説明

M3アンタゴニストとしてのキヌクリジン誘導体

1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の一般式(I)
【化1】


〔式中、
はH、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから選択され;
は所望により置換された2もしくは3−チエニル、または置換フェニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでRは所望により置換されたフェニルまたは所望により置換された2もしくは3−チエニルであり;
nは0、1または2であり;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体は、呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用医薬の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗ムスカリン剤、とりわけムスカリンM3受容体に対する適当な選択性と長期作用を提供するキヌクリジン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アセチルコリンムスカリン受容体は、かなりの間徹底的に研究されており、そして今ではM3受容体が腸管、膀胱および気管支の平滑筋におけるアセチルコリンの収縮作用に関与していることが一般的に知られている。しかし、上記組織において、M2受容体も存在する;M2受容体は平滑心筋に主として存在するので、心筋に対する副作用を回避するため、研究は選択的M3アンタゴニストの発見に焦点が当てられている。
【0003】
近年、抗ムスカリン剤の新世代の最初の薬剤であるチオトロピウムが、ユニークな特徴であるM2受容体から速やかに解離し、M1およびM3受容体からゆっくりと解離する「動力学的選択性」を有することが報告されている。
【0004】
したがって、良好な選択性およびM3受容体からの遅延した解離のいずれもが、1日1回投与における吸入によって有効な、呼吸器疾患およびとりわけ炎症性もしくは閉塞性気道疾患、例えば喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の処置のための、新規抗ムスカリン剤について、重要であると見なされる。
【0005】
キヌクリジン核を含む選択的M3アンタゴニストは、例えばWO 02/00652、WO 02/051841、WO 03/053966およびWO 2004/000840に記載されている。
【0006】
とりわけ、WO 02/00652およびWO 03/053966は、ヒトM3受容体に対する親和性およびM2受容体以上にM3受容体に対する選択性を提供するキヌクリジルカルバメート誘導体に関する。
【0007】
WO 02/051841およびWO 2004/000840は、M2受容体よりもM3受容体に高い親和性および選択性を示す抗ムスカリン性キヌクリジン誘導体を開示しており、当該発明によって、モルモットの気管支けいれんに対する試験において強力かつ長期間の気管支拡張作用が示されているが、データは報告されていない。
【0008】
したがって、先行技術のムスカリンアンタゴニストは主としてM2受容体よりもM3受容体に対する選択性によって特徴付けられ、WO 02/051841およびWO 2004/000840において化合物が気管支拡張作用および長期作用を有するという一般的な言及が存在するものの、実証されていない。
【発明の概要】
【0009】
発明の要約
本発明は、呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用医薬の製造における、1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の一般式(I)
【化1】

〔式中、
はH、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから選択され;
は、
− F、Cl、Br、Iおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2もしくは3−チエニル;
− F、Cl、Br、I、OHおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでRは所望により置換されたフェニルまたは所望により置換された2もしくは3−チエニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでR
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換されたフェニル;
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2または3−チエニルであり;
nは0、1または2であり;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体の使用に関する。
【0010】
本発明はまた、それ自体新規であり、そして式(Ic)
【化2】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
は3,4,5−トリフルオロフェニル、3,4−ジフルオロフェニル、2−ヒドロキシフェニルまたは4−ヒドロキシフェニルであり;
は薬学的に許容されるアニオンである〕;
式(Ib)
【化3】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
は3,4,5−トリフルオロフェニルまたは4−フルオロフェニルであり;
mは1または2であり;
nは0、1または2であり;
はH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択され;
は薬学的に許容されるアニオンである〕;
式(Ia)
【化4】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
は2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3,4,5−トリフルオロフェニルまたは2,4,5−トリフルオロフェニルから成る群から選択され;
はH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択され;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
で示される、1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態である具体的な式(I)のキヌクリジン誘導体に関する。
【0011】
さらに本発明は、呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用医薬の製造における、1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の一般式(Ia)および/または式(Ib)およびまたは式(Ic)のキヌクリジン誘導体の使用に関する。
【0012】
さらに本発明は、治療上有効量の式(I)および/または式(Ia)および/または式(Ib)および/または式(Ic)の化合物を投与することによる、呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫を処置する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の説明
本発明において、いくつかの特定のキヌクリジン誘導体がM3ムスカリン受容体に対する親和性に加えて、それらの強力かつ長期間のM3ムスカリン受容体との相互作用および高い肺保持のため、長く継続する気管支拡張作用を有することが示された。
【0014】
キヌクリジン誘導体は、カルバメートの窒素原子が所望により置換されたフェニルメチル、2もしくは3−チエニルメチル基から選択されるアリールアルキル基またはヘテロアリールアルキル基によって置換されており、そしてキヌクリジン環の窒素原子がフェニル−カルボニルアルキル基、チエニル−カルボニルアルキル基またはフェニル−チオアルキル基で4級化されていることによって特徴付けられるキヌクリジンカルバメートエステルである。
【0015】
したがって、本発明は第1の態様において、呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用医薬の製造における、一般式(I)
【化5】

〔式中、
はH、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから選択され;
は、
− F、Cl、Br、Iおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2もしくは3−チエニル;
− F、Cl、Br、I、OHおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでRは所望により置換されたフェニルまたは所望により置換された2もしくは3−チエニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでR
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換されたフェニル;
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2または3−チエニルであり;
nは0、1または2であり;
は、好ましくはクロライド、ブロマイド、アイオダイド、ヒドロキシド、スルホネート、ニトレート、ホスフェート、アセテート、トリフルオロアセテート、フマレート、サイトレート、タータレート、オキサレート、スクシネート、マンデレート、メタンスルホネートおよびp−トルエンスルホネート、より好ましくはクロライド、ブロマイド、ホルメート、トリフルオロアセテートまたはメタンスルホネートから選択される薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体の使用に関する。
【0016】
本発明の化合物はカルバミン酸の酸素と結合するキヌクリジン炭素上に不斉炭素を有するため、それらは1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態であり得る。好ましい本発明の化合物は光学的に活性であり、そして(R)立体配置である。
【0017】
本発明の第1の好ましい態様は、式(Ia)
【化6】

〔式中、
2位、3位または4位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;

− F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2−チエニル;
− F、Cl、Br、IおよびOHから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
はH、OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される〕
の化合物を含む。
【0018】
好ましい式(Ia)の化合物は、
2位または3位のRが、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
がF、Cl、Br、IおよびOHから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
がH、OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される;
ものである。
【0019】
より好ましい式(Ia)の化合物は、
2位または3位のRが、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
が2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3,4,5−トリフルオロフェニルまたは2,4,5−トリフルオロフェニルから成る群から選択され;
がH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される;
ものである。
これらの化合物はまた、それら自体が新規である。
【0020】
本発明の第1の好ましい態様の代表的な化合物は:
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−フェニルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物1]
(3R)−3−[2−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−フェニルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物2]
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−(4−フルオロフェニル)エチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物3]
である。
【0021】
本発明の第2の好ましい態様は、式(Ib)
【化7】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
はF、Cl、BrおよびIから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり
mは1または2であり;
nは0、1または2であり;
はH、OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される〕
の化合物を含む。
【0022】
好ましい式(Ib)の化合物は、
2位または3位のRがF、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
が3,4,5−トリフルオロフェニルまたは4−フルオロフェニルであり;
mが1または2であり;
nが0、1または2であり;
がH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される;
ものである。
これらの化合物はまた、それら自体が新規である。
【0023】
本発明の第2の好ましい態様の代表的な化合物は:
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−(フェニルスルファニル)エチル)−1−アゾニア−ビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物4]
(3R)−3−[(2−フルオロフェニル)−(4−フルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(フェニルスルファニル−メチル)−1−アゾニア−ビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物5]
である。
【0024】
本発明の第3の好ましい態様は、式(Ic)
【化8】

〔式中、
2位、3位または4位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
はF、Cl、Br、IおよびOHから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルである〕
の化合物を含む。
【0025】
好ましい式(Ic)の化合物は、
2位または3位のRがF、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
が3,4,5−トリフルオロフェニル、3,4−ジフルオロフェニル、2−ヒドロキシフェニルまたは4−ヒドロキシフェニルである;
ものである。
これらの化合物はまた、それら自体が新規である。
【0026】
本発明の第2の好ましい態様の代表的な化合物は:
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物6]および
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンクロライド[化合物7].
である。
【0027】
本発明の化合物を例えばWO 03/053966に記載の方法によって製造することができる。
【0028】
それらの強力かつ長期間のM3ムスカリン受容体との相互作用、およびそれらの肺における長い保持時間に鑑みて、本発明の化合物を呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用吸入組成物の製造のために使用することができる。
【0029】
したがって、本発明はさらに、1種以上の薬学的に許容される賦形剤または担体を含む肺投与用医薬組成物の製造のための、式(I)の化合物の使用に関する。
【0030】
好ましくは本発明の化合物を、所望により1種以上の好適な担体、ビークルまたは賦形剤との組合せにおいて、水溶液もしくは懸濁液、加圧ヒドロフルオロアルカン溶液もしくは懸濁液、または乾燥粉末製剤の形態における吸入組成物の製造のために使用することができる。
【0031】
上記のとおり、当該化合物はムスカリンM3受容体に対する適当な選択性および長い作用期間によって特徴付けられる。本発明の目的のためのムスカリンM3受容体に対して適当な選択性を有する化合物は、ヒトM2およびM3ムスカリン受容体結合試験において、M2/M3受容体阻害濃度(Ki)比が1より大きいものである。
【0032】
適切な作用時間を有する化合物は、摘出したハムスター気管のインビトロモデルにおいて、10nMの濃度で、カルバコールによる収縮応答の、ウォッシュアウト後4時間の回復率50%未満が検出され、そして気管支けいれんのハムスターモデルにおける気管支拡張活性が50%以上の阻害率で投与後24時間まで維持されるものである。
【0033】
さらに、作用期間の評価を考慮するとき、他の重要なパラメーターは、MRT(平均肺中保持時間)を測定することによって示される肺保持、すなわち10nmol/kgで気管内投与した後、ハムスター肺における化合物の残留およびC48L/C0.5L(%)、すなわち気管内投与後48時間の肺における化合物の量 対 投与後0.5時間の同じ化合物の量の百分率であった。本発明の化合物は、10時間以上のMRTおよび6%以上のC48L/C0.5Lと極めて遅い肺排出を示した。
【0034】
本発明を下記実験セクションでより詳細に説明する。
【実施例】
【0035】
実験セクション
製造例
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イル−エチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド[化合物6]。
(3R)−(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバミン酸1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルヒドロクロライド(WO03/053966に中間体15として記載のとおりに製造)(1g、2.248mmol)の水(5ml)溶液を、水(4ml)中過剰の炭酸ナトリウム(1g)に加え、酢酸エチル(2×10ml)で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空下で蒸発させた。
【0036】
得られた遊離塩基(750mg、1.836mmol)をアセトニトリル(4ml)に溶解させ、2−ブロモ−1−チオフェン−2−イル−エタノン(750mg、3.657mmol)のクロロホルム(6ml)溶液に滴下した。得られた溶液を12時間還流した。溶媒を蒸発させ、残渣をアセトニトリル(7.5ml)に溶解させた。数分撹拌後、結晶が生じた。固体を濾過し、アセトニトリル(1ml)で洗浄し、真空下45℃で乾燥させた。表題化合物760mgを白色固体として得た。
【0037】
母液を蒸発乾固し、カラムクロマトグラフィーで精製して(SiO、溶離剤:ジクロロメタン/メタノール=95/5から80/20)、表題化合物120gをさらに得る。
【0038】
同様に、(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イル−エチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンクロライド[化合物7]を(3R)−(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバミン酸1−アザ−ビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの遊離塩基から出発して、2−クロロ−1−チオフェン−2−イル−エタノンと反応させて製造した。
本発明の他の化合物を、製造例のとおりの同様の方法で製造することができる。
【0039】
生物学的特徴
M3ムスカリン受容体との相互作用は、試験化合物の能力および単離ハムスター気管におけるアンタゴニストのウォッシュアウト後に生み出される阻害活性のオフセットを評価するインビトロ試験の結果、ならびにハムスターにおけるアセチルコリン誘導性気管支けいれんに対するインビボの作用期間によって評価することができる。
【0040】
M3受容体とのインビトロ相互作用
単離ハムスター気管におけるアンタゴニスト活性の強さを、Haddad EB et al. in Br J Pharmacol 127、413‐420、1999によって既に記載されている方法にわずかに修正を加えて試験した。
【0041】
試験アンタゴニストに対する累積的濃度−応答曲線を、平滑筋緊張の完全阻害が達成されるまでカルバコールで予め収縮した標本で構築した。カルバコール誘導性緊張性収縮の50%逆転を生じるアンタゴニストの濃度(IC50)を、このバイオアッセイにおけるその効力の測定として得た。
【0042】
試験化合物によって生み出される阻害効果のオフセットを評価するための実験において、最大阻害効果を生み出すことが知られている試験化合物の最低濃度をカルバコールで予め収縮させた標本に投与した。緊張性収縮が完全に逆転したとき、臓器浴溶液を更新し、標本を新鮮なKrebs溶液で完全に洗浄した。カルバコール(0.3μM)を次の4時間の間、再び投与した(ウォッシュアウトと次の投与の間隔は30分の間隔)。
【0043】
カルバコールの投与後、10nMの濃度で投与した本発明の化合物の阻害効果を、カルバコールによる収縮応答の快復率として表した。ウォッシュアウトの4時間後の快復率は50%未満であった。
【0044】
インビボ試験
ハムスターにおけるアセチルコリン誘導性気管支けいれんのインビボ試験をH. Konzett H and Roessler F Arch Exp Path Pharmacol 195、71‐74、1940のとおりに行った。試験化合物の水溶液を麻酔した機械的に人工呼吸させているハムスターに気管内注入した。静脈内アセチルコリンチャレンジに対する気管支応答を薬剤投与前後で測定し、複数の時点での肺抵抗性における変化を気管支けいれんの阻害率として表した。
試験化合物の気管支拡張活性は投与後24時間まで変化しなかった。
【0045】
動力学的特徴:肺保持
肺保持を2個のパラメーターによって測定した:
MRT(肺における平均残留時間)、すなわち10nmol/kgの気管内投与後、肺ホモジナイゼーション後に測定したハムスター肺における化合物の最終測定可能濃度の時間である、肺における化合物の保持、およびC48L/C0.5L(%)、すなわち気管内投与後48時間の肺における化合物の量 対 投与後0.5時間の同じ化合物の量の百分率。
【0046】
MRTおよびC48L/C0.5L(%)は、1用量肺投与後の薬剤の効果の期間の、2個の意味のある、予測的パラメーターである。
本発明の化合物は10時間以上のMRTおよび6%以上のC48L/C0.5Lと極めて遅い肺排出を示した。
【0047】
同じ試験において、参照化合物として使用するチオトロピウムブロマイドは、7.1時間のMRTおよび2.3%のC48L/C0.5Lを示したが、他の既知の抗ムスカリン剤、イプラトロピウムブロマイドは3.9時間のMRTおよび0.3%のC48L/C0.5Lを示した。
【0048】
高い肺保持を有することに加えて、本化合物の血漿レベルが検出されなかった。これらの結果は本発明の化合物が肺で保持され、全身的循環系に到達しないことを示唆している。したがって、他の組織における潜在的な望ましくない2次的効果を回避することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の、式(Ic)
【化1】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
は3,4,5−トリフルオロフェニル、3,4−ジフルオロフェニル、2−ヒドロキシフェニルまたは4−ヒドロキシフェニルであり;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体。
【請求項2】
1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の、式(Ib)
【化2】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、BrおよびIから成る群から選択され;
は3,4,5−トリフルオロフェニルまたは4−フルオロフェニルであり;
mは1または2であり;
nは0、1または2であり;
はH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択され;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体。
【請求項3】
1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の、式(Ia)
【化3】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
は2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、3,4,5−トリフルオロフェニルまたは2,4,5−トリフルオロフェニルから成る群から選択され;
はH、CN、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択され;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体。
【請求項4】
カルバミン酸の酸素と結合しているキヌクリジン炭素が光学的に活性であり、そして(R)立体配置である請求項1〜3のいずれかに記載のキヌクリジン誘導体。
【請求項5】
がクロライド、ブロマイド、アイオダイド、ヒドロキシド、スルホネート、ニトレート、ホスフェート、アセテート、トリフルオロアセテート、フマレート、サイトレート、タータレート、オキサレート、スクシネート、マンデレート、メタンスルホネートおよびp−トルエンスルホネートから選択されるアニオンである、請求項1〜3のいずれかに記載のキヌクリジン誘導体。
【請求項6】
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−フェニルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[2−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−フェニルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−(4−フルオロフェニル)エチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(2−(フェニルスルファニル)エチル)−1−アゾニア−ビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[(2−フルオロフェニル)−(4−フルオロベンジル)−カルバモイルオキシ]−1−(フェニル−スルファニル−メチル)−1−アゾニア−ビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イルエチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンブロマイド;
(3R)−3−[(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)カルバモイルオキシ]−1−(2−オキソ−2−チオフェン−2−イル−エチル)−1−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンクロライド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のキヌクリジン誘導体と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤または担体を含む、肺投与用医薬組成物。
【請求項8】
呼吸器疾患、例えば喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、咳および肺気腫の予防および治療用医薬の製造における、1個のエナンチオマーまたはその混合物の形態の一般式(I)
【化4】

〔式中、
はH、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから選択され;
は、
− F、Cl、Br、Iおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2もしくは3−チエニル;
− F、Cl、Br、I、OHおよび所望によりFもしくはOHで置換された(C−C)−アルキルから独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでRは所望により置換されたフェニルまたは所望により置換された2もしくは3−チエニルであり;
は(CH1−4−CORまたは(CH1−4−S(O)であり、ここでR
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換されたフェニル;
− OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、NH、(C−C)−アルカノイルアミノ、(C−C)−アルキル、(C−C)−シクロアルキル、(C−C)−アルコキシル、(C−C)−アルキルチオ、(C−C)−アルコキシカルボニル、所望により置換されたフェニルまたはフェノキシから独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2または3−チエニルであり;
nは0、1または2であり;
は薬学的に許容されるアニオンである〕
のキヌクリジン誘導体の使用。
【請求項9】
がクロライド、ブロマイド、アイオダイド、ヒドロキシド、スルホネート、ニトレート、ホスフェート、アセテート、トリフルオロアセテート、フマレート、サイトレート、タータレート、オキサレート、スクシネート、マンデレート、メタンスルホネートおよびp−トルエンスルホネートから選択されるアニオンである、請求項8に記載のキヌクリジン誘導体の使用。
【請求項10】
式(Ia)
【化5】

〔式中、
2位、3位または4位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;

− F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で所望により置換された2−チエニル;
− F、Cl、Br、IおよびOHから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
はH、OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される〕
のキヌクリジン誘導体の請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
式(Ib)
【化6】

〔式中、
2位または3位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
はF、Cl、BrおよびIから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルであり;
mは1または2であり;
nは0、1または2であり;
はH、OH、NO、CN、F、Cl、Br、I、(C−C)−アルキルおよび(C−C)−アルコキシルから成る群から選択される〕
のキヌクリジン誘導体の請求項8または9に記載の使用。
【請求項12】
式(Ic)
【化7】

〔式中、
2位、3位または4位のRは、F、Cl、Br、Iおよび(C−C)−アルキルから成る群から選択され;
はF、Cl、Br、IおよびOHから成る群から独立して選択される1個以上の置換基で置換されたフェニルである〕
のキヌクリジン誘導体の請求項8または9に記載の使用。
【請求項13】
カルバミン酸の酸素と結合しているキヌクリジン炭素が光学的に活性であり、そして(R)立体配置である請求項8〜12のいずれかに記載のキヌクリジン誘導体の使用。

【公表番号】特表2009−544659(P2009−544659A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521244(P2009−521244)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057585
【国際公開番号】WO2008/012290
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(591095465)キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ (12)
【Fターム(参考)】