説明

N4−(2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノオキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン二ナトリウム塩の合成

本発明は、製薬化学/プロセス化学の分野に関する。本明細書には、N4-(2,2-ジメチル-4-[(二水素ホスホノオキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン二ナトリウム塩、特に水和物(例えば六水和物)を調製するプロセスが開示されている。該化合物は、様々な疾患の治療および予防において有用である。また、N4-(2,2-ジメチル-4-[(ジアルキルホスホノオキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミンを調製するプロセスも開示されている。いずれのプロセスもアミドの使用を伴う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年7月2日に提出された米国仮出願第61/270,073号の利益を主張し、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の分野
本発明は、製薬化学/プロセス化学の分野に関する。本明細書には、2,4-ピリミジンジアミンを合成する方法、並びに、それに使用される中間体の合成方法が開示されている。一つの態様として、本明細書には、様々な疾患の治療および予防において有用な2,4-ピリミジンジアミンである、N4-(2,2-ジメチル-4-[(二水素ホスホノオキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン二ナトリウム塩(式Iの化合物)、特に式Iの化合物の水和物(例えば、六水和物)を調製するプロセスが提供されている。
【0003】
関連技術の概要
種々の治療的用途を有する、様々な種類の2,4-ピリミジンジアミン化合物が発見されている。例えば、2003年1月31日に提出された米国特許出願第10/355,543号(US 2004/0029902A1)(特許文献1)、2003年1月31日に提出された国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)(特許文献2)、2003年7月29日に提出された米国特許出願第10/631,029号(US 2007/0060603)(特許文献3)、国際特許出願第PCT/US03/24087号(WO 2004/014382)(特許文献4)、2004年7月30日に提出された米国特許出願第10/903,263号(US 2005/0234049)(特許文献5)、および国際特許出願第PCT/US2004/24716号(WO 2005/016893)(特許文献6)を参照されたい。これらの各出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0004】
2,4-ピリミジンジアミン化合物を調製するための一つのプロセスは、2006年10月5日に提出された米国特許出願第11/539,074号(特許文献7)に記載され、本開示において、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第10/355,543号(US 2004/0029902A1)
【特許文献2】国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)
【特許文献3】米国特許出願第10/631,029号(US 2007/0060603)
【特許文献4】国際特許出願第PCT/US03/24087号(WO 2004/014382)
【特許文献5】米国特許出願第10/903,263号(US 2005/0234049)
【特許文献6】国際特許出願第PCT/US2004/24716号(WO 2005/016893)
【特許文献7】米国特許出願第11/539,074号
【発明の概要】
【0006】
本発明は、N4-(2,2-ジメチル-4-[(二水素ホスホノオキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン二ナトリウム塩(式Iの化合物)

並びにその水和物(例えば、六水和物)を調製するプロセスを含む。式Iの化合物(およびその水和物)は、様々な疾患の治療および予防において有用な2,4-ピリミジンジアミンである。本発明は更に、プロセスに有用な溶媒和中間体、並びに該プロセスにより作製される化合物を含む。
【0007】
上で要約された態様は、上で明示的に列挙されていない態様を作り出すための任意の適した組み合わせで共に使用されてもよく、その様な態様が本発明の一部であるとみなされることは、当業者には理解される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ニートな(neat)リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル(3.834mg)を含む密閉容器中における動的示差走査熱量測定(DSC)実験を示す図である。
【図2】ニートなリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル(7.7mg)を使用したサーモグラフィック解析(TGA)実験を示す図である。
【図3】36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル(5.6mg)のDMAc溶液を含む密閉容器中における動的示差走査熱量測定実験を示す図である。
【図4】36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル(10.9mg)のDMAc溶液を含む密閉容器中における80℃での等温示差走査熱量測定実験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
1.定義
本明細書で使用する場合、特に指示がない限り、以下の定義が適用される。
【0010】
特に指示がない限り、本明細書において使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を持つ。本明細書に記載のものと類似するかまたは同一の任意の方法および材料は、本発明の実施または試験において使用できるが、好ましい方法、デバイス、および材料をここに説明する。本明細書に引用される全ての文献は、本発明と関連して使用され得る文献に報告される方法、試薬、および道具を説明および開示する目的で、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。本発明が、先行発明という理由からそのような開示に先行する資格がない、ということを認めたものであると解されるべきものはこれらの中にはない。
【0011】
「アミド」とは、R20CON(R21)2基を意味し、式中R20は水素または置換されてもよいアルキルより選択され;各R21は、独立して水素もしくは置換されてもよいアルキル、または両方のR21はそれらと結合した窒素と共に4〜6員の脂肪族環;またはR20および片方のR21、その各々と結合した炭素および窒素が共に組み合わさって4〜6員の窒素含有環を形成し、もう片方のR21が水素もしくは置換されてもよいアルキルである。アミドには一級アミド、二級アミド(例えば、限定するものではないが、アルキルホルムアミドおよびN-メチルアセトアミド等のアセトアミド)、および三級アミド(例えば、限定するものではないが、N,N-ジアルキルアセトアミド、N,N-ジアルキルホルムアミド、N-アルキルピロリドン、およびN-アルキルピペリドン)が含まれる。現在開示されている溶媒和物中での使用に適した三級アミドの特定例としては、限定されないが、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-メチルピペリジノン、が挙げられる。
【0012】
「アルキル」とは、1〜8個の炭素原子、例えば1〜6個の炭素原子、または1〜4個の炭素原子を有する一価の飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。この用語は、例として、メチル(CH3-)、エチル(CH3CH2-)、n-プロピル(CH3CH2CH2-)、イソプロピル((CH3)2CH-)、n-ブチル(CH3CH2CH2CH2-)、イソブチル((CH3)2CHCH2-)、sec-ブチル((CH3)(CH3CH2)CH-)、t-ブチル((CH3)3C-)、n-ペンチル(CH3CH2CH2CH2CH2-)、およびネオペンチル((CH3)3CCH2-)等の直鎖および分枝鎖ヒドロカルビル基を含む。更に、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、およびt-ブチル基は全てC1-C4アルキルという用語で表される。同様に、より大きな数の範囲の炭素原子を示す用語は、その数値の範囲内にある任意の直鎖または分枝鎖ヒドロカルビルを代表するものである。この包括性は、この様な数値の範囲を有するほかのヒドロカルビルの用語にも適用される。
【0013】
「塩基」とは、プロトンを受容できる物質を意味する。塩基の例としては、限定されないが、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物、ならびにアンモニアが挙げられる。
【0014】
「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを意味する。
【0015】
「溶媒和物」とは、少なくとも一つの溶媒分子と少なくとも一つの溶質の分子またはイオンの組み合わせにより形成された複合体を意味する。溶媒和物中の溶媒対溶質のストイキオメトリは、1より大きい、1に等しい、または1未満であってよいことを当業者は理解する。溶媒は有機化合物、無機化合物、または両方の混合物であってよい。溶媒の幾つかの例としては、限定するものではないが、メタノール、酢酸、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、および水が挙げられる。本明細書で使用する場合、「溶媒和物」という用語は、本明細書に記載の溶媒和化合物を、任意の特定の種類の結合(例えば、イオン結合または配位共有結合)に制限することを意図するものではない。
【0016】
「置換された」という用語は、特定の基またはラジカルを修飾するために用いる場合、特定の基またはラジカルの一つ以上の水素原子がそれぞれ互いに独立して、同一または異なる以下に定義される置換基に置き換えられることを意味する。
【0017】
置換されてもよいアルキル上の置換基は、アルキル、ハロ、ハロアルキル、ニトロソ、およびシアノである。
【0018】
同様に、上記定義は、許容されない置換パターン(例えば、五つの基で置換された炭素、即ち五価炭素)を含むことを意図しないことが理解される。その様な許容されない置換パターンは、当業者により容易に認識される。
【0019】
2.組成およびプロセス
2,4-ピリミジンジアミンを合成する方法、並びにそこで使用される中間体が本明細書に開示されている。一つの態様として、本明細書は、様々な疾患の治療および予防において有用な2,4-ピリミジンジアミンである、N4-(2,2-ジメチル-4-[(二水素ホスホノオキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン二ナトリウム塩(式Iの化合物)(その水和物、特に六水和物を含む)を調製するプロセスを提供する。
【0020】
式Iの化合物は、2006年1月19日提出の米国特許第7,449,458号に記載され、本開示において、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。リン酸を含むプロ基、例えば式I、II、III、およびVIの化合物は、生理的条件下(例えば、約10μg/mL未満の溶解度)において難溶性を示す2,4-ピリミジンジアミン化合物の溶解度を上昇させ得る。リン酸含有プロ基は、基礎をなす活性2,4-ピリミジンジアミン化合物の溶解度を助ける可能性があり、それにより、経口投与された場合、その化合物の生物学的利用率が増加し得る。リン酸プロ基は、消化管内に見られるホスファターゼ酵素により代謝される可能性があり、基礎をなす活性薬剤の取り込みが可能になる。
【0021】
例えば、式IVの化合物

の特定の生物活性を有する2,4-ピリミジンジアミン化合物の水可溶性および経口生物学的利用率が、式IIの化合物

にあるような環窒素原子の位置にプロ基を含むように構築した場合に劇的に上昇することが、2006年1月19日に提出された米国特許第7,449,458号に開示されている。
【0022】
式IVの化合物の水可溶性が、生理的条件下、水性緩衝液中で約1〜2μg/mLの範囲であることが分かっていた場合において、対応するリン酸プロドラッグ(式IIの化合物)の溶解度は、同一の条件下、5mg/mLより高い、つまり約2000倍高いことが明らかになった。この上昇した水可溶性は腸におけるより良い溶解を可能とするものであり、そのため経口投与を容易にする。
【0023】
式Iの化合物を調製するプロセスは、2006年10月5日に提出された米国特許出願第11/539,074号に記載されており、本開示において、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
幅広い側面において、本発明は、式II(下記)の化合物のアミド溶媒和物(式IIa)を作製し、それを式Iの化合物に変換するためのプロセスに関する。より具体的には、本発明は、式IIの化合物

の酸溶媒和物がアミド溶媒和物に変換され、そのアミド溶媒和物が式Iの化合物に変換されるプロセスに関する。より具体的な態様において、本発明は、式Iの化合物を調製するためのプロセスであって、
a)式IIの化合物

の酸溶媒和物を、式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件下で、アミドと接触させる工程;および
b)上記アミド溶媒和物を、式Iの化合物の形成に適した条件下で、ナトリウムイオンを含む塩基水溶液と接触させる工程
を含む、プロセスに関する。特定の態様において、式Iの化合物は水和物、例えば六水和物である。
【0025】
ある態様において、式IIの化合物の酸溶媒和物はカルボン酸である。ある態様において、カルボン酸はR1COOHであって、式中R1は‐Hまたは最大三個までのハロ置換基で置換されていてもよいC1-C4アルキルである。
【0026】
別の側面において、本発明は、本明細書に記載のプロセスに使用される新規アミド溶媒和中間体を含む。例えば、開示された化合物は、式IIaのアミド溶媒和物を含む。

【0027】
式IIaに関連して、アミド溶媒和物は、一溶媒和物に限定されず、化合物II一分子当たり複数かつ非整数、例えば0.5、1、2、および3個のアミド分子による溶媒和物を含み得る。
【0028】
ある態様において、アミドは二級アミドまたは三級アミドである。
【0029】
ある態様において、アミドはR30CON(R2)2であって、式中R2はそれぞれ独立して-HもしくはC1-C4アルキル、または両方のR2はそれらと結合した窒素と共に4〜6員の脂肪族環を形成し、R30は-HもしくはC1-C4アルキルである。またはR30およびR2の片方、その各々と結合した炭素および窒素が共に組み合わさって4〜6員の脂肪族環を形成し、もう片方のR2は独立して-HもしくはC1-C4アルキルである。ある態様において、アミドはN,N-ジアルキルホルムアミド、N,N-ジアルキルアセトアミド、N-アルキルピロリジノン、およびN-アルキルピペリドンからなる群より選択される。
【0030】
ある態様において、アミドは、N,N-ジアルキルホルムアミド、N,N-ジアルキルアセトアミド、N-アルキルピロリジノン、およびN-アルキルピペリドンからなる群より選択される。また、ある態様において、アミドはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)である。

【0031】
アミド溶媒和物IIaは、式IIの化合物の酸溶媒和物をアミド溶媒和物IIaに変換することにより合成可能である。本開示を鑑みて、式IIaのアミド溶媒和物がIIの酸溶媒和物のみならず、他の形態のIIからも生成可能であることを当業者は認識するであろう。ある態様において、アミドは、N,N-ジアルキルホルムアミドであって、式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件は、約20℃および約50℃の間の温度で酸溶媒和物を三級アミドと接触させる工程を含む。ある態様において、アミドはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)であって、アミド溶媒和物の形成に適した条件は、DMF中、約40℃の温度で酸溶媒和物を再度スラリー状にする工程を含む。
【0032】
ある態様において、工程b)における塩基水溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)およびアルコールを含み、式Iの化合物の形成に適した条件は、約40℃と約80℃の間の温度および約9〜約10.5のpHを含む。またある態様において、アルコールは、限定するものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ペンタノールを含む。
【0033】
ある態様において、上記工程b)中の塩基水溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)およびイソプロピルアルコール(IPA)を含み、式Iの化合物の形成に適した条件は、約80℃の温度および約10.2のpHを含む。
【0034】
別の側面において、本発明は、式Iの化合物

の前駆体(VI)を調製するプロセスであって、
式VIの化合物

の形成に適した条件下で、式IVの化合物

を、アミド存在下において式Vの化合物

と接触させる工程であって、
式中、
R3およびR4はそれぞれ独立してC1-C6アルキルであって、
Xがハロゲンまたは-OSO2R62であり、式中、R62はハロゲンで置換されてもよいアルキル(例えば、全フッ素置換アルキル基)、またはアルキルもしくは例えばハロゲン、NO2、-CN等(好ましくはXはハロゲン)の電子吸引性基で置換されてもよいアリールである、工程を含む、プロセスを含む。
【0035】
別の態様において、本発明は、前駆体VIを式Iの化合物に変換するための方法であって、
a)式VIの化合物を、式IIの化合物

の酸溶媒和物の形成に適した条件下で酸と接触させる工程;
b)式IIの化合物の酸溶媒和物を、式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件下でアミドと接触させる工程;および
c)式IIの化合物のアミド溶媒和物を、式Iの化合物の形成に適した条件下で、ナトリウムイオンを含む塩基水溶液と接触させる工程
を含む、方法を含む。特定の態様において、この方法により作製された式Iの化合物は、六水和物等の水和物である。
【0036】
別の態様において、本発明は、前記の二つの方法の連続的な組み合わせ(即ち、前駆体VIを作製する方法の後に、VIを式Iの化合物に変換する方法が続くことを特徴とする方法)を含む。
【0037】
より包括的には、本発明は、化合物IVおよびVを反応させることにより化合物VIを得、化合物VIを化合物IIまたはIIの酸溶媒和物に変換し、化合物IIおよび/またはその酸溶媒和物をアミド溶媒和物である化合物IIaに変換し、化合物IIaを化合物I(任意に六水和物等の水和物の形態)に変換することによる、式Iの化合物の作製に関する。
【0038】
ある態様において、式Vの化合物は、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルである。

【0039】
式VIの化合物の作製に適した条件は、下記工程(i)および(ii)を含んでもよい:
(i)式IVの化合物と式Vの化合物を極性溶媒中の塩基と組み合わせる工程;および
(ii)工程(i)より得られた生成物を塩基水溶液中で洗浄する工程。
【0040】
工程(i)および/または(ii)における使用に適した塩基の例としては、限定するものではないが、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化物、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、およびアンモニア等の一級、二級、および三級アミン、並びにカリウム-t-ブトキシド等の金属アルコキシドが挙げられる。
【0041】
極性溶媒の例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。当業者には知られているとおり、この様な溶媒の混合物も使用可能である。更に、当業者は、この様な極性溶媒は、結果として得られる溶媒混合物が極性である限り、混合物中に一つ以上の極性溶媒と共に非極性成分を含むことができることも理解する。典型的に、極性と見なされる溶媒は、比誘電率εが少なくとも約5、典型的には約7または8より多い溶媒である。例えば、テトラヒドロフランの比誘電率εは、7.6であるが、DMFの比誘電率は37である。
【0042】
ある態様において、上記工程(i)における塩基は、炭酸セシウム(Cs2CO3)および炭酸カリウム(K2CO3)の少なくとも一つを含み、極性溶媒はDMFおよびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の少なくとも一つを含み、上記工程(ii)における塩基水溶液は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)および水酸化ナトリウム(NaOH)の少なくとも一つを含む。
【0043】
ある態様において、式VIの化合物は単離されない。
【0044】
ある態様において、式Vの化合物は、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒で安定化されている。
【0045】
一般的に、式Vの化合物、例えばリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは不安定な生成物である。例えば、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは保存時に分解し、熱およびイソブテンガスを発生する。以下のスキームに示すように、また理論と結び付ける意図はないが、微量の酸の存在は、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルAのO-tert-ブチル基の切断を触媒し、イソブテンの放出と共にモノ-tert-ブチル種Cを生じると信じられている。モノ-tert-ブチル種Cは、酸供給源として作用することが可能であり、リン酸Eへの自己触媒分解を更に進めることができる。下記のスキーム中の点線で示されているとおり、リン酸EもAの自己触媒分解に供給するプロトンを提供できる。Aの分解は、発熱性であり、1モルのA当たり2モルのイソブテンが生成される。

【0046】
断熱条件で保存した際、分解による熱および圧力の上昇は著しい場合がある。図1は、断熱条件下でのリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの保存が分解をもたらすことができ、それにより圧力と温度が劇的に上昇することを示す。図1は、ニートなリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを含む密閉容器中における動的示差走査熱量測定(DSC)実験(流速50mL/分のN2下、5℃/分の速度で0℃〜300℃に加熱した)を示す図である。図1を参照すると、吸熱シグナル(酸性の副産物が形成されることによるイソブテン放出の開始;99.10℃に外挿され、幅が0.33℃であり、積分した面積が-108.45mJであるピーク)の後に、非常に鋭い発熱シグナルが約100℃に見られ(100.57℃に外挿され、幅が3.99℃であり、積分した面積が2717.05mJであるピーク)、これは自己触媒分解に典型的である。図2は、ニートなリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを使用したサーモグラフィック解析(TGA)実験を示し、イソブテンのオフガスと共に連続した分解が見られることを示す。図2において、試料は流速80mL/分のN2下、5℃/分の速度で20℃〜300℃に加熱された。試料は、約21℃および119℃の間で41.465%(3.189mg)の質量損失を示し、約119℃および300℃の間で19.526%(1.502mg)の質量損失を示した。大部分のイソブテンは110℃で急に分離し;300℃で1時間経過した後、試料の重量は上記のとおり酸Eに相当する。更なる試験は、イソブテン放出による圧力の上昇が80bar程度であってもよいことを示す。更に、イソブテンは、可燃性の気体であり、従って大量のイソブテンを放出することは危険であり得る。
【0047】
従って、圧力上昇に耐えることが可能な、式Vの化合物を保存するための装置を設計することは通常重要である。また、望まれない分解反応中の装置の損傷を避けるため、温度制御、蒸留時間、および安全弁の大きさ等、様々なその他の安全対策をとることも必要である。
【0048】
一方、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の添加がリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを安定化させることが思いがけず見出され、これにより化合物の約60℃での保存が、自己触媒分解もガスの発生も無く、可能となり得る(図3〜4を参照のこと)。図3は、36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルのDMAc溶液を含む密閉容器中における動的示差走査熱量測定実験を示す(流速50mL/分のN2下、5℃/分の速度で0℃〜300℃に加熱された)。吸熱シグナル(微量の酸による、ある程度のイソブテン放出;116.42℃に外挿され、幅が6.19℃であり、積分した面積が-70.78mJであるピーク)後に、平滑な発熱シグナルが120℃に見られた(99℃〜100℃に鋭い発熱シグナルは見られなかった;129.74℃に外挿され、幅が42.52℃であり、積分した面積が1362.40mJであるピーク)。これはこの系が自己触媒分解を起こしていないことを示すものである。図4は、36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルのDMAc溶液を含む密閉容器中における80℃での等温示差走査熱量測定(DSC)実験を示す(流速50mL/分のN2下)。36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルのDMAc溶液の発熱および吸熱分解は保存温度では(45℃、60℃、および80℃であっても)15時間以上にわたり見られず、従ってリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは安定化されている。実際、60℃で68.7gの36%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルのDMAc溶液を96時間等温加熱したところ、ガス(イソブテン)は発生しなかった。
【0049】
任意のアミド、例えば、限定するものではないが、DMAcは、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを含む式Vの化合物を安定化させるために使用してもよいことが理解される。そのようなアミドは、当業者には公知である。該アミドの例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンが挙げられる。ある態様においては、アミドおよびリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの組み合わせに溶媒を任意に加えてもよい。またある態様においては、アミドは溶媒であってもよい。例えば、DMAcはアミド並びに溶媒として使用できる。
【0050】
従って、一つの側面においては、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル

およびアミドを任意に溶媒中に含む組成物が提供される。
【0051】
ある態様において、アミドは溶媒でもある。
【0052】
ある態様において、アミドは三級アミドである。
【0053】
ある態様において、三級アミドは、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)である。
【0054】
式Iの化合物の合成のための改善されたプロセスは、以下のスキームI〜VIIに図示されているとおりである。
【0055】
3.合成スキーム
本明細書に記載の合成に使用される出発物質は、市販されている。式Vの化合物の合成は、下記スキームIに示すとおりである。

【0056】
スキームIによると、式Vの化合物は、相間移動触媒(PTC)存在下、ジアルキルリン酸カリウム基(R3およびR4は上記定義のとおり)をアルキル化剤(Xは上記定義のとおり)、例えばクロリド硫酸ハロメチル、と反応させることにより得られる。数々の相間移動触媒の例が当業者には知られている。その様な相間移動触媒の例としては、限定されるものではないが、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。例えば、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(TBAHS)の存在下、ジ-tert-ブチルリン酸(PDP)カリウムまたはナトリウムをクロリド硫酸クロロメチル(CMCS)と反応させることにより得ることができる。
【0057】
下記のスキームIa(並びに図1〜4および下記の実施例)は、pH調整およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の添加がリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを安定化させ、それにより化合物が約60℃でガスを発生すること無く保存され得ることを示す。

【0058】
当然のことながら、スキームIaにおけるリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの合成は単なる例示にすぎない。スキームIaに従った式Vの化合物のほかのリン酸の合成は、この方法の所定の適応により実施できる。加えて、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの生成には、ジ-tert-ブチルリン酸のナトリウムまたはその他の塩およびその他の反応条件を使用することもできる。
【0059】
式VIaの化合物の式IVの化合物からの合成は、下記スキームIIに示すとおりである。

【0060】
スキームIIによると、式IVの化合物をリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルで処理することにより式VIaの化合物がもたらされる(例えば、本明細書中の実施例1の工程B)。当然のことながら、式IVの化合物のリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルとの反応は、単なる例示にすぎない。本明細書に記載の式Vの化合物等のその他のリン酸を、式IVの化合物と反応させ、式VIの化合物をこの方法の所定の適応により得てもよい。式VIaの化合物のために以下に記載した工程も、式VIの化合物に適用してもよい。
【0061】
ある態様においては、式VIaの化合物の合成において、塩基としてCs2CO3が使用され、溶媒としてDMAcが使用される。塩基であるCs2CO3は、K2CO3またはKOtBu、それぞれ単独で、または互いにまたはCs2CO3と共に組み合わせたものと置換されてもよい。式VIaの化合物は、固体として単離することもできるが、メチル-tert-ブチルエーテル(MtBE)中の溶液として得ることもできる。
【0062】
式VIaの化合物からの式IIの化合物の酸溶媒和物の合成は、スキームIIIに示すとおりであり、下記実施例1の工程Cに例示される。

【0063】
スキームIIIによると、式VIaの化合物は、酸R1-COOH(R1は上記定義のとおり)と水の混合物中に溶解され、約55℃〜70℃にまで加熱される。例えば、実施例1の工程Cに記載のとおり、式VIaの化合物を、酢酸と水(4:1 AcOH:H2O)に溶解し、67℃まで加熱することにより、式IIの化合物の酢酸溶媒和物が得られる。
【0064】
式IIの化合物の酸溶媒和物からの式IIの化合物のアミド溶媒和物の合成は、スキームIVに示すとおりであり、実施例1の工程Cに例示される。

ここで、式Iの化合物は、六水和物等の水和物の形態であってもよい。
【0065】
式IIの化合物のアミド溶媒和物への式IIの化合物の酸溶媒和物の変換は、R30CON(R2)2(式中R2およびR30は上記定義のとおり)等の三級アミド中、約20℃〜50℃の間で式IIの化合物の酸溶媒和物を再度スラリー状にする工程を含む。例えば、実施例1の工程Cに記載のとおり、式IIの化合物の酢酸溶媒和物を、DMF中、約40℃で再度スラリー状にすることにより式IIの化合物のDMF溶媒和物を得ることができる。
【0066】
この酸溶媒和物を再度スラリー状にすることにより式IIの化合物のDMF溶媒和物を得る工程は、例えば、式IVの化合物の<1モル%への枯渇およびp-二量体の0.1モル%への枯渇等の、より少ない量の出発物質および副産物で、より高品質の生成物をもたらす。生成物は、40℃で約24時間安定であり、この改善されたプロセスは、生成物の濾過性の改善をもたらす。この改善されたプロセスは、更に約10%の収率の増加をもたらす。
【0067】
式IIの化合物のアミド溶媒和物からの式Iの化合物の合成は、実施例1の工程Dに例示するとおりである。式IIの化合物のアミド溶媒和物をイソプロピルアルコール/水等のアルコール中に入れ、NaOH等の塩基を加えることにより約9〜約10.5の間のpHに調整する。この溶液を約40℃〜約80℃の間で加熱する。一つの態様においては、式IIの化合物のDMF溶媒和物を、約80℃およびpH約8〜10.2でイソプロピルアルコール/水を用いて処理することにより、式Iの化合物を得る。
【実施例】
【0068】
IV. 実施例
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の特定の側面の単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0069】
以下の実施例ならびに本出願中において、下記の略称は、以下の意味を持つ。定義されていない場合、用語は一般に認められた意味を有する。
cm=センチメートル
CMCS=クロリド硫酸クロロメチル
Cs2CO3=炭酸セシウム
DCM=ジクロロメタン
DMAc=ジメチルアセトアミド
h=時間
HCl=塩酸
IPA=イソプロピルアルコール
mbar=ミリバール
MeOH=メタノール
MtBE=メチル-tert-ブチルエーテル
mol=モル濃度
mL=ミリリットル
g=グラム
mg=ミリグラム
rpm=毎分回転数
min=分
mm=ミリメートル
N=規定濃度
Na2CO3=炭酸ナトリウム
NaHCO3=炭酸水素ナトリウム
NaOH=水酸化ナトリウム
NMP=N‐メチルピロリジノン
NMR=核磁気共鳴
PDP=リン酸ジ-t-ブチル
PTC=相間移動触媒
TBAHS=テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩
v/v=容積/容積
°C=摂氏温度
POCl3=リントリクロリドオキシド
【0070】
実施例1
A.リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの調製:
手順I:安定化されたリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの調製
リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの調製は、たとえば、Mantylaら、Tetrahedron Letters, 43(2002), 3793-3794およびChadwickら、US 2006/0047135等の文献に記載されている。我々は、これらのプロセスに対する改善を見出し、それにより、収率が増加し、純度が上がり、アミドに曝すことによりリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルが安定化した。本発明のこの側面は、下記の具体的な実施例により説明される。
【0071】
驚くべきことに、PDPおよび相間移動触媒TBAHSのDCM/水中の二相混合物に2.5等量のCMCSを加え、同時に20%NaOH水溶液を加えてpHを8に調整することにより、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは優れた収率(>90%)および純度(>99%)で合成できることが見出された。更に、ジメチルアセトアミド(DMAc)中で30重量%の溶液を調整することにより、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの安定性が非常に増強され、自己触媒分解行動が観察されなかったことが明らかとなった。
【0072】
手順の説明
リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルは、TBAHSにより相関移動触媒されたDCM/H2O中のPDPと2.5等量のCMCSの18℃での反応を用いて合成された。pHを監視し、20%NaOH水溶液の添加によりpH8に調製した。

【0073】
DCMは、20℃で減圧下pH>7で除去した(DCMの再利用)。粗精製のリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルに、MtBEを加え、MtBE層を2%炭酸水素水溶液で洗浄することにより、TBASHSを除去した。リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを安定化させるために、DMAcを加えた後、MtBEを留去した。PDP出発物質に基づき、収率は>90%であった。1H-NMRによるDMAc中のリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの純度は、>99%であった。
【0074】
この手順は、少なくとも下記の利点を有する:1)過剰なNaHCO3、Na2HPO4、またはNa2CO3等の固体塩基の代わりに液体塩基(NaOH水溶液)が使用できる;および2)過剰量の溶解性のより低い炭酸水素またはリン酸塩が可溶性のクロリドに置き換えられることにより、必要量および反応時間が最小化され、収率が改善されたことにより、反応をより濃縮した状態で実施できる。更に、例えばDMAc中の30重量%溶液を調製することにより、リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルの安定性が40℃にまで高められた。
【0075】
特定の例においては、56.3gのPDP(1.0モル等量:91.2重量%)を3.53gのTBAHS(0.05eq)、60gの水、および300gのDCMと混合した。室温で、反応混合物に86.6gのCMCS(2.5eq)を4時間かけて加えた。CMCSを加えている最中、227gの20%NaOH水溶液を加え、pHを8に調整した。結果として得られた二相反応混合物は、20℃で一晩攪拌した。二相混合物より減圧下(500→300mbar)20℃でDCMを留去した。残渣に200mLのMtBEを加えた後、層を分離した。水層を廃棄し、有機層を300mLの2%NaHCO3水溶液で一回洗浄することにより、相間移動触媒を除去した。90mLのDMAcを添加した後、減圧下40℃でMtBEを留去した。その結果として得られた混合物中に液体窒素を1時間吹き込むことにより、微量のDCMおよびMtBEを除去した。リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル(128gの油)を得、1H-NMRで解析した結果、90.7%の収率でリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルを得たことが示された(リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル:36.4%;DMAc:63.4重量%;DCM:0.03重量%;MtBE:0.01重量%;PTC:0.01重量%;水:0.6重量%)。
【0076】
更なる利点としては以下が含まれる:1)DCMの再利用が可能である、2)PTCが一回の抽出で除去できる、3)必要なPTCはほんの5モル%である、および4)微量のDCMおよびMTBE以外はN2を吹き込むことにより除去される。
【0077】
B.MtBEにおける式VIaの化合物の調製

【0078】
式VIaの化合物の合成の説明
炭酸セシウム27.3g(1.2等量)、N,N-ジメチルアセトアミド185g、式IVの化合物33.5g(1等量、70mmol)および30.6重量%リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチルのDMAc溶液74g(1.25等量)を容器に入れ、40℃で一晩攪拌した。ベージュ色の懸濁液が得られた。懸濁液を室温まで冷却し、MTBEおよび水をそれぞれ118mL加えた。相を分離し、水相を94mLのMTBEで洗浄した。有機層は、それぞれ94mLの水で洗浄した。有機層からMTBE中に187.9gの化合物VIaが得られた(式IVの化合物70mmolに基づいた収率は74%)。
【0079】
C.式IIaの化合物の調製(アミド溶媒和物)

【0080】
説明:
酢酸(168.6g、160.6mL)を同量の水と合わせ、この混合物を67℃まで加熱した。上記の式VIaの化合物(187g、170mL)のMTBE溶液を酢酸水溶液に加えた。大部分のMTBEを大気圧で留去し、結果として得られた溶液を2時間攪拌することにより、黄色の懸濁液が得られた。残留したMTBEは、300mbarで留去し、懸濁液を20℃まで冷却し、濾過することにより純白ではない白色の固体を得た。濾過ケーキを冷アセトン(2×160mL)で洗浄し、30℃で一晩乾燥させることにより、29.8gの式IIの化合物を酢酸溶媒和物として得た。
【0081】
29.8gの式IIの化合物の酢酸溶媒和物(化学量論比1:1または約1:1)およびDMF150mLの懸濁液を50℃に加温し、2時間攪拌した。続いて懸濁液を室温に冷まし、濾過した。濾過ケーキを98mLのMTBEで三回洗浄し、真空下30℃で一晩乾燥させた。式IIの化合物のアミド溶媒和物(26.7g)が得られた(70mmolの化合物IVに基づいた収率は55%)。
【0082】
D.式Iの化合物の六水和物の調製
アミド溶媒和物(10g、15mmol)を100mLの水中に懸濁し、1時間攪拌した。その後、50mLのIPAを加え、31.9gの1M NaOHを加えることによりpHを3.3〜8.5に調節した。反応混合物を82℃に加熱し、1時間攪拌し、これを10ミクロンのフィルターに通し、20℃に冷却し、一晩攪拌した。結果として得られた懸濁液を濾過し、濾過ケーキを40mLのアセトンで2回洗浄し、真空下40℃で一晩乾燥させることにより、8.6gの式Iの化合物の六水和物が得られた(収率77%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、式Iの化合物

を調製するためのプロセス:
a)式IIの化合物

の酸溶媒和物を、式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件下で、アミドと接触させる工程;および
b)該アミド溶媒和物を、式Iの化合物の形成に適した条件下で、ナトリウムイオンを含む塩基水溶液と接触させる工程。
【請求項2】
前記式IIの化合物の酸溶媒和物における酸の成分がカルボン酸である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
前記カルボン酸がR1COOHであって、式中R1が‐Hまたは最大三個までのハロで置換されていてもよいC1-C4アルキルである、請求項2記載のプロセス。
【請求項4】
前記アミドが二級アミドまたは三級アミドである、請求項1記載のプロセス。
【請求項5】
前記アミドがR30CON(R2)2であって、式中R2がそれぞれ独立して-HもしくはC1-C4アルキル、もしくは両方のR2はそれらと結合した窒素と共に4〜6員の脂肪族環を形成し、R30が-HもしくはC1-C4アルキルである;または、R30および片方のR2、その各々と結合した炭素および窒素が共に組み合わさって4〜6員の脂肪族環を形成し、もう片方のR2が独立して-HもしくはC1-C4アルキルである、請求項4記載のプロセス。
【請求項6】
前記アミドがN,N-ジアルキルホルムアミド、N,N-ジアルキルアセトアミド、N-アルキルピロリジノン、またはN-アルキルピペリドンである、請求項5記載のプロセス。
【請求項7】
前記アミドがN,N-ジアルキルホルムアミドであって;式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件が、約20℃と約70℃の間の温度を含む、請求項6のプロセス。
【請求項8】
前記上記アミドがN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)であって;アミド溶媒和物の形成に適した条件が、DMF中、約50℃の温度で酸溶媒和物を再度スラリー状にする工程を含む、請求項7記載のプロセス。
【請求項9】
工程b)中の塩基水溶液が水酸化ナトリウムおよびアルコールを含み、式Iの化合物の形成に適した条件が約40℃と約80℃の間の温度および約8〜約10.5のpHであることを特徴とする、請求項1記載のプロセス。
【請求項10】
工程b)中の塩基水溶液が水酸化ナトリウム(NaOH)およびイソプロピルアルコール(IPA)を含み、式Iの化合物の形成に適した条件が約80℃の温度および約9のpHであることを特徴とする、請求項9記載のプロセス。
【請求項11】
式IIIの化合物。

【請求項12】
以下の工程を含む、式IVの化合物

を調製するためのプロセス:
式VIの化合物の形成に適した条件下で、式IVの化合物

を、アミド存在下において式Vの化合物

と接触させる工程であって、
式中、
R3およびR4はそれぞれ独立してC1-C6アルキルであって、Xはハロゲンである、前記工程。
【請求項13】
以下の工程を含む、式Iの化合物

を調製するための方法:
式VIの化合物

を、式IIの化合物

の酸溶媒和物の形成に適した条件下で酸と接触させる工程;
該式IIの化合物の酸溶媒和物を、式IIの化合物のアミド溶媒和物の形成に適した条件下でアミドと接触させる工程;および
該式IIの化合物のアミド溶媒和物を、式Iの化合物の形成に適した条件下で、ナトリウムイオンを含む塩基水溶液と接触させる工程。
【請求項14】
式Vの化合物がリン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル

である、請求項12記載のプロセス。
【請求項15】
式VIの化合物の作製に十分な条件が下記(i)および(ii)を含む、請求項12記載のプロセス:
(i)式IVの化合物と式Vの化合物を極性溶媒中の塩基と組み合わせる工程;および
(ii)(i)より得られた生成物を塩基水溶液中で洗浄する工程。
【請求項16】
(i)における塩基が、炭酸セシウム(Cs2CO3)および炭酸カリウム(K2CO3)の少なくとも一つを含み;極性溶媒がDMFおよびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)の少なくとも一つを含み;かつ(ii)における塩基水溶液が、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)および水酸化ナトリウム(NaOH)の少なくとも一つを含む、請求項15記載のプロセス。
【請求項17】
式VIの化合物が単離されない、請求項12記載のプロセス。
【請求項18】
式Vの化合物がN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒で安定化されている、請求項12記載のプロセス。
【請求項19】
リン酸ジ-tert-ブチルクロロメチル

およびアミドを含む、組成物。
【請求項20】
前記アミドが溶媒でもある、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
前記アミドが三級アミドである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記三級アミドがN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)である、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
式Iの化合物が水和物の形態である、請求項1または13記載のプロセス。
【請求項24】
水和物が六水和物である、請求項23記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−532143(P2012−532143A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518607(P2012−518607)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/040792
【国際公開番号】WO2011/002999
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】