説明

LOC284293バリアント遺伝子並びに該遺伝子がコードするCD8+細胞傷害性Tリンパ球mHAエピトープペプチド及びその用途

【課題】同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍あるいは固形腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍あるいは固形腫瘍の再発を予防するのに有用なCD8+細胞傷害性Tリンパ球エピトープペプチドの提供。
【解決手段】LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドまたはその部分ペプチドであるマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドであって、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と結合してCD8+細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得るマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドまたはその部分ペプチドであって、かつ、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と結合してCD8+細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocyte、以下、CTLと称する)によって認識され得るマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド、該ペプチドを用いた同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するためのワクチン及び受動免疫療法剤、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法、並びに該ペプチドを用いた同種造血細胞移植適合性診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同種造血細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation, 以下、HCTと称する)は、化学療法だけでは予後不良な白血病等の造血器腫瘍に治癒をもたらしうる治療法として確立されてきた。さらに最近になって、固形腫瘍に対してもミニ移植と称するHCTが試みられるようになりつつある。しかし、進行期の造血器腫瘍は、HCTを行ったにもかかわらずしばしば再発し、必ずしも予後は良好ではない。
【0003】
HCTは、ヒト主要組織適合抗原(以下、HLAと称する)が適合した造血幹細胞提供者(以下、ドナーと称する)から患者に造血幹細胞が提供されるが、ドナーと患者間でHLAが一致していても、さまざまな遺伝子の多型に由来するマイナー組織適合性抗原(minor histocompatibility antigen, 以下、mHAと称する)には多くの不一致が起こり、それが標的となってドナー由来のTリンパ球を主体とする免疫反応が患者体内で起こる。この免疫反応が患者の造血器腫瘍に対して抗腫瘍性効果を発揮すると原疾患の治癒をもたらすこととなり再発が回避される。これを移植片対白血病/リンパ腫(graft-versus-leukemia/lymphoma, 以下、GVLと称する)効果と呼んでいる。
【0004】
HCT後再発を来す患者においては、このGVL効果が不十分であると考えられる。このため、ドナー由来のTリンパ球の作用を強め、GVL効果を高めることを目的として、拒絶予防に用いる免疫抑制剤を減量する治療を行うことがあるが、その場合、ドナー由来のTリンパ球が患者の身体中の細胞を非自己とみなし強く排除するようになり、移植片対宿主病(graft-versus-host disease, 以下、GVHDと称する)と呼ばれる致死的な合併症がしばしば起こる。このためGVHDを回避しつつ、GVL効果のみを積極的に取り出して利用しようとするような有効な治療法が望まれている。
【0005】
HCT後の造血器腫瘍の再発を制御している主な免疫担当細胞は、ドナーのTリンパ球由来のCD8+CTLである。ドナー由来CD8+CTLは、患者体内で残存する造血器腫瘍細胞を発見するとそれを非自己と認識して破壊する能力を持っている。従って、CD8+CTLのその傷害機能を有効に活性化すれば、GVL効果が高まるとともにGVHDの発症を回避することができ、新たな造血器腫瘍の再発予防法や再発時の治療法の開発につながる可能性が高い。GVL効果に関する報告も種々ある(特許文献1〜4、および非特許文献1〜12を参照)。
【0006】
CD8+CTLが造血器腫瘍細胞を認識する際、以下のような特徴がある。
(1) CTLはドナーのTリンパ球由来である。
(2) CTLは、個人に固有な遺伝子多型を有する遺伝子によってコードされる患者の造血器腫瘍細胞内の各種タンパク質(以下、mHAタンパク質と称する)の部分ペプチド(以下、mHAエピトープペプチドと称する)を認識して、造血器腫瘍細胞を傷害(破壊)する。
(3) このmHAエピトープペプチドは、造血器腫瘍細胞の表面にあるHLAに結合してCTLに提示されることによって認識される。
(4) HLAは人種間、個人間によって異なり、HLAが異なるとmHAエピトープとなるペプチドが異なるため、CTLへの提示そのものが出来なくなることがある。
【0007】
以上の(1)から(4)で述べたことから明らかなように、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLのmHAエピトープペプチドとなり得るペプチドを含むmHAタンパク質を同定し、該エピトープペプチドのアミノ酸配列を過不足なく決定することは、そのドナーがHCTを受ける患者又は受けた患者に有効なGVL効果をもたらし得るか否かを診断し、さらには、特異的免疫治療法を施す際の必須の確認事項となり得る。
【0008】
しかしながら、日本人の多くが保有するHLA 型(HLA-A24型、64%;HLA-A33型、25%;
HLA-A11型、22%;HLA-A2.1型、21%;HLA-A31型、18%;HLA-B44型、24%;HLA-B52型、20%;HLA-B35型、15%;HLA-B54型、14%;HLA-Cw1型、34%;HLA-Cw*14型、24%;HLA-Cw*0304型、22%;HLA-Cw*0702型、22%;HLA-Cw*0801、21%;HLA-Cw*1202、21%等)について、特にHLA-B44型等については、CD8+CTLが認識するmHAエピトープペプチドの報告は少なく、HCT後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又はHCT後の造血器腫瘍の再発を予防するのに有用なmHAエピトープペプチドの開発が求められている。さらに白人の患者も治療対象とするとなると、白人の50%が有するHLA-A*0201型にも提示されるmHAの同定が望ましい。
【0009】
【特許文献1】特表2005−514922号公報
【特許文献2】特表2001−510851号公報
【特許文献3】特平11−514340号公報
【特許文献4】特開2004−099509号公報
【非特許文献1】den Haan JM,ら、Science. 1998 Feb 13;279(5353):1054-7
【非特許文献2】Mutis T,ら、Blood. 1999 Apr 1;93(7):2336-41
【非特許文献3】Mutis T, ら、Biol Blood Marrow Transplant. 2002;8(8):412-9
【非特許文献4】Marijt WA, ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Mar 4;100(5):2742-7
【非特許文献5】Kloosterboer FM, ら、Leukemia. 2004 Apr;18(4):798-808
【非特許文献6】Oosten LE,ら、Blood. 2004 Jul 1;104(1):224-6
【非特許文献7】Hambach L, ら、Leukemia. 2006 Feb;20(2):371-4
【非特許文献8】den Haan JMら、Science. 1995 Jun 9;268(5216):1476-80
【非特許文献9】Pierce RAら、J Immunol. 2001 Sep 15;167(6):3223-30
【非特許文献10】Akatsuka Y,ら、J Exp Med. 2003 Jun 2;197(11):1489-500
【非特許文献11】Nishida T,ら、Br J Haematol. 2004 Mar;124(5):629-35
【非特許文献12】de Rijke Bら、J Clin Invest. 2005 Dec;115(12):3506-16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸残基数9〜11個からなる部分ペプチドであって、かつ、HLAと結合してCD8+CTLによって認識され得るmHAエピトープペプチド、該ペプチドを用いた同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するためのワクチン及び受動免疫療法剤、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLの定量方法、並びに該ペプチドを用いた同種造血細胞移植適合性診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLが認識し得るmHAエピトープペプチドとして、LOC284293遺伝子内の遺伝子多型であって、ドナーと患者間で異なる個人に固有な遺伝子多型を有する遺伝子によって異なったバリアントとしてコードされる9〜11個のアミノ酸からなるペプチドを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(27)を提供する。
(1) LOC284293遺伝子内のスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型部位において、スプライスバリアントを生成させる塩基を有する、配列番号1に表わされる塩基配列からなる、LOC284293遺伝子のバリアント遺伝子、対応するmRNAまたはそれらの遺伝子多型部位を含む断片ポリヌクレオチド。
(2) LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドまたはその部分ペプチドであるマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドであって、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と結合してCD8+細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得るマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(3) LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドのアミノ酸残基数が5〜20個である(2)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(4) LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドのアミノ酸残基数が9〜11個である(3)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(5) LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ペプチドである、(2)〜(4)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(6) HLAがHLA-B44である、(2)〜(5)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(7) 配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、(5)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(8) HLAがHLA-A2である、(2)〜(5)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(9) 配列番号14〜20で示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、(8)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(10) HLAがHLA-A24である、(2)〜(5)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(11) 配列番号21〜25で示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、(10)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(12) CD8+細胞傷害性Tリンパ球が、造血器腫瘍細胞を傷害するものである、(2)〜(11)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(13) 造血器腫瘍が白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫又は多発性骨髄腫である、(12)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
(14) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをパルスした抗原提示細胞を有効成分として含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するためのワクチン。
(15) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをパルスした抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
(16) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーと末梢血リンパ球とを反応させ、該主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
(17) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
(18) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドで末梢血を刺激してCD8+細胞傷害性Tリンパ球を得、該CD8+細胞傷害性Tリンパ球が産生するサイトカイン及び/又はケモカインを測定することを特徴とする、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
(19) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−マルチマーを調製し、該主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−マルチマーと末梢血とを反応させる、該末梢血中の造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
(20) 同種造血細胞移植におけるドナー及び患者由来のゲノムDNAについて、配列番号11に示す塩基配列であって、LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列を用いて遺伝子タイピングを行うことを含む、同種造血細胞移植適合性診断方法。
(21) 同種造血細胞移植におけるドナー及び患者由来のゲノムDNAについて、配列番号11に示す塩基配列であって、LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列を用いてPCR法により増幅し、得られたPCR増幅産物についてドナー及び患者間の遺伝子タイピングを行うことを含む、(20)の同種造血細胞移植適合性診断方法。
(22) LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列の塩基長が18〜30merである、(20)または(21)の同種造血細胞移植適合性診断方法。
(23) 配列番号11に示すLOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列が、(2)のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをコードする塩基配列である、(20)〜(22)のいずれかの診断方法。
(24) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドの少なくとも1種類のペプチドでパルスされ、表面に発現しているHLAに上記マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドが結合している単離した抗原提示細胞。
(25) 抗原提示細胞を(2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドの少なくとも1種類のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドとともにin vitroで培養することを含む、抗原提示細胞の活性化法であって、活性化された抗原提示細胞がCD8+細胞傷害性Tリンパ球を刺激し得る、活性化法。
(26) 以下の(a)〜(c)のいずれかの方法により、造血器腫瘍の予防及び治療に用いることができるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を調製する方法。
(a) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で末梢血リンパ球を刺激することを含む方法、
(b) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーと末梢血リンパ球とを反応させ、該主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体からCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法、
(c) (2)〜(13)のいずれかに記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で末梢血リンパ球を刺激し、細胞外にIFNγを産生するか、またはCD107a抗原を表出するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法、並びに
(d) (2)〜(13)のいずれかのマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体からCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法
(27) (26)の方法により得られた、造血器腫瘍の予防及び治療に用いることができる単離されたCD8+細胞傷害性Tリンパ球。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドの部分ペプチドであって、かつ、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と結合してCD8+CTLによって認識され得るmHAエピトープペプチドを提供することができる。また、該ペプチドを用いて、HCTを受けた患者の造血器腫瘍を治療又は予防することができる。さらに、HCT後の患者体内の造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLを定量することができる。また、該ペプチドを用いた同種造血細胞移植適合性診断方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
1.CD8+CTLによって認識され得るmHAエピトープペプチド
本発明におけるペプチドとは、生理活性を有し、隣接するアミノ酸残基のα−アミノ基とカルボキシル基間のペプチド結合により相互に結合した線状のアミノ酸の分子鎖を意味する。ペプチドは特定長のものを意味するものではなく、種々の長さであり得る。また、無電荷又は塩の形態であってもよく、場合によっては、グリコシル化、アミド化、ホスホリル化、カルボキシル化、リン酸化等により修飾されていてもよい。さらには、本発明のエピトープの生理活性及び免疫活性を実質的に改変せず、投与した場合に有害な活性を有するものでない限り、1個又は数個(例えば、1〜8個、好ましくは1〜3個)のアミノ酸の挿入、付加、置換等が生じたペプチドも本発明に含まれる。例えば、ペプチドのN末端又はC末端に付加的アミノ酸配列が介在するものも含まれる。また、本発明のペプチドは、糖類、ポリエチレングリコール、脂質等が付加された複合体、放射性同位元素等による誘導体、あるいは重合体等の形態として用いることができる。
【0016】
また、本発明におけるCD8+CTLによって認識され得るmHAエピトープペプチドとは、造血器腫瘍細胞の表面にあるHLAに結合して提示され、ドナー由来のCD8+CTLのT細胞抗原受容体(TCR)と結合することによってCD8+CTLに認識され得る、造血器腫瘍細胞内に存在するmHAタンパク質の部分ペプチドであって、個人に固有な遺伝子多型を有する遺伝子によってコードされるペプチドを意味する。該ペプチドは、好ましくは5〜20個のアミノ酸からなり、さらに好ましくは5〜15個、7〜12個または8〜11個のアミノ酸からなり、特に好ましくは9〜11個のアミノ酸からなる。従って、該ペプチドは、mHAタンパク質を発現するHLAの特定の型の造血器腫瘍細胞を直接に傷害(破壊)し、排除し得る、CD8+CTLの細胞性免疫機構を活性化する抗原基である。なお、CD8+CTLとは、ヒトリンパ球上に存在する表面抗原分子の一つであるCD8を発現しているCD8+細胞傷害性Tリンパ球を意味する。図1にその機構を示す。
【0017】
本発明において、造血器腫瘍には、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、等の造血関係の組織又は細胞に発生した腫瘍が含まれる。
【0018】
mHAタンパク質の候補になりうるものは、造血器腫瘍細胞にのみ存在し、かつ個人に固有な遺伝子多型を有する遺伝子によってコードされる各種タンパク質である。このうち造血関係の細胞及び一部の固形臓器においてのみその遺伝子が発現されることから、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドが本発明のmHAエピトープペプチドの特定に特に有用である。
【0019】
LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドには既知の機能は認められていない。LOC284293遺伝子そのものはexpressed sequence tag (EST)としてGenBankに登録されており、そのアミノ酸の相同性解析からPlacental thrombin inhibitor (Serpin B6)類似のものとされている。本遺伝子の発現は、造血系細胞の他、肺、胎盤、精巣でも認められるが、肺は造血系のマクロファージ等が豊富な臓器であり、それらの細胞が本遺伝子を発現しているものと考えられる。また本発明のmHAエピトープペプチドに特異的なCTLは少なくとも皮膚線維芽細胞、骨髄のストローマ細胞は傷害しない。
【0020】
なお、LOC284293遺伝子の塩基配列(配列番号9)及び該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号10)はhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=Nucleotide&dopt=GenBank&val=89047229に報告されている(GenBank登録番号 XM_209104)。
【0021】
今回発見したLOC284293遺伝子バリアントの報告は未だ存在しない。バリアントの構造はLOC284293遺伝子のExon 2相当部分が遺伝子多型により除外されたものに該当する。LOC284293遺伝子のバリアントの構造を図9に示す。図9においては既報のESTの構造と比較している。既報のESTの配列は、配列番号9に示す。既報のESTにおいては、Exon4の配列はPoyAを含まず、完全長でない。LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号3〜8、図13Aおよび図13B、図13Bの配列は図13Aの配列の続きである。)はExon 2が除外されるために本来Exon 2 に存在する翻訳開始コドンATG配列がなくなるため、Exon 3に存在する複数個のATGのうち最初のものから翻訳が始まるが、比較的すみやかにストップコドン配列が出現するため53アミノ酸(配列番号3)が翻訳されるだけである。
【0022】
またLOC284293遺伝子がコードするタンパク質とはExon 2の除外によりExon 4の翻訳フレームシフトが起こるため、両遺伝子翻訳産物には相同性が全く存在しない。配列番号11にExon 2〜Intron 2の一部で、GenBank登録番号AC009802, VERSION AC009802.13 GL-6705901、Homo sapiens chromosome 18, cloneRP11-793J2, complete sequenceで示されるcontig配列中に含まれる配列を示す。前記contigは3'から5'の方向で読み込まれており、配列番号11に表わす配列はcontig配列の相補配列で示している。配列番号11の配列の1番目の塩基から360番目の配列は上記contig配列中の114720番目の塩基から114361番目の塩基に相当する。配列番号11に表わされる配列中、37番目の塩基(contig配列の114684番に相当)から209番目の塩基(contig配列の114512番目に相当)の塩基部分がExon 2に相当する。また、配列番号12に、対応する元の配列を示す。該配列中146番目(conitig配列の114506番目に相当)のYがSNPが存在する部位である。配列番号12に表わされる配列中、152番目の塩基(contig配列の114512番目に相当)から324番目の塩基(contig配列の114684番に相当)の塩基部分がExon 2に相当する(図14)。図14Aおよび14Bにそれぞれ配列番号11および12に相当する配列を示す。図14AおよびB中下線部分の配列がExon 2の配列であり、太線RまたはYがSNP部位を示し、RはAまたはGを表わし、YはTまたはCを表わす。
【0023】
なお、個人に固有な遺伝子多型とは、多数の個人(例えば50人)から得たDNAに対し、LOC284293遺伝子につき塩基配列決定をして、各個人間で配列に差があるか否かを調べ、各個人間で配列に差があった場合には、それが複数の個人で見つかる普遍的なものかどうかを決定し、人口の何%に各多型が存在するかを推測することによって検索することができる個人に固有の遺伝子多型である。
【0024】
本発明は、LOC284293遺伝子内のスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型部位において、スプライスバリアントを生成させる塩基を有する、LOC284293遺伝子のバリアント遺伝子をも包含し、該バリアント遺伝子の塩基配列は配列番号1に表される。また、本発明は該バリアント遺伝子が転写されて生成する対応mRNAをも包含する。さらに、本発明は前記バリアント遺伝子または対応mRNAの断片ポリヌクレオチドをも包含する。該断片ポリヌクレオチドは、遺伝子多型部位を含む断片ポリヌクレオチドを含む。該断片ポリヌクレオチドは、LOC284293遺伝子内のスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型部位において、スプライスバリアントを生成させる塩基を有するか否かを決定するためのプローブまたはプライマーとして用い得る。前記断片ポリヌクレオチドの塩基長は、10〜100bp、好ましくは10〜50bp、さらに好ましくは15〜25bpである。
【0025】
本発明のmHAエピトープペプチドは、HLAの型によって好適なものが異なるため、各HLAの型において結合し得るペプチドをスクリーニングすることによって同定することができる。具体的には、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列において、第1番目〜の第53番目アミノ酸を含んでなる部分ペプチドについて、HLAの各型(例えば、HLA-B44、A2、A24等)の結合モチーフを有する、9〜11個のアミノ酸よりなるエピトープペプチドを検索し得る照合媒体、例えば、インターネット上に公開されているBioInformatics & Molecular Analysis Section (BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions (http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html)によって照合し、mHAエピトープペプチドとなり得るペプチド(以下、mHAエピトープ候補ペプチドと称する)をスクリーニングすることができる。
【0026】
mHAエピトープ候補ペプチドは、通常の化学合成により得ることができる。例えば、固相ペプチド合成法等の有機化学的合成法、あるいは、ペプチドをコードするDNAを調製し、組換えDNA技術を用いて調製することも可能である。また、市販の化学合成装置(例えば、アプライドバイオシステムズ社のペプチド合成装置)による合成も可能である。
【0027】
得られたmHAエピトープ候補ペプチドについて、例えば、以下に示すようないずれかの方法を実施することによって、CD8+CTLによって認識され得るmHAエピトープペプチドであるか否かを決定することができる。
【0028】
(1)mHAエピトープペプチド決定方法1
10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で、予めLOC284293遺伝子多型を検索しておいた成人から分離したリンパ球を浮遊させ、該リンパ球を同じ人からあらかじめ分離培養しておいた樹状細胞(1×105/ml)あるいは活性化B細胞(1×106/ml)と混合し、これにmHAエピトープ候補ペプチドの中の任意の1種を1μg/mlの濃度で加える。炭酸ガス恒温槽にて37℃で10日間培養する。10日目にIL-2を添加し、以後、前記候補ペプチドとIL-2による刺激を週に1度くり返すことにより、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチド部位に特異的なCD8+CTLを誘導する。このようにして誘導したCD8+CTLに対してmHAエピトープ候補ペプチドが刺激するか否かについて、エリスポットアッセイ等で判定する。エリスポットアッセイは、Miyahira Y, 他著、Journal of Immunological Methods、 181巻:45-54頁、1995等で報告されている。判定により、誘導したCD8+CTLに対して刺激が認められた候補ペプチドを本発明のmHAエピトープペプチドとして決定する。
【0029】
(2)mHAエピトープペプチド決定方法2
LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチド部位を含む部分ペプチドのペプチドライブラリーを常法により合成する。該部分ペプチドのアミノ酸残基数は、好ましくは5〜20個、さらに好ましくは5〜15個、7〜12個または8〜11個であり、特に好ましくは9〜11個である。合成したペプチドに対して、エリスポット法、細胞内IFNγ産生細胞定量法あるいは細胞外IFNγ分泌細胞定量法によりCD8+CTLが反応するようなmHAエピトープペプチドを選択して本発明のエピトープペプチドとする。
【0030】
本発明の配列番号13〜25のアミノ酸配列を有するペプチドは、上記のようなスクリーニング及び決定方法の結果、mHAエピトープペプチドとして確認されたものである。本発明の配列番号13〜25に示されるmHAエピトープペプチドは、従来の各種のペプチド合成方法によって調製され得る。
【0031】
2.ワクチン
本発明のmHAエピトープペプチドは、能動免疫ペプチドワクチン療法においてワクチンとして用いることができる。すなわち、本発明のmHAエピトープペプチドを含んでなるワクチンをHCT後の患者に投与することによって、該ペプチドを認識するCD8+CTLを体内で増殖させ、造血器腫瘍の予防及び治療に役立てることができる。使用するmHA エピトープペプチドは、患者のHLA及びmHAの型に対応するペプチドを1種若しくは2種以上使用してもよく、また、組み合わせ、混合して使用することができる。例えば、mHAエピトープペプチドを提示しうるようなHLAが複数存在する場合、2種以上のペプチドを組み合わせて使用することができる。また、例えば、HLAの特定の型に結合するペプチドとして、2種以上の異なるmHAエピトープペプチドが存在する場合、それらの2種以上のペプチドを組み合わせて使用することができる。ここで、2種以上の異なるmHAエピトープペプチドとは、例えば、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドの2種以上の断片部分ペプチドであって、異なる部分の2種以上の断片部分ペプチドをいう。また、抗原提示細胞(例えば、樹状突起細胞、B細胞、マクロファージ等)に本発明のmHAエピトープペプチドをパルスしたもの(以下、mHAエピトープペプチドパルス細胞と称する)を含むワクチンも使用することができる。ここで、抗原提示細胞とは、該ペプチドが結合し得るHLAをその表面上に発現する細胞の中でCD8+CTL刺激能を有するものを意味し、パルスするとは、例えば、適当な培養液中で、抗原提示細胞と該ペプチドを30分から1時間程度混合することを意味する。抗原提示細胞は、末梢血や臍帯血から公知の方法で得ることができる。例えば、抗原提示細胞である樹状細胞、B細胞、マクロファージ等はそれぞれの細胞に特異的な抗原を細胞表面に有しているので、該抗原に対する抗体を利用して、抗原提示細胞を単離することもできるし、また抗原提示細胞以外の細胞を除去することによっても抗原提示細胞を単離することができる。この際、フローサイトメーターを用いることもできる。このように、mHAエピトープペプチドをパルスした抗原提示細胞は、その表面に発現するHLAにmHAエピトープペプチドが結合しており、CD8+細胞傷害性Tリンパ球を刺激することができる。
【0032】
本発明のmHAエピトープペプチド又はmHAエピトープペプチドパルス細胞を含んでなるワクチンは、当分野において公知の方法を用いて調製することができる。例えば、かかるワクチンとしては、本発明のmHAエピトープペプチド又はmHAエピトープペプチドパルス細胞を有効成分として含有する注射剤又は固形剤等がある。mHAエピトープペプチドは、中性又は塩の形態で処方することができ、例えば、薬学上許容され得る塩としては、塩酸、リン酸などの無機塩、又は、酢酸、酒石酸などの有機酸が挙げられる。また、本発明のmHAエピトープペプチド又はmHAエピトープペプチドパルス細胞は、製薬上許容され、該ペプチド又は該細胞の活性と相容性を有する賦形剤、例えば、水、食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロール、DMSO、及びその他のアジュバント等、又はこれらの組み合わせと混合して用いることができる。さらに、必要に応じて、アルブミン、湿潤剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。
【0033】
本発明のワクチンは、非経口投与及び経口投与により投与することができるが、一般には非経口投与が好ましい。非経口投与としては皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射等の注射剤、座薬等がある。また、経口投与としては、スターチ、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース等の賦形剤との混合物として調製することができる。
【0034】
本発明のワクチンは、治療上有効な量で投与する。投与される量は、治療対象、免疫系に依存し、必要とする投与量は臨床医の判断により決定される。通常、適当な投与量は、患者一人当たり、mHAエピトープペプチドでは1〜100mg、mHAエピトープペプチドパルス細胞では106〜109個の含有量とする。また、投与間隔は、対象、目的により設定することができる。
【0035】
3.受動免疫療法剤
本発明のmHAエピトープペプチドは、HCT後の造血器腫瘍の再発に対する予防的または治療的受動免疫治療剤の調製に用いることができる。すなわち、1)末梢血リンパ球を該ペプチドで刺激して得られるCD8+CTL、2)末梢血リンパ球を該ペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex、以下、MHCと称する)又はMHC−マルチマーと反応させ、MHC又はMHC−マルチマーにCD8+CTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+CTL、又は、3)末梢血リンパ球を該ペプチドから調製したMHC−マルチマー標識磁気ビーズと反応させ、MHC−マルチマー標識磁気ビーズにCD8+CTLが結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+CTL、を含む、受動免疫療法剤を得ることができる。ここで、磁気ビーズは、酸化鉄などの磁性体を核に持ち、表面が他の材料で被覆された直径数十nmから数十μmの球状粒子をいう。本発明において、公知の磁気ビーズを用いることができる。磁気ビーズへの、MHC-マルチマーの結合は、吸着、官能基を利用した共有結合による結合等、公知の手法で行うことができる。mHAエピトープペプチドを使用したMHC及びMHC-マルチマーは、例えば、以下のように調製することができる。タンパク質発現用の大腸菌から精製したHLA重鎖、β2ミクログロブリン及び本発明のmHAエピトープペプチドの複合体であるMHCをバッファー内で形成させる。なお、マルチマーには、ダイマー、トリマー、テトラマー等が含まれる。
【0036】
組換えHLA重鎖タンパク質のC末端には予めビオチン結合部位を付加しておき、MHC形成後、この部位にビオチンを付加する。市販の標識色素ストレプトアビジンとビオチン化MHCをモル比1:4で混合することによってMHC-マルチマーを作製する。図2及び図3に得られたMHC-マルチマーとその反応機構をそれぞれ示す。なお、各ステップにおいて、ゲル濾過によるタンパク質精製を行うのが好ましい。
【0037】
受動免疫療法剤に含まれる、本発明のmHAエピトープペプチドを認識し得るCD8+CTLは、以下のような調製方法によって得ることができる。
【0038】
(1)CD8+CTL調製方法1
リンパ球をHCT後の患者又はHCTドナーの末梢血から分離し、これを、上記のようにして調製した適当な濃度のMHC又はMHC-マルチマーと37℃、15分間反応させる。MHC又はMHC-マルチマー中のmHAエピトープペプチドと結合したCD8+CTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーターなどを用いて染色されたCD8+CTLのみを単離する。あるいは、予め無菌プレートなどに固相化したMHC及び/又はMHC-マルチマーに反応させることもできる。プレートに固相化されたMHC及び/又はMHC-マルチマー中のmHAエピトープペプチドに結合したCD8+CTLを単離するためには、結合せずに浮遊している他の細胞を洗い流した後に、プレート上に残ったCD8+CTLだけを新しい培養液に懸濁する。このようにして単離されたCD8+CTLは造血器腫瘍細胞を傷害し得るので、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する(図6を参照)。
【0039】
(2)CD8+CTL調製方法2
前述のように調製したビオチン化MHCをストレプトアビジン標識磁気ビーズと結合させ、結合体(以下、MHC-磁気ビーズと称する)を作製する。MHC-磁気ビーズを図4に示す。リンパ球をHCT後の患者又はHCTドナーの末梢血等から分離し、適当な濃度の前記MHC-磁気ビーズをリンパ球:ビーズ比、1:10で反応させる。MHC-磁気ビーズ中のMHC/mHAエピトープペプチドに結合したCD8+CTLと結合したCD8+CTLの入った試験管を磁場におくと、ビーズと結合したCD8+CTLは磁石のある側の試験管内壁に寄せられる。その機構を図5に示す。その後、それ以外の細胞を洗い流した後に、試験管を磁場からはずし、試験管内壁に残った抗原特異的CD8+CTLだけを新しい培養液に懸濁する。このように単離されたCD8+CTLは造血器腫瘍細胞を傷害し得るので、抗CD3抗体、PHA、IL-2等のT細胞刺激薬剤で刺激増殖させ、受動免疫療法に必要な細胞数を確保する(図6を参照)。
【0040】
(3)CD8+CTL調製方法3
HCT後の患者又はHCTドナーの末梢血から分離したリンパ球を本発明のmHAエピトープペプチドで直接刺激するか、該ペプチドをパルスした抗原提示細胞(例えば、樹状突起細胞、B細胞、マクロファージ等)で刺激する。刺激によって誘導されたCD8+CTLを炭酸ガス恒温槽にて37℃で7〜10日培養する。その後IL-2を添加し、mHAエピトープペプチドとIL-2、又は該抗原提示細胞とIL-2による刺激を週に1度くり返すことによって受動免疫療法に必要な細胞・BR>狽フCD8+CTLを確保する(図6を参照)。なおこの際、培養の経過中に、ペプチド又は該ペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で増殖中のリンパ球を刺激し、細胞外にIFNγを産生したりCD107a抗原を表出するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離するステップを組み合わせることでmHA特異的CD8+細胞傷害性Tリンパ球を濃縮することが出来る。例えば、本発明のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で末梢血リンパ球を刺激し、細胞外にIFNγを産生したりCD107a抗原を表出するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離すればよい。
【0041】
上記のようにして得られたCD8+CTLは造血器腫瘍細胞を傷害し得るので、ヒトアルブミン含有PBS等に懸濁させて、HCT後の造血器腫瘍の再発に対する予防的または治療的受動免疫療法剤とすることができる。
【0042】
4.CD8+CTLの定量
本発明のmHAエピトープペプチドを認識し得るCD8+CTLが、HCT後の造血器腫瘍の再発ハイリスクの患者(原疾患である造血器腫瘍の悪性度が高く、HCT後に強力な免疫抑制剤の投与を受けている患者)のHCT後の末梢血に存在するか否かを知ることは、免疫抑制剤の適正な使用量の決定や再発リスクの予測を含め、HCT後の患者管理の上で重要な情報である。本発明のmHAエピトープペプチドを認識し、造血器腫瘍細胞を傷害し得るCD8+CTLの定量は、本発明のmHAエピトープペプチドを用いた以下の2つの方法によって行うことができる。
【0043】
(1)第1の定量方法
第1の定量方法は、HCT患者の移植後の末梢血から分離されたリンパ球を本発明のmHAエピトープペプチドで刺激することによって誘導されるCD8+CTLが産生するインターフェロンガンマ(IFNγ)、インターロイキン等のサイトカイン及び/又はケモカインを定量する方法である。本発明で定量し得るサイトカイン、ケモカインは限定されず、サイトカインとしては上記のように、IFNγ、インターロイキンやコロニー刺激因子等を含み、ケモカインとしてはCXCケモカイン、CCケモカイン、Cケモカイン、CX3Cケモカイン等を含む。以下にIFNγを例にとり具体的に方法を示す。
【0044】
(a)サイトカイン定量による方法1(細胞内IFNγ産生細胞定量);
HCT後の患者あるいはHCTドナーの末梢血から分離したリンパ球を10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のmHAエピトープペプチドを1μg〜10μg/mlの濃度で加える。さらに細胞内蛋白輸送阻止剤であるBrefeldin A等を加え、炭酸ガス恒温槽にて37℃で5〜6時間培養する。培養後、細胞を固定、膜透過処理を行い、色素標識抗IFNγ抗体、抗CD8抗体と反応させる。フローサイトメーター等を用いて、CD8+リンパ球中のIFNγ陽性細胞%を定量する。
【0045】
(b)サイトカイン定量による方法2(細胞外IFNγ分泌細胞定量);
HCT後の患者あるいはHCTドナーの末梢血から分離したリンパ球を10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のmHAエピトープペプチドを1μg〜10μg/mlの濃度で加え、炭酸ガス恒温槽にて37℃で4〜6時間培養する。培養後、細胞をPBSで洗浄し、抗CD45抗体と抗IFN抗体を結合した試薬(例えばMiltenyi社のIFN-γ Secretion Assay Kitに含まれるCytokine Catch Reagent)と氷上で反応後、細胞を培養液に再浮遊し炭酸ガス恒温槽にて37℃で30〜45分間再度培養する。再度細胞をPBSで洗浄し、色素標識抗IFNγ抗体、抗CD8抗体と反応させる。フローサイトメーター等を用いて、CD8+リンパ球中のIFNγ分泌細胞%を定量する。
【0046】
(c)サイトカイン定量による方法3(エリスポットアッセイ);
96穴MultiScreen-HAプレート(Mi11ipore)を抗IFNγモノクローナル抗体で一晩、4℃でコーティングし各穴をPBSで洗浄した後、HCT後の患者あるいはHCTドナーの末梢血から分離したリンパ球を各穴にまく。mHAエピトープペプチドを各穴に入れ37℃の5%CO2培養器にて20時間培養する。翌日、0.05%Tween‐20添加PBSでプレートを洗浄した後、抗IFNγウサギ血清、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ血清の順で各々90分ずつ室温で反応させる。さらに3-amino-9-ethylcarbasole (Sigma)と0.015%のH2O2を含む0.1M 酢酸ナトリウムバッファー(pH 5.0)を各穴に入れ、室温で40分反応させる。IFNγスポットを可視化し、実体顕微鏡でカウントする。
【0047】
(d)サイトカイン定量による方法4(培養上清中に分泌されたIFNγを定量する方法);
末梢血から分離したHCT後の患者あるいはHCTドナーの末梢血を10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2×106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のmHAエピトープペプチドを1μg〜10μg/mlの濃度で加える。炭酸ガス恒温槽にて37℃で24-48時間培養する。培養後、上清を回収し、その中に含まれるIFNγ濃度を市販のELISAキット(例えばENDOGEN社のHUMAN IFN gamma ELISA)を使用して定量する。
【0048】
(2)第2の定量方法
第2の定量方法としては、本発明のmHAエピトープペプチドを使用して作製したMHC-マルチマーを用いて、mHAエピトープペプチドを認識し、造血器腫瘍細胞を傷害し得るCD8+CTLを定量することができる。MHC-マルチマーの調製は前述のとおりである。定量は、例えば、以下のようにして実施することができる。HCT後の患者あるいはHCTドナーの末梢血からリンパ球を分離し、適当な濃度のMHC-マルチマーと室温から37℃で、15分反応させる。該マルチマーと結合したCD8+CTLは標識色素により染色されるので、フローサイトメーター等を用いてカウントする。
【0049】
例えば、以下のようにしてmHAエピトープペプチドから調製したMHC-マルチマーを用いてHCT後患者末梢血中の造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLを定量することができる。
【0050】
(a)MHC-マルチマーの調製
(i)MHCの調製
大腸菌による組換蛋白発現系を用いてHLA-B4403重鎖およびβ2ミクログロブリンを大量に作成、精製する。なお、HLA-B*4403重鎖C末端には、ビオチンリガーゼが認識するアミノ酸配列を予め付加しておく。精製HLA-B*4403重鎖およびβ2ミクログロブリンをそれぞれ8M尿素に溶解した。200 ml の refolding buffer (pH8.0 ; 100 mM Tris-HCl, 400 mM L-arginine-HCl, 2 mM EDTA, 0.5 mM oxidative glutathione, 5 mM reduced glutathione)内に、配列番号13のペプチド12mg、HLA-B*4403重鎖18.6mg、β2ミクログロブリン13.2mgそれぞれを27ゲージ針の付いた注射器を用いて注射した。10℃恒温槽において48〜72時間撹拌し、MHCの形成を促した後、MHCを含むrefolding bufferを1.8Lの蒸留水に対して24時間、4℃恒温槽において透析し、透析後のrefolding bufferをセントリプレップ10(MILLIPORE, Bedford, MA)を用いて2mlに濃縮する。Superdex 200 HR (Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量45KDあたりに流出するMHCを単離する。
【0051】
(ii)ビオチン化MHCの調製
ビオチンリガーゼ(AVIDITY, Denver, CO)を用いて、HLA-B*4403重鎖C末端の特異的部位にビオチンを結合させる。Superdex 200 HRカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにてビオチンを付加したMHCを精製する。
【0052】
(iii)MHC-マルチマーの調製
PE標識ストレプトアビジン (Molecular Probe, Eugene, OR)と精製ビオチン化MHCをモル比1:4で混合する。Superdex 200 HRカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量480KDあたりに流出する配列番号13のペプチドを含むMHC-マルチマーを単離する。セントリコン10(MILLIPORE)を用いて約3mg/mlに濃縮し、4℃に保存する。保存剤としては、Na-Azide、EDTA、Leupeptin、Pepstatinを添加すればよい。
【0053】
(b)MHC-マルチマーを用いた造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLの定量
LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチド部位のHLA-B44で提示されるmHAエピトープペプチドが不適合なドナーとのHCTを受けたHLA-B44を有する患者からHCT後に分離した末梢血リンパ球(1×106)、あるいは前記患者の末梢血リンパ球を配列番号13に示すペプチドで2週間刺激した後増殖してきたリンパ球(1×106)を1.5mlエッペンドルフチューブ内で50μLの2%FCS含有PBSに懸濁する。これに、配列番号13のペプチドを含むMHC-マルチマー、FITC標識抗CD8抗体(CALTAG, Burlingame, CA)を各1μLずつ添加し、37℃恒温槽に15分静置し反応させる。反応後の細胞を2% FCS含有PBS1mlで3回洗浄し、次いで、0.5%パラホルムアルデヒド含有PBS(1ml)に懸濁した。前記MHC-マルチマーと結合したCD8+CTLは標識色素により染色され、FACS Calibur(ベクトン・デイッキンソン)を用いてFITC-CD8+T細胞中のマルチマー陽性細胞をカウントし、その割合を計算する。
【0054】
この結果、MHC-マルチマーに結合した、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+CTLは染色されるので右に移動する。このことから、前記MHC-マルチマーが配列番号13のmHAエピトープペプチドで刺激されて増殖してきたCD8+CTLを特異的に染色していることを示すことができる。
【0055】
(3)第3の定量方法
また、CD107a法(Betts MR,ら “Sensitive and viable identification of antigen-specific CD8+ T cells by a flow cytometric assay for degranulation.” J Immunol Methods. 2003 281:65-78 (2003))によっても、CD8+CTLの定量を行うことができる。
【0056】
5.適合性の遺伝子診断
LOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域を利用し、公知のPCR法等を実施することによって、HCT療法におけるドナーと患者の適合性を遺伝学的に診断し、GVLを強化する免疫療法に有用な組み合わせか否かの診断を行うことができる。すなわち、ドナーと患者のLOC284293遺伝子の一塩基多型(SNP)のタイピングを行うことにより、両者の適合性を診断することができる。なお、PCR法で用いる少なくとも一方のオリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブの塩基配列は、LOC284293遺伝子の該多型部位を含み、かつドナーと患者が保有する該多型部位がPCR法によって確認され得る限り、そのオリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブの塩基数は、一般的に用いられる18〜30merの範囲内において適宜設定することができる。そのようなオリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブの塩基配列として利用し得る塩基配列の一例に、本発明のmHAエピトープペプチドをコードするスプライスバリアント生じさせる塩基配列が含まれる。診断には、以下のような方法が挙げられる。
【0057】
(1)TaqMan PCRによる方法
LOC284293遺伝子の各多型部位を挟む領域を増幅するようにPCRプライマーを設計する。また、LOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域の塩基配列に特異的なプローブに異なった蛍光物質(FAMやVIC等の蛍光レポーター色素)及び消光物質を結合したものを準備し、前記PCRプライマーと共に試料DNA(患者およびドナーの末梢血約1mlから市販のDNA抽出キット(例えば、キアゲン社のQIAamp DNA Blood Mini Kit)等を用いてDNAを分離精製したもの)に対しPCR反応を行うと、該当する塩基配列が存在する場合のみ対応するプローブが分解されて蛍光を発生するようになる。なお、PCR反応は、試料DNAの塩基配列とプローブの塩基配列間で1個のミスマッチが存在する場合にハイブリダイズしないストリンジェンシー条件を用いて両配列をハイブリダイズさせる。ストリンジェンシー条件は、実施されるハイブリダイゼーションの条件によって異なるが、当業者であればハイブリダイゼーションのプロトコルに基づいて、温度、塩濃度、界面活性剤濃度等の溶媒組成等の条件を適宜設定することができる。発生した蛍光を測定することで、ドナー及び患者のLOC284293スプライスバリアントの発生可否パターンを判読する。ドナーと患者間でタイピングを施行することにより、該mHAエピトープペプチドが適合であるか、あるいは不適合であるかを確認し、不適合である場合にはGVLを強化する免疫療法に有用な組み合わせであるか否かを診断することが可能となる。
【0058】
(2)アリル特異的PCRによる方法
PCRプライマーの一方の3’側がLOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域の各塩基配列に特異的となるようにプライマーを設計する。他方のプライマーは両アリル共通とする。PCR反応を上記のようにして調製した試料DNAに対して個々に行うと、LOC284293バリアント遺伝子の該多型部位を含む領域の塩基配列に適合するプライマーが存在する場合のみPCR反応で増幅が起こるため、HCT療法におけるドナーと患者の適合性の判定が可能となる。
【0059】
(3)PCR-RFLPによる方法
LOC284293バリアント遺伝子の該多型部位を含む領域を増幅するようにPCRプライマーを設計する。PCR反応を上記のように調製した試料DNAに対して個々に行った後に、各LOC284293遺伝子の各多型部位を含む領域の塩基配列を特異的に認識するような制限酵素を用いて消化した後ゲル上で電気泳動して、切断の有無により試料中のLOC284293遺伝子の各多型部位を含む領域の有無を確認し、HCT療法におけるドナーと患者の適合性を判定する。
【0060】
(4)直接塩基配列決定による方法
LOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域を増幅するようにPCRプライマーを設定し、PCR反応を上記のように調製した試料DNAに対して個々に行う。PCR増幅産物を精製後鋳型として用い、PCRに使用したプライマーを使って直接塩基配列決定を行い、LOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域の増幅部分の塩基配列を直接読みとる。その配列の結果をもとに、HCT療法におけるドナーと患者の適合性を判定する。
【0061】
(5)RT-PCRによる方法
LOC284293遺伝子から転写されるmRNAのExon 1およびExon 3またはExon 4領域にRT-PCRプライマーを設定し、PCR反応を抽出したmRNAより逆転写酵素で作成したcDNAに対して個々に行う。PCR増幅産物をゲル上で電気泳動して、Exon 2のスプライスアウトの有無をPCRバンド長の違いで決定し、HCT療法におけるドナーと患者の適合性を判定する。
【0062】
その他、Invador法、MALDI-TOF/MS法等の質量分析法、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism)、RCA法を用いても診断することができる。さらに、LOC284293遺伝子の該多型部位を含む領域を固定したDNAチップを用いて診断することもできる。これらの方法は、公知であり、例えば、ポストシークエンスのゲノム化学1 SNP遺伝子多型の戦略 松原謙一他編集 中山書店 2000年6月30日発行 等の記載に従い行うことができる。
【0063】
以上のようなPCRを用いた各種方法による結果によって、HCT療法におけるドナー及び患者由来のLOC284293遺伝子の多型部位の塩基配列を確認してHCT療法におけるドナーと患者の適合性を判定し、GVLを強化する免疫療法に有用な組み合わせか否かの診断を行うことができる。
【0064】
LOC284293遺伝子は、上記のようにLOC284293遺伝子のExon 2の終了塩基の6個後の非翻訳領域の塩基に一塩基多型(SNP)を有する。一塩基多型部位の塩基は、gまたはaである(gが野生型でaが変異型である)。該SNP部位がaであるLOC2949293遺伝子バリアントにおいては、図9に示すようにExon 2に相当する配列が存在しない。従って、ドナーと患者の適合性の判定は、ドナーと患者のそれぞれが、LOC284293遺伝子において、野生型を有しているか、または変異型を有しているかを調べればよい。このためには、LOC284293のExon 2に相当する塩基配列が保持されているか否かを調べてもよいし、上記SNP部位の塩基を調べてもよい。
【0065】
例えば、ドナーの上記SNP部位が野生型ホモであり、患者の上記SNP部位が変異型(ホモ接合)である場合、またはドナーの上記SNP部位が変異型(ホモ接合)であり、患者の上記SNP部位が野生型(ホモ接合)であり、患者の上記SNP部位が変異型(ホモ接合)である場合、ドナーの免疫担当細胞T細胞に対して患者のLOC284293遺伝子がコードするタンパク質またはポリペプチドが非自己と認識されるので、両者のLOC284293遺伝子由来のmHAは不適合であり、ドナー由来のCD8+CTLは患者のGVLを強化し得る。
【0066】
さらに、以下のようにして、得られたPCR増幅産物についてドナー及び患者間の遺伝子タイピングを行った結果に基づいて判定することもできる。
【0067】
HLA-B44を有するドナー及び患者間において、LOC284293遺伝子適合性を確認し、患者のGVLを強化する免疫療法が有効であるかを判定する有用な遺伝子の多型部位を含む領域としては、一例として、配列番号11に示すExon 2近傍のIntron 2の塩基配列が利用可能である。
【0068】
以下の例では、配列番号13に表わされる塩基配列からなるペプチドを挙げているが、他のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドを利用しても同様の判定を行うことができる。
【0069】
例えば、前記各種PCR法による結果、(1)ドナーから調製したDNA試料中に配列番号13のmHAエピトープペプチドをコードできないLOC284293遺伝子の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列だけが存在し、(2)患者から調製したDNA試料中に配列番号13のmHAエピトープペプチドをコードするLOC284293遺伝子バリアントの塩基配列とハイブリダイズする塩基配列が存在する場合は、両者のLOC284293遺伝子由来のmHAは不適合であり、この場合、ドナー由来のCD8+CTLは患者のGVLを強化し得る。
【0070】
また、逆に、(1)ドナーから調製したDNA試料中に配列番号13のmHAエピトープペプチドをコードするLOC284293遺伝子バリアントの塩基配列とハイブリダイズする塩基配列だけが存在し、(2)患者から調製したDNA試料中に配列番号13のmHAエピトープペプチドをコードできないLOC284293遺伝子の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列が存在する場合も、ドナーの免疫担当T細胞から見れば患者のLOC284293遺伝子がコードするタンパク質またはポリペプチドは非自己となって、両者のLOC284293遺伝子由来のmHAは不適合であり、ドナー由来のCD8+CTLは患者のGVLを強化し得る。
【0071】
しかしながら、ドナーから調製したDNA試料に配列番号13のmHAエピトープペプチドをコードするLOC284293遺伝子の塩基配列と、コードできないLOC284293遺伝子の塩基配列の双方が存在する場合(すなわち配列番号13のmHAペプチドをコードできるものと、できない塩基配列のヘテロ接合である場合)、ドナーは双方のタンパク質またはポリペプチドを有するためこれらは自己抗原とみなされれ自己寛容になっているため、患者がいかなるタイプの遺伝子型を持っていずれかのまたは双方のタンパク質またはポリペプチドをコード出来ても(すなわちヘテロ接合であってもホモ接合であっても)mHAとはなり得ないためドナー由来のCD8+CTLは患者のGVLを強化するのに適当ではない。
【0072】
一塩基多型によるExon 2の削除によるスプライスバリアント生成は以下のメカニズムにより生じる。公知のスプライシングに必要なイントロンの両端をくっつけるようなコンセンサス配列が、SNPのために水素結合できなくなり、その結果としてスプライスに失敗し、Exon 2が残らずに Exon 3に行ってしまう。詳細には、図15に示す。図15上図に示すように、Intronの5’末端のコンセンサス配列はGUAAGUであるが、すべて一致していなくても正常にスプライスは起こる。図15下図に示すように変異がある場合、バリアントではC-G架橋ができず、2つの塩基で水素結合ができなくなる結果、Intron 2のスプライスアウトができなくなる。すなわち、遺伝子多型によりスプライスバリアントが生成する。
【0073】
一方、GVL反応の反対の反応が宿主対移植片反応であり、これはHCTの際に輸注したドナーの造血細胞の拒絶に結びつく危険な反応であるが、輸血歴の長い再生不良性貧血や骨髄異形成症候群の患者において比較的発生しやすい移植造血細胞の拒絶リスクの予測にも本発明のペプチドを利用できる可能性がある。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
[実施例1] 造血器腫瘍細胞を傷害し得るCD8+CTLエピトープペプチドの同定
1.各種材料の調製
(1)血液の入手
造血器腫瘍である白血病(1症例の急性骨髄性白血病(HLA-B44))に対しHLA一致同胞からHCTを受ける患者の移植前および移植後末梢血及びHCTドナーの末梢血から単核球細胞を分離した。HLA型はDNAタイピング法を用いて測定した。
【0076】
(2)EBV感染B細胞株
HCTドナーおよび移植前の患者末梢血単核球細胞にEBV産生細胞株であるB95-8細胞の上清(生EBVウイルスを含む)を感染させて、EBV感染B細胞株(Lymphoblastoid cell line、以下、EBV感染LCLと称する)を樹立した。
また、HLA-B44を持った健常人の末梢血単核球細胞に、同様にEBV産生細胞株であるB95-8細胞の上清を感染させて、EBV感染LCLを樹立した。
【0077】
2.mHAエピトープペプチドに特異的なCD8+CTLの培養樹立
(1)mHAエピトープペプチドに特異的なCD8+CTL
前記1.(1)で取得したHCT後の患者末梢血単核球細胞を、細胞致死量の放射線を照射しておいたHCT前の患者末梢血単核球細胞とともにフラスコ内で混合培養した。ドナーと患者間にはmHAエピトープペプチドの不適合があったため、患者のmHAエピトープペプチド(抗原)に反応したドナーリンパ球由来のCD8+CTLが増殖を開始した。CD8+CTLの増殖を助けるために、培養液にはIL-2を添加した。
【0078】
(2)患者のmHAエピトープペプチドに特異的なCD8+CTLクローンの樹立と細胞傷害性試験
2.(1)で増殖した1症例より得た2つのCD8+CTL株から、限界希釈法を用いてCD8+CTLクローンを樹立した。CD8+CTL株から複数のCTLクローンが得られたが、この中で増殖の良好なCTLクローンを1つ選び、以下の実験に供した。選択された1種類のCTLクローンは、51Cr遊離法を用いた細胞傷害性試験において、HCTドナーのEBV感染LCLは傷害しないが、患者のEBV感染LCL は傷害したため、患者のmHAエピトープペプチドに特異的と考えられた。またHLA-B44を持った健常人より作成しておいた複数のEBV感染LCLに対する反応性から、このCD8+CTLクローンは、HLA-B44によって提示されるmHAエピトープペプチドを認識していることが判明した(以下、HLA-B44拘束性CD8+CTLクローンと称する)。
【0079】
さらに、図7に示すように同患者より樹立した活性化T細胞・B細胞芽球もやや弱いながら傷害されたが、患者の皮膚線維芽細胞は全く傷害せずこの細胞種ではもともとLOC284293遺伝子の発現が低い可能性が示唆された。
【0080】
3.リンケージ解析によるmHAをコードする遺伝子の同定
(1)細胞パネルの作成と細胞傷害性試験
国際組織適合ワークショップよりCEPH(Centre d'Etude du Polymorphisme Humain)家系のEBV感染LCLを入手し、これら各EBV感染LCLにHLA-B44遺伝子を各々導入して、HLA-B44を細胞表面に発現する各細胞パネルを作成した。これらを標的細胞とし、2.(2)で得られたHLA-B44拘束性CD8+CTLクローンを用いて51Cr遊離法を用いた細胞傷害性試験を行い、どのEBV感染LCLに、造血器腫瘍患者と同じ多型性を持つmHAエピトープペプチドが存在しているか検討した。HLA-B44拘束性CD8+CTLクローンの細胞傷害性パターン解析の結果を図8に示す。
【0081】
(2)2点連鎖解析
インターネット上に公開されているFASTLINKソフトウエアおよびCEPH家系の遺伝子解析データベースを、それぞれftp://fastlink.nih.gov/pub/fastlinkおよびhttp://www.cephb.fr/cephdb/より入手し、3.(1)で得た細胞傷害性試験の成績と組み合わせ、2.(1)で得られたHLA-B44拘束性CD8+CTLクローンが認識している遺伝子座を特定したところ、第18番染色体長腕21付近と判明した。この遺伝子座にある38種類の遺伝子のうち、1箇所以上の多型性部位を有し、HLA-B44に提示される複数のmHAエピトープペプチドをコードし得る遺伝子を検索したが複数の候補が挙がり、遺伝子の同定には至らなかった。そこでHLA-B44拘束性CD8+CTLクローンを樹立したHLA-B44をもつ患者のEBV感染LCLからメッセンジャーRNAを分離、相補性DNAライブラリーを作成し、発現クローニング法にて遺伝子を検索したところ、第18番染色体長腕21.33に存在するLOC284293遺伝子のExon 2が欠失したと考えられるバリアント相補性DNAが同定された(図9)。図9に示すように、バリアントにはExon 2に相当する配列がない。また、既報のEST(LOC284293)のExon 4の配列はpolyAを含まず完全長ではない。
【0082】
4.HLA-B44に結合し得るmHAエピトープペプチドの同定
CD8+CTL mHAエピトープペプチドがLOC284293遺伝子バリアント相補性DNAのどの部分にコードされているか同定するためにLOC284293遺伝子バリアント相補性DNAを大まかに3分割したミニ遺伝子を作成し、mHA陰性で拘束性HLA-B*4403をあらかじめ発現させておいた293T細胞に導入し、これを抗原提示細胞としたインターフェロンγ遊離試験を行った(図10)。その結果LOC284293遺伝子バリアント相補性DNAの前3分の1部分にmHAエピトープペプチドが存在することを示唆する結果を得た。またこれによりLOC284293遺伝子バリアントから翻訳されるポリペプチドが内因性にプロセスされてHLA-B44上に発現していることがわかった。ここで、内因性にプロセスされているとは、ミニ遺伝子導入細胞内で新規に作られたLOC284293遺伝子バリアントポリペプチドが、細胞が本来持つ抗原処理機構により正しい長さの抗原ペプチドに切断され、HLA重鎖とβ2ミクログロブリンと複合体を形成しLOC284293遺伝子バリアントミニ遺伝子導入細胞表面に提示されている状態のことを意味する。
【0083】
次にこのミニ遺伝子から翻訳されうるポリペプチドのうち、HLA-B44と結合するのに必要とされているアミノ酸であるGluを複数個コードする最長の53アミノ酸からなるポリペプチド部分に注目し、ここをさらに9個のアミノ酸を重複させながら5つに細分し、それぞれのアミノ酸配列をコードするミニ遺伝子を作成して同様な実験を行ったところ、該ポリペプチドの第1番目のアミノ酸から16アミノ酸をコードするミニ遺伝子がエピトープペプチドを含んでいることが分かった(図10)。
【0084】
この16アミノ酸からなるポリペプチドのアミノ酸配列をBioInformatics & Molecular Analysis Section (BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合し、HLA-B44の結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるmHAエピトープ候補ペプチドをスクリーニングし、9種のmHAエピトープ候補ペプチドを合成した。これを51Crで放射線ラベルしておいたmHA陰性のHCTドナーの細胞に添加して30分室温で静置した後、適当な数の2.(2)で得られたHLA-B44拘束性CD8+CTLクローンと混合し、細胞傷害性試験を行ったところ9種のペプチド(図11A)のいずれもが認識されなかった。しかしミニ遺伝子ではこの16アミノ酸からなる配列が確実にエピトープをコードしていたこと、またHLA-B44に結合して提示されるペプチドのアンカーモチーフは第2番目のアミノ酸は必ずGlu、カルボキシル末端のアミノ酸はほぼ例外なくPheまたはTyrであること(MacDonald ら著、Journal of Experimental Medicine誌、第198巻5号 、679-91頁、2003年)から、カルボキシル末端にPheをもつペプチドのアミノ末端にもともとコードされているMetを追加し11アミノ酸のペプチドを合成し同様な実験を行ったところ100nM未満の低濃度で認識された(図11B)。
【0085】
上記の試験方法に従って、CD8+CTL、またそのCD8+CTLクローンが反応した、以下の配列番号13で表されるmHAエピトープペプチドを得た。このペプチドは、HLB44結合モチーフを有するペプチド配列である。
【0086】
また、配列番号13のmHAエピトープペプチドはLOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列において、第1〜11番目のアミノ酸を含んでなる部分ペプチドである(配列番号3)。
Met Glu Ile Phe Ile Glu Val Phe Ser His Phe(配列番号13)
【0087】
[実施例2] LOC284293遺伝子の種々の臓器、造血器腫瘍細胞での発現状況
前記のmHAをGVLを強化する目的で安全に使用するためには、該mHAをコードするLOC284293の発現が造血器系細胞に限られていることが望ましい。そこで定量的PCR方(TaqMan PCR)を用いて組織発現を検索したところ、発現は患者から樹立したEBV感染LCLを1とした場合、精巣がその約3分の1、肺が10分の1で、それ以外の組織では10分の1未満であった。他方で、検討した6種類の骨髄性白血病由来細胞株中4つ(すなわちMEGO1、NKM-1、KG-1、NOMO-1)が患者EBV感染LCLと同等の発現量を示した(図12)。また初発時白血病では急性骨髄性白血病細胞(AMLと総称)が患者EBV感染LCLとphytohemagglutininで芽球化したT細胞株(PHA-B)の中間程度の発現量を示した。PHA-BはHLA-B44拘束性CD8+CTLクローンにより傷害を受けるので、急性骨髄性白血病細胞も傷害されると推測された(図12)。
【0088】
[実施例3] HLA-A2およびHLA-A24に結合し得るmHAエピトープペプチドの同定
前記の配列番号13に示されるペプチドは、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列において、第1〜11番目のアミノ酸を含んでなるペプチド、かつ、HLA-B44に結合するmHAエピトープペプチドであったが、さらに、HLA-A2およびHLA-A24に結合し得るmHAエピトープペプチドを検討するために、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列について、インターネット上に公開されているBioInformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合した結果、HLA-A2およびHLA-A24結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸よりなるmHAエピトープが存在することが判明し、それぞれ次の7種、5種のエピトープ候補ペプチドを同定した。
【0089】
これらの配列のうち、配列番号14〜25で表されるペプチドは、LOC284293バリアント遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列において、第1〜53番目アミノ酸を含む部分ペプチドである。
【0090】
HLA-A2結合性ペプチド(7種):
Phe Leu Leu Gln Leu Thr Glu Leu Thr(配列番号14)
Leu Leu Gln Leu Thr Glu Leu Thr Leu(配列番号15)
Ser Leu Met Ile Ser Ser Gln Val Leu(配列番号16)
Gln Leu Thr Glu Leu Thr Leu Asn Met(配列番号17)
Phe Ile Glu Val Phe Ser His Phe Leu(配列番号18)
Phe Leu Leu Gln Leu Thr Glu Leu Thr Leu(配列番号19)
Gln Leu Thr Glu Ile Thr Leu Asn Met Cys(配列番号20)
【0091】
HLA-A24結合性ペプチド(5種):
His Phe Leu Leu Gln Leu Thr Glu Leu(配列番号21)
Ile Phe Ile Glu Val Phe Ser His Phe(配列番号22)
Val Phe Ser His Phe Leu Leu Gln Leu(配列番号23)
Ile Phe Ile Glu Val Phe Ser His Phe Leu(配列番号24)
Lys Ser Leu Met Ile Ser Ser Gln Val Leu(配列番号25)
【0092】
[実施例4]ワクチン注射剤
DMSOに、配列番号13〜25のペプチドを最終濃度20mg/mlとなるように各々溶解し、ろ過滅菌した。得られたペプチド含有溶液を滅菌バイアル瓶に1mlずつ分注密栓し、ワクチン注射剤とした。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】CD8+CTLによる造血器腫瘍細胞の認識機構を示す図である。
【図2】MHC-マルチマーの調製方法を示す図である。
【図3】MHC-マルチマーとCD8+CTLの結合を示す図である。
【図4】MHC−磁気ビーズの調製方法を示す図である。
【図5】MHC−磁気ビーズによるCD8+CTLの単離を示す図である。
【図6】mHAエピトープペプチド、及びその後の抗CD3抗体、IL-2による刺激による、CD8+CTLの増殖を示す図である。
【図7】HLA-B44拘束性クローンと結合するCD8+CTLによる種々の標的細胞に対する細胞傷害性を示す図である。
【図8】HLA-B44拘束性クローンが、CEPH家系(家系番号1332番、1346番、1349番および1408番)より樹立したEBV感染LCLにHLA-B44を発現させたものに対して傷害活性を示すパターンを示す図である。
【図9】LOC284293遺伝子の構造と、既報のESTおよび今回発見したバリアントのmessenger RNAを構成するExonを示す図であり、バリアント生成に関わる一塩基多型の部位を(▲)示している。
【図10】LOC284293遺伝子のミニ遺伝子を用いたHLA-B44拘束性クローンが認識するエピトープ領域の検索の結果を示す図である。
【図11】HLA-B44拘束性クローンが認識するエピトープペプチドの同定の結果を示す図である。
【図12】LOC284293遺伝子の造血器腫瘍を含む種々の組織での発現を示す図である。
【図13A】LOC284293遺伝子バリアントの配列を示す図である。
【図13B】LOC284293遺伝子バリアントの配列を示す図である(図13Aの続き)。
【図14】LOC284293遺伝子のExon 2近傍の配列を示す図である。
【図15】LOC284293遺伝子のバリアントがExon 2をスプライトアウトするメカニズムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LOC284293遺伝子内のスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型部位において、スプライスバリアントを生成させる塩基を有する、配列番号1に表わされる塩基配列からなる、LOC284293遺伝子のバリアント遺伝子、対応するmRNAまたはそれらの遺伝子多型部位を含む断片ポリヌクレオチド。
【請求項2】
LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドまたはその部分ペプチドであるマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドであって、ヒト主要組織適合性抗原(HLA)と結合してCD8+細胞傷害性Tリンパ球によって認識され得るマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項3】
LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドのアミノ酸残基数が5〜20個である請求項2記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項4】
LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドのアミノ酸残基数が9〜11個である請求項3記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項5】
LOC284293遺伝子内の遺伝子多型に起因するスプライスバリアントの生成により発現するポリペプチドの部分ペプチドが、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの部分ペプチドである、請求項2〜4のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項6】
HLAがHLA-B44である、請求項2〜5のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項7】
配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項5に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項8】
HLAがHLA-A2である、請求項2〜5のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項9】
配列番号14〜20で示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、請求項8に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項10】
HLAがHLA-A24である、請求項2〜5のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項11】
配列番号21〜25で示されるアミノ酸配列からなるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、請求項10に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項12】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球が、造血器腫瘍細胞を傷害するものである、請求項2〜11のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項13】
造血器腫瘍が白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫又は多発性骨髄腫である、請求項12に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド。
【請求項14】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをパルスした抗原提示細胞を有効成分として含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するためのワクチン。
【請求項15】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをパルスした抗原提示細胞により末梢血リンパ球を刺激して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
【請求項16】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーと末梢血リンパ球とを反応させ、該主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
【請求項17】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体から単離して得られるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を含む、同種造血細胞移植後に残存又は再発した造血器腫瘍を治療するか、又は同種造血細胞移植後の造血器腫瘍の再発を予防するための受動免疫療法剤。
【請求項18】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドで末梢血を刺激してCD8+細胞傷害性Tリンパ球を得、該CD8+細胞傷害性Tリンパ球が産生するサイトカイン及び/又はケモカインを測定することを特徴とする、造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
【請求項19】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−マルチマーを調製し、該主要組織適合性複合体及び/又は主要組織適合性複合体−マルチマーと末梢血とを反応させる、該末梢血中の造血器腫瘍細胞を傷害するCD8+細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
【請求項20】
同種造血細胞移植におけるドナー及び患者由来のゲノムDNAについて、配列番号11に示す塩基配列であって、LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列を用いて遺伝子タイピングを行うことを含む、同種造血細胞移植適合性診断方法。
【請求項21】
同種造血細胞移植におけるドナー及び患者由来のゲノムDNAについて、配列番号11に示す塩基配列であって、LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列を用いてPCR法により増幅し、得られたPCR増幅産物についてドナー及び患者間の遺伝子タイピングを行うことを含む、請求項20記載の同種造血細胞移植適合性診断方法。
【請求項22】
LOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列の塩基長が18〜30merである、請求項20または21に記載の同種造血細胞移植適合性診断方法。
【請求項23】
配列番号11に示すLOC284293遺伝子からのスプライスバリアント生成の有無を決定する遺伝子多型を含むゲノム遺伝子領域の塩基配列またはその部分配列が、請求項2に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドをコードする塩基配列である、請求項20〜22のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項24】
請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドの少なくとも1種類のペプチドでパルスされ、表面に発現しているHLAに上記マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドが結合している単離した抗原提示細胞。
【請求項25】
抗原提示細胞を請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドの少なくとも1種類のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドとともにin vitroで培養することを含む、抗原提示細胞の活性化法であって、活性化された抗原提示細胞がCD8+細胞傷害性Tリンパ球を刺激し得る、活性化法。
【請求項26】
以下の(a)〜(d)のいずれかの方法により、造血器腫瘍の予防及び治療に用いることができるCD8+細胞傷害性Tリンパ球を調製する方法。
(a) 請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で末梢血リンパ球を刺激することを含む方法、
(b) 請求項2〜13のいずれかに1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーと末梢血リンパ球とを反応させ、該主要組織適合抗原複合体及び/又は主要組織適合抗原複合体−マルチマーにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体からCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法、
(c) 請求項2〜13のいずれかに記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチド又は該マイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドでパルスした抗原提示細胞を用いて、in vitro で末梢血リンパ球を刺激し、細胞外にIFNγを産生するか、またはCD107a抗原を表出するCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法、並びに
(d) 請求項2〜13のいずれか1項に記載のマイナー組織適合性抗原(mHA)エピトープペプチドから調製した主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズと末梢血リンパ球とを反応させ、主要組織適合抗原複合体−標識磁気ビーズにCD8+細胞傷害性Tリンパ球が結合した結合体を形成させ、該結合体からCD8+細胞傷害性Tリンパ球を単離することを含む方法
【請求項27】
請求項26記載の方法により得られた、造血器腫瘍の予防及び治療に用いることができる単離されたCD8+細胞傷害性Tリンパ球。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−319069(P2007−319069A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152098(P2006−152098)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【Fターム(参考)】