説明

PCB、ダイオキシン類などの難分解物質による汚染物の無害化方法

【課題】低コストで、環境負荷が少なく、処理物質の再利用が可能なPCB、ダイオキシン類の無害化方法を提供すること。
【解決手段】汚染物と水分とを内部に保持する密閉容器を加熱して、容器内に過熱水蒸気が充満する加圧還元雰囲気を形成することで、PCB、ダイオキシン類を分解した後、容器を密閉状態のまま冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB、ダイオキシン類などの難分解物質による汚染物の無害化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCB、ダイオキシン類等の難分解性環境有害物質に対する国連などの国際的な取り組み、環境関連法規制の強化により、環境有害物質の無害化技術の確立が望まれている。
【0003】
PCB、ダイオキシン類は、極めて分解し難い性質であるため、従来の高温焼却法によっては、800〜1000℃の温度での加熱が必要であり、大掛かりな焼却装置、冷却装置が必要で、多大な設備コストかかるという問題があった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、ダイオキシン類の汚染土壌を、酸素を含むガス中で加熱処理する前に、予め汚染土壌を粉砕することによって効率よく無害化する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、大気雰囲気から遮蔽した容器内で300℃以上の略常圧の過熱水蒸気を有機廃棄物に接触させ、無酸素雰囲気で有機廃棄物を無害化する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2007−301417号公報
【特許文献2】特開2007−181784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法においては、汚染土壌を粉砕する手間を要し、さらに、ダイオキシン類の再合成を防ぐために、汚染土壌に再合成を抑制する物質などを添加する必要もある。
【0007】
また、特許文献2の方法においては、過熱水蒸気の発生手段は大掛かりなものであり、さらに、過熱水蒸気と汚染物の接触が均一ではなく、過熱水蒸気が被処理物内部(例えば、汚染土壌粒子内)の汚染物質との十分な接触が難しいため完全分解に至らない場合があるという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1、2のいずれの方法においても、無害化処理後の廃水蒸気を含む高温ガスを急冷却するための排ガス処理、冷却により生じる凝縮水の排水処理が必要になるため、処理工程の複雑化、設備コストの上昇の原因となる他、排ガス等による環境への負荷増大も懸念される。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、低コストで、環境負荷が少なく、処理物質の再利用が可能なPCB、ダイオキシン類の無害化方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1に、PCBや、ダイオキシン類による汚染物の無害化方法であって、前記汚染物と水分とを内部に保持する密閉容器を加熱して、容器内に過熱水蒸気が充満する加圧還元雰囲気を形成することを特徴とする無害化方法を提供する。
【0011】
さらに、第2に、容器内圧力が10〜30気圧となるように加熱する前記第1の無害化方法を、第3に、容器内を300℃〜500℃に加熱する前記第1または2の無害化方法を、第4に、水分は汚染物に含有されている前記第1から3の無害化方法を、第5に、容器内の温度が300℃〜500℃において、容器内圧力が10〜30気圧となるように、加熱前の容器内の総水分量を調節する前記第1から4の無害化方法を、第6に、無害化処理後に、容器を密閉状態で冷却する前記第1から5の無害化方法を、第7に、汚染物が、土壌または焼却灰である前記第1から6の無害化方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PCB、ダイオキシン類に汚染された土壌、焼却灰、その他の固体物質(以下、「汚染物」という)と水分とを内部に保持する容器を密閉状態で加熱することで、容器内に過熱水蒸気の還元雰囲気を形成し、PCB、ダイオキシン類による汚染物を完全無害化することができる。容器内の水分を利用することで、過熱水蒸気発生手段などの設備が不要になり、コストを低減させることができる。
【0013】
また、無害化処理後の容器を密封状態で冷却することによって、冷却過程にも容器内に還元雰囲気が維持され、PCB、ダイオキシン類の再合成を防ぐことができる。さらに、冷却水等が汚染される恐れがなく、排水、排ガスプロセスが不要となり、さらに設備コストを低減させることができる。
【0014】
そして、無害化処理後の容器内の空気、液体および処理物は、いずれも完全無害であるため、取扱いが容易であり、処理後の容器を開放しても環境負荷が全くなく、さらに、処理物質の再利用も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の方法は、汚染物を密閉容器内に収容し、水分とともに密閉状態で間接加熱して、密閉容器内を過熱水蒸気で充満させ、酸素濃度が低下した加圧還元雰囲気を形成することで、汚染物中のPCB、ダイオキシン類を分解し、汚染物を完全無害化するものである。
【0016】
本発明の方法においては、第1に、汚染物を密閉容器内に収容する。
【0017】
密閉容器は、密閉可能で、耐圧性に優れた容器を使用することができる。材料としては、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス合金又はステンレス鋼からなる容器を使用することができる。
【0018】
第2に、加熱後の密閉容器内に過熱水蒸気による加圧還元雰囲気を形成するため、密閉容器内の水分量を調整する。
ここで、密閉容器内の水分は、汚染物中に含有されている水分でよく、鉄鋼、紙、木材、石などのように汚染物に十分な水分がない場合には、密閉容器内に水分を添加する。
【0019】
容器内の水分量の調整は、具体的には図1に示すように、処理条件(加熱温度、容器内圧力)を設定した上で、容器内に保持すべき水分量Qを計算し、汚染物の含水量を考慮して、総水量がQとなるように調節する。したがって、汚染物に水分がない場合には、Qの水量を容器に投入することになる。
汚染物が土壌である場合には、通常、略水分量Qを保持している場合が多く、この場合には水分を添加する必要はない。
また、容器内に水分が過剰に存在する場合、無害化処理自体には影響しないが、水分の蒸発に熱エネルギーを要し、無害化の処理時間が増加することになる。さらに、加熱によって水蒸気が多く発生するため、容器内圧力が大きくなり、更に高い圧力に耐える容器も必要となる。したがって、容器内に水分が過剰に存在する場合には、処理する汚染物の量を調整することが好ましい。
【0020】
設備の製造コスト、処理コストを考慮すると、本発明における加熱温度・容器内圧力は、300℃〜500℃で、10〜30気圧であることが好ましい。したがって、この処理条件となるように、水分量を計算して水分を添加する。なお、容器内に生じる圧力は、容器内の空気の加熱膨張による分圧と過熱水蒸気の分圧に起因するものである。
【0021】
第3に、容器を密閉し、間接加熱する。
【0022】
汚染物を間接的に加熱することで、例えば、熱風が汚染物と接触することがないので、熱風に有害物質が含まれることなく加熱することが可能である。したがって、加熱手段で使用した熱風は、特に処理することなく排気することができる。加熱手段は、例えば、IH、バーナー、高温気体等によって行うことができる。
【0023】
前記の通り、本発明における加熱温度は、300℃以上であることが好ましい。加熱温度については、特に上限はないが、エネルギーコストを考慮すれば、加熱温度は500℃以下が好ましい。本発明の方法によれば、比較的低温の加熱によって完全無害化が可能であり、エネルギーコストが低減される。
【0024】
この加熱によって、容器内に過熱水蒸気による加圧還元雰囲気が形成され、汚染物は、この加圧還元雰囲気に曝される。
【0025】
ここで、「過熱水蒸気」とは、一般的に、大気圧下(1気圧)で100℃以上の状態にある高温水蒸気として定義されているが、本発明においては、10〜30気圧での高温水蒸気を意味し、高い活性力、熱放射性、イオン物質との反応等の特性を有するものをいう。
【0026】
さらに、「過熱水蒸気による加圧還元雰囲気」とは、加熱によって、容器内の水分が、体積膨張した加圧状態の過熱水蒸気へと変化し、これによって、酸素濃度が低下した状態をいう。なお、容器内に存在していた空気も、加熱によって膨張した状態となる。
容器内の酸素濃度は、「酸素濃度=(空気内の酸素の体積)/(空気の体積+水蒸気の体積)」で表され、水蒸気の体積膨張により、容器内の酸素濃度は大きく低下する。具体的には、加熱前に、空気内に存在した酸素濃度は、約20%であるが、処理する容器内の総含水量をコントロールして、容器を300℃以上に加熱し、20〜30気圧になった場合、容器内の酸素濃度は2〜3%程度になる。なお、水の溶存酸素量は0.6%程度しかなく、水が蒸気になると、体積が膨張するため、水内の溶存酸素の体積は発生した水蒸気の体積と比べ非常に小さく、溶存酸素による蒸気中の酸素濃度は無視できる。
【0027】
このように、密閉容器内で過熱水蒸気が発生させることができるため、過熱水蒸気発生手段等を別途備える必要がなく、設備コストを抑えることができる。
【0028】
そして、汚染物は、加圧過熱水蒸気状態の還元雰囲気に曝されると、過熱水蒸気の分解効果、還元雰囲気による分解効果により、汚染物内のPCB、ダイオキシン類は無害化が急速に進む。
【0029】
さらに、密閉状態で加熱することで、物質粒子内部の水も気化し粒子外に出るので、粒子を細分化させ、さらに加圧状態下で、粒子の細分裂を再促進し、すべての汚染物と過熱水蒸気が十分に接触し、汚染物が完全無害化される。
【0030】
そして、加熱する前に容器内の空気(酸素)を真空ポンプなどで吸引除去等する必要もなく、密閉状態で加熱するだけで十分に還元雰囲気とすることができるため、作業の手間、設備コストを低減することができる。
【0031】
さらに、図2を用いて、さらに詳しく密封容器内の温度、圧力、酸素濃度の関係について説明する。
【0032】
図2は、容器を450℃に加熱した時、容器内の最大圧力が20気圧、25気圧となった場合の、酸素濃度の変化の計算結果である。それぞれの内部水の蒸発が完了するまでは、飽和水蒸気量に見合う蒸気の発生が容器内の圧力上昇を支配し、その後は気体の状態方程式による熱膨張に伴う容器内の圧力上昇が起こり、酸素濃度も2、3%程度になる。このように、密閉状態の容器を加熱して、目標の内部圧力を変化させることによって、酸素濃度を有効にコントロールすることができる。
【0033】
そして、第4に、無害化処理後の容器を、密封状態のまま冷却する。
【0034】
密閉した状態で容器ごとに冷却することで、冷却媒体と内部物質の接触がなく、例えば、水で冷却する場合、水が汚染される恐れもなく廃水処理が不要となる。この点で、本発明は、対象物そのもの急冷する従来方法とは明確に相違する。
【0035】
そして、密封状態の容器ごと冷却することにより、図2に示すとおり、200℃の時にも圧力が保持され、酸素濃度2、3%の低酸素状態を維持することができる。ダイオキシン類の再合成は200℃〜350℃の温度条件で行われることが知られているが、冷却時においても容器内は還元酸素雰囲気であることによって、ダイオキシン類の再合成を抑制することができる。なお、冷却方法については、自然冷却しても良いし、処理速度を向上するため、強制的に冷却することもできる。
【0036】
そして、冷却により、容器内が100℃以下になった場合、水蒸気が液体に戻り、容器内は常圧状態となる。そして、気体としては加熱前に容器内に存在した空気だけが残る。この液体、空気は完全無害であり、空中に開放しても環境負荷になることはない。したがって、容器を開け、無害化された処理物を取り出して再利用することもできる。また、液体に戻った水も完全無害であり、再利用することもできる。
【0037】
このように、密封状態の容器を加熱、冷却することで、処理後の容器内の空気は、完全に無害であり、排ガス処理が不要である。また、処理後の液体についても、完全に無害であるとともに、処理前後で含水量が一定であるため、排水処理の必要もない。したがって、さらに、設備の簡略化および設備コストの低減が図られる。
【0038】
さらに、本発明の方法は、汚染物のサイズに対する制限もなく、例えば、PCBに汚染されたコンデンサーなどの小型設備も、PCB油を抜いたあと、設備ごとに密封容器内に入れ、無害化してから、一般的な方法で解体し部品のリサイクルすることができる。
【実施例】
【0039】
容積6Lのモデル高圧密封容器を試作し、ダイオキシン類の濃度も含水率も違う二種類の焼却混じりのダイオキシン類汚染土壌試料に対して試験を実施した。試料である汚染土壌を十分に攪拌し、含水比試験用と処理前濃度測定用と無害化処理用に分けた。含水比試験はJIS1203の土質含水比試験基準に従って測定した。含水率からモデル容器内がおおよそ22-26気圧になるように処理する土量を決めた。
【0040】
無害化試験は、土壌試料を加熱容器に入れ、密封した後、電気炉により、所定の時間加熱し、操作しやすい65℃以下まで自然冷却した。
【0041】
冷却後、容器を開放すると、試料に含まれる水分による水蒸気が冷却により液化したことによって生じた水が確認された。
【0042】
そして、容器内部表面を丁寧に拭き取り、それを土の中に混ぜ、土と水分を更に充分に攪拌した処理後の試料を分析した。
【0043】
表1は、土壌試料1(含水率29.5%)の分析結果(加熱時間1時間)であり、表2は、土壌試料2(含水率18.67%)の分析結果(加熱時間30分)である。
表1に示すように、本発明の方法によって、土壌試料1を450℃で1時間加熱処理した場合(A-1、A-2、A-3)、いずれの場合においても、処理前に強い毒性を示していた土壌試料1を定量限界以下にまで完全無害化することができた。
【0044】
さらに、表2に示すように、土壌試料2を450℃で30分加熱処理した場合にも、土壌試料2を完全無害化することができた。また、400℃で30分加熱した場合においても、ほぼ完全無害化することができた。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】密閉容器内の総水分量の調整手順を示すフローチャートである。
【図2】密封容器内の温度、圧力及び酸素濃度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBや、ダイオキシン類による汚染物の無害化方法であって、前記汚染物と水分とを内部に保持する密閉容器を加熱して、容器内に過熱水蒸気が充満する加圧還元雰囲気を形成することを特徴とする無害化方法。
【請求項2】
容器内圧力が10〜30気圧となるように加熱することを特徴とする請求項1の無害化方法。
【請求項3】
容器内を300℃〜500℃に加熱することを特徴とする請求項1または2の無害化方法。
【請求項4】
水分は汚染物に含有されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの無害化方法。
【請求項5】
容器内の温度が300℃〜500℃において、容器内圧力が10〜30気圧となるように、加熱前の容器内の総水分量を調節することを特徴とする請求項1から4の無害化方法。
【請求項6】
無害化処理後に、容器を密閉状態で冷却することを特徴とする請求項1から5のいずれかの無害化方法。
【請求項7】
汚染物が、土壌または焼却灰であることを特徴とする請求項1から6のいずれかの無害化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−273996(P2009−273996A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126461(P2008−126461)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(593089046)青木あすなろ建設株式会社 (10)
【Fターム(参考)】