説明

ICインレット内蔵紙の製造方法

【課題】省スペース化および装置の簡素化が可能で、ICインレットを落下させることなく、地合いの乱れが抑制されたICインレット内蔵紙の製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、基材に設けられた、アンテナおよびICチップを有するICインレット310を湿紙間に抄き込む方法であって、第一の円網により形成した第一の湿紙24を、無端フェルト10上に転移させる第一の工程と、前記無端フェルトの進行方向の下流側で、第一の湿紙のワイヤー面に、下方からICインレット310を貼り付ける第二の工程と、第二の工程の後に、第一の円網より無端フェルトの進行方向の下流側に直列に配置された第二の円網により形成した第二の湿紙を、無端フェルト上の第一の湿紙のワイヤー面に抄き合わせる第三の工程とを有し、第二の工程は、下方からワイヤー面に向かうエアをICインレットに吹き付ける工程であることを特徴とするICインレット内蔵紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICインレット内蔵紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品管理や文書管理などに、非接触で情報の書き込みおよび読み取りが可能なRFID(Radio Frequency Identification:無線周波数認識)システムが普及しつつある。RFIDシステムのインターフェースとしては、半導体(IC)チップと、該ICチップに電気的に接続された情報の送受信を行うアンテナを有するICインレットが紙などの基材内部に挿入された、ICタグやICインレット入り記録用紙等のICインレット内蔵紙が使用される場合が多い。
【0003】
ICインレット内蔵紙を製造する方法としては、ICインレットを紙層間に抄き込む方法が知られている。ICインレットを紙層間に抄き込む場合、第一の紙(湿紙)と第二の紙(湿紙)を抄き合わせる間に、第一の湿紙の上方からICインレットを貼り付ける方法と、第一の湿紙の下方からICインレットを貼り付ける方法が検討されていた。
【0004】
しかし、第一の湿紙の下方からICインレットを貼り付ける方法では、重力のためICインレットが落下するとして、第一の湿紙の上方からICインレットを貼り付ける方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
特許文献1には、抄網a上に第一の湿紙を形成し、次に第一の湿紙の上方から第一の湿紙の表面にICインレットを設置した後、抄網aとは異なる抄網b上に設けた第二の湿紙と、第一の湿紙とを抄き合わせる方法が開示されている。また、抄網aと抄網bの組み合わせとしては、長網と円網、短網と円網、円網と円網の組み合わせ等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−122222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、第一の湿紙の上方からICインレットを貼り付ける方法では、第一の湿紙と第二の湿紙を抄き合わせるために、第二の湿紙は、第一の湿紙とは異なる抄網にて(すなわち、第一の湿紙を抄紙する長網等と並列に設置された抄網により)抄紙する必要があった。
【0007】
また、第一の湿紙を円網で抄紙する場合、通常、前記第一の湿紙を無端フェルト上に転移させるため、抄紙直後は第一の湿紙のワイヤー面(円網と接している面)は下向きである。従って、ICインレットを第一の湿紙の上方から貼り付けるためには、貼り付け前にワイヤー面が上側を向くように、第一の湿紙を案内ロール等で反転させなければならなかった。
【0008】
上述した理由により、第一の湿紙の上方からICインレットを貼り付ける方法は、装置の設置にある程度のスペースが必要となり、省スペース化には不向きであった。また、装置が複雑になりやすかった。
そこで、本発明者らは省スペース化および装置の簡素化の観点から、第一の湿紙、第二の湿紙共に無端フェルトの進行方向に沿って直列に配置された複数の円網(円網抄紙機)を用いて抄紙し、その間で第一の湿紙の下方からICインレットを貼り付ける方法を改めて検討した。
【0009】
しかしながら、ICインレットの落下を防ぐためには、積極的にICインレットを第一の湿紙に押し当てなければならなかった。ところが、ICインレットを押し当てると、湿紙上に押し当てた跡が残るといった、いわゆる地合いの乱れが発生しやすく、得られるICインレット内蔵紙の外観不良が起こりやすかった。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、省スペース化および装置の簡素化が可能で、ICインレットを落下させることなく、地合いの乱れが抑制されたICインレット内蔵紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、複数の円網が直列に配置された円網抄紙機を用いて第一の湿紙と第二の湿紙を抄き合わせる間に、第一の湿紙の下方からエアを吹き付けてICインレットを貼り付けることにより、ICインレットの落下を防止しつつ、地合いの乱れを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下の構成を採用した。
[1]基材と、該基材に設けられた、アンテナおよびICチップを有するICインレットを、湿紙間に抄き込んでなるICインレット内蔵紙の製造方法であって、第一の円網により形成した第一の湿紙を、無端フェルト上に転移させる第一の工程と、前記無端フェルトの進行方向の下流側で、第一の湿紙のワイヤー面に、該ワイヤー面の下方から前記ICインレットを貼り付ける第二の工程と、該第二の工程の後に、前記第一の円網より前記無端フェルトの進行方向の下流側に直列に配置された第二の円網により形成した第二の湿紙を、前記無端フェルト上の第一の湿紙のワイヤー面に抄き合わせる第三の工程とを有し、前記第二の工程は、下方から前記ワイヤー面に向かうエアを前記ICインレットに吹き付ける工程であることを特徴とするICインレット内蔵紙の製造方法。
[2]前記ICインレットは、基材上に設けられた粘着層をさらに有することを特徴とする[1]に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
[3]さらに、前記ICインレットに、粘着層と反対側から粘着剤を塗布する第四の工程を有することを特徴とする[2]に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
[4]前記第二の工程は、ICインレットにエアを吹き付ける工程の前に、複数のICインレットが粘着層を介して連続して剥離紙に貼着したインレット付き剥離紙が、ロール状に巻き取られたインレット巻状体から、前記インレット付き剥離紙を繰り出す工程と、エアを吹き付ける直前にインレット付き剥離紙からICインレットを剥離する工程を有し、かつ前記第四の工程は、前記インレット付き剥離紙をインレット巻状体から繰り出してから、ICインレットを剥離するまでの間に行われることを特徴とする[3]に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
[5]前記第二の工程は、前記粘着層を前記ワイヤー面に向けたICインレットに、粘着層と反対側からエアを吹き付ける工程であることを特徴とする[2]〜[4]のいずれかに記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
[6]前記エアの吹き付けを連続的に行うことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のICインレット内蔵紙の製造方法によれば、省スペース化および装置の簡素化が可能で、ICインレットを落下させることなく、地合いの乱れが抑制されたICインレット内蔵紙を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のICインレット内蔵紙の製造方法で使用されるICインレット内蔵紙の製造装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】図1のICインレット内蔵紙の製造装置に備わる貼付手段の拡大図である。
【図3】インレット付き剥離紙の一例を示す図であって、(a)は上面図であり、(b)は(a)のA−A’断面図である。
【図4】図2の貼付手段の要部拡大図である。
【図5】貼付手段の他の例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のICインレット内蔵紙の製造方法の一実施形態について説明する。
本発明のICインレット内蔵紙の製造方法は、第一の円網により形成した第一の湿紙を、無端フェルト上に転移させる第一の工程と、前記無端フェルトの進行方向の下流側で、第一の湿紙のワイヤー面に、該ワイヤー面の下方から前記ICインレットを貼り付ける第二の工程と、該第二の工程の後に、第二の円網により形成した第二の湿紙を、前記無端フェルト上の第一の湿紙のワイヤー面に抄き合わせる第三の工程とを有する。
【0016】
図1に、本実施形態のICインレット内蔵紙の製造方法で使用するICインレット内蔵紙の製造装置の一例を示す。この例のICインレット内蔵紙の製造装置1は、無端フェルト10と、該無端フェルト10上に第一の湿紙を形成し転移させる第一の抄紙手段20と、第一の湿紙にICインレットを貼り付ける貼付手段30と、ICインレットを介して第一の湿紙上に第二の湿紙を抄き合わせる第二の抄紙手段40と、第二の湿紙上に第三の湿紙を抄き合わせる第三の抄紙手段50を具備して構成されている。
なお、図1〜5においては、説明の便宜上、寸法比は実際のものと異なったものである。
【0017】
第一の抄紙手段20は、第一の円網21と、第一のクーチロール22と、第一の抄槽23とを備えている。第一の抄槽23には、第一の湿紙の原料となる紙料が貯蔵される。
第二の抄紙手段40は、第二の円網41と、第二のクーチロール42と、第二の抄槽43とを備えている。第二の抄槽43には、第二の湿紙の原料となる紙料が貯蔵される。
第三の抄紙手段50は、第三の円網51と、第三のクーチロール52と、第三の抄槽53とを備えている。第三の抄槽53には、第三の湿紙の原料となる紙料が貯蔵される。
各抄紙手段に備わる円網およびクーチロールとしては、円網抄紙機に用いられる公知の円網およびクーチロールを用いることができる。
【0018】
第二の抄紙手段40は、第一の抄紙手段20より無端フェルト10の進行方向の下流側に、第一の抄紙手段20と直列に配置されている。
また、第三の抄紙手段50は、第二の抄紙手段40より無端フェルト10の進行方向の下流側に、第一の抄紙手段20および第二の抄紙手段40と直列に配置されている。
【0019】
第一の湿紙、第二の湿紙および第三の湿紙の原料となる紙料は、同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよく、得られるICインレット内蔵紙の用途に応じて適宜選択して用いればよい。このような紙料としては、抄き合わせ紙に使用できるパルプが好ましい。
パルプの材質は特に制限されないが、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;脱墨古紙パルプ;合成パルプなどが挙げられる。これらパルプは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
貼付手段30は、図1に示すように、無端フェルト10の進行方向に沿って直列に配置されている第一の抄紙手段20、および第二の抄紙手段40の間に備えられている。
貼付手段30は、例えば図2に示すように、ICインレット310が剥離紙315に貼着したインレット付き剥離紙31を繰り出す剥離紙繰り出しロール32と、該剥離紙繰り出しロール32から繰り出されたインレット付き剥離紙31の走行を支持する案内ロール33と、インレット付き剥離紙31からICインレット310を剥離するために使用されるインレット剥離用治具34と、インレット剥離用治具34にて分離した剥離紙315を巻き取る剥離紙巻き取り用ロール35と、インレット剥離用治具34にて剥離したICインレット310にエアを吹き付け、エア圧によってICインレット310を無端フェルト10上の第一の湿紙24に貼り付けるインレット添付用エア供給ヘッド36とを備えている。
【0021】
インレット付き剥離紙31は、図2に示すように、個片のICインレット310が連続的に剥離紙315に貼着しており、ロール状に巻き取られたインレット巻状体として、剥離紙繰り出しロール32に取り付けられている。
図3に、インレット付き剥離紙31の一例を示す。図3(a)はインレット付き剥離紙31の上面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A’断面図である。なお、図3(a)においては、便宜上、後述する粘着層314および剥離紙315を省略している。
この例のインレット付き剥離紙31は、基材311と、該基材311に設けられた、アンテナ312、ICチップ313および粘着層314を有するICインレット310が、粘着層314を介して剥離紙315に貼着している。
以下、本発明において、アンテナ312、ICチップ313、粘着層314が設けられている側の基材311の面を「基材の内側面」、アンテナ312、ICチップ313、粘着層314が設けられていない側の基材311の面を「基材の外側面」と称する。
【0022】
ICインレット310を構成する各部材は以下のとおりである。
基材311としては、例えば紙、プラスチックラミネート紙、プラスチックフィルムなどが挙げられる。これらの中でも、平滑性に優れ、厚さを薄く設定できる観点から、プラスチックフィルムが好ましい。
基材311の厚さは、一般的に10〜200μm程度であるが、基材311が薄いとインレット付き剥離紙31からICインレット310が剥離しにくくなる。一方、基材が厚いと制限された設置スペースではインレット付き剥離紙31の巻き取りが大きくなるため、巻き取りに貼付されたインレットの個数が少なくなり、巻き取りの交換頻度が増えることから作業性が低下する。そのため、基材311の厚さは、20〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。
【0023】
アンテナ312としては、アルミニウムなどの金属箔、あるいは感度が高くなるように、エッチング方式、印刷方式等でパターニングされた銀、銅、アルミニウムなどの金属線などが挙げられる。また、アンテナ312として、例えば図1に示すように略平板上のアンテナコイルを用いてもよく、その厚さは、一般的に10〜30μm程度であるが、最終的に得られる紙の厚さが薄くなるほど、使用できる範囲内でアンテナ312の厚さを薄くするのが好ましい。
図3に示すICインレット310の場合、アンテナ312は、後述するICチップ313に接続されて、基材311の内側面上で左右に広げられて配置されている。アンテナ312は、ICチップ313との接続部に沿って、スリット316を有している。
【0024】
ICチップ313としては、ICタグに使用許可のある全ての周波数帯に適用可能なものが挙げられ、具体的には13.56MHz帯、UHF帯、2.45GHz帯などの周波数に対応可能なものが挙げられる。このようなICチップ313として、例えばインフィニオン社、富士通社、フィリップス社等より販売されているICチップを用いることができる。
ICチップ313の厚さは、一般的に150μm以下のものが市販されているが、最終的に得られる紙の厚さの三分の一以下であることが好ましい。例えば事務用紙などの薄い紙(湿紙)に抄き込む場合、ICチップ313の厚さは45μm程度が一般的に使用される。ただし、ICチップ313が薄すぎると内蔵紙を製造する上で必要なロールのプレス圧に耐えられない場合があるため、ICチップ313の厚さは30〜100μmが好ましい。
また、ICチップ313の縦横の長さは、一般的に0.4〜10mm程度であるが、縦横の長さが長すぎるとICインレット内蔵紙の製造においてロール状にICインレット内蔵紙が巻かれたときにICインレットに応力がかかり通信ができなくなるため、ICチップ313の縦横の長さは短い方が好ましい。
【0025】
粘着層314は、粘着剤からなる層である。粘着剤としては、例えばアクリル系、ゴム系、ビニルエーテル系、ウレタン系、ポリエステル系等の粘着剤が挙げられる。アクリル系粘着剤としては、エマルジョン型、溶剤型、ホットメルト型等があり、いずれの型のものも使用できる。これら粘着剤の中では、湿紙を乾燥する際に熱圧着が可能であるホットメルト型の粘着剤が好適である。
粘着層314の厚さは、一般的に1〜30μmであるが、特に限定されない。
【0026】
ICインレット310の厚さは、通常、60〜250μm程度であるが、最終的に得られる紙の厚さの半分以下であることが好ましく、最終的に得られる紙の厚さに応じて、基材311、アンテナ312、ICチップ313、粘着層314の各厚さを調整しながら決定すればよい。
また、ICインレット310のサイズは、通常、長辺の長さが40〜100mm、短辺の長さが4〜20mm程度であるが、これに限定されない。ただし、小さいサイズの方が、湿紙間に抄き込んだ際に、湿紙の脱水に影響を与えにくいので好ましい。
【0027】
ICインレットは、図3に示す構造のものに限定されず、例えば基材とアンテナの間にICチップが介在したICインレットや、基材の内側面上にアンテナとICチップを設けた後、さらにフィルム等の第二の基材で被覆し、該第二の基材上に粘着層を設けてなるICインレットなどを用いてもよい。
【0028】
剥離紙315としては、グラシン紙のような高密度紙、クレーコート紙、クラフト紙、上質紙等にポリエチレン等の樹脂フィルムをラミネートした、いわゆるポリラミ原紙などが挙げられる。
剥離紙315の厚さは、一般的に5〜300μm程度であるが、厚すぎると後述する剥離点34aにおいて剥離紙315が鋭角になりにくくなるため、ICインレット310がインレット付き剥離紙31から剥離しにくくなる場合がある。そのため、剥離点34aにおいて剥離紙315が折れ曲がりやすくなり、ICインレット310が剥離しやすくなる点や、ICインレットが剥離した後の剥離紙315を剥離紙巻き取り用ロール35で巻き取る際に嵩張りにくくなる点を考慮すると、剥離紙315は薄い方が好ましい。ただし、剥離紙315が薄すぎると剥離紙315が伸びる恐れがあり、剥離紙315に連続して貼着されるICインレット310の間隔が一定にならず、その結果、ICインレット310を一定の間隔で第一の湿紙24に貼り付けるのが困難となる場合がある。従って、剥離紙315の厚さは30〜70μmが好ましい。
【0029】
インレット付き剥離紙31は、公知の方法で製造できる。また、市販のものを用いてもよい。
【0030】
図2に示すインレット剥離用治具34は、ICインレット310がインレット付き剥離紙31から剥離する剥離点34aから第一の湿紙24のワイヤー面24aまでの垂直方向の距離Dが3〜30mmになるように設置されるのが好ましい。距離Dが3mm以上であれば、第一の湿紙24の走行を妨げることなく、かつ地合いの乱れを発生することなく、ICインレット310を貼り付けることができる。一方、距離Dが30mm以下であれば、ICインレット310を貼り付ける際に、落下を防止できる。距離Dは5〜15mmがより好ましい。また、インレット付き剥離紙31からICインレット310が剥離する際の剥離性を考慮すると、インレット剥離用治具34の剥離点34aにおける角度θは鋭角であることが好ましく、具体的には角度θは5〜30°が好ましい。
ここで、「第一の湿紙のワイヤー面」とは、第一の湿紙が第一の円網と接する側の面のことである。
【0031】
インレット添付用エア供給ヘッド36は、図4に示すように、ノズル36aの先端口36bから、エアが吹き付けられるICインレット310の基材の外側面までの垂直方向の距離Dが1〜20mmになるように設置されるのが好ましい。距離Dが1mm以上であれば、インレット付き剥離紙31の走行を妨げることなく、ICインレット310にエアを吹き付けることができる。一方、距離Dが長すぎると、ICインレット310の貼付方向や貼付位置がずれたり、第一の湿紙にICインレット310が貼付されずに紛失したりすることがある。しかし、距離Dが20mm以下であれば、エアの供給量を増やす必要がなくなる。距離Dは1〜5mmがより好ましい。
なお、図4は、図2において点線で囲った部分の拡大図であり、かつ図2に示す状態から剥離点34aにおいてICインレット310がインレット付き剥離紙31から完全に剥離した直後を示す図である。また、図4において、図2、3と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0032】
また、インレット添付用エア供給ヘッド36は、基材の外側面において、両端部のうちインレット剥離用治具34側を端部311a、ノズル36aの中心36cの真上に位置する部分を真上部311bとしたとき、該真上部311bから端部311aまでの長さLが、インレット付き剥離紙31の走行方向における基材の長さ(すなわち、インレット付き剥離紙31の走行方向におけるICインレット310の長さ)Lの20〜80%になるように設置されるのが好ましい。長さLが上記範囲内であれば、ICインレット310が第一の湿紙24と略平行になるようにして、第一の湿紙24のワイヤー面24aに張り付けることができる。長さLは、長辺の長さLの40〜60%がより好ましい。
また、真上部311bは、インレット付き剥離紙31の幅方向中央位置であることが好ましい。
【0033】
ノズル36aのノズル口の形状としては特に限定されず、丸状や多角形状などが挙げられる。ノズル36aは、ノズル口の口径が小さすぎるとエアが第一の湿紙の一点に集中して当たり、地合いの乱れが発生するおそれがある。従って、ノズル口の口径はICインレット310の幅方向の長さ以上であることが好ましい。ただし、口径が大きすぎると隣り合うICインレットの吹き出し口が重なりやすくなる。よって、ノズル口の口径は2mm以上、かつICインレット310の幅方向の長さの100〜150%が好ましい。
なお、ノズル口の口径とは、形状が丸状の場合は直径を意味し、形状が多角形状の場合はノズル口が外接する円の直径を意味する。
【0034】
インレット添付用エア供給ヘッド36から吹き出されるエアとしては、空気、圧縮空気などが挙げられる。
なお、エアがICインレットの基材に当る範囲としては特に制限されない。ただし、範囲が狭すぎるとエアが一点に集中することになるため、地合いの乱れが発生する恐れがある。
【0035】
図1に示すICインレット内蔵紙の製造装置1を用いたICインレット内蔵紙の製造方法では、まず、第一の抄紙手段20に備わる第一の円網21を第一の抄槽23中で回転させ、それに応じて第一の円網21上に生じた紙料層を第一のクーチロール22で無端フェルト10を介して吸引し、形成された第一の湿紙を無端フェルト10上に転移させる(第一の工程)。
【0036】
一方、図2に示す貼付手段30の剥離紙繰り出しロール32に取り付けられたインレット巻状体からインレット付き剥離紙31を繰り出す。例えば貼付手段30が案内ロール33を備える場合は、案内ロール33によりインレット付き剥離紙31の走行を支持しながら、インレット剥離用治具34の剥離点34aまで走行させ、該剥離点34aでインレット剥離用治具34によりインレット付き剥離紙31を急激に屈曲させて、ICインレット310と剥離紙315を分離する。剥離紙315は剥離紙巻き取り用ロール35に巻き取られる。一方、ICインレット310は、基材の内側面上に設けられた粘着層が第一の湿紙24のワイヤー面24aと対向するように露出する。なお、ICインレット310の剥離は、インレット剥離用治具34の剥離点34aにおける角度θ、ICインレット310の粘着層の粘着性や基材の剛性、および剥離紙315の剥離性能などで調整できる。
【0037】
そして、インレット添付用エア供給ヘッド36からエアを吹き出し、分離したICインレット310の基材の外側面にエアを吹き付け、無端フェルト10上の第一の湿紙24のワイヤー面24aに、該ワイヤー面24aの下方からICインレット310を貼り付ける(第二の工程)。その際、ICインレット310の粘着層が第一の湿紙24のワイヤー面24aに向いているので、粘着層とワイヤー面24aが接するように、ICインレット310が第一の湿紙24に貼り付く。
なお、「ワイヤー面の下方」とは、ワイヤー面に対して鉛直方向下側を意味する。
【0038】
ICインレット310の基材の外側面にエアを吹き付ける方向は、完全に鉛直線に沿った方向でもよいし、鉛直線から傾いた斜め方向でもよい。ただし、ワイヤー面は第三の抄紙手段50を通過するまでは下向きの略水平面であるため、鉛直線に沿った方向に吹き付けるのが、ICインレットを等間隔でワイヤー面に貼り付けることができる点で好ましい。
また、第一の湿紙24が貼付手段30を通過するときの移動速度が速い場合は、第一の湿紙24の進行方向後側から斜め方向に吹き付けてもよい。
【0039】
第二の工程では、ICインレット310にエアを吹き付けることで、エア圧により押し付けながらICインレット310を第一の湿紙24に貼り付ける。そのため、ICインレットの落下を防止できる。また、エア圧によりICインレットを貼り付けることで、押板等の固体状治具でICインレットを押し当てる方法に比べて第一の湿紙24への負荷がかかりにくくなるので、地合いの乱れが発生しにくい。
地合いの乱れを防ぐ条件やICインレットの貼付条件は、後述するように湿紙の含有水分率により異なる。さらに、ノズル口の口径や形状、ノズルの先端口から第一の湿紙のワイヤー面までの垂直方向の距離によっても異なる傾向にあり一概には言えないが、例えば含有水分率85質量%の第一の湿紙に、ノズル口の口径が4mmのノズルを用い、該ノズルの先端口から第一の湿紙のワイヤー面までの距離が10mmの位置からエアを吹き付ける場合、エアの風速を5〜200m/秒程度とするのが好ましい。エアの風速が上記範囲内であれば、地合いの乱れを効果的に防止し、かつ、ICインレットを落下させることなく第一の湿紙に貼り付けることができる。
【0040】
また、第二の工程では、連続的にインレット付き剥離紙を繰り出し、ICインレットを第一の抄紙のワイヤー面に貼り付けることで、走行する第一の湿紙のワイヤー面上に、連続してICインレットを貼り付けることができる。その際、エアの吹き付けを連続的に行うことが好ましい。エアの吹き付けを連続的に行うことで、走行する第一の湿紙24のワイヤー面24a上に、常にエアが当るため均一にエア圧がかかりやすくなり、地合いの乱れをより抑制できる。
なお、本発明において「エアの吹き付けを連続的に行う」とは、インレット添付用エア供給ヘッドからエアを吹き出し続けることであり、ICインレットがインレット添付用エア供給ヘッドの上方にあるときのみにエアを吹き出すことではない。
【0041】
第二の工程の後、図1に示す第二の抄紙手段40に備わる第二の円網41を第二の抄槽43中で回転させ、それに応じて第二の円網41上に生じた紙料層を第二のクーチロール42で無端フェルト10と、第一の湿紙を介して吸引し、無端フェルト10上の第一の湿紙のワイヤー面に第二の湿紙を抄き合わせる(第三の工程)。
【0042】
さらに、第三の工程の後、第三の抄紙手段50に備わる第三の円網51を第三の抄槽53中で回転させ、それに応じて第三の円網51上に生じた紙料層を第三のクーチロール52で無端フェルト10と、第一の湿紙および第二の湿紙を介して吸引し、無端フェルト10上の第二の湿紙のワイヤー面に第三の湿紙を抄き合わせる。
【0043】
上述した各工程により、ICインレットが、第一の湿紙と第二の湿紙の間に抄き込まれる。
なお、ICインレットを湿紙間に抄き込んだ直後は水分を含んだ状態であるため、通常、ロールやフェルトを介して、機械的に圧搾脱水し、多筒式ドライヤーやヤンキードライヤーなどで乾燥する。また、必要に応じて、ドライヤー乾燥後の紙面に澱粉等の溶液を塗布してもよい(サイズプレス工程)。サイズプレス工程により、得られるICインレット内蔵紙に、表面強度や耐水性を付与できる。得られたICインレット内蔵紙は、ワインダー等に巻き取られ、保管・搬送される。
【0044】
上述のようにして得られたICインレット内蔵紙には、必要に応じてその表面に塗工処理を施してもよい。ICインレット内蔵紙は、通常、パルプの繊維が露出しているので、表面が凹凸状になりやすい。表面に塗料などを塗布して塗工処理を施し、目的に応じた機能を有する塗工層を設けることで、表面が均一で平滑性が高く、印刷適性に優れたICインレット内蔵紙が得られる。塗料としては、塗工処理に用いられる公知の塗料を使用できる。
【0045】
本発明のICインレット内蔵紙の製造方法は、上述した方法に限定されず、例えばICインレット内蔵紙の製造装置1における第一の抄紙手段20の上流に、抄網を備えた他の抄紙手段を1つ以上配置して、第一の工程の前に1層または2層以上の湿紙を形成し、無端フェルト上に転移させておいてもよい。
他の抄紙手段に備わる抄網としては、円網、長網、短網などが挙げられる。ただし、抄網として円網を用いれば、第一の抄紙手段20より無端フェルト10の進行方向の上流側に、他の抄紙手段を直列に配置させることができるので、装置の省スペース化および簡素化の点で好ましい。
【0046】
また、第三の抄紙手段50が設置されていない製造装置を用いて、ICインレット内蔵紙を製造してもよいし、第三の抄紙手段50の下流に、さらに1つ以上の他の抄紙手段を設け、第三の湿紙を抄紙した後に、1層または2層以上の湿紙を第三の湿紙のワイヤー面に抄き合わせてもよい。
第三の抄紙手段50の下流に設ける他の抄紙手段に備わる抄網としては、円網、長網、短網などが挙げられる。ただし、抄網として円網を用いれば、第三の抄紙手段50より無端フェルト10の進行方向の下流側に、他の抄紙手段を直列に配置させることができるので、装置の省スペース化および簡素化の点で好ましい。
【0047】
このように、第一の工程の前や、第三の工程の後に抄紙を行うことで、3層以上の湿紙が積層したICインレット内蔵紙が得られる。湿紙の層数は、ICインレット内蔵紙の用途に応じて適宜設定すればよく、例えばICインレット内蔵紙の厚さを厚くする場合は、湿紙の層数を増やせばよい。ただし、抄紙する湿紙の層数が増えるほど、層間剥離が起こりやすくなる傾向にある。
【0048】
また、本発明のICインレット内蔵紙の製造方法は、第二の工程において、例えば図5に示すように、インレット付き剥離紙31からICインレット310が分離したときに、基材の外側面が第一の湿紙24のワイヤー面24aと対向するように、剥離紙繰り出しロール32、案内ロール33、インレット剥離用治具34、及び剥離紙巻き取り用ロール35を配置した貼付手段30を用いてもよい。そして、基材の内側面上に設けられた粘着層側からエアを吹き付けて、第一の湿紙24のワイヤー面24aにICインレット310を貼り付けてもよい。この場合、基材の外側面とワイヤー面24aが接するようにICインレット310が第一の湿紙24に貼り付く。
なお、図5において図2、3と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。また、図5に示す貼付手段30は案内ロール33を備えているが、貼付手段30は案内ロールを備えていてもよいし、備えていなくてもよい。
【0049】
ところで、ICインレットが粘着層の粘着力によらず第一の湿紙に貼り付くためには、第一の湿紙の水分による表面張力が重要である。適切な水分の表面張力を得るためには、湿紙の含有水分率が70〜95質量%(すなわち、紙料濃度が5〜30質量%)になるように、第一の抄紙手段により形成した第一の湿紙を無端フェルト上に転移させるのが好ましい。含有水分率が70質量%以上であれば、ICインレットが第一の湿紙から落下するのを抑制できる。一方、含有水分率が95質量%以下であれば、第一の湿紙が無端フェルトから落下するのを抑制できる。特に、含有水分率が70〜85質量%であれば、エア圧による湿紙の地合いの乱れをより防止しやすくなるため好ましい。
【0050】
さらに、本発明のICインレット内蔵紙の製造方法は、ICインレットに、粘着層と反対側から(すなわち、基材の外側面上に)粘着剤または接着剤を塗布するのが好ましい。
第二の工程が図2に示すように、粘着層を第一の湿紙24のワイヤー面24aに向けたICインレット310に、基材の外側面からエアを吹き付ける工程の場合、湿紙間に抄き込まれるICインレットは、粘着層と第一の湿紙とが接し、基材の外側面と第二の湿紙とが接することとなる。基材の外側面上に粘着剤または接着剤を塗布することで、最終的に得られるICインレット内蔵紙のICインレットと、その周辺のパルプの接着性が向上するため好ましい。
一方、第二の工程が図5に示すように、基材の外側面を第一の湿紙24のワイヤー面24aに向けたICインレット310に、粘着層側からエアを吹き付ける工程の場合、湿紙間に抄き込まれるICインレットは、基材の外側面と第一の湿紙とが接し、粘着層と第二の湿紙とが接することとなる。基材の外側面上に粘着剤または接着剤を塗布することで、最終的に得られるICインレット内蔵紙のICインレットと、その周辺のパルプの接着性が向上するため好ましい。
【0051】
ICインレットの基材の外側面上に粘着剤または接着剤を塗布するには、例えばICインレットに、粘着層と反対側から粘着剤を塗布する第四の工程を設ければよい。
第四の工程は、少なくとも第三の工程の前であれば、どの段階で実施されてもよいが、インレット付き剥離紙をインレット巻状体から繰り出してから、インレット剥離用治具の剥離点においてICインレットを剥離するまでの間に行われることが好ましい。この間に第四の工程を実施することで、インレット付き剥離紙をインレット巻状体から安定して繰り出すことができる。例えば図2、5に示すように、貼付手段30が案内ロール33を備える場合は、インレット付き剥離紙が案内ロール33を通過した後に第四の工程を実施すれば、案内ロール33が汚れるのを抑制できる。
【0052】
第四の工程での粘着剤の塗布方法としては、例えば図2、5に示すように、貼付手段30が案内ロール33を備える場合は、案内ロール33に代えて粘着剤を塗布する粘着剤塗布ロールを備え、剥離紙繰り出しロール32から繰り出されたインレット付き剥離紙31が、粘着剤塗布ロールを通過する際に、ICインレット310の基材の外側面上に粘着剤を塗布する方法が挙げられる。
また、第二の工程が図2に示すように、粘着層を第一の湿紙24のワイヤー面24aに向けたICインレット310に、基材の外側面からエアを吹き付ける工程の場合、インレット添付用エア供給ヘッド36から供給されるエアと共に、粘着剤をICインレット310の基材の外側面上に吹き付けてもよい。この場合、1つのノズル36aからエアと粘着剤を吹き出してもよいし、個々のノズルからエアと粘着剤をそれぞれ吹き出してもよい。また、インレット添付用エア供給ヘッド36に隣接して、粘着剤供給ヘッドを設けてもよい。
粘着剤の塗布方法としては、上述した方法に限定されず、例えばハケ塗り、バー塗工、ドライラミネート方式などが挙げられる。粘着剤の流れ落ちや飛散を軽減する観点では、ドライラミネート方式が適している。
【0053】
第四の工程で用いられる粘着剤としては、ICインレットの粘着層の説明において先に例示した粘着剤の中から1種以上を選択して用いることができる。また、粘着剤の代わりにアクリル系接着剤などの接着剤を用いてもよい。ただし、接着剤はその接着性能を発現するためには熱を加える等の熱処理が必要となるので、作業性の観点から粘着剤が適しており、特にホットメルト型の粘着剤が好適である。
粘着剤の塗布量は、1〜15g/mが好ましい。
【0054】
また、上述した第四の工程の代わりに、予め基材の外側面上に接着層が設けられたICインレットを準備し、これを用いてICインレット内蔵紙を製造してもよい。
基材の外側面上に設けられる接着層を構成する接着剤としては、例えばアクリル系、ゴム系、水膨潤系、ビニルエーテル系、ウレタン系、ポリエステル系等の接着剤が挙げられる。アクリル系接着剤としては、エマルジョン型、溶剤型、ホットメルト型等がある。また、水膨潤系接着剤としては、水分散型、エマルジョン型等がある。これらはいずれの型のものも使用できる。
なお、水膨潤系接着剤としては、分子量を高く設定したものであれば、ポリビニルアルコールや澱粉などを用いることもできる。
【0055】
また、接着剤の代わりにアクリル系粘着剤などの粘着剤を塗布して、基材の外側面上に粘着層を設けてもよい。ただし、予め粘着剤が基材の外側面上に塗布されたICインレットの場合、インレット巻状体からインレット付き剥離紙を繰り出す際に、基材の外側面上の粘着層に接する側の剥離紙にICインレットが取られることが考えられる。そのため、ICインレットを剥離紙と剥離紙の間(剥離層の間)に挟む必要があり、例えば両面剥離紙を用いたり、別の剥離紙を設けて2枚の剥離紙としたりするのが好ましい。さらに、基材の外側面上の粘着層に接する側の剥離層の剥離性を、基材の内側面上の粘着層に接する側の剥離層の剥離性よりも軽くすることで、安定したICインレットの供給が可能となる。
【0056】
ただし、両面剥離紙を用いた場合、剥離紙の剥離層を両面処理しなければならず、その分、剥離紙の厚さが厚くなり、図2に示す剥離点34aにおいて剥離紙315が鋭角になりにくくなり、剥離しにくくなる。また、2枚の剥離紙とする場合、ICインレットは2枚の剥離紙に挟まれることになるので、基材の外側面上の剥離紙の分だけインレット付き剥離紙をロール状に巻き取る際に嵩張りやすい。さらに、インレット付き剥離紙からICインレットを剥離する際に、基材の外側面に設けられた剥離紙を巻き取る剥離紙巻き取り用ロールを新たに貼付手段に設置しなければならない。これらはコストアップにもつながることとなる。
【0057】
このような理由により、予め基材の外側面上に設けておく層としては、接着剤から構成される接着層が好ましい。特に、接着剤としては、湿紙を乾燥する際に溶融し、その後常温となることで接着が可能であるホットメルト型の接着剤が好適である。
接着層の厚さは、1〜10μmが好ましいが、特に限定されない。ただし、粘着層が厚すぎると巻き取り径が大きくなったり、長尺になりにくかったりする傾向にある。接着層の厚さが上記範囲内であれば、容易に巻き取り径を小さくしたり、長尺にしたりできる。
【0058】
本発明のICインレット内蔵紙の製造方法においては、ワイヤー面上に貼り付けられるICインレットの間隔に合わせて、第二の工程の前に、第一の湿紙のICインレットが貼り付けられる箇所に、あるいは第二の工程の後に、第二の湿紙のICインレットと接する箇所に、シリンダー表面に取り付けたマークなどにより穴を設けておいてもよい。これにより、得られるICインレット内蔵紙のICインレットが抄き込まれた部分と、抄き込まれていない部分の厚さが均一になりやすくなる。さらに、第一の湿紙または第二の湿紙の米坪を調整することにより、ICインレットの厚さに応じて第一の湿紙あるいは第二の湿紙に設ける穴を適宜設定すれば、得られるICインレット内蔵紙の厚さがさらに均一になるので好ましい。
また、穴は第一の湿紙あるいは第二の湿紙を貫通してもよい。ただし、第一の湿紙を貫通させる場合は、第一の湿紙を形成する前に、予め形成した他の湿紙を無端フェルト上に転移させておく。一方、第二の湿紙を貫通させる場合は、第二の湿紙を形成した後に、他の湿紙を抄き合わせる。
【0059】
また、ワイヤー面上でのICインレットの間隔を一定にする目的で、インレット付き剥離紙の繰り出し速度が、第一の抄紙手段の抄紙速度に追従できるように、所定の場所にセンサーを設置してもよい。
例えば無端フェルト上に、ロータリーエンコーダーやドップラー速度計などの計測器を設置すれば、該無端フェルトの速度を読み取ることでICインレットを等間隔で貼り付けることができる。
また、各抄紙手段の円網の端部に光輝板を設置すれば、該光輝板の設置位置にスポットライト等を照射してその反射光を光電管で読み取ることでICインレットを貼り付ける位置を検知することができる。
さらには、円網に厚さ数mmの金属のタイミングマークや、色で識別できるタイミングマーク等を設置し、金属探知センサー、反射型センサー、光沢型センサーなどのセンサーを設置してもよい。
また、上述のようにしてシリンダー表面に取り付けたマークなどにより第一の湿紙に設けた穴を読み取り、読み取った部分にICインレットを貼り付けることを可能とするセンサーを設置してもよい。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、第一の湿紙と第二の湿紙を抄き合わせる間に、第一の湿紙の下面からエアを吹き付けてICインレットを貼り付けることにより、ICインレットの落下を防止し、地合いの乱れを抑制しつつ、ICインレットを湿紙間に抄き込むことができる。また、第一の湿紙と第二の湿紙を抄紙する各抄紙手段が、無端フェルトの進行方向に対して直列に配置された円網抄紙機の形態を採用しているので、装置の省スペース化および簡素化を実現できる。
【符号の説明】
【0061】
1:ICインレット内蔵紙の製造装置、10:無端フェルト、20:第一の抄紙手段、21:第一の円網、22:第一のクーチロール、23:第一の抄槽、24:第一の湿紙、24a:ワイヤー面、30:貼付手段、31:インレット付き剥離紙、32:剥離紙繰り出しロール、33:案内ロール、34:インレット剥離用治具、34a:剥離点、35:剥離紙巻き取り用ロール、36:インレット添付用エア供給ヘッド、36a:ノズル、36b:先端口、36c:ノズルの中心、310:ICインレット、311:基材、311a:端部、311b:真上部、312:アンテナ、313:ICチップ、314:粘着層、315:剥離紙、316:スリット、40:第二の抄紙手段、41:第二の円網、42:第二のクーチロール、43:第二の抄槽、50:第三の抄紙手段、51:第三の円網、52:第三のクーチロール、53:第三の抄槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に設けられた、アンテナおよびICチップを有するICインレットを、湿紙間に抄き込んでなるICインレット内蔵紙の製造方法であって、
第一の円網により形成した第一の湿紙を、無端フェルト上に転移させる第一の工程と、前記無端フェルトの進行方向の下流側で、第一の湿紙のワイヤー面に、該ワイヤー面の下方から前記ICインレットを貼り付ける第二の工程と、該第二の工程の後に、前記第一の円網より前記無端フェルトの進行方向の下流側に直列に配置された第二の円網により形成した第二の湿紙を、前記無端フェルト上の第一の湿紙のワイヤー面に抄き合わせる第三の工程とを有し、
前記第二の工程は、下方から前記ワイヤー面に向かうエアを前記ICインレットに吹き付ける工程であることを特徴とするICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項2】
前記ICインレットは、基材上に設けられた粘着層をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記ICインレットに、粘着層と反対側から粘着剤を塗布する第四の工程を有することを特徴とする請求項2に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項4】
前記第二の工程は、ICインレットにエアを吹き付ける工程の前に、複数のICインレットが粘着層を介して連続して剥離紙に貼着したインレット付き剥離紙が、ロール状に巻き取られたインレット巻状体から、前記インレット付き剥離紙を繰り出す工程と、エアを吹き付ける直前にインレット付き剥離紙からICインレットを剥離する工程を有し、かつ前記第四の工程は、前記インレット付き剥離紙をインレット巻状体から繰り出してから、ICインレットを剥離するまでの間に行われることを特徴とする請求項3に記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項5】
前記第二の工程は、前記粘着層を前記ワイヤー面に向けたICインレットに、粘着層と反対側からエアを吹き付ける工程であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のICインレット内蔵紙の製造方法。
【請求項6】
前記エアの吹き付けを連続的に行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のICインレット内蔵紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185149(P2010−185149A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29148(P2009−29148)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】