説明

N,N’−ホウ素錯体化合物の製造方法

【課題】N,N'-二座配位ボリン酸錯体化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】式(2)で表される化合物と、ルイス酸と、式(3)で表される配位子化合物とを反応させて、(1)で表されるホウ素錯体化合物を製造する、ホウ素錯体化合物の製造方法。


式中、A1及びA2は各々独立に含窒素芳香環を表し、N1及びN2は各々窒素原子を表す。但し、N1及びN2のうち一方は中性状態でプロトン化されない窒素原子であり、他方は中性状態でプロトン化される窒素原子である。R1及びR2は各々独立に水素原子、又は置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはヘテロアリール基を表し、R1とR2とが連結されていてもよい。R3は置換又は無置換のアルキル基又はアルキルカルボニル基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。ただし、環A1及び環A2は縮環してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホウ素錯体化合物の製造方法に関し、より詳細には、N,N’−ホウ素錯体化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素化合物は、ホウ素原子と結合している水素もしくは炭素原子の数によって、ボランBH3、ボリン酸H2BOH、ボロン酸HB(OH)2、ホウ酸B(OH)3の4種類に大別することができるが、中でもボリン酸を基本骨格に有する錯体(以下、「ボリン酸錯体」と呼ぶ)は、抗生物質などの医薬品、蛍光色素などの有機色材として有用な骨格であり、これまでに多くのものが知られている。
【0003】
ボリン酸錯体のうち、配位子が二座配位している化合物は、錯体の安定性の観点からも特に有用である。
しかし、これまで知られているボリン酸錯体は、配位子としてヒドロキシキノリンや種々のアミノアルコールを用いた錯体(特許文献1、2)やα−アミノ酸を用いた錯体(特許文献3、非特許文献1)のように、配位子が少なくとも1つの酸素原子を介してホウ素に二座配位している例がほとんどであり、配位子が2つの窒素原子を介してホウ素に二座配位している例(以下、「N,N’−二座配位」と呼ぶ。)は限られている。
【0004】
N,N’−二座配位ボリン酸錯体化合物を得る方法としては、例えば非特許文献2に記載された方法がある。しかし、非特許文献2に記載された方法は、配位子として2−ピラゾリルアニリンを用いており、アミノ基を持たない配位子には適用できない。
【0005】
別のN,N’−二座配位ボリン酸錯体化合物を得る方法として、予めハロゲン化ホウ素によって配位子を錯体化した後、有機金属試薬を用いてハロゲンを置換し、ボリン酸錯体化合物を得る例が挙げられる(非特許文献3)。しかし、この方法は、有機金属試薬と反応する部位を有する配位子には適用できない。
【0006】
さらに別のN,N’−二座配位ボリン酸錯体化合物を得る方法として、ホウ素錯体化する試薬にクロロジフェニルボラン(非特許文献4)やトリフェニルボラン(非特許文献5)を用いる例が挙げられる。しかし、これらの方法は、反応に用いるホウ素試薬の入手性や、その取り扱いに問題点がある。
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2004/056322号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2003/059916号パンフレット
【特許文献3】特開2003−104944号公報
【非特許文献1】Tetrahedron,54(43),13313-13322;1998
【非特許文献2】J.Org.Chem.,72(15),5637-5646;2007
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,128(31),10231-10239;2006
【非特許文献4】Angew.Chem.Int.,46,3750-3753;2007
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,122(15),3671-3678;2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、N,N’−二座配位ボリン酸錯体の従来の製造法は、配位子の構造に制限があったり、ホウ素化反応剤の入手性や取り扱いの容易さに問題があったりするため、幅広い基質に適用可能な製造方法であるとは言いがたい。
したがって、本発明の目的は、入手が容易で取り扱いやすいホウ素反応剤を用いて、幅広い基質に適用可能なN,N’−二座配位ボリン酸錯体化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、ボリン酸エステルは、入手が容易で取り扱いやすいものの、酸性条件下で容易に加水分解してボリン酸を与えることが知られている(J.Am.Chem.Soc.,(1955),77,pp.2491-2494)。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ボリン酸エステルとルイス酸とを併用した場合には加水分解が起こらず、ボリン酸を活性化できることを見出した。そして、入手が容易で取り扱いやすいボリン酸エステルとルイス酸とを用いて、これらを配位子化合物と反応させることにより、高収率でN,N’−二座配位のボリン酸錯体化合物を製造できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされるに至ったものである。
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
【0010】
[1]下記一般式(2)で表される化合物と、ルイス酸と、下記一般式(3)で表される配位子化合物とを反応させて、下記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物を製造する、ホウ素錯体化合物の製造方法。
【0011】
【化1】

【0012】
(前記一般式(1)〜(3)中、A1及びA2はそれぞれ独立に含窒素芳香環を表し、N1及びN2はそれぞれ窒素原子を表す。ただし、N1及びN2のうち一方は、中性状態でプロトン化されない窒素原子であり、もう一方は、中性状態でプロトン化される窒素原子である。R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはヘテロアリール基を表し、R1とR2とが連結されていてもよい。R3は置換または無置換のアルキル基またはアルキルカルボニル基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。ただし、環A1と環A2とは縮環していてもよい。)
[2]前記一般式(2)で表される化合物と前記ルイス酸とを予め反応させた後に、次いで前記一般式(3)で表される配位子化合物と反応させる、[1]項に記載の方法。
[3]前記一般式(3)で表される配位子化合物が、下記一般式(4)〜(7)のいずれかで表される化合物である、[1]又は[2]項に記載の方法。
【0013】
【化2】

【0014】
(前記一般式(4)〜(7)中、X1〜X8は、それぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表す。R31〜R38はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R31〜R38のうち隣り合う二つが一緒になって環を形成していてもよい。Yは水素原子もしくは置換基を表す。)
[4]前記一般式(3)で表される配位子化合物が、下記一般式(8)で表される化合物である、[1]又は[2]項に記載の方法。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、A1は含窒素芳香環を表す。R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。)
[5]前記一般式(8)で表される配位子化合物が、下記一般式(9)で表される化合物である、[4]項に記載の方法。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R5及びR6は各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基は炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数4〜10のヘテロアリール基を表し、R5及びR6は結合して環を形成してよく、形成する環としては炭素数5〜10の脂環、炭素数6〜10のアリール環、又は炭素数3〜10のヘテロアリール環である。Xは酸素原子、イオウ原子、−NR−、又は−CRR’−を表し、R及びR’は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。Yは水素原子もしくは置換基を表す。)
[6]前記一般式(2)におけるR3が、2位または3位にアミノ基を有する炭素数2〜6のアルキル基またはアルキルカルボニル基である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]前記ルイス酸が、塩化チタン、三フッ化ホウ素および塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、入手が容易で取り扱いやすいボリン酸エステルとルイス酸とを用いて、これらを配位子化合物と反応させることで、対応するN,N’−二座配位のボリン酸錯体化合物を効率よく高収率で製造できる。本発明の方法は、幅広い基質に適用可能であり、極めて高い実用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0021】
本発明の方法は、下記一般式(2)で表される化合物と、ルイス酸と、下記一般式(3)で表される配位子化合物とを反応させて、下記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物を製造するものである。
【0022】
【化5】

【0023】
(前記一般式(1)〜(3)中、A1及びA2はそれぞれ独立に含窒素芳香環を表し、N1及びN2はそれぞれ窒素原子を表す。ただし、N1及びN2のうち一方は、中性状態でプロトン化されない窒素原子であり、もう一方は、中性状態でプロトン化される窒素原子である。R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはヘテロアリール基を表し、R1とR2とが連結されていてもよい。R3は置換または無置換のアルキル基またはアルキルカルボニル基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。ただし、環A1と環A2とは縮環していてもよい。)
【0024】
まず、前記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物について説明する。
前記一般式(1)中、A1及びA2はそれぞれ独立に含窒素芳香環を表し、好ましくは5又は6員環の含窒素芳香環である。含窒素芳香環としては、例えば、置換または無置換のピロール環、インドール環、イソインドール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、ピロロピロール環、ピロロピリジン環、フロピロール環、イミダゾキノリン環、イミダゾキノキサリン環、カルバゾール環、フェノチアジン環、フェノキサジン環、インドリン環、チアジアジン環、オキサジアゾール環、ベンゾキノリン環、チアジアゾール環、ピロロチアゾール環、ピロロピリダジン環またはテトラゾール環などが挙げられる。
【0025】
1又はA2で表される含窒素芳香環として、好ましくは置換または無置換のピロール環、イソインドール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロロピロール環、ピロロピリジン環、又はイミダゾキノリン環であり、より好ましくは置換または無置換のピロール環、イソインドール環、ピラゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロロピロール環、又はピロロピリジン環である。
また、環A1と環A2とが縮環していてもよい。
【0026】
前記一般式(1)中、L1は環A1と環A2との連結基を表す。連結基L1は特に限定されず、2つの窒素原子がホウ素に配位しうる立体配置を与えることが必要である。L1として好ましくは、単結合、二重結合、1つのメチン炭素、またはアルキレン鎖であり、より好ましくは、単結合、または1つのメチン炭素である。特に好ましくは、無置換のメチン基、又はシアノ基が置換したメチン基である。
【0027】
前記一般式(1)中、N1及びN2はそれぞれ窒素原子を表す。ただし、N1及びN2のうち一方は、中性状態でプロトン化されない窒素原子であり、もう一方は、中性状態でプロトン化される窒素原子である。すなわち、N1及びN2のうち一方の窒素原子は、複素環中で2つの単結合とN−H結合を有する。もう一方の窒素原子は、複素環中で1つの単結合と1つの二重結合を有する。
【0028】
前記一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはヘテロアリール基を表す。
1、R2が表すアルキル基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数1〜12のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、n-ドデシル等)である。
また、R1、R2が表すアルケニル基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数2〜10のアルケニル基(例えば、2−ペンテニル、ビニル、アリル、2−ブテニル、1−プロペニル等)である。
また、R1、R2が表すアリール基としては、好ましくは置換または無置換の炭素数6〜14のアリール基(例えばフェニル、トリル、キシリル、ナフチル等)である。
また、R1、R2が表すヘテロアリール基としては、好ましくは置換または無置換のピロール、インドール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、インドリジン、キノリン、カルバゾール、フェノチアジン、フェノキサジン、インドリン、チアゾール、ピリジン、ピリダジン、チアジアジン、ピラン、チオピラン、オキサジアゾール、ベンゾキノリン、チアジアゾール、ピロロチアゾール、ピロロピリダジン、テトラゾール、オキサゾール、クマリン、クマロンである。
【0029】
1、R2が表す基として好ましくは、置換または無置換の炭素数1〜12(より好ましくは3〜8)のアルキル基、または炭素数6〜14(より好ましくは6〜10)のアリール基であり、さらに好ましくは、置換または無置換のフェニル基である。
【0030】
前記一般式(1)において、置換基は特に限定されず、具体例としては、例えばアルキル基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ)、ハロゲン原子(例えば塩素、臭素、フッ素)、アリール基(例えばフェニル、4−カルボキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル、4−メタンスルホンアミドフェニル)、ヘテロアリール基、アミノ基(例えば無置換アミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ)、アルコキシカルボニル基(例えば、エトキシカルボニル)、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド)、カルバモイル基(例えば無置換カルバモイル、メチルカルバモイル、エチルカルバモイル、フェニルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば無置換スルファモイル、メチルスルファモイル、フェニルスルファモイル)等を挙げることができる。
【0031】
以下に、前記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
次に、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルについて説明する。
前記一般式(2)におけるR1及びR2は、前記一般式(1)におけるR1及びR2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(2)中、R3は置換または無置換のアルキル基またはアルキルカルボニル基を表す。R3として好ましくは、置換または無置換の炭素数1〜6のアルキル基またはアルキルカルボニル基であり、より好ましくは、2位または3位にアミノ基またはヒドロキシル基を有する炭素数2〜6のアルキル基またはアルキルカルボニル基であり、さらに好ましくは、2位または3位にアミノ基を有する炭素数2〜6のアルキル基またはアルキルカルボニル基である。具体的には、2−アミノエトキシ基、2−アミノ2−メチルプロピル基、アミノアセチル基、アミノプロパノイル基などが挙げられる。R3は、ホウ素原子と配位結合してもよい。
3で表されるアルキル基またはアルキルカルボニル基の2位にアミノ基を有する場合、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルは、R3中のアミノ基がホウ素原子と配位結合して5員環を形成して空気や水分に対して安定な結晶となり、長期保存や秤量などの際における取り扱いが容易になるという利点を有する。
【0036】
以下に、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0037】
【化9】

【0038】
前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルは、例えばJ.Am.Chem.Soc.,(1955),77,pp.2489-2491及びpp.2491-2494、並びに国際公開WO2003/059916号パンフレットなどを参照して調製することができる。また、2−アミノエチル ジフェニルボリネート(東京化成工業社製)やジエチルメトキシボラン(アルドリッチ社製)、2−アミノエチル ジブチルボリネート(アルドリッチ社製)などの市販品を入手することもできる。
【0039】
次に、前記一般式(3)で表される配位子化合物について説明する。
前記一般式(3)におけるA1、A2、N1、N2及びL1は、前記一般式(1)におけるA1、A2、N1、N2及びL1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
また、前記一般式(3)で表される配位子化合物は、下記一般式(4)〜(7)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0040】
【化10】

【0041】
前記一般式(4)〜(7)中、X1〜X8は、それぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表す。好ましくは炭素原子、硫黄原子である。
31〜R38は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。ここで、置換基としては、上述した例が挙げられる。また、R31〜R38のうち隣り合う二つが一緒になって環を形成していてもよい。ただし、X1〜X8が酸素原子、硫黄原子または窒素原子の場合、X1〜X8の結合手の数に依存して、それに対応するR31〜R38は存在しない場合がある。
Yは水素原子もしくは置換基を表す。ここで、置換基としては、上述した例が挙げられる。Yとして好ましくは水素原子、シアノ基である。
【0042】
また、前記一般式(3)で表される配位子化合物は、下記一般式(8)で表される化合物であることが好ましい。
【0043】
【化11】

【0044】
前記一般式(8)におけるA1及びL1は、前記一般式(1)におけるA1及びL1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(8)中、R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。
【0045】
また、前記一般式(8)で表される配位子化合物は、下記一般式(9)で表される化合物であることが好ましい。下記一般式(9)で表される化合物を用いて製造したホウ素錯体化合物は、堅牢性に優れ、かつ、可視領域に吸収を有さず不可視性に優れた赤外線吸収色素として有用である。
【0046】
【化12】

【0047】
前記一般式(9)におけるR4は、前記一般式(8)におけるR4と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(9)におけるYは、前記一般式(4)〜(7)におけるYと同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(9)中、R5及びR6は各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基は炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数4〜10のヘテロアリール基を表す。R5及びR6は結合して環を形成してよい。形成する環としては、好ましくは炭素数5〜10の脂環、炭素数6〜10のアリール環、又は炭素数3〜10のヘテロアリール環である。
前記一般式(9)中、Xは、酸素原子、イオウ原子、−NR−、又は−CRR’−を表す。ここで、R及びR’は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。
【0048】
以下に、前記一般式(3)で表される配位子化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
【化13】

【0050】
【化14】

【0051】
前記一般式(3)で表される配位子化合物は、例えばAngew.Chem.Int.,46,3750-3753(2007)、特開2008−83416号明細書(34ページ26行目、段落番号0081)などを参照して調製することができる。
【0052】
次に、本発明に用いられるルイス酸について説明する。
本発明に用いられるルイス酸は、ボリン酸エステルを活性化できるものであれば特に限定されないが、好ましくは、塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化スズ、三フッ化ホウ素、およびこれらの臭化物であり、さらに好ましくは塩化チタン、三フッ化ホウ素、または塩化アルミニウムであり、最も好ましくは塩化チタンである。
【0053】
次に、本発明のホウ素錯体化合物の製造方法について説明する。本発明の方法を下記反応スキーム1に示す。
【0054】
【化15】

【0055】
本発明の方法は、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルと、ルイス酸と、前記一般式(3)で表される配位子化合物とを反応させて、前記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物を製造する。
一般に、ボリン酸エステルは酸性条件下で容易に加水分解してボリン酸を与えることが知られている(J.Am.Chem.Soc.,(1955),77,pp.2491-2494)。そのため、N,N’−ホウ素錯体化合物の製造にボリン酸エステルを用いることは通常行われていなかった。これに対し、本発明では、ボリン酸エステルとルイス酸とを併用することで、ボリン酸エステルが加水分解を起こすことなく、N,N’−ホウ素錯体化合物を製造することができる。
好ましくは、反応スキーム1に示すように、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルとルイス酸とを予め反応させた後に、次いで前記一般式(3)で表される配位子化合物と反応させる。このようにボリン酸エステルをルイス酸によって活性化させてから配位子化合物と反応させることによって、前記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物を極めて高い収率で得ることができる。
【0056】
前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルのモル当量は、前記一般式(3)で表される配位子化合物に対して1〜10モル当量が好ましく、より好ましくは1〜5モル当量、さらに好ましくは1〜3モル当量である。なお、前記一般式(3)で表される配位子化合物が1分子中に複数の配位サイトを有する場合は、配位サイト数に応じたモル当量のボリン酸エステルを用いることができる。
【0057】
ルイス酸のモル当量は、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルを十分活性化できれば特に限定されないが、好ましくは、前記一般式(2)で表されるボリン酸エステルに対して0.5〜2モル当量である。
【0058】
本発明の方法では、前記一般式(3)で表される配位子化合物を溶解させるために溶媒を用いることができる。本発明に用いることができる溶媒は、ルイス酸を不活性化せず、かつ、前記一般式(3)で表される配位子化合物を溶解する性質を有すること以外は特に限定されない。具体例としては、芳香族系溶媒(トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、メシチレン、p−シメン、o−ジクロロベンゼン、ソルベントナフサ)や脂肪族系高沸点溶媒(デカン等)などが挙げられる。好ましくはトルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、メシチレンであり、より好ましくはトルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンである。
【0059】
反応温度は特に限定されないが、前記一般式(3)で表される配位子化合物を溶解するのに必要な温度であればよく、通常では50℃〜170℃の範囲で行われる。好ましくは70℃〜150℃であり、より好ましくは90℃〜130℃である。
【0060】
反応時間は特に限定されないが、通常ではボリン酸エステルの活性化に10分〜60分、配位子化合物との反応に30分〜6時間の範囲で行われる。また、反応の進行をHPLCやTLCで確認して随時反応時間を調整しても構わない。好ましくは1時間〜3時間である。
【0061】
反応のワークアップは、室温程度まで冷却した後、水またはメタノールをゆっくり加え、ルイス酸およびボリン酸エステルの活性体を不活性化する。その後、系を中和し、分液操作を行った後、有機層を濃縮することで目的のボリン酸錯体を得る。
なお、メタノールを加えた段階で、目的のボリン酸錯体が結晶化する場合があるが、その場合は結晶をろ別することで簡便に目的物を得ることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、ボリン酸エステル及びルイス酸のモル当量は、配位子化合物に対するモル当量を示す。
【0063】
実施例1
[例示化合物(1−13)の製造]
【化16】

【0064】
原料となる配位子化合物(3−13)は、Angew.Chem.Int.,46,3750-3753(2007)の記載を参考にして合成した。
ジフェニルボリン酸2−アミノメチルエステル(2−1)(1.1g、6モル当量)のオルトジクロロベンゼン溶液(1.2M)に三フッ化ホウ素エーテル錯体(0.8mL、8モル当量)を添加し、30分間、外接温度100℃で攪拌した。次に、配位子化合物(3−13)(0.6g)のオルトジクロロベンゼン溶液(0.3M)を添加し、さらに2時間加熱還流条件で攪拌した。室温まで冷やし、炭酸水素ナトリウム水を攪拌しながら徐々に加え、クロロホルムで抽出した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い、例示化合物(1−13)を0.8g、収率93%で得た。
1H−NMR:δ7.8(d,2H),7.45(t,2H),7.35(d,2H),7.1−7.2(m,20H),6.7(t,2H),6.65(d,4H),6.35(d,4H),3.75(d,4H),1.8(m,2H),1.3−1.6(m,16H),0.9−1.0(m,12H)
【0065】
実施例2
[例示化合物(1−13)の製造、別法]
【化17】

【0066】
実施例1において、三フッ化ホウ素エーテル錯体(0.8mL、8モル当量)を塩化アルミニウム(0.65g、6モル当量)に代えたこと以外は実施例1と同様にして反応を行ったところ、例示化合物(1−13)を0.5g、収率63%で得た。
【0067】
実施例3
[例示化合物(1−20)の製造]
【化18】

【0068】
原料となる配位子化合物(3−14)は、Angew.Chem.Int.,46,3750-3753(2007)の記載を参考にして合成した。
ジフェニルボリン酸2−アミノメチルエステル(2−1)(1.4g、3モル当量)のトルエン溶液(1.2M)に塩化チタン(0.9mL、3モル当量)を添加し、30分間、外接温度100℃で攪拌した。次に、配位子化合物(3−14)(1.7g)とトルエンの混合液(0.2M)を添加し、さらに2時間加熱還流条件で攪拌した。室温まで冷やし、メタノールを加えたところ、結晶が析出したため、これをろ別し、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い、例示化合物(1−20)を2.3g、収率97%で得た。
1H−NMR:δ7.6(d,2H),7.5(m,4H),7.2−7.35(m,8H),7.0−7.15(m,4H),6.75−7.0(m,16H),6.45(t,2H),1.7(s,6H)
【0069】
実施例4
[例示化合物(1−12)の製造]
【化19】

【0070】
原料となる配位子化合物(3−12)は、特開2008−83416号公報(34ページ26行目、段落番号0081)の記載を参考にして合成した。
ジフェニルボリン酸2−アミノメチルエステル(2−1)(0.7g、1.5モル当量)のトルエン溶液(1.2M)に塩化チタン(0.5mL、2モル当量)を添加し、30分間、外接温度100℃で攪拌した。次に、配位子化合物(3−12)(1.5g)のトルエン溶液(0.1M)を添加し、さらに2時間加熱還流条件で攪拌した。室温まで冷やし、炭酸水素ナトリウム水を攪拌しながら徐々に加え、クロロホルムで抽出した。溶媒を減圧留去した後、メタノール/水で再結晶を行い、例示化合物(1−12)を1.7g、収率92%で得た。
1H−NMR:δ7.25−7.4(m,10H),7.05(s,1H),6.0(bd,2H),2.5(s,3H),2.35(s,3H),1.8(m,4H),1.55(s,18H),1.25(m,4H),1.1(m,4H),0.9(s,3H),0.85(s,3H)
【0071】
実施例5
[例示化合物(1−16)の製造]
【化20】

【0072】
原料となる配位子化合物(3−17)は、Angew.Chem.Int.,46,3750-3753(2007)の記載を参考にして合成した。
ジチエニルボリン酸2−アミノメチルエステル(2−6)(1.5g、3モル当量)のトルエン溶液(1.2M)に塩化チタン(0.9mL、3モル当量)を添加し、30分間、外接温度100℃で攪拌した。次に、配位子化合物(3−17)(2.3g)とトルエンの混合液(0.2M)を添加し、さらに2時間加熱還流条件で攪拌した。室温まで冷やし、メタノールを加えたところ、結晶が析出したため、これをろ別し、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い、例示化合物(1−16)を2.9g、収率90%で得た。
1H−NMR:δ7.5(d,2H),7.4(d,2H),7.3(d,4H),7.05−7.15(m,4H),6.95(d,4H),6.9(d,4H),6.5−6.6(m,12H),3.8−3.9(m,4H),1.8(m,2H),1.3−1.6(m,16H),0.9−1.0(m,12H)
【0073】
比較例
ジフェニルボリン酸メチルエステル(1.1g、4モル当量)のオルトジクロロベンゼン溶液(1.2M)に配位子化合物(3−13)(0.6g)のオルトジクロロベンゼン溶液(0.3M)を添加し、4時間加熱還流条件で攪拌した。その結果、原料の配位子化合物(3−13)が回収されただけでホウ素錯体化合物は得られなかった。
【0074】
【化21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される化合物と、ルイス酸と、下記一般式(3)で表される配位子化合物とを反応させて、下記一般式(1)で表されるホウ素錯体化合物を製造する、ホウ素錯体化合物の製造方法。
【化1】

(前記一般式(1)〜(3)中、A1及びA2はそれぞれ独立に含窒素芳香環を表し、N1及びN2はそれぞれ窒素原子を表す。ただし、N1及びN2のうち一方は、中性状態でプロトン化されない窒素原子であり、もう一方は、中性状態でプロトン化される窒素原子である。R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、または置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基もしくはヘテロアリール基を表し、R1とR2とが連結されていてもよい。R3は置換または無置換のアルキル基またはアルキルカルボニル基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。ただし、環A1と環A2とは縮環していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(2)で表される化合物と前記ルイス酸とを予め反応させた後に、次いで前記一般式(3)で表される配位子化合物と反応させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(3)で表される配位子化合物が、下記一般式(4)〜(7)のいずれかで表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【化2】

(前記一般式(4)〜(7)中、X1〜X8は、それぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表す。R31〜R38はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R31〜R38のうち隣り合う二つが一緒になって環を形成していてもよい。Yは水素原子もしくは置換基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(3)で表される配位子化合物が、下記一般式(8)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【化3】

(式中、A1は含窒素芳香環を表す。R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。L1は環A1と環A2との連結基を表す。)
【請求項5】
前記一般式(8)で表される配位子化合物が、下記一般式(9)で表される化合物である、請求項4に記載の方法。
【化4】

(式中、R4は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。R5及びR6は各々独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基は炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数4〜10のヘテロアリール基を表し、R5及びR6は結合して環を形成してよく、形成する環としては炭素数5〜10の脂環、炭素数6〜10のアリール環、又は炭素数3〜10のヘテロアリール環である。Xは酸素原子、イオウ原子、−NR−、又は−CRR’−を表し、R及びR’は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表す。Yは水素原子もしくは置換基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(2)におけるR3が、2位または3位にアミノ基を有する炭素数2〜6のアルキル基またはアルキルカルボニル基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ルイス酸が、塩化チタン、三フッ化ホウ素および塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−59102(P2010−59102A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227004(P2008−227004)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】