説明

NTD半導体基板へのレーザー印字方法

【課題】NTDシリコンウエハに対しても、YVO4レーザー光を用いて文字パターン、識別パターンを、視認性の良好な深さを有する凹凸形状の印字ドットの刻印によって表示することができる半導体基板へのレーザー印字方法の提供。
【解決手段】中性子線の照射による結晶格子の原子配列に損傷を有する半導体基板1に、200℃以上で30分以上の熱処理を施した後、YVO4レーザーを半導体基板1表面の余白部に照射して所要の識別パターンを刻印する半導体基板へのレーザー印字方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NTD(Neutron Transmutation Doping)半導体結晶ロッドから切り出したウエハ状のNTD半導体基板へ識別用の文字パターンをレーザー光を用いて印字する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、シリコン半導体基板5(ウエハ)では、図2(b)に示すように、そのオリエンテーションフラット2の近傍にウエハ識別コード3が記入されることがある。ウエハ識別コード3としては、製造された半導体装置の品種名,ロット名、ウエハ番号等の識別コードを英数字にて表記される、これらの文字パターン4は、当該半導体基板5(ウエハ)の表面にYVO4(イットリウム・バナデート)レーザー光を用いて形成される凹凸形状の印字ドット10を複数個、連ねて表示される。一つの凹凸形状の印字ドットの断面図を図2(a)に示す。YVO4レーザーとはYVO4結晶にNdイオンなどがドープされたロッドやディスクにLD(ダイオードレーザー)やランプにより励起して作り出したレーザー光を発振するレーザーである。YAGレーザーに比べて、小出力で精密なマーキングに適することが知られている。
【0003】
図2(a)の断面図に示すように、このようなYVO4レーザー印字は波長が532〜1064nmから適宜えらばれるレーザー光を照射して形成される。このレーザー光がシリコン表面に照射されると、表面下の近傍で、レーザー光が吸収され、発熱し、シリコンの溶融、固化などの現象により、シリコン表面に中心部が凹でその周囲を凸部が取り巻く凹凸形状の印字ドット10が形成される。この印字ドット10を複数個、線状に連ねることにより、前述のように図2(b)に示す文字パターン4としての認識が可能になるが、凹凸からなる印字ドット10の深さdが浅いと、文字パターン4およびその複数からなる識別コード3の視認性が悪くなる。
【0004】
一方、シリコン単結晶は28Si(92.1%)とその同位体である29Si(4.7%)と30Si(3.0%)で構成されている。シリコン単結晶に中性子線を照射すると30Siが中性子を捕獲吸収してγ線を放出して不安定な同位体31Siに移行し、2.62時間の半減期でβ線を放出して安定な同位体31Pへ核変換する。形成された31Pはシリコン単結晶の中でn型ドーパントとして働く。30Siはもともとシリコン単結晶中に均一に分布しているので、中性子線をシリコン単結晶に一様に照射すれば、中性子線照射によって生ずる31Pの分布も均一にできる。すなわち、シリコン単結晶の抵抗率分布を均一にできる。さらに、中性子線照射時間を制御することにより添加するリンの濃度を精度良くコントロールすることができるので、従来のガスドーピング法に比べて、特に8インチウエハなどの大口径シリコンウエハでも不純物濃度の均一性を良好にすることができることがよく知られている。このような中性子線を照射されたシリコン半導体基板を以降、NTD(Neutron Transmutation Doping)シリコンウエハ(半導体基板)と称する。
【0005】
従来の中性子線照射シリコン単結晶の製造工程は、原料となるシリコン単結晶インゴットをFZ(Flosting Zone)法で育成し、取り出したシリコン単結晶インゴットに原子炉内で中性子線を照射する。この中性子線の照射によって、前述のようにシリコン単結晶インゴットには31Pが形成されるとともに、照射損傷が導入されるので、31Pの濃度に見合うN型半導体としての抵抗率を得るためには、シリコン単結晶に損傷回復熱処理を施す必要がある。
【0006】
レーザー印字またはマーキングに関しては、前述のYVO4レーザーの他に、Nd−YAGレーザーを用い、レーザー照射出力を調整して、照射部のシリコン表面が局部的に溶解して出来た中心部の凹部とその周辺部の盛り上がった凸部を形成してレーザーマーキングとする方法が知られている(特許文献1)。
【0007】
半導体基板にレーザー光によるドットマーキングを付ける際に、半導体基板のオリエンテーションフラット部の近傍やチップの周辺の余白領域などに、製造された半導体装置の製品名、ロット名、ウエハ番号などの識別コードとして形成する記述がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−106905号公報(段落0003)
【特許文献2】特開平11−260675号公報(段落0005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した中性子線照射によってN型半導体として形成されたNTDシリコン半導体基板6に前述のYVO4レーザー光を用いて文字パターンを印字をする場合、図4に示すように、文字パターン、識別コードパターンとして認識できるような深さの凹凸形状の印字ドット10を形成することが困難という問題が発生した。すなわち、印字ドットが形成されたとしても図4の印字ドット11のようにドットの深さの浅い視認性の悪い状態でしか印綬できなかった。
【0010】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、本発明は、NTDシリコン半導体基板に対しても、YVO4レーザー光を用いて文字パターン、識別パターンを、視認性の良好な深さを有する凹凸形状の印字ドットによって表示することができる半導体基板へのレーザー印字方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を達成するために、中性子線の照射による結晶格子の原子配列に損傷を有する半導体基板に、200℃以上で30分以上の熱処理を施した後、YVO4レーザーを半導体基板表面の余白部に照射して所要の識別パターンを印字する半導体基板へのレーザー印字方法とする。前記熱処理が400℃以上で30分以上であることがより好ましい。前記熱処理が電気炉、ホットプレート、フラッシュランプ、レーザー光により行われることも好ましい。さらに、前記YVO4レーザー照射による識別パターンの凹凸形状の印字ドットの深さが2.5μm以上であることが望ましい。また、YVO4レーザー光出力が5〜25ワットで照射時間が10msec程度であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、NTDシリコン半導体基板に対しても、YVO4レーザー光を用いて文字パターン、識別パターンを、視認性の良好な深さを有する凹凸形状の印字ドットによって表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるNTD半導体基板へのYVO4レーザーマーキングを形成する一ドットを示す断面図である。
【図2】従来のSi半導体基板へのYVO4レーザーマーキングを形成する一ドットの断面図(a)と半導体基板に印字された識別パターンおよび文字パターンを示す平面図(b)である。
【図3】NTD半導体基板の熱処理温度と印字ドット深さの関係図である。
【図4】半導体基板に中性子線照射後、アニールなしで、YVO4レーザー照射した場合の半導体基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる半導体基板へのレーザー印字方法の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
<実施例1>
前述のように、中性子線照射されたシリコン半導体基板(NTDウエハ)6に、YVO4レーザー光により識別コードを形成する場合、文字パターン、識別コードパターンとして容易に認識できるような深さに凹凸形状の印字ドットを形成することが困難という問題がある。そこで、NTD半導体基板6を調べたところ、このNTD半導体基板6は、この段階では中性子線照射後に目的とする抵抗率を得るために必要な照射損傷の回復のための熱処理(アニール)がまだ行われていないことが判明した。
【0015】
通常、照射損傷の回復のための熱処理は、安定した設計どおりの抵抗率を得る程度に照射損傷を回復させるには、NTD半導体基板を600℃〜800℃以上で0.5時間〜4時間以上の処理である。しかし、NTD半導体基板に、デバイス製造のために所要の半導体領域を形成する際に、後工程でイオン注入などによりドープした不純物元素の熱拡散のために1200℃を超える熱処理が加えられるので、前述の照射損傷の回復のための熱処理についても、前述の後工程における熱拡散処理工程と同時に照射損傷の回復処理を兼用して行っていたのである。その結果、前記熱拡散処理工程の前の段階のNTDウエハには照射損傷の回復のための熱処理がされていない状態であった。そこで、NTD半導体基板に対する熱処理とYVO4レーザー光による印字の視認性との関係を調べた。印字の視認性の良否を決める基準として、凹凸形状の印字ドットの深さを用い、2.5μm以上の深さがあれば、視認性良好であると確認した。YVO4レーザー光出力を5〜25ワットで照射時間が10msec程度としたときの凹凸形状の印字ドットの深さとNTD半導体基板の熱処理温度との関係を調べた。その結果を図3に示す。
【0016】
視認性の良好な印字ドットを得るためには、凹部の深さを2.5μm以上とするのが望ましい。図3に示すように、ウエハ(半導体基板)の加熱温度を200℃以上とし、加熱時間を30分にすると、印字ドットの深さを2.5μm以上にすることができる。400℃、600℃(いずれも保持時間は30分)では印字ドットの深さはそれぞれ6.0μm、7.0μmとなり、いずれも良好な視認性が得られる。ウエハの加熱処理はいずれもホットプレート上にウエハを載置することにより、前述の所定の加熱温度とした。このホットプレートに代えて電気炉、フラッシュランプ、レーザー照射などによる熱処理とすることもできる。このように印字ドットの識別性の観点では、前述の抵抗率の場合よりも弱い熱処理でも充分有効であるので、熱処理工程を容易で簡単な工程として行うことができる。
【0017】
NTDシリコン半導体基板1への加熱処理がない場合は、レーザー光による温度上昇が少なく、印字ドットの深さが浅い。この温度上昇が少ない理由は、中性子線の照射による結晶格子の原子配列に損傷を有する前記NTDシリコン半導体基板では、その損傷の回復のために、レーザー光のエネルギーが消費されるためではないかと考えられる。
【0018】
図1に示すように、中性子線の照射による結晶格子の原子配列に損傷を有するNTDシリコン半導体基板1に対して、前述の加熱処理を施した後に、YVO4レーザー光によるNTD半導体基板1への識別性コードの印字をすると、前述のように、視認性の良好な深さdが2.5μm以上の印字ドット10を有する識別性コードが得られる。
【0019】
以上説明した実施例によれば、NTDシリコン半導体基板に対しても、200℃以上の温度で30分の熱処理、好ましくは400℃以上で、30分の熱処理を加えることにより、YVO4レーザー光を用いて文字パターン、識別パターンを、視認性の良好な深さを有する凹凸形状の印字ドットによって表示することができる
【符号の説明】
【0020】
1 NTD半導体基板(アニール有り)
2 オリエンテーションフラット
3 識別コード
4 文字パターン
5 半導体基板
6 NTD半導体基板(アニールなし)
10 印字ドット
11 印字ドット
d ドットの深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線の照射による結晶格子の原子配列に損傷を有する半導体基板に、200℃以上で30分以上の熱処理を施した後、YVO4レーザーを半導体基板表面の余白部に照射して識別パターンを刻印することを特徴とする半導体基板へのレーザー印字方法。
【請求項2】
前記熱処理が400℃以上で30分以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板へのレーザー印字方法。
【請求項3】
前記熱処理が電気炉、ホットプレート、フラッシュランプ、レーザー光により行われることを特徴とする請求項2記載の半導体基板へのレーザー印字方法。
【請求項4】
前記YVO4レーザー照射による識別パターンの凹凸ドットの深さが2.5μm以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体基板へのレーザー印字方法。
【請求項5】
レーザー光出力が5〜25ワットで照射時間が10msecであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体基板へのレーザー印字方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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