説明

N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物及びその製造方法

【課題】 新規な1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン骨格を有する抗菌剤、抗カビ剤等として有用なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物を提供する。
【解決課題】 1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物とホルムアルデヒド化合物とを、酸存在下で反応させることによって得られるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物及びその製造方法に関する。N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は抗菌、抗カビ剤等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌、抗カビ剤等として、下式;
【化1】

(Rは、アルキル基、ハロゲンで置換されたベンジル基、又はアルキル基等で置換されたフェニル基である。)で表されるN−置換−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物が、細菌及び真菌類の増殖の抑制に有効であり、人間及び獣医用薬剤、例えば水虫及び頭皮の白癬の局部処理用処方剤、又は一般の消毒剤もしくは尿路消毒剤として有用であることが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、特定の1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンをジプロピレングリコール等の水混和性溶媒と水との混合物中にアルカリ金属塩として配合させた水性組成物が、抗菌、抗カビ剤として有用であることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3012039号明細書
【特許文献2】米国特許第4188376号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のN−置換−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物は、出発原料として、比較的高価な2,2’−ジチオサリチル酸を用い、しかも反応工程数が多いため、工業的に有利に取得できるとは言い難い。
【0006】
また、特許文献2には、特定の1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを水性組成物として水性媒体に利用可能であることが提案されている。しかしながら、前記溶液がアルカリ性であることから、例えば、アルカリ条件下に不安定な他の成分と組み合わせて用いた場合やアルカリ条件下での使用が適さない対象に対して用いた場合等、その使用方法や用途によっては、充分な抗菌、抗カビ効果を得ることができない等の不具合があり、新たな抗菌、抗カビ剤が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、抗菌、抗カビ剤等として有用である新規なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物及びその製造方法を提供することにある。また本発明は、該化合物を含む抗菌、抗カビ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物が抗菌、抗カビ剤等として有用であることを見いだした。
【0009】
本発明は、下記式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物、該化合物の製造方法、及び該化合物を含有する抗菌、抗カビ剤組成物に関する。
即ち、本発明は、
[項1] 式(1);
【化2】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物、
[項2]
及びRが水素原子である項1に記載のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物、
[項3]
式(2);
【化3】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物とホルムアルデヒド化合物とを、酸存在下で反応させることによって得られる、式(1);
【化4】

で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物の製造方法、ならびに
[項4]
前記式(1)で表される項1または2に記載のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)を含有する抗菌、抗カビ剤組成物
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抗菌、抗カビ剤等として有用である新規なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物を提供することができる。また、本発明によれば、新規なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物を、工業的に有利な製造方法で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明にかかる新規なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は下記式(1);
【化5】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表される化合物である。
【0013】
前記炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基等を挙げることができる。前記炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、及びtert−ブトキシ基等を挙げることができる。前記カルボキシル基のエステルとしては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、及びブトキシカルボニル基等を挙げることができる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0014】
式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物としては、具体的には例えば、N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)等が挙げられる。
【0015】
式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、例えば、以下の方法により製造することができる。即ち、
式(2);
【化6】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物とホルムアルデヒド化合物を、酸存在下で反応させることによって製造することができる。式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物とホルムアルデヒド化合物を、酸存在下で反応させる式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物の製造方法もまた、本発明の1つの実施形態である。
【0016】
前記式(2)中、R及びRは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を表す。
【0017】
前記炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基等を挙げることができる。前記炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、及びtert−ブトキシ基等を挙げることができる。前記カルボキシル基のエステルとしては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、及びブトキシカルボニル基等を挙げることができる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0018】
前記R及びRの好ましい例としては、水素原子、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、塩素原子、及びニトロ基を挙げることができる。
【0019】
前記式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物の具体例としては、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、7−メチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−tert−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、6−メトキシ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、7−ニトロ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、6−クロロ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、6−カルボキシ−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、及び6−メトキシカルボニル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0020】
前記式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物は、いかなる方法によって製造されたものを用いてもよいが、例えば、特開平08−134051公報に記載されている製造方法によると、容易にかつ工業的に有利に製造できる。具体的には、式(3);
【化7】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表される2−ハロベンゾニトリル化合物と式(4);
【化8】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表されるアルカンチオール化合物とを、塩基の存在下で不均一系で反応することにより、下記式(5);
【化9】

(式中、R及びRは式(3)におけるR及びRとそれぞれ同じ基を示し、Rは式(4)におけるRと同じ基を示す。)で表される2−(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物を得る。前記2−(アルキルチオ)ベンゾニトリル化合物と塩素等のハロゲン化剤とを水の存在下に反応させることにより式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物を製造することができる。
【0021】
前記式(4)及び前記式(5)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、及びtert−ブチル基等を挙げることができる。前記Rの好ましい例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びtert−ブチル基を挙げることができる。
【0022】
本発明にかかる式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、例えば、式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物と、ホルムアルデヒド化合物とを酸存在下で反応させることによって製造することができる。
【0023】
前記製造方法において式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物と反応させるホルムアルデヒド化合物としては、例えば、パラホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドを加熱処理して得られる無水ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドを酸処理して得られるトリオキサン、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリン、及びホルムアルデヒドのアセタール化合物であるメチラール等が挙げられる。これらの中でも、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンが好適に用いられる。これらホルムアルデヒド化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ホルムアルデヒド化合物の使用量は、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物1モルに対して、0.1〜10モルであることが好ましく、0.2〜2モルであることがより好ましい。ホルムアルデヒド化合物の使用量が0.1モル未満である場合、反応が完結しないおそれがあり、10モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0025】
前記製造方法において用いられる酸としては、塩酸、硫酸、及び硝酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、及びメタンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。これらの中でも、鉱酸が好ましく、中でも塩酸、硫酸、及び酢酸が好適に用いられる。これらの酸は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
前記酸の使用量は、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物1モルに対して、0.01〜10モルであることが好ましく、0.1〜5モルであることがより好ましい。酸の使用量が0.01モル未満である場合、反応が完結しないおそれがあり、10モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0027】
前記製造方法において、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、必要に応じて溶媒を用いることができる。溶媒を用いることによって、反応をより円滑に進行させることができる場合が多い。用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素類;ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等、及び水が挙げられる。中でも、トルエン、モノクロロベンゼンが好適に用いられる。前記溶媒の使用量は、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物100質量部に対して、通常、20〜3000質量部である。溶媒の使用量が20質量部未満の場合は、溶媒を用いることによる効果が十分に発揮されないおそれがある。また、溶媒の使用量が3000質量部を超える場合は、容積効率が悪化するおそれがある。
【0028】
式(2)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物と、ホルムアルデヒド化合物とを酸存在下で反応させる反応温度は、通常、−20〜170℃、好ましくは0〜150℃である。反応温度が−20℃未満の場合は、反応速度が遅く、反応に長時間を要するため好ましくない。また、反応温度が170℃を超える場合は、副反応が起こりやすくなるため好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、1〜40時間である。
【0029】
かくして得られる式(1)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、反応液をそのまま晶析させることにより単離することができる。
【0030】
本発明にかかるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、抗菌、抗カビ剤組成物として好適に使用することができる。該化合物は、1種単独でそのままで使用することができるが、他の成分と配合して、該化合物を含有する抗菌、抗カビ剤組成物として使用することもできる。すなわち、該化合物は、溶媒又は固体担体と配合して抗菌、抗カビ剤組成物として使用することもできる。好適な溶媒としては例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリコールエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、フェネチルアルコール、フェノキシプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、クエン酸トリアセチル、グリセロールトリアセテート、プロピレンカーボネート、及びジメチルカーボネート等が挙げられる。これら溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明にかかる新規なN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、その使用方法及び用途を限定するものではないが、例えば有機溶媒に溶解させた後に、その有機溶液を水性溶媒で希釈することにより、当該化合物を含有する抗菌、抗カビ剤組成物として用いることができる。また、前記抗菌、抗カビ剤組成物は、他の成分、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等の抗菌、抗カビ剤を少なくとも1種さらに含んでいてもよい。前記抗菌、抗カビ剤組成物は、酸性、中性又はアルカリ性であってよい。
【0031】
好適な固体担体としては例えば、シクロデキストリン、シリカ、珪藻土、蝋、セルロース系材料、アルカリ及びアルカリ土類(例えば、ナトリウム、マグネシウム、カリウム)金属塩(例えば、塩化物、硝酸塩、臭化物、硫酸塩)、ならびにチャコール等が挙げられる。また、組成物の安定剤として、増粘剤、不凍剤、分散剤、界面活性剤、防蝕剤、又はアルカリ金属水酸化物等を少なくとも1種含有することができる。
【0032】
N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物を含有する抗菌、抗カビ剤組成物は、例えば、工業プロセス水、冷却塔、排水処理、バラスト水、熱交換器、パルプ及び紙加工用の流体ならびに添加剤、プラスチック、塗料、ラテックス、コーティング剤、コーキング剤、接着剤、写真薬剤、印刷用流体、家庭用品、工業用洗浄剤、金属加工用流体、皮革及び皮革製品、織物製品、木材及び木製品、石油精製用流体、農業用補助剤の保存、界面活性剤の保存、医療用具等の、抗菌、抗カビ剤として使用することができる。
【0033】
本発明によって得られるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、抗菌活性及び抗真菌活性を示す。例えばストレプトコッカス・ピオゲネスK(Streptococcus pyogenes K)を含むレンサ球菌(Streptococcus)等のグラム陽性菌、及び例えばサルモネラ・ダブリン(Salmonella dublin)を含むサルモネラ菌(Salmonella)等のグラム陰性菌に対して高い抗菌活性を示す。また、ヒトや家畜にとって関連の深い例えばカンジダ・アルビカンス(Candida alvicans)を含むカンジダ(Candida)及びトリコピトン・メンタグロフィト(Trichophyton mentagrophytes)を含む白癬菌(Trichophyton)に対して高い抗真菌活性を示す。加えて、本願のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、広域のpH領域で活性を示し、その活性は、体液、例えば胆汁、血清等によってほとんど影響を受けない。本願のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、植物病原菌にも効果的である。例えば、エリシフェ・グラミニス・バリアント・アベネ(Erysiphe graminis var. avenae)によるオート麦の病気、ペロノスポラ・タバシナ(Peronospora tabacina)によるタバコの実生における病気、及びパッシニア・トリチシナ(Puccinia triticina)による小麦の実生における病気が挙げられ、それらは、本願のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物によって効果的に予防できる。
【0034】
これらのN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物は、皮膚、毛髪、爪などのケラチンを有する表在性角化組織に限局して感染する皮膚糸状菌に起因する白癬、例えば頭部白癬、足白癬、爪白癬等の局部治療、また一般の消毒剤又は尿路消毒剤として、直接的又は間接的に用いることができる。
【0035】
以下に製造例、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等のみに限定されるものではない。
【0036】
製造例 (1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンの製造例)
攪拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた内容積500mlのフラスコに、窒素雰囲気下で、2−クロロベンゾニトリル27.5g(0.2モル)、モノクロロベンゼン30.0g、50質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液1.0gを仕込み、攪拌しながら30質量%メタンチオールのナトリウム塩水溶液51.4g(0.22モル)を、60〜65℃で5時間を要して滴下し、滴下終了後、さらに同温度で12時間反応させた。
【0037】
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、分液して有機層を得、得られた有機層に水4.3g(0.24モル)を仕込み、攪拌しながら45〜50℃で塩素15.6g(0.22モル)を、2時間を要して吹き込み、さらに65〜70℃に加熱して1時間反応させた。
反応終了後、同温度で20質量%水酸化ナトリウム水溶液41.0gを添加し、室温まで冷却した。析出した結晶を濾別し、モノクロロベンゼンで洗浄、乾燥して1,2−ベンズイソチアゾリン-3−オン29.0g(0.192モル)を得た。得られた1,2−ベンズイソチアゾリン-3−オンの収率は、2−クロロベンゾニトリルに対して96%であった。得られた1,2−ベンズイソチアゾリン-3−オンの純度は、高速液体クロマトグラフィーで測定した結果、97.1%であった。
【0038】
実施例1
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた内容積500mlのフラスコに、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン15.1g(0.1モル)、純度92質量%パラホルムアルデヒド1.6g(0.05モル)、35質量%塩酸水溶液50.0g(0.48モル)、モノクロロベンゼン10.0gを仕込み、攪拌しながら55〜60℃で10時間反応させた。
反応終了後、室温まで冷却し、10質量%水酸化ナトリウム水溶液200.0gを添加した。析出した結晶を濾別し、メタノール及び水で洗浄、乾燥して白色結晶のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)13.8g(0.044モル)を得た。得られたN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)の収率は、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンに対して88%であった。なお、得られたN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)は、下記の物性を有することから同定することができた。
【0039】
H−NMR(400MHz、(DC)S=O)δ(ppm):5.88(s,2H)、7.46(dd,J=8Hz,2H)、7.70(dd,J=8Hz,2H)、7.93(d,J=8Hz,2H)、7.96(d,J=8Hz,2H)。
【0040】
実施例2
攪拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた内容積500mlのフラスコに、窒素雰囲気下で、2−クロロベンゾニトリル27.5g(0.2モル)、モノクロロベンゼン30.0g、及び50重量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液1.0gを仕込み、攪拌しながら30重量%メタンチオールのナトリウム塩水溶液51.4g(0.22モル)を、60〜65℃で5時間を要して滴下し、滴下終了後、さらに同温度で12時間反応させ、2−(メチルチオ)ベンゾニトリルを得た。
反応終了後、反応液を室温まで冷却し、分液して有機層を得て、得られた有機層に水4.3g(0.24モル)を仕込み、攪拌しながら45〜50℃で塩素15.6g(0.22モル)を2時間要して吹き込み、さらに65〜70℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた反応液に含有する1,2−ベンズイソチアゾリン-3−オンは高速液体クロマトグラフィーで分析の結果29.0g(0.19モル)であった。
引き続き、同温度で純度92質量%パラホルムアルデヒド3.2g(0.1モル)を添加し、更に10時間反応させた。
反応終了後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液80.0gを添加した。析出した結晶を濾別し、メタノール及び水で洗浄、乾燥して白色結晶のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)25.8g(0.082モル)を得た。得られたN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)の収率は、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンに対しては82%であった。
【0041】
実施例3
N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)1部、メチレン−ジナフタレン−β−スルホン酸二ナトリウムとナフタレン−β−スルホン酸ナトリウムとの混合物よりなる分散剤1部、及び水80部よりなる混合物をボールミル内で粉砕することで、分散体を調製した。エチレンオキシドとアルキルフェノールとの縮合物よりなる非イオン表面活性剤0.15部を含有する水1000部に、上記の分散体9部を加えた。この組成物を、オート麦の実生に散布した後にエリシフェ・グラミニス・バリアント・アベネの胞子を接種した。その後、胞子の発芽及び感染に適した環境下で前記オート麦の実生を維持したところ、当該真菌によるオート麦の病気は完全に予防された。
【0042】
実施例4
実施例3と同様にして、N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)を用いて分散体を調製し、エチレンオキシドとアルキルフェノールとの縮合物よりなる非イオン表面活性剤0.15部を含有する水1000部に、上記分散体45部を加えた。この組成物を、タバコの実生に散布した後にペロノスポラ・タバシナの胞子を接種した。その後、胞子の発芽及び感染に適した環境下で前記タバコの実生を維持したところ、当該真菌によるタバコの実生における病気の予防率は95%であった。
【0043】
実施例5
実施例3と同様にして、N,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)を用いて分散体を調製し、エチレンオキシドとアルキルフェノールとの縮合物よりなる非イオン表面活性剤0.15部を含有する水1000部に、上記分散体9部を加えた。この組成物を、小麦の実生に散布した後にパッシニア・トリチシナの胞子を接種した。その後、胞子の発芽及び感染に適した環境下で前記小麦の実生を維持したところ、当該真菌による小麦の実生における病気は完全に予防された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物。
【請求項2】
及びRが水素原子である請求項1に記載のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物。
【請求項3】
式(2);
【化2】

(式中R及びRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基もしくはそのエステル、又はハロゲン原子を示す。)で表される1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン化合物とホルムアルデヒド化合物とを、酸存在下で反応させることによって得られる、式(1);
【化3】

で表されるN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)化合物の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)で表される請求項1又は2に記載のN,N’−メチレンビス(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)を含有する抗菌、抗カビ剤組成物。

【公開番号】特開2012−214405(P2012−214405A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80562(P2011−80562)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】