説明

Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法

【課題】Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くすることなく、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を向上させる。
【解決手段】軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末5を、マグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して、前記軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末とする熱処理工程と、熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えるMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法に関し、特に、酸化処理した鉄粉末などの軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを用いて、Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くすることなく、Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁心、電動機コア、発電機コア、ソレノイドコア、イグニッションコア、リアクトル、トランス、チョークコイルコアまたは磁気センサーコアなど各種電磁気回路部品の素材として、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が知られている。Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末は、酸化処理した鉄粉末に対してマグネシウム粉末を配合して配合粉末とし、この配合粉末を真空雰囲気中で加熱しながら転動する方法などによって製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−241583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法を用いて、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を製造した場合、Mg含有比率が十分に高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られず、耐熱性や軟磁性複合材として用いる場合の絶縁性が不十分である場合があった。
Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を得るためには、原料である配合粉末中に含まれるマグネシウム粉末の配合量を増やしたり、加熱時間を長くしたりすることが考えられる。しかし、マグネシウム粉末の配合量を増やしたり、加熱時間を長くしたりしても、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を一定以上高くすることは困難であった。
【0004】
図4(a)は、標準1回処理後の粉末と、標準1回処理と同じ処理を3回行った3回処理後の粉末において、Fe濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフであり、図4(b)は、標準1回処理後の粉末と、3回処理後の粉末において、Mg濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフである。なお、図4(a)および図4(b)における標準1回処理後の粉末とは、酸化物被覆鉄粉からなる軟磁性金属粉末に対し、マグネシウム粉末を 0・3質量%の割合となるように添加してなる配合粉末を、熱処理温度650℃で60分間加熱してなる粉末である。また、3回処理後の粉末とは、標準1回処理後、冷却し得られた粉末に対し、新たにマグネシウム粉末を0.3質量%の割合となるように添加し、標準1回処理と同じ温度および時間の熱処理を2回行うことにより得られた粉末である。
図4(a)および図4(b)に示すように、マグネシウム粉末を追加して複数回の熱処理を行っても、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を一定以上高くすることはできなかった。
【0005】
また、Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を得るために、Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くすることが考えられる。この場合、Mg含有比率を向上させることはできるが、鉄粉を酸化処理するための高温熱処理など軟磁性金属粉末の前処理時間を長くしなければならないという問題や、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の軟磁気特性が低下してしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くすることなく、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を向上させ、優れた軟磁気特性が得られるMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記問題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
すなわち、本発明者は、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末をマグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱した場合には、軟磁性金属粉末の周囲にマグネシウム蒸気が過剰にあったとしても、Mg含有比率は一定以上向上せず、余分なマグネシウム蒸気は飛散してしまうという知見を得た。そして、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末をマグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して熱処理後粉末とし、得られた熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給した場合には、得られたMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を向上させることができることを見出し、本発明を想到した。即ち、本発明は以下に関する。
【0008】
本発明のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法は、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末を、前記マグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して、前記軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末とする熱処理工程と、前記熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、上記のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法においては、前記蒸気供給工程の前に、前記熱処理後粉末の温度を400℃以下とすることを特徴とする方法とすることができる。
【0010】
また、前記蒸気供給工程における前記熱処理後粉末の温度を、前記マグネシウム粉末の気化温度未満とする方法とすることができる。
【0011】
また、上記のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法においては、前記蒸気供給工程が、前記熱処理後粉末とマグネシウム粉末とを1つの加熱容器内に離間して配置し、前記マグネシウム粉末を加熱してマグネシウム蒸気を発生させ、前記熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する工程である方法とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法においては、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末を、前記マグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して、軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末とする熱処理工程と、前記熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えるので、熱処理工程によって得られた熱処理後粉末のMg含有比率を、蒸気供給工程において向上させることができ、Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られる。したがって、本発明によれば、Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くする必要はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法は、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末を、マグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して熱処理後粉末とする熱処理工程と、熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えている。
【0014】
本発明において用いられる軟磁性金属粉末としては、従来から一般に知られている鉄粉末、絶縁処理鉄粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末またはFe−P系鉄基軟磁性合金粉末などが挙げられる。
軟磁性金属粉末は、マグネシウムの被覆性を向上させるために、酸化処理してから用いることが好ましい。酸化処理としては、例えば、大気中で200℃〜250℃の温度で10分〜30分間熱処理を行う方法などが挙げられる。
また、酸化処理した軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末との混合割合は、酸化処理した軟磁性金属粉末に対してマグネシウム粉末が0.05〜2質量%となるように添加することが好ましい。
【0015】
熱処理工程においては、例えば、図1に示す真空加熱炉が用いられる。図1に示す真空加熱炉1は、加熱容器2と加熱手段3とを備えている。加熱容器2は、図1に示すように、略円筒状で長さ方向が略水平に設置されたものあり、中央に外径の拡大された拡径部2aが形成されている。拡径部2aには、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末5が収容されている。加熱容器2は、中心軸21を中心として回転可能に支持されており、図1において矢印で示されるように、モータ(図示略)などの駆動装置により中心軸21回りに回転されるようになっている。
加熱容器2は、モリブデン、タンタル、若しくはタングステン、またはチタンおよびジルコニウムなどの耐熱性元素を必要に応じて含有するモリブデン合金や、ステンレス鋼などにより形成されている。
【0016】
加熱手段3は、加熱容器2に収容された配合粉末5を加熱容器2の外側から加熱するためのものである。加熱手段3は、円筒状であり、加熱容器2の拡径部2aの外側に、加熱容器2の外周面を取り囲むように加熱容器2の中心軸21と同軸で配置されている。
【0017】
図1に示す真空加熱炉1を用いる熱処理工程は、加熱容器2内を真空状態にし、加熱容器2を回転させて配合粉末5を攪拌しながら加熱手段3により加熱容器2の拡径部2aを加熱して、配合粉末5をマグネシウム粉末の気化温度以上の温度となるように加熱して、軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末とする。
【0018】
熱処理工程の熱処理温度は、マグネシウム粉末の気化温度以上あればよく、特に限定されないが、500℃〜1100℃の範囲とすることが好ましく、500℃〜800℃の範囲とすることがより好ましい。
また、熱処理工程における配合粉末5の加熱時間は、30分〜120分間であることが好ましい。
【0019】
本実施形態においては、蒸気供給工程を行う前に、熱処理工程を行うことによって得られた熱処理後粉末を空冷などの方法により冷却し、熱処理後粉末の温度を400℃以下、より好ましくは200℃以下とする冷却工程を行う。
【0020】
続いて、蒸気供給工程を行う。本実施形態の蒸気供給工程においては、例えば、図2に示す真空加熱炉が用いられる。図2に示す真空加熱炉11は、加熱容器12と加熱手段13とを備えている。加熱容器12は、略円筒状で長さ方向が略水平に設置されたものあり、図2における左側に外径の拡大された拡径部12aが形成されている。拡径部12aには、熱処理後粉末51が収容されている。また、加熱容器12の図2における右側は、拡径部12aよりも外径の小さい小径部となっており、加熱手段13によって加熱される加熱領域12bを有している。加熱領域12bには、図2に示すように、マグネシウム粉末52が収容されている。したがって、図2に示す真空加熱炉11においては、熱処理後粉末51とマグネシウム粉末52とが1つの加熱容器12内に離間して配置されている。
また、加熱容器12は、図1に示す加熱容器2と同様に中心軸21を中心として回転可能に支持されており、図2において矢印で示されるように、モータ(図示略)などの駆動装置により中心軸21回りに回転されるようになっている。
【0021】
加熱手段13は、加熱容器12の加熱領域12bに収容されたマグネシウム粉末52を加熱容器12の外側から加熱するヒーターなどからなる。加熱手段13は、円筒状であり、加熱容器12の加熱領域12bの外側に、加熱容器12の外周面を取り囲むように加熱容器12の中心軸21と同軸で配置されている。
【0022】
図2に示す真空加熱炉11を用いる蒸気供給工程は、加熱容器12内を真空状態にし、加熱容器12を回転させて、拡径部12aにおいて熱処理後粉末51を、加熱領域12bにおいてマグネシウム粉末52を、それぞれ個別に攪拌しながら、加熱手段13により加熱領域12bをマグネシウム粉末52の気化温度以上の温度に加熱してマグネシウム蒸気を発生させる。得られたマグネシウム蒸気は、加熱容器12内で拡散して熱処理後粉末51に供給される。このことによって、熱処理後粉末51とマグネシウム蒸気とからMg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られる。
【0023】
蒸気供給工程におけるマグネシウム粉末52の温度は、マグネシウム粉末の気化温度以上あればよく、特に限定されないが、例えば、500℃〜900℃とすることが好ましく、500℃〜800℃の範囲とすることがより好ましい。上記温度が500℃未満であると、マグネシウム粉末52からマグネシウム蒸気を効率よく発生させることができないため、好ましくない。また、上記温度が900℃を超えると、蒸気供給工程を行うための設備が高価となる。
【0024】
蒸気供給工程における熱処理後粉末51の温度は、マグネシウム粉末の気化温度未満であることが好ましく、例えば、20℃〜400℃とすることが好ましく、50℃〜200 ℃の範囲とすることがより好ましい。
また、蒸気供給工程における熱処理後粉末51へのマグネシウム蒸気の供給時間は、 30分〜120分間であることが好ましい。
【0025】
また、蒸気供給工程において加熱領域12bに供給されるマグネシウム粉末52の量は、拡径部12aに供給される熱処理後粉末51の量に対して0.05〜2質量%の割合となるように添加することが好ましい。
【0026】
また、蒸気供給工程後に得られたMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有酸化膜被覆の厚みは、50nm〜200nmであることが好ましく、60nm〜150nmであることがより好ましい。Mg含有酸化膜被覆の厚みが上記範囲未満であると、蒸気供給工程によるMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を向上させる効果が十分に得られない場合がある。また、Mg含有酸化膜被覆の厚みが上記範囲を超えると、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の磁束密度が十分に得られない場合がある。
【0027】
このようにして得られたMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末は、例えば、レジンなどのバインダーを添加して所定の温度および圧力で所定の形状に成型し、所定の温度および圧力で焼成することにより軟磁性複合材とされ、各種電磁気回路部品として使用される。
【0028】
本実施形態のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法においては、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末5を、マグネシウム粉末52の気化温度以上の温度で加熱して、軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末51とする熱処理工程と、熱処理後粉末51にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えるので、熱処理工程によって得られた熱処理後粉末51のMg含有比率を、蒸気供給工程において向上させることができ、Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られる。
【0029】
また、本実施形態のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法において、蒸気供給工程の前に、熱処理後粉末51の温度を400℃以下とする冷却工程を行った場合には、熱処理後粉末51を、蒸気供給工程を行うことによりマグネシウム蒸気が被着しやすいものとすることができるので、より一層Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られる。
【0030】
また、蒸気供給工程における熱処理後粉末51の温度を、マグネシウム粉末の気化温度未満とした場合には、熱処理後粉末51にマグネシウム蒸気が被着しやすくなるので、より一層Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末が得られる。
【0031】
また、本実施形態においては、蒸気供給工程が、図2に示すように、熱処理後粉末51とマグネシウム粉末52とを1つの加熱容器12内に離間して配置し、マグネシウム粉末52を加熱してマグネシウム蒸気を発生させ、熱処理後粉末51にマグネシウム蒸気を供給する工程であるので、Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を容易に製造できる。
【0032】
なお、上述した冷却工程および蒸気供給工程は、熱処理工程の後に1回以上行えばよく、蒸気供給工程の後にさらに一回以上冷却工程および蒸気供給工程を繰り返し行ってもよい。蒸気供給工程の後にさらに一回以上冷却工程および蒸気供給工程を行うことで、より一層Mg含有比率の高いMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を製造できる。
【0033】
「実施例」
図1に示す真空加熱炉1を用い、軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを表1に示す混合割合(軟磁性金属粉末に対するマグネシウム粉末の割合で示す)で含む配合粉末5を、表1に示す熱処理温度で120分間加熱して熱処理後粉末51とする熱処理工程を行った。
その後、必要に応じて、熱処理工程で得られた熱処理後粉末51を空冷により表1に示す冷却温度となるまで冷却する冷却工程を行った。
次いで、図2に示す真空加熱炉11の拡径部12aに冷却工程後の熱処理後粉末51を供給し、加熱領域12bに表1に示す使用量(熱処理後粉末51に対するマグネシウム粉末52の割合で示す)でマグネシウム粉末52を供給し、マグネシウム粉末52を表1に示す加熱温度で60分間加熱して、熱処理後粉末51にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程を行い実験例1〜15のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
なお、軟磁性金属粉末としては、平均粒子径100μmの純鉄粉を大気中で220〜250℃の温度で20分間熱処理を行う酸化処理を施してなる酸化物被覆鉄粉を用いた。
【0036】
このようにして得られた実験例1〜15のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有酸化膜被覆の厚みと、表面から深さ40nmの位置の組成を以下に示すようにして求めた。その結果を表1に示す。
「Mg含有酸化膜被覆の厚み」
皮膜の厚みは電子顕微鏡にてMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の断面の組織観察を行い、測定した。
「表面から深さ40nmの位置の組成」
オージエ電子分光分析計にて測定した。
【0037】
また、実験例1について、熱処理工程後に得られた熱処理後粉末と、蒸気供給工程後に得られたMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末について、表面からの深さとMg濃度およびFe濃度との関係を調べた。その結果を図3に示す。
図3は、表面からの深さとMg濃度およびFe濃度との関係を示したグラフである。図3に示すように、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末および熱処理後粉末は、いずれも表面からの深さが深くなるに連れて、Mg濃度が低くなり、Fe濃度が高くなっている。
しかし、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末では、熱処理後粉末と比較して、Mg濃度が高く、Fe濃度が低くなっている。また、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末と熱処理後粉末とのMg濃度およびFe濃度の差は、表面からに80nmまでの範囲おいては、深さが深くなるに連れて大きくなっている。また、図3に示すように、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末と熱処理後粉末とのMg濃度およびFe濃度の差は、特に、表面から20nm〜100nmの範囲で大きくなっており、40nm〜80nmの範囲でより一層大きくなっている。
【0038】
また、実験例1〜15のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末に対し、シリコーンレジンを0.3質量%添加して温度150℃、圧力790MPaで、外径35mm、内径25mm、厚み5mmのリング状に成型し、窒素雰囲気中で650℃の温度で30分間焼成することにより軟磁性複合材を得た。
そして得られた軟磁性複合材の密度、磁束密度、1T、400Hzでの鉄損値を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
表1に示すように、200℃以下の冷却工程を行ってから蒸気供給工程を行った実験例1〜5では、Mg含有酸化膜被覆の厚みが同じであっても、冷却工程および蒸気供給工程を行っていない実験例12と比較して、表面から深さ40nmのMg濃度が非常に高くなっており、冷却工程および蒸気供給工程を行っていない場合の厚みが300nmである実験例15と同等の表面から深さ40nmのMg濃度となっている。したがって、冷却工程および蒸気供給工程を行うことで、Mg含有酸化膜被覆の厚みを厚くすることなく、Mg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末のMg含有比率を向上できることが分かる。
また、実験例1〜5では、冷却温度が200℃超え〜400℃以下である実験例9および10や、冷却温度が400℃超えである実験例11と比較して、表面から深さ40nmのMg濃度が高くなっている。したがって、冷却温度は、400℃以下であることが好ましく、200℃以下がより好ましいことが分かる。
また、蒸気供給工程を行った実験例1〜11では、冷却工程および蒸気供給工程を行っていない実験例12〜15と比較して、鉄損値が小さかった。また、冷却工程および蒸気供給工程を行っていない実験例14および15では、表面から深さ40nmのMg濃度が47質量%以上であるが、Mg含有酸化膜被覆の厚みが厚いため、軟磁性複合材の密度や磁束密度が低いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法に用いられる真空加熱炉の一例を示した概略構成図である。
【図2】図2は、本発明のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法に用いられる真空加熱炉の一例を示した概略構成図である。
【図3】図3は、表面からの深さとMg濃度およびFe濃度との関係を示したグラフである。
【図4】図4(a)は、標準1回処理後の粉末と、標準1回処理と同じ処理を3回行った3回処理後の粉末において、Fe濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフであり、図4(b)は、標準1回処理後の粉末と、3回処理後の粉末において、Mg濃度と表面からの深さとの関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1、11…真空加熱炉、2、12…加熱容器、2a、12a…拡径部、2b…他端部、3、13…加熱手段、5…配合粉末、12b…加熱領域、51…熱処理後粉末、52…マグネシウム粉末。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粉末とマグネシウム粉末とを含む配合粉末を、前記マグネシウム粉末の気化温度以上の温度で加熱して、前記軟磁性金属粉末の表面に酸化マグネシウムを含む酸化膜皮膜が形成された熱処理後粉末とする熱処理工程と、
前記熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する蒸気供給工程とを備えることを特徴とするMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記蒸気供給工程の前に、前記熱処理後粉末の温度を400℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記蒸気供給工程における前記熱処理後粉末の温度を、前記マグネシウム粉末の気化温度未満とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法。
【請求項4】
前記蒸気供給工程が、前記熱処理後粉末とマグネシウム粉末とを1つの加熱容器内に離間して配置し、前記マグネシウム粉末を加熱してマグネシウム蒸気を発生させ、前記熱処理後粉末にマグネシウム蒸気を供給する工程であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のMg含有酸化膜被覆軟磁性金属粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−242908(P2009−242908A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92908(P2008−92908)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(306000315)三菱マテリアルPMG株式会社 (130)
【Fターム(参考)】