説明

PAR−2活性化のエフェクターおよび炎症の調節におけるその使用

本発明は、PAR−2レセプターが炎症性応答を増幅し、PAR−2活性化のエフェクターが、それ故炎症性応答の調節に使用でき、それにより患者に治療効果を与えることができるという認識に関連する。本発明は特に、炎症の処置、ならびに、炎症、癌および損傷に起因する痛覚(疼痛)の処置におけるPAR−2エフェクターの使用に向けられる。本発明は、特に、PAR−2活性化のネガティブエフェクターに向けられ、とりわけ、PAR−2活性化のネガティブエフェクターである抗PAR−2抗体に向けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年8月5日に出願され、本明細書にその全体を参考として組み込まれる、米国仮特許出願番号第61/086,282号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
本発明は、PAR−2レセプターが炎症性応答を増幅し、PAR−2活性化のエフェクターが、それ故炎症性応答を調節するために使用でき、それにより患者に治療効果を与えられるという認識に関する。本発明は特に、炎症の処置、ならびに、炎症、癌および損傷に起因する痛覚(疼痛)の処置におけるPAR−2エフェクターの使用に向けられる。
【0003】
I.PAR−2およびGタンパク質共役レセプター
Gタンパク質共役レセプター(「GPCR」)は、細胞外アミノ末端および細胞内カルボキシル末端により結合される7回疎水性膜貫通(「TM」)セグメントの共通の構造モチーフを共有する膜タンパク質の巨大なファミリーを含む(Kobilka, B.K. (epub 2006) Biochim. Biophys. Acta. 1768(4):794-807)。GPCRは、ホルモン、神経伝達物質および知覚活性化(例えば、視覚、嗅覚および味覚)に応答する膜貫通シグナリングの主なメディエーターである。GPCRの多数のサブファミリー(例えば、ロドプシンサブファミリー、Adhesionサブファミリー、Frizzled/Tasteサブファミリー、グルタミン酸サブファミリー、セクレチンサブファミリー、およびプロテアーゼ活性化レセプター(「PAR」)サブファミリー)が、配列分析を通して同定された(Attwood, T.K. et al. (1994) Protein Eng. 7(2):195-203; Kolakowski, L.F., Jr. (1994) Receptors Channels 2(1):1-7; Fredriksson, R. et al. (2003) Mol. Pharmacol. 63(6):1256-1272; Macfarlane, S.R. et al. (2001) Pharmacol. Rev. 53(2):245-282)。GPCRの構造の類似性にも関わらず、異なるGPCRは異なる機能を示し、構造的に多様な天然のリガンドに結合する(Kobilka, supra; Ji, T.H. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273(28):17299-17302)。
【0004】
Gタンパク質共役レセプターのPARサブファミリーの4つのメンバーが記載された:PAR−1、PAR−2、PAR−3およびPAR−4である(Hollenberg, M.D. et al. (2004) Br. J. Pharmacol. 143(4):443-454; Hansen, K.K. et al. (2004) Immunol. 112(2):183-190; Hollenberg, M.D. (2003) Life Sci. 74(2-3):237-246; Hollenberg, M.D. (2000) Mol. Pharmacol. 58(6):1175-1177; Hollenberg, M.D. et al. (2000) Can. J. Physiol. Pharmacol. 78(1):81-85; Hollenberg, M.D. (1999) Trends Pharmacol Sci. 20(7):271-273; Hollenberg, M.D. et al. (1999) Can. J. Physiol. Pharmacol. 77(6):458-464)。
【0005】
PARサブファミリーメンバーは、独特な活性化方法により特徴付けられる。他のGPCRの場合のようにレセプターリガンドの結合により刺激されるというよりはむしろ、PARサブファミリーメンバーは、そのN−末端領域の部分のタンパク質分解的切断を通して酵素的に活性化される。この切断はセリンプロテアーゼにより仲介されるが、レセプターのN−末端ドメインの残った部分がPAR分子の第二番目の細胞外ループ内の残基に結合することを許容する構造をとることを可能にする。このような結合は、レセプターの活性化を仲介する。N−末端ドメインのタンパク質分解後の部分は、レセプター分子の一部分であるので、「テザーリガンド」と称される(Macfarlane et al.,上記、を参照されたい)。PAR−2の切断の原因と知られている主なプロテアーゼは、トリプターゼおよびトリプシンである。
【0006】
PARレセプターの活性化は、多数の細胞性、組織性および全身性の効果を引き起こす。PAR−2は特に本発明に関し、米国特許番号第7,256,172号、第7,148,018号、第6,864,229号および第6,323,219号、米国特許公開番号第20070237759号;第20060142203号;第20060063930号;第20040082773号;第20040266687号;第20020045581号;欧州特許番号第1511765号および第1238283号;PCT公開番号WO07/092640;WO07/076055;WO06/127396;WO06/127379;WO06/104190;WO06/070780;WO06/035936;WO06/023844;WO04/003202;WO04/002418;およびWO01/52883;ならびに、Hansen et al., 前記; Hollenberg (2003),前記; Hollenberg et al. (2000),前記; and Macfarlane et al.,前記)に論じられている。PAR−2の活性化が血管新生した組織および高度に血管新生した器官において応答を誘導することが見い出されてきた(Nystedt, S. et al. (1995) Eur. J. Biochem. 232(1):84-89; Nystedt, S. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 91:9208-9212)。研究により、それが気管支弛緩(broncheorelaxation)、骨芽細胞によるカルシウムの取り込み、唾液分泌、有糸分裂誘発に影響を与えること、ならびに、胆嚢、腸、腎臓、膵臓、神経系、免疫系、胃および尿管に影響を与えることが示された。PAR−2活性化は、ケラチノサイトへの多数の作用を仲介する;カルシウムの取り込み上昇、増殖阻害および分化阻害、IL−6およびGM−CSFの産生誘導、色素沈着の増加、メラニンの取り込み上昇、ならびに貪食の上昇である(Derian, C.K. et al. (1997) Cell Growth Differen. 8:743-749; Santulli, R.J. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 92:9151-9155; Seiberg, M. et al. (2000) Exp. Cell Res. 254:25-32; Seiberg, M. et al. (2000) J. Invest. Dermatol. 115:162-167; Sharlow, E.R. et al. (2000) J. Cell. Sci. 113:3093-3101)。Macfarlaneら、前記、は、PAR活性化の多数の作用を概説している。
【0007】
II.炎症
用語「炎症」は、有害な刺激を取り除き、修復/治癒の過程を開始するために、感染、毒物暴露または細胞障害の部位で、白血球および血漿タンパク質の集積および活性化の達成を目的とした免疫系の複雑な応答を表現するために使用される(Abbas, A.K. et al. (2000) Cellular and Molecular Immunology, 4th Ed., W.B. Saunders, Philadelphia, PA)。炎症性応答が、それ故、しばしば望ましい一方、免疫応答の異常制御は、処置しなければ痛みや組織損傷を引き起こしうる不適切な炎症性応答の開始の原因となりうる(例えば、Hickey, Psychoneuroimmunology II (Academic Press 1990)を参照されたい)。
【0008】
ステロイド性抗炎症薬(グルココルチコイド:ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾンおよびフルドロコルチゾンなど)は、最も強力で即効性があり信頼できる入手可能な抗炎症薬の一員である。これらの薬剤は、炎症における2つの主要な産物:プロスタグランジンおよびロイコトリエンを抑制するように作用する。不運なことに、既存のステロイド性抗炎症薬の使用は、一般的な免疫抑制、高血糖、皮膚脆弱性の上昇、骨密度の低下(骨粗鬆症、高い骨折のリスク、より遅い骨折の修復)、体重増加、筋肉分解(タンパク質分解)、脱力、筋肉量の低下、成長不全、思春期の遅れおよび中枢神経系の興奮を含む著しく有害な副作用を伴いうる(例えば、米国特許公開番号第20070275938号;van Staa, T.P. (2006) Calcif. Tissue Int. 79(3):129-137; Goodman, S.B. et al. (2007) J. Am. Acad. Orthop. Surg. 15(8):450-460; Irving, P.M. et al. (2007) Aliment Pharmacol Ther. 26(3):313-329; Devogelaer, J.P. (2006) Rheum. Dis. Clin. North Am. 32(4):733-757; Allen, D.B. (2006) Adv. Pediatr. 53:101-110; El Desoky, E.S. (2001) Curr. Therap. Res. 62(2):92-112を参照されたい)。
【0009】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、最も広く使用される分類の治療薬を含む(例えば,Antman, E.M. et al. (Epub Feb 26, 2007) Circulation 115(12):1634-1642; Adachi, M. et al. (2007) Histol. Histopathol. 22(4):437-442; Fortun, P.J. et al. (2007) Curr. Opin. Gastroenterol. 23(2):134-141; Gaffo, A. et al. (2006) Amer. J. Health Syst. Pharm. 63(24):2451-2465; Rosen, J. et al. (2005) Endocr. Rev. 26(3):452-464を参照されたい)。これらの薬剤すべては、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)のアイソフォームの発現を阻害することにより、鎮痛性の、抗炎症性の、および解熱性の特性を示すが(Grosser, T. (2006) Thromb. Haemost. 96(4):393-400; Hawkey, C.J. et al. (2005) Curr. Opin. Gastroenterol. 21(6):660-664; Curry, S.L. et al. (2005) J. Amer. Anim. Hosp. Assoc. 41(5):298-309)、それらには、サリチル酸(アスピリン)、ナプロキセン、イブプロフェン、ビオックス(登録商標)、セレブレックス(登録商標)、ジクロフェナク−ナトリウム、メロキシカムおよびニメスリドを含む構造的に多様な薬剤のセットが含まれる。不運なことに、NSAIDの使用もまた、著しいリスクを伴う(米国特許公開番号第20070237740号および第20070184133号)。COX−2選択的ではないNSAIDが、それらを服薬したすべての個体の20%〜40%において、胃腸部の副作用を起こしたことが報告されている(Steinmeyer, J. (2000) Arthritis Res. 2(5):379-385)。COX−2選択的なNSAIDにさえも、しかしながら、重大な副作用の可能性がある。患者の1〜2%において、重大な胃腸部の出血が見られる。連続的な治療をうける患者の15〜20%において、消化性潰瘍が発生するであろう(Singh, G. et al. (1996) Arch. Intern. Med. 156:1530-1536; Brooks, P.M. et al. (1991) N. Engl. J. Med. 324:1716-1725)。
【0010】
それ故、従来の進歩すべてにも関わらず、炎症、ならびに、炎症、癌、および他の障害による痛覚(疼痛)のための治療的または予防的処置を提供するために使用できる化合物の必要性が残っている。本発明は、この必要性および関連した必要性に関する。
【0011】
発明の要約
本発明は、PAR−2レセプターが炎症性応答を増幅し、PAR−2活性化のエフェクターが、それ故、炎症性応答の調節に使用でき、それにより患者に治療効果を与えられるという認識に関する。本発明は、特に、炎症の処置、ならびに、炎症、癌および損傷による痛覚(疼痛)の処置におけるPAR−2エフェクターの使用に向けられる。本発明は、特に、PAR−2活性化のネガティブエフェクターに向けられ、とりわけ、PAR−2活性化のネガティブエフェクターである抗PAR−2抗体に向けられる。
【0012】
詳細には、本発明は、プロテアーゼレセプター−2(PAR−2)の1つの領域に結合できるドメインを含む(ここで、その結合がPAR−2の活性化または活性を調節する)PAR−2エフェクター分子を含む組成物を提供する。本発明は、特に、その分子がPAR−2活性化のネガティブエフェクターまたは活性のネガティブエフェクターである、このようなPAR−2エフェクター分子の態様に関する。
【0013】
本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、分子は抗体(および特に改変抗体)である。本発明は、特に、そのような改変抗体の態様に関し、ここで、改変抗体は、性質(A)、(B)もしくは(C)を示すか、または、性質(A)、(B)および(C)のいずれかの組み合わせを示す。
(A)約0.03nM〜0.2nMのKdを示す;
(B)EC50が約0.2nM〜約0.4nMで、ヒトPAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞に対する濃度依存的結合を示す;および/または
(C)IC50が約2.0nM〜約0.5nM、さらに好ましくはIC50が約1.0nM〜約0.5nMで、上皮細胞中(および、特に、ヒト、ラット、または、マウス上皮細胞系の上皮細胞中)のトリプシン誘導性のカルシウム放出を阻害する。
【0014】
本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、そのエフェクター分子は、ヒトPAR−1と比較してヒトPAR−2に対し少なくとも100倍強い結合親和性を示す改変抗体である。
【0015】
本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号11〜15または17のいずれかの配列を有する重鎖CDR、または配列番号19〜20のどちらかの配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号11〜15または17のいずれかの配列を有する重鎖CDRおよび配列番号19の配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号11〜15または17のいずれかの配列を有する重鎖CDRおよび配列番号20の配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。
【0016】
本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号21〜26または配列番号30〜36のいずれかの配列を有する重鎖CDR、または配列番号27〜28のどちらかの配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号21〜26または配列番号30〜36のいずれかの配列を有する重鎖CDRおよび配列番号27の配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、配列番号21〜26または配列番号30〜36のいずれかの配列を有する重鎖CDRおよび配列番号28の配列を有する軽鎖CDRを含む改変抗体である。
【0017】
本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、改変抗体Par−B、Par−CまたはPar−Dである。本発明は、特に、そのようなPAR−2エフェクター分子の態様に関し、ここで、エフェクター分子は、アミノ酸配列が、配列番号37または配列番号40のDNA配列から選択された発現DNA配列によってコードされる抗体軽鎖を有する、および/または、アミノ酸配列が、配列番号38、配列番号39、または配列番号41のDNA配列から選択された発現DNA配列によってコードされる重鎖を有する改変抗体である。
【0018】
本発明は、また、上記のPAR−2エフェクター分子のいずれかおよび薬理学的に許容しうる賦形剤を含む医薬組成物に関する。本発明は、さらに、追加として付加的な抗炎症薬を含むそのような医薬組成物のすべてに関する。
【0019】
本発明は、また、レシピエント哺乳動物の炎症を処置する方法を提供し、上記のPAR−2エフェクター分子のいずれかおよび薬理学的に許容しうる賦形剤を含む医薬組成物を、そのような処置を提供するのに十分な量で、哺乳動物に投与すること含む。本発明は、さらに、そのような方法のすべてに関し、ここで提供された組成物は追加として付加的な抗炎症薬を含む。本発明は、特に、そのような方法のすべてに関し、ここで、炎症は、乾癬、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患、trans vivo遅延型過敏症、PAR−2仲介大動脈輪弛緩および疼痛からなるグループから選択される。
【0020】
本発明は、また、レシピエント哺乳動物における炎症を予防または阻害する方法を提供し、哺乳動物に、炎症に前もって、上記のPAR−2エフェクター分子のいずれかおよび薬理学的に許容しうる賦形剤を含む医薬組成物を、そのような予防または阻害を提供するのに十分な量で投与することを含む。本発明はそのような方法の態様も提供し、ここで、組成物はさらに付加的な抗炎症薬を含む。本発明は、特に、そのような方法の態様に関し、ここで、炎症は乾癬、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患、trans vivo遅延型過敏症、PAR−2仲介大動脈輪弛緩および疼痛からなるグループから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1、パネルA〜Cは、細胞膜内のPAR−2の構造を図示する。図1、パネルAは、PAR−2の一般的な構造を示す。図1、パネルBは、そのN−末端ドメインのタンパク質分解的切断時のPAR−2の活性化を図示する。PARファミリーのレセプターの活性化は、結果として新しいN−末端をもたらすタンパク質分解的切断により仲介される。この新しく露出されたリガンドは、その後、これらのGPCRの第二番目の細胞外ループとの分子内相互作用に関与し、結果として下流のシグナリングイベントをもたらす。テザーリガンドの配列とマッチする短いペプチドもまた、各々のPARレセプターを活性化でき、それ故ターゲット確認のための重要なツールとして使用できる(図1、パネルC)。
【図2】図2は、FRETに基づくペプチド切断アッセイにおいて、抗体Ab3777がPAR−2のトリプシン切断の部分的阻害を示すことを示す。
【図3】図3は、抗体Ab3777が、細胞性の切断アッセイにおいて、部分的阻害を示すことを示す。図3のレジェンドを表1に示す。
【図4】図4は、「親和性成熟抗体」IgG4_Pro Ab4996、Ab4999、Ab5005および親IgG1Ab3777の、PAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞への結合の研究結果を示す。
【図5】図5は、親和性を最適化したIgGを試験するためのFLAG−PAR−2切断アッセイの代表的なデータを示す。細胞表面でのFLAGタグの検出は阻害活性と相関する。
【図6】図6は、トリプシン誘導性カルシウム応答アッセイにおいて、抗体Ab3777が部分的阻害を示すことを示す。
【図7】図7は、ex vivoでのラット大動脈輪のトリプシン誘導性緩和の強力な阻害を示し、本発明の抗PAR−2抗体が、PAR−2活性化を通して仲介される生物学的応答を機能的に阻害できることを実証する。
【図8A】図8Aは、抗PAR−2抗体Par−B(図8A)のtrans vivo DTHを阻害する能力を示す。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)単独の注入後、またはPBMCおよびテタヌス毒(TT)の注入後の、足の厚さにおける変化を示す。マウスは、PBS、ヒトIgG4(20mg/kg)または抗PAR−2抗体で前処理(−3時間に、腹腔内)した。パーセント阻害はバーの上部に示される。p<0.05(PBSとの比較)。
【図8B】図8Bは、抗PAR−2抗体Par−D(図8B)のtrans vivo DTHを阻害する能力を示す。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)単独の注入後、またはPBMCおよびテタヌス毒(TT)の注入後の、足の厚さにおける変化を示す。マウスは、PBS、ヒトIgG4(20mg/kg)または抗PAR−2抗体で前処理(−3時間に、腹腔内)した。パーセント阻害はバーの上部に示される。p<0.05(PBSとの比較)。
【図9】図9は、抗PAR−2抗体Par−BおよびPar−DによるIL−8分泌の濃度依存的な阻害を示す。
【0022】
詳細な説明
炎症性応答におけるPAR−2の役割は、げっ歯類およびヒトの両方において様々な状況でよく記載されてきた(Cottrell, G. S. et al. (2003) Biochem. Soc. Trans. 31:1191-1197)。PAR−2レセプターは広範に低レベルで発現しているが、それらは炎症性刺激に応答して局所的に活性化され、サイトカイン産生および細胞増殖に至る。タンパク質分解活性の上昇およびPAR−2発現の増加が様々な異なる疾患における炎症部位で示されてきた。結果として肥満細胞の脱顆粒をもたらす初期の炎症性シグナルは、直接的にPAR−2レセプターに作用するトリプターゼおよびトリプシンの放出を刺激する。PAR−2レセプターの刺激は、サイトカイン産生および細胞増殖に至る炎症性応答を増幅する。PAR−2はまた、痛覚および神経性炎症(Bunnett, N. W. (2006) Semin. Thromb. Hemost. 32 (Suppl. 1):39-48を参照されたい),ならびに癌の兆候(O'Brien, P.J. et al. (2001) Oncogene 20:1570-1581を参照されたい)に関与することが示されてきた。
【0023】
上に論じられたように、PAR−2(図1、パネルA)は、そのN−末端のタンパク質分解的切断を通して活性化され、結果として、それによりレセプターを活性化するための、第二番目の膜貫通ループの残基に結合できる「テザー」リガンドの生成をもたらす(図1、パネルB)。
【0024】
本発明は、部分的に、PAR−2レセプターが炎症性応答を増幅し、PAR−2活性化のエフェクターが、それ故、炎症性応答の調節に使用でき、それにより、患者に対して治療効果を与えられるという認識に由来する。本発明は、特に、炎症の処置、ならびに、炎症、癌および障害による痛覚(疼痛)の処置におけるPAR−2エフェクターの使用に向けられる。
【0025】
本明細書において使用される時には、PAR−2活性化の「エフェクター」は、PAR−2の活性化または活性を調節する分子である。そのようなエフェクター分子は、それらがPAR−2を活性化する(またはPAR−2の活性化を促進する)場合には、PAR−2活性化の「ポジティブ」エフェクターであろう。あるいは、そのような分子は、それらがPAR−2の活性化を阻害または抑制する(または、PAR−2活性化の速度論を減少させる)なら、PAR−2の「ネガティブ」エフェクターであろう。それ故、本発明のPAR−2のエフェクターは、レシピエントにおける炎症を増加させるためにPAR−2の活性化を上方制御するエフェクターおよびレシピエントにおける炎症を減少または抑制するためにPAR−2活性化を下方制御するエフェクターを含む。PAR−2のポジティブエフェクターは、非効果的または不十分な免疫応答(例えば、細菌、真菌もしくはウイルスの感染、癌、または老化の場合)を増大するために望ましい(Paludan, S.R. (2000) J. Leukocyte Biol. 67(1):18-25; Garbino, J. et al. (2007) Expert Rev. Anti. Infect. Ther. 5(1):129-140; Pugin, J. (2007) Novartis Found Symp.280:21-27を参照されたい)。PAR−2のネガティブエフェクターは、望ましくない炎症を抑制または阻害するために望ましい。
【0026】
本発明に限定されることなく、本発明のPAR−2エフェクターは、様々なメカニズムのいずれかを通して機能してもよい。例えば、本発明のポジティブPAR−2エフェクターは、テザーリガンドの擬態として作用し、そのようにレセプターの活性化を仲介してもよい(図1、パネルC)。あるいは、本発明のPAR−2エフェクターは、「テザー」リガンドとPAR−2の第二番目の膜貫通ループの関連残基との間におこる結合を阻害または予防するように作用でき、それにより、PAR−2の活性化を阻害または予防する。本発明のPAR−2エフェクターは、PAR−2のN−末端の切断を促進するように作用でき、それにより、PAR−2活性化の速度論および程度を増大させる。逆に、本発明のPAR−2エフェクターは、PAR−2のN−末端の切断を抑制するように作用でき、それにより、PAR−2の活性化を減弱または抑制する。本発明のPAR−2エフェクターの能力は、それ自体、それぞれのターゲットに対するそのようなエフェクターの結合親和性を増加または減少させることによって調節できる。本発明は、特にPAR−2の活性化のネガティブエフェクターの治療上の使用を意図する。
【0027】
用語「IC50」は、in vitroにおいて50%阻害に必要とされる薬物の濃度を意味し、一方、用語「EC50」は、in vivoにおいて最大効果の50%をえるために必要とされる血漿濃度を意味する。
【0028】
本発明は、特に、炎症の処置においてin vivoで予防的または治療的使用のできる高い有効性のPAR−2エフェクターに関する。本明細書において使用される時には、「高い有効性」のPAR−2エフェクターは、6nM未満、好ましくは、2nM未満、さらに好ましくは、1nM未満、そして、さらにもっと好ましくは、0.5nM未満、0.2nM未満、または0.1nM未満のEC50を有するPAR−2エフェクターである。好ましくは、そのような高い有効性のPAR−2エフェクターは、さらに、6nM未満、好ましくは、2nM未満、さらに好ましくは1nM、そしてさらにもっと好ましくは0.5nM未満、0.2nM未満、または0.1nM未満のIC50、および、0.5nM未満、0.2nM未満、0.1nM未満、または、さらに好ましくは、0.05nM未満の解離定数(Kd)を示すであろう。
【0029】
用語「炎症」は、本明細書において使用される時には、特異的または非特異的防御システムのいずれかの反応に起因する状態および疾患を含むことを意味する。本明細書において使用される時には、用語「特異的防御システム」は、特定の抗原の存在に対して反応する免疫システムのその成分を意味することを意図する。炎症が特定の防御システムの反応に引き起こされる、仲介される、または関連する場合、炎症は特異的な防御システムの応答に起因すると言われる。特定の防御システムの応答に起因する炎症の例には、風疹ウイルスなどの抗原への応答、自己免疫疾患、T細胞により仲介される遅延型過敏症応答(例えば、マントーテストで、テストの結果が「陽性」である個体において見られるような)などが含まれる。「非特異的防御システム反応」は、免疫記憶の出来ない白血球に仲介される応答である。そのような細胞には、顆粒球およびマクロファージが含まれる。本明細書において使用される時には、炎症が非特異的な防御システムの反応に引き起こされる、仲介される、または関連する場合、炎症は非特異的防御システムの応答に起因すると言われる。少なくとも部分的に非特異的防御システムの反応に起因する炎症の例には、喘息;成人呼吸促迫症候群(ARDS)、または、敗血症もしくは外傷の二次的な多臓器障害症候群;心筋または他の組織の再灌流障害;急性糸球体腎炎;乾癬、関節リウマチ;反応性関節炎;急性炎症性成分に関する皮膚疾患;接触性皮膚炎;急性化膿性髄膜炎または他の中枢神経系炎症性疾患;熱損傷;人工透析;白血球除去;炎症性腸疾患;潰瘍性大腸炎;クローン病;壊死性腸炎;顆粒球輸血に関連する症候群;およびサイトカイン誘導性毒性のような状態に関連した炎症が含まれる。
【0030】
I.好ましい組成物
本発明は、特に、PAR−2エフェクターとしての抗体分子の使用を意図する。本明細書において使用される時には、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多選択性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、抗体の抗原結合フラグメント(例えば、FabまたはF(ab')フラグメント)、ジスルフィド結合Fvなどを含む。そのような抗体は、化学合成を通じて(例えばDawson, P.E. et al. (2000) Ann. Rev Biochem. 69:923-960; Wilken, J. et al. (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9(4):412-426; Kochendoerfer, G.G. et al. (1999) Curr. Opin. Chem. Biol. 3(6):665-671を参照されたい)、リコンビナントまたはトランスジェニックの手法によって(Wang, M. et al. (2007) IDrugs 10(8):562-565; Aubrey, N. et al. (2006) J. Soc. Biol. 200(4):345-354; Laffly, E., et al. (2006) J. Soc. Biol. 200(4):325-343; Hagemeyer, C.E. et al. (2007) Semin. Thromb. Hemost. 33(2):185-195; Rasmussen, S.K. et al. (2007) Biotechnol. Lett. 29(6):845-852; Gasser, B. et al. (2007) Biotechnol. Lett. 29(2):201-212; Jefferis, R. (2005) Biotechnol. Prog. 21(1):11-16; Smith, K.A. et al. (2004) J. Clin. Pathol. 57(9):912-917; Kipriyanov, S.M. et al. (2004) Mol Biotechnol. 26(1):39-60; Fischer, R. et al. (2003) Vaccine 21(7-8):820-825; Maynard, J. et al. (2000) Ann. Rev. Biomed. Eng. 2:339-376; Young, M.W. et al. (1998) Res. Immunol. 149(6):609-610; Hudson, P.J. (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9(4):395-402を参照されたい)、細胞(例えばハイブリドーマ)培養を介して(Laffly et al., supra; Aldington, S. et al. (2007) J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. 848(1):64-78; Farid, S.S. (2006) J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. 848(1):8-18; Birch, J.R. et al. (2006) Adv. Drug Deliv. Rev. 58(5-6):671-685; Even, M.S. et al. (2006) Trends Biotechnol. 24(3):105-108; Graumann, K. et al. (2006) Biotechnol. J. 1(2):164-186;米国特許第7,112,439号;米国特許公開番号第20070037216号および第20040197866号)、または他の手法によって産生できる。
【0031】
最も好ましくは、本発明の抗体PAR−2エフェクター分子は、バクテリオファージディスプレイパニング法(例えば米国特許公開番号第20070292947号;PCT公開番号WO88/06630;WO90/02809;WO92/01047;WO91/17271;WO91/19818;WO92/01047およびWO92/09690;Parmley S. F. et al. (1988) Gene 73:305-318; Bass, S. et al. (1990) Proteins: Structure, Function and Genetics 8:309-314; Greenwood, J. et al. (1991) J. Mol. Biol. 220:821-827; Jespers L.S. et al. (1995) Biotechnology (N.Y.) 13:378-382; Kay, B.K. et al. (1996) In: Phage Display Of Peptides And Proteins: A Laboratory Manual, Winter, J. et al. (Eds.) Academic Press, Inc., San Diego; Dunn, I.S. (1996) Curr. Opin. Biotechnol. 7:547-553; McGregor, D. (1996) Mol. Biotechnol. 6:155-162; Gao, C. et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 96:6025-6030を参照されたい)を用いて、(例えば、その結合速度論もしくは特異性を改良するため、または、そのような性質を調節するために)単離および/または精密化されるであろう。
【0032】
本発明の一つの態様において、そのようなPAR−2エフェクター抗体は、トリプシン/トリプターゼのプロテアーゼ切断部位をまたがるN−末端PAR−2ペプチドに結合するその能力で選択されるだろう。そのような結合は、タンパク質分解的切断へのこの領域の到達性を下げ、それ故PAR−2の活性化を阻害する。したがって、免疫特異的にこの領域に結合する抗体は、PAR−2のネガティブエフェクターである。本明細書において使用される時には、用語「免疫特異的に結合する」とは、抗体とその抗体を誘発する抗原との間の相互作用を特徴付ける特異的な結合を意味する。
【0033】
PAR−2N−末端ドメイン切断部位(「▼」として示される)はヒトPAR−2タンパク質(配列番号1)の位置36〜37の間に位置する。
【0034】
配列番号1(ヒトPAR−2;Genbankアクセッション番号P55085)。
【表1】

【0035】
従って、切断部位をまたがる適切な数のアミノ酸残基からなるペプチドフラグメントを調製し、候補抗体のライブラリーをペプチドに対する結合に関してスクリーニングする。さらに具体的には、合成HuCAL GOLDライブラリー(Ostendorp, R. et al. (2004) Antibodies Volume 2: Novel Technologies and Therapeutic Use, pp. 13-52 Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York;米国特許第5,514,548号;第6,294,353号;第6,300,064号;第6,653,068号;第6,667,150号;第6,692,935号;第6,696,248号;第6,706,484号;第6,753,136号;第6,828,422号;第7,049,135号;第7,264,963号)をペプチド特異的な結合物の選択に使用した。フラグメントに結合する抗体は、上記のバクテリオファージディスプレイ技術を用いて、その親和性を増加させるために、親和性成熟過程(Brocks, B. et al. (2006) Hum. Antibodies 15(4):115-124; Steidl, S. et al. www.priorartdatabase.com/IPCOM/000159278)を受ける。成熟抗体は、結合の上昇のため、ペプチドおよびPAR−2発現細胞に対してスクリーニングされる。
【0036】
最も好ましくは、抗体PAR−2エフェクター分子を同定するために使用されるペプチドフラグメントは、様々な哺乳類のPAR−2分子のN−末端切断部位をまたがる配列の比較により導き出されたコンセンサス配列であろう。例えば、ヒトPAR−2の上記のN−末端切断部位をまたがる21アミノ酸長のペプチドを、マウス(Genbankアクセッション番号CAE11955)、ラット(Genbankアクセッション番号NP_446349)、およびカニクイザル(Genbankアクセッション番号XP_001106201)のPAR−2の相同な配列と比較することにより、好ましいコンセンサス配列(配列番号5)が同定されうる(保存配列を下線で示す):
【表2】

【0037】
本発明の二番目の態様において、そのような抗体は、PAR−2の切断後のN−末端の「テザー」リガンドを結合するその能力について選択されるであろう。PAR−2の切断後のN−末端の「テザー」リガンドの配列は、配列番号1(残基37〜75):SLIGKVDGTS HVTGKGVTVE TVFSVDEFSA SVLTGKLTTに存在する。「テザー」リガンドに結合する抗体は、「テザー」リガンドがPAR−2の第二番目の細胞外ループの残基に結合する能力を抑制または阻害し、それ故、PAR−2の活性化を阻害する。そのような分子は、PAR−2のネガティブエフェクターを含む。
【0038】
本発明の三番目の態様において、そのような抗体は、PAR−2の第二番目の細胞外ループの残基に結合するその能力について選択されるであろう。PAR−2の第二番目の細胞外ループの配列は、配列番号1(残基131〜149):KIAYHIHGNN WIYGEALCNに見い出される。PAR−2のポジティブエフェクターを構成するために、この領域に結合する抗体は、例えば、天然の「テザー」リガンドの擬態物としての役目を果たす事によるか、または、PAR−2の第二番目の細胞外ループの残基に対する天然の「テザー」リガンドの結合を促進することによって、PAR−2の部分的または完全な活性化を引き起こしうる。あるいは、そのような抗体は、それ自身はPAR−2の活性化はできず、PAR−2活性化を仲介する天然の「テザー」リガンドの能力を阻害するように働きうる(そして、それ故ネガティブPAR−2エフェクターである。)。それ故、PAR−2の第二番目の細胞外ループに結合する抗体は、ループの残基との相互作用の性質に依存して、PAR−2のポジティブエフェクターか、PAR−2のネガティブエフェクターのいずれかであろう。
【0039】
最も好ましくは、抗体PAR−2エフェクター分子は、「改変抗体」を含むであろう。本明細書において使用される時には、用語「改変抗体」は、抗体が、例えば、天然に生じるIgG4重鎖および/またはλ軽鎖に導入された非天然に生じるCDRのセット、および/または、非天然に生じる可変および定常鎖領域の融合物(例えば、異なるIgG(例えば、IgG2)の定常領域への重鎖可変領域の融合物)を含むことを意味する。本発明は、特に、改変前または親抗体と比較して増大した結合を示す改変抗体に関する。本明細書において使用される時には、改変前または親抗体によって示される結合よりも、少なくとも5倍、さらに好ましくは少なくとも10倍、さらに好ましくは少なくとも20倍、さらにもっと好ましくは、少なくとも50倍、さらにもっと好ましくは、少なくとも100倍、そして、最も好ましくは、少なくとも1000倍強いならば、改変抗体の結合が増大されたと言われる。
【0040】
異なる宿主細胞での増大した発現のため、抗体鎖をコードするポリヌクレオチドを適応させるため、そして発現を妨害するRNAモチーフを改変するために、コドン最適化の原則が使用されうる。ヌクレオチド配列に対するこれらの変化は、ペプチド配列における変化を起こさない。
【0041】
本発明の好ましいPAR−2エフェクター分子は抗体であるが、本発明は、非抗体PAR−2エフェクター分子も含む。ある態様では、そのような分子は、非抗体ポリペプチド、例えば、PAR−2活性化に作用するためにPAR−2エピトープに結合する「抗原結合タンパク質」であろう。あるいは、非ペプチドPAR−2エフェクター(例えば、ペプチド模倣化合物(例えば米国特許第20070237759号を参照されたい)が使用されうる。一般的にペプチド模倣化合物は、ヒト抗体であるが、当業者に周知の方法で、−CHNH−、−CHS−、−CH−CH−、−CH=CH−(シスおよびトランス)、−COCH−、−CH(OH)CH−、および−CHSO−からなるグループから選択される結合によって場合により置換された一個以上のペプチド結合を有するようなパラダイムポリペプチド(すなわち、所望の生物化学的性質または薬理学的活性を有するポリペプチド)と構造的に類似している。コンセンサス配列の一個以上のアミノ酸の、同じタイプのD−アミノ酸との体系的な置換(例えば、L−リシンの代わりにD−リシン)も、より安定なペプチドを産生するために使用されうる。加えて、コンセンサス配列または実質的に同一であるコンセンサス配列の変異を含む拘束性ペプチドは、当業者に周知の方法(Rizo, J. et al. (1992) Annu. Rev. Biochem. 61:387-418)で、例えば、ペプチドを環化する細胞内ジスルフィド架橋の形成を可能にする内部のシステイン残基を付加することによって産生されうる。
【0042】
本発明者のPAR−2エフェクターの提供が、さらなるエフェクター分子のスクリーニングにおけるそのようなエフェクター分子の使用を可能にする。例えば、ネガティブPAR−2エフェクター分子(トリプシン/トリプターゼのプロテアーゼ切断部位にまたがるN−末端PAR−2ペプチドを免疫特異的に結合するPAR−2エフェクター抗体のようなもの)は、ネガティブPAR−2作用を逆転させる、または増大させる分子の単離を可能にするために(それにより、ポジティブPAR−2エフェクター分子またはさらに強力なネガティブPAR−2エフェクター分子の単離を可能にする)、以下に論じられるFLIPRまたは他のアッセイと共に使用されうる。
【0043】
II.組成物の好ましい用途
PAR−2活性化のネガティブエフェクターは、乾癬、関節リウマチ、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患、喘息のような炎症の処置に特に有用である。乾癬は、リンパ球浸潤、ケラチノサイト過増殖、ならびに炎症促進性のサイトカインおよびケモカインの産生に特徴付けられる皮膚の炎症性疾患である。乾癬は、異常な活性化T細胞によるサイトカインの産生を含む望ましくない炎症性応答に起因すると信じられている(Chong, B.F. et al. (2007) Clin. Immunol. 123(2):129-138; Ritchlin, C. (2007) Nat. Clin. Pract. Rheumatol. 3(12):698-706)。この疾患は、白人人口の1〜3%に発症すると報告され、持続的で、外観を損じ、跡が残るであろう(stigmatizing)(MacDonald, A. et al. (2007) Postgrad. Med. J. 83(985):690-697; Sabat, R. et al. (2007) Exp. Dermatol. 16(10):779-798)。この疾患のための完全に満足な治療法は未だ同定されていない(Menter, A. et al. (2007) Lancet 370(9583):272-284)。
【0044】
関節リウマチは、関節炎、滑膜過形成、および骨びらんにより特徴付けられる炎症性疾患である。関節リウマチのアジュバンド関節炎モデルでは、PAR−2欠損マウスは、関節腫脹が著しく減少し、関節損傷の組織学的な証拠はなかった(Ferrell, W. R. et al. (2003) J. Clin. Invest. 111:35-41)。他のデータは、PAR−2の低分子阻害剤(ENMD−1068)の使用が、結果として関節炎のカラゲナン/カオリン誘導モデルにおける臨床スコアの減少をもたらしたことを示唆する(Kelso, E.B. (2006) “Therapeutic Promise of Proteinase-Activated Receptor-2 Antagonism in Joint Inflammation,” J. Pharmacol. Exp. Ther. 316(3):1017-1024)。さらに、PAR−2アゴニストの関節内注入は、持続的な関節腫脹および滑膜充血を誘導するに十分である。野生型関節炎マウスにおいて、PAR−2の発現は滑膜および関節周囲の外側の組織でアップレギュレーションされていることが見い出された(Kelso, E.B. et al. (2006) J. Pharmacol. Exp. Ther. 316:1017-1024)。しかしながら、別のグループは、PAR−2ノックアウトマウスにおいて、これらの発見に疑問を投げかけた。Bussoらは、PAR−2ノックアウトマウスにおいて、ザイモサン誘導関節炎、K/BxN血清誘導関節炎、および抗原誘導関節炎の阻害を示すことが出来なかった(Busso et al. (2007) Arthritis Rheumat. 56:101-107を参照されたい)。
【0045】
接触性皮膚炎は、刺激性物質およびアレルゲンのような外部因子との接触に対する皮膚の炎症性応答である(Jacob, S.E. et al. (2007) Expert Opin. Pharmacother. 8(16):2757-2774; Diepgen, T.L. et al. (2007) J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. 21(Suppl 2):9-13; Brasch, J. et al. (2007) J. Dtsch. Dermatol. Ges. 5(10):943-951; Fyhrquist-Vanni, N. et al. Dermatol. Clin. 25(4):613-623; Amado, A. et al. (2007) Actas Dermosifiliogr. 98(7):452-458; Scalf, L.A. et al. (2007) Geriatrics 62(6):14-9)。
【0046】
炎症性腸疾患(IBD)は、再発性で重大な消化管の炎症により特徴付けられる慢性疾患である。この疾患には、二つの主なサブフォーム、クローン病および潰瘍性大腸炎がある(Nikolaus, S. et al. (2007) Gastroenterology 133(5):1670-1689; Zhong, W. et al. (2008) Front Biosci. 13:1654-1664; Scaldaferri, F. et al. (2007) J. Dig. Dis. 8(4):171-178; Mitsuyama, K. et al. (2007) Anticancer Res. 27(6A):3749-3756; Yamamoto-Furusho, J.K. et al. (2007) World J. Gastroenterol. 13(42):5577-5580; He, S.H. (2004) World J. Gastroenterol. 10(3):309-318)。
【0047】
喘息は、気道の慢性炎症性疾患である。喘息は、気道の表面上皮のアレルギー性炎症の頻回な発症により開始および促進される気道リモデリングに起因すると考えられている(Tang, M.L.K. et al. (2006) Pharmacol. Therap. 112(2):474-488; Caramori, G. et al. (2003) Pulmon. Pharmacol. Therap. 16(5):247-277; Kawabata, A. et al. (2005) J. Pharmacol. Sci. 97(1):20-24; Reed, C.E. et al. (2004) J. Allergy Clin. Immunol. 114(5):997-1009; Niu, Q.X. et al. (2003) Sheng Li Ke Xue Jin Zhan. 34(4):373-375; Black, J.L. (2002) Curr. Opin. Allergy Clin. Immunol. 2(1):47-51; Cocks, T.M. et al. (2001) Pulm. Pharmacol. Ther. 14(3):183-191)。喘息の処置における進歩にも関わらず、この疾患は、罹患率、重症度および死亡率における上昇が続いており、世界中で約10%の小児および5%の成人が発症すると報告されている(Gupta, R. et al. (2004) Bioorg. Medicin. Chem. 12(24):6331-6342)。
【0048】
本発明の一つの態様は、PAR−2活性化が炎症性カスケードを開始するのに関与するという認識、およびそれ故PAR−2活性化の下方調節エフェクターが、そのような炎症の、実際のまたは予測された場合の処置に使用しうるという認識に関する。この点で、炎症性の組織は、炎症性サイトカイン産生(例えばIL−8)および顆粒球の浸潤の上昇を伴うタンパク質分解活性の上昇を示す。PAR−2は、初期の炎症性応答と、免疫細胞の初期の動員および活性化との間の重要なリンクを提供する。PAR−2の発現およびリンパ球の動員も、マウス接触過敏症モデルにおいて上昇する。例えば乾癬の皮膚の炎症におけるPAR−2の役割と同様、PAR−2欠損マウスは、オキサゾロンおよびピクリルクロライドを用いた接触過敏症のモデルにおいて、強い応答を開始できない(Kawagoe, J. et al. (2002) Jpn. J. Pharmacol. 88:77-84)。ヒトにおいて、正常個体の皮膚へのPAR−2アゴニストの直接的塗布の後、接着性分子の発現(EセクレチンおよびICAM)、肥満細胞の活性化およびトリプターゼ産生の上昇も観察される(Seeliger, S. et al. (2003) FASEB J. 17:1871-1885)。アトピー性皮膚炎の患者において、しかしながら、PAR−2アゴニストの注入は、強められた持続的なかゆみを引き起こす(Steinhoff, M. et al. (2003) J. Neurosci. 23:6176-6180)。in vitroで、ヒトケラチノサイトはPAR−2の活性化に応答してIL−8を分泌する(Hou, L. et al. (1998) Immunology 94:356-362)。総合すれば、これらの結果は、PAR−2が炎症性カスケードの開始に関与するという本発明の結論を支持している。
【0049】
PAR−2活性化のネガティブエフェクターは、癌(特に、血液細胞癌、脳腫瘍、乳癌、大腸癌、頭頸部癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、および胃癌)の処置に特に有用でもある。PAR−2は、増殖、浸潤、および転移を促進するオートクリンループに関与しているので、PAR−2活性化のネガティブエフェクターは、癌に対する治療法を提供する(Soreide, K. et al. (2006) J. Pathol. 209(2):147-156; Versteeg, H.H. et al. (2006) Semin. Thromb. Hemost. 32(1):24-32; MacNaughton, W.K. (2005) Mem. Inst. Oswaldo Cruz. 100(Suppl 1):211-215; Nishibori, M. et al. (2005) J. Pharmacol. Sci. 97(1):25-30; Yamamoto, H. et al. (2003) Nippon Rinsho. 61(Suppl 7):220-224; Riewald, M. et al. (2002) Trends Cardiovasc. Med. 12(4):149-154; Leadley, R.J., Jr. et al. (2001) Curr. Opin. Pharmacol. 1(2):169-175; Macfarlane et al., supra)。
【0050】
本発明は、さらに、疼痛(痛覚)の管理におけるPAR−2活性化のネガティブエフェクターの使用を意図する。痛みは、侵害刺激が侵害受容器と呼ばれる特殊化した一次求心性ニューロンの末梢端を興奮させる時、開始される(Hwang, S.W. et al. (2007) Curr. Opin. Anaesthesiol. 20(5):427-434; Ma, W. et al. (2007) Expert Opin. Ther. Targets 11(3):307-320; Tominaga, M. (2007) Handbook Exp. Pharmacol. 179:489-505; Haddad, J.J. (2007) Biochem. Biophys. Res. Commun. 353(2):217-224を参照されたい)。PAR−2を含む多数の分子は、痛覚の増幅および伝播に関与する(Itoh, Y. et al. (2005) J. Pharmacol. Sci. 97(1):14-19; Coelho, A.M. et al. (2003) Curr. Med. Chem. Cardiovasc. Hematol. Agents 1(1):61-72; Vergnolle, N. et al. (2001) Trends Pharmacol. Sci. 22(3):146-152)。
【0051】
(AIDSのような)免疫不全症、癌、および感染のような疾患の臨床上の深刻さは、適切な炎症性応答を示し損なうことにより悪化しうる。そのような場合には、PAR−2活性化のポジティブエフェクターは、治療上有効である。例えば、ある病原体(例えば、Pseudomonas aeruginosa)は、PAR−2のN−末端細胞外ドメインを異常な部位で切断するプロテアーゼを発現することが示され、それ故、結果として生じる「テザー」リガンドの細胞外ループの残基に結合する能力に影響を与え、宿主の炎症性応答を減弱させる(例えば、Chignard, M. et al. (2006) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 34(4):394-398を参照されたい)。他の病原体(例えば、E.coli、蠕虫、ウイルスなど)も、抗炎症性環境を誘導することにより、感染した患者におけるそれらの生存を促進する(Magez, S. et al. (2006) J. Infect. Dis. 193(11):1575-158; Maizels, R.M. et al. (2004) Immunol. Rev. 201:89-116; Albee, L. (2006) Inflamm. Res. 55(1):2-9; Woodruff, J.F. (1979) J. Immunol. 123(1):31-36)。同様に、自然免疫システムは、炎症誘発性および抗菌性の応答(例えば、デフェンシンの発現)を導くTOLL様レセプター(TLR)を、病原体関連分子パターン(PAMP)を認識および結合するために使用する。PAR−2の活性化もデフェンシンの発現を誘導するため、ポジティブPAR−2エフェクター分子は、PAMPによる認識を避ける病原体に起因する感染において所望の抗菌性の応答を増大させる(Froy, O. (2005) Cell. Microbiol. 7(10):1387-1397)。ターゲティングされた炎症も、癌の処置において有益であることが示されてきた(Breitbach, C.J. et al. (Epub Jun 19, 2007) Mol. Ther. 15(9):1686-1693)。
【0052】
IIII.組成物の投与
本発明は、上記PAR−2エフェクターを哺乳類レシピエントおよび特にヒトレシピエントに投与することを意図する。本発明の組成物は、そのようなレシピエントに、炎症をモデュレーションするために治療上効果的な量、提供されるであろう。本明細書において使用される時には、「治療上効果的な量」は、レシピエント患者における炎症の所望のモデュレーションを提供するに十分な本発明の化合物の量を意味する。本発明の組成物は、そのようなレシピエントにおいて進行中の炎症を処置(PAR−2のポジティブエフェクターの場合には増強、またはPAR−2のネガティブエフェクターの場合には抑制)するために治療上効果的な量、レシピエントに提供されるであろう。本明細書において使用される時には、「治療上効果的な量」は、そのような患者の炎症の処置または管理に治療効果を与えるに十分な本発明の組成物の量を意味する。あるいは、望まない炎症を予防するために(PAR−2のネガティブエフェクター)、またはそうでなければ不十分な炎症性応答を仲介する可能性のある患者に炎症を誘導するために(PAR−2のポジティブエフェクター)、本発明の組成物をレシピエントに予防に効果的な量、提供してもよい。本明細書において使用される時には、「予防に効果的な量」は、患者に投与する際、そのような結果を達成するに十分な本発明の組成物の量を意味する。
【0053】
本発明の組成物の治療製剤は、所望の純度を有する一個以上のPAR−2エフェクターの調製物を、任意の生理学的に許容しうる担体、賦形剤、または安定剤と混合することにより(例えば、Gennaro, A.R. (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition. Baltimore, MD: Lippincott Williams & Wilkinsを参照されたい)、例えば、凍結乾燥した製剤または水溶液の形体に、保管のために調製されうる。許容しうる担体、賦形剤、または安定化剤は、レシピエントに対して使用される投与量および濃度で非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンのようなアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾールのような)保存料;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンのようなアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールのような糖;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属錯体(例えばZnタンパク質錯体);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤といった緩衝剤を含む。
【0054】
処方には、一種類以上のPAR−2エフェクター分子が、特定の適応症の処置を提供するのに必要または望ましいように、単独または一個以上の非PAR−2炎症モデュレーターと混合して(集団的に「活性な化合物」)含まれうる。好ましくは、そのような活性な化合物は、互いに悪影響を及ぼすことのない相補的な活性を示すであろう。そのような活性化合物は、意図する目的に効果的な量、組み合わせて、適切に存在する。所望なら、そのような化合物は、例えば、コアセルベーション技術または界面重合によって調製されるマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセル、およびポリメタクリル酸メチルマイクロカプセル)中に、コロイドのドラッグデリバリーシステム中に(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)、またはマクロエマルジョン中に封入してもよい。そのような技術は、Remington前記に開示されている。in vivo投与のために使用される製剤は無菌でなければならない。これは、無菌濾過膜を通した濾過または当業者に周知の他の方法で容易に達成される。
【0055】
徐放性製剤を調製してもよい。適切な徐放性製剤の例には、ポリペプチド変異体を含む固形疎水性ポリマーの半透性マトリックス(そのマトリックスは、成形された物体、例えば、フイルムまたはマイクロカプセルの形体である)を含む。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリル酸)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸およびγエチル−L−グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸共重合体、ならびにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸のようなポリマーは、100日間を超える分子の放出を可能にする一方で、あるヒドロゲルは、より短期間タンパク質を徐放する。封入された抗体が長時間体内に残るとき、37℃での水分への暴露の結果としてそれらは変性または凝集し得、結果として、生物学的活性を失う可能性および免疫原性の変化の可能性を生じる。使用されるメカニズムに合わせて、安定化のために論理的な戦略を考案してもよい。例えば、凝集メカニズムがチオ−ジスルフィド交換を介した分子内ジスルフィド結合形成であると見い出されるなら、スルフヒドリル残基の改変、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含量の制御、適当な添加剤の使用および特定のポリマーマトリックス組成物の開発によって、安定化が達成されうる。
【0056】
そのような本発明の薬理学的組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内および鼻腔内、ならびに局所的な免疫抑制処置が所望ならば病巣内投与を含むいずれかの適した手段により投与してもよい。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。好ましくは、注射によって、最も好ましくは静脈内または皮下注射によって、投与が短期になりそうか長期になりそうかにある程度依存して投薬される。そのような薬理学的組成物の適切な投与量は、炎症の調節の目標、処置される疾患または状態の重症度および経過、薬理学的組成物が予防目的で投与されるかまたは治療目的で投与されるか、以前の治療、患者の病歴および以前の薬理学的組成物への応答、ならびに担当医師の裁量によるであろう。本発明の薬理学的組成物は、一度にまたは一連の処置で、患者に適切に投与される。
【0057】
疾患のタイプまたは重症度に依存して、活性化合物約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.1〜20mg/kg)が、例えば一回以上の分割投与か持続点滴による患者への投与の最初の候補投与量である。典型的な投与量(例えば一ヶ月に一度または二度投与される)は、上記の要素に依存して、約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲であろう。数日以上の繰り返し投与に関して、状態に依存して、疾患の症状の所望の抑制が起こるまで処置は持続される。しかしながら、他の投薬計画も有用であろう。この治療の経過は、容易に従来技術およびアッセイによってモニターできる。
【0058】
今まで一般的に本発明を記載したが、実例によって提供され、特定されない限りは本発明を限定することを意図しない以下の実施例の参照を通して、同様の事がさらに容易に理解できるであろう。
【0059】
実施例I
PAR−2特異的抗体の単離および特性
PAR−2のN−末端のプロテアーゼ切断部位にまたがる残基に免疫特異的に結合することのできる抗体(Fabフラグメント)についてパニングするために、抗体ファージディスプレイ技術を使用した。このスクリーニングにおいて同定された抗体のうち、最初の選択で、抗体Ab3777がPAR−2に対して最も高い親和性(65nM)を有することが見い出された。親和性成熟において、1000倍まで改良された親和性および50pMまで低下した解離定数(Kd)の抗体が同定された。抗体Ab3777の重鎖(IgG4)および軽(ラムダ)鎖の可変領域の配列が以下に示される(CDR残基には下線が引かれる):
Ab3777 ラムダ3 軽鎖(配列番号6)
【表3】


Ab3777 VH3 重鎖(配列番号7)
【表4】


Ab4213 ラムダ3 軽鎖(配列番号8)
【表5】


Ab4213 VH3 重鎖(配列番号9)
【表6】

【0060】
PAR−2のN−末端のトリプシン仲介切断を阻止する抗体AB3777の能力を評価するために、PAR−2のN−末端を表す標識したペプチドの切断の際の蛍光の上昇を測定するFRETアッセイで抗体をテストした。結果は、Ab3777がこのペプチドに結合し、一過性の様式で部分的にこの切断を阻止できたということを示した(図2)。親和性成熟抗体は、IC50をこのアッセイのほとんど感度限界である30nMまで低下させ、完全にペプチド切断を阻害した。抗体のPAR−2のN−末端のトリプシン仲介切断を阻止する能力を細胞で評価するために、FLAGタグをつけたPAR−2過発現HEKトランスフェクタントをAb3777 dHLX二価Fabの存在下または非存在下、トリプシンで処理した。PAR−2の活性化は、フローサイトメトリーアッセイで抗体に検出されるFLAGエピトープの損失となる、レセプターの切断/内部移行をもたらした(図3)。表1は、図3のレジェンドを提供する。
【表7】

【0061】
図4は、PAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞への親和性成熟抗体IgG4_Pro Ab4996、Ab4999、Ab5005およびその親IgG1 Ab3777の結合の研究の結果を示す。図5は、親和性が最適化されたIgGを試験するFLAG−PAR−2切断アッセイの代表的なデータを示す。細胞表面のFLAGタグの検出は阻害活性と相関する。
【0062】
二価Fab型のAb3777は、トリプシン誘導性カルシウム応答アッセイにおいて部分的な阻害を示す。A549細胞を用い、トリプシン刺激後のカルシウム応答の検出によって、PAR−2の活性化は測定される。Fabはこの応答を阻害する能力についてこのアッセイで試験された。Ab3777(PAR−2 P1ペプチドに対して最高の親和性を有するFab)は、二価Fab型で計測される時、FLIPRの部分的に用量依存的な阻害を示した。このFabは一価型では活性でなかったし、IgG1型において活性ではあるがより弱いようである。コントロールの二価Fab(Ab3207)またはIgG1(LY6.3)は、PAR−2に結合せず、ネガティブコントロールとして含まれる。抗体濃度はμg/mlで表示される(図6)。
【0063】
実施例2
抗体Ab3777の親和性成熟
抗体Ab3777は、機構的アッセイ(FRETに基づくPAR−2ペプチド切断アッセイ)および機能的アッセイ(細胞に基づくPAR−2切断アッセイ;細胞に基づくトリプシン刺激カルシウム応答アッセイ)の両方において独特に部分的阻害を示せることが発見された。長期的なアッセイ(例えば、ケラチノサイトによるトリプシン誘導性IL−8産生)で測定される際にサイトカイン産生を阻害するように、阻害を示す程度を上昇させるため、PAR−2のN−末端エピトープに対して上昇した親和性を示す、抗体Ab3777の誘導体が探索された。そのような抗体は、PAR−2切断のより高い阻害および最終的により高い治療効果を提供するであろう。従って、Ab3777の親和性成熟に取り掛かった。低いが有意な親和性を示す他のPAR−2結合抗体(抗体Ab4213を含む)のプールの成熟も、さらなる高親和性の結合体の発見可能性を最大化するために、並行して行った。
【0064】
63個の親和性成熟Fabの特徴付けは、親和性、有効性、および多様性の維持に基づく8個の候補物の選択(つまり、親またはプールからの成熟および重鎖または軽鎖におけるそれらの変化を有するもの)につながった(表2)。
【表8】


成熟結合体Ab4994およびAb4996は、溶液中のPAR−2ペプチドについてのパニングに由来する。他のすべての成熟結合体(Ab4997、Ab4999、Ab5003、Ab5005、Ab5006、Ab5007)は、PAR−2をトランスフェクションされた細胞についてのパニングに由来する。
【0065】
親抗体Ab4213および成熟抗体(Ab4994、Ab4996、Ab4997、Ab4999、Ab5003、Ab5005、Ab5006、およびAb5007)の重鎖(IgG4)および軽(ラムダ)鎖可変領域の配列は以下に記載される(CDR残基には下線が引かれる):
Ab4994 VH3 重鎖(配列番号21)
【表9】


Ab4996 VH3 重鎖(配列番号22)
【表10】


Ab4997 VH3 重鎖 (配列番号23)
【表11】


Ab5003 VH3 重鎖 (配列番号24)
【表12】


Ab5006 VH3 重鎖 (配列番号25)
【表13】


Ab5007 VH3 重鎖 (配列番号26)
【表14】


Ab4999 ラムダ3 軽鎖 (配列番号27)
【表15】


Ab5005 ラムダ3 軽鎖 (配列番号28)
【表16】

【0066】
抗体Ab4999およびAb5005の重鎖の配列は、Ab3777 VH3の重鎖の配列(配列番号7)と同じである。抗体Ab4994、Ab4997、Ab5003、Ab5006およびAb5007の軽鎖の配列は、Ab3777 ラムダ3の軽鎖の配列(配列番号6)と同じである。抗体Ab4996の軽鎖の配列はAb4213 ラムダ3の軽鎖の配列(配列番号8)と同じである。いくつかのクロスクローニングされた(トランスフェクションされた)抗体も作製された:Ab5149(Ab4997の重鎖と結合したAb4999の軽鎖からなる);Ab5150(Ab5003の重鎖と結合したAb4999の軽鎖からなる)およびAb5151(Ab5007の重鎖と結合したAb4999の軽鎖からなる)。
【0067】
上記の抗体のFabフラグメントも作製された。おのおのの場合、上に報告された重鎖可変配列の位置3に現れるグルタミン残基は、グルタミン酸残基と置換された:
FabのためのAb3777 VH3重鎖(配列番号29)
【表17】


FabためのAb4213 VH3重鎖(配列番号30)
【表18】


FabためのAb4994 VH3重鎖(配列番号31)
【表19】


FabためのAb4996 VH3重鎖(配列番号32)
【表20】


FabためのAb4997 VH3重鎖(配列番号33)
【表21】


FabためのAb5003 VH3重鎖(配列番号34)
【表22】


FabためのAb5006 VH3重鎖(配列番号35)
【表23】


FabためのAb5007 VH3重鎖(配列番号36)
【表24】

【0068】
抗体Ab4999およびAb5005のFabフラグメントの重鎖配列は、Ab3777 VH3の重鎖の配列(配列番号29)と同じである。抗体Ab4994、Ab4997、Ab5003、Ab5006およびAb5007のFabフラグメントの軽鎖の配列は、Ab3777 ラムダ3の軽鎖の配列(配列番号6)と同じである。抗体Ab4996のFabフラグメントの軽鎖の配列は、Ab4213 ラムダ3の軽鎖の配列(配列番号8)と同じである。
【0069】
これらのFabは、次いで、IgG4_Pro(「IgG4p」)型に変換された。IgG4_Pro抗体は、H鎖のヒンジ領域にSer241Proの変異を含むヒトIgG4の定常領域に融合された、対応するFab由来の可変VHおよびVL領域からなる。ヒンジ領域におけるプロリン置換は、天然のヒトIgG4分子の半分子の形成を阻止する事が知られている(Angal et al. (1993) Molec. Immunol. 30:105-108)。これらの抗体は、HEK細胞に過発現されたPAR−2に対して改善された結合(ほとんど親和性の影響による)を保有または示した(表3)。親抗体Ab3777と比較して、親和性成熟抗体は、親和性において約1000倍までの改善を示した。このことは、GPCRに対する抗体の親和性成熟の効果を示す。
【表25】

【0070】
IgG4_Pro型の、親和性成熟されクロスクローニングされた抗体は、細胞結合、FLIPRアッセイにおけるトリプシン誘導性カルシウム応答の阻害、FRETアッセイにおけるPAR−2ペプチド切断の阻害、および細胞に基づくアッセイシステムにおけるPAR−2切断の阻害に関して評価された。すべての候補物は、PAR−2をトランスフェクションされた細胞に対して優れた見かけの親和性(EC50)を、そして、すべての短期細胞性アッセイにおいて最大の有効性および効力を示す(表4)。
【表26】

【0071】
表4に示されるように、親和性におけるこの改善は、PAR−2の機能的拮抗作用を測定するアッセイにおいては、効力の上昇に形を変えた。抗体Ab4996、Ab4999、Ab5150およびAb5151が、更なる分析のために選択された。
【0072】
親和性または効力における更なる改善が得られるかどうかを決定するために、8個の親和性成熟抗体由来の最適化された重鎖および軽鎖が組み合わされた。生成された6個の更なる抗体のうち4個が、PAR−2をトランスフェクションされた細胞によい結合と機能アッセイにおいて阻害を示した。FLAGに基づくアッセイでのAb5006およびAb5147の減少した活性に基づき、これらの抗体はさらなるプロファイリングから除外された。つまり、14候補抗体の、細胞上のPAR−2に対する結合親和性、FLIPRにおける機能的阻害、細胞性の切断の阻止、およびペプチド切断の阻止に関する評価後、10個の候補体(7個は最初の親和性成熟から選択され、3個はクロスクローニングから選択された)が同定された。10個の候補抗体のうち4個(Ab4996、Ab4999、Ab5150およびAb5151)が、発現の最適化に関して選択された。これらの抗体は、PAR−2に対するその優れた親和性および特異性、短期細胞性アッセイにおける強い阻害活性の提示、多様性の維持(親の誘導、親和性成熟 対 クロスクローニング)および種の交差反応性の提示に基づいて選択された。
【0073】
実施例3
抗PAR−2抗体の最適化
抗体の可変領域のコドン最適化は、抗体の産生に使用されるハムスター細胞系CHO−DG44における発現の増大のために使用された。コドンの使用は、ハムスターの傾向に適応させ、RNAの安定性や発現を妨げるであろうRNAモチーフは取り除いた。3個の候補抗PAR−2抗体(Par−B、Par−CおよびPar−D)の最適化された可変領域のcDNA配列を以下に示す。Par−BおよびPar−Cは同じ軽鎖を共有する。
【0074】
抗体Par−B
配列番号37[Ab4999軽鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
【表27】


配列番号38[Ab4999重鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
【表28】

【0075】
抗体Par−C
配列番号37[Ab4999軽鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
配列番号39[Ab5007またはAb5151重鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
【表29】

【0076】
抗体Par−D
配列番号40[Ab4996軽鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
【表30】


配列番号41[Ab4996重鎖可変領域の最適化されたcDNA配列]
【表31】

【0077】
実施例4
第一次ターゲットに対する最適化抗PAR−2抗体の結合:PAR−2ペプチドおよび細胞結合
抗体PAR−2エフェクター分子候補は、トリプシン切断部位を含むN−末端PAR−2ペプチド配列に免疫特異的に結合するその能力について評価された。このエピトープに対する結合親和性を決定するために、異なる種のPAR−2配列由来のペプチドが使用された(配列番号1〜4、上記)。溶液中のペプチドへの結合は、Kinexa技術により決定された。表5に示されるように、4個の抗体すべてが、30〜200pMの範囲の解離定数(Kd)で、ヒトPAR−2ペプチドに高い親和性を示した。抗体Par−BおよびPar−Cは、マウスPAR−2ペプチドに対して同様の親和性を示した一方、抗体Par−Dは、幾分、より弱い結合を示し、ヒトペプチドと比較して、約100倍低い結合を示した。さらに、ラットおよびカニクイザルPAR−2由来のペプチドに対する抗体Par−BおよびPar−Dの親和性が測定され、ヒトPAR−2ペプチドに対してと同様の範囲の解離定数を示した。
【表32】

【0078】
非改変抗体Ab4996、Ab4999およびAb5151は、ヒトPAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞に対して、0.2nM(抗体Ab4996およびAb4999)ならびに0.4nM(抗体Ab5151)のEC50値で、濃度依存的な結合を示した。これらのデータと一致して、候補抗体Par−BおよびPar−Dは、ヒトPAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞に特異的な飽和結合を示した。抗体Par−BおよびPar−Dは共に、それぞれ約0.3nMおよび約0.4nM(n=2)のEC50値で、強力な結合活性を示した。最大強度が約3〜5倍低い結合も、内在性PAR−2を発現すると報告されている親のHEK293細胞系において検出された。さらに、内在性PAR−2発現ヒト肺上皮細胞系A549に対する抗体の特異的結合が検出され、PAR−2のN−末端領域由来のPAR−2ペプチドの添加により阻害できた。
【0079】
実施例5
抗PAR−2抗体の分子選択性
PAR−1およびPAR−4に対するPAR−2への抗体の分子選択性を、3種すべてのPARのN−末端領域由来のペプチドを用いて評価した:
【表33】

【0080】
ELISA実験は、Ab4996、Ab4999およびAb5151のPAR−2ペプチド(担体としてのトランスフェリンに結合された)に対する特異的な結合を示したが、PAR−4ペプチドには結合しないことを示した。Ab4996は、PAR−1ペプチドに対して限られた結合(約100倍弱い)を示した一方、Ab4999およびAb5151は、PAR−1ペプチドに対して検出できる結合は示さなかった。
【0081】
A549細胞において、トロンビンはPAR−1を活性化する一方、PAR−2はトリプシンによって活性化される。それ故、PAR−1ペプチドに対するAb4996の観察された反応性の機能的関連性を評価するために、トロンビン誘導カルシウム応答を阻害するAb4996の能力をFLIPRアッセイを用いて分析した。Ab4996およびAb5151は、トリプシン仲介カルシウム応答の有意な阻害を示したが、抗体濃度が300nMまでではトロンビン誘導応答の阻害は示さなかった。これらの研究は、観察されたAb4996の低レベルのPAR−1ペプチドへの結合能力は生理学的には関連がなく、単離された抗体はPAR−2選択的であり、PAR−1の活性化を妨げないことを示す。
【0082】
実施例6
PAR−2抗体の細胞活性
抗体Par−B、Par−CおよびPar−Dのすべては、トリプシンで刺激されたヒト肺上皮細胞系A549において、それらの親抗体に示されたように強力なカルシウム放出の阻害を示した。
【0083】
抗体Par−BおよびPar−Dの細胞活性は、ヒト初代ケラチノサイトを用いたFLIPRアッセイで評価された。384ウェル平底組織培養プレートに、ヒトケラチノサイト(2×10細胞)を37C、5%COで、一晩インキュベーションした。培養培地を取り除いた後、コンフルエントの細胞層はFluo−3、AM細胞透過性色素をロードされた。細胞層を2回洗浄した後、ヒトケラチノサイトを各種濃度の抗体Par−BおよびPar−Dと共に30分間インキュベーションし、その後0.14μMのトリプシンで刺激した。細胞のカルシウムフラックスを蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR)を用いて計測した。両方の抗体は、A549細胞に見られる活性に匹敵する低ナノモル範囲のIC50値で、ヒト初代ケラチノサイトにおけるトリプシン仲介カルシウムフラックスを濃度依存的に阻害した。両方の抗体は、A549細胞に見られる活性に匹敵する低ナノモル範囲のIC50値で、効率的に濃度依存的な阻害を示した。
【0084】
マウスPAR−2との機能的な交差反応性をさらに評価するために、抗体は、マウスルイス肺がん(LLC)細胞系を用いたFLIPRアッセイで試験された。抗体Par−BおよびPar−Cは、LLC細胞においてトリプシン誘導性カルシウム放出の効率的な阻害を示した一方、抗体Par−Dは、有意な効果を示さなかった。FLIPRアッセイの結果を表6に示す。
【表34】

【0085】
第二の長期の細胞に基づくアッセイにおいて、IL−8の分泌が、約20時間トリプシンで刺激されたヒト初代ケラチノサイトにおいて分析された。上記FLIPRアッセイの結果と一致して、IL−8の分泌の明確な濃度依存的阻害が観察された(図9)。しかしながら、FLIPRアッセイとは対照的に、抗体PAR−2エフェクター分子候補の効力は約100倍低かった。
【0086】
このアッセイにおけるIC50は、約100nMであった。しかしながら、完全な容量反応曲線が得られなかったため、これはただの推計である。IL−8アッセイにおける(FLIPRアッセイと比較して)より低い効力は、PAR−2上の同じ結合部位に対して抗体と競合するトリプシンとの長いインキュベーションによって説明されるかもしれない。
【0087】
要約すれば、所望の抗PAR−2抗体の阻害活性は、二つの異なる細胞性アッセイ(カルシウム放出またはIL−8分泌の測定)において示された。後者のアッセイの結果は、ヒトケラチノサイトは適切なターゲットであり、好中球を引きつけるケモカインIL−8の抗体仲介阻害は乾癬において治療効果を提供しうる。このアッセイの結果の要約は、表7に報告される。
【表35】

【0088】
実施例7
種交差反応性および大動脈輪アッセイ
非ヒト種との交差反応性の分析は、薬理学的および毒物学的研究において使用できる関連した種の同定を促進するために望ましい。上記PAR−2ペプチドの結合および細胞のFLIPRアッセイは、抗ヒトPAR−2抗体のげっ歯類のPAR−2との交差反応性を評価するために使用された。
【0089】
抗体Par−Dは、マウスペプチドに対して少しより低い結合活性を有するようであったが、上記のように、両抗体Par−BおよびPar−Dは、ヒトペプチドに対して観測された親和性に匹敵するナノモル未満の親和性をマウスPAR−2ペプチドに対して示した。上記のマウスLLC細胞系を用いたFLIPR研究は、抗体Par−Bの強力な阻害活性を示したが、抗体Par−Dの効果は示さなかった。
【0090】
非ヒトPAR−2に対するこれらの抗体の機能的な交差反応性を評価するために、大動脈輪アッセイを初代げっ歯類組織を用いて実施した(Saifeddine M. et al. (1996) Br. J. Pharmacol 118:521-530; Kamata, K. et al. (1997) Res. Commun. Mol. Pathol. Pharmacol. 96:319-328を参照されたい)。このアッセイは、ラットまたはマウスの大動脈輪組織のトリプシン誘導性弛緩におけるPAR−2抗体の阻害活性を測定する。トリプシンおよびPAR−2アゴニストペプチドが、おそらくPAR−2仲介の亜酸化窒素(NO)産生および内皮由来過分極因子(EDHF)を通じて、事前に緊張した大動脈輪を弛緩させることが出来るということが見い出された(図7)。抗体Par−BおよびPar−Dは各々、ラット大動脈輪のトリプシン誘導性弛緩の強力な阻害を示すことが見い出された一方、マウスの大動脈輪の弛緩は抗体Par−Bによってのみ阻害され、抗体Par−Dには阻害されなかった。これらのデータは、マウスおよびラット細胞系を用いたFLIPR研究由来の上記データと一致している。結論として、抗体Par−Bはマウスおよびラット両方のPAR−2と機能的な交差反応性を示す一方、抗体Par−DはラットPAR−2のみと機能的活性を示すが、マウスPAR−2とは示さない。種交差反応性研究は、以下の表8に要約した。
【表36】

【0091】
実施例8
trans vivo DTHモデルにおけるPAR−2抗体の活性
trans vivo遅延型過敏症(DTH)は、マウスにおけるヒトT細胞の仲介する炎症の検証されたモデルである(Warnecke, G. et al. (2007) Transplantation 84(3):392-399; Pelletier, R.P. et al. (March 28, 2007, Epub) Hum. Immunol. 68(6):514-522; Carrodeguas, L. et al. (1999) Hum. Immunol. 60(8):640-651)。このアッセイでは、テタヌスで感作されたドナー由来のヒトPBMCが単離され、マウスの足蹠にテタヌス毒(TT)と共に同時注入される。足蹠で発生するこの腫れ応答は24時間目に計測される。この腫れ応答は、ヒトT細胞の抗原特異的活性化およびマウス細胞に仲介される炎症に依存する。
【0092】
図8Aおよび図8Bに示されるのは、PBMCおよびTTの注入後24時間の足蹠の厚みにおける変化である。抗体Par−B(図8A)およびPar−D(図8B)は、10mg/kgでのデキサメタゾンの有効性(約80%阻害)と同様の有効性で容量依存的に応答を阻害した(20mg/kgで71%阻害)。これらの実験は、抗PAR−2抗体のin vivoにおける細胞仲介性免疫応答を機能的に阻害する能力を示す。
【0093】
この明細書で言及されたすべての刊行物および特許は、各々の刊行物または特許出願が、引用によってその全体が具体的および個別に引用されることを示される場合と同じ程度に、引用によって本明細書に援用される。本発明はその具体的態様に関して記載された一方、さらに改変できること、および本出願が一般的に本発明の原理に従う本発明のすべての変化、使用、または適応を含めることを意図し、本発明の関連する技術分野において周知または慣行であって、本明細書において説明された本質的特徴に適用されうる本発明の開示からのそうした逸脱も含まれることは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼレセプター−2(PAR−2)の領域と結合できるドメインを含むPAR−2エフェクター分子であって、該結合がPAR−2の活性化または活性を調節する分子。
【請求項2】
前記分子がPAR−2の活性化または活性のネガティブエフェクターである、請求項1記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項3】
前記分子が抗体である、請求項2記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項4】
前記抗体が改変抗体である、請求項3記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項5】
前記改変抗体が約0.03nM〜約0.2nMのKを示す、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項6】
前記改変抗体が約0.2nM〜約0.4nMのEC50で、ヒトPAR−2をトランスフェクションされたHEK293細胞に濃度依存的結合を示す、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項7】
前記改変抗体が、約2.0nM〜約0.5nMのIC50で、ヒト、マウス、ラットの上皮細胞系の細胞において、トリプシン誘導性カルシウム放出を阻害する、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項8】
前記IC50が約1.0nM〜約0.5nMである請求項7記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項9】
前記改変抗体が、ヒトPAR−1と比較して、ヒトPAR−2に少なくとも100倍高い結合親和性を示す、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項10】
前記改変抗体が、配列番号11〜15または17のいずれかの配列を有する重鎖CDRを含む、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項11】
前記改変抗体が、配列番号19〜20のどちらかの配列を有する軽鎖CDRを含む、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項12】
前記改変抗体が、配列番号21〜26または30〜36のいずれかの配列を有する重鎖を含む、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項13】
前記改変抗体が、配列番号27〜28のどちらかの配列を有する軽鎖を含む、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項14】
前記改変抗体が、Par−B、Par−CまたはPar−Dである、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項15】
アミノ酸配列が配列番号37または配列番号40のDNA配列から選択される発現DNA配列によってコードされる抗体軽鎖を有する、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項16】
アミノ酸配列が配列番号38、配列番号39または配列番号41のDNA配列から選択される発現DNA配列によってコードされる重鎖を有する、請求項4記載のPAR−2エフェクター分子。
【請求項17】
請求項1〜16記載のPAR−2エフェクター分子および薬理学的に許容しうる賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項18】
前記組成物が追加として付加的な抗炎症薬を含む、請求項17記載の医薬組成物。
【請求項19】
レシピエント哺乳類における炎症を処置する方法であって、請求項1〜16記載のいずれかのPAR−2エフェクター分子および薬理学的に許容しうる賦形剤を含む請求項17の医薬組成物を、該哺乳類にそのような処理を提供するのに十分な量で投与することを含む方法。
【請求項20】
前記組成物が追加として付加的な抗炎症薬を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記炎症が、乾癬、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患、trans vivo遅延型過敏症、PAR−2仲介大動脈輪弛緩および疼痛からなるグループから選択される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
レシピエント哺乳類における炎症を予防または阻止する方法であって、該哺乳動物に、該炎症に前もって、請求項1〜16記載のいずれかのPAR−2エフェクター分子および薬理学的に許容しうる賦形剤を含む医薬組成物を、そのような予防または阻止を提供するのに十分な量で投与することを含む方法。
【請求項23】
前記組成物が追加として付加的な抗炎症薬を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記炎症が乾癬、接触性皮膚炎、炎症性腸疾患、trans vivo遅延型過敏症、PAR−2仲介大動脈輪弛緩および疼痛からなるグループから選択される、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−530515(P2011−530515A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522126(P2011−522126)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/052192
【国際公開番号】WO2010/017086
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】