IDタグ
電極(302)間に所定の電圧を印加すると、固体電解質(308)中に金属イオンが析出し、伝導チャネル(310)が形成される。これにより固体電解質スイッチ(300)はオン状態となる。この析出機構は可逆的であるため、オンした固体電解質スイッチ(300)の電極間に逆に電圧を印加することにより、析出した金属原子が固体電解質中を移動して伝導チャネルは細くなり、最終的にはチャネルが消失し固体電解質スイッチ(300)は非導通状態となる。このスイッチを用いることにより、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグを実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無効化手段を備えるIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IDタグを用いた物流管理システムが注目を集めている。IDタグは、商品情報や商品の流通履歴に関わる情報等を格納するメモリを有し、外部からの信号を受信することによって、随時、メモリにアクセスすることが可能となる。IDタグを用いるシステムによれば、従来にない効率的な管理が可能となる。
【0003】
一方、こうしたシステムでは、製品情報が個人情報と結びつき消費者のプライバシーが侵害される懸念が生じる。例えば,IDタグを組み込んだ商品を消費者が購入した場合、購入後、タグの情報を悪意ある第三者に読み取られ、商品をどのような用途で使っているのか、どんな商品を持ち歩いているのかを追跡されることが考えられる。
【0004】
このようなプライバシーの侵害に対する防衛措置として、IDタグの機能を無効化する機構について開発が進められている。
【0005】
特許文献1には、こうした無効化機構を備えるIDタグが記載されている。同文献に記載されている無効化機構は、ヒューズで構成されており、過電流を流してヒューズを切ることによりIDタグが使用不能になる。
【0006】
特許文献2には、加熱により導電性となる材料を無効化手段として備えるラベルが記載されている。
【特許文献1】特開平8−55205号公報
【特許文献2】特開2001−134732号公報
【発明の開示】
【0007】
しかしながら、従来の無効化機構つきIDタグは、人為的に無効化処理を行うことが必要とされるため、この処理を怠れば、個人情報が安全に保護されなくなることも考えられる。
【0008】
また、上記例の様に無効化処理を行った場合、その時点でIDタグは機能を失い、再利用不能となる。たとえば、消費者がIDタグを組み込んだ商品を購入する場合において、購入時点で無効化処理を行うと、それ以後は、IDタグの便利な機能を利用することができなくなってしまう。現在、IDタグを利用した様々なシステムが開発されつつあり、例えばIDタグ付きの食材を購入し、これらを冷蔵庫に収納した後、IDタグを利用して冷蔵庫内の食材を把握し、食材の在庫量、種類等を管理するシステムなども考案されている。IDタグを購入時点で無効化した場合、このような利便性の高いシステムも実現することが不可能となる。
【0009】
一方、IDタグの機能を有効の状態に維持した場合、IDタグは購入後も使用可能となるが、その反面、他者のアクセスによる個人情報等の漏洩の懸念も生じる。
【0010】
本発明は、こうした事情に鑑みなされたものであり、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグを提供することを目的とする。
【0011】
また本発明の別な目的は、一旦無効化したIDタグを再生し、セキュリティを保持し、プライバシイを秘匿できる状態で、再び利用できるようにしたIDタグを提供することを目的とする。
【0012】
本発明によれば、アンテナおよびICチップを含む回路と、回路を遮断する無効化手段とを備えるIDタグであって、前記無効化手段は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含むことを特徴とするIDタグが提供される。
【0013】
本発明によれば、所定の動作時限後に自動的にIDタグが無効化されるため、無効化処理のし忘れによる個人情報等の漏洩を防止することができる。また、動作時限を適宜に設定することにより、所望の期間だけIDタグの機能を有効に維持することも可能となり、様々な目的のシステムへの展開が可能となる。
【0014】
ここで、動作時限とは、使用時間または使用回数を意味する。すなわち、IDタグの使用開始後、所定の時間または所定の使用回数を経た時点で時限スイッチが作動するように構成されている。本発明における「動作時限」は種々の態様を含む概念であり、たとえば以下のものを含む。
(i)固体電解質スイッチに電源電圧が印加される時間の総和、即ち、RFIDタグの累計電源動作時間(後述の実施の形態2)
(ii)RFIDの使用・不使用、あるいは電源動作に関係しない経過時間(後述の実施の形態3、5)
(iii)電源から金属細線に電流が流れる時間の総和、即ちRFIDタグの累計電源動作時間(後述の実施の形態4)
(iv)金属イオンが拡散する時間であり、RFIDの使用・不使用、あるいは電源動作に関係しない経過時間(後述の実施例1,2)
動作時限の長短は、時限スイッチの構造等を調整することにより設定することができる。
【0015】
本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記時限スイッチを起動させるための起動手段を含んでおり、前記時限スイッチは、該起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断するように構成されたものとすることができる。
【0016】
また、本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、前記所定の動作時限に到達したとき内部が導通状態から非導通状態に切り替わり前記回路を遮断する構成としてもよい。
【0017】
本発明のIDタグとして、たとえば、以下のものが挙げられる。
(i)前記時限スイッチは、前記固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、前記固体電解質膜に接するとともに前記第一の導体と所定の距離を隔てて設けられた第二の導体と、前記固体電解質膜に接するとともに前記第一および第二の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、を備え、前記第一および第二の導体が、それぞれ前記回路に接続された構成。
(ii)前記時限スイッチは、前記回路中に設けられた導体細線と、該導体細線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とを備え、前記起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき、前記導体細線が絶縁体化され前記回路が遮断するようにした構成。
(iii)前記時限スイッチは、基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜と、前記第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体と、前記第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体と、前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、前記第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、を備え、前記第一および第二の固体電解質膜は、それぞれ異なる材料からなり、前記第一および第二の導体と、前記第二および第三の導体とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられおり、前記第一および第三の導体が、それぞれ前記回路に接続された構成。
【0018】
上記(ii)において、酸化剤の収容される酸化剤室をさらに備え、前記起動手段を機能させると、前記酸化剤室と前記気密室とが連通するように構成してもよい。
【0019】
さらに、本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の金属配線および第二の金属配線と、前記第一および第二の金属配線の間に配置されたギャップ部と、所定の動作時限に到達したとき、前記ギャップ部が導通状態となり前記第一および第二の金属配線の間が短絡し、前記回路が遮断するように構成された構成としてもよい。かかる構成において、前記第一および第二の金属配線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とをさらに備え、この起動手段により前記時限スイッチを起動させる構成としてもよい。
【0020】
本発明のIDタグは、上記時限スイッチを複数備え、任意の時限スイッチを起動できるように構成してもよい。
【0021】
本発明によれば、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグが提供される。
【0022】
また本発明によれば、一旦無効化したIDタグを再生し、セキュリティを保持し、プライバシイを秘匿できる状態で、再び利用できるようにしたIDタグが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0024】
【図1】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図2】図1におけるICチップの内部構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図4】時限スイッチの一例を示す概略構成図である。
【図5】図4に示した固体電解質スイッチの使用状態を示す模式図である。
【図6】固体電解質スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図7】図6に示す固体電解質スイッチの製造方法を説明する図である。
【図8】図6に示す固体電解質スイッチの動作を説明するための図である。
【図9】図6に示す固体電解質スイッチの機能を説明するための図である。
【図10】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図11】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図12】図10の時限スイッチの使用開始後の状態を示す図である。
【図13】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図14】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図15】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図16】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図17】ヒューズを併用した無効化スイッチの一例を示す図である。
【図18】実施例に係るRFID時限無効化スイッチの構成を示す平面図である。
【図19】実施例に係るRFID時限無効化スイッチの構動作原理を説明する図である。
【図20】硫化銅膜中の銅組成を制御する手法を説明するための図である。
【図21】実施例に係る時限無効化スイッチの一例を示す模式図である。
【図22】実施例に係る時限無効化スイッチの第1配線群および第2配線群の間の電気抵抗の変化を示す図である。
【図23】イオン伝導領域の形状制御によりオフするまでの時間を長くする構成例を示す図である。
【図24】異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の拡散係数D、D’の対数(縦軸72)を温度T(横軸71)の逆数の関数として示したグラフである。
【図25】異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質をイオン伝導領域として有する時限無効化スイッチの構成例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0026】
第1の実施形態
はじめに、本発明に係る時限スイッチを備えるIDタグの全体構成について説明する。
【0027】
図1は、実施の形態に係るRFIDタグの一例について内部構造を示した図である。このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(無効化機構110)とを備える。無効化手段(無効化機構110)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構110は、基板102上に設けられている。
【0028】
ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行う通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0029】
非接触のリーダライタから電波を放射し、電磁誘導の原理によりコイルアンテナ104に起電力を発生させ、この起電力を用いてコイルアンテナ104に接続されたICチップ200を動作させることで、電波通信により各種データの書き込みおよび読み取りが可能となるように構成されている。なお、上記説明においては、一例としてコイルアンテナを用いて、電力とデータの受け渡しに電磁誘導を用いる例について述べた。しかしながら、このケース以外にも使用周波数の波長に合わせた共振器をアンテナとして用い、電力とデータの受け渡しに電波を用いる場合等、さまざまな方法がある。
【0030】
図2は、ICチップ200の内部構成を示す図である。図中、電源回路206は不図示のコンデンサを内蔵し、このコンデンサはコイルアンテナ104とともに共振回路を形成する。コンデンサにはコイルアンテナ104が特定の周波数の電波(上記共振回路が共振する周波数)を受信したときにその相互誘導作用で生じる電力が充電される。電源回路206は、この電力を整流し安定化してCPU202に供給し、ICチップ200を活性化する。メモリ204はROM(read only memory)、RAM(random-access memory)及びEEPROM(electrically
erasable programmable read only memory)を含む。メモリ204は、CPU202の制御下、受信電波のデータ通信による読出しコマンドに応じて記憶されたデータの読出しを行うとともに、受信電波の書込みコマンドに応じてデータの書込みを行う。
【0031】
以下、さらに詳細に図2に示すICチップ200の動作について説明する。
【0032】
コイルアンテナ104が外部からRF信号を受信すると、電源回路206のコンデンサにはコイルアンテナ104と外部装置のアンテナ(不図示)の相互誘導作用で生じる電力が充電される。この結果、電源回路206は電力を整流し安定化して、CPU202に供給し、ICチップ200を活性化する。次いでICチップ200のRF回路208が、復調に必要な信号のみを取込み、復調回路210で所定の情報のデジタル信号を再現させて、CPU202によりこのデジタル信号をメモリ204に書込む。
【0033】
受信した信号に対応してRFIDタグ100から外部にデータを送信する場合は、以下の手順にしたがって処理が行われる。すなわち、コイルアンテナ104が外部からRF信号を受信すると、電源回路206のコンデンサに電力が充電される。電源回路206は、電力をCPU202に供給しICチップ200を活性化して、RF回路208を介して復調回路210で元のデジタル信号を再現させる。CPU202はこの信号に基づいてメモリ204に記憶されていた所定の情報を送信する。この情報は、2値化されたデータ信号をICチップ200の変調回路212で変調し、RF回路208で増幅してコイルアンテナ104から外部へ送信される。
【0034】
無効化機構110は、図2に示したようにコイルアンテナ104と電源回路206との間に配置される。無効化機構110は、所定の起動手段により作動し、作動後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。時限スイッチは、あらかじめ設定された使用時間または使用回数に到達したとき、RFIDタグ100を無効化し、データの読み出しおよび書込を禁止する処理を実行する。無効化機構110は、こうした時限スイッチによる時限無効化機能を有する。無効化処理が実行されると、コイルアンテナ104の受信信号が電源回路206に到達することが禁止され、RFIDタグ100は動作不能となる。
【0035】
背景技術の項で述べたように、従来の無効化機構は、ヒューズを作動させたり加熱したりする等、人間が所定の操作を行うことにより無効化処理を実行していた。これに対し、本実施形態における無効化機構110は、人手を介することなく自動的に無効化することとなるため、無効化処理のし忘れを防止することができる。
【0036】
なお、無効化機構110の設置箇所はこれに限られず、種々の態様を採用することができる。RFIDタグの受送信を禁止するようにしてもよいし、受信のみ、または送信のみを禁止するようにしてもよい。たとえば図3に示すようにコイルアンテナ104と変調回路212との間に設けてもよい。この場合、無効化処理が実行されると、変調回路212からコイルアンテナ104への信号の送出が禁止される。この結果、信号の受信は可能であるがRFIDタグ100から外部への信号の送信は不能となる。
【0037】
第2の実施形態
本実施形態では、無効化機構110に含まれる時限スイッチの一例について説明する。
【0038】
(概略構造)
図4に示す固体電解質スイッチ300は、本発明に係る時限スイッチの一例を示す概略構成図である。このスイッチは、初期状態で固体電解質膜中に形成した伝導チャネルが経時的に消失していく現象を利用するものである。
【0039】
図4(a)は、スイッチオフ状態の固体電解質スイッチ300の様子を模式的に示す図である。図示したように、固体電解質スイッチ300は、対向する一対の電極302と、これらに狭持された固体電解質308とを備える。一方の電極302の内側にはイオン供給層304が設けられている。イオン供給層304から放出された金属イオン306は、固体電解質308中に分散して存在する。平衡状態では電極間に伝導性が無く、オフの状態になっている。
【0040】
図4(b)は、スイッチオン状態の固体電解質スイッチ300の様子を模式的に示す図である。図4(a)の状態の固体電解質スイッチ300に対し、電極302間に所定の電圧を印加すると、固体電解質308中に金属イオンが析出し、伝導チャネル310が形成される。これにより固体電解質スイッチ300はオン状態となる。この析出機構は可逆的であるため、オンした固体電解質スイッチ300の電極間に逆に電圧を印加することにより、析出した金属原子が固体電解質中を移動して伝導チャネル310は細くなり、最終的にはチャネルが消失し固体電解質スイッチ300は非導通状態となる。このスイッチを用いることにより、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグを実現する。
【0041】
図5は、図4に示した固体電解質スイッチ300を内蔵したパッシブ型RFIDの使用状態を示す模式図である。はじめに、固体電解質スイッチ300に所定の電圧を印加することにより金属原子を析出させ伝導チャネルを形成しておく。この固体電解質スイッチ300を、RFIDタグの使用状態において伝導チャネルがオフする方向に電源電圧が印加される方向で電源に接続する。
【0042】
このRFIDが外部から電波を受けて動作した場合、伝導チャネルは徐々に細くなっていく。この際、所望の電圧電流特性となるように適宜選択して固体電解質スイッチ300を設計し作製することにより、特定の使用回数でオフする素子を実現可能である。さらに再生する際には再生端子を通して、使用時に印加するのと逆方向の電圧を印加することで固体電解質膜中に伝導チャネルを再形成し、スイッチをオン状態に戻すことができる。また、再生端子は、短絡端子としての機能も有し、端子間を短絡することにより無効化スイッチの機能を無効にすることもできる。
【0043】
さらに、カウンタやDC−DCコンバータを周辺部に付加することにより、使用回数を特定する精度を高めることができ、また、RFIDが必要とする電源電圧と固体電解質スイッチ300の動作に必要とされる電圧の違いを吸収することができる。またヒューズを併用し、ヒューズを切ったときに無効化スイッチが起動するように構成することもできる。
【0044】
図17は、こうした構成の一例を示す図である。図示した構造において、ヒューズがつながっている場合、電源回路からの電流はヒューズを通して流れる。無効化スイッチを有効にする場合、まず制御回路から信号を出して電流源を起動する。ヒューズを切るために電流源から出力された電流は、主にヒューズを流れ、ヒューズを焼き切る。この電流が直流の場合、抵抗値によりヒューズと電解質スイッチに電流は分配されるため、ヒューズの抵抗値は十分電解質スイッチの抵抗値より小さくしておく。また、電流がパルス状の場合、インダクタンスも関係し、ヒューズのインダクタンスを十分小さくしておく。ヒューズを焼き切ると、電源回路からの電流は電解質スイッチのみを流れ、無効化機構が有効となる。
【0045】
(構成材料)
固体電解質スイッチ300を構成する材料の例について説明する。図6は、固体電解質スイッチ300の具体的構造の一例を示す図である。
【0046】
この固体電解質スイッチ300は、前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の電極(下部配線404)および第二の電極(上部配線414)と、これらの電極に挟まれた固体電解質膜(固体電解質層406)とを備え、前記固体電解質膜(固体電解質層406)に接して金属イオン供給部(下部配線404の上部領域)が設けられている。下部配線404および固体電解質層406の周囲の領域には、層間絶縁膜408が埋設されている。
【0047】
図中、固体電解質層406が、図4の固体電解質308に該当する。固体電解質層406中には、下部配線404から放出されたイオンが導入され、所定の電圧を印加することにより、固体電解質層406中にイオン架橋体からなる伝導チャネルが形成される。この伝導チャネルが形成された状態で、チャネル形成時と逆方向の電界を印加し続けると、チャネル幅が次第に細くなり、所定時間経過後、チャネルが消失し、非導通状態となる。
【0048】
ここで、固体電解質層406の材料としては、イオンと電子の両方が伝導できる複合導電体を使用し、固体電解質層406としては、金属カルコゲナイドが好ましく用いられる。金属カルコゲナイドとしては、
硫化銅、硫化銀のような金属硫化物;
セレン化銅、セレン化銀のような金属セレン化物;
テルル化銅、テルル化銀のような金属テルル化物;
等が例示される。金属の種類は、銅や銀以外でもよく、たとえば、PbTe(テルル化鉛)、SnTe(テルル化スズ)、GeSe(セレン化ゲルマニウム)等を用いることもできる。
【0049】
本実施形態では、硫化銅のような金属硫化物を使用する。下部配線404は固体電解質層406の金属イオンと同種の金属からなり、イオン供給層としての役割を果たす。所定の電圧を印加することにより下部配線404から固体電解質層406に金属イオンが供給され、これと逆方向の電圧を印加すれば固体電解質層406から下部配線404側に金属イオンが供給される。
【0050】
固体電解質層406の厚みは、構成材料および動作時限の長短に応じて適宜な値が設計される。硫化銅を用いた場合、固体電解質層406の通常の膜厚は2nmから200nm程度とするのがよい。
【0051】
下部配線404および上部配線414は、銅やアルミ等の低抵抗導電膜で形成するのがよい。膜厚は20nmから1000nm程度とすればよい。固体電解質層406と配線404の組み合わせは、上記の硫化銅と銅以外に、硫化クロムとクロム、硫化銀と銀、硫化チタンとチタン、硫化タングステンとタングステン、硫化ニッケルとニッケル等を用いることができる。
【0052】
下部配線404の上部領域は、金属イオン供給部として機能する。金属イオン供給部は、金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。
【0053】
上部電極412は、固体電解質層406と化学反応を起こしにくい材料で形成することが好ましい。そのような材料としてたとえばチタンを挙げることができる。チタンのほかには、白金、金等の貴金属や、クロム、タングステン、モリブデン等の周期表第6族の金属や、バナジウム、ニオブ、タンタル、等の金属、あるいはこれらの窒化物やシリサイド化物等を用いることもできる。
【0054】
(製造方法)
図7は、図6に示した固体電解質スイッチ300の製造工程を示す図である。はじめに、図7(a)に示すように、最初にシリコン基板を酸化して基板402を作製し、その上に銅薄膜を形成する。銅薄膜の形成は、たとえば真空蒸着法あるいはスパッタ法を用いることができる。
【0055】
次に、ウエットエッチングあるいはドライエッチング法によって、下部配線404以外の余分な銅薄膜をエッチングして、銅膜を配線形状に加工し、下部配線404を得る。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、層間絶縁膜408を形成する。例えば、層間絶縁膜408として、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜をスパッタ法あるいはCVD法等により形成する。層間絶縁膜408の形成後、ドライエッチングあるいはウエットエッチングにより層間絶縁膜408を選択的に除去し、ビアホール410を形成する。層間絶縁膜408の材料は、信号遅延時間を小さくし寄生容量を低減する観点から、たとえば比誘電率3以下の低誘電率膜を用いてもよい。たとえば、MSQ(メチルシルセスキオキサン)やSiOC膜等を用いることができる。層間絶縁膜408の厚さは、たとえば50〜1000nmとすることができる。
【0057】
次に、ビアホール410に露出した銅を硫化させる。銅の硫化は、硫化物を含んだ水溶液中でアノード分極により行う。硫化ナトリウムを0.05モル/リットル含む水溶液に、銅薄膜を陽極としてアノード分極を行う。加える電圧は0.5V程度であり、硫化量は電流を制御して調整する。銅薄膜の表面層が所望の厚さ分だけ硫化されたところで硫化を停止させる。例えば、銅薄膜の表面層1nmから100nm程度硫化したところで反応を停止させる。硫化されて硫化銅になった部分は固体電解質層406となり、硫化されずに残った銅の部分は下部配線404となる。なお、この硫化中に、銅薄膜の伝導度を測定することによって硫化の程度を把握できるので、これを利用することにより銅薄膜の硫化膜厚を制御して形成することができる。以上のようにして形成した硫化銅からなる固体電解質層406が図4におけるイオン供給層304に相当する。
【0058】
本例では、下部配線404の材料が固体電解質を構成する金属である銅を用いたのでイオン供給層の作製を省略したが、配線とは別に、金属層や金属硫化物層を成膜することでイオン供給層を形成してもよい。
【0059】
なお、固体電解質層406の厚みは、複合導電体である硫化銅において、おおよそ2nmから200nm程度であればよい。下部配線404に銅を用いた場合の膜厚はおおよそ20nmから300nmであればよい。
【0060】
下部配線404が銅以外の材料により構成される場合、イオン供給層を設けることが好ましい。イオン供給層は、対向する一対の電極のうち一方の電極の内側に配置される。イオン供給層は、銅を材料として、膜厚はおおよそ2nmから50nm程度あればよい。また、上部配線層上部配線414の膜厚は、おおよそ20nm〜300nm程度の銅を用いてもよい。
【0061】
次に、図7(c)に示すように、上部電極412をチタンにより形成する。本例では、チタンを真空蒸着法によって堆積した。上部電極412の厚さは、5nm〜30nmとする。
【0062】
最後に、図6に示すように、上部配線となる銅を、層間絶縁膜408の上にスパッタ法等によって積層する。次に上部配線の領域以外が開口されたレジストマスクを用いてドライエッチング法により、上部配線414を形成する。本例においては、上部配線414の膜厚は、おおよそ20nmから300nm程度の銅を用いる。
【0063】
下部配線404および上部配線414は、上記の銅以外に、従来用いられる配線材料でもよく、例えばアルミニウム、金などを用いることができる。
【0064】
以上のようにして、本発明の固体電解質スイッチング素子を製造できるが、固体電解質層406としては、複合導電体の硫化銅が適している。硫化銅は220℃において、硫化第二銅から安定な硫化第一銅に変化する。硫化第一銅の融点は1130℃であり、熱安定性がよい。300℃で1時間加熱しても固体電解質スイッチの特性変化がないことが確かめられている。
【0065】
(電気特性)
図8は、図4〜図7で説明した固体電解質スイッチ300の電気特性を説明するための図である。固体電解質スイッチ300の両端に印加する電圧を0.2V→0V→−0.18V→−0.23V→0V→0.2Vと変化させたとき、図中、A→B→C→Dをたどるプロファイルを示す。A→B間では、固体電解質スイッチ300は図4(a)の状態に対応しており、電極間には電流がほとんど流れない。Bでは、図4(b)で説明した伝導チャネル310が形成され始める。BからCへマイナス方向に電圧を増大させていくと、チャネルの幅が太くなり、電流が顕著に増大する。C→D間では、形成されたチャネルに電流が流れ、印加電圧に比例して電流が流れる。D−A間では形成されたチャネルが細くなっていくため、電流量が急激に減少する。
【0066】
このように加える電圧の大きさや極性を変化させることにより、固体電解質スイッチ300の両端間のコンダクタンスが大きく変動する。
【0067】
(時限無効化機能)
固体電解質スイッチ300に対して、図8の点Cに示す電圧を印加すると、図4(b)に示したように伝導チャネルが形成される。この状態で電源から切り離すと、伝導チャネルはそのまま維持される。その状態で図8の点Cと逆方向の電圧を印加しRFIDタグ100を使用すると、伝導チャネルの幅が次第に細くなり、所定の時間が経過したとき、あるいは所定の回数を使用したとき、伝導チャネルが消失する。図9は、使用時間とともに固体電解質スイッチ300内部の抵抗が変化する様子を示す図である。所定の時間tに到達するまでは、抵抗値はほぼ一定であるが、時刻tを過ぎると、段階的に抵抗が上昇し、t’に到達したとき、抵抗は急激に増大し、固体電解質スイッチ300に電流が流れない状態となる。t’は、固体電解質スイッチ300内部の構成、すなわち、固体電解質層410の材料や厚み、イオン濃度などに依存する。これらを調整することにより、所望の使用時間に到達すると非導通状態となり、RFIDタグを無効化する機能を持つ素子が得られる。
【0068】
本実施形態によれば、人為的に無効化処理をしなくとも自動的に無効化され、内部の秘密情報が保護されるIDタグを実現することができる。
【0069】
第3の実施の形態
本実施形態は、酸化により絶縁体化する金属や半導体の金属細線を時限無効化スイッチに適用した例を示す。図10は、本実施形態にかかるRFIDタグの概略図である。
【0070】
このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(時限スイッチ112)とを備える。無効化手段(時限スイッチ112)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構110は、基板102上に設けられている。
【0071】
ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行う通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0072】
時限スイッチ112は、金属細線を時限スイッチとして用いている。金属細線は、時間の経過とともに酸化が進行し、所定の時刻に到達すると、金属細線全体が絶縁体となり非導通状態となる。非導通状態になるまでの所用時間は、金属細線の材質、太さおよび長さなどにより決定される。
【0073】
図11は、図10における時限スイッチ112の具体的構造の一例である。図示した構造は、幅狭部502(金属細線)および幅広部504からなる金属線501と、その上に積層した保護膜506およびシール材508からなる。
【0074】
幅狭部502およびこれに隣接する幅広部504の一部の領域の上部において保護膜506が開口しており、開口部分はシール材508により封止されている。金属線501、保護膜506およびシール材508により形成された空間内には、不活性ガスが充填されている。この時限スイッチ112が設けられたRFIDタグの使用開始時にシール材508を剥離し、幅狭部502の表面を大気に露出する(図12)。すると、幅狭部502が大気中の酸素により酸化され、酸化の進行につれ、幅狭部502内の伝導パスが次第に狭まっていく。伝導パスの断面積は所定の時刻が到達したときに急激に狭くなり、非導通状態となる。このとき、図10においてコイルアンテナ104からICチップ200への信号の送出が禁止され、RFIDタグ100の機能が無効化する。
【0075】
幅狭部502(金属細線)の配線幅は、たとえば0.5nm〜1μmとすることができ、好ましくは1〜500nmとすることができる。こうすることにより、酸化により時限的に絶縁化するスイッチを好適に実現できる。幅狭部502(金属細線)の形成方法は、使用する金属材料に応じて適宜選択される。たとえば銅を用いる場合、ドライエッチングあるいはシリコン半導体プロセスで汎用されているダマシンプロセスを用いて形成することができる。アルミニウムやその合金を用いる場合、ドライエッチング等のプロセスにより形成することができる。
【0076】
時限スイッチ112は、太さの異なる複数の金属細線を備える構成とすることもできる。図13は、このような複数の金属細線を備える時限スイッチ112の模式図である。この時限スイッチ112はそれぞれ太さの異なる金属細線(幅狭部502a、幅狭部502bおよび幅狭部503a)を備えている。各金属細線には、それぞれ別々のシール材により封止され、いずれかの封止材を除去することにより、金属細線の酸化を開始させ時限無効化機能が開始される。このような構成とすれば、利用者の希望により無効化するまでの時間を調整することが可能となる。これにより、一つのRFIDタグで多様な用途に適合するようにすることができる。
【0077】
第4の実施の形態
本実施形態では、エレクトロマイグレーションを起こしやすい2本の金属細線により狭ギャップを形成し、これを時限スイッチとして用いる例について説明する。
【0078】
図14は、本実施形態にかかるRFIDタグの概略図である。このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(無効化機構114)とを備える。無効化手段(無効化機構114)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構114は、基板102上に設けられている。ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行なう通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0079】
無効化機構114は、2本の金属細線により形成される狭ギャップを時限スイッチとして用いている。所定の動作時限に到達すると、ギャップ部分が導通状態となることでIDタグが無効化する。
【0080】
図15は、図14における無効化機構114の具体的構造の一例である。図中、無効化機構114は、基板602上に第1配線604、第2配線606およびこれらに挟まれたギャップ608を備えた構造を有する。第1配線604および第2配線606の左端は、図14に示したように、コイルアンテナ104に接続されている。一方、第1配線604および第2配線606の右端は、図14に示したように、ICチップ200に接続されている。ICチップ200が外部から信号を受信すると、図15において、第1配線604および第2配線606には、図中左から右側へ所定の電流が流れる。第1配線604および第2配線606はエレクトロマイグレーションを起こしやすい金属材料により構成されているため、上記電流が流れ続けると、第1配線604および600からギャップ608へ構成金属がマイグレートし、ギャップ608は次第に導電性を帯びていく。IDタグの使用回数が所定の回数に到達すると、ギャップ608が導通状態となり、第1配線604および第2配線606間が短絡する。このとき、RFIDタグの機能が無効化される。
【0081】
第1配線604および第2配線606は、エレクトロマイグレーションを起こしやすい同一金属材料により構成することが好ましい。例えば、銀やアルミニウムなどの金属材料が提示される。基板602およびギャップ608は絶縁材料により構成される。例えば、単結晶シリコン、ガラスなどが好ましく用いられる。第1配線604と第2配線606との間の距離は、マイグレートした金属材料により電流パスが形成される程度の大きさとする。例えば、1nm以上100nm以下とする。並行方向の配線間距離は、例えば100nm以上100μm以下とすればよい。この方法によると典型的な動作時限は1ヶ月ないし10年である。この時限は配線の材質、ギャップの設計寸法、材質、雰囲気ガスの種類などにより調整が可能である。
【0082】
第5の実施の形態
金属細線を用いた時限スイッチでは、上記実施形態のように大気に曝して非導通状態とする機構の他、一定空間内に酸化剤を設置し、金属細線を積極的に酸化させる機構を用いることもできる。本実施形態は、こうした酸化剤による金属細線の酸化により非導通状態とするものである。
【0083】
図16は、酸化剤を用いた、時限スイッチを含む無効化機構の具体的構造の一例である。基板710の表面に凹部が形成され、この凹部を覆うようにシール材708が設けられている。シール材708は、凹部内の所定箇所において基板710と熱融着され封止部704を形成している。シール材708および基板710により形成される第一の室712および第二の室714には、それぞれ無効化スイッチ702および酸化剤706が設けられている。第一の室712内の空間には、窒素やアルゴン等の不活性ガスが充填されている。無効化スイッチ702は、第3の実施の形態で説明した金属細線を用いている。
【0084】
酸化剤706としては、固体酸化剤が好ましく用いられ、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウム等の無機過酸化物や、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム等の過塩素酸塩類等を用いることができる。
【0085】
図示した構造は、IDタグの使用前の状態を示すものであり、使用開始時に、封止部704を基板710から切り離すことにより、時限スイッチが作動する。使用前の状態において、シール材708の第二の室714側には、凸部718が設けられており、この部分を押圧することにより封止部704が破断するようになっている。封止部704が基板710から切り離されると、第一の室712および第二の室714が一体化し、無効化スイッチ702が酸化剤706由来の酸化性ガス(ここでは酸素)に曝される。これにより、金属細線の酸化が進行し所定時間経過後、非導通状態となりIDタグが無効化する。
【0086】
本実施形態によれば、使用開始時を任意に設定することができるので、様々な用途に適合するIDタグを実現することができる。また、706の種類や量および第一の室712および第二の室714からなる空間の容積を適宜調整することにより、無効化するまでの時間を正確に調整することが可能となる。
【0087】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0088】
たとえば、カウンタやDC−DCコンバータを周辺部に付加することにより、使用回数を特定する精度を高めたり、RFIDが必要とする電源電圧と固体電解質スイッチ300の動作に必要とされる電圧の違いを吸収したりすることができる。またヒューズを併用し、ヒューズを切ったときに無効化スイッチが起動するように構成することもできる。
【0089】
また、金属細線を用いる実施形態において、金属細線の表面に、適宜酸化防止剤を付着させる処理を施してもよい。こうすることにより、金属細線の酸化を抑制し、IDタグの使用可能期間を長期化することができる。また、処理量を調整することで使用可能期間を精度良く制御することも可能となる。酸化防止剤は金属細線の材料によって適宜選択されるが、たとえば銅を用いた場合、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体等が好適に用いられる。
【0090】
また、上記各実施形態において、時限スイッチを複数備える構成としてもよい。この時限スイッチは、それぞれ動作時限が異なるようにしてもよく、さらに、起動手段により任意の時限スイッチを起動できる構成とすることもできる。
また、上記各実施形態において、時限スイッチの両端に一対の短絡端子を設けてもよい。前述の図5における「再生端子」は、このような短絡端子の例である。図5の再生端子は短絡端子としての機能も有し、端子間を短絡することにより無効化スイッチの機能を無効にすることもできる。
【0091】
[実施例]
実施例1
RFID時限無効化スイッチに関する第1の実施例を示す。図18は、本実施例のRFID時限無効化スイッチ1の構成を示す平面図である。このRFID時限無効化スイッチ1は、基板10上に、RFID時限無効化スイッチの両端子となる第1配線11および第2配線12、第1配線11および第2配線12の間に配置された固体電解質膜13、および固体電解質膜13に隣接する形でイオン供給電極14、が配置された構成からなる。
【0092】
(各部の構成)
以下、RFID時限無効化スイッチ1を構成する各部について詳細に説明する。
【0093】
RFID時限無効化スイッチ1の形成される基板10は、少なくとも表面が絶縁性材料からなる基板とすることが好ましい。例えばプラスチック基板や、シリコン酸化膜基板のような絶縁膜を皮膜したシリコン基板などが好適である。
【0094】
第1配線11および第2配線12は、固体電解質膜13中にイオンとして溶け込みにくい材料、例えば、金、チタン、アルミニウム、タングステンなどの材料で構成されていることが好ましい。第1配線11および第2配線12の厚みは、本実施例においては100nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されない。但し、膜厚は配線抵抗の低い、段切れ等のない良好な電極を作製できる膜厚として10nm以上の膜厚を確保することが望ましい。
【0095】
第1配線11および第2配線12の間隔は、本実施例においては200ミクロンとしたが、利用可能な間隔はこれに限定されない。但し、コスト面から、フォトリソグラフィー技術を用いて作製可能な間隔として200nm以上の間隔が望ましい。
【0096】
固体電解質膜13を構成する材料としては、少なくとも複数の元素からなる固体電解質が望ましい。あるいは固体電解質膜13が固体状態のまま、イオン供給電極14の構成元素がイオンとして溶け込むことができ、溶け込んだ状態で固体電解質として作用する材料であることが望ましい。さらに、固体電解質膜13の材料中を少なくとも一つの元素がイオンとなって移動でき、その結果として材料の構成元素の組成比を変化できて、且つ組成比の変化に従って材料の導電率が変化する材料を使用できる。例えば、金属イオンの移動を容易に生じる、硫化銅、硫化銀といった銅や銀からなるカルコゲナイド材料やそれらの混合物を用いることができる。
【0097】
固体電解質膜13の厚みは、本実施例においては40nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されず、導通時と非導通時の抵抗値が設計値を満足するように選ぶことができる。但し、表面酸化などの影響で固体電解質材料が劣化することなく、バルク同様の固体電解質の性質を膜に付与するのに十分な膜厚として20nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0098】
イオン供給電極14は、固体電解質膜13にイオンとして溶け込む材料で構成することが好ましい。イオン供給電極14の材料としては固体電解質膜13の構成元素と同じ金属元素からなる金属単体であっても良いし、あるいはその金属元素を含む合金であっても良い。イオン供給電極14は固体電解質膜13を構成する材料を構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。固体電解質膜13が金属カルコゲナイドである場合、この金属カルコゲナイドを構成する金属を供給するものであることが好ましい。具体的には、固体電解質膜13が硫化銅の場合、イオン供給電極14は銅を含む金属により構成することが好ましい。固体電解質膜13が硫化銀の場合、イオン供給電極14は銀を含む金属により構成することが好ましい。
【0099】
イオン供給電極14の厚みは、本実施例においては50nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されない。但し、イオンを供給するのに十分な膜厚として20nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0100】
以上の構成からなる時限無効化スイッチ1は、簡単なリソグラフィ技術により形成可能であり、かつ複雑な回路を必要としないため、IDタグ上で安価に時限無効化スイッチを製造することが可能である。
【0101】
(動作原理)
図19は、上述の時限無効化スイッチ1の動作原理を説明する図である。出荷状態の時限無効化スイッチ4と時間経過後のRFID時限無効化スイッチ4’が比較されている。時限無効化スイッチ1の基本動作原理は、固体電解質膜13である硫化銅中の銅イオンの拡散現象と、銅組成変化に伴った電気抵抗率変化に基づいている。ストイキオメトリックな硫化銅における銅組成は銅:硫黄=2:1であることが知られているが、通常知られる成膜方法で硫化銅単膜を成膜すると、銅の欠損が多数形成され、銅:硫黄=2−x:1となる。ここでのxは例えば0.02から0.2程度の大きさである。硫化銅はp型の電気伝導を示す半導体であるため、銅の欠損はアクセプタとして働き、電流を運ぶホールを供給する。そのため、硫化銅の電気抵抗率は銅欠損増加とともに減少する。すなわち、成膜直後、硫化銅単膜の電気抵抗は低い。よって、第1配線41および第2配線42の間の電気抵抗は低く、出荷状態の時限無効化スイッチ4は低抵抗な導通状態にある。一方、銅欠損を有する硫化銅43に銅電極44を接触させると、銅電極44からイオン化した銅イオン45が、銅:硫黄=2:1となるまで硫化銅43中に拡散していく。これは、硫化銅と銅が接した系が平衡状態に向かっていく化学反応である。硫化銅と銅が接した系の最終的な平衡状態は銅:硫黄=2:1の硫化銅43’である。銅の欠損が多数形成された状態から平衡状態に向って、時間経過とともに銅の拡散が進むと、アクセプタとして働く銅欠損が減り、電流を運ぶホールは少なくなるため電気抵抗は高くなる。従って、時間経過後には第1配線41’および第2配線42’の間の電気抵抗は高くなり、本発明におけるRFID時限無効化スイッチ4’は高抵抗な非導通状態になる。
【0102】
以上の動作原理説明から理解されるとおり、本発明における時限無効化スイッチ1において、各電極に適切な電圧を与えることにより、硫化銅膜13中の銅組成を制御することが可能になる。図20は、その手法を説明する図面である。使用後、すなわち非導通状態にある時限無効化スイッチ5と電圧を印加してリセットした後のRFID時限無効化スイッチ5’が比較されている。例えば、イオン供給電極54を接地し、第1配線51および第2配線52をある正の同電位に固定すると、銅:硫黄=2:1の組成比を有する硫化銅膜53中の銅イオン55はイオン供給電極54に向かって拡散し、イオン供給電極54に戻っていく。リセット動作後の状態では、硫化銅膜53’中の銅組成が銅:硫黄=2−x:1に戻っていて、硫化銅膜53’の電気抵抗は再び低くなる。この現象を用いると、硫化銅膜53を初期状態(銅組成が銅:硫黄=2−x:1)に戻せることができ、本発明における時限無効化スイッチ1をリセットして再利用または初期化することができるようになる。
【0103】
(実験例)
図21は本実施例に係る時限無効化スイッチ1の動作を示すために、シリコン酸化膜基板20上に作製したスイッチ構造の模式図である。第1配線群21および第2配線群22はチタンからなり、第1配線群21および第2配線群22の間隔は0.2mmである。固体電解質膜23には硫化銅、イオン供給電極24には銅を用いた。第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離dは0.3mmから6.4mmまで変化させた。
【0104】
図22は、イオン供給電極24が形成されてから、時間経過とともに変化する第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗を示したグラフである。横軸31は第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離d、縦軸32は第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗を示している。図中右側に示す数値は経過時間を示す。たとえば、「817h00m」とあるのは、817時間0分を意味する。
【0105】
図22の結果から、距離dのいずれの点においても、第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗が時間とともに増加していることがわかる。また、距離dが大きいほど電気抵抗が大きくなるまでに要する時間が増大することがわかる。具体的には、d=6.4ミリメートルの点において、初期状態では300オーム程度であった抵抗は、360時間経過後に1メガオーム程度まで上昇した。すなわち、初期状態では導通状態であった第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗が360時間(=15日)経過後に非導通状態に遷移したことになる。即ち一定時間経過後に導通状態から非導通状態に遷移する時限スイッチの動作を示した。
【0106】
本時限スイッチを用いることにより、下記のようなIDタグを構成できる。たとえば、IDタグにおける電源回路の配線中に挿入するように、時限スイッチの第1配線群21および第2配線群22を配置すればよい。前述の実施の形態で述べたIDタグにおいて、図1に示したIDタグの無効化機構110、図10に示したIDタグの時限スイッチ112に、本実施例の時限スイッチを適用することができる。
【0107】
本実施例の時限スイッチは、初期状態ではスイッチがオン状態となり配線を導通し当該タグが使用可能となる。一定時間経過すると配線が非導通状態に遷移し、自動的に電源供給が断たれて当該タグを使用不可能、即ち無効化される。また、電源回路の配線間をショートするように第1配線群21および第2配線群22を配置した場合は、初期状態では電源がショートして使用できず、一定時間経過後第1配線群21および第2配線群22の間が非導通状態に遷移することによってはじめて使用可能になるIDタグも構成できる。さらに、このような導通から非導通に遷移する時間は、第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離dを変化することにより制御可能であることは図22の結果より明らかである。
【0108】
(オフするまでの時間の制御)
時限無効化スイッチ1は、イオン供給電極14から第1配線11および第2配線12に向かうイオンの拡散により動作する。従って、スイッチがオフするまでの時間は、時限無効化スイッチ1における固体電解質13中のイオン供給電極14から第1配線11および第2配線12までの領域である、イオン伝導領域の形状により制御可能となる。オフするまでの時間を長くするためには、例えば図23に示す構成が考えられる。従来の素子サイズを持つ時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66の形状を変更した、2種類の時限無効化スイッチ6’および時限無効化スイッチ6’’が示されている。時限無効化スイッチ6’では、時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66の長さを長くしたイオン伝導領域66’を配置することにより銅イオンの拡散に時間が掛かるため、第1配線61’および第2配線62’の間の固体電解質67’の銅組成が銅:硫黄=2:1となるまでの時間を長くできる。一方、時限無効化スイッチ6’’で示されたようにイオン伝導領域66’’を時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66に比べて幅を狭くする手法も有効である。イオン伝導領域66’’の幅が狭くなると、時間経過後も第1配線61’’および第2配線62’’に到達するイオンの総量がイオン伝導領域66の広い時限無効化スイッチ6に比べて相対的に減少するため、第1配線61’’および第2配線62’’の間の固体電解質67’’の銅組成が銅:硫黄=2:1となるまでの時間が長くなるためである。以上の説明の通り、本発明における時限無効化スイッチ1がオフするまで時間の制御は、(i)第1および第2の配線の間の部分から、(ii)イオン供給部に至るまでの領域(イオン伝導領域)の形状により調整することができる。本発明に係るIDタグは、このようにオフするまで時間を調整したスイッチを複数備える構成としてもよい。
【0109】
実施例2
さらに、種々の固体電解質膜の異なる特性を用いると、時限無効化スイッチに付加価値を持たせることができる。
【0110】
一般的に、物質の拡散現象はある活性化エネルギーを持って起こる。この活性化エネルギーは、どの物質がどの拡散媒体中を拡散するかによって、大幅に変化する。活性化エネルギーをEaと定義すると、拡散定数Dは、
D=D0exp(−Ea/kT)
で表される。D0は係数、kはボルツマン定数、Tは温度である。この式より明白なのは、拡散現象が温度に対して非常に敏感であることである。本実施例の時限無効化スイッチにおいては、拡散距離Lが重要なパラメータとなるが、
L=(Dt)1/2(tは拡散させる時間)
であるため、活性化エネルギーEaと温度Tが時限無効化スイッチの動作時間を決定するパラメータであることがわかる。
【0111】
図24は、異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の拡散係数D、D’の対数(縦軸72)を温度T(横軸71)の逆数の関数として示したグラフ7である。異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)に起因した異なる傾きを持つ直線73、74が引かれている。図において示された点Xにおいて、すなわち温度Txにおいて二つの拡散係数はD=D’となり一致する。Txより低温側、すなわちグラフのより右側ではDのほうが大きく、Txより高温側、すなわちグラフの寄り左側ではD’のほうが大きくなっていることがわかる。これらの原理に基づいて、温度変化に敏感な時限無効化スイッチを形成することが可能となった。
【0112】
図25は、異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質をイオン伝導領域として有する時限無効化スイッチ8の構成を示す図である。図25には、基板80上に、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82、第1配線81および第2配線82それぞれに隣接する形で異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質膜83、83’、固体電解質膜83と固体電解質膜83’を接続する第3配線88、および固体電解質膜83、83’に隣接する形で共用のイオン供給電極84、が配置された構成からなる、時限無効化スイッチ8が示されている。すなわち、この時限無効化スイッチ8は、
基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜(83,83’)と、
第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体(第1配線81)と、
第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体(第3配線88)と、
第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体(第2配線82)と、
第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部(イオン供給電極84)とを備える。
【0113】
第一および第二の固体電解質膜(83,83’)は、それぞれ異なる材料からなる。第一および第二の導体(第1配線81、第3配線88)と、第二および第三の導体(第3配線88、第2配線82)とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられている。
【0114】
時限無効化スイッチ8は、アンテナおよびICチップを含む回路を備えるIDタグにおいて、回路中に設けられ、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチとして用いられる。上記第一および第三の導体(第1配線81および第2配線82)が、それぞれ上記回路に接続される。
【0115】
時限無効化スイッチ1の形成される基板80は、少なくとも表面が絶縁材料からなる基板が好ましく、例えばプラスチック基板やシリコン酸化膜基板などが好適である。第1配線81、第2配線82および第3配線88には例えば、金、チタン、アルミニウム、タングステンなどの材料で、固体電解質膜83、83’中にイオンとして溶け込みにくい材料が好ましい。第1配線81、第2配線82および第3配線88の厚みは、例えば10nm以上あればよい。第1配線81と第3配線88の間隔および第2配線82および第3配線88の間隔は、例えば200nm以上でよい。固体電解質膜83、83’には例えば、硫化銅、硫化銀といった銅や銀からなるカルコゲナイド材料が好適である。固体電解質膜83、83’の厚みは、例えば20nm以上が好ましい。一方で、イオン供給電極84には固体電解質膜83、83’にイオンとして溶け込む材料が好ましい。
【0116】
イオン供給電極14は固体電解質膜13を構成する材料を構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。固体電解質膜13が金属カルコゲナイドである場合、この金属カルコゲナイドを構成する金属を供給するものであることが好ましい。具体的には、固体電解質膜13が硫化銅の場合、イオン供給電極14は銅を含む金属により構成することが好ましく、固体電解質膜13が硫化銀の場合、イオン供給電極14は銀を含む金属により構成することが好ましい。
【0117】
イオン供給電極84の厚みは、例えば20nm以上あればよい。以上の構成からなる時限無効化スイッチ1は、簡単なリソグラフィ技術により形成可能であり、かつ複雑な回路を必要としないため、RFID上で安価に時限無効化スイッチを製造することが可能となった。
【0118】
図25に示された時限無効化スイッチ8は、通常の使用温度においては、図18に示された時限無効化スイッチ1と同様の動作が得られた。すなわち、イオン供給電極84より発生したイオンがイオン伝導領域86を拡散していった結果、第1配線81と第3配線88の間の電気抵抗が高くなり、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82間がオフ状態になった。一方、通常の使用温度を上回る温度環境を経た本実施例の時限無効化スイッチ8では、イオン供給電極84より発生したイオンがイオン伝導領域86’を、通常のイオン伝導領域86を拡散するより速い速度で拡散した。その結果、第2配線82と第3配線88の間の電気抵抗が高くなり、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82間が通常よりも短い時間でオフ状態になった。
【0119】
この時限無効化スイッチ8を用いることにより、IDタグの温度履歴として、通常使用温度より高温の状態がある時間以上経た場合、通常温度状態でオフするより短い時間でオフすることになる。また、逆に使用することにより、通常より低温の状態がある時間以上経た場合に、通常温度状態でオフするより短い時間でオフするように構成することもできる。さらに本実施例では二つの固体電解質膜を一つの基板上に集積化したが、当然、別々の基板上に作製することもできる。集積化した場合はサイズを小さくできるメリットが有り、別々の基板に作製する場合には歩留まりを上げられると言うメリットがある。また、その接続方法も直列だけで無く、並列にすることもできるし、各々個別に使用することもできる。並列に使用すれば、スイッチ全体がオフする時間は遅い速度で拡散する電解質膜で決定される。
【0120】
また個別に時限スイッチを使用すれば、例えば各々の抵抗値の増加を計測することにより、温度履歴の平均温度と平均経過時間を個別に求めることができる。
【0121】
このように、異なる活性化エネルギーを有する電解質膜を複数用いて時限スイッチを構成することにより、IDタグが経てきた温度履歴に異常がなかったかを検知することもできるようになり、食品などの管理温度履歴を知ることが可能となった。
【0122】
以上、本発明に係るIDタグに用いられる時限無効化スイッチの例について説明した。本発明で明らかにされた時限無効化スイッチの適用箇所はIDタグのみに限らず、その他考えうる領域で時限無効化スイッチとして用いることも可能である。動作原理よりスイッチは確実にオフし、複雑な回路も要しない。オフする時間の制御もイオン伝導領域の形状により容易に行える。また、本発明における時限無効化スイッチは再利用も可能である。よって、本発明における時限無効化スイッチの製造にかかるコストは再利用により非常に小さくなり、需要の大幅な増加が見込まれるIDタグ市場において、有用な素子となる。また、イオン伝導特性の異なる固体電解質を2種類もしくは複数用いることにより、高温履歴モニタリングなど付加価値を持った時限無効化スイッチも形成可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無効化手段を備えるIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IDタグを用いた物流管理システムが注目を集めている。IDタグは、商品情報や商品の流通履歴に関わる情報等を格納するメモリを有し、外部からの信号を受信することによって、随時、メモリにアクセスすることが可能となる。IDタグを用いるシステムによれば、従来にない効率的な管理が可能となる。
【0003】
一方、こうしたシステムでは、製品情報が個人情報と結びつき消費者のプライバシーが侵害される懸念が生じる。例えば,IDタグを組み込んだ商品を消費者が購入した場合、購入後、タグの情報を悪意ある第三者に読み取られ、商品をどのような用途で使っているのか、どんな商品を持ち歩いているのかを追跡されることが考えられる。
【0004】
このようなプライバシーの侵害に対する防衛措置として、IDタグの機能を無効化する機構について開発が進められている。
【0005】
特許文献1には、こうした無効化機構を備えるIDタグが記載されている。同文献に記載されている無効化機構は、ヒューズで構成されており、過電流を流してヒューズを切ることによりIDタグが使用不能になる。
【0006】
特許文献2には、加熱により導電性となる材料を無効化手段として備えるラベルが記載されている。
【特許文献1】特開平8−55205号公報
【特許文献2】特開2001−134732号公報
【発明の開示】
【0007】
しかしながら、従来の無効化機構つきIDタグは、人為的に無効化処理を行うことが必要とされるため、この処理を怠れば、個人情報が安全に保護されなくなることも考えられる。
【0008】
また、上記例の様に無効化処理を行った場合、その時点でIDタグは機能を失い、再利用不能となる。たとえば、消費者がIDタグを組み込んだ商品を購入する場合において、購入時点で無効化処理を行うと、それ以後は、IDタグの便利な機能を利用することができなくなってしまう。現在、IDタグを利用した様々なシステムが開発されつつあり、例えばIDタグ付きの食材を購入し、これらを冷蔵庫に収納した後、IDタグを利用して冷蔵庫内の食材を把握し、食材の在庫量、種類等を管理するシステムなども考案されている。IDタグを購入時点で無効化した場合、このような利便性の高いシステムも実現することが不可能となる。
【0009】
一方、IDタグの機能を有効の状態に維持した場合、IDタグは購入後も使用可能となるが、その反面、他者のアクセスによる個人情報等の漏洩の懸念も生じる。
【0010】
本発明は、こうした事情に鑑みなされたものであり、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグを提供することを目的とする。
【0011】
また本発明の別な目的は、一旦無効化したIDタグを再生し、セキュリティを保持し、プライバシイを秘匿できる状態で、再び利用できるようにしたIDタグを提供することを目的とする。
【0012】
本発明によれば、アンテナおよびICチップを含む回路と、回路を遮断する無効化手段とを備えるIDタグであって、前記無効化手段は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含むことを特徴とするIDタグが提供される。
【0013】
本発明によれば、所定の動作時限後に自動的にIDタグが無効化されるため、無効化処理のし忘れによる個人情報等の漏洩を防止することができる。また、動作時限を適宜に設定することにより、所望の期間だけIDタグの機能を有効に維持することも可能となり、様々な目的のシステムへの展開が可能となる。
【0014】
ここで、動作時限とは、使用時間または使用回数を意味する。すなわち、IDタグの使用開始後、所定の時間または所定の使用回数を経た時点で時限スイッチが作動するように構成されている。本発明における「動作時限」は種々の態様を含む概念であり、たとえば以下のものを含む。
(i)固体電解質スイッチに電源電圧が印加される時間の総和、即ち、RFIDタグの累計電源動作時間(後述の実施の形態2)
(ii)RFIDの使用・不使用、あるいは電源動作に関係しない経過時間(後述の実施の形態3、5)
(iii)電源から金属細線に電流が流れる時間の総和、即ちRFIDタグの累計電源動作時間(後述の実施の形態4)
(iv)金属イオンが拡散する時間であり、RFIDの使用・不使用、あるいは電源動作に関係しない経過時間(後述の実施例1,2)
動作時限の長短は、時限スイッチの構造等を調整することにより設定することができる。
【0015】
本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記時限スイッチを起動させるための起動手段を含んでおり、前記時限スイッチは、該起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断するように構成されたものとすることができる。
【0016】
また、本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、前記所定の動作時限に到達したとき内部が導通状態から非導通状態に切り替わり前記回路を遮断する構成としてもよい。
【0017】
本発明のIDタグとして、たとえば、以下のものが挙げられる。
(i)前記時限スイッチは、前記固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、前記固体電解質膜に接するとともに前記第一の導体と所定の距離を隔てて設けられた第二の導体と、前記固体電解質膜に接するとともに前記第一および第二の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、を備え、前記第一および第二の導体が、それぞれ前記回路に接続された構成。
(ii)前記時限スイッチは、前記回路中に設けられた導体細線と、該導体細線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とを備え、前記起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき、前記導体細線が絶縁体化され前記回路が遮断するようにした構成。
(iii)前記時限スイッチは、基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜と、前記第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体と、前記第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体と、前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、前記第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、を備え、前記第一および第二の固体電解質膜は、それぞれ異なる材料からなり、前記第一および第二の導体と、前記第二および第三の導体とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられおり、前記第一および第三の導体が、それぞれ前記回路に接続された構成。
【0018】
上記(ii)において、酸化剤の収容される酸化剤室をさらに備え、前記起動手段を機能させると、前記酸化剤室と前記気密室とが連通するように構成してもよい。
【0019】
さらに、本発明のIDタグにおいて、前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の金属配線および第二の金属配線と、前記第一および第二の金属配線の間に配置されたギャップ部と、所定の動作時限に到達したとき、前記ギャップ部が導通状態となり前記第一および第二の金属配線の間が短絡し、前記回路が遮断するように構成された構成としてもよい。かかる構成において、前記第一および第二の金属配線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とをさらに備え、この起動手段により前記時限スイッチを起動させる構成としてもよい。
【0020】
本発明のIDタグは、上記時限スイッチを複数備え、任意の時限スイッチを起動できるように構成してもよい。
【0021】
本発明によれば、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグが提供される。
【0022】
また本発明によれば、一旦無効化したIDタグを再生し、セキュリティを保持し、プライバシイを秘匿できる状態で、再び利用できるようにしたIDタグが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0024】
【図1】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図2】図1におけるICチップの内部構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図4】時限スイッチの一例を示す概略構成図である。
【図5】図4に示した固体電解質スイッチの使用状態を示す模式図である。
【図6】固体電解質スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図7】図6に示す固体電解質スイッチの製造方法を説明する図である。
【図8】図6に示す固体電解質スイッチの動作を説明するための図である。
【図9】図6に示す固体電解質スイッチの機能を説明するための図である。
【図10】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図11】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図12】図10の時限スイッチの使用開始後の状態を示す図である。
【図13】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図14】実施の形態に係るIDタグの概略図である。
【図15】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図16】時限スイッチの具体的構造の一例を示す図である。
【図17】ヒューズを併用した無効化スイッチの一例を示す図である。
【図18】実施例に係るRFID時限無効化スイッチの構成を示す平面図である。
【図19】実施例に係るRFID時限無効化スイッチの構動作原理を説明する図である。
【図20】硫化銅膜中の銅組成を制御する手法を説明するための図である。
【図21】実施例に係る時限無効化スイッチの一例を示す模式図である。
【図22】実施例に係る時限無効化スイッチの第1配線群および第2配線群の間の電気抵抗の変化を示す図である。
【図23】イオン伝導領域の形状制御によりオフするまでの時間を長くする構成例を示す図である。
【図24】異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の拡散係数D、D’の対数(縦軸72)を温度T(横軸71)の逆数の関数として示したグラフである。
【図25】異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質をイオン伝導領域として有する時限無効化スイッチの構成例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0026】
第1の実施形態
はじめに、本発明に係る時限スイッチを備えるIDタグの全体構成について説明する。
【0027】
図1は、実施の形態に係るRFIDタグの一例について内部構造を示した図である。このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(無効化機構110)とを備える。無効化手段(無効化機構110)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構110は、基板102上に設けられている。
【0028】
ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行う通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0029】
非接触のリーダライタから電波を放射し、電磁誘導の原理によりコイルアンテナ104に起電力を発生させ、この起電力を用いてコイルアンテナ104に接続されたICチップ200を動作させることで、電波通信により各種データの書き込みおよび読み取りが可能となるように構成されている。なお、上記説明においては、一例としてコイルアンテナを用いて、電力とデータの受け渡しに電磁誘導を用いる例について述べた。しかしながら、このケース以外にも使用周波数の波長に合わせた共振器をアンテナとして用い、電力とデータの受け渡しに電波を用いる場合等、さまざまな方法がある。
【0030】
図2は、ICチップ200の内部構成を示す図である。図中、電源回路206は不図示のコンデンサを内蔵し、このコンデンサはコイルアンテナ104とともに共振回路を形成する。コンデンサにはコイルアンテナ104が特定の周波数の電波(上記共振回路が共振する周波数)を受信したときにその相互誘導作用で生じる電力が充電される。電源回路206は、この電力を整流し安定化してCPU202に供給し、ICチップ200を活性化する。メモリ204はROM(read only memory)、RAM(random-access memory)及びEEPROM(electrically
erasable programmable read only memory)を含む。メモリ204は、CPU202の制御下、受信電波のデータ通信による読出しコマンドに応じて記憶されたデータの読出しを行うとともに、受信電波の書込みコマンドに応じてデータの書込みを行う。
【0031】
以下、さらに詳細に図2に示すICチップ200の動作について説明する。
【0032】
コイルアンテナ104が外部からRF信号を受信すると、電源回路206のコンデンサにはコイルアンテナ104と外部装置のアンテナ(不図示)の相互誘導作用で生じる電力が充電される。この結果、電源回路206は電力を整流し安定化して、CPU202に供給し、ICチップ200を活性化する。次いでICチップ200のRF回路208が、復調に必要な信号のみを取込み、復調回路210で所定の情報のデジタル信号を再現させて、CPU202によりこのデジタル信号をメモリ204に書込む。
【0033】
受信した信号に対応してRFIDタグ100から外部にデータを送信する場合は、以下の手順にしたがって処理が行われる。すなわち、コイルアンテナ104が外部からRF信号を受信すると、電源回路206のコンデンサに電力が充電される。電源回路206は、電力をCPU202に供給しICチップ200を活性化して、RF回路208を介して復調回路210で元のデジタル信号を再現させる。CPU202はこの信号に基づいてメモリ204に記憶されていた所定の情報を送信する。この情報は、2値化されたデータ信号をICチップ200の変調回路212で変調し、RF回路208で増幅してコイルアンテナ104から外部へ送信される。
【0034】
無効化機構110は、図2に示したようにコイルアンテナ104と電源回路206との間に配置される。無効化機構110は、所定の起動手段により作動し、作動後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。時限スイッチは、あらかじめ設定された使用時間または使用回数に到達したとき、RFIDタグ100を無効化し、データの読み出しおよび書込を禁止する処理を実行する。無効化機構110は、こうした時限スイッチによる時限無効化機能を有する。無効化処理が実行されると、コイルアンテナ104の受信信号が電源回路206に到達することが禁止され、RFIDタグ100は動作不能となる。
【0035】
背景技術の項で述べたように、従来の無効化機構は、ヒューズを作動させたり加熱したりする等、人間が所定の操作を行うことにより無効化処理を実行していた。これに対し、本実施形態における無効化機構110は、人手を介することなく自動的に無効化することとなるため、無効化処理のし忘れを防止することができる。
【0036】
なお、無効化機構110の設置箇所はこれに限られず、種々の態様を採用することができる。RFIDタグの受送信を禁止するようにしてもよいし、受信のみ、または送信のみを禁止するようにしてもよい。たとえば図3に示すようにコイルアンテナ104と変調回路212との間に設けてもよい。この場合、無効化処理が実行されると、変調回路212からコイルアンテナ104への信号の送出が禁止される。この結果、信号の受信は可能であるがRFIDタグ100から外部への信号の送信は不能となる。
【0037】
第2の実施形態
本実施形態では、無効化機構110に含まれる時限スイッチの一例について説明する。
【0038】
(概略構造)
図4に示す固体電解質スイッチ300は、本発明に係る時限スイッチの一例を示す概略構成図である。このスイッチは、初期状態で固体電解質膜中に形成した伝導チャネルが経時的に消失していく現象を利用するものである。
【0039】
図4(a)は、スイッチオフ状態の固体電解質スイッチ300の様子を模式的に示す図である。図示したように、固体電解質スイッチ300は、対向する一対の電極302と、これらに狭持された固体電解質308とを備える。一方の電極302の内側にはイオン供給層304が設けられている。イオン供給層304から放出された金属イオン306は、固体電解質308中に分散して存在する。平衡状態では電極間に伝導性が無く、オフの状態になっている。
【0040】
図4(b)は、スイッチオン状態の固体電解質スイッチ300の様子を模式的に示す図である。図4(a)の状態の固体電解質スイッチ300に対し、電極302間に所定の電圧を印加すると、固体電解質308中に金属イオンが析出し、伝導チャネル310が形成される。これにより固体電解質スイッチ300はオン状態となる。この析出機構は可逆的であるため、オンした固体電解質スイッチ300の電極間に逆に電圧を印加することにより、析出した金属原子が固体電解質中を移動して伝導チャネル310は細くなり、最終的にはチャネルが消失し固体電解質スイッチ300は非導通状態となる。このスイッチを用いることにより、人為的に無効化処理を行わなくとも自動的に無効化されるIDタグを実現する。
【0041】
図5は、図4に示した固体電解質スイッチ300を内蔵したパッシブ型RFIDの使用状態を示す模式図である。はじめに、固体電解質スイッチ300に所定の電圧を印加することにより金属原子を析出させ伝導チャネルを形成しておく。この固体電解質スイッチ300を、RFIDタグの使用状態において伝導チャネルがオフする方向に電源電圧が印加される方向で電源に接続する。
【0042】
このRFIDが外部から電波を受けて動作した場合、伝導チャネルは徐々に細くなっていく。この際、所望の電圧電流特性となるように適宜選択して固体電解質スイッチ300を設計し作製することにより、特定の使用回数でオフする素子を実現可能である。さらに再生する際には再生端子を通して、使用時に印加するのと逆方向の電圧を印加することで固体電解質膜中に伝導チャネルを再形成し、スイッチをオン状態に戻すことができる。また、再生端子は、短絡端子としての機能も有し、端子間を短絡することにより無効化スイッチの機能を無効にすることもできる。
【0043】
さらに、カウンタやDC−DCコンバータを周辺部に付加することにより、使用回数を特定する精度を高めることができ、また、RFIDが必要とする電源電圧と固体電解質スイッチ300の動作に必要とされる電圧の違いを吸収することができる。またヒューズを併用し、ヒューズを切ったときに無効化スイッチが起動するように構成することもできる。
【0044】
図17は、こうした構成の一例を示す図である。図示した構造において、ヒューズがつながっている場合、電源回路からの電流はヒューズを通して流れる。無効化スイッチを有効にする場合、まず制御回路から信号を出して電流源を起動する。ヒューズを切るために電流源から出力された電流は、主にヒューズを流れ、ヒューズを焼き切る。この電流が直流の場合、抵抗値によりヒューズと電解質スイッチに電流は分配されるため、ヒューズの抵抗値は十分電解質スイッチの抵抗値より小さくしておく。また、電流がパルス状の場合、インダクタンスも関係し、ヒューズのインダクタンスを十分小さくしておく。ヒューズを焼き切ると、電源回路からの電流は電解質スイッチのみを流れ、無効化機構が有効となる。
【0045】
(構成材料)
固体電解質スイッチ300を構成する材料の例について説明する。図6は、固体電解質スイッチ300の具体的構造の一例を示す図である。
【0046】
この固体電解質スイッチ300は、前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の電極(下部配線404)および第二の電極(上部配線414)と、これらの電極に挟まれた固体電解質膜(固体電解質層406)とを備え、前記固体電解質膜(固体電解質層406)に接して金属イオン供給部(下部配線404の上部領域)が設けられている。下部配線404および固体電解質層406の周囲の領域には、層間絶縁膜408が埋設されている。
【0047】
図中、固体電解質層406が、図4の固体電解質308に該当する。固体電解質層406中には、下部配線404から放出されたイオンが導入され、所定の電圧を印加することにより、固体電解質層406中にイオン架橋体からなる伝導チャネルが形成される。この伝導チャネルが形成された状態で、チャネル形成時と逆方向の電界を印加し続けると、チャネル幅が次第に細くなり、所定時間経過後、チャネルが消失し、非導通状態となる。
【0048】
ここで、固体電解質層406の材料としては、イオンと電子の両方が伝導できる複合導電体を使用し、固体電解質層406としては、金属カルコゲナイドが好ましく用いられる。金属カルコゲナイドとしては、
硫化銅、硫化銀のような金属硫化物;
セレン化銅、セレン化銀のような金属セレン化物;
テルル化銅、テルル化銀のような金属テルル化物;
等が例示される。金属の種類は、銅や銀以外でもよく、たとえば、PbTe(テルル化鉛)、SnTe(テルル化スズ)、GeSe(セレン化ゲルマニウム)等を用いることもできる。
【0049】
本実施形態では、硫化銅のような金属硫化物を使用する。下部配線404は固体電解質層406の金属イオンと同種の金属からなり、イオン供給層としての役割を果たす。所定の電圧を印加することにより下部配線404から固体電解質層406に金属イオンが供給され、これと逆方向の電圧を印加すれば固体電解質層406から下部配線404側に金属イオンが供給される。
【0050】
固体電解質層406の厚みは、構成材料および動作時限の長短に応じて適宜な値が設計される。硫化銅を用いた場合、固体電解質層406の通常の膜厚は2nmから200nm程度とするのがよい。
【0051】
下部配線404および上部配線414は、銅やアルミ等の低抵抗導電膜で形成するのがよい。膜厚は20nmから1000nm程度とすればよい。固体電解質層406と配線404の組み合わせは、上記の硫化銅と銅以外に、硫化クロムとクロム、硫化銀と銀、硫化チタンとチタン、硫化タングステンとタングステン、硫化ニッケルとニッケル等を用いることができる。
【0052】
下部配線404の上部領域は、金属イオン供給部として機能する。金属イオン供給部は、金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。
【0053】
上部電極412は、固体電解質層406と化学反応を起こしにくい材料で形成することが好ましい。そのような材料としてたとえばチタンを挙げることができる。チタンのほかには、白金、金等の貴金属や、クロム、タングステン、モリブデン等の周期表第6族の金属や、バナジウム、ニオブ、タンタル、等の金属、あるいはこれらの窒化物やシリサイド化物等を用いることもできる。
【0054】
(製造方法)
図7は、図6に示した固体電解質スイッチ300の製造工程を示す図である。はじめに、図7(a)に示すように、最初にシリコン基板を酸化して基板402を作製し、その上に銅薄膜を形成する。銅薄膜の形成は、たとえば真空蒸着法あるいはスパッタ法を用いることができる。
【0055】
次に、ウエットエッチングあるいはドライエッチング法によって、下部配線404以外の余分な銅薄膜をエッチングして、銅膜を配線形状に加工し、下部配線404を得る。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、層間絶縁膜408を形成する。例えば、層間絶縁膜408として、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜をスパッタ法あるいはCVD法等により形成する。層間絶縁膜408の形成後、ドライエッチングあるいはウエットエッチングにより層間絶縁膜408を選択的に除去し、ビアホール410を形成する。層間絶縁膜408の材料は、信号遅延時間を小さくし寄生容量を低減する観点から、たとえば比誘電率3以下の低誘電率膜を用いてもよい。たとえば、MSQ(メチルシルセスキオキサン)やSiOC膜等を用いることができる。層間絶縁膜408の厚さは、たとえば50〜1000nmとすることができる。
【0057】
次に、ビアホール410に露出した銅を硫化させる。銅の硫化は、硫化物を含んだ水溶液中でアノード分極により行う。硫化ナトリウムを0.05モル/リットル含む水溶液に、銅薄膜を陽極としてアノード分極を行う。加える電圧は0.5V程度であり、硫化量は電流を制御して調整する。銅薄膜の表面層が所望の厚さ分だけ硫化されたところで硫化を停止させる。例えば、銅薄膜の表面層1nmから100nm程度硫化したところで反応を停止させる。硫化されて硫化銅になった部分は固体電解質層406となり、硫化されずに残った銅の部分は下部配線404となる。なお、この硫化中に、銅薄膜の伝導度を測定することによって硫化の程度を把握できるので、これを利用することにより銅薄膜の硫化膜厚を制御して形成することができる。以上のようにして形成した硫化銅からなる固体電解質層406が図4におけるイオン供給層304に相当する。
【0058】
本例では、下部配線404の材料が固体電解質を構成する金属である銅を用いたのでイオン供給層の作製を省略したが、配線とは別に、金属層や金属硫化物層を成膜することでイオン供給層を形成してもよい。
【0059】
なお、固体電解質層406の厚みは、複合導電体である硫化銅において、おおよそ2nmから200nm程度であればよい。下部配線404に銅を用いた場合の膜厚はおおよそ20nmから300nmであればよい。
【0060】
下部配線404が銅以外の材料により構成される場合、イオン供給層を設けることが好ましい。イオン供給層は、対向する一対の電極のうち一方の電極の内側に配置される。イオン供給層は、銅を材料として、膜厚はおおよそ2nmから50nm程度あればよい。また、上部配線層上部配線414の膜厚は、おおよそ20nm〜300nm程度の銅を用いてもよい。
【0061】
次に、図7(c)に示すように、上部電極412をチタンにより形成する。本例では、チタンを真空蒸着法によって堆積した。上部電極412の厚さは、5nm〜30nmとする。
【0062】
最後に、図6に示すように、上部配線となる銅を、層間絶縁膜408の上にスパッタ法等によって積層する。次に上部配線の領域以外が開口されたレジストマスクを用いてドライエッチング法により、上部配線414を形成する。本例においては、上部配線414の膜厚は、おおよそ20nmから300nm程度の銅を用いる。
【0063】
下部配線404および上部配線414は、上記の銅以外に、従来用いられる配線材料でもよく、例えばアルミニウム、金などを用いることができる。
【0064】
以上のようにして、本発明の固体電解質スイッチング素子を製造できるが、固体電解質層406としては、複合導電体の硫化銅が適している。硫化銅は220℃において、硫化第二銅から安定な硫化第一銅に変化する。硫化第一銅の融点は1130℃であり、熱安定性がよい。300℃で1時間加熱しても固体電解質スイッチの特性変化がないことが確かめられている。
【0065】
(電気特性)
図8は、図4〜図7で説明した固体電解質スイッチ300の電気特性を説明するための図である。固体電解質スイッチ300の両端に印加する電圧を0.2V→0V→−0.18V→−0.23V→0V→0.2Vと変化させたとき、図中、A→B→C→Dをたどるプロファイルを示す。A→B間では、固体電解質スイッチ300は図4(a)の状態に対応しており、電極間には電流がほとんど流れない。Bでは、図4(b)で説明した伝導チャネル310が形成され始める。BからCへマイナス方向に電圧を増大させていくと、チャネルの幅が太くなり、電流が顕著に増大する。C→D間では、形成されたチャネルに電流が流れ、印加電圧に比例して電流が流れる。D−A間では形成されたチャネルが細くなっていくため、電流量が急激に減少する。
【0066】
このように加える電圧の大きさや極性を変化させることにより、固体電解質スイッチ300の両端間のコンダクタンスが大きく変動する。
【0067】
(時限無効化機能)
固体電解質スイッチ300に対して、図8の点Cに示す電圧を印加すると、図4(b)に示したように伝導チャネルが形成される。この状態で電源から切り離すと、伝導チャネルはそのまま維持される。その状態で図8の点Cと逆方向の電圧を印加しRFIDタグ100を使用すると、伝導チャネルの幅が次第に細くなり、所定の時間が経過したとき、あるいは所定の回数を使用したとき、伝導チャネルが消失する。図9は、使用時間とともに固体電解質スイッチ300内部の抵抗が変化する様子を示す図である。所定の時間tに到達するまでは、抵抗値はほぼ一定であるが、時刻tを過ぎると、段階的に抵抗が上昇し、t’に到達したとき、抵抗は急激に増大し、固体電解質スイッチ300に電流が流れない状態となる。t’は、固体電解質スイッチ300内部の構成、すなわち、固体電解質層410の材料や厚み、イオン濃度などに依存する。これらを調整することにより、所望の使用時間に到達すると非導通状態となり、RFIDタグを無効化する機能を持つ素子が得られる。
【0068】
本実施形態によれば、人為的に無効化処理をしなくとも自動的に無効化され、内部の秘密情報が保護されるIDタグを実現することができる。
【0069】
第3の実施の形態
本実施形態は、酸化により絶縁体化する金属や半導体の金属細線を時限無効化スイッチに適用した例を示す。図10は、本実施形態にかかるRFIDタグの概略図である。
【0070】
このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(時限スイッチ112)とを備える。無効化手段(時限スイッチ112)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構110は、基板102上に設けられている。
【0071】
ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行う通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0072】
時限スイッチ112は、金属細線を時限スイッチとして用いている。金属細線は、時間の経過とともに酸化が進行し、所定の時刻に到達すると、金属細線全体が絶縁体となり非導通状態となる。非導通状態になるまでの所用時間は、金属細線の材質、太さおよび長さなどにより決定される。
【0073】
図11は、図10における時限スイッチ112の具体的構造の一例である。図示した構造は、幅狭部502(金属細線)および幅広部504からなる金属線501と、その上に積層した保護膜506およびシール材508からなる。
【0074】
幅狭部502およびこれに隣接する幅広部504の一部の領域の上部において保護膜506が開口しており、開口部分はシール材508により封止されている。金属線501、保護膜506およびシール材508により形成された空間内には、不活性ガスが充填されている。この時限スイッチ112が設けられたRFIDタグの使用開始時にシール材508を剥離し、幅狭部502の表面を大気に露出する(図12)。すると、幅狭部502が大気中の酸素により酸化され、酸化の進行につれ、幅狭部502内の伝導パスが次第に狭まっていく。伝導パスの断面積は所定の時刻が到達したときに急激に狭くなり、非導通状態となる。このとき、図10においてコイルアンテナ104からICチップ200への信号の送出が禁止され、RFIDタグ100の機能が無効化する。
【0075】
幅狭部502(金属細線)の配線幅は、たとえば0.5nm〜1μmとすることができ、好ましくは1〜500nmとすることができる。こうすることにより、酸化により時限的に絶縁化するスイッチを好適に実現できる。幅狭部502(金属細線)の形成方法は、使用する金属材料に応じて適宜選択される。たとえば銅を用いる場合、ドライエッチングあるいはシリコン半導体プロセスで汎用されているダマシンプロセスを用いて形成することができる。アルミニウムやその合金を用いる場合、ドライエッチング等のプロセスにより形成することができる。
【0076】
時限スイッチ112は、太さの異なる複数の金属細線を備える構成とすることもできる。図13は、このような複数の金属細線を備える時限スイッチ112の模式図である。この時限スイッチ112はそれぞれ太さの異なる金属細線(幅狭部502a、幅狭部502bおよび幅狭部503a)を備えている。各金属細線には、それぞれ別々のシール材により封止され、いずれかの封止材を除去することにより、金属細線の酸化を開始させ時限無効化機能が開始される。このような構成とすれば、利用者の希望により無効化するまでの時間を調整することが可能となる。これにより、一つのRFIDタグで多様な用途に適合するようにすることができる。
【0077】
第4の実施の形態
本実施形態では、エレクトロマイグレーションを起こしやすい2本の金属細線により狭ギャップを形成し、これを時限スイッチとして用いる例について説明する。
【0078】
図14は、本実施形態にかかるRFIDタグの概略図である。このRFIDタグ100は、アンテナ(コイルアンテナ104)およびICチップ200を含む回路と、この回路を遮断する無効化手段(無効化機構114)とを備える。無効化手段(無効化機構114)は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含んでいる。コイルアンテナ104、ICチップ200および無効化機構114は、基板102上に設けられている。ICチップ200は、外部リーダライタと各種データの送受信を行なう通信回路と、この各種データを格納するメモリとが内蔵された薄型のチップである。コイルアンテナ104は、紙やポリイミドからなるインレット基板上に導電性ペーストでパターン印刷したものやエッチングにより形成したものを用いることができる。
【0079】
無効化機構114は、2本の金属細線により形成される狭ギャップを時限スイッチとして用いている。所定の動作時限に到達すると、ギャップ部分が導通状態となることでIDタグが無効化する。
【0080】
図15は、図14における無効化機構114の具体的構造の一例である。図中、無効化機構114は、基板602上に第1配線604、第2配線606およびこれらに挟まれたギャップ608を備えた構造を有する。第1配線604および第2配線606の左端は、図14に示したように、コイルアンテナ104に接続されている。一方、第1配線604および第2配線606の右端は、図14に示したように、ICチップ200に接続されている。ICチップ200が外部から信号を受信すると、図15において、第1配線604および第2配線606には、図中左から右側へ所定の電流が流れる。第1配線604および第2配線606はエレクトロマイグレーションを起こしやすい金属材料により構成されているため、上記電流が流れ続けると、第1配線604および600からギャップ608へ構成金属がマイグレートし、ギャップ608は次第に導電性を帯びていく。IDタグの使用回数が所定の回数に到達すると、ギャップ608が導通状態となり、第1配線604および第2配線606間が短絡する。このとき、RFIDタグの機能が無効化される。
【0081】
第1配線604および第2配線606は、エレクトロマイグレーションを起こしやすい同一金属材料により構成することが好ましい。例えば、銀やアルミニウムなどの金属材料が提示される。基板602およびギャップ608は絶縁材料により構成される。例えば、単結晶シリコン、ガラスなどが好ましく用いられる。第1配線604と第2配線606との間の距離は、マイグレートした金属材料により電流パスが形成される程度の大きさとする。例えば、1nm以上100nm以下とする。並行方向の配線間距離は、例えば100nm以上100μm以下とすればよい。この方法によると典型的な動作時限は1ヶ月ないし10年である。この時限は配線の材質、ギャップの設計寸法、材質、雰囲気ガスの種類などにより調整が可能である。
【0082】
第5の実施の形態
金属細線を用いた時限スイッチでは、上記実施形態のように大気に曝して非導通状態とする機構の他、一定空間内に酸化剤を設置し、金属細線を積極的に酸化させる機構を用いることもできる。本実施形態は、こうした酸化剤による金属細線の酸化により非導通状態とするものである。
【0083】
図16は、酸化剤を用いた、時限スイッチを含む無効化機構の具体的構造の一例である。基板710の表面に凹部が形成され、この凹部を覆うようにシール材708が設けられている。シール材708は、凹部内の所定箇所において基板710と熱融着され封止部704を形成している。シール材708および基板710により形成される第一の室712および第二の室714には、それぞれ無効化スイッチ702および酸化剤706が設けられている。第一の室712内の空間には、窒素やアルゴン等の不活性ガスが充填されている。無効化スイッチ702は、第3の実施の形態で説明した金属細線を用いている。
【0084】
酸化剤706としては、固体酸化剤が好ましく用いられ、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウム等の無機過酸化物や、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウム等の過塩素酸塩類等を用いることができる。
【0085】
図示した構造は、IDタグの使用前の状態を示すものであり、使用開始時に、封止部704を基板710から切り離すことにより、時限スイッチが作動する。使用前の状態において、シール材708の第二の室714側には、凸部718が設けられており、この部分を押圧することにより封止部704が破断するようになっている。封止部704が基板710から切り離されると、第一の室712および第二の室714が一体化し、無効化スイッチ702が酸化剤706由来の酸化性ガス(ここでは酸素)に曝される。これにより、金属細線の酸化が進行し所定時間経過後、非導通状態となりIDタグが無効化する。
【0086】
本実施形態によれば、使用開始時を任意に設定することができるので、様々な用途に適合するIDタグを実現することができる。また、706の種類や量および第一の室712および第二の室714からなる空間の容積を適宜調整することにより、無効化するまでの時間を正確に調整することが可能となる。
【0087】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0088】
たとえば、カウンタやDC−DCコンバータを周辺部に付加することにより、使用回数を特定する精度を高めたり、RFIDが必要とする電源電圧と固体電解質スイッチ300の動作に必要とされる電圧の違いを吸収したりすることができる。またヒューズを併用し、ヒューズを切ったときに無効化スイッチが起動するように構成することもできる。
【0089】
また、金属細線を用いる実施形態において、金属細線の表面に、適宜酸化防止剤を付着させる処理を施してもよい。こうすることにより、金属細線の酸化を抑制し、IDタグの使用可能期間を長期化することができる。また、処理量を調整することで使用可能期間を精度良く制御することも可能となる。酸化防止剤は金属細線の材料によって適宜選択されるが、たとえば銅を用いた場合、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体等が好適に用いられる。
【0090】
また、上記各実施形態において、時限スイッチを複数備える構成としてもよい。この時限スイッチは、それぞれ動作時限が異なるようにしてもよく、さらに、起動手段により任意の時限スイッチを起動できる構成とすることもできる。
また、上記各実施形態において、時限スイッチの両端に一対の短絡端子を設けてもよい。前述の図5における「再生端子」は、このような短絡端子の例である。図5の再生端子は短絡端子としての機能も有し、端子間を短絡することにより無効化スイッチの機能を無効にすることもできる。
【0091】
[実施例]
実施例1
RFID時限無効化スイッチに関する第1の実施例を示す。図18は、本実施例のRFID時限無効化スイッチ1の構成を示す平面図である。このRFID時限無効化スイッチ1は、基板10上に、RFID時限無効化スイッチの両端子となる第1配線11および第2配線12、第1配線11および第2配線12の間に配置された固体電解質膜13、および固体電解質膜13に隣接する形でイオン供給電極14、が配置された構成からなる。
【0092】
(各部の構成)
以下、RFID時限無効化スイッチ1を構成する各部について詳細に説明する。
【0093】
RFID時限無効化スイッチ1の形成される基板10は、少なくとも表面が絶縁性材料からなる基板とすることが好ましい。例えばプラスチック基板や、シリコン酸化膜基板のような絶縁膜を皮膜したシリコン基板などが好適である。
【0094】
第1配線11および第2配線12は、固体電解質膜13中にイオンとして溶け込みにくい材料、例えば、金、チタン、アルミニウム、タングステンなどの材料で構成されていることが好ましい。第1配線11および第2配線12の厚みは、本実施例においては100nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されない。但し、膜厚は配線抵抗の低い、段切れ等のない良好な電極を作製できる膜厚として10nm以上の膜厚を確保することが望ましい。
【0095】
第1配線11および第2配線12の間隔は、本実施例においては200ミクロンとしたが、利用可能な間隔はこれに限定されない。但し、コスト面から、フォトリソグラフィー技術を用いて作製可能な間隔として200nm以上の間隔が望ましい。
【0096】
固体電解質膜13を構成する材料としては、少なくとも複数の元素からなる固体電解質が望ましい。あるいは固体電解質膜13が固体状態のまま、イオン供給電極14の構成元素がイオンとして溶け込むことができ、溶け込んだ状態で固体電解質として作用する材料であることが望ましい。さらに、固体電解質膜13の材料中を少なくとも一つの元素がイオンとなって移動でき、その結果として材料の構成元素の組成比を変化できて、且つ組成比の変化に従って材料の導電率が変化する材料を使用できる。例えば、金属イオンの移動を容易に生じる、硫化銅、硫化銀といった銅や銀からなるカルコゲナイド材料やそれらの混合物を用いることができる。
【0097】
固体電解質膜13の厚みは、本実施例においては40nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されず、導通時と非導通時の抵抗値が設計値を満足するように選ぶことができる。但し、表面酸化などの影響で固体電解質材料が劣化することなく、バルク同様の固体電解質の性質を膜に付与するのに十分な膜厚として20nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0098】
イオン供給電極14は、固体電解質膜13にイオンとして溶け込む材料で構成することが好ましい。イオン供給電極14の材料としては固体電解質膜13の構成元素と同じ金属元素からなる金属単体であっても良いし、あるいはその金属元素を含む合金であっても良い。イオン供給電極14は固体電解質膜13を構成する材料を構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。固体電解質膜13が金属カルコゲナイドである場合、この金属カルコゲナイドを構成する金属を供給するものであることが好ましい。具体的には、固体電解質膜13が硫化銅の場合、イオン供給電極14は銅を含む金属により構成することが好ましい。固体電解質膜13が硫化銀の場合、イオン供給電極14は銀を含む金属により構成することが好ましい。
【0099】
イオン供給電極14の厚みは、本実施例においては50nmとしたが、利用可能な膜厚はこれに限定されない。但し、イオンを供給するのに十分な膜厚として20nm以上の膜厚であることが望ましい。
【0100】
以上の構成からなる時限無効化スイッチ1は、簡単なリソグラフィ技術により形成可能であり、かつ複雑な回路を必要としないため、IDタグ上で安価に時限無効化スイッチを製造することが可能である。
【0101】
(動作原理)
図19は、上述の時限無効化スイッチ1の動作原理を説明する図である。出荷状態の時限無効化スイッチ4と時間経過後のRFID時限無効化スイッチ4’が比較されている。時限無効化スイッチ1の基本動作原理は、固体電解質膜13である硫化銅中の銅イオンの拡散現象と、銅組成変化に伴った電気抵抗率変化に基づいている。ストイキオメトリックな硫化銅における銅組成は銅:硫黄=2:1であることが知られているが、通常知られる成膜方法で硫化銅単膜を成膜すると、銅の欠損が多数形成され、銅:硫黄=2−x:1となる。ここでのxは例えば0.02から0.2程度の大きさである。硫化銅はp型の電気伝導を示す半導体であるため、銅の欠損はアクセプタとして働き、電流を運ぶホールを供給する。そのため、硫化銅の電気抵抗率は銅欠損増加とともに減少する。すなわち、成膜直後、硫化銅単膜の電気抵抗は低い。よって、第1配線41および第2配線42の間の電気抵抗は低く、出荷状態の時限無効化スイッチ4は低抵抗な導通状態にある。一方、銅欠損を有する硫化銅43に銅電極44を接触させると、銅電極44からイオン化した銅イオン45が、銅:硫黄=2:1となるまで硫化銅43中に拡散していく。これは、硫化銅と銅が接した系が平衡状態に向かっていく化学反応である。硫化銅と銅が接した系の最終的な平衡状態は銅:硫黄=2:1の硫化銅43’である。銅の欠損が多数形成された状態から平衡状態に向って、時間経過とともに銅の拡散が進むと、アクセプタとして働く銅欠損が減り、電流を運ぶホールは少なくなるため電気抵抗は高くなる。従って、時間経過後には第1配線41’および第2配線42’の間の電気抵抗は高くなり、本発明におけるRFID時限無効化スイッチ4’は高抵抗な非導通状態になる。
【0102】
以上の動作原理説明から理解されるとおり、本発明における時限無効化スイッチ1において、各電極に適切な電圧を与えることにより、硫化銅膜13中の銅組成を制御することが可能になる。図20は、その手法を説明する図面である。使用後、すなわち非導通状態にある時限無効化スイッチ5と電圧を印加してリセットした後のRFID時限無効化スイッチ5’が比較されている。例えば、イオン供給電極54を接地し、第1配線51および第2配線52をある正の同電位に固定すると、銅:硫黄=2:1の組成比を有する硫化銅膜53中の銅イオン55はイオン供給電極54に向かって拡散し、イオン供給電極54に戻っていく。リセット動作後の状態では、硫化銅膜53’中の銅組成が銅:硫黄=2−x:1に戻っていて、硫化銅膜53’の電気抵抗は再び低くなる。この現象を用いると、硫化銅膜53を初期状態(銅組成が銅:硫黄=2−x:1)に戻せることができ、本発明における時限無効化スイッチ1をリセットして再利用または初期化することができるようになる。
【0103】
(実験例)
図21は本実施例に係る時限無効化スイッチ1の動作を示すために、シリコン酸化膜基板20上に作製したスイッチ構造の模式図である。第1配線群21および第2配線群22はチタンからなり、第1配線群21および第2配線群22の間隔は0.2mmである。固体電解質膜23には硫化銅、イオン供給電極24には銅を用いた。第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離dは0.3mmから6.4mmまで変化させた。
【0104】
図22は、イオン供給電極24が形成されてから、時間経過とともに変化する第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗を示したグラフである。横軸31は第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離d、縦軸32は第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗を示している。図中右側に示す数値は経過時間を示す。たとえば、「817h00m」とあるのは、817時間0分を意味する。
【0105】
図22の結果から、距離dのいずれの点においても、第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗が時間とともに増加していることがわかる。また、距離dが大きいほど電気抵抗が大きくなるまでに要する時間が増大することがわかる。具体的には、d=6.4ミリメートルの点において、初期状態では300オーム程度であった抵抗は、360時間経過後に1メガオーム程度まで上昇した。すなわち、初期状態では導通状態であった第1配線群21および第2配線群22の間の電気抵抗が360時間(=15日)経過後に非導通状態に遷移したことになる。即ち一定時間経過後に導通状態から非導通状態に遷移する時限スイッチの動作を示した。
【0106】
本時限スイッチを用いることにより、下記のようなIDタグを構成できる。たとえば、IDタグにおける電源回路の配線中に挿入するように、時限スイッチの第1配線群21および第2配線群22を配置すればよい。前述の実施の形態で述べたIDタグにおいて、図1に示したIDタグの無効化機構110、図10に示したIDタグの時限スイッチ112に、本実施例の時限スイッチを適用することができる。
【0107】
本実施例の時限スイッチは、初期状態ではスイッチがオン状態となり配線を導通し当該タグが使用可能となる。一定時間経過すると配線が非導通状態に遷移し、自動的に電源供給が断たれて当該タグを使用不可能、即ち無効化される。また、電源回路の配線間をショートするように第1配線群21および第2配線群22を配置した場合は、初期状態では電源がショートして使用できず、一定時間経過後第1配線群21および第2配線群22の間が非導通状態に遷移することによってはじめて使用可能になるIDタグも構成できる。さらに、このような導通から非導通に遷移する時間は、第1配線群21および第2配線群22とイオン供給電極24の距離dを変化することにより制御可能であることは図22の結果より明らかである。
【0108】
(オフするまでの時間の制御)
時限無効化スイッチ1は、イオン供給電極14から第1配線11および第2配線12に向かうイオンの拡散により動作する。従って、スイッチがオフするまでの時間は、時限無効化スイッチ1における固体電解質13中のイオン供給電極14から第1配線11および第2配線12までの領域である、イオン伝導領域の形状により制御可能となる。オフするまでの時間を長くするためには、例えば図23に示す構成が考えられる。従来の素子サイズを持つ時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66の形状を変更した、2種類の時限無効化スイッチ6’および時限無効化スイッチ6’’が示されている。時限無効化スイッチ6’では、時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66の長さを長くしたイオン伝導領域66’を配置することにより銅イオンの拡散に時間が掛かるため、第1配線61’および第2配線62’の間の固体電解質67’の銅組成が銅:硫黄=2:1となるまでの時間を長くできる。一方、時限無効化スイッチ6’’で示されたようにイオン伝導領域66’’を時限無効化スイッチ6におけるイオン伝導領域66に比べて幅を狭くする手法も有効である。イオン伝導領域66’’の幅が狭くなると、時間経過後も第1配線61’’および第2配線62’’に到達するイオンの総量がイオン伝導領域66の広い時限無効化スイッチ6に比べて相対的に減少するため、第1配線61’’および第2配線62’’の間の固体電解質67’’の銅組成が銅:硫黄=2:1となるまでの時間が長くなるためである。以上の説明の通り、本発明における時限無効化スイッチ1がオフするまで時間の制御は、(i)第1および第2の配線の間の部分から、(ii)イオン供給部に至るまでの領域(イオン伝導領域)の形状により調整することができる。本発明に係るIDタグは、このようにオフするまで時間を調整したスイッチを複数備える構成としてもよい。
【0109】
実施例2
さらに、種々の固体電解質膜の異なる特性を用いると、時限無効化スイッチに付加価値を持たせることができる。
【0110】
一般的に、物質の拡散現象はある活性化エネルギーを持って起こる。この活性化エネルギーは、どの物質がどの拡散媒体中を拡散するかによって、大幅に変化する。活性化エネルギーをEaと定義すると、拡散定数Dは、
D=D0exp(−Ea/kT)
で表される。D0は係数、kはボルツマン定数、Tは温度である。この式より明白なのは、拡散現象が温度に対して非常に敏感であることである。本実施例の時限無効化スイッチにおいては、拡散距離Lが重要なパラメータとなるが、
L=(Dt)1/2(tは拡散させる時間)
であるため、活性化エネルギーEaと温度Tが時限無効化スイッチの動作時間を決定するパラメータであることがわかる。
【0111】
図24は、異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の拡散係数D、D’の対数(縦軸72)を温度T(横軸71)の逆数の関数として示したグラフ7である。異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)に起因した異なる傾きを持つ直線73、74が引かれている。図において示された点Xにおいて、すなわち温度Txにおいて二つの拡散係数はD=D’となり一致する。Txより低温側、すなわちグラフのより右側ではDのほうが大きく、Txより高温側、すなわちグラフの寄り左側ではD’のほうが大きくなっていることがわかる。これらの原理に基づいて、温度変化に敏感な時限無効化スイッチを形成することが可能となった。
【0112】
図25は、異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質をイオン伝導領域として有する時限無効化スイッチ8の構成を示す図である。図25には、基板80上に、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82、第1配線81および第2配線82それぞれに隣接する形で異なる活性化エネルギーEa、Ea’(Ea<Ea’)を持つ2種類の固体電解質膜83、83’、固体電解質膜83と固体電解質膜83’を接続する第3配線88、および固体電解質膜83、83’に隣接する形で共用のイオン供給電極84、が配置された構成からなる、時限無効化スイッチ8が示されている。すなわち、この時限無効化スイッチ8は、
基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜(83,83’)と、
第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体(第1配線81)と、
第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体(第3配線88)と、
第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体(第2配線82)と、
第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部(イオン供給電極84)とを備える。
【0113】
第一および第二の固体電解質膜(83,83’)は、それぞれ異なる材料からなる。第一および第二の導体(第1配線81、第3配線88)と、第二および第三の導体(第3配線88、第2配線82)とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられている。
【0114】
時限無効化スイッチ8は、アンテナおよびICチップを含む回路を備えるIDタグにおいて、回路中に設けられ、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチとして用いられる。上記第一および第三の導体(第1配線81および第2配線82)が、それぞれ上記回路に接続される。
【0115】
時限無効化スイッチ1の形成される基板80は、少なくとも表面が絶縁材料からなる基板が好ましく、例えばプラスチック基板やシリコン酸化膜基板などが好適である。第1配線81、第2配線82および第3配線88には例えば、金、チタン、アルミニウム、タングステンなどの材料で、固体電解質膜83、83’中にイオンとして溶け込みにくい材料が好ましい。第1配線81、第2配線82および第3配線88の厚みは、例えば10nm以上あればよい。第1配線81と第3配線88の間隔および第2配線82および第3配線88の間隔は、例えば200nm以上でよい。固体電解質膜83、83’には例えば、硫化銅、硫化銀といった銅や銀からなるカルコゲナイド材料が好適である。固体電解質膜83、83’の厚みは、例えば20nm以上が好ましい。一方で、イオン供給電極84には固体電解質膜83、83’にイオンとして溶け込む材料が好ましい。
【0116】
イオン供給電極14は固体電解質膜13を構成する材料を構成する金属と同種の金属を供給するものであることが好ましい。固体電解質膜13が金属カルコゲナイドである場合、この金属カルコゲナイドを構成する金属を供給するものであることが好ましい。具体的には、固体電解質膜13が硫化銅の場合、イオン供給電極14は銅を含む金属により構成することが好ましく、固体電解質膜13が硫化銀の場合、イオン供給電極14は銀を含む金属により構成することが好ましい。
【0117】
イオン供給電極84の厚みは、例えば20nm以上あればよい。以上の構成からなる時限無効化スイッチ1は、簡単なリソグラフィ技術により形成可能であり、かつ複雑な回路を必要としないため、RFID上で安価に時限無効化スイッチを製造することが可能となった。
【0118】
図25に示された時限無効化スイッチ8は、通常の使用温度においては、図18に示された時限無効化スイッチ1と同様の動作が得られた。すなわち、イオン供給電極84より発生したイオンがイオン伝導領域86を拡散していった結果、第1配線81と第3配線88の間の電気抵抗が高くなり、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82間がオフ状態になった。一方、通常の使用温度を上回る温度環境を経た本実施例の時限無効化スイッチ8では、イオン供給電極84より発生したイオンがイオン伝導領域86’を、通常のイオン伝導領域86を拡散するより速い速度で拡散した。その結果、第2配線82と第3配線88の間の電気抵抗が高くなり、時限無効化スイッチ8の両端子となる第1配線81および第2配線82間が通常よりも短い時間でオフ状態になった。
【0119】
この時限無効化スイッチ8を用いることにより、IDタグの温度履歴として、通常使用温度より高温の状態がある時間以上経た場合、通常温度状態でオフするより短い時間でオフすることになる。また、逆に使用することにより、通常より低温の状態がある時間以上経た場合に、通常温度状態でオフするより短い時間でオフするように構成することもできる。さらに本実施例では二つの固体電解質膜を一つの基板上に集積化したが、当然、別々の基板上に作製することもできる。集積化した場合はサイズを小さくできるメリットが有り、別々の基板に作製する場合には歩留まりを上げられると言うメリットがある。また、その接続方法も直列だけで無く、並列にすることもできるし、各々個別に使用することもできる。並列に使用すれば、スイッチ全体がオフする時間は遅い速度で拡散する電解質膜で決定される。
【0120】
また個別に時限スイッチを使用すれば、例えば各々の抵抗値の増加を計測することにより、温度履歴の平均温度と平均経過時間を個別に求めることができる。
【0121】
このように、異なる活性化エネルギーを有する電解質膜を複数用いて時限スイッチを構成することにより、IDタグが経てきた温度履歴に異常がなかったかを検知することもできるようになり、食品などの管理温度履歴を知ることが可能となった。
【0122】
以上、本発明に係るIDタグに用いられる時限無効化スイッチの例について説明した。本発明で明らかにされた時限無効化スイッチの適用箇所はIDタグのみに限らず、その他考えうる領域で時限無効化スイッチとして用いることも可能である。動作原理よりスイッチは確実にオフし、複雑な回路も要しない。オフする時間の制御もイオン伝導領域の形状により容易に行える。また、本発明における時限無効化スイッチは再利用も可能である。よって、本発明における時限無効化スイッチの製造にかかるコストは再利用により非常に小さくなり、需要の大幅な増加が見込まれるIDタグ市場において、有用な素子となる。また、イオン伝導特性の異なる固体電解質を2種類もしくは複数用いることにより、高温履歴モニタリングなど付加価値を持った時限無効化スイッチも形成可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナおよびICチップを含む回路と、回路を遮断する無効化手段とを備えるIDタグであって、
前記無効化手段は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含むことを特徴とするIDタグ。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記時限スイッチを起動させるための起動手段を含んでおり、
前記時限スイッチは、該起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項3】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、前記所定の動作時限に到達したとき内部が導通状態から非導通状態に切り替わり前記回路を遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項4】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の電極および第二の電極と、
これらの電極に挟まれた固体電解質膜とを備え、
前記固体電解質膜に接して金属イオン供給部が設けられたスイッチング素子であることを特徴とするIDタグ。
【請求項5】
請求の範囲第4項に記載のIDタグにおいて、
前記固体電解質膜は金属カルコゲナイドにより構成されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項6】
請求の範囲第5項に記載のIDタグにおいて、
前記金属イオン供給部は、前記金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項7】
請求の範囲第4項に記載のIDタグにおいて、
前記第一および第二の電極に、前記固体電解質膜中に伝導チャネルを形成するための一対の端子が接続されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項8】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
基材上に設けられた固体電解質膜と、
前記固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、
前記固体電解質膜に接するとともに前記第一の導体と所定の距離を隔てて設けられた第二の導体と、
前記固体電解質膜に接するとともに前記第一および第二の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、
を備え、
前記第一および第二の導体が、それぞれ前記回路に接続されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
初期状態において前記固体電解質膜がp型伝導性を示すとともに、
使用後の状態において、前記金属イオン供給部から金属が供給されることにより前記固体電解質膜が絶縁性となるように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項10】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
前記固体電解質膜は金属カルコゲナイドにより構成されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項11】
請求の範囲第10項に記載のIDタグにおいて、
前記金属イオン供給部は、前記金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項12】
請求の範囲第11項に記載のIDタグにおいて、
前記金属カルコゲナイドは、ストイキオメトリ組成よりも金属を少なく含むものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項13】
請求の範囲第12項に記載のIDタグにおいて、
前記金属カルコゲナイドは、ストイキオメトリ組成よりも金属を少なく含む金属硫化物であることを特徴とするIDタグ。
【請求項14】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜と、
前記第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、
前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体と、
前記第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体と、
前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、前記第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、
を備え、
前記第一および第二の固体電解質膜は、それぞれ異なる材料からなり、
前記第一および第二の導体と、前記第二および第三の導体とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられおり、
前記第一および第三の導体が、それぞれ前記回路に接続されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項15】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記回路中に設けられた導体細線と、該導体細線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とを備え、
前記起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき、前記導体細線が絶縁体化され前記回路が遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項16】
請求の範囲第15項に記載のIDタグにおいて、
酸化剤の収容される酸化剤室をさらに備え、前記起動手段を機能させると、前記酸化剤室と前記気密室とが連通するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項17】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の金属配線および第二の金属配線と、
前記第一および第二の金属配線の間に配置されたギャップ部とを備え、
所定の動作時限に到達したとき、前記ギャップ部が導通状態となり前記第一および第二の金属配線の間が短絡し、前記回路が遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項18】
請求の範囲第2項に記載のIDタグにおいて、動作時限が異なる複数の前記時限スイッチを備え、前記起動手段により任意の時限スイッチを起動できるように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項19】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、前記時限スイッチの両端に一対の短絡端子が設けられたことを特徴とするIDタグ。
【請求項1】
アンテナおよびICチップを含む回路と、回路を遮断する無効化手段とを備えるIDタグであって、
前記無効化手段は、当該IDタグの使用開始後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断する時限スイッチを含むことを特徴とするIDタグ。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記時限スイッチを起動させるための起動手段を含んでおり、
前記時限スイッチは、該起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき前記回路を遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項3】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記回路中に設けられ、前記所定の動作時限に到達したとき内部が導通状態から非導通状態に切り替わり前記回路を遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項4】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の電極および第二の電極と、
これらの電極に挟まれた固体電解質膜とを備え、
前記固体電解質膜に接して金属イオン供給部が設けられたスイッチング素子であることを特徴とするIDタグ。
【請求項5】
請求の範囲第4項に記載のIDタグにおいて、
前記固体電解質膜は金属カルコゲナイドにより構成されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項6】
請求の範囲第5項に記載のIDタグにおいて、
前記金属イオン供給部は、前記金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項7】
請求の範囲第4項に記載のIDタグにおいて、
前記第一および第二の電極に、前記固体電解質膜中に伝導チャネルを形成するための一対の端子が接続されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項8】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
基材上に設けられた固体電解質膜と、
前記固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、
前記固体電解質膜に接するとともに前記第一の導体と所定の距離を隔てて設けられた第二の導体と、
前記固体電解質膜に接するとともに前記第一および第二の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、
を備え、
前記第一および第二の導体が、それぞれ前記回路に接続されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項9】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
初期状態において前記固体電解質膜がp型伝導性を示すとともに、
使用後の状態において、前記金属イオン供給部から金属が供給されることにより前記固体電解質膜が絶縁性となるように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項10】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
前記固体電解質膜は金属カルコゲナイドにより構成されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項11】
請求の範囲第10項に記載のIDタグにおいて、
前記金属イオン供給部は、前記金属カルコゲナイドを構成する金属と同種の金属を供給するものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項12】
請求の範囲第11項に記載のIDタグにおいて、
前記金属カルコゲナイドは、ストイキオメトリ組成よりも金属を少なく含むものであることを特徴とするIDタグ。
【請求項13】
請求の範囲第12項に記載のIDタグにおいて、
前記金属カルコゲナイドは、ストイキオメトリ組成よりも金属を少なく含む金属硫化物であることを特徴とするIDタグ。
【請求項14】
請求の範囲第8項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
基材上に離間して設けられた第一および第二の固体電解質膜と、
前記第一の固体電解質膜に接して設けられた第一の導体と、
前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられた第二の導体と、
前記第二の固体電解質膜に接して設けられた第三の導体と、
前記第一および第二の固体電解質膜の両方に接して設けられ、前記第一、第二および第三の導体と離間して設けられた金属イオン供給部と、
を備え、
前記第一および第二の固体電解質膜は、それぞれ異なる材料からなり、
前記第一および第二の導体と、前記第二および第三の導体とは、それぞれ所定の距離を隔てて設けられおり、
前記第一および第三の導体が、それぞれ前記回路に接続されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項15】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、前記回路中に設けられた導体細線と、該導体細線を収納する気密室と、該気密室の気密を破り室内に大気または酸化性ガスを導入する起動手段とを備え、
前記起動手段により前記時限スイッチを起動させた後、所定の動作時限に到達したとき、前記導体細線が絶縁体化され前記回路が遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項16】
請求の範囲第15項に記載のIDタグにおいて、
酸化剤の収容される酸化剤室をさらに備え、前記起動手段を機能させると、前記酸化剤室と前記気密室とが連通するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項17】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、
前記時限スイッチは、
前記回路中に設けられ、所定の距離を隔てて並行配置された第一の金属配線および第二の金属配線と、
前記第一および第二の金属配線の間に配置されたギャップ部とを備え、
所定の動作時限に到達したとき、前記ギャップ部が導通状態となり前記第一および第二の金属配線の間が短絡し、前記回路が遮断するように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項18】
請求の範囲第2項に記載のIDタグにおいて、動作時限が異なる複数の前記時限スイッチを備え、前記起動手段により任意の時限スイッチを起動できるように構成されたことを特徴とするIDタグ。
【請求項19】
請求の範囲第1項に記載のIDタグにおいて、前記時限スイッチの両端に一対の短絡端子が設けられたことを特徴とするIDタグ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【国際公開番号】WO2005/059817
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516366(P2005−516366)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018924
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/018924
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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