説明

ICタグ用基材及びこのICタグ用基材を備えたICタグ

【課題】 容器の内容物の影響によってICタグの通信特性が変化することがなく、金属容器であってもICタグの通信特性が損なわれず、容器の材質や内容物にかかわらずICタグの通信特性を良好に維持することができ、タグサイズの薄型化・小型化が可能となり、汎用のICタグをそのまま使用することができる、特に電波方式のICタグに好適なICタグ用基材を提供する。
【解決手段】 リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグ20が取り付けられるICタグ用基材10であって、基材層11と、特性の異なる高誘電率層12a及び高透磁率層12bからなる機能層12を備え、所定の比誘電率・比透磁率を有する機能層を備え、比誘電率と比透磁率の積が250以上である構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料や食品の容器などに取り付けられてリーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグ用の基材に関し、より詳しくは、容器の材質や内容物の有無にかかわらずICタグの通信特性を良好に維持することができる、特に電波方式のICタグに好適なICタグ用基材とこのICタグ用基材を備えたICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、PET樹脂等からなる樹脂製容器や、アルミニウム缶やスチール缶等の金属製容器は、例えば、ビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料・果汁飲料や各種お茶類等の飲料用の容器、缶詰食品の容器、各種液体製品の容器等に広く使用されている。
また、樹脂フィルム等の軟包材にAl箔等の金属層を積層した包装材料からなるパウチ容器は、軽量で柔軟性、耐久性、ガスバリア性等に優れ、加工も容易で安価に製造できることから、食品や飲料のみならず、洗剤、化粧品等の主に液体製品の容器として広く使用されている。
そして、このような樹脂製あるいは金属製の各種容器には、商品名や内容物の成分、生産者、生産地、賞味期限等の所定の商品情報が、文字やバーコード等で表示されている。この種の商品情報の表示は、通常、容器や容器を包装する包装体に印刷されたり、ラベル等に印刷されて容器に貼付されるようになっている。
【0003】
ところが、商品情報等の表示は、容器のデザイン等を損なわないよう小さく表示されるのが一般的であり、その結果、表示面積や表示される文字の大きさ、文字数等が限られたものとなり、充分な情報が表示できないという問題があった。
また、バーコード表示の場合、リーダで読み取るためにバーコード自体を容器表面に平面状に表示しなければならず、また、傷や汚れ等があると読み取り不能となってしまい、しかも、バーコードでコード化できる情報量は限られていることから、文字による表示の場合と同様に、商品情報を表示、認識する手段としては一定の限界があった。
【0004】
このような従来の商品情報表示の不利・不便を解消し、必要かつ十分な商品情報を簡易かつ正確に表示等する手段として、最近ではICタグが利用されるようになってきている。
ICタグは、非接触ICタグ、RFID(Radio
Frequency Identification)タグ、RFタグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを樹脂やガラス等で封止してタグ(荷札)状に形成した超小型の通信端末で、ICチップに所定の情報を記録して対象物にタグを取り付け、記録した情報を無線通信により読取装置(リーダ・ライタ)側でピックアップすることにより、ICチップに記録された情報を認識、表示するものである。
【0005】
ICタグは、ICチップのメモリに数百バイト〜数キロバイトのデータが記録可能であり、十分な情報等を記録でき、また、読取装置側と非接触であるため接点の磨耗や傷、汚れ等の心配もなく、さらに、タグ自体は無電源にすることができるため対象物に合わせた加工や小型化・薄型化が可能となる。
このようなICタグを用いることで、商品に関する種々の情報、例えば商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限・賞味期限等の種々の情報が記録可能となり、従来の文字やバーコードによる商品表示では不可能であった多種多様な商品情報であっても、小型・薄型化されたタグを商品に装着するだけで利用することが可能になった。
なお、ICタグは、電源を内蔵した能動型(アクティブタイプ)と電源を内蔵しない受動型(パッシブタイプ)があり、また、使用する交信周波数によって、135kHzや13.56MHzの周波数帯を使用する電磁誘導方式や、UHF帯や2.45GHz等の周波数帯を使用する電波方式などに分けられる。
【0006】
ところが、このようなICタグは、PETボトルのような樹脂製容器に取り付けた場合、容器内の水等の内容物の影響を受けやすく、また、アルミニウム缶やスチール缶,パウチ容器のような金属容器に取り付けた場合には、金属容器の導電性の影響を受けてしまい、通信距離が変化したり正確な無線通信が行えなくなるといった問題があった。
具体的には、ICタグのすぐ後ろに金属が存在すると、リーダ・ライタから送信される信号がICタグのアンテナを認識できず、アンテナの性能が著しく劣化してしまい、電波のエネルギーをICタグのアンテナで受信することができなくなる。
また、電波は吸収され易い材料、物質が近くにあるとそこへ集中してエネルギーを与える性質があるため、電波吸収性の高い物質である水がICタグの後ろにあると、水が電波のエネルギーをほとんど吸収してしまう。
【0007】
このため、ICタグを金属容器に取り付けたり、飲料水等が充填されたPETボトルに取り付けたりすると、ICタグの性能が劣化して、正確な無線通信が行えなくなることがあった。
特に、UHF帯や2.45GHz等の高周波数帯を使用する電波方式のICタグでは、135kHzや13.56MHz帯域を使用する電磁誘導方式の場合と比べて、通信距離は長くなる反面、水による吸収や金属による影響等によって通信特性が大きく損なわれやすいという問題があった。
また、ICタグの通信特性はアンテナサイズによる利得によって決定されることから、通信距離を大きく確保しようとすれば、アンテナサイズが大きくなり、結果としてタグ全体のサイズが大型化し、タグの小型化が困難となるという問題もあった。
【0008】
ここで、このようなICタグに対する水や金属の影響を回避する方法としては、ICタグと容器の間にスペーサ等を介在させて、ICタグを水や金属から一定距離だけ離間させることが考えられる。
例えば、2.45GHzの周波数帯を使用する電波方式のICタグの場合、電波が金属容器に反射することを利用して、ICチップを交信周波数の1/4波長だけ容器外面から離すことで、水分による損失(吸収)や、金属によるアンテナ性能の劣化を低減することができる。具体的には、ICタグを容器外面から約30mm程度離間させることで、容器内容物による損失を低減させることができ、また、金属容器によるアンテナ性能の劣化を防止することができる。従って、この場合には、ICチップとアンテナを搭載するタグ基材を30mmの厚みに形成すれば、水分や金属の影響を受けることなく通信可能なICタグを構成できることになる。
【0009】
また、これまで、アルミニウム缶やスチール缶のような金属容器に取り付けるICタグとして、タグの構成を電波シールドを備えた金属容器専用のものにすることで、金属容器からの影響を回避し得る金属専用ICタグも提案されている(特許文献1−3参照)。
ICタグを容器に取り付けると、ICタグが発生する磁束は容器を貫通する方向に生じることになる。このため、タグを金属容器に取り付けた場合、アンテナ部が発する電磁波が金属容器側に吸収される熱損失等が生じてしまい、タグの通信特性が損なわれる事態が生じる。
【0010】
例えば、図13(a)に示すように、ICタグ120を金属容器130に取り付けると、図13(b)に示すように、タグ120が発する磁束により金属容器130の表面に渦電流が誘起され、この渦電流によって、ICタグ120の磁束が打ち消されて熱損失が生じる。
そこで、従来提案されている金属容器専用のICタグは、図14に示すように、ICタグ220の金属容器130と対向する側に、シート形状等に形成した磁性体(高透磁率体)221や誘電体が配設されるようになっており、これによって、ICタグ220が発する磁束を磁性体221内に通過させて、金属容器130側に渦電流が発生することを防止するようになっていた。
【0011】
さらに、無線LANや非接触ICカードなどの内蔵アンテナ用の電波吸収体として、電波吸収体を構成する樹脂材料に、絶縁性皮膜で被覆した導電性超微粉末を添加・混合することで、電波吸収体の比誘電率を高め、これによって電波吸収体の薄型化を図ることができるとの提案もなされている(特許文献4参照)。
この提案によれば、絶縁性皮膜で被覆した導電性超微粉末からなる塗料を樹脂バインダに添加・混合することにより、樹脂材料の成形性・加工性を維持しつつ、樹脂材料の高誘電率化が可能となり、これによって高周波雑音の影響を低減して、無線LANや非接触ICカードの内蔵アンテナ用の電波吸収体の小型化・薄型化が可能となるとされている。
【0012】
【特許文献1】特開2002−207980号公報(第2−4頁、第1図)
【特許文献2】特開2004−127057号公報(第3−4頁、第1図)
【特許文献3】特開2004−164055号公報(第4−5頁、第1図)
【特許文献4】特開2005−097074号公報(第3−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来提案されている水分や金属の影響を回避するためのICタグの構成には種々の問題があった。
まず、タグをスペーサ等によって容器から所定距離だけ離間させる方法は、水分や金属の影響を低減できるとしても、タグを搭載する基材の厚みが大型化してしまい(例えば2.45GHzのICタグの場合約30mm)、容器に取り付けた場合、タグが容器から大きく突出してしまうことになり、現実のタグ構成としての採用は困難であった。
【0014】
一方、特許文献1〜3に提案されているような金属容器専用のICタグは、磁性体によって渦電流の発生を抑制することで、電磁誘導方式のICタグについての金属による影響を低減させることは可能であったが、樹脂容器における内容物(水)による影響や、電波方式のICタグにおける金属容器の電波の反射等の影響に対応することはできなかった。
また、このような従来の金属専用のICタグでは、タグ自体が金属専用に設計・構成されたもので、既存のICタグを金属容器用に使用可能とするものではなかった。すなわち、通常の汎用タグについて金属容器に使用した場合の問題点を解決するものではなかった。
【0015】
しかも、このように金属専用に構成されたICタグでは、内部に磁性体や誘電体が配設された複雑な構成となっており、タグが大型化、大重量化してしまい、小型・薄型で軽量であるICタグの最大の利点が損なわれるという問題も生じた。
ICタグは、安価で大量生産される汎用タグを使用してこそ、低コストで小型軽量かつ大記憶容量の無線通信手段として使用できるという特徴を最大限に生かすことができるものである。
従って、厚みが30mmを超えるような肉厚のタグや、金属専用で大型・複雑な構成で、しかも樹脂製容器への対応ができないタグでは、汎用タグのメリットを著しく減殺するものであった。
【0016】
さらに、特許文献4に提案されている絶縁性皮膜で被覆した導電性超微粉末を添加・混合することで非誘電率を高める電波吸収体は、塗料形態の樹脂混合材の塗り厚などの具体的な内容が開示されておらず、実際のICタグにどのように利用できるか不明であった。
しかも、同特許文献4には、1MHzの比誘電率が45.7であった等の開示があるのみであり、無線LANや電波方式ICタグで使用されるGHz帯の交信周波数にどのように対応できるかは不明であり、上述したようなICタグの問題を解消し得るものではなかった。
【0017】
本発明は、以上のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、容器の内容物の影響によってICタグの通信特性が変化することがなく、また、容器が金属製であってもICタグの通信特性が損なわれることがなく、容器内の内容物の有無や容器の材質にかかわらずICタグの通信特性を良好に維持することができ、かつ、タグサイズの薄型化・小型化が可能となり、汎用のICタグをそのまま使用することができる、特にUHF帯や2.45GHzの周波数帯域を使用する電波方式のICタグに好適なICタグ用基材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明のICタグ用基材は、請求項1に記載するように、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられるICタグ用基材であって、基材層と、この基材層に積層される所定の比誘電率と比透磁率を有する機能層と、を備える構成としてある。
【0019】
具体的には、本発明のICタグ用基材は、請求項2に記載するように、前記機能層は、比誘電率と比透磁率の積が250以上である構成としてある。
また、請求項3に記載するように、前記機能層は、比誘電率が80以上である構成としてある。
より具体的には、本発明のICタグ用基材は、請求項4に記載するように、前記高誘電率層が、Alからなる扁平形状の金属粉を含有する構成とすることができる。
【0020】
また、請求項5に記載するように、前記機能層は、特性の異なる複数の層からなり、前記複数の層のうち、少なくとも一の層が、所定の誘電率を有する高誘電率層からなり、前記複数の層のうち、少なくとも他の一の層が、所定の透磁率を有する高透磁率層からなる構成としてある。
また、請求項6に記載するように、前記高誘電率層は、比誘電率が90以上であり、前記高透磁率層は、比透磁率が3.8以上である構成としてある。
【0021】
このような構成からなる本発明のICタグ用基材によれば、比透磁率と比誘電率を所定の値に設定した機能層を備えることにより、基材内の電波路を長く確保することができる。
その基材内の電波路を長くするには、基材内の屈折率を大きくすることで確保できると考えられ、屈折率は、その部材の誘電率と透磁率によって求められ、誘電率と透磁率が高いほど屈折率は大きくなる。
本発明では、基材層に積層される機能層を設け、この機能層を所定の高誘電率及び高透磁率となるように設定することで、基材内の屈折率を高め、これによって電波路を長く確保するようにしてある。
機能層の比誘電率、比透磁率は、後述するSパラメータ反射法により測定することができる(電気通信学会技法Vol.84 No.310)。
また、このような本発明のICタグ用基材では、ICタグが受信する電波はタグが取り付けられる金属面(金属容器)で反射することによって通信距離を稼ぐことが可能となる。
【0022】
従って、本発明のICタグ用基材では、基材の厚みを例えばICタグの交信周波数の1/4波長以下に薄肉化しても、実質的にICタグを取り付け対象物から離間させたのと同様の電波路を確保することができ、樹脂容器の内容物の有無により誘電率の変化による通信特性の変化を防止することができ、また、金属容器の影響によりICタグのアンテナが受信電波に認識されなくなることや、通信利得の熱損失等も防止することができる。
また、ICタグが受信する電波を金属容器で反射させることによって通信距離を伸ばすことができ、アンテナサイズを小型化しても所定の通信距離を確保することが可能となり、結果として、タグサイズの小型化を図ることができる。
【0023】
これにより、既存のどのようなICタグであっても、本発明のICタグ用基材を介して樹脂容器や金属容器に取り付けられることにより、タグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信が行えるようになり、かつ、所望の通信距離を確保しつつタグサイズの薄型化・小型化を図ることができる。
すなわち、本発明では、基材を特性の異なる多層構造とし、各層の比透磁率と比誘電率を所定の値に設定することで、多層基材内の屈折率を高めることができ、ICタグで送受信される電波路を長く確保して、ICタグを容器から所定距離だけ離間させるのと同様の効果を得ることができる。また、金属容器を積極的に利用して、タグが受信する電波を金属面で反射させることで通信距離を確保することができる。
【0024】
従って、樹脂容器の内容物の誘電率の影響を十分に抑制することができ、樹脂容器の内容物の有無によるICタグの通信特性の変動を効果的に防止することができ、また、タグを金属容器に取り付けた場合にも、ICタグの電波の金属による影響も低減でき、ICタグの通信特性の劣化を効果的に防止することができるようになる。
このように、本発明のICタグ用基材を介することで、どのようなICタグをどのような容器に取り付けても、また、容器内に内容物があってもなくても、ICタグの通信利得を常に良好な状態に確保することができ、正確な無線通信が可能となり、既存の汎用タグであってもそのまま使用するこができ、汎用性、信頼性に優れた、薄型化・小型化されたICタグを実現することが可能となる。
【0025】
より具体的には、本発明のICタグ用基材は、請求項7に記載するように、前記高誘電率層が、Alからなる扁平形状の金属粉を含有する構成とすることができる。
また、請求項8に記載するように、前記高透磁率層が、Al、Fe−Si、Cu、Fe、Ni、フェライトのうち少なくとも一の磁性材料からなる扁平形状の金属粉、もしくはTiO2、Fe23C、フェライトのうち少なくとも一の磁性材料からなる金属酸化物粉を含有する構成とすることができる。
【0026】
このような構成からなる本発明のICタグ用基材によれば、機能層の透磁率及び誘電率を設定するために、好適な金属材料,磁性材料を選択して使用することができる。
ここで、本発明では、好適な材料から選択した金属を扁平形状の粉体とすることで、バインダとなる樹脂材料に満遍なく均一に混合させることができるようになっている。
このようにして、本発明のICタグ用基材では、使用するICタグの出力や周波数特性に対応した好適な誘電率、透磁率を備えた機能層を設定することができ、汎用性、拡張性に優れたICタグ用基材を提供することができる。
【0027】
また、本発明のICタグ用基材は、請求項9に記載するように、前記基材層が、熱可塑性プラスチックの樹脂層を備える構成としてある。
さらに、請求項10に記載するように、前記基材層が、不織布又は発泡樹脂からなる距離層を備える構成とすることができる。
【0028】
このような構成からなる本発明のICタグ用基材によれば、機能層を支持する基材層として、PET樹脂等のプラスチックからなる樹脂層を備えることができ、この樹脂層を、ICタグを容器側から離間させる距離層(空気層)として構成することができる。
また、この樹脂層に更に積層し、又は樹脂層に代えて、不織布や発泡樹脂からなる距離層を備えることができる。
【0029】
ICタグに対する容器の内容物による影響を低減するには、理想的にはタグの実装部分の実効比誘電率を1.0(空気)とすることが望ましいが、これではICタグを空気中に浮揚させることを意味し、プラスチック材単体でこのような構成とすることは困難である。
そこで、本実施形態では、機能層の基材層となるPET樹脂等のプラスチックからなる樹脂層を、ICタグを容器から離間させる距離層(空気層)として機能させ、また、基材層に不織布,発泡樹脂等を積層して距離層とするようにしてある。
【0030】
不織布は、例えばPET樹脂からなる不織布であれば内部に多数の空洞ができるので、実効比誘電率をPET樹脂そのものよりも更に小さくでき、理想値である1.0により近い値に設定することが可能であり、ICタグを容器から離間させる距離層を構成する物質として最適である。同様に、発泡樹脂の場合にも、内部に空気や窒素、二酸化炭素等の気体が充填され、実行比誘電率を1.0に近い値にすることができる。
また、不織布や発泡樹脂の特長は設計の自由度にあり、所望の厚みと大きさの距離層を容易かつ低コストで形成することが可能となる。
【0031】
そこで、本発明では、ICタグを容器から離間させる距離層として不織布又は発泡樹脂を採用し、これによって、ICタグが容器に近接・接触することで生じる容器内容物の誘電率の影響による通信特性の変化や、金属容器の影響を有効に防止することができる。
なお、距離層としては、同様の観点から、不織布や発泡樹脂以外にも、例えば樹脂塗料を格子状に塗布することで内部に空洞を有することで形成でき、これを本発明の距離層として採用することもできる。
【0032】
また、PET樹脂等からなる樹脂層は、距離層として任意の厚みに設定可能であり、また、例えばロール状に巻き取り可能な薄膜フィルム状に薄く長く形成することができ、任意の形状や大きさのICタグを実装する基材の材料として好適である。
そして、フィルム状等に形成された樹脂層には、不織布等からなる距離層を更に積層形成可能であり、また、樹脂層の表面に電磁波シールド塗料等を塗布することも容易に行える。
このように、PET樹脂等のプラスチックからなる樹脂層は、本発明に係る距離層として、また、機能層を積層する基材層として好適に機能させることができる。
【0033】
また、本発明のICタグ用基材は、請求項11に記載するように、前記基材層が、熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層からなる構成とすることができる。
このような構成からなる本発明のICタグ用基材によれば、機能層を支持する基材層として、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層を備えることができる。そして、このような熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層を、ICタグを容器側から離間させる距離層としても機能させることができる。
一般に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、PETフィルム等の基材表面に塗工することができ、その塗工厚のコントロールも容易である。また、基材にPETフィルムより柔らかい樹脂を選定することで、基材層をよりフレキシブルにすることが可能となる。また、このような熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、機能層の塗工の下地としての役割も果たすことができ、さらに、上述した不織布層の場合と同様に、ICタグを容器から離間させる距離層として機能させることができる。
そこで、本発明では、機能層の基材となる基材層として、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層を採用し、基材層及び距離層として機能させることができる。
【0034】
また、本発明のICタグ用基材は、請求項12に記載するように、前記基材層が、金属層を備える構成とすることができる。
このような構成からなる本発明のICタグ用基材によれば、機能層を支持する基材層として、Al箔層等からなる金属層を備えることができ、この金属層を、基材として構成することができる。
本発明のICタグ用基材によれば、所定の屈折率を有する機能層を備えることで、ICタグを金属に取り付けても通信特性が劣化しない。このため、基材層に金属層を積層したり、基材層自体を金属により構成したりすることも可能となる。
【0035】
また、基材層に金属を用いることで、容器の内容物の影響をより低減させることができ、特に飲料水等が充填されるPETボトル容器に好ましいICタグ用基材を実現することができる。
本発明のICタグ用基材によれば、所定の屈折率を有する機能層を備えることで、容器に水が充填されてもその影響を充分に抑制・低減でき、良好な通信特性が得られる。ところが、例えばPETボトル容器のキャップの表面や裏面にICタグが備えられるような場合には、ボトル容器に充填される水の水位、すなわち、水面とICタグとの距離によっては、水の影響を考慮する必要がある。
【0036】
一般的には、ボトル容器に充填される水の水位は、ボトル口部から1cm程度下がった位置にあり、本発明のICタグ用基材を備えたICタグは、水面との距離が5mm程度あれば良好な通信特性が得られるので、ICタグがボトルのキャップに取り付けられていても、水による影響を特に考慮する必要はない。
しかしながら、水がボトル口部一杯まで充填された場合、キャップに取り付けられたICタグと水面との距離が5mm未満に狭まることがある。
そこで、このような場合には、ICタグ用基材の基材層としてAl箔等からなる金属層を備えることで、ICタグが受信する電波を金属層で反射させることができ、これによってボトル内の水の影響を排して良好な通信特性を得ることができる。
従って、金属層を備えた基材層は、特にPETボトル容器のキャップ部に取り付けられるICタグ用の基材として好適に用いることができる。
【0037】
そして、本発明では、請求項13に記載するように、取り付けられる前記ICタグが電波方式タグからなる構成としてある。
さらに、本発明のICタグは、請求項14に記載するように、ICチップと、アンテナと、これらICチップ及びアンテナが実装される基材とを備え、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグであって、前記基材が、請求項1乃至12のいずれかに記載のICタグ用基材からなる構成としてある。
【0038】
このように、本発明では、UHF帯や2.45GHzの周波数帯域を使用する電波方式のICタグに好適なICタグ用基材と、このICタグ用基材を備えたICタグを提供することができる。
電波方式のICタグは、電磁誘導方式のICタグと比較して、高周波数帯域を使用するために、金属による反射や水分による影響を受けやすく、電磁誘導方式タグのように、単にタグと容器の間に磁性体等を介在させるだけでは、通信特性の劣化を防止することができない。
本発明では、基材を構成する各層の比透磁率と比誘電率を所定の値に設定することで基材内の屈折率を高めて、タグの電波路を長く確保することによって、ICタグを容器から所定距離だけ離間させるのと同様の効果を得ることができるので、ICタグの電波の金属による影響も、水分による吸収も十分に防止でき、電波方式のICタグの通信特性を良好に維持・確保することができる。
【0039】
なお、本発明のICタグ用基材は、基材全体で所定の比誘電率・比透磁率が得られればよく、機能層は、高誘電率層のみ、又は高透磁率層のみからなる構成とすることもできる。
また、実装するタグの通信特性や形状,大きさ等に応じて、各層の厚みを任意に設定・変更することができ、また、複数の機能層を任意の層数だけ積層することもできる。
さらに、機能層を有する基材を複数積層して一つのICタグ用基材を構成することもできる。
【0040】
また、本発明に係るICタグ用基材を使用して、ICタグ用基材で包装されたPET容器や、アルミニウム缶やスチール缶等の金属缶・ラベル缶、パウチ容器等の任意の金属容器、樹脂容器を形成することができる。また、本発明に係るICタグ用基材によって、PET容器のようなプラスチック容器自体を形成することもできる。
すなわち、容器全体を本発明に係るICタグ用基材で包装することもでき、また、容器中のICタグを実装する部位のみを本発明に係るICタグ用基材で包装するラベルとして使用することもでき、さらに、プラスチック容器自体を本発明に係るICタグ用基材で構成することもできる。
このようにして、本発明によれば、任意の形状、大きさ、用途等の樹脂容器や金属容器について、どのようなICタグを取り付けても、容器の内容物の有無にかかわらず、そのICタグの通信利得を良好に確保することができるICタグ対応容器として提供することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明のICタグ用基材によれば、既存のどのようなICタグであっても、タグ側には特殊な構成等を必要とすることなく、容器の内容物の有無に影響を受けず、かつ、どのような材質の容器に装着しても使用することができ、タグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信が可能となる。また、金属容器を積極的に利用してタグの通信距離を稼ぐことができる。
これにより、小型・薄型で軽量であるという汎用のICタグの利点を何等損なうことなく、各種の樹脂容器や金属容器について使用してもICタグ本来の良好な通信特性を得ることができる、特に、PETボトル等の樹脂容器や、アルミニウム缶やスチール缶、ラベル缶、パウチ容器等の金属容器に好適なICタグ用基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明に係るICタグ用基材と、このICタグ用基材を備えたICタグの好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
[ICタグ用基材]
図1は、本発明の一実施形態に係るICタグ用基材を模式的に示す要部斜視図であり、(a)はICタグを実装する前の状態を、(b)はICタグを実装した状態を示している。
同図に示すように、本実施形態のICタグ用基材10は、ICタグ20が実装されてタグの一部を構成する基材であり、基材表面の所定の箇所にリーダ・ライタ(図示せず)との間で無線通信を行うICタグ20が取り付けられるようになっている。
【0043】
具体的には、ICタグ用基材10、基材層11と、機能層12とを備えており、機能層12の表面の所定箇所に、ICチップ21とアンテナ22を備えたICタグ20が実装されて、その表面がカバーフィルム層13によってカバーされるようになっている。
ここで、本実施形態のICタグ用基材10は、ICタグ20を実装・支持するための基材であり、ICタグ20が実装可能な大きさであれば十分であるが、例えばPETボトルやラベル缶の包装体のように、被包装体となる容器の全体を包むように包装できる大きさに形成することもでき、また、容器の胴部に巻装等して容器の一部を包装できるように形成してもよい。
さらに、後述するように、ICタグ用基材10は、PETボトルのキャップの表面に取り付けたり、キャップ内に内蔵・埋設したりすることもでき(図6〜図9参照)、その場合には、ICタグ用基材10はキャップの一部を構成することになる。
【0044】
また、ICタグ用基材10は、容器の外周に巻装等される薄膜フィルム状の包装体として使用できる他、PET樹脂容器等のプラスチック容器自体を構成する包装体として使用することも可能である。
すなわち、本発明のICタグ用基材10は、ICタグ20の一部を構成する基材として使用される他、樹脂容器のシュリンクフィルムやラベル缶のラベルのように、容器全体をフィルム状に形成したICタグ用基材10で包装することもでき、また、容器中のICタグを実装する部位のみをICタグ用基材10で包装するラベル等として使用することもでき、さらに、プラスチック容器自体を所定の厚みと強度を有する本発明のICタグ用基材10によって構成することもできる。
【0045】
[基材層]
基材層11は、ICタグ用基材10の基材となる層であり、PET樹脂等で薄膜フィルム状に形成されている。
具体的には、基材層11は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の熱可塑性プラスチックにより形成される。
例えば、熱可塑性ポリエステル系樹脂を薄膜形成することで基材層11を形成することができる。熱可塑性ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートを主成分とする共重合体又はブレンド等で、融点が約200〜260℃のものを使用でき、また、ポリエステル系樹脂被膜の厚みは、通常約5〜50μm程度である。
ICタグ用基材10としての厚みや強度、耐久性等を考慮すると、基材層11の厚みは5μmから100μm程度が好ましい。
この基材層11は、単層(1層)であってもよく、また、2層、3層等の多層であってもよい。多層の場合、延伸フィルムを熱接着や接着剤層を介して接着することで形成できる。
【0046】
また、基材層11は、上述したPET樹脂等のフィルムで構成する他、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層で構成することもできる。
ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、基材等に塗工することができ、その塗工厚のコントロールも容易である。従って、PET樹脂等を基材としてその表面にポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂を塗工して基材層11を形成することができる。
また、このようなポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂は、機能層12の塗工の下地としての役割も果たすことができ、例えば、機能層12を複数積層する場合に、機能層12とポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂の基材樹脂層を交互に塗工・積層することができる(後述する図5に示す基材樹脂層11a参照)。
そして、このような熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる基材樹脂層を、後述する不織布層と同様に、ICタグ20を容器から離間させる距離層14として機能させることができる。
【0047】
また、基材層11は、金属層により構成することもできる。
具体的には、機能層12を支持する基材層11として、Al箔層等からなる金属層を備えることができる。
本実施形態のICタグ用基材10では、後述する所定の屈折率を有する機能層12を備えることで、ICタグ20を金属に取り付けても通信特性が劣化しない。従って、基材層11に金属層を積層したり、基材層11自体を金属により構成することも可能となる。
金属層の厚みとしては、ICタグ用基材10としての厚みや強度、耐久性等を考慮すると、5μmから100μm程度が好ましい。
【0048】
そして、このように基材層11を金属で形成することで、容器の内容物の影響をより低減させることができ、特に飲料水等が充填されるPETボトル容器に好ましいICタグ用基材を実現することができる。
本実施形態のICタグ用基材10によれば、所定の屈折率を有する機能層12を備えることで、容器に水が充填されてもその影響を充分に抑制・低減でき、良好な通信特性が得られる。
ところが、例えばPETボトル容器のキャップの表面や裏面にICタグが備えられるような場合には(図6〜図9参照)、ボトル容器に充填される水の水位、すなわち、水面とICタグとの距離によっては、水の影響を考慮する必要がある。
【0049】
一般的には、ボトル容器に充填される水の水位は、ボトル口部から1cm程度下がった位置にあり、本実施形態のICタグ用基材10を備えたICタグ20は、水面との距離が5mm程度あれば良好な通信特性が得られるので、ICタグがボトルのキャップに取り付けられていても、水による影響を特に考慮する必要はない。
しかしながら、水がボトル口部一杯まで充填された満注状態の場合、キャップに取り付けられたICタグと水面との距離が5mm未満に狭まることがある(後述する図9参照)。
そこで、このような場合には、ICタグ用基材10の基材層11としてAl箔等からなる金属箔層を備えることで、ICタグが受信する電波を金属箔層で反射させることができ、これによってボトル内の水の影響を排して良好な通信特性を得ることができる。従って、金属箔層等を備えた基材層11は、特にPETボトル容器のキャップ部に取り付けられるICタグ用の基材に好適である。
なお、ICタグと水面との距離をとるために、キャップ内に5mm程度の空間を持った中栓を設けてもよい。
【0050】
このように、基材となる基材層11を備えることで、ICタグ用基材10は、ロール状に巻き取り可能な薄膜フィルム状に薄く長く形成することができ、任意の形状や大きさの容器を包装するICタグ用基材10として好適である。
なお、この基材層11は、適宜省略することも可能である。後述するように、本実施形態のICタグ用基材10は、ICタグ20を容器から離間させる距離層14を備えており(図3(d)参照)、この距離層14を基材として、距離層14に直接機能層12を積層形成できれば、基材層11は省略することができる。この意味では、基材層11は、距離層14の一部を構成する層と捉えることができ、不織布等からなる距離層14とともに、基材層11の厚みによってICタグ20を容器から離間させて、良好な通信特性を得ることができる。すなわち、距離層14とともに基材層11が備えられることで、ICタグ20は「距離層+樹脂層」の厚みによって容器から所定距離だけ離間させることができるようになる。
【0051】
[機能層]
機能層12は、基材層11の表面に積層される層であり、所定の比誘電率と比透磁率を有している。
本実施形態では、図1及び図2に示すように、機能層12は、特性の異なる二つの層からなり、そのうち一層が、所定の誘電率を有する高誘電率層12a、他の一層が、所定の透磁率を有する高透磁率層12bとなっている。
そして、機能層12は、高誘電率層12a及び高透磁率層12b全体としての比誘電率と比透磁率の積が250以上となるように構成してあり、このような特性が得られるように、機能層12は、高誘電率層12a及び高透磁率層12b全体として比誘電率が80以上となるように構成してある。
【0052】
より具体的には、機能層12は、高誘電率層12aの比誘電率が90以上、高透磁率層12bの比透磁率が3.8以上となるように構成してある。
このように、比透磁率と比誘電率を所定の値に設定した機能層12を備えることで、図2(b)に示すように、基材内の電波路を長く確保することができるようになる。
【0053】
一般に、屈折率は、その部材の誘電率と透磁率によって求められ、誘電率と透磁率が高いほど屈折率は大きくなる。屈折率nは真空中の光速度cを媒質中の光速度vで割った値で表され、以下の式(数1)によって求められる。
【数1】

ここで、εは部材の誘電率、μは材質の透磁率、ε0は真空の誘電率、μ0は真空中の透磁率である。
本実施形態では、簡単に計算できるようにΠ=εμ/ε0μ0とし、この値を指標とした。例えば、30mmの空気層を1mmで実現しようとするには、上記屈折率の式から、Π=900となるよう設定すれば良いと考えられる。
【0054】
そこで、本実施形態では、所定の誘電率を有する高誘電率層12aと、所定の透磁率を有する高透磁率層12bを備えることで、機能層12全体として所望の屈折率が得られるようにしてある。
なお、機能層の比誘電率、比透磁率は、Sパラメータ反射法により測定することができる(電気通信学会技法Vol.84 No.310)。
以下、Sパラメータ反射法について概略を説明する。
【0055】
[Sパラメータ反射法]
Sパラメータ反射法による比誘電率、比透磁率の測定方法とは、試料に測定したい周波数の電波信号を垂直に入射した場合に、その反射量、透過量及び位相を測定することにより、複素比誘電率と複素比透磁率を計算より求める手法である。
具体的には、ネットワークアナライザと同軸管を用いて行い、測定手順は以下の通りである。
(1)完全反射測定(リファレンス)
まず、同軸管先端に金属板を付ける(試料は付けない)。
次に、同軸管にネットワークアナライザより測定したい周波数発信させS11及び位相を測定する。
ここで、S11とは、ネットワークアナライザが受信した電波強度とネットワークアナライザが発信した電波強度のことをいい、位相とは、ネットワークアナライザが受信した電波強度とネットワークアナライザが発信した電波の位相差のことをいう。
(2)疑似透過測定(リファレンス)
まず、同軸管先端に電波が透過しやすい治具をつける(試料は付けない)。
次に、同軸管にネットワークアナライザより測定したい周波数発信させS11及び位相を測定する。
(3)試料反射測定
まず、同軸管先端に金属板を付け、同軸管中側の金属板表面に試料を置く。
次に、同軸管にネットワークアナライザより測定したい周波数発信させS11及び位相を測定する。
(4)試料透過測定
まず、同軸管先端に電波が透過しやすい治具をつけ、同軸管中側の治具表面に試料を置く。
次に、同軸管にネットワークアナライザより測定したい周波数発信させS11及び位相を測定する。
以上のような4つの測定を行うことにより、計算によって複素比誘電率と複素比透磁率を導き出すことができる。
【0056】
高誘電率層12aとしては、例えば、樹脂材料等からなるバインダにAlからなる扁平形状の金属粉を含有することにより構成することができる。
また、高透磁率層12bとしては、例えば、樹脂材料等からなるバインダにAl、Fe−Si、Cu、Fe、Niのうち少なくとも一の磁性材料からなる扁平形状の金属粉、もしくはTiO2、Fe23C、フェライトのうち少なくとも一の磁性材料からなる金属酸化物粉を含有することにより構成することができる。
この高誘電率層12aと高透磁率層12bは、後述するように、塗料化されて塗布によって積層できるようになっており、その厚み(膜厚)は、約10〜200μm程度に形成される。
【0057】
以下、表1にAlからなる高誘電率層12aと、Fe−Siからなる高透磁率層12bの比誘電率と比透磁率を、また、表2にこれら高誘電率層12a及び高透磁率層12bと、機能層12全体の比誘電率・比透磁率・Πを示す。
なお、表1に示す値は、3本ロールなどで分散性を向上させると、誘電率・透磁率ともに大きくなりMaxに近い値となる。
そして、表2に示すように、高誘電率層12a及び高透磁率層12bを層構造にすることで、高い屈折率が得られることがわかる。
【表1】

【表2】

【0058】
このように、本実施形態では、所定の比誘電率、比透磁率を得ることでICタグ20の通信距離を確保する機能層12として、任意の金属材料等を選択して使用することができ、使用するICタグ20の出力や周波数特性に対応した好適な誘電率と透磁率を備えた機能層12を形成できるようになっている。
なお、本実施形態では、好適な材料から選択した金属を扁平形状の粉体とすることで、後述するように、バインダとなる樹脂材料に満遍なく均一に分散・混合させることができるようにしてある。
【0059】
また、機能層12は、基材全体で所定の比誘電率、比透磁率が得られれば、実装するタグの通信特性や形状,大きさ等に応じて、各層の厚みや積層数は任意に設定することができる。
例えば、図3(a)に示すように、複数の機能層12を任意の層数だけ積層することができる。同図に示す例では、同一構成の基材層11及び機能層12を1セットとして二層積層している。
また、図3(b)に示すよう、機能層12の高誘電率層12a又は高透磁率層12bの厚みを大きく(又は小さく)することができる。同図に示す例では、高誘電率層12a及び高透磁率層12bの双方の厚みを大きくし、基材全体としては図3(a)に示す基材と同じ厚みとなるようにしてある。
【0060】
また、図3(c)に示すように、機能層12を、高誘電率層12a(又は高透磁率層12b)のみで構成することもできる。
さらに、図3(d)に示すように、基材層11と機能層12の間に、後述する不織布等からなる距離層14を積層することもできる。
なお、図示しないが、距離層14は、機能層12の表面側に積層してもよい。その場合には、実装するICタグ20は、距離層14の表面に実装されることになる。
【0061】
そして、以上のような構成からなる機能層12として、本実施形態では、金属粉をフィラーとして、バインダとなる樹脂に分散させることにより、基材層11の表面に塗布可能な塗料によって構成してある。すなわち、機能層12を構成する高誘電率層12aや高透磁率層12bは、液体化され基材層11の表面に塗布されることで積層形成されるようになっている。これにより、機能層12の製造工程はきわめて容易かつ迅速に行えるようになっている。
また、このように塗料を塗布するだけで機能層12を形成できるので、ICタグ20を取り付ける実装部分のみに塗料を塗布することで、使用するICタグ20の大きさや装着部位等に合わせて、基材層11の任意の部位に任意の大きさ・形状の機能層12を容易かつ迅速に塗布形成することができる。
従って、ICタグ20がICタグ用基材10の任意の部位に無作為に取り付けられるような場合には、基材層11の表面全体に塗料を塗布して機能層12を形成する。
【0062】
[塗料の製造]
機能層12を構成する塗料の製造方法としては、Fe−SiやAlなどの金属粉末からなるフィラーを、ニス、プライマー、エポキシ、ポリウレタン、ポリエステルなどのバインダとなる樹脂の溶媒に混入して製造することができる。
フィラーとなる金属粉末は、図4に示すように、樹脂溶媒に満遍なく均一に混合させることができるように、扁平形状(鱗片状)であることが好ましい。
但し、粉末は球状のものでもよく、また、扁平形状と球状を混合してもかまわない。また、フィラーの分散には三本ローラを使用してもよい。
【0063】
使用する金属粉末の扁平形状の粒径は、例えば25nmから2000nmの範囲のものが好ましい。粉末が球状の場合も同様である。
溶媒には、油性又は水性の塗料を使用することができ、熱乾燥タイプやUV硬化タイプなど、特に限定はされない。
また、フィラーと溶媒の混合比としては、屈折化の効果や金属に塗布可能な粘度を考慮すると、バインダの固形量を100としたとき、フィラーを100〜1000重量部(好ましくは350重量部)の範囲が好適である。
【0064】
[塗料の塗布方法]
塗料を基材層11へ塗布するには、バーコータ、ロールコート、刷毛などを用いることができる。また、塗料を直接基材層11へ塗布してもよいが、密着性を考慮すると、基材層11の上にプライマーなどの接着剤を塗布した後に、その上に塗料を塗布するようにしてもよい。
また、図5に示すように、PET樹脂やAl箔等からなる基材層11上に、機能層12となる塗料と、ニス,プライマー又はポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂などからなる基材樹脂層11aを交互に塗布し、積層させても良い。この場合、最上層は基材樹脂層が好ましい。
塗料の塗布厚は、金属粉末の溶媒への混入濃度及び粉末の大きさにもよるが、ICタグ用基材10としての厚みを考慮に入れた場合、10μmから200μm程度が好ましい。
【0065】
[距離層]
距離層14は、基材層11に積層される、ICタグ20を容器から離間させるための層である(図3(d)参照)。
距離層14は、不織布や発泡樹脂、上述したポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂等によって形成することができる。
ICタグ20に対する樹脂容器の内容物による影響や金属容器の影響を低減するには、理想的にはタグの実装部分の実効比誘電率を1.0(空気)とすることが望ましいが、これではICタグを空気中に浮揚させることを意味し、ICタグ用基材10単体でそのような構成を取ることは困難である。
そこで、不織布や発泡樹脂からなる距離層14を形成することで、ICタグを空気中に浮揚させた場合に近い実効比誘電率が得られる。
【0066】
不織布は、例えばPET樹脂からなる不織布であれば内部に多数の空洞ができるので、実効比誘電率をPET樹脂そのものよりも更に小さくでき、理想値である1.0により近い値に設定することが可能となる。同様に、発泡樹脂の場合にも、内部に空気や窒素、二酸化炭素等の気体が充填され、実行比誘電率を1.0に近い値にすることができる。
また、不織布や発泡樹脂の特長は設計の自由度にあり、所望の厚みと大きさの距離層を容易かつ低コストで形成することが可能となる。
【0067】
本実施形態では、ICタグ20を容器から離間させる距離層14として不織布あるいは発泡樹脂を採用し、これによって、ICタグが金属に接触・近接することで生じる通信特性の変化や、内容物の影響による通信特性の劣化等を防止することができる。
不織布は、例えば、合成繊維製、天然繊維製等の任意の材質のものを選択可能であり、厚みや大きさ、形状等は、実装するICタグ20に対応して任意に設定することができる。
また、距離層14に好適な発泡樹脂としては、種々の方法に形成することができるが、例えば、発泡剤を用いる方法、ポリマーを混合(混練)する際に空気や窒素ガスを注入する方法、化学反応を利用する方法等がある。
【0068】
この距離層14を構成する不織布や発泡樹脂は、基材となる基材層11の表面に接着剤や熱融着等で接着・積層される。
なお、不織布や発泡樹脂以外にも、同様の観点から、例えば樹脂塗料を格子状に塗布することで内部に空洞を有する距離層を形成することができ、これを距離層14として採用することもできる。
また、不織布等からなる距離層14は、上述したように、基材層11が距離層14として機能してICタグの通信利得が十分確保される場合には、基材層11を距離層14として、不織布等からなる距離層14を省略することも可能である。
【0069】
[ICタグ]
ICタグ20は、ICチップ21とアンテナ22を有し、これらICチップ21とアンテナ22が樹脂やガラス等からなる基材に搭載されて一体的に封止されて一つのICタグを構成している。
そして、本実施形態では、ICタグ用基材10がICタグ20の基材として使用され、図1に示すように、ICタグ20がICタグ用基材10の機能層12の表面に実装されるようになっている。
なお、上述したように、機能層12の表面に不織布等からなる距離層14を備えることも可能であり、その場合には、ICタグ20は、距離層14の表面に実装されることになる。
【0070】
このICタグ20は、ICタグ用基材10により包装される容器の製造工程において、予めICタグ用基材10に実装することもでき、また、製造・出荷されたICタグ用基材10やICタグ用基材10で包装された容器等に対して、後から取り付けることもできる。
図1に示す例では、ICタグ20がICタグ用基材10の製造工程において予め実装される場合であり、機能層12の表面に実装されたICタグ20は、さらにカバーフィルム層13で覆われるようになっている。
【0071】
ここで、ICタグ20に備えられるICチップは、メモリ等の半導体チップからなり、例えば数百バイト〜数キロバイトのデータが記録可能となっている。
そして、アンテナを介してリーダ・ライタとの間で無線通信によって読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)が行われ、ICチップに記録されたデータが認識されるようになっている。
ICチップに記録されるデータとしては、例えば、商品の名称や重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限等、任意の情報や各種データが記録可能であり、また、書換も可能である。データの記録や書換は専用のリーダ・ライタにより行える。
【0072】
また、ICタグ20で使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、いわゆるUHF帯に属する860M〜960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯があり、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長が異なってくる。
本実施形態では、特に、UHF帯域や2.45GHz帯域を使用する電波方式のICタグ20を使用している。
【0073】
図2(b)は、ICタグ20で受信される電波が基材内を屈折しながら伝送される状態を模式的に示したものである。
同図に示すように、ICタグ20で受信される電波は、基材内の機能層12の高誘電率層12aと高透磁率層12bの中を屈折しながら伝送される。
また、機能層12を透過した電波の一部は基材層11を通って伝送され、一部は容器側に透過する。
これによって、基材の厚みを薄肉化しても、実質的にICタグ20を取り付け対象物から離間させたのと同様の電波路長を確保することができ、タグが取り付けられる容器内の水分や金属容器の影響を回避することができる。
また、タグを金属容器に取り付ける場合には、基材層11を透過した電波の一部が金属容器で反射することによって通信距離を伸ばすことができ、アンテナサイズを小型化しても所定の通信距離を確保することが可能となる。
【0074】
[ICタグ用基材の製造方法]
次に、以上のような本実施形態のICタグ用基材10の製造方法について説明する。
ICタグ用基材10は、まず、基材層11をPET樹脂等のプラスチック樹脂やAl箔等の金属で薄膜形成し、この基材層11の表面に上述した金属粉末をバインダに分散させて塗料化した塗料を塗布して機能層12を形成する。
このとき、基材層11に塗布する塗料は、基材層11の表面全体に塗布することができ、また、ICタグ20を実装する部分のみに塗布することもできる。
また、Al箔等からなる基材層11に機能層12を塗工(塗布)し、その上にポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる基材樹脂層11aを塗工し、その上に再び機能層12を塗工し、その上に再び基材樹脂層11aを塗工し・・・と繰り返すことで、機能層12と基材樹脂層11aを多層化したICタグ用基材10(図5に示す基材樹脂層11a参照)を容易に形成することができる。
【0075】
なお、必要に応じて、機能層12を形成する前の基材層11の表面に、又は、基材層11に積層された機能層12の表面に、不織布等からなる距離層14を積層する。不織布は接着剤や熱融着等の手段によって形成面に剥離しないように固着する。また、距離層14は、形成面に樹脂塗料を塗布することによっても形成できる。すなわち、基材層11又は機能層12の表面の任意の部位に、樹脂塗料を格子状に塗布することで、内部に空洞を有する距離層14を形成することができる。
以上によって、本実施形態のICタグ用基材10が完成する。
【0076】
なお、以上の工程順は一例であり、これ以外の工程でICタグ用基材10を製造することもできる。上述したように、距離層14を機能層12の上に積層することができるが、機能層12より先に基材層11に積層することもできる。
また、基材層11と機能層12の高誘電率層12aと高透磁率層12b(及び距離層14)の積層順は任意に変更することができる。図3に示す例では、容器側から基材層11→(距離層14)→高誘電率層12a→高透磁率層12bの順に積層したが、これを例えば、基材層11→距離層14→高透磁率層12b→高誘電率層12aとしたり、距離層14→基材層11→高誘電率層12a→高透磁率層12bとしたりするように、他の積層順としてもよい。
【0077】
[キャップ内蔵型ICタグ]
以上のような構成からなるICタグ用基材10は、実装されるICタグ20とともに、PETボトルや缶ボトルのキャップの表面に取り付けたり、キャップ内に内蔵・埋設することができる。
具体的には、図6に示すように、ICタグ用基材10に実装されたICタグ20を、インサート成形によりキャップと一体成形することができる。
また、図7に示すように、ICタグ20を実装したICタグ用基材10を、PETボトル等のキャップ裏面(天面)に配設し、これをモールド樹脂等により樹脂封止してキャップ内にICタグを埋設することもできる。
また、図8に示すように、ICタグ20を実装したICタグ用基材10を、PETボトル等のキャップ裏面(天面)に配設し、その上からキャップに中栓をしてICタグ20及びICタグ用基材10をキャップに脱落不能に取り付けることもできる。
さらに、図9に示すように、ICタグ20を実装したICタグ用基材10を、キャップの表面に搭載・貼着するようにしてもよい。
【0078】
そして、以上のように、ICタグ20及びICタグ用基材10をキャップに内蔵又は取り付ける場合には、ICタグ用基材10の基材層11として金属層を備えることが好ましい。
上述したように、本実施形態のICタグ用基材10によれば、機能層12や距離層14を備えることで、容器内の水による影響を抑制・低減でき、良好な通信特性が得られる。
ところが、例えばPETボトル容器のキャップの表面や裏面にICタグが備えられるような場合には、ボトル容器に充填される水の水位、すなわち、水面とICタグとの距離によっては、水の影響を考慮する必要がある。
【0079】
具体的には、図9(a)に示すように、ボトル容器に充填される水の水位は、通常はボトル口部から1cm程度下がった位置にあり、本実施形態のIC用基材10を備えたICタグ20は、水面との距離が5mm程度あれば、機能層12の高屈折率とボトル内の水面反射による効果により良好な通信特性が得られるので、ICタグがボトルのキャップに取り付けられていても、水による影響を特に考慮する必要はない。
しかしながら、図9(b)に示すように、水がボトル口部一杯まで充填された満注状態の場合、キャップに取り付けられたICタグと水面との距離が5mm未満に狭まることがある。
そこで、このような場合には、ICタグ用基材10の基材層11としてAl箔等からなる金属箔層を備えることで、ICタグが受信する電波を金属箔層で反射させることができ、これによってボトル内の水の影響を排して良好な通信特性を得ることができる。特に、水の影響を受けやすい共振周波数2.45GHzのICタグ20をPETボトル容器のキャップ部に取り付ける場合に好適である。
【0080】
[通信特性]
次に、本実施形態に係るICタグ用基材10を介して容器等に実装されるICタグ20の通信特性について図10〜図12を参照して説明する。
図10は、共振周波数2.45GHzのICタグ20を、機能層12としてAlからなる高誘電率層12aとFe−Siからなる高透磁率層12bを備える本実施形態のICタグ用基材10を介して金属製の容器に実装した場合のICタグの膜厚と通信距離の関係を示すグラフである。なお、同図は、周囲環境などの影響を考慮せずに設計されている既存の汎用タグを使用した結果を示している。
【0081】
まず、「◆」を結ぶ太線は、タグを金属容器から単純に離間させた場合、すなわち、タグが空気中に浮いた状態における、容器からの離間距離とタグの通信距離の関係を示しており、通信距離はタグが金属容器から離間するほど長くなっている。
これに対して、本実施形態のICタグ用基材10を介して金属容器に取り付けられるタグは、「□」を結ぶ折れ線で示すように、ICタグ全体の厚みが約0.5mmのときに、通信距離が約20mmとピーク値を示しており、タグを単純に離間させた場合よりも長い通信距離が得られている。
従って、FeSi+Alからなる機能層12を備えるICタグ用基材10の場合には、ICタグ全体の厚みが約0.5mmで通信距離約20mmのICタグを実現することができる。
【0082】
図11は、図10に示した本実施形態のICタグ用基材10に汎用のICタグを実装したものと、通常の樹脂基材に汎用タグを埋設したものを対して、通信距離と膜厚の関係を示したものであり、「□」の折れ線が本実施形態のICタグ用基材10に実装した汎用タグで、「◆」の折れ線が他の小型タグである。
同図に示すように、汎用タグおよび、小型タグを使用した場合、ともに膜厚0.5mmのときにピークを持つ。このことから、ピークはタグに因らないことが示される。
【0083】
図12は、本実施形態のICタグ用基材10として、機能層12の材質と基材全体の厚みを変えた場合の通信距離を示すグラフである。
同図中、まず「□」の折れ線は、機能層12としてAlからなる高誘電率層12aとFe−Siからなる高透磁率層12bを備えた基材10について、機能層12の膜厚を約200μm(FeSi層105μm+Al層95μm)とし、膜厚約50μmのPET樹脂層からなる基材層11に積層したものを一単位とし、この基材を順次重ねることで基材全体の膜厚を大きくし(図3(a)参照)、通信距離を調べたものである。
この場合には、膜厚約0.5mmのときに最大通信距離約20mmが得られた。
【0084】
図12中、「◆」、「■」、「△」、「×」の折れ線は、それぞれ、機能層12として、Alからなる高誘電率層12aのみを備えた基材10(図3(c)参照)について、膜厚約50μmのPET樹脂層からなる基材層11に、それぞれ、Al層を約160μm、180μm、90μm、50μmの厚みで塗布形成したもので、Al層の膜厚のみを順次大きくしていき、通信距離を調べたものである。
この場合には、膜厚約0.7mm〜1.0mmで、それぞれ最大通信距離約65mm〜90mmが得られた。
【0085】
以上から、通信距離の大きさから見ると、Al層のみからなる機能層12を備えた基材10を使用することで、Al層の膜厚を約1mmとしたとき、最大通信距離約90mmが得られ、これは、単にタグを金属から離間させた場合(図10参照)、同じ距離(膜厚)で4倍以上の通信距離が得られる。
また、基材の薄膜化の点から見ると、Fe−Si+Al層からなる機能層12を備えた基材で、膜厚約0.5mmで最大通信距離約20mmが得られ、タグを金属から離間させた場合と比較すると、同じ距離(膜厚)で2倍の通信距離が得られ、同じ通信距離を得るために基材の膜厚は半分で済むことになる。
以上の図10〜6のグラフからわかるように、本実施形態のICタグ用基材10を使用することで、ICタグを単純に金属から離間させた場合や樹脂埋設した場合と比較して、長い通信距離を確保でき、かつ、基材を薄膜化できることが可能となることがわかる。
【0086】
以上説明したように、本実施形態に係るICタグ用基材10によれば、比透磁率と比誘電率を所定の値に設定した機能層12を備えることにより、基材内の屈折率を高めて電波路を長く確保することができる。
また、このような本実施形態のタグ用基材10では、ICタグ20が受信する電波はタグが取り付けられる金属面(金属容器)で反射することによって通信距離を稼ぐことが可能となる。
【0087】
従って、本実施形態のICタグ用基材10では、基材の厚みを例えばICタグ20の交信周波数の1/4波長以下に薄肉化しても、実質的にICタグ20を取り付け対象物から離間させたのと同様の電波路を確保することができ、樹脂容器の内容物の有無により誘電率の変化による通信特性の変化を防止することができ、また、金属容器の影響による通信利得の損失を防止することができる。
また、ICタグ20が受信する電波を金属容器で反射させることによって通信距離を伸ばすことができるので、アンテナサイズを小型化しても所定の通信距離を確保することが可能となり、結果として、タグサイズの小型化を図ることが可能となる。
このようにして、既存のどのようなICタグ20であっても、本実施形態のICタグ用基材10を介して樹脂容器や金属容器に取り付けられることにより、タグ本来の適正な通信範囲での正確な無線通信が行えるようになり、かつ、所望の通信距離を確保しつつタグサイズの薄型化・小型化を図ることができる。
【0088】
[実施例]
以下、本発明に係るICタグ用基材の一実施例を説明する。
(実施例1)
厚さ50μmのPETフィルムに、ポリエステル系バインダ(バルスパーロック製クリアコーティング7850)50gにAl粉末(平均粒径:9.5μm、アスペクト比:67.8)を50g混ぜ塗料化したものを塗り、熱硬化(180℃のオーブンに10分)させて基材を作製した。塗膜の厚みは、50、90、160、180μmとした。
塗膜の誘電率・透磁率については、キーコム(株)社製のSパラメータ方式反射法同軸管タイプεr、μr測定器システムを用いて測定した。測定結果は、比誘電率ε=175.2、比透磁率μ=2.3であり、その積は403.0であった。
同じ塗膜厚みの基材を同じ向きで積層してICタグ用基材とし、PETフィルム側に動作周波数2.45GHzの汎用ICタグを取り付けた。このICタグをアルミニウムDI缶に取り付けて通信試験を行った結果を表3に示す。
【表3】

【0089】
(実施例2)
厚さ12μmのPETフィルムに、ポリウレタン系バインダ(日本ポリウレタン社製)の樹脂成分100重量部にAl粉末(平均粒径:9.5μm、アスペクト比:67.8)を350重量部混ぜ塗料化したものを塗り、乾燥(130℃のオーブンに3分)させて基材を作製した。塗膜の厚みは、30μmとした。
塗膜の誘電率・透磁率については、実施例1と同等の値であった。
実施例1と同様に通信試験を行った結果、基材積層厚み0.94mmで通信距離98mmであった。
【0090】
(実施例3)
実施例1と同様にして作製したICタグ(塗膜厚みが50μm、積層厚み0.92mm、動作周波数2.45GHz)を内容量500mlの水が入ったPETボトルの側壁に取り付けて通信試験を行った。その結果、通信距離は90mmであり、内容物の影響を受けることなく良好な通信特性が得られた。
【0091】
(比較例1)
50μmのPETフィルムに、バインダに7850を50g使用してFeSi粉末(平均粒径:25μm、アスペクト比:50)を50g混ぜ塗料化したものを140μm塗り、実施例1と同条件で熱硬化させて基材を作製した。
塗膜の物性値は、ε=52.9、μ=4.7であり、積は248.6であった。
この基材を同じ向きで積層して、PETフィルム側に動作周波数2.45GHzの汎用ICタグを取り付けた。このICタグをアルミニウムDI缶に取り付けて通信試験を行った結果、積層厚みが1mm以内の範囲では、通信距離が5mm前後であり良好な通信特性が得られなかった。
【0092】
(実施例4)
50μmのPETフィルムに、実施例1と同様のAl粉末を混ぜた塗料を95μm塗って熱硬化(180℃、10分)させたものに、さらに比較例1と同様のFeSi粉末を混ぜた塗料を105μm塗って熱硬化(180℃、10分)させて基材を作製した。この基材のAl塗膜の物性値は、ε=175.2、μ=2.3であり、積は403.0で、FeSi塗膜の物性値は、ε=52.9、μ=4.7であり、積は248.6であった。また、塗膜部全体での物性値は、ε=146.2、μ=3.5であり、積は511.7であった。
この基材を同じ向きで積層し、PETフィルム側に動作周波数2.45GHzの汎用ICタグを取り付けた。このICタグをアルミニウムDI缶に取り付けて通信試験を行った結果、0.51mm積層したところでピークを得た。また、そのときの通信距離は20mmであった。
【0093】
以上、本発明のICタグ用基材とこのICタグ用基材を備えたICタグについて、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るICタグ用基材とICタグは、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上述した実施形態では、本発明のICタグ用基材を備えたICタグが取り付けられる容器として、飲料や食品の容器として用いられるPETボトルや缶容器、パウチ容器を例にとって説明したが、本発明のICタグ用基材を備えたICタグを適用できる容器としては、容器の用途や収納する内容物、容器の構成成分等は特に限定されるものではない。すなわち、樹脂製や金属製の容器であれば、どのような大きさ、形状、材質等の容器であってもよく、また、容器に収納される内容物がどのようなものであってもよい。
【0094】
また、上述した実施形態では、本発明のICタグ用基材に好適なICタグとして、UHF帯や2.45GHz帯を使用する電波方式のICタグを説明したが、本発明のICタグ用基材は、その他の周波数帯を使用するICタグ、電波方式以外の方式のICタグにも、勿論好適に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明した本発明のICタグ用基材は、例えば、PETボトル容器、アルミニウム缶やスチール缶等の金属缶(ラベル缶)、パウチ容器等の任意の樹脂容器、金属容器に取り付けられるICタグの基材として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施形態に係るICタグ用基材とICタグを模式的に示す要部斜視図であり、(a)はICタグを実装する前の状態を、(b)はICタグを実装した状態を示している。
【図2】図1に示すICタグ用基材を模式的に示す説明図であり、(a)は基材の正面図、(b)は基材内を電波が伝搬する状態を示す正面図である。
【図3】本発明のICタグ用基材の積層態様を示す基材の正面図である。
【図4】本発明のICタグ用基材の機能層を構成する塗料を模式的に示した基材の正面図である。
【図5】本発明のICタグ用基材の機能層を構成する塗料を複数層にわたって塗工した状態を模式的に示した基材の正面図である。
【図6】本発明のICタグ用基材をインサート成形により一体的に備えたPETボトル容器等のキャップを示す要部断面斜視図である。
【図7】本発明のICタグ用基材をモールド樹脂により封止したPETボトル容器等のキャップを示す要部断面斜視図である。
【図8】本発明のICタグ用基材をキャップ中栓を利用して脱落不能に取り付けたPETボトル容器等のキャップを示す要部断面斜視図である。
【図9】本発明のICタグ用基材をキャップ表面に取り付けたPETボトル容器等のキャップを示す要部断面正面図であり、(a)はボトル容器に充填される水の水位がボトル口部から下がった状態、(b)は水がボトル口部一杯まで充填された満注状態を示している。
【図10】本発明の一実施形態に係るICタグ用基材に実装されたICタグの通信距離と基材の膜厚との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施形態に係るICタグ用基材に実装されたICタグの通信距離と基材の膜厚との関係を、通常の樹脂埋設型のICタグの場合と対比して示したグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に係るICタグ用基材に実装されたICタグの通信距離と基材の材質及び膜厚との関係を示すグラフである。
【図13】従来の一般的な金属容器にICタグを実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装されたICタグの状態を、(b)は(a)に示すICタグが発する磁束の状態を示している。
【図14】従来の金属専用ICタグを金属容器に実装した場合の通信特性の状態を模式的に示す説明図であり、(a)は金属容器に実装された金属専用ICタグの状態を、(b)は(a)に示す金属専用ICタグが発する磁束の状態を示している。
【符号の説明】
【0097】
10 ICタグ用基材
11 基材層
11a 基材樹脂層
12 機能層
12a 高誘電率層
12b 高透磁率層
14 距離層
20 ICタグ
21 ICチップ
22 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグが取り付けられるICタグ用基材であって、
基材層と、
この基材層に積層される、所定の比誘電率と比透磁率を有する機能層と、
を備えることを特徴とするICタグ用基材。
【請求項2】
前記機能層は、
比誘電率と比透磁率の積が250以上である請求項1記載のICタグ用基材。
【請求項3】
前記機能層は、
比誘電率が80以上である請求項1又は2記載のICタグ用基材。
【請求項4】
前記機能層が、
Alからなる扁平形状の金属粉を含有する請求項1乃至3のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項5】
前記機能層が、特性の異なる複数の層からなり、
前記複数の層のうち、少なくとも一の層が、所定の誘電率を有する高誘電率層からなり、
前記複数の層のうち、少なくとも他の一の層が、所定の透磁率を有する高透磁率層からなる請求項1乃至4のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項6】
前記高誘電率層は、比誘電率が90以上であり、
前記高透磁率層は、比透磁率が3.8以上である請求項5記載のICタグ用基材。
【請求項7】
前記高誘電率層が、Alからなる扁平形状の金属粉を含有する請求項5又は6記載のICタグ用基材。
【請求項8】
前記高透磁率層が、Al、Fe−Si、Cu、Fe、Niのうち少なくとも一の磁性材料からなる扁平形状の金属粉、又はTiO2、Fe23、フェライトのうち少なくとも一の磁性材料からなる金属酸化物粉を含有する請求項5乃至7のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項9】
前記基材層が、熱可塑性プラスチックの樹脂層を備える請求項1乃至8のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項10】
前記基材層が、不織布又は発泡樹脂からなる距離層を備える請求項1乃至9のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項11】
前記基材層が、熱硬化性樹脂層又は熱可塑性樹脂層を備える請求項1乃至10のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項12】
前記基材層が、金属層を備える請求項1乃至11のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項13】
取り付けられる前記ICタグが電波方式タグからなる請求項1乃至12のいずれか一項記載のICタグ用基材。
【請求項14】
ICチップと、アンテナと、これらICチップ及びアンテナが実装される基材とを備え、リーダ・ライタとの間で無線通信を行うICタグであって、
前記基材が、請求項1乃至13のいずれか一項記載のICタグ用基材からなることを特徴とするICタグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−257614(P2007−257614A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349856(P2006−349856)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】