説明

IL−20に関連する炎症性疾患を治療することにおける抗IL−20抗体およびその使用

本発明は、ヒトIL−20に特異的に結合する抗体(例えば、mAb 7Eおよびその同等物)、ならびに、アテローム性動脈硬化症、RA、乾癬、乾癬性関節炎、細菌誘発性の胃潰瘍、および急性腎不全などのIL−20に関連する炎症性疾患の治療におけるその使用を特徴とする。本発明のmAb 7Eおよびその機能的同等物の例には、mAb 7Eの断片(例えば、Fab、F(ab’))、mAb 7Eの一本鎖可変断片(scFv)、およびmAb 7Eから作製したキメラ抗体などの、mAb 7Eと同一の重鎖および軽鎖の可変領域(VおよびV)を有する抗体が含まれる。他の例には、mAb 7Eのヒト化抗体が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2007年6月15日に出願された米国特許出願第11/763,812号の優先権を主張する。この出願の内容は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
炎症とは、有害な刺激を取り除き、組織に対する治癒プロセスを開始するための、外傷または微生物の侵入に対する局所的な、保護的な応答を言う。炎症が欠如すると、患者が病原体に感染しやすくなる。一方、異物として宿主組織が異常に認識されることにより生じる過剰な炎症により、様々な炎症性疾患、例えばアテローム性動脈硬化症およびリウマチ性関節炎(RA)が生じ得る。
【0003】
アテローム性動脈硬化症は、脂肪物質が動脈壁に沿って凝集してアテローム性動脈硬化性のプラークを形成する、慢性炎症性疾患である。泡沫細胞マクロファージがこの疾患の進行において重要な役割を有することが示唆されている。それらは、局所的な免疫応答を指示し増幅させる、様々なタイプのサイトカインおよびケモカインを分泌する。いくつかのケモカインおよびサイトカインが、アテローム性動脈硬化症の病変部において高いレベルで発現することが明らかにされており、このことは、これらが疾患の発症に関与することを示唆している。
【0004】
RAは、単核貪食細胞、リンパ球、および好中球の滑膜への浸潤を生じさせる、滑膜関節における激しい炎症によって特徴付けられる、炎症性関節炎の最も一般的な形態である。最近の研究により、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン−1β(IL−1β)、IL−6、およびIL−8などのサイトカインおよびケモカインが疾患の進行に実質的に関与することが示されている。
【0005】
IL−20は、IL−10ファミリーの、新たに発見されたメンバーである。このファミリーの他のメンバーは、多くの炎症性疾患、例えばRAの発症において極めて重要であることが明らかにされている。IL−20は、多能性造血前駆細胞のレベルを選択的に増大させる。IL−20はまた、ケラチン生成細胞の増幅を誘発し、それにより炎症促進性遺伝子が過剰発現する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様において、本発明は、ヒトIL−20に特異的に結合する抗体、すなわちmAb 7E、およびその機能的同等物を特徴とする。mAb 7Eの機能的同等物の例には、mAb 7Eの断片(例えば、Fab、F(ab’))、mAb 7Eの一本鎖可変断片(scFv)、およびmAb 7Eから作製したキメラ抗体などの、mAb 7Eと同一の重鎖および軽鎖の可変領域(VおよびV)を有する抗体が含まれる。他の例には、mAb 7Eのヒト化抗体が含まれる。
【0007】
別の態様において、本発明は、有効量の抗IL−20抗体、例えばmAb 7Eまたはその機能的同等物を投与することにより、IL−20に関連する炎症性疾患を治療する方法を特徴とする。IL−20に関連する炎症性疾患には、限定するものではないが、アテローム性動脈硬化症、リウマチ性関節炎、乾癬、乾癬性関節炎、急性腎不全、および胃潰瘍(例えば、細菌誘発性の胃潰瘍)が含まれる。抗体は、静脈内投与され得るか、または、炎症が生じている部位に向けられ得る。
【0008】
また、有効量の抗IL−20抗体、例えばmAb 7Eまたはその機能的同等物を、その治療を必要としている患者に投与することにより、固形腫瘍などの腫瘍を治療する方法も、本発明の範囲内にある。
【0009】
MAb 7Eおよびその機能的同等物はまた、IL−20に関連する炎症を治療するための薬剤の製造において用いることができる。
【0010】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細を、以下の記載において説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点が、その記載および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
モノクローナル抗IL−20抗体7E(mAb 7E)およびその機能的同等物は本発明の範囲内にある。「機能的同等物」という用語は、(1)ヒトIL−20に特異的に結合し、(2)mAb 7EのV領域(配列番号3)と少なくとも70%(例えば、80%、90%、または95%)同一なV領域およびmAb 7EのV領域(配列番号6)と少なくとも70%(例えば、80%、90%、または95%)同一なV領域を含む抗体を言う。
【0012】
MAb 7Eは、以下に記載する方法に従って作製することができる。その重鎖および軽鎖のアミノ酸配列/cDNA配列を以下に示す。
mAb 7Eの重鎖のヌクレオチド配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

強調した領域は、mAb 7Eの重鎖の可変領域(配列番号3)である
mAb 7Eの軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号4)およびアミノ酸配列(配列番号5)
【0015】
【化3】

強調した領域は、mAb 7Eの軽鎖の可変領域(DNA:配列番号6、タンパク質:配列番号21)である。
【0016】
本明細書において用いる場合、2つのアミノ酸配列の「パーセント相同性」は、KarlinおよびAltschul、Proc, Natl. Acad. Sci. USA、5873〜5877頁、1993年において記載されているように改変された、KarlinおよびAltschul、Proc, Natl. Acad. Sci. USA、87巻:2264〜2268頁、1990年において記載されているアルゴリズムを用いて決定される。このようなアルゴリズムは、Altschulら、J. Mol. Biol.、215巻:403〜410頁、1990年のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラムに組み込まれる。BLASTヌクレオチドサーチは、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実施し、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得る。BLASTタンパク質サーチは、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施し、参照ポリペプチドに相同なアミノ酸配列を得る。比較を目的として、ギャップを有するアラインメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschulら、Nucleic Acids Res.、25巻:3389〜3402頁、1997年に記載されているように用いる。BLASTプログラムおよびGapped BLASTプログラムを用いる場合、それぞれのプログラムのデフォルトのパラメータ(例えばXBLASTおよびNBLAST)を用いる。www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0017】
mAb 7Eの機能的同等物は、酵素消化により生じるその断片、例えばFabまたはF(ab’)であり得る。それはまた、例えばペプチドリンカーであるリンカーを介して共有結合により融合された、mAb 7EのVおよびVを含む一本鎖抗体であり得る。さらに、それは、ヒトIgGの重鎖および軽鎖の定常領域とそれぞれ結合しているmAb 7EのVおよびVを含む、マウス−ヒトキメラ抗体であり得る。あるいは、機能的同等物はヒト化抗体であり得る。「ヒト化抗体」という用語は、そのVおよびVのフレーム領域(FR)がヒト抗体のFRで置き換えられている非ヒト抗体を言う。さらに、mAb 7Eの機能的同等物は、VまたはVのFRに突然変異を導入することにより生じさせることができる。抗体の相補性決定領域(CDR)がその特異性を決定することが良く知られている。したがって、FRにおける突然変異は、通常は抗体の特異性に影響しない。抗体のCDRおよびFRは、そのVおよびVのアミノ酸配列に基づいて決定され得る。www.bioinf.org.uk/absを参照されたい。本明細書において記載される機能的同等物の結合特異性は、当技術分野において知られている方法、例えばELISAまたはウェスタンブロット分析を用いて試験することができる。
【0018】
MAb 7Eおよびその機能的同等物は、上述のハイブリドーマ細胞から分泌される抗体を精製することにより、または遺伝子操作により、調製することができる。
【0019】
本発明はまた、有効量の抗IL−20抗体、例えばmAb 7Eまたはその機能的同等物を用いて、IL−20に関連する炎症性疾患を治療する方法を特徴とする。
【0020】
「IL−20に関連する炎症性疾患」という用語は、IL−20がその疾患の開始または進行において役割を有する炎症性疾患を言う。IL−20は、アテローム性動脈硬化症およびリウマチ性関節炎などの炎症性疾患の発症に関与することが明らかにされている。Chenら、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology、26巻:2090〜2095頁、2006年、およびHsuら、Arthritis & Rheumatism、54巻(9号):2722〜2733頁、2006年を参照されたい。さらに、IL−20は、多くの炎症促進性疾患、例えば乾癬、敗血性ショック、および炎症性腸疾患において重要な役割を有する炎症性因子であるIL−8を上方調節する。米国特許出願第2006/0269551号を参照されたい。IL−20はまた、急性腎不全および細菌誘発性の胃潰瘍に関与することが明らかにされている。したがって、IL−20の機能を阻害する抗体は、IL−20に関連する炎症性疾患の治療において有効である。
【0021】
IL−20に関連する炎症性疾患に罹患している対象とは、炎症が生じている部位にその疾患の少なくとも1つの症状、例えば発赤、腫れ、または痛みを有する対象(例えばヒトの患者)を言う。例えば、アテローム性動脈硬化症に罹患している患者とは、通常の医療手順によって検出することが可能な少なくとも1つのアテローム性プラーク(アテローム性動脈硬化症の症状)を有する患者を言う。このような患者は、プラーク破綻または動脈狭窄により、臓器への血液供給が不十分であり得る。この患者は、心臓への動脈が関与している場合の胸痛、または足の動脈が関与している場合の足の痛みなどの症状を有し得る。別の例において、RAに罹患している患者は滑膜関節に炎症を有しており、それにより、発赤、腫れ、痛み、または関節の硬直、および滑膜への免疫細胞の浸潤が生じる。一部のRA患者において、慢性炎症により、軟骨、骨、および靭帯の破壊が生じ、それにより、関節が変形する。重症なRAを有する患者では、関節の機能が喪失し得る。
【0022】
IL−20に関連する炎症性疾患のリスクを有する対象とは、遺伝的背景、家族歴、および生活習慣(例えば食事または喫煙)などの、この炎症性疾患の1つまたは複数の危険因子を有する対象を言う。「アテローム性動脈硬化症のリスクを有する」患者は、アテローム性動脈硬化症の1つまたは複数の危険因子、例えば心疾患の個人歴または家族歴、高脂肪の食事、喫煙、肥満、高血圧、および高い血中コレステロールレベルを有する。RAのリスクを有する患者は、喫煙の習慣または自己免疫疾患の家族歴を有し得る。
【0023】
本明細書において用いられる「炎症性疾患の治療」という用語は、別段の指示がない限り、疾患の症状の緩和、疾患に関連する炎症の進行の逆転、改善、または阻害を意味する。
【0024】
本明細書において用いる場合、「有効量」という用語は、意図した効果または生理学的結果を得るためのその投与の状況において有効な、一定期間にわたって用いられる(急性投与または慢性投与、および断続的な投与または連続投与を含む)作用物質の量または濃度を言う。本発明において用いるための抗IL−20抗体の有効量には、例えば、対象におけるIL−20に関連する炎症を予防もしくは阻害するために有効な量、または、このような炎症の症状、例えば発赤、腫れ、痛み、および炎症が生じている臓器の機能の喪失を緩和もしくは改善するために有効な量が含まれる。
【0025】
本明細書において記載される抗IL−20抗体は、薬学的組成物を形成するために、薬学的に許容可能な担体と混合することができる。「許容可能」とは、担体が、組成物の活性成分と適合可能(かつ好ましくは、活性成分を安定化させることが可能)でなくてはならず、治療される対象に有害であってはならないことを意味する。適切な担体には、微結晶セルロース、マンニトール、グルコース、脱脂粉乳、ポリビニルピロリドン、およびデンプン、またはその組み合わせが含まれる。
【0026】
薬剤の分野の当業者に知られている従来の方法を、治療する炎症性疾患のタイプまたは疾患に関連している炎症の部位に応じて、抗IL−20抗体含有薬学的組成物を対象に投与するために用いることができる。アテローム性動脈硬化症の治療では、組成物は静脈内注射を介して投与することができる。リウマチ性関節炎の治療では、抗体含有組成物は、注射を介して滑膜関節に直接送達され得る。この組成物はまた、他の従来の経路、例えば皮下経路を介して投与することができる。さらに、これは、1カ月、3カ月、または6カ月の蓄積注射可能なまたは生分解可能な材料および方法などを用いる、注射可能な蓄積投与経路を介して対象に投与することができる。
【0027】
注射可能な組成物は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、カルボン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、およびポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)などの様々な担体を含み得る。静脈内注射では、水溶性の抗体をドリップ法によって投与することができ、それにより、抗体および生理学的に許容可能な賦形剤を含む薬学的製剤が注入される。生理学的に許容可能な賦形剤には、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンゲル液、または他の適切な賦形剤が含まれ得る。筋肉内調製物、例えば適切な可溶性塩の形態の抗体の無菌製剤を、注射用水、0.9%生理食塩水、または5%グルコース溶液などの薬学的賦形剤内に溶解し、その賦形剤内において投与することができる。
【0028】
さらに詳述することなく、上記の記載により本発明は十分に可能となっていると考えられる。したがって、以下の実施例は、例示的なものとしてのみ解釈されるものであり、開示の残りの部分を限定するものでは決してない。本明細書において引用される全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0029】
apoE−/−マウスのアテローム性動脈硬化症の病変部におけるIL−20およびその受容体の両方の上方調節
C57BL/6 apoE−/−(The Jackson Laboratory、Bar Harbor、MEから入手)マウスに、通常の飼料または0.15%のコレステロールを含むアテローム生成飼料を給餌した。24週目に、マウスの心臓および上行大動脈を切除し、ホルムアルデヒド内で固定し、一連の10μm厚の凍結切片を大動脈弓から心室に向かって切断した。
【0030】
凍結切片を次に、スライド上で、4%パラホルムアルデヒドで固定し、バックグラウンドを低減させる成分(DakoCytomation、Carpinteria、CA)と共に60分間、抗体希釈剤に浸して、非特異的な免疫グロブリンの染色を抑制した。スライドを90mlのメタノールおよび10mlの30%H内に10分間室温で浸して内因性ペルオキシダーゼをブロッキングし、PBSで洗浄し、次に、ブロッキング試薬内において4℃で一晩、抗hIL−20R2ウサギポリクローナル抗体と共にインキュベートした。スライドを次に、HRP結合型ヤギ抗ウサギIgG(Biolegend、San Diego、CA)で連続的に処理し、室温で2時間インキュベートした。スライドをジアミノベンジジンDAB基質キット(Vector Laboratories、Burlingame、CA)と共にインキュベートし、Mayerのヘマトキシリン(Thermoshandon、Pittsburgh、PA)で対比染色した。一次抗体とのインキュベートを行わなかった陰性対照を、同時に実施した。
【0031】
IL−20受容体の1つであるIL−20R1を染色するために、一次抗体(R&D Systems)を、染色キット(Vector M.O.M.ペルオキシダーゼキットPK−2200、Vector Laboratories)およびVectastain Elite ABC試薬(M.O.M.キット内に含まれる)を用いて、製造者のプロトコルに従って1:150に希釈した。マウスIgG1アイソタイプ(クローン1171 1、R&D Systems)を陰性対照として用いた。HRP結合型ヤギ抗マウスIgG(Biolegend)を二次抗体として用いて、組織に結合した一次抗体のシグナルを検出した。
【0032】
マウスIL−20を染色するために、一次抗体(クローン176005、R&D Systems)を1:200に希釈し、ビオチン標識したラット抗マウスIgG二次抗体およびABC試薬で検出した。
【0033】
IL−20は、正常なC57BL/6マウスと比較して、apoE−/−マウスのアテローム性動脈硬化症プラークにおいて上方調節されることが明らかにされた。IL−20はまた、Mac−3に富んだ(泡沫細胞/マクロファージ)区域においても検出された。免疫反応性の増大もまた、IL−20R1およびIL−20R2の両方で、野生型マウスと比較して、apoE−/−マウスのアテローム性動脈硬化性のプラーク、内皮、および大動脈弓の外膜において検出された。
【0034】
これらの結果は、IL−20およびIL−20受容体の両方のレベルがアテローム性動脈硬化性のプラークにおいて増大し、アテローム性動脈硬化性の大動脈の内皮において顕著に上方調節されたことを示している。泡沫細胞/マクロファージはプラークにおけるIL−20の主要な産生体であると考えられる。
【0035】
ヒトのアテローム性動脈硬化性の動脈におけるIL−20およびその受容体の両方の上方調節
IL−20およびその受容体のレベルをまた、上述した方法に従って、ヒトのアテローム動脈硬化性の動脈において試験した。簡潔に述べると、アテローム性動脈硬化症患者から得た大腿動脈の外科的な試料をパラフィン内で固定し、10μm厚の切片にスライスした。これらの切片において、内膜および中膜において顕著な肥厚が生じ、これらの両方は広範囲の血管形成を示した。
【0036】
IL−20は、CD68の陽性染色を示した、微小血管の内側を覆う内皮細胞およびマクロファージ由来泡沫細胞において検出された。IL−20R1およびIL−20R2の両方が、栄養血管の内皮細胞において主に検出された。逆に、IL−20は正常な大動脈切片においては検出されず、低レベルのその受容体のみが正常な大動脈切片の内皮において検出された。
【0037】
IL−20がアテローム性動脈硬化症の病変部における既存の炎症性刺激によって誘発されたかを決定するために、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を実施して、酸化LDL(OxLDL)で処理したヒト末梢単球におけるIL−20のmRNAレベルを試験した。
【0038】
ヒトの天然LDLを、不連続な遠心分離を用いてヒト血液の血漿から単離した。LDLを、37℃で8時間、PBS中でCuSO(5μMの遊離Cu2+)にさらすことによって酸化した。OxLDLを50mMのTris−HCl、0.15MのNaCl、およびpH7.4の2mMのEDTA内で維持し、調製後10日以内に使用した。ヒト単球を、健康なドナーの末梢血試料から単離し、無血清RPMI内で培養した。マウスマクロファージ細胞株であるRAW264.7を、10%FBSを有するDMEM培地内で培養した。ヒト単球(1×10個細胞)またはRAW264.7(1×10個細胞)細胞を、OxLDL(1、10、または100μg/ml)と共に6時間インキュベートした。全RNAをこれらの細胞から精製し、RT−PCR分析に供して、IL−20のmRNAレベルを決定した。
【0039】
この実験から得られた結果は、OxLDLがヒト末梢単球およびマウスRAW264.7マクロファージにおけるIL−20の発現を誘発したことを示す。
【0040】
OxLDLは、ケモカインの分泌を誘発し、白血球接着分子の発現を増大させることにより、泡沫細胞の発生、および他の構成内皮機能を促進することが示されている。Seinbergら、Nat Med.、8巻:1211〜1217頁、2002年を参照されたい。したがって、上述した結果は、免疫組織化学的な染色により決定される、泡沫細胞およびIL−20の共局在化を説明するものである。
【0041】
Il−20はまた、低酸素条件下において誘発されることも明らかにされた。低酸素は様々な血管形成因子を誘発し、その結果、虚血組織において血管新生が生じることが知られている。
【0042】
ヒト末梢単球を、インビトロで低酸素誘導因子−1αを活性化することにより低酸素様応答を引き起こす因子であるCoClで処理した。Yuanら、J. Biol. Chem.、278巻:15911〜15916頁、2003年、およびSemenzaら、Annu. Rev. Cell Dev. Biol.、15巻:551〜578頁、1999年を参照されたい。簡潔に述べると、ヒト末梢単球(1×10個)を単離し、100μMまたは500μMのCoClと共に6時間インキュベートした。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を無血清のM199と共にインキュベートし、同一の濃度でCoClで6時間処理するか、または1%Oおよび5%COと共に12時間インキュベートした。
【0043】
RT−PCRの結果は、IL−20がCoClで処理したヒト末梢単球において誘発されたことを示している。CoClは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)においてIL−20、IL−20R1、およびIL−20R2の発現を上方調節するが、IL−22R1の発現は上方調節しない。同様の結果が、低酸素条件を模倣するために1%Oを供給した容器内で12時間インキュベートしたHUVECにおいて得られた。
【0044】
まとめると、低酸素は、IL−20およびその受容体の両方の発現を誘発することが明らかにされた。
【0045】
IL−20はケモカインを誘発し血管形成を促進する
アテローム性動脈硬化症の進行は、アテローム性動脈硬化症の病変部へのTリンパ球の動員を伴う。3つのCXCR3リガンド、すなわちMig/CXCL9、IP−10/CXCL10、およびI−TAC/CXCL11は、このTリンパ球動員のプロセスを仲介し、アテロームに関連することが明らかにされている。Machら、J. clin. Invest.、104巻:1041〜1050頁、1999年を参照されたい。
【0046】
これらのケモカインのレベルに対するIL−20の効果を調べた。HUVEC細胞を、IL−20を含む培地において培養し、これらのCXCR3リガンドのレベルをRT−PCRによって試験した。結果は、HUVECおよびヒト微小血管内皮細胞において、CXCL9およびCXC11はIL−20によって上方調節されるがCXCL10はされないことを示す。
【0047】
血管形成に対するIL−20の効果も調べた。Balb/cマウスに、マウス肝細胞癌細胞であるML−1(1×10個)を、mIL−20を含むマトリゲル、mIL−20および抗mIL−20R1抗体、またはVEGFと共に皮下注射した。7日後、腫瘍を切除し、CD31で染色して微小血管密度の分析を行った。VEFGと同様、mIL−20は、生理食塩水で処理した対照と比較して、固形腫瘍の周りの血管化を増強した。CD31での染色はまた、生理食塩水で処理したマウスよりも、mIL−20で処理したマウスから切除した腫瘍において微小血管密度が高いことを示した。さらに、マウスIL−20R1に対する抗体はmIL−20誘発性の血管形成を阻害し、このことは、IL−20R1がIL−20誘発性の血管形成に関与していたことを示している。
【0048】
血管形成は腫瘍、とりわけ固形腫瘍の発生に極めて重要であるため、IL−20誘発性の血管形成を阻害する作用物質、例えば抗IL−20抗体を、腫瘍の治療に用いることができる。
【0049】
IL−20はアポリポタンパク質E欠損マウスにおいてアテローム性動脈硬化症を促進する
mIL−20の全長cDNAを、以下のプライマーを用いてPCRによって増幅した:
センスプライマー:5’−ATGAAAGGCTTTGGTCTTGA−3’(配列番号7)
アンチセンスプライマー:5’−TAGCATCTCCTCCATCCATCT−3’(配列番号8)
ヘキサヒスチジンタグを有する増幅したcDNAをpcDNA3.1に挿入して、mIL−20発現ベクターを構築した。
【0050】
50μgのmIL−20発現ベクターを、14週齢のメスのApoE−/−マウスに、両側の大腿四頭筋での筋肉内注射により送達した。注射の直後に、経皮的電気パルスを、Chenら、Genes Immun.、6巻:493〜499頁、2005年に記載されているように加えた。エレクトロポレーションを、1週間に1回、10週間にわたり、それぞれのマウスの交互の脛骨の筋肉に実施した。これらのマウスには、この期間、アテローム生成飼料を給餌した。これらのマウスを次に屠殺し、それらのアテローム性動脈硬化症の病変部の領域を分析した。
【0051】
エレクトロポレーション後の血清IL−20のレベルを、ELISAを用いて測定した。結果は、IL−20タンパク質のレベルがエレクトロポレーション後の最初の1週間でピークに達し、その後の週では徐々に低下したことを示す。IL−20を投与すると、大動脈、すなわち大動脈洞の正面の病変が増強した。Mac−3陽性マクロファージの数もまた、大動脈洞で増大した。MigおよびI−TACの発現もまた、対照マウスと比較して、mIL−20で処理したマウスの大動脈において増大した。さらに、炎症促進性サイトカイン、例えば腫瘍壊死因子−αおよびIL−6もまた、mIL−20で処理したマウスの大動脈において上方調節された。これらの結果は、IL−20がアテローム形成性因子であり、アテローム性動脈硬化症の発症に起与し得ることを示唆している。
【0052】
RA患者の滑液におけるIL−20およびその受容体の両方の上方調節
16人のリウマチ性関節炎(RA)患者、32人の変形性関節炎(OA)患者、8人の痛風患者、および10人の健康なボランティアがこの研究に参加した。
【0053】
全てのRA患者(10人の女性および6人の男性、34〜87歳)が、関節腔が一様に狭くなるというX線画像上の特徴を示し、リウマチ因子が陽性であった。さらに、この患者の全員が、米国リウマチ学会により確立されたRAについての7つの基準のうち4つに適合した。Arnettら、Arthritis Rheum.、31巻:315〜324頁、1988年を参照されたい。
【0054】
OA患者(21人の女性および11人の男性、48〜82歳)は、関節腔の不均一な狭まり、軟骨下硬化、軟骨下嚢胞、および骨棘の形成を含む、X線画像上の特徴を示した。痛風患者(1人の女性および7人の男性、47〜83歳)は、関節液における尿酸結晶の蓄積の存在に基づいて診断した。
【0055】
滑液試料は、針吸引を用いて、全ての参加者の鋭敏な関節から回収した。血液試料もこれらの参加者から回収した。新鮮な滑液、滑膜組織、および血液試料を標準的な手順に従って調製した。簡潔に述べると、滑液をヒアルロニダーゼで消化し、ナイロンメッシュカラム(100mmの孔サイズ)に入れた。流入物を回収し、等容積のHistopaqueに入れ、遠心分離し(室温で、1800rpmで30分間)、上清を回収した。滑膜組織をリン酸緩衝生理食塩水で2回すすぎ、3.7%ホルムアルデヒド内で一晩保存し、次に、脱水し(ホルマリン、アルコール、およびキシレンの系内で)、パラフィン(生理食塩水で被覆したスライド上の5mmのパラフィン塊)内に埋包した。血液を遠心分離し(2000rpmで10分間)、血清を回収した。全ての試料を、使用するまで−80℃で保存した。
【0056】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施して、ヒトIL−20モノクローナル抗体を用いて、滑液および血清におけるIL−20のレベルを決定した。Weiら、Clin. Immunol.、117巻:65〜72頁、2005年を参照されたい。
【0057】
RA患者の滑液におけるIL−20の濃度は、OA患者(p<0.0001)および痛風患者(p<0.05)よりも有意に高かった。RA患者、OA患者、および痛風患者から得た滑液におけるIL−20のメジアンレベルはそれぞれ、432.1ng/ml(25から75パーセンタイルは25.4〜1653ng/ml)、0ng/ml(25から75パーセンタイルは0〜8.5ng/ml)、および0ng/ml(25から75パーセンタイルは0〜26.7ng/ml)であった。
【0058】
12人のRA患者および10人の健康なボランティアの血清におけるIL−20のレベルを、上述した方法に従って決定した。RA患者におけるIL−20の血清IL−20レベルは、健康な対照のレベルと非常に類似していた(P=0.3544)。RA患者および健康な対照から得た血清におけるIL−20のメジアンレベルはそれぞれ、99.5ng/ml(25から75パーセンタイルは96.5〜102.5ng/ml)および98.5ng/ml(25から75パーセンタイルは90.5〜102.5ng/ml)であった。
【0059】
これらのデータは、RA患者の滑液において高いレベルのIL−20が局所的に産生されていることを示唆している。
【0060】
RAの滑膜およびRAの滑膜線維芽細胞におけるIL−20およびその受容体の発現
免疫組織化学的染色を実施して、RAの滑膜におけるIL−20およびその受容体の発現を試験した。簡潔に述べると、滑膜組織を上述したように調製した。キシレンを用いて滑膜上のパラフィンを除去し、エタノールを用いて膜を再水和した。スライドを、バックグラウンドの染色を低減させることができるブロッキング剤で処理し(DakoCttomation、Carpinteria、CA)、次に、ブロッキング剤中で、IL−20、IL−20RI(共にR&D Systems、Minneapolis、MNから入手)、およびIL−20RIIに特異的なモノクローナル抗体と共にインキュベートした。次に、スライドを、二次抗体、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合型ヤギ抗マウスIgG(Chemicon、Temecula、CA)、およびジアミノベンジジン基質(Vector、Burlingame、CA)で連続的に処理した。インキュベーションの後、スライドを洗浄し、Nayerのヘマトキシリン(Thermo Shandon、Pittburgh、PA)で対比染色した。マウスIgG1アイソタイプ(クローン11711、R&D Systems)を陰性対照として用いた。
【0061】
内側を覆う最初の層における滑膜細胞のほとんどは強い陽性の免疫反応性を示したが、内側を覆う下位の層における細胞は、中程度の陽性の免疫反応性を示した。マウスIgG1アイソタイプ抗体を用いた陰性対照は、検出可能な免疫反応性を示さなかった。これらの結果は、IL−20ならびにその受容体であるIL−20RIおよびIL−20RIIが全てRAの滑膜において発現していることを示す。
【0062】
IL−20およびその受容体の発現をまた、RAの滑膜線維芽細胞(RASF)において試験した。RAの患者から得た、新鮮な単離した滑膜組織を、2〜3mmの小片に細かく刻み、ダルベッコ変法イーグル培地(DEME、Gibco BRL、Grand Island、NY)内において37℃で1時間、ディスパーゼ(Roche、Mannheim、Germany)消化に供した。RASFを10%ウシ胎児血清を含むDEME内で培養した。全てのインビトロでの実験は、5代継代から12代継代のRASFの初代培養を用いて行った。RASFを無菌のスライドグラス上で培養し、次に3.7%パラホルムアルデヒド内で固定し、0.1%Triton−X−100を含むPBSを用いて透過処理した。非特異的な結合部位を、0.1%ウシ血清アルブミン(重量/容積)を含むPBS内においてRASFをインキュベートすることによってブロッキングした。IL−20タンパク質、IL−20RIタンパク質、およびIL−20RIIタンパク質の存在を次に、上述したような免疫染色によって検出した。
【0063】
RAの滑膜から単離した細胞(RASF)は、IL−20およびその受容体を発現することが明らかにされた。それらの発現パターンは、RAの滑膜の免疫染色において見られたものと類似している。また、IL−20が時間に依存した形でリン酸化ERK−1/2の発現を誘発することも明らかにされた。IL−20で処理したRASFにおいて、リン酸化されたp38、MAPK、またはJNKのレベルの顕著な変化は見られなかった。
【0064】
IL−20はインビトロで好中球の走化性およびRASFの移動を誘発する
好中球の走化性を、8μMの孔を有するポリカーボネートフィルター(Nucleopore、Cabin John、MD)を有する48ウェルの容器(改変されたBoyden容器)を用いて分析した。上部のウェルには5×10個の好中球を入れた。下部の容器は、0.2%FBSを含むRPMI1640培地における、ヒトIL−20(200ng/ml)またはホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)(20ng/ml)で満たした。0.2%FBSを含むRPMI1640を陰性対照として用い、PMAを陽性対照として用いた。容器を37℃で1時間インキュベートした。フィルターの下側に接着している細胞をメタノール内で固定し、細胞計数のためにギムザ溶液内で染色した。200倍の倍率の顕微鏡によって、ランダムに選択した12個の視野を計数することによりフィルターの下側表面上にある好中球の数を決定した。
【0065】
細胞の移動を、5μMの孔を有するポリカーボネートフィルターを用いたことを除いて、上述した方法に従って分析した。
【0066】
RASFの移動を調べるために、上部のウェルに6500個のRASFを入れ、8mMの孔を有するポリカーボネートフィルターを用いた。下部の容器は、0.2%FBSを含むDMEMにおける、ヒトIL−20(200ng/ml)または陽性対照である形質転換成長因子β1(TGFβ1)(50ng/ml)で満たした。容器を37℃で4.5時間インキュベートした。RASFの数を、100倍の倍率の顕微鏡によって決定した。
【0067】
IL−20は、陰性対照よりも顕著に大きな好中球の走化性およびRASFの移動を誘発した(P<0.01)。しかし、IL−20は、T細胞の移動は誘発しなかった。好中球の走化性およびRASFの移動は、RAの発症において重要であることが知られている。したがって、これらのデータは、IL−20がRAの発症に関与していることを示唆している。
【0068】
これらの移動データに関する、それぞれの処理群の、対照群との統計的比較は、多重比較のためのDunnettの手順を用いて、一元配置分散分析(ANOVA)で行った。
【0069】
IL−20受容体Iはコラーゲン誘発性の関節炎を予防する
8週齢のオスのSprague−Dawleyラットを、等量のフロイント完全アジュバント、4mg/mlの熱殺菌したmycobacterium tuberculosis、および0.05Mの酢酸内に2mg/mlで可溶化したウシのII型コラーゲンを含む乳濁液で免疫化した。それぞれのラットの背部に200μlの乳濁液を皮内注射した。ラットにはまた、7日目に、尾部の付け根に100mlの同じ乳濁液を皮下的に追加免疫投与した。
【0070】
それぞれの後肢における関節炎の重症度をモニターし、
0:発赤または腫れなし、
1:ラットの足首にわずかな腫れ、または足に発赤、
2:足首から中足部にかけて進行性の腫れ、炎症、および発赤、
3:つま先を除く足全体の腫れおよび炎症、
4:つま先を含む足全体の腫れおよび炎症、
5:動かすことが不可能な足全体の腫れおよび炎症
という0〜5のスケールでスコア付けした。
3以上のスコアは重症の腫れを示す。それぞれのラットにおける関節炎の重症度は、4人の個別の観察者が、個別にかつ盲検的に決定し、それらのスコアの平均を計算した。
【0071】
ラットのIL−20受容体であるIL−20RIおよびIL−20RIIの可溶性形態(細胞外ドメイン)(sIL−20RIおよびsIL−20RII)を3’末端でヒスチジンタグと融合し、pcDNA3.1発現ベクター内にクローニングした。プラスミドDNAを以下のようにして試験ラット内に送達した。sIL−20RIまたはsIL−20RIIを有する250μgのプラスミドDNAを、ラットの両側の大腿四頭筋に注射し、経皮的電気パルスをその直後に上述したように加えた。200ボルトの5回のパルスを、1回パルス/秒の速度で、それぞれのパルスにつき75m秒の間、それぞれの注射部位に加えた。皮膚の火傷を防ぐために電極ペーストを用いた。
【0072】
CIIでの最初の免疫化の2日後に、ラットを分けた。ウシCIIの最初の注射の5日後および10日後に、試験ラットを5つの群に分け、それぞれを、5日目および10日目に、sIL−20RI、sIL−20RII、pcDNA3.1、PBS、およびCIIでのエレクトロポレーションに供した。CLL誘発性の関節炎の重症度に対する可溶性IL−20受容体のインビボでの筋肉内投与の効果を、12日目から20日目に評価した。それぞれの後肢における関節炎の重症度を視覚的に評価し、上述したようにスコア付けした。20日目の関節炎の重症度のスコアは、プラスミド対照を注射したラットと比較して、sIL−20RIを注射したラットにおいて有意に低かった(p<0.01)。メジアン重症度スコアは、コラーゲン対照では4.3(25から75パーセンタイルは4〜4.4)、PBS対照では4.1(25から75パーセンタイルは3.8〜4.3)、およびプラスミド対照では3.5(25から75パーセンタイルは3.3〜4.4)であった。可溶性IL−20受容体で処理したラットのメジアンスコアは非常に低く、すなわち、sIL−20RIで処理したラットでは0.6(25から75パーセンタイルは0〜2.1)、およびsIL−20RIIで処理したラットでは3.4(25から75パーセンタイルは1.1〜4.3)であった。これらの結果は、sIL−20RIがコラーゲン誘発性の関節炎の重症度を顕著に低減させることを示す。可溶性IL−20受容体は、IL−20/IL−20受容体のシグナル伝達経路を遮断することが知られているため、これらのデータは、IL−20のシグナル伝達がコラーゲン誘発性の関節炎において重要な役割を有することを示唆している。したがって、この経路を阻害することができる作用物質、例えば抗IL−20抗体は、この疾患の治療において有効であり得る。
【0073】
GraphPad Prism 4.0ソフトウェアを用いた統計分析を、得られたデータの全てに対して実施した。Kruska−Wallis試験を用いて、異なる群の間で滑液のIL−20レベルおよび関節炎の重症度のスコアを比較した。Dunnの多重比較試験を用いてポストホック比較を実施した。これらの動物の後肢における重症な腫れ(3以上の重症度スコアとして規定される)に関する、処理群および対照群の間の差異は、統計上有意であった。
【0074】
抗IL−20モノクローナル抗体7Eの生成
BALB/cJマウスを、1週間に1回、4週間にわたり、等容量のフロイント完全/不完全アジュバントで乳化した組換えhIL−20タンパク質(100μg/マウス)で皮下的に免疫化した。細胞融合の3日前に、3匹のマウスに、アジュバントを含まない抗原を用いて静脈内注射によって追加免疫した。免疫化したマウスから得た脾臓細胞(1.2×10個)を、PEG4000(Merck & Co.,Inc.、Whitehouse Station、NJ)を用いて、X63−Ag8−6.5.3骨髄腫細胞(1.5×10個)と融合した。融合細胞を24ウェルプレート内に分配し、HAT培地において14日間培養した。培養上清を、ELISAによって、hIL−20と反応する抗体について試験した。hIL−20に対して反応する抗体を産生する融合細胞に、限界希釈を行った。ハイブリドーマ細胞を、15%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、2%L−グルタミン、および1%調節NaHCO溶液を含むダルベッコ変法イーグル培地(GIBCO;Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)において培養した。選択された抗体であるIgGのアイソタイプを、アイソタイプ決定ELISAを用いて決定した。プロテインAクロマトグラフィーを用いて、腹水から抗体を精製した。ハイブリドーマを産生する抗hIL−20モノクローナル抗体7E(mAb 7E)は米国培養細胞系統保存機関(10801 University Boulevard、Manassas、VA 20110−2209、USA)に寄託されており、寄託番号PTA−8687を割り当てられている。この抗体は、ウェスタンブロット分析によって、ヒトIL−20を特異的に認識することが明らかにされた。
【0075】
mAb 7Eの重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を以下のようにクローニングした。全RNAをハイブリドーマ細胞から単離し、次に、仔ウシ腸ホスファターゼ(CIP)で処理して5’リン酸を除去した。脱リン酸化したRNAをタバコ酸性ピロホスファターゼ(TAP)で処理して、インタクトな全長mRNAから5’キャップ構造を除去し、その後、そのmRNAの5’末端で、T4RNAリガーゼを用いて、GeneRacer(商標)RNAオリゴ(5’−CGACUGGAGCACGAGGACACUGACAUGGACUGAAGGAGUAGAAA−3’)(配列番号9)(GeneRacerキット、Invitrogen)にライゲーションした。ライゲーションしたmRNAを、SuperScript(商標)III逆転写酵素およびGeneRacer(商標)オリゴdTプライマー(5’−GCTGTCAACGATACGCTACGTAACGGCATGACAGTGTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT−3’)(配列番号10)を用いて逆転写し、5’末端および3’末端に既知のプライミング部位を有する、RACE−ready一本鎖cDNAを生成した。
【0076】
cDNAの5’末端を得るために、遺伝子特異的なリバースプライマー(重鎖について:5’−CTGCTGGCCGGGTGGGCAACGT−3’(配列番号11)、軽鎖について:5’−GTGAGTGGCCTCACAGGTATAGCT−3’)(配列番号12)およびGeneRacer(商標)5’プライマー(5’−CGACTGGAGCACGAGGACACTGA−3’)(配列番号13)として抗体の定常領域の配列を用いて、一本鎖cDNA鋳型にPCRを実施した。5’末端にライゲーションしたGeneRacer(商標)RNAオリゴを有するmRNAのみが、完全に逆転写され、PCRを用いて増幅された。GeneRacer(商標)5’入れる型プライマー(5’−GGACACTGACATG GACTGAAGGAGTA−3’)(配列番号14)および遺伝子特異的な入れる型プライマー(重鎖について:5’−ACCGCTGGACAGGGATCCAGAGTT−3’(配列番号15)、軽鎖について:5’−GAGGGTGCTGCTCATGCTGTAGGT−3’)を用いてさらなるPCRを行い、特異的なPCR産物を同定した。
【0077】
3’末端を得るために、遺伝子特異的なフォワードプライマー(重鎖について:5’−CATGAGGGCCTGCACAACCACCAT−3’(配列番号16)、軽鎖について:5’−CCCACCATCCAGTGAGCAGTTAACA−3’)(配列番号17)およびGeneRacer(商標)3’プライマー(5’−GCTGTCAACGATACGCTACGTAACG−3’)(配列番号18)を用いて、一本鎖cDNAを増幅した。ポリA尾部を有するmRNAのみが逆転写され、PCRによって増幅された。全てのPCR産物をゲル精製し、配列決定のためにpCR4−TOPOベクター内にサブクローニングした。5’および3’RACEから得られたヌクレオチド配列に従って、重鎖および軽鎖についての特異的なプライマーを設計し、RACE−ready cDNA鋳型から全長cDNAを増幅して、哺乳動物細胞において抗体を発現させた。
【0078】
モノクローナル抗体7Eは仔ウシ肺動脈内皮細胞(CPAE)およびヒトHUVECのIL−20誘発性の増殖を阻害する
mAb 7Eは、IL−20により誘発されるCPAE細胞およびHUVEC細胞の増殖を中和することが明らかにされた。
【0079】
CPAEを1ウェル当たり1×10個細胞の密度で24ウェルプレート内に播種した。標準的な成長培地におけるインキュベーションの24時間後に、細胞を様々な濃度のhIL−20に72時間さらした。次に、細胞を1mg/mlの3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)(Sigma、St.Louis、MO)溶液と共に4時間インキュベートした。200plのDMSO(ジメチルスルホキシド)(Sigma)を培養物に加えた。550nmの吸光度をELISAリーダーを用いて決定した。サイトカイン処理した細胞の吸光度を、未処理の対照細胞に対するパーセンテージとして表した。塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(Sigma)を、細胞増殖アッセイにおいて陽性対照として用いた。
【0080】
ヒトIL−20のスプライシング変異体であるヒトIL−20Wは、25〜1000ng/mlの濃度でCPAEの増殖を誘発した。ヒトIL−20の別のスプライシング変異体であるヒトIL−20SもまたCPAEの増殖を誘発したが、それはさらに低い濃度、すなわち12〜100ng/mlであった。興味深いことに、高濃度のIL−20(1000ng/ml超のIL−20Wおよび200ng/ml超のIL−20S)は、CPAEの増殖を阻害した。
【0081】
IL−20誘発性の細胞増殖に対するモノクローナル抗体7Eの効果を以下のようにして試験した。CPAEを、37℃で24時間、1ウェル当たり1×10個細胞の密度で24ウェルプレート内に播種した。処理の前に、10倍過剰な抗hIL−20モノクローナル抗体7EまたはsIL−20R1タンパク質もしくはsIL−20R2タンパク質を、最適な濃度のhIL−20S(100ng/ml)またはhIL−20W(250ng/ml)と共に、4℃で30分間インキュベートした。IL−20と7Eとの混合物、またはIL−20とsIL−20R1との混合物、またはIL−20とsIL−20R2との混合物をCPAEに加え、72時間インキュベートした。次に、細胞を1mg/mlのMTT溶液と共に4時間インキュベートした。200μlのDMSOを培養物に加えた。550nmの吸光度をELISAリーダーを用いて決定した。
【0082】
IL−20の可溶性受容体と同様に、抗体7EはIL−20W誘発性のCPAEの増殖を顕著に遮断した。抗体7Eはまた、IL−20S誘発性の細胞増殖も遮断したが、それはさほど顕著ではなかった。
【0083】
IL−20誘発性のHUVECの増殖に対する抗体7Eの効果をまた、上述した方法に従って調べ、同様の結果が明らかにされた。
【0084】
これらの結果は、モノクローナル抗体7EがヒトIL−20の活性を阻害することを示す。
【0085】
モノクローナル抗体7Eを用いたコラーゲン誘発性の関節炎の治療
コラーゲン誘発性の関節炎(CIA)を有するラットは、ヒトのリウマチ性関節炎を研究するための、十分に開発された動物モデルである。したがって、このモデルは、RAの治療についてのモノクローナル抗体7Eの有効性を試験するために用いられる。
【0086】
オスのSprague−Dawleyラットを、1:ラットをII型コラーゲン(CII)およびPBSで処理した媒質対照群、2:ラットをCIIおよびエンブレル[3mg/kgを皮下投与]で処理したエンブレル群、3:ラットをCIIおよび7E[3mg/kgを皮下投与]で処理した抗体7E群、4:健康な対照群の、4つの群(それぞれの群につき5匹のラット)に分けた。全てのラットを、II型コラーゲンでまず免疫化して、CIAを誘発した。全てのラットの後肢の厚みは、免疫化の11日後から顕著におよび一貫して増大した。次に、第1〜3群のラットに、エンブレル、7E、またはPBSを、2日に1回、4回にわたり(11日目、13日目、15日目、および17日目)注射した。第4群のラットは健康な対照として用いた。
【0087】
薬剤での治療後の関節炎の重症度を測定し、健康な対照と比較した。治療の過程において、治療の前と後とで体重における顕著な差は見られず(P>0.05)、このことは、7EがCIAを有するラットの全身的な身体状態に対する顕著な影響を有していないことを示唆している。CIAのラットにおける7Eの効果を11日目から25日目まで評価した。それぞれの後肢の腫れを、ノギスによってミリメートル単位で測定した。後肢の腫れは、媒質対照と比較すると、7Eまたはエンブレルで処理した後に顕著に抑制された(P<0.05)。18日目の後肢の厚みもまた、PBS対照ラットよりも7Eで処理したラットにおいて顕著に低かった(P<0.05)。媒質対照および健康な対照の後肢の厚みのメジアン値は、それぞれ、1.05(25から75パーセンタイルは1.0〜1.11)および0.52(25から75パーセンタイルは0.52〜0.53)であった。7Eおよびエンブレルで処理したラットの後肢の厚みのメジアン値は、それぞれ、0.85(25から75パーセンタイルは0.71〜0.95)および0.86(25から75パーセンタイルは0.76〜0.91)であった。これらの結果は、モノクローナル抗体7Eが、RAおよび他の炎症性疾患を治療するための市販薬であるエンブレルと同程度に効率的にCIAの重症度を低減させたことを明らかに示すものである。したがって、IL−20モノクローナル抗体である7Eは、リウマチ性関節炎または他の炎症性疾患、例えば乾癬、乾癬性関節炎をエンブレルのように治療するための薬剤として用いることができる。
【0088】
他の実施形態
本明細書において開示される特徴の全ては、あらゆる組み合わせで組み合わせることができる。本明細書において開示されるそれぞれの特徴は、同一の、同等の、または類似の目的にかなう別の特徴で置き換えることができる。したがって、明らかな別段の記載がない限り、開示されるそれぞれの特徴は、一般的な一連の同等なまたは類似の特徴の一例にすぎない。
【0089】
上記の記載から、当業者は、本発明の必須の特徴を容易に理解することができ、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の様々な変更および改変を施して、本発明を様々な利用および状況に適合させることができる。したがって、他の実施形態もまた、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクローナル抗体7E(mAb 7E)またはその機能的同等物である、ヒトIL−20に特異的に結合する抗体。
【請求項2】
前記機能的同等物が、mAb 7EのV領域およびV領域を含む抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記機能的同等物が、mAb 7EのFab、F(ab’)、scFv、またはキメラ抗体である、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
mAb 7Eである、請求項2に記載の抗体。
【請求項5】
前記機能的同等物がヒト化mAb 7Eである、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
アテローム性動脈硬化症を治療する方法であって、アテローム性動脈硬化症に罹患しているかまたはそのリスクを有する対象を同定するステップと、有効量の抗IL−20抗体を該患者に投与するステップとを含む方法。
【請求項7】
前記抗体がmAb 7Eまたはその機能的同等物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体がmAb 7Eである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記機能的同等物が、mAb 7EのV領域およびV領域を含む抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記機能的同等物が、mAb 7EのFab、F(ab’)、scFv、またはキメラ抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記機能的同等物が、mAb 7Eのヒト化抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体が静脈内投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
IL−20に関連する炎症性疾患を治療する方法であって、
IL−20に関連する炎症性疾患に罹患しているかまたはそのリスクを有する患者を同定するステップと、
有効量のmAb 7Eまたはその機能的同等物を該患者に投与するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記IL−20に関連する炎症性疾患が、RA、乾癬、乾癬性関節炎、細菌誘発性の胃潰瘍、および急性腎不全からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記IL−20に関連する炎症性疾患がRAである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が、関節炎の関節に直接投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体がmAb 7Eである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記機能的同等物が、mAb 7EのVおよびVを含む抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記機能的同等物が、mAb 7EのFab、F(ab’)、scFv、またはキメラ抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記機能的同等物が、mAb 7Eのヒト化抗体である、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2010−530852(P2010−530852A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512310(P2010−512310)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/066504
【国際公開番号】WO2008/157161
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509344065)ナショナル チェン カン ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】