説明

ITO焼結体の製造方法及びITOスパッタリングターゲットの製造方法

【課題】高品質な焼結体を安価に製造することができるITO焼結体の製造方法及びITOスパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るITO焼結体の製造方法は、酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製する工程を含む。上記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって破砕することで、上記第1の平均粒子径よりも小さい第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末が作製される。上記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、上記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末が作製される。上記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体が作製された後、焼結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスパッタリングターゲットとして使用されるITO焼結体の製造方法及びITOスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイや太陽発電モジュールの製造分野において、透明導電膜として酸化インジウム及び酸化スズを主成分とするITO膜が広く用いられている。ITO膜は、真空蒸着法、スパッタリング法等によって成膜される。スパッタリング法では、ITOで構成されたスパッタリングターゲットが使用される。ITOターゲットには、酸化インジウムと酸化スズの混合粉末の焼結体が広く用いられている。特に近年、製造コストの削減を図るために、使用済みITOターゲットのリサイクルが検討されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1には、スパッタリング成膜に使用した後のITOターゲットの表面付着物を除去した後、これを自生粉砕することによって粉末とし、次いでこの粉末を焼結する、ITO焼結体の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、スクラップとなったITO焼結体を0.5mm以下の顆粒に粉砕した後、該ITO顆粒と実質的にインジウム、スズおよび酸素からなる粉末とを混合した後、成形、焼結を行う、ITO焼結体の再生方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ITOリサイクル粉を熱処理し、比表面積を2.5〜7.0m/gの範囲に調整した粉末を用いて泥漿鋳込み成形法によって成形し、得られた成形体を乾燥後、酸素雰囲気で焼成する、ITO焼結体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−316798号公報(段落[0015])
【特許文献2】特開平11−100253号公報(段落[0009])
【特許文献3】特開平11−228219号公報(段落[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
安定したスパッタ成膜と高品質な薄膜形成を実現するには、スパッタリングターゲットに組織の緻密化及び均一化が要求される。このため、原料粉末を微細化して焼結密度を向上させることが必須となる。しかしながら、使用済みターゲットを原料とする焼結体の製造に際しては、原料となる焼結体の微細化にコストが嵩み、高密度かつ均質性の高いITO焼結体を安価に製造することが困難であるという問題がある。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、高品質な焼結体を安価に製造することができるITO焼結体の製造方法及びITOスパッタリングターゲットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るITO焼結体の製造方法は、酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製する工程を含む。上記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって破砕することで、上記第1の平均粒子径よりも小さい第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末が作製される。上記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、上記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末が作製される。上記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体が作製された後、上記成形体は焼結される。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るITOスパッタリングターゲットの製造方法は、酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製する工程を含む。上記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって破砕することで、上記第1の平均粒子径よりも小さい第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末が作製される。上記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、上記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末が作製される。上記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体が作製された後、上記成形体は焼結される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るITO焼結体の製造方法を示す工程フローである。
【図2】本発明の実施形態における使用済みターゲットの分離工程を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施形態における焼結片の準備工程を説明する模式図である。
【図4】本発明の実施形態における第1のITO粉末の作製工程を説明する模式図である。
【図5】本発明の実施形態における第3のITO粉末及びこれを含むスラリーの作製工程を説明する模式図である。
【図6】本発明の実施形態における成形工程に用いられる成形型の模式図であり、(A)は側断面図、(B)は型本体の平面図である。
【図7】本発明の実施形態において作製された焼結体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るITO焼結体の製造方法は、酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製する工程を含む。第1のITO粉末は、焼結片同士の衝突作用により、第1の平均粒子径(例えば2μm)を有する大きさに破砕される。上記焼結片群は、定形又は不定形の既成のITO焼結材料の小片、あるいはその焼結材料を適宜の形状に分割した分割片とすることができる。焼結材料としては、ITO焼結製品の製造時に不可避的に発生する廃材や使用済みの焼結製品などが挙げられ、焼結製品としては、典型的には、ITOスパッタリングターゲットである。
【0013】
ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法で測定した粒度分布の積算%が50%の値を意味する。また、平均粒子径の値は、日機装(株)製レーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3000II)による測定値を用いた。
【0014】
上記第1のITO粉末は、上記焼結片群を樹脂容器内で破砕することで作製される。これにより、例えば金属製容器内で当該ITO粉末を作製する場合と比較して、粉末中への不純物の混入を抑制することができる。勿論、樹脂製容器を使用した場合、その樹脂成分が粉末中に混入するおそれはあるが、脱脂工程あるいは焼結工程において当該樹脂成分を消失させることができる。
【0015】
次に、上記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって粉砕することで、第2の平均粒子径(例えば0.6μm)を有する第2のITO粉末が作製される。これにより、上記焼結片からより微細なITO粉末を作製することが可能となる。
【0016】
媒体撹拌ミルとしては、振動ボールミルやロッドミル等が挙げられる。媒体撹拌ミル又はジェットミルは、湿式でもよいし乾式でもよい。また、媒体撹拌ミルを用いる場合、撹拌媒体となるボールやロッドの表面に樹脂コートが施されているものを採用することにより、粉体中への不純物の混入を効果的に抑制することができる。本実施形態では、媒体撹拌ミルとして振動ボールミルが好適に用いられる。ジェットミルとしては、湿式ジェットミルが好適である。
【0017】
続いて、上記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、上記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径(例えば0.20μm〜0.30μm)を有する第3のITO粉末が作製される。第2のITO粉末に混合される酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末としては、それぞれ未使用の粉末が用いられるが、これに限られない。上記酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末の平均粒子径は特に限定されず、適宜の粒子径を採用することができる。
【0018】
上記第3のITO粉末は、媒体撹拌ミルを用いて作製することができる。これにより、比較的微細な平均粒子径を有するITO粉体を容易に作製することができる。媒体撹拌ミルとしては、ボールミル、ロッドミル等が適用可能であるが、振動ボールミルが好適である。
【0019】
上記第3のITO粉末の平均粒子径(第3の平均粒子径)を0.20μm以上0.30μm以下とすることで、相対密度が99.8%以上であり、組成の均一性に優れた高品質のITO焼結体を製造することができる。
【0020】
上記第3のITO粉末中における上記第2のITO粉末の混合比率は、10重量%以上、40重量%以下とすることができる。これにより、ITO焼結体の材料コストを効果的に低減することができる。なお、第2のITO粉末の混合比率が40重量%を越えると、第3のITO粉末の目的とする平均粒子径や、ITO焼結体の目的とする相対密度や組成が得られないおそれがある。また、第2のITO粉末の混合比率が10重量%未満の場合、ITO焼結体の材料コストの低減効果が低くなる。
【0021】
次に、上記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体が作製され、この成形体を焼結することで、目的とするITO焼結体が作製される。泥漿鋳込み成形法は、低粘度のスラリー(泥漿)を石膏型等の吸水性の鋳型中に流し込み、その鋳型の成形室内壁に粉体の堆積層を形成させ、乾燥した後、鋳型から取り出して成形体を得る方法である。泥漿鋳込み成形法を採用することで、比較的安価に成形体を作製することができる。
【0022】
上記ITO焼結体の製造方法によれば、焼結体の原料の一部に、既成の焼結片の破砕粉を用いているので、原料コストの低減を図ることができる。また、上記焼結片の破砕粉を段階的に微細化しているため、工程数の大幅な増加や特殊な処理を施すことなく焼結粒子の微細化を達成でき、高品質の焼結体を比較的低コストで作製することが可能となる。したがって、以上の処理を経ることで、高品質なITOスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態によるITO焼結体の製造方法を説明する工程図である。図2〜図7は、各工程を説明する模式図である。本実施形態では、焼結片の準備工程(ステップ1)と、粗粉砕工程(ステップ2)と、微粉砕工程(ステップ3)と、混合・微粉砕工程(ステップ4)と、スラリー調整工程(ステップ5)と、成形工程(ステップ6)と、焼結工程(ステップ7)とを有する。
【0025】
[焼結片準備工程]
この工程では、原料の一部となる焼結片が準備される。ここでは、図2及び図3に示すように、使用済みのITOスパッタリングターゲット2を適当な形状及び大きさに分割することで、目的とする焼結片2aを作製する。スパッタリングターゲット2は、これを支持するバッキングプレート1から分離された形態で使用される。分離されたスパッタリングターゲット2は、In等のろう材および表面に付着した不純物を取り除くために酸で洗浄され、その後、焼結片2aが作製される。使用されるスパッタリングターゲット2は、これを原料として作製される新たなITO焼結体と同様な組成を有するものが用いられる。
【0026】
[粗粉砕工程]
この工程は、作製された適当量の焼結片2aを樹脂製容器3に収容し(図4(A))、当該容器3aを回転させ、これら焼結片群を衝撃によって破砕する(図4(B))。上記樹脂製容器3aとしては、ボールミルやロッドミル等に用いられる粉砕用の容器を用いることができる。この破砕工程は、上記容器3a内に純水を適宜の量添加して実施される。この工程によって、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末P1が作製される。第1の平均粒子径は特に限定されず、例えば2μmとすることができる。なお、図示の例ではITO粉末P1をやや誇張して示している。
【0027】
第1のITO粉末P1を樹脂製容器3a内で作製することにより、例えば金属製容器内で当該ITO粉末を作製する場合と比較して、粉末中への不純物の混入を抑制することができる。勿論、樹脂製容器を使用した場合、その樹脂成分が粉末中に混入するおそれはあるが、脱脂工程あるいは焼結工程において当該樹脂成分を消失させることが可能である。
【0028】
[微粉砕工程]
この工程は、上記第1のITO粉末P1を振動ボールミル又は湿式ジェットミルを用いて粉砕することで、第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末(P2)を作製する。これにより、第1のITO粉末をより微細化することができる。第2の平均粒子径の大きさは特に限定されず、例えば0.6μmとすることができる。
【0029】
この微粉砕工程においても、第2のITO粉末は樹脂製容器内で粉砕される。また、振動ボールミルを用いる場合、撹拌媒体として表面に樹脂コーティングが施されたボールが用いられる。これにより、第2のITO粉末への異種金属の混入を抑制することが可能となる。この微粉砕工程は、上記容器内に純水や適宜の分散剤を添加して実施することができる。得られた第2のITO粉末は、必要に応じて乾燥される。
【0030】
[混合・微粉砕工程]
この工程は、図5(A)、(B)に示すように、第2のITO粉末P2に、酸化インジウム(In)粉末P2a及び酸化スズ(SnO)粉末P2bを混合し、その混合粉末を粉砕することで、第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末P3を作製する。第3のITO粉末P3の平均粒子径を0.20μm以上0.30μm以下とすることで、相対密度が99.8%以上であり、組成の均一性に優れた高品質のITO焼結体を製造することができる。
【0031】
第2のITO粉末P2と混合される酸化インジウム粉末P2a及び酸化スズ粉末P2bには、いずれも未使用の粉末が用いられる。既成の焼結片から作製された原料粉末と未使用の原料粉末とを組み合わせることによって、原料コストの低減を図ることができる。また、スパッタリングターゲット等の使用済み材料を効率良くリサイクルすることが可能となる。
【0032】
本実施形態では、平均粒子径が0.9μmの酸化インジウム粉末P2aと、平均粒子径が1.3μmの酸化スズ粉末P2bとが用いられる。酸化インジウム粉末P2a及び酸化スズ粉末P2bの平均粒子径は上記の例に限定されず、例えば、第2のITO粉末P2の平均粒子径と同等又はそれ以下の大きさのものを用いることができる。
【0033】
酸化インジウム粉末P2a及び酸化スズ粉末P2bの添加量は、第2のITO粉末P2の成分組成や目的とするITO焼結体の成分組成に応じて適宜調整することができる。本実施形態では、酸化インジウム粉末P2aと酸化スズ粉末P2bとが重量比で9:1となるように第2のITO粉末P2に混合される。また、第3のITO粉末P3中における第2のITO粉末P2の混合比率は、10重量%以上、40重量%以下とすることができる。これにより、ITO焼結体の材料コストを効果的に低減することができる。
【0034】
この混合工程においても、第3のITO粉末P3は樹脂製容器3b内で粉砕される。また、ボールミルを用いる場合、撹拌媒体として表面に樹脂コーティングが施されたボールが用いられる。これにより、第3のITO粉末P3への異種金属の混入を抑制することが可能となる。この混合工程は、容器3b内に純水や適宜の分散剤を添加して実施することができる。
【0035】
[スラリー調整工程]
この工程は、第3のITO粉末P3を含むスラリーSを調整する(図5(B))。スラリーSは、第3のITO粉末P3を純水で懸濁した液状物質であり、スラリー中におけるITO粉末P3の濃度が例えば70%〜80%となるように調整される。このスラリーSの調整工程は、上記混合工程に含まれていてもよく、この場合、当該混合工程の最終段階でスラリーSが調整される。
【0036】
[成形工程]
成形工程は、図6(A)、(B)に示す成形型4の中にスラリーSを充填することで成形体を得る。成形型4は、例えば石膏等の吸水性のある材料で構成され、本体4aと、蓋体4bとを備える。
【0037】
本体4aには、内部空間4cと、この内部空間に連通する鋳込み口4dとを有する。図示の構成は一例であり、内部空間4cの形状や鋳込み口4dの位置等は適宜設定することが可能である。スラリーSは、鋳込み口4dを介して内部空間4cへ所定圧力で充填され、かつその状態が所定時間保持される。これにより、スラリーS中の水分は成形型4に吸収され、ITO粉末P3は型内に着肉することで高密度に成形される。成形体の作製にこのような泥漿鋳込み成形法を採用することにより、比較的安価に成形体を作製することができる。
【0038】
成形型4は、石膏スラリーを素材とし、これを成形した後、乾燥することで形成される。石膏スラリーの溶媒である水の割合は、50重量%以上65重量%以下とすることができる。石膏スラリー中の溶媒が過剰に多いと(例えば65重量%を越える場合)、成形型の吸液量は大きくなるものの、成形型の平均気孔径も大きくなるため、毛細管現象に起因する吸水力が小さくなる。その結果、成形体を製造する際の成形時において、スラリー中の溶媒である水の排水効率が悪くなり、成形に長時間を要することになる。また、石膏スラリー中の溶媒が少ないと(例えば50重量%未満の場合)、成形型の吸液量が小さくなるため、成形体を製造する際の成形時において、スラリー中の溶媒である水の排水を十分できなくなり、満足できる成形体を作製することが困難となる。
【0039】
作製された成形体は、乾燥工程を経て、乾燥される。乾燥工程は、所定温度に維持された乾燥室の中で行うことができる。乾燥後、必要に応じて、成形体の脱脂工程を実施してもよい。これにより、成形体中に含まれる樹脂成分が除去され、成形体の純度を高めることができる。
【0040】
[焼結工程]
焼結工程は、得られた成形体を焼結することで、目的とするITO焼結体Scを作製する。焼結は例えば大気中で行われ、焼結温度は例えば1500℃〜1650℃とすることができる。
【0041】
以上のようにして作製されたITO焼結体Scは、99.8%以上の相対密度と5μm以下の平均結晶粒径とを有する。焼結体Scの作製後、これを所定形状に切削あるいは研削することで、ITOスパッタリングターゲットが作製される。
【0042】
焼結体Scの相対密度及び結晶粒径は、スラリー中のITO粉末P3の平均粒子径で主に決定され、ITO粉末P3の平均粒子径を0.2μm〜0.3μmとすることにより、上述した諸特性の焼結体を安定して得ることが可能となる。また、焼結片2aの破砕粉(P1)を段階的に微細化しているため、工程数の大幅な増加や特殊な処理を必要とすることなく焼結粒子の微細化を達成できる。したがって、本実施形態によれば、結晶粒が微細で組織が均一な高密度の焼結体を低コストで作製することができる。
【0043】
以上のようにして作製されたスパッタリングターゲットは、ノジュールの発生を抑え、安定したスパッタ成膜を実現することが可能となる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
使用済みITOターゲットを200℃に加熱してバッキングプレートから剥がし、これを50%希硫酸に24時間浸漬することで、表面に付着したボンディング用ろう材を除去した。そのITOターゲットを適宜の大きさに分割し、焼結片としてのターゲット片を作製した。これらターゲット片200kgを純水20リットルと共に容量300リットルの樹脂製容器に投入し、当該容器を35rpmの回転数で24時間撹拌することにより、各ターゲット片を破砕した。その後、破砕粉を分級し100μm以下の粉末を回収し、同粉末を200℃で24時間乾燥し、これを第1のITO粉末とした。得られた第1のITO粉末の平均粒子径は2μm(最大値80μm)であった。
【0045】
次に、振動ボールミルを用いて第1のITO粉末を粉砕し、第2のITO粉末を作製した。より具体的には、容量50リットルの樹脂製容器に、第1のITO粉末9kgと、表面が樹脂コーティングされた直径10mmのボール(撹拌媒体)50kgを入れ、更に、純水10リットルとカルボン酸系分散剤180ミリリットルとを添加し、5時間、振幅8mmの条件で、第1のITO粉末を粉砕した。得られた第2のITO粉末の平均粒子径は0.6μm(最大値5μm)であった。
【0046】
第2のITO粉末を200℃で24時間乾燥した後、スピンミルで解砕した。そして、容量200リットルの樹脂製容器に、この第2のITO粉末30重量%(42kg)と、未使用の原料粉末70重量%(酸化インジウム粉末88.2kg、酸化スズ粉末9.8kg)と、直径10mmのジルコニアボール(撹拌媒体)272kgとを投入し、純水37.4リットル、カルボン酸系分散剤2.31リットルを添加して、84時間混合した。これにより、平均粒子径が0.25μm(最大値2μm)の第3のITO粉末を含むスラリーを作製した。スラリーの濃度は78%、粘度は200cpsであった。作製したスラリーにカルボン酸系バインダー1重量%を加え、回転数20rpmで30分間、スラリーを真空脱泡した。
【0047】
縦415mm、横780mm、厚み10.5mmの成形体を作製可能な両面着肉構造の石膏型を準備した。この石膏型に、脱泡機の鋳込みバルブを調整することでスラリーを成形圧力3kg/cmで流し込み、成形した。成形時間は80分とした。得られた成形体は、30℃雰囲気の乾燥室で6日間自然乾燥させ、縦380mm、横780mm、厚み10.5mmの成形体を得た。その後、大気中で600℃、3時間の加熱条件で成形体を脱脂処理した。脱脂後、成形体を焼結した。焼結温度は1600℃、焼結時間は8時間とした。焼結雰囲気は、酸素雰囲気とし、酸素導入量は毎分200リットルとした。
【0048】
得られた焼結体は、縦310mm、横620mm、厚み8.5mmであった。この焼結体の両面を研削し、端面を切断することで、縦300mm、横610mm、厚み7mmに仕上げた。焼結体の平均結晶粒径は4.2μm、相対密度は99.8%であった。この焼結体を縦127mm、横381mm、厚み6mmに再加工し、銅製のバッキングプレートにボンディングすることで、ITOスパッタリングターゲットを作製した。
【0049】
当該ターゲットをスパッタリング装置に組み込み、100kWhスパッタしたところ、ターゲット表面へのノジュールの発生がほとんどないことが確認された。さらに、当該スパッタリングターゲットを用いて形成されたITO膜(200nm)の抵抗値を測定したところ、0.2×10−3Ω・cmであった。この結果、当該ITO膜は、未使用の原料粉末のみで焼結されたITOターゲットを用いて成膜されたITO膜と同等の抵抗値であることが確認された。
【0050】
(実施例2)
使用済みITOターゲットを200℃に加熱してバッキングプレートから剥がし、これを50%希硫酸に24時間浸漬することで、表面に付着したボンディング用ろう材を除去した。そのITOターゲットを適宜の大きさに分割し、焼結片としてのターゲット片を作製した。これらターゲット片200kgを純水20リットルと共に容量300リットルの樹脂製容器に投入し、当該容器を35rpmの回転数で24時間撹拌することにより、各ターゲット片を破砕した。その後、破砕粉を分級し100μm以下の粉末を回収し、これを第1のITO粉末とした。得られた第1のITO粉末の平均粒子径は2μm(最大値80μm)であった。
【0051】
次に、振動ボールミルを用いて第1のITO粉末を粉砕し、第2のITO粉末を作製した。より具体的には、容量50リットルの樹脂製容器に、第1のITO粉末9kgと、表面が樹脂コーティングされた直径10mmのボール(撹拌媒体)50kgを入れ、更に、純水10リットルとカルボン酸系分散剤180ミリリットルとを添加し、5時間、振幅8mmの条件で、第1のITO粉末を粉砕した。得られた第2のITO粉末の平均粒子径は0.6μm(最大値5μm)であった。
【0052】
第2のITO粉末を200℃で24時間乾燥した後、スピンミルで解砕した。そして、容量200リットルの樹脂製容器に、この第2のITO粉末10重量%(14kg)と、未使用の原料粉末90重量%(酸化インジウム粉末113.4kg、酸化スズ粉末12.6kg)と、直径10mmのジルコニアボール(撹拌媒体)272kgとを投入し、純水37.4リットル、カルボン酸系分散剤2.31リットルを添加して、84時間混合した。これにより、平均粒子径が0.25μm(最大値2μm)の第3のITO粉末を含むスラリーを作製した。スラリーの濃度は78%、粘度は200cpsであった。作製したスラリーにカルボン酸系バインダー1重量%を加え、回転数20rpmで30分間、スラリーを真空脱泡した。
【0053】
縦415mm、横780mm、厚み17mmの成形体を作製可能な両面着肉構造の石膏型を準備した。この石膏型に、脱泡機の鋳込みバルブを調整することでスラリーを成形圧力3kg/cmで流し込み、成形した。成形時間は80分とした。得られた成形体は、30℃雰囲気の乾燥室で6日間自然乾燥させ、縦380mm、横780mm、厚み17mmの成形体を得た。その後、大気中で600℃、3時間の加熱条件で成形体を脱脂処理した。脱脂後、成形体を焼結した。焼結温度は1600℃、焼結時間は8時間とした。焼結雰囲気は、酸素雰囲気とし、酸素導入量は毎分200リットルとした。
【0054】
得られた焼結体は、縦310mm、横610mm、厚み15mmであった。この焼結体の両面を研削し、端面を切断することで、縦300mm、横610mm、厚み7mmに仕上げた。焼結体の平均結晶粒径は4.3μm、相対密度は99.9%であった。この焼結体を縦127mm、横381mm、厚み6mmに再加工し、銅製のバッキングプレートにボンディングすることで、ITOスパッタリングターゲットを作製した。
【0055】
当該ターゲットをスパッタリング装置に組み込み、100kWhスパッタしたところ、ターゲット表面へのノジュールの発生がほとんどないことが確認された。さらに、当該スパッタリングターゲットを用いて形成されたITO膜(200nm)の抵抗値を測定したところ、0.2×10−3Ω・cmであった。この結果、当該ITO膜は、未使用の原料粉末のみで焼結されたITOターゲットを用いて成膜されたITO膜と同等の抵抗値であることが確認された。
【0056】
(実施例3)
使用済みITOターゲットを200℃に加熱してバッキングプレートから剥がし、これを50%希硫酸に24時間浸漬することで、表面に付着したボンディング用ろう材を除去した。そのITOターゲットを適宜の大きさに分割し、焼結片としてのターゲット片を作製した。これらターゲット片200kgを純水20リットルと共に容量300リットルの樹脂製容器に投入し、当該容器を35rpmの回転数で24時間撹拌することにより、各ターゲット片を破砕した。その後、破砕粉を分級し100μm以下の粉末を回収し、これを第1のITO粉末とした。得られた第1のITO粉末の平均粒子径は2μm(最大値80μm)であった。
【0057】
次に、振動ボールミルを用いて第1のITO粉末を粉砕し、第2のITO粉末を作製した。より具体的には、容量50リットルの樹脂製容器に、第1のITO粉末9kgと、表面が樹脂コーティングされた直径10mmのボール(撹拌媒体)50kgを入れ、更に、純水10リットルとカルボン酸系分散剤180ミリリットルとを添加し、5時間、振幅8mmの条件で、第1のITO粉末を粉砕した。得られた第2のITO粉末の平均粒子径は0.6μm(最大値5μm)であった。
【0058】
第2のITO粉末を200℃で24時間乾燥した後、スピンミルで解砕した。そして、容量200リットルの樹脂製容器に、この第2のITO粉末40重量%(56kg)と、未使用の原料粉末60重量%(酸化インジウム粉末75.6kg、酸化スズ粉末8.4kg)と、直径10mmのジルコニアボール(撹拌媒体)272kgとを投入し、純水37.4リットル、カルボン酸系分散剤2.31リットルを添加して、84時間混合した。これにより、平均粒子径が0.25μm(最大値2μm)の第3のITO粉末を含むスラリーを作製した。スラリーの濃度は78%、粘度は200cpsであった。作製したスラリーにカルボン酸系バインダー1重量%を加え、回転数20rpmで30分間、スラリーを真空脱泡した。
【0059】
縦415mm、横780mm、厚み17mmの成形体を作製可能な両面着肉構造の石膏型を準備した。この石膏型に、脱泡機の鋳込みバルブを調整することでスラリーを成形圧力3kg/cmで流し込み、成形した。成形時間は80分とした。得られた成形体は、30℃雰囲気の乾燥室で6日間自然乾燥させ、縦380mm、横780mm、厚み17mmの成形体を得た。その後、大気中で600℃、3時間の加熱条件で成形体を脱脂処理した。脱脂後、成形体を焼結した。焼結温度は1600℃、焼結時間は8時間とした。焼結雰囲気は、酸素雰囲気とし、酸素導入量は毎分200リットルとした。
【0060】
得られた焼結体は、縦310mm、横610mm、厚み15mmであった。この焼結体の両面を研削し、端面を切断することで、縦300mm、横610mm、厚み7mmに仕上げた。焼結体の平均結晶粒径は4.5μm、相対密度は99.9%であった。この焼結体を縦127mm、横381mm、厚み6mmに再加工し、銅製のバッキングプレートにボンディングすることで、ITOスパッタリングターゲットを作製した。
【0061】
当該ターゲットをスパッタリング装置に組み込み、100kWhスパッタしたところ、ターゲット表面へのノジュールの発生がほとんどないことが確認された。さらに、当該スパッタリングターゲットを用いて形成されたITO膜(200nm)の抵抗値を測定したところ、0.2×10−3Ω・cmであった。この結果、当該ITO膜は、未使用の原料粉末のみで焼結されたITOターゲットを用いて成膜されたITO膜と同等の抵抗値であることが確認された。
【0062】
(比較例)
使用済みITOターゲットを200℃に加熱してバッキングプレートから剥がし、これを50%希硫酸に24時間浸漬することで、表面に付着したボンディング用ろう材を除去した。そのITOターゲットを適宜の大きさに分割し、これらターゲット片200kgを純水20リットルと共に容量300リットルの樹脂製容器に投入し、当該容器を35rpmの回転数で24時間撹拌することにより、各ターゲット片を破砕した。その後、破砕粉を分級し100μm以下の粉末を回収した。得られたITO粉末の平均粒子径は2μm(最大値80μm)であった。
【0063】
容量200リットルの樹脂製容器に、このITO粉末30重量%(42kg)と、未使用の原料粉末70重量%(酸化インジウム粉末88.2kg、酸化スズ粉末9.8kg)と、直径10mmのジルコニアボール(撹拌媒体)272kgとを投入し、純水37.4リットル、カルボン酸系分散剤2.31リットルを添加して、84時間混合した。得られたスラリーの平均粒子径は0.7μm(最大値10μm)、濃度は78%、粘度は200cpsであった。作製したスラリーにカルボン酸系バインダー1重量%を加え、回転数20rpmで30分間、スラリーを真空脱泡した。
【0064】
縦415mm、横780mm、厚み17mmの成形体を作製可能な両面着肉構造の石膏型を準備した。この石膏型に、脱泡機の鋳込みバルブを調整することでスラリーを成形圧力3kg/cmで流し込み、成形した。成形時間は80分とした。得られた成形体は、30℃雰囲気の乾燥室で6日間自然乾燥させ、縦380mm、横780mm、厚み17mmの成形体を得た。その後、大気中で600℃、3時間の加熱条件で成形体を脱脂処理した。脱脂後、成形体を焼結した。焼結温度は1600℃、焼結時間は8時間とした。焼結雰囲気は、酸素雰囲気とし、酸素導入量は毎分200リットルとした。
【0065】
得られた焼結体は、縦310mm、横610mm、厚み15mmであった。この焼結体の両面を研削し、端面を切断することで、縦300mm、横610mm、厚み7mmに仕上げた。焼結体の平均結晶粒径は7.0μm、相対密度は99.2%であった。この焼結体を縦127mm、横381mm、厚み6mmに再加工し、銅製のバッキングプレートにボンディングすることで、ITOスパッタリングターゲットを作製した。
【0066】
当該ターゲットをスパッタリング装置に組み込み、100kWhスパッタしたところ、ターゲット表面において多くのノジュールが確認された。さらに、当該スパッタリングターゲットを用いて形成されたITO膜(200nm)の抵抗値を測定したところ、0.8×10−3Ω・cmであった。この結果、当該ITO膜は、未使用の原料粉末のみで焼結されたITOターゲットを用いて成膜されたITO膜よりも高抵抗値であることが確認された。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0068】
例えば以上の実施形態では、第2のITO粉末の作製に振動ボールミルを用いたが、湿式ジェットミル等の他の粉砕方法を用いてもよい。
【0069】
また、以上の実施形態では、成形体の焼結雰囲気を酸素ガス雰囲気としたが、これに限られず、大気雰囲気としてもよい。
【符号の説明】
【0070】
2…(使用済みの)スパッタリングターゲット
2a…焼結片
3a、3b…樹脂製容器
4…成形型
P1…第1のITO粉末
P2…第2のITO粉末
P3…第3のITO粉末
S…スラリー
Sc…焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製し、
前記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって粉砕することで、前記第1の平均粒子径よりも小さい第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末を作製し、
前記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、前記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末を作製し、
前記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体を作製し、
前記成形体を焼結する
ITO焼結体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のITO焼結体の製造方法であって、
前記第1のITO粉末を作製する工程は、前記焼結片群を樹脂製容器内で破砕する
ITO焼結体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のITO焼結体の製造方法であって、
前記第3のITO粉末を作製する工程は、前記第3のITO粉末を媒体撹拌ミルによって作製する
ITO焼結体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のITO焼結体の製造方法であって、
前記第3の平均粒子径は、0.20μm以上0.30μm以下である
ITO焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のITO焼結体の製造方法であって、
前記第3のITO粉末中における前記第2の混合粉末の混合比率は、10重量%以上、40重量%以下である
ITO焼結体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のITO焼結体の製造方法であって、
前記焼結片群は、使用済みのITOスパッタリングターゲットの分割片群である
ITO焼結体の製造方法。
【請求項7】
酸化インジウム及び酸化スズを主成分とする焼結片群を容器内で撹拌しながら破砕することで、第1の平均粒子径を有する第1のITO粉末を作製し、
前記第1のITO粉末を媒体撹拌ミル又はジェットミルによって粉砕することで、前記第1の平均粒子径よりも小さい第2の平均粒子径を有する第2のITO粉末を作製し、
前記第2のITO粉末に酸化インジウム粉末及び酸化スズ粉末を混合し、その混合粉末を粉砕することで、前記第2の平均粒子径よりも小さい第3の平均粒子径を有する第3のITO粉末を作製し、
前記第3のITO粉末を含むスラリーを型に鋳込むことで成形体を作製し、
前記成形体を焼結する
ITOスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−93729(P2011−93729A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247773(P2009−247773)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】