説明

MN/CAIX/CA9及び腎臓癌の予後診断

本明細書に開示されているのは、脊椎動物を冒す腎細胞癌腫特に腎臓明細胞癌腫に関する予後診断方法である。例示的な予後診断方法は、罹患した患者由来の試料中でMN/CA9遺伝子発現産物の存在を検出する工程及びそのレベル及び/又は程度を定量する工程を含み、ここで50%以下の細胞がMN/CA9遺伝子を発現することが判明した場合には該患者はより不良な予後を有するものとみなされる。該予後診断方法において有用であるMN/CA9遺伝子発現産物としては、MNタンパク質、MNポリペプチド及び/又はMN核酸が含まれる。本方法は、単独で又は従来の腫瘍病期及び/又は等級の情報と組合せた形で腎細胞癌腫患者のための治療の選択を補助するものとして有用である。本発明の方法は例えば、より積極的な療法レジメンを必要とする患者又は特にMN/CA IX/CA9標的療法といったアシュバント免疫療法に応答する確率が最も高い患者を同定するために使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床遺伝子工学の全般的分野及び生化学工学、免疫化学及び腫瘍学の分野に関する。より詳細には、これはMN遺伝子つまり、代替的にMNタンパク質、MN/CA IXイソ酵素、MN/CA IX、炭酸脱水酵素IX、CA IX、MN/G250又はG250タンパク質として現在知られているオンコプロテインをコードする、代替的にMN/CA9、CA9又は炭酸脱水酵素9として知られている1つの腫瘍遺伝子とみなされる細胞遺伝子に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、腎臓癌、特に腎臓明細胞癌腫についての予後診断検定のため及び癌治療に関する臨床的決定を行なうための根拠を提供する、腎臓癌患者の試料中のMN抗原又はMN遺伝子発現の同定に関する。
【背景技術】
【0003】
上述のように、MN遺伝子及びタンパク質は、本明細書でその名前を互換的に使用している一定数の代替的名称で知られている。MNタンパク質は亜鉛を結合し炭酸脱水酵素(CA)活性を有することがわかっており、現在9番目の炭酸脱水酵素イソ酵素−MN/CA IX又はCA IX[22]とみなされている。炭酸脱水酵素の命名法に従うと、ヒトCAイソ酵素は、大文字のローマ字及びローマ数字で書かれ、一方その遺伝子はイタリック体とアラビア数字で書かれている。代替的には、「MN」は本明細書で、前後関係によって指示されるように炭酸脱水酵素イソ酵素IX(CA IX)タンパク質/ポリペプチド、又は炭酸脱水酵素イソ酵素9(CA9)遺伝子、核酸、cDNA、mRNAなどのいずれかを意味するために使用される。
【0004】
MNタンパク質はG250抗原を用いても同定されてきた。ウエムラ(Uemura)ら[23]は「配列分析とデータベース検索により、G250抗原が子宮頸癌腫中で同定されたヒト腫瘍関連抗原であるMNと同一であることが判明した(パストレック(Pastorek)ら、1994年)」と記述している。
【0005】
ザバダ(Zavada)ら、特許文献1(1993年9月16日公開)及び特許文献2(1995年2月7日発行)は、MN遺伝子及びタンパク質の発見について記述している。MN遺伝子は、テスト対象となった全ての脊椎動物の染色体DNA中に存在することが発見されており、その発現は発癌性と強い相関関係をもつことがわかっている。一般に、腫瘍形成は、CA IXタンパク質の発現異常という形で明らかになる。例えば、腫瘍形成は、(1)通常は何らかの有意な度合いでCA IXタンパク質を発現することのない組織内にCA IXタンパク質が存在する場合;(2)CA IXタンパク質が、通常はそれを発現する組織に不在である場合;(3)CA9遺伝子発現が1つの組織内で通常発現されるレベルよりも有意な形で増大したレベルにあるか又は有意な形で減少したレベルにある場合;又は(4)CA IXタンパク質が1つの細胞内部の異常な場所で発現される場合、に知らされる可能性がある。特許文献1はさらに、その他のMN関連の発明の中でも、M75MAb及びM75MAbを分泌するVU−M75ハイブリドーマを含めたMN/CA IX特異的モノクローナル抗体(MAbs)を開示している。M75MAbは特異的にMN/CA IXタンパク質のプロテオブリカン(PG)ドメイン上の免疫優性エピトープに結合する。
【0006】
ザバダ(Zavada)ら、特許文献3(1995年12月21日公開)は、図1の中で、本明細書に記述されている通りに単離された全長MNcDNAのヌクレオチド配列[配列番号1]及びそのMNcDNAによりコードされたアミノ酸配列[配列番号2]を提供している。特許文献3は同様に、MNプロモータのためのヌクレオチド配列を図6で提供している。これらのMNcDNA、プロモータ、及びアミノ酸配列は本明細書に参照により援用されている。
【0007】
ザバダ(Zavada)ら、特許文献4(2003年12月4日公開)は、その他のMN関連発明の中でも、MN/CA IXタンパク質の炭酸脱水酵素(CA)ドメイン上のものを含めた、非免疫優性エピトープに向けられているMN/CA IX特異的MAbsを開示している。かかるMN/CA IX特異的MAbの一例が、V/10−UV−ハイブリドーマから分泌されたV/10MAbである。
【0008】
MNタンパク質は現在、最初に記述された腫瘍関連炭酸脱水酵素イソ酵素であると考えられている。炭酸脱水酵素ファミリー(CA)には、可逆的水和−脱水つまりCO+HO⇔HCO+Hに関与する11の触媒的に活性な亜鉛金属酵素が含まれる。CAは異なる生体の中で広く分布している。CAはさまざまな生理学的及び生物学的プロセスに参与し、著しく多様な組織分布、細胞内局在化及び生物学的機能を示す[24、25、26]。炭酸脱水酵素IX、CA IXは、最近同定されたイソ酵素のうちの1つである[22、27]。形質転換された細胞系列及び複数のヒト悪性腫瘍中のCA IX過剰発現のため、それは腫瘍関連抗原として認識されヒトの癌の発生に結びつけられてきた[8、16、28]
CA IXは、ユニークなN末端プロテオグリカン様延長を伴うグリコシル化膜貫通型CAアイソフォームである[22]。トランスフェクション研究を通して、CA IXが3T3細胞の形質転換を誘発できる、ということが実証されてきた[22]。最近の研究は、CA IXが細胞付着に参加するばかりでなく、MNプロモータの低酸素症応答性要素に対するHIF−1タンパク質結合を介して低酸素症においても誘導され得るということを明らかにした[29、30]。MN遺伝子の転写は、腎細胞癌腫細胞内で野生型フォン・ヒッペル・リンドラ腫瘍抑制遺伝子による負の調節を受ける[31]。フォン・ヒッペル・リンドラ腫瘍抑制遺伝子のタンパク質産物は、酸素依存型タンパク質分解のためのHIF−1αのターゲティングを担当するユビキチンリガーゼ複合体と相互作用する[32、33]。かくして、酸素の低いレベルはHIF−1αの安定化を導き、そのことが今度はMNの発現増加を導く[30]。癌におけるMNの高発現領域は、多くの癌において報告されているような腫瘍低酸素症と結びつけられ、低酸素条件下での腫瘍細胞のインキュベーションは、MN発現の誘発を導く[30、34〜38]。
【0009】
MN特異的モノクローナル抗体(MAb)M75を用いた数多くの研究が、前癌状態及び癌性頸部病巣を診断/予後診断する上でのMNの診断/予後診断的有用性を確認してきた[16、39、40]。子宮頸癌腫のM75MAbを用いた免疫組織化学研究及び腎細胞癌腫のPCRベース(RT−PCR)の調査がこれらの癌と密接な関連性をもつものとしてMN発現を同定し、腫瘍バイオマーカーとしてのMNの有用性を確認した[16、39、41]。さまざまな癌(なかでも特に子宮頸癌、卵巣癌、子宮内膜癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、食道癌、頭頸部癌及び前立腺癌)において、CA IX発現は増大し、一部の腫瘍において微細血管密度及び低酸素症と相関されてきた[34、35]。
【0010】
通常MNタンパク質を発現しない組織において、CA IXの陽性率は、その他の前癌/癌の中でも肺、乳房及び子宮頸部の前癌/癌[36−38]といった新生物発生前/新生物疾患についての診断とみなされている。きわめてわずかな正常組織しかMNタンパク質を何らかの有意な度合いで発現しないということが発見されてきた。これらのMN発現する正常細胞としては、ヒト胃粘膜及び胆嚢上皮及び消化管のその他の一部の正常細胞が含まれる[42−44]。
【0011】
成人の悪性腫瘍全体の3%を占める腎細胞癌腫(RCC)は、泌尿器癌の中でも最も致死率の高いものである[1]。RCCは、USにおいて、癌死亡原因の第9位にあり、2004年には35000件の新たな症例と12000人超の死亡者が予想されている[2]。RCCの発生率は、さまざまな腹部及び胃腸疾患の評価のための超音波検査及びコンピュータ断層撮影がより広く用いられたことに大きく起因して、1970年代から増大した[3]。RCCについては、利用可能な最良の予後診断インジケータは病期であるが、現行の予後診断因子つまりフールマン等級及び性能状態ならびに病期は、患者の転帰及び癌攻撃性を予測するには不充分である[4−6]。かくしてさらなる予後診断情報を提供するバイオマーカーの同定が、最適な治療及び転帰を画定するためにきわめて重要であると思われる。
【0012】
上述の通り、炭酸脱水酵素ファミリーの一成員であるMNが一部の腫瘍タイプにおいて構成的に誘導されるものの、大部分の正常な組織内には存在しない、ということが以前の研究によって示されてきた[7−10]。さらに、悪性及び良性の腎臓組織についての以前の免疫生化学研究は、MNが同様にRCC内において高レベルで発現されることを明らかにしており、MN発現が有用な診断的バイオマーカーであることを示唆している[11、12、15−17]。ブイ(Bui)ら[17]は、RCC内でCA IXと共に使用された場合にもう1つのバイオマーカーKi67が生存率を高レベルで予測すると記述している。さらにザバダ(Zavada)ら[18]は、RCC患者の体液(尿及びCA IX血清)中に可溶形態のCA IXを発見した。[同様にザバダ(Zavada)ら、特許文献4(2003年12月4日公開)も参照のこと]。
【0013】
本明細書で開示されているのは、MN発現がRCC特に腎臓明細胞癌腫(CCC)のための予後診断マーカーとして有用であることが示されている方法である。CCCは、RCCを約85%まで含んでいる。本明細書で開示されている実際はRCC特にCCC内の分子マーカーとしてのMNの見込みのある有意性を裏づけるものである。RCC特にCCCにおける低いMN発現は、予後不良因子であることが発見され、逆に高いMN発現は予後良好因子であることが発見された。MN発現は本明細書中で、T病期及びフールマン等級と比べた場合の最高のRRG因子であることが開示されている。MN発現の低下は本明細書において生存率不良と独立して関連づけされるものとして開示されている。
【0014】
本発明の予後診断方法は、RCC/CCCについてのより良好な予後とより不良な予後の間のカットオフとして50%のMN/CA IX/CA9発現を用いている。リアオ(Liao)ら[12](2828頁目)は、MN/CA IX免疫染色パターンを「50%超の細胞が染色された場合広範性とし50%以下の細胞が染色された場合には限局性である」として記述した。本発明の方法はカットオフ値として50%を使用しているが、ブイ(Bui)ら[15](4頁目)は、組織アレイからのMN/CA IX免疫染色評点情報の生存木解析により、「85%という染色割合(%)が患者の生存の層化のための理想的カットオフであった」ということを発見した[同様にブイ(Bui)ら、特許文献5(2003年10月30日公開)も参照のこと]。
【0015】
本発明の予後診断方法は、臨床的転帰及び腫瘍の挙動を予測するために使用できる。本明細書で開示されている予後診断方法は、MN発現のレベル、程度及び/又は強度を検出しかつ/又は定量し、その他の適切な療法の中でもアシュバント免疫療法及びMN/CA IX/CA9標的療法の恩恵を受けることのできるハイリスクRCC/CCC患者を同定することができる。
【0016】
ブイ(Bui)ら[15]からの予備データはMN/CA IXと免疫療法応答の関係を表わしている。同様にして、MN/CA IXに対するモノクローナル抗体に基づく療法又はMN/CA IXベースのRCCワクチンを用いた免疫療法[15、19−21]ならびに[例えばザバダ(Zavada)ら、特許文献6(2000年5月4日公開)で開示されているような]プロモータ活性をもつMNプロモータフラグメント又はMN遺伝子プロモータ、好ましくは低酸素症応答性要素(HRE)を含むMNプロモータフラグメント、好ましくはMNHREに対し操作可能に連結された細胞傷害性タンパク質/ポリペプチド及び/又はサイトカインをコードするベクターも同様に、RCC/CCC患者試料内のMN/CA IX/CA9発現のレベル及び/又は程度に従って考慮することができる。
【特許文献1】国際公開第93/18152号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,387,676号明細書
【特許文献3】国際公開第95/34650号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/100029号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03/089659号パンフレット
【特許文献6】国際公開第00/24913号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、腎細胞癌腫(RCC)に罹患する患者、特に腎臓明細胞癌腫(CCC)に罹患する患者から採取した試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出しかつ/又はそのレベル及び/又は程度を定量するための方法において、前記検出及び/又は定量が患者の予後を判定する上で有用であることを特徴とする方法に関する。RCC/CCC患者は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物そしてより好ましくはヒトであろう。本方法は、RCC/CCC患者から採取した新生物細胞を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物を検出しそのレベル及び/又は程度を定量する工程及び前記試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現することをMN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度が示している場合該患者がより不良な予後を有することを判定する工程を含む。より不良な予後は、例えば、累積生存率の短縮、再発のリスクの増大及び/又は転移のリスクの増大に関して測定することができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態においては、MN/CA9遺伝子発現産物はMN/CA IX抗原であり、MN/CA IX抗原は、新生物細胞を含む脊椎動物の試料、好ましくは哺乳動物の試料、より好ましくはヒトの試料中で定量される。臨床的転帰を予測することに加えて、本発明の方法は同様に、アシュバント療法を必要とするハイリスク患者を同定しかつ/又はその他の治療単位の中でもMN/CA9/CA IX標的療法に対する候補を同定することもできる。
【0019】
1つの態様において、本発明は、対象脊椎動物を冒す腎細胞癌腫に関する予後診断方法に関するものであり、例示的な方法は、
(a)前記脊椎動物から採取した新生細胞を含む試料中でMN/CA9遺伝子発現産物の有無を検出する工程、
(b)MN/CA9遺伝子発現産物が前記試料中に存在する場合、前記試料中の細胞数に対して前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度を定量する工程、及び
(c)工程(a)及び(b)のMN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度が前記試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現することを示している場合に、前記脊椎動物がより不良の予後を有するものと判定する工程、
を含み、
前記MN/CA9遺伝子発現産物は、
(1)配列番号1のコード領域、
(2)配列番号1のコード領域の相補体に対し42℃で50%のホルムアミドのストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列、及び
(3)遺伝子コードの縮重に起因してコドン配列内の(2)のヌクレオチド配列と又は配列番号1のコード領域と異なるヌクレオチド配列、
より成る群から選択されたヌクレオチド配列によってコードされる。配列番号1は前出のザバダ(Zavada)らの国際特許公開第95/34650号パンフレットで開示されているように全長MNcDNAである。
【0020】
検出工程(a)において前記MN/CA9遺伝子発現産物を検出するために本発明の方法に従って使用されるべき好ましい検定は、前記MN/CA9遺伝子発現産物がMN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドを含んでいるようなものであり、前記検定は、ウエスタンブロット法、酵素結合免疫吸着法、放射免疫測定法、競合免疫検定法、2重抗体サンドイッチ検定、免疫組織化学的染色検定、凝集検定、及び螢光免疫検定より成る群から選択される。より好ましくは、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程(a)は、免疫組織化学的染色の使用を含み、前記定量工程(b)は、MN/CA IX免疫反応性細胞の割合(%)及び/又はMN/CA IX免疫反応性細胞の免疫染色の強度及び/又は程度を判定する工程を含み、ここで前記試料中の50%以下の細胞が免疫反応性を有する場合、前記試料中の50%超の細胞が免疫反応性を有する場合に比べて不良な予後を前記脊椎動物が有するという結論を下される。好ましくは定量工程(b)はMN/CA IX免疫反応性細胞の割合(%)を判定する工程を含む。さらに一層好ましくは、前記検出工程(a)は、MN/CA IX−特異的モノクローナル抗体、好ましくは、受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU−M75により分泌されたM75MAbの使用を含む。
【0021】
本発明の好ましい実施形態においては、MN/CA9遺伝子発現産物はCA IX抗原であり、CA IX抗原は、新生物発生前/新生物の脊椎動物試料、好ましくは哺乳動物試料、より好ましくはヒト試料中で定量され、ここで該脊椎動物、哺乳動物又はヒトはRCC特にCCCに罹患している。かかる試料は他の試料の中でも例えば組織標本、組織抽出物、体液、細胞、細胞溶解物及び細胞抽出物であり得る。例えば免疫組織化学的染色による検定のための好ましい組織標本には、その他の組織試料中でも細胞塗布標本、生検された組織又は器官からの組織学的切片、そしてインプリント調製物が含まれる。かかる組織標本は、さまざまな形で維持され得、例えば新鮮状態、凍結状態又はホルマリン、アルコール又はアセトン又はその他の形で固定された状態及び/又はパラフィン包埋されパラフィン除去された状態にあり得る。好ましい組織標本は、ホルマリン固定及びパラフィン包埋組織標本である。
【0022】
対象脊椎動物を冒す腎細胞癌腫についての予後診断方法である例示的かつ好ましい方法は、
(a)前記脊椎動物から取られた新生物細胞を含む試料中のMN/CA9遺伝子発現産物の有無を検出する工程であって、試料中のMN/CA IXタンパク質の有無を検出するためのMN/CA IX特異的抗体での免疫組織化学的染色の使用を含む工程、
(b)MN/CA IXタンパク質が前記試料中に存在する場合に、細胞の数に対して前記試料中の前記MN/CA IXタンパク質のレベル及び/又は程度を定量する工程であって、前記試料中の細胞のMN/CA IX免疫反応性評点を判定すること及び細胞膜染色で免疫反応性細胞の割合(%)を判定することを含む工程を含み、ここで免疫反応性細胞の割合(%)には
免疫反応性細胞が全く無い場合、0の値
50%以下の免疫反応性細胞の場合、1の値
50%超の免疫反応性細胞の場合、2の値
をもつ免疫反応性評点が割当てられ、ここで試料の免疫反応性評点が1以下である場合、工程(c)で、前記免疫反応性評点が2である場合に比べて不良な予後を前記脊椎動物が有しているという結論が下される。
【0023】
代替的な好ましい実施形態においては、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程(a)において本発明の方法に従って使用すべき好ましい検定は、核酸ベースの検定であり、ここで前記MN/CA9遺伝子発現産物は、MN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA又はMN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNAに相補的なcDNAを含む。好ましくは、前記検出工程(a)は、インサイチュハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、PCR、RT−PCR、実時間PCR又は定量的実時間RT−PCRによるものである。
【0024】
好ましくは、MN/CA9遺伝子発現産物について本発明の予後診断方法に従って試験すべき腎細胞癌腫は、腎臓明細胞癌腫、乳頭癌細胞癌腫及び色素嫌性癌腫より成る群から選択される。より好ましくは、腎細胞癌腫は、腎臓明細胞癌腫である。好ましくは前記脊椎動物は哺乳動物、より好ましくはヒトである。さらに一層好ましくは、脊椎動物はヒトの患者であり、前記腎細胞癌腫は、腎臓明細胞癌腫、乳頭癌細胞癌及び色素嫌性癌腫から成る群の中から選択される。好ましくは、前記腎細胞癌腫は腎明細胞癌腫腫瘍であり、前記試料は前記腫瘍から及び/又は前記腫瘍から誘導された転移性病巣から取られたものである。
【0025】
本発明に従った好ましい予後診断方法は、累積生存率の短縮、前記腎細胞癌腫の再発リスクの増大及び/又は転移リスクの増大に関してより不良な予後が測定されるようなものである。さらに好ましい方法は、前記腎細胞癌腫が1つの腫瘍又は1つの腫瘍とその腫瘍からの誘導された1つ以上の転移性病巣を含み、該腫瘍又は該腫瘍と前記1つ以上の転移性病巣の外科的除去の後の転移リスクの増大、前記新生物疾患の再発リスクの増大及び/又は累積生存率の短縮に関してより不良な予後が測定される方法である。
【0026】
好ましくは、前記予後診断方法は、前記脊椎動物を冒す前記腎細胞癌腫のための治療を選択する一助として使用される。本発明の方法は、例えば、より積極的な療法レジメンを立証するべく最低の生存率をもつ患者のサブセットを同定するために使用できる。本発明の一実施形態においては、MN/CA9遺伝子発現産物の検出及び定量は、患者の予後を判定するため従来の腫瘍病期及び等級の情報と組合せて使用される。例えば、前記脊椎動物中の前記腎細胞癌腫が3以上のT病期及び/又は3以上のフールマン等級を有する場合には、検定工程(a)及び定量工程(b)が前記脊椎動物試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現していることを示した場合、前記脊椎動物はより積極的な療法レジメンで治療されるべきである。
【0027】
前記脊椎動物の体内で腫瘍T病期が3以上であり、かつ/又はフールマン等級が3以上である場合でも、前記試料内の細胞の50%超がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合、前記脊椎動物は、前記試料内の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合に比べてより良好な予後を有しており、比較的攻撃性の低い療法を選択すべきである。逆に、前記脊椎動物の体内で腫瘍T病期が2以下でありかつ/又はフールマン等級が2以下である場合でも、前記試料内の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合、前記脊椎動物は、前記試料内の細胞の50%超がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合に比べてより予後を有しており、より積極的な療法が選択されるべきである。
【0028】
本明細書で開示されている本発明の態様について以下でより詳しく説明する。
【0029】
参考文献
略語
本明細書では以下の略語が用いられる。
【0030】
aa − アミノ酸
AEC − 3−アミノ−9−エチルカルバゾル
ATCC − アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション
bp − 塩基対
CA − 炭酸脱水酵素
CAI − 炭酸脱水酵素阻害物質
CCC − 腎細胞癌腫の明細胞亜型
Ci − キュリー
Cl − 信頼区間
cm − センチメートル
CS − 累積生存率
C−terminus − カルボキシル末端
℃ − 摂氏温度
DAB − ジアミノベンジジン4塩酸
ds − 2本鎖
EDTA − エチレンジアミン4酢酸
ELISA − 酵素免疫測定法
Gr − 等級
HRP − ホースラディッシュペルオキシダーゼ
IC − 細胞内
IFN − インターフェロン(サイトカイン例)
IL−2 − インターロイキン−2(サイトカイン例)
kb − キロ塩基
kbp − キロ塩基対
kd又はkDa − キロダルトン
M − モル濃度
MAb − モノクローナル抗体
min − 分
mg − ミリグラム
ml − ミリリットル
mM − ミリモル濃度
mmol − ミリモル
n − 症例数
ng − ナノグラム
nm − ナノメートル
nM − ナノモル濃度
nt − ヌクレオチド
N−terminus − アミノ末端
OR − オッズ比
ORF − 読取り枠
PBS − リン酸緩衝生理食塩水
PCR − ポリメラーゼ連鎖反応
PG − プロテオグルカン
pI − 等電点
RCC − 腎細胞癌腫
RT−PCR − 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
RTU − そのまま使用可
SD − 標準偏差
SDS − ドデシル硫酸ナトリウム
SPSS − 「社会科学のための統計パッケージ」
SSPE − NaCl(0.18M)、リン酸ナトリウム(0.01M)、EDTA(0.001M)
Stg − 病期
TM − 膜貫通
Tris − トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
μCi − マイクロキュリー
μg − マイクログラム
μl − マイクロリットル
μM − マイクロモル濃度
ヌクレオチド及びアミノ酸配列記号
本明細書のヌクレオチドを表わすために、以下の記号が用いられる:
塩基記号 意味
A アデニン
C シトシン
G グアニン
T チミン
U ウラシル
I イノシン
M A又はC
R A又はG
W A又はT/U
S C又はG
Y C又はT/U
K G又はT/U
V A又はC又はG
H A又はC又はT/U
D A又はG又はT/U
B C又はG又はT/U
N/X A又はC又はG又はT/U
各々3つの隣接するヌクレオチド(トリプレットコード又はコドン)の異なる配置により特定され、特定の順序で連結されて特徴的タンパク質を形成する20の主たるアミノ酸が存在する。本明細書では前記アミノ酸を識別するために以下のように3文字又は1文字の慣例を使用することがある:
アミノ酸名 3文字略号 1文字略号
アラニン Ala A
アルギニン Arg R
アスパラギン Asn N
アスパラギン酸 Asp D
システイン Cys C
グルタミン酸 Glu E
グルタミン Gln Q
グリシン Gly G
ヒスチジン His H
イソロイシン Ile I
ロイシン Leu L
リジン Lys K
メチオニン Met M
フェニルアラニン Phe F
プロリン Pro P
セリン Ser S
トレオニン Thr T
トリプトファン Trp W
チロシン Tyr Y
バリン Val V
不明又はその他 X
【参考文献】
【0031】






【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、患者の体内の腎細胞癌腫(RCC)特に腎臓明細胞癌腫(CCC)の予後診断方法を提供する。本方法には、腎細胞癌腫特にCCCの診断を受けた患者から取出した試料中に存在するMN/CA9遺伝子発現産物がある場合そのレベル及び/又は程度を定量化する工程が含まれる。MN/CA9遺伝子発現産物は、CA IXタンパク質、CA IXポリペプチド、CA9核酸、特にCA IXタンパク質又はポリペプチドをコードするmRNA、CA IXタンパク質又はポリペプチドをコードするmRNAに対応するcDNAなどであり得る。MN/CA9遺伝子発現産物レベルは、MN/CA9を発現する細胞の割合(%)を判定する工程を含む、試料中の細胞の数に対して定量化され、MN/CA IXの不在を含めた前記レベルは、患者のより良好な又はより不良な予後と相関される。前記MN/CA9遺伝子発現産物は好ましくは、患者から取られた試料中で定量されたCA IXタンパク質又はCA IXポリペプチドである。本方法は例えば、療法選択を助け、癌化学療法、腫瘍再発及び転移を監視するために使用することができる。特に、アジュバント療法を必要とするハイリスク患者特に始めからより積極的な療法を必要とする患者を識別するためにMN/CA9遺伝子発現産物のレベルを使用することができる。
【0033】
患者の試料中のMN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度を定量化する好ましい方法は、免疫組織化学的染色によるものである。より好ましくは、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出工程(a)は免疫組織化学的染色によるものであり、前記定量工程(b)は免疫反応性細胞の割合(%)及び/又は免疫反応性細胞の免疫染色の強度又は程度を判定する工程を含む。さらに一層好ましくは、前記検出工程(a)は、MN/CA IX特異的モノクローナル抗体、好ましくは、受託番号ATCC HB11128を有しブダペスト条約に基づきアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託されたハイブリドーマVU−M75により分泌されるM75MAbの使用を含む。
【0034】
代替的な好ましい実施形態においては、前記MN/CA9遺伝子発現産物検出及び定量工程(a)及び(b)において本発明の方法に従って用いられるべき好ましい検定は、核酸ベースの検定であり、ここで前記MN/CA9遺伝子発現産物はMN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA又はMN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNAに相補的なcDNAを含む。好ましくは、前記検出及び定量工程(a)及び(b)はインサイチュハイブリダイゼーション又はノーザンブロットによるものである。
【0035】
適切な検出手段は、放射性核種、酵素、補酵素、螢光剤、化学発光物質、色原体、酵素基質又は補因子、酵素阻害物質、遊離ラジカル、粒子、染料などといった標識の使用を含む。かかる標識された試薬は、放射免疫測定、酵素免疫学的検定、例えばELISA、螢光免疫検定などといった周知のさまざまな検定の中で使用可能である。例えば、米国特許第3,766,162号明細書;第3,791,932号明細書;第3,817,837号明細書及び4,233,402号明細書を参照のこと。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態においては、CA IXタンパク質又はCA IXポリペプチドをコードするmRNA又はcDNAを発現している試料内の細胞の割合(%)が判定され、かくして1患者についての予後診断と相関される。MN/CA9mRNA又はMN/CA9cDNAの発現が測定される場合、試料中の50%以下の細胞中のCA9mRNA又はCA9cDNAの発現がより不良な予後診断を表わす。
【0037】
さらに、複数の方法を組合せて使用することが可能である。例えばCA IXタンパク質及びCA9mRNA発現の両方を、それぞれに免疫組織化学及びインサイチュハイブリダイゼーションによって査定することができる。好ましい一実施形態は、腎細胞癌腫を患う患者からの腫瘍試料及び対照としての非新生物性腎臓組織の符合試料のスクリーニングによって例示されるであろう。当業者であれば日常的方法を用いて、50%のカットオフがどこにくるか又は腎細胞癌腫特に腎臓明細胞癌腫を患う患者について異なるタイプの組織試料に関していかにして50%のカットオフを判定できるかを見極めるために、本発明の検定を最適化することができるであろう。
【0038】
当業者であれば、MN/CA9遺伝子発現産物を定量化するためにその他のさまざまな新生物発生前/新生物性試料を使用できるということがわかる。例えば、腎細胞癌腫に罹患している患者の場合、試料は、腫瘍から又は腫瘍に由来する転移病巣から又は腫瘍又は転移病巣の内部又はそのすぐ周囲にある細胞外流体から取ってもよい。
【0039】
さらに、MN/CA9遺伝子発現産物を検出し定量化するためには、本明細書で開示されているものに加えて代替的方法を使用できることがわかる。
【0040】
新生物細胞/組織
本明細書で使用する「癌性」及び「新生物性」という用語は、「前癌状態の」及び「新生物発生前の」という語と同様、同等の意味を有する。
【0041】
本明細書で使用されている通り、「腎細胞癌腫」又は「RCC」は、腎実質の癌腫であると考えられており、同様に腎臓癌、(renal cancer)、腎臓の腺癌(adenocarcinoma of the kidney)、腎腺癌(renal adenocarcinoma)、副腎癌腫(hypernephroid carcinoma)、副腎腫(hypernephroma)、又はグラウィッツ腫瘍(Grawitz’s tumor)とも呼ばれる。腎臓明細胞癌腫又は「CCC」は、最高約85%のRCCを含む腎細胞癌腫の優勢の亜型である。RCCのその他の3つの亜型は、顆粒細胞、顆粒細胞と明細胞の混合及び紡錘細胞亜型である。
【0042】
本発明の好ましい実施形態においては、MN/CA9遺伝子発現産物はMN/CA IX抗原であり、MN/CA IX抗原は、新生物細胞を含む脊椎動物試料、好ましくは哺乳動物試料、より好ましくはヒト試料の中で検出され定量される。かかる試料は、なかでも組織標本、組織抽出物、体液、細胞、細胞溶解物及び細胞抽出物であり得る。例えば免疫組織化学的染色により検定すべき好ましい組織標本としては、細胞塗布標本、生検された組織又は器官からの組織学切片、及びその他の組織試料の中のインプリント調製物が含まれる。免疫組織化学的染色のプロトコルの例が以下の実施例での材料と方法の節で記述されている。かかる組織標本はさまざまな形で維持することができる。例えば、これらを新鮮な状態、凍結状態、又はホルマリン、アルコール又はアセトン又はその他の形で固定させた状態及び/又はパラフィン包埋及び脱パラフィン状態におくことができる。生検された組織試料は、他の生検技術の中でも例えば吸引、咬合、ブラシ、錐体内視鏡的、切除、切開、針、細胞、経皮せん孔及び表面生検によって除去された試料であり得る。好ましい組織試料はホルマリン固定されたパラフィン包埋組織試料である。
【0043】
検定
本発明の方法と共に使用するため、数多くの形式を適合化することができる。当該技術において一般に知られているその他の検定の中でも、例えばウエスタンブロット法、酵素免疫測定法、放射免疫測定、競合免疫測定、2重抗体サンドイッチ検定、免疫組織化学的染色検定、凝集検定、螢光免疫測定法、免疫金を用いた免疫電子及び走査顕微鏡法を用いて、CA IXタンパク質又はCA IXポリペプチドの検出及び定量を実施することができる。かかる検定におけるMN/CA9遺伝子発現産物の定量は、当該技術分野において既知の従来の方法により適合化させることができる。例えば検出方法が免疫組織化学的染色によるものである場合CA IXタンパク質又はCA IXポリペプチドの定量は、免疫反応性細胞の割合(%)及び/又は免疫反応性細胞の免疫染色の強度又は程度を判定することによって実施され得、さらに、これらの値の加算又は乗算、又はこれらの値を用いたその他の数学的計算を含むことができる。
【0044】
免疫学的検定技術の当業者にとっては、MN/CA IXタンパク質又はポリペプチドに対する抗体を用いて、患者の体組織及び/又は細胞内のMN/CA IX抗原を検出し定量ができるということは明白である。一実施形態においては、細胞外ドメインを含むMN/CA IXタンパク質又はポリペプチドに対して作られた標識された抗体を使用できるイムノメトリック検定を用いることができる。かかる検定においては、抗原結合抗体と複合体形成する標識された抗体の量は、試料中のCA IX抗原の量に正比例する。
【0045】
MN/CA IXタンパク質/ポリペプチドを同定するために本発明に従って有用であるモノクローナル抗体は、その他の標識のなかでも、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)といった酵素、螢光化合物、又は125Iといった放射性同位元素を用いて、任意の従来の要領で標識することができる。本発明に従った好ましい標識は、126Iであり、好ましい抗体標識方法はクロラミン−Tを使用するものである[47]。同様に好ましいのは、ペルオキシダーゼを用いて抗体を標識する方法である。当業者にとって既知のMN/CA9遺伝子発現産物を視覚化する数多くのその他の手段も同様に使用可能である。
【0046】
免疫組織化学検査例
以下の実施例1中で記述されている免疫組織化学検定では、MN/CA IXの分布及び発現パターンを調査するために抗体染色が使用されている。腎摘出術患者からのパラフィン包埋組織切片が脱パラフィン化され再水和され、その後MN/CA IX特異的モノクローナル抗体M75で染色される。その後切片はマウスIgGを認識するビオチニル化抗体と反応され、その後ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ抱合体と反応させられる。免疫ペルオキシダーゼ錯体はその後、四塩酸ジアミノベンジジン(DAB)又は3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC)などの色原体で視覚化される。
【0047】
核酸ベースの検定
本発明のある実施形態においては、CA IXタンパク質又はCA IXポリペプチドをコードするmRNA又はcDNAが検出され、存在する場合には、CA9mRNA又はcDNAを発現している試料中の細胞の割合(%)が判定され、かくして患者について予後診断と相関される。核酸ベースの方法の一例はノーザンブロット法であり、ここでMN/CA9−特異的mRNA発現を検出するためのプローブとして用いられる核酸配列は、MN/CA9cDNA配列の全て又は一部に相補的である。RNAの調製は、変性アガロースゲル上で実施され、活性化されたセルロース、ニトロセルロース又はガラス又はナイロン膜などの適切な支持体に移送される。MN/CA9mRNA又はcDNAを検出するのに用いられる核酸は、放射性標識され、オートラジオグラフィによって分析される。非放射性標識例えばフルオロフォア又はリポータ基例えばジゴキシゲニンなども又、MN/CA9mRNA又はcDNAを検出するために使用可能である。
【0048】
CA IX特異的mRNA発現を測定するための代替的な好ましい方法としては、生物学的試料から単離されたRNAから生成されたRT−PCR産物に対するMN/CA9cDNA配列から誘導された核酸プローブのハイブリダイゼーションを介したCA9mRNA発現の検出がある。CA9遺伝子の240bpのcDNAフラグメントを増幅するように設計されたPCRプライマの例としては、センス5’−AGGAGGATCTGCCCAGTGA−3’[配列番号10];アンチセンス5’−GCCAATGACTCTGGTCATC−3’)[配列番号11]がある。ムラカミ(Murakami)ら及びウエムラ(Uemura)らは、患者の試料中のRT−PCRによるCA IXの検出が免疫組織化学と充分相関することを報告している[10,11]。
【0049】
MN遺伝子及びタンパク質
「MN/CA IX」及び「MN/CA9」という用語はここでは、MNと同義であるものと考えられている。同様にG250抗原はMNタンパク質/ポリペプチドを意味するものとして考えられている[23]。
【0050】
ザバダ(Zavada)らの国際公開第93/18152号パンフレット及び/又は国際公開第95/34650号パンフレットは、MNcDNA配列[配列番号1]、MNアミノ酸配列[配列番号2]及びMNゲノム配列[配列番号3]を開示している。MN遺伝子は11のエキソンと10のイントロンの形で組織される。
【0051】
MNcDNA[配列番号1]のORFは、49.7kdの計算上の分子量をもつ459個のアミノ酸タンパク質に対するコード能力を有する。MN/CA IXタンパク質の全体的アミノ酸組成はむしろ酸性であり、4.3というpIを有することが予測される。2次元電気泳動とそれに続く免疫ブロット法によるCGL3細胞からの未変性MN/CA IXタンパク質の分析は、コンピュータ予測と合致して、MN/CA IXが4.7〜6.3の範囲内のpIを有する複数の等電性形態で存在する酸性タンパク質である、ということを示した。[CGL3細胞は、スタンブリッジ(Stanbridge)ら、Science、215号、252〜259頁(1982年1月15日)で報告されたヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(HGPRT)型の突然変異体HeLaクローンであるHeLaD98/AH.2(HeLaSとしても知られている)から誘導された発癌性のハイブリットHeLa線維芽細胞である]。
【0052】
MNタンパク質の最初の37個のアミノ酸は、推定上のMNシグナルペプチドである[配列番号6]。MNタンパク質は、細胞外ドメイン[アミノ酸(aa)38−414;配列番号7]、膜貫通ドメイン[aa415〜434;配列番号8]及び細胞内ドメイン[aa435〜459;配列番号9]を有する。細胞外ドメインは、プロテオグリカン様ドメイン[aa53−111;配列番号4]及び炭酸脱水酵素(CA)ドメイン[aa135−391;配列番号5]を含有する。
【0053】
CAドメインは、固定独立性の誘発のために不可欠であり、一方腫瘍アンカー及びICテールはその生物学的効果については可欠である。MNタンパク質は同様に、トランスフェクションを受けた細胞内での原形質膜の波打ち運動をひき起こす能力も有し、固体支持体に対するその付着に関与していると思われる。データは、細胞増殖、接着及び細胞内伝達の調節へのMNの関与をはっきりと表わしている。
【0054】
MNタンパク質及びポリペプチド
「MNタンパク質及び/又はポリペプチド」(MNタンパク質/ポリペプチド)という文言はここでは、MN遺伝子又はそのフラグメントによってコードされるタンパク質及び/又はポリペプチドを意味するものとして定義づけられる。本発明に従ったMNタンパク質の例及び好ましいMNタンパク質は、配列番号2により表わされている演繹されたアミノ酸配列を有する。好ましいMN/ポリペプチドはMNと実質的相同性を有するタンパク質及び/又はポリペプチドである[配列2]。例えば、かかる実質的に相同なMN/ポリペプチドは、好ましくはMabM75又はその等価物であるMN特異的抗体と反応性をもつものである。M75Mabを分泌するVU−M75ハイブリドーマは、1992年9月17日付けでHB11128としてATCCに寄託された。
【0055】
「ポリペプチド」又は「ペプチド」は、ペプチド連結によって共有結合されたアミノ酸鎖であり、ここでは50個以下のアミノ酸で構成されると考えられている。「タンパク質」はここでは50個超のアミノ酸から成るポリペプチドであるものとして定義されている。ポリペプチドという用語はペプチド及びオリゴペプチドという用語を包含する。
【0056】
本明細書で使用される「低CA IX」又は「低MN/CA IX」というのは、RCC患者から採取した新生物試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子を発現するという判定を意味する。これに対して、「高CA IX」又は「高MN/CA IX」は、RCC患者から採取した新生物試料中の細胞の50%超がMN/CA9遺伝子を発現するという判定を意味する。
【0057】
インビボで新生物細胞によって産生されるタンパク質又はポリペプチドの配列を、細胞培養中の腫瘍細胞又は形質転換された細胞によって産生されたものから改変させることができる、ということがわかる。かくして、制限無くそのアミノ酸置換、延長、欠失、トランケーション、補間及び組合せを含めた変動するアミノ酸配列をもつMNタンパク質及び/又はポリペプチドは、それらを含有するタンパク質又はポリペプチドが免疫原性であり、かかるポリペプチド又はタンパク質により惹起された抗体が、ワクチンとして投与された場合に防御免疫及び/又は抗腫瘍形成活性を提供するのに充分な程度まで天然に発生するMN及びポリペプチドを交叉反応することを条件として、本発明の意図する範囲の中に入る。同様に、体液の中に現存しているタンパク質はタンパク質分解プロセスなどの分解性プロセスを受けるということもわかる。かくして、有意にトランケートされたMN及びMNポリペプチドが血清などの体液中に見出される可能性がある。「MN抗原」という文言は、ここではMN及び/又はポリペプチドを包含するものとして用いられている。
【0058】
MN及びポリペプチドのアミノ酸配列を遺伝子技術により修飾できることがさらに理解されるであろう。1つ以上のアミノ酸を欠失又は置換させることが可能である。かかるアミノ酸変更が、タンパク質又はポリペプチドの生物活性の任意の測定可能な変化をひき起こし、本発明の範囲内にあるタンパク質又はポリペプチドならびにMNムテインを結果としてもたらす可能性は無い。
【0059】
核酸プローブ
本発明の核酸プローブは、MNcDNA配列[配列番号1]又はその他のMN遺伝子配列例えば完全ゲノム配列[配列番号3]に相補的であるか又は実質的に相補的である配列を含むプローブである。「実質的に相補的な」という文言は、ここでは当該技術分野においてそれが充分理解されている意味を有するものとして定義され、従って標準的ハイブリダイゼーション条件下で使用される。ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーは、相補性の精度を制御するように調整可能である。2つの核酸は例えば、それらがストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズする場合に、互いに実質的に相補的である。
【0060】
ストリンジェントハイブリダイゼーション条件
ストリンジェントハイブリダイゼーション条件はここでは当該技術分野においてストリンジェントであると理解されている標準的なハイブリダイゼーション条件に適合するものと考えられている。少なくとも80〜90%の相同性を有する非常に密な関係をもつnt配列のみがストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズすることになる。
【0061】
例えば、ストリンジェント条件は、例えば20℃〜55℃の範囲の温度で0.15M〜0.9Mの塩などの、50℃〜70℃の温度で0.02M〜0.15MのNaClにより提供されるもののような比較的低塩及び/又は高温条件を包含する。比較的ストリンジェンシーの低い条件は、例えば65℃で0.1%のSSPE及び0.1%のSDSの最終洗浄液を伴う、42℃の50%ホルムアミドの存在下で0.15M〜0.9MのNaClによって提供されるような、温度上昇が実現するようなハイブリッド2重鎖の不安定化に役立つ漸増量のホルムアミドの添加によって、比較的ストリンジェンシーの高い条件にすることができる。
【0062】
ストリンジェントハイブリダイゼーション条件の例は、サンブルック(Sambrook)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、1.91及び9.47〜9.51頁(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク州、1989年);マニアティス(Maniatis)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、387〜389頁、(Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、ニューヨーク州、1982年);ツチヤ(Tsuchiya)ら、Oral Surgery、Oral Medicine、Oral Pathology、第71(6)号、721〜725頁(1991年6月);及び米国特許第5,989,838号明細書、米国特許第5,972,353号明細書、米国特許第5,981,711号明細書、米国特許第6,051,226号明細書の中で記述されている。
【0063】
抗体
「抗体」という用語は、本明細書では、全抗体のみならず抗体の生物活性フラグメント、好ましくは抗原結合領域を含有するフラグメントを含むものとして定義されている。抗体の定義の中にさらに含まれるのは、MN及びもう1つの組織特異的抗原に対し特異的である2重特異性抗体である。
【0064】
本発明の方法に従って有用である抗体は、従来の方法及び/又は遺伝子工学により調製してもよい。抗体は、超可変領域を含む軽及び/又は重鎖(V及びV)の可変領域から、そしてさらに一層好ましくはV及びVの両方の領域から遺伝子工学処理され得る。例えば、本明細書で使用される「抗体」という用語は、その他の可能性の中でも「一価の」抗体を含むポリクローナル及びモノクローナル抗体及びその生物活性フラグメント[45];共有結合的、又は非共有結合的のいずれの形で会合されていようとFab’及びF(ab)フラグメントを含むFabタンパク質;単独の軽鎖又は重鎖、好ましくは可変的重鎖及び軽鎖領域(V及びV)領域そしてより好ましくは超可変的領域を含む領域[その他の場合V及びV領域の相補性決定領域(CDR)として知られている];Foタンパク質;複数の抗原を結合する能力をもつ「ハイブリッド」抗体;定常−可変領域キメラ;由来の異なる重鎖及び軽鎖を伴う「複合」免疫グロブリン;2重特異性抗体、好ましくは2重特異性MAbs;標準組換え型技術によってと同時にオリゴヌクレオチド誘導型突然変異誘発技術[46]によっても調製されるような改善された特異性及びその他の特性をもつ「改変型」抗体、を含んでいる。
【0065】
本発明に従ったCA IXタンパク質/ポリペプチドを同定するのに有用な抗体は、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)といった酵素、螢光化合物、又はその他の標識の中でも126Iなどの放射性同位元素を用いて任意の従来の要領で標識され得る。本発明に従った好ましい標識は、125Iであり、抗体を標識する好ましい方法はクロラミン−Tを用いたものである[47]。
【0066】
本発明に従って有用な代表的モノクローナル抗体には、以前にザバダ(Zavada)らの特許及び特許出願の中で記述されたMabsM75、MN9、MN12及びMN7が含まれる[米国特許第6,297,041号明細書、米国特許第6,204,370号明細書;米国特許第6,093,548号明細書;米国特許第6,051,226号明細書;米国特許第6,004,535号明細書;米国特許第5,989,838号明細書;米国特許第5,981,711号明細書;米国特許第5,972,353号明細書;米国特許第5,955,075号明細書;米国特許第5,387,676号明細書;米国特許出願公開第20030049828号明細書及び同第20020137910号明細書及び国際公報国際公開第03/100029号パンフレット]。本発明に従って有用なモノクローナル抗体は、例えば臨床試料中でさまざまな実験室予後診断試験においてMN/ポリペプチドを同定するのに役立つ。例えばモノクローナル抗体M75(MabM75)は、米国組織標準培養収集機関[ATCC]において1992年9月17日付けでATCC呼称HB11128として寄託されたマウスリンパ球ハイブリドーマVU−M75によって産生される。ハイブリドーマVU−M75の産生は、ザバダ(Zavada)らの国際公報国際公開第93/18152号パンフレット中に記述されている。MabM75は、非グリコシル化GST−MN融合タンパク質及び非変性CA IXタンパク質の両方を、CGL3細胞中で発現される通りに同等にうまく認識する。M75Mabは、CA IXタンパク質の未変性形態及び変性形態の両方を認識する[14]。
【0067】
抗体の調製を含む本明細書で有用な付加的な分子生物学的技術を記述する一般的なテキストとしては、バーガー(Berger)及びキンメル(Kimmel)、Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymnology、第152巻、Academic Press、Inc.;サンブルックら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク州、1989年)、第1〜3巻;Current Protocols in Molecular Biology、F.M.アウサベル(Ausabel)ら、(編)、Current Protocols、Green Publishing Associates Inc.とJohn Wiley & Sons,Inc.との共同事業(2000年まで補完);ハーロー(Harlow)ら、Monoclonal Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988年)、ポール(Paul)(編);Fundamental Immunology、Lippincott Williams & Wilkins(1998年)、及びハーローら、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998年)が含まれる。
【0068】
MN/CA IX及び予後診断;RCC療法の選択における使用
低レベルのCA IX染色はさらに不良な転帰と相関したことから(実施例1)、アジュバント免疫療法及びCA9標的療法を含む積極的療法を必要とするハイリスク患者を識別するために、CA IXの検出及び定量を使用することができる。さまざまなアジュバント免疫療法に対する入念な患者の選択及び層化が、治療に応答する確率の最も高い患者を区別することができる。転移性RCCにおける、その他のサイトカインの中でも例えばIFN又はIL−2などを用いた全身的サイトカイン療法に対する応答が、前途有望なものであった。ブイ(Bui)ら[15]からの予備データは、CA IXと免疫療法応答の関係を示唆している。同様にして、CA IXに対するモノクローナル抗体に基づく療法又はCA IXベースのRCCワクチンでの免疫療法[15,19−21]又はCA9誘導型遺伝子療法も又、CA IXの検出及び定量に従って考慮可能である。
【0069】
さらに、本発明の予後診断方法は、腫瘍等級及び/又は腫瘍病期などの従来のマーカーと組合せてCA IX検出及び定量を使用することができる。本明細書に開示されている免疫組織化学分析は、高い等級の腫瘍中に低いCA IXが存在する場合そして高い病期の腫瘍中に低いCA IXが存在する場合に、最も低い生存率が見られるということを明らかにした。かかる患者は、より積極的な療法レジメンに対する候補となると思われる。
【0070】
MN特異的抗体の治療的使用:
モノクローナル及び/又はポリクローナル、好ましくはモノクローナルのMN特異的抗体は、単独で又はリシンAなどの化学療法薬及び毒性作用物質と組合せた形で、CA9発現腎細胞癌腫の治療において治療用に使用することができる。治療的使用のためにさらに好まれるのは、生物活性抗体フラグメントであると思われる。かかる治療的使用のための同じく好ましいMN特異的抗体は、MN−特異的ヒト化モノクローナル抗体、完全ヒトモノクローナル抗体及び/又は2重特異的抗体であろう。
【0071】
MN特異的抗体は、MN/CA IXを発現する腎細胞癌腫に罹患する患者に対して、生理学的に受容可能な非毒性液体ビヒクル中に分散された状態で、治療上有効な量で投与され得る。MN特異的抗体は単独で、又は抗腫瘍薬の担体として投与され得る。MN特異的抗体に連結され得るさまざまな抗増殖性、抗新生物性又は細胞傷害性作用物質としては、代謝拮抗物質例えば葉酸拮抗剤、メトトレキサート又はプリン又はピリミジン類似体メルカプトプリン及びフルオロウラシルがある。その他のものとしては、抗生物質、レクチン例えばリジン及びアブリン、毒素例えばジフテリア毒素のサブユニット、放射性核種例えば211アスタテン及び131ヨウ素、放射線感受性増強物質例えばミザニダゾル又は中性子感受性増強物質例えばホウ素含有有機物質が含まれる。かかる作用物質は、グルタルアルデヒド架橋結合などの従来の技術によって抗体に付着され得る。
【0072】
MN特異的抗体を、細胞傷害性細胞(例えばヒトT細胞、単球又はNK細胞)をターゲティングするために使用することができる。細胞傷害性細胞は、MN特異的抗体のFc部分を結合する細胞傷害性細胞上のFcレセプタを通して又は2重の特異性をもつ橋かけ抗体すなわちMN及び細胞傷害性細胞に特異的な2重特異性抗体を介して、MNを発現する腫瘍細胞に付着し得る。
【0073】
細胞傷害性細胞は、2重特異性抗体がその細胞に結合できるようにすることによってターゲティングされ得る。ターゲティングの後、細胞を患者に投与できる。ターゲティングされた細胞での療法は、外科療法、放射線療法又は化学療法に対する補助として使用可能である。
【0074】
腫瘍ワクチンとしての抗イディオタイプMN特異的抗体及び免疫療法としての抗−抗イディオタイプ抗体血清:MN抗イディオタイプ抗体は、MN発現異常に付随する新生物性疾患のためのワクチンとしての治療上の有用性を有する。MN特異的抗−抗イディオタイプ抗体血清もまた治療的な抗腫瘍効力を有する。これらの治療上の有用性は、以下で記述する研究によって実証されているように、MN特異的G250MAb及びそれに対する抗イディオタイプ抗体(Ab2)そしてさらなる抗−抗イディオタイプ血清(Ab3)を用いて行なわれた調査によって実証されている。
【0075】
ウエムラ(Uemura)ら、Biotherapy(Japan)、第10(3)号、241〜244頁、(1996年)(英語要約)は抗イディオタイプ抗体(Ab2)を「免疫グロブリン分子の可変領域内部にある抗原決定基に対して向けられた抗体。正常な抗原を擬態するAb2(いわゆる内部イメージAb2)を公称抗原に対して特異的に宿主の免疫系を誘導するためのワクチン接種用代理抗原として使用することができる」と定義している。
【0076】
以前にG250MAb−NUH31、51、71、82(IgG1)及びNUH44(IgG2a)に対して向けられた6つの内部イメージマウスAb2を単離したウエムラ(Uemura)ら(同文献)は、腫瘍ワクチンとしてのモノクローナルAb2の応用について探究している。ウエムラ(Uemura)らは、「RCC腫瘍関連抗原に関するイディオタイプワクチン接種が抗原特異的液性ならびに細胞応答を誘導し、・・・RCC関連抗原・・・G250[MN]を擬態する・・・異なる内部イメージAb2で免疫化されたマウスから得た抗−抗イディオタイプ抗体(Ab3)の抗腫瘍効力・・・2×10SK−RC−52(G250+)RCC細胞の皮下注射を受けた・・・小さい立証済みの2×10のNU12ヒトRCC異種移植片(G250+、20mm)を担持するNu/nuBALB/cマウスは、0.2mlのAb3血清の腹腔内注射により処置された。この処置の結果、腫瘍の完全な拒絶及び対照グループ(p<0.01)と比べて有意な腫瘍成長阻害がもたらされたという以前の結果」を考慮して調査を行なった。ウエムラ(Uemura)らは「Ab2sでの免疫化が免疫応答性動物の体内で強力な抗腫瘍効果を惹起する」という結論を下した。
【0077】
ウエムラ(Uemura)ら、J.Urol.、第159(5)号、(追補):要約724号(1998年5月)は、腎細胞癌腫(RCC)のための免疫療法標的としてのMNについて記述している。MN特異的MAbG250の治療上の潜在的可能性は、IFN/IL−2/MCSF(インターフェロン、インターロイキン−2、マクロファージコロニー刺激因子)及びAb2(NUH82)誘発マウス血清(Ab3−82)と組合せた形で評価された。Ab2は、RCCのための腫瘍ワクチンとして有用であることが示されてきたMAbG250に対し発生させたモノクローナル抗イデオタイプ抗体である。
【0078】
ウエムラ(Uemura)ら(同文献)は、NUR−2RCC異種移植片を有するマウスが、MCSFを伴う/伴わない0.2mlのAb3血清又はサイトカイン及び/又はMAbG250の腫瘍周囲注射により処置されたことを報告した。MAbG250で処置された動物の体内の腫瘍体積は、対照の体内に比べ有意な形で小さいものであった。IFN又はIL−2での処置は類似の有効性を示したが、MCSFは有意な腫瘍阻害を全く示さない結果となった。IFN/IL−2/MAbG250療法は、MAbG250又はサイトカイン単療法に比べて、抗腫瘍効果を有意な形で増大させた。さらにAb3ベース(Ab2誘発型)免疫療法は結果として、MAbG250又はその他のサイトカイン組合せ療法と比べて多大な腫瘍単剤療法成長阻害をもたらした。
【0079】
遺伝子療法:さらに、抗−CA IXモノクローナル抗体などのCA IX特異的分子を、(例えば野生型フォン・ヒッペル−リンドラ遺伝子での)遺伝子療法用のCA IX特異的発現細胞に対するターゲティングされた送達のため、又は細胞傷害性タンパク質の発現をもたらすためベクターにカップリングさせることができた。
【0080】
かかる方法は、MN/CA9が低酸素状態が調節された遺伝子であることから、診断及び予後診断上特に重要なものであり得る。CA IX過剰圧力と組合された低酸素状態は、その試料を取った哺乳動物がより不良な予後診断を有するものと考えられるということを表わしており、前記哺乳動物のための治療についての決定が前記低酸素条件の存在を考慮して下される。低酸素状態マーカーとしてのMN/CA IXは一般に療法決定を行なう上で有用である。例えば、異常なほどに高レベルであるMN/CA IXを発現することがわかっている腫瘍を有する癌患者は、一部のタイプの化学療法及び放射線療法の候補ではなく低酸素状態選択的化学療法に対する候補であろう。
【0081】
ブラウン(Brown)[48]は、157頁目で、「充実性腫瘍が正常の組織に比べて酸素化度がはるかに低い」ということを指摘している。このことから、放射線療法及び抗癌化学療法に対する耐性ならびに腫瘍転移の増加に対する素因が導かれる。ブラウンは、癌治療において腫瘍低酸素状態をいかに利用できるかを説明している。ブラウン[48]が提案している癌治療のための腫瘍低酸素状態利用の1つの戦略は、低酸素状態下でのみ毒性を示す薬物を使用することにある。この戦略の下で使用可能な好ましい薬物及び薬物例としては、チラパザミン及びミトザントロンのジ−N−オキシド類似体であるAQ4Nが含まれる。
【0082】
ブラウン[48]によって提案されている低酸素状態の第2の様式は、HIF−1の選択的誘発を利用するべく開発された遺伝子療法戦略によるものである。好ましくは、以上で言及されている遺伝子療法ベクターには、MN/CA IX低酸素状態応答要素(HRE)又はもう1つの遺伝子のHREを含むMN/CA IXプロモータ又はMN/CA9プロモータフラグメントが含まれ、より好ましくはここでCA IXプロモータ又はCA IXプロモータフラグメントは2つ以上のHREを含み、ここで前記HREは、MN/CA9のものであるかかつ/又はその他の遺伝子のものであるかかつ/又は好ましい状況下では遺伝子工学処理されたHREコンセンサス配列のもののいずれかである。
【0083】
ブラウンは、HIF−1に対する応答性がきわめて高いプロモータが低酸素状態ではあるものの正常有酸素状態である条件下で条件付きで致死的な遺伝子の発現を駆動することになるような腫瘍特異的送達系を開発することができると指摘している。MN/CA9プロモータはまさに、1つ以上のHREを含むMN/CA9プロモータフラグメントと同様に、低酸素状態に対する高い応答性をもつこのようなプロモータである。「通常ヒトの体内に発見されない酵素の発現は、低酸素状態応答性プロモータ[MN/CA9プロモータ]の制御下で、腫瘍中で非毒性プロドラッグを毒性薬物へと転換することができた;[ブラウン[[48]、160頁]。例としては、トリン(Trinh)ら[49]に対しブラウンにより引用された非毒性5−フルオロシトシンを抗癌薬物5−フルオロウラシル(5FU)に転換する細菌シトシンデアミナーゼの使用がある。
【0084】
ラットクリフ(Ratcliffe)らの米国特許第5,942,434号明細書及び6,265,390号明細書は、低酸素状態の下で抗癌薬物がいかにして活性化された状態となるか(ただし、薬物を活性化させる酵素が低酸素状態の下で著しく増加するような薬物活性化系を使用した結果として、治療効果がはるかに増強される)を説明している。
【0085】
コンピュータ化されたMN/CA IXデータ解析:
MN/CA9発現(例えばレベル及び/又は程度)とRCC予後診断の相関関係は、当業者にとって既知のあらゆる方法によって、例えばコンピュータプログラムによって分析可能である。かかるコンピュータプログラムは、確率の高い予後診断と腎細胞癌腫患者から誘導されたCA9発現データを相関させるためのアルゴリズムを含むことができるであろう。
【0086】
以下の実施例は、例示のみを目的とするものであり、いかなる形であれ本発明を限定する意図をもつものではない。
【実施例】
【0087】
実施例1
以下の実験は、MN/CA IXを予後診断用マーカーならびに診断マーカーとしてRCC特にCCCにおいて使用できるか否かを調査するために設計された。92名の患者からの腎摘出術標本をこの研究の中で使用した。これらのうちの80例が腎細胞癌腫であり、10例が腺腫であり、2例が好酸性顆粒細胞腫であった。腎細胞癌腫のうち67が明細胞癌腫(CCC)であった。MN/CA IX特異的モノクローナル抗体(M75)を用いた免疫組織化学的分析が、パラフィン包埋標本について実施された。MN/CA IX染色を腫瘍病期、等級、リンパ節転移、遠隔転移及び累積生存期間と相関させた。
【0088】
MN/CA IXは、明細胞癌腫の91.2%に存在していた。低い染色は予後不良因子であり、逆に高い染色は良好予後因子であった。MN発現は、T病期及び等級と比べ最良予後因子であることがわかった。低等級・病期腫瘍においてさえ、低いMN発現の存在は、生存期間の短縮と相関していた。
【0089】
本明細書で開示されている研究からの結論は、MNがRCC特にCCCにおける有意な分子マーカーであるということである。MN発現の低下は低い生存率と独立して結びつけられる。MNは、臨床的転帰を予測し、アジュバント免疫療法及びMN標的療法を必要とするハイリスク患者を識別するために使用可能である。
【0090】
材料と方法
Cukurova大学病理学部の保管所から得た80例のRCC症例、10例の腎腺癌と2例の腎臓好酸性顆粒細胞腫症例に由来する腎摘出標本の試料を評価した。全ての患者は1996年〜2003年の同じ大学病院の泌尿器科で手術を受けた。各症例の組織学的スライドを診断的に再度査定するべく再検討した。フールマン核等級付けシステム[13]に従って等級付けを実施した。
【0091】
ホルマリン固定させ、パラフィン包埋した組織試料の厚み5μmの切片を脱パラフィン化し、一連の等級付けされたアルコールを通して再水和させた。マイクロ波オーブン内で10分間、クエン酸緩衝液(pH6)中で抗原検索を実施した。20〜25分間、これらを休ませて室温まで冷却させた。5分間PBS中でスライドを洗浄した後、10分間遮断用血清と共にインキュベーションを行なった。その後、室温で60分間1/300の濃度でMN/CA IXの外部ドメインに対して発生させたマウスモノクローナル抗ヒト抗体(M75)を適用した[14]。PBS中で5分間スライドを洗浄した後、これらを20分間、そのまま使用可能なビオチニル化された万能2次抗体の中で25℃でインキュベートした(NCL−RTU−D、Novacasrta、英国)。その後スライドを5分間PBS中で洗浄し、次に10分間RTUトストプトアピジン/ベルオキシダーゼ複合試薬の中で25℃でインキュベートした。インキュベーションの後、スライドを再び5分間PBSで2回洗浄した。免疫ペルオキシダーゼをAEC(3−アミノ−9−エチルカルバゾル;DAKO、USA)で視覚化した。Mayerのヘマトキシリンで切片を対比染色し、次にカバースリップを置いた。負の対照として全ての染色手順内でイソタイプ抗体を使用した。
【0092】
単一切片の全フィールド内に見られる陽性細胞の割合(%)に基づいて、半定量的に免疫組織学的結果を評定した。MN/CA IX抗原は膜関連タンパク質である。従って、細胞が鮮明で明確な膜染色を示した時点で、それはMN/CA IX免疫反応性をもつものと解釈された。0〜2+の尺度(リアオ(Liao)ら[12]により記述されている通り染色された場合、完全に陰性は0、50%以上の細胞が染色された場合1+焦束、50%未満の細胞が染色された場合2+拡散)。染色パターンは、それぞれ強度が0〜1+及び2+である場合に高及び低発現のものとみなされた。全ての標本が2名の病理学者によりブラインド検査された。2人の間の観測者間信頼度は88%であった。
【0093】
ウィンドウズ(登録商標)バージョン10.0用のSPSS(もとは「社会科学のための統計パッケージ」)を統計分析のために使用した。独立したグループ間のMN/CA IX染色レベルの差をカイ2重又はフィッシャの直接確率検定によって評価した。累積生存率を推定するためにはカプラン・マイヤー法を使用し層別生存率関数を比較するためには対数−順位検定を応用した。MN/CA IXの統計的独立性及び有意性を試験するためには、コックス比例ハザードモデルを使用した(モデル内で、従属変数として年令、等級、T病期及びMN/CA IXを使用した)。平均ISD(標準偏差)、n(症例数)及び割合(%)としてデータを表現した。0.05未満のp値は有意とみなされた。
【0094】
結果
合計92の標本のうち、80はRCCであり、RCCのうち67は明細胞亜型(CCC)、10は乳頭癌、3は色素嫌性癌であった。残りの12は、10の腺癌及び2の好酸性顆粒細胞腫から成っていた。
【0095】
80のRCCのうち、6例のCCCを含めた10例は染色を全く示さなかった。従ってRCC腫瘍標本内のMN発現は87.5%であった。染色を示したもののうち、31例が50%未満の染色を示し、そのうち25例はCCCであった。39のRCCつまり36例のCCCと3例の乳頭癌は50%超の染色を示した。[免疫組織化学的染色例は、乳頭癌腫において高いMN/CA IX染色パターン(図1)をそして明細胞癌腫において強度の膜質染色(図2)を示した]。10の腺癌のうちいずれも染色を示さなかった。2つの好酸性顆粒細胞腫のうち、1例は染色せず、その他は50%未満の染色を示した(表1)。
【表1】

【0096】
全体として、明細胞型を伴う67のRCC患者が分析に含み入れられた。外科手術時の患者の年令は18〜81才の範囲であった(平均54.8±11.6才)。女性/男性比は1.9:1であり、男性患者が44名(65.7%)、女性患者が23名(34.3%)であった。62名の患者(92.5%)に対し根治的腎摘出術が実施され、5名(7.5%)に対し部分的腎摘出術が実施された。病理学的病期に関しては、22名が病期I、31名が病期II、8名が病期IIIそして6名が病期IVであった。病理学的等級に関しては、24名が等級1(35.8%)、20名が等級2(29.9%)、16名が等級3(23.9%)そして7名が等級4の症例であった(10.4%)。表2は、患者と腫瘍の特徴を列挙している。
【表2】

【0097】
CCCにおける染色パターンと腫瘍の病理学的T及びN病期、M病期及び等級の関係を評価し、結果は表3に示されている。低病期Tの腫瘍は66%の症例において高いCA IX染色を示し、一方高い病期Tの腫瘍は、大部分が低いCA IX染色を示した(92.9%)。いかなるリンパ節転移も存在しなかった場合、57.1%の症例で高い染色パターンが存在した、一方リンパ節転移を伴う場合、低パターンのCA IX染色が全(100%)症例に見られた。全体のうち、63名の患者が遠隔転移を全くもたず、そのうち36(57.1%)が高パターンのCA IX染色を示した。遠隔転移を有する4名(100%)の患者の全てが低パターンのCA IX染色を示した。低等級(1又は2)の腫瘍は最も高いCA IX染色(71.1%)を有し、一方高等級(3又は4)の腫瘍は大部分が低いCA IX染色(81.8%)を有していた(表3)。
【表3】

【0098】
CCC患者のうち、6名は追跡調査ができなかった。T病期、等級及びCA IX発現に従った61名の残りの患者の平均及び中央値累積生存率が表4及び図3a、b、c、4及び5の中で詳細に記されている。高いCA IX発現、平均累積生存率は64.1カ月であった。等級が考慮された場合、低等級グループ内で平均累積期間は53.5カ月であった;しかしながら低等級腫瘍内で低いCA IX発現が存在した場合、生存率は28.7カ月まで下降した。類似の要領で、低いT病期の腫瘍中の49.4カ月という累積生存率は、かかる低等級腫瘍が低レベルのCA IX染色を示した時点で28.7カ月まで低下した。累積生存率は、腫瘍のT病期(p=0.02)及び等級(p=0.006)と共にCA IX染色レベル(p=0.000)と相関していた。
【表4】

【0099】
逆に、高腫瘍等級患者は22.6カ月の生存率を有していたが、高等級腫瘍内でCA IX染色が高い場合、生存率は61カ月にはね上った。高病期−高CA IX発現グループにおいては、1名の患者しかおらず、その患者は8カ月生存したことから、類似の結論に到達することはできなかった。
【0100】
コックス比例ハザードモデルの結果は、表5に示されている。結果は、CA IXがRCC患者中の生存速度と関係性をもつ独立した有意な因子であることを示している。
【表5】

【0101】
結論
80例のRCCのこの研究において、CA IX染色は87.5%であったが、これは以前の報告書[7]と一貫性ある値である。CCCのグループでは、染色は91%であったが、これはCA IXが特にRCCの明細胞亜型について強いバイオマーカーであることを示唆している。ムラカミ(Murakami)ら[10]は、CCC内のCA IX発現が92%であることを発見した。この率はブイ(Bui)ら[15]によって94%であるものと報告された。
【0102】
その予後診断値に関しては、低レベルのCA IX染色は、さらに不良な転帰と相関していた。高いT病期腫瘍は低いCA IX発現(92.9%)を有していた。症例のうち4例のみがリンパ節転移を有していたとしても、これらの症例は全て低レベルのCA IX染色を有していた。遠隔転移に関しては、全てが低いCA IX発現を再び有し、一方、転移を、全く伴わない症例の42.9%のみが同じパターンで染色した。再び高腫瘍等級で、高い率の低CA IX発現(81.8%)が存在した。累積生存率を腫瘍等級、病期及びCA IX発現と相関させた場合、CA IX発現は、少なくともT病期及び腫瘍等級と同じ位優れた生存率達成因子であった。患者の数が不充分であったことから、N及びM病期に起因する生存率は推定できなかった。
【0103】
対象研究グループ内の全体的生存率は、文献[1]中に報告されているものよりも低い。これも又、数の少なさならびに場合によっては患者の社会経済状態に起因している可能性がある。
【0104】
低いCA IX、高い病期及び高い腫瘍等級のグループの全てにおいて、生存率は類似のものであった(それぞれ19.3、22.6、23.6カ月)。しかしながら、高等級腫瘍内に低CA IX(15.5カ月)及び高病期腫瘍内に低CA IX(20.3カ月)が存在する場合、最低の生存率しか見られなかった。従って、より積極的な療法レジメンを立証するためにはこれらの患者サブセットを予測することがきわめて重要である。
【0105】
RCCは生物学的免疫療法に応答することが示されてきた。転移性RCCにおける全身的サイトカイン療法に対する応答は、全体的結果がなおも不適切であるものの、前途有望である。さまざまなアジュバント免疫療法に対する入念な患者の選択及び層化により、治療に応答する確率の最も高い患者を区別することができる。
【0106】
結論として、本明細書ではMN/CA IXはRCC/CCCの予後診断における有意でかつ前途有望な分子マーカーであることが示されている。MN/CA IX発現の低下は低い生存率と独立して結びつけられる。臨床的帰結及び腫瘍の挙動を予測するためにMN/CA IXを使用することが可能である。MN/CA IXは、上述のものによって例示されているように、その他の療法の中でもアジュバント免疫療法及びMN/CA IX標的療法の恩恵を受け得るハイリスク患者を識別することができる。
【0107】
ブダペスト条約寄託物
以下に列挙する材料は、現在10810 University Blvd、Manassus、バージニア州20110−2209(USA)にあるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託されている。該寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約及びそれに基づく規則(ブダペスト条約)の規定に基づいて行なわれた。成育可能な培養の維持は、寄託年月日から30年間保証されている。ハイブリドーマ及びプラスミドは、ブダペスト条約の条項に基づいてATCCによって利用可能となり、当該出願からの特許の付与の時点で寄託されたハイブリドーマ及びプラスミドの無制限の利用可能性を公衆に保証するATCCと出願人らの間の合意の対象となる。寄託された菌株の利用可能性は、その特許法に従ってあらゆる政府の権限に基づき付与される権利を侵害して本発明を実施するための許諾としてみなされるべきものではない。
【表6】

【0108】
同様にして、V/10のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系列V/10−VUは、受託番号LMBP6009CBの下でUniverseit Gent、K.L.Ledeganckstraat 35、B−9000 Gent、ベルギーにあるLaberatorium voor Moleculaire Biologie−Plasmidencollectie (LMBP) Belgium Coordinated Collections of Microorganisms (BCCM) [BCCM/LMBP]の国際寄託当局(IDA)にブダペスト条約に基づいて2003年2月19日付けで寄託された。
【0109】
本発明の前述の実施形態の記述は、例示及び説明を目的として提示された。これらは網羅的であるように又は本発明をまさに開示されている通りの形態に限定するように意図されておらず、明らかに上述の教示に照らして数多くの修正及び変更が可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実践的応用を説明し、かくして当業者がさまざまな実施形態の中でかつ考慮されている特定の用途に適するようなさまざまな修正を伴って本発明を利用できるようにする目的で選択され記述されたものである。
【0110】
本明細書に引用されている全ての参考文献は、参照により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】腎臓乳頭癌腫における高パターンのMN/CA IX染色を示す[MN/CA IX×100]。
【図2】腎臓明細胞癌腫(CCC)に見られる強度の膜質染色を示す[MN/CA IX×200]。
【図3】T病期(a)、腫瘍等級(b)及びMN/CA IX発現(c)に基づく61CCC患者の累積生存率(CS)をグラフで示す。
【図4】T病期及びMN/CA IX発現に基づく61人のCCC患者のCSをグラフで示す。
【図5】腫瘍等級及びMN/CA IX発現に基づく61人のCCC患者のCSをグラフで示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物を冒す腎細胞癌腫の予後診断方法であって、該方法が、
(a)前記脊椎動物から採取した新生細胞を含む試料中におけるMN/CA9遺伝子発現産物の有無を検出する工程、
(b)MN/CA9遺伝子発現産物が前記試料中に存在する場合、前記試料中の細胞数に対する前記MN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度を定量する工程、及び
(c)前記工程(a)及び(b)で得たMN/CA9遺伝子発現産物のレベル及び/又は程度が、前記試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現することを示す場合に、前記脊椎動物がより不良な予後を有するものと判定する工程、を含み、
前記MN/CA9遺伝子発現産物が
(1)配列番号1のコード領域、
(2)配列番号1のコード領域の相補体に対して42℃で50%のホルムアミドのストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列、及び
(3)遺伝子コードの縮重のためコドン配列において前記(2)のヌクレオチド配列又は配列番号1のコード領域と異なるヌクレオチド配列、より成る群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記腎細胞癌腫が、腎臓明細胞癌腫、乳頭細胞癌腫及び色素嫌性癌腫より成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出工程(a)が、前記試料中のMN/CA IXタンパク質の有無を検出するためにMN/CA IX特異的抗体を用いた免疫組織化学的染色の使用を含み、さらに、前記定量工程(b)がMN/CA IX免疫反応性細胞の割合(%)を判定する工程を含み、前記試料中の細胞の50%以下が免疫反応性を有する場合に、前記脊椎動物は前記試料中の細胞の50%超が免疫反応性を有する場合よりも不良な予後を有すると前記工程(c)において結論付けることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記MN/CA9遺伝子発現産物が、MN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチド、MN/CA IXタンパク質又はMN/CA IXポリペプチドをコードするmRNA、又は前記mRNAに相補的なcDNAを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記検出工程(a)が、受託番号ATCC HB11128を有するハイブリドーマVU−M75により分泌されたモノクローナル抗体の使用を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記検出工程(a)が免疫組織化学的染色によるものであり、前記定量工程(b)が免疫反応性細胞の割合(%)及び/又はその免疫染色の強度及び/又は程度を判定する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記脊椎動物を冒す前記腎細胞癌腫に対する治療の選択を補助するものとして用いられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記脊椎動物における腫瘍T病期が3以上でありかつ/又はフールマン等級が3以上である場合でも、前記試料中の細胞の50%超がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合、前記脊椎動物は、前記試料内の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合よりも良好な予後を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記脊椎動物における腫瘍T病期が2以下でありかつ/又はフールマン等級が2以下である場合でも、前記試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合、前記脊椎動物は、前記試料内の細胞の50%超がMN/CA9遺伝子発現産物を発現している場合よりも不良な予後を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記腎細胞癌腫が3以上のT病期及び/又は3以上のフールマン等級を有する場合であって、前記試料中の細胞の50%以下がMN/CA9遺伝子発現産物を発現することを前記定量工程(b)が示した場合、前記脊椎動物はより積極的な治療レジメンで治療されるべきであることを特徴とする請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−528737(P2007−528737A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−503122(P2007−503122)
【出願日】平成17年5月4日(2005.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/015587
【国際公開番号】WO2005/108623
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(506307234)バイエル ヘルスケア (7)
【氏名又は名称原語表記】BAYER HEALTHCARE
【Fターム(参考)】