説明

P−セレクチンに対する結合性化合物

本発明は、接着分子ヒトP-セレクチンに選択的に結合する化合物の誘導体、とりわけ、ペプチド成分または該ペプチドの官能性等価物を含み且つX(Ax)mA3A1A2A1Yによって示されるそのような誘導体に関する。さらに、本発明は、そのような化合物の製造方法、そのような化合物の治療または診断方法および製薬組成物における使用、上記化合物に結合する結合性分子、およびある化合物がP-セレクチンに結合し得るかどうかの判定方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着分子ヒトP-セレクチンに選択的に結合する化合物、そのような化合物の製造方法、そのような化合物の治療または診断方法および製薬組成物における使用、上記化合物に結合する結合性分子、並びにある化合物がP-セレクチンに結合し得るかどうかを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞表面接着分子は、細胞増殖、分化、免疫細胞の移行および応答、並びに癌転移のような多くの細胞プロセスにおける主要メディエイターとして認識されるようになってきている。
4種の主要カテゴリーの接着分子が同定されている:イムノグロブリン上科細胞接着分子(CAM)類、カドヘリン類、インテグリン類およびセレクチン類。
セレクチン類は、現在のところ3種の膜貫通性の炭水化物結合性糖たんぱく質群を代表している:“内皮”E-セレクチン、“白血球”L-セレクチンおよび“血小板”P-セレクチン。3種のセレクチンすべてが、2価カチオン(例えば、カルシウム)依存性であり、炭水化物認識モチーフを含む細胞外ドメイン、表皮成長因子様モチーフおよび補体調節たんぱく質に関連する幾つかの小さめのドメインを有する。
ヒトP-セレクチン(GMP-140、LECAM-3、PADGEM、CD62およびCD62Pとも称する)は、血小板および内皮細胞によって発現する。これらの細胞表面上に発現したとき、その最も顕著な作用は、白血球が毛管を出て毛管後の小静脈に入るときの白血球の遅れであり、上記小静脈は白血球-内皮接着の主要部位を代表する。上記遅延過程は、白血球ローリングとして観察され、比較的低親和性による初期接着を意味する。ローリング白血球の堅固な接着は、主としてインテグリン類が介在する。
内皮細胞においては、P-セレクチンは、ヴァイベル-パラーデ体(Weibei-Palade bodies)上に保存され;血小板においては、P-セレクチンは、α-顆粒中に見出される。活性化後、P-セレクチンは、種々の炎症性またはトロンボゲン形成性因子に応答して数分以内で細胞表面に集結する。内皮P-セレクチンの主たる機能は、白血球を毛管後小静脈中に集めることであり、一方、血小板P-セレクチンは血栓形成ももたらす。P-セレクチンの現在知られている天然リガンドの1つは、PSGL-1 (P-セレクチン糖たんぱく質リガンド-1)、即ち、白血球表面上で発現し尾肢上で濃縮される120 kDaのシャロたんぱく質である。P-セレクチンの構造および機能のさらに詳細な説明は、多くの文献において見出される(例えば、J. Panes, Pathophysiology 5 : 271 (1999);F. Chamounet al., Frontiers in Bioscience 5 : e103 (Nov. 1,2000)および S. -I. Hayachi, Circulation 102 : 1710 (2000))。
【0003】
炎症および炎症過程は、多くの疾病および症状の病態生理学に主要な役割を発揮する。セレクチンレベルの上昇が見出された、従って、セレクチン介在性病態事象に関連し得る脳の症状としては、重篤な外傷性脳損傷、再発-寛解性多発性硬化症、大脳動脈閉塞症、虚血および卒中がある。セレクチン類が役割を果たすことが示唆されている心臓の症状としては、急性心筋梗塞、血管形成術によって生ずるような動脈損傷、および虚血がある。同様に、セレクチン類は、虚血および再潅流に由来する腎損傷、および腎不全のような腎臓の症状にも関連する。さらにまた、臓器移植片拒絶症、感冒性虚血、出血性ショック、敗血性ショック、腫瘍転移、慢性炎症、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、血管形成、播種性血管内凝固症候群、成人呼吸ストレス症候群および循環性ショックにおいても役割を発揮しているようである。
即ち、内皮細胞および白血球の活性化、とりわけP-セレクチンの集結と発現に関連する上記および他の症状を、P-セレクチンカスケードを特異的に遮断することによって改善することは実行可能であろう。このことは、例えば、ヒトP-セレクチンに選択性に結合するがその生物活性を有していないリガンドを投与することによってなし得る。この方法により、集結P-セレクチンを不活化し白血球誘発性組織損傷を防止し得るであろう。可能性としては、P-セレクチンリガンドまたは拮抗薬がペプチドまたは修飾ペプチドであれば、同じ効果が遺伝子療法により達成し得るであろう。この方法によれば、治療の必要のあるヒトの体細胞に、P-セレクチン拮抗薬をコード化するDNA配列を担持する発現ベクターを移入するであろう。
P-セレクチンリガンド類または拮抗薬類は、上述の疾病および症状の予防にも使用し得る可能性がある。さらにまた、そのようなリガンド類は、これらの疾病の生体内または生体外診断においても使用し得る可能性がある。
【0004】
P-セレクチンに対するそのような選択性リガンド類を同定する或いは創生する種々の試みが近年行われてきている。現時点まで、多くの物質が試験されているが、これらの化合物のどれかが副作用の点で許容され得て所望の臨床的効果を奏するいう結論的な証拠は、まだ臨床試験によって提供されていない。
例えば、動物モデルにおいて産生させて試験したP-セレクチンに対する抗体は、腎臓を虚血性-再潅流損傷から保護することが見出された(H. C. Rabb et al., JASN 5: 907 (1997) および米国特許第6,033, 667号)。もう1つの研究においては、P-セレクチン糖たんぱく質リガンド-1の組換え可溶性形(rPSGL-Ig)を使用してネコにおける血栓を抑制していた(M. J. Eppihimer et al., Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 20: 2483 (2000))。WO-96/09309号は、E-およびP-セレクチンに対するリガンドであるオリゴ糖構造体を開示している。WO-99/41363号は、セレクチン類に結合するポドカリキシン様たんぱく質を開示している。WO-00/41711号は、ヒトセレクチン群の各メンバーに結合する種々の小さめのペプチド類またはペプチド配列類を記載している;これらの配列の殆どは、1個以上のロイシンまたはイソロイシン単位を含む。
P-セレクチンカスケードを抑制するもう1つの試みとしては、セレクチン群のレクチンドメイン由来の種々のペプチド類がP-セレクチンへの好中球接着を抑制することが見出された(例えば、米国特許第6,111,065号および米国特許第5,916,876号);これらのペプチド類は、おそらく、白血球上のP-セレクチンレセプターに結合する。
【0005】
WO-94/05269号においては、P-セレクチン、E-セレクチンおよびL-セレクチンのようなセレクチン類の結合性を抑制するペプチド類を記載している。これらのペプチド類は、そのコア領域として、P-セレクチン、E-セレクチンまたはL-セレクチンの11〜18個のアミノ酸配列部分を有する。さらに、WO-95/31210号は、内皮白血球接着分子(ELAM-1)のようなセレクチン類に結合するペプチドおよび化合物類に関する。これらのペプチド類は、炎症を抑制する目的において、白血球のセレクチン類に対する(即ち、とりわけE-セレクチンに対してであるがP-セレクチンまたはL-セレクチンに対しても)接着を阻止するのに使用されている。
事前公開されていないヨーロッパ特許出願第01203314.8号においては、ペプチド配列XAxA3A1A2A1Yまたはその官能性等価物を含み且つヒトP-セレクチンに対する選択的親和性を有する化合物が開示されている:
(上記式中、A1は、D-もしくはL-システイン(C)、D-もしくはL-メチオニン(M)、D-もしくはL-バリン(V)、またはこれらのアナログであり;
A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)またはそのアナログであり;
A3は、D-もしくはL-フェニルアラニン(F)、D-もしくはL-チロシン(Y)、D-もしくはL-トリプトファン(W)、またはこれらのアナログであり;
Axは、D-もしくはL-アミノ酸であり;
Xは、上記配列のN-末端側鎖を表し;
Yは、前記配列のC-末端側鎖を表し;
或いは、XとYは、一緒になって環状系を形成し得る)。
上述の出願において記載された化合物EWVDVは、約2μMのIC50値によって表されるようなP-セレクチンに対する親和性を有する。ストレプタビジン上でのその四量体は、約2μMのIC50を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した努力にもかかわらず、白血球の血管内皮細胞または血小板への接着に関連する種々の疾病および症状の診断、予防および治療用の製薬組成物の製造において使用し得る、P-セレクチンに対する選択的親和性を有する物質が依然として求められている。生体内使用においては、P-セレクチンに対して極めて高い親和性を有する比較的単純な化合物を有することが大いに望ましい。また、P-セレクチンを発現する組織への薬物または遺伝子物質をターゲッティングするための製薬組成物においてターゲッティング分子または成分として使用し得るP-セレクチンリガンド類も求められている。
従って、本発明の目的は、ヒトP-セレクチンに対する選択的親和性を有する化合物を提供することである。
とりわけ、本発明の目的は、P-セレクチンの拮抗薬または部分拮抗薬として作用する化合物を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、P-セレクチンを発現する細胞および組織に薬物および遺伝子物質をターゲッティングする能力を有するターゲッティングリガンドとして作用する化合物を提供することである。
本発明の更なる目的は、そのような化合物の製造方法を提供することである。
さらにもう1つの目的は、そのような化合物およびそのような化合物を含有する組成物の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化合物は、ヒトP-セレクチンに対する選択的親和性を有し、修飾ペプチド類、ペプチドアナログ類またはペプチド擬態物のようなペプチド類の誘導体またはその官能性等価物である。これらの誘導体は、
X(Ax)mA3A1A2A1Y
(式中、A1は、システイン(C)およびバリン(V)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸、またはそのアナログもしくは擬態物であり;
A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)またはそのアナログもしくは擬態物であり;
A3は、フェニルアラニン(F)およびトリプトファン(W)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸、またはそのアナログまたは擬態物であり;
Axは、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、システインおよびこれらのアナログまたは擬態物類からなる群から選ばれた任意のD-もしくはL-アミノ酸であり;
Xは、N-末端基または配列であり、水素または1〜6個のD-もしくはL-アミノ酸またはそれらのアナログを含む残基であり;
Yは、C-末端基または配列であり、-OH、または1〜11個のD-もしくはL-アミノ酸またはそれらのアナログを含む残基である)
によって示され、そして、XもしくはYのいずれかまたはXとYの双方が基:R1-(Z)n-によって置換されていることを特徴とする:
(式中、Zは、-CO-、-O-、-NR2-、および-CO-NR2-からなる群から選ばれ;
R1およびR2は、個々に、
H;
(C1〜C8)アルキル基;
少なくとも1個の水素置換C-原子が水素置換N-、酸素-またはイオウ原子によって置換されている(C2〜C8)アルキル基;
ハロゲン原子、(C1〜C6)アルキル、-CF3、-OH、-O-(C1〜C6)アルキル、-COOH、-COO-(C1〜C6)アルキル、-NO2、-NH2、-NH-(C1〜C6)アルキル、-N-((C1〜C6)アルキル)2および-SO3Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の基によって置換され得る(C6〜C14)アリール基;
ハロゲン、(C1〜C6)アルキル、-CF3、-OH、-O-(C1〜C6)アルキル、-COOH、-COO-(C1〜C6)アルキル、-NO2、-NH2、-NH-(C1〜C6)アルキル、-N-((C1〜C6)アルキル)2および-SO3Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の基によって置換され得る、5-または6-員環系およびベンゾ縮合環系から選ばれ且つ窒素、酸素およびイオウからなる群から選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロアリール基;または、
上記で定義したようなアルキル基および上記で定義したようなアリール基またはヘテロアリール基を含むアラルキル基;
から選ばれる。
指数mおよびnは、個々に0および1から選ばれる整数である。しかしながら、nは、R1がHであるときは0ではない。
さらにまた、本発明の化合物は、ペプチドの誘導体、または本明細書においては官能性等価物と称するペプチドに関連する分子構造体を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ペプチド類は、1つの酸のアミノ基ともう1つ酸のカルボキシル基との結合によって2個以上のアミノ酸から誘導されるアミド類として定義される(Merriam Webster Medical Dictionary 2001)。本明細書において使用するとき、ペプチドは、分子内のペプチド構造も称し得る。典型的には、ペプチド類は、天然産L-α-アミノ酸からなり、これらのアミノ酸は、アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リシン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)である。
本発明のペプチド類の官能性等価物は、性質的には同じであるが量的には必ずしもそうでないヒトP-セレクチン結合活性を含むたんぱく質様分子であり、例えば、修飾ペプチド類、ペプトイド類、ペプチドアナログ類またはペプチド擬態物であり得る。
修飾ペプチド類は、天然産アミノ酸中には存在しない置換基または官能基を導入することによってペプチド類から誘導された分子である。また、この用語は、ペプチド類と他の化学カテゴリーからの分子との反応により得られる化合物も含み、これらの分子は天然産または天然産でないの如何を問わない。例えば、ビオチン化ペプチド類、糖たんぱく質類およびリポたんぱく質類は頻繁に天然に見出され、一方、ペグ化(pegylated)インターフェロンα-2b (Peg-IntronR)のようなポリエチレングリコールで修飾したペプチド類は、ペプチド特性の全部ではないが幾つかを改変するように設計されている化学修飾ペプチド類の例である。
ペプチド類様のペプトイド類は、典型的には、2個以上のアミノ酸のアミド類である。しかしながら、ペプトイド類は、多くの場合、天然産アミノ酸類から直接誘導されることはなく、むしろ、種々のタイプの化学合成L-またはD-アミノ酸を含む。
ペプチド擬態物は、その最も広い範囲においては、その官能性構造においてペプチドにおおよそ類似するが主鎖、即ち、D-アミノ酸中に非ペプチド結合も含有し得る化合物である。一般に、ペプチド擬態物は、レセプターおよび酵素類との相互作用において天然ペプチドの代替物として作用する(Pharmaceutical Biotechnology, Ed. D. J. A. Crommelin and R. D. Sindelar, Harwood Academic Publishers, 1997, p. 138)。
ペプチド擬態物の1つの分類である擬似ペプチド類は、アミド結合の代りにアミド結合同配体を含有する化合物である(前出文献、pp. 137-140)。
【0009】
本発明によれば、前記配列中の2つのA1単位は、個々に選択する;これらの単位は、互いに同一または異なっていてもよい。好ましくは、A1単位の少なくとも1つは、バリン(V)を示す。より好ましくは、A1単位の双方がバリン(V)である。もう1つの実施態様においては、A1は、システイン(C)、メチオニン(M)またはバリン(V)のアナログまたは擬態物である。天然産アミノ酸の適切なアナログまたは擬態物類を選択する方法は、当業者にとって周知である。例えば、擬似ペプチド手法は、ペプチドのより高い化学的または酵素的安定性をその生物活性を保持させながら達成することを目的とする。生体内で急速分解を受けるペプチド結合を他の官能基で置換してバイオ同配体またはアミド結合代理体を生成させる。バイオ同配体基の例は、N-メチルアミド、チオエステル、チオアミド、ケトメチレン、メチレンアミノ、レトロ逆転(retro-inverse)アミド、メチレンチオおよびメチレンオキシの各基である(前出文献、pp. 138-139)。ペプチドの選択性を改良する手法は、主鎖に配座的束縛(constraint)を導入して、それによって潜在的なレセプターまたは酵素相互作用数を減少させることである。この束縛は、殆どの場合、炭素-炭素二重結合(オレフィン系アナログ)および環構造を導入することによって達成される(前出文献)。システイン(C)、メチオニン(M)またはバリン(V)のようなアミノ酸の官能性構造を擬態するアナログ類を同定する更なる方法は、コンピュータ援用モデル化法である。好ましい擬態構造体は、上記各アミノ酸と同様な電荷または電気陰性度、疎水性および空間配向を有する側鎖を有する。もう1つの実施態様においては、A1単位の1つまたは双方は、システイン(C)、メチオニン(M)またはバリン(V)のD-アミノ酸アナログ類である。
説明したように、本発明は、上記ペプチド類の誘導官能性等価物にも及ぶ。該等価物は、なかんずく、保存アミノ酸(conservative amino acid)の交換を使用してのアミノ酸置換によって見出される。とりわけ、本発明は、本発明に従う化合物中で保存アミノ酸をアミノ酸に置換し、得られた化合物が上記P-セレクチンに結合し得るかどうかを判定することを特徴とする、化合物がヒトP-セレクチンに結合し得るかどうかの判定方法も包含する。本発明によれば、A2は、生理学的pHにおいて負電荷を担持する溶媒暴露側鎖を有するD-もしくはL-アスパラギン酸またはそのアナログもしくは擬態物である。適切なアナログ類を同定するには、A1に関連して上述した原理と同じ原理を応用する。
【0010】
A3は、フェニルアラニン(F)およびトリプトファン(W)からなる群から選ばれた芳香族側鎖を有するD-もしくはL-アミノ酸またはそのアナログもしくは擬態物である。より好ましくは、A3は、この群から選ばれたL-アミノ酸である。最も好ましいのは、トリプトファン(W)である。他の実施態様においては、A3は、上記で定義したようなフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)に関連するアナログ構造体である。
Axは、前記で定義したようなD-もしくはL-アミノ酸、またはそのアナログまたは擬態物である。1つの好ましい実施態様においては、Axは、D-もしくはL-グルタミン酸(E)、またはそのアナログまたは擬態物である。
前記2つのA1単位を個々に選択すること、即ち、それら2つのA1単位は互いに同一または異なり得ることに留意すべきである。
Xは、N-末端基を表す。Xは、単純に水素であり得る。もう1つの実施態様においては、Xは、6個までのアミノ酸の配列、またはそのアナログもしくは擬態物である。勿論、アミノ酸(1種以上)のタイプは、例えば、ペプチドの形状を変化させることにより或いはコアペプチドに対して末端カルボン酸の空間配向を変化させることにより、P-セレクチンによる認識性に、目的の効果がもはや得られないような形で影響を与えるべきでない。適切なアナログ類としては、アミノ置換カルボン酸類、例えば、アミノシクロヘキサン酸、アミノ安息香酸およびアミノカプロン酸がある。
Yは、C-末端基を表す。Yは、ヒドロキシル基であり得る。好ましい実施態様においては、Yは、末端ヒドロキシル基を担持する1〜11個のアミノ酸を含む残基である。P-セレクチンによる認識性は、C-末端における置換基に対するよりも寛容である。また、負荷電側鎖を有する少なくとも1個のアミノ酸が、Y中に存在し、好ましくは残りのX(Ax)mA3A1A2A1配列から1〜3個のアミノ酸により離れていることが好ましい。本発明のとりわけ好ましい実施態様においては、Yは、D-またはL-リシン(K)であるか或いはD-またはL-リシン(K)を含む。
本発明の化合物は、環状またはさもなくば束縛された主鎖を有し得る。その場合、X+Yは、一緒になってS-Sブリッジにより適切に結合させ得るが、勿論、アミド結合、チオエーテル結合、カルバメート結合またはエステル結合のような他のタイプの(化学)結合も存在し得る。基X+Yの長さは、コア配列がP-セレクチンによって認識される限り、とりわけ重要ではない。一般に、X+Yの最低長さは、5〜6個のアミノ酸長に相当する。
【0011】
XもしくはY、またはXとYの双方を個々に置換する基R1-(Z)n-は、R-CO基から選択し得、Rは、アルキル、アリールまたはヘテロアリール基である。そのアルキル基は、好ましくは、2〜8個の炭素原子を有し、それら炭素原子の少なくとも1個は、窒素、酸素またはイオウ成分で置換し得る。アリール基は、好ましくは、6〜14個の炭素原子を有し、この基は、OH、COOH、NO2、NH2、SO3HおよびCF3からなる群から選ばれた少なくとも1つの基によって置換し得る。また、-NHR、-CO(NHR)、-CN(NHR)、-N3、-(CH2)p-OHおよび-(CH2)p-COOHから選ばれたこの基上の置換基も適しており、Rは前記で定義したとおりであり、pは1〜8の整数である。上記ヘテロアリール基は、窒素、酸素およびイオウからなる群から選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子が炭素原子の代りに合体されている以外は上記アリール基と同じ定義を有する。好ましくは、このヘテロアリール基は、5-または6員環系またはベンゾ縮合環系をベースとする。
化合物の例は、Zが-CO-であり、R1および/またはR2がお互いから個々に以下の基を示す化合物である:4-ヒドロキシフェニルカルボニル、3,5-ジヒドロキシフェニルカルボニル、3-ヒドロキシ-5-カルボニルオキシフェニルカルボニル、3,4,5-トリ-メトキシ-フェニルカルボニル、3,5-ジ-ニトロ-フェニルカルボニル、4-カルボキシフェニルカルボニル、3-カルボニル酪酸、2-ヒドロキシ-5-スルホニルフェニルカルボニル、3-カルボキシフェニルカルボニル、3,5-ジフルオロフェニルカルボニル、1-スルホニル-2-アミノエチルカルボニル、3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニルカルボニル、ヒドロキシメチルカルボニルおよび4-ニトロフェニルカルボニル。しかしながら、とりわけ好ましい基は、アシル基、とりわけ3,5-ジカルボキシフェニルカルボニルおよび3,4,5-トリヒドロキシフェニルカルボニル基である。
さらに、タンニン酸、カフェイン酸、オリゴヒドロキシルアリール基およびオリゴカルボキシ-アリール基並びにこれらの誘導体をベースとする修飾も、とりわけ基Xにおいて好ましい。しかしながら、3,4,5-トリヒドロキシフェニルカルボニル基は、基Xおよび基Yの双方において有利に使用し得る。
上記R1-(Z)n修飾は、上記ペプチド化合物とP-セレクチン上のP-セレクチン結合性ポケットとの更なる相互作用を、おそらく静電相互作用またはHブリッジ形成によって与えているものと想定している。
【0012】
極めて良好な結果は、N-末端アミド官能基を有する化合物において得られる。また、極めて良好な結果は、本発明の化合物のアミノ酸配列のN-末端置換基とアミノ酸AxまたはA3間でリンカーを使用したときに得られる。適切なリンカーまたはスペーサーは、グリシンおよびアミノ酪酸である。
本発明の化合物は、線状、枝分れ、環状または束縛された主鎖を有する。例えば、少なくとも2個のシステイン(C)単位を有するペプチド類または官能性等価物は、酸化によって環状化し得る。化合物がそのようなジスルフィド結合によって環状化させる場合、関与するシステイン単位は、それぞれ、XおよびYの1員であるのが好ましい。環状構造体は、実際に、配座的に束縛された主鎖の1例である。他のタイプの束縛構造体を導入して化合物の配座的柔軟性を減少させ得る。とりわけ、主鎖中でのオレフィン結合または小環構造の存在は、この目的の役に立つ。そのような束縛の例は、Pharmaceutical Biotechnology, Ed. D. J. A. Crommelin and R. D. Sindelar, Harwood Academic Publishers, 1997, p.139fに提示されている。
1つの好ましい実施態様においては、本発明の化合物は、上記誘導ペプチドまたはその官能性等価物の多量体として調製する。
本発明の化合物を調製するために生成させ得るもう1つのタイプの多量体においては、本発明に従う単一誘導ペプチドまたはペプトイド鎖を、ヒト血清アルブミン類、ヒト化抗体類、リポソーム類、ミセル類、合成ポリマー類、ナノ粒子類およびファージ類のような生体適合性たんぱく質にカップリングさせる。また、多量体は、スペーサーを介して相互に連続カップリングさせている誘導ペプチド、即ち、コンカテマー、デンドリマーまたはクラスターも示し得る。
【0013】
上記化合物は、ペプチド類および同様な物質並びにこれらの誘導体の製造における公知の方法によって一般に調製し得る。ほんの数個のアミノ酸または同様な単位、好ましくは30〜50個よりも多くない単位を含有する小さめの化合物は、反応が溶液または懸濁液中で生ずる古典的方法を使用するか或いはペプチドを重合体ビーズのような固形表面に固着させながら集合させるもっと近代的な固相法を使用するかのいずれかによる化学および/または酵素連結反応によって調製し得る。より大きめの化合物は、自動固相ペプチドシンセサイザーによって典型的に合成する。得られた化合物を、その後、適切なR1-(Z)n-源、好ましくはR1-(Z)n-OH基との反応によって修飾する。上記源は、上記ペプチド化合物中の第1級アミン基と反応する。
本発明に従う化合物中のペプチド配列を標準のFmoc化学により調製し、保護Fmoc基を除去する場合、そのN-末端は、R1-(Z)n-基を導入する反応において直ぐに利用し得る。
C-末端が利用し得る遊離のアミンを有しない場合、上記源は、添加したリシンと反応させ得、このリシンは、DDE誘導体として適切に添加し得る。DDEは、4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシ-1-イリデン)-エチルであり;DDEは、2%ヒドラジンによって酸不安定性側鎖保護基に悪影響を及ぼすことなく選択的に除去し得る。
上記化合物の調製において応用し得る方法の幾つかのより包括的な要約は、W. F. Anderson, Nature 392 Supp., 30 April 1998, p. 25-30;Pharmaceutical Biotechnology, Ed. D. J. A. Crommelin and R. D. Sindelar, Harwood Academic Publishers, 1997, p. 53-70,167-180, 123-152,8-20;Protein Synthesis: Methods and Protocols, Ed. R. Martin, Humana Press, 1998, p. 1-442;Solid-Phase Peptide Synthesis, Ed. G. B. Fields, Academic Press, 1997, p. 1-780;Amino Acid and Peptide Synthesis, Oxford University Press, 1997, p. 1-89に記載されている。
【0014】
上記ペプチドまたはその官能性等価物の誘導体の塩類は、上記ペプチドまたはペプトイドの誘導体を製薬上許容し得る酸と混合して酸付加塩を形成させるか或いは製薬上許容し得る塩基と混合して塩基付加塩を形成させるかのいずれかを典型的に含む公知の方法によって調製する。意図する用途にもよるが、製薬上許容し得る酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、桂皮酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸およびチオシアン酸のような有機および無機酸があり、これらの酸は、上記誘導ペプチドおよびその官能性等価物の遊離アミノ基とのアンモニウム塩を形成する。上記誘導ペプチドおよびその官能性等価物の遊離のカルボキシル基とのカルボン酸塩を形成する製薬上許容し得る塩基としては、エチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミンおよび他のモノ-、ジ-およびトリアルキルアミン類、並びにアリールアミン類がある。
さらにまた、製薬上許容し得る溶媒和物も包含される。
本発明に従う誘導ペプチドまたはペプトイドの多量体は、例えば、ペプチド類の多量体と同様な方法で、例えば、N-末端鎖をビオチン化しその後ストレプタビジンとの複合体化を行い、それによって必要と判断した場合はこの方法を特定の化合物に対して調整することによって調製し得る。ストレプタビジンは高親和性を有する4個のビオチン分子または接合体を結合し得るので、極めて安定な四量体ペプチド複合体をこの方法によって形成させ得る。多量体は、同一または異なる誘導ペプチドまたは官能性等価物からなり得る。しかしながら、好ましくは、本発明の多量体は、2個以上の同一誘導ペプチドまたは官能性等価物からなる。
【0015】
本発明の化合物は、ヒトP-セレクチン、即ち、白血球の血管内皮または血小板への接着に関与する血管内皮細胞および血小板によって発現された膜糖たんぱく質に対して親和性を有する。化合物のP-セレクチンに対する親和性または結合特性は、例えば、IC50値に関連して定量し得る。典型的には、約50〜100μM以下のIC50値が親和性または結合性の証しとみなされるであろう。リガンドとしてより望ましいのは、約10μM以下のIC50値を有する物質である。本発明に従う相互作用または結合において役割を果たす非共有タイプ結合において達成可能な最低のIC50値は、約10-15Mである。しかしながら、一般的には、IC50値は、約10-12Mよりも高く、殆どの場合、約10-9Mよりも高い。
本発明の化合物は、P-セレクチンに対する低ナノモルIC50値に対して低マイクロモルを有し、それによって本発明の化合物を天然リガンドのP-セレクチン糖たんぱく質リガンド-1とおよそ同等に強力にしている。
本発明のN-末端修飾化合物は、同じ修飾物を含有する相応するC-末端修飾化合物よりも有効(強力および/または特異的)であることを見出した。極めて良好な結果は、1,3,5-トリカルボン酸または没食子酸による修飾によって得られた。
上記に加えて、本発明に従う化合物は、当該ペプチド類を、上記誘導化により、プロテアーゼ類に対して、とりわけN-エクソペプチダーゼ類に対してより安定にしている。上記化合物は、さらに、P-セレクチンに対して増強された特異性を有し得、従って、単球と血小板間の相互作用、単球と内皮細胞間の相互作用、血小板細胞と血小板細胞間の相互作用のような薬理作用を調節し得る。従って、潜在的な副作用も軽減させ得る。上記化合物は、多くの種において交叉反応性であろう。
【0016】
本発明のさらなる局面は、開示した化合物の使用にも関する。上記化合物は、P-セレクチンに選択的に結合するので、結合後のP-セレクチンとの相互作用のタイプ次第で、拮抗薬、部分拮抗薬またはP-セレクチンを発現する細胞および組織に接合物質をテーゲッティングするための単なるターゲッティング手段として機能し得る。即ち、上記化合物は、製薬組成物中で有利に使用し得る。
本発明の化合物を含有する製薬組成物は、非経口、経口、粘膜経由、経鼻または肺内のような種々の投与経路に適応させ得る。本発明の化合物は、薬物ターゲッティング剤、生体利用性増強剤または本発明の化合物以外の他の活性成分をさらに含有し、即時のまたは修正された放出性を付与し得る。
本明細書において使用するとき、用語“製薬組成物”とは、治療および診断用組成物、並びにそのような組成物を含む医薬または診断薬を称する。治療用組成物および医薬は、哺乳類の疾病および改善が望まれ得る他の症状の予防または治療のために使用する。診断薬または診断用組成物は、そのような疾病の生体内および生体外での診断のために使用する。
上記化合物の好ましい使用は、単球または好中球のような白血球の血管内皮および血小板への接着に関連する疾病および症状を予防または改善するための治療用組成物または医薬の製造においてである。上記化合物は、P-セレクチン介在細胞内シグナル化の抑制が望まれ得る疾病の治療用組成物においても使用し得る。
例えば、本発明の1種以上の化合物を含有する組成物は、白血球介在炎症過程を制御するのに寄与し得る。活性化白血球放出毒性分子が正常組織を損傷させ得ることは既知である。これらの炎症応答は、その幾つかはP-セレクチン介在血小板活性化にも関与し、種々の病理症状、例えば、移植片拒絶、感冒性虚血、出血性ショック、敗血性ショック、腫瘍転移、血栓症、慢性炎症、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、血管形成、播種性血管内凝固症候群、成人呼吸ストレス症候群、循環性ショック、重篤な外傷性脳損傷、再発-寛解性多発性硬化症、大脳動脈閉塞症、虚血、卒中、急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、血管形成術によって発生するような動脈損傷、心筋虚血、虚血および再潅流由来の腎損傷、および腎不全の1部である。
【0017】
もう1つの実施態様においては、上記化合物は、診断用組成物または製品の製造において使用する。そのような組成物は、生体外試験において使用し、体液内のP-セレクチン濃度を上述の疾病および症状のマーカーとして定量し得る。また、上記化合物は、生体内診断画像形成処置において使用し、P-セレクチン介在性のアテローム性動脈硬化症、動脈瘤、経皮経管冠動脈形成術後の再狭窄(PTCA後再狭窄)およびP-セレクチンが集結する症状から選ばれる他の症状をモニターし得る。この用途における選択枝としては、本発明に従う化合物をキレート化剤と接合させ、その後、これを、選定したモニターリング系によって検出し得る等方性ラベルと複合体化する。
上記化合物のも1つの使用は、研究における手段としての使用である。この試験方法を実施するには、P-セレクチンまたはP-セレクチンの官能性等価物を結合親和性について試験すべき分子および本発明の化合物と接触させ、インキュベートする。本発明の化合物の低下した結合が上記分子のP-セレクチンに対する親和性を指標する。
また、上記化合物は、P-セレクチンを発現する組織への薬物または遺伝子物質のターゲッティング用の製薬組成物中のターゲッティング分子または接合物としても使用し得る。接合物としては、上記化合物を、そのような組織に伝達すべき活性分子または核酸と直接カップリングさせ得る。また、上記化合物は、リポソームまたは他の脂質小胞体、エマルジョン液滴、ポリマー、ナノ-またはミクロ粒子の表面中に混入するか或いは表面上に固着させて、P-セレクチン発現組織に伝達する薬物または遺伝子物質用のターゲッティング化ビヒクルを得ることもできる。
上記製薬組成物は、好ましくは、1種以上の上述したようなP-セレクチン親和性を有する化合物と少なくとも1種の担体または賦形剤を含有する。本明細書において使用するとき、担体または賦形剤とは、実質的な薬理活性を有さず、化合物を安定且つ投与するの容易な投与量剤形として調合するためのビヒクルまたは補助物質として使用し得る任意の製薬上許容し得る物質または物質の混合物である。製薬上許容し得る賦形剤類は、全ての主要薬局方単行書において見出せる。
【0018】
1つの実施態様においては、上記組成物は、非経口注入用、好ましくは、静脈内または動脈内のような血管内注入用、さらにまた、筋肉内、皮下、病巣内、腹腔内または他の非経口経路の投与用に調合し加工する。これらの投与経路について他の薬物の調合を規定する同じ原理も、当業者にそのような組成物を調製する方法について教示するであろう。例えば、非経口投与量剤形の要件の1つは、その滅菌性である。他の要件は、USP 24、単行書"General Requirements for Tests and Assays. 1. Injections", p. 1775- 1777におけるように全ての主要薬局方に記載されている。非経口製剤の安定性を増大させるためには、投与できる前に再構成しなければならない乾燥投与量剤形を提供する必要があり得る。そのような投与量剤形の例は、凍結乾燥製剤である。
頻繁な注入を回避し且つ治療の有効性と利便性を改善するために、本発明の化合物を非経口制御放出投与量剤形として投与することが望ましくあり得る。そのような蓄積製剤の種々の製造方法が公知である。延長放出は、固形インプラント、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロ粒子、マイクロカプセル、エマルジョン、懸濁液、油性溶液、リポソームまたは同様な構造体によって与え得る。
非経口製剤の製造においてとりわけ有用な賦形剤は、滅菌水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、脂肪油、短鎖および中鎖トリグリセリド類、レシチン、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体のような溶媒、共溶媒および液体または半固形担体類;砂糖類、とりわけグルコース、糖アルコール類、とりわけマンニトール、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、酢酸塩、リン酸塩、リン酸、塩酸、水酸化ナトリウム等のような浸透圧およびpHを調整するための物質;アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム、EDTA、ベンジルアルコール等のような安定剤、酸化防止剤および防腐剤類;アルブミン、デキストラン等のような他の賦形剤および凍結乾燥助剤類である。
【0019】
また、上記製薬組成物は、経口投与用に設計し、それに応じて加工し得る。適切な経口投与量剤形としては、錠剤、硬質カプセル剤、軟質カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、口内崩壊性投与量剤形、シロップ剤、点滴剤、懸濁液、発泡性錠剤、咀嚼性錠剤、経口フィルム剤、凍結乾燥投与量剤形、持続放出性投与量剤形および制御放出性投与量剤形がある。1つの好ましい実施態様においては、経口投与量剤形は、胃の酸性およびたんぱく質分解性環境からの上記化合物の保護を与えるための腸溶性のコーティーング固形投与量剤形である。
また、本発明の化合物を粘膜経由投与量剤形で投与することが有利であり得る。この投与経路は、非侵略性であり患者好意性である;同時に、経口投与に比較して、とりわけ化合物が消化系の液体中で安定でない場合或いは化合物が内臓から有効に吸収するには大き過ぎる場合に、化合物の生体利用性の改善をもたらし得る。粘膜経由投与は、例えば、経鼻、口内、舌下、歯肉内または腟内投与量剤形によって可能である。これらの投与量剤形は、公知の方法によって調製し得る;これらの投与量剤形は、鼻点滴またはスプレー剤、挿入剤、フィルム剤、パッチ剤、ゲル剤、軟膏または錠剤として調合し得る。好ましくは、粘膜経由投与量剤形において使用する賦形剤は、粘膜接着性を付与する1種以上の物質を含み、それによって該投与量剤形の吸収部位との接触時間を延長し吸収度を潜在的に増大させる。
更なる実施態様においては、上記化合物は、投与量計量吸入器、ネブライザー、エアゾールスプレーまたは乾燥粉末吸入器を使用し、肺経路によって投与する。適切な製剤は、公知の方法および技術によって調製し得る。経皮、直腸内または眼球内投与もある場合には実施可能である。
【0020】
先進的な薬物伝達またはターゲッティング方法を使用して本発明の化合物をより有効に伝達することは、有利であり得る。例えば、非経口でない投与経路を選択する場合、適切な投与量剤形は、化合物の生体利用性を増大させる任意の物質または物質の混合物であり得る生体利用性増強剤を含有し得る。このことは、例えば、酵素インヒビターまたは酸化防止剤によるような化合物の分解からの保護によって達成し得る。より好ましくは、上記増強剤は、上記化合物の生体利用性を、典型的には粘膜である吸収バリヤーの透過性を増大させることによって増大させる。透過性増強剤は、種々のメカニズムにより作用し得る;ある種のものは粘膜の流動性を増大させ、一方、他の種のものは粘膜細胞間の間隙接合を開放または拡大させる。さらに他の種のものは、粘膜細胞層を覆う粘液の粘度を低下させる。好ましい生体利用性増強剤としては、コール酸誘導体、リン脂質、エタノール、脂肪酸、オレイン酸、脂肪酸誘導体、EDTA、カルボマー、ポリカルボフィルおよびキトサンのような両親媒性物質がある。
更なる局面においては、上述の化合物に結合し得る分子は、本発明の範囲内にある。例えば、標準のハイブリッド化技術を応用して、1つの化合物に対する特異的モノクローナル抗体を調製することができる。他の方法を利用して、本発明の化合物に結合し得るより小さめの分子を設計し調製することが可能である。
【実施例】
【0021】
以下の実施例は、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲を実施例において提示した実施態様に限定するものではない。
【0022】
実施例
実施例1
樹脂結合コア配列化合物9の化学合成
コア配列化合物9 (FmocHN-Glu (OtBu)-Trp(Boc)-Val-Asp(OtBu)-Val-Lys(DDE)-GABA-HMPA-樹脂、図1参照)を、標準のFmoc化学を使用し、Applied Biosystems 9050ペプチドシンセサイザー(英国ウォリントン)で合成した。要するに、Tentagel S-NH2 (負荷量 0.26ミリモル/g)をリンカーとしての4-ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸(HMPA)により調製して化合物8を生成させた(図1参照)。Fmoc-GABA-OH (10当量)を、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、5当量)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.5当量)の媒介下にHMPA樹脂8に結合させた。必要に応じて酸不安定性側鎖保護基を有する他のアミノ酸の全てをHOBt/TBTU/Dipea (4/4/8当量)の存在下でのカップリングにより結合させた。カップリング後、樹脂をDMF、イソプロパノールおよびジエチルエーテルで洗浄し、その後乾燥させた。
【0023】
実施例2
化合物10の合成
化合物ライブラリー10の固相合成(図1参照)を、FlexchemC 装置 (Robbins Scientific社、米国サニーベール)を使用して実施した。化合物9のN-末端Fmoc基をDMF中20%ピペリジンにより除去した後、樹脂を洗浄し(DMF)、乾燥させた。樹脂を10 mg量で溶媒耐性48ウェルフィルタープレート上に分布させた。DMFで洗浄後、所望カルボン酸(40当量)、BOP (20当量)、HOBt (20当量)およびNMM (100当量)の混合物を添加し(総容量300μl)、懸濁樹脂をN2による連続蒸散(perspiration)下に3時間インキュベートした。その後、樹脂をDMFで洗浄し、ヒドラジン一水和物(DMF中2%)で3分間3回インキュベートしてDDE (4,4-ジメチル-2,6-ジオクソシクロヘキシ-1-イリデン)エチル)基を除去した。DMFで洗浄後。第2カルボン酸、BOP、HOBtおよびNMMの混合物(上記と同じ量)を添加し、もう1回3時間インキュベートした。C-末端リシンでのみ修飾した各誘導ペプチド(HP01〜HP07、下記参照)を、N-末端アミン官能基を保護する反応の前に、ジ-t.-ブチル-ジカーボネート((t-Boc)2O;0.25 M)とDipea (NMP中0.125 M)によりN-boc化した。溶媒を除去した後、各ペプチドを、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン(TIS)および水の混合物(95:2.5:2.5容量/容量/容量)により、樹脂から開裂させた。各サンプルを凍結乾燥させ、使用まで−20℃で保存した。
【0024】
実施例3
化合物11〜13、化合物ライブラリー14および化合物27〜33の合成
誘導ペプチド11〜13、化合物ライブラリー14および誘導ペプチド27〜33を、ライブラリー10について説明したのと同じ方法で、樹脂結合コア配列FmocHN-Trp(Boc)-Val-Asp (OtBu)-Val-HMPA-樹脂から調製した。誘導ペプチド11をNMP中の無水酢酸(0.25 M)およびDipea (0.125 M)を使用してアセチル化した。
【0025】
実施例4
TM11-POによる拮抗アッセイ
実施例1、2および3において調製したような本発明に従う各化合物並びに幾つかの参照ペプチド化合物を、それらのヒトP-セレクチンへのTM11-PO結合を抑制する能力についてアッセイした。TM11-PO、即ち、ヒトP-セレクチンに高い親和性と特異性によって結合することが以前に証明されている4量体TM11/strepPO複合体(Molenaar et al., Blood 2002,100, 3570-3577)を、ストレプタビジン-ペルオキシダーゼ(strep-PO (Amersham Life Science社、英国リトルチャルフォント)、8.4μl、2.0μM)とTM11-ビオチン(ビオチン-CDVEWVDVSSLEWDLPC (オランダ国ユトレヒトのユトレヒト大学、免疫学部門のVan der Zee博士によって合成)、1.5μl、190 mM)をアッセイ緩衝液(20 mM HEPES、150 mM NaCl、1 mM CaCl2、pH 7.4)中で室温で2時間インキュベートすることによって新たに調製した。拮抗試験においては、96ウェルマイクロタイタープレート(高結合性、平坦底、Costar社、米国コーニング)を、コーティーング緩衝液(50 mM NaHCO3、pH 9.6)中の10μg/mlのヤギ抗-ヒトIgG (Fc特異性) (Sigma-Aldrich社、オランダ国ツビジンドレヒト(Zwijndrecht))で4℃で1夜コーティーングした。その後、各ウェルをアッセイ緩衝液で洗浄し、遮断用緩衝液(アッセイ緩衝液中3%BSA)と一緒に37℃で1時間インキュベートした。アッセイ緩衝液で洗浄後、各ウェルをヒトP-セレクチンIgG-Fcキメラ(R & D Systems Europe社、英国アビントン) (0.3μg/ml)と一緒に37℃で2時間インキュベートした。その後、各ウェルをアッセイ緩衝液で洗浄し、上記TM11-PO複合体と一緒に4℃で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄用緩衝液(アッセイ緩衝液中0.1% Tween 20)で6回洗浄した。3,3',5,5'-テトラメチルベンズアミジン(TMB)/過酸化水素(H2O2) (Pierce社、米国ロックフォード)を添加し、各ウェルを室温で15分間インキュベートした。反応を2 M H2SO4の添加により停止させ、吸光度を450 nmで測定した。
結果については、下記の各表および図3を参照されたい。
【0026】
表1:誘導ペプチドおよびIC50 (μM)

各誘導ペプチドは、コードHPijであり、iおよびjは、式10のN-およびC-末端それぞれに結合したアシル成分R1およびR2を示す(図1)。未修飾アミノ基は0で示される。アシル成分1〜7は、図2に示している。
各化合物の親和性を、ヒトP-セレクチンを発現するチャイニーズハムスター卵巣細胞をPSGL-1を発現するHL60細胞と一緒に測定量の各化合物の存在下にインキュベートする細胞接着アッセイによって確認した。
【0027】
表2:各誘導ペプチドおよび拮抗ELISAによって測定したときのヒトP-セレクチンに対するそのIC50

a 結果は、TM11-PO拮抗ELISAで測定したときの8種の異なる濃度での少なくとも3回の試験の平均である(材料および方法)。
b 事前公開されていないヨーロッパ特許出願第01203314.8号から。






【0028】
【表1】

【0029】
実施例5
PAA-Lea-SO3Hによる拮抗アッセイ
セレクチン群の他のメンバー(即ち、E-およびL-セレクチン)に対する本発明に従う化合物の結合性も試験し得るために、TM11-POの代りにビオチン-PAA-Lea-SO3H (Synthesone社、ドイツ国ミュンヘン)を拮抗アッセイにおけるリガンドとして使用した。結合スルホ-ルイスA基を有するポリアクリルアミド(PAA)系ポリマーは、確立されたセレクチンリガンドである。
実験的には、実施例1と同じ手順を使用したが、以下の違いがあった。アッセイ緩衝液で洗浄後、各ウェルを、それぞれ、ヒトP-セレクチンIgG-Fcキメラ、マウスP-セレクチンIgG-Fcキメラ、ヒトL-セレクチンIgG-FcキメラおよびヒトE-セレクチンIgG-Fcキメラ、(全てR & D Systems Europe社から、英国アビントン) (0.3μg/ml)と一緒に37℃で2時間インキュベートした。その後、マイクロタイタープレートの各ウェルをTM11PO複合体の代りのビオチン-PAA-Lea-SO3H (0.33μg/ml)と一緒に37℃で2時間インキュベートした。
結果については、図5を参照されたい。
【0030】
実施例6
HL60細胞とヒトP-セレクチン発現性チャイニーズハムスター卵巣細胞間の動的相互作用の抑制
ヒトP-セレクチンを安定的移入したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、Modderman博士(アムステルダム大学、オランダ国アムステルダム)から親切にも寄贈された。細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS) (Bio Whitthaker社)、5 mMのL-グルタミン、20,000単位のペニシリン/ストレプトマイシン(Bio Whitthaker社)および5 mMの非不可欠アミノ酸(Gibco社、英国ペーズリー)を含有するDMEM (Bio Whitthaker Europe社、ベルギー国ヴェルヴィエ)中で増殖させた。細胞を含むフラスコを、細胞が殆ど密集成長するまで、5%CO2中で37℃で3〜4日間インキュベートした。
HL60細胞は、ATCCから入手し、10%FCS、5 mMのL-グルタミンおよび20,000単位のペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI 1640培地(Bio Whitthaker社)中で増殖させた。
HL60細胞は、RPMI中で5μMカルセイン-AM (Molecular Probes社、オランダ国ライデン)と一緒に37℃で30分間インキュベートすることによって蛍光標識した。これらの細胞(50,000個/ウェル)を、P-セレクチンを発現する培養CHO細胞(10%FCS、5 mMの非不可欠アミノ酸、5 mMのL-グルタミンおよび20.000単位のペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で培養したCHO-P細胞)に添加し、P-セレクチン拮抗薬の存在下または不存在下の96ウェルプレート中に種付けした(1時間、4℃) (16)。RPMIで穏やかに洗浄後、CHO-P結合蛍光を測定した(λexc 485/λem 530 nm)。
結果については、図6を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】コア配列化合物8に導入したアシル成分1〜7の化学構造を示す。
【図2】化合物ライブラリー10の固相合成を図式的に示す。コア配列化合物8を、Tentagel S-NH2樹脂上で標準のFmoc化学を使用して、HMPAリンカーにより合成した。その後、コアペプチドを、7種のカルボン酸(図1参照)により、N-末端において(Fmocの除去後)またはC-末端上で(2%ヒドラジンによるDDE基の選択的除去後)誘導化した。各ペプチドをTFA開裂により上記樹脂から遊離させて化合物ライブラリー10を生成させた。Fmoc、N-(9-フルオロエニル)メトキシ-カルボニル;HMPA、4-ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸;Boc、N-(t-ブトキシカルボニル);tBu、tert ブチル;TFA、トリフルオロ酢酸;DDE、4,4-ジメチル-2,6-ジオクソシクロへキシ-1-リデン)エチル。
【図3】誘導ペプチド類HP10〜HP77のヒトP-セレクチンへのリガンド結合を抑制する能力を示すグラフである。各粗誘導ペプチドを、拮抗アッセイにおいて、ヒトP-セレクチンへのTM11-POの結合に置換わるそれらペプチドの能力について試験した。各棒は、誘導ペプチド(5μM、n = 3〜5)の存在下でのTM11-POの結合性を示す。各ペプチドは、コードHPijであり、iおよびjは図1に示すようなアシル成分1〜7を示し、それぞれ、N-およびC-末端に結合させている。N/C未修飾アミノ基は、0で示される。
【図4A−D】化合物ライブラリー14の化学構造(図4A)および生物学的活性(図B〜D)を示す。粗ペプチドライブラリー14 (1μM)をヒトP-セレクチンに対するTM11-PO結合性の拮抗アッセイにおいて試験した。アシル成分とWVDVコア配列間の3種の異なるスペーサーを使用した(R1);スペーサー無し(白色棒)、グリシルスペーサー(灰色棒)およびアミノ酪酸スペーサー(黒色棒)。導入アシル修飾(R2)の化学構造は、これらの棒の下に示している。
【図5】ヒトP-セレクチン(■)、マウスP-セレクチン(□)、ヒトL-セレクチン(▲)およびヒトE-セレクチン(▼)に対するビオチン-PAA-Lea-SO3の結合性のペプチド28による拮抗を示すグラフである。各ウェルを各セレクチン(0.3μg/ml)でコーティーングし、0.33μg/mlのビオチン-PAA-Lea-SO3と一緒にペプチド28を添加または添加しないで実施例3に記載したようにしてインキュベートした。
【図6】CHO-P細胞に対するHL-60細胞の結合性のペプチド28(■)またはEWVDV(●)による拮抗を示すグラフである。96ウェル中に種付けしたCHO-P細胞をカルセイン標識HL-60細胞と一緒にペプチド28またはEWVDVの存在下にインキュベートした。データ点数は、4複製における12回のデータ点数の平均である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
X(Ax)mA3A1A2A1Y
(式中、A1は、D-もしくはL-システイン(C)、D-もしくはL-バリン(V)、またはこれらのアナログであり;
A2は、D-もしくはL-アスパラギン酸(D)またはそのアナログであり;
A3は、D-もしくはL-フェニルアラニン(F)、D-もしくはL-トリプトファン(W)、またはこれらのアナログであり;
Axは、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、グリシン(G)およびシステイン(C)からなる群から選ばれたD-もしくはL-アミノ酸であり;
Xは、前記配列のN-末端側鎖を表して、水素または1〜6個のD-もしくはL-アミノ酸またはそれらのアナログを含む残基であり;
Yは、前記配列のC-末端側鎖を表して、-OH、または1〜11個のD-もしくはL-アミノ酸またはそれらのアナログを含む残基であり;
XとYは、一緒になって環状系を形成し得る)
によって示されるペプチドまたは該ペプチドの官能性等価物の誘導体であって、
XとYの少なくとも1つまたはX+Yが基R1-(Z)n-によって置換されていることを特徴とするヒトP-セレクチンに対する親和性を有する化合物:
(式中、Zは、-CO-、-O-、-NR2-、および-CO-NR2-から選ばれ;そして、
R1およびR2は、個々に、
a) H;
b) (C1〜C8)アルキル基;
c) 少なくとも1個のC-原子が窒素-、酸素-またはイオウ原子によって置換されている(C2〜C8)アルキル基;
d) ハロゲン、(C1〜C6)アルキル、-CF3、-OH、-O-(C1〜C6)アルキル、-COOH、-COO-(C1〜C6)アルキル、-NO2、-NH2、-NH-(C1〜C6)アルキル、-N-((C1〜C6)アルキル)2および-SO3Hから選ばれる少なくとも1個の基によって置換され得る(C6〜C14)アリール基;
e) ハロゲン、(C1〜C6)アルキル、-CF3、-OH、-O-(C1〜C6)アルキル、-COOH、-COO-(C1〜C6)アルキル、-NO2、-NH2、-NH-(C1〜C6)アルキル、-N-((C1〜C6)アルキル)2および-SO3Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の基によって置換され得る、5-または6-員環系およびベンゾ縮合環系から選ばれ且つ窒素、酸素およびイオウからなる群から選ばれた少なくとも1個のヘテロ原子を有するヘテロアリール基;
f) b)またはc)において定義したようなアルキル基およびd)またはe)において定義したようなアリール基またはヘテロアリール基を含むアラルキル基;
から選ばれ;
mおよびnは、個々に、0および1から選ばれる整数であるが、R1がHである場合はnが0でないことを条件とする)。
【請求項2】
AxがD-もしくはL-グルタミン酸(E)またはD-もしくはL-アスパラギン酸を示す、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
A1がD-またはL-バリン(V)を示す、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
A3がD-またはL-トリプトファン(W)を示す、請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物。
【請求項5】
YがD-またはL-リシンを含む残基である、請求項1〜4のいずれか1項記載の化合物。
【請求項6】
R1が、未置換フェニルまたは請求項1において定義したような少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルである、請求項1〜5のいずれか1項記載の化合物。
【請求項7】
nが0であり、R1が3,4,5-トリヒドロキシフェニルカルボニルまたは3,5-ジカルボキシフェニルカルボニルである、請求項1〜6のいずれか1項記載の化合物。
【請求項8】
Xがアミノ酸を含まず、YがD-またはL-リシンを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の化合物。
【請求項9】
nが0であり、R1が3,4,5-トリヒドロキシフェニルカルボニルまたは3,5-ジカルボキシフェニルカルボニルである、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
mが0であり、Zが-CO-であり、ZがD-またはL-グリシンまたはアミノ酪酸スペーサーを介してYに結合されている、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
環状または束縛主鎖構造体を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の化合物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載のペプチドまたはその官能性等価物の1種以上の誘導体を含む組成物。
【請求項13】
アミノ酸モノマー、アミノ酸オリゴマー、またはアミノ酸アナログもしくは擬態物のモノマーもしくはオリゴマーを化学または酵素連結反応によって結合させる連続工程を含み、これらの工程を液相中および/または官能化固相に対する界面において実施することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物の調製方法。
【請求項14】
式8 (図1)のHMPAリンカーを標準のFmoc化学により反応させて配列X(Ax)m(A3A1A2A1Y (式中、X、Ax、A3、A1、A2、Yおよびmは、請求項1において定義したとおりである)の化合物を得ることを含み、これらの各アミノ基を保護基によって当初保護し、R-COを、これら保護基を標準方法を使用することにより置換することによって導入する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
医薬または診断薬としての請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項16】
白血球の血小板および/または内皮細胞への結合を抑制する医薬の製造における、請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項17】
慢性炎症性疾患、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、虚血、腎不全のような再潅流障害、腫瘍転移、細菌性敗血症、播種性血管内凝固症候群、成人呼吸ストレス症候群、卒中、脈管形成、移植片拒絶反応、血栓症または循環性ショックの治療、予防または診断用医薬の製造における、請求項15または16記載の使用。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物および1種以上の製薬上許容し得る担体または賦形剤を含む製薬組成物。
【請求項19】
非経口投与用、好ましくは、血管内、筋肉内、皮下または病巣内注入用に調合し加工する、請求項18記載の製薬組成物。
【請求項20】
経口投与用、好ましくは、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、腸溶性固形投与量剤形、持効性もしくは制御放出を与える固形投与量剤形または口内崩壊性投与量剤形の形に調合し加工する、請求項18記載の製薬組成物。
【請求項21】
経鼻、口腔内、舌下、または腟内投与のような粘膜経由投与用に調合し加工する、請求項18記載の製薬組成物。
【請求項22】
投与量計量吸入器、ネブライザー、エアゾールスプレーディスペンサーまたは乾燥粉末吸入器による肺投与用に調合し加工する、請求項18記載の製薬組成物。
【請求項23】
薬物ターゲッティング剤および/または生体利用増強剤をさらに含む、請求項18〜22のいずれか1項記載の製薬組成物。
【請求項24】
分子がP-セレクチンに対する結合親和性を含むかどうかの判定方法であって、P-セレクチンまたはその官能性等価物を前記分子および請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物と接触させ、前記P-セレクチンまたはその官能性アナログへの前記化合物の結合が低減されているかどうかを判定することを特徴とする前記方法。
【請求項25】
請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物に特異的に結合し得る結合性分子。
【請求項26】
抗体またはその官能性部分、誘導体および/またはアナログを含む、請求項26記載の結合性分子。
【請求項27】
化合物がヒトP-セレクチンに結合し得るかどうかの判定方法であって、請求項1〜11のいずれか1項記載の化合物中で保存アミノ酸をアミノ酸に置換し、得られた化合物がヒトP-セレクチンに結合し得るかどうかを判定することを特徴とする前記方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−513141(P2006−513141A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530000(P2004−530000)
【出願日】平成15年7月4日(2003.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007260
【国際公開番号】WO2004/018502
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(592099787)アステラス ファルマ ユーロープ ベスローテン フェンノートシャップ (5)
【Fターム(参考)】