説明

N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン誘導体およびその中間体

【課題】酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を、効率よく有機相に抽出・分離することができる新しい化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン誘導体〔式(I)中、R11〜R14は、同一又は異なって、含フッ素アルキル基を示す。〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を抽出するのに有用なN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン(以下「TPEN」)誘導体、およびその中間体に関するものである。さらに本発明は、前記TPEN誘導体を使用する抽出剤および抽出法も提供する。
【背景技術】
【0002】
マイナーアクチノイド元素とは、原子力発電所の使用済燃料を再処理する際に発生する高レベル廃液に含まれるアクチノイド元素のうちウランとプルトニウムを除いたもの(例えばAm等)であり、このマイナーアクチノイド元素の処理が問題になっている。詳しくは、マイナーアクチノイド元素は半減期が長くα崩壊をするため、地層処分するには、地下数百メートルの安定な深地層に充分な広さを持つ処分場を確保する必要がある。そこで、マイナーアクチノイド元素に高速中性子を照射して短半減期核種に変換する処理が検討されている。しかしマイナーアクチノイド元素の中性子処理に際してランタノイド元素が共存すると、マイナーアクチノイド元素よりもランタノイド元素が優先的に高速中性子を吸収してしまうため、マイナーアクチノイド元素を充分に変換・処理することができない。
【0003】
そこでマイナーアクチノイド元素およびランタノイド元素の混合物から、マイナーアクチノイド元素のみを抽出・分離することが求められている。そのための抽出剤として、TPEN誘導体が検討されている。詳しくは、水相中のマイナーアクチノイド元素を、TPEN誘導体が溶解している有機相に抽出・分離する液液抽出が検討されている。
【0004】
このようなTPEN誘導体として、例えば非特許文献1では、下記式で示されるN,N,N’,N’−テトラキス[4−(2−ブトキシ)2−ピリジルメチル]エチレンジアミン誘導体(以下「TBPEN誘導体」と略称する)などが開示されている。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ogata, T., Takeshita, K., Fugate, G. A., and Mori, A.,; “Extraction of Soft Metals from Acidic Media with Nitrogen-donor Ligand TPEN and its Analogs”, Sep. Sci. Technol., 43, (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のTPEN誘導体は、そのピリジン環が比較的容易にプロトン化されて水溶性が増大するため、酸性水溶液中のマイナーアクチノイド元素を有機相に抽出・分離する能力が低下するという問題がある。
【0008】
そこで上記非特許文献1などでは、ピリジン環に更にブトキシ基を導入してTPEN誘導体の疎水性を向上させ、酸性水溶液中のマイナーアクチノイド元素の抽出効率を向上させることが検討されている。
【0009】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を、より一層効率よく有機相に抽出・分離することができる新しい化合物、および該化合物を含有する抽出剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得た本発明の化合物とは、下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン誘導体である。
【0011】
【化2】

【0012】
式(I)中、R11〜R14は、同一又は異なって、含フッ素アルキル基を示す。
なお以下では、「式(I)で表される化合物(誘導体)」等を「化合物(I)」と略称することがある。
【0013】
前記R11〜R14は、同一又は異なって、直鎖状の含フッ素アルキル基であることが好ましい。前記R11〜R14は、同一又は異なって、X(CF2a(CH2b−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、aは1以上10以下の整数であり、bは1又は2である。)であることがより好ましい。
【0014】
さらに本発明は、(1)上記TPEN誘導体を含有することを特徴とする抽出剤、及び(2)この抽出剤を使用して、水相中の金属元素を有機相に抽出することを特徴とする抽出方法も提供する。前記金属元素はマイナーアクチノイド元素であることが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、上記TPEN誘導体を製造するのに有用な新規中間体、即ち下記式(II)で表される新規なピリジンオキシド誘導体および下記式(III)で表されるピリジン誘導体も提供する。なお本発明のTPEN誘導体(即ち化合物(I))は、化合物(II)→化合物(III)→化合物(I)という反応経路で製造できる。
【0016】
【化3】

【0017】
式(II)中、R21は、X(CF2c(CH2d−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、cは3以上10以下の整数であり、dは1又は2である。)を示す。
【0018】
【化4】

【0019】
式(III)中、R31は、X(CF2e(CH2−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、eは3以上10以下の整数であり、fは1又は2である。)を示す。
Zは、アセチルオキシ基(CH3COO−)、ヒドロキシ基(−OH)又はハロゲン原子を示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明のTPEN誘導体は、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を有機相により一層効率よく抽出・分離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のTPEN誘導体は、上記式(I)に示すように、ピリジン環上に含フッ素アルコキシ基を有することを特徴とする。
【0022】
フッ素原子は疎水性向上効果が高いので、含フッ素アルコキシ基を有する本発明のTPEN誘導体は、フッ素を含有しない従来のTPEN誘導体(例えば上記TBPEN)に比べて疎水性が高められている。その結果、酸性水溶液によってピリジン環がプロトン化されても、本発明のTPEN誘導体は、含フッ素アルコキシ基によって充分な疎水性を維持することができ、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を効率よく抽出・分離することができる。
【0023】
上記式(I)中のR11〜R14は、同一でも異なっていても良いが、これらは同一であることが好ましい。含フッ素アルコキシ基(即ち「R11O−」〜「R14O−」)のピリジン環上の結合位置は、好ましくは4位又は6位、より好ましくは4位である。
【0024】
前記R11〜R14の含フッ素アルキル基は、好ましくは直鎖状であり、より好ましくはX(CF2a(CH2b−基である。前記式中、Xはフッ素原子または水素原子である。aは、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。bは1又は2である。
【0025】
本発明のTPEN誘導体は、下記実験例に示すような合成法で製造できる。下記実験例では、出発原料として2−メチル−4−ニトロピリジン−1−オキシド(化合物1)を用いて、含フッ素アルコキシ基がピリジン環上の4位に結合しているTPEN誘導体を合成している。この出発原料を変更すれば、含フッ素アルコキシ基の結合位置を変更できる。例えば2−メチル−6−ニトロピリジン−1−オキシドを出発原料として使用すれば、含フッ素アルコキシ基を6位に導入することができる。なお出発原料となるピリジンオキシド誘導体は、それに対応するピリジン誘導体(例えば2−メチル−4−ニトロピリジンまたは2−メチル−6−ニトロピリジン)をメタクロロ過安息香酸で酸化すれば合成できる。
【0026】
含フッ素アルコキシ基を導入するために用いる含フッ素アルコールは、ダイキン工業株式会社、東京化成工業株式会社などから入手できる。例えばダイキン工業株式会社は、下記式で示される含フッ素アルコールを販売している。
【0027】
【化5】

【0028】
本発明のTPEN誘導体は、上記式(II)で示されるピリジンオキシド誘導体および上記式(III)で示されるピリジン誘導体の中間体を経由して合成できる。そこで本発明は、上記TPEN誘導体を製造するために有用な中間体として、これらピリジンオキシド誘導体およびピリジン誘導体も提供する。
【0029】
式(II)及び式(III)中、R21およびR31は、それぞれ、X(CF2c(CH2d−基およびX(CF2e(CH2−基を表す。前記式中、c及びeは、それぞれ3以上、好ましくは4以上であり、10以下、好ましくは8以下の整数である。d及びfは、それぞれ1又は2である。含フッ素アルコキシ基(即ち「R21O−」及び「R31O−」)のピリジン環上の結合位置は、好ましくは4位または6位であり、より好ましくは4位である。
【0030】
式(III)中、Zは、アセチルオキシ基(CH3COO−)、ヒドロキシ基(−OH)又はハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、塩素または臭素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0031】
本発明のTPEN誘導体は、カドミウムやマイナーアクチノイド元素などの金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)の抽出剤として有用である。本発明のTPEN誘導体を含有する抽出剤を用いた抽出方法は、酸性水溶液中の金属元素を有機相に効率よく抽出・分離することができる。この液液抽出に用いる有機相は、本発明のTPEN誘導体を溶解できるものであれば、特に限定は無い。有機相としては、例えばクロロホルムおよびニトロベンゼンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実験例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
実験例1
下記合成経路で化合物3(ピリジンオキシド誘導体)を合成した。
【0034】
【化6】

【0035】
化合物1(1.54g、10.0mmol)および旭硝子株式会社から入手した化合物2(1.62ml、18mmol)をジメチルホルムアミド(DMF、1.0ml/mmol)に溶解させ、室温で攪拌した。この時点で溶解しなかったため、ドライヤーを用い温めながら攪拌し、完全に原料を溶解させた。続いて炭酸カリウム(K2CO3、4.146g、30mmol)を加え、70℃で攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、クロロホルム(CHCl3)を用いて、セライト濾過を行った後、加熱しながら、DMFを真空ポンプで留去した。続いて、塩化メチレン(CH2Cl2)を用いて分液漏斗に移し、水を5ml加え、CH2Cl2で5回抽出した。有機相を5ml飽和食塩水で洗浄した。続いて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、濃縮を行い化合物3(2.71g、11.3mmol、113%)を得た。得られた化合物3の粗収率は100%を越えたが、これ以上の精製は行わず、次の反応に用いた。
【0036】
化合物3の物性データ(実験例1とは別に合成・精製した化合物3を使用)
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.54(s、3H)、4.41(t、2H)、5.88−6.11(m、1H)、6.80−6.82(dd、1H、J=7.2Hz、J=3.5Hz)、6.89(d、1H、J=3.4Hz)、8.25(d、1H、J=7.25Hz)
EI+MS m/z 239
【0037】
実験例2
下記合成経路で化合物4(ピリジン誘導体)を合成した。
【0038】
【化7】

【0039】
化合物3(2.71g、11.3mmol)を無水酢酸(Ac2O、5.4ml)に溶解させ、硫酸溶液を1滴滴下した。反応液を100℃で3時間攪拌後、反応の完結をTLCで確認し、Ac2Oを真空留去した。残渣をクロロホルムに溶解させ、分液漏斗に移し、5mlの飽和重曹水を加え、CHCl3で抽出操作を4回行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過し、濃縮した。真空乾燥を行い、化合物4(淡黄色油状物、2.67g、9.05mmol、90.5%)を得た。得られた化合物4は、これ以上の精製は行わず、次の反応に用いた。
【0040】
実験例3
下記合成経路で化合物5(ピリジン誘導体)を合成した。
【0041】
【化8】

【0042】
水(3.0ml)、メタノール(11ml)溶液に水酸化ナトリウム(NaOH、800mg、20mmol)を溶かした。この溶液を化合物4(2.67g、9.0mmol)に加え、室温で、30分攪拌した。反応の終了をTLCで確認し、エバポレータで溶媒を留去した。残渣をCH2Cl2で溶解させ、分液漏斗に移し、5ml飽和食塩水を加え、抽出操作を4回行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、濃縮した後、シリカカラムクロマトグラフィー(溶媒酢酸エチル)を用いて精製し、化合物5(茶色結晶、1.7431g、7.28mmol)を得た。化合物1から化合物5までの三工程での収率は72.9%であった。
【0043】
化合物5の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 3.75(s、1H)、4.43(t、2H)、4.75(s、2H)、5.92−6.13(m、1H)、6.80−6.81(dd、1H、J=6.7Hz、J=3.3Hz)、6.90(d、1H、J=2.3Hz)、8.42(d、1H、J=5.8Hz)
EI+MS m/z 239
【0044】
実験例4
下記合成経路で化合物6(ピリジン誘導体)を合成した。
【0045】
【化9】


化合物5(750mg、3.14mmol)をCH2Cl2(6.0ml)に溶解させ、0℃に冷却した溶液中に、CH2Cl2(3.42ml)に溶解させた塩化チオニル(SOCl2、0.321ml、4.40mmol)を滴下し、1時間攪拌した。反応の完結をTLCで確認した後、2−プロパノール(0.120ml、1.57mmol)を加えた。続いて、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mlで中和し、CH2Cl2で5回抽出した。有機相を5ml飽和食塩水で洗浄した。続いて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、濃縮を行い化合物6(717mg、2.78mmol、88%)を得た。
【0046】
化合物6の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.078(t、2H)、2.03(s、2H)、5.88−6.11(m、1H)、6.72−6.73(dd、1H、J=5.7Hz、J=2.4Hz)、6.98(d、1H、J=2.2Hz)、8.36(d、1H、J=5.7Hz)
EI+MS m/z 257
【0047】
実験例5
下記合成経路で化合物8(TPEN誘導体)を合成した。
【0048】
【化10】

【0049】
化合物6(257.6mg、1.0mmol)をテトラヒドロフラン(THF、1.0ml)に溶解させ、化合物7(エチレンジアミン、16.79μL、0.25mmol)を滴下した。続いて、K2CO3(138.21mg、1.0mmol)、ヘキサデシルアンモニウムクロリド(C1633(CH33NCl、32mg、0.1mmol)、ヨウ化ナトリウム(NaI、149.89mg、1.0mmol)を加え、室温で13日攪拌した。反応の完結をTLCで確認した後、CHCl3溶液を用いて、セライト濾過を行い、アルミナカラムクロマトグラフィーにより、(酢酸エチル:ヘキサン=1:1〜酢酸エチル)で精製し、化合物8(119mg、0.125mmol、50.3%)を得た。
【0050】
化合物8の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 3.01(s、1H)、3.95(s、2H)、4.48−4.53(t、1H)、6.05−6.26(m、1H)、6.67−6.69(dd、1H、J=5.6Hz、J=2.6Hz)、6.98(d、1H、J=2.3Hz)、8.36(d、1H、J=5.7Hz)
FABMS m/z 945
【0051】
実験例6
下記合成経路で化合物10(ピリジンオキシド誘導体)を合成した。
【0052】
【化11】

【0053】
化合物1(770.6mg、5.0mmol)、東京化成工業株式会社から購入した化合物9(13.92g、30.0mmol)をDMF(5.0ml、1ml/mmol)に溶解させ、室温で攪拌した。この時点で溶解しなかったため、ヘキサデシルアンモニウムクロリド(C1633(CH33NCl)を化合物1に対して30mol/%加え、ドライヤーを用い温めながら攪拌し、完全に原料を溶解させた。続いてK2CO3(2.07g、15mmol)を加え、90℃で攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、CHCl3を用いて、セライト濾過を行った後、溶媒を留去した。その後、エバポレータで溶媒を留去した。続いて、真空留去した。その後、シリカカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=2:1)により精製し、化合物10(1.35g、2.37mmol、47%)を得た。
【0054】
化合物10の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.43(s、3H)、2.53−2.60(m、2H)、4.22(t、2H)、6.65−6.67(dd、1H、J=7.2Hz、J=3.35Hz)、6.74(d、1H、J=3.35Hz)、8.10(d、1H、J=7.25Hz)
【0055】
実験例7
下記合成経路で化合物11(ピリジン誘導体)を合成した。
【0056】
【化12】

【0057】
化合物10(44.4mg、0078mmol)をAc2O(0.12ml)に溶解させ、100℃で1時間攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、Ac2Oを真空留去し、飽和炭酸水素ナトリウムを10ml加え、CH2Cl2で5回抽出した。その後、有機相に飽和食塩水を5ml加え洗浄した。続いて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、濃縮を行い化合物11(44.6mg、0.070mmol、91.1%)を得た。
【0058】
実験例8
下記合成経路で化合物12(ピリジン誘導体)を合成した。
【0059】
【化13】

【0060】
化合物11(44.6mg、0071mmol)をメタノール(106μL)に溶解させ、2MのNaOH水溶液(39μL)を滴下し、室温で30分攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、CH2Cl2で5回抽出した。続いて無水硫酸ナトリウムを入れて乾燥した後、濾過、濃縮し、化合物12(37mg、0.0648mmol、91.3%)を得た。
【0061】
化合物12の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.47−2.70(m、2H)、3.23(s、1H)、4.34(t、2H)、4.7(s、2H)、6.75−6.77(dd、1H、J=5.75Hz、J=3.4Hz)、6.82(d、1H、)、8.43(d、1H、J=5.75Hz)
FABMS m/z 572
【0062】
実験例9
下記合成経路で化合物13(ピリジン誘導体)を合成した。
【0063】
【化14】

【0064】
化合物12(571.2mg、1.0mmol)をDMF(6ml)、CHCl3(3ml)に溶解させ、室温下で、CHCl3溶液に溶解させたSOCl2(102μL、1.4mmol)を滴下し、80℃で1.5時間攪拌した。化合物12が残っていたため、SOCl2(204μL、2.8mmol)を追加し、2時間攪拌した。この時点においても化合物12が残っていることが確認できたため、さらにSOCl2(208μL、2.8mmol)を追加し、30分攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、2−プロパノール(467μL、6.1mmol)を加え、10分攪拌した。反応液に5ml飽和重曹水を加え中和し、分液漏斗へ移し、CHCl3で5回抽出した、有機相を5ml飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、濾過、濃縮した。得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒酢酸エチル)で精製した。続いて、濃縮、真空乾燥を行い、化合物13(淡黄色結晶、491.1mg、0.83mmol、収率83.0%)を得た。
【0065】
化合物13の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.66−2.73(m、2H)、4.41(t、2H)、4.77(s、2H)、6.88−6.90(dd、1H、J=5.95Hz、J=2.45Hz)、7.13(d、1H、J=2.4Hz)、8.44(d、1H、J=5.95Hz)
FABMS m/z 590
【0066】
実験例10
下記合成経路で化合物14(TPEN誘導体)を合成した。
【0067】
【化15】

【0068】
化合物13(300mg、0.508mmol)をTHF(1.0ml/mmol)、ベンゾトリフルオリド(1.0ml/mmol)に溶解させ、そこへ化合物7(8.5μL、0.127mmol)、C1633(CH33NCl(16mg、0.05mmol)、K2CO3(70.2mg、0.508mmol)を加え、攪拌し、そこへNaI(76.1mg、0.508mmol)を加えた。80℃で12時間攪拌後、セライトを用いて反応液を吸引濾過し(洗液として、CHCl3を使用)、得られたろ液をナス型フラスコに移し、エバポレータを用いて溶媒を留去した。得られた茶色結晶をアルミナカラム(溶媒CHCl3:メタノール=30:1)で精製して、化合物14(179.7mg、0.0795mmol、62.6%)を得た。
【0069】
化合物14の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.55−2.62(m、8H)、3.04(s、1H)、3.92(s、8H)、4.24(t、8H)、6.65−6.67(dd、4H、J=5.75Hz、J=2.45Hz)、7.11(s、4H、)、8.28(d、4H、J=5.75Hz)
【0070】
実験例11
下記合成経路で化合物16(ピリジンオキシド誘導体)を合成した。
【0071】
【化16】

【0072】
化合物1(38.5mg、0.25mmol)、東京化成工業株式会社から購入した化合物15(159.6mg、0.3mmol)をDMF(0.25ml、1ml/mmol)に溶解させ、室温で攪拌した。ドライヤーを用い温めながら攪拌し、完全に原料を溶解させた。続いてK2CO3(103.6mg、0.75mmol)を加え、70℃で攪拌した。17時間後、反応の完結をTLCで確認し、CHCl3を用いて、セライト濾過を行った後、溶媒を留去した。その後、エバポレータで溶媒を留去した。続いて、真空留去した。その後、シリカカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=2:1)により精製し、化合物16(105.8mg、0.165mmol、66.2%)を得た。
【0073】
化合物16の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 2.57(s、3H)、4.53−4.54(m、2H)、5.94−6.17(m、1H)、6.87−6.95(m、2H)、8.35(m、1H)
FABMS m/z 639
【0074】
実験例12
下記合成経路で化合物17(ピリジン誘導体)を合成した。
【0075】
【化17】

【0076】
化合物16(127.8mg、0.2mmol)をAc2O(0.3ml)に溶解させ、100℃で1時間攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、Ac2Oを真空留去し、飽和炭酸水素ナトリウムを10ml加え、CH2Cl2で5回抽出した。その後、有機相に飽和食塩水を5ml加え洗浄した。続いて、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、濃縮を行い化合物17(131.3mg、0.193mmol、96.5%)を得た。
【0077】
実験例13
下記合成経路で化合物18(ピリジン誘導体)を合成した。
【0078】
【化18】

【0079】
化合物17(131.3mg、0193mmol)をメタノール(289.5μL)に溶解させ、2MのNaOH水溶液(106μL)を滴下した。ここで固体が析出したため、メタノールを868.5μLを加え、析出した固体を完全に溶かし、室温で1時間30分攪拌した。反応の完結をTLCで確認し、CH2Cl2で6回抽出した。続いて無水硫酸ナトリウムを入れて乾燥した後、濾過、濃縮し、化合物18(79.8mg、0.124mmol、64%)を得た。
【0080】
化合物18の物性データ
1H−NMR(500MHz、CDCl3)δ 4.52(t、2H)、4.73(s、2H)、5.94−6.16(m、1H)、6.65−6.67(dd、1H、J=5.65Hz、J=2.55Hz)、6.86(d、1H、J=2.3Hz)、8.42(d、1H、J=5.7Hz)
【0081】
実験例14
1mMの硝酸カドミウムを含有する水溶液(硝酸でpHを1.1調整)から、1mMの化合物8(TPEN誘導体)を含有するクロロホルム溶液を用いてカドミウムを液液抽出し、下記式(a)及び式(b)に基づきその抽出率を求めた。
抽出率E(%)=100×D/(D+Vw/Vo) ・・・ (a)
分配比D=Co/Cw ・・・ (b)
〔上記式(a)及び式(b)中、
wは水相のカドミウム濃度(単位:mM)を表す。
oは有機相のカドミウム濃度(単位:mM)を表す。
wは水相の体積(単位:L)を表す。
oは有機相の体積(単位:L)を表す。〕
【0082】
本発明のTPEN誘導体を抽出剤として用いれば、1.1という低いpHの酸性水溶液からでも、53%という高い抽出率でカドミウムを抽出することができた。一方、上述した従来のTBPEN誘導体では、同条件の抽出率は47%であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のTPEN誘導体は、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を有機相に効率よく抽出・分離することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン(以下「TPEN」)誘導体。
【化1】


〔式(I)中、R11〜R14は、同一又は異なって、含フッ素アルキル基を示す。〕
【請求項2】
前記R11〜R14は、同一又は異なって、直鎖状の含フッ素アルキル基である請求項1に記載のTPEN誘導体。
【請求項3】
前記R11〜R14は、同一又は異なって、X(CF2a(CH2b−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、aは1以上10以下の整数であり、bは1又は2である。)である請求項2に記載のTPEN誘導体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のTPEN誘導体を含有することを特徴とする抽出剤。
【請求項5】
請求項4に記載の抽出剤を使用して、水相中の金属元素を有機相に移動することを特徴とする抽出方法。
【請求項6】
前記金属元素がマイナーアクチノイド元素である請求項5に記載の抽出方法。
【請求項7】
下記式(II)で表されるピリジンオキシド誘導体。
【化2】


〔式(II)中、R21は、X(CF2c(CH2d−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、cは3以上10以下の整数であり、dは1又は2である。)を示す。〕
【請求項8】
下記式(III)で表されるピリジン誘導体。
【化3】


〔式(III)中、R31は、X(CF2e(CH2−基(前記式中、Xはフッ素原子または水素原子であり、eは3以上10以下の整数であり、fは1又は2である。)を示す。
Zは、アセチルオキシ基(CH3COO−)、ヒドロキシ基(−OH)又はハロゲン原子を示す。〕

【公開番号】特開2010−189340(P2010−189340A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36793(P2009−36793)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業顕在化ステージ委託研究「高レベル核廃棄物からアクチニドを選択分離し得る機能性配位子TPENの精密合成」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】