説明

NADH依存型L−キシルロース還元酵素

本発明は、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を持つ酵素タンパク質をコードする遺伝子を含む単離DNA分子に関する。この酵素タンパク質をコードするDNA配列を同定した。本発明はさらに、NADH依存型L−キシルロース還元酵素のみならず、本発明のDNA分子によって形質転換した微生物に関する。本発明を用いることで、炭水化物を含む生体材料(例えば、産業廃棄物)を有用な最終生成物に変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖等の炭水化物およびその誘導体を生体内(in vivo)および生体外(in vitro)利用するために用いることができる酵素をコードする遺伝子を含む単離DNA分子と、該DNA分子によって形質転換された微生物とに関する。本発明はさらに、上記DNA分子によってコードされた酵素タンパク質と、糖またはその誘導体の変換のための該酵素タンパク質の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
農業等の産業から生ずる生物学的廃棄材料は、例えば糖等の炭水化物を含む。そのような廃棄物を有用な生成物に変換することは、例えば長い間にわたって生物工学分野で関心がもたれ、かつ挑戦されてきた。
炭水化物の具体例として、植物材料の主成分であるL−アラビノースという糖について述べる。したがって、L−アラビノース発酵もまた、生物工学的に興味が持たれる可能性がある。
L−アラビノースを用いることができる菌類が、工業用に必ずしもよいというわけではない(図1参照)。五炭糖を利用する多くの酵母種は、エタノール耐性が低いので、エタノール生産には不適当である。1つのアプローチは、これらの生物体の工業的特性を改善することであろう。別のアプローチは、適当な生物体にL−アラビノースを使用する能力を与えることである。
L−アラビノースの異化反応として、細菌経路および菌類経路という明確に異なる2つの経路が知られている。細菌経路では、3つの酵素、すなわちL−アラビノース異性化酵素、リブロキナーゼ、およびL−リブロース5−ホスフェート−4−エピメラーゼによって、L−アラビノースがD−キシルロース5−リン酸塩に変換される。菌類経路は、糸状菌ペニシリウム・クリゾゲヌムチャン(Penicillium chrysogenum)に関して、チアング(Chiang)およびナイト(Knight):「新たなペントース代謝経路」、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem Biophys Res Commun)第3巻554〜559頁(1960)に、最初に記載された。また、それはL−アラビノースをD−キシルロース5−リン酸塩に変換するが、酵素L−アラビノース還元酵素、L−アラビニトール4−脱水素酵素、L−キシルロース還元酵素、キシリトール脱水素酵素、およびキシルロキナーゼを介してである。この経路では、L−アラビノース還元酵素およびL−キシルロース還元酵素は、NADPHを補助酵素として用い、一方L−アラビニトール4−脱水素酵素およびキシリトール脱水素酵素はNAD+を補助酵素として用いる。
【0003】
同様の経路が糸状菌アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)について記載された(ウイッテフェーン(Witteveen)他:「アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)でのL−アラビノースおよびD−キシロース代謝」、ジャーナル・オブ・ジェネラル・マイクロバイオロジー(J Gen Microbiol)第135巻2163〜2171頁(1989))。この経路は、ハイポクレア・ジェコリナ(Hypocrea jecorina)由来の遺伝子を用いて酵母(Saccharomyces
cerevisiae)で発現され、機能的であることが示された。すなわち、得られた5つの株が発酵L−アラビノース上で増殖できたが、その率はかなり低かった(リチャード(Richard)他:「菌類L−アラビニトール4−脱水素酵素遺伝子」、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J Biol Chem)第276巻40631〜40637頁(2001)、リチャード(Richard)他:「真菌L−アラビノース代謝経路でのミッシング・リンク、L−キシルロース還元酵素遺伝子の同定」、バイオケミストリー(Biochemistry)第41巻6432〜6437頁(2002)、リチャード(Richard)他:「菌類L−アラビノース経路を含む酵母(Saccharomyces cerevisiae)によるL−アラビノースからのエタノール生産」、FEMsイースト・リサーチ(Yeast Res)第3巻185−189頁(2003))。酵母の対応経路についての情報は、きわめて少ない。シー(Shi)他:「D−キシロースまたはL−アラビノース上で増殖できないピチア・スティピティス(Pichia stipitis)突然変異体の特徴付けおよび補完」、アプライド・バイオケミストリー・アンド・バイオテクノロジー(Appl Biochem Biotechnol)第84−86巻201〜216頁(2000年)は、酵母の経路がキシリトール脱水素酵素を必要とする証拠を提供した。L−アラビノース上では増殖不可能なピチア・スティピティス(Pichia stipitis)突然変異体では、キシリトール脱水素酵素の過剰発現がL−アラビノース上での増殖を回復させることができた。
【0004】
ジエン(Dien)他:「L−アラビノース発酵酵母のスクリーニング」、アプライド・バイオケミストリー・アンド・バイオテクノロジー(Appl Biochem Biotechnol)第57−58巻233〜242頁(1996)は、L−アラビノース発酵について100を上回る酵母種を試験した。それらのほとんどは、酵母経路が糸状菌の経路に類似しており、細菌の経路とは類似していないこと示すアラビニトールおよびキシリトールを生産した。しかし、酵母経路での触媒ステップの補助酵素種についてはほとんど知られていない。
菌類のL−アラビノース経路は、菌類のD−キシロース経路に対する類似性を有する。両方の経路で、ペントース糖が還元および酸化反応を経由し、ここでは還元がNADPHに関連しており、酸化がNAD+に関連している。D−キシロースは、一対の酸化還元反応を経由し、L−アラビノースは二対の酸化還元反応を経由する。このプロセスでは、酸化還元(レドックス)がニュートラルであるけれども、異なる酸化還元型の補助酵素、すなわちNADPHおよびNAD+が用いられ、これらの補助酵素は他の代謝経路で別々に再生される。D−キシロース経路では、NADPH関連還元酵素がD−キシロースをキシリトールに変換し、続いてNAD+関連脱水素酵素によってD−キシルロースに変換され、さらにキシルロキナーゼによってD−キシルロース5−リン酸塩に変換される。D−キシロース経路のこれらの酵素のすべてをL−アラビノース経路で用いることができる。両経路での最初の酵素は、アルドース還元酵素(EC1.1.1.21)である。これらの酵素は、異なる菌類で特徴づけられ、対応する遺伝子がクローニングされた。ピチア・スティピティス(Pichia stipitis)酵素は、NADPHを使用し、かつNADHが補助酵素として用いられることから特有である(ベルデュイン(Verduyn)他:「キシロース発酵酵素ピチア・スティピティス(Pichia
stipitis)由来のNAD(P)H依存型キシロース還元酵素の特性」、バイオケミカル・ジャーナル(Biochem
J)第226巻669〜677頁(1985))。それは糖に対しても非特異的であり、L−アラビノースまたはD−キシロースをほぼ同率で使用してL−アラビニトールまたはキシリトールをそれぞれ作ることができる。また、D−キシルロース還元酵素EC1.1.1.9およびキシルロキナーゼEC2.7.1.17として知られているキシリトール脱水素酵素が菌類のD−キシロースおよびL−アラビノース経路では同じである。D−キシルロース還元酵素およびキシルロキナーゼの遺伝子は、種々の菌類から知られている。L−アラビニトール4−脱水素酵素(EC1.1.1.12)またはL−キシルロース還元酵素(EC1.1.1.10)をコードする遺伝子は、最近、特許出願WO02/066616に記載されている。
【0005】
菌類の経路を用いたL−アラビノースの異化反応は、低速である。これは、その経路で異なる補助酵素が使用されることによると考えられている。1モルのL−アラビノースを変換するために、2モルのNADPHと2モルのNAD+とがNADP+およびNADHにそれぞれ変換される。すなわち、経路内での全体的な反応は酸化還元がニュートラルではあるが、酸化還元補助酵素の不均衡が生ずる。このことは、その経路でNAD+/NADH補助酵素対のみを使用する場合、回避することができる。
L−キシルロース還元酵素の説明を糸状菌および高等動物についておこなう。ハムスターの肝臓から、L−キシルロース還元酵素活性も持つジアセチル還元酵素をコードする遺伝子が同定された(イシクラ(Ishikura)等:「ハムスター・ジアセチル還元酵素の分子クローニング、発現、および組織分布。L−キシルロース還元酵素との同一性」、ケミコ・バイオロジカル・インタラクションズ(Chem Biol Interact)第130−132巻879〜889頁(2001))。
これらのL−キシルロース還元酵素活性のすべてが共通してNADPHに対して完全に結合している。我々の知る限りでは、NADHに共役するL-キシルロース還元酵素活性については報告されていない。
ハルボーン(Hallborn)他:「D−アラビニトール脱水素酵素活性を持つピチア・スティピティス(Pichia stipitis)から得た短鎖脱水素酵素遺伝子」、イースト(Yeast)第11巻839〜847号(1995)は、NAD+依存型D−アラビニトール脱水素酵素を記載しており、この酵素はD−アラビニトールからD−リブロースを形成している。彼らの報告では、NAD+およびキシリトールによる活性についても言及しているが、D−キシルトールがこの活性の生成物であると結論づけられた。
安いバイオマスを有用な生成物に変換するための工業的に適用可能な生物工学的手段が求められ続けている。

【特許文献1】WO02/066616
【非特許文献1】バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem Biophys Res Commun)第3巻554〜559頁(1960)
【非特許文献2】「アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)でのL−アラビノースおよびD−キシロース代謝」、ジャーナル・オブ・ジェネラル・マイクロバイオロジー(J Gen Microbiol)第135巻2163〜2171頁(1989)
【非特許文献3】「菌類L−アラビニトール4−脱水素酵素遺伝子」、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(J Biol Chem)第276巻40631〜40637頁(2001)、リチャード(Richard)他
【非特許文献4】「真菌L−アラビノース代謝経路でのミッシング・リンク、L−キシルロース還元酵素遺伝子の同定」、バイオケミストリー(Biochemistry)第41巻6432〜6437頁(2002)、リチャード(Richard)他
【非特許文献5】「菌類L−アラビノース経路を含む酵母(Saccharomyces cerevisiae)によるL−アラビノースからのエタノール生産」、FEMsイースト・リサーチ(Yeast Res)第3巻185−189頁(2003)
【非特許文献6】「D−キシロースまたはL−アラビノース上で増殖できないピチア・スティピティス(Pichia stipitis)突然変異体の特徴付けおよび補完」、アプライド・バイオケミストリー・アンド・バイオテクノロジー(Appl Biochem Biotechnol)第84−86巻201〜216頁(2000年)
【非特許文献7】「L−アラビノース発酵酵母のスクリーニング」、アプライド・バイオケミストリー・アンド・バイオテクノロジー(Appl Biochem Biotechnol)第57−58巻233〜242頁(1996)
【非特許文献8】「キシロース発酵酵素ピチア・スティピティス(Pichia stipitis)由来のNAD(P)H依存型キシロース還元酵素の特性」、バイオケミカル・ジャーナル(Biochem J)第226巻669〜677頁(1985)
【非特許文献9】「ハムスター・ジアセチル還元酵素の分子クローニング、発現、および組織分布。L−キシルロース還元酵素との同一性」、ケミコ・バイオロジカル・インタラクションズ(Chem Biol Interact)第130−132巻879〜889頁(2001))。
【非特許文献10】「D−アラビニトール脱水素酵素活性を持つピチア・スティピティス(Pichia stipitis)から得た短鎖脱水素酵素遺伝子」、イースト(Yeast)第11巻839〜847号(1995)
【発明の開示】
【0006】
したがって、本発明は、好ましい特性を示す酵素タンパク質をコードする遺伝子を含む新規の単離DNA分子を提供する。
さらに、本発明は、宿主微生物内で都合良く本発明の遺伝子の形質転換および発現を可能にする、本発明の遺伝子を含む遺伝子組換えDNA分子を提供する。
本発明はさらに、本発明のDNA分子によって形質転換され、かつ生体材料から炭水化物(例えば、糖またはその誘導体)を効果的に発酵させて有用な発酵生成物を得ることが可能な、遺伝学的に改変された微生物を提供する。
本発明の別の目的は、発酵媒体中で、炭水化物、特に糖またはその誘導体(例えば糖アルコール)を有用な変換生成物に変換するために宿主によって発現し得る酵素タンパク質または上記炭水化物を有用な最終生成物もしくは中間代謝物に生体外(in vitro)変換するために酵素製剤の形態である酵素タンパク質を提供することである。
【0007】
(図面の簡単な説明)
図1は、L−アラビノースを利用する菌類経路および細菌経路を示す。
図2は、NADH依存型L−キシルロース還元酵素をコードするDNA分子に含まれる配列番号1のcDNA配列と、該cDNAによってコードされる配列番号2のアミノ酸配列とを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、最初に、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を示す酵素タンパク質をコードする遺伝子を含む単離DNA分子を提供する。単離および同定の手順は、後述する。
本明細書中で、「NADH依存型L−キシルロース還元酵素」または「NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有する酵素タンパク質」という表現は、本発明の酵素タンパク質がL−キシルロース還元酵素活性を示し、かつ補助酵素としてNADHを使用すること、すなわちNADPHを補助酵素としては希にしか使用しない既知のL−キシルロース還元酵素とは反対に完全にNADH依存型酵素であること、を意味する。
本明細書中で、「遺伝子」という用語は、特定の酵素タンパク質の特徴を示すアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸セグメントのことを意味する。したがって、本発明の遺伝子は、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有する酵素タンパク質の特徴を示すアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。この「遺伝子」は、必要に応じて、さらに核酸配列(例えば、調節配列)を含むものであってもよい。
「DNA分子」、「DNA配列」、および「核酸配列」という用語が同様にcDNA(相補DNA)を包含することは、明白である。
したがって、NADH依存性により、本発明の目下のL−キシロース還元酵素は、代謝経路の酵素の1つとしてL−キシルロース還元酵素が包含される代謝経路での酸化還元補助酵素再生の代替を提供する。特に、本L−キシルロース還元酵素は、菌類のL−アラビノース経路でのNADP+−NAD+バランスを改善する。その結果、工業的利益のある菌類経路、例えばL−アラビノース経路を提供することができ、該経路は酸化還元補助酵素の不均衡を生ずることなくL−アラビノースをD−キシルロースに変換し得る。
好ましくは、本発明のDNA分子の遺伝子は、NADH依存型L−キシルロース還元酵素をコードするもので、該酵素は2位の炭素(C2)にケト基を有する糖による糖アルコールへの糖の可逆的変換に対する触媒活性を示し、該糖アルコールはフィッシャー投影のL型立体配置にあるC2のヒドロキシル基を持つ。特に、上記NADH依存型L−キシルロース還元酵素は、キシリトールへのL−キシルロースの可逆的変換を示す。別の有用な活性は、D−アラビニトールに対するD−キシルロースおよびD−リボロースの可逆的反応である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、DNA分子の遺伝子が、配列番号2のアミノ酸配列またはその機能的に等価な変異体を含む酵素タンパク質をコードする。
本発明の別の好ましい実施形態では、単離DNA分子は菌類に由来するNADH依存型L−キシルロース還元酵素をコードする遺伝子を含む。すなわち、この遺伝子配列は、菌類のL−キシルロース還元酵素から得ることが可能な配列またはその等価遺伝子配列を有する。菌類由来の好ましい例は、アンブロシウス・モノスポラ(Ambrosiotiynaa monospora)、特に上記のNRRLY−1484株である。
【0010】
さらに好ましい実施形態によれば、DNA分子の遺伝子は、配列番号1の核酸配列またはその機能的に等価な変異体を含む。配列番号1のcDNA配列は、ブダペスト条約の条項に従って、2003年8月5日付で、VTTバイオテクノロジー(VTT Biotechnology)(住所:フィンランド私書箱1500、02044VTT、チエトチエ(Tietotie)2)によって国際寄託機関であるドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche
Sammlung von Mikrooganismen und Zellkulturen GmbH)(D-38124ブラウンシュワイク(Braunschweig)、マシュエロデル・ウエグ(Mascheroder Weg)、DSMZ)に寄託され、寄託番号DSM15821が割り当てられた。酵母寄託株(S.cerevisiae)DSM15821は、酵母の構成的プロモータのもとで多コピー型プラスミド上に、後述する実験の部分ではALX1遺伝子とも呼ばれる配列番号1のcDNA(図2も参照せよ)を含む。この株では、L−キシルロース還元酵素が発現される。寄託された核酸配列は、既知のアムブロシオジマ・モノスポラ(Ambrosiozyma monospora)NRRLY−1484に由来する。本発明の核酸およびアミノ酸配列に関してより詳しくは、寄託株で使用されたプラスミドおよび寄託株を以下の実験の部分(例えば実験1および2)ならびに図2に供した。また、このデータを支持するために配列番号1および配列番号2の配列表が含まれる。
同一の触媒活性を有する酵素をコードする異なる微生物に由来する遺伝子が配列類似性を有し、かつ該類似性が当業者によって多くのやり方で利用して同一触媒活性を有する他の器官に由来する他の遺伝子をクローニングすることが可能であることも周知である。そのような遺伝子もまた、本発明の実施に適している。
したがって、遺伝子のヌクレオチド配列での多くの小さな変異は、コードされたタンパク質の触媒特性を著しく変えるものではないことが明らかである。例えば、ヌクレオチド配列での多くの変化は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変えるものではない。また、アミノ酸配列は、タンパク質の機能的特性に変化を生ずることがない変異、特に酵素が触媒機能を実行するのを妨げることのない変異を有することができる。DNA分子のヌクレオチド配列でのそのような変異またはアミノ酸配列での変異は、これらの変異が特定の機能(例えば、特定の反応を触媒する)を有するタンパク質をコードする遺伝子の機能、あるいは特定の機能を持つタンパク質の機能を、それぞれ著しく変えることはないことから、「機能的に等価な変異」として知られている。したがって、配列番号1のヌクレオチド配列のフラグメントと配列番号2のアミノ酸配列のフラグメントとがそれぞれ含まれるそのような機能的に等価な変異体は、本発明の範囲内に包含される。
【0011】
さらに、本発明は遺伝子組換えDNA分子、すなわち組換えDNAも対象とするもので、該遺伝子組換えDNA分子はベクター、とりわけ宿主細胞(すなわち、微生物)で発現し得るように上記に定義されたような本発明のDNA分子である遺伝子を含む発現ベクターに適当である。組換えDNAでは、本発明の遺伝子はプロモータに対して作用可能に結合することが可能である。ベクターは、ウイルス(例えばバクテリオファージ)またはプラスミド等の従来のベクター、好ましくはプラスミドである。発現ベクターの構築は、当業者の技術範囲である。一般的手法および具体例を以下に記す。
さらに、上記のDNA分子は、上記のDNA分子の遺伝子によってコードされるアミノ酸を含むNADH依存型L−キシルロース還元酵素を生産するために微生物を形質転換させることに、好ましくは用いられる。したがって、上記NADH依存型L−キシルロース還元酵素を発現するために上記の本発明のDNA分子を含む遺伝学的に改変された微生物を提供する。
炭水化物、好ましくは糖または糖誘導体を含む生体材料から所望の変換生成物を生産するのに適当な任意の微生物に対して、本発明のDNA分子を導入することができる。当業者にとっては、「適当な微生物」とは(1)上記酵素タンパク質をコードする本発明のDNAの遺伝子を発現することができること、必要に応じて(2)原料(すなわち、生体材料)を工業的に変換して所望の生成物を得るために必要である別の酵素を生産し得ること、それに加えて(3)形成された変換生成物、すなわち任意の中間体および/または最終生成物を許容して工業生産を可能にすることを意味する。微生物の形質転換(またはトランスフェクション)は、バイオテクノロジーで公知の方法で、好ましくは上記または下記の本発明のベクターを用いて作用を受けることができる。
【0012】
当然、本発明の上記微生物によって利用される生体材料が現在のNADH依存型L−キシルロース還元酵素によって変換可能である糖生成物を含むか、あるいは上記微生物がさらに他の遺伝子を発現して、出発物質である生体材料を本発明の遺伝子より発現された上記還元酵素により利用可能な糖生成物に変換する上で必要である酵素を生産する。
さらに、所望の変換生成物に応じて、現在のNADH依存型L−キシルロース還元酵素の変換生成物を所望の生成物に変換し得る1種類以上の他の酵素を発現するためのさらなる遺伝子を含むものであってもよい。好ましくは、本発明の酵素および上記した任意の他の酵素の少なくとも一部は、同一代謝経路の構成要素である。さらに、本発明の微生物は、2種類以上の代謝経路の酵素に関する遺伝子を含むものであってもよく、それによって該代謝経路のうちの1つの生成物を別の代謝経路で利用し得る。
上記任意の他の遺伝子は、例えば本発明の酵素生成物を代謝する経路での酵素発現にとって必要であったこと、および/あるいは別の経路のものが微生物のゲノムに含まれる場合があること、または該微生物が上記別の遺伝子のいずれかの遺伝子が欠失して形質転換される場合があることも、明らかである。
本発明の遺伝学的に改変された微生物は、糖等の炭水化物またはその誘導体(例えば、糖アルコール)を利用する能力を有する。本発明は、糖等の炭水化物またはその誘導体を含む炭素源から発酵生成物を生産する方法を提供するもので、該方法は適当な発酵条件で炭素源の存在下、上記した遺伝学的に改変された微生物を培養するステップと、必要に応じて、所望の発酵生成物を回収するステップとを含む。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、遺伝学的に改変された微生物は、L−アラビノースを利用する能力が高い。好ましくは、上記微生物は菌類のL−アラビノース経路の生成物および/またはペントースリン酸塩経路の生成物を生産する。特に、遺伝学的に改変された微生物は、L−アラビノースを含む生体材料を利用し、アルドース還元酵素(特にEC1.1.1.21)およびL−アラビニトール4−脱水祖酵素(特にEC1.1.1.12)という酵素をコードしてそれらを発現する菌類L−アラビノース経路の遺伝子を少なくとも含む。より詳しくは、上記微生物は、さらにD−キシルロース還元酵素(特にEC1.1.1.9)および/またはキシルロキナーゼ(特にEC2.7.1.17)という酵素をコードする菌類L−アラビノース経路の遺伝子と、必要に応じて、既知のペントースリン酸塩経路の酵素をコードする遺伝子とを含む。
遺伝学的に改変された微生物によって得ることが可能な所望の変換生成物として、菌類のL−アラビノース経路の変換生成物、例えばL−アラビニトール、L-キシルロース、キシリトール、D-キシルロース、および/またはD-キシルロース5−リン酸塩と、例えば菌類のL−アラビノース経路の最終変換生成物であるD−キシルロース5−リン酸塩を利用し得る既知のペントースリン酸塩経路または他の経路の変換生成物、例えばエタノールおよび/または乳酸とが挙げられる。本発明の遺伝的改変微生物は、好ましくは菌類であり、酵母および糸状菌から選択することができる。適当な菌類は、酵母である。
【0014】
工業用酵母は、処理上の利点、例えば高エタノール耐性、他の工業的ストレスに対する耐性、および急速発酵を有する。工業用酵母は、通常多倍数体であり、研究用の株と比べて遺伝子操作が難しいが、工業用酵母の遺伝子操作法は当該技術分野で公知である(例えば、ブロムクビスト(Blomqvist)多:「ビール酵母の2種類の細菌α−アセト乳酸塩脱炭酸酵素遺伝子の染色体への組み込みおよび発現」、応用環境微生物学雑誌(Appl. Environ. Microbiol.)第57巻2796〜2803頁(1991)、ヘンダーソン(Henderson)他:「銅耐性に関する遺伝子を含むプラスミドによるビール酵母の形質転換」、カレント・ジェネティックス(Current Genetics)第9巻133〜138頁(1985))。本発明の炭素源、例えばL−アラビノースを利用するために本発明にもとづいて形質転換可能である酵母として、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)種、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種、ピチア(Pichia)種、カンジダ(Candida)種、またはパキソレン(Pachysolen)種の株が挙げられる。また、シュワニオミセス種(Schwanniomyces
spp.)、アルクスラ種(Arxula spp.)、トリコスポロン種(Trichosporon spp.)、ハンセヌラ種(Hansenula spp)、およびヤロウイア種(Yarrowia spp.)を挙げることが可能である。好ましい酵母の一種は、サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)の工業用株、例えばビール酵母、酒造酵母、またはパン酵母の工業用株である。
さらに、糸状菌は本発明にもとづいても形質転換し得る。そのような菌類として、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)種、ニューロスポラ(Neurospora)種、フザリウム(Fusarium)種、ペニシリウム(Penicillium)種、フミコラ(Humicola)種、トリポクラジウム・ゲオデス(Tolypocladium
geodes)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)(ヒポクレア・ジェコリナ((Hypocrea jecorina)、ムコール(Mucor)種、トリコデルマ・ロンジブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus
nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、またはアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)が挙げられる。
【0015】
好ましくは、本発明の形質転換微生物は、サッカロミセス・セレビシアエ(S.
cerevisiae) の工業用株である。本発明の形質転換遺伝子と、それに加えて菌類L−アラビノース経路および必要に応じてペントースリン酸塩経路の他の遺伝子とを含み、L−アラビノース経路の利用可能な生成物の少なくとも1つ、好ましくはL−アラビノースを含む炭素源を上記経路の最終生成物および/または中間生成物、あるいは必要に応じてペントースリン酸塩経路の生成物に変換することができる。上記他の遺伝子のすべてまたは一部は、上記株のゲノムに存在してもよく、あるいはその株が上記他の遺伝子のすべてまたは一部によって形質転換された遺伝子組換え株であってもよい。適当な例は、本発明にもとづいて形質転換され、かつ出発物質である生体材料からエタノールを生産するサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)である。
本発明は、酵素および他の菌類に限定させるものではない。L−アラビノースを用いることができない、あるいはL−アラビノースの使用が不十分である任意の生物体、例えば細菌、植物、または高等真核生物で、このような特定の生物体に適し、かつ公知の遺伝学的手段を適用することで、L−キシルロース還元酵素をコードする遺伝子を発現させることができる。
NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有する新規の酵素タンパク質もまた、ここで単離および同定した。
本発明の別の態様として、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有し、かつ上記したようなDNA分子の遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を含む酵素タンパク質を提供する。
【0016】
本発明の具体的実施形態では、酵素タンパク質は配列番号2のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の機能的に等価な変異体を含む。機能的に等価な変異体として、配列番号2に対たいして少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、適切なものとして少なくとも70%、例えば少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
本発明はさらに、生体外(in vitro)酵素製剤に関し、該製剤は少なくとも上記の酵素タンパク質を少なくとも含む。この製剤は、酵素製剤の分野で公知の形態とすることが可能であり、例えば凍結乾燥形態等の微粉化可能な形態または溶液形態であってもよい。製剤の微粉化形態をそのようなものとして使用することが可能であり、あるいは使用前に適当な溶液に溶解されたものとして使用することが可能である。同様に、遺伝学的に改変された微生物について述べたように、本発明の酵素製剤は、一種類以上の他の酵素を含むものであってもよく、該酵素は本発明の酵素生成物によって利用可能な糖生成物に出発物質を変換することができ、さらに/あるいは本酵素の変換結果生成物を別の変換生成物に変換することができる。変換可能な原料である別の酵素および/または所望の最終生成物が、形質転換された微生物について上記したようなものであってもよい。
さらに、本発明は、C2位のヒドロキシル基がフィッシャー投影のL型立体配置にあるC2位にケト基を持つ糖を糖アルコールに変換するために、あるいはその逆変換、好ましくはL−キシルロースからキシリトールへの変換あるいはその逆変換のために、上記したようなNADH依存型L−キシルロース還元酵素の利用法を提供する。
【0017】
本発明の変換方法の一実施形態では、生成された酵素によって変換を可能にする発酵条件下、糖または糖アルコールを含む発酵培地中で、上記したような遺伝子組換え微生物によって酵素が生産される。
別の実施形態では、変換方法は、上記したような酵素製剤を用いた生体外(in vitro)変換として実行される。そのような製剤は、微生物で酵素を発現させ、得られた酵素生成物を回収することによって、または化学的に酵素生成物を調製することによって(例えばペプチド化学で知られている方法で)得られる。そのようなもの(最終生成物)として、または生物工学的もしくは化学的手段等によってさらに変換される中間生成物として、酵素製剤の変換生成物を用いることができる。
【0018】
本発明のDNA分子を単離および同定するための手順の説明
本発明のL−キシルロース還元酵素の遺伝子を同定するために、異なるアプローチが可能であり、当業者は異なるアプローチを使用するかもしれない。一つのアプローチが、対応する活性によってタンパク質を精製することであり、このタンパク質に関する情報を用いて対応の遺伝子をクローニングする。このことは、精製されたタンパク質に対するタンパク質分解処理、タンパク質分解生成物のアミノ酸配列決定、および該アミノ酸配列由来のプライマーによるPCRによって遺伝子の一部をクローニングすることを含む。次に、DNA配列の残りの部分は、種々の方法によって得ることができる。一つの方法は、ライブラリー・ベクターおよび遺伝子の既知の部分に由来するプライマーを用いたPCRによるcDNAライブラリーから得ることである。ひとたび完全な配列がわかると、その遺伝子をcDNAライブラリーから増幅して発現ベクターにクローニングし、さらに異種宿主で発現させることができる。このことは、スクリーニング戦略または配列間の相同性に基づいた戦略が適当ではない場合に、有用な戦略である。
遺伝子をクローニングする別のアプローチは、DNAライブラリーをスクリーニングすることである。このことは、単一遺伝子の過剰発現が検出容易な表現型を生ずる場合、特に良好かつ迅速な手順である。我々は、L−アラビニトール脱水素酵素およびL−キシロース還元酵素をコードする遺伝子を持つキシロース利用菌類の形質転換がL−アラビノース中で増殖する能力を与えることを開示した。L−キシルロース還元酵素の遺伝子を見つけ出す別の戦略は以下の通り。すなわち、L−キシルロース還元酵素を除くL−アラビノース経路の全ての遺伝子を持つ株を構築し、DNAライブラリーによって形質転換し、さらにL−アラビノース上での増殖についてスクリーニングをおこなうことができる。
L−キシルロース還元酵素の遺伝子をクローニングする他の方法および可能性がある。
すなわち、一つは、例えば、L−キシルロース還元酵素を見つけ出すためにL−キシルロース上での増殖についてスクリーニングするということもあり得る。
【0019】
関連タンパク質ファミリー由来の遺伝子に対する相同性を持つ遺伝子について既存のデータバンクをスクリーニングし、それらが所望の酵素活性をコードするかどうかを試験することができる。ここで、我々はL−キシルロース還元酵素遺伝子の配列(配列番号1)を開示した。当業者にとって、配列番号1に相同な遺伝子についてデータバンクをスクリーニングすることが容易である。相同遺伝子もまた、配列番号1に基づいたプローブを用いてDNAライブラリーの物理的スクリーニングをおこなうことによって、容易に見いだすことができる。適当なDNAライブラリーとして、L−アラビノースまたはL−キシルロースを利用することが可能な菌類および他の微生物から単離されたDNAまたはRNAから生成した。
当業者にとって、所望の酵素活性を持つタンパク質をコードする遺伝子を同定する異なる方法が存在する。ここに記載した方法は、我々の発明を例証するけれども、当業者に公知の他のいずれかの方法を用いることも可能である。
現在のNADH依存型L−キシルロース還元酵素を含むL−アラビノース経路の遺伝子の全てまたは一部分を、この経路を欠くかこの経路の一部を既に持つ新規宿主微生物に導入することができる。例えば、D−キシロースを利用し得る菌類は、L−アラビニトールをキシリトールに変換する酵素のみを必要とするかもしれない。そのため、L−アラビニトール4−脱水素酵素およびL−キシルロース還元酵素の発現がL−アラビノース経路を完了させるのに十分であろう。酵素アッセイは、菌類アラビノース経路の全てのステップに関して説明されており(ウイットビーン(Witteveen)他、1989)、それらは特定の宿主で失われたステップまたは効果のないステップの同定を促す必要がある場合に用いられる。
【0020】
実施例では、L−キシルロース還元酵素を発現させるためにサッカロミセス・セレビシアエ(S.
cerevisiae)由来のPGK1プロモータを用いた。このプロモータは、強力かつ構成的であると考えられている。より強力であるかあるいは劣る他のプロモータを用いることができる。それは、構成的なプロモータを使用する必要もない。誘導可能または抑制可能なプロモータを用いることができ、例えば異なる糖類の逐次的発酵が求められる場合、利点を有すると思われる。
本実施例では、L−キシルロース還元酵素遺伝子用としてプラスミドを使用した。このプラスミドは、選択マーカーを含んだ。また、選択マーカーなしでプラスミドからその遺伝子を発現させることもでき、あるいはその遺伝子を染色体に組み込むこともできる。この選択マーカーを用いて、成功した形質転換の検出をよりいっそう容易にし、かつ遺伝子コンストラクトを安定化させた。酵母株の形質転換は、酢酸リチウム法によっておこなった。他の形質転換法が公知であり、そのいくつかは特定の宿主にとって好ましく、本発明を達成するためにそれらを用いることができる。
【0021】
本発明の具体的実施形態
本発明の好ましい一実施形態によれば、菌類がL−アラビノースを効率的に利用することができないことが該菌類を遺伝学的に改変することによって解決され、この改変はNADH依存型L−キシルロース還元酵素の遺伝子によって該菌類を形質転換させることを特徴とする。
別の実施形態によれば、L−アラビノース経路の酵素をコードする遺伝子のすべてまたはいくつか、すなわち少なくともアルドース還元酵素、L−アラビニトール4−脱水素酵素、微生物(好ましくは菌類)をL−アラビノース経路の遺伝子すべてで形質転換する。したがって、結果として得られる微生物(例えば菌類)はL−アラビノースをより効率的に利用することができる。
さらなる実施形態では、D−キシロースを利用できるがL−アラビノースは利用できない遺伝子組換えサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)等の菌類を、L−アラビノースを利用するためのL−アラビニトール4−脱水素酵素およびL−キシルロース還元酵素の遺伝子によって、形質転換した。
【0022】
ここでは、「利用」という用語の意味は、生物が糖等の炭水化物またはその誘導体、例えばL−アラビノースを炭素源またはエネルギー源として利用し得ること、あるいは生物が上記生成物(例えば、L−アラビノース)を有用な物質である他の化合物に変換し得ることである。
以下、菌類微生物を遺伝子組換えして糖等の炭水化物またはその誘導体、例えばL−アラビノースを含む生体材料が利用可能となることを実際に示すために、好ましい実施形態によって説明する。菌類にはもともとアラビノースを利用し得るものと利用できないものとがある。L−アラビノース利用能を持たないが、他の所望の特徴、例えば工業的状態に耐える能力あるいはエタノール、乳酸、またはキシリトール等の有用な生成物を生産する能力を有する生物に対して、L−アラビノース利用能を導入することが求められる。遺伝子工学的手段によってL−アラビノース利用能を導入するために、宿主細胞で一緒に機能し得る一連の酵素の遺伝子すべてを知ることで、宿主が異化代謝をおこなって有用な生成物を生産し得る誘導体(例えば、D−キシルロース5−リン酸塩)にL−アラビノースを変換することが不可欠である。したがって、失われた1つの酵素をコードする遺伝子または失われた複数の酵素をコードする複数の遺伝子で特定の宿主を形質転換させることで、そのような一連の酵素がその宿主内に全部揃うことになる。
一例はL−アラビノースを利用するためにサッカロミセス・セレビシアエ(S.
cerevisiae)を遺伝子工学的に処理することであり、サッカロミセス・セレビシアエ(S.
cerevisiae)はエタノールを良好に生産するけれども、L−アラビノース利用能が欠けている。他の例は、有用な特徴を有するにもかかわらず機能的L−アラビノース経路の少なくとも一部分が欠けている生物である。
菌類で機能すると考えられるL−アラビノース経路を図1に示す。アルドース還元区尾所(EC1.1.1.21)、D−キシルロース還元酵素(EC1.1.1.9)、およびキシルロキナーゼ(EC2.7.1.17)をコードする遺伝子が知られている。また、別の遺伝子2つ、すなわちL−アラビニトール4−脱水素酵素(EC1.1.1.12)およびL−キシルロース還元酵素(EC1.1.1.10)の酵素が必要とされ、さらにアミノ酸配列が最近になってWO02/066616に開示されており、その開示内容を本明細書に援用する。
【0023】
L−キシルロース還元酵素(EC1.1.1.10)(例えば、WO02/066616に開示)は、キシリトールおよびNADP+をL−キシルロースおよびNADPHに変換する。本発明は、NADH依存型であり、かつ既知のNADPH依存型還元酵素の代わりに有利に使用し得る別のL−キシルロース還元酵素を提供する。
L−アラビノースを利用することができないが良好なエタノール生生成物であるサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)という菌類は、アルドース還元酵素、L−アラビニトール4−脱水素酵素、現在のL−キシルロース還元酵素、D−キシルロース還元酵素、およびキシルロキナーゼの遺伝子によって形質転換することができ、L−アラビノースおよびD−キシロースを有効に利用することが可能となる。そのような株では、最も豊富なヘキソースおよびペントース糖を発酵させてエタノールにすることができる。
しばしば、生物は生物工学的用途で有用な条件下では発現されない遺伝子を含む。例えば、サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)がキシロールを利用することができないと一度は一般に信じられ、サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)がキシロースの使用を可能にさせる酵母をコードする遺伝子を含まないと予想されたにもかかわらず、サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)がそのような遺伝子を含まないことが示された(リチャード他:「サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)のYLR070c遺伝子がキシリトール脱水素酵素をコードするという証拠」、FEBSレター(FEBSLett)第457巻135〜138頁(1999))。しかし、これらの遺伝子は一般に十分には発現されなかった。したがって、本発明の別の態様は、NADH依存型であるL−キシルロース還元酵素の遺伝子を宿主細胞それ自体の中で同定し、生物工学的プロセス、例えばL−アラビノース含有バイオマスのエタノール発酵にとって都合の良い条件下で、その同一生物でその遺伝子を発現させることである。我々は、配列番号1に対する類似性について検索するためのものであるそのような正常非発現遺伝子の候補を同定する方法を開示した。次に候補遺伝子を、発現ベクター内にクローニングし、適当な宿主と実施例に記載されたような適当な触媒活性について試験された宿主の無細胞抽出液とで発現させることができる。正常非発現または不十分に発現した遺伝子が所望の酵素をコードすることを確認した場合、次に遺伝子を元の生物にクローニングし戻すことができるが、この際に適当な生物工学的条件下でその遺伝子を発現させる新規のプロモータを持もちいられる。このことはまた、無傷の生物で遺伝子のプロモータを遺伝学的に操作することで達成される。
【0024】
本発明のさらに別の態様では、真菌(例えば、L−アラビノースを利用する能力を持ち得る糸状菌等の菌類が挙げられる)由来のL−キシルロース還元酵素をコードする遺伝子を、配列番号1に対する類似性によって今や容易に同定することができる。次に、この遺伝子を、例えばプロモータを、より強力なプロモータ、あるいはL−アラビノースを利用する生物能力が高まるように異なる特性を持つプロモータによって変えることで、修飾することができる。
真菌は、乳酸生産に必要な酵素を本来有するものではないと思われ、あるいは乳酸の生産が非効率的であると思われる。これらの場合、酪酸脱水素酵素(LDH)をコードする遺伝子の発現を真菌で増加または改善することができ、それによって真菌はより効率的に乳酸を生産することができる(例えば、WO9/14335)。同様に、当業者に公知の方法を用いて、この発明で記載したようにより効率的にアラビノースを用いるように改変された真菌を、さらに改変して乳酸を生産させることが可能である。エタノール、乳酸とアラビニトール、およびキシリトール等の糖アルコールと同様に、本発明の菌類を利用してL−アラビノースから得ることができる。これらの菌類は、アラビノース経路を介してL−アラビノースを、ペントースリン酸塩経路の中間体であるキシルロース-5-リン酸塩に変換する。したがって、ペントースリン酸塩誘導体(例えば、芳香族アミノ酸)もまた、ピルビン酸塩に由来する他の基質と同様に、乳酸塩およびエタノールの共通前駆体であると思われる。
次に、形質転換真菌を用いて、L−アラビノースと、おそらく多のペントース類もしくは多の発酵可能な糖類とを含む農業もしくは林産物および廃棄物を含むバイオマス等の炭素源を発酵させる。発酵用炭素源の調製および発酵条件は、宿主真菌を用いることで同一炭素源の発酵に用いられるものと同様のものとすることができる。しかし、本発明にもとづいて形質転換された真菌は、宿主真菌がおこなうよりもより多くのL−アラビノースを消費して、宿主真菌よりも炭水化物全体のよりも多くのエタノール収率を生ずる。炭素源の調製、共存基質および他の栄養素の添加、ならびに発酵温度、攪拌、ガス供給、窒素供給、pH制御、添加発酵生物量を、発酵している原料および発酵微生物の性質にもとづいて最適化することができる。したがって、宿主真菌と比較して改善された形質転換真菌の性質を、十分に確立されたプロセス工学の手順にもとづいて発酵条件を最適化することで、さらに改善することができる。
【0025】
L−アラビノース含有炭素源および他の発酵可能な糖からエタノールを生産するために本発明にもとづく形質転換真菌を用いることは、いくつかの工業的利点を有する。これらの例として、炭素源1トンあたりのエタノール収率が高いことおよび発酵物質中に含まれるエタノール濃度が高いことが挙げられ、両方とも、例えば燃料として用いる蒸留エタノールの生産コストを下げる一因となる。さらに、L−アラビノース含有量が低下することから発酵廃棄物の汚濁負荷が減少し、より浄化されたプロセスが得られる。
リグノセルロース原料は、自然界に豊富に存在し、微生物プロセスにとって再生可能かつ安価な炭水化物源である。アラビノース含有原料は、例えば種々のペクチンおよびヘミセルロース誘導体(例えば、キシラン)であり、ヘキソースとペントース(キシロース、アラビノース)との混合物を含む。有用な原料として、紙パルプ産業から生ずるパルプ廃液および木材加水分解生成物等の副生成物と、糖バガス、トウモロコシ穂軸、トウモロコシ線維、オート麦、小麦、オオムギ、もみ殻および藁、ならびにそれらの加水分解生成物等の農業副生成物とが挙げられる。また、高分子物質を含むアラビナンまたはガラクツロン酸を利用することができる。
したがって、本発明は、微生物、特に菌類でのL−アラビノース利用能に関して、経路(例えば、L−アラビノース、および必要に応じてペントースリン酸塩経路)の酵素を発現させるための有利な手段を可能にする。
【0026】
(実施例)
【実施例1】
【0027】
実施例1:L−アラビノース上での改善された増殖のスクリーニング
サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae) H2651株(リチャード他:「菌類L−アラビノース経路のミッシング・リンク、L−キシルロース還元酵素遺伝子の同定」、バイオケミストリー(Biochemistry)第41巻6432〜6437頁(2002))を用いて、L−アラビノースの改善された増殖についてアムブロシオジマ・モノスポラ(Ambrosiozyma monospora)cDNAライブラリーのスクリーニングをおこなった。H2651株は、菌類L−アラビノース経路の遺伝子全てを含んだ。アルドース還元酵素およびキシリトール脱水素酵素をそれぞれコードするピチア・スティピティス(Pichia stipitis)XXL1およびXYL2遺伝子をURA3座に組み込んだ。この株はまた、キシルコキナーゼをコードする内因性XKSI遺伝子を発現する。ハイポクレア・ジェコリア(Hypocrea jecorina)(トリコデルナ・レエシ(Trichoderra
reesei)由来のL−アラビニトール脱水素酵素およびL−キシルロース還元酵素をコードするLad1およびlxr1遺伝子は、LEU2およびURA3マーカー遺伝子を有する異なる多コピー発現ベクターであった。
【0028】
アムブロシオジマ・モノスポラ(Ambrosiozyma monospora)cDNAライブラリーの構築
酵母アムブロシオジマ・モノスポラ(Ambrosiozyma monospora)(NRRL Y−1484)を、炭素源として2%L−アラビノースを含むYNB培地(ディフコ(Difco)で培養した。細胞を一晩30℃で培養し、遠心により収集した。全RNAをトリゾール(Trizol)試薬キット(ライフ・テクノロジー社(Life Technologies
Inc.)を用いて、製造元の取扱説明書に従って細胞から抽出した。オリゴテックス(Oligotex)mRNAを変性キット(キアゲン(qiagen))を用いて全RNAから単離した。cDNAをスーパースクリプト(SuperScript)cDNA合成キット(インビトロジェン(Invitrogen))によって合成し、cDNA含有分画をプールしてSalI−NotI切断pEXP−AD502ベクター(インビトロジェン(Invitrogen))に結合させた。結合混合物による大腸菌(E.coli)DH5a株の形質転換を、製造元の取扱説明書に従って「ジーン・パルサー/マイクロ・パルサー・キュベット(Gene pulser/micro pulser cuvette)」(バイオラド(BioRad)による電気穿孔法によっておこなった。一晩インキュベーションした後、約30,000の独立コロニーをアンピシリン・プレートからプールし、50%グリセロール+0.9%NaCl中、−80℃に保存した。形質転換体からプラスミドを抽出する前に、それをLB培地で4時間増殖することによってライブラリーの増殖をおこなった。
【0029】
サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)でのcDNAライブラリーのスクリーニング
サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)H2651株を、ギエッツ・ラボ・トランスフォーメーション・キット(Gietz Lab Transformation Kit)(モレキュラー・リサーチ・リージェンツ社(Molecular Research Reagents Inc.)を用いて形質転換した。形質転換体を、ウラシル、ロイシン、およびトリプトファン欠乏で、炭素源として2%グルコースを含む選択培地上にプレーティングした。2日後、このプレートの複製を、炭素源として1%L-アラビノース含有プレート上で、おこなった。生じた最初のコロニーから、プラスミドを回収して大腸菌(E.coi)DH5α株を回収した。ライブラリー由来のプラスミドを担持するコロニーを、pEXP-AD502ベクターf2:5'-TATAACGCGTTTGGAATCACT-3'およびr:5'-TAAATTTCTGGCAAGGTAGAC-3'の特異的プライマーによるPCRによって、同定した。プラスミドを抽出し、同一のプライマーによって配列決定した。
上記クローンの一つは、272アミノ酸で分子量が29,495Daであるタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームを持つプラスミドを含んでいた。推定タンパク質配列は、ピチア・スティピティス(P.stipitis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)で見いだされたD−アラビニトール脱水素酵素に対する高い相同性を有した。また、それはハイポクレア・ジェコリナ(H. jecorina)のlxr1遺伝子産物に対する相同性が低かった。この遺伝子を、アンブロシウス・モノスポラ(A. monospora)L-キシルロース(xylulose)還元酵素のALX1と命名した。この配列を配列番号1とした。
【実施例2】
【0030】
実施例2:サッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)でのL-キシルロース還元酵素の発現
ALX1遺伝子をSalI-NotI消化後に単離し、ウラシル選択およびPGK1プロモータを持つ多コピー発現ベクターに結合した。SalIおよびNotI制限部位を多重クローニング部位に導入することによって、pFL60から発現ベクターを得た。結果として得られたプラスミドをp2178と呼ぶことにした。次に、このプラスミドによってサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)CEN.PK2株の形質転換をおこなった。この株をH2986とし、上記したように寄託番号DSM15821として寄託した。
【0031】
細胞抽出物での酵素測定
H2986株の細胞抽出物を用いて、種々の細胞抽出物の酵素活性についての試験をおこなった。細胞をグルコース選択培地上で一晩培養し、細胞抽出物をY-PER試薬(ピアス(Pierce))で調製した。0.5mlの試薬を用いて0.1gの細胞を溶解した。溶解に先立って、「EDTAを含まない完全タンパク質阻害剤」(ローチ(Roche))を細胞懸濁液に添加した。
D-アラビノースおよびキシリトールによる酵素活性を、100mMトリスHCl、0.5mMのMgCl2および2mMのMAD+または2mMのNADP+中を含む試薬中で測定した。反応を開始させるために、100mM糖アルコール(最終濃度)を添加した。全ての測定を30℃でコバス・ミラ(Cobas
Mira)自動分析装置(ロシュ(Roche)内でおこなった。
活性の観察は、糖アルコールによっておこない、この糖アルコールがD-アラビニトールまたはキシリトールである場合は基質としてNAD+を用いた。これらのポリオール類による活性は類似していた。対照として、ALX1のみが欠損している類似の株を用いた。対照株は、なんら活性を示さなかった。ALX1を発現する株によって、C5糖アルコールであるL-アラビニトールおよびC6糖アルコールであるD-マンニトールおよびD-ソルビトールでは活性が観察されなかった。
【0032】
HisタグNAD-LXR1の精製
以下のプライマー5'-GACTGGATCCATCATGCATCATCATCATCATCATATG ACTGACTACATTCCAAC-3'および5'-ATGCGGATCCCTATATATACCGGAAAATC GAC-3'を用いたPCRによって遺伝子を増幅することで、6つのヒスチジンを含有するヒスチジンをタンパク質のN末端に付加した。クローニングを促進するために、両プライマーともBamHI部位を有する。この遺伝子を、PGK1プロモータを有する酵母多コピー発現ベクターYEplac195にクローニングした(ベルホー(Verho)他:「クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)から最初の菌類のNADP-GAPDHの同定」、バイオケミストリー(Biochemistry)第41巻13833〜13838頁(2002))。結果として得られたプラスミドをp2250と命名した。この遺伝子をサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)GEN.PK2株で発現させ、Hisタグ・タンパク質の活性を細胞抽出物での酵素活性測定で確認した。タンパク質を精製するために、ヒスチジン・タグ・コンストラクトを発現する酵母株を2%グルコース含有選択培地500ml中で一晩増殖させ、細胞を回収した。上記したようにY−PER試薬で細胞を溶解させ、溶解物をNiNTAカラム(キアゲン(Qiaegn))に注いだ。
【0033】
精製されてヒスチジン・タグを付けたタンパク質による酵素測定
粗細胞抽出による観察と類似して、糖アルコールと、この糖がD−アラビニトールまたはキシリトールである場合に基質としてNAD+とを用いて、活性の観察をおこなった。C5糖アルコールであるL−アラビニトールおよびアドニトール(リビトール)ならびにC6糖アルコールズルシトール(ガラクチトール)では活性が観察されなかった。反応を開始するために、ズルシトール(ガラクチトール)を除く全ての他の糖アルコールに関して、100mM糖アルコール(最終濃度)を添加した。ズルシトールについては、最終濃度10mMで用いた。NAD+をNADP+で置き換えた場合、活性はみられなかった。精製タンパク質もまた、順方向の反応の測定に用いた。糖を基質として用いた順方向での活性測定を、100mMヘペス(Hepes)−NaOH(pH7)、2mMのMgCl2、および0.2mMのNADHを含む試薬中でおこなった。D−ソルボースを除く他の全ての糖について、最終濃度50mMの糖を用いて反応を開始させた。D−ソルボースに関しては、最終濃度10mMを用いた。基質としてNADHおよび糖による方向(direction)では、L−キシルロースおよびD−リブロースを用いて活性を観察した。著しく減少した活性は、ペンツロース糖であるD−キシルロースで観察され、へキスロース糖であるD−ソルボース、L−ソルボース、D−プシコース、およびD−フラクトースでは何ら活性が観察されなかった。
精製タンパク質もまた、酵素のミカエリス・メンテン定数を決定するのに用いた。D−リブロースのKm値は、2.2±0.8mMおよびL−キシルロースのKm値は8.1±0.7mMであった。Vmax値は、D−リブロースで1,900±330nkat/mg、L−キシルロースで4,100±100nkat/mgであった。動態パラメータは、キシリトールで7.6±1.3mMおよび220±15nkat/mg、ならびにD−アラビトールで2.4±0.1mMおよび210±11nkat/mgであった。
【0034】
HPLCによる生成物同定
精製酵素もまた、反応生成物の同定に用いられた。順方向に対して、100mMのヘペス(Hepes)−NaOH(pH7)、2mMのMgCl2、2mMのNADH、および2mMのペンツロースからなる混合物を使用した。逆反応の生成物を、100mMのトリス(Tris)−HCl(pH9)、2mMのMgCl2、10mMのNAD+、および20mMポリオールを含む試薬で同定した。6nkatの酵素を試薬に添加し、室温で3時間インキュベートした。
生成物をHPLC分析で同定した。水の流速0.6ml/分としてアミネクス(Aminex)Pbカラム(バイオラド(BioRad)を85℃で用いた。ポリオールおよびペンツロースを、ウオーターズ(Waters)410RI検出器で検出した。
還元反応でD−リブロースおよびL−キシルロースによる主活性ならびに酸化反応でキシリトールおよびD−アラビニトールによる主活性が観察されたことから、これらの反応の生成物をHPLCで同定した。L−キシルロースからキシリトールが形成された。この分析によって、いっさいのアラビニトールまたはアドニトール(リビトール)の形成を排除することが可能になった。D−リブロースから、アラビニトールが形成された。使用したHPLC法は、L−アラビニトールとD−アラビニトールとの違いを区別することはできない。逆方向では、リブロースおよびキシルロースがDーアラビニトールから形成され、キシルロースがキシリトールから形成された。また、上記方法は、L−キシルロースとD−キシルトールとの違い、ならびにL−リブロースとD−リブロースとの違いを区別することはできない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】L−アラビノースを利用する菌類経路および細菌経路を示す。
【図2】NADH依存型L−キシルロース還元酵素をコードするDNA分子に含まれる配列番号1のcDNA配列と、該cDNAによってコードされる配列番号2のアミノ酸配列とを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたDNA分子であって、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有する酵素タンパク質をコードする遺伝子を含むことを特徴とする単離DNA分子。
【請求項2】
前記酵素タンパク質が2番目の炭素、すなわちC2位にケト基を有する糖から、フィッシャー投影のL型立体配座でC2位にヒドロキシル基を有する糖アルコールへの可逆的変換に対する触媒活性を有することを特徴とする請求項1にもとづく単離DNA分子。
【請求項3】
前記酵素タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列またはその機能的に等価な誘導体を含むことを特徴とする請求項1または2にもとづく単離DNA分子。
【請求項4】
前記酵素タンパク質が、菌類起源のNADH依存型L−キシルロース還元酵素であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかにもとづく単離DNA分子。
【請求項5】
前記菌類起源がアンブロシウス・モノスポラ(Ambrosiotiynaa
monospora)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかにもとづく単離DNA分子。
【請求項6】
前記遺伝子が配列番号1の核酸配列またはその機能的に等価な誘導体を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかにもとづく単離DNA分子。
【請求項7】
前記NADH依存型L−キシルロース還元酵素がキシルロースからキシリトールへの前記可逆的変換に対する触媒活性を示すことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかにもとづく単離DNA分子。
【請求項8】
ベクターであって、請求項1ないし7のいずれかにもとづくDNA分子を含むことを特徴とするベクター。
【請求項9】
遺伝学的に改変された微生物であって、前記NADH依存型L−キシルロース還元酵素を発現するために請求項1ないし7のいずれかにもとづくDNA分子によって形質転換されたことを特徴とする遺伝学的に改変された微生物。
【請求項10】
請求項8のベクターによって形質転換または形質移入されていることを特徴とする請求項9にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項11】
糖または糖アルコールを利用する能力を有することを特徴とする請求項9または10にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項12】
L−アラビノースを利用する能力を有することを特徴とする請求項11にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項13】
前記微生物が菌類のL−アラビノース経路および/または菌類のペントースリン酸塩経路の誘導体を生産することを特徴とする請求項9ないし12のいずれかにもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項14】
前記微生物が前記菌類のL−アラビノース経路の遺伝子を少なくとも含み、前記遺伝子がアルドース還元酵素およびL−アラビニトール4−脱水素酵素の酵素を発現するために該酵素をコードすることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかにもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項15】
前記微生物がさらに、D−キシルロース還元酵素および/またはキシルロキナーゼの酵素をコードする前記菌類のL−アラビノース経路の遺伝子と、必要に応じて、ペントースリン酸塩経路の酵素をコードする遺伝子とを含むことを特徴とする請求項14にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項16】
アラビニトール、キシリトール、エタノール、および/または乳酸を生産することを特徴とする請求項9ないし15のいずれかにもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項17】
前記遺伝学的に改変された微生物が真菌、好ましくは酵母または糸状菌から選択されることを特徴とする請求項9ないし16のいずれかにもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項18】
前記酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)種、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種、ピチア(Pichia)種、カンジダ(Candida)種、またはパキソレン(Pachysolen)種の株であることを特徴とする請求項17にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項19】
前記株がサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)、例えばサッカロミセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)の遺伝子組換え株であることを特徴とする請求項18にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項20】
前記糸状菌が、アスペルギルス(Asperigillus)種、トリコデルマ(Trichoderma)種、ニューロスポラ(Neurospora)種、フザリウム(Fusarium)種、ペニシリウム(Penicillium)種、フミコラ(Humicola)種、トリポクラジウム・ゲオデス(Tolypocladium
geodes)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)(ヒポクレア・ジェコリナ((Hypocrea jecorina)、ムコール(Mucor)種、トリコデルマ・ロンジブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus
nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、またはアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)の株、例えばその遺伝子組換え株であることを特徴とする請求項17にもとづく遺伝学的に改変された微生物。
【請求項21】
炭水化物を含む炭素源から発酵生成物を生産するための方法であって、適当な発酵条件下にある炭素源の存在下で、請求項9ないし20のいずれか一項にもとづく遺伝学的に改変された微生物を培養するステップと、必要に応じて発酵生成物を回収するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記炭素源がL−アラビノースを含み、前記微生物が請求項12ないし15の定義通りであることを特徴とする請求項21にもとづく方法。
【請求項23】
前記炭素源がL−アラビノースを含み、前記発酵生成物が菌類のL−アラビノース経路の生成物とペントースリン酸塩経路の生成物とから選択、好ましくはエタノール、乳酸、キシリトール、および/またはアラビニトールから選択されることを特徴とする請求項21または22にもとづく方法。
【請求項24】
酵素他何泊質であって、NADH依存型L−キシルロース還元酵素活性を有し、かつ請求項1ないし7のいずれか一項のDNA分子の遺伝子によってコードされたアミノ酸配列を含むことを特徴とする酵素タンパク質。
【請求項25】
前記酵素タンパク質が配列番号2のアミノ酸配列または機能的に等価なその誘導体を含むことを特徴とする請求項24にもとづく酵素タンパク質。
【請求項26】
炭素源から変換生成物を生産するための生体外酵素製剤であって、請求項1ないし7のいずれかにもとづくDNA分子によってコードされたアミノ酸配列を含む酵素タンパク質を含むことを特徴とする生体外酵素製剤。
【請求項27】
NADH依存型L-キシルロース還元酵素、好ましくは請求項1ないし7のいずれかのDNA分子の遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を含む酵素の用途であって、C2位のヒドロキシル基がフィッシャー投影でのL型立体配置にある前記C2位にケト基を持つ糖から糖アルコールへの変換のために、またはその逆変換のために、好ましくはキシルロースからキシリトールへの変換のために、またはその逆変換のために用いることを特徴とする酵素の用途。
【請求項28】
前記酵素が、生成された酵素による変換を可能にする発酵条件下で糖または糖アルコールをそれぞれ含む発酵培地中で請求項9ないし20のいずれかの遺伝子組換え微生物によって生産されることを特徴とする請求項27にもとづく用途。
【請求項29】
前記変換が、請求項26の酵素製剤を用いる生体外酵素変換であることを特徴とする請求項27の用途。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−504813(P2007−504813A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525848(P2006−525848)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【国際出願番号】PCT/FI2004/000527
【国際公開番号】WO2005/026339
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500150975)ヴァルション テクニリネン ツッキムスケスクス (1)
【氏名又は名称原語表記】VALTION TEKNILLINEN TUTKIMUSKESKUS
【住所又は居所原語表記】Vuorimiehentie 5, FIN−02044 VTT, Finland
【Fターム(参考)】