説明

PDE1C及びそのインヒビターの使用

本発明は、肺高血圧症、肺線維症又は肺外の他の線維症の治療に使用できる化合物の同定のための新規のターゲットとしてのPDE1Cの使用に関する。更に、本発明は、PDE1Cインヒビターを、これらの疾患の治療で使用するための医薬組成物の製造において用いる使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺高血圧症、肺線維症又は肺外の他の線維症の治療に使用できる化合物の同定のための新規のターゲットとしてのPDE1Cの使用に関する。
【0002】
更に、本発明は、肺高血圧症及び/又は肺線維症、又は肺外の他の線維症の予防的もしくは治療的な処置のための医薬組成物の製造におけるPDE1Cインヒビターの使用に関する。
【0003】
発明の背景
肺高血圧症(PH)は、休息時の平均肺動脈圧(PAP)>25mmHg又は運動時の平均肺動脈圧>30mgHgによって定義される。2004年に欧州心臓学会議によって刊行された肺高血圧症の診断と治療における最新のガイドライン(Eur Heart J 25:2243−2278;2004)によれば、PHの臨床形は、(1)肺動脈高血圧(PAH)、(2)左心疾病に関連するPH、(3)肺呼吸性疾病及び/又は低酸素症に関連するPH、(4)慢性血栓病及び/又は塞栓病によるPH、(5)他の起源(例えばサルコイドーシス)のPHとして分類される。グループ(1)は、例えば突発性かつ家族性のPAHに並んで、結合組織疾患(例えば強皮症、CREST)、先天性の全身ないし肺シャント、門脈圧亢進症、HIV、薬物及び毒物(例えば食欲不振誘発物)の摂取の状況下でのPAHを含んでいる。COPDにおいて生ずるPHは、グループ(3)に属していた。小さい(500μm未満の直径の)肺細動脈の筋化は、PAHの生理学的な共通項(グループ1)として広く認められているが、COPD又は血栓病及び/又は塞栓病に基づくような他のPHの形においても起こりうる。PHにおける他の病理解剖学的特徴は、(筋)線維芽細胞又は肺平滑筋細胞の移動及び増殖と細胞外マトリクスの過剰発生とに基づく血管内膜の肥厚、内皮損傷及び/又は内皮増殖、及び血管周囲炎症性の細胞浸潤である。共に、遠位の肺動脈血管系のリモデリングは、増強された肺血管抵抗、続発性の左心不全及び死を引き起こす。経口による抗凝固薬、利尿薬、ジゴキシン又は酸素の供給のようなバックグラウンド療法とより一般的な措置は、依然として最新のガイドラインに列記されている一方で、これらの対応策は、肺動脈リモデリングの原因又はメカニズムを妨害することは期待されない。幾らかのPAH患者は、Ca++アンタゴニスト、特に血管拡張薬に急激に反応を示すものの恩恵を得ることもある。過去十年間にわたり開発された革新的な治療的試みは、分子異常、特に増強されたエンドセリン−1形成、低減されたプロスタサイクリン(PGI2)発生、そしてPAH血管系におけるeNOS活性障害を考慮していた。ETA受容体を介して作用するエンドセリン−1は、肺動脈性の平滑筋細胞にとって有糸分裂促進性であり、かつ急激な血管収縮を誘発する。経口用のETA/ETB−アンタゴニストであるボセンタンは、該化合物が平均PAP、PVR又は6分間歩行テストのような臨床エンドポイントで改善が裏付けられた後に、最近になって欧州と米国においてPAHの治療のために承認された。しかしながら、ボセンタンは肝酵素を増やし、かつ常用の肝臓テストが義務づけられている。近年において、選択的なETAアンタゴニスト、例えばシタキセンタン又はアンブリセンタンは、綿密な調査段階にある。
【0004】
PAHの管理におけるもう一つの戦略としては、不足したプロスタサイクリンをPGI2類似体、例えばエポプロステノール、トレプロスチニル、経口のベラプロスト又はイロプロストによって置き換えることが浮上している。プロスタサイクリンは、血管性の平滑筋細胞の過剰の有糸分裂促進に歯止めをかけて、cAMP発生の増大よって作用する働きがある。静脈内のプロスタサイクリン(エポプロステノール)は、突発性の肺高血圧症における生存率並びに運動能を著しく高め、北米と幾つかの欧州の国々で1990年代半ばに承認されている。しかしながら、その短い半減期のゆえに、エポプロステノールは、連続的な静注を介して投与する必要があり、それは可能であっても心地よいものではなく、煩雑かつ費用のかかるものである。更に、プロスタサイクリンの全身作用のため不利な事象が頻繁に起こる。代替的なプロスタサイクリン類似体は、トレプロスチニル(これは最近になって米国でPAH治療のために承認され、そしてそれは連続的な皮下注入を介して送達される)及びベラプロスト(これは初めての生物学的に活性かつ経口で活性のPGI2類似体であり、日本でPAHの治療のために承認されている)である。その治療プロフィールは、他の形態の肺高血圧症と比較して突発性のPAHを伴う患者においてより好ましいとされ、ベラプロスト投与後に生ずる全身性の血管拡張に結びついた副作用とトレプロスチニル治療下の点滴部位での局所的な痛みが頻繁にある。プロスタサイクリン類似体であるイロプロストの吸入経路を介した投与は、欧州において近年に承認された。その運動能と血行動態パラメータに対する有利な作用は、好適な機器から1日あたり6〜12コースの吸入を含むかなり面倒な投与計画と均衡を保つべきである。
【0005】
肺動脈高血圧で報告されるような内皮での窒素酸化物形成の障害の機能的な結果は、肺動脈性の平滑筋細胞において発現されるホスホジエステラーゼ−5(PDE5)の選択的インヒビターによって克服することができる。従って、選択的PDE5インヒビターであるシルデナフィルは、肺の血行動態及び運動能をPAHにおいて改善することが裏付けられた。
【0006】
これらの新規の治療の殆どは、主として平滑筋細胞機能に向けたものであるが、肺血管線維芽細胞、内皮細胞の他にも、血管周囲マクロファージとTリンパ球が、肺高血圧症の進行に寄与することが考えられる。
【0007】
前記の種々の治療的試みにもかかわらず、肺高血圧症において疾病負荷を改善する医学的必要性は高く、これらの疾病を扱う代替的なターゲットが必要とされている。
【0008】
ホスホジエステラーゼ1Cは、PDE1ファミリーのメンバーの一員であり、かつcAMP及びcGMPを同等の効率で加水分解することが示されている。組織と細胞の局在化の他に、これは、PDE1A及びPDE1Bと比較した、PDE1Cの最も顕著な差異である。PDE1Cの5種類の変異体(1C1、1C2、1C3、1C4、1C5)が、今までに同定されており、それらは組織特異的に発現される(Yan他著のJournal of Biological Chemistry,271,25699−25709,1996)。PDE1Cは、大動脈の増殖している平滑筋細胞において誘導されることが示されており(Rybalkin他著のJ.Clin.Invest,100,2611−2621,1997)、アンチセンス技術によるPDE1Cのダウンレギュレーションは、前記細胞における増殖を低下させることが示されている(Rybalkin他著のCirc.Res.,90,151−157,2002)。他の器官の平滑筋細胞におけるPDE1Cの発現は、今まで解析されていない。本発明では、PDE1Cが、肺高血圧症の処置のための治療的ターゲットであることが裏付けられている。
【0009】
国際出願WO2004/031375号は、ヒトのPDE1C(及びその使用)を記載しており、これらに制限されないが、癌、糖尿病、神経学的疾患、喘息、肥満又は心血管疾患を含む疾病の治療に役割を担いうることを示している。
【0010】
国際出願WO2004/080347号は、ヒトのPDE1C(及びその使用)を記載しており、心血管疾患、胃腸疾病及び肝臓疾病、癌疾患、神経学的疾患、呼吸器疾患及び泌尿器学的疾患に関連することを示している。
【0011】
米国出願US2002160939号は、膵島細胞におけるグルコース依存性インスリン分泌を増大させる新規剤を同定する方法並びに膵島細胞PDE酵素、すなわちPDE1Cの活性に対する阻害作用を有する剤を用いた糖尿病の治療方法を記載している。
【0012】
発明の開示
予期せずに、かつ予測されないことに、ここで、肺高血圧症の処置は、ホスホジエステラーゼ1C(PDE1C)のインヒビターの使用によって達成できることが判明した。
【0013】
更に予期せずに、かつ予測されないことに、ここで、肺線維症の処置は、ホスホジエステラーゼ1C(PDE1C)のインヒビターの使用によって達成できることが判明した。
【0014】
更に、初めて、本発明は、本願に挙げられる疾病の処置についてのPDE1Cのインヒビターの効力に関する証拠とデータを提供している。
【0015】
なおも更に、初めて、本発明は、本願に挙げられる疾病におけるPDE1Cの機械論的併発についての証拠とデータを提供している。
【0016】
このように例えば、本発明において、PDE1Cインヒビターが、肺高血圧症において観察される再構築プロセスに関与する細胞増殖を遮断することが示され、またインビボデータも提供されている。
【0017】
従って、本発明は、初めて、本願に挙げられる疾病のいずれか1つの治療のための選択的PDE1Cインヒビターの利用性を開示している。
【0018】
更に、初めて、本発明は、選択的PDE1Cインヒビターの代表する一定の構造を開示している。
【0019】
更に、本発明は、肺高血圧症、肺線維芽細胞の増殖向上と関連する肺疾患又は線維芽細胞の増殖向上と関連する非肺疾患、例えば本願に挙げられる疾病のいずれか、特に肺高血圧症又は肺線維症の治療のために使用できる化合物を同定するためのPDE1Cの適性を開示している。
【0020】
本発明によれば、ある物質が、1μM未満もしくは約1μMの、もう一つの実施態様においては、0.1μMもしくは約1μMの、更にもう一つの実施態様においては、0.01μM未満もしくは約0.01μMの、なおも更なる別の実施態様においては、1nM未満もしくは約1nMのPDE1Cに対するIC50を有する場合に、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターと見なす。
【0021】
本発明の一実施態様においては、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターの意味は、他の公知の型のホスホジエステラーゼ、例えばPDEファミリーの任意の酵素と比較して、優勢的に、1C型のホスホジエステラーゼ(PDE1C)を阻害するPDEインヒビターを指す。本発明の態様cによれば、PDE1Cを優勢的に阻害するPDEインヒビターとは、公知の種類の他のホスホジエステラーゼの阻害についてのIC50と比較してより低い1C型のホスホジエステラーゼについてのIC50を有する化合物を指し、例えばその際に、PDE1C阻害についてのIC50は、他の公知の種類のホスホジエステラーゼのIC50より約10倍低く、従ってPDE1Cの阻害がより強力である。
【0022】
本発明の好ましい一実施態様においては、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターの意味は、選択的PDE1Cインヒビターを指す。
【0023】
本発明の一詳細においては、本発明で使用される選択的PDE1Cインヒビターの意味は、他のPDEファミリーの一員よりも少なくとも10倍も強力に1C型ホスホジエステラーゼ(PDE1C)を阻害する化合物を指す。
【0024】
本発明の更なる一詳細においては、本発明で使用される選択的PDE1Cインヒビターの意味は、PDE2〜11のファミリーの任意の酵素よりも少なくとも10倍も強力に1C型ホスホジエステラーゼ(PDE1C)を阻害する化合物を指す。
【0025】
本発明のなおも更なる一詳細においては、本発明で使用される選択的PDE1Cインヒビターの意味は、PDE1〜11のファミリーの任意の他の酵素よりも少なくとも10倍も強力に1C型ホスホジエステラーゼ(PDE1C)を阻害する化合物を指す。
【0026】
本発明で使用されるPDE1Cインヒビターは、当業者に公知のように又は本発明に記載されるように、例えば挙げられる方法、工程及び/又はアッセイを使用することを含んで同定することができる。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様においては、本願で使用されるPDE1Cインヒビターの意味は、PDE1C酵素のみ又は実質的にその酵素のみを阻害する化合物を意味し、他のPDE酵素ファミリーの一員をも、治療効果を示す程度までに阻害する化合物を意味するものではない。
【0028】
ホスホジエステラーゼ阻害剤の活性及び選択性を決定するための方法は、当業者に公知である。この関連において、例えば、Thompson et al.(Adv Cycl Nucl Res 10:69−92.1979)、Giembycz et al(Br J Pharmacol 118:1945−1958,1996)及びAmersham Pharmacia Biotechのホスホジエステラーゼシンチレーション近接アッセイにより説明された方法を挙げてよい。
【0029】
本発明の範囲内では、ヒトの肺動脈性の平滑筋細胞及びヒトの肺線維芽細胞が、PDE1Cの発現のため、cAMP並びにcGMP−カルモジュリン刺激によるホスホジエステラーゼ活性を発現するデータが提供される。更に、本発明は、驚くべきことに、PDE1CのmRNA及びタンパク質の、突発性の肺高血圧症を伴う患者の肺組織中でのアップレギュレーションが、健康なドナーの肺組織と比較して強いことを裏付けている。更に、PDE1CのmRNAとタンパク質の同じアップレギュレーションは、低酸素状態が保持されて、肺高血圧症が発生し、肺高血圧症を伴う患者に観察される病態生理学的状態をある程度まで反映しているマウスの肺組織において示されている。患者における、及び動物モデルの肺内での増強されたPDE1C発現は、最終的に血管抵抗の増大をもたらし、こうして肺高血圧症を引き起こす強い再構築プロセスを受けている小さい肺血管の内壁の肺平滑筋細胞に局在化することを示している。更に、PDE1Cの発現増大は、肺動脈圧の程度と相関している。更に、本発明で示されるPDE1Cインヒビターは、以下に示されるように、PDE1Cを発現するヒトの肺線維芽細胞及びヒトの肺動脈性の平滑筋細胞の増殖を阻害する。
【0030】
このデータと増殖の制御におけるPDE1Cの公知の機能とに基づき、PDE1Cの選択的インヒビターを使用して、一次及び二次の肺高血圧症を伴う患者の肺血管(及び隣接組織)の増殖により媒介される再構築プロセスを阻害することができる。
【0031】
本願で使用される表現"肺高血圧症"は、種々の形の肺高血圧症を含む。この関連で挙げることができる制限されない例は、突発性の肺動脈高血圧症;家族性の肺動脈高血圧症;膠原血管病、先天性の全身ないし肺シャント、門脈圧亢進症、HIV感染、薬物もしくは毒物に関連する肺動脈高血圧症;甲状腺疾患、糖原病、ゴシェ病、遺伝性出血性毛細管拡張症、異常ヘモグロビン症、骨髄増殖性疾患もしくは脾臓除去術に関連する肺高血圧症;肺毛細血管腫症に関連する肺動脈高血圧症;新生児の持続性肺高血圧症;慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、低酸素状態により引き起こされる肺胞性低換気疾患、低酸素状態により引き起こされる睡眠障害性呼吸もしくは高標高への慢性的な暴露に関連する肺高血圧症;異常発生に関連する肺高血圧症;並びに遠位の肺動脈の塞栓性の閉塞による肺高血圧症である。
【0032】
ヒトの肺線維芽細胞における予測されないPDE1Cの発現に基づいて、PDE1Cインヒビターは、ヒトの肺線維芽細胞の増殖増大と関連する肺疾患、例えば肺線維症の処置のために使用することができる。
【0033】
この知見に関連して、PDE1Cインヒビターは、一般にヒトの線維芽細胞の増殖増大と関連する他の疾病、例えば肺外の線維症、例えば(糖尿病性)腎障害、糸球体腎炎、心筋線維症、心臓弁疾患、肝線維症、膵臓炎、デュピュイトラン病(手掌線維腫症)、腹膜線維症(例えば長期の腹膜透析に基づく)、ペーロニー病又は膠原繊維性大腸炎の治療のために使用することもできる。
【0034】
更に、本発明に開示されるデータに従って、本発明は、肺高血圧症及び/又は肺線維症、又は前記のような肺外の線維症の治療のために使用できる化合物の同定のためのPDE1Cの新規の使用を提供する。
【0035】
また、本発明は、肺高血圧症及び/又は肺線維症の治療のための化合物を同定及び獲得するための方法であって、前記方法は、PDE1Cインヒビターであると疑われる化合物のPDE1C阻害活性及び/又は選択性を測定することを含む方法並びに前記方法によって同定された化合物を提供する。好ましくは、前記化合物は、選択的PDE1Cインヒビターであってよい。
【0036】
前記方法は、また、PDE1Cインヒビターであると疑われる化合物を、肺高血圧が誘発されている動物、好ましくは非ヒトの動物に投与して、コントロール処理された動物と比較して肺高血圧の程度を測定することを含む。好ましくは、前記化合物は、選択的PDE1Cインヒビターであってよい。相応の手順は、当該技術分野でよく知られており、かつ以下の実施例において例として記載される。
【0037】
場合により本方法に含んで、第一の選択肢において、前記のように同定された化合物を、製剤学的に認容性の担体又は希釈剤と一緒に製剤化することができる。
【0038】
更に場合により本方法に含めて、代替的な選択肢において、前記のように同定された化合物を改変させて、(i)作用部位、活性範囲の変更、及び/又は(ii)効力の向上、及び/又は(iii)毒性の低下(治療指数の改善)、及び/又は(iv)副作用の低下、及び/又は(v)作用開始、作用期間の改変、及び/又は(vi)動力学的パラメータの変更(再吸収、分布、代謝及び分泌)、及び/又は(vii)生理学的パラメータの改変(可溶性、吸湿性、色、味覚、臭い、安定性、状態)、及び/又は(viii)一般的特異性、器官/組織特異性の改善、及び/又は(ix)適用形及び経路の最適化を、(i)カルボキシル基のエステル化、又は(ii)ヒドロキシル基と炭素酸とのエステル化、又は(iii)ヒドロキシル基の、リン酸エステル、ピロリン酸エステルもしくは硫酸エステルもしくはヘミコハク酸エステルへのエステル化、又は(iv)製剤学的に認容性の塩の形成、又は(v)製剤学的に認容性の錯体の形成、又は(vi)薬理学的な活性ポリマーの合成、又は(vii)親水性部の導入、又は(viii)芳香族もしくは側鎖での置換基の導入/交換、置換型の変更、又は(ix)等配電子又は生物学的等配電子部の導入による改変、又は(x)相同化合物の合成、又は(xi)分枝側鎖の導入、又は(xii)アルキル置換基の環状類似体への転化、又は(xiii)ヒドロキシル基のケタール、アセタールへの誘導体化、又は(xiv)アミド、フェニルカルバメートへのN−アセチル化、又は(xv)マンニッヒ塩基、イミンの合成、又は(xvi)ケトンもしくはアルデヒドのシッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チオゾリジンもしくはその組み合わせへの変換によって、場合により前記の改変生成物と製剤学的に認容性の担体もしくは希釈剤との製剤化によって達成できる。
【0039】
本発明で使用されるPDE1Cインヒビターであると疑われる化合物は、例えばこれらに制限されないが、当該技術分野から公知の選択的PDE1インヒビター、例えば他のPDEファミリーの一員よりも少なくとも10倍もPDE1を阻害する任意の化合物であってよい。
【0040】
更に、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターであると疑われる化合物は、例えばこれらに制限されないが、PDEインヒビターとして開発されている任意の化合物、例えばPDE1阻害活性が見出される化合物であってよい。
【0041】
なおも更に、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターであると疑われる化合物は、例えばこれらに制限されないが、PDE阻害プロフィールがアッセイされるべき任意の化合物であってよい。
【0042】
またなおも更に、本発明で使用されるPDE1Cインヒビターであると疑われる化合物は、例えばこれらに制限されないが、市販の化合物ライブラリーに含まれる任意の化合物であってよい。
【0043】
また、本発明は、本発明に記載されるいずれかの方法によって同定された化合物に関する。
【0044】
医薬品(医薬品調剤、製剤もしくは組成物とも本発明において以後呼称される)として、前記PDE1Cインヒビターは、それ自体として、又は有利には適した製剤学的な助剤及び/又は賦形剤と組み合わせて、錠剤、被覆された錠剤、カプセル、カプレット、坐剤、パッチ(例えばTTSとして)、エマルション、懸濁物、ゲル、又は溶液の形態で使用される。本発明の医薬品調剤は典型的には、活性化合物の全量を、総製剤に対して、0.05〜99%w(質量%)の範囲で、より有利には0,10〜70%wの範囲で、更により有利には0.10〜50%wの範囲で含有する(全てのパーセンテージは質量に対する)。助剤及び/又は賦形剤の適切な選択により、前記活性化合物に及び/又は作用の所望の開始に、正確に適合した投与剤形(例えば、遅延性放出形、又は腸溶形)を達成することが可能である。
【0045】
当業者はその専門知識により所望の医薬品製剤に適した助剤、ビヒクル、賦形剤、希釈剤、担体又はアジュバントに精通している。溶剤、ゲル形成剤、軟膏基材及び他の活性化合物の他に、賦形剤、例えば酸化防止剤、分散剤、乳化剤、保存剤、溶解剤、着色剤、錯化剤、フレーバー、緩衝剤、粘性調節剤、界面活性剤、結合剤、滑沢剤、安定剤又は侵透促進剤を使用してよい。
【0046】
PDE1Cインヒビターは、治療が必要な患者に、当該技術分野で利用できる一般に許容される任意の投与様式で投与することができる。適当な投与様式の概略的な例は、経口、静脈内、経鼻、非経口、経皮及び直腸内での送達並びに吸引による投与である。好ましい投与様式は、経口及び吸入である。
【0047】
治療効果の達成に必要なPDE1Cインヒビターの量は当然のように、特定の化合物、投与経路、治療される被験者、及び治療される特定の疾患又は疾病により変化する。一般に、日用量は、通常、約0.001〜約100mg/kg(体重)の範囲である。一例として、PDE1Cインヒビターを、経口で成人に、約0.1〜約1000mg(1日)の用量で、単独でもしくは分けて(すなわち複数回)投与することができる。
【0048】
このように、本発明の第一の態様は、肺高血圧症の予防的もしくは治療的な処置のための医薬組成物の製造のためのPDE1Cインヒビターの使用である。
【0049】
第二の態様においては、本発明は、患者における肺高血圧症の予防的もしくは治療的な処置のための方法であって、前記患者にPDE1Cインヒビターの有効量を投与することを含む方法に関する。
【0050】
第三の態様においては、本発明は、PDE1Cインヒビターを、ヒトの肺線維芽細胞の増殖増大に関連する肺疾患、例えば肺線維症の処置のための医薬組成物の製造のために用いる使用に関する。
【0051】
第四の態様においては、本発明は、ヒトの肺線維芽細胞の増殖増大に関連する肺疾患、例えば肺線維症の、患者における処置方法において、前記患者に、PDE1Cインヒビターの有効量を投与することを含む方法に関する。
【0052】
第五の態様においては、本発明は、PDE1Cインヒビターを、ヒトの線維芽細胞の増殖増大と関連する非肺疾患、例えば肺外の線維症、例えば(糖尿病性)腎障害、糸球体腎炎、心筋線維症、心臓弁疾患、肝線維症、膵臓炎、デュピュイトラン病(手掌線維腫症)、腹膜線維症(例えば長期の腹膜透析に基づく)、ペーロニー病又は膠原繊維性大腸炎の治療のための医薬組成物の製造のために用いる使用に関する。
【0053】
第六の態様においては、本発明は、ヒトの線維芽細胞の増殖増大と関連する非肺疾患、例えば肺外の線維症、例えば(糖尿病性)腎障害、糸球体腎炎、心筋線維症、心臓弁疾患、肝線維症、膵臓炎、デュピュイトラン病(手掌線維腫症)、腹膜線維症(例えば長期の腹膜透析に基づく)、ペーロニー病又は膠原繊維性大腸炎の、患者における処置方法において、前記患者に、PDE1Cインヒビターの有効量を投与することを含む方法に関する。
【0054】
第八の態様においては、本発明は、PDE1Cを、肺高血圧症、肺線維症、又は肺外の線維症の処置のために使用できる化合物を同定するために用いる使用に関する。
【0055】
第九の態様においては、本発明は、肺高血圧症及び/又は肺線維症の処置に有用な化合物を同定するための方法において、前記化合物について、そのPDE1C阻害活性及び/又は選択性を測定することを含む方法に関する。
【0056】
用語"有効量"は、PDE1Cインヒビターの治療学的に有効な量を指す。"患者"は、ヒトと他の哺乳動物の両方を含む。
【0057】
本発明は、また、実質的に前記される、特に実施例に参照される化合物、方法、使用及び組成物を提供する。
【0058】
薬理学
健康なヒト、突発的な肺高血圧症を伴う患者、及び低酸素/常酸素のマウスの肺におけるPDE1C発現の特徴付け
目的
薬理学的調査の目的は、突発的な肺高血圧症を伴う患者の肺におけるPDE1Cの発現と局在化を特徴付け、それらと健康なヒトのそれとを比較することであった。PDE1C発現は、患者グループにおける肺高血圧症の程度と相関していた。同様の分析を、肺高血圧症のための動物モデルとして使用される低酸素/常酸素のマウスで実施した。
【0059】
患者の特性
ヒトの肺組織は、5人の健康な肺ドナーと、肺移植を受けた5人のPAH患者(全ては突発的なPAH)とから得た。患者の肺組織は、mRNA及びタンパク質の抽出のための外植の直後にスナップ凍結させるか、又は直接的に4%の緩衝されたパラホルムアルデヒド中に移し、4℃で24時間固定し、そしてパラフィン中に埋包させた。調査されるIPAH患者の平均肺動脈圧は、68.4±8.5mmHgであった。組織供与は、ジャスタス−リービッヒ大学の倫理委員会と国内法によって統制された。
【0060】
細胞培養
ヒトの肺平滑筋細胞は、Promocell GmbH社(ドイツ・ハイデルベルク在)から得られ、そしてヒト平滑筋細胞培地II(Promocell GmbH社、ドイツ・ハイデルベルク在)中で3継代まで培養した。ヒトの肺線維芽細胞は、Cambrex Bioscience社から得られ、そして線維芽細胞増殖培地(Cambrex Bioscience社)中で培養した。A549細胞は、10%の仔ウシ血清を含有するダルベッコ変性イーグル培地中で培養した。
【0061】
動物
全ての動物実験は、成体の雄マウス(8週齢、BALB/c)を用いて、国別仕様と国際仕様を遵守した機関内ガイドラインに従って実施した。
【0062】
慢性低酸素状態への暴露
マウスを、慢性低酸素状態(10%のO2)に、前記のような通風チャンバ中で暴露した16。低酸素状態の水準は、自動制御コントロール装置(モデル4010、O2コントローラ、Labotect;ドイツ・ゲッティンゲン在)によって、窒素か酸素のいずれかを供給して保持した。再循環システム中の過剰の湿分は、冷却システム中での凝結によって防止した。CO2は、ソーダ石灰によって連続的に除去した。ケージは、清掃と、食料及び水の供給のために、一日一回開放した。チャンバ温度を、22〜24℃に保持した。常酸素のマウスを、常酸素条件下で同じチャンバ中に保持した。
【0063】
血流力学的測定
マウスに、ケタミン(6mg/100g、腹腔内)及びキシラジン(1mg/100g、腹腔内)で麻酔した。気管にカニューレ挿入し、そして肺を空気内空気で0.2mlの1回換気量及び1分間あたり120回の呼吸数で換気した。全身性動脈圧を、頸動脈のカテーテル挿入によって測定した。右心室収縮期圧(RVSP)の測定のために、PE80製のチューブを、右頚静脈を介して右心室中に挿入した。
【0064】
薬理学的処置
急性の低酸素性の血管収縮に対するPDE1Cインヒビターの作用を調査するために、4グループのマウス(各グループに6匹)を、単離肺実験で調査する。2つのグループは、急性の低酸素性の血管収縮に対する試験化合物又はプラセボの用量増加の効果を調査する常酸素の動物である。従って、繰り返しの低酸素誘発を実施し、そして試験化合物又はプラセボを常酸素期間で適用する。他の2つのグループは、慢性的な低酸素状態のマウス(10%のO2で21日)からなり、そこで試験化合物又はプラセボを用いて同じ実験を行った。PDE1C阻害の慢性的な効果を、35日間にわたり低酸素状態に暴露したマウスで評価する。簡潔には、20匹の動物を、低酸素条件に保持して、肺高血圧症を生じさせる。21日後に、動物に、試験化合物かプラセボのいずれかを、浸透圧ミニポンプの移植による連続的な注入を介して受けさせて無作為化する。それらの動物にケタミン/キシラジンで麻酔し、頚動脈中にカテーテル挿入した。それらの動物に、20μgの試験化合物/kg/分又はプラセボを、14日間にわたり受けさせる。
【0065】
右心肥大と血管再構築の評価
低酸素状態又は室内空気に3又は5週間にわたり暴露したマウスの血行力学を、前記のように記録した。全身性の動脈圧及び右心室圧を記録した後に、動物を全採血し、肺と心臓を単離した。右心室(RV)を、左心室と中隔(LV+S)から解剖し、これらの解剖されたサンプルの重さを量って、右心室対左心室と中隔とを足した比率(RV/LV+S)を得た。
【0066】
肺を、10%のリン酸緩衝されたホルマリン(pH7.4)の溶液で潅流させた。同時に、10%のリン酸緩衝されたホルマリン(pH7.4)を、肺内に、20cmのH2Oの圧力で気管内チューブを介して適用し、そして光学顕微鏡用に処理した。小さい末梢の肺動脈の筋化の度合いを、3μm切片を、抗平滑筋アクチン抗体(希釈1:900、クローン1A4、Sigma、Saint Louis、Missouri)及び抗ヒトのフォンヴィレブランド因子抗体(vWF、希釈1:900、Dako、ドイツ・ハンブルク在)で、他に記載されるプロトコールから変更して二重染色することによって評価した。ウサギにおいて生じたヒトPDE1Cに対するポリクローナル抗体(FabGennix、Shreveprot、米国)を、PDE1C染色のために使用した。脱蝋及び脱水した切片を、0.1%塩化カルシウム中の0.1%トリプシン(pH7.6)で37℃で8分間にわたりタンパク質分解性抗体での検索に供し、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(ABC Elite、Vector Laboratories、Burlingame、米国)法で、基質として3,3−ジアミノベンジジンを用いて免疫染色した。それらのセクションを、ヘマトキシリンで対比染色し、光学顕微鏡によってコンピュータ化された形態測定システム(Qwin,Leica,and Wetzlar、ドイツ)を用いて調査した。40倍の拡大で、肺胞管もしくは肺胞のいずれかに付随する50〜60の腺胞細胞内血管を、各マウスにおける処置を知らない観察者によって分析した。前記のように、各血管を、非筋化と、部分筋化と、又は完全筋化としてカテゴリー分けした20。各筋化カテゴリーにおける肺血管のパーセンテージを、そのカテゴリーにおける血管数を、同じ実験グループで数えられた全数によって割り算することによって決定した。
【0067】
ウェスタンブロット
凍結された肺組織を、組織ホモジナイザーで、50mMのトリス塩酸(pH7.6)、10mMのCaCl2、150mMのNaCl、60mMのNaN3及び0.1%(w/v)のトライトンX−100と一緒にプロテアーゼカクテルインヒビター(Roche、ドイツ・マンハイム在)を含有するトリス溶解バッファー中で均質化させた。均質化されたサンプルを、10000gで30分間遠心分離させ、そして上清を回収し、そのタンパク質含有率を、ブラッドフォードの色素試薬法によって見積もった。簡単に、同量のタンパク質を、12%のSDS PAGE上に、サンプルを、β−メルカプトエタノールを含有するSDSサンプルバッファー中で95℃で5分間煮沸した後にロードした。次いで、ゲルを、ニトロセルロースメンブレンに転写し、そのメンブレンを、PDE1C(FabGennix、Shreveprot,米国)及び平滑筋アクチン抗体(Sigma,ドイツ・ミュンヘン在)のそれぞれと一緒にインキュベートした。メンブレンを、ECL化学発光キット(アマシャム、ドイツ・フライブルク在)を使用して現像した。
【0068】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
全RNAを、凍結された肺組織から、TRizol法(Invitrogen GmbH社、ドイツ・カールスルーエ在)によって単離し、そしてRNAの量を、nanodrop(NanoDrop ND−1000、Wilmington、米国)を用いて測定した。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を、第一鎖cDNAを生成するためにオリゴdtプライマーを使用して実施した。半定量的PCRを、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを使用して実施して、PDE1C遺伝子のmRNA発現を確認した。ヒトPDE1Cの発現のために、センス配列HPDE1CF−5′−AAACTGGTGGGACAGGACAG−3′とアンチセンス配列HPDE1CR−5′−ACTTTTGTTTGCCCGTGTTC−3′を有するプライマーペアを使用した。同様に、マウスにおけるPDE1CのmRNA発現のために、以下の配列:フォワードMPDE1C−5′−TTGACGAAAGCTCCCAGACT−3′及びリバースMPDE1C−5′−TTCAAGTCACCGTTCTGCTG−3′を使用した。β−アクチンを、両方の生物についてハウスキーピング遺伝子として、フォワードp−ACTINF−5′−CGAGCGGGAAATCGTGCGTGACATTAAGGAGA−3′及びリバースp−ACTINR−5′−CGTCATACTCCTGCTTGCTGATCCACATCTGC−3′の共通のプライマーセットで使用した。PCRは、以下の条件下で実施した。初期変性を、94℃で1分30秒、アニーリングを58℃で1分間、重合を2℃で1分20秒を32サイクル、最終伸長を、72℃で2分間。ヒトのPDE1Cプライマーで、377bpのアンプリコンサイズが得られ、マウスのPDE1Cプライマーで、450bpに増幅されるが、β−アクチンは、475bpの産物サイズをもたらした。
【0069】
ホスホジエステラーゼイソ酵素の活性測定及び細胞抽出物の調製
細胞(1〜3×106)を、リン酸緩衝生理食塩水(4℃)中で2回洗浄し、そして1mlの均質化バッファー(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、8.1mMのNa2HPO4、1.5mMのKH2PO4、10mMのHEPES、1mMのEGTA、1mMのMgCl2、1mMのメルカプトエタノール、5mMのペプスタチンA、10mMのロイペプチン、50mMのフッ化フェニルメチルスルホニル、10mMの大豆トリプシンインヒビター、2mMのベンザミジン、pH8.2)中に再懸濁させた。細胞を超音波処理(Branson sonifier,3×15秒)によって破壊し、そして溶解物を、ホスホジエステラーゼ(PDE)活性測定のために直ちに用いた。PDE活性は、記載(Thompson&Appleman,1979)されるようにして、幾らかの変更(Bauer&Schwabe,1980)を加えて細胞溶解物で評価した。アッセイ混合物(最終容量200ml)は以下のものを含有していた(mM):トリス塩酸(pH7.4) 30、MgCl2 5、基質としての0.5μMの環状AMPもしくは環状GMP、[3H]cAMPもしくは[3H]cGMP(1ウェルあたり約30000c.p.m.)、100mMのEGTA、以下に記載されるPDEイソ酵素特異的アクチベーター及びインヒビター並びに細胞溶解物。インキュベートは、37℃で60分間実施し、反応は、50mlの0.2MのHClを1ウェルあたりに添加することによって止めた。アッセイを、氷上で10分間放置し、次いで25mgの5′−ヌクレオチダーゼ(ガラガラヘビ)を添加した。37℃での10分間のインキュベート後に、アッセイ混合物を、QAE−Sephadex A25カラム(1mlの床容量)上にロードした。カラムを2mlの30mMのギ酸アンモニウム(pH6.0)で溶出させ、そして溶出物中の放射活性を計数した。結果を、全放射活性の2%未満であり、環状AMP分解が、添加した基質量の25%を超過しなかったブランク値(変性されたタンパク質の存在下に測定した)について補正した。最終DMSO濃度は、全てのアッセイ中で0.3%(v/v)であった。PDEイソ酵素の選択的なインヒビター及びアクチベーターを使用して、今までに記載(Rabe他、1993)されたことに変更を加えて、PDEファミリーの活性を測定した。簡単に、PDE4を、1μMのピクラミラストの存在及び不在において、0.5μMのサイクリックAMPでPDE活性の差異として計算した。10μMのモタピゾンの存在及び不在におけるピクラミラストで阻害されたサイクリックAMP加水分解の間の差異を、PDE3として定義した。10μMのモタピゾンの存在下における100nMのシルデナフィルによって阻害されたサイクリックGMP(0.5μM)加水分解のフラクションは、PDE5を反映した。アッセイで使用される濃度で、ピクラミラスト(1μM)、モタピゾン(10μM)及びシルデナフィル(100nM)は、完全にPDE4、PDE3及びPDE5の活性を、他のPDEファミリーからの活性と干渉せずに遮断した。PDE1は、1mMのCa2+及び100nMのカルモジュリンによって誘発されたサイクリックAMP加水分解(1μMのピクラミラスト及び10μMのモタピゾンの存在)又はサイクリックGMP加水分解の増分として定義した。5μMのサイクリックGMPによって誘発された1μMのピクラミラスト及び10μMのモタピゾンの存在下でのサイクリックAMP(0.5μM)分解活性の増大は、PDE2を表した。PDE2インヒビターのPDP(100nM)は、完全に、このサイクリックGMP誘発活性増分を阻害し、更に、この活性はPDE2として確証された。
【0070】
増殖測定
増殖は、3H−チミジン導入によって測定した。2.4×104のヒトの肺動脈性の平滑筋細胞又はヒトの肺線維芽細胞を、24ウェルプレート中に1ウェルごとに播種した。播種の1日後に、PDE1Cインヒビター(化合物A及び化合物B)を添加した。この実験に応じて、化合物を添加した1日後又は3日後に、3H−チミジンを各ウェルに添加し、そして細胞を更に少なくとも10時間にわたりインキュベートした。培地上清を廃棄した後に、細胞を1mlのPBSで2回洗浄した。次いで、10%TCAを30分間添加した。これに引き続き、0.5mlの0.2MのNaOHを、4℃で少なくとも15時間添加した。次いで、サンプルを、シンチレーションバイアルに移し、5mlのシンチレーション液を添加し、バイアルを、多目的シンチレーションカウンターLS6500(Beckman Coulter)で計数した。
【0071】
A549細胞での増殖アッセイは、種々の様式で96ウェルプレート中で実施した。簡単に、5000個の細胞を1ウェルあたりに100μlで播種した。1日後に、PDE1Cインヒビター(化合物A及び化合物B)を8時間添加し、それに引き続き3H−チミジンを2時間添加した。次いで、上清を廃棄し、細胞をトリプシン処理し、96ウェルフィルタプレートにおいてfiltermate harvester(Packard Bioscience)を使用することによって吸引した。次いで、30μlのシンチレーション液をフィルタプレートの各ウェルに添加し、そのプレートをプレートの上にフィルムを付すことによって覆い、プレートをTop Count NXT(商標)(Packard Bioscience)で測定した。
【0072】
ホスホジエステラーゼ活性の阻害の測定
ホスホジエステラーゼ活性を、アマシャムバイオサイエンス(手順説明書"phosphodiesterase[3H]cAMP SPA enzyme assay,code TRKQ 7090"を参照のこと)によって提供された改変されたSPA(シンチレーション近接アッセイ)試験において、96ウェルのマイクロタイタープレート(MTP)中で実施して阻害する。試験容量は100μlであり、これは20mMのトリスバッファー(pH7.4)、0.1mgのBSA(ウシ血清アルブミン)/ml、5mMのMg2+、0.5μMのcGMP又はcAMP(約50000cpmのトレーサーとしての[3H]cGMP又は[3H]cAMPを含む;cAMP又はcGMPを使用するかは、測定されるホスホジエステラーゼの基質特異性に応ずる)、1μMのそれぞれのDMSO中希釈物及び効率的な組み換えPDEを含有し、10〜20%のcGMP又はcAMPが前記の試験条件下に変換されることを保証した。アッセイにおけるDMSOの最終濃度(1%v/v)は実質的に調査されるPDEの活性に影響を及ぼさない。37℃で5分間プレインキュベートした後に、基質(cGMP)を添加することによって反応を開始させ、そしてアッセイ物を更に15分間インキュベートし、次いでSPAビーズ(50μl)を添加することによって反応を停止させた。製造元の説明に従って、SPAビーズを事前に水中に再懸濁させるが、次いで水中で1:3(v/v)に希釈し、希釈された溶液も3mMのIBMXを含有し、それによりPDE活性の完全な停止を保証した。該ビーズが沈殿した後に(>30分)、MTPの分析を市販のルミネッセンス検出装置において行う。化合物のPDE活性の阻害についての相応のIC50値を濃度−作用曲線から非線形回帰によって測定する。
【0073】
結果
低酸素状態のマウス肺におけるPDE1Cの発現
PDE1CのmRNA(図1A)及びタンパク質レベル(図1B)の両方は、低酸素状態に暴露したマウス肺(暴露時間35日まで)において時間に依存して増大した。常酸素状態の動物においては、PDE1Cに特異的な免疫活性は、相応のアクチン染色(図2B)から明らかなように、血管と非血管の平滑筋細胞の両者において裏付けられた(図2A)。免疫活性は、非筋肉の微小血管、内皮及び気道上皮では見られなかった。低酸素への暴露後に、PDE1Cは、肺胞壁に付随する遠位の筋化された動脈(図2C)に顕著に発現され、再びα型の平滑筋アクチンと重複している(図2D)。
【0074】
図1

【0075】
図1. マウスにおける、低酸素状態で誘発された肺高血圧症での高められたPDE1C発現
RT−PCRとウェスタン分析を使用して、対照動物と低酸素誘発された動物からの肺におけるPDE1Cの発現を評価した。PDE1CのmRNA(A,B)及びタンパク質(C,D)の含量は、経時的に増大した(慢性低酸素状態を与えた3日後、14日後、21日後、35日後のPDE1C発現の値)。PDE1C発現の比重分析を示す(B,D)。イムノブロットは、各グループについてのn=4ブロットの代表であり、同じ結果を示している。全てのサンプルは、β−アクチンに標準化させる。
【0076】
図2

【0077】
図2. 対照マウス(常酸素状態)及び低酸素マウスからの肺動脈におけるPDE1Cの免疫染色
PDE1C様の免疫活性は、主に、全てのグループにおける肺動脈の平滑筋細胞に制限された。スケールバー:100μm。
【0078】
低酸素マウスは、肺高血圧症と右心肥厚を生ずる。
【0079】
低酸素マウスは、21日以内に重度の肺高血圧症を生じ、それは35日目まで持続した。従って、右心室収縮期圧(RVSP)は、常酸素状態の動物と比較して大きく高まった(図3)。
【0080】
図3

【0081】
図3. 右心室収縮期圧と右心肥厚に対する21日の効果
動物は、21日間低酸素状態に暴露するか、又は常酸素状態に全体をとおして維持した(対照)。右心室収縮期圧(RVSP、mmHg)及び右心室対左心室と中隔とを足した比率(RV/LV+S)を、右心肥厚の測定として示す。*、対照に対するp<0.05。
【0082】
低酸素マウスは、肺動脈の筋化を示す。
【0083】
ここで、常酸素状態/低酸素状態のマウスにおいて20〜70μmの直径を有する肺動脈の筋化の程度を定性的に評価した。対照において、この直径の大多数の血管は、筋化されておらず(54%)、より低い割合が部分的に筋化された血管(37%)と完全に筋化された血管(9%)である(図4)。低酸素状態の動物(21日目)において、筋化されていない肺動脈に大きな減少が生じ、それに伴い、完全に筋化された肺動脈に増大が生ずる。8MM−IBMXでの処置は、両方の低酸素グループ(21日目、すなわち8MM−IBMX処置の開始前及び35日目)と比較して完全に筋化された動脈が大きく減少し、そして筋化されていない肺動脈の割合が増大した。
【0084】
図4

【0085】
図4. 低酸素状態は、肺動脈の筋化を誘発する。
【0086】
動物は、21日間低酸素状態に暴露するか、又は常酸素状態に全体をとおして維持した(対照)。筋化されていない肺動脈(N)、部分的に筋化された肺動脈(P)又は完全に筋化された肺動脈(M)の割合を、全肺動脈断面(20〜70μmサイズ)の割合として示す。全部で60〜80の腺胞内血管を各肺において分析した。
【0087】

【0088】
突発性肺動脈高血圧(IPAH)を伴う患者におけるPDE1C発現
ドナーの肺組織においては、少量だけのPDE1CのmRNAが見出されたに過ぎない(図5)。しかしながら、IPAHを伴う患者においてはPDE1CのmRNAが大きく増大した。mRNA発現と一致するように、PDE1Cタンパク質レベルは、ドナーの肺においては、非常に低く、又は事実上検出できないが、一方で、PDE1Cタンパク質の豊富な発現は、IPAHを伴う患者において見出された。免疫組織化学的に、IPAH患者からの肺動脈におけるPDE1Cの大規模な発現が裏付けられ、それは内壁中に局在化していた(図6)。それに対して、PDE1Cの発現は、健康なドナーの肺組織の肺血管中には事実上検出されなかった。更に、気管支と気道の上皮においてPDE1Cの発現は見出されなかった。
【0089】
図5

【0090】
図5. IPAHを伴う患者における増大したPDE1C発現
RT−PCRとウェスタン分析を使用して、健康なドナー(対照)とIPAH患者からの肺におけるPDE1Cの発現を評価した。PDE1CのmRNA(A,B)及びタンパク質(C,D)の両方の含量は、IPAH患者において大きく増大した。PDE1C発現の比重分析を示す(B,D)。イムノブロットは、各グループについてのn=4ブロットの代表であり、同じ結果を示している。全てのサンプルは、β−アクチンに標準化させる。*、対照に対するp<0.05;**、対照に対するp<0.05。
【0091】
図6

【0092】
図6. 健康なドナーとIPAH患者からの肺動脈におけるPDE1Cの免疫染色
PDE1C様の免疫活性は、主に、全てのグループにおける肺動脈の平滑筋細胞に制限された。スケールバー:100μm。
【0093】
PDE1C発現は、IPAH患者において平均肺動脈圧と相関している。
【0094】
この研究における注目すべき考察は、IPAH患者の肺からのPDE1C発現が、これらの患者の平均肺動脈圧(mPAP)と大きく相関していることであった(図7)。
【0095】
図7

【0096】
図7. IPAH患者からのPDE1C発現と平均肺動脈圧との相関
PDE1Cの発現は、任意の単位で示され、かつ平均肺動脈圧と相関している。
【0097】
PDE1C活性は、ヒトの肺動脈平滑筋細胞と肺線維芽細胞において検出できる。
【0098】
示される免疫組織化学的データによれば、PDE1C活性は、肺平滑筋細胞(図8A)並びにヒトの線維芽細胞(図8B)の溶解物中で測定され、それらはまた、肺高血圧症又は線維症を生ずる再構築プロセスに関与していることも議論される。
【0099】
図8

【0100】
図8. PDE1C活性
ヒトの肺動脈平滑筋細胞(A,n=2±SEM)及びヒトの肺線維芽細胞(B)の溶解物において、カルモジュリン刺激されるcAMP及びcGMPの加水分解活性が測定され(PDE1cG及びPDE1cA)、それはPDE1C発現の原因である。更に、PDE3、PDE4及びPDE5の活性が検出された。
【0101】
PDE1Cインヒビターは、PDE1Cを発現する肺細胞の増殖を阻害する。
【0102】
PDE1Cの活性を阻害する化合物を同定する。その化合物は、以下に示される式を有する化合物A及びBを含む。化合物A及びBを、以下に記載されるPDEファミリーの一員の阻害について分析する。両方の化合物は、ナノモラー範囲のIC50値でヒト組み換えPDE1C1を阻害することと、試験された他のPDEファミリーの一員に対して選択的であることが判明した。
【0103】
【表1】

【0104】
化合物A:
【化1】

【0105】
化合物B:
【化2】

【0106】
4−[ヒドロキシ(4−メチルフェニル)メチリデン]−1−フェニル−5−チオキソピロリジン−2,3−ジオン
第1表. 化合物A及びBの構造並びにヒトの組み換えホスホジエステラーゼ酵素に対するIC50
PDE1Cインヒビターは、PDE1Cを発現する肺細胞の増殖を阻害する。
【0107】
図10、11及び12に示されるように、PDE1Cを阻害する化合物Aは、ウェスタンブロットによってPDE1Cを発現することが示されているヒトの肺線維芽細胞(図10)、ヒトの肺動脈平滑筋細胞(図11)及びヒトの上皮肺細胞A549(図12)の増殖を阻害した。化合物Aとは構造的に異なる、PDE1C阻害性化合物Bも、ヒト上皮肺細胞A549(図12)の増殖を阻害した。
【0108】

【0109】
図10. 化合物Aは、ヒトの肺線維芽細胞の増殖を阻害する。
【0110】
ヒトの肺線維芽細胞を、種々の濃度の化合物Aで3日間処理した。次いで、増殖を、3H−チミジン導入アッセイ(n=2±SD)によって測定した。
【0111】

【0112】
図11. 化合物Aは、ヒトの肺動脈平滑筋細胞の増殖を阻害する。
【0113】
ヒトの肺動脈平滑筋細胞を、種々の濃度の化合物Aで1日間にわたって処理した。次いで、増殖を、3H−チミジン導入アッセイ(n=2±SD)によって測定した。
【0114】

【0115】
図12. 化合物A及び化合物Bは、ヒト肺上皮細胞の増殖を阻害する。
【0116】
A549細胞を、種々の濃度の化合物A及び化合物Bで8時間にわたり処理した。次いで、増殖を、3H−チミジン導入アッセイ(n=2±SD)によって測定した。
【0117】
まとめ
その発現により平滑筋細胞の細胞増殖を促進することが示されたPDE1Cは、動物モデルの肺血管系と肺高血圧症を伴う患者において高度に過剰発現される。その発現は、肺高血圧症の程度と相関し、そして肺高血圧症において観察される血管再構築プロセスの領域内に局在化している。この領域内で、PDE1Cは、肺動脈平滑筋細胞と肺線維芽細胞中に局在化している。PDE1Cインヒビターは、肺線維芽細胞と肺動脈平滑筋細胞の増殖を遮断する。このように、PDE1Cのインヒビターは、肺高血圧症及び肺線維症を生ずる再構築プロセスの処置のための治療剤として使用することができる。
【0118】
本発明は、その精神又は必須の特徴から逸脱しない限りは、他の特定の形態を実施態様とすることができる。上記実施例は、説明としてのみ包含されるに過ぎない。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲の範囲によって制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDE1Cインヒビターを、肺高血圧症の予防的もしくは治療的な処置用の医薬組成物の製造のために用いる使用。
【請求項2】
患者における肺高血圧症の予防的もしくは治療的な処置のための方法において、前記患者に、PDE1Cインヒビターの有効量を投与することを含む方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の使用又は方法であって、肺高血圧症が、突発性の肺動脈高血圧症;家族性の肺動脈高血圧症;膠原血管病、先天性の全身ないし肺シャント、門脈圧亢進症、HIV感染、薬物もしくは毒物に関連する肺動脈高血圧症;甲状腺疾患、糖原病、ゴシェ病、遺伝性出血性毛細管拡張症、異常ヘモグロビン症、骨髄増殖性疾患もしくは脾臓除去術に関連する肺高血圧症;肺毛細血管腫症に関連する肺動脈高血圧症;新生児の持続性肺高血圧症;慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、低酸素状態により引き起こされる肺胞性低換気疾患、低酸素状態により引き起こされる睡眠障害性呼吸もしくは高標高への慢性的な暴露に関連する肺高血圧症;異常発生に関連する肺高血圧症;並びに遠位の肺動脈の塞栓性の閉塞による肺高血圧症から選択される使用又は方法。
【請求項4】
PDE1Cインヒビターを、例えば肺線維症などの肺線維芽細胞の増殖増大に関連する肺疾患の治療用の医薬組成物の製造のために用いる使用。
【請求項5】
PDE1Cインヒビターを、ヒトの線維芽細胞の増殖増大と関連する非肺疾患、例えば肺外の線維症、例えば(糖尿病性)腎障害、糸球体腎炎、心筋線維症、心臓弁疾患、肝線維症、膵臓炎、デュピュイトラン病(手掌線維腫症)、腹膜線維症(例えば長期の腹膜透析に基づく)、ペーロニー病又は膠原繊維性大腸炎の治療のための医薬組成物の製造のために用いる使用。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用又は方法であって、PDE1Cインヒビターが、選択的PDE1Cインヒビター、例えば他のPDEファミリーの一員よりも少なくとも10倍も強力に1C型のホスホジエステラーゼ(PDE1C)を阻害する化合物である使用又は方法。
【請求項7】
PDE1Cを、肺高血圧症、例えば請求項3に挙げられるいずれかの疾患の処置のために使用できる化合物を同定するために用いる使用。
【請求項8】
PDE1Cを、肺線維芽細胞の増殖増大と関連する肺疾患、又は線維芽細胞の増殖増大と関連する非肺疾患、例えば請求項4及び5に挙げられるいずれかの疾患の処置のために使用できる化合物を同定するために用いる使用。
【請求項9】
肺高血圧症及び/又は肺線維症の処置のために有用な化合物を同定及び獲得するための方法において、
PDE1Cインヒビターであると疑われる化合物、例えばPDE1阻害活性を有する化合物のPDE1Cの阻害活性及び/又は選択性を測定する工程、及び/又は
PDE1Cインヒビターであると疑われる化合物、例えばPDE1阻害活性を有する化合物を、肺高血圧症が誘発された非ヒト動物に投与する工程、及び
対照で処置された動物と比較して肺高血圧症の程度を測定する工程
を含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によって同定された化合物と製剤学的に認容性の助剤、希釈剤又は担体とを組み合わせることによって製造される組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の方法によって同定された化合物を、肺高血圧症及び/又は肺線維症の処置用の医薬組成物の製造のために用いる使用。

【公表番号】特表2008−543807(P2008−543807A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516300(P2008−516300)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063138
【国際公開番号】WO2006/134101
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(507229021)ニコメッド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (90)
【氏名又は名称原語表記】Nycomed GmbH
【住所又は居所原語表記】Byk−Gulden−Str. 2, D−78467 Konstanz, Germany
【Fターム(参考)】