説明

IGF−IIに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体

1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iと結合する単離されたヒトモノクローナル抗体が本明細書において開示される。この抗体は、インスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する。これらの抗体をコードする核酸、これらの核酸を含む発現ベクター、およびこれらの核酸を発現する単離宿主細胞も開示される。この抗体は、サンプル中のヒトIGF-IIを検出するのに使用され得る。これらの抗体を用いる腫瘍の診断方法が本明細書において開示される。腫瘍を有する被検体の処置方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示分野
本願は、抗体、特にインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合するヒト抗体およびそれらの使用の分野に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本願は、2005年8月17日に出願した米国仮出願番号60/709,226および2006年5月8日に出願した米国仮出願番号60/798,817の恩典を主張する。これらの仮出願は両方とも参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
インスリン様成長因子(IGF)系は、インスリン様成長因子IおよびII(IGF-IおよびIGF-II)、インスリン、インスリン受容体(IR)、インスリン様成長因子受容体IおよびII(IGF-IRおよびIGF-IIRならびにIGF-II/M6PR)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP-1から-6)、ならびにIGFBP関連タンパク質(IGFBP-rP)を含む。この系の概略は図1に示される。IGF系は、正常細胞および病原性細胞の両方の成長および機能の調節において重要な役割を果たす。
【0004】
IGFは、インスリンと異なり、体内のほとんど全ての細胞により産生されるが、IGF-IIは主に肝臓で産生される(Oh, Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 13:748-752,2004(非特許文献1))。げっ歯類においては、IGF-Iは主に成体で発現され、IGF-IIは主に出生前に発現される。ヒトにおいては、両方のIGFが全ての生命段階で産生される。IGFの循環レベルの高さは、様々な癌の危険の増加と関連付けられている(Peyrat et al., Eur J Cancer 29A:492-497, 1993(非特許文献2); Chan et al., Science 279:563-566, 1998(非特許文献3); Hankinson et al., Lancet 351:1393-1396, 1998(非特許文献4); Wolk et al., J Natl Cancer Inst 90:911-915, 1998(非特許文献5); Ma et al., J Natl Cancer Inst 91 :620-625,1999(非特許文献6))。
【0005】
IGFBPは6種あり、各々は異なる親和性でIGF-IおよびIGF-IIと結合する。例えば、IGFBP-5および-6は、IGF-Iよりも10倍高い親和性でIGF-IIに結合する。IGFBPは、循環IGFの半減期を増加させ、受容体結合に関するそれらの利用性を制御する。血清における主たるIGFBPであるIGFBP-3は、IGF-Iの細胞分裂促進作用を抑制することが示されており、IGFBP-3のレベルの高さは癌の危険と反比例する(Oh et al., 前出, 2004(非特許文献1))。
【0006】
最近、多くの疫学研究によって、IGF-1の循環レベルの高さが、乳癌、前立腺癌、肺癌、および結腸直腸癌を含む癌の危険の増加と関連することが示された。IGF-1は細胞増殖を刺激しかつアポトーシスを阻害し;これらの作用の組み合わせが腫瘍の成長に大きな影響を与えることが示された(Yu and Rhan, J. Natl. Canc. Inst. 18: 1472-1849, 2000(非特許文献7)において概説されている)。IGF-IRに対して作製された抗体は、癌細胞の増殖を阻害し、腫瘍細胞における受容体の分解を誘導することが示された。しかし、IGF-IIを検出するのに使用できかつ処置方法において使用できる、IGF-IIに結合するヒト抗体に対する要望は依然として存在する。
【0007】
【非特許文献1】Oh, Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 13:748-752,2004
【非特許文献2】Peyrat et al., Eur J Cancer 29A:492-497, 1993
【非特許文献3】Chan et al., Science 279:563-566, 1998
【非特許文献4】Hankinson et al., Lancet 351:1393-1396, 1998
【非特許文献5】Wolk et al., J Natl Cancer Inst 90:911-915, 1998
【非特許文献6】Ma et al., J Natl Cancer Inst 91 :620-625,1999
【非特許文献7】Yu and Rhan, J. Natl. Canc. Inst. 18: 1472-1849, 2000
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
1nM以下の平衡解離定数(Kd)でヒトインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iと結合する単離されたヒトモノクローナル抗体が本明細書において開示される。この抗体は、インスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する。これらの抗体を含む組成物も提供される。
【0009】
様々な態様において、これらの抗体をコードする核酸、これらの核酸を含む発現ベクター、およびこれらの核酸を発現する単離された宿主細胞も開示される。
【0010】
一つの態様において、サンプル中のヒトIGF-IIを検出する方法が開示される。この方法は、1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iと結合する単離されたヒトモノクローナル抗体とサンプルを接触させて免疫複合体を形成させる工程、およびこの免疫複合体を検出する工程を包含する。
【0011】
他の態様において、被検体における腫瘍を検出する方法、または被検体における腫瘍の予後を決定する方法が開示される。この方法は、1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体を使用して被検体における腫瘍の存在を検出する工程を包含する。
【0012】
さらなる態様において、腫瘍を有する被検体を処置する方法が開示される。この方法は、1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合する治療的有効量の単離されたヒトモノクローナル抗体を被検体に投与する工程を包含する。
【0013】
本発明の上記およびその他の特徴ならびに利点は、添付図面を参照して進められる以下の様々な態様の詳細な説明から明らかとなろう。
【0014】
配列表
添付の配列表に列挙される核酸配列およびアミノ酸配列は、37 C.F.R. 1.882の規定に従い、ヌクレオチド塩基については標準文字略記、アミノ酸については三文字コードを用いて示す。各核酸配列の一方の鎖のみを示すが、表示される鎖に対する任意の参照にその相補鎖が含まれることが理解される。
【0015】
SEQ ID NO: 1は、ヒトインスリンA鎖の典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 2は、ヒトインスリンB鎖の典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 3は、IGF-I前駆体の典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 4は、成熟IGF-Iの典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 5は、IGF-II前駆体の典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 6は、成熟IGF-IIの典型的なアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 7は、ヒトモノクローナル抗体クローンM606軽鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 8は、ヒトモノクローナル抗体クローンM610軽鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 9は、ヒトモノクローナル抗体クローンM616軽鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 10は、ヒトモノクローナル抗体クローンM606重鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 11は、ヒトモノクローナル抗体クローンM610重鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 12は、ヒトモノクローナル抗体クローンM616重鎖のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO: 13は、Fab m606軽鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 14は、Fab m606重鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 15は、Fab m610軽鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 16は、Fab m610重鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 17は、Fab m616軽鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO: 18は、Fab m616重鎖の典型的なヌクレオチド配列である。
【0016】
様々な態様の詳細な説明
I. 略記
BSA:ウシ血清アルブミン
CDR:相補性決定領域
dsFv:可変領域のジスルフィド安定化型フラグメント
DMEM:ダルベッコ改変イーグル培地
ELISA:酵素結合イムノソルベント検定
EM:エフェクター分子
ERK:細胞外シグナル反応キナーゼ
FACS:蛍光標識細胞分取
FBS:ウシ胎仔血清
FITC:フルオレセインイソチオシアネート
HEPES:4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸
IGF-I:インスリン様成長因子I
IGF-IR:インスリン様成長因子I受容体
IGF-II:インスリン様成長因子II
IGFBP:インスリン様成長因子結合タンパク質
IGFBP-rP:IGFBP関連タンパク質
IPTG:イソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノシド
HCDR:重鎖相補性決定領域
HAMA:ヒト抗マウス抗体
HAT:ヒポキサンチンアミノプテリンチミジン
IL-6:インターロイキン-6
Ig:免疫グロブリン
IR:インスリン受容体
IRR:インスリン受容体関連受容体
kDa:キロダルトン
LCDR:軽鎖相補性決定領域
MAb:モノクローナル抗体
MAPK:マイトジェン活性化プロテインキナーゼ
MMP:マトリックスメタロプロテイナーゼ
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
scFv:可変領域の単鎖フラグメント
SDR:特異性決定残基
SDS-PAGE:ドデシル(ラウリル)硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動
RIA:放射免疫測定
VH:重鎖可変領域
VL:軽鎖可変領域
【0017】
II. 用語
別途記されない限り、技術用語は従来的な用法に従って使用される。分子生物学における一般的用語の定義については、Oxford University Press出版のBenjamin Lewin, Genes V, 1994 (ISBN 0-19-854287-9); Blackwell Science Ltd.出版のKendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, 1994 (ISBN 0-632-02182-9); およびVCH Publishers, Inc.出版のRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, 1995 (ISBN 1-56081-569-8)に見出され得る。
【0018】
本開示の様々な態様の精査を容易にするため、以下に特定の用語についての説明を提供する。
【0019】
投与:
選択された経路により被検体に組成物を導入すること。例えば、選択された経路が静脈内経路の場合、組成物は、その組成物を被検体の静脈に導入することによって投与される。
【0020】
増幅:
核酸分子(例えばDNAまたはRNA分子)の増幅は、検体中の核酸分子のコピー数を増加させる技術の使用を意味する。増幅の例は、被検体から採取された生物学的サンプルをサンプル中の核酸鋳型とプライマーのハイブリダイゼーションを可能にする条件下で一対のオリゴヌクレオチドプライマーと接触させる、ポリメラーゼ連鎖反応である。プライマーを適当な条件下で伸長し、鋳型から解離させ、次いで再度アニールさせ、伸長し、および解離させることで核酸のコピー数を増幅させる。増幅産物は、標準的な技術を用いる電気泳動、制限エンドヌクレアーゼ切断パターン、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションもしくはライゲーション、および/または核酸配列分析によって特徴付けられ得る。増幅の他の例には、米国特許第5,744,311号に開示される鎖置換増幅法;米国特許第6,033,881号に開示される非転写的定温増幅法;WO 90/01069に開示される修復連鎖反応増幅法(repair chain reaction amplification);EP-A-320 308に開示されるリガーゼ連鎖反応増幅法;米国特許第5,427,930号に開示されるギャップ充填リガーゼ連鎖反応増幅法(gap filling ligase chain reaction amplification);および米国特許第6,025,134号に開示されるNASBA(商標)RNA非転写的増幅法が含まれる。
【0021】
動物:
生きている多細胞・有脊椎生物であり、例えば哺乳動物および鳥類を含むカテゴリーである。哺乳動物という用語には、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方が含まれる。同様に、「被検体」という用語にはヒト被検体および獣医学的被検体の両方が含まれる。
【0022】
抗体:
抗原、例えばインスリン様成長因子II(IGF-II)またはそのフラグメントのエピトープを特異的に認識し結合する、少なくとも軽鎖または重鎖の免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドリガンド。抗体は重鎖および軽鎖から構成され、その各々は重鎖可変(VH)領域および軽鎖可変(VL)領域と呼ばれる可変領域を有する。VH領域およびVL領域は共に、抗体により認識される抗原への結合を担う。
【0023】
この用語は、インタクトな免疫グロブリンならびに当技術分野で周知のそれらの変種および部分、例えばFab'フラグメント、F(ab)'2フラグメント、単鎖Fvタンパク質(「scFv」)、およびジスルフィド安定化型Fvタンパク質(「dsFv」)を包含する。scFvタンパク質は免疫グロブリンの軽鎖可変領域および免疫グロブリンの重鎖可変領域をリンカーによって結合した融合タンパク質であり、dsFvにおいては、鎖の結合を安定化させるために鎖を変異させてジスルフィド結合を導入している。この用語はまた、遺伝子操作された形態、例えばキメラ抗体(例えばヒト化マウス抗体)、異種結合型抗体(heteroconjugate antibodies)(例えば二特異性抗体)を包含する。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995 (Pierce Chemical Co., Rockford, IL); Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York, 1997も参照のこと。
【0024】
典型的には、天然の免疫グロブリンは、ジスルフィド結合によって相互に連結された重(H)鎖および軽(L)鎖を有する。軽鎖には二つのタイプ、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)がある。抗体分子の機能的活性を決定する主要な重鎖には五つのクラス(またはアイソタイプ):IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEがある。
【0025】
各々の重鎖および軽鎖は、定常領域および可変領域を含む(これらの領域は「ドメイン」としても公知である)。重鎖および軽鎖の可変領域は一組で抗原に特異的に結合する。軽鎖および重鎖の可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」とも呼ばれる、三つの超可変領域で分断された「フレームワーク」領域を含む。フレームワーク領域およびCDRの範囲は規定されている(参照により本明細書に組み入れられるKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services, 1991を参照のこと)。Kabatデータベースは現在もオンラインで運営されている。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の中で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわちその構成要素である軽鎖および重鎖の総フレームワーク領域は、三次元空間においてCDRを配置および整列させる働きをする。
【0026】
CDRは主として、抗原のエピトープへの結合を担う。各々の鎖のCDRは典型的には、N末端側から順番に番号を付され、CDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれ、また典型的には特定のCDRが位置する鎖によって識別される。従って、VH CDR3は、それが発見された抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、VL CDR1はそれが発見された抗体の軽鎖の可変ドメイン由来のCDR1である。IGF-IIに結合する抗体は、特有のVH領域配列およびVL領域配列を有する、つまり特有のCDR配列を有する。異なる特異性(すなわち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。CDRは抗体によって異なるが、CDR内の限られた数のアミノ酸位置のみが抗原結合に直接的に関与する。CDR内のこれらの位置は、特異性決定残基(SDR)と呼ばれる。
【0027】
「VH」または「VH」に対する言及は、Fv、scFv、dsFv、またはFabの可変領域を含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域を表す。「VL」または「VL」に対する言及は、Fv、scFv、dsFv、またはFabのそれを含む免疫グロブリン軽鎖の可変領域を表す。
【0028】
「モノクローナル抗体」は、単一のBリンパ球クローンによりまたは単一の抗体の軽鎖および重鎖の遺伝子をトランスフェクトされた細胞により産生される抗体である。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法によって、例えば骨髄腫細胞と免疫脾細胞との融合によりハイブリッド抗体形成細胞を作製することによって生成される。モノクローナル抗体にはヒト化モノクローナル抗体が含まれる。
【0029】
「キメラ抗体」は、ある種、例えばヒト由来のフレームワーク残基および別の種、例えばIGF-IIに特異的に結合するマウス抗体由来の(一般的に抗原結合性を付与する)CDRを有する。
【0030】
「ヒト」抗体(「完全ヒト」抗体とも呼ばれる)は、ヒトフレームワーク領域および全てヒト免疫グロブリン由来のCDRを含む抗体である。一つの例において、フレームワークおよびCDRは、同一起源のヒト重鎖および/または軽鎖アミノ酸配列由来のものである。しかし、あるヒト抗体由来のフレームワークは、異なるヒト抗体由来のCDRを含むよう改造され得る。「ヒト化」免疫グロブリンは、ヒトフレームワーク領域および非ヒト(例えばマウス、ラット、または合成性)免疫グロブリン由来の一つ以上のCDRを含む免疫グロブリンである。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。一つの態様において、ヒト化免疫グロブリンにおけるCDRは全て、ドナー免疫グロブリン由来である。定常領域は必要ないが、それらが存在する場合、それらはヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち少なくとも約85〜90%、例えば95%以上の同一性でなければならない。従って、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分(場合によりCDRを除く)は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖免疫グロブリンおよびヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。ヒト化抗体は、CDRを提供したドナー抗体と同一抗原に結合する。ヒト化免疫グロブリンまたは抗体のアクセプターフレームワークは、ドナーフレームワークから引き継いだアミノ酸による限定的な数の置換を有し得る。ヒト化またはその他のモノクローナル抗体は、抗原結合またはその他の免疫グロブリン機能に実質的に影響を及ぼさないさらなる保存的アミノ酸置換を有し得る。ヒト化免疫グロブリンは、遺伝子操作により構築され得る(例えば、米国特許第5,585,089号を参照のこと)。
【0031】
結合親和性:
抗原、例えばIGF-IIに対する抗体の親和性。一つの態様において、親和性は、Frankel et al., Mol. Immunol., 16:101-106, 1979に記載される改定版スキャッチャード法により算出される。別の態様において、結合親和性は、抗原/抗体解離速度により測定される。さらに別の態様において、高い結合親和性は、競合放射免疫測定により測定される。様々な例において、高い結合親和性は、少なくとも約1×10-8Mである。他の態様において、高い結合親和性は、少なくとも約1.5×10-8M、少なくとも約2.0×10-8M、少なくとも約2.5×10-8M、少なくとも約3.0×10-8M、少なくとも約3.5×10-8M、少なくとも約4.0×10-8M、少なくとも約4.5×10-8M、または少なくとも約5.0×10-8Mである。
【0032】
化学療法剤:
異常な細胞成長により特徴付けられる疾患の処置において治療上の有益性を有する任意の化合物薬剤。このような疾患には、腫瘍、新生物、および癌、ならびに過形成性の成長により特徴付けられる疾患、例えば乾癬が含まれる。一つの態様において、化学療法剤は、リンパ腫、白血病、またはその他の腫瘍の処置に使用する薬剤である。一つの態様において、化学療法剤は放射性化合物である。当業者は使用する化学療法剤を容易に特定することができる(例えば、Slapak and Kufe, Principles of Cancer Therapy, Chapter 86 in Harrison's Principles of Internal Medicine, 14th edition; Perry et al., Chemotherapy, Ch. 17 in Abeloff, Clinical Oncology 2nd ed., (著作権) 2000 Churchill Livingstone, Inc; Baltzer, L., Berkery, R. (eds): Oncology Pocket Guide to Chemotherapy, 2nd ed. St. Louis, Mosby-Year Book, 1995; Fischer, D.S., Knobf, M.F., Durivage, H.J. (eds): The Cancer Chemotherapy Handbook, 4th ed. St. Louis, Mosby-Year Book, 1993を参照のこと)。併用化学療法とは、癌の処置のための一つ以上の薬剤の投与のことである。一つの例は、放射性化合物または化学化合物と組み合わせて使用されるIGF-IIまたはそのフラグメントに結合する抗体の投与である。
【0033】
キメラ抗体:
典型的には異なる種の、二つの異なる抗体由来の配列を含む抗体。最も典型的には、キメラ抗体は、ヒトおよびマウスの抗体ドメイン、一般的にはヒト定常領域およびマウス可変領域、マウスCDR、および/またはマウスSDRを含む。
【0034】
保存的変異体:
「保存的」アミノ酸置換は、IGF-IIに対する抗体の親和性に実質的な影響を及ぼしたり減少させたりしない置換である。例えば、IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は、多くとも約1個、多くとも約2個、多くとも約5個、および多くとも約10個、または多くとも約15個の保存的置換を含み得、かつ元々のIGF-IIポリペプチドに特異的に結合する。保存的変種という用語はまた、その抗体がIGF-IIに特異的に結合する限り、非置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を使用することを含む。非保存的置換とは、IGF-IIに対する活性または結合を減少させる置換である。
【0035】
機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的アミノ酸置換表は当業者に周知である。以下の六つの群は、相互に保存的置換であるとみなされるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0036】
相補性決定領域(CDR):
ネイティブのIg結合部位の天然のFv領域の結合親和性および特異性を規定するひとまとまりのアミノ酸配列。Igの軽鎖および重鎖は各々、三つのCDRを有し、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と呼ばれる。定義上、軽鎖のCDRは、Kabat et al., (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Edition, U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (NIH Publication No.91-3242)により策定された番号付けの規約を用いれば、24位および34位(L-CDR1)、50位および56位(L-CDR2)、89位および97位(L-CDR3)の残基により区切られ;重鎖のCDRは、31位および35b位(H-CDR1)、50位および65位(H-CDR2)、95位および102位(H-CDR3)の残基により区切られる。
【0037】
接触:
直接的物理的な会合状態;固体形態および液体形態の両方を含む。
【0038】
細胞毒性:
生物のそれ以外の細胞に対するのとは対照的な、標的として意図された細胞に対する分子の毒性、例えば免疫毒素。反対に、一つの態様において、「毒性」という用語は、免疫毒素の標的化部分により標的化されることが意図された細胞以外の細胞に対する免疫毒素の毒性を意味し、「動物毒性」という用語は免疫毒素により標的化されることが意図された細胞以外の細胞に対する免疫毒素の毒性による動物に対する免疫毒素の毒性を意味する。
【0039】
縮重変異体:
遺伝子コードに起因して縮重している配列を含む、IGF-IIポリペプチドまたはIGF-IIに結合する抗体をコードするポリヌクレオチド。天然アミノ酸は20種存在し、そのほとんどは一つ以上のコドンにより特定される。従って、これらのヌクレオチド配列によりコードされるIGF-IIポリペプチドまたはIGF-IIに結合する抗体のアミノ酸配列が変化しない限り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0040】
エフェクター分子:
そのキメラ分子が標的とする細胞に対して所望の作用を有することが意図されるキメラ分子の部分。エフェクター分子はまた、エフェクター部分(EM)、治療剤、もしくは診断剤、または類似の用語としても公知である。
【0041】
治療剤には、核酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸もしくは誘導体、糖タンパク質、放射性同位元素、脂質、糖類、または組換えウイルス等の化合物が含まれる。核酸の治療部分および診断部分には、アンチセンス核酸、単鎖または二本鎖DNAとの共有結合性架橋のために誘導体化されたオリゴヌクレオチド、および三本鎖形成性オリゴヌクレオチドが含まれる。あるいは、標的化部分、例えば抗IGF-II抗体に連結される分子は、治療組成物、例えば薬物、核酸(例えばアンチセンス核酸)、またはその他の治療部分を含む被包系、例えばリポソームまたはミセルであり得、これによりこれらは循環系への直接の暴露から防護され得る。抗体に付加されるリポソームを調製する手段は当業者に周知である。例えば、米国特許第4,957,735号;およびConnor et al., Pharm. Ther. 28:341-365, 1985を参照のこと。診断剤または診断部分には、放射性同位元素およびその他の検出可能な標識が含まれる。このような目的に有用な検出可能標識もまた当技術分野で周知であり、放射性同位元素、例えば32P、125I、および131I、フルオロフォア、化学発光剤、ならびに酵素が含まれる。
【0042】
エピトープ:
抗原性決定基。これらは抗原性分子、すなわち特異的な免疫反応を惹起する分子上の特定の化学基またはペプチド配列である。抗体は、ポリペプチド上の特定の抗原性エピトープに特異的に結合する。
【0043】
発現:
核酸からタンパク質への翻訳。タンパク質は発現されて細胞内に留まるか、細胞表面膜の一成分となるか、または細胞外マトリックスもしくは培地に分泌され得る。
【0044】
発現調節配列:
機能的に連結された異種核酸配列の発現を調節する核酸配列。発現調節配列が核酸配列の転写および適当な場合は翻訳を制御および調節する場合、発現調節配列は核酸配列に機能的に連結されているということである。このような発現調節配列は、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の上流の開始コドン(すなわちATG)、mRNAに適当に翻訳させるためにその遺伝子の正しいリーディングフレームを管理するイントロンに対するスプライシングシグナル、および終止コドンを含み得る。「調節配列」という用語は、その存在が発現に影響し得る成分を最低限含むことが意図され、かつその存在が有利な追加の成分、例えばリーダー配列および融合パートナー配列も含み得る。発現調節配列はプロモーターを含み得る。
【0045】
プロモーターは、転写を進めるのに十分な最小配列である。プロモーター依存的な遺伝子発現を細胞型特異的、組織特異的に制御できるようにするか、または外部シグナルもしくは因子により誘導できるようにするプロモーター要素もまた含まれ;このような要素はその遺伝子の5’または3’領域に配置され得る。構成性および誘導性の両方のプロモーターが含まれる(例えば、Bitter et al., Methods in Enzymology 153:516-544, 1987を参照のこと)。例えば、細菌系におけるクローニングの場合、バクテリオファージラムダのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)等の誘導性プロモーターが使用され得る。一つの態様において、哺乳動物細胞系におけるクローニングの場合、哺乳動物細胞ゲノム由来のプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、レトロウイルスの長い末端反復配列;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)が使用され得る。組換えDNAまたは合成技術によって作製されるプロモーターもまた、核酸配列の転写を提供するために使用され得る。
【0046】
フレームワーク領域:
CDR間に介在するアミノ酸配列。軽鎖可変フレームワーク領域および重鎖可変フレームワーク領域が含まれる。フレームワーク領域は、CDRを抗原結合に適した向きに維持する働きがある。
【0047】
HAMA(ヒト抗マウス抗体)反応:
患者に投与されたマウス抗体の可変領域および定常領域に対するヒト被検体における免疫反応。抗体の反復投与は、患者の血清からの抗体のクリアランス率を増加させ得、患者においてアレルギー反応も惹起し得る。
【0048】
宿主細胞:
ベクターを増幅しそのDNAを発現させることのできる細胞。この細胞は原核生物細胞または真核生物細胞であり得る。この用語はまた、対象宿主細胞の任意の子孫を含む。全ての子孫は、複製時に変異が生じる場合があるため、その親細胞と同一でない場合があることが理解されている。しかし、「宿主細胞」という用語が使用される場合、このような子孫も含まれる。
【0049】
免疫反応:
ある刺激に対する免疫系細胞、例えばB細胞、T細胞、または単球の反応。一つの態様において、この反応は特定の抗原に対して特異的である(「抗原特異的反応」)。一つの態様において、免疫反応はT細胞反応、例えばCD4+反応またはCD8+反応である。別の態様において、この反応はB細胞反応であり、特異的な抗体を生成する。
【0050】
免疫複合体:
エフェクター分子の抗体に対する共有結合。エフェクター分子は、検出可能な標識または免疫毒素であり得る。毒素の具体的、非限定的な例には、アブリン、リシン、シュードモナス外毒素(PE、例えばPE35、PE37、PE38、およびPE40)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、もしくはそれらの毒素修飾物、または直接的もしくは間接的に細胞成長を阻害するかもしくは細胞を死滅させる他の毒性薬剤が含まれるがこれらに限定されない。例えば、PEおよびDTは毒性の強い化合物であり、典型的には肝臓毒性によって死を招く。しかし、PEおよびDTは、この毒素の天然の標的化成分(例えばPEのドメインIaおよびDTのB鎖)を除去し、それを異なる標的化部分、例えば抗体で置き換えることによって免疫毒素として使用するための形態に修飾され得る。「キメラ分子」は、標的化部分、例えばリガンドまたは抗体がエフェクター分子と結合(カップリング)されているものである。「結合」または「連結」は、二つのポリペプチドを一続きのポリペプチド分子にすることを意味する。一つの態様において、抗体はエフェクター分子(EM)に接続される。別の態様において、エフェクター分子に接続された抗体はさらに、その体内半減期が増加するよう、脂質または他のタンパク質もしくはペプチド分子に接続される。連結は、化学的手段または組換え手段のいずれかによりなされ得る。一つの態様において、連結は化学的なものであり、抗体部分とエフェクター分子の間の反応が二つの分子の間で共有結合を形成し、一つの分子が形成される。必要に応じてペプチドリンカー(短いペプチド配列)が、抗体とエフェクター分子の間に加えられ得る。免疫複合体は元々は別個の機能を有する二つの分子、例えば抗体およびエフェクター分子から調製されたものなので、それらはときどき「キメラ分子」とも称される。従って本明細書中で使用する場合、「キメラ分子」という用語は、標的化部分、例えばリガンドまたは抗体がエフェクター分子に結合(カップリング)されたものを意味する。
【0051】
免疫原性ペプチド:
対立遺伝子特異的なモチーフまたは他の配列、例えばN末端反復を含むペプチド。それゆえにそのペプチドはMHC分子に結合し、その免疫原性ペプチド由来の抗原に対する細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)反応またはB細胞反応(例えば、抗体産生)を誘導し得る。
【0052】
一つの態様において、免疫原性ペプチドは、配列モチーフまたは当技術分野で公知の他の方法、例えばニューラルネットまたは多項式測定(polynomial determination)を用いて同定される。典型的には、特定の親和性で結合する高い蓋然性をそれらに与えるスコアを有し、かつ免疫原性であり得るペプチドを選択するためのペプチドの「結合閾値(binding threshold)」を決定するためのアルゴリズムが使用される。このアルゴリズムは、特定位置の特定アミノ酸のMHC結合に対する効果、特定位置の特定アミノ酸の抗体結合に対する効果、またはモチーフ含有ペプチドにおける特定の置換の結合に対する効果のいずれかに基づく。免疫原性ペプチドの文脈において、「保存された残基」は、ペプチド内の特定位置でのランダム分布により予測されたのよりも有意に高頻度で見られる残基である。一つの態様において、保存された残基は、MHC構造が免疫原性ペプチドとの接触点を提供し得る残基である。一つの具体的、非限定的な例において、全長IGF-IIポリペプチドを発現する宿主細胞の細胞表面上に発現される免疫原性ペプチドは、IGF-IIの一領域またはそのフラグメントを含む。
【0053】
免疫原性組成物:
IGF-IIポリペプチドを発現する細胞に対する測定可能なCTL反応を誘導する、またはIGF-IIポリペプチドに対する測定可能なB細胞反応(例えば抗体の産生)を誘導する、IGF-IIポリペプチドを含む組成物。免疫原性組成物はさらに、IGF-IIポリペプチドを発現するのに使用され得る(従って、このポリペプチドに対する免疫反応を惹起するのに使用され得る)IGF-IIポリペプチドをコードする単離された核酸分子を意味する。インビトロでの使用においては、免疫原性組成物は単離されたタンパク質またはペプチドエピトープからなり得る。インビボでの使用においては、免疫原性組成物は、典型的には薬学的に許容される担体中のそのタンパク質もしくは免疫原性ペプチド、および/または他の薬剤を含み得る。任意の特定のペプチド、例えばIGF-IIポリペプチドまたはこのポリペプチドをコードする核酸は、当技術分野で認識されているアッセイによってCTLまたはB細胞反応を誘導する能力について容易に試験され得る。免疫原性組成物は、当業者に周知のアジュバントを含み得る。
【0054】
免疫学的反応条件:
特定のエピトープに対して惹起された抗体が、実質的に全ての他のエピトープへの結合よりも検出可能な程度に大きい規模でおよび/またはそれらの結合に対して実質的に排他的にそのエピトープに結合することを可能にする条件に対する言及を含む。免疫学的反応条件は抗体結合反応の形式に依存し、典型的には免疫アッセイプロトコルにおいて利用される条件またはインビボで遭遇する条件である。免疫アッセイの形式および条件の解説についてはHarlow & Lane, 前出を参照のこと。この方法において使用される免疫学的反応条件は「生理学的条件」であり、生理学的条件は、生きている哺乳動物または哺乳動物細胞の内部で典型的な条件(例えば温度、浸透圧、pH)に対する言及を含む。一部の器官は極限条件に曝されているが、生体内環境および細胞内環境は通常、pH7付近(すなわちpH6.0〜pH8.0、より典型的にはpH6.5〜7.5)であり、主たる溶媒として水を含み、かつ0℃以上50℃未満の温度である。浸透圧は、細胞の生存および増殖の補助となる範囲内である。
【0055】
免疫療法:
標的抗原の産生に基づく癌細胞に対する免疫応答を誘発する方法。細胞媒介性免疫反応に基づく免疫療法は、特定の抗原決定基を生じた細胞に対する細胞媒介性反応の生成を含み、体液性免疫反応に基づく免疫療法は、特定の抗原決定基を生じた細胞に対する特異的抗原の生成を含む。
【0056】
疾患の阻害または処置:
例えば疾患、例えば腫瘍(例えば癌、例えば白血病または癌腫)の危険がある被検体における疾患または状態の完全な発症の阻害。「処置」は、疾患または病理学的状態が発症し始めた後の徴候または症状を好転させる治療的介入を意味する。本明細書中で使用する場合、疾患または病理学的状態に対する「好転」という用語は、その処置の任意の観察可能な有益な効果を意味する。有益な効果は、例えば、感受性の被検体における疾患の臨床的症状の発現の遅延、その疾患の一部もしくは全ての臨床的症状の重症度の低下、その疾患の進行の緩慢化、転移数の減少、被検体の全体的な健康または幸福感の改善、または特定の疾患に特異的な当技術分野で周知の他のパラメータによって証明され得る。「予防的」処置は、病理の発展の危険を減らすために疾患の徴候を示していないまたは初期の徴候のみを示す被検体に対して施される処置である。
【0057】
単離:
「単離」された生物学的成分(例えば核酸、タンパク質、または細胞小器官)は、その成分を生来内包する生物の細胞中の他の生物学的成分、すなわち他の染色体および染色体外のDNAおよびRNA、タンパク質、ならびに細胞小器官から実質的に分離されているかまたは実質的に精製されている。「単離」された核酸およびタンパク質には、標準的な精製法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。この用語はまた、宿主細胞における組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質ならびにキメラ合成された核酸も含む。
【0058】
標識:
その分子の検出を容易にするため直接的または間接的に別の分子、例えば抗体またはタンパク質に結合される検出可能な化合物または組成物。具体的、非限定的な標識の例には、蛍光タグ、酵素連結、および放射性同位元素が含まれる。一つの例において、「標識抗体」は、抗体への別の分子の組み込みを意味する。例えば、標識は検出マーカー、例えば放射能標識されたアミノ酸の組み込みまたは有標識アビジン(例えば、光学的または比色的方法により検出され得る蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)により検出され得るビオチニル部分のペプチドへの付加である。様々なポリペプチドおよび糖タンパク質の標識方法が当技術分野で公知であり、これらが使用され得る。ポリペプチドに対する標識の例には、以下が含まれるがこれらに限定されない:放射性同位元素もしくは放射性核種(例えば35Sもしくは131I)、蛍光標識(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ランタニドホスホール)、酵素標識(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次レポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)、または磁気物質、例えばガドリニウムキレート。いくつかの態様において、標識には、潜在的な立体障害を低減するために様々な長さのスペーサーアームが付加される。
【0059】
リガンド:
IGF-IIタンパク質に特異的に結合する任意の分子であり、とりわけ、IGF-IIタンパク質に特異的に結合する抗体が含まれる。代替の態様において、リガンドはタンパク質または低分子(6キロダルトン未満の分子量を有する分子)である。
【0060】
リンカーペプチド:
可変性重鎖と可変性軽鎖を間接的に接合する役目をする抗体結合フラグメント(例えばFvフラグメント)内のペプチド。「リンカー」はまた、エフェクター分子、例えば細胞毒または検出標識に標的化部分、例えばscFvを連結する役目をするペプチドを意味し得る。
【0061】
「結合する」、「接続する」「接合する」、または「連結する」という用語は、二つのポリペプチドを一続きのポリペプチド分子にすること、または放射性核種もしくは他の分子をポリペプチド、例えばscFvに共有結合的に付加することを意味する。特定の文脈において、この用語は、リガンド、例えば抗体部分をエフェクター分子(「EM」)に接続することに対する言及を含む。連結は化学的手段または組換え手段のいずれかにより得る。「化学的手段」は、二分子間の共有結合の形成により一つの分子が形成される、抗体部分とエフェクター分子の間の反応を意味する。
【0062】
リンパ球:
身体の免疫防御に関与する白血球の一つのタイプ。リンパ球には二つの主要なタイプ:B細胞およびT細胞が存在する。
【0063】
哺乳動物:
この用語にはヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方が含まれる。同様に「被検体」という用語にはヒト被検体および獣医学的被検体の両方が含まれる。
【0064】
主要組織適合遺伝子複合体またはMHC:
ヒト白血球抗原(「HLA」)を含む、異なる形式で表現される組織適合抗原系を含むことを意図する総称。「モチーフ」という用語は、特定のMHC対立形質により認識される、規定された長さ、通常は約8〜約11アミノ酸のペプチドにおける残基のパターンを意味する。ペプチドモチーフは、典型的にはMHC対立形質毎に異なり、高度に保存された残基および陰性結合残基(negative binding residues)のパターンが異なる。
【0065】
新形成および腫瘍:
異常かつ制御不能な細胞成長のプロセス。新形成は増殖性障害の一例である。新形成の産物は、過剰な細胞分裂に起因する組織の異常な成長、新生物(腫瘍)である。個体における腫瘍の量は、腫瘍の数、容積、または重量として測定され得る「全身腫瘍組織量」である。転移しない腫瘍は「良性」と称される。周辺組織を侵襲し、および/または転移できる腫瘍は「悪性」と称される。血液学的な腫瘍の例には、急性白血病(例えば急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(acute myelocytic leukemia)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)、ならびに骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、および赤白血病)、慢性白血病(例えば慢性骨髄性(顆粒球性)白血病(chronic myelocytic (granulocytic) leukemia,)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)、および慢性リンパ球性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛型および高悪性型)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、H鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリーセル白血病、ならびに脊髄形成異常を含む白血病が含まれる。
【0066】
固形腫瘍、例えば肉腫および癌腫の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、および他の肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、リンパ性悪性疾患、膵癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫、子宮頸癌、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、ならびにCNS腫瘍(例えば神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、黒色腫、神経芽腫、および網膜芽腫)が含まれる。
【0067】
様々な例において、腫瘍は、肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、肺癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌である。
【0068】
核酸:
ホスホジエステル結合を通じて連結されたヌクレオチド単位(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、関連する天然の構造変異体、およびそれらの合成性の非天然アナログ)で構成されるポリマー、関連する天然の構造変異体、およびそれらの合成性の非天然アナログ。従って、この用語には、ヌクレオチドおよびそれらの間の連結が非天然の合成アナログ、例えばホスホロチオエート、ホスホラミデート、メチエルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)等であるがこれらに限定されない、を含むヌクレオチドポリマーが含まれる。このようなポリヌクレオチドは、例えば、全自動DNA合成機を用いて合成され得る。「オリゴヌクレオチド」という用語は、典型的には短いポリヌクレオチド、一般的には約50ヌクレオチド以下のポリヌクレオチドを意味する。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわちA、T、G、C)により表される場合、これは、「T」が「U」に置き換わったRNA配列(すなわちA、U、G、C)をも含むことが理解されるであろう。
【0069】
ヌクレオチド配列を表現するのに、従来的な表記法が本明細書中で使用される:単鎖ヌクレオチド配列の左手側の末端は5’末端であり;二本鎖ヌクレオチド配列の左手方向は5’方向と称される。ヌクレオチドの5’から3’への、初期RNA転写物への付加の方向は、転写方向と称される。mRNAと同一配列を有するDNA鎖は「コード鎖」と称され;そのDNAから転写されたmRNAと同一配列を有するDNA鎖上にあり、かつRNA転写物の5’末端よりも5’側に位置する配列は「上流配列」と称され、RNAと同一配列を有するDNA鎖上にあり、かつコードするRNA転写物の3’末端よりも3’側の配列は「下流配列」と称される。
【0070】
「cDNA」は、単鎖または二本鎖のいずれかの形態の、mRNAと相補的またはこれと同一のDNAを意味する。
【0071】
「コード」は、規定されたヌクレオチド配列(すなわちrRNA、tRNA、およびmRNA)または規定されたアミノ酸配列のいずれかおよび生物学的特性を形成する生物学的プロセスにおいて他のポリマーおよび高分子の合成の鋳型として機能するポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA、またはmRNA内の特定のヌクレオチド配列の固有の特性を意味する。従って、遺伝子は、その遺伝子によって生成されたmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物学的系においてタンパク質を生成する場合に、タンパク質をコードするということである。遺伝子またはcDNAの、mRNA配列と同一であり通常配列表に提供されるヌクレオチド配列であるコード配列、および転写の鋳型として使用される非コード配列の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質またはその他の産物をコードすると称され得る。そうでないことが記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互に縮重関係にあり、同一アミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含み得る。
【0072】
「組換え核酸」は、自然界ではひとまとめに接続にされないヌクレオチド配列を有する核酸を意味する。これには、適当な宿主細胞を形質転換するのに使用され得る増幅または組み立てられた核酸を含む核酸ベクターが含まれる。組換え核酸を含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と称される。その後この遺伝子は、組換え宿主細胞において発現され、例えば「組換えポリペプチド」を生成する。組換え核酸は、非コード機能(例えばプロモーター、複製起点、リボソーム結合部位等)としても役立ち得る。
【0073】
その配列が第一配列であるポリヌクレオチドが、その配列が第二配列であるポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする場合、第一配列は第二配列に対して「アンチセンス」である。
【0074】
二つ以上のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の配列上の関係を表現するのに使用される用語には、「参照配列」、「から選択される」、「比較ウィンドウ」、「同一」、「配列同一性パーセント」、「実質的に同一」、「相補的」、および「実質的に相補的」が含まれる。
【0075】
核酸配列の配列比較については、典型的には一つの配列が、試験配列と比較される参照配列として機能する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要な場合はその後の座標を指定し、そして配列アルゴリズムプログラムのパラメータを指定する。初期設定のプログラムパラメータが使用される。比較のための配列のアラインメント方法は当技術分野で周知である。比較のための最適な配列アラインメントは、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981の部分相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムをコンピュータ上で実行することによって(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)、または手作業によるアラインメントおよび目視検査(例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds 1995 supplement)を参照のこと)によって行われ得る。
【0076】
有用なアルゴリズムの一つの例はPILEUPである。PILEUPは、Feng & Doolittle, J. Mol. Evol. 35:351-360, 1987のプログレッシブアラインメント法の簡易版を使用する。使用される方法は、Higgins & Sharp, CABIOS 5:151-153, 1989に記載の方法と似ている。PILEUPを用い、以下のパラメータを用いて参照配列を他の試験配列と比較し、パーセント配列同一性関係を決定する:ギャップウェート規定値(default gap weight)(3.00)、ギャップ長ウェート規定値(default gap length weight)(0.10)、およびウェートエンドギャップ(weighted end gaps)。PILEUPはGCG配列分析ソフトウェアパッケージ、例えばバージョン7.0から入手できる(Devereaux et al., Nuc. Acids Res. 12:387-395, 1984)。
【0077】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの別の例は、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990 および Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402, 1977に記載されるBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムである。BLAST分析を実行するソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公衆に利用可能となっている。BLSATNプログラム(核酸配列用)は、初期設定としてワード長(W)11、アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を用いる。BLASTPプログラム(アミノ酸配列用)は初期設定としてワード長(W)3、および期待値(E)10、ならびにBLOSUM62スコア行列を用いる(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, 1989を参照のこと)。
【0078】
オリゴヌクレオチド:
約100ヌクレオチド塩基長までの直鎖ポリヌクレオチド配列。
【0079】
機能的に連結:
第一核酸配列が第二核酸配列と機能的な関係に配置されている場合、第一核酸配列は第二核酸配列と機能的に連結されているということである。例えば、プロモーター、例えばCMVプロモーターは、このプロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、コード配列に機能的に連結されているということである。一般論として、機能的に連結されたDNA配列は隣接しており、二つのタンパク質コード領域を接続する必要がある場合は、同一リーディングフレーム内で隣接させる。
【0080】
ORF(オープンリーディングフレーム):
アミノ酸をコードするヌクレオチドトリプレット(コドン)群であっていかなる終止コドンも含まないもの。これらの配列は通常、ペプチドに翻訳され得る。
【0081】
ペプチド:
3〜30アミノ酸長のアミノ酸の鎖。一つの態様において、ペプチドは約10〜約25アミノ酸長である。さらに別の態様において、ペプチドは約11〜約20アミノ酸長である。さらに別の態様において、ペプチドは約12アミノ酸長である。
【0082】
「IGF-IIペプチド」は、IGF-IIタンパク質由来の隣接アミノ酸残基群である。一つの例において、IGF-IIペプチドを含む免疫原性組成物に関して、この用語はさらに、このペプチドのB細胞反応を生じる能力、または主要組織適合遺伝子複合体クラスI分子に結合する場合は野生型IGF-IIタンパク質を発現する細胞に対して細胞傷害性Tリンパ球を活性化する能力を20%を超えて変化させない(例えば約1%以下、約5%、または約10%)限り、アミノ酸の保存的置換を含むこれらのペプチドの変異体も意味する。合成ペプチドを用いるCTLの誘導およびCTL細胞傷害性アッセイは、例えば米国特許第5,662,907号に教示される。
【0083】
ペプチドの修飾:
IGF-IIポリペプチドには、本明細書中に記載されるペプチドの合成態様が含まれる。さらに、これらのタンパク質のアナログ(非ペプチド有機分子)、誘導体(開示されるペプチド配列から出発して獲得される化学的官能性をもたせたペプチド分子)、および変異体(ホモログ)も、本明細書中に記載される方法において使用され得る。各ポリペプチドは、L-アミノ酸および/またはD-アミノ酸のいずれか、天然アミノ酸、ならびにその他のアミノ酸であり得るアミノ酸の配列から構成される。
【0084】
ペプチドは、非修飾ペプチドと本質的に同じ活性を有し、かつ場合により他の所望の特性を有する誘導体を生成するため、様々な化学技術により修飾され得る。例えば、タンパク質のカルボン酸基は、カルボキシル末端であろうが側鎖であろうが、薬学的に許容される陽イオンの塩の形態で提供されるかもしくはC1〜C16エステルを形成するようエステル化されるか、または式NR1R2(式中、R1およびR2は各々独立してHもしくはC1〜C16アルキルであるか、または組み合わさって複素環式環、例えば5員環もしくは6員環を形成する)のアミドに変換され得る。ペプチドのアミノ基は、アミノ末端であろうが側鎖であろうが、薬学的に許容される酸付加塩、例えばHCl、HBr、酢酸塩、安息香酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、およびその他の有機塩の形態にされるか、またはC1〜C16アルキルもしくはジアルキルアミノに修飾されるか、もしくはさらにアミドに変換され得る。
【0085】
ペプチド側鎖のヒドロキシル基は、十分認知されている技術を用いてC1〜C16アルコキシまたはC1〜C16エステルに変換され得る。ペプチド側鎖のフェニル環およびフェノール環は、一つ以上のハロゲン原子、例えばフッ素、塩素、臭素、もしくはヨウ素で、またはC1〜C16アルキル、C1〜C16アルコキシ、カルボン酸、およびそれらのエステル、もしくはこのようなカルボン酸のアミドで置換され得る。ペプチド側鎖のメチレン基は、相同なC2〜C4アルキレンに伸長され得る。チオールは、多くの十分認知されている保護基の任意の一つ、例えばアセトアミド基で保護され得る。当業者はまた、IGF-IIペプチドに環状構造を導入し、安定性を向上させるその構造に対する立体配座的制約を選択し提供する方法を認識しているであろう。
【0086】
ペプチド模倣および有機模倣(organomimetic)の態様が想定されている。この態様においてこのようなペプチド模倣物および有機模倣物の化学的構成要素の三次元配置はペプチド骨格および構成アミノ酸の側鎖の三次元配置を模倣し、それによって測定可能かつ強化された免疫反応生成能力を有するIGF-IIポリペプチドのこのようなペプチド模倣物および有機模倣物を形成する。コンピュータモデリングの適用について、ファルマコフォアは、生物学的活性についての構造的必要条件の観念化された三次元的定義である。ペプチド模倣物および有機模倣物は、最新のコンピュータモデリングソフトウェアを用いて(コンピュータ利用薬物設計すなわちCADDを用いて)各々のファルマコフォアに合致するよう設計され得る。CADDに使用される技術の解説についてはWalters, "Computer-Assisted Modeling of Drugs", in Klegerman & Groves, eds., 1993, Pharmaceutical Biotechnology, Interpharm Press, Buffalo Grove, IL, pp. 165-174 および Principles of Pharmacology Munson (ed.) 1995, Ch. 102を参照のこと。このような技術を使用して調製された模倣物もまた包含される。
【0087】
薬剤:
被検体または細胞に適当に投与された場合に所望の治療的または予防的効果を誘導できる化学的化合物または組成物。
【0088】
薬学的に許容される担体:
薬学的に許容される担体の使用は従来通りである。E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition, 1975によるRemington's Pharmaceutical Sciencesは、本明細書中に開示される融合タンパク質の薬学的送達に適した組成物および処方物を記載する。
【0089】
一般的に、担体の性質は、利用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口用処方物は通常、媒体として薬学的かつ生理学的に許容される流体、例えば水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等を含む注射用流体を含む。固体組成物(例えば粉末、丸剤、錠剤、またはカプセル形態)のための従来的な非毒性の固体担体には、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。投与される薬学的組成物は、生物学的に中性の担体に加えて、微量の非毒性の補助的物質、例えば湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤等、例えば酢酸ナトリウムまたはモノラウリン酸ソルビタンを含み得る。
【0090】
ポリヌクレオチド:
ポリヌクレオチドまたは核酸配列という用語は、少なくとも10塩基長のヌクレオチドのポリマー形態を意味する。組換えポリヌクレオチドには、その供給源たる生物の天然のゲノムにおいては(一方の5’末端と一方の3’末端が)直に接している両コード配列が直に接していないポリヌクレオチドが含まれる。従ってこの用語は、例えば、ベクターに;自律複製性のプラスミドもしくはウイルスに;または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNA、または他の配列から独立した別個の分子(例えばcDNA)として存在する組換えDNAを包含する。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのヌクレオチドの修飾型であり得る。この用語は、単鎖および二本鎖形態のDNAを包含する。IGF-IIポリヌクレオチドは、IGF-IIポリペプチドをコードする核酸である。
【0091】
ポリペプチド:
長さまたは翻訳後修飾(例えばグリコシル化またはリン酸化)を問わない任意のアミノ酸鎖。一つの態様において、ポリペプチドはIGF-IIポリペプチドである。「残基」は、アミド結合またはアミド結合模倣物によってポリペプチドに組み込まれたアミノ酸またはアミノ酸模倣物を意味する。ポリペプチドはアミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)を有する。
【0092】
プローブおよびプライマー:
プローブは、検出可能な標識またはレポーター分子に結合された単離された核酸を含む。プライマーは短い核酸であり、15ヌクレオチド長以上のDNAオリゴヌクレオチドであり得る。プライマーは核酸ハイブリダイゼーションによって相補的な標的DNA鎖にアニールしてプライマーと標的DNA鎖のハイブリッドを形成し、その後DNAポリメラーゼ酵素によって標的DNA鎖に沿って伸長され得る。プライマー対は、核酸配列の増幅、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または当技術分野で公知の他の核酸増幅法による増幅のために使用され得る。当業者は、特定のプローブまたはプライマーの特異性がその長さと共に大きくなるを認識しているであろう。従って、例えば、20連続ヌクレオチドを含むプライマーは、15ヌクレオチドのみの対応するプライマーよりも高い特異性で標的にアニールし得る。従って、より高い特異性を得るために、20、25、30、35、40、50またはそれ以上の連続ヌクレオチドを含むプローブおよびプライマーが選択され得る。
【0093】
プロモーター:
プロモーターは、核酸の転写を指示する核酸調節配列群である。プロモーターは、転写開始部位付近に必要な配列、例えばポリメラーゼII型プロモーターの場合はTATAエレメントを含む。プロモーターはまた、場合により、転写開始部位から数千塩基対のところに配置され得る遠位のエンハンサーまたはレプレッサーエレメントを含む。構成性および誘導性の両方のプロモーターが含まれる(例えば、Bitter et al., Methods in Enzymology 153:516-544, 1987を参照のこと)。
【0094】
プロモーターの具体的、非限定的な例には、哺乳動物細胞ゲノム由来のプロモーター(例えばメタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えばレトロウイルスの長い末端反復配列;アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)が含まれ、これらが使用され得る。組換えDNAまたは合成技術によって作製されたプロモーターもまた使用され得る。ポリヌクレオチドは、宿主の挿入された遺伝子配列の効果的な転写を促進するプロモーター配列を含む発現ベクターに挿入され得る。発現ベクターは典型的には、複製起点、プロモーター、および形質転換細胞の表現型選択を可能にする特定の核酸配列を含む。
【0095】
精製:
精製という用語は、完全な純度を必要とせず;そうではなく相対的な用語であることが意図される。従って、例えば、精製されたペプチド調製物は、ペプチドまたはタンパク質が、そのペプチドまたはタンパク質が細胞内の自然環境にある場合よりも濃縮されたものである。一つの態様において、調節物は、タンパク質またはペプチドがその調製物における総ペプチド含有量または総タンパク質含有量の少なくとも50%となるよう精製される。
【0096】
本明細書中に開示されるIGF-IIポリペプチドまたはIGF-IIに特異的に結合する抗体は、当技術分野で公知の任意の手段によって精製され得る。例えば、Guide to Protein Purification, ed. Deutscher, Meth. Enzymol. 185, Academic Press, San Diego, 1990; および Scopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer Verlag, New York, 1982を参照のこと。実質的な精製は、他のタンパク質または細胞成分からの精製を意味する。実質的に精製されたタンパク質は、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または98%の純度である。従って、一つの具体的、非限定的な例において、実質的に精製されたタンパク質は、他のタンパク質または細胞成分の非含有率が90%である。
【0097】
組換え:
組換え核酸は、天然に存在しない配列を有するかまたはそうしなければ離れ離れであった二つの配列セグメントの人為的な組み合わせによって作製された配列を有する核酸である。この人為的な組み合わせは多くの場合、化学合成によって、またはより一般的には、例えば遺伝子操作技術による単離された核酸セグメントの人為的操作によって達成される。
【0098】
組換え毒素:
細胞標的化部分が毒素に融合されたキメラタンパク質(Pastan et al., Science, 254:1173-1177, 1991)。細胞標的化部分が抗体のFv部分である場合、その分子は組換え免疫毒素と称される(Chaudhary et al., Nature, 339:394-397, 1989)。毒素部分は、大部分の正常細胞に存在する毒素受容体に結合できないように遺伝子改変される。組換え免疫毒素は、抗原結合ドメインによって認識される細胞を選択的に死滅させる。これらの組換え毒素および免疫毒素は、癌、例えばIGF-IIが発現される癌を処置するのに使用され得る。
【0099】
選択的にハイブリダイズ:
無関係のヌクレオチド配列を排除する中程度または高度にストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション。
【0100】
核酸ハイブリダイゼーション反応において、特定レベルのストリンジェンシーを達成するのに使用される条件は、ハイブリダイズする核酸の性質に依存して変化し得る。例えば、核酸のハイブリダイズする領域の長さ、相補性の程度、ヌクレオチド配列の組成(例えばGC対ATの含有量)、および核酸のタイプ(例えばRNA対DNA)が、ハイブリダイゼーション条件を選択する上で考慮される。付加的な留意点は、一方の核酸が固定、例えばフィルターに固定されているかどうかである。
【0101】
ストリンジェンシーが徐々に高くなる条件の具体的、非限定的な例は以下の通りである:ほぼ室温での2×SSC/0.1% SDS(ハイブリダイゼーション条件);ほぼ室温での0.2×SSC/0.1% SDS(低ストリンジェンシー条件);約42℃での0.2×SSC/0.1% SDS(中ストリンジェンシー条件);および約68℃での0.1×SSC(高ストリンジェンシー条件)。当業者は、これらの条件のバリエーションを容易に決定することができる(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989を参照のこと)。洗浄は、これらの条件のうちの一つのみ、例えば高ストリンジェンシー条件を用いて行われ得るか、またはこれらの条件の各々が、例えば上記の順で各々10〜15分間使用され、列挙された工程のいずれかもしくは全てが繰り返され得る。しかし、上記の通り、至適条件は、使用される特定のハイブリダイゼーション反応に依存して変化し得、これは経験的に決定され得るものである。
【0102】
配列同一性:
アミノ酸配列間の類似性は、配列間の類似性の観点で表現され、それ以外では配列同一性とも称される。配列同一性は、しばしばパーセント同一性(または類似性もしくは相同性)として測定され;その百分率が高いほど二つの配列は類似する。IGF-IIポリペプチドのホモログまたは変異体は、標準的な方法を用いて整列させた場合、比較的高い程度の配列同一性を有し得る。
【0103】
比較のための配列アラインメント法は当技術分野で周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene 73:237, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS 5:151, 1989; Corpet et al., Nucleic Acids Research 16:10881, 1988; および Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:2444, 1988に記載されている。Altschul et al., Nature Genet. 6:119, 1994は、配列アラインメント法および相同性算出法の詳細な検討を提供する。
【0104】
NCBIのベーシックローカルアラインメントサーチツール(BLAST)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403, 1990)は、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxと組み合わせて使用するために、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI, Bethesda, MD)を含むいくつかの情報源およびインターネットから入手できる。このプログラムを使用して配列同一性を決定する方法の解説はインターネット上のNCBIのウェブサイトから入手できる。
【0105】
IGF-IIポリペプチドに特異的に結合する抗体のVLまたはVHのホモログおよび変異体は、典型的には、初期設定パラメータに設定されたNCBI Blast 2.0のギャップ利用型blastpを用いてその抗体のアミノ酸配列との全長アラインメントによって計測した場合に少なくとも約75%、例えば少なくとも約80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有することによって特徴付けられる。約30アミノ酸を超えるアミノ酸配列の比較については、初期設定パラメータに設定された初期設定のBLOSUM62行列を用いるBlast 2配列関数(ギャップイグジステンスコスト(gap existence cost)11および残基毎のギャップコスト(per residue gap cost)1)が利用される。短いペプチド(約30アミノ酸未満)を整列させる場合、アラインメントは、初期設定パラメータに設定されたPAM30行列を用いるBlast 2配列関数(オープンギャップ9、エクステンションギャップ1ペナルティ)を使用して実施されるべきである。参照配列と非常に高い類似性を有するタンパク質は、この方法で評価した場合に高いパーセント同一性、例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を示し得る。全長未満の配列が配列同一性について比較される場合、ホモログおよび変異体は典型的には、10〜20アミノ酸の小ウィンドウにおいて少なくとも80%の配列同一性を有し、かつ参照配列に対するそれらの類似性に依存して少なくとも85%または少なくとも90%もしくは95%の配列同一性を有し得る。このような小ウィンドウにおいて配列同一性を決定する方法は、インターネット上のNCBIウェブサイトを通じて利用可能である。当業者は、これらの配列同一性の範囲が導入としてのみ提供され;提供された範囲の外側から非常に有意義なホモログが獲得される可能性が十分あることを認識しているはずである。
【0106】
特異的結合剤:
実質的に規定された標的にのみ結合する薬剤。従って、IGF-II特異的結合剤は、実質的にIGF-IIポリペプチドに結合する薬剤である。一つの態様において、特異的結合剤は、IGF-IIポリペプチドに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体である。
【0107】
抗原、例えばIGF-IIに関して「特異的に結合する」という用語は、抗体または他のリガンドが、その抗原を欠く細胞または組織に対してではなく、その抗原を保持する細胞または組織と、全体的または部分的に、優先的な会合をすることを意味する。当然ながら、ある分子と非標的細胞または組織との間で一定の範囲の非特異的相互作用が生じ得ることが認識されている。そうであっても、特異的結合は、抗原の特異的認識を通じて媒介されるものとして区別され得る。選択反応性抗体は抗原に結合するが、それらは低い親和性で結合し得る。他方、特異的結合は、結合抗体(または他のリガンド)と抗原欠失細胞の間よりも抗体(または他のリガンド)と抗原保持細胞との間でずっと強い会合を生じる。特異的結合は典型的には、IGF-IIポリペプチドを保持する細胞または組織に対する抗体または他のリガンドの(単位時間当たりの)結合量を、そのポリペプチドを欠く細胞または組織と比較して2倍超、例えば5倍超、10倍超、または100倍超増加させる。このような条件下でのタンパク質に対する特異的結合は、特定のタンパク質に対する特異性について選択された抗体を必要とする。様々な免疫アッセイ形式が、特定タンパク質との特異的免疫反応性を有する抗体または他のリガンドを選択するのに適している。例えば、固相ELISA免疫アッセイは、タンパク質との特異的免疫反応性を有するモノクローナル抗体を選択するために慣用的に使用されている。特異的免疫反応性を決定するのに使用できる免疫アッセイ形式および条件の説明についてはHarlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York (1988)を参照のこと。
【0108】
被検体:
ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む、生きている多細胞・有脊椎生物であり、ヒト被検体および獣医学的被検体の両方を含むカテゴリーである。
【0109】
T細胞:
免疫反応に重要な白血球。T細胞にはCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞が含まれるがこれらに限定されない。CD4+ Tリンパ球は、その表面に「分化抗原4(cluster of differentiation 4)」(CD4)として公知のマーカーを有する免疫細胞である。ヘルパーT細胞としても公知のこれらの細胞は、抗体反応およびキラーT細胞反応を含む免疫反応のオーケストラの補助をする。CD8+ T細胞は、「分化抗原8」(CD8)マーカーを有する。一つの態様において、CD8 T細胞は細胞傷害性Tリンパ球である。別の態様において、CD8細胞はサプレッサーT細胞である。
【0110】
治療的有効量:
処置される被検体において所望の効果を達成するのに十分な特定物質の量。例えば、これは、腫瘍の成長を阻害または抑制するのに必要な量であり得る。一つの態様において、治療的有効量は、腫瘍を撲滅するのに必要な量である。被検体に投与される場合、一般的には、所望のインビトロ効果を達成することが示された標的組織濃度(例えば、腫瘍における濃度)を達成し得る用量が使用され得る。
【0111】
毒素:
細胞に対して細胞毒性である分子。毒素には、アブリン、リシン、シュードモナス外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、サポリン、リストリクトシン(restrictocin)、もしくはゲロニン、またはそれらの毒素修飾物が含まれる。例えば、PEおよびDTは毒性の強い化合物であり、典型的には肝臓毒性によって死を招く。しかし、PEおよびDTは、この毒素の天然の標的化成分(例えばPEのドメインIaまたはDTのB鎖)を除去し、それを異なる標的化部分、例えば抗体で置き換えることによって免疫毒素として使用するための形態に修飾され得る。
【0112】
形質導入:
形質導入細胞は、分子生物学技術によって核酸分子を導入された細胞である。本明細書中で使用する場合、形質導入という用語は、ウイルスベクターによるトランスフェクション、プラスミドベクターによる形質転換、ならびに電気穿孔法、リポフェクチン法、および微粒子銃加速法(particle gun acceleration)による裸のDNAの導入を含む、核酸分子をそのような細胞に導入し得る全ての技術を包含する。
【0113】
ベクター:
宿主細胞に導入されることによって形質転換された宿主細胞を生成する核酸分子。ベクターは、宿主細胞内での複製を可能にする核酸配列、例えば複製起点を含み得る。ベクターはまた、一つ以上の選択マーカーおよび当技術分野で公知の他の遺伝子エレメントを含み得る。
【0114】
別途定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、この開示の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。単数形の用語「一つ(a)」「一つ(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうでいないことを明示しない限り複数の指示対象を包含する。同様に、「または、もしくは(or)」という単語は、文脈がそうでいないことを明示しない限り「および、ならびに(and)」を包含することが意図される。さらに、核酸またはポリペプチドについて示される全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子量または分子の質量値は近似値であり、これが解説の目的で提供されることが理解されるはずである。本明細書中に記載されるのと類似または等価な方法および物質がこの開示の実施または試験において使用され得るが、以下には適当な方法および物質を記載する。「含む(comprises)」という用語は「含む(includes)」を意味する。本明細書中で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。相反する場合は、用語の説明を含めて本明細書が優先される。さらに、物質、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0115】
IGF-IIに特異的に結合する抗体
インスリン様成長因子(IGF)系の二つのリガンド、IGF-IおよびIGF-IIは、プロインスリンと62%の相同性を共有する単鎖ポリペプチドである。ヒトインスリンA鎖、インスリンB鎖、IGF-I前駆体、成熟IGF-I、IGF-II前駆体(「長鎖IGF-II」としても公知)、および成熟IGF-IIの典型的なアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO: 1、2、3、4、5、および6に示される。ヒトとマウスの間のIGF-Iの相同性の程度は97%であり、ヒトとマウスの間のIGF-IIの相同性の程度は91%である。哺乳動物のIGF-IおよびIGF-II、例えばマウスタンパク質およびヒトタンパク質、のアミノ酸配列は、GENBANK(登録商標)を通じてインターネット上で利用可能であり、例えば、参照により本明細書に組み入れられるGENBANK(登録商標)アクセッション番号CAA00082(ヒトIGF-II、1993年1月28日)、AAB21519(ヒトIGF-II、2002年5月17日)、NP_034644(マウスIGF-II、2006年8月6日更新)、NP_034642(マウスIGF-I、2006年8月6日更新)を参照されたい。インスリン受容体のアミノ酸配列は、GENBANK(登録商標)を通じて利用可能であり、アクセッション番号P6213(1998年1月1日)およびNP000199(2006年4月19日)を参照されたい。
【0116】
IGFのIGF-IRへの結合は、その細胞内チロシンキナーゼドメインを活性化し、それによってこの受容体の自己リン酸化を引き起こす。これはその後、細胞の増殖、細胞の運動性、およびアポトーシスからの保護を亢進する働きをする様々な経路を活性化させる。IGF-IRに関連するいくつかの下流シグナルの概略を図2に示す。IGF-IRは癌細胞の成長、生存、および発癌性の形質転換の亢進と関連づけらており(Kaleko et al., Mol Cell Biol 10:464-473, 1990; Baserga et al., Biochim Biophys Acta 1332:F105-F126, 1997; Blakesley et al., J Endocrinol 152:339-344, 1997; Khandwala et al., Endocr Rev 21 :215-244, 2000)、IGF-IRの過剰発現が様々な腫瘍タイプにおいて観察された(Bergmann et al., Cancer Res 55:2007-2011, 1995; Werner et al., Adv Cancer Res 68:183-223, 1996; Happerfield et al., J Pathol 183:412-417, 1997; Xie et al., Cancer Res 59:3588-3591, 1999; Khandwala et al., Endocr Rev 21:215-244, 2000; Hellawell et al., Cancer Res 62:2942-2950, 2002; Weber et al., Cancer 95:2086-2095, 2002)。IGF-IRのリガンドである、IGF-IおよびIGF-IIは、様々な癌細胞株においてマイトジェンとして機能することが公知である(Cullen et al., Cancer Res 50:48-53, 1990; Ankrapp et al., Cancer Res 53:3399-3404, 1993; Kappel et al., Cancer Res 54:2803-2807 1994; Guo et al., J Am Coll Surg 181 :145-154, 1995; Steller et al., Cancer Res 56:1761-1765, 1996; Hermanto et al., Cell Growth Differ 11 :655-664, 2000)。多くの腫瘍はIGF-IIリガンドを過剰発現し(Werner et al., Adv Cancer Res 68:183-223, 1996)、IGF-IIの発現レベルがIGF-Iよりも数倍高いことを示す。IGFタンパク質に対する抗体は、細胞増殖を減少させ、アポトーシスを増加し、腫瘍細胞の成長および転移を減少させることが示された(Fitzsimmons et al., Endocrinology 136:3100-3106, 1995; Goya, Cancer Res 64:6252-6258 2004; Miyamoto, Clin Cancer Res 11 :3494-3502, 2005)。
【0117】
ヒトIGF-IIに特異的に結合するヒトモノクローナル抗体が、本明細書中に開示されている。マウスモノクローナル抗体の臨床利用における大きな制限は、この処置を受けた患者におけるヒト抗マウス抗体(HAMA)反応の発生である。HAMA反応は、アレルギー反応および投与した抗体の血清からのクリアランス率の上昇を伴い得る。その親のモノクローナル抗体の抗原結合親和性を維持しつつHAMA反応を最小限に抑える様々なタイプの修飾モノクローナル抗体が開発された。修飾モノクローナル抗体の一つのタイプは、マウス抗原結合可変領域がヒト定常ドメインに結合されたヒト-マウスキメラである(Morrison and Schlom, Important Advances in Oncology, Rosenberg, S.A. (Ed.), 1989)。修飾モノクローナル抗体の第二のタイプは、相補性決定領域(CDR)を植え付けた、すなわちヒト化された、モノクローナル抗体である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-246, 1993)。しかし、本明細書中に開示される抗体は完全ヒト抗体であり;フレームワーク領域およびCDRの両方がヒト抗体由来である。従ってこれらの抗体をヒト被検体に投与した場合にHAMAは誘導されない。
【0118】
一つの態様において、この抗体は、1nM以下の平衡定数(Kd)でIGF-IIに結合する。別の態様において、この抗体は、1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iに結合し、かつインスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する。さらなる態様において、この抗体はインスリン受容体のリン酸化を阻害する。様々な態様において、ヒトモノクローナル抗体は、0.1×10-8 M、少なくとも約0.3×10-8 M、少なくとも約0.5×10-8 M、少なくとも約0.75×10-8 M、少なくとも約1.0×10-8 M、少なくとも約1.3×10-8 M、少なくとも約1.5×10-8 M、または少なくとも約2.0×10-8 Mの結合親和性でヒトIGF-IIに結合する。
【0119】
さらなる例において、ヒトモノクローナル抗体は、本明細書中に開示されるm606および/またはm610および/またはm616に結合したIGF-IIのエピトープに結合する。従って、一つの例において、ヒトモノクローナル抗体は、1nM以下の平衡解離定数(Kd)でm606および/またはm610および/またはm616に結合したIGF-IIのエピトープに結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iに結合する。さらなる例において、この抗体はインスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する。
【0120】
さらなる態様において、有効量の抗体の被検体への投与は、対照と比較して、ヒトIGF-1Rのチロシン残基における自己リン酸化を減少させる。ヒトIFG-1Rのリン酸化は、当業者に公知の任意の方法によって測定され得る。
【0121】
様々な例において、ヒトモノクローナル抗体は、以下に示される軽鎖の少なくとも一つおよび/または重鎖の少なくとも一つを含む。
【0122】
クローンM606:

【0123】
クローン#M610:

【0124】
クローン#M616:

【0125】
一つの態様において、ヒトモノクローナル抗体の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 10のアミノ酸34〜41(HCDR1)を含む。単離されたヒトモノクローナル抗体の重鎖は、SEQ ID NO: 10のアミノ酸59〜65(HCDR2)および/またはSEQ ID NO: 10の105〜119(HCDR2)の一つ以上を含み得る。ヒトモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 7のアミノ酸37〜47(LCDR1)を含み得る。ヒトモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 7のアミノ酸60〜68(LCDR2)および/またはSEQ ID NO: 7のアミノ酸99〜109(LCDR3)を含み得る。従って、一つの例において、単離されたヒトモノクローナル抗体は、SEQ ID NO: 7のアミノ酸37〜47、60〜68、および99〜109、ならびにSEQ ID NO: 10のアミノ酸34〜41、59〜65、および105〜109を含む。別の例において、このモノクローナル抗体はSEQ ID NO: 7およびSEQ ID NO: 10を含む。
【0126】
別の態様において、ヒトモノクローナル抗体の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 11のアミノ酸34〜41(HCDR1)を含む。ヒトモノクローナル抗体の重鎖はまた、SEQ ID NO: 11のアミノ酸59〜65(HCDR2)および/またはSEQ ID NO: 11のアミノ酸105〜118(HCDR3)を含み得る。ヒトモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 8のアミノ酸37〜47(LCDR1)を含み得る。このモノクローナル抗体の軽鎖はまた、SEQ ID NO: 8のアミノ酸60〜68(LCDR2)および/またはSEQ ID NO: 8のアミノ酸99〜109(LCDR3)を含み得る。従って、一つの例において、この抗体の重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 8のアミノ酸37〜47、60〜68、および99〜108、ならびにSEQ ID NO: 11のアミノ酸34〜41、59〜65、および105〜109を含む。このモノクローナル抗体はまたSEQ ID NO: 8およびSEQ ID NO: 11を含み得る。
【0127】
さらなる態様において、重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 12のアミノ酸21〜30を含み得る。さらなる例において、重鎖は、SEQ ID NO: 12のアミノ酸48〜55および/またはSEQ ID NO: 12のアミノ酸101〜117を含む。他の例において、ヒトモノクローナル抗体の軽鎖は、SEQ ID NO: 9のアミノ酸37〜42および/またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸60〜69および/またはSEQ ID NO: 9のアミノ酸99〜109に示される配列のうちの一つ、二つ、または三つ全てを含む。従って、IGF-IIに特異的に結合する一つの典型的なヒトモノクローナル抗体は、SEQ ID NO: 9のアミノ酸37〜42、60〜69、および99〜109、ならびにSEQ ID NO: 12のアミノ酸21〜30および/またはSEQ ID NO: 12のアミノ酸48〜55および/またはSEQ ID NO: 12のアミノ酸101〜117を含む。従って、ヒトモノクローナル抗体はSEQ ID NO: 9およびSEQ ID NO: 12を含み得る。
【0128】
モノクローナル抗体は任意のアイソタイプの抗体であり得る。例えば、モノクローナル抗体は、IgMまたはIgG抗体、例えばIgG1またはIgG2であり得る。IGF-IIに特異的に結合する抗体のクラスは別のクラスにスイッチされ得る。一つの局面において、VLまたはVHをコードする核酸分子は、当業者に周知の方法を用いて、それぞれ軽鎖または重鎖の定常領域をコードする任意の核酸配列を含まないよう単離される。次いでVLまたはVHをコードする核酸分子は、異なるクラスの免疫グロブリン分子由来のCLまたはCHをコードする核酸配列に機能的に連結される。これは、当技術分野で公知のように、CL鎖またはCH鎖を含むベクターまたは核酸分子を用いて達成され得る。例えば、元々はIgMであった、IGF-IIに特異的に結合する抗体は、IgGにクラススイッチされ得る。クラススイッチは、あるIgGサブクラスから別のサブクラスへの変換、例えばIgG1からIgG2への変換に使用され得る。
【0129】
完全ヒトモノクローナル抗体はヒトフレームワーク領域を含む。このヒトフレームワーク領域領域は、SEQ ID NO: 7〜12の一つ以上に開示されるフレームワーク領域であり得る(これらの配列はCDR配列およびフレームワーク配列を含む)。しかし、フレームワーク領域は別の供給源由来であり得る。
【0130】
重鎖および軽鎖の可変領域を含みかつIGF-IIのエピトープ決定基に結合できる抗体フラグメント、例えばFab、F(ab')2、およびFvは、本開示に包含される。これらの抗体フラグメントは、その抗原に選択的に結合する能力を保持する。これらのフラグメントには以下のものが含まれる:
(1)Fab、このフラグメントは抗体分子の一価の抗原結合フラグメントを含み、酵素パパインによる全長抗体の消化によってインタクトな軽鎖および一つの重鎖の一部を生成することにより作製され得る;
(2)Fab'、この抗体分子のフラグメントは全長抗体をペプシンで処理した後に還元処理してインタクトな軽鎖および重鎖の一部を生成することによって獲得され得る;一つの抗体分子あたり二つのFab'フラグメントが獲得される;
(3)F(ab')2、この抗体フラグメントは、後の還元処理を行わないで酵素ペプシンで全長抗体を処理することによって獲得され得る;F(ab')2は、二つのFab'フラグメントが二つのジスルフィド結合によって一体化された二量体である;
(4)Fv、二つの鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子操作されたフラグメント;ならびに
(5)単鎖抗体(例えばscFv)、遺伝子的に融合された単鎖の分子として、適当なポリペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された分子と定義される。
(6)単鎖抗体の二量体(scFV2)、scFVの二量体と定義される。これは「ミニ抗体」とも称される。
【0131】
これらのフラグメントの作製方法は当技術分野で公知である(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988を参照のこと)。様々な例において、抗体に含まれる可変領域は、m606、m610、またはm616の可変領域である。一つの態様群において、抗体は、上記のように、m606、m610、もしくはm616のVH CDR、またはこれらのCDRの組み合わせを有する。
【0132】
さらなる態様群において、抗体は、典型的には約25kDaでありかつ各重鎖および各軽鎖ごとに三つのCDRを有する完全な抗原結合部位を含むFv抗体である。これらの抗体を作製するため、VHおよびVLは、宿主細胞において二つの個別の核酸構築物から発現され得る。VHおよびVLは非連続的に発現され、Fv抗体の鎖は典型的には非共有結合的相互作用によって一体化される。しかし、これらの鎖は希釈によって解離する性質があり、従ってこれらの鎖をグルタルアルデヒド、分子内ジスルフィド、またはペプチドリンカーを通じて架橋する方法が開発された。従って、一つの例において、Fvは、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域がジスルフィド結合によって化学的に連結された、ジスルフィド安定化型Fv(dsFv)であり得る。
【0133】
さらなる例において、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーによって接続されたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(scFv)は、オリゴヌクレオチドによって接続されたVHドメインおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。この構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、その後に発現ベクターが宿主細胞、例えば大腸菌に導入される。この組換え宿主細胞は、二つのVドメインを橋渡しをするリンカーペプチドを有する単鎖ポリペプチドを合成する。scFvの作製方法は当技術分野で公知である(Whitlow et al., Methods: a Companion to Methods in Enzymology, Vol. 2, page 97, 1991; Bird et al., Science 242:423, 1988; 米国特許第4,946,778号; Pack et al., Bio/Technology 11 :1271, 1993; および Sandhu, 前出を参照のこと)。単鎖抗体の二量体(scFv2)もまた意図される。
【0134】
抗体フラグメントは、抗体のタンパク質分解的加水分解によってまたはそのフラグメントをコードするDNAの大腸菌における発現によって調製され得る。抗体フラグメントは、従来的方法による全長抗体のペプシンまたはパパイン消化によって獲得され得る。例えば、抗体フラグメントは、ペプシンによる抗体の酵素切断によってF(ab')2と呼ばれる5Sフラグメントを提供することによって作製され得る。このフラグメントはさらに、チオール還元剤および必要に応じてジスルフィド結合の切断により生じるスルフヒドリル基のためのブロッキング基を用いて切断され、3.5S Fab'一価フラグメントが提供され得る。あるいは、ペプシンを用いる酵素切断は、二つの一価Fab'フラグメントおよびFcフラグメントを直接的に生成する(米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号ならびにこれらに含まれる参考文献;Nisonhoff et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230, 1960; Porter, Biochem. J. 73:119, 1959; Edelman et al., Methods in Enzymology, Vol. 1, page 422, Academic Press, 1967; ならびに Coligan et al.のセクション2.8.1-2.8.10 および 2.10.1-2.10.4を参照のこと)。
【0135】
抗体を切断する他の方法、例えば一価の軽鎖-重鎖フラグメントを形成するための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝子的技術もまた、そのフラグメントがインタクトな抗体によって認識される抗原に結合する限り使用され得る。
【0136】
当業者は、抗体の保存的変異体が生じ得ることを理解している。抗体フラグメント、例えばdsFvフラグメントまたはscFvフラグメントにおいて利用されるこのような保存的変異体は、VH領域およびVL領域の間の正確なフォールディングおよび安定化に必要な重要アミノ酸残基を保持し得、かつこの分子の低いpIおよび低い毒性を保存するために残基の電荷特性を保持し得る。アミノ酸置換(例えば、最大1つ、最大2つ、最大3つ、最大4つ、または最大5つのアミノ酸置換)は、収率を上げるためにVH領域およびVL領域に作製され得る。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的アミノ酸置換表は当業者に周知である。以下の六つの群は、相互に保存的置換であるとみなされるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
従って、当業者は、表1に示される配列を容易に再検討し、保存的置換を特定し、そして周知の分子技術を用いて保存的変異体を作製することができる。
【0137】
エフェクター分子、例えば治療部分、診断部分、または検出部分は、当業者に公知の任意の手段を用いて関心対象の抗体、例えばIGF-IIに特異的に結合するヒト抗体に連結され得る。共有結合的付加および非共有結合的付加の両方の手段が使用され得る。エフェクター分子を抗体に付加する手順は、エフェクターの化学構造によって異なる。ポリペプチドは典型的に、様々な官能基:例えばカルボン酸(COOH)基、遊離アミン(-NH2)基、またはスルフヒドリル(-SH)基を含み、これらはエフェクター分子を結合させるための抗体の適当な官能基との反応に利用可能である。あるいは、抗体は、さらなる反応性官能基を露出または付加するよう誘導体化される。誘導体化においては、多くのリンカー分子、例えばPierce Chemical Company, Rockford, ILから入手できるリンカー分子のいずれかが付加され得る。リンカーは、抗体をエフェクター分子に接続するのに使用される任意の分子であり得る。リンカーは、抗体およびエフェクター分子の両方に対して共有結合を形成できる。適当なリンカーは当業者に周知であり、直鎖型もしくは分枝型の炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、またはペプチドリンカーが含まれるがこれらに限定されない。抗体およびエフェクター分子がポリペプチドの場合、リンカーはそれらの側鎖基を通じて(例えばシステインに対するジスルフィド結合を通じて)構成アミノ酸に接続されるか、または末端アミノ酸のアルファ炭素のアミノ基とカルボキシル基に接続され得る。
【0138】
いくつかの状況において、免疫複合体がその標的部位に到達した際に、抗体からエフェクター分子が遊離することが望ましい。従って、これらの状況においては、免疫複合体は、標的部位付近で切断可能な連結を含み得る。抗体からエフェクター分子を遊離させるリンカーの切断は、酵素的作用または免疫複合体が標的細胞内もしくは標的部位付近のいずれかで曝される条件によって誘発され得る。
【0139】
様々な放射性診断用化合物、放射線療法用化合物、標識(例えば酵素または蛍光分子)薬物、毒素、およびその他の薬剤を抗体に付加させる多くの方法が報告されれていることに照らせば、当業者は、所定の薬剤を抗体またはその他のポリペプチドに付加する適当な方法を決定することができるであろう。
【0140】
本明細書中に開示される抗体または抗体フラグメントは、誘導体化されるかまたは別の分子(例えば別のペプチドまたはタンパク質)に連結され得る。一般的に、抗体またはその一部分は、誘導体化または標識によってIGF-IIへの結合が悪影響を受けないように誘導体化される。例えば、抗体は、一つ以上の他の分子性物質、例えば別の抗体(例えば二特異性抗体もしくはダイアボディー(diabody))、検出剤、薬学的薬剤、および/または抗体もしくは抗体部分と別の分子(例えばストレプトアビジンコア領域もしくはポリヒスチジンタグ)との会合を媒介できるタンパク質もしくはペプチドに、(化学的カップリング、遺伝子的融合、非共有結合的会合、またはそれ以外によって)機能的に連結され得る。
【0141】
誘導体化抗体の一つのタイプは、(例えば二特異性抗体を作製するために同じタイプまたは異なるタイプの)二つ以上の抗体を架橋することによって作製される。適当な架橋剤には、適当なスペーサーによって分離された二つの別個の反応性基を有するヘテロ二官能性(例えばm-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル)またはホモ二官能性(例えばジスクシニミジルスベレート)の架橋剤が含まれる。このようなリンカーはPierce Chemical Company, Rockford, Illから入手できる。
【0142】
IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は、検出可能な部分で標識され得る。有用な検出剤には、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、5-ジメチルアミン-1-ナフタレンスルホニルクロリド、フィコエリトリン、ランタニド蛍光体等を含む蛍光化合物が含まれる。生物発光マーカー、例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)もまた有用である。抗体はまた、検出に有用な酵素、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等で標識され得る。抗体が検出可能な酵素で標識される場合、抗体は、その酵素が識別可能な反応産物を生成するのに使用する追加の試薬を添加することによって検出され得る。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ試薬が使用される場合、過酸化水素およびジアミノベンジジンの添加により、可視的に検出できる有色反応産物が生成される。抗体はまたビオチンで標識され得、アビジンまたはストレプトアビジンの結合の間接的な測定を通じて検出され得る。アビジン自体が酵素または蛍光標識で標識され得ることにも留意されたい。
【0143】
抗体は、磁性剤、例えばガドリニウムで標識され得る。抗体はまた、ランタニド(例えばユーロピウムおよびジスプロシウム)ならびにマンガンで標識され得る。常磁性粒子、例えば超常磁性の酸化鉄もまた標識として有用である。抗体はまた、二次的レポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)で標識され得る。いくつかの態様において、標識は、潜在的な立体障害を軽減するために様々な長さのスペーサーアームにより付加される。
【0144】
抗体はまた放射性標識アミノ酸で標識され得る。放射性標識は、診断目的および治療目的の両方に使用され得る。例えば、放射性標識は、X線、発光スペクトル、またはその他の診断技術によりIGF-IIを検出するのに使用され得る。ポリペプチド用標識の例には、以下の放射性同位元素または放射性核種が含まれるがこれらに限定されない:3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I。
【0145】
抗体はまた、化学基、例えばポリエチレングリコール(PEG)、メチル基もしくはエチル基、または糖基で誘導体化され得る。これらの基は、抗体の生物学的特性を改善するのに、例えば血清半減期を増加させるのにまたは組織結合性を増加させるのに有用であり得る。一つの態様において、IGF-IIに特異的に結合する抗体は、インスリン様成長因子I型受容体(IGF-IR)のリン酸化を阻害する。IGF-IIはIGF-I受容体に結合し、チロシンのリン酸化を引き起こす。IGF-IRのチロシンリン酸化は、強力な分裂促進刺激、例えばIGF-IまたはIFG-IIの結合に対する初期反応の一つである。IGF-I受容体はIGF-IおよびIGF-IIに高親和性で結合して正常な成長および進化ならびに悪性形質転換の両方において細胞増殖を活性化し、かつチロシンキナーゼ活性を有する。IGF-IRは、ほとんどの悪性組織において高度の過剰発現され、その組織において細胞生存を亢進することによって抗アポトーシス因子として機能する。タンパク質のチロシンリン酸化状態は、抗リン酸化チロシン抗体を用いて決定され得る。さらに、SH2ドメインのリン酸化チロシン残基への結合特異性から、リン酸化状態を決定するためにチロシンリン酸化の特定のパターンが解明され得る。
【0146】
IGF-IRのチロシンリン酸化を決定するためまたは総IGF-IRレベルを測定するための免疫アッセイは、ELISAまたはウェスタンブロットである。IGF-IRの細胞表面レベルのみを評価する場合、細胞を溶解させず、本明細書中に記載のアッセイの一つを用いてIGF-IRの細胞表面レベルが測定される。一つの例において、IGF-IRの細胞表面レベルを決定するための免疫アッセイは、細胞表面タンパク質を検出可能な標識、例えば32Pで標識する工程、IGF-IRを抗IGF-IR抗体で免疫沈降させる工程、およびその後にリン酸化されたIGF-IRを検出する工程を包含する。
【0147】
IGF-IIに結合する抗体のアミノ酸配列をコードする核酸もまた、本明細書中に提供される。典型的な核酸配列は以下の通りである:


【0148】
抗体をコードする核酸分子は、本明細書中に提供されるアミノ酸配列および遺伝子コードを用いることで当業者により容易に作製され得る。さらに、当業者は、機能的に等価な核酸、例えば配列が異なるが同じエフェクター分子(「EM」)または抗体配列をコードする核酸を含む様々なクローンを容易に構築できる。従って、抗体、抱合体、および融合タンパク質をコードする核酸も本明細書中に提供される。
【0149】
IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体をコードする核酸配列は、例えば適当な配列のクローニングを含む任意の適当な方法によってまたはNarang et al., Meth. Enzymol. 68:90-99, 1979のホスホトリエステル法;Brown et al., Meth. Enzymol. 68:109-151, 1979のホスホジエステル法;Beaucage et al., Tetra. Lett. 22:1859-1862, 1981のジエチルホスホロアミダイト法;Beaucage & Caruthers, Tetra. Letts. 22(20): 1859-1862, 1981により記載された固相ホスホロアミダイトトリエステル法、例えば、例えばNeedham-VanDevanter et al., Nucl. Acids Res. 12:6159-6168, 1984に記載されるような全自動合成機を用いる方法;および米国特許第4,458,066号の固体支持法等の方法による直接的な化学合成によって調製され得る。化学合成により単鎖オリゴヌクレオチドが作製される。これは、相補配列とのハイブリダイゼーションによって、またはこの単鎖を鋳型として用いるDNAポリメラーゼによる重合反応によって二本鎖DNAに変換され得る。当業者は、DNAの化学合成は一般的には約100塩基の配列に限定されるが、短い配列の連結によってそれよりも長い配列が獲得され得ることを認識しているであろう。
【0150】
IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体をコードする典型的な核酸コード配列はクローニング技術によって調製され得る。適当なクローニングおよび配列分析技術の例、ならびに多くのクローニング実験を通じて当業者を手引きするのに十分な説明は、Sambrook et al., 前出、Berger and Kimmel (eds.), 前出、およびAusubel, 前出に見出される。生物学的試薬および実験機器の製造元からの製品情報もまた、有用な情報を提供する。このような製造元には、SIGMA Chemical Company (Saint Louis, MO)、R&D Systems (Minneapolis, MN)、Pharmacia Amersham (Piscataway, NJ)、CLONTECH Laboratories, Inc. (Palo Alto, CA)、Chem Genes Corp., Aldrich Chemical Company (Milwaukee, WI)、Glen Research, Inc., GIBCO BRL Life Technologies, Inc. (Gaithersburg, MD)、Fluka Chemica-Biochemika Analytika (Fluka Chemie AG, Buchs, Switzerland)、Invitrogen (San Diego, CA)、およびApplied Biosystems (Foster City, CA)、ならびに当業者に公知の多くのその他の販売元が含まれる。
【0151】
核酸はまた、増幅法によっても調製され得る。増幅法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写型増幅系(transcription-based amplification system)(TAS)、自律的配列複製系(self-sustained sequence replication system)(3SR)が含まれる。幅広い様々なクローニング法、宿主細胞、およびインビトロ増幅法が、当業者に周知である。
【0152】
一つの態様において、使用する抗体は、抗体由来の可変領域をコードするcDNAをエフェクター分子(EM)、例えば酵素または標識をコードするcDNAを含むベクターに挿入することによって調製される。挿入は、可変領域およびEMがインフレームで読み取られ、一続きのポリペプチドが生成されるように行われる。従って、コードされるポリペプチドは、機能的なFv領域および機能的なEM領域を含む。一つの態様において、酵素をコードするcDNAは、この酵素がscFvのカルボキシル末端に配置されるようscFvに連結される。様々な例において、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはアルカリホスファターゼまたは関心対象のポリペプチドマーカーをコードするcDNAは、この酵素(またはポリペプチドマーカー)がscFvのアミノ末端に配置されるようscFvに連結される。別の例においては、標識がscFvのアミノ末端に配置される。さらなる例において、タンパク質またはポリペプチドマーカーをコードするcDNAは、この酵素またはポリペプチドマーカーが重鎖可変領域のカルボキシル末端に配置されるように、抗体の重鎖可変領域に連結される。この重鎖可変領域はその後、ジスルフィド結合によって抗体の軽鎖可変領域に連結され得る。さらに別の例において、酵素またはポリペプチドマーカーをコードするcDNAは、この酵素またはポリペプチドマーカーが軽鎖可変領域のカルボキシル末端に配置されるよう、抗体の軽鎖可変領域に連結される。この軽鎖可変領域はその後、ジスルフィド結合により抗体の重鎖可変領域に連結され得る。
【0153】
抗体、標識抗体、またはそれらのフラグメントをコードする核酸がひとたび単離およびクローニングされれば、そのタンパク質は、適当な発現ベクターを用いて組換え操作した細胞、例えば細菌細胞、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞において発現され得る。抗体またはそのフラグメントをコードする一つ以上のDNA配列は、適当な宿主細胞へのDNAの移入によりインビトロで発現され得る。細胞は原核生物細胞または真核生物細胞であり得る。この用語は、対象の宿主細胞の任意の子孫も包含する。複製時に変異が起こり得るため全ての子孫が親細胞と同一とは言えないことが理解されている。外来DNAが宿主において継続的に維持されることを意味する安定な移入方法は当技術分野で公知である。関心対象の抗体を発現するハイブリドーマもまた、この開示に含まれる。
【0154】
抗体、標識抗体、またはそれらの機能的フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列は、発現調節配列に機能的に連結され得る。コード配列に機能的に連結される発現調節配列は、コード配列の発現が発現調節配列と適合する条件下で達成されるように連結される。発現調節配列には、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の上流の開始コドン(すなわちATG)、mRNAに適当に翻訳させるためにその遺伝子の正しいリーディングフレームを管理するイントロンに対するスプライシングシグナル、および終止コドンが含まれるがこれらに限定されない。
【0155】
抗体、標識抗体、またはそれらの機能的フラグメントをコードするポリヌクレオチド配列は、プラスミド、ウイルス、または配列の挿入もしくは組み込みをできるよう操作され、原核生物もしくは真核生物のいずれかにおいて発現され得るその他の運搬体を含むがこれらに限定されない発現ベクターに挿入され得る。宿主には、微生物、酵母、昆虫、および哺乳動物生物が含まれ得る。真核生物配列またはウイルス配列を有するDNA配列を原核生物において発現させる方法は当技術分野で周知である。宿主において発現および複製できる生物学的に機能的なウイルスおよびプラスミドDNAベクターは当技術分野で公知である。
【0156】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来的技術によって実行され得る。宿主が原核生物、例えば大腸菌の場合、DNAを取り込むことができるコンピテント細胞が、当技術分野で周知の手順を用いて指数増殖期後に収集された細胞から調製され、その後にCaCl2法で処理され得る。あるいは、MgCl2またはRbClが使用され得る。形質転換はまた、必要に応じて、宿主細胞のプロトプラストを形成した後にまたは電気穿孔法によって行われ得る。
【0157】
宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム共沈降のようなDNAトランスフェクション法、従来的な機械的手順、例えばマイクロインジェクション、電気穿孔法、リポソームまたはウイルスベクターに包まれたプラスミドの挿入が使用され得る。真核生物細胞はまた、抗体、標識抗体、またはそれらのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列および選択できる表現型をコードする第二の外来DNA分子、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子で共形質転換され得る。別の方法は、真核生物ウイルスベクター、例えばシミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスを用いて真核生物細胞を一過的にトランスフェクトまたは形質転換しタンパク質を発現させる方法である(例えばEukaryotic Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982を参照のこと)。当業者は、高等真核生物細胞、例えばCOS細胞株、CHO細胞株、HeLa細胞株、および骨髄腫細胞株を含む細胞においてタンパク質を産生するのに使用されるプラスミドおよびベクター等の発現系を容易に使用することができる。
【0158】
組換え発現されたポリペプチドの単離および精製は、分取クロマトグラフィおよび免疫学的分離を含む従来的手段により行われ得る。抗体、標識抗体、またはそれらの機能的フラグメントは、ひとたび発現されれば、硫酸アンモニウム沈降、アフィニティカラム、カラムクロマトグラフィ等の当技術分野で標準的な手順に従って精製され得る(一般論についてはR. Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, N.Y., 1982を参照のこと)。少なくとも約90〜95%の均一性の実質的に純粋な組成物が本明細書中に開示され、98〜99%またはそれ以上の均一性のものが薬学的目的で使用できる。治療的に使用される場合、ひとたび部分的にまたは所望の場合に均一な程度まで精製されれば、そのポリペプチドは内毒素を実質的に含まないはずである。
【0159】
細菌、例えば大腸菌からの単鎖抗体の発現および/または単鎖抗体を含む適当な活性形態への再フォールディングの方法は記載されかつ周知であり、これらは本明細書中に開示される抗体に適用できる。全て参照により本明細書に組み入れられるBuchner et al., Anal. Biochem. 205:263-270, 1992; Pluckthun, Biotechnology 9:545, 1991; Huse et al., Science 246:1275, 1989、および Ward et al., Nature 341 :544, 1989を参照のこと。
【0160】
多くの場合、大腸菌または他の細菌由来の機能的な異種タンパク質は、封入体から単離し、強力な変性剤を用いて可溶化しその後に再フォールディングさせる必要がある。当技術分野で周知のように、可溶化工程の間、ジスルフィド結合を解離させるために還元剤が存在しなければならない。還元剤を含む典型的な緩衝液は、0.1M Tris pH8、6Mグアニジン、2mM EDTA、0.3M DTE(ジチオエリスリトール)である。ジスルフィド結合の再酸化は、参照により本明細書に組み入れられるSaxena et al., Biochemistry 9: 5015-5021, 1970および特にBuchner et al., 前出に記載されるように、還元型および酸化型の低分子量チオール試薬の存在下で行われ得る。
【0161】
再生は典型的には、変性および還元されたタンパク質を再フォールディング緩衝液に希釈(例えば100倍)することによって達成される。典型的な緩衝液は0.1M Tris、pH8.0、0.5M L-アルギニン、8mM酸化型グルタチオン(GSSG)、および2mM EDTAである。
【0162】
二本鎖抗体精製プロトコルの改良版においては、重鎖領域および軽鎖領域を別々に可溶化および還元し、次いで再フォールディング溶液でひとつにする。典型的な収率は、一方のタンパク質が他方の5倍モル濃度過剰を超えないようなモル濃度比でこれら二つのタンパク質が混合された場合に獲得される。過剰な酸化型グルタチオンまたは他の酸化性低分子量化合物が、酸化還元シャッフリングを完遂した後に再フォールディング溶液に加えられ得る。
【0163】
組換え方法に加えて、本明細書中に開示される抗体、標識抗体、およびそれらの機能的フラグメントはまた、その全体または一部が標準的なペプチド合成を用いて構築され得る。約50アミノ酸長未満のポリペプチドの固相合成は、その配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に結合させ、その後にその配列の残りのアミノ酸を逐次的に付加することによって達成され得る。固相合成技術は、Barany & Merrifield, The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology. Vol. 2: Special Methods in Peptide Synthesis, Part A. pp. 3-284; Merrifield et al., J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2156, 1963, およびStewart et al., Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chem. Co., Rockford, Ill., 1984に記載されている。長いタンパク質は、それより短いフラグメントのアミノ末端およびカルボキシル末端の縮合によって合成され得る。カルボキシル末端の活性化により(例えばカップリング試薬N,N'-ジシロヘキシルカルボジイミド(N, N'-dicylohexylcarbodimide)の使用により)ペプチド結合を形成する方法が当技術分野で周知である。
【0164】
本明細書中に開示される抗IGF-IR抗体に加えて、組換え抗IGF-IRヒト抗体が、ヒトリンパ球由来のmRNAから調製された重鎖および軽鎖の可変領域のcDNAを用いて調製された、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリ、好ましくはscFvファージディスプレイライブラリのスクリーニングによって単離され得る。このようなライブラリを調製およびスクリーニングする方法は当技術分野で公知である。ファージディスプレイライブラリ作製用のキットは販売されている(例えばファルマシアリコンビナントファージアンチボディシステム、カタログ番号27-9400-01;およびストラタジーンSurfZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)。抗体ディスプレイライブラリの作製およびスクリーニングに使用され得る他の方法および試薬も存在する(例えば、米国特許第5,223,409号;PCT公開番号WO 92/18619;PCT公開番号WO 91/17271;PCT公開番号WO 92/20791;PCT公開番号WO 92/15679;PCT公開番号WO 93/01288;PCT公開番号WO 92/01047;PCT公開番号WO 92/09690;Fuchs et al., Bio/Technology 9:1370-1372, 1991;Hay et al., Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85, 1992;Huse et al., Science 246:1275-1281, 1989;McCafferty et al., Nature 348:552-554,1990;Griffiths et al. EMBO J 12:725-734, 1993を参照のこと)。
【0165】
一つの態様において、IGF-IIに特異的に結合するさらなるヒト抗体を単離するため、本明細書中に記載されるIGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は最初に、例えばPCT公開番号WO 93/06213に開示されるエピトープインプリンティング法を用いて、IGF-IIに対して類似の結合活性を有するヒト重鎖配列およびヒト軽鎖配列を選択するのに使用される。この方法において使用される抗体ライブラリは、PCT公開番号WO 92/01047、McCafferty et al., Nature 348:552-554, 1990;および/またはGriffiths et al., EMBO J 12:725-734, 1993に記載されるような方法を用い、ヒトIGF-IIを抗原として用いて調製およびスクリーニングされるscFvライブラリである。
【0166】
ひとたび最初のヒト軽鎖可変(VL)セグメントおよびヒト重鎖可変(VH)セグメントが選択されれば、最初に選択されたVLセグメントおよびVHセグメントの異なる対をIGF-II結合についてスクリーニングする「ミックス・アンド・マッチ(mix and match)」実験が行われ、関心対象のVL/VH対の組み合わせが選択される。さらに、抗体の結合親和性を増加させるため、自然免疫反応時の抗体の親和性の成熟を担うインビボ体細胞変異プロセスに類似のプロセスによって、VLセグメントおよびVHセグメントに対して、例えばH〜CDR3領域またはL-CDR3領域内に無作為の変異導入がなされ得る。このインビトロ親和性成熟は、H-CDR3またはL-CDR3に相補的なPCRプライマーを用いる、それぞれVH領域およびVL領域の増幅によって達成され得る。このプロセスにおいて、プライマーは、特定位置において4つのヌクレオチド塩基の無作為混合物で「スパイク」され、その結果、得られるPCR産物はVHおよび/またはVLのCDR3領域に無作為変異が導入されたVHセグメントおよびVLセグメントをコードする。これらの無作為変異VHセグメントおよびVLセグメントは、IGF-IIへの結合親和性を決定するため試験され得る。
【0167】
IGF-IIに結合する抗体を組換え免疫グロブリンディスプレイライブラリからスクリーニングおよび単離した後、選択された抗体をコードする核酸がディスプレイパッケージから(例えばファージゲノムから)回収され、上記のような標準的な組換えDNA技術によって他の発現ベクターにサブクローニングされ得る。所望の場合、核酸はさらに、以下にも記載されるように他の抗体フラグメントを形成するよう操作され得る。コンビナトリアルライブラリのスクリーニングによって単離された組換えヒト抗体を発現させるために、抗体をコードするDNAは、上記のように組換え発現ベクターにクローニングされ哺乳動物宿主細胞に導入される。
【0168】
組成物および治療方法
本明細書中に開示されるIGF-IIに特異的に結合する抗体の一つ以上を担体中に含む組成物が提供される。この組成物は、被検体への投与のために単一剤形として調製され得る。所望の目的を達成するための投与量およびタイミングは、治療を行う医師の裁量による。抗体は、全身投与または局所(例えば腫瘍内)投与用に処方され得る。一つの例において、IGF-IIに特異的に結合する抗体は、非経口投与、例えば静脈内投与のために処方される。
【0169】
投与用組成物は、IGF-IIに特異的に結合する抗体を薬学的に許容される担体、例えば水性担体に溶解させた抗体溶液を含み得る。様々な水性担体、例えば緩衝生理食塩水等が使用され得る。これらの溶液は無菌性であり一般的に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来的な周知の滅菌技術によって滅菌され得る。この組成物は、生理学的条件に近づけるのに必要な薬学的に許容される補助物質、例えばpH調整・緩衝剤、毒性調整剤等、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等を含み得る。これらの処方物における抗体濃度は多様であり得、それは主として選択された特定の投与様式および被検体の要求に従い流体の体積、粘性、体重等に基づき選択され得る。
【0170】
静脈内投与用の典型的な薬学的組成物は、一被検体一日あたり約0.1〜10mgの抗体を含む。特に薬剤が循環系またはリンパ系にではなく隔離された部位に、例えば体腔または器官の内腔に投与される場合、一被検体一日あたり0.1〜最大約100mgの用量が使用され得る。投与可能な組成物の実際の調製方法は公知かつ当業者に明らかであり、Remington's Pharmaceutical Science, 19th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA (1995)等の刊行物により詳細に記載されている。
【0171】
抗体は凍結乾燥形態で提供され、投与前に滅菌水で再水和され得るが、これらはまた既知濃度の滅菌溶液としても提供される。次いで抗体溶液は、0.9%塩化ナトリウム、USPを含有する注入用バッグに加えられ、典型的には0.5〜15mg/kg体重の用量で投与される。1997年にRITUXAN(登録商標)が承認されて以降、米国で販売されている抗体薬物の投与に関しては当技術分野で多くの経験が蓄積されている。抗体は、静脈への押し込みまたはボーラスではなく穏やかな注入によって投与され得る。一つの例において、高用量のローディング量が投与され、その後に低レベルのメンテナンス量が投与される。例えば、4mg/kgの初期ローディング量が約90分の時間をかけて注入され、その後、4〜8週の間、前回の用量が十分に許容された場合に、一週間に一回、2mg/kgのメンテナンス量が30分の時間をかけて注入される。
【0172】
別の態様において、本発明は、IGF-IIに結合する抗体をそれを必要とする被検体に投与することによるIGF-IR活性の阻害方法を提供する。従って、本明細書中に開示される抗体は治療的に使用され得る。一つの例において、被検体はヒトである。抗体は、この抗体と交差反応するIGF-IIを発現する非ヒト哺乳動物(例えば霊長類、またはカニクイザルもしくはアカゲザル)に投与され得る。動物モデル、例えば霊長類モデルは、本発明の抗体の治療効果を評価するのに有用であり得ることに留意されたい。
【0173】
抗体は、高レベルのIGF-I受容体活性の存在が疾患もしくは障害の病態生理を示しているかまたはそれを担っている疑いがあるかまたはその疾患もしくは障害の悪化に寄与する因子である疾患または障害を有する被検体に投与され得る。従って、IGF-I受容体(IGF-IR)活性の阻害は、この障害の症状および/または進行を和らげることが期待される。このような障害は、例えば、細胞表面上のIGF-IRレベルの増加またはこの障害に罹患した被検体において影響を受ける細胞もしくは組織におけるIGF-IRのチロシン自己リン酸化の増加によって明らかにされ得る。
【0174】
IGF-IIに特異的に結合する抗体は、細胞、例えば腫瘍細胞の成長を緩和または阻害するために投与され得る。これらの適用において、腫瘍の成長を阻害または腫瘍の徴候もしくは症状を阻害するのに十分な量の、治療的有効量の抗体が被検体に投与される。適当な被検体には、IGF-I受容体を発現する腫瘍を有する被検体、例えば、肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌(stomach cancer)、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌に罹患した被検体が含まれる。一つの態様において、癌、例えば脳腫瘍、扁平上皮癌、膀胱癌、胃癌、膵癌、乳癌、頭部癌、頸部癌、食道癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肺癌、腎癌(renal cancer)、腎臓癌(kidney cancer)、卵巣癌、婦人科癌、または甲状腺癌の処置法が提供される。
【0175】
多発性骨髄腫、体液性腫瘍(liquid tumor)、肝癌、胸腺障害、T細胞媒介性自己免疫疾患、内分泌学的障害(endocronological disorder)、虚血、神経変性障害、肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫もしくは眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌(stomach cancer)、結腸癌、乳癌、婦人科腫瘍(例えば子宮肉腫、ファローピウス管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、もしくは外陰の癌腫)、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌(例えば、甲状腺癌、副甲状腺癌、もしくは副腎癌)、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性白血病もしくは性白血病、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓もしくは尿管の癌(例えば腎細胞癌、腎盤癌)、または中枢神経系の新生物(例えば、原発性CNSリンパ腫、脊髄軸腫瘍(spinal axis tumor)、脳幹神経膠腫、もしくは下垂体腺腫)を有する被検体の処置方法も本明細書中に提供される。いくつかの例において、IGF-IIに結合するヒト抗体は、前立腺癌、神経膠腫、または線維肉腫を有する患者に投与される。さらなる例において、IGF-IIに結合するヒト抗体は、肺癌、乳癌、前立腺癌、または結腸癌を有する被検体に投与される。他の例において、この方法により腫瘍の重量もしくは容積は増加しないかまたは重量もしくは容積が減少する。
【0176】
この用途で有効な量は、疾患の重症度および全般的な患者の健康状態に依存する。抗体の治療的有効量とは、臨床医または他の資格を有する観察者によって認識される症状の主観的な緩和または客観的に特定できる改善のいずれかを提供する量である。一つの例において、抗体の量は、IGF-I受容体のリン酸化を阻害するのに十分な量である。これらの組成物は、別の化学療法剤と合わせて、同時にまたは逐次的にのいずれかにより投与され得る。
【0177】
現在、多くの化学療法剤が当技術分野で公知である。一つの態様において、化学療法剤は、分裂抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、インターカレート系抗生物質(intercalating antibiotic)、成長因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、抗生存剤(anti-survival agent)、生物学的反応調製剤(biological response modifier)、抗ホルモン、例えば抗アンドロゲン、および抗血管新生剤からなる群より選択される。
【0178】
抗血管新生剤、例えばMMP-2(マトリックスメタロプロテイナーゼ2)阻害剤、MMP-9(マトリックスメタロプロテイナーゼ9)阻害剤、およびCOX-II(シクロオキシゲナーゼII)阻害剤は、本発明の化合物と組み合わせて使用され得る。有用なCOX-II阻害剤の例には、CELEBREX(商標)(アレコキシブ(alecoxib))、バルデコキシブ、およびロフェコキシブが含まれる。有用なマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤の例は、PCT公開番号WO 96/33172(1996年10月24日公開)、PCT公開番号WO 96/27583(1996年3月7日公開)、欧州特許出願番号97304971.1(1997年7月8日出願)、欧州特許出願番号99308617.2(1999年10月29日出願)、PCT公開番号WO 98/07697(1998年2月26日公開)、PCT公開番号WO 98/03516(1998年1月29日公開)、PCT公開番号WO 98/34918(1998年8月13日公開)、PCT公開番号WO 98/34915(1998年8月13日公開)、PCT公開番号WO 98/33768(1998年8月6日公開)、PCT公開番号WO 98/30566(1998年7月16日公開)、欧州特許公報番号606,046(1994年7月13日公開)、欧州特許公報番号931,788(1999年7月28日公開)、PCT公開番号WO 90/05719(1990年5月31日公開)、PCT公開番号WO 99/52910(1999年10月21日公開)、PCT公開番号WO 99/52889(1999年10月21日公開)、PCT公開番号WO 99/29667(1999年6月17日公開)、PCT国際出願番号PCT/IB98/01113(1998年7月21日出願)、欧州特許出願番号99302232.1(1999年3月25日出願)米国特許第5,863,949号(1999年1月26日発行)、米国特許第5,861,510号(1999年1月19日発行)、および欧州特許公報780,386(1997年6月25日公開)に記載される。一つの例において、MMP阻害剤は、投与によっても関節痛を誘導しない。別の例において、MMP阻害剤は、他のマトリックスメタロプロテイナーゼ(例えばMMP-1、MMP-3、MMP-4、MMP-5、MMP-6、MMP-7、MMP-8、MMP-10、MMP-11、MMP-12、およびMMP-13)と比較してMMP-2および/またはMMP-9を選択的に阻害する。使用するMMP阻害剤のいくつかの具体例は、AG-3340、RO 32-3555、RS 13-0830、3-[[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニル]-(1-ヒドロキシカルバモイル-シクロペンチル)-アミノ]-プロピオン酸;3-エキソ-3-[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-8-オキサ-ビシクロ[3.2.1]オクタン-3-カルボン酸ヒドロキシアミド;(2R, 3R)l-[4-(2-クロロ-4-フルオロ-ベンジルオキシ)-ベンゼンスルホニル]-3-ヒドロキシ-3-メチル-ピペリジン-2-カルボン酸ヒドロキシアミド;4-[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸ヒドロキシアミド;3-[[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニル]-(1-ヒドロキシカルバモイル-シクロブチル)-アミノ]-プロピオン酸;4-[4-(4-クロロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸ヒドロキシアミド;(R)3-[4-(4-クロロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-テトラヒドロ-ピラン-3-カルボン酸ヒドロキシアミド;(2R,3R)l-[4-(4-フルオロ-2-メチル-ベンジルオキシ)-ベンゼンスルホニル]-3-ヒドロキシ-3-メチル-ピペリジン-2-カルボン酸ヒドロキシアミド;3-[[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニル]-(l-ヒドロキシカルバモイル-l-メチル-エチル)-アミノ]-プロピオン酸;3-[[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニル]-(4-ヒドロキシカルバモイル-テトラヒドロ-ピラン-4-イル)-アミノ]-プロピオン酸;3-エキソ-3-[4-(4-クロロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-8-オキサイシクロ(oxaicyclo)[3.2.1]オクタン-3-カルボン酸ヒドロキシアミド;3-エンド-3 -[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-8-オキサ-イシクロ(icyclo)[3.2.1]オクタン-3-カルボン酸ヒドロキシアミド;および(R)3-[4-(4-フルオロ-フェノキシ)-ベンゼンスルホニルアミノ]-テトラヒドロ-フラン-3-カルボン酸ヒドロキシアミド;ならびに薬学的に許容される上記化合物の塩および溶媒和物である。
【0179】
IGF-IIに特異的に結合する抗体はまた、シグナル伝達阻害剤、例えばEGF-R(上皮成長因子受容体)反応を阻害できる薬剤、例えばEGF-R抗体、EGF抗体、およびEGF-R阻害分子;VEGF(血管内皮増殖因子)阻害剤、例えばVEGF受容体およびVEGFを阻害できる分子;ならびにerbB2受容体阻害剤、例えばerbB2受容体に結合する有機分子または抗体、例えばHERCEPTIN(商標)(Genentech, Inc.)と共に使用され得る。EGF-R阻害剤は、例えばPCT公開番号WO 95/19970(1995年7月27日公開)、WO 98/14451(1998年4月9日公開)、WO 98/02434(1998年1月22日公開)、および米国特許第5,747,498号(1998年5月5日発行)に記載される。EGFR阻害性薬剤には、モノクローナル抗体C225および抗EGFR 22Mab(ImClone Systems Incorporated)、ABX-EGF(Abgenix/Cell Genesys)、EMD-7200(Merck KgaA)、EMD-5590(Merck KgaA)、MDX-447/H-477(Medarex Inc.およびMerck KgaA)、ならびに化合物ZD-1834、ZD-1838、およびZD-1839(AstraZeneca)、PKI-166(Novartis)、PKI-166/CGP-75166(Novartis)、PTK 787(Novartis)、CP 701(Cephalon)、レフルノミド(Pharmacia/Sugen)、Cl-1033(Warner Lambert Parke Davis)、Cl-1033/PD 183,805(Warner Lambert Parke Davis)、CL-387,785(Wyeth-Ayerst)、BBR-1611(Boehringer Mannheim GmbH/Roche)、Naamidine A(Bristol Myers Squibb)、RC-3940-II(Pharmacia)、BIBX-1382(Boehringer Ingelheim)、OLX-103(Merck & Co.)、VRCTC-310(Ventech Research)、EGF融合毒素(Seragen Inc.)、DAB-389(Seragen/Lilgand)、ZM-252808(Imperial Cancer Research Fund)、RG-50864(INSERM)、LFM-A12(Parker Hughes Cancer Center)、WHI-P97(Parker Hughes Cancer Center)、GW-282974(Glaxo)、KT-8391(協和発酵)、およびEGF-Rワクチン(York Medical/Centro de Immunologia Molecular(CIM))も含まれるがこれらに限定されない。
【0180】
VEGF阻害剤、例えばSU-5416およびSU-6668(Sugen Inc.)、SH-268(Schering)、ならびにNX-1838(NeXstar)もまた、IGF-IIに特異的に結合する抗体と組み合わせて使用され得る。VEGF阻害剤は、例えばPCT公開番号WO 99/24440(1999年5月20日公開)、PCT国際出願PCT/IB99/00797(1999年5月3日出願)、PCT公開番号WO 95/21613(1995年8月17日公開)、PCT公開番号WO 99/61422(1999年12月2日公開)、米国特許第5,834,504号(1998年11月10日発行)、PCT公開番号WO 98/50356(1998年11月12日公開)、米国特許第5,883,113号(1999年3月16日発行)、米国特許第5,886,020号(1999年3月23日発行)、米国特許第5,792,783号(1998年8月11日発行)、PCT公開番号WO 99/10349(1999年3月4日公開)、PCT公開番号WO 97/32856(1997年9月12日公開)、PCT公開番号WO 97/22596(1997年6月26日公開)、PCT公開番号WO 98/54093(1998年12月3日発行)、PCT公開番号WO 98/02438(1998年1月22日発行)、WO 99/16755(1999年4月8日公開)、およびPCT公開番号WO 98/02437(1998年1月22日公開)に記載される。いくつかの具体的なVEGF阻害剤の他の例は、IM862(Cytran Inc.);Genentech Inc.の抗VEGFモノクローナル抗体;ならびにRibozymeおよびChironの合成リボザイムであるアンジオザイム(angiozyme)である。これらおよびその他のVEGF阻害剤は、IGF-IIに特異的に結合する抗体と組み合わせて使用され得る。
【0181】
さらに、erbB2受容体阻害剤、例えばGW-282974(Glaxo Wellcome pic)ならびにモノクローナル抗体AR-209(Aronex Pharmaceuticals Inc.)および2B-1(Chiron)、例えばPCT公開番号WO 98/02434(1998年1月22日公開)、PCT公開番号WO 99/35146(1999年7月15日公開)、PCT公開番号WO 99/35132(1999年7月15日公開)、PCT公開番号WO 98/02437(1998年1月22日公開)、PCT公開番号WO 97/13760(1997年4月17日公開)、PCT公開番号WO 95/19970(1995年7月27日公開)、米国特許第5,587,458号(1996年12月24日発行)、および米国特許第5,877,305(1999年3月2日発行)に示されるerbB2受容体阻害剤が、本発明の化合物と組み合わされ得る。使用されるerbB2受容体阻害剤は、1999年1月27日に出願された米国仮出願番号60/117,341および1999年1月27日に出願された米国仮出願番号60/117,346にも記載される。
【0182】
この組成物の一回または複数回の投与は、必要な場合に用量および頻度に依存して投与され、患者により許容される。いかなる場合においても、この組成物は、患者を効果的に処置するのに十分な量の本明細書中に開示される抗体の少なくとも一つを提供するべきである。用量は一度に投与される場合もあるが、治療的結果が達成されるまでまたは副作用が治療の中止の理由となるまで一定期間毎に適用される場合もある。一つの例において、一定量の抗体は、一日おきに30分間かけて注入される。この例において、約1回〜約10回分の用量が投与され、例えば3回または6回分の用量が一日おきに投与され得る。さらなる例において、継続的な注入が約5〜約10日間行われる。被検体は、所望の治療的結果が達成されるまで一定間隔で、例えば毎月処置され得る。一般的に、用量は、患者に対して受け入れられない毒性を生じることなく疾患の症状または徴候を処置または好転させるのに十分な用量である。一つの例において、用量は、IGF-I受容体のリン酸化を減少させるのに十分な用量である。
【0183】
制御放出用非経口処方物は、移植片、油状注射物、または粒子系として作製され得る。タンパク質送達系の幅広い総説については、参照により本明細書に組み入れられるBanga, A. J., Therapeutic Peptides and Proteins: Formulation, Processing, and Delivery Systems, Technomic Publishing Company, Inc., Lancaster, PA, (1995)を参照のこと。粒子系には、ミクロスフェア、微粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフィア、およびナノ粒子が含まれる。マイクロカプセルは、中心核として治療用タンパク質、例えば細胞毒または薬物を含有する。マイクロスフィアにおいては、治療剤はその粒子全体に分散されている。約1μmより小さい粒子、マイクロスフィア、およびマイクロカプセルは、一般的に、それぞれナノ粒子、ナノスフィア、およびナノカプセルと称される。毛細血管は、およそ5μmの直径を有するので、ナノ粒子のみが静脈内に投与される。微粒子は、典型的には100μm径付近であり、皮下投与または筋内投与される。例えば、両方とも参照により本明細書に組み入れられるKreuter, J., Colloidal Drug Delivery Systems, J. Kreuter, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, NY, pp.219-342 (1994);およびTice & Tabibi, Treatise on Controlled Drug Delivery, A. Kydonieus, ed., Marcel Dekker, Inc. New York, NY, pp.315-339, (1992)を参照のこと。
【0184】
ポリマーは、本明細書中に開示される抗体組成物のイオン制御放出のために使用され得る。薬物の制御送達において使用するための様々な分解性および非分解性ポリマーマトリックスが当技術分野で公知である(Langer, Accounts Chem. Res. 26:537-542, 1993)。例えば、ブロックコポリマー、ポラキサマー(polaxamer)407は、低温では粘性の流動性液体として存在するが、体温では半固体ゲルを形成する。これは、組換えインターロイキン-2およびウレアーゼの処方ならびに持続的送達にとって効果的な媒体であることが示されている(Johnston et al., Pharm. Res. 9:425-434, 1992;およびPec et al., J. Parent. Sci. Tech. 44(2):58-65, 1990)。あるいは、ヒドロキシアパタイトが、タンパク質の制御放出のためのマイクロキャリアとして使用される(Ijntema et al., Int. J. Pharm.112:215-224, 1994)。さらに別の局面において、リポソームが、脂質により被包された薬物の制御放出および薬物標的化のために使用される(Betageri et al., Liposome Drug Delivery Systems, Technomic Publishing Co., Inc., Lancaster, PA (1993))。治療用タンパク質の制御送達のための多くのさらなる系が公知である(米国特許第5,055,303号;米国特許第5,188,837号;米国特許第4,235,871号;米国特許第4,501,728号;米国特許第4,837,028号;米国特許第4,957,735号;米国特許第5,019,369号;米国特許第5,055,303号;米国特許第5,514,670号;米国特許第5,413,797号;米国特許第5,268,164号;米国特許第5,004,697号;米国特許第4,902,505号;米国特許第5,506,206号;米国特許第5,271,961号;米国特許第5,254,342号、および米国特許第5,534,496号を参照のこと)。
【0185】
診断方法および診断キット
インビトロまたはインビボでIGF-IIの発現を検出する方法が本明細書中に提供される。一つの例において、IGF-IIの発現は、生物学的サンプルにおいて検出される。サンプルは、生検、剖検、および病理検体由来の組織を含むがこれらに限定されない任意のサンプルであり得る。生物学的サンプルには、組織片、例えば組織学的目的で採取された凍結切片も含まれる。さらに生物学的サンプルには、体液、例えば血液、血清、血漿、痰、髄液、または尿を含む。生物学的サンプルは、典型的には哺乳動物、例えばラット、マウス、ウシ、イヌ、モルモット、ウサギ、または霊長類から獲得される。一つの態様において、霊長類は、マカク、チンパンジー、またはヒトである。
【0186】
様々な態様において、悪性疾患、例えば肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌を検出する方法が提供される。
【0187】
さらなる態様において、多発性骨髄腫、体液性腫瘍、肝癌、胸腺障害、T細胞媒介性自己免疫疾患、内分泌学的障害、虚血、神経変性障害、肺癌、骨癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚黒色腫もしくは眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部癌、胃癌、結腸癌、乳癌、婦人科腫瘍(例えば子宮肉腫、ファローピウス管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、もしくは外陰の癌腫)、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌(例えば、甲状腺癌、副甲状腺癌、もしくは副腎癌)、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性白血病もしくは性白血病、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓もしくは尿管の癌(例えば腎細胞癌、腎盤癌)、または中枢神経系の新生物(例えば、原発性CNSリンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、もしくは下垂体腺腫)を検出する方法が提供される。上記の悪性疾患のいずれかを有する被検体の予後を決定する方法もまた提供される。
【0188】
本発明は、IGF-IIに結合するヒト抗体と生物学的サンプルを免疫複合体が形成され得る条件下で接触させる工程、および生物学的サンプル中のIGF-IIを検出するために免疫複合体を検出する工程を包含する、生物学的サンプル中のIGF-IIの検出方法を提供する。一つの例において、サンプル中でのIGF-IIの検出は、被検体が悪性疾患を有することを示す。別の例において、サンプル中でのIGF-IIの検出は、被検体が転移を起こし易いことを示す。
【0189】
一つの態様において、IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は、検出可能な標識で直接的に標識される。別の態様において、IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体(第一抗体)は標識されず、IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体に結合できる第二抗体または他の分子が標識される。当業者に周知の通り、第二抗体は、第一抗体の特定の種およびクラスに特異的に結合できるものが選択される。例えば、第一抗体がヒトIgGの場合、第二抗体は抗ヒトIgGであり得る。抗体に結合できる他の分子には、プロテインAおよびプロテインGが含まれるがこれらに限定されず、これらは両方とも市販されている。
【0190】
抗体または二次抗体に適した標識は上記の通りであり、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、磁性剤、および放射性物質が含まれる。適当な酵素の非限定的な例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが含まれる。適当な補欠分子族複合体の非限定的な例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれる。適当な蛍光物質の非限定的な例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンが含まれる。発光物質の非限定的な例はルミノールであり;磁性剤の非限定的な例はガドリニウムであり、放射性標識の非限定的な例には125I、131I、35S、または3Hが含まれる。
【0191】
代替の態様において、IGF-IIは、検出可能な物質で標識されたIGF-II標準およびIGF-IIに特異的に結合する非標識ヒト抗体を用いる競合免疫アッセイによって生物学的サンプルにおいてアッセイされ得る。このアッセイにおいて、生物学的サンプル、標識IGF-II標準、およびIGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は混合され、非標識抗体に結合した標識IGF-II標準の量が決定される。生物学的サンプル中のIGF-IIの量は、IGF-IIに特異的に結合する抗体に結合した標識IGF-II標準の量と反比例する。
【0192】
この免疫アッセイおよび本明細書中に開示される方法は、多くの目的で使用され得る。一つの態様において、IGF-IIに特異的に結合するヒト抗体は、細胞培養物中の細胞におけるIGF-II産生を検出するのに使用され得る。別の態様において、この抗体は、生物学的サンプル中のIGF-IIの量を検出するのに使用され得る。IGF-IIの発現の増加は、肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌を含む様々なタイプの癌と関連する。従って、IGF-IIのレベルは、被検体における肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌を診断、またはその予後を決定するのに使用され得る。
【0193】
一つの態様において、生物学的サンプル、例えば血液サンプル中のIGF-IIを検出するためのキットが提供される。ポリペプチドを検出するためのキットは、典型的にはIGF-IIに特異的に結合するヒト抗体、例えば本明細書中に開示される抗体のいずれかを含み得る。いくつかの態様において、抗体フラグメント、例えばFvフラグメントがキットに含まれる。インビボで使用するための抗体はscFvフラグメントであり得る。さらなる態様において、抗体は、(例えば蛍光標識、放射性標識、または酵素標識によって)標識される。
【0194】
一つの態様において、キットは、IGF-IIに特異的に結合する抗体の使用方法を開示する説明書を含む。説明書は書面上のもの、電磁的形態(例えばコンピュータディスケットもしくはコンパクトディスク)のものの場合もあるし、映像によるもの(例えばビデオファイル)の場合もある。キットはまた、キットの予定する特定の適用を容易にするための追加の要素を含み得る。従って、例えば、キットは、標識を検出する手段(例えば酵素標識については酵素基質、蛍光標識を検出するためのフィルターセット、適当な二次的標識、例えば二次抗体等)をさらに含み得る。キットはさらに、特定の方法を実施するのに慣用的に使用される緩衝液およびその他の試薬を含み得る。このようなキットおよび適当な内容物は、当業者に周知である。
【0195】
一つの態様において、診断キットは免疫アッセイを含む。免疫アッセイの細部は使用される特定の様式によって変化し得るが、生物学的サンプル中のIGF-IIの検出方法は一般的に、免疫学的反応条件下でIGF-IIポリペプチドと特異的に反応する抗体と生物学的サンプルを接触させる工程を包含する。抗体は免疫学的反応条件下で特異的に結合して免疫複合体を形成し、免疫複合体(結合した抗体)の存在は直接的または間接的に検出される。
【0196】
細胞表面マーカーの存在または非存在を決定する方法は、当技術分野で周知である。例えば、抗体は、酵素、磁気ビーズ、コロイド状の磁気ビーズ、ハプテン、蛍光色素、金属化合物、放射性化合物、または薬物を含むがこれらに限定されない他の化合物と抱合され得る。抗体または、例えば放射免疫測定(RIA)、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、または免疫組織化学アッセイであるがこれらに限定されない免疫アッセイにおいて使用され得る。抗体はまた、蛍光標識細胞分取(FACS)に使用され得る。FACSは、細胞を分離または分別するために、他のより高品位の検出の中でも、複数のカラーチャネル、小角および鈍角光散乱検出チャネル、ならびにインピーダンスチャネルを利用する(米国特許第5,061,620号を参照のこと)。本明細書中に開示されるようなIGF-IIに特異的に結合するヒト抗体のいずれかがこれらのアッセイにおいて使用され得る。従って、抗体は、ELISA、RIA、FACS、組織免疫組織化学、ウェスタンブロット、または免疫沈降を含むがこれらに限定されない従来的な免疫アッセイにおいて使用され得る。
【0197】
実施例
実施例1
新規IGF-II Fab抗体の同定および特徴付け
長鎖IGF-IIをコードするDNA配列を、プラスミドpRc/CMV-Ligf2から大腸菌発現ベクターpRESTにクローニングし、pRSET-Ligfを作製した。pRSET-Ligfで形質転換したBL21Lys細胞をOD600が0.6に達するまでLBブロス中、37℃で培養し、OD600が0.6に達した時点から1mM IPTGを用いて3時間誘導した。Hisタグを付加した長鎖IGF-II(長鎖His6-IGF-II)をPBS/0.5M NaClに溶解させ、HiTrapニッケルキレートカラム(Amersham Biosciences Corp.)を用いて精製した。精製した長鎖His6-IGF-IIをPBSに対して透析し、SDS-PAGEによって純度を評価した。
【0198】
精製した長鎖His6-IGF-IIを用いて、5×109個の別個のクローンを含む未処理のヒトFabファージライブラリをスクリーニングした。長鎖His6-IGF-IIを、96ウェルMaxiSorbプレート(Nalge Nunc)上に2μg/ウェルとなるようコーティングし、非特異的な結合部位を3%濾過乳汁(filtered milk)/PBSでブロッキングした。精製したファージ(1×1012pfu)を室温で2時間プレートに結合させ、その後に0.05% Tween 20を含むPBSでウェルを10回洗浄した。結合したファージを、新しく調製した100mMトリエチルアミンで溶出させ、1M Tris、pH8.0で中和させ、これを指数増殖期のTG-1大腸菌細胞を感染させるのに使用した。ファージ粒子は、M13株KO7ヘルパーファージによって救出した。このスクリーニングプロセスを4回実行し、各ラウンド後にファージの産出量を測定した。4ラウンドのファージ産出量は、1.7×106、3.4×106、2.0×106、および1.6×107pfuであった。各ラウンド後にファージクローンをプールし、各プールのIGF-IIに対する結合親和性をELISAによって測定した。成熟IGF-IIを、細い96ウェルプレート上に50ng/ウェルとなるよう4℃で一晩コーティングし、次いでおよそ1×106の各プールのファージと共にインキュベートした。結合したファージはHRP結合抗M13 pAb(Pharmacia)で検出した。ファージの結合レベルは、第二ラウンドと第三ラウンドの間で劇的に増加し、その後の第三ラウンドと第四ラウンドの間でわずかにのみ増加した。同じ結果が、抗原として長鎖His6-IGF-IIを用いて観察された。
【0199】
第三ラウンドの200コロニーおよび第四ラウンドの200コロニーを採取し、可溶型Fabの発現のために、96ウェルプレート上の2YT培地に接種した。4〜5時間の培養後、IPTGを加えてFab発現を誘導した。一晩発現させた後、各コロニーのFabを、抗原として長鎖IGF-IIを用いるELISAに供した。IGF-IIを、細い96ウェルプレート上に50ng/ウェルとなるよう4℃で一晩コーティングし、次いで50μlの発現上清と共にインキュベートした。
【0200】
IGF-IIへの結合性を示した10個のFabをpComIIIにクローニングし、個別にHB2151細胞を形質転換した。細胞をOD600が0.5に達するまで100μg/mlアンピシリンおよび0.2%グルコースを含む2YT培地中、37℃で250rpmで振盪し、OD600が0.5に達した時点で1mM IPTGを加えて可溶型Fabの発現を誘導した。30℃で一晩培養した後、培養物を収集した。細菌を5,000gで15分間遠心分離し、そのペレットをポリマイシンB(10,000単位/ml)を含むPBSに再懸濁した。可溶型Fabを、室温で45分間インキュベートすることによってペリプラズムから遊離させ、その抽出物を15,000gで30分間清澄化した。透明な上清をプロテインGカラムによる精製のために回収し、Fabの発現レベルをSDS-PAGEによって測定した。m606、m610、およびm616クローンについての実験結果を図3Aのはめ込み図に示す。発現レベルを++++、+++、++、または-で分類した。++++は>1mg/L培養物の収率を示し、+++は1mg/L〜0.1mg/Lの収率を示し、++は<0.1mg/LであるがFabの精製には十分高い収率を示し、+はFabの精製に不十分な、かろうじて検出できる発現レベルを示し、-は発現なしを示す。クローンのうちの5つ(m606、m610、m616、m641、およびm627)が有意なレベルで発現され、m606およびm610が最も強い発現を示した(表1)。
【0201】
有意な発現レベルを示した5つのクローンのFabを、抗原として長鎖IGF-IIを用いるELISAに供した。抗原を、細い96ウェルプレート上に50ng/ウェルとなるよう4℃で一晩コーティングし、次いで4μM〜1.28pMの範囲の濃度のFabと共にインキュベートした。結合したFabはHRP結合抗FLAG mAb(1:1000)(Sigma)で検出し、この反応をOD405で読み取った。m606クローンについての実験結果を図3Aに示す。各クローンの長鎖IGF-IIに対する結合親和性を++++、+++、++、または-で分類した。++++は1nM以下の結合親和性を示し、+++は1nM〜10nMの結合親和性を示し、++は10nM以上の結合親和性を示し、-は結合親和性なしを示す。クローンのうちの3つ(m606、m610、およびm616)が長鎖IGF-IIに結合し、m606およびm610はm616よりも高い親和性を示した(表1)。
【0202】
【表1】

【0203】
5つの発現クローンの各々について、抗原として成熟IGF-II、IGF-I、およびインスリンを用いてELISAを繰り返した。対照ELISAは、抗原としてBSAおよびHis-Sを用いた。5つのクローンはいずれも、インスリンまたはIGF-Iに対する結合親和性を示さなかった。m606、m610、およびm616は全て成熟IGF-IIに結合したが、長鎖IGF-IIに対するよりも低い親和性であった。これらの結合アッセイの結果を図3Bにまとめる。m606、m610、およびm616の軽鎖のアミノ酸配列をそれぞれSEQ ID NO: 7、9、および11に示し、それらの重鎖の配列をそれぞれSEQ ID NO:8、10、および12に示す。
【0204】
それらの長鎖IGF-IIに対する高い結合親和性についてのさらなる研究のために、m606およびm610を選択した。それらの結合親和性をより詳細に試験するためにBiacore分析を使用した。この分析の結果を図3Cに示す。m606の長鎖IGF-IIに対する結合のkaおよびkdはそれぞれ3.51×105 M-1s-1および2.5×10-4 s-1であり、KAおよびKDはそれぞれ1.41×109 M-1および7.11×10-10 Mであった。m610の長鎖IGF-IIに対する結合のkaおよびkdはそれぞれ2.86×105 M-1s-1および2.62×10-4 s-1であり、KAおよびKDはそれぞれ1.09×109 M-1および9.18×10-10 Mであった。
【0205】
実施例2
インビトロでのIGF-IRのリン酸化に対するm606およびm610 Fabの効果
MCF-7乳癌細胞を、6ウェルプレートの完全培養培地に接種した(1×106細胞/ウェル)。一晩培養した後、細胞を無血清DMEMでリンスし、無血清DMEM中で6時間培養した。次いで細胞を40nM m606、m610、もしくはC-Fabまたは4nM IgG6と共に30分間インキュベートした。細胞を刺激するため、10nM IGF-IIをウェルに加えた。20分後、細胞を氷上で冷却し、冷やしたPBSでリンスし、1mlの溶解緩衝液(50mM Hepes、ph7.4、150mM NaCl、10%グリセロール、1% Triton X100、1.5mM MgCl2、2mMバナジン酸ナトリウム(sodium vandate)、およびプロテアーゼ阻害剤)に溶解させた。溶解産物を氷上で30分間静置し、次いで17,000gで30分間遠心分離した。遠心分離後、上清を、20μlのプロテインGセファロース4Bおよび2μgのウサギ抗IGF-IRベータ(C-20、Santa Cruz)で免疫沈降した。免疫沈降物をSDS-PAGEに供し、そのゲルを、抗Piチロシン抗体を用いるウェスタンブロットにより分析した。m606およびm610は両方とも、IGF-IIにより媒介されるIGF-IRのリン酸化のレベルを減少させた(図6)。この実験を、0〜40nMの濃度範囲のm610を用いて繰り返した。m610は用量依存的な様式でIGF-IRのリン酸化を阻害し、40nMの濃度でほぼ完全な阻害を達成することが見出された(図5A〜5C)。
【0206】
実施例3
IgG m606およびIgG m610の作製および特徴付け
pComIIIのm606およびm610 Fabを、重鎖配列および軽鎖配列の同時発現が可能なpDR12にクローニングした。各Fabの重鎖配列は、XbaI部位およびSacI部位を通じてpDR12にクローニングし、それらの軽鎖配列は、HindIII部位およびEcoRI部位を通じてpDR12にクローニングした。CellFectin(Invitrogen)を用いて293 Free Style細胞(Invitrogen)をこのプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションから4日後、培養上清を収集し、IgGをプロテインGカラムによって精製した。
【0207】
長鎖IGF-IIおよび成熟IGF-IIの両方に対するm606およびm610 IgGの結合親和性をELISAによって測定した。両方のIgGは、およそ0.12nMという低い濃度で長鎖IGF-IIおよび成熟IGF-IIに結合し、結合親和性は実質的に0.5Nm付近まで上昇した(図4)。ヒトおよびマウスのIGF-IIに対するm606の結合もまた調査した。m606は、ヒトIGF-IIに加えてマウスIGF-IIに特異的に結合することが決定された(図9)。
【0208】
実施例4
インビトロでのIGF-IRのリン酸化に対するIgG m606およびIgG m610の効果
実施例2に示したのと同様のプロトコルを用いて、MCF-7乳癌細胞を、0〜40nMの範囲の異なる濃度のIgG m606またはIgG m610の存在下で培養した。IgG m606およびIgG m610は両方とも、用量依存的な様式でIGF-IRのリン酸化のレベルを減少させ、各々1nM付近のIC50を示した。その阻害レベルは、m606およびm610 Fabを用いて実施例2において観察されたものよりも高かった。IgG m606の結果を図5Cに示す。この実験をDU145前立腺癌細胞(図6)およびU937白血病細胞を用いて繰り返しても同様の結果が観察された。これらの細胞株におけるIgG m610のIC50は、約1〜約10nMの範囲であった。
【0209】
これらの実験は、およそ60の癌細胞タイプのパネルを用いて繰り返され得る。MCF-7、DU145、およびU937細胞について得られた結果に基づけば、m606およびm610は、幅広い癌細胞においてIGF-IRのリン酸化を阻害する。
【0210】
実施例5
癌細胞の成長、増殖、および運動性に対するIgG m610の効果
MCF-7細胞を、IGF-IIおよび異なる濃度のIgG m610の存在下の軟寒天で培養した。IgG M610は、細胞の成長および増殖を減少させることが見出された(図8Aを参照のこと)。
【0211】
細胞の運動性は、8μM孔サイズのポリカーボネートメンブレンと共にTranswell培養プレート(Cole-Parmer)を用いて試験した。受け皿ウェル(bottom well)は、2.6ml DMEM、10nM IGF-II、および様々な濃度のIgG m610を含んだ。対照ウェルは、完全培養培地(陽性対照)または無血清DMEM(陰性対照)のいずれかを含んだ。滴下物(top insert)は、無血清DMEM中50万個のMCF-7単一細胞懸濁物1.5mlを含んだ。細胞を37℃で4時間インキュベートした後、メンブレンの上面に付着した細胞を、先端が綿の塗布具で取り除いた。メンブレンの下面の細胞をHema3キット(Fischer)を用いて染色し、Transwellから取り除き、顕微鏡用スライドに乗せ、顕微鏡下で計数した。
【0212】
これらの実験は、IgG m610が用量依存的な様式でMCF-7細胞の運動性を阻害することを明らかにした(図8)。
【0213】
実施例6
動物モデル研究
インビボでの癌細胞の運動性、成長、および増殖に対するFabおよびIgGの両方の形態のm606およびm610の効果を、一つ以上のマウスモデルを用いて試験する。
【0214】
第一のマウス実験セットは、ホローファイバーアッセイ(Hollingshead 1995)を利用する。一つ以上の癌細胞株から細胞を収集し、再懸濁し、適当なホローファイバーに流し込む。各ファイバーを密封し、適当な期間培養培地中でインキュベートし、次いでマウスの腹腔内または皮下に移植する。一匹のマウスに複数のファイバーを移植する。移植時に細胞を定量する。移植後の適当な時点で、移植マウス群に異なる用量およびタイムスケジュールでm606および/またはm610を投与する。投与は、任意の適当な経路により行うことができる。移植対照マウス群には注射をしないかまたは対照物質を注射する。投与スケジュールの終了後に、ホローファイバーを取り出す。癌細胞を再度定量し、細胞の成長、増殖、および運動性をアッセイする。m606および/またはm610を投与した移植マウス由来のファイバーは、これらのパラメータの一つ以上にの減少を示す。
【0215】
第二の動物実験セットは、腫瘍の発展に十分なヒト癌細胞株由来の多くの細胞を注射したSCIDマウスを利用する。実験マウス群に異なる用量およびタイムスケジュールでm606および/またはm610を投与する。対照マウス群は、未処理のマウスおよび抗体投与を反映する用量およびタイムスケジュールで非治療剤、例えば生理食塩水または緩衝剤を投与したマウスを含む。さらに、癌細胞を注射しなかったマウスにm606およびm610を投与する対照実験を行う。これらの対照実験は、健常なマウスにおける抗体投与の潜在的な悪影響を同定するのに使用できる。
【0216】
早期段階の腫瘍の発展に対するm606およびm610の効果を測定するために設計した実験においては、抗体の投与は、癌細胞の注射から0〜3日以内に開始する。腫瘍の発展の後期段階の進行に対するm606およびm610の効果を測定するために設計した実験においては、抗体の投与は、マウスが一つ以上の癌の症状を示し始めた後に開始する。
【0217】
m606およびm610の治療効果は、抗体投与後の様々な時点での実験マウスおよび対照マウスの様々な生理学的パラメータを比較することによって決定する。測定できる生理学的パラメータには、腫瘍細胞の成長、増殖、および運動性、ならびに生存率等のその他のパラメータが含まれる。
【0218】
前の実施例において議論したインビトロ研究に基づけば、m606またはm610の投与は、マウスモデルのおける腫瘍細胞の成長、増殖、および運動性を減少させると考えられる。これにより癌の発展が低減され、それによって生存率が増加し得る。
【0219】
これらのマウスモデル実験に従い、様々な他の哺乳動物、例えばイヌまたは霊長類において同様の実験を行うことができる。これらの実験は、m606またはm610の投与の効果および安全性を試験するため、ならびに用量レベルおよび投与スケジュールを最適化するために設計される。
【0220】
記載された方法または組成物の正確な細部は、記載された本発明の意図から逸脱することなく変更または修正され得ることは明らかであろう。本発明の原理が適用され得る多くの態様が存在し得ることを考慮すれば、示された態様が本発明の例にすぎず、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでないことが認識されるはずである。そうではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義されるのである。従って本発明者らは、これらの特許請求の範囲の範囲および意図に包含される全てが本発明者らによる発明であることを主張する。
【図面の簡単な説明】
【0221】
【図1】インスリン様成長因子系の概略図である。IGFBP1-6、IGF-I、IGF-II、IGF-IR、およびIGF-II/M6PRが描かれている。インスリン、インスリン受容体(IR)、およびインスリン受容体関連受容体(IRR)もまた描かれている。
【図2】IGF-IRの下流シグナルの概略図である。
【図3】図3A〜3Cは、抗IGF-II Fabの結合親和性、特異性、および結合速度論を示す一セットのグラフである。図3Aは、固定された長鎖IGF-IIに対するFab M606のELISA結合を示すグラフである。Fab m610およびm616は類似の結合速度論を有する。差し込み図は、精製されたFabを含むSDSゲルを示す。Fabの結合は、ELISAおよびBiacore表面プラズモン共鳴技術を用いて測定した。ELISAアッセイにおける、これらの抗体のEC50はおよそ4nMであった。図3Bは棒グラフである。プレートに固定した異なるタンパク質に対するELISAによる特異性についてFabを試験した。三つのFabはプロIGF-IIおよびIGF-IIの成熟型に結合したが、インスリンおよびIGF-Iには結合しなかった。プロIGF-IIへの結合は、IGF-IIへの結合よりも僅かに良かった。図3Cは、Biacoreによって測定した、Fab m606およびm610の結合速度論を示す一セットの線グラフであり、異なる濃度の抗体が異なる線で表されている。様々なFabとIGF-IIの相互作用を、BIACORE 100機器(Biacore, Pharmacia, Piscataway, NJ)を用いる表面プラズモン共鳴技術によって分析した。IGF-IIは、カルボジイミドカップリング化学を用いることで、センサチップ(CM5)上に共有結合的に固定した。非特異的結合および屈折率の変化のために対照となる参照表面を準備した。相互作用の速度論分析のために、様々な濃度のFabを、150mM NaCl、3mM EDTA、および0.005% P-20を含む泳動緩衝液(pH7.4)を用いて30μl/分の流速で注射した。結合相および解離相のデータを、非線形データ分析プログラムBIAevaluation 3.2を用いて1:1 Langumirグローバルモデルに同時に適用した。すべての実験を25℃で行った。これらの研究においては、Kon=3.5および2.9×105M-1S-1;Koff=2.5および2.6×10-4S-1、ならびにKD=0.7および0.9nMであった。Biacoreを用いたさらなる実験は、二つのFabがプロIGF-IIへの結合について互いに競合することを示し、これによりこれらが重複するエピトープを有する可能性が示唆された。
【図4】ELISAプレートに固定した成熟型および前駆体型IGF-IIに対するIgG1 m606およびm610のインビトロ結合を示すグラフおよびデジタル画像である。抗体の結合は、プレートに固定した50ngの成熟または前駆体のいずれかのIGF-IIを用いてELISAによって測定した。
【図5】図5A〜5Cは、IGF-II抗体が、乳癌MCF-7細胞においてIGF-IRおよびインスリン受容体のIGF-II誘導性リン酸化を阻害したことを示すデジタル画像およびグラフである。図5Aはデジタル画像である。無血清培地中のMCF-7細胞を示された濃度のFab m610と共に30分間プレインキュベートした。10ngのIGF-IIを加え、20分後に細胞を回収した。等量の細胞溶解産物を、抗IGF-IRベータ抗体(Santa cruz)による免疫沈降に使用した。リン酸化されたIGF-IRは、リン含有チロシンに特異的なmAb 4G10を用いて検出した。図5Bはグラフである。図5Aと同じ手順で、IgG m610を用いて同様の試験を行った。ホスホIGF-IRの強度をホスフォイメージャーによって定量化し、これをプロットした。図5Cはデジタル画像である。IGF-IRおよびインスリン受容体(IR)のリン酸化を、IGF-IIのみ(レーン2)または示された濃度のIgG m610で処理したMCF-7細胞において観察した。レーン3および4においては、IGF-IIの添加前に細胞を抗体と共に30分間プレインキュベートした。レーン5および6においては、細胞を抗体およびIGF-IIで同時に処理した。下パネルは免疫沈降物中の受容体の総量を示す。
【図6】IGF-II抗体(IgG M610)がまた、前立腺癌細胞株DU145および白血病U937細胞においてIGF-IRのリン酸化を阻害したことを示すデジタル画像である。実験手順は図5Aにおける手順と同一であった。
【図7】IgG M610が、IGF-IIにより誘導されるIGF-IRより下流のシグナルの活性化を防止したことを示すデジタル画像である。MCF-7細胞を異なる用量のIgG m610と共にインキュベートし、かつ10nM IGF-IIとインキュベートした。細胞溶解産物はIGF-IIの添加から20分後に得た。ウェスタンブロットは、リン含有Akt、リン含有MAPK、および総MAPKを認識する抗体を用いて行った。
【図8】図8A〜8Bは、IgG M610がDU145細胞の成長を阻害したこと、および5% FBS含有培地におけるMCF-7細胞の運動性を低下させたことを示す棒グラフである。図8Aに示される結果について、DU145細胞を無血清培地中で6時間飢餓状態下に置いた後、10nMの終濃度のIGF-IIおよび示された終濃度のIgG m610と共にインキュベートした。二日後、生存細胞を定量化するためにMTSを加えた。その反応は、490nmにおける光学密度(OD490)を測定することによって観察した。対照サンプル(C)中の細胞は、IGF-IIおよび抗体の非存在下で同量の無血清培地と共にインキュベートした。図8Bに示される結果については、MCF-7細胞を、8μm孔を有するトランスウェルにおいて無血清培地中で培養した。受け皿ウェルは5% FBSおよび示された濃度のIgG m610を含んだ。4時間後に孔を通過して移動した細胞を染色し計数した。移動した細胞の数の割合(抗体の非存在下で100%)を示す。
【図9】m610が、マウスIGF-IIおよびヒトIGF-IIに特異的に結合することを示す棒グラフである。ヒトまたはマウスIGF-II、IGF-I、およびBSAでELISAプレートをコーティングした。M610 IgGは、そのIC50より十分高い2nMで使用した。抗原に対するm610の結合は、抗ヒトIgG-HRP抗体を用いて検出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1nM以下の平衡解離定数(Kd)でインスリン様成長因子II(IGF-II)に特異的に結合し、1mM以上の平衡解離定数(Kd)でIGF-Iと結合し、かつインスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する、単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項2】
インビトロで乳癌細胞の運動性を阻害する、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項3】
ヒトモノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、重鎖がSEQ ID NO: 10のアミノ酸34〜41を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項4】
重鎖がSEQ ID NO: 10のアミノ酸59〜65を含む、請求項3記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項5】
重鎖がSEQ ID NO: 10のアミノ酸105〜119を含む、請求項4記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項6】
モノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、軽鎖がSEQ ID NO: 7のアミノ酸37〜47を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項7】
軽鎖がSEQ ID NO: 7のアミノ酸60〜68を含む、請求項6記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項8】
軽鎖がSEQ ID NO: 7のアミノ酸99〜109を含む、請求項7記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項9】
モノクローナル抗体の可変領域が、SEQ ID NO: 7のアミノ酸37〜47、60〜68、および99〜109、ならびにSEQ ID NO: 10のアミノ酸34〜41、59〜65、および105〜109を含む、請求項1記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項10】
SEQ ID NO: 7およびSEQ ID NO: 10を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項11】
ヒトモノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、重鎖がSEQ ID NO: 11のアミノ酸34〜41を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項12】
重鎖がSEQ ID NO: 11のアミノ酸59〜65を含む、請求項3記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項13】
重鎖がSEQ ID NO: 11のアミノ酸105〜118を含む、請求項4記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項14】
モノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、軽鎖がSEQ ID NO: 8のアミノ酸37〜47を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項15】
軽鎖がSEQ ID NO: 8のアミノ酸60〜68を含む、請求項6記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項16】
軽鎖がSEQ ID NO: 8のアミノ酸99〜109を含む、請求項7記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項17】
モノクローナル抗体の可変領域が、SEQ ID NO: 8のアミノ酸37〜47、60〜68、および99〜108、ならびにSEQ ID NO: 11のアミノ酸34〜41、59〜65、および105〜109を含む、請求項1記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項18】
SEQ ID NO: 8およびSEQ ID NO: 11を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項19】
ヒトモノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、重鎖がSEQ ID NO: 12のアミノ酸21〜30を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項20】
重鎖がSEQ ID NO: 12のアミノ酸48〜55を含む、請求項3記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項21】
重鎖がSEQ ID NO: 12のアミノ酸101〜177を含む、請求項4記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項22】
モノクローナル抗体の可変領域が重鎖および軽鎖を含み、軽鎖がSEQ ID NO: 9のアミノ酸37〜42を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項23】
軽鎖がSEQ ID NO: 9のアミノ酸60〜69を含む、請求項22記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項24】
軽鎖がSEQ ID NO: 9のアミノ酸99〜109を含む、請求項23記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項25】
モノクローナル抗体の可変領域が、SEQ ID NO: 9のアミノ酸37〜42、60〜69、および99〜109、ならびにSEQ ID NO: 12のアミノ酸95〜117を含む、請求項1記載の単離モノクローナル抗体[上記参照]。
【請求項26】
SEQ ID NO: 9およびSEQ ID NO: 12を含む、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項27】
Fab'フラグメント、F(ab)'2フラグメント、単鎖Fvタンパク質(「scFv」)、またはジスルフィド安定化型Fvタンパク質(「dsFv」)である、請求項1記載の単離ヒトモノクローナル抗体。
【請求項28】
IgGまたはIgMである、請求項1記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項29】
IgMまたはIgG4である、請求項28記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項30】
標識されている、請求項1記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項31】
標識が蛍光標識、酵素標識、または放射性標識である、請求項1記載の単離モノクローナル抗体。
【請求項32】
薬学的に許容される担体中に請求項1〜31のいずれか一項記載の抗体を含む組成物。
【請求項33】
治療的有効量の請求項32記載の組成物を被検体に投与し、それによって被検体を処置する工程を含む、癌を有する被検体の処置方法。
【請求項34】
癌が、肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
治療的有効量の組成物の投与により転移が減少する、請求項33記載の方法。
【請求項36】
治療的有効量の組成物の投与により全身腫瘍組織量が減少する、請求項33記載の方法。
【請求項37】
請求項30記載の治療的有効量の組成物の投与によりIGF-I受容体のリン酸化が阻害される、請求項33記載の方法。
【請求項38】
被検体由来のサンプルを請求項1〜31のいずれか一項記載の単離モノクローナル抗体と接触させる工程;および
単離モノクローナル抗体とサンプルの結合を検出する工程
を含み、対照と比較した抗体とサンプルの結合の増加により被検体が癌を有することが示される、被検体の癌の診断方法。
【請求項39】
単離モノクローナル抗体が直接的に標識されている、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記の単離モノクローナル抗体に特異的に結合する第二の抗体をサンプルと接触させる工程、および
第二の抗体の結合を検出する工程
をさらに含み、対照と比較した第二の抗体の結合の増加により被検体が癌を有することが示される、請求項38記載の方法。
【請求項41】
癌が、肉腫、白血病、前立腺癌、肺癌、乳癌、結腸癌、胃癌、子宮癌、子宮頸癌、食道癌、肝癌、膵癌、腎癌、甲状腺癌、脳腫瘍、または卵巣癌である、請求項38記載の方法。
【請求項42】
対照が癌を有さない被検体由来のサンプルである、請求項38記載の方法。
【請求項43】
サンプルが、血液サンプル、尿サンプル、生検サンプル、血清サンプル、痰サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液サンプルである、請求項38記載の方法。
【請求項44】
有効量の請求項1〜31のいずれか一項記載の単離モノクローナル抗体と細胞を接触させ、それによってインスリン様成長因子受容体のリン酸化を阻害する工程を含む、インスリン様成長因子I受容体のリン酸化の阻害方法。
【請求項45】
細胞がインビトロである、請求項44記載の方法。
【請求項46】
細胞がインビボである、請求項44記載の方法。
【請求項47】
細胞が癌細胞である、請求項44記載の方法。
【請求項48】
請求項1記載のモノクローナル抗体をコードする単離された核酸。
【請求項49】
プロモーターに機能的に連結された、請求項48記載の単離核酸。
【請求項50】
請求項48記載の単離核酸を含む発現ベクター。
【請求項51】
請求項48記載の核酸で形質転換された単離宿主細胞。
【請求項52】
インスリン受容体のリン酸化を阻害する、請求項1記載の単離抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−507471(P2009−507471A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527056(P2008−527056)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/031814
【国際公開番号】WO2007/022172
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(508047657)アメリカ合衆国 (1)
【Fターム(参考)】