説明

III族窒化物半導体結晶とその製造方法、およびIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板

【課題】大面積で転位密度が小さいIII族窒化物半導体結晶を簡便な工程で製造すること。
【解決手段】幅100μm以上の第1結晶成長面(1)と幅100μm以上の第2結晶成長面(2)を10°以上180°未満の角度で交差するように配置し、第1結晶成長面と第2結晶成長面からの結晶成長のみで40mm2以上のIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能な結晶成長面配置条件下で結晶成長を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウムなどのIII族窒化物半導体結晶の製造方法に関する。特に、基板に存在する転位などの欠陥を引き継がずに良質なIII族窒化物半導体結晶を成長させることができる方法に関する。また本発明は、該方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶や、該方法に用いる基板にも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムに代表されるIII族窒化物半導体は、大きなバンドギャップを有し、またバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有望な材料である。
【0003】
窒化物半導体は、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、アモノサーマル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシ−法(MBE法)、液相エピタキシ−法(LPE法)、昇華法などを用いて作製することができる。これらのうち、成長速度が比較的速い点でHVPE法、が注目されており、バルク成長に比較的向いている点でHVPE法、アモノサーマル法が注目されている。例えば、HVPE法やMOCVD法といった気相成長法を用いるときには、下地基板を支持体上に設置したうえで原料ガスを供給することにより、下地基板表面にIII族窒化物半導体結晶を成長させることができる。下地基板としては、例えばサファイア基板、SiC基板、Si基板、GaAs基板等の異種基板が多く用いられている。下地基板上に成長させた窒化物半導体結晶は、下地基板とともに支持体から分離し、必要に応じて下地基板を研磨等の方法により除去することにより取り出すことができる(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、この方法では、格子定数および熱膨張係数の異なる異種基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させるため、得られたIII族窒化物半導体結晶には多くの転位が含まれてしまう。そのような転位が多く存在するIII族窒化物半導体結晶を用いると、例えばLEDなどの発光デバイスにおいては、結晶中に流れる電流に不均一性が生じ、光出力が不均一となる等の問題が生じてしまう。このため近年では、基板上に成長するIII族窒化物半導体結晶の品質をさらに改善したうえで、大面積のIII族窒化物半導体結晶を効率よく製造する技術の確立が強く望まれている。
【0005】
そこで、転位を有するIII族窒化物半導体結晶を用いて、転位を抑えたIII族窒化物半導体結晶を成長させる技術が種々検討されている。例えば、転位を有するIII族窒化物半導体結晶の表面を、幅が0.1〜10μm程度の開口部を有するマスクで覆い、非被覆部からマスク開口部を通して結晶を成長させて、さらにマスク上を横方向成長させることを特徴とする結晶成長方法が提案されている(特許文献2参照)。このようにしてマスクを覆うように形成された転位密度が低い結晶を基板として、さらにHVPE法等で結晶成長させることにより、厚膜なIII族窒化物半導体結晶を得ることを意図している。
【0006】
また、他の方法として、転位を有するIII族窒化物半導体結晶を転位の方向に沿ってスライスし、スライスした複数の結晶片を転位の方向が水平方向となるようにタイル状に連続して敷設し、転位の方向とは垂直な方向に結晶を成長させることによって、大面積で転位密度が小さいIII族窒化物半導体結晶を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。そして、タイル状に敷設したスライス結晶片どうしの接続部において面取りを行ってV字溝を形成しておき、成長させるIII族窒化物半導体結晶に転位が生ずるのを防ぐことが提案されている(特に特許文献3の図14参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−240988号公報
【特許文献2】特開平10−312971号公報
【特許文献3】特開2006−315947号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Appl. Phys. 37 (1998) 309頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載される方法によれば、マスク直上に成長した結晶の転位密度は抑えることが可能である。しかしながら、開口部に成長した結晶の転位密度は十分に抑えることができないため、結局、その上に成長させるIII族窒化物半導体結晶には転位密度が低い領域と高い領域が混在してしまうという問題がある。
【0010】
特許文献3に記載される方法によれば、スライス結晶片に存在している転位は、スライス結晶片上に成長させるIII族窒化物半導体結晶に伝搬しにくい。しかしながら、この方法では転位の方向に垂直な方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させる場合にしか用いることができないうえ、スライスして面取りをしてから敷設するという煩雑な工程を経なければならないという欠点がある。
【0011】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、大面積で転位密度が小さいIII族窒化物半導体結晶をより簡便な工程で製造することができる方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、本発明者らは、2つの結晶成長面を特定の条件を満たすように配置して結晶成長させることによって従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0013】
[1] 10°以上180°未満の角度で交差する第1結晶成長面と第2結晶成長面の各面から結晶成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
前記第1結晶成長面の幅と前記第2結晶成長面の幅がいずれも100μm以上であり(ここで幅とは前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の交線に垂直な方向の最大幅を意味する)、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の両方に垂直な断面の最大断面積が40mm2以上である結晶を、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面からの結晶成長のみで得ることが可能である結晶成長面配置条件下において、前記結晶成長を行うことを特徴とする、III族窒化物半導体結晶の製造方法。
[2] 前記第1結晶成長面が、前記第2結晶成長面から突出している突出結晶部に存在することを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法(以下、本明細書において第1の態様という)。
[3] 前記突出結晶部が円柱形状を有していることを特徴とする[2]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[4] 前記突出結晶部が、前記第2結晶成長面と10°以上180°未満の角度で交差しているp個の結晶成長面を有している(ここでpは3〜8の整数である)ことを特徴とする[2]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[5] p個の結晶成長面がいずれも前記第2結晶成長面と略90°の角度で交差していることを特徴とする[4]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[6] pが4であり、かつ、p個の結晶成長面がそれぞれ隣りの結晶成長面と略270°の角度で交差していることを特徴とする[4]または[5]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[7] 前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を含めて合計m個の結晶成長面が存在し(ここでmは3以上の整数である)、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している状態(ここでnは1からm−1までの各整数を表す)において、各結晶成長面から結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法(以下、本明細書において第2の態様という)。
[8] m個の結晶成長面の法線がすべて略平面内にあることを特徴とする[7]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[9] 前記第1結晶成長面と第m結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差していることを特徴とする[8]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[10] mが3〜10の整数であることを特徴とする[7]〜[9]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【0014】
[11] 第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面からなる結晶成長面ユニットであって、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第2結晶成長面と前記第3結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第1結晶成長面の法線、前記第2結晶成長面の法線、および前記第3結晶成長面の法線がすべて略平面内にある結晶成長面ユニットが複数個存在する状態で、各結晶成長面から結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法(以下、本明細書において第3の態様という)。
[12] 各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて同一平面上にあることを特徴とする[11]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[13] 各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて単一の結晶に存在することを特徴とする[12]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[14] 第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けて並べておき、各間隔を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することを特徴とする[11]〜[13]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[15] 第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けずに連続的に並べておき、各接合部を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することを特徴とする[11]〜[13]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[16] 各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面がすべて略平行であり、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて略平行であり、かつ、各結晶成長面ユニットの第3結晶成長面がすべて略平行であることを特徴とする[11]〜[15]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[17] 各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面と第2結晶成長面が略90°の角度で交差していることを特徴とする[11]〜[16]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[18] 各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面と第3結晶成長面が略90°の角度で交差していることを特徴とする[11]〜[17]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[19] m個の結晶成長面ユニットが並設されている(ここでmは2以上の整数である)ことを特徴とする[11]〜[18]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[20] 第nユニットの第3結晶成長面と第n+1ユニットの第1結晶成長面が単一の結晶に存在する(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする[19]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[21] 第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であって互いに接していない(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする[19]または[20]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[22] 第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であって互いに接している(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする[19]または[20]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【0015】
[23] 前記第1結晶成長面を有する結晶と前記第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であることを特徴とする[1]〜[22]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[24] 前記第1結晶成長面を有する結晶と前記第2結晶成長面を有する結晶が、前記第2結晶成長面と同じ平面内で接するように配置することを特徴とする[23]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[25] 前記各結晶成長面がいずれも単一の結晶内にあることを特徴とする[1]〜[20]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[26] 前記単一の結晶を、III族窒化物半導体結晶の一部をマスク材料で被覆したうえでIII族窒化物半導体結晶を成長させることによって製造することを特徴とする[25]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[27] 前記第2結晶成長面となる面をマスク材料で被覆することを特徴とする[26]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[28] 前記第2結晶成長面の転位密度が1×108cm-2以上であることを特徴とする[1]〜[27]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[29] 前記第2結晶成長面以外の前記結晶成長面の転位密度が1×106cm-2以下であることを特徴とする[1]〜[28]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[30] 前記結晶成長により成長したIII族窒化物半導体結晶のうち、前記第2結晶成長面以外の前記結晶成長面から成長した領域を切り出す工程をさらに含むことを特徴とする[1]〜[29]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[31] 前記結晶成長により成長したIII族窒化物半導体結晶のうち、前記第1結晶成長面から成長した領域を切り出す工程をさらに含むことを特徴とする[1]〜[29]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【0016】
[32] [1]〜[31]のいずれか一項に記載の製造方法により製造され、かつ、最大断面積が40mm2以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
[33] [31]に記載の製造方法により製造され、かつ、最大断面積が40mm2以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
【0017】
[34] 10°以上180°未満の角度で交差する第1結晶成長面と第2結晶成長面を有しており、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の交線に垂直な方向の幅が、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面のいずれも100μm以上であり、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の両方に垂直な断面の最大断面積が40mm2以上である結晶を、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面からの結晶成長のみで得ることが可能であるように、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面が配置されている
ことを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
[35] 前記第1結晶成長面が、前記第2結晶成長面から突出している突出結晶部に存在することを特徴とする[34]に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
[36] 前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を含めて合計m個の結晶成長面が存在し(ここでmは3以上の整数である)、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している(ここでnは1からm−1までの各整数を表す)ことを特徴とする[34]に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
[37] 第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面からなる結晶成長面ユニットであって、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第2結晶成長面と前記第3結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第1結晶成長面の法線、前記第2結晶成長面の法線、および前記第3結晶成長面の法線がすべて略平面内にある結晶成長面ユニットが複数個存在することを特徴とする[32]に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
[38] 単一の結晶からなることを特徴とする[34]〜[37]のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
【発明の効果】
【0018】
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法によれば、大面積で転位密度が小さいIII族窒化物半導体結晶を簡便な工程で製造することができる。また、本発明のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板を用いれば、大面積で転位密度が小さいIII族窒化物半導体結晶を容易に製造することができる。さらに、本発明のIII族窒化物半導体結晶は、大面積で転位密度が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図2】第1の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図3】第1の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図4】第1の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図5】第2の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図6】第2の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図7】第3の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図8】第3の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図9】第3の態様の一具体例を示す斜視図である。
【図10】第3の態様の結晶配置を説明するための斜視図である。
【図11】マスク材料を用いた第2の態様の製造方法を説明するための斜視図である。
【図12】本発明の製造方法により製造した各結晶領域の転位を説明するための断面図である。
【図13】本発明の製造方法により製造した各結晶領域の結晶方位を説明するための断面図である。
【図14】HVPE装置の模式図である。
【図15】実施例1における結晶の配置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明のIII族窒化物半導体結晶とその製造方法、およびIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
(III族窒化物半導体結晶の種類)
本発明の製造方法で製造するIII族窒化物半導体結晶の種類は特に制限されない。例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AllnGaNなどを挙げることができる。好ましいのはGaN、AlN、AlGaN、AllnGaNであり、より好ましいのはGaNである。以下の説明では、III族窒化物半導体結晶としてGaN(窒化ガリウム)結晶を例として説明することがあるが、本発明で採用することができる窒化物半導体結晶はこれに限定されるものではない。
【0022】
(第1結晶成長面と第2結晶成長面)
本発明の製造方法は、10°以上180°未満の角度で交差する第1結晶成長面と第2結晶成長面の各面からIII族窒化物半導体結晶を成長させるものである。
本発明で採用する第1結晶成長面と第2結晶成長面は、いずれも成長させようとしているIII族窒化物半導体結晶と同種のIII族窒化物半導体結晶に存在する面である。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させようとしている場合は、窒化ガリウム結晶に存在する2種の面を第1結晶成長面と第2結晶成長面とすることができる。第1結晶成長面と第2結晶成長面の面方位の組み合わせとしては、例えば、(0001)面と{10−10}面、(000−1)面と{10−10}面、{11−20}面と{10−10}面、{10−11}面と{10−10}面、{10−10}面と(0001)面、{11−20}面と(0001)面、{10−11}面と(0001)面、{10−10}面と(000−1)面、{11−20}面と(000−1)面、{10−11}面と(000−1)面を挙げることができる。その中では、(0001)面と{10−10}面、(000−1)面と{10−10}面、{11−20}面と{10−10}面、{10−10}面と{10−10}面、{10−11}面と{10−10}面の組み合わせが、高品質で大型のIII族窒化物半導体結晶を得やすい点で好ましい。それぞれの結晶面の面方位は上述の結晶面から任意の角度ずらしてもよい。好ましくは任意の結晶面からプラスマイナス10°の範囲である。
【0023】
第1結晶成長面と第2結晶成長面は、同じ結晶の中に存在していてもよいし、別の結晶の中に存在していてもよい。第1結晶成長面と第2結晶成長面がそれぞれ別の結晶の中に存在している場合は、第1結晶成長面と第2結晶成長面が10°以上180°未満の角度で交差するように2つの結晶を配置する。このとき、2つの結晶の方位が一致するように配置してもよいし、方位がずれるように配置してもよい。二つの結晶の方位が一致するよう配置すれば、得られる結晶の結晶方位が揃う点で好ましい。
【0024】
第1結晶成長面と第2結晶成長面が別の結晶の中に存在している場合は、成長させるIII族窒化物半導体結晶中の転位をより抑えやすいという利点がある。例えば、転位密度が高い結晶の一面を第2結晶成長面として選択した場合であっても、転位密度が低い結晶の一面を第1結晶成長面として選択して配置することにより、本発明で成長させるIII族窒化物半導体結晶の転位をより抑えやすくなる。転位密度が低い結晶は比較的小さいサイズであれば得られやすいことから、大面積で転位密度が高い結晶の上に、転位密度が低い小さな結晶を配置することにより、上記の配置を容易に実現することができる。すなわち、第2結晶成長面と同じ平面内で第2結晶成長面を有する結晶と接するように、第1結晶成長面を有する結晶を配置することによって、上記の配置を容易に実現することができる。
【0025】
一方、第1結晶成長面と第2結晶成長面が同じ結晶の中に存在している場合は、各結晶成長面が別の結晶中に存在しているときとは異なり結晶を本発明の条件を満たすように配置する必要がない。このため、たわみやねじれが無い結晶を用いれば、方位のずれがない状態で第1結晶成長面と第2結晶成長面を配置することができるという利点がある。また、転位がある結晶を用いる場合であっても、少なくとも一方の結晶成長面を転位と平行ないし略平行な方向にすることにより、転位と垂直な方向の成長においては結晶面の転位が伝播しないので、転位密度が低いIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能である。なお、本明細書において略平行とは0°±30°であることを意味しており、好ましくは0°±20°であり、より好ましくは0°±10°であり、さらに好ましくは0°±5°である。
【0026】
第1結晶成長面と第2結晶成長面は、研磨、エッチングなどの方法により、平滑化しておくことができる。
【0027】
第1結晶成長面と第2結晶成長面の幅は、いずれも100μm以上である。ここでいう幅とは、第1結晶成長面と第2結晶成長面の交線に垂直な方向の最大幅を意味する。また、ここでいう交線は必ずしも実在している必要はなく、2つの結晶成長面が交わる箇所に想定される仮想的な線分であっても構わない。例えば、2つの結晶成長面が交わる箇所はなだらかに湾曲していても構わない。第1結晶成長面と第2結晶成長面の幅は、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましく、250μm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、例えば5000μm以下にすることができる。転位密度が比較的小さい第1結晶成長面と転位密度が比較的大きい第2結晶成長面を採用する場合には、第1結晶成長面の幅はできるだけ大きくすることが好ましい。
【0028】
第1結晶成長面と第2結晶成長面の交差角度は10°以上180°未満である。交差角度が10°未満であると、第1結晶成長面と第2結晶成長面からIII族窒化物半導体結晶が成長しにくくて欠陥が発生しやすくなってしまう。交差角度は20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましく、45°以上であることがさらに好ましく、60°以上であることが特に好ましい。交差角度を上げて行くことによって、転位がより少ないIII族窒化物半導体結晶を時間効率良く成長させることが可能になる。交差角度は160°以下であることが好ましく、140°以下であることがより好ましく、120°以下であることがさらに好ましく、100°以下であることが特に好ましい。交差角度を下げて行くことによって、転位が比較的大きいIII族窒化物半導体結晶の成長量を抑えることができる。
【0029】
第1結晶成長面と第2結晶成長面の各面方位と交差角度は、適宜組み合わせて選択することができる。すなわち、第1結晶成長面が第2結晶成長面を覆うように成長できるように組み合わせて選択することが、第2結晶成長面から伝播する結晶欠陥(転位)を効果的に抑制しやすくするために好ましい。第1結晶成長面と第2結晶成長面の各面方位と交差角度の好ましい組み合わせ例として、(0001)面と{10−10}面との交差角度が90°である態様、(000−1)面と{10−10}面との交差角度が90°である態様、{11−20}面と{10−10}面との交差角度が90°である態様、{10−11}面と{10−10}面との交差角度が120°または60°である態様などを挙げることができる。
【0030】
(第1結晶成長面と第2結晶成長面をとりまく条件)
本発明の製造方法では、第1結晶成長面と第2結晶成長面からの結晶成長によって、大面積のIII族窒化物半導体結晶を製造することが可能な条件下でIII族窒化物半導体結晶を成長させる。すなわち本発明では、第1結晶成長面と第2結晶成長面の両方に垂直な断面の最大断面積が40mm2以上である結晶を、第1結晶成長面と第2結晶成長面からの結晶成長のみで得ることが可能である結晶成長面配置条件下において、前記結晶成長を行う。成長可能な結晶の最大断面積は、40mm2以上であることが好ましく、60mm2以上であることがより好ましく、80mm2以上であることがさらに好ましく、100mm2以上であることが特に好ましい。
【0031】
成長可能な結晶の最大断面積は、第1結晶成長面と第2結晶成長面の面方位と交差角度だけで必ずしも決まるものではなく、第1結晶成長面と第2結晶成長面から結晶が成長する方向にある障害物や、他の結晶成長面の配置状況や、結晶の性質などによる影響を受けることもある。例えば、第1結晶成長面と第2結晶成長面から結晶が成長する方向に障害物が存在していて40mm2以上の断面積を有するIII族窒化物半導体結晶の成長が物理的に不可能である場合や、結晶成長開始時にはそのような障害物が存在しなくても他の結晶成長面から成長する結晶が第1結晶成長面と第2結晶成長面からの結晶成長を妨げて40mm2以上の断面積を有するIII族窒化物半導体結晶の成長が不可能になる場合などがある。本発明は、このような障害がない条件下でIII族窒化物半導体結晶を成長させる。
【0032】
また、障害物がなくても、第1結晶成長面と第2結晶成長面から40mm2以上の断面積を有するIII族窒化物半導体結晶が成長できない場合もあり得る。例えば、上記の特開2006−315947号公報の図14に記載されるV字溝では、V字溝の斜面を構成する2つの結晶成長面からIII族窒化物半導体結晶がファセット成長するが、図示されているように転位がループを形成して消滅した後は成長しなくなり、結局、当該2つの結晶成長面からは40mm2以上の断面積を有するIII族窒化物半導体結晶は得られない。本発明の製造方法は、このような態様とは異なり、第1結晶成長面と第2結晶成長面から40mm2以上の断面積を有する結晶が成長可能な条件下でIII族窒化物半導体結晶を成長させるものである。
【0033】
本発明では、本発明の製造方法の条件を満たすように配置した結晶成長面を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させる。結晶や結晶成長面の具体的な配置状況は、本発明の製造方法の条件を満たすものである限り特に制限されないが、第1結晶成長面と第2結晶成長面の好ましい配置パターンとして、以下の3つの態様を挙げることができる。なお、以下の3つの態様はそれぞれ明確に区別されるべきものではなく、複数の態様に属する具体例が存在しうる。また本発明では、複数の態様を組み合わせた具体例を採用することも可能である。
【0034】
(第1の態様)
第1の態様は、第1結晶成長面が、第2結晶成長面から突出している突出結晶部に存在する態様である。この態様では、第2結晶成長面が第1結晶成長面よりも大きいと、サイズの小さな結晶から効率よく大面積で転位密度が小さい結晶を得ることが出来るので好ましい。
突出結晶部の形状は特に制限されず、例えば円柱状や角柱状であってもよい。角柱状である場合は、直方体や長方体を含む四角柱状、五角柱状、六角柱状、八角柱状であってもよい。好ましいのは、加工性および組み合わせの容易さという理由で、四角柱状、六角柱状である。第2結晶成長面と交差する突出結晶部の面のうち、いずれか1つ以上(下記図3の説明の通り)が第1結晶成長面となる。
【0035】
図1は、突出結晶部10が長方体である場合を図示したものである。突出結晶部10に存在する面1は面2と略90°の角度で交差している。そして、面1の垂直方向の幅と面2の水平方向の幅はそれぞれ本発明の条件を満たす範囲となっていて、面1が本発明の第1結晶成長面、面2が本発明の第2結晶成長面としての役割を果たす。なお、本明細書において略90°という場合は、90°±10°であることを意味しており、好ましくは90°±7°であり、より好ましくは90°±5°である。また、本明細書において略の後に90°以外の角度が記載されている場合も、90°の場合と同様に解釈する。
【0036】
図2は、広い結晶の上面を二分するように長方体の突出結晶部10を配置した状態を図示したものである。ここでは、面1が本発明の第1結晶成長面、面2が本発明の第2結晶成長面としての役割を果たす。また、面3と面4の関係も、面1と面2の関係と同様であって、面3が本発明の第1結晶成長面、面4が本発明の第2結晶成長面としての役割を果たす。図2の配置を採用すれば、転位が少ないIII族窒化物半導体結晶をより効率良く成長させることが可能である。
【0037】
図3は、広い結晶の上面の中央部に直方体の突出結晶部10を配置した状態を図示したものである。ここでは、面1が本発明の第1結晶成長面、面2が本発明の第2結晶成長面としての役割を果たす。また、突出結晶部10に存在する面1以外の3つの側面も、第1結晶成長面としての役割を果たすことができる。図3の配置を採用すれば、転位が少ないIII族窒化物半導体結晶をさらに効率良く成長させることが可能である。
【0038】
図3における直方体の突出結晶部は、多角柱状や円柱状や楕円柱状の突出結晶部に替えることが可能である。多角柱状の突出結晶部に替える場合は、第2結晶成長面と10°以上180°未満の角度で交差するp個の結晶成長面を有するように構成することができる。ここにおいて、pは3以上の整数であり、pは3〜8の整数であることが好ましく、4〜6の整数であることがより好ましい。また、p個の結晶成長面はいずれも第2結晶成長面と略90°の角度で交差するように構成することもできる。図3の突出結晶部は、pが4であり、かつ、p個の結晶成長面がそれぞれ隣りの結晶成長面と略270°の角度で交差している状態を示している。
【0039】
図4は、突出結晶部10が六角柱状結晶からなり、当該突出結晶部を設置する結晶11も同種の六角柱状結晶である場合を図示したものである。ここでいう六角柱状結晶としては、例えば窒化ガリウム結晶を挙げることができる。図4の結晶10の上面と結晶11の上面はともに+C面(Ga面)か−C面(N面)のいずれかにするができ、また、一方が+C面(Ga面)で他方が−C面(N面)とすることもできる。結晶11の上面を−C面(N面)にすれば、第二結晶成長面に対して相対的に第一結晶成長面を優位に成長させやすいため好ましい。また、結晶10の側面と結晶11の側面の面方位は一致していてもよいし、一致していなくてもよい。例えば、結晶10のm軸と結晶11のm軸が一致していてもよいし、結晶10のm軸が結晶11の例えばa軸と一致していてもよい。これらは、成長条件を考慮して適宜決定することができる。
【0040】
図1〜4では、突出結晶部10が面2を有する結晶11とは別の結晶として図示されているが、突出結晶部10は面2を有する結晶の一部として一体化していてもよい。また、図1〜4における突出結晶部10は、面2を有する大きな結晶11の上に設置されているが、突出結晶部10を含む結晶が下向きに伸長していて当該大きな結晶11を貫通していてもよい。
【0041】
(第2の態様)
第2の態様は、第1結晶成長面と第2結晶成長面を含めて合計m個の結晶成長面が存在し、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している態様である。ここでmは3以上の整数を表し、nは1からm−1までの各整数を表す。mは、好ましくは3〜10の整数であり、より好ましくは3〜8の整数であり、さらに好ましくは3〜6の整数である。
【0042】
第2の態様において、m個の結晶成長面の法線はすべて略平面内にあることが好ましい。このようにすることによって、転位がより少ないIII族窒化物半導体結晶を成長させやすくなる。本明細書において、略平面内とは、ある平面から±30°傾斜した平面内にm個の結晶成長面の法線がすべておさまることを意味しており、好ましくは±20°傾斜した平面内におさまる場合であり、より好ましくは±10°傾斜した平面内におさまる場合であり、さらに好ましくは±5°傾斜した平面内におさまる場合である。なお、結晶成長の進行に伴って特定の傾斜した面が出現して各面の法線が略平面内にならなくなる場合もあるが、結晶成長前の状態でm個の結晶成長面の法線がすべて略平面内にあれば好ましい。
【0043】
第2の態様では、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しているが(nは1からm−1までの各整数)、第1結晶成長面と第m結晶成長面も10°以上180°未満の角度で交差していてもよい。そうすることによって、m個の結晶成長面によって画定される閉じた領域が形成され、当該領域内でIII族窒化物半導体結晶を成長させることができる。このような閉じた領域内で結晶を成長させることによって、空間利用効率を上げることができる。
【0044】
図5は、面1と面2が交線15を介して略90°の角度で交差し、面2と面3が略90°の角度で交差するように配置した状態を図示したものである。交線15に垂直な方向の面1の長さ(幅)と、交線15に垂直な方向の面2の長さ(幅)は、それぞれ本発明の条件を満たす範囲となっていて、面1が本発明の第1結晶成長面、面2が本発明の第2結晶成長面としての役割を果たす。また、面2と面3の関係も、面1と面2の関係と同じである。面1、面2、面3は、それぞれ別の結晶に含まれており、これら3つの結晶は支持体20の上に図示するように設置されている。
【0045】
図6は、図5にさらに面4を有する結晶を追加設置したものである。面4は面3と略90°の角度で交差するとともに、面1とも略90°の角度で交差するように設置されている。こうすることによって、面1、面2、面3、面4で画定される閉じた領域が形成され、少なくともこの領域内にIII族窒化物半導体結晶を成長させることができ、結晶成長のために空間を有効に利用することができる。図6では4つの面で閉じた領域を形成しているが、3つの面で閉じた領域を形成することも可能であり、また、5つ以上の面で閉じた領域を形成することも可能である。
【0046】
図5および図6における支持体20の表面は結晶成長面として機能しないものであるが、支持体20の替わりに結晶成長面を有する結晶を用いることも可能である。また、図5および図6では、各結晶成長面が略90°の角度で交差しているが、各交差角度は10°以上180°未満の範囲内で適宜変更することが可能である。ただし、図6の場合は、閉じた領域を形成するために4つの交差角度の合計が360°となるように調整する。なお、図5および図6では、複数個の結晶を用いている態様が図示されているが、これらを単一の結晶で構成しても構わない。
【0047】
(第3の態様)
第3の態様は、第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面からなる結晶成長面ユニットを複数個有する態様である。この結晶成長面ユニットでは、第1結晶成長面と第2結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、第2結晶成長面と第3結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している。また、第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面の法線はすべて略平面内にある。このような結晶成長面ユニットを複数個設置した状態で、各ユニットの各結晶成長面から結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することができる。
【0048】
図7は、第3の態様を具体化した例を図示したものである。面1、面2、面3は、それぞれ本発明の第1結晶成長面、第2結晶成長面、第3結晶成長面として機能し、これら3つの面が1つの結晶成長面ユニット21を形成している。また、面4、面5、面6も、それぞれ本発明の第1結晶成長面、第2結晶成長面、第3結晶成長面として機能し、これら3つの面が別の1つの結晶成長面ユニット22を形成している。
【0049】
第3の態様では、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて同一平面上になるようにすることができる。すなわち、図7において結晶成長面ユニット21の面2と結晶成長面ユニット22の面5が同一平面内に位置するようにすることができる。このような状態は、例えば平坦な上面を有する大きな結晶11の上に、面1を有する結晶12、面3および面4を有する結晶13、面6を有する結晶14を設置することにより容易に形成することができる。このとき、結晶11は必ずしも1枚の結晶である必要はなく、同じ厚みを有する複数枚の結晶を横方向に敷設したものであってもよい。
【0050】
第3の態様では、各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面がすべて略平行であり、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて略平行であり、かつ、各結晶成長面ユニットの第3結晶成長面がすべて略平行であるように設置することができる。すなわち、図7において、結晶成長面ユニット21の面1と結晶成長面ユニット22の面4を略平行にし、同様に面2と面5を略平行にし、面3と面6を略平行にすることができる。このように設置することによって、各ユニットにおいて成長するIII族窒化物半導体結晶の性質をより均一化することができるという利点がある。
【0051】
第3の態様では、各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面と第2結晶成長面の交差角度と、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面と第3結晶成長面の交差角度は、それぞれ独立に決定することが可能である。ただ、各ユニットにおいて成長するIII族窒化物半導体結晶の性質をより均一化する必要がある場合は、各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面と第2結晶成長面の交差角度を一致させることが好ましく、また、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面と第3結晶成長面の交差角度を一致させることが好ましい。図7では、各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面と第2結晶成長面が略90°の角度で交差し、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面と第3結晶成長面が略90°の角度で交差している。
【0052】
図7では、面1、面2、面3からなる結晶成長面ユニットと、面4、面5、面6からなる結晶成長面ユニットが水平方向に並設されている。結晶成長面ユニットは、さらに水平方向に追加して並設させることが可能である。例えば、端から順に結晶成長面ユニットを、第1ユニット、第2ユニットと呼ぶことにした場合、m個のユニットがある場合は、第mユニットまで並設されていることになる。このとき、第nユニットの第3結晶成長面と第n+1ユニットの第1結晶成長面が単一の結晶に存在するように構成することが好ましい。ここでmは2以上の整数であり、nは1からm−1までの各整数である。図7に示す例では、結晶成長面ユニット(第1ユニット)21の面3と結晶成長面ユニット(第2ユニット)22の面4が単一の結晶に存在している。このような構成を採用することによって、結晶成長面を効率良く利用することができる。
【0053】
第3の態様では、第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶を別個の結晶として設置することができる。このとき、第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶は、互いに接していなくてもよいし、接していてもよい。図8と図9は、第1ユニットの第2結晶成長面11aと、第2ユニットの第2結晶成長面11bと、これらを連接する結晶13の配置例を示した図である(第1ユニットの第1結晶成長面と第2ユニットの第3結晶成長面は省略)。図8は、第1ユニットの第2結晶成長面(面2)を含む結晶11aと、第2ユニットの第2結晶成長面(面5)を含む結晶11bが接しておらず、結晶13の下において空間16を隔てて配置されている状態を示すものである。この状態は、第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けて並べておき、各間隔を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することにより形成することができる。なお本発明では、第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けずに連続的に並べておき、各接合部を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することも好ましい。図9は、第1ユニットの第2結晶成長面(面2)を含む結晶11aと、第2ユニットの第2結晶成長面(面5)を含む結晶11bが接しておらず、結晶13を介して連設されている状態を示すものである。
【0054】
(下地基板の製造方法)
本発明の製造方法の条件を満たすように配置した結晶成長面を有するIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板(以下、単に下地基板と称する場合がある)の製造方法は特に制限されない。複数の結晶からなる下地基板を用いる場合は、上記のように各結晶を本発明の製造方法の条件を満たすように配置することによって下地基板を製造することができる。各結晶の接面は、III族窒化物半導体結晶の成長条件において結晶が移動しない程度に接合されていればよい。したがって、本発明のIII族窒化物半導体結晶の成長条件において結晶が移動しなければ、結晶を重ねて置くだけでも構わない。
【0055】
例えば、第3の態様に係る下地基板を製造する際には、図10に示すように、第2結晶成長面を含む結晶F1、F2、F3、F4を間隔を空けて並べておき、各間隔を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶D1、D2、D3を設置することにより容易に製造することができる。このとき、結晶F1、F2、F3、F4を間隔を空けずに連続的に並べておき、その各接合部を上から覆うように結晶D1、D2、D3を設置してもよい。このようにして下地基板を製造することにより、大面積の下地基板でありながら、結晶F1、F2、F3、F4の間に存在する間隔や接合部が本発明の結晶成長面にまったく現れない状態を形成することができるため、結晶成長面上に欠陥が少ないIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能になる。特に、第2結晶成長面を含む結晶を並べた際にできる接合部などの上の領域に成長した結晶には、転位が発生しやすいので、該接合部を覆うように結晶を設置することによって、転位の発生を効率よく抑えることが可能となる。
【0056】
本発明の製造方法に用いる下地基板は、マスク材料を用いて製造することもできる。特に、単一の結晶からなる下地基板を製造する場合には、マスク材料を用いて製造することが好ましい。例えば、図5に示す下地基板を製造する際には、図11に示すようにIII族窒化物半導体結晶11の上面にマスク材料19を設置し、マスクで覆われていない領域から上方に向けて結晶を成長させることができる。下地基板を製造する際に用いる結晶11の垂直方向の転位密度が高い場合であっても、マスクで覆われていない領域から上方に向けて成長した結晶の側面(すなわち図5の面1、面2、面3)は垂直方向の転位と略平行になる。このため、本発明の製造方法にしたがって、これらの側面から水平方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させても、マスク材料19の上の領域に成長した結晶には転位は伝搬しにくい。なお、下地基板を製造した後、マスク材料19は除去してもよいし、そのまま残しておいてもよい。マスク材料19をそのまま除去せずに残しておくことにより、目的とするIII族窒化物半導体結晶を成長させる際にマスク材料で覆われた領域から結晶が成長しないように制御することができる。本発明ではマスク材料として、例えばSiO2、SiC、Al23、Si34、BN、C、Pt、Ir、Wなどを用いることができる。
【0057】
(結晶成長)
本発明の製造方法では、本発明の条件を満たすように配置した結晶成長面を有する下地基板を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させる。
結晶成長の方法は特に制限されず、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、アモノサーマル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシ−法(MBE法)、液相エピタキシ−法(LPE法)、昇華法などを適宜選択して採用することができる。これらの中では、HVPE法、アモノサーマル法、LPE法がバルク結晶を成長させやすいため好ましい。
【0058】
本発明の条件を満たすように配置した結晶成長面を有する下地基板を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させることによって、下地基板に転位が存在している場合であっても、その転位の伝搬を著しく抑えた結晶を得ることができる。例えば、図2に示す下地基板を用いてIII族窒化物半導体結晶を成長させた場合は、図12に示すように面2と面4から上方向に向けて結晶が成長して結晶領域S2、S3が形成されるとともに、面1と面3から水平方向に向けて結晶が成長し、また、結晶10の上面から上方向に向けて結晶が成長することにより結晶領域S1が形成される。このとき面2と面4を有する結晶11に多くの転位17が存在していたとしても、その転位は面2と面4から成長する結晶領域S2とS3にしか伝搬しない。すなわち、境界面18よりも上側に形成される結晶領域S1は、転位と垂直方向に結晶した領域を含まないため欠陥が伝搬しない。よって、この部分を切り出すことにより転位密度が低くて良質なIII族窒化物半導体結晶を得ることができる。
【0059】
図12において、面2と境界面18の角度θは、面1から横方向に向けて成長する結晶の成長速度(R1)と面2から上方向に向けて成長する結晶の成長速度(R2)の比によって決定される。この速度比(R1/R2)が大きければ角度θは小さくなり、速度比(R1/R2)が小さければ角度θは大きくなる。転位密度が低い結晶領域S1を効率良く製造するためには、速度比(R1/R2)が大きくなるように第1結晶成長面と第2結晶成長面を選択し、角度θを小さくすることが好ましい。具体的には、気相法であれば原料ガス中のIII族元素とV族元素の比率や成長温度を調整することにより、また、アモノサ
ーマル法であれば温度、圧力、鉱化剤の種類や濃度を調整することにより、速度比(R1/R2)を大きくすることができる。
【0060】
図12で説明した状況は、転位だけでなく結晶方位についても当てはまる。例えば、図13に示すように、面2を有する結晶11aと、面4を有する結晶11bの結晶方位が互いに異なる場合、本発明にしたがって結晶成長させると、領域S2には結晶11aの結晶方位を有する結晶が形成され、領域S3には結晶11bの結晶方位を有する結晶が形成される。一方、領域S1には、これらの結晶方位の影響を受けずに、結晶10の結晶方位を有する結晶が形成される。つまり、領域S1を切り出すことにより結晶方位の揃った良質なIII族窒化物半導体結晶を得られるため好ましい。
【0061】
図12で説明した転位や結晶方位に関する状況は、他の下地基板を用いて結晶成長を行った場合にも当てはめることができる。例えば、上で説明した各種下地基板の第2結晶成長面の転位密度が比較的高い場合であっても、本発明の製造方法によって転位密度が低いIII族窒化物半導体結晶を得ることが可能である。例えば、第2結晶成長面の転位密度が1×108cm-2以上であって、第2結晶成長面以外の結晶成長面の転位密度が1×106cm-2以下であるような状況下で、転位密度が低いIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能である。
【0062】
(製造装置と結晶成長条件)
本発明では、III族窒化物半導体結晶を成長させることができる製造装置を適宜選択して用いることができる。以下では、本発明の製造方法を実施するための好ましい製造装置の一例として、ハイドライド気相成長法(HVPE法)の製造装置を図14を参照しながら説明する。
【0063】
1)基本構造
図14の製造装置は、リアクター100内に、シードを載置するためのサセプター108と、成長させるIII族窒化物半導体の原料を入れるリザーバー106とを備えている。また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜105と、排気するための排気管109が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター107が設置されている。
【0064】
2)リアクターの材質、雰囲気ガスのガス種
リアクター100の材質としては、石英、焼結体窒化ホウ素、ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガス(キャリアガス)としては、例えば、水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0065】
3)サセプターの材質、形状、成長面からサセプターまでの距離
サセプター108の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。サセプター108の形状は、本発明で用いる成長用下地基板を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に結晶成長面付近に構造物が存在しないものであることが好ましい。結晶成長面付近に成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。シードとサセプター108の接触面は、シードの結晶成長面から1mm以上離れていることが好ましく、3mm以上離れていることがより好ましく、5mm以上離れていることがさらに好ましい。
【0066】
4)リザーバー
リザーバー106には、成長させるIII族窒化物半導体の原料を入れる。具体的には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。リザーバー106にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー106に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー106にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えば水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0067】
5)窒素源(アンモニア)、セパレートガス、ドーパントガス
導入管104からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3を供給する。また、導入管101からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管104から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。このキャリアガスは原料ガスノズルを分離し、ノズル先端にポリ結晶が付着することを防ぐ効果もある。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiH4やSiH2Cl2、H2S等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0068】
6)ガス導入方法
導入管101〜104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、窒素源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0069】
7)排気管の設置場所
ガス排気管109は、リアクター内壁の上面、底面、側面に設置することができる。ゴミ落ちの観点から結晶成長端よりも下部にあることが好ましく、図14のようにリアクター底面にガス排気管109が設置されていることがより好ましい。
【0070】
8)結晶成長条件
上記の製造装置を用いた結晶成長は、通常は950℃〜1120℃で行い、970℃〜1100℃で行うことが好ましく、980℃〜1090℃で行うことがより好ましく、990℃〜1080℃で行うことがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。
【0071】
9)結晶の成長速度
上記の製造装置を用いた結晶成長の成長速度は、成長方法、成長温度、原料ガス供給量、結晶成長面方位等により異なるが、一般的には5μm/h〜500μm/hの範囲であり、10μm/h以上が好ましく、50μm/h以上がより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。成長速度は、上記の他、キャリアガスの種類、流量、供給口−結晶成長端距離等を適宜設定することによって制御することができる。
【0072】
(製造されるIII族窒化物半導体結晶)
上記のように、本発明の製造方法によれば、転位密度が小さくて良質なIII族窒化物半導体結晶を製造することができる。
本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶の転位密度は1×106cm-2以下であることが好ましく、1×105cm-2以下であることがより好ましく、1×104cm-2以下であることがさらに好ましく、1×103cm-2以下であることがさらにより好ましい。ここでいう転位密度は、透過型電子顕微鏡(TEM)法やカソードルミネッセンス(CL)法を用いて測定することができる。
【0073】
本発明の製造方法によれば、大面積を有するIII族窒化物半導体結晶を製造することもできる。具体的には、最も大きな面(主面)の面積が40mm2以上である結晶を成長することが可能であり、また100mm2以上、さらには400mm2以上、特には2000mm2以上のIII族窒化物半導体結晶を製造することも可能である。
【0074】
さらに、本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶は、湾曲が極めて少ないという特徴もある。
本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の製造方法により製造したIII族窒化物半導体結晶をシードとして用いて、さらに大きなIII族窒化物半導体結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0075】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0076】
(実施例1)
M面を主面とする窒化ガリウム結晶F1、F2を用意し、結晶F1の+C面と結晶F2の−C面が接合するように配置し、その接合面を覆うように結晶F1、F2の上にM面を主面とする窒化ガリウム結晶D1を図15に示すように配置することにより下地基板を用意した。結晶F1、F2の結晶方位と結晶D1の結晶方位はおおよそ0.3°程度ずれていた。なお、ここで用いた結晶F1、F2のサイズは20mm×8mm×0.3mmであり、結晶D1のサイズは20mm×8mm×0.3mmである。結晶D1は、結晶F1およびF2を並べた主面の中央に配置し、結晶D1に覆われていない結晶F1、F2の幅はそれぞれ4mmであった。
【0077】
図14の製造装置のサセプター108上に基板を設置して、該基板上に窒化ガリウム結晶をHVPE法により成長させた。結晶成長時のリアクター100内の温度は1020℃、成長圧力は1.01×105Pa、GaClガスG3の分圧は1.85×102Pa、NH3ガスG4の分圧は7.05×103Paに設定して、40時間にわたって窒化ガリウム結晶を成長させた。その結果、−c軸方向に約5.4mmの結晶が成長し、それ以外の方向に5.0〜5.1mmの結晶が成長した。
【0078】
得られたアズグローン結晶をM面が平坦になるまでダイヤモンド砥粒を用いて研削・研磨した。その後、結晶D1の上面の中心点P1の直上に相当する地点に成長した結晶と、図15における結晶F2の上部露出面の中心点P2の直上に相当する地点に成長した結晶のツイスト角差を、パナリティカル社製X線回折測定装置を用いて(102)面反射を使用して測定した。ツイスト角差Δαは0.19°であった。このことは、結晶D1の上面から上方向に成長した結晶と、結晶D1から横方向に成長した結晶のツイスト角が小さかったことを意味しており、結晶F1、F2の結晶方位に影響されることなく結晶D1からの横方向の結晶成長がなされたことを示している。
【0079】
また、走査電子顕微鏡(SEM)を用いたカソードルミネッセンス(CL)法により転位密度を測定したところ、結晶F2の転位密度は2×106cm-2であり、P2の直上に相当する地点に成長した結晶の転位密度は7×105cm-2であった。このことは、結晶F2の転位がその直上に成長した結晶に伝搬していないことを示している。
【0080】
(比較例1)
実施例1の結晶D1を配置しなかった点を変更して、実施例1と同じ方法で結晶成長を行った。結晶F1の中心点の直上に成長した結晶と、結晶F2の中心点の直上に成長した結晶のツイスト角差Δαを測定したところ1.7°であった。また、結晶F2の中心点の直上に成長した結晶の転位密度を測定したところ2×106cm-2であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の製造方法により製造されるIII族窒化物半導体結晶は、発光素子(発光ダイオード、レーザーダイオードなど)、電子デバイス(整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタまたはHEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)など)、半導体センサ(温度センサ、圧力センサ、放射センサまたは可視−紫外光検出器など)、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)、加速度センサ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧電振動子、共振器または圧電アクチュエータなどに利用される。また、本発明の基板は本発明の製造方法に効果的に利用される。したがって、本発明の産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0082】
1〜7 結晶成長面
10 突出結晶部
11〜14 結晶
15 交線
16 空間
17 転位
18 境界面
19 マスク材料
20 支持体
21、22 結晶成長面ユニット
100 リアクター
101 キャリアガス用配管
102 ドーパントガス用配管
103 III族原料用配管
104 窒素原料用配管
105 HClガス用配管
106 III族原料用リザーバー
107 ヒーター
108 サセプター
109 排気管
G1 キャリアガス
G2 ドーパントガス
G3 III族原料ガス
G4 窒素原料ガス
G5 HClガス
D1〜D3 結晶
F1〜F4 結晶
S1〜S3 結晶領域
P1 結晶D1の上面の中心点
P2 結晶F2の上部露出面の中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10°以上180°未満の角度で交差する第1結晶成長面と第2結晶成長面の各面から結晶成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造する方法であって、
前記第1結晶成長面の幅と前記第2結晶成長面の幅がいずれも100μm以上であり(ここで幅とは前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の交線に垂直な方向の最大幅を意味する)、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の両方に垂直な断面の最大断面積が40mm2以上である結晶を、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面からの結晶成長のみで得ることが可能である結晶成長面配置条件下において、前記結晶成長を行うことを特徴とする、III族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第1結晶成長面が、前記第2結晶成長面から突出している突出結晶部に存在することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記突出結晶部が、前記第2結晶成長面と10°以上180°未満の角度で交差しているp個の結晶成長面を有している(ここでpは3〜8の整数である)ことを特徴とする請求項2に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を含めて合計m個の結晶成長面が存在し(ここでmは3以上の整数である)、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している状態(ここでnは1からm−1までの各整数を表す)において、各結晶成長面から結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
m個の結晶成長面の法線がすべて略平面内にあることを特徴とする請求項4に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記第1結晶成長面と第m結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差していることを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
mが3〜10の整数であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面からなる結晶成長面ユニットであって、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第2結晶成長面と前記第3結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第1結晶成長面の法線、前記第2結晶成長面の法線、および前記第3結晶成長面の法線がすべて略平面内にある結晶成長面ユニットが複数個存在する状態で、各結晶成長面から結晶を成長させることによりIII族窒化物半導体結晶を製造することを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて同一平面上にあることを特徴とする請求項8に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けて並べておき、各間隔を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することを特徴とする請求項8または9に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項11】
第2結晶成長面を含む複数の結晶を間隔を空けずに連続的に並べておき、各接合部を上から覆うように第1結晶成長面と第3結晶成長面を含む結晶を設置することを特徴とする請求項8または9に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項12】
各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面がすべて略平行であり、各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面がすべて略平行であり、かつ、各結晶成長面ユニットの第3結晶成長面がすべて略平行であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項13】
各結晶成長面ユニットの第1結晶成長面と第2結晶成長面が略90°の角度で交差していることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項14】
各結晶成長面ユニットの第2結晶成長面と第3結晶成長面が略90°の角度で交差していることを特徴とする請求項8〜13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項15】
m個の結晶成長面ユニットが並設されている(ここでmは2以上の整数である)ことを特徴とする請求項8〜14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項16】
第nユニットの第3結晶成長面と第n+1ユニットの第1結晶成長面が単一の結晶に存在する(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする請求項15に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項17】
第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であって互いに接していない(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする請求項15または16に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項18】
第nユニットの第2結晶成長面を有する結晶と第n+1ユニットの第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であって互いに接している(ここでnは1からm−1までの各整数である)ことを特徴とする請求項15または16に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項19】
前記第1結晶成長面を有する結晶と前記第2結晶成長面を有する結晶が別個の結晶であることを特徴とする請求項1〜18のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項20】
前記第1結晶成長面を有する結晶と前記第2結晶成長面を有する結晶が、前記第2結晶成長面と同じ平面内で接するように配置することを特徴とする請求項19に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項21】
前記結晶成長により成長したIII族窒化物半導体結晶のうち、前記第2結晶成長面以外の前記結晶成長面から成長した領域を切り出す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜20のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項22】
前記結晶成長により成長したIII族窒化物半導体結晶のうち、前記第1結晶成長面から成長した領域を切り出す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜20のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の製造方法により製造され、かつ、最大断面積が40mm2以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
【請求項24】
請求項22に記載の製造方法により製造され、かつ、最大断面積が40mm2以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
【請求項25】
10°以上180°未満の角度で交差する第1結晶成長面と第2結晶成長面を有しており、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の交線に垂直な方向の幅が、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面のいずれも100μm以上であり、
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面の両方に垂直な断面の最大断面積が40mm2以上である結晶を、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面からの結晶成長のみで得ることが可能であるように、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面が配置されている
ことを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
【請求項26】
前記第1結晶成長面が、前記第2結晶成長面から突出している突出結晶部に存在することを特徴とする請求項25に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
【請求項27】
前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面を含めて合計m個の結晶成長面が存在し(ここでmは3以上の整数である)、第n結晶成長面と第n+1結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差している(ここでnは1からm−1までの各整数を表す)ことを特徴とする請求項25に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。
【請求項28】
第1結晶成長面、第2結晶成長面、および第3結晶成長面からなる結晶成長面ユニットであって、前記第1結晶成長面と前記第2結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第2結晶成長面と前記第3結晶成長面とが10°以上180°未満の角度で交差しており、前記第1結晶成長面の法線、前記第2結晶成長面の法線、および前記第3結晶成長面の法線がすべて略平面内にある結晶成長面ユニットが複数個存在することを特徴とする請求項32に記載のIII族窒化物半導体結晶の成長用下地基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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