説明

N型カルシウムチャネルを阻害せずに卒中および他の疾患を治療する方法

本発明は、卒中の治療法およびこれにおいて用いるための組成物を提供する。方法には、活性ペプチドと内部移行ペプチドとのキメラペプチドが用いられる。内部移行ペプチドは、N型カルシウムチャネルへの実質的な結合なしに、それ自体および連結した活性ペプチドの細胞への取り込みを促進するtat変異体である。tat変異体の使用はN型カルシウムチャネルへの結合に関連する特定の副作用を伴わない卒中の治療を可能にする。Tat変異体ペプチドは他の疾患を治療する際に用いるための他の活性物質に連結することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は仮出願ではなく、2007年3月2日提出のUSSN 60/904,507の恩典を主張し、これはその全体がすべての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
卒中は米国において年間600,000名以上が罹患すると推定されている。1999年の報告では、全死亡数278,000名のうち167,000名以上が卒中で死亡した。1998年には、ショートステイ病院から退院したメディケア受給者だけで36億が支払われ、これには卒中により毎日の生活の活動に機能的制限または困難を有すると報告されている1,000,000名以上に対する長期医療は含まれていない(Heart and Stroke Statistical update, American Heart Association, 2002(非特許文献1))。ニューロンの死からの直接保護によって卒中による脳損傷を軽減する治療法は承認されていない。
【0003】
卒中は虚血、脳出血および/または外傷の領域におけるニューロン細胞死によって特徴づけられる。細胞死は、細胞内Ca2+の増加およびnNOS(ニューロン酸化窒素シンターゼ)活性上昇による酸化窒素の増加につながる、ニューロンのグルタミン酸過剰興奮によって誘発される。
【0004】
グルタミン酸は中枢神経系(CNS)における主な興奮性神経伝達物質で、ほとんどの興奮性シナプスの神経伝達を仲介する。3つのクラスのグルタミン酸ゲートイオンチャネル受容体(N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)、アルファ-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)およびカイニン酸)は、シナプス後シグナルを伝達する。これらのうち、NMDA受容体(NMDAR)はグルタミン酸の興奮毒性のかなりの部分を担っている。NMDA受容体はNR1サブユニットおよび1つまたは複数のNR2サブユニット(2A、2B、2Cまたは2D)(例えば、McDain, C. and Caner, M. (1994) Physiol. Rev. 74:723-760(非特許文献2)参照)、ならびに頻度は低いがNR3サブユニット(Chatterton et al. (2002) Nature 415:793-798(非特許文献3))を有していて複雑である。NR1サブユニットはグリシンに結合することが明らかにされているが、NR2サブユニットはグルタミン酸に結合する。グリシンおよびグルタミン酸結合はいずれも、イオンチャネルを開放し、カルシウムを細胞に流入させるために必要とされる。4つのNR2受容体サブユニットはNMDA受容体の薬理学および特性を決定し、NR1サブユニットの選択的スプライシングがさらに寄与していると思われる(Kornau et al. (1995) Science 269: 1737-40(非特許文献4))。NR1およびNR2Aサブユニットは脳において広範に発現されるが、NR2B発現は前脳、NR2Cは小脳に限られ、またNR2Dは他の型に比べると稀である。
【0005】
興奮毒性反応におけるNMDA受容体の重要な役割のため、これらの受容体は治療の標的と考えられてきた。イオンチャネル(ケタミン、フェンシクリジン、PCP、MK801、アマンタジン)、外部チャネル(マグネシウム)、NR1サブユニット上のグリシン結合部位、NR2サブユニット上のグルタミン酸結合部位、およびNR2サブユニット上の特定の部位(亜鉛-NR2A;イフェンプロジル、トラキソプロジル-NR2B)を標的とする化合物が開発された。これらのうち、NMDA受容体の非選択的アンタゴニストが卒中の動物モデルにおける最も強力な神経保護物質であった。しかし、卒中および外傷性脳傷害におけるこれらの薬物の臨床試験は、一般には幻覚やさらには昏睡などの重篤な副作用の結果、これまでのところ失敗であった。
【0006】
シナプス後肥厚部-95タンパク質(PSD-95)は興奮毒性および虚血性脳損傷を仲介する経路においてNMDARを結合すると報告されている(Aarts et al., Science 298, 846-850 (2002)(非特許文献5))。この結合は、標準tat内部移行ペプチドに融合したPSD-95に結合するNMDAR 2BのC末端からのペプチドをニューロンに伝達することにより妨害された。この処理は、NMDAR活性を阻害することなく下流のNMDARシグナリングを減衰させ、培養した皮質ニューロンを興奮毒性傷害から保護し、一過性局所性脳虚血にかけたラットの脳梗塞量を減少させた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Heart and Stroke Statistical update, American Heart Association, 2002
【非特許文献2】McDain, C. and Caner, M. (1994) Physiol. Rev. 74:723-760
【非特許文献3】Chatterton et al. (2002) Nature 415:793-798
【非特許文献4】Kornau et al. (1995) Science 269: 1737-40
【非特許文献5】Aarts et al., Science 298, 846-850 (2002)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、単離キメラペプチドまたはそのペプチド模倣体であって、PSD-95のNMDA受容体への結合を阻害する活性ペプチドおよびキメラペプチドの細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドを含み、tatペプチド

に比べてN型カルシウムチャネルに結合する能力が低いペプチドを提供する。任意に、内部移行ペプチドはtatペプチドの変異体である。任意に、活性ペプチドはNMDA受容体のC末端からの3〜25アミノ酸からなるアミノ酸配列またはPSD-95受容体からのPDZドメイン1および/もしくは2を有する。任意に、活性ペプチドはT/SXV/L (SEQ ID NO:14)を含むアミノ酸配列を有し、内部移行ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有し、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない。任意に、XはFである (SEQ ID NO:135)。任意に、Xは存在しない (SEQ ID NO:136)。任意に、内部移行ペプチドは

からなる。任意に、キメラペプチドは

からなるアミノ酸配列を有する。
【0009】
任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、活性ペプチドは

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、キメラペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、キメラペプチドは

からなるアミノ酸配列を有する。任意に、キメラペプチドはN型カルシウムチャネルに対し10nMよりも大きいKdを有する。
【0010】
本発明は、前述の単離キメラペプチドまたはそのペプチド模倣体、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物をさらに提供する。
【0011】
本発明は、卒中または他のCNSへの傷害を有する、またはそのリスクが高い患者における卒中の損傷効果を治療する方法であって、患者にキメラペプチドまたはそのペプチド模倣体の有効量を投与する段階を含む方法をさらに提供する。キメラペプチドは、T/SXV/L (SEQ ID NO:14)を含むアミノ酸配列を有する活性ペプチドおよび

を含むアミノ酸配列を有する内部移行ペプチドを含み、ここでXはY以外のアミノ酸である。任意に、XはFである (SEQ ID NO:135)。任意に、Xは存在しない (SEQ ID NO:136)。任意に、内部移行ペプチドは

からなる。任意に、キメラペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、活性ペプチドは

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、活性ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、キメラペプチドは

を含むアミノ酸配列を有する。任意に、キメラペプチドは

からなるアミノ酸配列を有する。任意に、有効用量はペプチドまたはペプチド模倣体0.05〜500mg、任意に0.1〜100mg、0.5〜50mg、または1〜20mgの1回用量である。任意に、患者は虚血性卒中を有する。任意に、患者は出血性卒中を有する。
【0012】
任意に、患者はN型カルシウムチャネルによって仲介される副作用に対して正常よりも高い感受性を有する。任意に、患者は正常または正常よりも低い血圧を有する。本発明は、内部移行ペプチドの起こりうる副作用を評価する方法をさらに提供する。この方法は、NMDA受容体へのPSD-95の結合を阻害する活性ペプチドの細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドを提供する段階;および内部移行ペプチドのN型カルシウムチャネルへの結合を調べる段階を含む。結合の程度は内部移行ペプチドの臨床使用において起こりうる副作用の指標である。任意に、内部移行ペプチドは、試験ペプチドが活性ペプチドの取り込みを促進するかどうかを調べるために、試験ペプチドをスクリーニングすることによって提供される。
【0013】
本発明は、活性物質およびキメラ物質の細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドを含む単離キメラ物質をさらに提供する。内部移行ペプチドは、tatペプチド

に比べてN型カルシウムチャネルに結合する能力が低い、tatペプチドの変異体である。任意に、活性物質は表5に示す活性物質である。任意に、内部移行ペプチドは

を含むアミノ酸配列を有し、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない。任意に、XはFである (SEQ ID NO:135)。任意に、Xは存在しない (SEQ ID NO:136)。任意に、内部移行ペプチドは

からなる。任意に、キメラ物質はN型カルシウムチャネルに対し10nMよりも大きいkDを有する。
【0014】
本発明は、前述の単離キメラ物質および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物をさらに提供する。
【0015】
本発明は、

を含むアミノ酸配列を有する内部移行ペプチドをさらに提供し、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない。任意に、XはFである (SEQ ID NO:135)。任意に、Xは存在しない (SEQ ID NO:136)。任意に、内部移行ペプチドは

からなる。任意に、内部移行ペプチドはN型カルシウムチャネル遮断物質に対し10nMよりも大きいKdを有する。
【0016】
本発明は、活性物質の細胞への取り込みを促進する方法であって、細胞を内部移行ペプチドに連結した活性物質と接触させる段階を含む方法において、内部移行ペプチドのN型カルシウムチャネルに結合する能力を調べるために内部移行ペプチドをスクリーニングする改善をさらに提供する。
【0017】
本発明は、活性物質に連結した内部移行ペプチドを含むキメラ物質において、内部移行ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有し、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない改善をさらに提供する。
【0018】
本発明は、神経疾患を治療する方法であって、その疾患を有する、または感受性の患者にその疾患に対する薬学的活性を有する活性物質の有効量を投与する段階を含む方法において、活性物質が

を含むアミノ酸配列を有するtat変異体ペプチドに連結しており、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない改善をさらに提供する。
【0019】
本発明は、疾患を治療するのに有効な細胞内活性を有する活性物質で疾患を治療する方法であって、活性物質の有効量をその疾患を有する、または感受性の患者に投与する段階を含む方法において、活性物質が

を含むアミノ酸配列を有するtat変異体ペプチドに連結しており、ここでXはY以外のアミノ酸であるか、または存在しない改善をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1A、B、Cは、様々な放射性標識リガンドの細胞受容体への結合を阻害する、ペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(SEQ ID NO:17)の能力を評価する、受容体結合/阻害試験の結果を示す図である。
【図2】DRGニューロンにおけるN型カルシウム電流(上図)またはホールセル電流(下図)の大きさに対する様々なペプチドの適用の影響を示す図である。
【図3】図3Aおよび3Bは(A)軟膜血管閉塞モデルを用いて永久虚血の開始の1時間後に治療したラットにおける脳梗塞量に対するTat-NR2B9cおよびF-Tat-NR2B9cの効果(10ラット/群);ならびに(B)塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色した各群からの代表ラットの一連の脳切片を示す図である。
【図4】DRGニューロンにおけるN型カルシウム電流についての特定のペプチドのIC50評価を示す図である。
【図5】図5Aおよび5Bは、DRGニューロンにおけるL型電流に比べてN型カルシウム電流に対するTat-NR2B9cの選択性を示す図である。図5Aは、培養DGRニューロンにおけるカルシウム電流に対するTat-NR2B9c(100μM)およびω-コノトキシン(1μM)の効果を示す図である。図5Bは、Tat-NR2B9c(100μM細胞内)存在下でのDRGカルシウム電流のニフェジピン阻害を示す図である。
【図6】Tat-NR2B9cによるN型カルシウム電流阻害に対する使用依存性の欠如を示す図である。電流を1つの代表的DRGニューロンで異なる周波数(0.07、10、20、50Hz)により記録した。Tat-NR2B9c(100μM)を示したとおりに適用した。電流は強い周波数依存性の低下を示し、周波数を上げてもTat-NR2B9cの阻害効果が高まることはなかった。
【図7】N型カルシウム電流のTat-NR2B9cによる電圧依存性阻害の欠如を示す図である。培養DRGニューロンにおけるCa2+電流のI-V関係。Tat-NR2B9c(10、100μM)を10μMニフェジピン存在下または非存在下で適用した。電流を-60mVの保持電位から-40から+50mVの50msの電圧固定段階を用いて誘発した。
【図8】ラットの永久虚血の軟膜閉塞モデルにおける代替C末端配列を用いて観察した神経保護の評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
I. 定義
「キメラペプチド」とは、融合タンパク質として、または化学結合により互いに連結した、天然には互いに結合することのない2つの成分ペプチドを有するペプチドを意味する。
【0022】
「融合ポリペプチド」とは、複合ポリペプチド、すなわち、単一のアミノ酸配列中で通常は融合しない、2つ(またはそれ以上)の別の非相同ポリペプチドからなる、単一の近接アミノ酸配列を意味する。
【0023】
「PDZドメイン」なる用語は、脳シナプスタンパク質PSD-95、ショウジョウバエセプテートジャンクションタンパク質Discs-Large(DLG)、および上皮タイトジャンクションタンパク質ZO1(ZO1)に対する著しい配列同一性(例えば、少なくとも60%)によって特徴づけられる、約90アミノ酸のモジュラータンパク質ドメインを意味する。PDZドメインはDiscs-Large相同反復配列(「DHR」)およびGLGF反復配列としても公知である。PDZドメインは一般に中核のコンセンサス配列を維持するようである(Doyle, D. A., 1996, Cell 85: 1067-76)。例示的PDZドメイン含有タンパク質およびPDZドメイン配列は米国特許出願第10/714,537号に開示されており、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
「PLタンパク質」または「PDZリガンドタンパク質」なる用語は、PDZドメインと分子複合体を形成する天然タンパク質、または全長タンパク質とは別に(例えば、3〜25残基、例えば、3、4、5、8、9、10、12、14または16残基のペプチド断片として)発現される場合に、そのカルボキシ末端がそのような分子複合体を形成するタンパク質を意味する。分子複合体は、例えば、米国特許出願第10/714,537号に記載の「Aアッセイ」もしくは「Gアッセイ」を用いてインビトロで、またはインビボで観察することができる。
【0025】
「NMDA受容体」または「NMDAR」なる用語は、NMDAと相互作用することが知られている膜結合タンパク質を意味する。したがって、この用語は背景の項に記載した様々なサブユニットの形を含む。そのような受容体はヒトまたは非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル)でありうる。
【0026】
「PLモチーフ」とは、PLタンパク質のC末端(例えば、C末端3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、20または25近接残基)のアミノ酸配列(「C末端PL配列」)またはPDZドメインに結合することが知られている内部配列(「内部PL配列」)を意味する。
【0027】
「PLペプチド」は、PDZドメインに特異的に結合するPLモチーフを含む、もしくはPLモチーフからなる、またはそれ以外にPLモチーフに基づくペプチドである。
【0028】
「単離された」または「精製された」なる用語は、目的の種(例えば、ペプチド)が、目的の種を含む天然原料から得た試料などの、試料中に存在する混入物から精製されていることを意味する。目的の種が単離または精製されている場合、これは試料中に存在する主な高分子(例えば、ポリペプチド)種であり(すなわち、分子として、これは組成物中の任意の他の個々の種よりも多い)、好ましくは目的の種は存在するすべての高分子種の少なくとも約50パーセント(分子として)を含む。一般に、単離された、精製された、または実質的に純粋な組成物は、組成物中に存在するすべての高分子種の80から90パーセントよりも多くを含む。最も好ましくは、目的の種を本質的均質まで精製し(すなわち、通常の検出法では組成物中に混入種を検出することができない)、ここで組成物は本質的に単一の高分子種からなる。単離された、または精製されたなる用語は、単離種との組み合わせで作用することが意図される他の成分の存在を必ずしも除外するものではない。例えば、内部移行ペプチドは、これが活性ペプチドと連結しているにもかかわらず、単離されたと記載することができる。
【0029】
「ペプチド模倣体」とは、天然アミノ酸からなるペプチドと実質的に同じ構造および/または機能的特徴を有する合成化合物を意味する。ペプチド模倣体はアミノ酸の完全合成、非天然類縁体を含むこともでき、または部分的に天然のペプチドアミノ酸と部分的に非天然のアミノ酸類縁体とのキメラ分子であってもよい。ペプチド模倣体は、そのような置換がペプチド模倣体の構造および/または阻害もしくは結合活性も実質的に変えないかぎり、任意の量の天然アミノ酸保存的置換を組み込むこともできる。ポリペプチド模倣体組成物は非天然構造成分の任意の組み合わせを含むことができ、これらの成分は典型的には次の3つの構造群からのものである:a)天然のアミド結合(「ペプチド結合」)による連結以外の残基連結基;b)天然アミノ酸残基の代わりの非天然残基;またはc)二次的な構造類似性を誘導する、すなわち二次構造、例えば、ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファヘリックス配座などを誘導または安定化する残基。活性ペプチドおよび内部移行ペプチドを含むキメラペプチドのペプチド模倣体において、活性部分もしくは内部移行部分のいずれかまたは両方がペプチド模倣体でありうる。
【0030】
「特異的結合」なる用語は、多くの他の多様な分子存在下であっても、分子(リガンド)のもう1つの特定の分子(受容体)と結合する能力、すなわち分子の不均質混合物中で1つの分子のもう1つの分子に対する優先的結合を示す能力によって特徴づけられる、2つの分子、例えば、リガンドと受容体との間の結合を意味する。リガンドの受容体への特異的結合は、過剰の非標識リガンド存在下で検出可能に標識したリガンドの受容体への結合減少によっても証明される(すなわち、結合競合アッセイ)。
【0031】
興奮毒性は、NMDAR 2BなどのNMDA受容体などの、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の過度の活性化によってニューロンが損傷され、死滅する、病的過程である。
【0032】
標準tat内部移行ペプチドはアミノ酸配列

を含む。
【0033】
変異体tat内部移行ペプチドは、標準tatペプチドに比べて、少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換、または内部挿入されている。
【0034】
活性物質は、薬理活性を有する、または有する可能性がある化合物を記載するために用いる。物質には公知の薬物、薬理活性が同定されているが、さらなる治療的評価を行っている化合物、ならびに薬理活性についてスクリーニングする予定の収集物およびライブラリの一員である化合物が含まれる。活性ペプチドはペプチドである活性物質である。活性キメラ物質は内部移行ペプチドに連結した活性物質を含む。
【0035】
「薬理学的」活性とは、活性物質が疾患の予防または治療において有効である、または有効である可能性があることを示すスクリーニングシステムにおいて、活性物質が活性を示すことを意味する。スクリーニングシステムはインビトロ、細胞、動物またはヒトにおけるものでありうる。物質は、疾患の治療における実際の予防または治療的有用性を確立するためにさらなる試験が必要でありうるにもかかわらず、薬理活性を有すると記載することができる。
【0036】
統計学的に有意とは、p値が<0.05、好ましくは<0.01、最も好ましくは<0.001であることを意味する。
【0037】
II. 一般
本発明は、少なくとも部分的にはNMDAR興奮毒性によって仲介される卒中および他の神経学的状態の損傷効果を軽減するのに有用な、キメラペプチドおよびそのペプチド模倣体を提供する。キメラペプチドは少なくとも2つの成分を有する。第一の成分は、NMDA受容体2サブユニットのPLモチーフ(例えば、NMDA NR2BのGenBankアクセッション番号4099612)を含む、またはこれに基づくアミノ酸配列を有する活性ペプチド(すなわち、PLペプチド)である。本発明の実施のためにメカニズムの理解は必要ではないが、そのようなペプチドは少なくとも部分的にはNMDARとシナプス後肥厚部95タンパク質との間の相互作用を阻害することにより作用する(すなわち、PSD-95阻害剤)と考えられる。
【0038】
活性ペプチドは、PSD-95およびnNOSと他のグルタミン酸受容体(例えば、カイナイト受容体またはAMPA受容体)との間の相互作用も阻害しうる。以前に臨床試験で不成功であったグルタミン酸アンタゴニストとは異なり、そのようなペプチドは、NMDARの他の機能の損失といった負の結果を招くことなく、虚血中の神経毒性シグナリングを妨害することができる。キメラペプチドの第二の成分は、以前の研究においてNMDAR 2Bペプチドに融合した標準tatペプチドの変異体である内部移行ペプチドである。
【0039】
変異体tatペプチドの使用は部分的には、標準tatペプチドは、特にNMDARペプチド

に連結している場合には、N型カルシウムチャネルに結合し、それらの活性を阻害するという、本出願に記載する結果を前提としている。シナプス前神経終末上にあるN型カルシウムチャネルは、一次求心性侵害受容器の脊髄末端からのものを含む、神経伝達物質の放出を調節する。N型チャネルへの結合の薬理効果は、薬物ジコノチド(またはプリアルト、イモガイペプチドのオメガ-コノトキシンM-VII-A前駆体の合成体)と関連して詳しく特徴づけられている。N型カルシウムチャネルへの結合は多くの活性と関連づけられており、そのうちのいくつか、またはすべては卒中患者において望ましくないものでありうる。これらの活性には、モルヒネによって誘導されるものよりもはるかに強い鎮痛、低血圧、意識レベルの低下、うつ、認知障害、幻覚、クレアチンキナーゼレベルの上昇、および尿閉が含まれる(例えば、Brose et al., Clin J Pain 13: 256-259, (1997); Mathur et al., Semin Anesthesia Perioperative Med Pain 19: 67-75, 2000, Staats et al., JAMA 291: 63-70, 2004, McGuire et al., J Cardiovasc Pharmacol 30: 400-403, 1997参照)。メイヨークリニックはプリアルトによる治療後に観察された以下の副作用をリストにしているが、これらはN型カルシウムチャネルに高度に選択的である。
【0040】
(表1)


【0041】
本発明のキメラペプチドおよびペプチド模倣体は、Tat-NR2B9cに比べてN型カルシウムチャネルへの結合および阻害が低減されているか、またはなくなっており、したがって、重度の精神医学的副作用を含む、N型カルシウムチャネルの高度特異的阻害剤で見られる多数の副作用を回避する。副作用が軽減することで、Tat-NR2B9cに比べて本発明のキメラペプチドおよびペプチド模倣体のヒト治療に対する治療指数が増大する。
【0042】
本発明は、N型カルシウムチャネルへの結合を標準のtat配列の変異体を用いることによって回避しうることをさらに見いだした。NMDAR 2Bもしくは他のサブタイプのC末端に基づく、またはそれを含む、tat変異体および活性ペプチドの組み合わせは、N型カルシウムチャネルの阻害による副作用が少ない、卒中の治療を可能にする。
【0043】
III. 活性ペプチド
本発明において有用な活性ペプチドは、シナプス後肥厚部95タンパク質(PSD-95)のPDZドメイン1および2(Stathakism, Genomics 44(1):71-82 (1997)によって提供されるヒトアミノ酸配列)とニューロンN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のNR2Bサブユニットを含む1つまたは複数のNMDA受容体2サブユニットのC末端PL配列(Mandich et al., Genomics 22, 216-8 (1994))との間の相互作用を阻害する。NMDAR2BはGenBank ID 4099612、C末端の20アミノ酸

を有する。活性ペプチドは好ましくはPSD-95のヒト型およびヒトNMDAR受容体を阻害する。しかし、阻害はタンパク質の種変異体からも示されうる。用いることができるNMDAおよびグルタミン酸受容体のリストを以下に示す。
【0044】
(表2)PL配列を有するNMDA受容体


【0045】
異なるNMDARサブタイプの興奮毒性における役割の証拠は、例えば、Lynch, J. Pharm. Exp. Therapeutics 300,717-723 (2002); Kemp, Nature Neurosci. supplement, vol 5 (2002)によって提供されている。いくつかの活性ペプチドはPSD-95と複数のNMDARサブユニットとの間の相互作用を阻害する。そのような場合、該ペプチドの使用は必ずしも異なるNMDARの興奮毒性に対するそれぞれの寄与の理解を必要としない。他の活性ペプチドは単一のNMDARに特異的である。
【0046】
活性ペプチドは、前述のサブユニットのいずれかのC末端からのPLモチーフを含む、またはそれに基づいており、[S/T]-X-[V/L] (SEQ ID NO:14)を含むアミノ酸配列を有する。この配列は好ましくは本発明のペプチドのC末端で出現する。好ましいペプチドはそのC末端に

を含むアミノ酸配列を有する。例示的ペプチドはC末端アミノ酸として

を含む。2つの特に好ましいペプチドは

である。内部ペプチドを含まない本発明のペプチドは通常、3〜25アミノ酸を有し、5〜10アミノ酸、特に9アミノ酸のペプチド長(ここでも内部ペプチドを含まない)が好ましい。いくつかのそのような活性ペプチドにおいて、すべてのアミノ酸はNMDA受容体のC末端からである。
【0047】
他の活性ペプチドは、PSD-95のPDZドメイン1および/もしくは2またはPSD-95とNMDA 2BなどのNMDA受容体との間の相互作用を阻害するこれらのいずれかのサブ断片を含む。そのような活性ペプチドは、PSD-95のPDZドメイン1および/またはPDZドメイン2からの少なくとも50、60、70、80または90アミノ酸を含み、これらはStathakism, Genomics 44(1):71-82 (1997)(ヒト配列)もしくはNP_031890.1, GI:6681195(マウス配列)または他の種変異体の対応する領域によって提供されるPSD-95のほぼアミノ酸65〜248内で出現する。
【0048】
III. 内部移行ペプチド
本発明の任意の活性ペプチドを、好ましくはそのN末端で、細胞の形質膜を通しての移動を促進する内部移行ペプチドに連結することができる。内部移行ペプチドは標準のtat配列

の変異体を含む。本発明の実施はメカニズムの理解に依存しないが、膜を通過する能力およびN型カルシウムチャネルに結合する能力はいずれも、ペプチド中の正荷電残基Y、RおよびKの異常に高い出現率によって付与される。本発明において用いるための変異体ペプチドは、細胞への取り込みを促進する能力を保持するが、N型カルシウムチャネルに結合する能力は低下しているべきである。いくつかの適当な内部移行ペプチドは、アミノ酸配列

を含む、またはこの配列からなり、ここでXはY以外のアミノ酸(例えば、他の19の天然アミノ酸のいずれか)であるか、または存在しない(その場合、Gは遊離N末端残基)。好ましいtat変異体はFで置換されたN末端Y残基を有する。したがって、

を含む、またはこの配列からなるtat変異体が好ましい。もう一つの好ましい変異体tat内部移行ペプチドは

からなる。

に隣接する追加の残基がある(活性ペプチドの他に)場合、残基は、例えば、tatタンパク質からのこのセグメントに隣接する天然アミノ酸、2つのペプチドドメイン、例えば、

を連結するために典型的に用いられる種類のスペーサーもしくはリンカーアミノ酸(例えば、Tang et al. (1996), J. Biol. Chem. 271, 15682-15686; Hennecke et al. (1998), Protein Eng. 11, 405-410参照)でありえ、または隣接残基を含まない変異体の取り込みを付与する能力を検出できるほどに低減させず、隣接残基を含まない変異体に比べてN型カルシウムチャネルの阻害を著しく増大させない、任意の他のアミノ酸でありうる。好ましくは、活性ペプチド以外の隣接アミノ酸の数は

のそれぞれの側で10を超えない。好ましくは、隣接アミノ酸は存在せず、内部移行ペプチドはそのC末端で活性ペプチドに直接連結されている。
【0049】
N型カルシウムチャネルを阻害することなくPSD-95相互作用を阻害するために、本発明の任意の活性ペプチドを取り込ませるために用いうる、本発明の他の内部移行ペプチドには、以下の表3に示すものが含まれる。実施例に記載するとおり、所望の取り込み、およびN型カルシウムチャネルを阻害しないことを確認するために、これらの内部移行ペプチドをスクリーニングすることが推奨される。
【0050】
実施例に示すデータは、Tat-NR2B9cのN末端チロシン残基(Y)のフェニルアラニン(F)への変異が、ペプチドの残部が脳内のこの薬物の作用部位に局在し、動物モデルにおいて誘導した卒中後の損傷を軽減させる能力を低下させることなく、N型カルシウムチャネルの阻害を抑止するのに十分であることを示している。さらに、実験はTatだけ(

)で観察されたN型カルシウムチャネルの阻害を誘導するのに十分であること、およびC末端に付加した異なるペプチドはTatに結合した場合には阻害に対して緩和な作用しか持たないことを示している。したがって、Tat配列のN末端のチロシンの変更または除去は、結合の低減のために重要であると考えられる。このチロシン近辺の塩基性アミノ酸残基の変異も、N型カルシウムチャネルへの結合およびその阻害の低減を引き起こしうる。以下の表の例示的配列は本明細書において、N型カルシウムチャネルを阻害することなく輸送能力を維持し、したがって卒中または神経外傷治療のための治療指数を高めると予想される。
【0051】
(表3)

【0052】
Xは遊離アミノ末端、ビオチン分子またはH、アセチル、ベンゾイル、アルキル基(脂肪族)、ピログルタミン酸、末端にシクロアルキル基を有するアルキル基、アルキルスペーサーを有するビオチン、(5,6)-FAMを含むが、それらに限定されるわけではない、他のキャッピング部分でありうる。キャッピング基のN末端ペプチドへの化学的カップリングはアミド化学、スルファミド化学、スルホン化学、アルキル化化学を通じてでありうる。加えて、Xはチロシン以外のアミノ酸でありうる。
【0053】
内部移行ペプチドは通常、融合ペプチドとして活性ペプチドに連結するが、化学的連結によって連結することもできる。2つの構成成分のカップリングはカップリング剤または接合剤によって達成することもできる。多くのそのような物質が市販されており、S. S. Wong, Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Press (1991)によって総説が記載されている。架橋試薬のいくつかの例には、J-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)またはN,N'-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド;N,N'-エチレン-ビス-(ヨードアセトアミド)または6から11炭素メチレン橋(これは比較的スルフヒドリル基に特異的)を有する他のそのような試薬;および1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(これはアミノおよびチロシン基と不可逆的連結を形成する)が含まれる。他の架橋試薬には、p,p'-ジフルオロ-m,m'-ジニトロジフェニルスルホン(これはアミノおよびフェノール基と不可逆的連結を形成する);アジプイミド酸ジメチル(これはアミノ基に特異的);フェノール-1,4-ジスルホニルクロリド(これは主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはジイソチオシアネート、またはアゾフェニル-p-ジイソシアネート(これは主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(これはいくつかの異なる側鎖と反応する)およびディスジアゾベンジジン(これは主にチロシンおよびヒスチジンと反応する)が含まれる。
【0054】
直前に記載したものなどのペプチドは、阻害剤の結合親和性を改善するため、阻害剤の細胞膜を通過して輸送される能力を改善するため、または安定性を改善するために、任意に誘導体化(例えば、アセチル化、ホスホリル化および/またはグリコシル化)することができる。特定の例として、C末端から3番目の残基がSまたはTである阻害剤について、この残基をペプチド使用の前にホスホリル化することができる。
【0055】
内部移行ドメインに任意に融合した本発明のペプチドは、固相合成または組換え法によって合成することができる。ペプチド模倣体は、科学文献および特許文献、例えば、Organic Syntheses Collective Volumes, Gilman et al. (Eds) John Wiley & Sons, Inc., NY, al-Obeidi (1998) Mol. Biotechnol. 9:205-223; Hruby (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1:114-119; Ostergaard (1997) Mol. Divers. 3:17-27; Ostresh (1996) Methods Enzymol. 267:220-234に記載されている様々な手順および方法を用いて合成することができる。
【0056】
V. N型カルシウムチャネル
N型カルシウムチャネルは、α1B-(Cav2.2)、β-、およびα2δ-サブユニットならびに時としてγサブユニットからなるヘテロオリゴマー複合体である。α1B-サブユニットは主となるチャネルを形成し、1つの遺伝子でコードされる。4つのα2δ-サブユニット遺伝子がある(α2δ-1〜α2δ-4)(Snutch et al., Molecular properties of voltage-gated calcium channels. In: Voltage-gated calcium (Zamponi G, ed), pp 61-94. New York: Landes Bioscience, 2005. Catterall, Biochemical studies of Ca2+ channels. In: Voltage-Gated Calcium (Zamponi G, ed), pp 48-60. New York: Landes Bioscience, 2005)。種間でN型カルシウムチャネルの緊密な保存がある。したがって、tat変異体を、ヒトまたはラットなどの他の種からのN型カルシウムチャネルを用いて結合の欠如についてスクリーニングすることができる。
【0057】
完全なタンパク質に対する同様のカルシウムチャネル活性を有するスプライス変異体およびその断片を含む、Williams et al., 1992 (Science 257 (5068), 389-395 (1992), Genebank Acc No. Q00975, Species: Homo Sapiens) and Coppola et al., 1994 (FEBS Lett. 338 (1), 1-5 (1994), Genebank Acc No O55017, Species:Mus Musculus) and Dubel et al., 1992 (Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89 (11), 5058-5062 (1992) Genebank Acc No Q02294, Species: Rattus norvegicus)によって記載されたα1B-サブユニットN型カルシウムチャネルが、スクリーニングのために好ましい。前述の配列のいずれかと少なくとも90%の配列同一性を有する対立遺伝子変異体および種変異体も用いることができる。任意に、α1Bサブユニットをα2(a〜e)/デルタ、β1〜4、および/またはガンマサブユニットとの組み合わせで用いることもできる。
【0058】
VI. スクリーニング法
1. N型カルシウムチャネルへの結合を測定する
N型カルシウムチャネルに結合することが公知の標識ペプチド(例えば、ジコノチド)を用いての競合結合アッセイにより、内部移行ペプチドのN型カルシウムチャネルへの結合についてスクリーニングすることができる。N型カルシウムチャネルは精製した形で提供することができ、または細胞から自然にもしくは組換えにより発現させることができる。精製した形で提供する場合、N型カルシウムチャネルはビーズまたはマイクロタイターウェルに固定することができる。標識ペプチドおよび試験中の内部移行ペプチドとのインキュベーション後にカルシウムチャネルに結合した標識の量は、試験中の内部移行ペプチドのカルシウムチャネルに結合する能力に反比例する。アッセイはマイクロタイタープレートのウェル内で高処理量で実施することができる。陰性および陽性対照も含めることができる。陰性対照は媒体でありうる。陽性対照はN型カルシウムチャネルに結合することが公知のペプチドの非標識型でありうる。好ましくは、内部移行ペプチドはN型カルシウムチャネルに対して10nMよりも大きい、好ましくは100nMよりも大きいKdを有する。
【0059】
2. N型カルシウムチャネルの阻害を測定する
内部移行ペプチドおよび活性ペプチドなどの活性物質に連結された内部移行ペプチドを含むキメラ物質を、N型カルシウムチャネルによって仲介されるイオン電流を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。阻害は、N型カルシウムチャネルによって運ばれるイオン電流測定値の統計学的有意な減少を意味する。そのような減少は電流測定値における20%を超える減少、好ましくは30%を超える減少、より好ましくは40%を超える減少であるべきである。阻害は、N型カルシウム電流が生じる背根神経節ニューロンにおけるホールセルパッチクランプ記録を行うことにより評価することができる。背根神経節(DRG)の培養物は妊娠13〜14日のスイスマウスから調製した。簡単に言うと、DRGを摘出し、トリプシン消化を37℃で20分間行い、機械的に分離し、ポリ-D-リジンでコーティングしたカバースリップ上に播種する。これらを無血清MEM(Neurobasal MEM, B-27 - Gibco Invitrogen Corporation, Carlsbad,CA)中で培養する。3〜5日後、10μM FUDR溶液を加えて、膠細胞増殖を阻害する。培養物を加湿5%CO2雰囲気下、37℃で維持し、1週間に2回供給を行う。ホールセル記録を播種の10〜14日後に室温で実施する。電気生理学記録:ホールセル記録をAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)により電位固定モードで実施する。抵抗3〜5MΩの記録電極を薄膜ホウケイ酸ガラス(直径1.5mm;World Precision Instruments, Sarasota, FL)から2段階プラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を用いて作製する。データをデジタル化し、フィルターにかけ(2kHz)、pClamp 9(Axon Instruments)のプログラムを用いてオンラインで得る。ピペットに下記を含む溶液を充填する:CsCl 110mM、MgCl2 3mM、EGTA 10mM、HEPES 10mM、MgATP 3mM、GTP 0.6mM。pHをCsOHで7.2に調節する。バス溶液は下記を含んでいた:pH(NaOH)7.4でCaCl2 1mM、BaCl2 10mM、HEPES 10mM、TEA-Cl 160mM、グルコース10mM、TTX 0.0002mM。ホールセル電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの40msの脱分極パルスを15sごとに適用して誘導する。使用依存性阻害を試験するために、電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの10msの脱分極パルスをそれぞれ0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)または15s(0.07Hz)ごとに適用して誘導する。
【0060】
3. 内部移行活性を測定する
tat内部移行ペプチドの変異体を動物における輸送活性について試験することができる。内部移行ペプチドを単独で、または活性ペプチド、例えば、

などの活性物質に連結した場合に試験することができる。任意にペプチドなどの活性物質に連結した内部移行ペプチドを、好ましくは塩化ダンシルなどの蛍光標識で標識する。次いで、内部移行ペプチドをマウスなどの動物の末梢に注射する。例えば、腹腔内または静脈内注射が適当である。注射の約1時間後、マウスを屠殺し、固定液(3%パラホルムアルヒド、0.25%グルタルアルデヒド、10%スクロース、10U/mLヘパリン食塩水溶液)で灌流する。次いで、脳を摘出し、凍結して切断する。切片を共焦点顕微鏡を用いて蛍光について分析する。内部移行活性を蛍光から、任意に陽性および陰性対照に対して評価する。適当な陽性対照は試験中の内部移行ペプチドと同じ活性ペプチド(存在する場合は)に連結した標準tatペプチドである。適当な陰性対照は内部移行ペプチドに連結していない蛍光標識した活性ペプチドである。非標識媒体も陰性対照として用いることができる。
【0061】
tat変異体を試験するために、同様の実験を細胞培養物で行うことができる(米国特許第20030050243号参照)。任意に活性ペプチドに連結した蛍光標識tatペプチド変異体を、皮質ニューロン培養物に適用する。適用後数分間の取り込みを、蛍光顕微鏡を用いて調べる。動物における取り込みの実験について記載したとおり、陽性および陰性対照に比べての取り込みの増大を判定することができる。
【0062】
4. 卒中の治療における活性を測定する
活性ペプチドに連結した内部移行ペプチドを含むキメラペプチド(またはそのようなキメラペプチドのペプチド模倣体)の活性を、卒中の様々な動物モデルで試験することができる。一つのそのようなモデルにおいて、成体雄Sprague-Dawleyラットにおいて腔内縫合法(36、37)により90分間の一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)を起こさせた。動物を終夜絶食させ、硫酸アトロピン(0.5mg/kg、IP)を注射する。10分後、麻酔を導入する。ラットを経口挿管し、人工換気し、臭化パンクロニウム(0.6mg/kg、IV)で麻痺させる。体温を加熱ランプで36.5〜37.5℃に維持する。大腿動脈および静脈内のポリエチレンカテーテルを用いて、血圧を持続的に記録し、ガスおよびpH測定のために採血する。ポリ-L-リジンでコーティングした3-0モノフィラメントナイロン縫合糸(Harvard Apparatus)を内頸動脈からウィリス動脈環へと導入し、中大脳動脈を効果的に閉塞させることにより、一過性MCAOを90分間行う。これにより、大脳皮質および基底核を含む広範な梗塞を生じる。動物を試験中のキメラペプチドまたは陰性もしくは陽性対照のいずれかで治療する。治療は虚血誘導の前または1時間後までのいずれかでありうる。陰性対照は媒体でありうる。陽性対照は、以前に有効であることが示されたTat-NR2B9cペプチド、

でありうる。キメラペプチドを、MCAOの45分前に1回の静脈内ボーラス注射により送達する(3nmol/g)。化合物を動物に投与した後、梗塞量および/または能力障害指数をもとめる。梗塞量は通常は治療の24時間後に評価するが、3、7、14または60日後などの遅い時期にもとめることもできる。能力障害指数は、例えば、治療の2時間後、治療の24時間後、治療の1週間および1ヶ月後に経時的にモニターすることができる。化合物で治療していない対照動物に比べて梗塞量および/または能力障害指数の統計学的有意な低下を示すキメラペプチドを、本発明の方法を実施するために有用な活性を有すると特定する。
【0063】
同様の実験を、永久虚血を起こさせた動物で実施することができる。中大脳動脈軟膜血管の永久虚血をForder et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 288:H1989-H1996 (2005)によって記載されたとおりに実施することができる。簡単に言うと、右ECAをPE 10ポリエチレンチューブで挿管する。頭蓋を正中切開により露出し、右体性感覚皮質(ブレグマの2mm尾側、5mm外側)に6から8mmの頭蓋窓を設ける。生理食塩水中の生体色素パテントブルーバイオレット(10mMol/L;Sigma)の少量ボーラス(10〜20μL)をECAに注入することにより軟膜動脈を可視化する。同じ3つの軟膜細動脈MCA枝を電気的に焼灼し、色素注入を繰り返して、焼灼した細動脈を通る血流の断絶を確実にした。次いで、切開部を閉鎖し、動物をケージに戻し、食餌および水を自由に摂取させる。この永久虚血モデルは凝固末端軟膜動脈の下にある皮質に限局された再現性の高い小梗塞を生じる。
【0064】
左中大脳動脈をLonga, Stroke 20, 84-91 (1989)によって記載された腔内縫合法によって閉塞させることができる。簡単に言うと、左総頸動脈(CCA)を頸部正中切開により露出し、その分岐部から頭蓋底まで、周囲の神経および筋膜から切断する。次いで、外頸動脈(ECA)の後頭動脈枝を単離し、これらの枝を切開して凝固させる。ECAをさらに遠位へと切開し、末端舌および上顎動脈枝と一緒に凝固させ、これらを次いで分割する。内頸動脈(ICA)を単離し、隣接する迷走神経から分離し、翼口蓋動脈をその元の近くで結紮する。長さ4cmの3-0モノフィラメントナイロン縫合糸(Harvard Apparatus)の先端を焼くことにより丸め、先端の直径0.33〜0.36mm、先端の長さ0.5〜0.6mmとし、ポリ-L-リジンでコーティングする(Belayev et al., 1996)。縫合糸をCCAから導入してICA、次いでウィリス動脈環へと進め(頸動脈分岐部から約18〜20mm)、中大脳動脈を効果的に閉塞させる。CCAの周りの絹縫合糸を腔内ナイロン縫合糸の周りに締めてこれを固定し、中大脳動脈を永久に閉塞させる。
【0065】
5. 活性ペプチドの細胞スクリーニング
任意に、活性ペプチドおよびそのペプチド模倣体をPSD-95とNMDAR 2Bとの間の相互作用を阻害する能力について、米国特許第20050059597号に記載のアッセイを用いてスクリーニングすることもできる。有用なペプチドは典型的には、そのようなアッセイで50uM、25μM、10μM、0.1μMまたは0.01μM未満のIC50値を有する。好ましいペプチドは典型的には0.001〜1μM、より好ましくは0.05〜0.5または0.05〜0.1μMの間のIC50値を有する。
【0066】
VI. 卒中および関連する状態
卒中は原因に関係なくCNSにおける血流障害から生じる状態である。可能性のある原因には、塞栓症、出血および血栓症が含まれる。いくつかのニューロン細胞は血流障害の結果、ただちに死滅する。これらの細胞はグルタミン酸を含む成分分子を放出し、これらは次いでNMDA受容体を活性化し、これらは細胞内カルシウムレベルおよび細胞内酵素レベルを高め、さらなるニューロン細胞死を引き起こす(興奮毒性カスケード)。CNS組織の死滅を梗塞と呼ぶ。梗塞量(すなわち、脳内の卒中により死滅したニューロン細胞の量)を卒中による病理学的損傷の程度の指標として用いることができる。症候性の影響は梗塞の量と梗塞が局在する脳内の位置の両方に依存する。ランキン卒中転帰スケール(Rankin, Scott Med J;2:200-15 (1957))およびバーセルインデックスなどの能力障害指数は、症候性損傷の尺度として用いることができる。ランキンスケールは以下の患者の包括的状態の直接評価に基づいている。
【0067】
(表4)

【0068】
バーセルインデックスは日常生活における10の基本的活動を行う患者の能力に関する一連の質問に基づいており、0から100の間の点数をつけて、点数が低いほど能力障害が重いことを示す(Mahoney et al., Maryland State Medical Journal 14:56-61 (1965))。
【0069】
一方、卒中重症度/転帰を、ウェブ上のninds.nih.gov/doctors/NIH_Stroke_Scale_Booklet.pdfで入手可能なNIH卒中スケールを用いて評価することができる。このスケールは患者の意識、運動、感覚および言語機能のレベルの評価を含む11の機能群を行う患者の能力に基づいている。
【0070】
虚血性卒中とは、より具体的には、脳への血流の遮断によって起こるタイプの卒中を意味する。このタイプの遮断の根源的状態は、最も一般的には、血管壁を覆う脂肪沈着物の発生である。この状態はアテローム性動脈硬化症と呼ぶ。これらの脂肪沈着物は2つのタイプの閉塞を引き起こしうる。脳血栓とは、血管の詰まった部分に発生する血栓(凝血塊)を意味する。「脳塞栓」とは一般に、循環系の別の位置、通常は心臓ならびに胸郭上部および頸部の大血管に形成される凝血塊を意味する。この凝血塊の一部が脱出し、血流に入り、脳の血管を移動して、小さすぎて通過できない血管に至る。塞栓の二番目に重要な原因は、動脈細動として公知の不規則な心拍である。これは凝血塊が心臓内で形成され、移動し、脳へと動く状態を作り出す。虚血性卒中のさらに可能性のある原因は出血、血栓、動脈または静脈の切開、心停止、出血を含む任意の原因のショック、および脳血管もしくは脳につながる血管への直接の外科的損傷または心臓手術などの医原性の原因である。虚血性卒中は卒中のすべての症例の約83パーセントを占める。
【0071】
一過性虚血発作(TIA)は小さい、または警告卒中である。TIAでは、虚血性卒中を示す状態があり、典型的な卒中を警告する徴候が発生する。しかし、閉塞(凝血塊)は短時間のみ起こり、通常のメカニズムにより自然に解消する傾向がある。
【0072】
出血性卒中は卒中症例の約17パーセントを占める。これは破裂し、周囲の脳内に出血する、弱った血管が原因である。血液が蓄積し、周囲の脳組織を圧迫する。出血性卒中の2つの一般的なタイプは脳内出血およびクモ膜下出血である。出血性卒中は弱った血管裂傷の破裂によって起こる。弱った血管からの破裂の考えられる原因には、高血圧が血管の破裂を引き起こす高血圧性出血、または脳動脈瘤、動静脈奇形(AVM)もしくは海綿状血管腫を含む脳血管奇形の破裂などの、弱った血管の別の根源的原因が含まれる。出血性卒中は、梗塞内の血管を弱らせる虚血性卒中の出血性の変形、または異常に弱い血管を含むCNS内の原発性もしくは転移性腫瘍からの出血によっても起こりうる。出血性卒中は、脳血管への直接の外科的損傷などの医原性の原因によっても起こりうる。動脈瘤は血管の弱った領域の膨隆である。未治療で放置すると、動脈瘤は弱り続けて、破裂し、脳内に出血する。動静脈奇形(AVM)は異常に形成された血管群である。海綿状血管腫は弱った静脈構造から出血を起こしうる静脈の異常である。これらの血管はいずれも破裂し、脳内の出血を起こしうる。出血性卒中は物理的外傷によっても起こりうる。脳の一部における出血性卒中は、出血性卒中において失われた血液の不足により別の部分の虚血性卒中を引き起こしうる。
【0073】
いくつかの他の神経学的状態がNDMAR仲介性の興奮毒性による神経死を起こすこともある。これらの状態には、てんかん、低酸素、外傷性脳損傷および脊髄損傷などの卒中に関連しないCNSへの外傷性損傷、アルツハイマー病ならびにパーキンソン病が含まれる。
【0074】
VII. 治療法
前述のキメラペプチドまたはそのペプチド模倣体を用いて、卒中の患者を治療する。治療は通常は卒中開始後できるだけ早く開始する。時として、高リスクであることが公知の患者では治療を卒中の開始と同時またはその前に開始することができる。危険因子には高血圧、糖尿病、家族歴、喫煙、以前の卒中、および進行中の手術が含まれる。通常、治療は卒中開始後1から24時間以内に最初に投与する。本発明のキメラペプチドの1回用量で十分であることが多い。しかし、複数用量を6〜24時間またはそれ以上の間隔で投与することもできる。
【0075】
N型カルシウムチャネルに結合してこれを阻害する能力が低下したtat変異体ペプチドの使用は、これらのチャネルへの結合によって起こる副作用に対して正常よりも高い感受性を有する患者で特に有用である。これらには、正常(収縮期120〜129mmHgおよび拡張期80〜84mmHg)または正常よりも低い血圧を有する患者が含まれる。正常よりも低い血圧はCNSへの傷害と同時に起こる血液損失の結果として起こりうる(例えば、自動車事故で外傷性損傷を受けた患者、または卒中後の転倒の結果として血液損失を被った患者)。
【0076】
本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体の投与に対する患者の反応を、治療前および治療後の様々な時点で梗塞量を調べることによりモニターすることができる。早期虚血はMRI拡散画像法を用いて検出可能である。灌流画像法を含むMRIプロトコルの組み合わせを用いて、高リスクの組織を調べ、梗塞量を予測することができる。この方法は、好ましくは、本発明の方法による治療を受けていない比較可能な患者群における平均梗塞量に対して少なくとも10、15、20、25、30、35、40、または50%の梗塞量減少を達成する。患者の反応は、治療開始の1日から1週間後にもとめた能力障害指数からも評価することができる。患者は、好ましくは、本発明の方法による治療を受けていない比較可能な患者群における平均能力障害指数に対して少なくとも4、10、15、20、25、30、35、40、または50%の能力障害指数の改善(すなわち、低い能力障害)を示す。患者は、好ましくは、ランキン卒中指数でゼロもしくは1点またはバーセルインデックスで75点よりも高い点数を示す。
【0077】
VIII. 薬学的組成物、用量および投与経路
本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体は薬学的組成物の形で投与することができる。薬学的組成物はGMP条件下で製造する。薬学的組成物は前述の用量のいずれかを含む単位用量剤形(すなわち、1回投与のための用量)で提供することができる。薬学的組成物は通常の混合、溶解、造粒、糖衣錠生成、研和、乳化、カプセル化、包括または凍結乾燥法によって製造することができる。特に、凍結乾燥した本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体は下記の製剤および組成物中で用いることができる。
【0078】
薬学的組成物は、キメラペプチドまたはペプチド模倣体の薬学的に用いることができる製剤への加工を容易にする、1つまたは複数の生理的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を用いての通常の様式で製剤することができる。適当な製剤は選択した投与経路に依存する。
【0079】
投与は非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、クモ膜下腔内、腹腔内、局所、鼻内または筋肉内でありうる。静脈内投与が好ましい。
【0080】
非経口投与用の薬学的組成物は好ましくは無菌で実質的に等張である。注射のために、キメラペプチドを、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水もしくは酢酸緩衝液(注射部位の不快感を軽減するため)などの生理的に適合性の緩衝液中の水溶液中で製剤することができる。溶液は懸濁化、安定化および/または分散剤などの製剤用物質を含むことができる。
【0081】
または、キメラペプチドまたはペプチド模倣体は、使用前に適当な媒体、例えば、無菌で発熱性物質を含まない水で構成するための粉末の形でありうる。
【0082】
経粘膜投与のために、透過する障壁に適した浸透剤を製剤中で用いる。この投与経路は化合物を鼻腔に送達するため、または舌下投与のために用いることができる。
【0083】
経口投与のために、キメラペプチドまたはペプチド模倣体を薬学的に許容される担体と共に、治療する患者が経口摂取するための錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして製剤することができる。例えば、散剤、カプセル剤および錠剤などの経口固体製剤のために、適当な賦形剤には乳糖、ショ糖、マンニトールおよびソルビトールなどの糖類などの充填剤;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤;造粒剤;ならびに結合剤が含まれる。望まれる場合には、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの、崩壊剤を加えることもできる。望まれる場合には、固体剤形は標準の技術を用いて糖コーティングまたは腸溶コーティングすることもできる。例えば、懸濁剤、エリキシル剤および液剤などの経口液体製剤のために、適当な担体、賦形剤または希釈剤には水、グリコール、油、アルコールが含まれる。加えて、着香剤、保存剤、着色剤などを加えることもできる。
【0084】
前述の製剤に加えて、キメラペプチドまたはペプチド模倣体はデポー製剤として製剤することもできる。そのような長期作用製剤は埋め込み(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射により投与することができる。したがって、例えば、化合物を適当なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂と共に、あるいは難溶性誘導体、例えば、難溶性塩として製剤することができる。
【0085】
または、他の薬学的送達系を用いることもできる。リポソームおよび乳剤を用いてキメラペプチドを送達することもできる。通常は毒性が高いという代償が伴うが、ジメチルスルホキシドなどの特定の有機溶媒を用いることもできる。加えて、化合物を治療薬を含む固体ポリマーの半透性マトリクスなどの、持続放出系を用いて送達することもできる。
【0086】
持続放出カプセルは、それらの化学的性質に応じて、キメラペプチドを数週間から100日を超える期間放出することができる。治療試薬の化学的性質および生物学的安定性に応じて、タンパク質安定化の追加の戦略を用いることもできる。
【0087】
本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体は荷電側鎖または末端を含むことができるため、これらは任意の前述の製剤中に遊離酸もしくは塩基として、または薬学的に許容される塩として含まれうる。薬学的に許容される塩は、遊離塩基の生物活性を実質的に保持し、無機酸との反応によって調製される塩である。薬学的塩は対応する遊離塩基型よりも水性および他のプロトン性溶媒に溶解性が高い傾向がある。
【0088】
キメラペプチドまたはペプチド模倣体は、所期の目的(例えば、損傷性の卒中および関連状態の損傷効果の軽減)を達成するのに有効な量で用いる。治療上有効な量とは、本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体で治療していない卒中患者(または動物モデル)の対照群における損傷に比べて、本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体で治療した患者(または動物モデル)群の卒中による損傷を有意に軽減するのに十分なキメラペプチドまたはペプチド模倣体の量を意味する。量は、個々の治療した患者が本発明の方法で治療していない比較可能な患者の対照群における平均転帰(梗塞量または能力障害指数で評価)よりも好ましい転帰を達成した場合にも、治療上有効と考えられる。量は、個々の治療した患者がランキンスケールで2以下およびバーセルスケールで75以上の能力障害を示す場合にも、治療上有効と考えられる。用量は、治療患者群が比較可能な未治療群よりも能力障害スケールで有意に改善された(すなわち、より小さい能力障害)点数分布を示す場合にも、治療上有効と考えられる(Lees et at l., N Engl J Med 2006;354:588-600参照)。治療上有効な処置法とは、前述の所期の目的を達成するのに必要な治療上有効な用量と投与頻度との組み合わせを意味する。通常、1回投与で十分である。
【0089】
好ましい用量範囲は、卒中の6時間以内に患者の体重1kgあたり0.001から20μmolのキメラペプチドまたはペプチド模倣体、任意に患者の体重1kgあたり0.03から3μmolのキメラペプチドから患者の体重1kgあたりμmolのキメラペプチドを含む。いくつかの方法において、6時間以内に患者の体重1kgあたり0.1〜20μmolのキメラペプチドまたはペプチド模倣体を投与する。いくつかの方法において、患者の体重1kgあたり0.1〜10μmolのキメラペプチドまたはペプチド模倣体を6時間以内に投与し、より好ましくは6時間以内に患者の体重1kgあたり約0.3μmolのキメラペプチドを投与する。他の場合において、用量範囲は患者の体重1kgあたり0.005から0.5μmolのキメラペプチドまたはペプチド模倣体である。体重1kgあたりの用量は、表面積と質量との比の相違を補正するために6.2で割ることにより、ラットからヒトへと変換することができる。用量は、キメラペプチドまたはペプチド模倣体のモル重量をかけることにより、モルの単位からグラムへと変換することができる。ヒトで用いるためのキメラペプチドまたはペプチド模倣体の適当な用量は患者の体重1kgあたり0.001から5mg、またはより好ましくは患者の体重1kgあたり0.005から1mgまたは0.05から1mg/kg、または0.09から0.9mg/kgを含みうる。75kgの患者のための絶対重量において、これらの用量は0.075〜375mg、0.375から75mgまたは3.75mgから75mgまたは6.7から67mgに言い換えられる。例えば、患者の体重の変動を含むために丸めて、用量は通常は0.05から500mg、好ましくは0.1から100mg、0.5から50mg、または1〜20mgの範囲内である。
【0090】
投与するキメラペプチドまたはペプチド模倣体の量は、治療中の被験者、被験者の体重、病気の重症度、投与の様式および処方する医師の判断に依存する。治療は症状が検出可能な間、または検出不能になってからも、断続的に反復することができる。治療は単独でも、他の薬物との併用でも提供することができる。
【0091】
本発明のキメラペプチドまたはペプチド模倣体の治療上有効な用量は、実質的な毒性を起こすことなく、治療上の利益を提供することができる。キメラペプチドの毒性は、細胞培養物または実験動物における標準の薬学的方法によって、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的となる用量)またはLD100(集団の100%に対して致死的となる用量)をもとめることにより評価することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数である。高い治療指数を示すキメラペプチドまたはペプチド模倣体が好ましい(例えば、、Fingl et al., 1975, In: The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ch.1, p.1参照)。
【0092】
IX. スクリーニング法
本発明は、他の内部移行ペプチドがN型カルシウムチャネルに結合する、および/またはこれらを阻害するかどうかを調べるための、そのようなペプチドのスクリーニング法をさらに提供する。試験ペプチドをそのような結合または阻害について、単独で、または活性物質、特にカーゴペプチドとして知られていることもある活性ペプチドに連結してのいずれかで評価することができる。試験しうる他の内部移行ペプチドには、アンテナペディア内部移行ペプチド(Bonfanti, Cancer Res. 57, 1442-6 (1997))(およびその変異体)、Tat変異体、ペネトラチン、SynB1および3、トランスポータン、アンフィペーシック(Amphipathic)、gp41NLS、ポリArg、および以下の文献に記載の他のペプチドが含まれる(Temsamani, Drug Discovery Today, 9(23):1012-1019, 2004; De Coupade, Biochem J., 390:407-418, 2005; Saalik Bioconjugate Chem. 15: 1246-1253, 2004; Zhao, Medicinal Research Reviews 24(1): 1-12, 2004; Deshayes, Cellular and Molecular Life Sciences 62: 1839-49, 2005)(すべて参照により本明細書に組み入れられる)。
【0093】
X. TAT変異体の他の活性物質への連結
前述のtat変異体は任意の他の活性物質と連結して、細胞膜および/または血液脳関門を通っての物質の取り込みを促進することができる。tat変異体および活性物質を含む、またはこれらからなるキメラ物質の、治療法における使用は、活性物質単独の使用に比べて所期の部位でのバイオアベイラビリティを改善し、標準tatペプチドに連結した活性物質の使用に比べてN型カルシウムチャネルへの結合による副作用を軽減する。tat変異体は細胞内標的を有する活性物質および/または活性を発揮するために血液脳関門を通過する必要がある向神経活性薬のために特に有用である。tat変異体の結合を受け入れられる活性物質のいくつかはペプチドであるが、すべてではない。tat変異体の使用は、低いバイオアベイラビリティ、高用量または短い半減期を有する既存の薬剤にとって特に有用である。
【0094】
活性物質の選択、結合法およびその使用のためのいくらかの手引きは以前のtatペプチドに関する科学および特許文献によって提供される(例えば、米国特許第6,316,003号および米国特許第5,804,604号参照)。卒中および関連疾患の治療のためのtat変異体に連結した活性ペプチドを含むキメラペプチドに関連しての前述の記載はすべて、活性物質に連結したtat変異体を含むキメラ物質に必要な変更を加えて適用される。
【0095】
以下の表に、活性物質の名称(そのいくつかは承認薬である)、疾患が急性であるか慢性であるかにかかわらず、それらの活性物質がその治療において有用となる障害、薬物の投与経路(確立された程度まで)およびtat変異体ペプチドにより与えられる、膜を通過しての改善された輸送によって、部分的に克服しうる、既存の薬物による問題についてのコメントを記載している。
【0096】
活性物質に連結したtat変異体ペプチドを含むキメラ物質は、モルベースで活性物質単独と同じまたは低い用量で用いることができ、活性物質単独と同じ経路により、かつ活性物質単独と同じ疾患の治療のために投与することができる。その中のペプチド:活性結合体開示の好ましい投与法は静脈内、動脈内、鼻内/吸入、筋肉内、腹腔内、舌下、結腸内、および局所(真皮または上皮細胞の近位の障害のため)である。
【0097】
(表5)





【0098】
実施例1:Tat-NR2B9cの副作用についてのスクリーニング
Tat-NR2B9cは標準tatペプチドおよび以前に虚血のラットモデルで有効であることが示されたKLSSIESDV (SEQ ID NO:12)のキメラペプチドである。本実施例はペプチドTat-NR2B9cを約70の受容体タンパク質に対する公知のリガンドの結合を阻害する能力についてスクリーニングする。スクリーニングした受容体の例には、グルタミン酸、ヒスタミンH1、カリウムチャネル、ドーパミンD1、カルシウムチャネル(L型、N型)が含まれていた。
【0099】
Tat-NR2B9cは、2つのそのような受容体、N型カルシウムチャネルおよびケモカインCXCR2(IL-8Rb)への結合を阻害することが判明した。スクリーニングは競合的結合アッセイとして実施し、ここで10μMの濃度の非標識Tat-NR2B9cは、感度を高めるための非標識リガンド存在下、I125標識したリガンドとその受容体への結合について競合した。10μMで、Tat-NR2B9cはN型Caチャネルに結合する放射性標識したω-コノトキシンGVIAの100%阻害を示した。Tat-NR2B9cは同じ濃度でIL-8 /IL-8RBの80%阻害も示した。結果を図1A、B、Cに示す。
【0100】
実施例2:標準Tatペプチドの突然変異生成
公知のN型カルシウムチャネル阻害剤であるジコノチドと同様、Tat-NR2B9cは多くの正電荷を含む。正電荷はおそらく脳血液関門を通過する能力を促進し、かつN型カルシウムチャネル結合にも貢献すると考えられる。直接の配列比較によって、正(R=アルギニン、K=リジン)電荷ならびにペプチド主鎖に沿ってのこれらの電荷の間隔にいくらかの類似性が見られる(下記の配列参照)。これはTat-NR2B9c N型カルシウムチャネル結合エピトープをTat領域(イタリックで示す)およびNMDAR2Bドメインの1つのアミノ酸にほぼ位置づけている。

【0101】
本発明者らは、Tat-NR2B9cの1位のY残基のFへの変異は、薬物の細胞取り込みを損なうことなく、N型カルシウムチャネルへの結合を低減させうるとの仮説を立てた。本発明者らは、標準tatペプチドにおける塩基性残基の伸長を改変すると同様の結果が得られるとの仮説も立てた。ペプチドはそれぞれ100μMで適用した。以下のペプチドを試験した(Ca2+電流を各ペプチドの後にパーセンテージで示す)。

ここでX=L-t-ブチル-グリシン (65 +/- 5.1% (n=5)); 1987: Tat-NR2B9cのD-異性体 (82 +/- 2.2% (n=6))。Tat-NR2B9c (68 +/- 1.7% (n=7))。データを平均±s.e.m.でプロットした。
【0102】
ペプチドを下記のパッチクランプアッセイでも試験した。内部移行ペプチドおよびキメラペプチドを、N型カルシウムチャネルによって仲介されるイオン電流を阻害するそれらの能力についてスクリーニングした。これはN型カルシウム電流が生じる背根神経節ニューロンにおけるホールセルパッチクランプ記録によって実施した。背根神経節(DRG)の培養物は妊娠13〜14日のスイスマウスから調製した。簡単に言うと、DRGを摘出し、トリプシン消化を37℃で20分間行い、機械的に分離し、ポリ-D-リジンでコーティングしたカバースリップ上に播種した。これらを無血清MEM(Neurobasal MEM, B-27 - Gibco Invitrogen Corporation, Carlsbad,CA)中で培養した。3〜5日後、10μM FUDR溶液を加えて、膠細胞増殖を阻害した。培養物を加湿5%CO2雰囲気下、37℃で維持し、1週間に2回供給を行った。ホールセル記録を播種の10〜14日後に室温で実施した。電気生理学記録:ホールセル記録をAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)により電位固定モードで実施した。抵抗3〜5MΩの記録電極を薄膜ホウケイ酸ガラス(直径1.5mm;World Precision Instruments, Sarasota, FL)から2段階プラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を用いて作製した。データをデジタル化し、フィルターにかけ(2kHz)、pClamp 9(Axon Instruments)のプログラムを用いてオンラインで得た。ピペットに下記を含む溶液を充填した:CsCl 110mM、MgCl2 3mM、EGTA 10mM、HEPES 10mM、MgATP 3mM、GTP 0.6mM。pHをCsOHで7.2に調節した。バス溶液は下記を含んでいた:pH(NaOH)7.4でCaCl2 1mM、BaCl2 10mM、HEPES 10mM、TEA-Cl 160mM、グルコース10mM、TTX 0.0002mM。ホールセル電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの40msの脱分極パルスを15sごとに適用して誘導した。使用依存性阻害を試験するために、電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの10msの脱分極パルスをそれぞれ0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)または15s(0.07Hz)ごとに適用して誘導した。
【0103】
結果:結果を図2に示す。上部は、示したペプチド存在下でのホールセルカルシウム電流の平均±s.e.m.を、同じ細胞のペプチド適用前のホールセルカルシウム電流に対して規準化して示している。図2の下部は、上部の平均をもとめた代表的ホールセルトレースを示している。簡単に言うと、データはキメラペプチドのTAT輸送体部分がN型カルシウムチャネルの阻害を主に担っていることを示している。Tat-NR2B9cのN末端チロシンの変異は、このキメラペプチドのN型カルシウムチャネルを阻害する能力をほぼ完全に抑制する。Tat-NR2B9cのC末端部分(

)、F-Tat-NR2B9cまたは1994 Tat-NR2B9c KからAは、N型カルシウムチャネル活性の有意な阻害は示さなかった。ペプチド1992、1994および1987はTAT単独に比べてチャネル活性の有意な改善を示したが、なおN型カルシウムチャネル活性の量のいくらかの低減を示した。これらのペプチドはすべて、これらのTat変異体配列の1つを含む薬物の治療指数増大を示す標準Tat単独に比べてN型カルシウムチャネルへの結合低減を提供する。
【0104】
実施例3:Tat-NR2B9cによるN型Ca2+チャネル仲介性イオン電流の阻害のさらなる分析
さらなる実験を図4〜7に示すとおりに実施した。それらの目的はTat-NR2B9cによるN型Ca2+チャネル仲介性イオン電流の阻害をさらに特徴づけることであった。加えて、図4はTat-NR2B9c

によるCa2+電流の阻害の程度を特徴づけており、これを他の変異体:1990 TAT

;1992 Tat-NR2B9c AA

;1994 Tat-NR2B9c KからA

と比較している。
【0105】
組織培養:背根神経節(DRG)の培養物は妊娠13〜14日のスイスマウスから調製した。簡単に言うと、DRGを摘出し、トリプシン消化を37℃で20分間行い、機械的に分離し、ポリ-D-リジンでコーティングしたカバースリップ上に播種した。これらを無血清MEM(Neurobasal MEM, B-27 - Gibco Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)中で培養した。3〜5日後、10μM FUDR溶液を加えて、膠細胞増殖を阻害した。培養物を加湿5%CO2雰囲気下、37℃で維持し、1週間に2回供給を行った。ホールセル記録を播種の10〜14日後に室温で実施した。
【0106】
電気生理学記録:ホールセル記録をAxopatch-1B増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)により電位固定モードで実施した。抵抗3〜5MΩの記録電極を薄膜ホウケイ酸ガラス(直径1.5mm;World Precision Instruments, Sarasota, FL)から2段階プラー(PP83; Narishige, Tokyo, Japan)を用いて作製した。データをデジタル化し、フィルターにかけ(2kHz)、pClamp 9(Axon Instruments)のプログラムを用いてオンラインで得た。ピペットに下記を含む溶液を充填した:CsCl 110mM、MgCl2 3mM、EGTA 10mM、HEPES 10mM、MgATP 3mM、GTP 0.6mM。pHをCsOHで7.2に調節した。バス溶液は下記を含んでいた:pH(NaOH)7.4でCaCl2 1mM、BaCl2 10mM、HEPES 10mM、TEA-Cl 160mM、グルコース10mM、TTX 0.0002mM。ホールセル電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの40msの脱分極パルスを15sごとに適用して誘導した。使用依存性阻害を試験するために、電流を、保持電位-60mVから+20mVまでの10msの脱分極パルスをそれぞれ0.02s(50Hz)、0.05s(20Hz)、0.1s(10Hz)または15s(0.07Hz)ごとに適用して誘導した。
【0107】
データ分析:データを平均±s.e.m.でプロットした。図4は、完全なTat配列(

)を含むすべてのペプチドの漸増する濃度は背根神経節ニューロン(主にN型Ca2+チャネルを発現する)におけるCa2+電流を有意に阻害することを示している。これはN型Ca2+チャネル電流を阻害する性質はTat配列にあることを示唆している。
【0108】
図5AおよびBは、Tat-NR2B9cによるCa2+電流の阻害はN型Ca2+チャネルに特異的であることを示している。オメガコノトキシン(1μM)は選択的N型Ca2+チャネル遮断薬で、Ca2+電流を阻害し、いったんN-チャネルが遮断されるとTat-NR2B9c(100μM)によりそれ以上の阻害は提供されない(図5A、左)。同様に、Tat-NR2B9cによるイオン電流の阻害後にコノトキシンを加えた場合、電流のそれ以上の阻害は見られない(図5A、右)。また、図5Bに示すとおり、選択的L型Ca2+チャネル遮断薬のニフェジピンは、Tat-NR2B9c存在下(100μM細胞内)または非存在下で記録したCa2+電流のサイズに有意に影響をおよぼす。図5Bの左部分はカルシウム電流の平均±s.e.m.を示し、一方、右部分は単一の実験からのホールセル電流の代表的トレースである。
【0109】
図6は、Tat-NR2B9cによるCa2+電流の遮断は周波数依存性ではないことを示している。その使用依存性効果を試験するために100μM Tat-NR2B9cを用いた。+20mVの脱分極パルスにより誘導された電流は強い周波数依存性の低下を示した。しかし、周波数の上昇(0.07、10、20、50Hz)はこの電流に対するTat-NR2B9cの阻害効果を高めることはなかった。図は1つの代表的DRGニューロンにおいて異なる周波数で記録したCa2+電流を示している。これらの電流は数分後に低下する自然の傾向を有し、周波数の上昇はTat-NR2B9cによる電流の阻害にまったく影響なかった(n=4の代表)。
【0110】
図7は、Tat-NR2B9cが電圧には無関係の様式でDRGニューロンにおけるCa2+電流を阻害し、この阻害はL型Ca2+チャネルの遮断薬であるニフェジピンによって影響されないため、N型Ca2+チャネルに特異的であることを示している。電流は、保持電位-60mVから-40から+50mVまでの50msの電位固定段階を用いて誘導した。
【0111】
結論として、図4〜7は、Tat-NR2B92によるCa2+電流の阻害はN型Ca2+チャネルに特異的で、これは同様にTat部分を有する他のペプチドの性質であることを示している。データは、この阻害はN型Ca2+チャネルに特異的であり、周波数および電圧には無関係であることも示している。
【0112】
実施例3:F-Tat-NR2B9cは卒中モデルにおいて同等に有効である
前述し、実施例4でもさらに記載した、永久虚血のラット軟膜閉塞モデルにおいて、F-Tat-NR2B9cをTat-NR2B9cと、体重1gあたり3nmolの単一の用量で比較した。いずれのケースでも、キメラペプチドを虚血開始の1時間後に投与した。図3に示すとおり、F-Tat-NR2B9cおよびTat-NR2B9cは梗塞サイズの減少において等しく有効であった。
【0113】
実施例4
目的:
1. 卒中のインビボ軟膜3血管閉塞(P3VO)モデルを用いて、雄ラットおよび雌ラット両方におけるTat-NR2B9cペプチドの神経保護効果を試験すること。
2. 雄ラットにおいてTat-NR2B9cの6つの変異を試験することにより、作用機序を解明すること。
【0114】
背景:
Tat-NR2B9cとして公知のペプチドが開発され、これまでラットにおける卒中のMCAOモデルで試験された。このペプチドは、梗塞サイズの減少によって明らかなとおり、神経保護的であることが判明している。しかし、卒中のMCAOモデルは広範な神経欠損を伴う大きな梗塞と、寿命の短縮を引き起こす。卒中のP3VOモデルは神経欠損が最小限のはるかに小さい、皮質の梗塞を引き起こし、寿命は通常どおりである。
【0115】
末端の3アミノ酸を除いてTat-NR2B9cと同じアミノ酸配列を含む、6つのさらなるペプチドを試験した。これらのアミノ酸を変動させ、次いで卒中のP3VOモデルでペプチドの神経保護効果を試験することにより、作用機序をさらに解明することができる。
【0116】
Tat-NR2B9cおよび6つのペプチドのアミノ酸構造は下記のとおりである。
配列: 名称:

【0117】
方法:
動物
成体Sprague Dawleyラット(10〜12週齡)(雄約300g、雌約250g)(図8)を12〜18時間絶食させた後、ウィスカーバレル皮質上の中大脳動脈の3つの末端枝の永久軟膜血管閉塞を起こさせた(P3VO)。7つのペプチドそれぞれを雄ラットおよび食塩水対照群で試験した(各群n=8)。Tat-NR2B9cペプチドおよび食塩水対照群を雌ラットで試験した(各群n=8)。研究者は手術中から梗塞サイズの分析中を通して治療群について盲検的に行った。
【0118】
一般法
ラットをケタミン(100mg/kg)、アセプロマジン(2mg/kg)、およびキシラジン(5mg/kg)の0.5ml/kg筋肉内注射で麻酔し、必要に応じて初期用量の3分の1で追加麻酔した。肛門体温プローブを挿入し、動物を37℃に維持した加熱パッド上に置いた。色素注入のために、右外頸動脈(ECA)をPE 10ポリエチレンチューブで挿管した。頭蓋を正中切開により露出し、組織をこそげ取り、右側の側頭筋を頭蓋から切断した。解剖顕微鏡および歯科用空気ドリルを用い、頭蓋に長方形の穴を開け、硬膜を無傷に保ちつつ頭蓋片を持ち上げることにより、右体性感覚皮質(ブレグマの2mm尾側、5mm外側)に6×4mmの頭蓋窓を設ける。人工脳脊髄液で洗浄した後、生理食塩水中の生体色素パテントブルーバイオレット(10mmol/L;Sigma)の少量ボーラス(10から20μL)を右外頸動脈に注入して、皮質の表面血管を通っての移行を示した。バレル皮質周囲のMCAの3つの重要な細動脈枝を選択し、硬膜を通して電気的に焼灼した。焼灼後、ボーラス注入および色素移行を繰り返して、焼灼した細動脈を通る移行の断絶を確実にした。頭蓋の長方形を窓上に戻し、頭皮を縫合した。カテーテルをECAから除去し、ECAを結紮し、前頸部を縫合した。限局性の閉塞開始の1時間後、0.3mlの薬物(体重1gあたり3nMol)または食塩水対照を尾静脈から0.06ml/分の速度で注入した。各ラットを完全に回復するまで体温を維持するために加熱ランプで保温した個々のケージに戻した。食餌および水を自由に摂取させた。
【0119】
脳組織の採取
手術の24時間後、動物を1mLのペントバルビタールで再度麻酔し、脳を迅速に採取した。1つの冠状切片を梗塞領域から取り、2%塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)中、37℃で15分間インキュベートした。画像を走査し、脳切片を-80℃で保存した。
【0120】
分析
梗塞サイズを試験中の各ラットについて半球のパーセントとして測定した。梗塞サイズ測定値を得た後、動物をそれぞれの群に分けた。治療群間で平均±SEとして比較を行った。
【0121】
結果:
試験した6つの新規ペプチドのうち、Tat-NR2B9c、1976および1977は梗塞サイズの有意な減少をもたらし、1975および1978は梗塞サイズのいくらかの減少を示した(図8)。
【0122】
本明細書において引用するすべての出版物、および特許ファイリングは、それぞれ個々の出版物または特許が具体的かつ個別に参照により組み入れられると示されるがごとく、参照により本明細書に組み入れられる。Genbank同定(GID)またはアクセッション番号により参照されるGenbank記録、特に任意のポリペプチド配列、ポリヌクレオチド配列またはその注釈は参照により本明細書に組み入れられる。配列の複数の版が同じアクセッション番号に異なる時点で関連づけられている場合、寄託番号の参照は、寄託が優先出願においても参照されるならば、優先出願にさかのぼって出願の有効な提出日に存在する版に適用されると解釈すべきである。本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更を行ってもよく、等価物で置き換えてもよい。文脈からそうではないことが明白でないかぎり、任意の特徴、段階または態様を任意の他の特徴、段階または態様との組み合わせで用いることができる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSD-95のNMDA受容体への結合を阻害する活性ペプチドおよびキメラペプチドの細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドを含み、かつtatペプチド

に比べてN型カルシウムチャネルに結合する能力が低い、単離キメラペプチドまたはそのペプチド模倣体。
【請求項2】
内部移行ペプチドがtatペプチドの変異体である、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項3】
活性ペプチドがNMDA受容体のC末端からの3〜25アミノ酸からなるアミノ酸配列またはPSD-95受容体からのPDZドメイン1および/もしくは2を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項4】
活性ペプチドがT/SXV/L (SEQ ID NO:14)を含むアミノ酸配列を有し、かつ内部移行ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する単離キメラペプチドであって、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項5】
XがFである (SEQ ID NO:135)、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項6】
Xが存在しない (SEQ ID NO:136)、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項7】
内部移行ペプチドが

からなる、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項8】

からなるアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項9】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項10】
活性ペプチドが

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項11】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項12】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項13】

を含むアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項14】

からなるアミノ酸配列を有する、請求項1記載の単離キメラペプチド。
【請求項15】
N型カルシウムチャネルに対し10nMよりも大きいKdを有する単離キメラペプチド。
【請求項16】
請求項1記載の単離キメラペプチドまたはそのペプチド模倣体、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物。
【請求項17】
患者にキメラペプチドまたはそのペプチド模倣体の有効量を投与する段階を含む、卒中または他のCNSへの傷害を有するかまたはそのリスクが高い患者における卒中の損傷効果を治療する方法であって、キメラペプチドが、T/SXV/L (SEQ ID NO:14)を含むアミノ酸配列を有する活性ペプチドとXGRKKRRQRRR (SEQ ID NO:2)を含むアミノ酸配列を有する内部移行ペプチドとを含み、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない、方法。
【請求項18】
XがFである (SEQ ID NO:135)、請求項17記載の方法。
【請求項19】
Xが存在しない (SEQ ID NO:136)、請求項17記載の方法。
【請求項20】
内部移行ペプチドが

からなる、請求項17記載の方法。
【請求項21】
キメラペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項22】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項23】
活性ペプチドが

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項17記載の方法。
【請求項24】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項25】
活性ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項26】
キメラペプチドが

を含むアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項27】
キメラペプチドが

からなるアミノ酸配列を有する、請求項17記載の方法。
【請求項28】
有効用量がペプチドまたはペプチド模倣体0.05〜500mg、任意に0.1〜100mg、0.5〜50mg、または1〜20mgの1回用量である、請求項17記載の方法。
【請求項29】
患者が虚血性卒中を有する、請求項17記載の方法。
【請求項30】
患者が出血性卒中を有する、請求項17記載の方法。
【請求項31】
患者が、N型カルシウムチャネルによって仲介される副作用に対して正常よりも高い感受性を有する、請求項17記載の方法。
【請求項32】
患者が、正常または正常よりも低い血圧を有する、請求項17記載の方法。
【請求項33】
NMDA受容体へのPSD-95の結合を阻害する活性ペプチドの細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドを提供する段階;および
内部移行ペプチドのN型カルシウムチャネルへの結合を決定する段階であって、結合の程度が内部移行ペプチドの臨床使用において起こりうる副作用の指標である、段階
を含む、内部移行ペプチドの起こりうる副作用を評価する方法。
【請求項34】
内部移行ペプチドが、試験ペプチドが活性ペプチドの取り込みを促進するかどうかを調べるために、試験ペプチドをスクリーニングすることによって提供される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
活性物質とキメラ物質の細胞への取り込みを促進する内部移行ペプチドとを含む単離キメラ物質であって、該内部移行ペプチドが、tatペプチド

に比べてN型カルシウムチャネルに結合する能力が低い、tatペプチドの変異体である、物質。
【請求項36】
活性物質が表5に示す活性物質である、請求項35記載の単離キメラ物質。
【請求項37】
内部移行ペプチドが

を含むアミノ酸配列を有し、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない、請求項35記載の単離キメラ物質。
【請求項38】
XがFである (SEQ ID NO:135)、請求項37記載の単離キメラ物質。
【請求項39】
Xが存在しない (SEQ ID NO:136)、請求項37記載の単離キメラ物質。
【請求項40】
内部移行ペプチドが

からなる、請求項37記載の単離キメラ物質。
【請求項41】
N型カルシウムチャネルに対し10nMよりも大きいkDを有する、請求項37記載の単離キメラ物質。
【請求項42】
請求項35記載の単離キメラ物質および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項43】

を含むアミノ酸配列を有する単離内部移行ペプチドであって、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない、ペプチド。
【請求項44】
XがFである (SEQ ID NO:135)、請求項43記載の単離内部移行ペプチド。
【請求項45】
Xが存在しない (SEQ ID NO:136)、請求項43記載の単離内部移行ペプチド。
【請求項46】

からなる、請求項43記載の単離内部移行ペプチド。
【請求項47】
N型カルシウムチャネル遮断物質に対し10nMよりも大きいKdを有する、請求項43記載の単離内部移行ペプチド。
【請求項48】
細胞を内部移行ペプチドに連結した活性物質と接触させる段階を含む、活性物質の細胞への取り込みを促進する方法であって、
内部移行ペプチドのN型カルシウムチャネルに結合する能力を決定するために内部移行ペプチドをスクリーニングする改善。
【請求項49】
活性物質に連結した内部移行ペプチドを含むキメラ物質において、
内部移行ペプチドが、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない

を含むアミノ酸配列を有する、改善。
【請求項50】
神経疾患を有するかまたは神経疾患に対し感受性の患者にその疾患に対する薬学的活性を有する活性物質の有効量を投与する段階を含む、神経疾患を治療する方法において、
活性物質が、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない

を含むアミノ酸配列を有するtat変異体ペプチドに連結している、改善。
【請求項51】
活性物質の有効量を疾患を有するかまたは疾患に対して感受性の患者に投与する段階を含む、疾患を治療するのに有効な細胞内活性を有する活性物質によって疾患を治療する方法において、
活性物質が、XがY以外のアミノ酸であるかまたは存在しない

を含むアミノ酸配列を有するtat変異体ペプチドに連結している、改善。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−520209(P2010−520209A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551748(P2009−551748)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/002754
【国際公開番号】WO2008/109010
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(505088020)アルボー ビータ コーポレーション (12)
【出願人】(310000978)ノノ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】