説明

N−(ω−フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法、並びに新規なN−(4−フルオロブチル)環状アミン化合物及びその製法

【課題】 本発明の課題は、簡便な方法により、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物を得ることができる、工業的に好適なN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法を提供することにある。本発明の課題は、又、新規なN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物であるN-(4-フルオロブチル)環状アミン化合物及びその製法を提供することにもある。
【解決手段】 本発明の課題は、フルオロアルカン化合物、環状アミン化合物及び塩基を反応させることを特徴とする、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法に関する。N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物は、例えば、キャパシタ用電解液の電解質イオンや画像形成材料としての四級アンモニウム四フッ化ホウ酸塩の原料となる有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法としては、例えば、トロパン化合物や環状アミン構造を有するクラウンエーテル化合物に、各種α,ω-ブロモフルオロアルカンとを反応させる方法が開示されている(例えば、非特許文献1〜2参照)。しかしながら、これらの方法においては、反応時間が長時間である上に、特殊な化合物においてのみしか反応が適用されておらず、単純な構造の環状アミン化合物への適用の可能性については、何ら言及されてない。そのため、比較的構造が単純な化合物についての反応条件等の検討は不十分なものであった。
又、本発明のN-(4-フルオロアルキル)環状アミン化合物に関しては、何ら開示されていなかった。
【非特許文献1】J.Med.Chem.48,7080(2005)
【非特許文献2】Anal.Chem.76,2773(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、上記問題点を解決し、簡便な方法により、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物を得ることができる、工業的に好適なN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法を提供することにある。本発明の課題は、又、新規なN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物であるN-(4-フルオロブチル)環状アミン化合物及びその製法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、一般式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、mは、2〜10の整数、Lは、脱離基を示す。)
で示されるフルオロアルカン化合物、一般式(2)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、
【0009】
【化3】

【0010】
は、不飽和結合を有していても良い二価の脂肪族炭化水素基を示す。)
で示される環状アミン化合物及び塩基を反応させることを特徴とする、一般式(3)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、m及び
【0013】
【化5】

【0014】
は、前記と同義である。)
でN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法によって解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法に関する。N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物は、例えば、キャパシタ用電解液の電解質イオンや画像形成材料としての四級アンモニウム四フッ化ホウ酸塩の原料となる有用な化合物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の反応において使用するフルオロアルカン化合物は、前記の一般式(1)において示される。その一般式(1)において、mは、2〜10の整数であるが、より好ましくは2〜4である。又、Lは、脱離基を示すが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、ベンゼンスルホネート、トルエンスルホネート等のスルホネート;アセテート、トリクロロアセテート、トリフルオロアセテート、ベンゾエート等のカルボキシレートが挙げられるが、好ましくはハロゲン原子、スルホネート、更に好ましくは塩素原子、臭素原子、メタンスルホネートである。
【0017】
その具体的な化合物としては、例えば、1-クロロ-2-フルオロエタン、1-ブロモ-2-フルオロエタン、1-フルオロ-2-ヨードエタン、2-フルオロエタンメタンスルホネート、1-クロロ-3-フルオロプロパン、1-ブロモ-3-フルオロプロパン、1-フルオロ-3-ヨードプロパン、3-フルオロプロピルメタンスルホネート、1-クロロ-4-フルオロブタン、1-ブロモ-4-フルオロブタン、1-フルオロ-4-ヨードブタン、4-フルオロブチルメタンスルホネート等が挙げられるが、好ましくは1-クロロ-4-フルオロブタン、1-ブロモ-4-フルオロブタンが使用される。
【0018】
本発明の反応において使用する環状アミン化合物は、前記の一般式(2)で示される。その具体的な化合物としては、例えば、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン等の飽和脂肪族環状アミン化合物;ピロール、ピラゾール、トリアゾールなどの不飽和含窒素複素環化合物が挙げられるが、好ましくはピロリジン、ピペリジン、ピロールが使用される。
【0019】
前記環状アミン化合物の使用量は、フルオロアルカン化合物1モルに対して、好ましくは0.3〜5.0モル、更に好ましくは0.5〜3.0モルである。
【0020】
本発明の反応において反応効率(反応速度や収率等)を高めるために塩基を使用しても良く、使用する塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウムなどのアルカリ金属水素化物;トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン類;ピリジン、キノリンなどの複素環式アミン類等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水素化物、更に好ましくは炭酸カリウム、水素化ナトリウムが使用される。これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
前記塩基の使用量は、フルオロアルカン化合物1gに対して、好ましくは0〜3.0モル、更に好ましくは0〜2.0モルである。
【0022】
本発明の反応は、溶媒の存在または非存在下で行うのが望ましく、使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;ピリジン、キノリンなどのアミン類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;N,N'-ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはニトリル類、アミド類、更に好ましくはアセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミドが使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0023】
前記溶媒の使用量は、フルオロアルカン化合物1gに対して、好ましくは0.1〜50ml、更に好ましくは0.2〜20mlである。
【0024】
本発明の反応は、例えば、フルオロアルカン化合物、環状アミン化合物、塩基及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは10〜250℃、更に好ましくは20〜200℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0025】
本発明の反応によってN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物が得られるが、これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な製法によって単離・精製される。
【0026】
本発明の反応によって得られる化合物は、前記の一般式(3)において示されるが、その具体的な化合物としては、例えば、1-(2−フルオロエチル)アジリジン、1-(3-フルオロプロピル)アジリジン、1-(4-フルオロブチル)アジリジン、1-(5-フルオロペンチル)アジリジン、1-(2-フルオロエチル)アゼチジン、1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン、1-(4-フルオロブチル)アゼチジン、1-(5-フルオロペンチル)アゼチジン、1-(2-フルオロエチル)ピロリジン、1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン、1-(4-フルオロブチル)ピロリジン、1-(5-フルオロペンチル)ピロリジン、1-(2-フルオロエチル)ピペリジン、1-(3-フルオロプロピル)ピペリジン、1-(4-フルオロブチル)ピペリジン、1-(5-フルオロペンチル)ピペリジン、1-(2−フルオロエチル)ピロール、1-(3-フルオロプロピル)ピロール、1-(4-フルオロブチル)ピロール、1-(5-フルオロペンチル)ピロール等が挙げられるが、好ましくは1-(4-フルオロブチル)ピロリジン、1-(4-フルオロブチル)ピペリリジン、1-(4-フルオロブチル)ピロールである。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1(N-(4-フロオロブチル)ピロリジンの合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容量100mlのガラス製容器に、1-ブロモ-4-フルオロブタン11g(69.5mmol)、ピロリジン9.9g(139mmol)、炭酸カリウム9.6g(69.5mmol)及びアセトニトリル50mlを加えた後、攪拌しながら25〜35℃で3時間反応させた。反応終了後、得られた反応混合物に、炭酸水素ナトリウム水溶液50ml及びトルエン50mlを添加した後、有機層を分液した。水層をトルエン30mlで2回抽出した後、先の有機層と抽出液を合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、得られた濾液を濃縮した後、減圧下で蒸留(72〜74℃、1.3kPa)し、無色液体として1-(4-フルオロブチル)ピロリジン6.3gを得た(単離収率;62%)。
1-(4-フルオロブチル)ピロリジンは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0029】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.57〜1.84(8H,m)、2.43〜2.53(6H,m)、4.38(1H,t)、4.54(1H,t)
19F-NMR(CD3CN,δ(ppm));-216.3
【0030】
実施例2(1-(4-フルオロブチル)ピロールの合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容量100mlのガラス製容器に、1-ブロモ-4-フルオロブタン10g(63mmol)、ピロール5.0g(75mmol)及びテトラヒドロフラン50mlを加えた。次いで、炭酸カリウム9.6g(69.5mmol)、氷冷下で60%水素化ナトリウムを3.3g(76mmol)を加えた後30分攪拌、室温で3時間反応させた。反応終了後、反応液にメタノール、炭酸水素ナトリウム水溶液50ml、トルエン50mlの順で加えた後、分液して有機層を取り出した。水層をトルエン30mlで2回抽出し、有機層と合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濾液を濃縮した後に濃縮物を減圧蒸留し、淡褐色液体として1-(4-フルオロブチル)ピロール3.6gを得た(単離収率;40%)。
1-(4-フルオロブチル)ピロールは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0031】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.56〜1.78(2H,m)、1.84〜1.96(2H,m)、3.93(2H,t,J=6.8Hz)、4.35(1H,t,J=5.9Hz)、4.51(1H,t,J=5.9Hz)、6.14(2H,t,J=2.2Hz)、6.65(2H,t,J=2.2Hz)
19F-NMR(CD3CN,δ(ppm));-217.4
【0032】
実施例3(1-(4-フルオロブチル)ピペリジンの合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容量100mlのガラス製容器に、1-ブロモ-4-フルオロブタン11g(69.5mmol)、ピペリジン13.8g(139mmol)、炭酸カリウム9.6g(69.5mmol)及びアセトニトリル50mlを加えた後、攪拌しながら40℃で4.5時間反応させた。反応終了後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで処理した。得られた展開液を濃縮した後、炭酸水素ナトリウム水溶液50ml及びトルエン50mlを加えた後に分液した。得られた有機層を濃縮後、減圧蒸留(83℃、0.7kPa)し、無色液体として1-(4-フルオロブチリル)ピペリジン3.2gを得た(単離収率;29%)。
1-(4-フルオロブチル)ピぺリジンは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0033】
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.36〜1.49(2H,m)、1.52〜1.82(8H,m)、2,26〜2.44(6H,m)、4.38(1H,t,J=5.9Hz)、4.53(1H,t,J=5.9Hz)
9F-NMR(CD3CN,δ(ppm));-216.1
【0034】
参考例1(スピロ-(1,1')-ビピロリジルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩の合成)
攪拌装置および温度計を備えた内容量30mlのガラス製容器に、トルエン5ml、実施例1と同様にして合成した1-(4-フルオロブチリル)ピロリジン0.31g(2.1mmol)、三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体0.3g(2.7mmol)を加えた後、攪拌しながら90℃で8時間反応させた。反応終了後、反応液を減圧下で濃縮した。濃縮物に2-プロパノール5mlを加え、加熱しながら溶解させた後に結晶を析出させた。得られた結晶を濾過して乾燥させ、白色固体としてスピロ-(1,1')-ビピロリジルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩0.31gを得た(取得収率68%)。
スピロ-(1,1')-ビピロリジルアンモニウム四フッ化ホウ酸塩の物性は以下のとおりであった。
【0035】
1H-NMR(CD3CN,δ(ppm));2.16〜2.20(8H,m)、3.36〜3.48(8H,m)
19F-NMR(CD3CN,δ(ppm));-149.8
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法に関する。N-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物は、例えば、キャパシタ用電解液の電解質イオンや画像形成材料としての四級アンモニウム四フッ化ホウ酸塩の原料となる有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、mは、2〜10の整数、Lは、脱離基を示す。)
で示されるフルオロアルカン化合物、一般式(2)
【化2】

(式中、
【化3】

は、不飽和結合を有していても良い二価の脂肪族炭化水素基を示す。)
で示される環状アミン化合物及び塩基を反応させることを特徴とする、一般式(3)
【化4】

(式中、m及び
【化5】

は、前記と同義である。)
でN-(ω-フルオロアルキル)環状アミン化合物の製法。
【請求項2】
一般式(3)において、mが4であり、且つ環状アミン化合物が、ピロリジン、ピペリジン又はピロールである、N-(4-フルオロブチル)環状アミン化合物。
【請求項3】
一般式(4)
【化6】

(式中、Lは、前記と同義である。)
で示されるフルオロブチル化合物、ピロリジン、ピペリジン又はピロール、及び塩基とを反応させる、請求項2記載のN-(4-フルオロブチル)環状アミン化合物の製法。
【請求項4】
塩基が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水素化物、又はそれらの混合物である、請求項1又は3記載の方製法。

【公開番号】特開2008−303155(P2008−303155A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150105(P2007−150105)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】