説明

MAPKK核外移行阻害物質peumusolideAの類縁体とその利用

【課題】NES非依存性に優れたMAPKK核外移行阻害活性を示し得るpeumusolide Aの類縁体と、それを用いた抗がん剤等の医薬品、飲食品、サプリメント、および生化学試薬を提供すること。
【解決手段】下記式(I)により表されるpeumusolide Aの類縁体であり、化合物1は、R= -(CH2)6CH3であり、化合物2は、R= -(CH2)6CH2OHである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核外移行シグナル(NES)非依存的な作用によるMAPKK核外移行阻害物質であるpeumusolide Aの類縁体とその利用に関するものである。本発明は、MAPKKおよびMAPキナーゼ系の働きが関係する様々な疾患に対する医薬品として、特に抗がん剤やその開発のためのリード化合物として、さらには飲食品、サプリメント、または生化学試薬等として利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
細胞増殖を担うMAPキナーゼカスケードが正常に機能するためには、鍵となるMAPKK(MAPキナーゼキナーゼ。「MAPK/ERK kinase」、「MEK」とも呼ばれる。)が細胞質内に局在していることが必須である。また、MAPKKは大腸癌、膵臓癌、腎臓癌など多くのがん細胞において異常亢進していることが確認されていることから、MAPKKの核外移行を阻害することでMAPキナーゼカスケードを停止させ、細胞増殖を抑制できると考えられる。
【0003】
MAPKKの核内から細胞質への移行には核外移行シグナル(NES)と輸送担体CRM1が関与しており、核外移行阻害剤として既に知られているleptomycin Bは、CRM1に結合してNES依存的にMAPKKの核外移行を阻害し、MAPKKが活性化された培養腫瘍細胞に対して選択的な毒性を示した。一方、当初NES非依存的な核外移行阻害物質は発見されていなかったことから、本発明者は、NES非依存的な核外移行阻害剤の探索に着手し、南米産薬用植物Peumus boldus MOLINA.より、5μMの濃度でNES非依存的にMAPKK核外移行阻害活性を示すpeumusolide Aを単離した(下記の特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−206542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記peumusolide Aは、NES非依存的に優れたMAPKK核外移行阻害活性を示すことから、新規抗がん剤、及びその開発のためのリード化合物としての利用をはじめ、種々の利用が期待されている。
【0006】
ところで、peumusolide Aは、側鎖に二重結合を含むアルキル基を有しているが、本発明者は、peumusolide Aをシーズとして側鎖アルキル基に二重結合のない簡略化した類縁体(アナログ)を化学的に合成することで、このような類縁体もpeumusolide Aと同様にMAPKK核外移行阻害活性を示すのではないかと考えた。そうだとすると、このような類縁体は、比較的簡易に化学合成することができる一方で、peumusolide Aと同様に、新規抗がん剤、及びその開発のための化合物として利用することができ、さらにNES非依存性MAPKK核外移行阻害による細胞応答を解析するための生化学試薬などとしても有用である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、MAPKK核外移行阻害活性を示すpeumusolide Aの類縁体と、それを用いたMAPKK核外移行阻害剤、抗がん剤等の医薬品、飲食品、サプリメント、および生化学試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意研究を進めた結果、peumusolide Aの側鎖アルキル基に二重結合を含まない簡略化した類縁体(アナログ)を立体選択的な合成法を用いて複数合成することに成功し、さらにこれらの類縁体が良好なMAPKK核外移行阻害活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の化合物は、下記の式(I)により表される化合物1又は2、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩である。
【化3】


ただし、化合物1は、R= -(CH2)6CH3であり、化合物2は、R= -(CH2)6CH2OHである。
つまり、化合物1は下記の式(1)によって、化合物2は下記の式(2)によって、それぞれ表すことができる。
【化4】


【化5】

【0010】
また、本発明の化合物は、下記の一般式(II)により表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩であってもよい。
【化6】


前記式(II)中、Rは、-(CH2)nCH3、または -(CH2)nCH2OHであり、nは1〜15の整数である。つまり、前者の構造は下記の式(3)によって、後者の構造は下記の式(4)によって、それぞれ表すことができる。
【化7】


【化8】

【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、前記の構造を有することで、優れたMAPKK核外移行阻害活性を示し得る。これにより、本発明の化合物は、MAPKK核外移行阻害剤として利用できるほか、MAPKKおよびMAPキナーゼ系の働きが関係する様々な疾患に対する医薬品として、特に抗がん剤やその開発のための化合物として、さらには飲食品、サプリメント、または生化学試薬等として利用し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができるものである。
【0013】
本発明の化合物は、例えば、植物などの天然物から単離・精製したものであっても良いし、化学的に合成したものであっても良い。また、天然物から得られた物質、例えば植物抽出物を原材料として反応等の処理を施し、製造しても良い。前記植物抽出物は、例えば、前記特許文献1(特開2006−206542号公報)に記載の南米産薬用植物(Peumus boldus MOLINA.)の抽出物等でも良い。
【0014】
また、本発明の化合物またはその塩が、互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体および配座異性体)を有するときは、それらの分離された各異性体および混合物も本発明の範囲に含まれる。さらに、本発明の化合物またはその塩は、例えば、適宜な溶媒から再結晶する等の方法により、結晶化させて用いることもできる。
【0015】
本発明の化合物の塩は、酸付加塩でも塩基付加塩でも良い。前記酸付加塩を形成する酸は、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等が可能である。有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等が可能である。前記塩基付加塩を形成する塩基は、無機塩基でも有機塩基でも良い。無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が可能であり、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が可能である。有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が可能である。本発明の化合物の塩の製造方法も特に限定されるものではなく、例えば、本発明の化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0016】
本発明の化合物またはその塩の光学異性体(鏡像異性体)については、R体およびS体のいずれかに限定されるものではなく、いずれの光学活性体も、さらにはラセミ混合物も本発明の範囲に含まれる。ただし、本発明の化合物において、環上の炭素に水酸基(-OH)が結合した3位の立体配置については、MAPKK核外移行阻害活性の観点から、その立体異性体はS体であることが好ましい(後記のスキーム1参照)。
【0017】
本発明の化合物は、前述の通り、天然物から単離・精製したものであっても化学的に合成したものでも良いが、化学構造の制御等の観点から、化学的に合成することが好ましい。また、その塩の製造方法についても特に限定されず、前述の通り、本発明の化合物に酸や塩基を適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0018】
後述の実施例に示すように、実際に本発明の化合物1および2を立体選択的に化学合成してその活性を調べたところ、化合物1はpeumusolide Aと同程度のMAPKK核外移行阻害活性を示し、アルキル鎖末端に水酸基を有する化合物2についてもMAPKK核外移行阻害活性を示すことがわかった。
【0019】
また、前記式(3)および式(4)に含まれる化合物は、それぞれ、化合物1および2における側鎖アルキル基の長さが変更されたものであるが、このように、アルキル基の長さが適当に短く、或いは長く変更された場合であっても、実質的には元の活性をそのまま備えていることが、当業者であれば容易に考察され、これらの化合物(peumusolide Aの他の類縁体)も同様にMAPKK阻害活性を有していると考えられる。
【0020】
MAPKKおよびMAPキナーゼ系は、細胞の増殖、分化など生命活動に重要な役割を担っており、多くの疾患がMAPKKおよびMAPキナーゼ系の働きに関係していると考えられる。したがって、本発明の化合物は、MAPKK核外移行阻害剤として有用であるほか、このような様々な疾患に対する治療薬・予防薬として医薬品への利用が可能である。
【0021】
とりわけ、本発明の化合物は、MAPKKの核外移行を阻害し、癌細胞の増殖を抑制することで、新規抗がん剤やその開発のための化合物としての利用が期待できる。特に、既存の抗がん剤では効果の薄い大腸癌、膵臓癌、腎臓癌由来の腫瘍細胞の大半において、正常細胞に比較してMAPKKが高いレベルで活性化されている。本発明の化合物は、peumusolide Aと同様に、NES非依存性にMAPKKの核外移行を阻害することで細胞増殖シグナルの伝達を遮断すると考えられることから、現在の化学療法が有効に働かないこれらの癌に対しても抗がん作用が期待され、新規化学療法剤の新しいシーズ分子として利用できる。また、本発明の化合物は、比較的容易に化学合成(製造)できることから、天然からの供給に頼ることなく新規抗がん剤やその開発のための化合物として利用できる。
【0022】
本発明の化合物の用途は、抗がん剤等の医薬品の用途に限定されるものではなく、例えば、生化学試薬としても利用可能である。具体的には、NES非依存性MAPKK核外移行阻害による細胞応答を解析するための生化学実験用試薬として利用できる。核膜を介した核内外へのタンパク質の移行についてはまだまだ解明されていない点が数多く残っているため、これらを解明するツール分子として本発明は有用である。特に本発明の化合物2は、末端に水酸基を有することから様々な機能性官能基を導入することが可能であり有用性は非常に高いといえる。
【0023】
また、本発明の化合物は、抗がん剤等の医薬品(医薬用組成物)としての利用のほかに、抗がん作用等の効果を有する飲食品(食用組成物)の原材料として、あるいはサプリメントなどにも利用可能である。
【0024】
以下、本発明の化合物を抗がん剤等の医薬品に用いる場合の一例について説明する。本発明の化合物は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、ヒト(または動物)に投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤等の非経口剤が挙げられる。
【0025】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設定できる。この種の製剤には、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0026】
非経口剤の場合、患者の年齢、体重、疾患の程度などに応じて用量を調節し、例えば、静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射などによって投与する。この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0027】
なお、公知のDDSを利用し、例えば、本発明の化合物をリポソームなどの運搬体に封入して体内投与してもよい。このとき標的部位の細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0028】
本発明の化合物を飲食品(食用組成物)に用いる場合は、各種飲料や各種加工食品の原材料として本発明の化合物を飲食品に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や保健食品等として利用できる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
(測定条件等)
核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、日本電子社製の機器 JEOL JNM Lambda-500(1H測定時 500 MHz)を用いて測定した。ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q、mおよびbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)および広幅線(broad)を表す。質量分析(FAB MS)およびその高分解能分析 (FAB HR-MS)は、日本電子社製の機器、高分解能二重収束質量分析計 JMS SX-102を用い、マトリックスとしてメタニトロベンジルアルコール(NBA)を用いた高速原子衝突法により測定した。また、カラムクロマトグラフィー分離の固定相には、富士シリシア製シリカゲルBW-200を用いた。
【0030】
(1)各アナログの合成
下記スキーム1に従い、それぞれ本発明の化合物1および2である、peumusolide Aのアナログ1およびアナログ2を製造した。
【化9】

【0031】
アナログ体1は、デカン酸イソプロピルエステル (6a) を出発原料としてl-メンチル-(S)-p-トルエンスルフィネートとリチウムシクロヘキシルイソプロピルアミド存在下カップリングさせた後、BrMgNiPr2存在下プロパルギルアルデヒドと縮合させ縮合体9aを得た。得られた縮合体9aを未精製のままベンゼン中炭酸水素ナトリウムを加えて加熱条件下攪拌し、脱スルホキサイド反応を行いヒドロキシイソプロピルエステル10aへと導いた。続いて、水酸化カリウムによってイソプロピルエステルを加水分解し、ジクロロメタン中炭酸水素ナトリウム存在下攪拌することで環化反応を進行させアナログ体1の合成を完了した。
【0032】
また、アルキル鎖末端に水酸基を有するアナログ2については、出発原料として用いる10-ハイドロキシデカン酸イソプロピルエステルを以下の方法で合成した。すなわち、1,10-デカンジオールの一方の水酸基をtert-ブチルジフェニルシリル基で保護した後、Dess Martin 酸化に続く亜塩素酸酸化によりカルボン酸へと導いた後、イソプロピルアルコールと縮合させ、10-tertブチルジフェニルシロキシデカン酸イソプロピルエステル6bを合成した。合成した6bを出発原料として6aの代わりに、アナログ1と同様のルートを用いて環化体12bへと導いた。最後にHF-pyridineを用いてtert-ブチルジフェニルシリル基を脱離させてアナログ2を合成した。
以下、前記スキーム1についてより具体的に説明する。
【0033】
(1−1)化合物8aの合成
化合物8aは、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、N-cyclohexylisopropylamine (5.44 mL, 32.0 mmol) のTHF (56 mL)溶液に-25 ℃でn-BuLi (32.0 mmol, 20.0 mL, 1.6 M in n-hexane)を加えた。-25 ℃で30分攪拌後、-78 ℃に冷却し、isopropyl n-decanoate (化合物6a, 6.8 g, 32.0 mmol)のTHF (32 mL)溶液を滴下した。-78 ℃で30分攪拌後、l-menthyl-(S)-p-tolylsulfinate (化合物7, 16.0 mmol, 3.9 g)のTHF (32 mL)溶液を加え、30分間攪拌した。次に、飽和塩化アンモニウム水溶液 (20 mL)を加え室温に昇温した。反応液をEtOAcで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 330 g, benzene → n-hexane : EtOAc = 6 : 1) で精製し、化合物8aを 2.47 g (7.04 mmol, 44 %)得た。
以下に、化合物8aの機器分析データを示す。
化合物8a : [α]D +31.1°(c 1.0, CHCl3). IR (KBr): 1732, 1243, 1065 cm-1. 1H-NMR (CDCl3) δ: 7.55 (2H, d, J = 8.2 Hz, 13-H), 7.30 (2H, d, J = 8.2 Hz, 14-H), 4.81 (1H, quint, J = 6.2 Hz, 11-H), 3.40 (1H, dd, J = 9.7, 5.1 Hz, 2-H), 2.41 (3H, s, 15-H), 1.73 (2H, m, 3-H), 1.22 (12H, s, 4-9-H), 1.20 (3H, d, J = 6.2 Hz, 12-H), 1.12 (3H, d, J = 6.2 Hz, 12-H), 0.86 (3H, t, J = 6.2 Hz 10-H). FAB-MS : m/z : 353 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C20H32O3S+H: 353.2150, Found: 353.2152.
【0034】
(1−2)化合物10aの合成
化合物10aは、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、diisopropylamine (5.33 mL, 38.0 mmol)のEt2O (27 mL)溶液にethylmagnesium bromide (38.0 mmol, 1.0 M in Et2O)を加えた。[ethylmagnesium bromide はmagnesium (38.0 mmol, 912 mg)のEt2O (38 mL)溶液にethyl bromide (38.0 mmol, 4.1 g)を加え室温で30分間攪拌し調製した。] 1時間加熱還流後、化合物8a (669 mg, 1.9 mmol)のEt2O (1.9 mL)溶液を滴下し加えた。室温で1時間攪拌後、-50 ℃に冷却し、propargylaldehyde (103 mg, 1.9 mmol)を加え、-50 ℃で15分間攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え室温に昇温し、EtOAcで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去し、化合物9aの粗生成物を3.4 g得た。
得られた粗生成物9a (3.4 g)のbenzene (100 mL)溶液にNaHCO3 (0.95 mol, 80 g)を加え、60 ℃で2時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液 (20 mL)を加え、反応液をEtOAcで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 80 g, n-hexane : EtOAc = 10 : 1 → benzene) で精製し、化合物10aを 212 mg (0.8 mmol, 42 % 2 steps)得た。
以下に、化合物10aの機器分析データを示す。
化合物10a : [α]D +5.0°(c 0.7, CHCl3). IR (KBr): 3320, 2270, 1720, 1655, 1240 cm-1. 1H-NMR(CDCl3)δ: 6.80 (1H, t, J = 7.8 Hz, 6-H), 5.24 (1H, d, J = 11 Hz, 3-H), 5.15 (1H, quint., J = 6.2 Hz, 14-H), 4.11 (1H, d, J = 11 Hz, 3-OH), 2.45 (1H, d, J = 2.2 Hz 5-H), 2.25 (2H, m, 7-H), 1.30 (16H, m, 8-12, 15, 16-H), 0.88 (3H, t, J = 6.8 Hz 13-H). FAB-MS : m/z : 267 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C16H26O3+H: 267.1960, Found: 267.1955.
【0035】
(1−3)アナログ1(化合物1)の合成
化合物1は、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、化合物10a (86.4 mmol, 23.0 mg)のEt2O (1 mL)溶液にClaisen's alkali (1 mL) [KOH (7 g) in H2O (5 mL) and MeOH (20 mL)]を加え、室温で1時間攪拌した。0 ℃に冷却し、Et2O (0.5 mL)を加え、6 N のHCl水溶液をpH 2になるまで加えた。H2O (1 mL)を加え、生成する塩を溶解し、反応液をEt2Oで抽出した。有機層をMgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 3 g, n-hexane : EtOAc = 2 : 1) で精製し、化合物11aを 11.6 mg (51.8 mmol, 60 %)得た。
化合物11a (16.5 mmol, 3.7 mg)のbenzene (1 mL)溶液にAg2CO3 (3.5 mmol, 0.95 mg)を加え、80 ℃で30分間攪拌した。H2O (1 mL)を加え、反応液をEtOAcで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、MgSO4で乾燥し、減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 500 mg, benzene : EtOAc = 9 : 1) で精製し、化合物1を 2.1 mg (9.57 mmol, 58 %)得た。また、得られた化合物1はキラルカラム (Chiracel OD 4.6 mm i.d. x 250 mm, mobile phase : n-Hex : iPrOH = 9 : 1, flow : 1.0 mL/min, detection : UV = 220 nm)を用いたHPLC分析により分離した。
以下に、化合物1の機器分析データを示す。
化合物1: [α]D - 42.2 °(c 0.57, MeOH). IR (KBr): 3418, 1770, 1672 cm-1. 1H-NMR (CDCl3)δ: 7.09 (1H, td, J = 2.1, 7.8 Hz, 6-H), 5.26 (1H, bs, 3-H), 4.96 (1H, dd, J =1.2, 1.8 Hz, 5a-H), 4.72 (1H, dd, J = 1.2, 1.8 Hz, 5b-H), 2.3-2.4 (2H, m, 7-H), 1.50 (2H, m, 8-H), 1.25 (8H, br, 9-12H), 0.90 (3H, t, J = 7.8 Hz, 13-H). FAB-MS m/z : 226 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C13H20O3S+H: 226.1525, Found: 226.1524.
【0036】
(1−4)化合物6bの合成
化合物6bは、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、1,10-decandiol (化合物3, 28.7 mmol, 5.0 g)のCH2Cl2 (28.6 mL)溶液にimidazole (28.7 mmol, 1.95 g)とTBDPSCl (28.7 mmol, 7.86 g)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液をEtOAcで希釈し、飽和重曹水、飽和塩化アンモニウム水溶液で順次洗浄し、MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 200 g, n-hexane : EtOAc = 5 : 2 → EtOAc) で精製し、化合物4を 6.98 g (16.9 mmol, 59 %)得た。
化合物4 (10.9 mmol, 4.5 g)のCH2Cl2 (48 mL)溶液にDess-Martin periodinane (10.9 mmol, 4.5 g)を0 ℃で加え、60 ℃で終夜攪拌した。反応液に飽和重曹水と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え透明になるまで攪拌した。反応液をEtOAcで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後MgSO4で乾燥し、減圧下溶媒を留去して化合物5の粗生成物(4.5 g)を得た。
化合物5の粗生成物(4.5 g)のCH3CN (10.9 mL)溶液にリン酸二水素ナトリウム水溶液 [5.8 mmol, 697 mg in H2O (4.36 mL)]と30 %過酸化水素水 (2.2 mL)を加え、さらに、亜塩素酸ナトリウム水溶液 [30.4 mmol, 2.74 g in H2O (30.5 mL)] を室温で1時間かけ滴下し加えた。反応液を終夜攪拌し、亜硫酸ナトリウム (2.2 g)を加えた。次に反応液に5 % HClを加えpH 2とし、EtOAcで抽出した。得られた有機層をMgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 180 g, n-hexane : EtOAc = 3 : 1) で精製し、カルボン酸を 4.2 g (9.9 mmol, 91 % -2 steps)得た。
カルボン酸 (9.9 mmol, 4.2 g)のiPrOH (85 mL)溶液にEDCI・HCl (9.9 mmol, 1.5 g)とDMAP (9.9 mmol, 1.2 g)を加え、室温で15分間攪拌した。反応液に飽和食塩水を加え、EtOAcで抽出した。得られた有機層を5% HCl、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 110 g, n-hexane : EtOAc = 3 : 1) で精製し、化合物6bを 4.0 g (8.6 mmol, 87 %)得た。
以下に、化合物6bの機器分析データを示す。
化合物6b : 1H-NMR (CDCl3)δ: 7.66 (4H, d, J = 8.0 Hz, 11-H), 7.46 (6H, m, 12, 13-H), 5.00 (1H, quint, J = 6.9 Hz, 15-H), 3.64 (2H, t, J = 6.5 Hz, 1-H), 2.25 (2H, t, J = 6.5 Hz, 2-H), 1.55-1.63 (4H, m, 3, 9-H), 1.26 (10H, br, 4-8-H), 1.23 (6H, d, J = 6.9 Hz, 16-H), 1.04 (9H, s, 14-H). FAB-MS : m/z : 469 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C29H44O3Si+H: 469.3138, Found: 469.3133.
【0037】
(1−5)化合物8bの合成
化合物8bは、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、化合物6b (2.07 mmol, 970 mg)を用いて化合物8aの合成と同様の方法によって得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 45 g, n-hexane : EtOAc = 20 : 1) で精製し、化合物8bを 309 mg (0.51 mmol, 49 %)得た。
以下に、化合物8bの機器分析データを示す。
化合物8b : [α]D +30.4°(c 1.0, CHCl3). IR (KBr): 1735, 1245, 1072 cm-1. 1H-NMR (CDCl3)δ: 7.29-7.67 (14H, overlapped, 11-13,17,18-H), 4.81 (1H, quint, J = 6.0 Hz, 15-H), 3.63 (2H, t, J = 6.5 Hz, 10-H), 3.39 (1H, dd, J = 5.4, 9.6 Hz 2-H), 2.40 (3H, s, 19-H), 1.57 (4H, m, 3, 9-H), 1.25 (10H, br, 4-8-H), 1.14 (3H, d, J = 6.0 Hz, 16-H) , 1.04 (9H, s, 14-H), 0.93 (3H, d, J = 6.0 Hz, 16-H). FAB-MS : m/z : 607 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C36H51O4SSi+H: 607.3277, Found: 607.3280.
【0038】
(1−6)化合物10bの合成
化合物10bは、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、化合物8b (306 mg, 0.5 mmol)を用いて化合物9aの合成と同様の方法によって化合物9bの粗生成物を361 mg得た。さらに化合物9bの粗生成物(361 mg) を用いて化合物10aの合成と同様の方法によって得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (SiO2 : 10 g, benzene) で精製し化合物10bを 109 mg (0.21 mmol, 46 % 2 steps)得た。
以下に、化合物10bの機器分析データを示す。
化合物10b : [α]D +4.5°(c 0.7, CHCl3). IR (KBr): 3300, 2265, 1722, 1650, 1243 cm-1. 1H-NMR (CDCl3)δ: 7.29-7.68 (10H, overlapped, 11-13-H), 6.80 (1H, t, J = 7.8 Hz, 3-H), 5.24 (1H, d, J = 11 Hz, 17-H), 5.16 (1H, quint., J = 6.2 Hz, 15-H), 4.12 (1H, d, J = 11 Hz, 17-OH), 3.65 (2H, t, J = 6.5 Hz, 10-H), 2.46 (1H, d, J = 2.2 Hz 18-H), 2.26 (2H, m, 4-H), 1.57 (2H, m, 9-H), 1.25 (8H, br, 5-8-H), 1.30 (14H, m, 5-8, 16-H), 1.05 (9H, s, 14-H). FAB-MS : m/z : 521 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C32H44O4Si+H: 521.3087, Found: 521.3090.
【0039】
(1−7)アナログ2(化合物2)の合成
化合物2は、前記スキーム1に従い、以下のように合成した。まず、化合物10b (90 mg, 0.17 mmol) を用いて化合物11aの合成と同様の方法によって化合物11bの粗生成物を96 mg得た。さらに化合物11bの粗生成物 (96 mg) を用いて化合物1の合成と同様の方法によって化合物12bを 32.3 mg (67.4μmol, 39 % 2 steps)得た。化合物12b (75.2μmol, 36 mg)のTHF (1.8 mL)溶液にHF-pyridine (6μL)を加え、室温で3時間攪拌した。飽和重曹水を加え、反応液をEtOAcで抽出し、有機層を5 % HCl、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄した。MgSO4で乾燥後、減圧下溶媒を留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー [SiO2 : 1 g, CHCl3 : MeOH : H2O = 30 : 3 : 1 (lower layer)] で精製し、化合物2を 14.5 mg (60.2μmol, 80 %)得た。
以下に、化合物2の機器分析データを示す。
化合物2: [α]D -35.4°(c 0.6, MeOH). IR (KBr): 3350, 1768, 1670 cm-1. 1H-NMR (CDCl3)δ: 7.07 (1H, td, J = 2.1, 7.8 Hz, 6-H), 5.25 (1H, br, 3-H), 4.94 (1H, dd, J =1.2, 1.8 Hz, 5a-H), 4.72 (1H, dd, J = 1.2, 1.8 Hz, 5b-H), 3.64 (2H, t, J = 6.5 Hz,13-H), 2.4-2.5 (2H, m, 7-H), 1.48 (2H, m, 8-H), 1.25 (8H, br, 9-12H). FAB-MS : m/z : 241 [M+H]+. HR FAB-MS: m/z: Calcd. for C13H20O4+H: 241.1362, Found: 241.1360.
【0040】
(2)アナログ1・2のMAPKK核外移行阻害活性
上記(1)の方法で合成したアナログ1およびアナログ2のMAPKK核外移行阻害活性を次のようにして測定した。
培地中に2 x 104 cell/mLの濃度に調製したHeLa細胞をセルデスクの入った24穴プレートに1 mLずつ分注し、37 ℃で24時間前培養を行った。培地を除去し、被検薬物をDMSOに溶解させ培地を用いて適切な濃度に希釈した後500μL添加した。添加したDMSOの終濃度は1 %である。3時間培養後、培地を除去し、氷冷したD-PBS(-)溶液で洗浄、10 % ホルマリン溶液 1 mLを添加し、30分間室温で固定化した。氷冷したD-PBS(-)溶液で洗浄後、MeOH 1 mLで10分間室温で脱脂し、再度洗浄した後、3 % FBS溶液で20分間室温でブロッキングした。次に、氷冷した1 % BSA / D-PBS(-)溶液 1 mLにマウス抗MAPKK1抗体1μL及びマウス抗MAPKK2抗体1μLの割合で添加した溶液を200μL添加し、1時間室温で反応させた。続いて、氷冷したD-PBS(-)溶液で洗浄後、氷冷した1 % BSA / D-PBS (-)溶液で300倍に希釈した FITC標識マウス抗マウスIgG抗体 200μLと30分間室温で反応させた。氷冷したPBS(-)溶液および蒸留水で洗浄し、セルデスクに付着した細胞をスライドグラスにマウントし、顕微鏡下でMAPKKの細胞内局在を観察した。MAPKKの核外移行が阻害され蛍光が細胞内に一様に分布しているHeLa細胞の割合が50 %以上の場合を(+)として、最小有効濃度 (MIC)を評価した。
【0041】
上記解析の結果、アナログ1はpeumusolide Aと同等の5μMのMICを示した。また、アナログ2のMICは30μMであり、最小有効濃度に違いはみられたものの、アナログ1およびアナログ2のいずれも、MAPKK核外移行阻害活性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明の化合物は、NES非依存性に優れたMAPKK核外移行阻害活性を示し得ることから、MAPKK核外移行阻害剤として利用できるほか、MAPKKおよびMAPキナーゼ系の働きが関係する様々な疾患に対する医薬品として、特に抗がん剤やその開発のための化合物として、さらには飲食品、サプリメント、または生化学試薬等として利用し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)により表される化合物1又は2、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化1】


ただし、化合物1は、R= -(CH2)6CH3であり、化合物2は、R= -(CH2)6CH2OHである。
【請求項2】
下記の一般式(II)により表される化合物、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化2】


前記式(II)中、Rは、-(CH2)nCH3、または -(CH2)nCH2OHであり、nは1〜15の整数である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とするMAPKK核外移行阻害剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を有効成分とする医薬品。
【請求項5】
抗がん剤の用途に使用される請求項4に記載の医薬品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つの物質を含み、飲食品、サプリメント、または生化学試薬として用いられる製品。

【公開番号】特開2008−201751(P2008−201751A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41604(P2007−41604)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】