説明

Li2O−Al2O3−SiO2系結晶化ガラスの製造方法

【課題】 As、Sbを含まないにも関わらず、電気リボイルによる泡不良を抑制することが可能なLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 白金又は白金合金装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを製造するLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法において、得られる結晶化ガラス中のCl含有量が50ppm以上となるようにガラス原料にCl化合物を添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の材料として、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスが用いられている。例えば特許文献1〜3等には、主結晶としてβ−石英固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧2])やβ−スポジュメン固溶体(LiO・Al・nSiO[ただしn≧4])を析出してなるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスが開示されている。
【0003】
LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、熱膨張係数が低く、機械的強度も高いため、優れた熱的特性を有している。また結晶化工程における熱処理条件を変更することによって析出結晶を変化させることができるため、同一組成の原ガラスから透明な結晶化ガラス(β−石英固溶体が析出)と白色不透明な結晶化ガラス(β−スポジュメン固溶体)の両方を製造することが可能であり、用途に応じて使い分けることができる。
【0004】
ところでLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、高粘性のガラスであるため、1400℃を超える温度で溶融される。このため清澄剤として、高温での溶融時に清澄ガスを多量に発生させることができるAsやSbが使用される。しかしながらAsやSbは毒性が強く、ガラスの製造工程や廃ガラスの処理時等に環境を汚染する可能性がある。そのため、AsやSbを使用せずにガラスを溶融する方法が検討されている。例えばAsやSbの代替清澄剤として、SnOやClを使用する方法が提案されている(特許文献4、5)。
【0005】
また脈利発生防止や失透防止の理由から、LiO−Al−SiO系結晶化ガラスの溶融設備は、フィーダーや成形装置の少なくともガラスと接する表面に白金や白金合金(以下、白金等と略す)が使用される。この場合、これらの装置に通電してガラスを加熱或いは保温することが行われる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭39−21049号公報
【特許文献2】特公昭40−20182号公報
【特許文献3】特開平1−308845号公報
【特許文献4】特開平11−228180号公報
【特許文献5】特開平11−228181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通電加熱のように、電気による加熱を用いる溶融設備において、AsやSbを使用せずにLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを溶融すると、白金等装置の表面から電気に起因するリボイル泡が多量に発生する現象が生じ、泡品位の良いガラスが得難くなることが判明した。この現象は、ラボでの坩堝による静置した溶融評価試験では認識することが困難な現象である。
【0008】
本発明の目的は、As、Sbを含まないにも関わらず、電気リボイルによる泡不良を抑制することが可能なLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法は、白金又は白金合金装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを製造するLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法において、得られる結晶化ガラス中のCl含有量が50ppm以上となるようにガラス原料にCl化合物を添加することを特徴とする。ここで「白金又は白金合金装置」とは、溶融ガラスとの接触面が白金又は白金合金で形成された装置を意味しており、これには装置全体が白金等で構成される装置のみならず、溶融ガラスとの接触部分を白金等で被覆した装置も含む。「電気による加熱」とは、電極による溶融ガラスの直接通電加熱、白金又は白金合金装置を含む溶融設備等への通電加熱等を含む。「LiO−Al−SiO系結晶化ガラス」とは、LiO、Al及びSiOを必須成分として含み、β−スポジュウメン及び/又はβ−石英固溶体を主結晶とする結晶化ガラスを意味する。
【0010】
本発明においては、電気による加熱が白金又は白金合金装置への通電加熱であることが好ましい。ここで「電気による加熱が白金又は白金合金装置への通電加熱である」とは、少なくとも通電加熱を用いて溶融ガラスを加熱又は保温することを意味し、通電加熱以外の加熱方法、例えば電極を用いた直接通電加熱や、バーナーによる燃焼加熱等との併用を排除するものではない。
【0011】
本発明においては、白金又は白金合金装置がフィーダー又は成形装置であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、溶融ガラスがAs及びSbを実質的に含有しないことが好ましい。ここで「As及びSbを実質的に含有しない」とは、これらの成分を原料として積極的に使用しないことを意味する。より客観的な基準としては、不純物として混入する場合も含めてAsの含有量が1000ppm未満、Sbの含有量が1000ppm未満であることを意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明方法によれば、電気リボイルにより生じた泡を白金装置表面から離脱させることなく拡大、上昇させて消滅させる。また装置表面から泡が離脱しても、泡径が拡大しているので直ぐに脱泡し、消滅させることができる。それゆえAs、Sbを含まないにも関わらず、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】例1のガラスを用いて行った強制通電発泡試験の結果を示す写真である。
【図2】例2のガラスを用いて行った強制通電発泡試験の結果を示す写真である。
【図3】例3のガラスを用いて行った強制通電発泡試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電気リボイルは、ガラス融液とこれに接する導電体(白金等)との間で以下の反応が生じ、正極に当たる部位で酸素泡が発生する現象である。
【0016】
正極 : 2O2− → O(リボイル泡) + 4e
負極 : O + 4e → 2O2−
【0017】
LiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、ガラス組成中にアルカリ成分(LiO等)を含んでいる。またこの系のガラスは失透し易いことから、成形は低粘度域、換言すれば高温域で行われる。つまりこのガラス系は、溶融ガラスの電気抵抗が低く、電気が流れ易い状態にある。ここで溶融ガラスの加熱に電気が使用されている場合、溶融ガラスの異なる部分間で電位差が生じると白金等を介した回路が形成されやすく、正極に相当する白金等/溶融ガラス界面で酸素泡が発生する。特にロール成形等のように、ガラスが成形装置やその下流側に位置する移送装置等までガラスが連続している場合には回路が容易に形成され、電気リボイルが極めて発生しやすい。
【0018】
ところで清澄剤として使用されるAsやSbは、溶融〜清澄工程での温度上昇に伴い、価数変化してガラス中に酸素を放出する。
【0019】
→ M + O (M:As、Sb)
【0020】
さらに清澄〜成形での温度低下に伴い、酸素を吸収する。
【0021】
+ O → M
【0022】
この温度低下時の反応によって、電気リボイルで生じた泡はAsやSbに吸収され、消滅する。AsやSbを含まないLiO−Al−SiO系結晶化ガラスにおいて、電気リボイルによる泡問題が顕在化したのは、AsやSbのようなリボイル泡を吸収できる成分が存在しないことが原因である。
【0023】
電気リボイルによる泡を減少させるには、ガラス中にClを含有させることが効果的であることが、本発明者の調査から明らかになった。Clを添加すると、正極での酸素のリボイル泡の径が著しく大きくなり、白金から離脱し難くなる。このメカニズムの詳細は不明であるが、Clの存在で融液の表面張力が上がることが考えられる。また、Cl系ガス放出時に酸素が一気に放出され、白金表面近傍のO濃度が下がることで酸素泡の核形成能が低下することなどが考えられる。その結果、電気リボイルにより酸素泡は発生するものの、白金装置表面から離脱することなく拡大、上昇して消滅したり、装置表面から泡が離脱しても直ぐに脱泡して消滅する。その結果、製品に泡が含まれ難くなる。
【0024】
次に本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラス製造方法を説明する。
【0025】
まず所望の組成となるようにガラス原料バッチを調製する。バッチ組成としては、例えば得られる結晶化ガラスがSiO 50〜80%、Al 12〜30%、LiO 1〜6%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜10%、BaO 0〜8%、NaO 0〜5%、KO 0〜10%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜7%、P 0〜7%含有するように調製すればよい。なお以降は特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。各成分範囲を限定した理由を以下に述べる。
【0026】
SiOはガラスの骨格を形成するとともに結晶を構成する成分であり、その含有量は50〜80%、好ましくは52〜77%、さらに好ましくは54〜75%である。SiOの含有量が少なすぎると熱膨張係数が大きくなり過ぎ、SiOの含有量が多すぎるとガラス溶融が困難になる。
【0027】
Alはガラスの骨格を形成するとともに結晶を構成する成分であり、その含有量は12〜30%、好ましくは13〜28%、さらに好ましくは14〜26%である。Alの含有量が少ないと化学的耐久性が低下し、またガラスが失透し易くなる。一方、Alの含有量が多すぎるとガラスの粘度が大きくなり過ぎてガラス溶融が困難になる。
【0028】
LiOは結晶構成成分であり、結晶性に大きな影響を与えるとともに、ガラスの粘性を低下させる働きがある。またLiは溶融中で塩素と結合して比較的安定なLiClとなり、これが揮発し清澄ガスとして作用する。このためLiO−Al−SiO系結晶化ガラスにおいては、清澄剤としてClを単独で使用してもLiOを多量に含有させておくことにより、十分な清澄力を得ることが可能となる。LiOの含有量は1〜6%、好ましくは2.0〜5.5%、さらに好ましくは2.5〜5.0%である。特に、SnOやCeOなどの酸化物清澄剤を使用せず、清澄剤がCl単独の場合は、LiOを3%以上にすることが好ましい。LiOの含有量が少なすぎるとガラスの結晶性が弱くなり、熱膨張係数が大きくなり過ぎる。また透明結晶化ガラスの場合には結晶物が白濁し易くなり、白色結晶化ガラスの場合には白色度低下が起こりやすくなる。加えてCl単独での清澄が困難になる。一方、LiOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり過ぎて、ガラスが失透したり、準安定なβ−石英固溶体が得られなくなって結晶物が白濁したりして、透明結晶化ガラスを得ることができなくなる。
【0029】
MgOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜4.5%、さらに好ましくは0〜4%である。MgOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が多くなって不純物着色が強くなり過ぎる。
【0030】
ZnOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。ZnOの含有量が多すぎると結晶性が強くなり、析出結晶量が多くなって不純物着色が強くなり過ぎる。
【0031】
またMgOとZnOの含有量は合量(合計量)で0〜10%、特に0〜8%、さらには0〜6%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると結晶物の着色が強くなりやすい。
【0032】
BaOの含有量は0〜8%、好ましくは0.3〜7%、さらに好ましくは0.5〜6%である。BaOの含有量が多すぎると結晶の析出を阻害するために十分な結晶量が得られず、熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0033】
NaOの含有量は0〜5%、好ましくは0〜4%、さらに好ましくは0〜0.35%である。NaOの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0034】
Oの含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。KOの含有量が多すぎると結晶性が弱くなって十分な結晶量が得られず、また熱膨張係数が大きくなり過ぎる。さらに透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0035】
またNaOとKOの含有量は合量(合計量)で0〜12%、特に0〜10%、さらには0〜8%であることが好ましい。これらの成分の合量が多すぎると熱膨張係数が大きくなりやすい。また透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0036】
TiOは核形成剤であり、その含有量は0〜8%、好ましくは0.3〜7%、さらに好ましくは0.5〜6%である。TiOの含有量が多すぎると不純物着色が著しくなる。
【0037】
ZrOは核形成剤であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0.5〜6%、さらに好ましくは1〜5%である。ZrOの含有量が多すぎるとガラス溶融が困難になるとともに、ガラスの失透性が強くなる。 Pはガラスの結晶性を向上させるための成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜6%、さらに好ましくは0〜5%である。Pの含有量が多すぎると熱膨張係数が大きくなり過ぎ、また透明結晶化ガラスを得る場合には結晶物が白濁し易くなる。
【0038】
本発明に係るLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、上記以外にも種々の成分を添加することが可能である。例えばCaOを5%まで、Bを10%まで含有しても良い。また着色剤としては、例えばVを1.5%まで、好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.8%まで、Ndを1%まで含有することができる。
【0039】
さらにガラス原料に塩化物を添加する。塩化物としては、例えば塩化ナトリウムが使用できる。塩化物は得られる結晶化ガラス中の含有量がCl換算で50ppm以上、好ましくは100〜2000ppm、さらに好ましくは200〜1500ppmとなるように添加する。また原料バッチへの添加量で表せば、ガラス原料バッチ100%(Cl原料を除く)に対して、Cl換算で0.01%以上、好ましくは0.02〜0.3%、さらに好ましくは0.04〜0.3%である。
【0040】
また清澄剤としてSnOを添加してもよい。この場合、SnOの含有量は0〜0.5%、好ましくは0〜0.4%、さらに好ましくは0.1〜0.4%である。なお環境上の理由からAs及びSbを実質的に含有させないことが重要である。
【0041】
次にガラス原料を、電気を使用して溶融ガラスを加熱,保温する溶融設備に供給し、溶融、成形する。溶融設備は、連続生産可能なタンク窯を採用することが好ましい。溶融ガラスの加熱方法としては、溶解槽内での電極による直接通電加熱や、フィーダー、成形装置等への通電加熱が例示される。特にフィーダー等への通電加熱を採用すれば、失透傾向の強いLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの溶融、成形に有利である。ガラス原料の溶融条件は、上記組成のガラスの場合、最高温度1600〜1800℃で20〜200時間程度であることが好ましい。
【0042】
続いてガラス融液を所望の形状に成形し、LiO−Al−SiO系結晶性ガラスを得る。成形方法としてはロール成形、プレス成形、フロート成形等、種々の方法を採用することができる。ここで「結晶性ガラス」とは、熱処理するとガラスマトリックス中から結晶を析出して結晶化ガラスとなる性質を有する非晶質のガラスを意味する。
【0043】
上記溶融、成形工程においては、電気リボイルにより白金等の表面に酸素泡が発生する可能性がある。しかし本発明においては、Clを溶融ガラス中に含むことから、発生した酸素泡が白金等の表面から離脱することなく拡大し白金等の表面を伝ってガラス融液面へと上昇し、逸散する。
【0044】
続いてLiO−Al−SiO系結晶性ガラスからなる成形体を700〜800℃で1〜4時間保持して核形成を行い、透明な結晶化ガラスとする場合は800〜950℃で0.5〜3時間熱処理してβ−石英固溶体を析出させる。また白色不透明な結晶化ガラスとする場合は核形成後に1050〜1250℃で0.5〜2時間熱処理してβ−スポジュメン固溶体を析出させればよい。
【0045】
このようにしてAsやSbを実質的に含有しないにも関わらず、泡品位に優れたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを得ることができる。なお得られたLiO−Al−SiO系結晶化ガラスは、切断、研磨、曲げ加工、延伸成形等の後加工を施したり、表面に絵付けを施したりして種々の用途に供される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法を説明する。
【0047】
表1に示す例1はAsを清澄剤としてしようした従来例を、例2は従来のガラスからAsを削減した比較例を、例3はClを添加した本発明の実施例をそれぞれ示している。
【0048】
【表1】

【0049】
各試料は次のようにして調製した。まず得られるLiO−Al−SiO系結晶性ガラスが表1の組成となるように、各原料を酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の形態で調合し、均一に混合して原料バッチを得た。なおClについては塩化ナトリウムをCl換算で0.5質量%となるように添加した。
【0050】
次に、この原料バッチをガラス溶融設備に投入し、溶融した後、板状に連続的に成形した。なおガラス溶融設備は、溶解槽、フィーダー及びロール成形装置を備えたタンク窯である。溶解槽は、酸素燃焼による耐火物窯であり、最高温度1650〜1800℃でガラス原料を溶解する。フィーダーは白金製であり、溶融ガラスを溶解槽から成形装置に供給する。またフィーダーは通電加熱によって内部の溶融ガラスの温度を1400〜1600℃に保持している。なお成形装置の下流側には徐冷炉が設けられており、板状に成形されたガラスが徐冷炉内に連続的に移送され、徐冷される構成となっている。
【0051】
得られたLiO−Al−SiO系結晶性ガラス試料について、電気リボイル泡に関する評価結果を表1に示す。
【0052】
表1から明らかなように、本発明方法により作製した例3の試料は、電気リボイル泡が製品には観察されなかった。なおリボイルの流出は、溶解槽の出口で採取したガラスAと成形後のガラスBの泡数をそれぞれkgあたりの泡個数に換算し、成形後のガラスBの泡個数が溶解直後のガラスBの泡個数の2倍以上の場合にリボイルの流出があったと評価した。
【0053】
次にAsやClの電気リボイル抑制効果を確認するために、表1に示す例1〜3の組成を有するガラスを用いて強制通電発泡試験を行った。具体的には、例1〜3の組成を有するガラスを用意し、これを1400℃に加熱して溶融し、融液の真ん中に設置した白金箔を正極にして500mV1分間の強制通電を行った。図1〜3は強制通電発泡試験の結果を示すものであり、図1は例1の組成を有するガラスを、図2は例2の組成を有するガラスを、図3は例3の組成を有するガラスをそれぞれ用いて試験を行った時の、通電後の正極での発泡状態を撮影したものである。
【0054】
図1〜3から明らかなように、Clを含む例3の試料は、その他の試料に比べて電気リボイルの泡が生じ難いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法は、石油ストーブ、薪ストーブ等の前面窓、カラーフィルターやイメージセンサー用基板等のハイテク製品用基板、電子部品焼成用セッター、電子レンジ用棚板、電磁調理用トッププレート、防火戸用窓ガラス等の種々の材料として使用されるLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを、AsやSbを使用することなく製造する方法として好適である。特にLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの失透を防止する目的で、フィーダー等に通電加熱する場合には効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金装置を含む溶融設備を使用するとともに、電気による加熱を用いてLiO−Al−SiO系結晶化ガラスを製造するLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法において、得られる結晶化ガラス中のCl含有量が50ppm以上となるようにガラス原料にCl化合物を添加することを特徴とするLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項2】
電気による加熱方法が白金又は白金合金装置への通電加熱であることを特徴とする請求項1に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
白金又は白金合金装置がフィーダー又は成形装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
溶融ガラスがAs及びSbを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のLiO−Al−SiO系結晶化ガラスの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−82106(P2012−82106A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229675(P2010−229675)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】