説明

MRI用超電導マグネットの調整方法

【課題】クエンチを起す可能性を低減してMRI用超電導マグネットの安定性を向上させる。
【解決手段】使用場所の磁場雰囲気を考慮してMRI用超電導マグネットをシミングする工程(S110)と、使用場所の磁場雰囲気を具現化した環境下で、シミングしたMRI用超電導マグネットにおいて定格磁場を発生させる工程(S120)と、定格磁場を発生させる工程(S120)の後に、MRI用超電導マグネットを使用場所に設置する工程(S130)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI(magnetic resonance imaging)用超電導マグネットの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI用超電導マグネットにおいては、撮像空間内の静磁場の均一度がppm(百万分の一)オーダーとなるように、設計段階から撮像空間内の静磁場が最適化される。
【0003】
実際に製作されたMRI用超電導マグネットにおいては、各構成部品の寸法誤差および組立誤差などの製作誤差により静磁場の均一度が、数百から数千ppmの低い状態となっている。そこで、静磁場の不均一を補正する技術としてシミングが行なわれる。
【0004】
シミングが可能なMRI装置を開示した先行文献として特許文献1がある。特許文献1に記載されたMRI装置においては、鉄片(鉄シム)を所望の位置に配置することにより、静磁場の不均一性を補正している。
【0005】
シミングにより静磁場の均一性が高められたMRI装置は、病院などの使用場所に搬送されて設置される。MRI装置が設置される使用場所の磁場雰囲気はそれぞれ異なるため、使用場所の磁場雰囲気の影響により静磁場の均一性が損なわれることがある。そこで、使用場所の磁場雰囲気の影響を低減する静磁場発生装置を開示した先行文献として特許文献2がある。
【0006】
特許文献2に記載された静磁場発生装置においては、磁場の均一度を補償するための磁性板をMRI装置が設置される床とMRI装置との間に敷設している。静磁場に与える影響は、床下に埋設された鉄筋および鉄骨などの磁性材によるものが大きい。特許文献2に記載されたMRI装置では、工場出荷段階から上記の磁性板をMRI装置の必須構成要素とすることにより、使用場所の床下環境による静磁場への影響を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−220923号公報
【特許文献2】特開平2−83904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
使用場所におけるMRI装置の静磁場の均一度を向上するために、磁場均一性の補償用の磁性板およびシミング用の鉄片などの磁性体が配置されることにより、MRI用超電導マグネットにはそれらの磁性板および磁性体との相互作用によって発生する電磁力が働く。
【0009】
MRI用超電導マグネットは、超電導状態を維持することにより強く安定した静磁場を発生することができるが、上記の電磁力の影響により超電導マグネットに許容量以上のじょう乱が生じた場合には、超電導状態が破壊される現象であるクエンチが起きる。
【0010】
MRI用超電導マグネットは、一度クエンチを起した条件では、再度クエンチを起こす可能性が低くなる、いわゆるトレーニング現象を示す。逆に言うと、初めての条件下でMRI用超電導マグネットを稼動させると、クエンチを起す可能性が高くなる。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、クエンチを起す可能性を低減してMRI用超電導マグネットの安定性を向上させることができる、MRI用超電導マグネットの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に基づくMRI用超電導マグネットの調整方法は、MRI用超電導マグネットを使用場所に設置する前に調整する方法である。MRI用超電導マグネットの調整方法は、使用場所の磁場雰囲気を考慮してMRI用超電導マグネットをシミングする工程と、使用場所の磁場雰囲気を具現化した環境下で、シミングしたMRI用超電導マグネットにおいて定格磁場を発生させる工程と、定格磁場を発生させる工程の後に、MRI用超電導マグネットを使用場所に設置する工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クエンチを起す可能性を低減してMRI用超電導マグネットの安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】MRI装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るMRI用超電導マグネットの構造を示す断面図である。
【図3】同実施形態のMRI用超電導マグネットが使用場所に設置された状態を示す側面図である。
【図4】図3のIV−IV線矢印方向から見た図である。
【図5】同実施形態のMRI用超電導マグネットにおけるシミング部を示す斜視図である。
【図6】同実施形態のシムトレイおよび鉄片を示す分解斜視図である。
【図7】MRI用超電導マグネットの下方に床シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図8】図7のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図9】MRI用超電導マグネットの斜め下方に床シールド、側方に側壁シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図10】図9のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図11】MRI用超電導マグネットの斜め下方に大きさの異なる床シールド、側方に大きさの異なる側壁シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図12】図11のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【図13】同実施形態のMRI用超電導マグネットの調整方法を示すフロー図である。
【図14】MRI用超電導マグネットを製造する工場の磁場雰囲気を使用場所の磁場雰囲気と同等にした状態を示す側面図である。
【図15】図14のXV−XV線矢印方向から見た図である。
【図16】本発明の実施形態2のMRI用超電導マグネットの調整方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態1に係るMRI用超電導マグネットの調整方法について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
(実施形態1)
図1は、MRI装置の外観を示す斜視図である。図1に示すように、MRI装置1は、静磁場発生部10と寝台30とを含む。静磁場発生部10は、後述するMRI用超電導マグネットを含み、ボア20内部に静磁場を発生する。
【0016】
図2は、本発明の実施形態1に係るMRI用超電導マグネットの構造を示す断面図である。図2に示すように、本発明の実施形態1に係るMRI用超電導マグネット100においては、最も外側に、中空円筒状の真空槽110が配置されている。真空槽110の円筒中心部の空間が、ボア20に対応したボア部160となる。真空槽110の内部は、真空になるように図示しない減圧装置により減圧されている。真空槽110は、下部に配置された脚部170によりボア部160の中心軸が水平方向になるように支えられている。
【0017】
真空槽110の内部には、真空槽110と略相似形の中空円筒状の熱シールド120が配置されている。熱シールド120の内部には、熱シールド120と略相似形の中空円筒状のヘリウム槽130が配置されている。熱シールド120は、ヘリウム槽130と真空槽110との間を断熱する機能を有している。
【0018】
ヘリウム槽130の内部には、超電導コイル140が円周上に配置されている。ヘリウム槽130の内部には、液体ヘリウム150が充填されている。超電導コイル140は、液体ヘリウム150中に浸漬されて冷却されている。
【0019】
MRI用超電導マグネット100が稼動すると、ボア部160の図中の点線で示す範囲内の静磁場領域180において、矢印方向の静磁場190が発生する。この静磁場190が、強く、均一で、安定していることが望まれる。
【0020】
図3は、本実施形態のMRI用超電導マグネットが使用場所に設置された状態を示す側面図である。図4は、図3のIV−IV線矢印方向から見た図である。
【0021】
図3,4に示すように、本実施形態のMRI用超電導マグネット100は、使用場所である部屋300内に設置される。本実施形態においては、部屋300は、MRI用超電導マグネット100が発生する強い磁場が部屋300の外部に漏れる磁場を低減するために、磁気シールドで覆われている。
【0022】
磁気シールドは、床部に配置された床シールド310、図3の右側の側壁部に配置された第1側壁シールド320、図3の左側の側壁部に配置された第2側壁シールド330、図4の右側の側壁部に配置された第3側壁シールド350、図4の左側の側壁部に配置された第4側壁シールド360、および、天井部に天井シールド340を含む。本実施形態においては、磁気シールドを鉄板で形成したが、磁気シールドは磁性体で形成されていればよく、特に材料は限定されない。
【0023】
床シールド310は、MRI用超電導マグネット100からの距離が近いため、および、MRI用超電導マグネット100の重量を支えるために、第1側壁シールド320、第2側壁シールド330、第3側壁シールド350、第4側壁シールド360および天井シールド340に比較して厚く形成されている。
【0024】
図2においては簡略に示していたが、図4に示すように、静磁場190は、ボア部160の中心軸上に発生する中心磁場191、および、ボア部160の径方向の端部側に発生する端部磁場192を含む。端部磁場192は、静磁場領域180においては、直線状に発生するが、ボア部160の中心軸方向の端部においては曲線状に発生する。
【0025】
図5は、本実施形態のMRI用超電導マグネットにおけるシミング部を示す斜視図である。図6は、本実施形態のシムトレイおよび鉄片を示す分解斜視図である。
【0026】
図2においては図示していないが、図3,5に示すように、MRI用超電導マグネット100は、真空槽110の内周側の側壁に沿うように形成されたシミング部200を有する。シミング部200には、シミング部200の周方向に互いに間隔を置いて、ボア部160の中心軸方向に延在する複数の開口部210が設けられている。
【0027】
図4,5,6に示すように、開口部210には、シムトレイ230が挿入される。図6に示すように、シムトレイ230は、矩形状の薄板からなる複数の鉄片250を収容する凹部240が形成された本体部231と蓋部232とを含む。
【0028】
各開口部210に挿入される複数のシムトレイ230のそれぞれにおいて、複数の凹部240のそれぞれに収容される鉄片250の枚数を調節することにより、静磁場領域180の静磁場190の均一性を向上することができる。このように鉄片250を配置することにより、静磁場領域180における静磁場190の均一性の向上を図ることがシミングである。
【0029】
ここで、MRI用超電導マグネット100で定格磁場を発生させた際に、MRI用超電導マグネット100に作用する電磁力について説明する。なお、図7から12においては、MRI用超電導マグネット100が設置される部屋について、磁気シールドのみを図示している。なお、定格磁場とは、MRI用超電導マグネット100を用いて撮像する際に必要な強さの磁場である。
【0030】
図7は、MRI用超電導マグネットの下方に床シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。図7に示すように、床シールド310を下方に配置した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、床シールド310にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力400が働く。
【0031】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力400に対する反力として電磁力500が作用する。吸引力400と電磁力500とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。
【0032】
図8は、図7のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。図8に示すように、電磁力500による静磁場190への影響を緩和するために、ボア部160の上方の位置において鉄片250を収容したシムトレイ230Aを開口部210に挿入した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、鉄片250にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力410が働く。
【0033】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力410に対する反力として電磁力510が作用する。吸引力410と電磁力510とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。よって、MRI用超電導マグネット100の内部において、電磁力500と電磁力510とが作用することになる。
【0034】
図9は、MRI用超電導マグネットの斜め下方に床シールド、側方に側壁シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【0035】
図9に示すように、2つの床シールド311をボア部160の中心軸の下方の位置で隙間を開けて互いに間隔を置いて配置する。さらに、互いに対向するように側壁シールド321および側壁シールド331を配置する。側壁シールド321と側壁シールド331とは、ともに同じ大きさで同じ厚さである。
【0036】
床シールド311と側壁シールド321,331とを配置した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、図中の右側の床シールド311および側壁シールド321には、MRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力420が働く。特に、吸引力420は、MRI用超電導マグネット100の近くに位置する床シールド311に対して、斜め左上方の方向に働く。
【0037】
同様に、図中の左側の床シールド311および側壁シールド331には、MRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力430が働く。特に、吸引力430は、MRI用超電導マグネット100の近くに位置する床シールド311に対して、斜め右上方の方向に働く。
【0038】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力420に対する反力として電磁力520が作用する。吸引力420と電磁力520とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。また、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力430に対する反力として電磁力530が作用する。吸引力430と電磁力530とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。よって、MRI用超電導マグネット100の内部において、電磁力520と電磁力530とが作用することになる。
【0039】
図10は、図9のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。図10に示すように、電磁力530による静磁場190への影響を緩和するために、ボア部160の斜め右上方の位置において鉄片250を収容したシムトレイ230Bを開口部210に挿入した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、鉄片250にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力440が働く。
【0040】
同様に、電磁力520による静磁場190への影響を緩和するために、ボア部160の斜め左上方の位置において鉄片250を収容したシムトレイ230Cを開口部210に挿入した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、鉄片250にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力450が働く。
【0041】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力440に対する反力として電磁力540が作用する。吸引力440と電磁力540とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。同様に、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力450に対する反力として電磁力550が作用する。吸引力450と電磁力550とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。よって、MRI用超電導マグネット100の内部において、電磁力520と電磁力530と電磁力540と電磁力550とが作用することになる。
【0042】
図11は、MRI用超電導マグネットの斜め下方に大きさの異なる床シールド、側方に大きさの異なる側壁シールドが配置された状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。
【0043】
図11に示すように、床シールド312と床シールド313とをボア部160の中心軸の下方の位置で隙間を開けて互いに間隔を置いて配置する。床シールド312と床シールド313とは同じ厚さであるが、床シールド312の方が床シールド313よりも大きい。
【0044】
さらに、互いに対向するように側壁シールド322および側壁シールド332を配置する。側壁シールド322と側壁シールド332とは同じ厚さであるが、側壁シールド322の方が側壁シールド332よりも大きい。このように、MRI用超電導マグネット100の周囲において非対称に磁気シールドが配置されることがある。なお、図11に示す磁気シールドは一例であって、磁気シールドの厚さおよび配置には様々な態様がある。
【0045】
床シールド312,313と側壁シールド322,332とを配置した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、床シールド312および側壁シールド322には、MRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力460が働く。特に、吸引力460は、MRI用超電導マグネット100の近くに位置する床シールド312に対して、斜め左上方の方向に働く。
【0046】
同様に、床シールド313および側壁シールド332には、MRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力470が働く。特に、吸引力470は、MRI用超電導マグネット100の近くに位置する床シールド313に対して、斜め右上方の方向に働く。
【0047】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力460に対する反力として電磁力560が作用する。吸引力460と電磁力560とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。また、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力470に対する反力として電磁力570が作用する。吸引力470と電磁力570とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。よって、MRI用超電導マグネット100の内部において、電磁力560と電磁力570とが作用することになる。
【0048】
図12は、図11のMRI用超電導マグネットにおいてシミングを行なった状態で定格磁場を発生させた際の電磁力を模式的に示す図である。図12に示すように、電磁力570による静磁場190への影響を緩和するために、ボア部160の斜め右上方の位置において鉄片250を収容したシムトレイ230Dを開口部210に挿入した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、鉄片250にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力480が働く。
【0049】
同様に、電磁力560による静磁場190への影響を緩和するために、ボア部160の斜め左上方の位置において鉄片250を収容したシムトレイ230Eを開口部210に挿入した状態でMRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、鉄片250にはMRI用超電導マグネット100に引き付けられる吸引力490が働く。
【0050】
その結果、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力480に対する反力として電磁力580が作用する。吸引力480と電磁力580とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。同様に、MRI用超電導マグネット100の内部において、吸引力490に対する反力として電磁力590が作用する。吸引力490と電磁力590とは、互いに逆向きで同じ大きさの力である。よって、MRI用超電導マグネット100の内部において、電磁力560と電磁力570と電磁力580と電磁力590とが作用することになる。
【0051】
上記のように、MRI用超電導マグネット100には、使用場所の磁場雰囲気ならびにシミングによって配置される鉄片250などの影響により、様々な強さの電磁力が様々な位置に作用する。この電磁力が許容量を越えてMRI用超電導マグネット100に作用した場合、クエンチが起こる可能性が高くなり、特に、許容量を超えた電磁力が初めて作用した場合に、クエンチが起こる可能性が高くなる。そこで、本実施形態のMRI用超電導マグネット100においては、使用場所に設置する前に以下の調整がされることにより、クエンチが起こる可能性が低減される。
【0052】
以下、本実施形態のMRI用超電導マグネット100の調整方法について説明する。図13は、本実施形態のMRI用超電導マグネットの調整方法を示すフロー図である。
【0053】
本実施形態においては、シミングを使用場所に設置する前に行なう。具体的には、MRI用超電導マグネット100を製造する工場内においてシミングを行なう。シミングは、使用場所にMRI用超電導マグネット100を設置した状態における静磁場領域180の静磁場190が均一になるように行なうものである。そのため、工場内でシミングを行なうためには、MRI用超電導マグネット100が設置される使用場所の磁場雰囲気を考慮してシミングを行なう必要がある。
【0054】
そのため、まず、MRI用超電導マグネット100は部屋300内に設置されるため、部屋300内で磁場を測定することにより、部屋300内の磁場雰囲気を把握する(S100)。具体的には、MRI超電導マグネット100のシミングする前に予め、MRI超電導マグネット100の設置予定場所である部屋300における、床シールド310、第1側壁シールド320、第2側壁シールド330、第3側壁シールド350、第4側壁シールド360および天井シールド340による磁場の総和を測定する。ただし、この磁場の総和の測定に替えて、標準的な磁気シールドの条件下で磁場解析を行なった結果および蓄積された過去の統計データなどに基づいて、部屋300内の磁場雰囲気を把握するようにしてもよい。
【0055】
使用場所の磁場の測定の後、磁場解析のプログラムに、部屋300内の磁場の測定結果と、工場で組立てられたMRI用超電導マグネットの製作誤差とを入力することにより、静磁場領域180における静磁場190をシミュレーション解析する。
【0056】
シミュレーション解析の結果に基づいて、静磁場領域180における静磁場190の均一性を高めることができるように鉄片250の配置を決定して、MRI用超電導マグネット100のシミングを行なう。言い換えると、使用場所の磁場雰囲気を考慮してMRI用超電導マグネットをシミングする(S110)。
【0057】
次に、シミングしたMRI用超電導マグネット100を使用場所である部屋300における磁場雰囲気と略同一の磁場雰囲気中に置いた状態で、定格磁場を発生させる。言い換えると、使用場所の磁場雰囲気を具現化した環境下で、シミングしたMRI用超電導マグネット100で定格磁場を発生させる(S120)。
【0058】
図14は、MRI用超電導マグネットを製造する工場の磁場雰囲気を使用場所の磁場雰囲気と同等にした状態を示す側面図である。図15は、図14のXV−XV線矢印方向から見た図である。
【0059】
図14,15に示すように、MRI用超電導マグネット100が製造される工場600の周囲を磁性体からなる磁気シールドで覆うことにより、工場600内の磁場雰囲気を使用場所である部屋300の磁場雰囲気と同等にする。
【0060】
具体的には、床部に配置された床シールド610、図14の右側の側壁部に配置された第1側壁シールド620、図14の左側の側壁部に配置された第2側壁シールド630、図15の右側の側壁部に配置された第3側壁シールド650、図15の左側の側壁部に配置された第4側壁シールド660、および、天井部に天井シールド640を含む磁気シールドで、工場600を覆う。本実施形態においては、これらの磁気シールドを鉄板で形成したが、磁気シールドは磁性体で形成されていればよく、特に材料は限定されない。
【0061】
工場600に配置された磁気シールドは、部屋300に配置された磁気シールドにより形成される磁場雰囲気と同等の磁場雰囲気を工場600内に形成することができるように構成されている。
【0062】
なお、本実施形態においては、工場600を磁気シールドで覆うことにより所望の磁場雰囲気を形成したが、磁場雰囲気の形成方法はこれに限られず、他の方法により所望の磁場雰囲気を形成してもよい。
【0063】
部屋300の磁場雰囲気と同等の磁場雰囲気である工場600内において、MRI用超電導マグネット100に定格磁場を発生させると、上述の通り、MRI用超電導マグネット100に電磁力が作用する。この電磁力は、使用場所である部屋300内の磁場雰囲気中で定格磁場を発生しているMRI用超電導マグネット100に作用する電磁力と同等の電磁力である。
【0064】
MRI用超電導マグネット100の内部には外部の磁性体の有無にかかわらず、軸方向および径方向に一定の電磁力が生じており、それ自体ではクエンチを発生しない場合でも、上記の電磁力の重畳によって新たなじょう乱が生じてクエンチを発生する可能性がある。
【0065】
たとえば、電磁力が、超電導コイル140の構成要素であるコイル、コイル間に含浸されたエポキシ樹脂および層間フィルムなどに作用した場合、超電導コイル140の内部で微小なクラックが発生することがある。その場合、超電導コイル140内で発熱が起きることによりクエンチが発生することがある。
【0066】
クエンチが起きた場合、MRI用超電導マグネット100の作動を停止して超電導コイル140の冷却を確認した後、新たな液体ヘリウムを補充する。その後、再度、MRI用超電導マグネット100で定格磁場を発生させる。このときも、MRI用超電導マグネット100には、最初に定格磁場を発生させた際と同様の電磁力が作用するが、超電導コイル140の内部では新たなクラックが生じにくい。そのため、液体ヘリウム150による冷却条件がほとんど変化せず、クエンチが起きる可能性が低減していると考えられる。この定格磁場を発生させる工程と液体ヘリウムを補充する工程とは、MRI用超電導マグネット100にクエンチが起きなくなるようになるまで繰り返してもよい。
【0067】
なお、工場600内における定格磁場の発生によって必ずしもMRI用超電導マグネット100がクエンチを起さなくてもよい。工場600において定格磁場を発生するまでMRI用超電導マグネット100がクエンチを起さないようにされていれば、その後、使用場所に設置されてMRI用超電導マグネット100が使用される際にクエンチが起きる可能性が低減されている。
【0068】
最後に、MRI用超電導マグネット100を使用場所である部屋300内に設置する(S130)。このように、使用場所に設置する前にMRI用超電導マグネット100を調整することにより、MRI用超電導マグネット100が使用場所でクエンチする可能性を低減して、MRI用超電導マグネット100の安定性を向上させることができる。
【0069】
なお、シミングを行なう作業として、鉄片250をシムトレイ230に収容する代わりに、MRI用超電導マグネット100に磁性体を簡易的に配置するようにしてもよい。
【0070】
以下、本発明の実施形態2に係るMRI用超電導マグネットの調整方法について図面を参照して説明する。
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係るMRI用超電導マグネット100の調整方法は、シミングする工程のみ実施形態1に係るMRI用超電導マグネット100の調整方法と異なるため、他の工程については説明を繰り返さない。
【0071】
図16は、本発明の実施形態2のMRI用超電導マグネットの調整方法を示すフロー図である。図16に示すように、本実施形態においては、使用場所である部屋300の磁場雰囲気を具現化した環境下で、MRI用超電導マグネット100のシミングを行なう(S210)。
【0072】
具体的には、図14,15に示すように、使用場所である部屋300内の磁場雰囲気と同等の磁場雰囲気である工場600内において、MRI用超電導マグネット100のシミングを行なう。このようにした場合、静磁場領域180における静磁場190の磁場を実際に測定しつつシミングを行なうことができるため、より静磁場190の均一性の向上を図ることができる。
【0073】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 MRI装置、10 静磁場発生部、20 ボア、30 寝台、100 MRI用超電導マグネット、110 真空槽、120 熱シールド、130 ヘリウム槽、140 超電導コイル、150 液体ヘリウム、160 ボア部、170 脚部、180 静磁場領域、190 静磁場、191 中心磁場、192 端部磁場、200 シミング部、210 開口部、230,230A,230B,230C,230D,230E シムトレイ、231 本体部、232 蓋部、240 凹部、250 鉄片、300 部屋、310,311,312,313,610 床シールド、320,620 第1側壁シールド、321,322,331,332 側壁シールド、330,630 第2側壁シールド、340,640 天井シールド、350,650 第3側壁シールド、360,660 第4側壁シールド、400,410,420,430,440,450,460,470,480,490 吸引力、500,510,520,530,540,550,560,570,580,590 電磁力、600 工場。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRI用超電導マグネットを使用場所に設置する前に調整する方法であって、
前記使用場所の前記磁場雰囲気を考慮して前記MRI用超電導マグネットをシミングする工程と、
前記使用場所の前記磁場雰囲気を具現化した環境下で、シミングした前記MRI用超電導マグネットにおいて定格磁場を発生させる工程と、
前記定格磁場を発生させる前記工程の後に、前記MRI用超電導マグネットを前記使用場所に設置する工程と
を備える、MRI用超電導マグネットの調整方法。
【請求項2】
前記MRI用超電導マグネットをシミングする前記工程において、前記使用場所の前記磁場雰囲気を具現化した環境下で、前記MRI用超電導マグネットをシミングする、請求項1に記載のMRI用超電導マグネットの調整方法。
【請求項3】
前記使用場所の前記磁場雰囲気を具現化するために、前記MRI用超電導マグネットの周囲に磁性体を配置し、
前記磁性体は、前記使用場所の前記磁場雰囲気中で前記定格磁場を発生している前記MRI用超電導マグネットに作用する電磁力と同等の電磁力を、前記定格磁場を発生している前記MRI用超電導マグネットに作用する、請求項1または2に記載のMRI用超電導マグネットの調整方法。
【請求項4】
前記定格磁場を発生させる前記工程において、前記MRI用超電導マグネットにクエンチが起きなくなるようになるまで、繰り返し前記定格磁場を発生させる、請求項1から3のいずれかに記載のMRI用超電導マグネットの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−110482(P2012−110482A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261286(P2010−261286)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】