IGs合成に関与する遺伝子、および、IGsを高レベルに蓄積する変異植物
【課題】 高発現させることによってIGsの蓄積量をより向上させることのできる新規遺伝子とその利用方法を提供する。
【解決手段】 シロイヌナズナのT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリから、5−メチルトリプトファン(5MT)抵抗性を有する変異体rmt−1を選抜した。そして、この変異体rmt−1において、T−DNA挿入部位に隣接して存在し、高発現している遺伝子をIGs合成に関与する新規遺伝子として単離した。
【解決手段】 シロイヌナズナのT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリから、5−メチルトリプトファン(5MT)抵抗性を有する変異体rmt−1を選抜した。そして、この変異体rmt−1において、T−DNA挿入部位に隣接して存在し、高発現している遺伝子をIGs合成に関与する新規遺伝子として単離した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与する新規遺伝子およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グルコシノレート類およびその分解産物は、病害虫抵抗性に関与することが知られている他、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなどといったアブラナ科の農作物の香味、苦味の主要な成分であることが知られている。そのため、グルコシノレート類およびその分解産物は、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤をはじめとする製薬原料として利用することのできる有用物質である。
【0003】
非特許文献1〜5には、トリプトファンを出発物質とする二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与するシロイヌナズナ由来の遺伝子CYP79B2、CYP83B31(これらをCYP遺伝子と呼ぶ)について記載されている。このCYP遺伝子を植物中で高発現させると、IGsの合成量が増加することが確認されている。
【0004】
また、非特許文献1および5には、合成されたIGsが害虫を選択的に誘引することが記載されており、非特許文献1には、IGsが病害虫に対して抵抗性を有することが記載されている。
【非特許文献1】M.D. Mikkelsen, B.L. Petersen, C.E. Olsen, and B.A. Halkier, Amino Acids (2002) 22: 279-295
【非特許文献2】Michael Dalgaard Mikkelsen, Carsten Horslev Hansen, Ute Wittstock, and Barbara Ann Halkier, The Journal of Biological Chemistry, Vol. 275, No. 42, Issue of October 27, 33712-33717, 2000
【非特許文献3】Yunde Zhao, Anna K. Hull, Neeru R. Gupta, Kendrick A. Goss, Jose Alonso, Joseph R. Ecker, Jennifer Normanly, Joanne Chory, and John L. Celenza, GENES & DEVELOPMENT 16: 3100-3112 (2002)
【非特許文献4】Peter Naur, Bent Larsen Petersen, Michael Dalgaard Mikkelsen, Soren Bak, Hasse Rasmussen, Carl Erik Olsen, and Barbara Ann Halkier, Plant Physiology, September 2003, Vol.133, 63-72
【非特許文献5】Giamoustaris,A and Mithen, R., (1995) Ann Appl Biol.126:347-363
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記CYP遺伝子を高発現させた変異植物を作製しても、IGsの蓄積量の増加率は、せいぜい野生型の5倍程度である(非特許文献1〜4参照)。IGsをより大量に蓄積することのできる変異植物が得られれば、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤などに利用できるIGsをより効率的に取得することができるため、その実現が望まれている。また、上記CPY遺伝子を高発現させた変異植物は、矮化、帯化などの外観上の異常を引き起こすため、実用化に支障をきたす可能性が高い。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高発現させることによってIGsの蓄積量をより向上させることのできる新規遺伝子、および、当該遺伝子を高発現させることで、外観上の異常を引き起こすことなく、IGsを多量に蓄積することができる新品種の植物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らが構築したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリから、5−メチルトリプトファン(5MT)抵抗性を有する変異体rmt−1を選抜した。そして、この変異体rmt−1において、T−DNA挿入部位に隣接して存在し、高発現している遺伝子をIGs合成に関与する遺伝子(以下、この遺伝子をRMT−1遺伝子と呼ぶ)として単離し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成に関与するポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチドである。
【0009】
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0010】
上記のポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドを翻訳産物として得ることができる。
【0011】
本発明にかかるポリペプチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするものである。
【0012】
上記のポリペプチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進することができる。
【0013】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記のポリペプチドをコードするものであってもよい。上記のポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドを翻訳産物として得ることができる。
【0014】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列からなるものであってもよい。この配列番号3に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むゲノムの塩基配列である。
【0015】
本発明にかかる形質転換体選抜用マーカー遺伝子は、上記の何れかのポリヌクレオチドからなるものである。
【0016】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にトリプトファン類縁化合物(具体的には、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)など)に対する耐性を付与する。そのため、上記マーカー遺伝子は、当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している形質転換細胞を選抜するためのマーカー遺伝子として利用することができる。
【0017】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にバクテリア、菌類に起因する植物の各種病害に対する抵抗性を付与するため、上記マーカー遺伝子を用いて形質転換体の選抜を行えば、病害抵抗性を有する形質転換体を取得することもできる。
【0018】
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記の何れかのポリヌクレオチドを含むものである。上記の組換え発現ベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを細胞に導入するための組換え発現ベクターとして利用できるだけでなく、本発明に係るポリヌクレオチドを選抜マーカーとして用いた場合には、他の遺伝子を細胞に導入するための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0019】
本発明にかかる形質転換体は、上記のポリヌクレオチドまたは上記の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、インドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現しているものである。上記形質転換体は、植物細胞または植物体であることが好ましい。また、上記植物細胞または植物体は、シロイヌナズナ由来のものであることが好ましい。
【0020】
本発明にかかる上述の各形質転換体は、植物の生育に害となるトリプトファン類縁化合物(具体的には、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)など)に対して抵抗性を有する。
【0021】
当該ポリヌクレオチドまたは組換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された上記形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。
【0022】
特に、上記形質転換体がシロイヌナズナの場合、IGsを野生型植物と比較して約20倍蓄積することができる。つまり、この形質転換体は、IGsを高レベルに蓄積する変異植物である。また、この形質転換体は、非特許文献1〜5に記載のCYP遺伝子を高発現させた形質転換植物などで起きる植物の外観上の異常を引き起こさず、正常な外観を有している。それに加えて、この形質転換体は、稔性、1000粒重など農作物として重要な形質には異常がないため、種々の目的に利用できる可能性を有しており、有用性が高い。
【0023】
また、上記形質転換体を作製すれば、IGsおよびその派生物を大量に取得することができる。IGsおよび派生物は、アブラナ科の農作物(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなど)の香味成分であるため、香辛料として利用することができる。また、IGsおよび派生物は、抗ガン作用を有することが知られており、上記形質転換体を利用することで、抗ガン剤の原料を効率的に生産することができる。また、本発明には上記形質転換植物から得られる種子も含まれる。
【0024】
本発明にかかる形質転換体の具体例としては、本発明者らが構築したシロイヌナズナのアクティベーションタギングライブラリより選抜したrmt−1変異体が挙げられる。このrmt−1変異体においては、本発明にかかるポリヌクレオチドが高発現していることによって、野生型のシロイヌナズナと比較して約20倍量のIGsを蓄積することができる。
【0025】
本発明にかかるインドールグルコシノレート類の生産方法は、本発明の形質転換体を用いることを特徴とするものである。上記の生産方法によれば、病害虫抵抗剤、香辛料、抗ガン剤などの原料として利用できるインドールグルコシノレート類を効率的に生産することができる。
【0026】
本発明にかかる形質転換細胞の選抜方法は、上記のマーカー遺伝子または上記の組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜することからなるものである。
【0027】
上記の選抜方法によれば、本発明のマーカー遺伝子を使用することで、これまで複数遺伝子を細胞に導入する際に使用できる選択マーカーの種類が制限されるといった問題を解決することができる。すなわち、通常選択マーカーとして使用されている抗生物質に対する耐性等の他に、トリプトファン類縁化合物、例えば5-メチルトリプトファンに対する抵抗性によって複数の目的DNAが導入された細胞の選抜が可能となる。また、本発明にかかるマーカー遺伝子を植物細胞に導入した場合、当該植物細胞から得られる形質転換植物の外観や稔性などには異常が起こらない。そのため、上記マーカー遺伝子を使用した本発明の選抜方法は有用である。
【0028】
本発明にかかる形質転換キットは、少なくとも上記のポリヌクレオチド、あるいは、上記の組換え発現ベクターのいずれかを含むことを特徴とするものである。上記の形質転換キットを用いれば、本発明に係るポリペプチドを発現する形質転換体を簡便かつ効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を行うことができる。そして、本発明のポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された本発明の形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。
【0030】
IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質として知られる他、製薬原料にもなる有用物質である。そのため、本発明の形質転換植物を利用すれば、これらの有用物質を効率的に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0032】
(1)本発明にかかるポリヌクレオチド
本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成を促進する活性を有するポリペプチドをコードするものである。
【0033】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドが意図される。
【0034】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0035】
一実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与するポリヌクレオチドであって、
下記の(a)または(b):
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド
のいずれかである。
【0036】
上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC 洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001) に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる。
【0037】
上記のポリヌクレオチドのうち、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明者らが作製したシロイヌナズナの変異体rmt−1において、高発現しているRMT−1遺伝子の塩基配列である。
【0038】
また、他の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成を促進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b):
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列
のいずれかである。
【0039】
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0040】
また、他の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列からなるものである。さらに別の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0041】
本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術は、標的遺伝子に対して相補的なRNA転写体を生成するキメラ遺伝子の導入を基本原理とする。その結果として得られる表現型は、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少である。つまり、本発明にかかるオリゴヌクレオチドであるアンチセンスRNAを導入することによって、トリプトファンからインドールグルコシノレート類を合成する機能が低下し、植物中のインドールグルコシノレート類の含量を低下させることができる。
【0042】
また、DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。本発明にかかるポリヌクレオチドの一例である、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、上記RMT−1遺伝子のゲノムDNAに相当する。このゲノムDNAにおいて、配列番号1に示される塩基配列中の第1〜500番目の塩基配列、608〜688番目の塩基配列、926〜1286番目の塩基配列、1324〜1408番目の塩基配列、1454〜1566番目の塩基配列、1609〜1737番目の塩基配列、1852〜1983番目の塩基配列、2107〜2193番目の塩基配列、2323〜2457番目の塩基配列、2050〜2601番目の塩基配列、2685〜2918番目の塩基配列、3000〜3088番目の塩基配列、3220〜3607番目の塩基配列、3834〜4015番目の塩基配列、4096〜4219番目の塩基配列、4313〜4451番目の塩基配列、4650〜4791番目の塩基配列、5057〜5141番目の塩基配列、5193〜5297番目の塩基配列、5457〜5685番目の塩基配列、5828〜6273番目の塩基配列、6369〜6456番目の塩基配列、6533〜6798番目の塩基配列、6922〜7013番目の塩基配列、7055〜7108番目の塩基配列、7172〜7251番目の塩基配列、7368〜7468番目の塩基配列、7600〜7851番目の塩基配列、7970〜8058番目の塩基配列、8139〜8231番目の塩基配列、8584〜8665番目の塩基配列、8810〜9300番目の塩基配列がそれぞれイントロン領域であり、それ以外の領域がエキソン領域である。そして、配列番号1に示す塩基配列は、上記RMT−1遺伝子のオープンリーディングフレーム領域の塩基配列である。
【0043】
さらに、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0044】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0045】
あるいは、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0046】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、グルコシノレート類を二次代謝産物として生合成する植物、具体的にはアブラナ科に属する植物(例えば、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、シロイヌナズナなど)であることが好ましい。後述する実施例においては、シロイヌナズナから本発明にかかるポリヌクレオチドの一つであるRMT−1遺伝子を取得しているが、これに限定されるものではない。
【0047】
(2)本発明にかかるポリペプチド
本発明にかかるポリペプチドは、上記(1)に記載したポリペプチドの翻訳産物であり、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するものである。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0049】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0050】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0051】
一実施形態において、本発明にかかるポリペプチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドである。
【0052】
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0053】
なお、上記ポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0054】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号1に示される塩基配列からなるポリペプチド、または、配列番号3に示される塩基配列からなるポリペプチドの翻訳産物である。このポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列中の第544〜566番目の領域、および、573〜595番目の領域に、N末端側が外側となる膜貫通ドメインを形成する。
【0055】
(3)形質転換用マーカー遺伝子および形質転換細胞の選抜方法
本発明にかかるポリヌクレオチドは、形質転換用マーカー遺伝子として利用することができる。すなわち、本発明に係る形質転換体選抜用マーカー遺伝子は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドからなるものであればよい。本発明にかかるポリヌクレオチドを導入された細胞はトリプトファン類縁化合物に対して耐性を有するため、トリプトファン類縁化合物を培地に添加することにより、当該ポリヌクレオチドが導入された細胞のみを選抜することが可能となる。選抜用薬剤として用いることができる細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物としては、例えば、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)等を挙げることができる。
【0056】
具体的に、本発明にかかるポリヌクレオチドを形質転換用マーカー遺伝子として利用するには、例えば、当該ポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを目的の細胞に導入する。当該発現ベクターが導入され、本発明に係るポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現している細胞はトリプトファン類縁化合物に対して耐性を獲得するため、上記例示した選抜用薬剤が添加された培地においても増殖ができ、一方、当該発現ベクターが導入されていない細胞や本発明にかかるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現していない細胞は増殖が阻害される。したがって、当該発現ベクターが導入され、本発明にかかるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現している形質転換細胞のみを選抜することが可能となる。
【0057】
上述の例では本発明にかかるポリヌクレオチドを形質転換細胞に発現させる遺伝子とマーカー遺伝子との両方の目的で用いているが、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子としてのみ用いることも可能である。また、例えば、植物のカルス細胞に特異的な転写プロモーターを使用することにより、本発明にかかるポリヌクレオチドの選択マーカーとしての発現時期の制御も可能である。この場合は、さらに目的の細胞内で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを用いて形質転換すればよい。また、本発明にかかるポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築せずに、本発明に係るポリヌクレオチドを単独で目的の細胞に導入することも可能である。
【0058】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にバクテリア、菌類に起因する植物の各種病害(うどん粉病、軟腐病、灰色カビ病、黒腐病、べと病など)に対する抵抗性を付与するため、交配育種における病害抵抗性個体を選抜するための遺伝子マーカーとしても利用することができる。
【0059】
なお、本発明には上記本発明にかかるマーカー遺伝子または以下に説明する組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜する形質転換細胞の選抜方法も含まれる。
【0060】
(4)組換え発現ベクターおよび形質転換キット
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、cDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0061】
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかるポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
【0062】
本組換え発現ベクターは、本発明にかかるポリペプチドを発現させるために用いることができることはいうまでもないが、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子として利用し、他の遺伝子を組み込んで当該他の遺伝子がコードするタンパク質を発現させるための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0063】
本発明にかかるポリヌクレオチドがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明にかかるポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。
【0064】
上記ホスト細胞は、IGs合成系を有する細胞、生物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えばアブラナ科植物やアブラナ科植物由来の植物細胞等を挙げることができる。
【0065】
上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0066】
本発明に係る形質転換キットは、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドまたは当該本発明にかかる組換え発現ベクターの少なくともいずれかを含むものであればよい。その他の具体的な構成については特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。当該形質転換キットを用いることにより、簡便かつ効率的に形質転換細胞を得ることができる。
【0067】
(5)形質転換体
本発明にかかる形質転換体は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドまたは上記(4)に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現している形質転換体であれば、特に限定されるものではない。ここで「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
【0068】
また、ここで、「ポリヌクレオチドが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味するが、本発明では、これに加えてゲノム中に含まれる本発明のポリヌクレオチドが生体内で高発現している場合も含むものとする。このゲノム中に含まれる本発明のポリヌクレオチドが生体内で高発現している形質転換体の例としては、上述の変異体rmt−1が挙げられる。
【0069】
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換え発現ベクターをホスト細胞に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、トリプトファン合成系を有する細胞、生物であれば、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記(4)においてホスト細胞として例示した各種微生物等を挙げることができる。
【0070】
本発明にかかる形質転換体は、植物細胞または植物体であることが好ましい。このような形質転換植物は、細胞内または植物体内においてIGsを合成することができる。そして、上記ポリヌクレオチドまたは組み換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された上記形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるIGsの合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。このような形質転換体は、植物の病害虫に対する抵抗性を有する。
【0071】
植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に限定しない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができ、具体的には、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーターを挙げることができる。なお、植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0072】
植物細胞への組み換え発現ベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、公知の種々の方法を用いることができる。また、形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて公知の方法で行うことが可能である。
【0073】
ゲノム内に本発明にかかるポリヌクレオチドが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から得られる種子にも当該ポリヌクレオチドが導入されている。本発明には、形質転換植物から得られる種子も含まれる。
【0074】
続いて、本発明の形質転換植物の性質について説明する。
【0075】
本発明にかかる形質転換植物は、本発明にかかるポリヌクレオチドを導入されているため、植物に対して毒性を有する5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)などのトリプトファン類縁化合物に対して耐性を有する。
【0076】
また、IGsの合成系に関与する遺伝子としては、上述のCYP79B2、CYP83B31などが既に知られている。これらの遺伝子を高発現させても、合成されるIGsの増加率は5倍程度である。これに対して、本発明にかかる形質転換植物rmt−1は、IGsを20倍という高レベルで蓄積する。IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質として知られる他、製薬原料にもなる有用物質である。そのため、本発明の形質転換植物を利用すれば、これらの有用物質を効率的に生産することができる。
【0077】
また、本発明の形質転換植物には、非選択性摂食害虫(非特異的摂食害虫、あるいはアブラナ科以外の植物に対する特異的摂食害虫:アワヨトウ、ハンスモンヨトウなど)の忌避効果が付与される。
【0078】
本発明の形質転換植物には、選択性摂食害虫(特異的摂食害虫:コナガ、ヤガ、モンシロチョウなど)を誘引する性質が付与される。これらの害虫は、IGsの分解産物を産卵誘導物質として利用するため、これを高濃度で発散する本発明の形質転換植物に選択的に害虫を誘引し、産卵させることが可能となる。BT遺伝子あるいはBT剤、IGR剤などの農薬と併用することで、選択性摂食害虫の効果的な駆除、農作物の低農薬栽培が可能となる。
【0079】
また、本発明の形質転換植物は、上述のCYP79B2、CYP83B31を高発現させた形質転換植物などで起きる植物の外観上の異常を引き起こさず、正常な外観を有している。それに加えて、この形質転換植物は、稔性、1000粒重など農作物として重要な形質には異常がないため、種々の目的に利用できる可能性を有しており、有用性が高い。
【0080】
また、本発明の形質転換植物からは、IGsおよびその派生物を多量に得ることができる。IGsおよびその派生物は、アブラナ科の農作物(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなど)の香味、苦味成分の主たるものであり、香辛料の原料として利用することができる。また、本発明の形質転換植物において、導入されるポリヌクレオチドの発現を随意に制御することで、植物の食味を多様に変化させることができる。
【0081】
また、IGsおよびその派生物は、抗ガン効果があることが知られており、当該形質転換植物を使用して抗ガン剤の原料を効率的に生産することができる。
【0082】
(6)IGsの生産方法
本発明は、本発明にかかる形質転換体を用いてインドールグルコシノレート類(IGs)を生産する方法を提供する。
【0083】
一実施形態において、本発明にかかるIGsの生産方法は、本発明にかかるポリヌクレオチドが導入された形質転換体またはその組織を用いてIGsを生産することを特徴とする。なお、上記形質転換体は植物である。
【0084】
本実施形態の好ましい局面において、本発明にかかるIGsの生産方法は、本発明にかかるポリヌクレオチドを植物に導入する工程を包含する。ポリヌクレオチドを植物に導入する工程としては、上述した種々の遺伝子導入方法を用いればよい。さらに、本実施形態にかかるIGsの生産方法は、上記植物からIGsを抽出する工程を包含することが好ましい。
【0085】
本発明のIGsの生産方法によれば、IGsを多量に蓄積する本発明の形質転換体を利用しているため、病害虫抵抗剤、香辛料、抗ガン剤などの原料として利用できるIGsを効率的に生産することができる。
【0086】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0087】
本実施例では、本発明にかかるポリヌクレオチドの一つであるRMT−1遺伝子の単離、および、本発明にかかる形質転換体の一つであるrmt−1の機能解析を行った。
【0088】
〔実施例1:RMT−1遺伝子の単離〕
実施例1では、先ず、本発明者らのグループで独自に構築したシロイヌナズナのT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリ(ベクターは、R. Walden氏より提供されたもの)から5−メチルトリプトファンに対する抵抗性を有する変異体であるrmt−1を選抜した。
【0089】
なお、上記アクティベーションタギングライブラリについては、下記の参考文献1〜3に記載されている。
【0090】
参考文献1:Muto H, Yabe N, Asami T, Hasunuma K, Yamamoto KT.
Overexpression of Constitutive Differential Growth 1 Gene, Which Encodes a RLCKVII-Subfamily Protein Kinase, Causes Abnormal Differential and Elongation Growth after Organ Differentiation in Arabidopsis.
Plant Physiol. 2004 Oct;136(2) Vol 136, pp.3124-3133
参考文献2:Fujibe T, Saji H, Arakawa K, Yabe N, Takeuchi Y, Yamamoto KT.
A methyl viologen-resistant mutant of Arabidopsis, which is allelic to ozone-sensitive rcd1, is tolerant to supplemental ultraviolet-B irradiation.
Plant Physiol. 2004 Jan;134(1):275-85.
参考文献3:Nakazawa M, Yabe N, Ichikawa T, Yamamoto YY, Yoshizumi T, Hasunuma K, Matsui M.
DFL1, an auxin-responsive GH3 gene homologue, negatively regulates shoot cell elongation and lateral root formation, and positively regulates the light response of hypocotyl length.
Plant J. 2001 Jan;25(2):213-21.
このrmt−1では、T−DNAと表現型の共分離が確認されたため、既知挿入T−DNA配列を利用し、TAIL−PCR法によりT−DNA挿入隣接ゲノム領域を回収した。回収した隣接配列を解析した結果、図1に示すように、T−DNAはシロイヌナズナの第5染色体上にhead-to-head(頭合わせ)で2コピー挿入されていることが確認された。図1には、シロイヌナズナの第5染色体において、T−DNAが挿入された部位およびその周辺領域を模式的に示す。
【0091】
アクティベーションタギングは、ゲノムに挿入されたCaMV35SRNAプロモーター由来のエンハンサー配列により、挿入近傍に位置する遺伝子を転写レベルで活性化し、機能獲得型変異を単離する方法である。ここで単離された変異体rmt−1においては、図1に示すように、T−DNA挿入部位に隣接して両側約3kbの位置にそれぞれ1つずつの推定ORF(ORFα、ORFβ)が存在していた。この2つの推定ORFについて、RT−PCRによって転写産物蓄積量を検定した結果、一方のORFαのみで転写産物がrmt−1特異的に蓄積していた(図1のRT−PCRの結果を参照。なお、この図において、「Col」は野生型シロイヌナズナを示す。)。なお、周辺に位置する他の推定ORFについて40kbの範囲で検討したが、rmt−1変異体特異的に転写産物の蓄積が認められるものは存在しなかった。
【0092】
そこで、このORFαが変異体rmr−1の表現型の原因遺伝子(RMT−1遺伝子)であると推測された。このORFαの塩基配列を確認したところ、そのオープンリーディングフレームの塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列であることが確認され、そのゲノムの塩基配列は、配列番号3に示す塩基配列であることが確認された。
【0093】
次に、rmt−1変異体において、既知のIGs合成関連遺伝子群(具体的には、Trp合成関連遺伝子:ASA1、ASA2、ATR−1、フィトアレキシン合成関連遺伝子:CYP79B2、CYP83A1、CYP79B3、CYP83B1、CYP79F1、SUR1、CYP79F1、CYP82G1、病害虫防御関連遺伝子:PR1、PDF1.2)について、RT−PCRによってその転写産物蓄積量を検討した。
【0094】
その結果を図2に示す。図2(a)にはTrp合成関連遺伝子の結果を示し、図2(b)にはフィトアレキシン合成関連遺伝子の結果を示し、図2(c)には病害虫防御関連遺伝子の結果を示す。また、比較のために野生型(Col)の各遺伝子についてもRT−PCRを行った。図では、各遺伝子について、左側に野生型の結果を示し、右側にrmt−1の結果を示している。図2に示すように、これら既知の遺伝子では、野生型Col(左側)とrmt−1(右側)との間の転写産物の蓄積量に有意な差は見られなかった。このことから、rmt−1の表現型の原因遺伝子(RMT−1遺伝子)は、新規の遺伝子であることが示唆される。
【0095】
〔実施例2:rmt−1の機能の調査〕
実施例2では、変異体rmt−1の機能解析を行った。なお、ここでは比較のために、野生型、および、既知の変異体trp−5についても同様の実験を行った。trp−5は、5MT抵抗性を有し、トリプトファン合成の律速酵素の一つであるアントラニル酸合成酵素(AS)活性が細胞内トリプトファン濃度によるフィードバック阻害を受けないという特性を有している。
【0096】
(2−1)5−MTに対する抵抗性の濃度依存性、および、種々のTrp類縁化合物に対する抵抗性の調査
野生型、変異体(rmt−1、trp−5)において、5−MTに対する抵抗性の濃度依存性を調べた。先ず、1%のスクロース、1%植物寒天、および、種々の濃度の5MTを含む垂直に配置された1/2MS固体培地に、野生型および2種類の変異体の種子をまいた。そして、播種後12日目にそれぞれの根の長さを測定した。その結果を図3(a)に示す。図3(a)のグラフでは、横軸に5−MTの長さを示し、縦軸に根の長さを示している。この図に示すように、変異体rmt−1は、野生型および変異体trp−5と比較して、5−MTによって根の成長が抑制されにくいということが確認された。
【0097】
次に、濃度100μMの種々のTrp類縁化合物(5MT、5FT、6MA(6−メチルアントラニル酸塩)、L−Trp)に対する抵抗性を調べた。先ず、1%のスクロース、1%植物寒天、および、濃度100μMの種々のTrp類縁化合物を含む垂直に配置された1/2MS固体培地に、野生型および2種類の変異体の種子をまいた。そして、播種後12日目にそれぞれの根の長さを測定した。その結果を図3(b)に示す。図3(b)のグラフでは、12個体の平均と標準偏差を示す。図3(b)のグラフでは、横軸に各植物種および各Trp類縁化合物の種類を示し、縦軸に根の長さを示している。この図に示すように、変異体rmt−1は、野生型および変異体trp−5と比較して、5−MT、5−FTに対する高い抵抗性を有していることが確認された。以上の結果から、変異体rmt−1は、植物に投与すると致死的な5−MT、5−FTに対して高い抵抗性を有していると言える。
【0098】
(2−2)遊離トリプトファン含量とAS活性の調査
続いて、変異体rmt−1に付与された5MT抵抗性が何に起因するものかについての調査を行った。rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因として第一に考えられるのは、ASの活性変化およびそれに起因する細胞内トリプトファンの濃度上昇である。
【0099】
そこで、ここでは、野生型(Col)と変異体rmt−1において、遊離トリプトファンの含有量と、AS活性を調査して、それぞれの比較を行った。
【0100】
まず、野生型(Col)と変異体rmt−1における遊離トリプトファン濃度を調べるために、播種後14日目の各植物体の地上部(aerial part)および根(root)の成分が、10容量あるいは20容量のメタノールでそれぞれ抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図4(a)に示す。なお、図4(a)のグラフには、3検体の平均値と標準偏差を示す。また、グラフにおけるrmt−1(1)、および、rmt−1(2)は、ともにホモ接合体を樹立する過程で取得された分離個体番号であり、基本的には遺伝的に同一のものである。
この図に示すように、rmt−1変異体における遊離トリプトファンの含有量は、野生型と比較してやや多い程度であることが確認された。
【0101】
次に、野生型(Col)と変異体rmt−1におけるAS活性を調べるために、播種後14日目の各植物体について、地上部(aerial part)と根(root)の成分が抽出された。その結果を図4(b)に示す。なお、図4(b)のグラフでは、縦軸にAS活性(pkat/mg protein)を示している。また、この図4(b)のグラフでは、3検体の平均値と標準偏差を示す。この図に示すように、rmt−1変異体におけるAS活性は、野生型と比較してせいぜい2倍程度であることが確認された。
【0102】
以上の結果から、rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因は、ASの活性変化およびそれに起因する細胞内トリプトファンの濃度ではないことが示唆された。
【0103】
(2−3)Trpおよび5−MTによるASのフィードバック阻害の変化の調査
rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因として次に考えられるのは、Trpおよび5−MTによるASのフィードバック阻害の変化である。
【0104】
そこで、野生型および変異体rmt−1において、D−Trp、L−Trp、5MTの添加による用量依存的なAS活性のフィードバック阻害の解析を行った。播種後14日目の植物体の地上部(aerial part)および根(root)の抽出物が、AS活性の決定に使用された。図5(a)には地上部の結果を示し、図5(b)には根の結果を示す。なお、図5の各グラフに示す値は、3検体の平均値である。この図に示すように、野生型と変異体rmt−1とで有意な差は見られず、rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因は、ASのフィードバック阻害が解除されたことによるものではないことが示唆された。
【0105】
(2−4)rmt−1変異体の地上部の代謝産物のプロファイリング
次に、rmt−1変異体の地上部の代謝産物のプロファイリングを行った。播種後14日目のrmt−1変異体の地上部の成分が10容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図6、7に示す。図6は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示し、図7は、このプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。図7の各グラフに示す値は3検体の平均値である。図6中「N.I.」で示すものは、同定できなかったものを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Columbia(WT)」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図6にあわせて示す。
【0106】
図6、7に示すように、rmt−1では、ピークAのインドールグルコシノレート(IGS)の蓄積量が、特異的に野生型に比べて約20倍程度増加していることが確認された。
【0107】
(2−5)rmt−1変異体の根の代謝産物のプロファイリング
次に、rmt−1変異体の根の代謝産物のプロファイリングを行った。播種後14日目のrmt−1変異体の根の成分が20容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図8、9に示す。図8は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示し、図9は、このプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。図9の各グラフに示す値は3検体の平均値である。図8中「N.I.」で示すものは、同定できなかったものを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Columbia(WT)」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図8にあわせて示す。
【0108】
図8、9に示すように、地上部ほどではないが、rmt−1では、ピークAのインドールグルコシノレート(IGS)の蓄積量が、特異的に野生型に比べて約5倍程度増加していることが確認された。
【0109】
(2−6)rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物のプロファイリング
次に、アブラナ科植物の種子では特異的なグルコシノレート類(例えば、マスタードオイルの辛味成分)が蓄積していることが知られていることから、rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物のプロファイリングを行った。100mgのrmt−1変異体の乾燥種子の成分が20容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図10に示す。図10は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Col」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図10にあわせて示す。
【0110】
図10に示すように、乾燥種子では、地上部・根と異なりrmt−1変異体と野生型との間で変化は認められなかった。
【0111】
(2−7)カビ、病原性微生物に対するrmt−1の抵抗性の調査
植物に感染して病害を発生させるカビ(Alternaria brassicicola)および病原性微生物(Erwinia carotovora)に対するrmt−1変異体の抵抗性の調査を行った。比較のために、野生型に対しても同様の実験を行った。カビあるいは病原性微生物の感染は、以下のようにして行った。
【0112】
培養されたカビ(Alternaria brassicicola(NCBR31226))の分生胞子を5×105個/ml濃度で含む懸濁液の小滴3μlを、播種後14日目のrmt−1および野生型の4つの葉に接種した。図11の上段には、接種後86時間が経過した各植物体の様子を示す。
【0113】
10mM MgCl2に0.5−1.0×108CFU(コロニー形成単位)/mlの濃度で懸濁された病原性微生物(Erwinia carotovora(NCBR3380))の3μlの小滴が、播種後14日目のrmt−1および野生型4つの葉の上に置かれた。図11の下段には、播種後86時間が経過した各植物体の様子を示す。
【0114】
図11に示すように、rmt−1変異体の抵抗性を野生型と比較した場合、カビ(Alternaria brassicicola)に対する抵抗性については大きな差は認められなかったが、感染すると植物に軟腐病を発症させる軟腐病菌(Erwinia carotovora)に対してより高い抵抗性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、IGsを多量に蓄積することのできる新品種の植物を得ることができる。IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤をはじめとする製薬原料として利用することのできる有用物質であるため、本発明は、農業、食品製造業、医薬品製造分野などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】シロイヌナズナの第5染色体において、T−DNAが挿入された部位およびその周辺領域を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、野生型と変異体rmt−1について、既知のIGs合成関連遺伝子の発現量をRT−PCRによって比較した結果を示す模式図である。
【図3】(a)は、野生型および変異体(rmt−1、trp−5)において、5−MTに対する抵抗性の濃度依存性を調べた結果を示すグラフである。(b)は、野生型および変異体(rmt−1、trp−5)において、種々のTrp類縁化合物に対する抵抗性を調べた結果を示すグラフである。
【図4】(a)は、野生型と変異体rmt−1において、遊離トリプトファンの含有量を調べた結果を示すグラフである。(b)は、野生型と変異体rmt−1において、AS活性を調べた結果を示すグラフである。
【図5】野生型および変異体rmt−1において、D−Trp、L−Trp、5MTの添加による用量依存的なAS活性のフィードバック阻害の解析を行った結果を示すグラフである。(a)には地上部の結果を示し、(b)には根の結果を示す。
【図6】rmt−1変異体の地上部の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図7】図6に示すプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。
【図8】rmt−1変異体の根の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図9】図8に示すプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。
【図10】rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図11】カビ、および、病原性微生物に感染したrmt−1変異体および野生型の植物の様子を示す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与する新規遺伝子およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グルコシノレート類およびその分解産物は、病害虫抵抗性に関与することが知られている他、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなどといったアブラナ科の農作物の香味、苦味の主要な成分であることが知られている。そのため、グルコシノレート類およびその分解産物は、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤をはじめとする製薬原料として利用することのできる有用物質である。
【0003】
非特許文献1〜5には、トリプトファンを出発物質とする二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与するシロイヌナズナ由来の遺伝子CYP79B2、CYP83B31(これらをCYP遺伝子と呼ぶ)について記載されている。このCYP遺伝子を植物中で高発現させると、IGsの合成量が増加することが確認されている。
【0004】
また、非特許文献1および5には、合成されたIGsが害虫を選択的に誘引することが記載されており、非特許文献1には、IGsが病害虫に対して抵抗性を有することが記載されている。
【非特許文献1】M.D. Mikkelsen, B.L. Petersen, C.E. Olsen, and B.A. Halkier, Amino Acids (2002) 22: 279-295
【非特許文献2】Michael Dalgaard Mikkelsen, Carsten Horslev Hansen, Ute Wittstock, and Barbara Ann Halkier, The Journal of Biological Chemistry, Vol. 275, No. 42, Issue of October 27, 33712-33717, 2000
【非特許文献3】Yunde Zhao, Anna K. Hull, Neeru R. Gupta, Kendrick A. Goss, Jose Alonso, Joseph R. Ecker, Jennifer Normanly, Joanne Chory, and John L. Celenza, GENES & DEVELOPMENT 16: 3100-3112 (2002)
【非特許文献4】Peter Naur, Bent Larsen Petersen, Michael Dalgaard Mikkelsen, Soren Bak, Hasse Rasmussen, Carl Erik Olsen, and Barbara Ann Halkier, Plant Physiology, September 2003, Vol.133, 63-72
【非特許文献5】Giamoustaris,A and Mithen, R., (1995) Ann Appl Biol.126:347-363
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記CYP遺伝子を高発現させた変異植物を作製しても、IGsの蓄積量の増加率は、せいぜい野生型の5倍程度である(非特許文献1〜4参照)。IGsをより大量に蓄積することのできる変異植物が得られれば、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤などに利用できるIGsをより効率的に取得することができるため、その実現が望まれている。また、上記CPY遺伝子を高発現させた変異植物は、矮化、帯化などの外観上の異常を引き起こすため、実用化に支障をきたす可能性が高い。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高発現させることによってIGsの蓄積量をより向上させることのできる新規遺伝子、および、当該遺伝子を高発現させることで、外観上の異常を引き起こすことなく、IGsを多量に蓄積することができる新品種の植物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らが構築したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリから、5−メチルトリプトファン(5MT)抵抗性を有する変異体rmt−1を選抜した。そして、この変異体rmt−1において、T−DNA挿入部位に隣接して存在し、高発現している遺伝子をIGs合成に関与する遺伝子(以下、この遺伝子をRMT−1遺伝子と呼ぶ)として単離し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成に関与するポリヌクレオチドであって、下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチドである。
【0009】
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0010】
上記のポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドを翻訳産物として得ることができる。
【0011】
本発明にかかるポリペプチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするものである。
【0012】
上記のポリペプチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進することができる。
【0013】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記のポリペプチドをコードするものであってもよい。上記のポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドを翻訳産物として得ることができる。
【0014】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列からなるものであってもよい。この配列番号3に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むゲノムの塩基配列である。
【0015】
本発明にかかる形質転換体選抜用マーカー遺伝子は、上記の何れかのポリヌクレオチドからなるものである。
【0016】
本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にトリプトファン類縁化合物(具体的には、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)など)に対する耐性を付与する。そのため、上記マーカー遺伝子は、当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している形質転換細胞を選抜するためのマーカー遺伝子として利用することができる。
【0017】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にバクテリア、菌類に起因する植物の各種病害に対する抵抗性を付与するため、上記マーカー遺伝子を用いて形質転換体の選抜を行えば、病害抵抗性を有する形質転換体を取得することもできる。
【0018】
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記の何れかのポリヌクレオチドを含むものである。上記の組換え発現ベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを細胞に導入するための組換え発現ベクターとして利用できるだけでなく、本発明に係るポリヌクレオチドを選抜マーカーとして用いた場合には、他の遺伝子を細胞に導入するための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0019】
本発明にかかる形質転換体は、上記のポリヌクレオチドまたは上記の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、インドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現しているものである。上記形質転換体は、植物細胞または植物体であることが好ましい。また、上記植物細胞または植物体は、シロイヌナズナ由来のものであることが好ましい。
【0020】
本発明にかかる上述の各形質転換体は、植物の生育に害となるトリプトファン類縁化合物(具体的には、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)など)に対して抵抗性を有する。
【0021】
当該ポリヌクレオチドまたは組換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された上記形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。
【0022】
特に、上記形質転換体がシロイヌナズナの場合、IGsを野生型植物と比較して約20倍蓄積することができる。つまり、この形質転換体は、IGsを高レベルに蓄積する変異植物である。また、この形質転換体は、非特許文献1〜5に記載のCYP遺伝子を高発現させた形質転換植物などで起きる植物の外観上の異常を引き起こさず、正常な外観を有している。それに加えて、この形質転換体は、稔性、1000粒重など農作物として重要な形質には異常がないため、種々の目的に利用できる可能性を有しており、有用性が高い。
【0023】
また、上記形質転換体を作製すれば、IGsおよびその派生物を大量に取得することができる。IGsおよび派生物は、アブラナ科の農作物(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなど)の香味成分であるため、香辛料として利用することができる。また、IGsおよび派生物は、抗ガン作用を有することが知られており、上記形質転換体を利用することで、抗ガン剤の原料を効率的に生産することができる。また、本発明には上記形質転換植物から得られる種子も含まれる。
【0024】
本発明にかかる形質転換体の具体例としては、本発明者らが構築したシロイヌナズナのアクティベーションタギングライブラリより選抜したrmt−1変異体が挙げられる。このrmt−1変異体においては、本発明にかかるポリヌクレオチドが高発現していることによって、野生型のシロイヌナズナと比較して約20倍量のIGsを蓄積することができる。
【0025】
本発明にかかるインドールグルコシノレート類の生産方法は、本発明の形質転換体を用いることを特徴とするものである。上記の生産方法によれば、病害虫抵抗剤、香辛料、抗ガン剤などの原料として利用できるインドールグルコシノレート類を効率的に生産することができる。
【0026】
本発明にかかる形質転換細胞の選抜方法は、上記のマーカー遺伝子または上記の組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜することからなるものである。
【0027】
上記の選抜方法によれば、本発明のマーカー遺伝子を使用することで、これまで複数遺伝子を細胞に導入する際に使用できる選択マーカーの種類が制限されるといった問題を解決することができる。すなわち、通常選択マーカーとして使用されている抗生物質に対する耐性等の他に、トリプトファン類縁化合物、例えば5-メチルトリプトファンに対する抵抗性によって複数の目的DNAが導入された細胞の選抜が可能となる。また、本発明にかかるマーカー遺伝子を植物細胞に導入した場合、当該植物細胞から得られる形質転換植物の外観や稔性などには異常が起こらない。そのため、上記マーカー遺伝子を使用した本発明の選抜方法は有用である。
【0028】
本発明にかかる形質転換キットは、少なくとも上記のポリヌクレオチド、あるいは、上記の組換え発現ベクターのいずれかを含むことを特徴とするものである。上記の形質転換キットを用いれば、本発明に係るポリペプチドを発現する形質転換体を簡便かつ効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるポリヌクレオチドによれば、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を行うことができる。そして、本発明のポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された本発明の形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。
【0030】
IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質として知られる他、製薬原料にもなる有用物質である。そのため、本発明の形質転換植物を利用すれば、これらの有用物質を効率的に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下の通りである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0032】
(1)本発明にかかるポリヌクレオチド
本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成を促進する活性を有するポリペプチドをコードするものである。
【0033】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列からなるポリヌクレオチドが意図される。
【0034】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0035】
一実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成に関与するポリヌクレオチドであって、
下記の(a)または(b):
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド
のいずれかである。
【0036】
上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味し、例えば、60℃で2×SSC 洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning (Third Edition)」 (J. Sambrook & D. W. Russell, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001) に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる。
【0037】
上記のポリヌクレオチドのうち、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明者らが作製したシロイヌナズナの変異体rmt−1において、高発現しているRMT−1遺伝子の塩基配列である。
【0038】
また、他の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類(IGs)の合成を促進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b):
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列
のいずれかである。
【0039】
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0040】
また、他の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列からなるものである。さらに別の実施形態において、本発明にかかるポリヌクレオチドは、上記ポリヌクレオチドのフラグメントであるオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0041】
本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。本発明にかかるポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術は、標的遺伝子に対して相補的なRNA転写体を生成するキメラ遺伝子の導入を基本原理とする。その結果として得られる表現型は、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少である。つまり、本発明にかかるオリゴヌクレオチドであるアンチセンスRNAを導入することによって、トリプトファンからインドールグルコシノレート類を合成する機能が低下し、植物中のインドールグルコシノレート類の含量を低下させることができる。
【0042】
また、DNAには例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。本発明にかかるポリヌクレオチドの一例である、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドは、上記RMT−1遺伝子のゲノムDNAに相当する。このゲノムDNAにおいて、配列番号1に示される塩基配列中の第1〜500番目の塩基配列、608〜688番目の塩基配列、926〜1286番目の塩基配列、1324〜1408番目の塩基配列、1454〜1566番目の塩基配列、1609〜1737番目の塩基配列、1852〜1983番目の塩基配列、2107〜2193番目の塩基配列、2323〜2457番目の塩基配列、2050〜2601番目の塩基配列、2685〜2918番目の塩基配列、3000〜3088番目の塩基配列、3220〜3607番目の塩基配列、3834〜4015番目の塩基配列、4096〜4219番目の塩基配列、4313〜4451番目の塩基配列、4650〜4791番目の塩基配列、5057〜5141番目の塩基配列、5193〜5297番目の塩基配列、5457〜5685番目の塩基配列、5828〜6273番目の塩基配列、6369〜6456番目の塩基配列、6533〜6798番目の塩基配列、6922〜7013番目の塩基配列、7055〜7108番目の塩基配列、7172〜7251番目の塩基配列、7368〜7468番目の塩基配列、7600〜7851番目の塩基配列、7970〜8058番目の塩基配列、8139〜8231番目の塩基配列、8584〜8665番目の塩基配列、8810〜9300番目の塩基配列がそれぞれイントロン領域であり、それ以外の領域がエキソン領域である。そして、配列番号1に示す塩基配列は、上記RMT−1遺伝子のオープンリーディングフレーム領域の塩基配列である。
【0043】
さらに、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0044】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法として、公知の技術により、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするプローブであれば、いずれの配列および/または長さのものを用いてもよい。
【0045】
あるいは、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、本発明におけるポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0046】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、グルコシノレート類を二次代謝産物として生合成する植物、具体的にはアブラナ科に属する植物(例えば、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、シロイヌナズナなど)であることが好ましい。後述する実施例においては、シロイヌナズナから本発明にかかるポリヌクレオチドの一つであるRMT−1遺伝子を取得しているが、これに限定されるものではない。
【0047】
(2)本発明にかかるポリペプチド
本発明にかかるポリペプチドは、上記(1)に記載したポリペプチドの翻訳産物であり、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するものである。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0049】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0050】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0051】
一実施形態において、本発明にかかるポリペプチドは、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなるポリペプチドである。
【0052】
上記「1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ポリペプチド作製法により欠失、置換、もしくは付加ができる程度の数(例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、特に好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換、欠失、もしくは付加されることを意味する。このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0053】
なお、上記ポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0054】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号1に示される塩基配列からなるポリペプチド、または、配列番号3に示される塩基配列からなるポリペプチドの翻訳産物である。このポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列中の第544〜566番目の領域、および、573〜595番目の領域に、N末端側が外側となる膜貫通ドメインを形成する。
【0055】
(3)形質転換用マーカー遺伝子および形質転換細胞の選抜方法
本発明にかかるポリヌクレオチドは、形質転換用マーカー遺伝子として利用することができる。すなわち、本発明に係る形質転換体選抜用マーカー遺伝子は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドからなるものであればよい。本発明にかかるポリヌクレオチドを導入された細胞はトリプトファン類縁化合物に対して耐性を有するため、トリプトファン類縁化合物を培地に添加することにより、当該ポリヌクレオチドが導入された細胞のみを選抜することが可能となる。選抜用薬剤として用いることができる細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物としては、例えば、5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)等を挙げることができる。
【0056】
具体的に、本発明にかかるポリヌクレオチドを形質転換用マーカー遺伝子として利用するには、例えば、当該ポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを目的の細胞に導入する。当該発現ベクターが導入され、本発明に係るポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現している細胞はトリプトファン類縁化合物に対して耐性を獲得するため、上記例示した選抜用薬剤が添加された培地においても増殖ができ、一方、当該発現ベクターが導入されていない細胞や本発明にかかるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現していない細胞は増殖が阻害される。したがって、当該発現ベクターが導入され、本発明にかかるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが発現している形質転換細胞のみを選抜することが可能となる。
【0057】
上述の例では本発明にかかるポリヌクレオチドを形質転換細胞に発現させる遺伝子とマーカー遺伝子との両方の目的で用いているが、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子としてのみ用いることも可能である。また、例えば、植物のカルス細胞に特異的な転写プロモーターを使用することにより、本発明にかかるポリヌクレオチドの選択マーカーとしての発現時期の制御も可能である。この場合は、さらに目的の細胞内で発現させたいタンパク質をコードする遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、当該発現ベクターを用いて形質転換すればよい。また、本発明にかかるポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを構築せずに、本発明に係るポリヌクレオチドを単独で目的の細胞に導入することも可能である。
【0058】
また、本発明にかかるポリヌクレオチドは、それが発現している細胞にバクテリア、菌類に起因する植物の各種病害(うどん粉病、軟腐病、灰色カビ病、黒腐病、べと病など)に対する抵抗性を付与するため、交配育種における病害抵抗性個体を選抜するための遺伝子マーカーとしても利用することができる。
【0059】
なお、本発明には上記本発明にかかるマーカー遺伝子または以下に説明する組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜する形質転換細胞の選抜方法も含まれる。
【0060】
(4)組換え発現ベクターおよび形質転換キット
本発明にかかる組換え発現ベクターは、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されるものではない。例えば、cDNAが挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。組換え発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。
【0061】
ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ホスト細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、ホスト細胞の種類に応じて、確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明にかかるポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。
【0062】
本組換え発現ベクターは、本発明にかかるポリペプチドを発現させるために用いることができることはいうまでもないが、本発明にかかるポリヌクレオチドをマーカー遺伝子として利用し、他の遺伝子を組み込んで当該他の遺伝子がコードするタンパク質を発現させるための組換え発現ベクターとしても利用できる。
【0063】
本発明にかかるポリヌクレオチドがホスト細胞に導入されたか否か、さらにはホスト細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、ハイグロマイシンのような抗生物質に抵抗性を与える薬剤耐性遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明にかかるポリヌクレオチドとを含むプラスミド等を発現ベクターとしてホスト細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明の遺伝子の導入を確認することができる。
【0064】
上記ホスト細胞は、IGs合成系を有する細胞、生物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えばアブラナ科植物やアブラナ科植物由来の植物細胞等を挙げることができる。
【0065】
上記発現ベクターをホスト細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0066】
本発明に係る形質転換キットは、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドまたは当該本発明にかかる組換え発現ベクターの少なくともいずれかを含むものであればよい。その他の具体的な構成については特に限定されるものではなく、必要な試薬や器具等を適宜選択してキットの構成とすればよい。当該形質転換キットを用いることにより、簡便かつ効率的に形質転換細胞を得ることができる。
【0067】
(5)形質転換体
本発明にかかる形質転換体は、上記(1)に記載した本発明にかかるポリヌクレオチドまたは上記(4)に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現している形質転換体であれば、特に限定されるものではない。ここで「形質転換体」とは、細胞・組織・器官のみならず、生物個体を含む意味である。
【0068】
また、ここで、「ポリヌクレオチドが導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味するが、本発明では、これに加えてゲノム中に含まれる本発明のポリヌクレオチドが生体内で高発現している場合も含むものとする。このゲノム中に含まれる本発明のポリヌクレオチドが生体内で高発現している形質転換体の例としては、上述の変異体rmt−1が挙げられる。
【0069】
形質転換体の作製方法(生産方法)は特に限定されるものではないが、例えば、上述した組換え発現ベクターをホスト細胞に導入して形質転換する方法を挙げることができる。また、トリプトファン合成系を有する細胞、生物であれば、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記(4)においてホスト細胞として例示した各種微生物等を挙げることができる。
【0070】
本発明にかかる形質転換体は、植物細胞または植物体であることが好ましい。このような形質転換植物は、細胞内または植物体内においてIGsを合成することができる。そして、上記ポリヌクレオチドまたは組み換え発現ベクターがポリペプチドの発現を促進させるプロモーターとともに導入された上記形質転換体では、トリプトファンの二次代謝産物であるIGsの合成が促進され、IGsの蓄積量を増加させることができる。このような形質転換体は、植物の病害虫に対する抵抗性を有する。
【0071】
植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に限定しない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。また、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターを有するベクターであることが好ましい。プロモーターとしては公知のプロモーターを好適に用いることができ、具体的には、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、ユビキチンプロモーターやアクチンプロモーターを挙げることができる。なお、植物細胞には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0072】
植物細胞への組み換え発現ベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、公知の種々の方法を用いることができる。また、形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて公知の方法で行うことが可能である。
【0073】
ゲノム内に本発明にかかるポリヌクレオチドが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から得られる種子にも当該ポリヌクレオチドが導入されている。本発明には、形質転換植物から得られる種子も含まれる。
【0074】
続いて、本発明の形質転換植物の性質について説明する。
【0075】
本発明にかかる形質転換植物は、本発明にかかるポリヌクレオチドを導入されているため、植物に対して毒性を有する5−メチルトリプトファン(5MT)、5−フルオロトリプトファン(5FT)などのトリプトファン類縁化合物に対して耐性を有する。
【0076】
また、IGsの合成系に関与する遺伝子としては、上述のCYP79B2、CYP83B31などが既に知られている。これらの遺伝子を高発現させても、合成されるIGsの増加率は5倍程度である。これに対して、本発明にかかる形質転換植物rmt−1は、IGsを20倍という高レベルで蓄積する。IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質として知られる他、製薬原料にもなる有用物質である。そのため、本発明の形質転換植物を利用すれば、これらの有用物質を効率的に生産することができる。
【0077】
また、本発明の形質転換植物には、非選択性摂食害虫(非特異的摂食害虫、あるいはアブラナ科以外の植物に対する特異的摂食害虫:アワヨトウ、ハンスモンヨトウなど)の忌避効果が付与される。
【0078】
本発明の形質転換植物には、選択性摂食害虫(特異的摂食害虫:コナガ、ヤガ、モンシロチョウなど)を誘引する性質が付与される。これらの害虫は、IGsの分解産物を産卵誘導物質として利用するため、これを高濃度で発散する本発明の形質転換植物に選択的に害虫を誘引し、産卵させることが可能となる。BT遺伝子あるいはBT剤、IGR剤などの農薬と併用することで、選択性摂食害虫の効果的な駆除、農作物の低農薬栽培が可能となる。
【0079】
また、本発明の形質転換植物は、上述のCYP79B2、CYP83B31を高発現させた形質転換植物などで起きる植物の外観上の異常を引き起こさず、正常な外観を有している。それに加えて、この形質転換植物は、稔性、1000粒重など農作物として重要な形質には異常がないため、種々の目的に利用できる可能性を有しており、有用性が高い。
【0080】
また、本発明の形質転換植物からは、IGsおよびその派生物を多量に得ることができる。IGsおよびその派生物は、アブラナ科の農作物(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなど)の香味、苦味成分の主たるものであり、香辛料の原料として利用することができる。また、本発明の形質転換植物において、導入されるポリヌクレオチドの発現を随意に制御することで、植物の食味を多様に変化させることができる。
【0081】
また、IGsおよびその派生物は、抗ガン効果があることが知られており、当該形質転換植物を使用して抗ガン剤の原料を効率的に生産することができる。
【0082】
(6)IGsの生産方法
本発明は、本発明にかかる形質転換体を用いてインドールグルコシノレート類(IGs)を生産する方法を提供する。
【0083】
一実施形態において、本発明にかかるIGsの生産方法は、本発明にかかるポリヌクレオチドが導入された形質転換体またはその組織を用いてIGsを生産することを特徴とする。なお、上記形質転換体は植物である。
【0084】
本実施形態の好ましい局面において、本発明にかかるIGsの生産方法は、本発明にかかるポリヌクレオチドを植物に導入する工程を包含する。ポリヌクレオチドを植物に導入する工程としては、上述した種々の遺伝子導入方法を用いればよい。さらに、本実施形態にかかるIGsの生産方法は、上記植物からIGsを抽出する工程を包含することが好ましい。
【0085】
本発明のIGsの生産方法によれば、IGsを多量に蓄積する本発明の形質転換体を利用しているため、病害虫抵抗剤、香辛料、抗ガン剤などの原料として利用できるIGsを効率的に生産することができる。
【0086】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0087】
本実施例では、本発明にかかるポリヌクレオチドの一つであるRMT−1遺伝子の単離、および、本発明にかかる形質転換体の一つであるrmt−1の機能解析を行った。
【0088】
〔実施例1:RMT−1遺伝子の単離〕
実施例1では、先ず、本発明者らのグループで独自に構築したシロイヌナズナのT−DNA挿入によるアクティベーションタギングライブラリ(ベクターは、R. Walden氏より提供されたもの)から5−メチルトリプトファンに対する抵抗性を有する変異体であるrmt−1を選抜した。
【0089】
なお、上記アクティベーションタギングライブラリについては、下記の参考文献1〜3に記載されている。
【0090】
参考文献1:Muto H, Yabe N, Asami T, Hasunuma K, Yamamoto KT.
Overexpression of Constitutive Differential Growth 1 Gene, Which Encodes a RLCKVII-Subfamily Protein Kinase, Causes Abnormal Differential and Elongation Growth after Organ Differentiation in Arabidopsis.
Plant Physiol. 2004 Oct;136(2) Vol 136, pp.3124-3133
参考文献2:Fujibe T, Saji H, Arakawa K, Yabe N, Takeuchi Y, Yamamoto KT.
A methyl viologen-resistant mutant of Arabidopsis, which is allelic to ozone-sensitive rcd1, is tolerant to supplemental ultraviolet-B irradiation.
Plant Physiol. 2004 Jan;134(1):275-85.
参考文献3:Nakazawa M, Yabe N, Ichikawa T, Yamamoto YY, Yoshizumi T, Hasunuma K, Matsui M.
DFL1, an auxin-responsive GH3 gene homologue, negatively regulates shoot cell elongation and lateral root formation, and positively regulates the light response of hypocotyl length.
Plant J. 2001 Jan;25(2):213-21.
このrmt−1では、T−DNAと表現型の共分離が確認されたため、既知挿入T−DNA配列を利用し、TAIL−PCR法によりT−DNA挿入隣接ゲノム領域を回収した。回収した隣接配列を解析した結果、図1に示すように、T−DNAはシロイヌナズナの第5染色体上にhead-to-head(頭合わせ)で2コピー挿入されていることが確認された。図1には、シロイヌナズナの第5染色体において、T−DNAが挿入された部位およびその周辺領域を模式的に示す。
【0091】
アクティベーションタギングは、ゲノムに挿入されたCaMV35SRNAプロモーター由来のエンハンサー配列により、挿入近傍に位置する遺伝子を転写レベルで活性化し、機能獲得型変異を単離する方法である。ここで単離された変異体rmt−1においては、図1に示すように、T−DNA挿入部位に隣接して両側約3kbの位置にそれぞれ1つずつの推定ORF(ORFα、ORFβ)が存在していた。この2つの推定ORFについて、RT−PCRによって転写産物蓄積量を検定した結果、一方のORFαのみで転写産物がrmt−1特異的に蓄積していた(図1のRT−PCRの結果を参照。なお、この図において、「Col」は野生型シロイヌナズナを示す。)。なお、周辺に位置する他の推定ORFについて40kbの範囲で検討したが、rmt−1変異体特異的に転写産物の蓄積が認められるものは存在しなかった。
【0092】
そこで、このORFαが変異体rmr−1の表現型の原因遺伝子(RMT−1遺伝子)であると推測された。このORFαの塩基配列を確認したところ、そのオープンリーディングフレームの塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列であることが確認され、そのゲノムの塩基配列は、配列番号3に示す塩基配列であることが確認された。
【0093】
次に、rmt−1変異体において、既知のIGs合成関連遺伝子群(具体的には、Trp合成関連遺伝子:ASA1、ASA2、ATR−1、フィトアレキシン合成関連遺伝子:CYP79B2、CYP83A1、CYP79B3、CYP83B1、CYP79F1、SUR1、CYP79F1、CYP82G1、病害虫防御関連遺伝子:PR1、PDF1.2)について、RT−PCRによってその転写産物蓄積量を検討した。
【0094】
その結果を図2に示す。図2(a)にはTrp合成関連遺伝子の結果を示し、図2(b)にはフィトアレキシン合成関連遺伝子の結果を示し、図2(c)には病害虫防御関連遺伝子の結果を示す。また、比較のために野生型(Col)の各遺伝子についてもRT−PCRを行った。図では、各遺伝子について、左側に野生型の結果を示し、右側にrmt−1の結果を示している。図2に示すように、これら既知の遺伝子では、野生型Col(左側)とrmt−1(右側)との間の転写産物の蓄積量に有意な差は見られなかった。このことから、rmt−1の表現型の原因遺伝子(RMT−1遺伝子)は、新規の遺伝子であることが示唆される。
【0095】
〔実施例2:rmt−1の機能の調査〕
実施例2では、変異体rmt−1の機能解析を行った。なお、ここでは比較のために、野生型、および、既知の変異体trp−5についても同様の実験を行った。trp−5は、5MT抵抗性を有し、トリプトファン合成の律速酵素の一つであるアントラニル酸合成酵素(AS)活性が細胞内トリプトファン濃度によるフィードバック阻害を受けないという特性を有している。
【0096】
(2−1)5−MTに対する抵抗性の濃度依存性、および、種々のTrp類縁化合物に対する抵抗性の調査
野生型、変異体(rmt−1、trp−5)において、5−MTに対する抵抗性の濃度依存性を調べた。先ず、1%のスクロース、1%植物寒天、および、種々の濃度の5MTを含む垂直に配置された1/2MS固体培地に、野生型および2種類の変異体の種子をまいた。そして、播種後12日目にそれぞれの根の長さを測定した。その結果を図3(a)に示す。図3(a)のグラフでは、横軸に5−MTの長さを示し、縦軸に根の長さを示している。この図に示すように、変異体rmt−1は、野生型および変異体trp−5と比較して、5−MTによって根の成長が抑制されにくいということが確認された。
【0097】
次に、濃度100μMの種々のTrp類縁化合物(5MT、5FT、6MA(6−メチルアントラニル酸塩)、L−Trp)に対する抵抗性を調べた。先ず、1%のスクロース、1%植物寒天、および、濃度100μMの種々のTrp類縁化合物を含む垂直に配置された1/2MS固体培地に、野生型および2種類の変異体の種子をまいた。そして、播種後12日目にそれぞれの根の長さを測定した。その結果を図3(b)に示す。図3(b)のグラフでは、12個体の平均と標準偏差を示す。図3(b)のグラフでは、横軸に各植物種および各Trp類縁化合物の種類を示し、縦軸に根の長さを示している。この図に示すように、変異体rmt−1は、野生型および変異体trp−5と比較して、5−MT、5−FTに対する高い抵抗性を有していることが確認された。以上の結果から、変異体rmt−1は、植物に投与すると致死的な5−MT、5−FTに対して高い抵抗性を有していると言える。
【0098】
(2−2)遊離トリプトファン含量とAS活性の調査
続いて、変異体rmt−1に付与された5MT抵抗性が何に起因するものかについての調査を行った。rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因として第一に考えられるのは、ASの活性変化およびそれに起因する細胞内トリプトファンの濃度上昇である。
【0099】
そこで、ここでは、野生型(Col)と変異体rmt−1において、遊離トリプトファンの含有量と、AS活性を調査して、それぞれの比較を行った。
【0100】
まず、野生型(Col)と変異体rmt−1における遊離トリプトファン濃度を調べるために、播種後14日目の各植物体の地上部(aerial part)および根(root)の成分が、10容量あるいは20容量のメタノールでそれぞれ抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図4(a)に示す。なお、図4(a)のグラフには、3検体の平均値と標準偏差を示す。また、グラフにおけるrmt−1(1)、および、rmt−1(2)は、ともにホモ接合体を樹立する過程で取得された分離個体番号であり、基本的には遺伝的に同一のものである。
この図に示すように、rmt−1変異体における遊離トリプトファンの含有量は、野生型と比較してやや多い程度であることが確認された。
【0101】
次に、野生型(Col)と変異体rmt−1におけるAS活性を調べるために、播種後14日目の各植物体について、地上部(aerial part)と根(root)の成分が抽出された。その結果を図4(b)に示す。なお、図4(b)のグラフでは、縦軸にAS活性(pkat/mg protein)を示している。また、この図4(b)のグラフでは、3検体の平均値と標準偏差を示す。この図に示すように、rmt−1変異体におけるAS活性は、野生型と比較してせいぜい2倍程度であることが確認された。
【0102】
以上の結果から、rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因は、ASの活性変化およびそれに起因する細胞内トリプトファンの濃度ではないことが示唆された。
【0103】
(2−3)Trpおよび5−MTによるASのフィードバック阻害の変化の調査
rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因として次に考えられるのは、Trpおよび5−MTによるASのフィードバック阻害の変化である。
【0104】
そこで、野生型および変異体rmt−1において、D−Trp、L−Trp、5MTの添加による用量依存的なAS活性のフィードバック阻害の解析を行った。播種後14日目の植物体の地上部(aerial part)および根(root)の抽出物が、AS活性の決定に使用された。図5(a)には地上部の結果を示し、図5(b)には根の結果を示す。なお、図5の各グラフに示す値は、3検体の平均値である。この図に示すように、野生型と変異体rmt−1とで有意な差は見られず、rmt−1が5−MT抵抗性を有する原因は、ASのフィードバック阻害が解除されたことによるものではないことが示唆された。
【0105】
(2−4)rmt−1変異体の地上部の代謝産物のプロファイリング
次に、rmt−1変異体の地上部の代謝産物のプロファイリングを行った。播種後14日目のrmt−1変異体の地上部の成分が10容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図6、7に示す。図6は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示し、図7は、このプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。図7の各グラフに示す値は3検体の平均値である。図6中「N.I.」で示すものは、同定できなかったものを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Columbia(WT)」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図6にあわせて示す。
【0106】
図6、7に示すように、rmt−1では、ピークAのインドールグルコシノレート(IGS)の蓄積量が、特異的に野生型に比べて約20倍程度増加していることが確認された。
【0107】
(2−5)rmt−1変異体の根の代謝産物のプロファイリング
次に、rmt−1変異体の根の代謝産物のプロファイリングを行った。播種後14日目のrmt−1変異体の根の成分が20容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図8、9に示す。図8は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示し、図9は、このプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。図9の各グラフに示す値は3検体の平均値である。図8中「N.I.」で示すものは、同定できなかったものを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Columbia(WT)」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図8にあわせて示す。
【0108】
図8、9に示すように、地上部ほどではないが、rmt−1では、ピークAのインドールグルコシノレート(IGS)の蓄積量が、特異的に野生型に比べて約5倍程度増加していることが確認された。
【0109】
(2−6)rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物のプロファイリング
次に、アブラナ科植物の種子では特異的なグルコシノレート類(例えば、マスタードオイルの辛味成分)が蓄積していることが知られていることから、rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物のプロファイリングを行った。100mgのrmt−1変異体の乾燥種子の成分が20容量のメタノールで抽出された。抽出物は、以下の条件下で逆相HPLCを行って解析された。
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×150mm、勾配:5%−40% アセトニトリル/0.1% TFA(30分)、流速:0.8ml/min、検出:280nm
その結果を図10に示す。図10は、逆相HPLCによるプロファイリングチャートを示す。本実施例では、比較のために野生型(図では「Col」と記す)についても代謝産物のプロファイリングを行った。その結果も図10にあわせて示す。
【0110】
図10に示すように、乾燥種子では、地上部・根と異なりrmt−1変異体と野生型との間で変化は認められなかった。
【0111】
(2−7)カビ、病原性微生物に対するrmt−1の抵抗性の調査
植物に感染して病害を発生させるカビ(Alternaria brassicicola)および病原性微生物(Erwinia carotovora)に対するrmt−1変異体の抵抗性の調査を行った。比較のために、野生型に対しても同様の実験を行った。カビあるいは病原性微生物の感染は、以下のようにして行った。
【0112】
培養されたカビ(Alternaria brassicicola(NCBR31226))の分生胞子を5×105個/ml濃度で含む懸濁液の小滴3μlを、播種後14日目のrmt−1および野生型の4つの葉に接種した。図11の上段には、接種後86時間が経過した各植物体の様子を示す。
【0113】
10mM MgCl2に0.5−1.0×108CFU(コロニー形成単位)/mlの濃度で懸濁された病原性微生物(Erwinia carotovora(NCBR3380))の3μlの小滴が、播種後14日目のrmt−1および野生型4つの葉の上に置かれた。図11の下段には、播種後86時間が経過した各植物体の様子を示す。
【0114】
図11に示すように、rmt−1変異体の抵抗性を野生型と比較した場合、カビ(Alternaria brassicicola)に対する抵抗性については大きな差は認められなかったが、感染すると植物に軟腐病を発症させる軟腐病菌(Erwinia carotovora)に対してより高い抵抗性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、IGsを多量に蓄積することのできる新品種の植物を得ることができる。IGsおよびその分解産物は、病害虫抵抗性物質、香辛料、抗ガン剤をはじめとする製薬原料として利用することのできる有用物質であるため、本発明は、農業、食品製造業、医薬品製造分野などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】シロイヌナズナの第5染色体において、T−DNAが挿入された部位およびその周辺領域を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、野生型と変異体rmt−1について、既知のIGs合成関連遺伝子の発現量をRT−PCRによって比較した結果を示す模式図である。
【図3】(a)は、野生型および変異体(rmt−1、trp−5)において、5−MTに対する抵抗性の濃度依存性を調べた結果を示すグラフである。(b)は、野生型および変異体(rmt−1、trp−5)において、種々のTrp類縁化合物に対する抵抗性を調べた結果を示すグラフである。
【図4】(a)は、野生型と変異体rmt−1において、遊離トリプトファンの含有量を調べた結果を示すグラフである。(b)は、野生型と変異体rmt−1において、AS活性を調べた結果を示すグラフである。
【図5】野生型および変異体rmt−1において、D−Trp、L−Trp、5MTの添加による用量依存的なAS活性のフィードバック阻害の解析を行った結果を示すグラフである。(a)には地上部の結果を示し、(b)には根の結果を示す。
【図6】rmt−1変異体の地上部の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図7】図6に示すプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。
【図8】rmt−1変異体の根の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図9】図8に示すプロファイリングチャートから得られた主要なピークを同定し、その面積を算出してグラフ化したものである。
【図10】rmt−1変異体の乾燥種子の代謝産物を逆相HPLCでプロファイリングした結果を示すプロファイリングチャートである。
【図11】カビ、および、病原性微生物に感染したrmt−1変異体および野生型の植物の様子を示す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成に関与するポリヌクレオチドであって、
下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドからなる形質転換体選抜用マーカー遺伝子。
【請求項6】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項7】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドまたは請求項6に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、インドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現している形質転換体。
【請求項8】
上記形質転換体は、植物細胞または植物体であることを特徴とする請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
上記植物細胞または植物体は、シロイヌナズナ由来のものであることを特徴とする請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の植物体から得られる種子。
【請求項11】
請求項7〜9の何れか1項に記載の形質転換体を用いることを特徴とするインドールグルコシノレート類の生産方法。
【請求項12】
請求項5に記載のマーカー遺伝子または請求項6に記載の組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜することからなる、形質転換細胞の選抜方法。
【請求項13】
少なくとも請求項1または3に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項6に記載の組換え発現ベクターのいずれかを含むことを特徴とする形質転換キット。
【請求項1】
トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成に関与するポリヌクレオチドであって、
下記の(a)または(b)のいずれかであることを特徴とするポリヌクレオチド:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)以下の(i)もしくは(ii)のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;もしくは
(ii)配列番号1に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
トリプトファンの二次代謝産物であるインドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドからなる形質転換体選抜用マーカー遺伝子。
【請求項6】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項7】
請求項1または3に記載のポリヌクレオチドまたは請求項6に記載の組換え発現ベクターが導入されており、かつ、インドールグルコシノレート類の合成を促進する活性を有するポリペプチドが発現している形質転換体。
【請求項8】
上記形質転換体は、植物細胞または植物体であることを特徴とする請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
上記植物細胞または植物体は、シロイヌナズナ由来のものであることを特徴とする請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の植物体から得られる種子。
【請求項11】
請求項7〜9の何れか1項に記載の形質転換体を用いることを特徴とするインドールグルコシノレート類の生産方法。
【請求項12】
請求項5に記載のマーカー遺伝子または請求項6に記載の組換え発現ベクターを細胞に導入することにより、細胞の増殖を阻害するトリプトファン類縁化合物に対する耐性を細胞に付与し、さらに当該トリプトファン類縁化合物に対する耐性を発現している細胞を選抜することからなる、形質転換細胞の選抜方法。
【請求項13】
少なくとも請求項1または3に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項6に記載の組換え発現ベクターのいずれかを含むことを特徴とする形質転換キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−115813(P2006−115813A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310232(P2004−310232)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】
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