出された抗体を回収した。これをアフィニティー精製抗I-κBα(1-75)抗体として用いた。
【0062】
3)アフィニティー精製抗I-κBα(1-75)抗体の抗原結合活性
ウェスタンブロッティングによってアフィニティー精製抗I-κBα(1-75)抗体の抗原結合活性を確認した。HeLa細胞を可溶化し、その細胞溶解液をSDS-PAGEにかけた。そのゲルのタンパク質をPVDF膜にトランスファーして、上記2)で作製したアフィニティー精製抗I-κBα(1-75)抗体およびhorseraddish peroxidase標識ヤギ抗ウサギIgG抗体で検出した。その結果、アフィニティー精製抗I-κBα(1-75)抗体は、I-κBα全分子の位置にバンドが検出されたのに対し、非免疫IgGではバンドが検出されなかった。
【0063】
〔実施例3〕抗I-κBα(1-75)抗体とPTDとの架橋
実施例2で精製した抗I-κBα(1-75)抗体に、細胞透過性を有するPTDペプチドを付加した。具体的な操作を以下に示す。
50 mM リン酸ナトリウムpH 7.5+0.14mM NaClの緩衝溶液中で、抗I-κBα(1-75)抗体 0.78 mg/mL(1.2 mL)とN-Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate (同仁化学、SPDPと表記する)をモル比1:9で混合し、37℃で1時間反応させた。反応後、同じ緩衝溶液で平衡化されたSephadex G25カラムクロマトグラフィーにより、低分子化合物を除去したところ、チオピリジル基が抗体1分子当り平均5.3個導入されたことが明らかとなった。本抗体に、N末端側からCys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号:2)という配列を持つPTDペプチド(以下では、CK8と表記する)を、抗体:PTDペプチドのモル比が1:10になるように添加して37℃で1晩反応させた。その結果、抗体1分子当り3.4個のCK8が結合した抗I-κBα(1-75)抗体を作製することが出来た。
【0064】
付加反応の工程を下記に示す。
(1)抗体とSPDPの反応
【化1】

(2)IgG-(NHCO-X-SS-pyridine)nとHS-CK8との反応
【化2】

【0065】
〔実施例4〕抗I-κBα(1-75)抗体-CK8の細胞内導入の実証
PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体が細胞内に取り込まれるか否かについて検討を行った。
具体的には、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8と、および抗I-κBα(1-75)抗体(対照)をHeLa細胞の培養液に添加して2時間培養後細胞を洗浄した際の、細胞内に存在する抗体および抗体に結合したI-κBαを検出した。
【0066】
まず、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8、およびPTDを有していない抗I-κBα(1-75)抗体をFBS(-) DMEMで希釈して0.2 mg/mLにし、それぞれ6 cm dishにコンフルエントのHeLa細胞に2 mL添加し、CO2インキュベーターで2時間インキュベートした。その後各細胞を氷上で冷やしたcold PBS(-) 2 mLで5回洗浄した。さらに、cold PBS(-) 0.6 mLを入れ、セルスクレーパーで細胞をはがし回収した。回収した細胞について4 ℃、3000 rpmで5分間の遠心分離を行い、上清を捨て沈殿物をlysis buffer 200 μLを加えて懸濁した。該懸濁物を氷上で30分間インキュベートした後、voltexでよく攪拌し、4 ℃、14500 rpm 30分間の遠心分離を行った。上清を新しいチューブに移した後、Protein Quantification Kit(Rapid)を用いて細胞溶解液中のタンパク濃度を測定した。
【0067】
抗I-κBα(1-75)抗体-CK8処理HeLa細胞溶解液と、PTDを有していない抗I-κBα(1-75)抗体処理HeLa細胞溶解液を、それぞれタンパク質量300 μg、100 μgとなるように分け、それぞれにprotein G-agarose beadsを20 μLずつ添加し、4 ℃、1時間攪拌した。各細胞溶液について6000 rpm、4秒の遠心分離により上清を除き、沈殿物にsolubilyzing buffer (50 mM Tris-HCl (pH 7.5)+150 mM NaCl+1 mM EDTA+0.5% NP40)100 μLを加え、攪拌した後に6000 rpm、4秒の遠心分離により上清を除いた。上記の操作を5回繰り返した。沈殿物に2×SDS-sample bufferを20 μL添加し、95 ℃、8分間熱処理した後、6000 rpm、4秒の遠心分離により上清を回収し、SDS-PAGEのサンプルとした。本サンプルをPVDF膜にブロッティングした後、HRP (horseraddish peroxidase) 標識抗ウサギ免疫グロブリン抗体で細胞内に存在したウサギIgGを検出した。
【0068】
その結果、図2のレーン1と2に示すように、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8処理HeLa細胞溶解液には、ウサギIgGのH鎖が検出された。それに対して、レーン3と4に示すように、PTDペプチドが付加していない抗I-κBα(1-75)抗体処理HeLa細胞溶解液には、ウサギIgGのH鎖が検出されなかった。抗I-κBα(1-75)抗体-CK8処理HeLa細胞溶解液においてもL鎖が検出されなかったのは、用いたHRP標識抗ウサギ免疫グロブリン抗体がH鎖を主に認識し、L鎖への反応が弱いためと考えられる。
【0069】
次に、ウサギ抗I-κBα抗体とHRP標識抗ウサギ抗体を用いてウェスタンブロッティングを実施した(図3)。抗I-κBα(1-75)抗体-CK8処理HeLa細胞溶解液からprotein G-agarose beadsを用いて抗体および抗体に結合した抗原を回収し、ゲルに流した(レーン1および2)。PTDペプチドが付加していない抗I-κBα(1-75)抗体処理HeLa細胞溶解液についても同様の操作を行なった(レーン3および4)。
その結果、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8は、HeLa細胞内に導入され、立体構造を保った上でNF-κBと複合体を形成しているI-κBに結合することが明らかとなった。一方、CK8を有しない抗I-κBα(1-75)抗体では、細胞内に導入されず、細胞内に存在するI-κBと結合しないことが明らかとなった。
【0070】
〔実施例5〕TNF−αによるNF-κB p65の核移行と抗I-κBα(1-75)抗体-CK8による核移行の抑制
PTDペプチドを付加した抗I-κBα(1-75)抗体が、TNF−αによるNF-κB p65の核移行を抑制するか否かを検討した。
1)EGFP融合p65発現ベクターの作製
HeLa細胞cDNAプール0.5 μLに、Expand High Fidelityplus Enzyme Blend (Roche Applied Science社製) 5U/μL溶液0.05 μL、Expand High Fidelityplus Reaction buffer (5×) 2 μL、dNTP 1 μL、下記のForward primer (10 μM) 1 μL、Reverse primer (10 μM) 1 μL、および滅菌milliQ水 4.45 μLを加えて、PCR反応液とした。本反応液を95℃で2分の熱変性後、95℃で30秒の熱変性 + 64℃で30秒のアニーリング + 72℃で90秒の伸長反応を1サイクルとして、30サイクルのPCR反応にかけて、ヒトp65全長cDNAを増幅した。
Forward primer : p65-F 5’aaaaaagcttccaccatggacgaactgttccccctc 3’ (配列番号:7)
Reverse primer : p65-R 5’gcaaaaggatccaaggagctgatctgactcagcag 3’ (配列番号:8)
【0071】
PCR産物6 μLに10×M buffer 2 μL、10×BSA 2 μL、制限酵素 BamHIとHindIIIを0.5 μLずつ、および滅菌milliQ水 9 μLを加え、37 ℃、1時間以上加温し、制限酵素処理を行なった。また、挿入する遺伝子のN末側にEGFPを融合するpEGFP-C1ベクター(2.83 μ g/ μL) 0.353 μ Lも同様に10×M buffer 1 μL、10×BSA 1 μL、制限酵素 BamHIとHindIII 0.5 μLずつ、滅菌milliQ水 7.5 μLを加え、37 ℃、1時間制限酵素処理を行なった。精製した制限酵素処理後のpEGFP-C1ベクター (BD Biosciences Clontech社製) TE溶液 0.5 μLとヒトp65全長cDNA溶液 4.5 μLを混合し、T4DNA Ligase 0.5 μL、2×Rapid Ligation Buffer 5 μLを加えて室温20分間加温し、ライゲーションを行なった。このプラスミドを用いて、コンピテントセル(大腸菌DH5α株)を形質転換した。実施例1で記載したように、ヒトp65全長cDNAが挿入されたベクターを有するコロニーを選別し、DNA配列を確認した。こうしてp65のアミノ酸配列1〜75残基に該当する塩基配列が挿入されたpEGFP-C1ベクターを作製した。
EGFP融合p65発現ベクターの作製方法を図4に示す。
【0072】
2)緑色蛍光タンパク質EGFP)標識NF-κB p65発現ベクターのHeLa細胞への導入
HeLa細胞を2×104cells / wellになるように96 well plateに播種し、CO2 インキュベーターで一晩培養した。また、FBS(−) DMEM 800 μLに上記のプラスミドpEGFP-C1-p65を加えて攪拌した後、さらにTransFastTM (Promega社製) 4 μLを加えて攪拌した。本混合物を室温で15分間静置した。培養したHeLa細胞の培地を除き、細胞を無血清 DMEMで洗浄し、pEGFP-C1-p65 1.34 μgとTransFastの混合物を攪拌して細胞に添加した。本細胞をCO2インキュベーターで1時間加温した後に、培養上清を除いてFBS(+) DMEMを加え、CO2インキュベーターで一晩培養した。
【0073】
3)蛍光顕微鏡による蛍光標識NF-κBタンパク質p65(EGFP-p65)の細胞内局在
上記のように、緑色蛍光タンパク質を発現するpEGFP-C1-p65ベクターを導入したHeLa細胞を用意した。その細胞に、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8または非特異的IgG-CK8が200、50、10μg/mLの終濃度で存在する培地を添加し、CO2インキュベーターで2時間インキュベートした。本細胞をPBSで1回洗浄した後、TNF−αが10 ng/mLの濃度で存在する培地を添加し、CO2インキュベーターで30分インキュベートした。その後、蛍光顕微鏡にてEGFP-p65の細胞内局在を観察した。緑色蛍光の核内存在率を、撮影した画像上で計測した。
【0074】
実験の結果を図5に示す。TNF−α刺激を行う前は、EGFP-p65が核に存在する細胞割合は10%以下であったが、TNF−αで刺激すると、EGFP-p65が核に存在する細胞の割合は20〜30%に上昇した。しかし、200または50 μg/mLの濃度の抗I-κBα(1-75)抗体-CK8で細胞を処理した後に、TNF−αで刺激した場合には、TNF−α刺激を行わないレベルまでEGFP-p65の核内移行率は低下した。一方、同じ濃度の非特異的IgG-CK8で細胞を処理した場合には、そのような核移行の抑制は観察されなかった。以上の結果から、抗I-κBα(1-75)抗体-CK8は、細胞内において立体構造を保った上でNF-κBと複合体を形成しているI-κBαに結合し、TNF-αの刺激によるNF-κBの核内移行活性を阻害することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】His融合I-κBα発現ベクターの作製方法を示す図である。
【図2】HRP標識抗ウサギ免疫グロブリン抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
【図3】ウサギ抗I-κBα抗体とHRP標識抗ウサギ抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
【図4】EGFP融合p65発現ベクターの作製方法を示す図である。
【図5】TNFα処理によるEGFP-p65の核移行率の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトI-κBαの32番目および36番目のSer残基を含み、30〜100個のアミノ酸残基からなるヒトI-κBαの部分ペプチドに結合する抗体。
【請求項2】
ヒトI-κBαの部分ペプチドが配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
インタクトI-κBの立体構造を認識することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
NF-κB阻害活性を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項5】
細胞透過性を付与する物質を付加させた、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体。
【請求項6】
細胞透過性を付与する物質がPTDペプチドである請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
PTDペプチドが Cys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys - Lys(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、NF-κBの活性を抑制するための薬剤。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、炎症性疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、癌疾患を治療または予防するための薬剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象においてNF-κBの活性を抑制する方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象において炎症性疾患を治療または予防する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の抗体を対象に投与する工程を含む、対象において癌疾患を治療または予防する方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230972(P2007−230972A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57996(P2006−57996)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】