説明

PCBの簡易検出方法

【課題】変圧器等に使用されている絶縁油等を被検試料として、PCBの混入を、迅速かつ簡便で安価に検出可能な検出方法を提供すること。
【解決手段】油性試料に対して、固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を含む処理を行い、最終的な溶媒を極性溶媒とした当該溶出処理物に対して、抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーによるPCBの検出を行い、当該検出結果を前記油性試料中のPCBの定量又は定性指標とすることを特徴とする、PCBの検出方法を提供することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分、具体的には、絶縁油等のPCBが混入していることが疑われる油性試料から、簡便にPCBの検出作業を行うことができる手段に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
PCBは、その化学的安定性と電気的絶縁性のため、トランスやコンデンサ等の絶縁油として幅広く利用されてきた。しかし、高い生物蓄積性に起因する生体への有害性等が明らかとなり、現在では製造・使用が禁止されると共に、過去に使用されたPCBは厳重に保管されPCB廃棄物として処理が行われているところである。また、近年になって、本来PCBを使用していないとされていた変圧器など、重電機器で使われている電気絶縁油中に微量のPCBが混入しているものが存在していることが判明し大きな社会問題となっている。
【0003】
従来、絶縁油中等の油性試料のPCB分析は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)等を用いる公定法により行われている。具体的には、平成4年厚生省告示第192号(改正平成10年)に既定されている「特別管理産業廃棄物に係わる基準の検定方法」が挙げられる。この方法では、前処理操作として、絶縁油からのジメチルスルホキシドによる4回の抽出操作、ノルマルヘキサン及び水を用いた3回の抽出操作、複数回の濃硫酸による振とう処理、シリカゲルカラムクロマトグラフィ処理を行い、最終的に、高分解能ガスクロマトグラフィー−高分解能質量分析計を用いてPCBの分析を行う。しかしながら、このような方法では、測定結果が得られるまでに数日から1週間程度の期間を要し、また、分析費用も高価なことから、大量の検体を分析するには不都合な点が多い。
【0004】
こうした問題を解決する手段として、簡便な前処理とGC−MS法とを組み合わせた分析方法が提案されているが、分析操作に熟練を要し、さらに、高価な分析機器を必要とするなどの問題点が認められる。
【0005】
また、GC−MS法よりも簡便な、PCBに対する抗体を用いたELISA法が開発されているが、絶縁油等の中の夾雑物質を除くには、上述したGC−MSと同レベルの前処理が必要とされる場合が多く、また分析操作自体の簡便性に欠けるなどの問題点が認められる。
【特許文献1】特開2003−262636号公報
【特許文献2】特開2004−138550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、変圧器等に使用されている絶縁油等を被検試料として、PCBの混入を、迅速かつ簡便で安価に検出可能な検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、この課題を解決するために検討を行った結果、PCBの検出手段として、抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーを用いることにより、検出を行う前提となる絶縁油等の原試料の精製工程を簡便化することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、油性試料に対して、固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を含む処理を行い、最終的な溶媒を極性溶媒とした当該溶出処理物に対して、抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーによるPCBの検出を行い、当該検出結果を前記油性試料中のPCBの定量又は定性指標とすることを特徴とする、PCBの検出方法(以下、本検出方法ともいう)を提供する発明である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、変圧器等に使用されている絶縁油等を被検試料として、PCBの混入を、迅速かつ簡便で安価に検出可能な検出方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[油性試料]
本検出方法に用いられる試料は、油性試料であれば特に限定されないが、現実的には、PCBの混入が疑われる油性試料であり、例えば、絶縁油、食用油(植物油、動物油)、合成油等が挙げられ、特に、絶縁油に対して本検出方法を行うことは、社会的な意義が大きいものと考えられる。
【0011】
また、本発明の検出対象となるPCBとしては、さらに詳細には、下記の物質が挙げられる(本発明では、これらの物質を「PCB」として総称している)。
【0012】
2-Monochlorobiphenyl、3-Monochlorobiphenyl、4-Monochlorobiphenyl;
2,2'-Dichlorobiphenyl 、2,3-Dichlorobiphenyl、2,3'-Dichlorobiphenyl 、2,4-Dichlorobiphenyl、2,4'-Dichlorobiphenyl 、2,5-Dichlorobiphenyl、2,6-Dichlorobiphenyl、3,3'-Dichlorobiphenyl 、3,4-Dichlorobiphenyl、3,4'-Dichlorobiphenyl 、3,5-Dichlorobiphenyl、4,4'-Dichlorobiphenyl ;
【0013】
2,2',3-Trichlorobiphenyl、2,2',4-Trichlorobiphenyl、2,2',5-Trichlorobiphenyl、2,2',6-Trichlorobiphenyl、2,3,3'-Trichlorobiphenyl、2,3,4-Trichlorobiphenyl 、2,3,4'-Trichlorobiphenyl、2,3,5-Trichlorobiphenyl 、2,3,6-Trichlorobiphenyl 、2,3',4-Trichlorobiphenyl、2,3',5-Trichlorobiphenyl、2,3',6-Trichlorobiphenyl、2,4,4'-Trichlorobiphenyl、2,4,5-Trichlorobiphenyl 、2,4,6-Trichlorobiphenyl 、2,4',5-Trichlorobiphenyl、2,4',6-Trichlorobiphenyl、2',3,4-Trichlorobiphenyl、2',3,5-Trichlorobiphenyl、3,3',4-Trichlorobiphenyl、3,3',5-Trichlorobiphenyl、3,4,4'-Trichlorobiphenyl、3,4,5-Trichlorobiphenyl 、3,4',5-Trichlorobiphenyl;
【0014】
2,2',3,3'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',3,4-Tetrachlorobiphenyl、2,2',3,4'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',3,5-Tetrachlorobiphenyl、2,2',3,5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',3,6-Tetrachlorobiphenyl、2,2',3,6'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',4,4'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',4,5-Tetrachlorobiphenyl、2,2',4,5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',4,6-Tetrachlorobiphenyl、2,2',4,6'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',5,5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',5,6'-Tetrachlorobiphenyl 、2,2',6,6'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3,3',4-Tetrachlorobiphenyl、2,3,3',4'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3,3',5-Tetrachlorobiphenyl、2,3,3',5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3,3',6-Tetrachlorobiphenyl、2,3,4,4'-Tetrachlorobiphenyl、2,3,4,5-Tetrachlorobiphenyl 、2,3,4,6-Tetrachlorobiphenyl 、2,3,4',5-Tetrachlorobiphenyl、2,3,4',6-Tetrachlorobiphenyl、2,3,5,6-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',4,4'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',4,5-Tetrachlorobiphenyl、2,3',4,5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',4,6-Tetrachlorobiphenyl、2,3',4',5-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',4',6-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',5,5'-Tetrachlorobiphenyl 、2,3',5',6-Tetrachlorobiphenyl 、2,4,4',5-Tetrachlorobiphenyl、2,4,4',6-Tetrachlorobiphenyl、2',3,4,5-Tetrachlorobiphenyl、3,3',4,4'-Tetrachlorobiphenyl 、3,3',4,5-Tetrachlorobiphenyl、3,3',4,5'-Tetrachlorobiphenyl 、3,3',5,5'-Tetrachlorobiphenyl 、3,4,4',5-Tetrachlorobiphenyl;
【0015】
2,2',3,3',4-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,3',5-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,3',6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,4,4'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,4,5-Pentachlorobiphenyl、2,2',3,4,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,4,6-Pentachlorobiphenyl、2,2',3,4,6'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,4',5-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,4',6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,5,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,5,6-Pentachlorobiphenyl、2,2',3,5,6'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,5',6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3,6,6'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3',4,5-Pentachlorobiphenyl 、2,2',3',4,6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,4',5-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,4',6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,5,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,5,6'-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,5',6-Pentachlorobiphenyl 、2,2',4,6,6'-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',4,4'-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',4,5-Pentachlorobiphenyl、2,3,3',4',5-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',4,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',4,6-Pentachlorobiphenyl、2,3,3',4',6-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',5,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,3,3',5,6-Pentachlorobiphenyl、2,3,3',5',6-Pentachlorobiphenyl 、2,3,4,4',5-Pentachlorobiphenyl、2,3,4,4',6-Pentachlorobiphenyl、2,3,4,5,6-Pentachlorobiphenyl 、2,3,4',5,6-Pentachlorobiphenyl、2,3',4,4',5-Pentachlorobiphenyl 、2,3',4,4',6-Pentachlorobiphenyl 、2,3',4,5,5'-Pentachlorobiphenyl 、2,3',4,5',6-Pentachlorobiphenyl 、2',3,3',4,5-Pentachlorobiphenyl 、2',3,4,4',5-Pentachlorobiphenyl 、2',3,4,5,5'-Pentachlorobiphenyl 、2',3,4,5,6'-Pentachlorobiphenyl 、3,3',4,4',5-Pentachlorobiphenyl 、3,3',4,5,5'-Pentachlorobiphenyl ;
【0016】
2,2',3,3',4,4'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,5-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,3',5,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,3',5,6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,3',5,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,3',6,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4',4,5-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',5'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4,4',6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4,4,5'-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4,5,6-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4,5,6'-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4,5',6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4,6,6'-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4',5,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4',5,6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,4',5,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4',5',6-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,4',6,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',3,5,5',6-Hexachlorobiphenyl、2,2',3,5,6,6'-Hexachlorobiphenyl、2,2',4,4',5,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',4,4',5,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,2',4,4',6,6'-Hexachlorobiphenyl 、2,3,3',4,4',5-Hexachlorobiphenyl、2,3,3',4,4',5'-Hexachlorobiphenyl 、2,3,3',4,4',6-Hexachlorobiphenyl、2,3,3',4,5,5'-Hexachlorobiphenyl、2,3,3',4,5,6-Hexachlorobiphenyl 、2,3,3',4,5',6-Hexachlorobiphenyl、2,3,3',4',5,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,3,3',4',5,6-Hexachlorobiphenyl、2,3,3',4',5',6-Hexachlorobiphenyl 、2,3,3',5,5',6-Hexachlorobiphenyl、2,3,4,4',5,6-Hexachlorobiphenyl 、2,3',4,4',5,5'-Hexachlorobiphenyl 、2,3',4,4',5',6-Hexachlorobiphenyl 、3,3',4,4',5,5'-Hexachlorobiphenyl ;
【0017】
2,2',3,3',4,4',5-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,4',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5,5'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5,6-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,5,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,6,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',4',5,6'-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3,3',5,5',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,3',5,5,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',5,5'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',5,6-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3,4,4',5,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',5',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',6,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4,5,5',6-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3,4,5,6,6'-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3,4',5,5',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3,4',5,6,6'-Heptachlorobiphenyl、2,2',3',4,4',5,5'-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3',4,4',5,6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3',4,4',5',6-Heptachlorobiphenyl 、2,2',3',4,5,5',6-Heptachlorobiphenyl、2,2',3',4',5,5',6-Heptachlorobiphenyl ;
【0018】
2,2',3,3',4,4',5,5'-Octachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,4',5,6-Octachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,4',5',6-Octachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,4',6,6'-Octachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5,5',6-Octachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,5,6,6'-Octachlorobiphenyl 、2,2',3,3',4,5',6,6'-Octachlorobiphenyl、2,2',3,3',4',5,5',6-Octachlorobiphenyl、2,2',3,3',5,5',6,6'-Octachlorobiphenyl、2,2',3,4,4',5,5',6-Octachlorobiphenyl 、2,2',3,4,4',5,6,6'-Octachlorobiphenyl 、2,3,3',4,4',5,5',6-Octachlorobiphenyl ;
【0019】
2,2',3,3',4,4',5,5',6-Nonachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,4',5,6,6'-Nonachlorobiphenyl、2,2',3,3',4,5,5',6,6'-Nonachlorobiphenyl;Decachlorobiphenyl等が挙げられる。
【0020】
〔油性試料の処理〕
本検出方法においては、抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーによる検出を行う前提として、油性試料の処理を行うことが必要となる、この油性試料の処理は、必須の基本処理と、選択的な前処理に大別される。この処理が、イムノクロマトグラフィー以外の検出手段を用いる場合に比べて簡便な点が、本発明の特徴の一つである。
【0021】
基本処理
基本処理は、油性試料に対して、固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を含む処理を行い、最終的な溶媒を極性溶媒とする処理である。
【0022】
固相カラムにおいて用いられる、カラムの充填剤としては、PCB以外の夾雑物質の除去能力を有する充填剤が採用される。具体的には、油中に含まれる多環芳香族炭化水素類や着色成分等の除去に有効な硫酸シリカゲル、含硫黄成分や脂肪族炭化水素類等の除去に有効な硝酸銀シリカゲル等から、1種以上を選択して用いることができる。例えば、カラムの底部から、シリカゲル、硫酸シリカゲル、シリカゲルの順に積層した、3層からなる硫酸シリカゲルカラムを使用することができる。
【0023】
上記の固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理は、例えば、1)固相カラムによる油性試料の吸着処理、2)非極性溶媒による固相カラムからのPCBの溶出、3)非極性溶媒から極性溶媒への置換もしくは抽出、等を含む工程により行うことができる。
【0024】
1)固相カラムによる油性試料の吸着処理は、油性試料を固相カラム内の上記充填剤と接触させることにより行うことができる。この際、油性試料を適切な溶媒、好適には、非極性溶媒に溶解させて用いることも可能であるが、油性試料をそのまま用いることも可能である。この処理により、固相カラムの充填剤に油性試料が吸着され、次いで行うPCBの溶出処理により、油性試料中のPCB以外の物質(例えば、上述した、多環芳香族炭化水素類、着色成分、含硫黄成分、脂肪族炭化水素類等)の吸着は維持され、又は、PCB画分とは別個の画分に溶出され、油性試料中にPCBが混入している場合は、溶出液の特定の画分(最も一般的には、同一の溶出液で異なるリテンションタイムの画分として溶出液を分画することが簡便である)の溶出液中にPCBが選択的に含有されることとなる。
【0025】
2)このPCBの溶出処理は、上記のようにして油性試料を吸着させた固相カラムに対して、PCBの溶出液、すなわち、適切な非極性溶媒(例えば、ノルマルヘキサン)を用いて、上記固相カラムに吸着されたPCBを溶出する処理を行うことで実行することができる。
【0026】
3)次に、このPCBの溶出処理を行った溶出液(非極性溶媒)から極性溶媒への置換若しくは抽出を行うことで、イムノクロマトグラフィーを行うのに適した試料を調製することができる。
【0027】
具体的には、前記カラム溶出液(非極性溶媒)を、エバポレーターや窒素パージ等を用いて留去し、極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド等)に置換することができる。また、前記カラム溶出液(非極性溶媒)に、極性溶媒を添加して撹拌し、PCBが抽出され得る極性溶媒層を調製して採取することも可能である。この場合には、非極性溶媒と極性溶媒を、例えば、1:1〜10:1(容積比)の割合で混合し、分液ロートなどで撹拌した後、静置する方法を行うことができる。
【0028】
このようにして、固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を行い、最終的なPCB(油性試料中に存在しない場合を含む)の溶媒を極性溶媒として、イムノクロマトグラフィーの試料とすることができる。
【0029】
これらの一連の工程において用いられる非極性溶媒は、特に限定されず、例えば、炭素原子数が5〜10の脂肪族炭化水素から選ばれる1種以上の溶媒、具体的には、ペンタン、ヘキサン(ノルマルヘキサン等)、ヘプタン、オクタン、ノナン等の中から1種以上を選択して、単独溶媒又は混合溶媒として用いることができる。
【0030】
また、これらの一連の工程において用いられる極性溶媒も、特に限定されず、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、低級アルコール(炭素原子数5以下のアルコール:メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール等)等の中から1種以上を選択して、単独溶媒又は混合溶媒として用いることができる。
【0031】
前処理
前処理は、上述した基本処理の前に、油性試料に対して行うことが好適な選択的処理であり、具体的には、油性試料に対する極性溶媒による抽出処理及び当該抽出処理物の非極性溶媒への転溶を行い、当該転溶物に対して、上記の基本処理を行うための処理である。
【0032】
油性試料に対する極性溶媒による抽出処理は、油性試料に極性溶媒を、添加して撹拌し、PCBの極性溶媒中への抽出操作を行う処理である。さらに具体的には、例えば、極性溶媒と絶縁油試料を、例えば、1:1〜10:1(容積比)の割合で混合し、分液ロートなどで撹拌した後、静置する方法等が採用される。
【0033】
次に、上記抽出処理により得られた抽出処理物に対して、非極性溶媒及び水を添加して撹拌し、非極性溶媒中にPCBを転溶する操作を行う。この場合、極性溶媒と非極性溶媒を、好ましくは、10:1〜10:20(容積比)の割合で、かつ、極性溶媒と水を10:1〜10:20(容積比)の割合で混合し、分液ロート等で撹拌した後、静置する方法等が採用される。
【0034】
この選択的前処理において用いられる非極性溶媒と極性溶媒は、上記の基本操作において用いられる非極性溶媒と極性溶媒と同様の範疇から選択され得る。
[イムノクロマトグラフィー]
本発明検出方法において、PCBの検出に用いられるイムノクロマトグラフィーは、免疫クロマトグラフィーの原理を利用した、PCBに対する抗体(モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)を用いるイムノクロマトグラフィーである。
【0035】
このイムノクロマトグラフィーの態様は、上述したように、PCBに対する抗体を用いた免疫クロマトグラフィーの原理を利用したものであれば、特に限定されないが、特に、「被験試料である前記溶出処理物を接触させるための被験試料適用部位が設けられており、当該被験試料適用部位に接触させた被験試料中のPCBであるPCBを、被験試料中のPCBに結合し得る抗体である抗PCB抗体を一部とする標識体における標識を指標にして、被験試料中のPCBを検出可能な、イムノクロマトグラフィーを用いた検出用器具」であることが好適である。
【0036】
このイムノクロマトグラフィーは、第1に、1)被験試料を接触させるための被験試料適用部位、2)被験試料中のPCBに結合し得る抗体を一部とする標識体を非結合状態で含む標識体反応部位、3)PCBに結合していないフリーの標識体を捕捉することが可能な要素を結合状態で含む未反応標識体捕捉部位、及び、4)標識体が結合したPCBと接触すると視覚的な変化を生じる検出要素を含む検出部位が設けられている態様(以下、イムノクロマトAともいう)が挙げられ、第2に、被験試料が、被験試料中のPCBに結合し得る抗体を一部とする標識抗体と被験試料の反応物であり、当該被験試料中のPCBを検出可能な態様(以下、イムノクロマトBともいう)が挙げられる。これらのイムノクロマトグラフィーについては、特許文献1と2において開示されている。
【0037】
イムノクロマトA
第1図は、イムノクロマトAの一実施態様を示した図面(上面図)であり、第2図は、第1図のイムノクロマトA10を、実線I−I’に沿って横断して示した横断面図である。
【0038】
イムノクロマトA10において、被験試料適用部位1、標識体反応部位2、メンブレン6、及び、吸収部位5は、各々、細長形状の薄膜7の上面に全部又は一部が、接着している。また、未反応標識体捕捉部位3と検出部位4は、メンブレン6上に、各々、設けられている。より詳細には、まず、薄膜7の一端に、被験試料適用部位1の一端側が接着されている。これに対して、被験試料適用部位1の他端側は、その一端が被験試料適用部位1の薄膜7との接着部分(被験試料適用部位1の一端側)と隣合って、薄膜7に接着されている標識体反応部位2の、一端側の上面に被さって、標識体反応部位2と接触している。また、標識体反応部位2の他端側は、その一端が標識体反応部位2の薄膜7との接着部分(標識体反応部位2の一端側)と隣合って、その全面が薄膜7に接着されているメンブレン6の一端側の上面に被さって、メンブレン6と接触している。薄膜7の他端には、吸収部位5の一端側が接着されている。これに対して、吸収部位5の他端側は、メンブレン6の他端側の上面に被さって、メンブレン6と接触している。
【0039】
未反応標識体捕捉部位3と検出部位4は、両者共、これらの部位を構成する化学成分を、メンブレン6に固定することにより、メンブレン6において設けられている。
【0040】
イムノクロマトA10において、被験試料は、これを接触させる被験試料適用部位1から吸収部位5に向けて、毛細管現象により移動して、被験試料中のPCBの検出が行われる(以下、イムノクロマトAの被験試料適用部位側を「上流」、同吸収部位側を「下流」ともいう)。第1図及び第2図において、上流から下流への被験試料の移動方向は、矢印7により示される。
【0041】
被験試料適用部位1の材質は、この被験試料適用部位1に接触させた被験試料が、毛細管現象によって下流の標識体反応部位2に移動可能な材質であれば特に限定されない。例えば、濾紙等の紙類、起毛素材等の布類、コットン、グラスファイバー等を挙げることができる。
【0042】
被験試料を、イムノクロマトA10の被験試料適用部位1に接触させて、標識体反応部位2と接触している部分に到達すると、さらに、毛細管現象により、被験試料は、標識体反応部位2に移行する。
【0043】
標識体反応部位2は、被験試料中のPCBに結合し得る抗体を一部とする標識体を非結合状態で含む部位である。
【0044】
この標識体反応部位2において用いる抗体は、検出の対象とするPCBを選んで、これを免疫抗原(必要に応じて、目的とするPCBをターゲットとしたハプテンとキャリア蛋白との免疫抗原とすることも可能である)として、常法により製造して用いることができる。
【0045】
すなわち、上記抗体がポリクローナル抗体の場合には、目的とするPCBを免疫抗原として免疫した動物に由来する免疫血清から製造することが可能であり、同じくモノクローナル抗体の場合には、ポリクローナル抗体と同様の方法で、免疫した動物の免疫細胞と動物の骨髄腫細胞とのハイブリドーマを作出し、これにより目的とするPCBを認識する抗体を産生するクローンを選択し、このクローンを培養することにより製造することができる。
【0046】
免疫される動物も特に限定されるものではなく、マウス,ラット等を広く用いることができるが、モノクローナル抗体を製造する場合には、細胞融合に用いる骨髄腫細胞との適合性を考慮して選択することが望ましい。
【0047】
免疫は一般的方法により、例えば上記免疫抗原を免疫の対象とする動物に静脈内,皮内,皮下,腹腔内注射等で投与することにより行うことができる。
【0048】
より具体的には、上記免疫抗原を所望により通常のアジュバントと併用して、免疫の対象とする動物に2〜4週間毎に上記手段により数回投与し、ポリクローナル抗体製造のための免疫血清又はモノクローナル抗体製造のための免疫細胞、例えば免疫後の脾臓細胞を得ることができる。
【0049】
モノクローナル抗体を製造する場合、この免疫細胞と細胞融合する他方の親細胞としての骨髄腫細胞としては、既に公知のもの、例えばSP2/0−Ag14,P3−NS1−1−Ag4−1,MPC11−45,6.TG1.7(以上、マウス由来);210.RCY.Ag1.2.3(ラット由来);SKO−007,GM15006TG−A12(以上、ヒト由来)等を用いることができる。
【0050】
上記免疫細胞とこの骨髄腫細胞との細胞融合は、通常公知の方法、例えばケーラーとミルシュタインの方法(Kohler,G. and Milstein,C.,Nature,256,495(1975))等に準じて行うことができる。
【0051】
より具体的には、この細胞融合は、通常公知の融合促進剤、例えばポリエチレングリコール(PEG),センダイウイルス(HVJ)等の存在下において、融合効率を向上させるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を必要に応じて添加した通常の培養培地中で行い、ハイブリドーマを調製する。
【0052】
所望のハイブリドーマの分離は、通常の選別用培地、例えばHAT(ヒポキサンチン,アミノプテリン及びチミジン)培地で培養することにより行うことができる。すなわち、この選別用培地において目的とするハイブリドーマ以外の細胞が死滅するのに十分な時間をかけて培養することによりハイブリドーマの分離を行うことができる。このようにして得られるハイブリドーマは、通常の限界希釈法により目的とするモノクローナル抗体の検索及び単一クローン化に供することができる。
【0053】
目的とするモノクローナル抗体産生株の検索は、例えばELISA法,プラーク法,スポット法,凝集反応法,オクタロニー法,RIA法等の一般的な検索法に従い行うことができる。
【0054】
このようにして得られるPCBを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することが可能であり、さらに液体窒素中で長時間保存することもできる。
【0055】
このハイブリドーマからの目的とするモノクローナル抗体の採取は、ハイブリドーマを常法に従って培養して、その培養上清として得る方法や、ハイブリドーマを、このハイブリドーマに対して適合性が認められる動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法等を用いることができる。
【0056】
このようにして得られるポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、更に塩析,ゲル濾過法,アフィニティクロマトグラフィー等の通常の手段により精製することができる。
【0057】
標識体反応部位2において用いる標識体は、通常、上記のようなPCBに対する抗体を標識した標識抗体であることが好適である。
【0058】
かかる標識としては、例えば、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、ラテックス粒子、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の発色機能を有する酵素等を用いることができる。すなわち、これらの標識と抗体を、常法により結合させて、標識体反応部位2において用いることができる。
【0059】
標識体反応部位2では、被験試料が、被験試料適用部位1から移動してきて、その中のPCBの存在如何にかかわらず、被験試料と共に、毛細管現象によって、さらに下流の未反応標識体捕捉部位3に向けて移動可能となるように、上記の標識体は、標識体反応部位2の素材とは、非結合状態で存在していることが必要である。よって、上記の標識体は、標識体反応部位の素材に単純に染み込ませて定着させる等に止めることが好適である。また、標識体反応部位2の素材としては、このような単純な定着と溶離を実現しやすい素材が好適である。具体的には、濾紙等の紙類、起毛素材等の布類、コットン、グラスファイバー等を挙げることができる。
【0060】
被験試料中にPCBが存在する場合には、標識体とPCBが結合した標識複合体と、フリーの標識体が、下流に向けて移動し、PCBが存在しない場合には、フリーの標識体のみが、下流に向けて移動する。
【0061】
イムノクロマトA10においては、メンブレン(毛細管現象により、液相の移動が可能な素材、例えば、多孔性のクロマトメンブレン、ニトロセルロースメンブレン等が好適である。特に、多孔性のクロマトメンブレンは、多孔性故、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の蛋白質や、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、ラテックス粒子等の標識がメンブレン中を容易に移動可能であり、好適である。)上に、未反応標識体捕捉部位3と検出部位4が、上流から下流に向けて設けられている。
【0062】
毛細管現象により、上流から移動してきた、標識複合体及び/又はフリーの標識体は、まず、未反応標識体捕捉部位3に接触する。未反応標識体捕捉部位には、文字通り、未反応のフリーの標識体のみを捕捉することができる機能が付与されている。かかる機能の態様としては、標識体の一部を構成するPCBに対する抗体が反応して結合することが可能な物質、具体的には、PCBそのもの、又は、このような結合反応が認められるPCBの類似物質を挙げることができる。未反応標識体捕捉部位3では、これらのPCBが、液相の移動に伴って、移動することのないよう、結合状態であることが必要である。PCBは、低分子物質であるため、所望の結合状態とするためには、例えば、BSA等のキャリア蛋白に、PCBを結合させ、この蛋白結合させたPCBを、蛋白固定の常法により、未反応標識体捕捉部位3に、結合状態で定着させることが好適である。
【0063】
このように、未反応標識体捕捉部位3には、未反応のフリーの標識体のみを捕捉することができる機能が備わっており、被験試料中にPCBが存在する場合には、上流より移動してきた標識複合体及びフリーの標識体のうち、フリーの標識体のみが捕捉され、標識複合体および捕捉されなかったフリーの標識体が、下流に移動する。また、被験試料中にPCBが存在しない場合には、移動してくるのは、フリーの標識体のみであるので、下流に移動するのは、未反応標識体捕捉部位3において捕捉されなかったフリーの標識体のみとなる。
【0064】
次いで、未反応標識体捕捉部位3を通過した液相は、その下流に設けられている、検出部位4に接触する。検出部位4では、標識体において用いた標識を顕在化させる、標識顕在化機能が備わっている。かかる標識顕在化機能は、用いた標識に対応する顕在化機能である。顕在化機能としては、例えば、標識複合体が、当初から目視可能な標識(例えば、金コロイド粒子等)である場合には、標識複合体を凝縮した形態で捕捉可能な検出要素、例えば、用いたPCBに特異的な抗体に対して特異的な抗体、すなわち、抗イムノグロブリン抗体を用いることが好適である。この抗イムノグロブリン抗体は、用いたPCBに特異的な抗体のパラトープ(抗原結合部位)以外の箇所に対して結合する抗体(例えば、抗Fc抗体等)を用いることが好適である。
【0065】
このような、抗イムノグロブリン抗体を、検出要素として、稠密的に検出部位4において固定化することにより、液相と共に移動してきた標識を濃縮・顕在化することが可能となる。
【0066】
また、例えば、用いた標識が、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の発色機能を有する酵素のように、検出部位4において、酵素基質の接触による発色等を行うことが必要な場合には、検出部位4における検出要素は、単に、抗イムノグロブリン抗体ではなく、用いた標識を顕在化させる試薬等が結合した態様であることが好適である。このような場合に、検出要素として、単に、イムノグロブリン抗体を用いる場合は、後で、改めて発色反応等を行わなければならず、取扱いが煩雑になってしまう。
【0067】
なお、いずれの例においても、抗イムノグロブリン抗体等の検出要素は、毛細管現象により、液相と共に検出部位4から移動しない、結合状態で含まれることが、標識を顕在化させる上で好適である。この結合状態の態様は、結果として、検出要素が、液相の移動と共に、検出部位4から移動しない状態が提供されれば特に限定されず、例えば、検出要素として、検出対象となるPCBに特異的な抗体のパラトープ以外の箇所に対して結合する抗体である場合は、その抗体の溶液を、検出部位4に該当する部分に滴下することにより、所望する結合状態が提供される。
【0068】
また、吸収部位5は、毛細管現象により、上流から下流に移動してきた液相を、最終的に吸収する部位である。この吸収部位5は、イムノクロマトAにおいては、選択的要素であるが、被験試料を、さらに容易にメンブレンを移動させるために、設けることが好適である。
【0069】
以上、記載したように、イムノクロマトA10においては、被験試料中にPCBが含まれている場合には、PCBは、標識体反応部位2で、低分子化合物であるPCBと特異的に反応する標識体と標識複合体を形成する。かかる標識複合体は、さらにメンブレン6上を移動するが、未反応標識体捕捉部位3では捕捉されず、検出部位4に達する。検出部位4では、標識複合体を顕在化する物質が固定化されているため、標識複合体は、検出部位4で濃縮され、目視可能なバンドとして検出される。
【0070】
一方、被験試料中に、PCBが含まれていない場合は、標識体反応部位2で、上記の標識複合体は形成されず、フリーの標識体が、液相と共に移動する。このフリーの標識体は、未反応標識体捕捉部位3で捕捉されるものが多いため、検出部位4に到達するフリーの標識体は、被験試料中にPCBが含まれている場合より少なくなる。
【0071】
イムノクロマトB
イムノクロマトBは、イムノクロマトAが有する問題点である検出感度と擬陽性の問題を回避しつつ、被験物質中のPCBの検出を行うことができる態様のイムノクロマトである。イムノクロマトBにおける前記イムノクロマトAと共通する構成要素(例えば、抗PCB抗体等)は、イムノクロマトAのものと同様のものを用いることができる。
【0072】
第3図は、イムノクロマトBの一実施態様を示した図面(上面図)であり、第4図は、第3図のイムノクロマトB30を、実線I−I’に沿って横断して示した横断面図である。
【0073】
イムノクロマトB30において、反応物接触部位21、メンブレン25、及び、吸収部位24は、各々、細長形状の薄膜26の上面に全部又は一部が、接着している。また、未反応標識抗体捕捉部位22と検出部位23は、メンブレン25上に、各々、設けられている。
【0074】
より詳細には、まず、薄膜26の一端に、反応物接触部位21の一端側が接着されている。これに対して、反応物接触部位1の他端側は、その一端が反応物接触部位21の薄膜26との接着部分(反応物接触部位21の一端側)と隣合って、その全面が薄膜26に接着されているメンブレン25の、一端側の上面に被さって、メンブレン25と接触している。薄膜26の他端側には、吸収部位24の一端側が接着されており、この吸収部位24の他端側は、メンブレン25の他端側の上面に被さって、メンブレン25と接触している。
【0075】
未反応標識抗体捕捉部位22と検出部位23は、両者共、これらの部位を構成する化学成分を、メンブレン25に固定することにより、メンブレン25において設けられている。
【0076】
イムノクロマトB30は、被験試料を、そのまま、被験試料適用部位等に接触させるのではなく、予め、被験試料と標識抗体を接触させて得た反応物を、反応物接触部位21に接触させることを前提とする、イムノクロマトグラフィーを用いた検出用器具である。この点において、イムノクロマトB30は、被験試料を、そのまま被験試料適用部位に接触させる、従来のイムノクロマトグラフィーを用いた検出用器具と異なっている。
【0077】
このことにより、被験試料と標識抗体を十分に反応させることが可能になり、この反応を行った反応物を、イムノクロマトB30に対して用いることにより、標識抗体が、一気に未反応標識抗体捕捉部位に到達するのを抑制することが可能となり、上述した擬陽性反応が抑制されて、検出感度が向上し、例えば、極微量の存在が問題となるPCBを、簡便、かつ、鋭敏に検出することが可能である。
【0078】
イムノクロマトB30において、上記の反応物は、これを接触させる反応物接触部位21から吸収部位24に向けて、毛細管現象により移動して、被験試料中のPCBの検出が行われる(以下、イムノクロマトBの反応物接触部位側を「上流」、同吸収部位側を「下流」ともいう)。第3図及び第4図において、上流から下流への反応物の移動方向は、矢印29により示される。
【0079】
標識抗体と被験試料は、イムノクロマトBとは別個に反応させる故に、標識抗体は、イムノクロマトBの必須ではないが、イムノクロマトBを用いて、PCBを検出するには必須である。
【0080】
イムノクロマトBを用いる態様では、標識抗体は、乾燥状態で保たれていることが好適であり、例えば、安定化剤として、各種の糖、界面活性剤、グリセロール等の多価アルコール等と共存させ、熱、真空又は凍結等の手段により乾燥を行い、乾燥状態となった標識抗体27を、例えば、密閉状態とすることが可能な容器28中において、好適には、乾燥剤を用いて、乾燥状態を保ちつつ保存することが好適である(第5図:イムノクロマトB30と標識抗体291を封入した容器292のセットが、本検出用セットの典型的な態様である)。
【0081】
イムノクロマトB30を用いて、被験試料中のPCBの検出を試みる場合、被験試料中にPCBが存在する場合には、反応物中に存在する、標識抗体とPCBが結合した標識複合体とフリーの標識抗体が、共に、下流に向けて移動する。これに対して、PCBが被験試料中に存在しない場合には、反応物中にも標識複合体は存在せず、フリーの標識抗体のみが下流に向けて移動する。
【0082】
上述したように、イムノクロマトB30においては、メンブレン25(毛細管現象により、液相の移動が可能な素材、例えば、多孔性のクロマトメンブレン、ニトロセルロースメンブレン等が好適である。特に、多孔性のクロマトメンブレンは、多孔性故、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の蛋白質や、金コロイド粒子等の金属コロイド粒子、ラテックス粒子等の標識がメンブレン中を容易に移動可能であり、好適である。)上に、未反応標識抗体捕捉部位22と検出部位23が、上流から下流に向けて設けられている。
【0083】
毛細管現象により、上流から移動してきた、標識複合体及び/又はフリーの標識抗体は、まず、未反応標識抗体捕捉部位22に接触する。未反応標識抗体捕捉部位には、文字通り、未反応のフリーの標識抗体のみを捕捉することができる機能が付与されている。かかる機能の態様としては、標識抗体の一部を構成するPCBに対する抗体が反応して結合することが可能な物質、具体的には、PCBそのもの、又は、このような結合反応が認められるPCBの類似物質を挙げることができる。未反応標識抗体捕捉部位22では、これらのPCBが、液相の移動に伴って、移動することのないよう、結合状態であることが必要である。PCBは、所望の結合状態とするためには、例えば、BSA等のキャリア蛋白に、PCBを結合させ、この蛋白結合させたPCBを、蛋白固定の常法により、未反応標識抗体捕捉部位22に、結合状態で定着させることが好適である。
【0084】
このように、未反応標識抗体捕捉部位22には、未反応のフリーの標識抗体のみを捕捉することができる機能が備わっており、被験試料中にPCBが存在する場合には、上流より移動してきた標識複合体及びフリーの標識抗体のうち、フリーの標識抗体のみが捕捉され、標識複合体および捕捉されなかったフリーの標識抗体が、下流に移動する。また、被験試料中にPCBが存在しない場合には、移動してくるのは、フリーの標識抗体のみであるので、下流に移動するのは、未反応標識抗体捕捉部位22において捕捉されなかったフリーの標識抗体のみとなる。
【0085】
次いで、未反応標識抗体捕捉部位22を通過した液相は、その下流に設けられている、検出部位23に接触する。検出部位23では、標識抗体において用いた標識を顕在化させる、標識顕在化機能が備わっている。かかる標識顕在化機能は、用いた標識に対応する顕在化機能である。顕在化機能としては、例えば、標識複合体が、当初から目視可能な標識(例えば、金コロイド粒子等)である場合には、標識複合体を凝縮した形態で捕捉可能な検出要素、例えば、用いたPCBに特異的な抗体に対して特異的な抗体、すなわち、抗イムノグロブリン抗体を用いることが好適である。この抗イムノグロブリン抗体は、用いたPCBに特異的な抗体のパラトープ(抗原結合部位)以外の箇所に対して結合する抗体(例えば、抗Fc抗体等)を用いることが好適である。
【0086】
このような、抗イムノグロブリン抗体を、検出要素として、稠密的に検出部位23において固定化することにより、液相と共に移動してきた標識を濃縮・顕在化することが可能となる。
【0087】
また、例えば、用いた標識が、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の発色機能を有する酵素のように、検出部位23において、酵素基質の接触による発色等を行うことが必要な場合には、検出部位23における検出要素は、単に、抗イムノグロブリン抗体ではなく、用いた標識を顕在化させる試薬等が結合した態様であることが好適である。
【0088】
なお、いずれの例においても、抗イムノグロブリン抗体等の検出要素は、毛細管現象により、液相と共に検出部位23から移動しない、結合状態で含まれることが、標識を顕在化させる上で好適である。この結合状態の態様は、結果として、検出要素が、液相の移動と共に、検出部位23から移動しない状態が提供されれば特に限定されず、例えば、検出要素として、検出対象となるPCBに特異的な抗体のパラトープ以外の箇所に対して結合する抗体である場合は、その抗体の溶液を、検出部位23に該当する部分に滴下することにより、所望する結合状態が提供される。
【0089】
また、吸収部位24は、毛細管現象により、上流から下流に移動してきた液相を、最終的に吸収する部位である。この吸収部位24は、イムノクロマトB30においては、選択的要素であるが、被験試料を、さらに容易にメンブレンを移動させるために、設けることが好適である。
【0090】
以上、記載したように、イムノクロマトB30においては、被験試料中にPCBが含まれている場合には、PCBは、容器28中において、低分子化合物であるPCBと特異的に反応する標識抗体27と、標識複合体を形成する。かかる標識複合体は、反応物接触部位21に接触した後、さらにメンブレン25上を移動するが、未反応標識抗体捕捉部位22では捕捉されず、検出部位23に達する。検出部位23では、標識複合体を顕在化する物質が固定化されているため、標識複合体は、検出部位23で濃縮され、目視可能なバンドとして検出される。
【0091】
一方、被験試料中に、PCBが含まれていない場合は、容器292中において、上記の標識複合体は形成されず、フリーの標識抗体が、液相と共に移動する。このフリーの標識抗体は、未反応標識抗体捕捉部位22で捕捉されるものが多いため、検出部位23に到達するフリーの標識抗体は、被験試料中にPCBが含まれている場合より少なくなる。
【0092】
このように、イムノクロマトB30では、PCBを、ポジティブな指標により検出することが可能である。
【0093】
なお、このイムノクロマトB30は、本発明において用いられ得る一実施態様であり、本発明の範囲内において、他の態様をとることが可能である。例えば、メンブレン上に、反応物(標識複合体)が捕捉されるラインのみを、結合状態で含み、このラインで捕捉されない標識抗体を検出することにより、PCBをネガティッブな指標により検出するイムノクロマトグラフィー等も利用可能である。
【0094】
上述したように、イムノクロマトA・Bにおいて、被験試料中のPCB濃度は、メンブレン上の検出部位に現れるバンドの濃さを目視で判定することにより、定性的な判定が可能となるが、好適には、メンブレン上に検出されるバンドの反射率を測定することによりバンドの濃さを検出することの可能なイムノリーダーを用いて、メンブレン上の検出部位、及び未反応標識抗体補足部位におけるバンドの濃さを数値化し、例えば、次式によって算出された値を判定値として使用することが望ましい。
【0095】
【数1】

【0096】
[検出用キット]
本発明では、本検出方法を行うための検出用キット(以下、本検出用キットともいう)を提供する。本検出方法は、油性試料中のPCBを、簡便かつ迅速に検出するための方法であり、この検出用キットで検出作業を効率化することは、極めて有効な手段である。
【0097】
まず、上述した基本処理を行って得られた処理物を用いて、油性試料中のPCBの検出を行うためのキット(以下、基本キットともいう)として、下記(1)〜(4)を構成要素として含有することを特徴とする、本検出方法を行うための検出用キットが提供される。
(1)試料中のPCBの検出を行うための抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィー
(2)試料からPCBを粗精製するための固相カラム
(3)上記固相カラム(2)からPCBを溶出させるための非極性溶媒
(4)上記非極性溶媒による溶出物を、イムノクロマトグラフィーに供する試料として調製するための極性溶媒
これらの基本キットにおける構成要素(1)〜(4)は、上述した基本処理において述べた内容に準ずる。
【0098】
さらに、上記の基本キットの構成要素(1)〜(4)に加えて、油性試料の前処理用の構成要素である、下記の(a)と(b)を含有することを特徴とする、前処理を伴う本検出用キット(以下、前処理付加キットともいう)が提供される。
(a) 油性試料の抽出処理を行うための極性溶媒
(b) (a)による抽出処理物を転溶するための非極性溶媒
これらの前処理付加キットにおける構成要素(a)と(b)は、上述した選択的な前処理において述べた内容に準ずる。
【0099】
また、上述した本発明の検出用キットには、必要に応じて、バイアル、キャピラリー、希釈液、スポイト、ラック等の通常の検出作業に用いるものを付加することが可能である。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
第6図に、前処理と基本処理の工程を表したフローシートを示す。このフローシートに沿って、実際に油性試料(絶縁油)の処理を行った。かかる工程の要所について、さらに具体的に記載する。
【0101】
〔硫酸シリカゲルカラムの調製〕
カラムの底部から、まずシリカゲル1g、次に硫酸シリカゲル10g、最後にシリカゲル1gの順に敷き詰めていき、3層からなるカラム(カラムサイズ20ml)を調製した。当該カラムに対して、2.5mlのノルマルヘキサンに溶解させたカネクロール(KC−500:鐘淵化学工業社製)5ppmを通液し、さらに、ノルマルヘキサン20mlを通液し、1ml毎の溶出画分におけるPCB溶出の有無を確認した。その結果、5〜8mlの溶出画分からPCB溶出のピークが認められた。
【0102】
〔第一工程(ジメチルスルホキシド抽出工程1)〕
蓋付き容器(以下、容器Aともいう)に、PCB濃度が既定濃度(KC−300:1、2、5、10、20、50mg/kg、KC−400及びKC−500:0.5、1、2、5、10、20、40mg/kg)になるようにカネクロール(KC:鐘淵化学工業社製)を添加した絶縁油(新油)10mlと、ジメチルスルホキシド(極性溶媒)10mlとを加えた。蓋を閉めた後、容器Aを激しく振とうさせた。2層が完全に分離するまで静置させた後、下層(ジメチルスルホキシド層)を採取し、これを、別の蓋付き容器(以下、容器Bともいう)に移した。
【0103】
〔第二工程(ノルマルヘキサン転溶工程)〕
前記容器B内にさらに水(5ml)とノルマルヘキサン(非極性溶媒)(2.5ml)を添加し、蓋を閉めた後、容器Bを激しく振とうさせた。その後、2層が完全に分離するまで静置した。
【0104】
〔第三工程(硫酸シリカゲルカラム処理工程)〕
前記容器B内の上層(ノルマルヘキサン層)をとり、上述した硫酸シリカゲルカラムに通液した。さらにノルマルヘキサン(14.5ml)を通液させ、最初の溶出画分4mlを廃棄した。次の、5〜8mlを蓋付き容器(以下、容器Cともいう)で受液した。
【0105】
〔第四工程(ジメチルスルホキシド抽出工程2)〕
溶出液の入った前記容器Cに、ジメチルスルホキシド(0.5ml)を添加し、蓋を閉めた後、激しく振とうさせた。2層が完全に分離するまで静置させた後、下層(ジメチルスルホキシド層)を採取した。このジメチルスルホキシド溶液を、次のイムノクロマトグラフィーによる分析に供した。
【0106】
[実施例2] 抗PCBモノクローナル抗体の調製
(1)PCB#118モノクローナル抗体作製のための免疫抗原の調製
PCB#118(2,3',4,4',5-Pentachlorobiphenyl)をターゲットとした低分子化合物、6-[(3,2’,4’,5’-Tetrachlorobiphenyl-4-yl)oxy] hexanoic acid (低分子化合物118)は、既に報告されている、Ya-Wen Chiu ら(Analytical Chemistry,1995,67,3829) における、6-[(3,3’,4’-Trichlorobiphenyl-4-yl)oxy] hexanoic acid の合成法に若干の改善を加え、合成を行った。
【0107】
得られた低分子化合物は、N-hydroxysuccinimideを用いたNHS エステル法(P.Schneider and B.D.Hammock,Journal of Agricultural and Food Chemistry,1992,2,85)により、カブトガニへモシアニン(KLH)と結合させ、PCB#118モノクローナル抗体作製のための抗原として利用した。
【0108】
(2)PCB#118モノクローナル抗体作製
上記方法により作製、精製した低分子化合物118−KLHコンジュゲートを、balb/cマウスにRibi Adjuvant System(Corixa社製)とともに、2週間おきに最大8回の免疫を行い、尾静脈に追加免疫を行った後、通常法により、脾臓中の抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行った。得られたハイプリドーマは、培養上清を低分子化合物118蛋白コンジュゲートを固相化したプレートを用いてスクリーニングを行い、PCB#118に特異的に反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択した。
【0109】
本実験に使用する抗体は、得られたハイブリドーマをプリスタン処理したマウス腹腔に投与し、通常法により腹水を採取後、陰イオン交換クロマトグラフィーで精製したものを利用した。
【0110】
(3)クロマトメンブレンの未反応標識体捕捉部位に固相化するための低分子化合物−蛋白質コンジュゲート調製
上記方法(1)において合成した低分子化合物118を、上記方法(1)と同様の手法でウシ血清アルブミン(BSA)と結合させ、透析により精製を行った後、クロマトメンブレンの未反応標識抗体捕捉部位に固定化するための低分子化合物−蛋白質コンジュゲートとして利用した。
【0111】
(4)クロマトメンブレンの調整
ハイフロープラスメンブレン:PRIMA40(25mm×50m、Schleicher & Schuell社)の下端から5mmの位置に未反応標識抗体捕捉部位として、上記方法(3)にて合成した低分子化合物118・BSAコンジュゲートを塗布し、また、下端から15mmの位置に検出部位として、抗マウスIgGウサギ抗体(Zymed)を塗布した。これら溶液は、XYZハンドリングシステム(BioDot社)を用いてライン状に塗布した。塗布後、メンブレンは室温で1晩放置により乾燥させ、クロマトメンブレンとして用いた。
【0112】
(5)金コロイド粒子標識抗PCBモノクローナル抗体の作製
金コロイド粒子(平均粒子径約40nm、BBInternational)への、上記方法(2)で得た、抗PCBモノクローナル抗体の結合は、BBInternationalのプロトコールに従い行った。得られた金コロイド標識抗PCBモノクローナル抗体溶液は、OD520の値が5〜6になるよう調整し、使用まで冷蔵保存を行った。
【0113】
(6)標識抗体と検出用器具の作製
1.5mlガラスバイアル中に、上記方法(5)により得られた金コロイド標識抗体液(最終濃度:1%)及びサッカロース液(最終濃度:3%)の100μl混合液を入れ、真空乾燥機で十分乾燥させたものを、乾燥標識抗体として使用した。また、反応物接触部位として、グラスファイバーフィルター(Schleicher & Schuell社)及び上記方法(4)において作製したクロマトメンブレンを、ラミネートカード(Adhesives Research社)に装着し、さらに、吸収パッド(Schleicher & Schuell社)を装着後、ギロチン型カッター(BioDot社製)を用いて、ラミネートカードを、幅5mmに切断し、免疫クロマトグラフィー装置として用いた。
【0114】
(7)イムノクロマトグラフィーによる分析
上記の要領で調製した、金コロイド標識抗PCBモノクローナル抗体を溶解した抗体溶液100μlに対して、実施例1により前処理操作を行った被検試料10μlを添加し、両者を混合した。この混合液75μlを、上記の要領で作製したイムノクロマトグラフィーの試料適用部位に滴下した。20分間静置後、イムノリーダーを用いてイムノクロマト上の2本のバンドの濃さを数値化し、前述の数式により判定値を算出した。その結果、第7図に示す検量線を得た。
[実施例3]検出用キット
実際に、検出用キットを企画した。この検出用キットは、形式上、(1)前処理キットと、(2)測定キットに分かれているが、これら(1)(2)を合わせて、本発明の検出用キット(前処理付加キット)を構成する。
【0115】
(1)前処理キット
1)スポイトA、2)抽出チューブ、3)リザーバーA、4)クランプ、5)シリコンチューブ、6)バイアルA、7)リザーバーB、8)廃棄用バイアル、9)スポイトB、10)クリーンナップカラム(実施例1で用いた3層の硫酸シリカゲルカラム)、11)カラム溶出液A、12)カラム溶出液B、13)バイアルB、14)スポイトC
【0116】
(2)測定キット
1)キャピラリー(100μl用)、2)希釈緩衝液、3)金コロイド標識抗PCB抗体が仕込まれたバイアル、4)キャピラリー(10μl用)、5)免疫クロマトグラフィー(イムノクロマトB)、6)キャピラリー(75μl用)
【0117】
(3)操作
1)DMSO分配
スポイトAを用いて、油性試料(絶縁油)10mlを抽出チューブ(染色剤添加DMSO11ml入り)に添加し、抽出チューブのふたを閉めて激しく振盪する。次に、抽出チューブの全液をリザーバーAに移し、2分間以上静置し、上下2層に分離していることを確認し、リザーバーAのクランプをゆっくりと開け、下層(DMSO)を、バイアルA(ヘキサン2.5ml+水5ml入り)に入れる。
【0118】
2)ヘキサン抽出
バイアルAのフタを閉め、上下に約10秒間激しく振盪した後、バイアルAの全液をリザーバーBに移して、1分間以上静置し、上下2層に分離していることを確認し、リザーバーBのクランプをゆっくりと開け、下層(DMSO水溶液、無色層)を廃液用バイアルに棄てる。
【0119】
3)カラム処理
リザーバーBの上層(ノルマルヘキサン、青色層)を、スポイトBを用いてクリーンアップカラムに移す。カラム溶出液A(ノルマルヘキサン10.5ml入り)を添加し、溶出液全量を廃棄バイアルに棄てる。カラムから溶出液が完全に出なくなったことを確認して、カラム溶出液B(ノルマルヘキサン4ml入り)を添加し、溶出液全量をバイアルB(DMSO0.5ml入り)に入れる。
【0120】
4)DMSO抽出
バイアルBのフタを閉め、上下に10秒以上激しく混合し、2分間以上静置し、上下2層に分離していることを確認する。次いで、下層(DMSO)を、ピペットCを用いてバイアルCに移す。この際、上層の液(ノルマルヘキサン)が混入しないように留意する。
【0121】
5)キャピラリー(100μl用)を用いて、金コロイド標識抗PCB抗体が仕込まれたバイアルに、100μlの希釈緩衝液を入れ、軽く攪拌する。次いで、キャピラリー(10μl用)を用いて、バイアルCのサンプルを10μl、前記の金コロイド標識抗PCB抗体が仕込まれたバイアルに移し、軽く攪拌する。次いで、キャピラリー(75μl用)を用いて、金コロイド標識抗PCB抗体が仕込まれたバイアル中の混合液75μlを免疫クロマトグラフィーにアプライし、20分間室温にて放置後、クロマトリーダーで判定値を読み取る。
【0122】
(4)上述した1)〜4)までは、前処理キットを用いて行い、5)は、測定用キットを用いて行う。なお、上述した1)〜2)が、本検出方法における「選択的な前処理」であり、3)〜5)が「基本的処理」に該当し、3)〜5)の操作に用いるキットの要素が、「基本キット」に該当する。基本キットのみを用いる場合は、油性試料(絶縁油)をそのまま、又は、適切な溶媒に希釈したものを、前記のリザーバーBの上層に代えてクリーンアップカラムにアプライすることで、本検出方法を行うことができる。
【0123】
[実施例4]
実際に変圧器に使用されていたPCB混入絶縁油試料を用いて、公定法(GC−ECD法)と本検出方法(実施例3の検出用キット:操作1)〜5)まで全て行った)により得られるPCB濃度の比較を行った。なお、本発明におけるPCB濃度の算出は、実施例2における検量線のうち、過去に絶縁油として一般に用いられていたKC−500に対する検量線を用いて行った。
【0124】
分析結果は、第1表に示すとおり、本検出方法により十分に信頼できる測定結果が得られることが確認された。
【0125】
【表1】

【0126】
また、本検出方法と公定分析法のPCB濃度測定結果の、相関関係図を第8図に示す。相関係数(r)は0.911と非常に良好であり、本検出方法は公定分析法と高い相関性を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】イムノクロマトAの一実施態様を示した図面(上面図)である。
【図2】第1図のイムノクロマトB10を、実線I−I’に沿って横断して示した横断面図である。
【図3】イムノクロマトAの一実施態様を示した図面(上面図)である。
【図4】第1図のイムノクロマトB10を、実線I−I’に沿って横断して示した横断面図である。
【図5】本検出用セットの構成要素として用いられ得る、標識抗体を封入した容器を表した図面である。
【図6】前処理と基本処理の工程を表したフローシートを示した図面である。
【図7】20分間静置後、イムノリーダーを用いてイムノクロマトグラフィー上の2本のバンドの濃さを数値化し、前述の数式により判定値を算出した結果を示す図面である。
【図8】本検出方法と公定分析法のPCB濃度測定結果の相関関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性試料に対して、固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を含む処理を行い、最終的な溶媒を極性溶媒とした当該溶出処理物に対して、抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーによるPCBの検出を行い、当該検出結果を前記油性試料中のPCBの定量又は定性指標とすることを特徴とする、PCBの検出方法。
【請求項2】
前記検出方法における、固相カラムによるPCBの非極性溶媒を用いた溶出処理の前工程として、前記油性試料に対する極性溶媒による抽出処理及び当該抽出処理物の非極性溶媒への転溶を行い、当該転溶物に対して前記の固相カラムを介した非極性溶媒によるPCBの溶出処理を行うことを特徴とする、請求項1記載のPCBの検出方法。
【請求項3】
前記油性試料が絶縁油であることを特徴とする、請求項1又は2記載のPCBの検出方法。
【請求項4】
前記固相カラムの充填剤として、硫酸シリカゲル及び/又は硝酸銀シリカゲルを用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のPCBの検出方法。
【請求項5】
前記固相カラムの充填剤として、カラムの底部から、シリカゲル、硫酸シリカゲル及びシリカゲルの順に積層された硫酸シリカゲルカラムを用いることを特徴とする、請求項4記載のPCBの検出方法。
【請求項6】
前記極性溶媒が、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及び低級アルコール類からなる群から選ばれる1種以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のPCBの検出方法。
【請求項7】
前記非極性溶媒が、炭素原子数が5〜10の脂肪族炭化水素から選ばれる1種以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のPCBの検出方法。
【請求項8】
抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィーによるPCBの検出が、被験試料である前記溶出処理物を接触させるための被験試料適用部位が設けられており、当該被験試料適用部位に接触させた被験試料中のPCBであるPCBを、被験試料中のPCBに結合し得る抗体である抗PCB抗体を一部とする標識体における標識を指標にして、被験試料中のPCBを検出可能な、イムノクロマトグラフィーを用いた検出用器具を用いて行われることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のPCBの検出方法。
【請求項9】
下記(1)〜(4)を構成要素として含有することを特徴とする、請求項1に記載のPCBの検出方法を行うための検出用キット。
(1)試料中のPCBの検出を行うための抗PCB抗体を利用したイムノクロマトグラフィー
(2)試料からPCBを粗精製するための固相カラム
(3)上記固相カラム(2)からPCBを溶出させるための非極性溶媒
(4)上記非極性溶媒による溶出物を、イムノクロマトグラフィーに供する試料として調製するための極性溶媒
【請求項10】
前記検出用キットの構成要素(1)〜(4)に加えて、油性試料の前処理用の構成要素である、下記の(a)と(b)を含有することを特徴とする、請求項2に記載のPCBの検出方法を行うための検出用キット。
(a) 油性試料の抽出処理を行うための極性溶媒
(b) (a)による抽出処理物を転溶するための非極性溶媒

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−71520(P2006−71520A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256606(P2004−256606)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(399051401)株式会社 エンバイオテック・ラボラトリーズ (3)
【Fターム(参考)】