説明

Ni基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工用ツール及び摩擦攪拌加工方法

【課題】鉄または鉄合金等の加工温度が高温になる被加工材用の、摩耗が少なく高効率で生産性よく摩擦攪拌加工できる安価な摩擦攪拌加工用ツールおよび摩擦攪拌加工方法を提供する。
【解決手段】Ni基2重複相金属間化合物合金にてなることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。Ni基2重複相金属間化合物合金を母材とする摩擦攪拌加工用ツールであって、前記母材の表面が窒化処理又は浸炭処理の少なくとも一方によって硬化処理されてなることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。被加工材に高速回転するツール先端を押し当て、発生する摩擦熱により被加工材を可塑化させて攪拌することにより、被加工材を加工する摩擦攪拌加工方法において、上記記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いることを特徴とする摩擦攪拌加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌加工用のツール、特に被加工材が鉄又は鉄合金である場合に好適なNi基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工用ツールおよびそれを用いた摩擦攪拌加工方法に関する。ここで、摩擦攪拌加工とは、摩擦攪拌接合、摩擦攪拌改質、摩擦点接合等の、回転するツールを強い力で被加工材に押し当て、発生する摩擦熱により被加工材を可塑化させ固相状態で加工することをいう。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金板等の被接合材同士を接合するに際し、この被接合材の接合面を互いに突き合わせて形成される接合線の一端に、高速回転する棒状の攪拌工具(径の大きいショルダ部とその先端にプローブを有する硬い工具鋼からなるツール)のプローブを強い力で押し当て挿入し、このツールを高速回転させながら接合線に沿って他端に移動させ、その時に発生する摩擦熱により接合面を可塑化して、ツールのショルダ部によって圧力を付加しながら被接合材の接合面同士を接合する接合方法は、摩擦攪拌接合(FSW:
Friction Stir Welding)と呼ばれ、広く知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
上記摩擦攪拌接合によれば、ツールと被接合材との摩擦熱を利用して接合するので、最高到達温度が融点に達せず固相状態で接合するため、アーク溶接などの溶融溶接に比べて、接合部における強度低下が小さく、気孔や割れなどの接合欠陥がなく、接合面も平坦である等の利点があり、すでに鉄道車両、船舶、土木構造物、自動車などの分野で実用化されている。
【0004】
また、アルミニウム合金板等の被加工材の表面に、上記のような高速回転するツールのプローブを強い力で押し当て挿入し、このツールを高速回転させながら移動させ、その時に発生する摩擦熱によりツールのショルダ部およびプローブの近傍の被加工材を可塑化することにより、被加工材の一定の深さまでの結晶粒径を小さくして強度および硬度等を向上させる改質方法は、摩擦攪拌改質(FSP:Friction Stir
Processing)と呼ばれ、広く知られている(例えば特許文献2)。
【0005】
更にツールを被加工材に押し付けるが横移動させることなく一定時間後にそのまま引き抜くという点接合プロセスが開発されており、摩擦点接合(Spot Friction Welding)あるいはフリクションスポット接合(Friction Spot
Joining)と呼ばれている。
【0006】
これらの摩擦攪拌加工において、被加工材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合のツールとして、SKD鋼等の鋼製ツールが用いられている。しかし、被加工材として鉄または鉄合金が用いられる場合には、SKD鋼等の鋼製ツールは、ツールがたちまち減耗等により変形し、接合ができないという問題がある。また、セラミック製ツールは、高価で折れ易いという問題があり、特に被加工材がステンレスの場合は摩耗しやすい。摩擦攪拌加工によりツールが磨耗したときにセラミックス製のツール材料の微細片が鉄系の被加工材、例えば、ステンレス中に分散されると、機械的、耐腐食性に問題が生じるおそれがある。
【0007】
ところで、Ni基2重複相金属間化合物合金が知られている。(例えば、特許文献3及び4)。特許文献3に開示された、Ni基2重複相金属間化合物合金は、NiAl−NiTi−NiV系金属間化合物合金であり、特許文献4に開示された、Ni基2重複相金属間化合物合金は、NiAl−NiNb−NiV系金属間化合物合金である。これらの金属間化合物合金は、高温での機械的特性が優れているので、ジェットエンジンやガスタービンのタービン部材のような用途への応用が期待されているが、摩擦攪拌加工用ツールへの応用例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特開2003−64458号公報
【特許文献3】国際公開第2006−101212号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007−086185号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鉄または鉄合金等の加工温度が高温になる被加工材用の、摩耗が少なく高効率で生産性よく摩擦攪拌加工できる安価な摩擦攪拌加工用ツールおよび摩擦攪拌加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、本発明のNi基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工用ツール及びそれを用いた摩擦攪拌加工方法により達成することができる。すなわち、本発明の請求項1記載の摩擦攪拌加工用ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金がTa及び/又はWを0.5〜8原子%含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のNi基2重複相金属間化合物合金を母材とする摩擦攪拌加工用ツールであって、前記母材の表面が硬化処理されてなることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項5に記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、硬化処理が窒化処理又は浸炭処理の少なくとも一方であることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツールである。
【0016】
本発明の摩擦攪拌加工方法は、被加工材に高速回転するツール先端を押し当て、発生する摩擦熱により被加工材を可塑化させて攪拌することにより、被加工材を加工する摩擦攪拌加工方法において、請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いることを特徴とする。
【0017】
以下、 本発明のNi基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工用ツールについて詳細に説明する。本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる。上記Ni基2重複相金属間化合物合金としては、Ni基2重複相金属間化合物を有する合金であれば、特には、限定されないが、例えば、特許文献3に開示されたものであり、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Ti:0原子%以上で3.5原子%以下、B:0重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなり、かつ初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNiAl基金属間化合物が挙げられる。
【0018】
このような金属間化合物は、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Ti:0原子%以上で3.5原子%以下、B:0重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなる合金材に対して、初析L12相とAl相とが共存する温度で第1熱処理を行い、その後L12相とD022相とが共存する温度に冷却するか、当該L12相とD022相とが共存する温度で第2熱処理を行うことによって、Al相を(L12+D022)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程を備える方法によって製造することができる。もしくは、上記組成の合金を高温のA1単相領域から徐冷することによって2重複相組織を形成する工程を備える方法によっても製造することが出来る。
【0019】
上記Ni基2重複相金属間化合物合金としては、また、例えば、特許文献4に開示されたものであり、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Nb:0原子%以上で5原子%以下、B:50重量ppm以上1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなり、初析L12相と(L12+D022)共析組織との2重複相組織を有するNiAl基金属間化合物が挙げられる。
【0020】
このような金属間化合物は、Al:5原子%より大で13原子%以下、V:9.5原子%以上で17.5原子%より小、Nb:0原子%以上で5原子%以下、B:50重量ppm以上で1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなる合金材に対して、初析L12相とAl相とが共存する温度、又は初析L1相とAl相とD0が共存する温度で第1熱処理を行い、その後、L1相とD022相とが共存する温度に冷却するか、その温度で第2熱処理を行うことによって、Al相を(L12+D022)共析組織に変化させて2重複相組織を形成する工程によって製造することができる。もしくは、上記組成の合金を高温のA1単相領域から徐冷することによって2重複相組織を形成する工程を備える方法によっても製造することが出来る。
【0021】
摩擦攪拌加工用ツールは、また、Ta及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金からなってもよい。
【0022】
摩擦攪拌加工用ツールは、また、例えば、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含むNi基金属間化合物合金からなってもよい。本明細書において、「〜」は、両端の組成を含む。なお、Ta及び/又はWの含有量とは、TaとWの何れか一方のみが含まれる場合はTa又はWの含有量を意味し、TaとWの両方が含まれる場合はTaとWの含有量の合計を意味する。Ta及び/又はWの含有量を上記範囲にしたのは、この範囲であれば、Ta及び/又はWの添加によって硬さの向上効果が得られるからであり、また、上限値である8原子%を超える量を添加しても硬さ向上には大きくは寄与しないからである。
【0023】
Nb、Co、Crは、それぞれ、任意成分であり、含まれていてもいなくてもよい。Nb、Co、Crが含まれているかどうかに関わらず、Ta又はWの添加によって硬さが向上するからである。Nbは、2重複相組織の強度向上のために添加される。また、Co、Crは、耐酸化性向上のために添加される。
【0024】
Bは、得られる合金の延性向上のために添加される。
【0025】
上記Ni基金属間化合物合金は、Al:2.5〜8原子%、V:10〜14.5原子%、(Ta及び/又はW):1〜5原子%、Nb:0〜4原子%であることが好ましい。
【0026】
上記Ni基金属間化合物合金は、Ta:0.5原子%以上であることが好ましい。
【0027】
上記、Ni基金属間化合物合金は、W:0.5原子%以上であることが好ましい。
【0028】
上記Ni基金属間化合物合金は、初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することが好ましい。これは2重複相組織を有する金属間化合物合金は引張強度などの機械的特性や耐クリープ特性に優れるからである。この場合、Ni、Al、Vは、2重複相組織の形成のために添加される。Ni、Al、Vが上記範囲の場合、2重複相組織が少なくとも部分的に形成されやすい。この合金からなる摩擦攪拌加工用ツールは、本発明の請求項3でいう、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金がTa及び/又はWを0.5〜8原子%含むことを特徴とする摩擦攪拌加工用ツールの一例となる。
【0029】
2重複相組織は、最初に、比較的高い温度において初析L1相とA1相とからなる上部複相組織を形成し、その後、温度を下げることによってA1相をL1相とD022相とに分解させることによって形成することができる。これによって、図1(a)のTEM写真や図1(b)の模式図に示すような初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成される。なお、L1相は、NiAl金属間化合物相であり、A1相は、fcc固溶体相であり、D022相は、NiV金属間化合物相である。
【0030】
2重複相組織を有する金属間化合物合金は、特許文献4に記載された方法によって作製することができる。但し、特許文献4では、独立したプロセスとして初析L1相とA1相とが共存する温度での熱処理を行うことによって上部複相組織を形成しているが、この熱処理を行う代わりに金属間化合物合金の鋳塊を作製する際、凝固時に徐冷をすることによっても上部複相組織を形成することができる。徐冷を行った場合、溶湯が凝固した後に初析L1相とA1相とが共存する温度に比較的長い時間滞在することになるので、上記熱処理を行った場合と同様に初析L1相とA1相とからなる上部複相組織が形成されるからである。
【0031】
上記Ni基金属間化合物合金は、室温でのビッカース硬さが550〜1000であることが好ましい。本発明において、「ビッカース硬さ」とは、別段の指示がない限り、荷重300g、保持時間20秒の条件で測定したものを意味する。
鉄または鉄合金等の摩擦攪拌加工用ツールにおいては加工温度が高温になるため、高温における硬度が高いことが望ましく、例えば800℃ではビッカース硬さが400以上、より好ましくは450以上、更に好ましくは500以上あることが好ましい。
【0032】
上記室温でのビッカース硬さが550〜1000であるNi基金属間化合物合金は、室温と900℃のビッカース硬さの差が0〜300以内、より好ましくは0〜150以内であることが好ましい。
【0033】
上記の、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含むNi基金属間化合物合金は、特許文献4に開示されたNiAl−NiNb−NiV系金属間化合物合金より硬さに優れており、耐摩耗性を必要とする摩擦攪拌加工用ツールの材料として好適である。
【0034】
また、本発明で用いられるNi基2重複相金属間化合物合金として、請求項4に示すように、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金も好ましい。ツールの製造は、溶解・鋳造法、鋳造材を熱間鍛造、塑性加工、粉末冶金法等にて賦形してもよい。
【0035】
上にも一部述べたが、Ni基2重複相金属間化合物合金のツールの製造は、種々の製造方法にて行うことができ、所定の組成になるように所定の元素の地金(それぞれ純度99.9重量%以上)とBを秤量したものを真空誘導溶解法やアーク溶解法等によって溶解、鋳造することによって鋳塊を作製する。この鋳塊から放電加工、切削加工、研削加工、研磨加工等を適宜用いて所定の形状に加工することによりツールを製造する。
【0036】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のNi基2重複相金属間化合物合金を母材とする摩擦攪拌加工用ツールであって、前記母材の表面が硬化処理されてなることを特徴とする。以下、この発明について説明する。
【0037】
請求項5記載の発明で用いられる、Ni基2重複相金属間化合物合金は、請求項1〜4の説明で述べたものと同様である。
【0038】
Ni基2重複相金属間化合物合金として、Ta及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金が好ましく、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金が特に好ましい。
【0039】
また、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金も特に好ましい。
【0040】
上記2重複相組織は、最初に、比較的高い温度において初析L1相とA1相とからなる上部複相組織を形成し、その後、温度を下げることによってA1相をL1相とD022相とに分解させることによって形成することができる。これによって、図1(a)のTEM写真や図1(b)の模式図に示すような初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成される。なお、L1相は、NiAl金属間化合物相であり、A1相は、fcc固溶体相であり、D022相は、NiV金属間化合物相である。
【0041】
上記2重複相組織を有する金属間化合物合金は、特許文献3や4に記載された方法によって作製することができる。但し、特許文献3や4では、独立したプロセスとして初析L1相とA1相とが共存する温度での熱処理を行うことによって上部複相組織を形成しているが、この熱処理を行う代わりに金属間化合物合金の鋳塊を作製する際、凝固時に徐冷をすることによっても上部複相組織を形成することができる。徐冷を行った場合、溶湯が凝固した後に初析L1相とA1相とが共存する温度に比較的長い時間滞在することになるので、上記熱処理を行った場合と同様に初析L1相とA1相とからなる上部複相組織が形成されるからである。
【0042】
上記硬化処理後の合金は、表面から荷重50gで測定した常温におけるビッカース硬さが500〜1400であることが好ましい。また、上記硬化処理後の合金は、表面からの深さが20μmの位置において荷重10gで測定したビッカース硬さが500〜1400であることが好ましい。
【0043】
上記硬化処理としては、窒化処理又は浸炭処理の少なくとも一方による表面処理が好ましい。
【0044】
上記窒化処理とは、母材表面層の窒素量を増加させる処理である。窒化処理としては、塩浴窒化処理(主としてシアン塩浴中に被処理物を加熱し、窒化を行う処理)、ガス窒化処理(被処理物をアンモニア(NH)ガス中で加熱し、窒化する処理)、プラズマ窒化処理(減圧した窒化性雰囲気中で、陰極とした被処理物と陽極との間に生じるグロー放電によるプラズマを用いて行う処理)等が挙げられるが、処理効率等の観点からプラズマ窒化処理が好ましい。プラズマ窒化処理の温度は特に限定されないが、効率的に表面を硬化させるには400〜900℃が好ましい。
【0045】
上記浸炭処理とは、母材表面層の炭素量を増加させる処理である。浸炭処理としては、ガス浸炭処理(被処理物を、浸炭性ガスの中で加熱し、浸炭を行う処理)、真空浸炭処理(被処理物を、真空炉において、減圧した浸炭性ガスの中で加熱し、浸炭を行う処理)、プラズマ浸炭処理(減圧した浸炭性雰囲気中で、陰極とした被処理物と陽極との間に生じるグロー放電によるプラズマを用いて行う処理)等が挙げられるが、処理効率等の観点からプラズマ浸炭処理が好ましい。プラズマ浸炭処理の温度は特に限定されないが、効率的に表面を硬化させるには400〜900℃が好ましい。
【0046】
以下、プラズマ窒化又は浸炭装置の一例と、プラズマ窒化処理、プラズマ浸炭処理、及びプラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理の組み合わせについてそれぞれ説明する。
【0047】
(1)プラズマ窒化又は浸炭装置
図2を用いてプラズマ窒化又は浸炭装置の一例について説明する。図2のプラズマ窒化又は浸炭装置は、真空炉体1と、真空炉体1内に配置された炉床2と、炉床2に電気的に接続された電極3と、真空炉体1内にプロセスガスを導入するプロセスガス導入部4と、真空炉体1内を排気するガス排気部5と、ガス排気部5に接続された真空ポンプ6と、真空炉体1が陽極となり且つ電極3が陰極となるように接続されたプラズマ電源7と、炉床2上に配置される被処理物8を加熱するためのヒーター9とを備える。電極3と真空炉体1とは電気的に絶縁されている。電極3が陰極となると、これに電気的に接続された炉床2及び被処理物8も陰極になる。
以下、この装置を用いたプラズマ窒化又は浸炭処理の概要を説明する。
【0048】
まず、炉床2上に被処理物8を配置する。次に、真空ポンプ6を作動させて真空炉体1を排気する。次に、ヒーター9を作動させて真空炉体1内及び被処理物8を加熱する。次に、プロセスガス導入部4からプロセスガスを真空炉体1内に導入すると共にプラズマ電源7を作動させることによって真空炉体1と被処理物8の間にグロー放電によるプラズマを生じさせ、このプラズマによって被処理物8のプラズマ窒化又は浸炭処理がなされる。
【0049】
(2)プラズマ窒化処理
次に、プラズマ窒化処理について説明する。プラズマ窒化処理に用いるプロセスガスは、窒素源ガスを含む。窒素源ガスとしては、NやNHが挙げられ、Nが好ましい。プロセスガスは、窒素源ガスのみを含んでもよいが、HやAr等の不活性ガスからなる希釈ガスを含むことが好ましい。この場合、試料表面に薄くて硬い窒化物が過剰に生成することが抑制され、より深部まで比較的均一な窒化層を形成することができる。窒素源ガス/希釈ガスの流量比は、特に限定されないが、一例では、0.1〜10(好ましく0.5〜2)である。プロセスガスには、窒素源ガスと希釈ガス以外のガス(例:炭素源ガス)を含めてもよい。雰囲気圧力は、グロー放電によるプラズマ生成が可能な圧力であればよく、例えば、50〜2000Pa(好ましくは100〜1000Pa)である。
【0050】
プラズマ窒化処理の温度は、400〜900℃であり、好ましくは、500〜800℃であり、さらに好ましくは550〜700℃である。このような温度でプラズマ窒化処理を行うと表面の硬さが特に大きく向上するからである。プラズマ窒化処理の時間は、例えば、1〜200時間である。
【0051】
プラズマ窒化処理による表面の硬さの向上効果をビッカース硬さでみると、Ta及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金を、575℃で48時間の条件でプラズマ窒化処理した場合、常温でのビッカース硬さは、被処理物の表面から5μmの深さの位置で900〜1200、10μmの深さの位置で700〜900、15μmの深さの位置で600〜700、20μmの深さの位置で560〜650程度である。
【0052】
(3)プラズマ浸炭処理
次に、プラズマ浸炭処理について説明する。プラズマ浸炭処理に用いるプロセスガスは、炭素源ガスを含む。炭素源ガスとしては、例えばメタン、プロパン、アセチレン等の炭化水素ガスが挙げられる。プロセスガスは、HやAr等の不活性ガスからなる希釈ガスを含むことが好ましい。この場合、試料表面にススが付着することを抑制することができるからである。炭素源ガス/希釈ガスの流量比は、特に限定されないが、一例では、0.01〜1(好ましく0.05〜0.2)である。プロセスガスには、炭素源ガスと希釈ガス以外のガス(例:窒素源ガス)を含めてもよい。雰囲気圧力は、グロー放電によるプラズマ生成が可能な圧力であればよく、例えば、50〜1000Pa(好ましくは100〜500Pa)である。
【0053】
プラズマ浸炭処理の温度は、400〜900℃であり、好ましくは680〜850℃であり、さらに好ましくは700〜800℃である。このような温度でプラズマ浸炭処理を行うと表面の硬さが特に大きく向上するからである。プラズマ浸炭処理の時間は、例えば、1〜200時間である。
【0054】
プラズマ浸炭処理による表面の硬さの向上効果をビッカース硬さでみると、Ta及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金を、750℃で48時間の条件でプラズマ浸炭処理した場合、常温でのビッカース硬さは、被処理物の表面から10μmの深さの位置で700〜850、20μmの深さの位置で700〜850、30μmの深さの位置で650〜850、50μmの深さの位置で600〜700、100μmの深さの位置で600〜650程度である。
【0055】
(4)プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理の組み合わせ
次に、プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理の組み合わせについて説明する。
プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理の組み合わせとしては、プラズマ窒化処理の後にプラズマ浸炭処理を行う場合、プラズマ浸炭処理の後にプラズマ窒化処理を行う場合、プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理を同時に行う場合が考えられる。プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理は、それぞれ、上記の条件で行うことができる。
【0056】
プラズマ浸炭処理の後にプラズマ窒化処理を行うと、最表面での硬さをさらに向上させ且つ硬さ分布を緩やかにすることができる。プラズマ窒化処理の後にプラズマ浸炭処理を行うと、最表面での硬さは低いが、なだらかにしかも内部まで硬さ分布を形成することができる。
【0057】
また、プロセスガス中に窒素源ガスと炭素源ガスの両方を含めることによって、プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理とを同時に行うこともできる。しかし、プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理とでは最適温度が異なるため、プラズマ窒化処理とプラズマ浸炭処理の両方にとって適切な温度を選択することによって、優れた結果を得ることができると考えられる。
【0058】
本発明の摩擦攪拌加工用ツールを製造する方法は、例えば、以下のように行われる。
(1)鋳塊作製工程
まず、所定の組成になるように所定の元素の地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものをるつぼで溶解した後、金型またはセラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって鋳塊からなる試料を作製する。ここで作製する鋳塊のサイズは、例えば、83mmφ×700mmである。この鋳塊から所定のツールを切り出す。
【0059】
(2)熱処理工程
次に、上記ツールに対して、例えば、1000℃で10時間の真空熱処理(炉冷)を行う。1000℃は、L1相とD022相の共存温度であり、この熱処理によって(L1+D022)共析組織からなる下部複相組織がより確実に形成される。この熱処理後の試料が金属間化合物合金母材となる。ただし、凝固後徐冷される金属間化合物合金の鋳塊では、2重複相組織が形成される場合があるため、特別な熱処理を加えずともよい場合がある。
【0060】
(3)表面処理工程
次に、上記熱処理後のツールに対して、前述の窒化処理や浸炭処理のような表面処理を行う。
【0061】
本明細書でいう鉄合金とは、鉄を主成分として他の元素を一つもしくは複数含む合金をいう。例えば、炭素鋼、ステンレスなどが挙げられる。
【0062】
本発明の請求項6でいう被加工材の形状としては、特に限定されないが、薄板、厚板、塊状物などが挙げられ、摩擦攪拌接合の場合は薄板、厚板が特に好ましい。
【0063】
本発明の摩擦攪拌加工方法について詳しく説明する。突合せ摩擦攪拌接合においては被接合材を突合せにて定盤上に又は定盤上に置いた裏当て治具上に置き固定する。この際、攪拌接合による裏面からの汚染等の問題があるため、接合部分に裏当て材を置いてその上で接合加工されることがあるが、この方法は本発明のツールによる加工においても有用である。裏当て材は耐熱性、不燃性、強度、非汚染性、表面平滑性等を有することが好ましく、高融点金属、セラミックス等の材質にてなる箔、板、成形物等が用いられる。
【0064】
上述の裏当て材を用いて、本発明の摩擦攪拌加工方法として、摩擦攪拌接合(FSW)を行う方法を図3を参照しながら説明する。
【0065】
図3において、先ず、定盤上の所望の位置に、裏当て材20を配置する。
【0066】
次に、上記裏当て材20の上の中央に、板状の被接合材31および32の接合線33が位置するように、板状の被接合材31および32を配置し固定する。被接合材31および32としては、主として、鉄または鉄合金からなる板状の被接合材が使用される。これ等の被接合材31および32は、裏当て治具10の形状に対応して、平たい単純な板状のものあるいは円筒状のような単純な曲面を有する板状なものであってもよく、また3次元的な曲面を有する板状のものであってもよい。
【0067】
上記裏当て材を、被接合材31および32と裏当て治具10との間に介在させるには、表面平滑な薄層体20を単に被接合材31および32の接合線33に沿って裏当て治具10上に載置するだけでもよいが、挟着作業を容易にするために、予め裏当て治具10の上に裏当て材20を粘着剤や接着剤により貼り付けておいてもよい。
【0068】
その後、板状の被接合材31と32の接合線33の一端に、高速回転する接合用回転工具40(径の大きいショルダ部42とその先端にプローブ41を有する本発明の合金にてなるツール40)のプローブ41を高速回転させながら強い力で押し当て挿入し、ショルダ部42による圧力を付加し摩擦熱を発生させながらツール40を接合線33に沿って他端に移動させ、摩擦熱によりツール近傍を可塑化して固相状態で接合する。尚ツールは被接合材の接合部の近傍の表面の略法線方向から挿入されかつ略法線方向を保った状態で移動される。
【0069】
ここで上記接合用回転工具(ツール)につき説明する。上記接合用回転工具(ツール)40は、径の大きいショルダ部42とショルダ部42に突出して設けられたプローブ41を有する。プローブ41にはねじが切られていてもよくねじがきられていないものでもよい。また、厚みが6mm程度以下の被接合材(31と32)を使用する場合は、上記ツール40のショルダ部42の直径は12〜15mm程度で、プローブ41の直径は3〜6mm程度のものが好適に使用される。
【0070】
ショルダ部42の面は、接合線33に沿った被接合材31および32を押圧する必要があり、通常は被接合材31および32と当接するショルダ面が平面であるものあるいは曲率半径の大きい凹面が好ましい。場合によっては、やや円弧状または円錐状に凸面を形成したものも使用できる。平板状のものが加工が容易であるため好ましい。上記プローブ41の長さは、裏当て治具10と接触しないように、接合する被接合材31と32の厚みよりも短いのが普通である。ツール40の回転速度は一般に数百〜数千回転/分、接合速度は一般に数十〜数百mm/分であるが、条件によっては1〜2m/分も可能である。
【0071】
プローブ41はショルダ面に突出して設けられるが、位置はツールの回転軸上が好ましい。
プローブはショルダ面から発し先細りすなわち徐々に先端が細くなっている方がよい。
プローブの最先端は応力が集中して破損するのを防ぐため平面または回転半径の大きい曲面、例えば球面であるのが好ましい。プローブ高さ対プローブ根元半径の比は1または1より小さい方が好ましく、例えば半球がショルダ面にその底部を一部埋没したような形状に形成されているのが好ましい。回転したツールの先端のプローブが被加工材に当たるときの衝撃に対して強く、折損しにくく、回転により摩擦して可塑化後ツールを移動させるときに、被加工材が十分可塑化していない場合にも折損しにくいからである。また、接合において可塑化部分を攪拌する十分な深さを有することができ、摩擦攪拌加工によって表面から徐々にプローブが減耗したとしても、接合に対してのプローブの形状による影響が小さい。
【0072】
上記ツール40は、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる公知の摩擦攪拌接合装置に取り付けられて使用される。また、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸および揺動軸(A)と旋回軸(C)のツール2軸とからなる公知の5軸枠型の摩擦攪拌接合装置に取り付けられても使用される。また、三つの関節軸と二つの回転軸を具備した公知のロボットアームの先端に搭載されたマシンヘッドに取り付けて使用されることもあるが、これ等に限定されない。
【0073】
こうして、被接合材31と32との接合体が得られる。
なお、上例においては、被接合材31と32とを接合する摩擦攪拌接合(FSW)について説明したが、本発明は、2枚の被接合材31と32に替えて、これと同様な1枚の被加工材を用い、その表面に高速回転するツール40のプローブ41を強い力で挿入することにより、その時に発生する摩擦熱により被加工材を改質する摩擦攪拌改質(FSP)にも適用できる。
【0074】
また、被加工材の表面にプローブを挿入するが横移動させることなく、一定時間後にプローブを引き抜くことにより点加工を行う接合技術および改質技術にも適用できる。
【発明の効果】
【0075】
請求項1記載の摩擦攪拌加工用ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金にてなるので、回転させながらツールを被加工材に当てる時にその衝撃及び強い押し付け荷重がプローブ先端部にかかるが、ツールが変形、破壊、折損する恐れが少ない。更にツールのショルダー面と被加工材表面および被加工材中に埋没したプローブ表面との間の摩擦熱により高温になり、ツール側面がオレンジ色に発光するほどの高温(800℃以上)においても必要な硬度を有するため、高温材料の摩擦攪拌加工に適し、特に接合材が鉄または鉄合金等の被加工材に対して摩耗が少なく折損しにくく、安価に摩擦攪拌加工できる。
ツール材料がNi基2重複相金属間化合物合金にてなるので摩擦攪拌加工によりツールが磨耗したときにツール材料が鉄系の被加工材、例えば、ステンレス中に分散されても問題が生じにくい。
【0076】
請求項2記載の摩擦攪拌加工用ツールは、Ta及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金にてなるので、硬さがより硬くなるため、上記請求項1の発明の効果の全てに加えて、ツールが変形、破壊、折損する恐れがより一層少なくなる。
【0077】
請求項3記載の摩擦攪拌加工用ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するので、硬さが一層硬くなるため、上記請求項2の発明の効果の全てに加えて、ツールが変形、破壊、折損する恐れが更に一層少なくなる。
【0078】
請求項4記載の摩擦攪拌加工用ツールは、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するので、請求項1の発明の効果と同様の効果を奏する。
【0079】
請求項5記載の摩擦攪拌加工用ツールは、請求項1〜4のいずれかに記載のNi基2重複相金属間化合物合金を母材とする摩擦攪拌加工用ツールであって、前記母材の表面が硬化処理されてなるので、表面の耐摩耗性が高められているため、回転させながらツールを被加工材に当てる時にその衝撃及び強い押し付け荷重がプローブ先端部にかかるが、ツールが変形、破壊、折損する恐れが更により一層少なくなる。更にツールのショルダー面と被加工材表面および被加工材中に埋没したプローブ表面との間の摩擦熱により高温になり、ツール側面がオレンジ色に発光するほどの高温(800℃以上)においても必要な硬度を有するため、高温材料の摩擦攪拌加工に適し、特に接合材が鉄または鉄合金等の被加工材に対して摩耗が少なく折損しにくく、安価に摩擦攪拌加工できる。
【0080】
請求項5記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、母材が請求項2記載のTa及び/又はWを0.5〜8原子%含むNi基2重複相金属間化合物合金にてなる場合は、前記母材の表面が硬化処理されてなるので、母材自体の硬度が高い上、硬化処理により表面の耐摩耗性が高められているため、上記、請求項5の発明の効果として述べたと同様の発明の効果が一層高まる。
【0081】
請求項5記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、母材が請求項3記載のNiを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金にてなる場合は、前記母材の表面が硬化処理されてなるので、母材自体の硬度が更に高い上、硬化処理により表面の耐摩耗性が高められているため、上記、請求項5の発明の効果として述べたと同様の発明の効果がより一層高まる。
【0082】
請求項5記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、母材が請求項4記載のNiを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有するNi基2重複相金属間化合物合金にてなる場合は、上記、請求項5の発明の効果として述べたと同様の発明の効果を奏する。
【0083】
請求項6記載の摩擦攪拌加工用ツールは、請求項5に記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、硬化処理が窒化処理又は浸炭処理の少なくとも一方であるので、表面の耐摩耗性がより一層高められているため、上記請求項5の発明の効果に加え、ツールが摩耗や損傷を受け難くなり、ツールが変形、破壊、折損する恐れがより一層少なくなるとともに、結果としてツールの寿命が長くなる。
【0084】
本発明の摩擦攪拌加工方法は、被加工材に高速回転するツール先端を押し当て、発生する摩擦熱により被加工材を可塑化させて攪拌することにより、被加工材を加工する摩擦攪拌加工方法において、請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いるので、鉄または鉄合金等の被加工材に対して摩耗が少なく折損しにくく、安価に摩擦攪拌加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1(a)、(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態の金属間化合物合金の2重複相組織を説明するためのTEM写真及び模式図である。
【図2】本発明の一実施形態のプラズマ窒化又は浸炭処理が可能なプラズマ窒化又は浸炭装置の一例を示す構成図である。
【図3】摩擦攪拌接合(FSW)方法の説明図である。
【図4】実施例1の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図5】実施例1の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の裏側(ツールが挿入された側の反対側)を撮影した写真である。
【図6】実施例3の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図7】実施例3の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の裏側(ツールが挿入された側の反対側)を撮影した写真である。
【図8】実施例4の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図9】実施例5の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図10】実施例6の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図11】実施例6の摩擦攪拌接合により得られた接合体の裏側(ツールが挿入された側の反対側)を撮影した写真である。
【図12】実施例7の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図13】実施例8の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図14】実施例8の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の裏側(ツールが挿入された側の反対側)を撮影した写真である。
【図15】実施例9の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図16】実施例10の摩擦攪拌加工により得られた被加工材の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図17】実施例11の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図18】比較例1の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図19】実施例6、実施例11及び比較例1で得られた接合体の引張試験後の試験片を示す写真である。中央部が実施例6、最上部が実施例11、最下部が比較例1の試験片である。
【図20】実施例6、実施例11及び比較例1で得られた接合体の引張試験時の荷重−変位曲線である。1は比較例1、2は実施例6、3は実施例11のものである。
【図21】実施例6で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図22】比較例1で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図23】実施例12の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図24】実施例12で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図25】実施例13の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図26】実施例13で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図27】実施例14の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図28】実施例14で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図29】実施例15の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図30】実施例15で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図31】実施例16の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図32】実施例17の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図33】実施例17で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図34】実施例18の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図35】実施例19の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図36】実施例19で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図37】実施例20の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図38】実施例21の摩擦攪拌接合により得られた接合体の表側(ツールが挿入された側)を撮影した写真である。
【図39】実施例21で得られた接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を光学顕微鏡にて観察した顕微鏡写真である。
【図40】実施例22で用いられたツールの写真である。
【図41】ツール材料のビッカース硬さと測定温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0086】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0087】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
Ni:75原子%、Al:8.75原子%、V:13.25原子%、Nb:3原子%、B:50重量ppmの組成になるように、Ni、Al、V、Nbの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、金型で溶湯を凝固させることによって5kgの鋳塊を作製した。
この鋳塊に対し、粗大な結晶粒からなる鋳造組織を微細化するためと、気孔等の鋳造欠陥をなくす目的で1300℃で総圧下率約60%の熱間鍛造を行った。このとき、熱間鍛造は一度に60%の圧下率をかけるのではなく、複数回に分けて行い、1回の鍛造毎に試料は1300℃に加熱された。
この鋳塊から、以下に示す形状に切削加工して本発明のツールを作製した。このツールの材質を「H#1」と呼ぶことにする。
【0088】
(摩擦攪拌加工用ツールの形状)
ショルダ面は直径12mmの円形の平面であり、その中央に設けたプローブは半径2mmの球面がショルダ面から一部突出している。プローブの底部直径は約4mmであり、ショルダ面からプローブの先端までの長さ(突出高さ、プローブ長さ)は0.90mmである。
【0089】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、実施例1では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン(bead on。又は、スターインプレート。stir−in−plateともいう)摩擦攪拌加工試験を行った。
【0090】
定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている(以下の実施例、比較例も同様)。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な99.5%純度の酸化アルミ平板(15cm角、2.5mm厚)を裏当て材20として固定した。
【0091】
酸化アルミ製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(15cm角、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0092】
ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、100mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約29400Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図4の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であり、また、その裏面写真を図5に示すが、平滑であった。ただし、裏当て材の酸化アルミ板20が加工中に割れたため割れ目に可塑化したSUSが入り込み冷却固化した部分が凸状の細い筋となって見えている。
【0093】
実施例1における、ツール材質、被加工材材質、FSW加工形式、FSW加工条件及びツールサイズを纏めて表1に示した。なお、表1において、ツールサイズとはFSW加工に使用される前のツールのサイズをいう。また、表1には、後述の実施例2〜11及び比較例1についても、同様の事項を纏めて示した。
【0094】
【表1】

【実施例2】
【0095】
実施例1と同様にして、実施例1と同様の形状の摩擦攪拌加工用ツールを作製した。得られたツールを用いて、被加工材をSUS430からなる被加工材の代わりにチタン(純チタン2種(JIS記号:TB340H))からなる平板状の被加工材(15cm角、1.5mm厚)としたこと、加工時のツールの移動距離を120mmにしたことの他は、実施例1と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0096】
加工後の目視観察によればチタン平板の施工状態は、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するがバリ等の欠陥はなく、また、その裏面も平滑であった。また、ツール40は外観上摩耗は軽微であった。
【実施例3】
【0097】
実施例2で使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、実施例2とは別のチタン(純チタン2種(JIS記号:TB340H))からなる平板状の被加工材(15cm角、1.5mm厚)を用いたことの他は、実施例2と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0098】
加工後の目視観察によればチタン平板の施工状態は図6の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するがバリ等の欠陥はなく、また、その裏面写真を図7に示すが、平滑であった。ただし、裏当て材の酸化アルミ板20が加工中に割れたため割れ目に可塑化したチタンが入り込み冷却固化した部分が凸状の細い筋となって見えている。また、ツール40は外観上摩耗は軽微であった。
【実施例4】
【0099】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
Ni:71.5原子%、Al:7原子%、V:10.5原子%、Nb:3原子%、Co:3原子%、Cr:3原子%、Ta:2原子%、B:50重量ppmの組成になるように、Ni、Al、V、Nb、Co、Cr、Taの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、セラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって10kgの鋳塊を作製した。鋳塊作製に際して、凝固時に徐冷をしたため、鋳塊には初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成されていた。この鋳塊から、実施例1に示した摩擦攪拌加工用ツールの形状と同様の形状に切削加工して本発明のツールを作製した。このツールの材質を「Ta#1」と呼ぶことにする。
【0100】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、実施例4では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0101】
定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な99.5%純度の酸化アルミ平板(15cm角、2.5mm厚)を裏当て材20として固定した。
【0102】
酸化アルミ製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(15cm角、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0103】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、900rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に90mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図8の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であった。
【実施例5】
【0104】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
Ni:71.5原子%、Al:7原子%、V:10.5原子%、Nb:3原子%、Co:3原子%、Cr:3原子%、W:2原子%、B:50重量ppmの組成になるように、Ni、Al、V、Nb、Co、Cr、Wの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、セラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって10kgの鋳塊を作製した。鋳塊作製に際して、凝固時に徐冷をしたため、鋳塊には初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成されていた。
この鋳塊から、実施例1に示した摩擦攪拌加工用ツールの形状と同様の形状に切削加工して本発明のツールを作製した。このツールの材質を「W#1」と呼ぶことにする。
【0105】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例4の記載と異なる点を除いては、実施例4と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0106】
ツール40を、前進角3度、400rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に90mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図9の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であった。
【実施例6】
【0107】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例5と同様にして、ツールの材質「W#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な99.5%純度の酸化アルミ平板(15cm角、2.5mm厚)を裏当て材20として固定した。
【0108】
酸化アルミ製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(15cm角、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0109】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら150mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約90mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。
【0110】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図10の写真に示すように、接合部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であり、その裏面写真を図11に示すが、平滑であった。ただし、裏当て材の酸化アルミ板20が加工中に割れたため割れ目に可塑化したSUSが入り込み冷却固化した部分が凸状の細い筋となって見えている。
【0111】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に準じて引張試験を行った。試料は、JIS Z 2201 5号試験片の形状に準じ、幅24.6mm、平行部長さ50mmとした。厚さは1.46mmであった。測定時のクロスヘッド速度は20mm/minとした。その結果、引張強度は505MPaであった。同様の条件で測定したSUS430母材の引張強度はn=3の平均が519MPaであった。したがって、上記の接合部の引張強度は、ほぼ母材並みであることが分かった。また、破断した試験片の写真を図19に示したが、図19の中で中央部に位置する(図中に符号2で表した)本試験片は破断が接合部でなく母材部分で起こったことを示していた。また、荷重−変位曲線を図20に示したが、図20において、符号2で表される本試験片は、破断までによく伸びていることが分かる。
【0112】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図21に示した。図21において、この断面の厚みは前述のように1.46mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例7】
【0113】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例4と同様にして、ツールの材質「Ta#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0114】
(プラズマ窒化(PN)処理)
得られた摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ窒化装置に入れ、圧力0.05Paで約60分真空加熱し575℃にした。次いでN/H=1/1の混合ガスを供給し、圧力180Paで、温度575℃にて、48時間かけてプラズマ窒化処理した。その後、装置内にNガスを導入して室温にまで冷却した。得られたツールを「Ta#1−PN」と呼ぶことにする。
【0115】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例4の記載と異なる点を除いては、実施例4と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0116】
ツール40を、前進角3度、400rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に90mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図12の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であった。
【実施例8】
【0117】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例4と同様にして、ツールの材質「Ta#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0118】
(プラズマ浸炭(PC)処理)
得られた摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ浸炭装置に入れ、圧力0.05Paで75分真空加熱し750℃にした。次いでC/H=1/10の混合ガスを供給し、圧力130Paで、温度750℃にて、48時間かけてプラズマ浸炭処理した。その後、Nガスを装置内に導入して室温にまで冷却した。得られたツールを「Ta#1−PC」と呼ぶことにする。
【0119】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例4の記載と異なる点を除いては、実施例4と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0120】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に200mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図13の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であり、その裏面写真を図14に示すが、平滑であった。ただし、裏当て材の酸化アルミ板20が加工中に割れたため割れ目に可塑化したSUSが入り込み冷却固化した部分が凸状の細い筋となって見えている。
【実施例9】
【0121】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例5と同様にして、ツールの材質「W#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0122】
(プラズマ窒化(PN)処理)
得られた摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ窒化装置に入れ、圧力0.05Paで約60分真空加熱し575℃にした。次いでN/H=1/1の混合ガスを供給し、圧力180Paで、温度575℃にて、48時間かけてプラズマ窒化処理した。その後、装置内にNガスを導入して室温にまで冷却した。得られたツールを「W#1−PN」と呼ぶことにする。
【0123】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例4の記載と異なる点を除いては、実施例4と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0124】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に90mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図15の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であった。
【実施例10】
【0125】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例5と同様にして、ツールの材質「W#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0126】
(プラズマ浸炭(PC)処理)
得られた摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ浸炭装置に入れ、圧力0.05Paで75分真空加熱し750℃にした。次いでC/H=1/10の混合ガスを供給し、圧力130Paで、温度750℃にて、48時間かけてプラズマ浸炭処理した。その後、装置内にNガスを導入して室温にまで冷却した。得られたツールを「W#1−PC」と呼ぶことにする。
【0127】
(摩擦攪拌加工)
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例4の記載と異なる点を除いては、実施例4と同様にしてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0128】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、150mm/分の送り速度で直線状に90mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。加工後の目視観察によればSUS430平板の施工状態は図16の写真に示すように、加工部の表面にツール40による加工痕34が存在するが良好であった。
【実施例11】
【0129】
実施例10と同様にして、プラズマ浸炭(PC)処理された、「W#1−PC」ツールを作製した。
【0130】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例6の記載と異なる点を除いては、実施例6と同様にして突合せ接合による摩擦攪拌加工試験を行った。
【0131】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら150mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約90mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。
【0132】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図17の写真に示すように、良好に接合していた。
【0133】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、引張試験を行った。試験片の厚さが1.43mmであった以外は実施例6と同様である。その結果、引張強度は513MPaであった。同様の条件で測定したSUS430母材の引張強度はn=3の平均が519MPaであったので、上記の接合部の引張強度は、ほぼ母材並みであることが分かった。また、破断した試験片の写真を図19に示したが、図19の中で最上部に位置する(図中に符号3で表した)本試験片は破断が接合部でなく母材部分で起こったことを示していた。また、荷重−変位曲線を図20に示したが、図20において、符号3で表される本試験片は、破断までによく伸びていることが分かる。
【0134】
(比較例1)(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
インコネル合金♯625を用いて、実施例1に示した形状の摩擦攪拌加工用ツールを切削加工により作製した。
【0135】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、以下の記載のうち実施例6の記載と異なる点を除いては、実施例6と同様にして突合せ接合による摩擦攪拌加工試験を行った。
【0136】
ツール40を、前進角3度、700rpmで回転させながら接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら150mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約90mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。
【0137】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図18の写真に示すように、数mm径の深い穴状の欠陥が点々と接合線上に存在し良好な接合はできていなかった。また、ツールの摩耗減耗が外観でもはっきりと認められた。
【0138】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、引張試験を行った。試験片の幅が24.5mmであった以外は実施例6と同様である。その結果、引張強度は457MPaであった。同様の条件で測定したSUS430母材の引張強度はn=3の平均が519MPaであったので、上記の接合部の引張強度は、母材より劣っていた。また、破断した試験片の写真を図19に示したが、図19の中で最下部に位置する(図中に符号1で表した)本試験片は破断が接合部で起こったことを示していた。また、荷重−変位曲線を図20に示したが、図20において、符号1で表される本試験片は、僅かしか伸びないうちに破断したことが分かる。
【0139】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図22に示した。図22において、この断面の厚みは1.46mmである。この写真からみると、摩擦攪拌領域の下部の境界が不鮮明であった。
【実施例12】
【0140】
以下の実施例12〜21においては、接合時のツールの送り速度を500mm/min以上の高送り速度の条件で検討した。接合時のツールの送り速度は、実用的には、500mm/min程度が必要とされる。
【0141】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例4と同様にして、ツールの材質「Ta#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0142】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。 図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素(主成分として、Si 90重量%、Al 4〜5重量%、Y 4〜5重量%他からなる。以下同じ)製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0143】
窒化珪素製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材(300×150mm、1.5mm厚)31、32の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0144】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら550mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0145】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記の摩擦攪拌接合に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、この実施例では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0146】
具体的には、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0147】
窒化珪素製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(300×150mm、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0148】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、550mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0149】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、上記と同様にして、ビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0150】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、送り速度を500mm/分とした他は、この実施例の最初に行った摩擦攪拌接合と同様にして摩擦攪拌接合を行った。
この結果、この実施例において、このツールを用いて摩擦攪拌加工を行った合計の施工距離は250mm×4=1000mmとなる。
【0151】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図23の写真に示すように、良好に接合していた。
【0152】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は466MPaであり、上記の接合部の引張強度は、母材よりやや劣っていた。なお、破断は接合部で起こっていた。
【0153】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図24に示した。図24において、この断面の厚みは1.43mmである。この写真から分かるように、摩擦攪拌により、元の突合せ界面はほぼ完全に消失していた。
【0154】
実施例12における、摩擦攪拌接合のツール材質、被加工材材質、FSW加工形式、FSW加工条件を纏めて表2に示した。なお、表2において、ツールサイズとはFSW加工に使用される前のツールのサイズをいう。なお、表2には、上記の摩擦攪拌接合のうち、最後の摩擦攪拌接合の条件を示した。ただし、表2における施工距離は、合計の施工距離を示している。表2には、後述の実施例13〜22についても、同様の事項を纏めて示した。
【0155】
なお、施工距離については、FSW加工の試行毎に、加工は円滑に行われたか、加工後の被加工材の表面の外観(接合部又はビードオン部中に陥没様の欠陥部分がないか、円形状の瘢痕が美麗に残っているか、円形状の瘢痕そのものが毛羽立っていないか等)、被加工材の裏面の外観、ツールの顕著な変形はないか、等の観点により、以後そのツールを用いて更にFSW加工するか否かを判断した。
【0156】
【表2】

【実施例13】
【0157】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例5と同様にして、ツールの材質「W#1」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0158】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0159】
窒化珪素製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300×150mm、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0160】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら550mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0161】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記の摩擦攪拌接合に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、この実施例では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0162】
具体的には、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0163】
窒化珪素製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(300×150mm、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0164】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、550mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0165】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、上記と同様にして、ビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0166】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、送り速度を500mm/分とした他は、この実施例の最初に行った摩擦攪拌接合と同様にして摩擦攪拌接合を行った。
この結果、この実施例において、このツールを用いて摩擦攪拌加工を行った合計の施工距離は250mm×4=1000mmとなる。
【0167】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図25の写真に示すように、良好に接合していた。
【0168】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は526MPaであり、上記の接合部の引張強度は、ほぼ母材並みであることが分かった。
なお、破断は接合部で起こっていた。
【0169】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図26に示した。図26において、この断面の厚みは1.43mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例14】
【0170】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
Ni:76原子%、Al:5.5原子%、V:13.5原子%、Nb:3原子%、Ta:2原子%、B:50重量ppmの組成になるように、Ni、Al、V、Nb、Taの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、セラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって約10kgの鋳塊を作製した。鋳塊作製に際して、凝固時に徐冷をしたため、鋳塊には初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成されていた。この鋳塊から、実施例1に示した摩擦攪拌加工用ツールの形状と同様の形状に切削加工して本発明のツールを作製した。
このツールの材質を「Ta#2」と呼ぶことにする。
【0171】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0172】
窒化珪素製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300mm×150mm、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0173】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら550mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0174】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記の摩擦攪拌接合に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、この実施例では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0175】
具体的には、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0176】
窒化珪素製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(300mm×150mm、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0177】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、550mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0178】
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、上記と同様にして、ビードオン摩擦攪拌加工試験を2回行い、次いで、使用した摩擦攪拌加工用ツールを変えることなく同一のツールを用いて、この実施例の最初に行った摩擦攪拌接合と同様にして摩擦攪拌接合を1回、次いで、同様のビードオン摩擦攪拌加工試験を3回、次いで、同様の摩擦攪拌接合を1回、次いで、同様のビードオン摩擦攪拌加工試験を3回、次いで、同様の摩擦攪拌接合を1回、次いで、同様のビードオン摩擦攪拌加工試験を3回、最後に、送り速度を500mm/分とした他は、上記と同様の摩擦攪拌接合を行った。この結果、この実施例において、このツールを用いて摩擦攪拌加工を行った合計の施工距離は250mm×17=4250mmとなる
【0179】
上記の最終の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図27の写真に示すように、良好に接合していた。
【0180】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は533MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【0181】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図28に示した。図28において、この断面の厚みは1.45mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例15】
【0182】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例14と同様にして、ツールの材質「Ta#2」からなる鋳塊を作製した。この鋳塊から、以下に示す形状に切削加工して本発明のツールを作製した。
【0183】
(摩擦攪拌加工用ツールの形状)
ショルダ面は直径12mmの円形の平面であり、その中央に設けたプローブは半径4.7mmの球面がショルダ面から一部突出している。プローブの底部直径は約6mmであり、ショルダ面からプローブの先端までの長さ(突出高さ、プローブ長さ)は0.90mmである。
【0184】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0185】
窒化珪素製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300mm×150mm、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0186】
ツール40を、前進角3度、1000rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら700mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0187】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記の摩擦攪拌接合に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、この実施例では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0188】
具体的には、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0189】
窒化珪素製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(300mm×150mm、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0190】
ツール40を、前進角3度、1000rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、700mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0191】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、上記と同様にして、ビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0192】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、この実施例の最初に行った摩擦攪拌接合と同様にして摩擦攪拌接合を行った。
この結果、この実施例において、このツールを用いて摩擦攪拌加工を行った合計の施工距離は250mm×4=1000mmとなる。
【0193】
上記の最終の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図29の写真に示すように、良好に接合していた。
【0194】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は534MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【0195】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図30に示した。図30において、この断面の厚みは1.45mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例16】
【0196】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例8と同様にして、「Ta#1−PC」ツールを作製した。
【0197】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0198】
窒化珪素製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300mm×150mm、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0199】
ツール40を、前進角3度、1000rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、1200rpmで回転させながら700mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0200】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図31の写真に示すように、良好に接合していた。
【0201】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は541MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【実施例17】
【0202】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例10と同様にして、「W#1−PC」ツールを作製した。
【0203】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0204】
酸化アルミ製裏当て材20上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300mm×150mm、1.5mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0205】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら550mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約250mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0206】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記の摩擦攪拌接合に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工を行った。ただし、図3に示した方法では、2枚の平板状の被接合材31、32を用いて摩擦攪拌接合を行っているが、この実施例では、被加工材として1枚の平板を用いてビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0207】
具体的には、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。
図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な窒化珪素製四角柱(30mm角、長さ100mm)を3本長さ方向に連ねて並べ裏当て材20として固定した。
【0208】
窒化珪素製裏当て材20上に、1枚のSUS430からなる平板状の被加工材(300mm×150mm、1.5mm厚)を載置し固定した。
【0209】
ツール40を、前進角3度、600rpmで回転させながら上記SUS430平板上に挿入し、SUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら上記SUS430平板上を、550mm/分の送り速度で直線状に250mm移動させて摩擦攪拌加工によるビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。
【0210】
(摩擦攪拌加工(ビードオン摩擦攪拌))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、上記と同様にして、ビードオン摩擦攪拌加工試験を行った。
【0211】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記のビードオン摩擦攪拌加工試験に使用した摩擦攪拌加工用ツールを用いて、この実施例の最初に行った摩擦攪拌接合と同様にして摩擦攪拌接合を行った。
この結果、この実施例において、このツールを用いて摩擦攪拌加工を行った合計の施工距離は250mm×4=1000mmとなる。
【0212】
上記の最終の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図32の写真に示すように、良好に接合していた。
【0213】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は544MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【0214】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図33に示した。図33において、この断面の厚みは1.43mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例18】
【0215】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例14と同様にして、ツールの材質「Ta#2」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0216】
(プラズマ浸炭(PC)処理)
作製された摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ浸炭装置に入れ、圧力0.05Paで75分真空加熱し750℃にした。次いでC/H=1/10の混合ガスを供給し、圧力130Paで、温度750℃にて、48時間かけてプラズマ浸炭処理した。その後、Nガスを装置内に導入して室温にまで冷却した。上記プラズマ浸炭処理により得られたツールを「Ta#2−PC」と呼ぶことにする。
【0217】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いたことの他は、実施例16と同様にして、摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合)を行った。
【0218】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図34の写真に示すように、良好に接合していた。
【0219】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は545MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【実施例19】
【0220】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例7と同様にして、「Ta#1−PN」ツールを作製した。
【0221】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合−ビードオン摩擦攪拌−ビードオン摩擦攪拌−摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いたことの他は、実施例17と同様にして、
摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合−ビードオン摩擦攪拌−ビードオン摩擦攪拌−摩擦攪拌接合)を行った。
【0222】
上記の最終の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図35の写真に示すように、良好に接合していた。
【0223】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は542MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【0224】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図36に示した。図36において、この断面の厚みは1.43mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例20】
【0225】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例9と同様にして、「W#1−PN」ツールを作製した。
【0226】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いたことの他は、実施例16と同様にして、摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合)を行った。
【0227】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図37の写真に示すように、良好に接合していた。
【0228】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は544MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【実施例21】
【0229】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
実施例14と同様にして、ツールの材質「Ta#2」からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
【0230】
(プラズマ窒化(PN)処理)
作製さられた摩擦攪拌加工用ツールを、図2に示したプラズマ窒化装置に入れ、圧力0.05Paで約60分真空加熱し575℃にした。次いでN/H=1/1の混合ガスを供給し、圧力180Paで、温度575℃にて、48時間かけてプラズマ窒化処理した。その後、装置内にNガスを導入して室温にまで冷却した。上記プラズマ処理により得られたツールを「Ta#2−PN」と呼ぶことにする。
【0231】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合−ビードオン摩擦攪拌−ビードオン摩擦攪拌−摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いたことの他は、実施例15と同様にして、摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合−ビードオン摩擦攪拌−ビードオン摩擦攪拌−摩擦攪拌接合)を行った。
【0232】
上記の最終の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、図38の写真に示すように、良好に接合していた。
【0233】
上記接合部の強度を調べるために、突合せ接合した平板から接合方向に対して直交する向きに試料を作製し、実施例6と同様にして引張試験を行った。その結果、引張強度は538MPaであり、上記の接合部の引張強度は母材の引張強度を超えており、破断は母材で起こっていた。
【0234】
また、上記接合部を接合方向に対して垂直に切断し断面を実体顕微鏡にて観察した。この顕微鏡写真を図39に示した。図39において、この断面の厚みは1.44mmである。この写真から分かるように、元の突合せ界面は摩擦攪拌により完全に消失し接合できている。
【実施例22】
【0235】
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
Ni:70.5原子%、Al:10原子%、V:10.5原子%、Nb:3原子%、Co:3原子%、Cr:3原子%、B:500重量ppmの組成になるように、Ni、Al、V、Nb、Co,Crの地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、セラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって83mmφ×700mmの鋳塊を作製した。鋳塊作製に際して、凝固時に徐冷をしたため、鋳塊には初析L1相と(L1+D022)共析組織とからなる2重複相組織が形成されていた。この鋳塊から、切削加工して図40に示した形状の摩擦攪拌加工用ツールを製造した。
このツールの材質を「H#2」と呼ぶことにする。
【0236】
(摩擦攪拌加工用ツールの形状)
図40に示したツールを詳しく説明する。ショルダは24mmφの直円筒の回転軸に直交する平面と7°の傾斜で中央に向けて窪んだ逆円錐台状の凹面にてなる。プローブはショルダ面の中央に半頂角7°の直円錐台状に突出しており、ショルダ面外周と交わる上記回転軸に直交する平面からの突出高さは0.9mmである。プローブの先端は半径4.55mmの円に対し中心角60°の弓形の弦の中心と弧の中心間の距離を0.55mmとして円錐台の側面に平行に面取りした120°回転対称の形状をなす。
【0237】
(摩擦攪拌加工(摩擦攪拌接合))
上記の摩擦攪拌加工用ツールを用いて、図3に示した方法で摩擦攪拌加工(突合せ接合による摩擦攪拌接合)を行った。定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の3軸からなる摩擦攪拌接合装置に上記ツール40をとりつけた。摩擦攪拌接合加工時にはアルゴンガスがツール側面に沿って流れ下りツールを包むようになっている。図3に示すように、平板状の鋼製(S50C)の裏当て治具10の表面に、表面平滑な99.5%純度の酸化アルミ平板(15cm角、2.5mm厚)を裏当て材20として固定した。板厚に対しプローブ長が大きいので裏当て材20にダメージが大きかったので裏当て材20と被接合材の間に金属箔を敷いた。
【0238】
金属箔上に、SUS430からなる2枚の平板状の被接合材31、32(300mm×75mm、1.0mm厚)の接合面を互いに突き合わせて載置し固定した。
【0239】
ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら上記接合線33上に挿入し、接合線33を含むその周囲のSUS430を軟化させた。次いで、ツール40を、前進角3度、800rpmで回転させながら100mm/分の送り速度で被接合材31、32の接合線33に沿って約120mm移動させて摩擦攪拌接合を行い、被接合材31と32との接合体を作製した。ツール40への負荷は約9800Nに設定した。加工時にツール側面はオレンジ色に発光した。
【0240】
上記の摩擦攪拌接合により得られた、被接合材31と32との接合体は、外観では接合しているようであったが加工痕が汚く、120mm加工後にはプローブがツールが激しく減耗していた。
【0241】
(参考例)ツール材料のビッカース硬さと測定温度との関係
1.鋳塊作製工程
実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)、実施例14(ツール材質Ta#2)及び実施例22(ツール材質H#2)における、その摩擦攪拌加工用ツールの作製の項に記載した組成になるように、それぞれの元素の地金(それぞれ純度99.9重量%)とBを秤量したものを真空誘導溶解炉で溶解した後、セラミック鋳型で溶湯を凝固させることによって鋳塊からなる試料を作製した。作製した鋳塊のサイズは、実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例22(ツール材質H#2)の鋳塊は83mmφ×700mmであり、実施例14の鋳塊は77mmφ×280mmであった。
【0242】
2.ビッカース硬さ測定
この鋳塊からビッカース硬さ測定用試料として、10mmφ×5mmの試験片を切り出した。この試料を用いて常温及び高温(300℃、500℃、600℃、800℃,900℃)でのビッカース硬さ測定を行った。実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例22(ツール材質H#2)の試料の測定には、1280℃−3時間の熱処理(炉冷)を行った後の試料を用いた。実施例14(ツール材質Ta#2)の試料の測定には、鋳造後の試料で熱処理を行っていない試料を用いた。荷重は1kgで,保持時間は20秒の条件で測定した。測定は還元雰囲気中(Ar+約10%H2)で行い、昇温速度は毎分10℃で行った。
【0243】
測定結果を図41に示す。図41において、1は実施例4(ツール材質Ta#1)、2は実施例5(ツール材質W#1)、3は実施例14(ツール材質Ta#2)、4は実施例22(ツール材質H#2)の試料のビッカース硬さである。また、図41には、ステンレス鋼中で最高硬さを示し、耐摩耗性が要求される用途で一般的に使用される材料であるSUS440Cについてのビッカース硬さのデータも合わせて示す。このデータは、上記のビッカース硬さ測定と同じサイズのサンプルを用いて同じ測定条件にて実測したものである。
【0244】
図41を参照すると、実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例14(ツール材質Ta#2)では、測定した全温度域において、実施例22(ツール材質H#2)よりもビッカース硬さの値が高かったことが分かる。従って、Ta又はWを添加したことによるビッカース硬さの向上効果は、測定した全温度域に及ぶことが分かる。
【0245】
また、SUS440Cでは、測定温度の上昇に従ってビッカース硬さの値が急激に低下するのに対し、実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)、実施例14(ツール材質Ta#2)及び実施例22(ツール材質H#2)の試料では、温度上昇に伴うビッカース硬さの値の低下が非常に小さいことが分かる。また、測定温度が500℃以上の場合は実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例14(ツール材質Ta#2)の試料のビッカース硬さの値がSUS440Cよりも大きいことが分かる。
【0246】
図41より以下のことが言える。本発明で用いた合金の中温度域の硬さは、SUS440Cに劣るが、高温域ではそれを上回っており、本発明で用いた合金は優れた高温特性を示す。摩擦攪拌加工において、ステンレス接合時のFSWツールの温度はおよそ600℃以上と推定されるので、600℃以上での硬さが重要と考えられる。
【0247】
また、インコネルのビッカース硬さについては、例えば、山口県産業技術センター(香川正信、前田秀治、池田悟至)の「インコネル713Cの旋削加工」によると、高温ビッカース硬度計(明石製作所、AVK2HF)を使用し、試料サイズはφ10mm×5mm、荷重は5Kgfでビッカース硬さを測定したグラフが開示されている。グラフから常温から600℃まではHv350程度、800℃では、Hv300程度、1000℃では、Hv220程度であることが分かる。これに対して本発明で用いる合金のビッカース硬さは常温〜800℃のいずれの温度においてもインコネルよりも高く、実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例14(ツール材質Ta#2)で用いる合金においては、インコネルよりも特に高い。
【0248】
また、WC系の超硬合金のビッカース硬さについては、例えば、超硬工具協会規格(CIS019D−2005 耐摩耗・耐衝撃工具用超硬合金及び超微粒子超硬合金の材種選択基準)による材種分類記号VC−50の超硬合金(冨士ダイス株式会社製、商品名「フジロイC50」。粗粒タングステンカーバイドと、バインダー金属としてCoを用い焼結させたもの)において、800℃のビッカース硬度 330、900℃のビッカース硬度 210と開示されている。これに対し、本発明の実施例4(ツール材質Ta#1)、実施例5(ツール材質W#1)及び実施例14(ツール材質Ta#2)で用いる合金においては、800℃のビッカース硬度 500前後、900℃のビッカース硬度 450以上であり、高温領域においてWC系の超硬合金よりもはるかに高い。
【産業上の利用可能性】
【0249】
本発明のNi基2重複相金属間化合物合金からなる摩擦攪拌加工用ツールは、鉄または鉄合金等を被加工材とする摩擦攪拌加工に有効に利用できる。本発明の摩擦攪拌加工方法は、鉄または鉄合金等を被加工材とする摩擦攪拌加工に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0250】
1 真空炉体
2 炉床
3 電極(陰極)
4 プロセスガス導入部
5 ガス排気部
6 真空ポンプ
7 プラズマ電源
8 被処理物
9 ヒーター
10 裏当て治具
20 裏当て材
31 被接合材
32 被接合材
33 接合線
34 加工痕
40 ツール
41 ツールのプローブ
42 ツールのショルダ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基2重複相金属間化合物合金にてなることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金がTa及び/又はWを0.5〜8原子%含むことを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項3】
Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%、V:10〜17原子%、(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%、Nb:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項4】
Ni基2重複相金属間化合物合金にてなる摩擦攪拌加工用ツールであって、Ni基2重複相金属間化合物合金が、Niを主成分とし且つAl:5.5〜13原子%、V:10〜17原子%、Nb:0〜6原子%、Ti:0〜6原子%、Co:0〜6原子%、Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含み且つ初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有することを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のNi基2重複相金属間化合物合金を母材とする摩擦攪拌加工用ツールであって、前記母材の表面が硬化処理されてなることを特徴とする摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項6】
硬化処理が窒化処理又は浸炭処理の少なくとも一方であることを特徴とする請求項5に記載の摩擦攪拌加工用ツール。
【請求項7】
被加工材に高速回転するツール先端を押し当て、発生する摩擦熱により被加工材を可塑化させて攪拌することにより、被加工材を加工する摩擦攪拌加工方法において、請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いることを特徴とする摩擦攪拌加工方法。

【図2】
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【図3】
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【図41】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2009−255170(P2009−255170A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51414(P2009−51414)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】