説明

PSAの分析方法、及び前記分析方法を用いた前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法

前立腺癌と前立腺肥大症とを確実に鑑別することができるPSAの分析方法、及びPSAの分析キットを提供する。
本発明の課題は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することによって解決することができる。この方法により、前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法を提供することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSAの分析方法及びそれを用いた前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法、並びにPSAの分析キットに関する。本発明によれば、前立腺癌の癌細胞から分泌されるPSAに特異的に発現する糖鎖に結合するレクチンを用いることにより、前立腺癌と前立腺肥大症とを確実に鑑別することができる。特には、前立腺癌の癌細胞から分泌されるPSAに特異的に発現する糖鎖に結合するレクチン、及びシアリダーゼを用いることにより、前立腺癌と前立腺肥大症とを確実に鑑別することができる。
更に、本発明は、生体由来の試料中のフコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4の発現を分析することを特徴とする、前立腺癌の検出方法に関する。本発明によれば、前立腺癌と健常人又は前立腺肥大症とを鑑別することができる。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、主に60歳以上の男性に発病し、欧米諸国では、男性の癌において肺癌に次ぐ死亡原因となっている。前立腺癌の発生率は、1975年以降増加しているが、その理由の1つは、前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen:以下、PSAと称する)による診断方法の普及によるものである。このPSAの測定により、従来の直腸指診では困難であった早期の癌が発見されるようになった。
【0003】
PSAは、前立腺の腺細胞から前立腺の腺腔内に分泌されるタンパク質であり、前立腺に特異的に発現するタンパク質であるが、前立腺癌に特異的に発現するタンパク質ではない。従って、前立腺癌以外の前立腺肥大症及び前立腺炎などの疾患でも上昇することが知られている。
現在、広く使用されているPSA測定法は、α1−アンチキモトリプシンと結合した結合型PSA(以下、PSA−ACTと称することがある)及び遊離型PSA(以下、フリーPSAと称することがある)を測定するトータルPSAの測定法であり、トータルPSAの測定値が10ng/mL以上の場合、50%以上のヒトに前立腺癌が発見されるが、4〜10ng/mLのヒトで25%、2〜4ng/mLでも15%のヒトに前立腺癌の発生が見られる。特に、トータルPSA値が4〜10ng/mLの領域をグレーゾーンと呼んでいるが、前立腺肥大症の患者でも、このグレーゾーンのトータルPSA値を示す患者が多く、前立腺癌と前立腺肥大症の患者を鑑別することのできるPSAの分析方法の開発が期待されている。
【0004】
前記のグレーゾーンのトータルPSA値を示す患者において、前立腺肥大症と前立腺癌を鑑別するために、トータルPSAに対するフリーPSAの割合を測定することが行われている。前立腺癌患者では、トータルPSAに対するフリーPSAの割合が減少していることが報告されており、遊離型PSAのみを測定するフリーPSAの測定法によりフリーPSA値を測定し、トータルPSA値に対するフリーPSA値(以下、「フリーPSA/トータルPSA比」と称することがある)を求めると、この値が25%以下を示す場合、前立腺癌の可能性が高いといわれている。しかしながら、グレーゾーンの検体において、前記フリーPSA/トータルPSA比が0〜10%の範囲の場合、前立腺癌の可能性は56%であるが、10〜15%では28%、15〜20%では20%、20〜25%では16%であり、フリーPSA/トータルPSA比を用いても、前立腺癌と前立腺肥大症とを鑑別することは容易ではない。
【0005】
トータルPSAが10ng/mL以上の患者、及びトータルPSAが4〜10ng/mLのグレーゾーンで、且つフリーPSA/トータルPSA比が25%以下を示す患者の場合、前立腺癌の確定診断のため、前立腺の生検を行う。しかしながら、特に後者においては、前立腺癌が発見される割合は、30%程度であり、患者に過度の負担を強いており、この点からも、簡便に前立腺癌と前立腺肥大症とを鑑別する方法が開発されることが求められている。
【0006】
PSAは1本のアスパラギン結合型糖鎖(以下、N−グリカン鎖と称することがある)を持つ糖タンパク質であるが、前立腺癌患者のPSAは、高分岐化複合型糖鎖を持つことが知られており、また前立腺癌の患者に特異的な糖鎖を有しているのではないかと考えられていた。例えば、前立腺癌由来のLNCaP細胞から分泌されるPSAのN−グリカン鎖を、質量分析機で分析したところ、正常精漿中のPSAと比べてN−アセチルヘキソサミン(HexNAc)及びフコースの含量が多く、シアル酸を欠如していることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、このLNCaP細胞のPSAは、その糖鎖は、シアル酸を欠如していることなどから、生体内の前立腺癌患者の血清中のPSAの糖鎖と異なっており、特殊なPSAであると考えられた。
【0007】
また、大山らは前立腺患者血清中のPSAのN−グリカン鎖にシアル酸α(2,3)ガラクトース残基(Sialic acid alpha 2,3 Gal-R)を見出し、前立腺肥大症の患者と比較して、前立腺癌の患者のPSAで、このシアル酸α(2,3)ガラクトース残基が多いことを報告した(特許文献1及び非特許文献2)。そして、前記シアル酸α(2,3)ガラクトース残基に特異的に結合するイヌエンジュレクチン(M.amurensis agglutinin;以下、MAAと称する)と前立腺癌患者のPSAを結合させ、MAAと結合したフリーPSAの比率を測定することにより、前立腺癌と前立腺肥大症を鑑別することができることを見出した(特許文献1及び非特許文献2)。しかしながら、前記シアル酸α(2,3)ガラクトース残基は、PSA以外にα1−アンチキモトリプシンにも発現しており、従ってMAAは、α1−アンチキモトリプシンにも親和性があるため、α1−アンチキモトリプシンとPSAが結合している場合、すなわち、PSA−ACTではシアル酸α(2,3)ガラクトース残基を有するPSAとシアル酸α(2,3)ガラクトース残基を持たないPSAとを分離することができない。従って、トータルPSAの測定法では、前立腺癌患者と前立腺肥大症患者を鑑別することはできず、フリーPSAを測定する必要があった。
【0008】
更に、タジリらは、2人の前立腺癌患者の血清中のPSAのN−グリカン鎖を、正常の精漿中PSAのN−グリカン鎖と質量分析により比較検討し、前立腺癌の患者のPSAがシアル化及びフコース化されていることを報告している(非特許文献3)。しかしながら、前記シアル酸α(2,3)ガラクトース残基以外に、実際に前立腺癌患者のPSAと前立腺肥大症のPSAを鑑別することのできる糖鎖は、報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−55108号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「グライコバイオロジー(Glycobiology)」2003年(米国)第13巻、p.457〜470
【非特許文献2】「グライコバイオロジー(Glycobiology)」2004年(米国)第14巻、p.671〜679
【非特許文献3】「グライコバイオロジー(Glycobiology)」2008年(米国)第18巻、p.2〜8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、特願2009−023597(未公開)において、以下の発明を開示した。
本発明者らは、前記特許文献1に記載のレクチンであるMAAのカラムを用いて健常人のPSA及び前立腺癌患者のPSAとを分別し、MAAに親和性のあるPSAの測定を試みた。しかしながら、MAAカラムを用いてPSA分別した場合、シアル酸α(2,3)ガラクトース残基を有しない正常なPSAの回収率は70%であり、PSAが非特異的に結合しているものと考えられた。また、前立腺癌患者のPSAの回収率は40%であり、MAAに対する非特異的な結合に加えて、シアル酸α(2,3)ガラクトース残基を有するPSAが、MAAから溶出されないことも考えられた。従って、MAAカラムを用いた場合、シアル酸α(2,3)ガラクトース残基を有するPSAの量を正確に測定できないことがわかった。
レクチンは、現在市販されているものだけでも100種類以上あるが、本発明者らは、糖結合特異性の異なる複数の植物レクチンを組み合わせて、前立腺癌患者のPSAに発現している糖鎖の同定を進め、前立腺癌患者のPSAと前立腺肥大症のPSAとを鑑別することについて鋭意研究したところ、キカラスウリレクチン−II(Trichosanthes japonica Agglutinin-II;以下、TJA−IIと称することがある)又はノダフジレクチン(Wisteria floribunda;以下、WFAと称することがある)に親和性のあるPSAが、前立腺癌患者の血液中に存在していることを見出し、そして前記TJA−II又はWFAを用いることにより、前立腺癌患者のPSAと前立腺肥大症のPSAとを鑑別することができることを見出した。すなわち、前立腺癌患者のPSAの多くが、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及び/又はフコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)を有していることを見出した。
本発明者らは、更に前立腺癌患者のPSAに発現している糖鎖の研究を進め、シアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基のシアル酸も切断するシアリダーゼにより、前立腺癌患者PSAのシアル酸を除去することにより、TJA−II又はWFAと結合するPSAが増加し、更に、効率よく前立腺癌患者のPSAと前立腺肥大症のPSAとを鑑別することができることを見出した。すなわち、前立腺癌患者のPSAの多くが、シアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基(Siaα2→6GalNAcβ1→R)を有しており、シアリダーゼによりシアル酸を除去することにより、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)が露出し、TJA−II又はWFAと効率よく結合することを見出した。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本明細書は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法を開示する。
本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、(a)前記β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンとPSAを含む可能性のある試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記試料中のレクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階を含む。
本発明は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、
PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法にも関する。
本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階、(a)β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと前記シアリダーゼ処理試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階、を含む。
また、本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、前記レクチンに親和性のあるPSA量の判定が、分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、又は分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のないPSA量の測定による判定である。
また、本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、前記PSA量の測定が、トータルPSA又はフリーPSAの測定である。
また、本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、前記レクチンが、キカラスウリレクチン−II又はノダフジレクチンである。
また、本発明によるPSAの分析方法の別の好ましい態様においては、前記レクチンが、更にフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンである。
更に、本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、前記試料が、前立腺癌の疑いのある患者から得られた試料である。
更に、本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、前立腺癌の診断用である。
【0013】
本明細書は、フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、
PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法を開示する。
本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、(a)前記フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンとPSAを含む可能性のある試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階、を含む。
更に、本明細書は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法を開示する。
本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、(a)前記β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階、を含む。
更に、本発明は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法に関する。
本発明によるPSAの分析方法の好ましい態様においては、(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階、(a)β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、前記シアリダーゼ処理試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階、を含む。
【0014】
また、本発明は、前記PSAの分析方法により、試料中のレクチンに親和性のあるPSAの量を分析することを特徴とする、前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法にも関する。
また、本発明は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンを含む、PSAの分析キットにも関する。
本発明によるPSAの分析キットの好ましい態様においては、シアリダーゼを更に含む。
また、本発明によるPSAの分析キットの好ましい態様においては、抗PSA抗体を更に含む。
また、本発明によるPSAの分析キットの好ましい態様においては、前記レクチンが、キカラスウリレクチン−II又はノダフジレクチンである。
更に、本発明によるPSAの分析キットの別の好ましい態様においては、前記レクチンが、更にフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンである。
【0015】
本発明は、フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンを含む、PSAの分析キットに関する。
本発明によるPSAの分析キットの好ましい態様においては、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンを含む。
また、本発明によるPSAの分析キットの好ましい態様においては、シアリダーゼを更に含む。
【0016】
本発明は、生体由来の試料中のフコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4の発現を分析することを特徴とする、前立腺癌の検出方法に関する。
本発明による前立腺癌の検出方法の好ましい態様においては、フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4のmRNAの発現量を分析することを特徴とする。
本発明による前立腺癌の検出方法の好ましい態様においては、フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4に特異的に結合する抗体を用いることを特徴とする。
本発明はフコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4のmRNAの塩基配列に特異的なプライマーセット及び/又はプローブを含むことを特徴とする、前立腺癌の検出用キットに関する。
また、本発明はフコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4に特異的に結合する抗体又はその断片を含むことを特徴とする、前立腺癌の検出用キットに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のPSAの分析方法、及び前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法、並びにPSAの分析キットによれば、前立腺癌と前立腺肥大症とを確実に鑑別することができる。また、本発明に用いることのできるレクチンであるTJA−II及びWFA、並びにUEA−Iと結合したPSAは、ほぼ100%の回収率で回収することが可能であり、前立腺癌が分泌する前立腺癌由来のβ−N−アセチルガラクトサミン残基を有するPSAの量を正確に測定することが可能である。更に、TJA−II及びWFAカラム並びにUEA−Iカラムは再生することが可能であり、再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】精製したTJA−IIを電気泳動した写真である。Mは分子量マーカーを示し、レーン1は、還元したTJA−IIを、レーン2は非還元のTJA−IIを示している。
【図2】前立腺癌患者及び前立腺肥大症患者の、TJA−IIカラムによる分別前の血清試料のPSA量(A)とTJA−II結合画分中のPSA量(B)を示したグラフである。黒丸(●)が前立腺癌患者を、白丸(○)が前立腺肥大症患者を示している。
【図3】前立腺癌患者(PC:●)及び前立腺肥大症患者(BHP:○)のPSAの、TJA−II結合率を示したグラフである。
【図4】正常フリーPSA(A)及び前立腺癌患者の血清(B)をMAAカラムにより分画し、トータルPSAの測定を行った結果を示したグラフである。
【図5】前立腺癌患者及び前立腺肥大症患者の血清中のPSAのシアリダーゼ処理前(A)及びシアリダーゼ処理した後(B)の、TJA−IIへの結合率を示したグラフである。黒丸(●)が前立腺癌患者を、白丸(○)が前立腺肥大症患者を示している。
【図6】前立腺肥大症患者の血清中PSA(BPH serum PSA)と、前立腺癌患者の血清中PSA(PC serum PSA)の糖鎖を示した図である。
【図7】前立腺の正常組織及び癌組織におけるFUT1及びβ4GALNT4のmRNA発現を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1]PSAの分析方法
本発明のPSAの分析方法は、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする。より具体的には、本発明のPSAの分析方法の別の態様においては、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする。或いは、本発明のPSAの分析方法の別の態様においては、フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする。
【0020】
本発明に用いることのできるレクチンは、非還元末端に結合したβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)と親和性のあるレクチンを挙げることができる。この場合、非還元末端のβ−N−アセチルガラクトサミン残基は、β−N−アセチルガラクトサミンが、シアル酸や硫酸基で置換されていないことが必須である。前記β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンは、特に限定されるものではないが、TJA−II又はWFAを挙げることができる。
【0021】
また、本発明に用いることのできるレクチンとしては、フコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)と親和性のあるレクチンを挙げることができる。フコースα(1,2)ガラクトース残基は、α−フコースがガラクトースに1,2結合した構造を有する末端糖鎖である。フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性の或るレクチンとしては、特に限定されるものではないが、UEA−I又はTJA−IIを挙げることができる。
更に、本発明に用いることのできるレクチンとしては、非還元末端に結合したβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンを挙げることができる。前立腺癌患者のPSA中には、β−N−アセチルガラクトサミン残基、又はフコースα(1,2)ガラクトース残基を単独で発現したPSAが存在する可能性がある。また、前立腺癌患者によっては、そのPSAにβ−N−アセチルガラクトサミン残基、又はフコースα(1,2)ガラクトース残基のいずれかが、優位に発現している可能性も高い。従って、本発明のPSAの分析方法においては、非還元末端に結合したβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンを用いることが好ましい。前記非還元末端に結合したβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンとしては、特に限定されるものではないが、TJA−IIを挙げることができる。
【0022】
TJA−IIは、キカラスウリの塊根から抽出及び精製されるレクチンであり、非還元状態の電気泳動による分子量は64kDaであるが、S−S結合した2量体であり、還元状態の電気泳動による分子量は32kDa及び29kDaを示す。TJA−IIは、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)、及びフコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)に強い親和性を示す。
【0023】
WFAは、ノダフジの種子から抽出及び精製されるレクチンであり、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)そのものに強い親和性を示す。また、GalNAcβ1→4Gal残基、及びGalNAcβ1→4GlcNAc残基にも強い親和性を示す。
【0024】
UEA−I(Ulex europaeus agglutinin−1)は、ハリエニシダ(Ulex europaeus)から調製されるレクチンで、分子量は約26,700である。α−L−Fucに糖特異性を持っており、フコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→4GlcNAc→R)に強い親和性を示す。
【0025】
本発明のPSAの分析方法において、前記β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン、フコースα(1,2)ガラクトース残基に親和性のあるレクチン、並びにβ−N−アセチルガラクトサミン残基及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンは、1つ又は2つ以上組み合わせても使用することができる。
【0026】
本発明に用いるレクチンは、市販されているものを用いることもできるが、定法に従って精製することも可能である。植物体(例えば、葉、茎、花、根、又は種子など)を、細切、又は破砕し、緩衝液に溶解させる。遠心分離によって上清を回収し、硫安塩析、イオン交換カラムクロマトグラフィー、疎水性カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、透析、又は凍結乾燥等を用いて精製することができる。具体的には、TJA−IIの精製は、山下らの報告(Yamashita et al., J. Biol. Chem., 267, 25441-25422, 1992)に従って精製することが可能である。また、WFAは、豊島らの報告(Toyoshima et al., Biochemistry, 10, 4457-4463, 1971)に従って、精製することが可能である。また、UEA−Iは、Hindsgaulらの報告(Hindsgaul et al., Carbohydr. Res., 109, 109-142, 1982)に従って、精製することができる。
【0027】
本発明に用いることのできるシアリダーゼは、シアル酸のα(2→6)結合を切断することができるものであるならば、特に限定されることはない。前立腺癌患者のPSAにおいては、シアル酸はα(2→6)結合により、β−N−アセチルガラクトサミン残基に、結合している。従って、シアル酸のα(2→6)結合を切断することにより、β−N−アセチルガラクトサミン残基が露出し、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)と親和性のあるレクチンと結合することができる。
シアル酸の結合には、α(2→3)結合、α(2→6)結合、及びα(2→8)結合があるが、本発明に用いることのできるシアリダーゼは、α(2→6)結合のみを切断するものでもよく、α(2→6)結合を含むいくつかの結合を切断するものでもよい。例えば、アリスロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)由来のシアリダーゼは、α(2→3)結合、α(2→6)結合、及びα(2→8)結合を切断することができ、本発明のPSAの分析方法に用いることができる。
【0028】
シアリダーゼは、ノイラミニダーゼとも呼ばれ、哺乳動物もシアリダーゼを有しているが、細菌、ウイルス、及び原虫由来のシアリダーゼの研究が進んでいる。シアリダーゼとしては、アリスロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、インフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどの由来のシアリダーゼが知られているが、これらのうち、シアル酸のα(2→6)結合を切断することができるシアリダーゼとして、アリスロバクター・ウレアファシエンス、及びクロストリジウム・パーフリンゲンス由来のシアリダーゼを挙げることができる。
【0029】
本明細書に記載のPSAの分析方法は、前記レクチンとPSAを含む可能性のある試料とを接触させ、レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する限り、特に限定されるものではないが、(A)レクチンにより、レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別し、レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する分析方法(以下、分析方法(A)と称することがある)、及び(B)レクチンと、レクチンに親和性のあるPSAとが結合した状態でレクチンに親和性のあるPSAの量を判定する分析方法(以下、分析方法(B)と称することがある)を挙げることができる。本発明のPSA分析方法として、(sA)前記分析方法(A)において、試料として、PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料を用いる分析方法(以下、分析方法(sA)と称することがある)、及び(sB)前記分析方法(B)において、試料として、PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料を用いる、分析方法(以下、分析方法(sB)と称することがある)を挙げることができる。分析方法(sA)は分析方法(A)に、分析方法(sB)は分析方法(B)に、それぞれ含まれるものである。
【0030】
《分析方法(A)》
前記分析方法(A)は、
(a)本発明のレクチンとして例えばβ−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階(以下、「分別段階(a)」と称することがある)、及び
(b)前記試料中のレクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階(以下、「判定段階(b)」と称することがある)
を含む。
【0031】
《分析方法(sA)》
本発明の分析方法(sA)は、分析方法(A)に含まれるものであり、前記分析方法(A)における分別段階(a)の前に、(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階(以下、「シアリダーゼ処理段階(s)」と称することがある)を含むものである。
すなわち、前記分析方法(sA)は、(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階、(a)β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと前記シアリダーゼ処理試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階を含む。
【0032】
前記シアリダーゼ処理段階(s)においては、PSAを含む可能性のある試料を、希釈せずに、又は適当な緩衝液で希釈し、そしてその試料に、シアル酸のα(2→6)結合を切断することができるシアリダーゼを添加する。これによって、PSAからシアル酸を除去し、PSAのβ−N−アセチルガラクトサミン残基を露出させることができる。
試料を希釈する緩衝液は、シアリダーゼの活性を維持できるものであれば、限定されないが、例えば、前記レクチンカラムの平衡化に用いる0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有リン酸緩衝液、又は0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有トリス塩酸緩衝液などを利用することができる。
シアリダーゼの使用量は、特に限定されるものではなく、シアリダーゼの種類によって、適宜決定することができる。例えば、アリスロバクター・ウレアファシエンス由来のシアルダーゼを用いる場合、2〜1000mU、好ましくは10〜500mU、より好ましくは20〜100mUのシアリダーゼを用いることにより、PSAのシアル酸のα(2→6)結合を切断することができる。
シアリダーゼの処理(反応)時間は、特に限定されるものではなく、シアリダーゼの種類によって、適宜決定することができるが、10分〜24時間であり、好ましくは、15分〜2時間であり、より好ましくは、30分〜1時間である。また、反応温度も、特に限定されるものではなく、シアリダーゼの種類によって、適宜決定することができるが、好ましくは25℃〜40℃である。
【0033】
前記シアリダーゼ処理段階(s)において得られたシアリダーゼ処理試料は、そのまま、又は更に希釈して、分別段階(a)に用いることができ、それに続いて、前記判定段階(b)を行うことができる。
【0034】
前記分別段階(a)においてレクチンに親和性のあるPSAとレクチンに親和性のないPSAとを分別する方法は、レクチンとPSAの親和性を利用する方法であれば、特に限定されるものではないが、例えば、担体にレクチンを結合させ、担体に結合したレクチン(以下、「レクチンアフィニティーカラム」と称することがある)にPSAを含む可能性のある試料を接触させ、レクチンに結合したPSAとレクチンに結合しないPSAを分離することによって行うことができる。
【0035】
担体としては、レクチンを結合させることのできるものであれば、限定されるものではないが、例えば、セファロース、セルロース、アガロース、デキストラン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、スチレンとジビニルベンゼンのコポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン及びポリスチレン・コポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、コラーゲン、アルギン酸カルシウム、ラテックス、ポリスルホン、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、セラミックスを挙げることができる。担体の形状も特に限定されるものではないが、粒子状のビーズ、プレート、及びゲルなどの形状の担体を用いることができる。例えば、レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとの分別に、レクチンアフィニティーカラムを用いる場合は、担体はゲルの形状が好ましい。
【0036】
レクチンアフィニティーカラムは、定法に従って作製することが可能である。例えば、CNBr−活性化セファロース4Bを用い、メーカーの推奨するプロトコールに従って、カップリングを行い、レクチンカラムを作製することが可能である。セファロースゲルへのレクチンの結合量は、2mg/mL〜10mg/mLが好ましい。
【0037】
レクチンアフィニティーカラムを用いて、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する方法は、通常のレクチンアフィニティーカラムを用いた糖タンパク質の分離方法に従って行うことができる。
レクチンアフィニティーカラムは、PSAを含む可能性のある試料をアプライする前に、緩衝液で平衡化させる。平衡化緩衝液としては、例えば、0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有リン酸緩衝液、又は0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有トリス塩酸緩衝液を用いることができる。
カラムを平衡化した後に、PSAを含む可能性のある試料を添加し、一定時間静置し、レクチンとPSAとを接触させる。接触時間は、特に限定されるものではなく、レクチンの種類とPSAの親和性によって、適宜決定することができるが、結合の速度と効率を考慮すると、通常15分〜30分で行うことが多い。
レクチンとPSAとを接触させる温度も、特に限定されるものではなく、レクチンの種類とPSAとの親和性によって、適宜決定することができるが、0℃〜40℃で行うことが可能であり、好ましくは0℃〜30℃である。0℃未満では、カラムが凍結してしまうことがあり、40℃を超えるとレクチンに親和性のないタンパク質の非特異結合が起こることがある。例えば、TJA−IIとPSAを接触させる温度も特に限定されるものではないが、通常、4℃〜10℃で接触させるのが好ましい。また、WFAとPSAとを接触させる温度も特に限定されるものではないが、通常、4℃〜10℃で接触させるのが好ましい。
【0038】
次に、レクチンに親和性のある結合画分(以下、「結合画分」と称することがある)と、レクチンに親和性のない非結合画分(以下、「非結合画分」と称することがある)を分別する。
レクチンへの非結合画分は、洗浄用緩衝液をカラムに添加し、素通り画分を回収することによって得ることができる。洗浄用緩衝液は、レクチンとPSAの結合を解離させずに、非結合成分を流出させることのできる緩衝液であれば、限定されるものではないが、例えば、前記平衡化に用いた緩衝液を使用することができる。洗浄用緩衝液の容量は、レクチンの種類とPSAとの親和性に応じて、適宜決定することができるが、好ましくはカラム容量の3〜7倍であり、より好ましくは5倍程度である。
レクチンへの結合画分は、溶出用緩衝液をカラムに添加し、溶出画分を回収することによって得ることができる。溶出用緩衝液は、ハプテン糖を含んでおり、それによりレクチンに結合したPSAをレクチンから分離させることができる。ハプテン糖はレクチンの特異性によって適宜選択することが可能であるが、TJA−IIの場合は、ラクトースなどをハプテン糖として用いることができ、例えば10mMラクトース、0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有リン酸緩衝液を用いて、溶出画分を回収することができる。また、WFAの場合は、GalNAcなどをハプテン糖として用いることができ、例えば10mMGalNAc、0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有リン酸緩衝液を用いて、溶出画分を回収することができる。溶出用緩衝液の容量は、適宜選択することが可能であるが、好ましくはカラム容量の3〜7倍であり、より好ましくは5倍程度である。溶出の温度も特に限定されるものではないが、0℃〜40℃、好ましくは2〜25℃、より好ましくは4〜20℃で行うことができる。0℃未満では、カラムが凍結してしまうことがあり、40℃を超えるとレクチンに親和性のないタンパク質の非特異結合が起こることがある。例えば、TJA−IIからPSAを溶出させる温度は、特に限定されるものではないが、室温で溶出させるのが好ましい。また、WFAからPSAを溶出させる温度も、特に限定されるものではないが、室温で溶出させるのが好ましい。
【0039】
前記判定段階(b)における、レクチンに親和性のあるPSAの量の判定は、
(1)分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、
(2)分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、又は
(3)分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のないPSA量の測定による判定
を挙げることができる。
【0040】
前記分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定(1)は、前記レクチンへの結合画分中のPSA量を定量的又は半定量的に測定することによって行うことができる。すなわち、患者の血液中に含まれているレクチンに親和性のあるPSAの絶対量を測定することによって、判定を行うものである。
【0041】
前記分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定(2)は、分別前の試料中のPSA量(又は、前記レクチンへの結合画分及びレクチンへの非結合画分のPSA量の合計量)と前記レクチンへの結合画分中のPSA量とを比較することによって行うことができる。具体的には、分別前の試料中のPSA量(又は、前記レクチンへの結合画分及びレクチンへの非結合画分のPSA量の合計量)に対する、前記レクチンへの結合画分中のPSA量の割合を計算することによって、レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することが可能であり、例えば、以下のいずれかの式によって求めることができる。
PSAの結合率=(結合画分中のPSA量/結合画分及び非結合画分のPSAの合計量)×100%
PSAの結合率=(結合画分中のPSA量/分別前の試料中のPSA量)×100%
【0042】
また、分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のないPSA量の測定による判定(3)は、分別前の試料中のPSA量(又は、前記レクチンへの結合画分及びレクチンへの非結合画分のPSA量の合計量)と前記レクチンへの非結合画分中のPSA量とを比較することによって行うことができる。具体的には、分別前の試料中のPSA量(又は、前記レクチンへの結合画分及びレクチンへの非結合画分のPSA量の合計量)から、前記レクチンへの非結合画分中のPSA量を減算することによって、レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することが可能である。例えば、以下のいずれかの式によって求めることができる。
レクチン親和性PSA量=分別前の試料中のPSA量−非結合画分中のPSA量
レクチン親和性PSA量=結合画分及び非結合画分のPSAの合計量−非結合画分中のPSA量
【0043】
前記(1)及び(2)の判定では、レクチンに結合したPSAをレクチンから分離してその量を測定するが、前記(3)の判定のうち、分別前の試料中のPSA量と非結合画分中のPSA量とからの判定では、レクチンに結合したPSA量を測定しないため、レクチンに結合したPSAを分離せずに判定することもできる。
また、分取した結合画分及び非結合画分のPSA量は、すべての画分についてPSA量の測定を行うことが好ましいが、予めPSAが含まれる分取画分を調べておき、その画分について測定を行い、PSAの分析を行うことも可能である。
【0044】
前記判定段階(b)において、レクチンに親和性のあるPSA量を判定するためのPSAの測定方法としては、PSAを定量的又は半定量的に判定することのできる方法であれば、特に限定されるものではないが、トータルPSAの測定方法又はフリーPSAの測定方法を用いることができる。トータルPSAの測定方法又はフリーPSAの測定方法は、定法に従い、抗体又はその断片を用いる免疫学的手法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロット等)によって測定することができ、PSA測定キットとして市販されているものを使用することも可能である。
【0045】
トータルPSAの測定方法に免疫学的分析方法を用いる場合には、PSA−ACT及びフリーPSAの両方のPSAに結合することのできるモノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体を用いる。一方、フリーPSAの測定方法に免疫学的分析方法を用いる場合には、フリーPSAのみに結合することのできるモノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体を用いる。モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体は、免疫抗原としてPSA−ACT又はフリーPSAを用いること以外は、公知の方法によって作製することが可能であり、例えば、モノクローナル抗体は、KoehlerとMilsteinの方法(Nature 256 : 495-497, 1975)に従って、作製することができる。また、ポリクローナル抗体は、例えば、ウサギの皮内に、PSA−ACT又はフリーPSAを単独もしくはBSA、KLHなどと結合させた抗原として、単純あるいはフロイント完全アジュバント等のアジュバントと混合して定期的に免疫する。血中の抗体価が上昇した時点で採血し、そのまま抗血清として、又は抗体を公知の方法で精製して使用することができる。
【0046】
後述の実施例の解析により、本発明のPSAの分析方法に用いることのできるTJA−II又はWFAを用いたレクチンアフィニティーカラムは、試料中のPSAを約100%(少なくとも、97%以上)回収することが可能であることが分かった。これに対して、特許文献1に記載のMAAの場合は、溶出液として乳糖含有リン酸緩衝液を用いた回収率は30〜70%であり、溶出液を、0.1M酢酸液に変更しても、回収率は改善されなかった。
【0047】
《分析方法(B)》
前記分析方法(B)は、レクチンにより直接レクチンに親和性のあるPSAを検出する方法であるが、具体的には、電気泳動によるレクチンブロット、又はドットブロットによるレクチンブロットを挙げることができる。どちらのレクチンブロットも、定法に従って行うことができるが、電気泳動によるレクチンブロットの場合、PSAを含む可能性のある試料を電気泳動し、ニトロセルロース膜、PVDF膜にPSAを転写し、サンプルメンブレンとして用いる。ドットブロットによるレクチンブロットの場合、ドットブロッティング装置により、PSAを含む可能性のある試料をニトロセルロース膜、又はPVDF膜などに吸着させ、サンプルメンブレンとして用いる。サンプルメンブレンは、ブロッキングバッファーでブロッキングを行い、ビオチン標識したレクチン、例えばビオチン標識WFA又はビオチン標識TJA−IIを含む溶液中で接触させる。その後、発色酵素、又は発光酵素、例えばHRPで標識されたアビジンと接触させ、発色液又は発光液を接触させ、得られたシグナルを検出する。
【0048】
更に、レクチンにより直接レクチンに親和性のあるPSAを検出する方法(B)としては、イムノブロット及び酵素免疫法を一部変更して行うことができる。具体的には、前記PSAに対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を、ニトロセルロース膜など、又はELISAプレートなどに固相化し、ブロッキングバッファーでブロッキングを行う。PSAを含む可能性のある試料をニトロセルロース膜、又はELISAプレートなどに接触させ、次にビオチン標識したレクチン、例えばビオチン標識WFA又はビオチン標識TJA−IIを接触させる。その後、発色酵素、又は発光酵素、例えばHRPで標識されたアビジンを結合させ、発色液又は発光液によりシグナルを検出することができる。
【0049】
《分析方法(sB)》
本発明の分析方法(sB)は、分析方法(B)に含まれるものであり、前記電気泳動によるレクチンブロット、又はドットブロットによるレクチンブロットの前に、(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階(すなわち、シアリダーゼ処理段階(s))を含むものである。シアリダーゼ処理段階(s)は、前記分析方法(sA)に記載の段階と同じように行うことができ、得られたシアリダーゼ処理試料は、そのまま、又は更に希釈して、レクチンブロットに用いることができる。
【0050】
本発明のPSAの分析方法に用いる被検試料としては、PSAを含む生体試料若しくは生体由来試料か、又はPSAを含む可能性のある生体試料若しくは生体由来試料を挙げることができ、例えば、尿、血液、血清、血漿、髄液、唾液、細胞、組織、若しくは器官、又はそれらの調整物(例えば、生検標本、特には、前立腺の生検標本)等を挙げることができ、血液、血清、血漿、又は前立腺の生検標本が好ましく、特には血液、血清、又は血漿が好ましい。健常人及び前立腺肥大症患者の血液、血清、又は血漿中には、β−N−アセチルガラクトサミン残基及び/又はフコースα(1,2)ガラクトース残基を有するPSAは、ほとんど存在しておらず、前立腺癌患者においては、病期の初期から血液中に放出されるために、前立腺癌を検出するための被検試料として適当であるからである。
【0051】
前記尿、血液、血清、血漿、髄液、唾液などの液性の試料は、前記分析方法(A)又は分析方法(B)において、それぞれの分析方法に応じて適当な緩衝液により希釈して使用することができる。また、細胞、組織、又は器官などの固形の試料は、固形の試料の体積の2〜10倍程度の適当な緩衝液でホモジェナイズして、懸濁液又はその上清を、前記分析方法(A)又は分析方法(B)において、そのまま、又は更に希釈して使用することができる。
例えば、前記分析方法(A)において、レクチンアフィニティーカラムを用いる場合、前記液体試料、又は固形の試料の懸濁液若しくはその上清は、適当な緩衝液により希釈して用いることができる。希釈倍率は、レクチンとPSAとの結合が阻害されなければ、特に限定されないが、好ましくは2〜400倍であり、より好ましくは2〜300倍であり、最も好ましくは4〜200倍である。また、レクチンアフィニティーカラムにアプライする試料の容量は、カラムのベッドボリュームの40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が、最も好ましい。例えば1mLのベッドボリュームのレクチンアフィニティーカラムを用いる場合、400μL以下が好ましく、300μL以下がより好ましく、200μL以下が最も好ましい。
【0052】
[2]前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法
前記PSAの分析方法により、試料中のレクチンに親和性のあるPSAの量を分析することにより、前立腺癌と前立腺肥大症とを鑑別することができる。
前記PSAの分析方法により、レクチンに親和性のあるPSAの量を測定し、前立腺肥大症又は健常人から採取した血液等中のレクチンに親和性のあるPSAの量と比較することにより、前記患者が前立腺癌であるか否かを判定することができる。より具体的には、前立腺肥大症又は健常人の試料中に存在するレクチンに親和性のあるPSAと比べて、前記患者の試料中に存在するレクチンに親和性のあるPSAが有意に多い場合に前記患者は前立腺癌であると判定することができる。
前記分析方法(A)(分析方法(sA)を含む)においては、β−N−アセチルガラクトサミン残基及びフコースα(1,2)ガラクトース残基を認識するTJA−IIへの結合率と、β−N−アセチルガラクトサミン残基のみを認識するWFAへの結合率が異なっている。従って、使用するレクチンの測定値によって、前立腺癌と前立腺肥大症とを鑑別することのできるカットオフ値を、それぞれ決定することが好ましい。カットオフ値は、前立腺癌患者の100%を陽性と判定でき、前立腺肥大症患者の100%を陰性と判定できる値が最も好ましい。もし、分析した前立腺癌と前立腺肥大症の母集団が増加することによって、前立腺癌患者と前立腺肥大症患者との間の測定値が、オーバーラップした場合は、前立腺癌患者が100%陽性と判断される値をカットオフ値として選択することが好ましいが、オーバーラップした範囲の任意の値をカットオフ値とすることも可能である。具体的には、後述の実施例のTJA−II結合画分中のPSA量を測定した場合、前立腺癌患者の検出のためのカットオフ値は、前立腺癌患者のPSAを検出することのできる値であれば、限定されないが、例えば200pg/mLを超え、240pg/mL未満に設定することが可能であり、好ましくは、220pg/mLである。
また、後述の実施例のレクチンへのPSAの結合率は、下記の式で得ることのできる百分率から決定することができる。
PSAの結合率=(結合画分中のPSA量/分別前の試料中のPSA量)×100%
PSAの結合率のカットオフ値も、前立腺癌患者の100%を陽性と判定でき、前立腺肥大症患者の100%を陰性と判定できる値が最も好ましい。もし、分析した前立腺癌と前立腺肥大症の母集団の増加によって、前立腺癌患者と前立腺肥大症患者との間で、レクチンへのPSAの結合率が、オーバーラップする場合は、前立腺癌患者が100%陽性と判断される値が好ましいが、オーバーラップした範囲の任意の値をカットオフ値とすることも可能である。具体的には、後述の実施例のPSAのTJA−II結合率のカットオフ値は前立腺癌を検出することのできる値であれば、限定されないが、例えば1.8%を超え、3%未満に設定することが可能であり、好ましくは2.4%である。
【0053】
[3]前立腺癌の診断キット
本発明の診断キットは、β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンを含む。また、本発明の診断キットは、フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性のあるレクチンを含むこともできる。更に、本発明の診断キットは、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンを含むこともできる。本発明の診断キットに含まれるレクチンは、上記担体に結合させた状態のものも含まれる。
【0054】
本発明の診断キットは、前記β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン、フコースα(1,2)ガラクトース残基に親和性のあるレクチン、並びにβ−N−アセチルガラクトサミン残基及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンは、1つ又は2つ以上組み合わせて含むことができる。
【0055】
β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンとしては、特に限定されるものではないが、TJA−II及びWFAを挙げることができる。また、フコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性のあるレクチンとしては、特に限定されるものではないが、UEA−1及びTJA−IIを挙げることができる。更に、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンとしては、TJA−IIを挙げることができる。
【0056】
本発明の診断キットは、シアリダーゼを含むこともできる。シアル酸のα(2→6)結合を切断することができるシアリダーゼであれば、特に限定されるものではないが、アリスロバクター・ウレアファシエンス、及びクロストリジウム・パーフリンゲンス由来のシアリダーゼを挙げることができる。
【0057】
本発明の診断キットは、更に抗PSA抗体(例えば、PSA−ACT又はフリーPSAに特異的に結合する抗体)又はその断片を含むことができる。前記抗体としては、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれを用いることもできる。前記抗体断片としては、PSA−ACT又はフリーPSAへの特異的結合能を保持する限り、特に限定されるものではなく、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvを用いることができる。
【0058】
前記レクチン及び抗PSA抗体を含む、本発明の診断キットは、用いる免疫学的手法に応じて、所望の形態で前記抗PSA抗体、又はその断片を含むことができる。
例えば、標識化抗体を用いる免疫学的手法、例えば、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、又は放射免疫測定法などの場合には、標識物質で標識した標識化抗体又は標識化抗体断片の形態で含むことができる。標識物質の具体例としては、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、又はグルコースオキシダーゼ等を、蛍光物質としてフルオレセインイソチアネート又は希土類金属キレート等を、放射性同位体としてH、14C、又は125I等を、その他、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質等を挙げることができる。酵素又は化学発光物質等の場合には、それ自体単独では測定可能なシグナルをもたらすことはできないことから、それぞれ対応する適当な基質等を選択して含むことが好ましい。
【0059】
《作用》
グレーゾーンのPSA値(トータルPSA値が4〜10ng/mL)を示す患者においては、前記のように血清試料のフリーPSA/トータルPSA比(F/T値)の測定が行われている。表1に示すように、前立腺肥大症患者9例中7例において、F/T値が25%以下を示しており、これらの患者は、確定診断のための生検の対象となるが、実際には前立腺肥大症であり、患者にとって過度の負担となっている。
本発明に用いることのできるTJA−IIは糖鎖の非還元末端に存在するフコースα(1,2)ガラクトース残基及びβ−N−アセチルガラクトサミン残基を認識するレクチンである。WFAは糖鎖の非還元末端に存在するβ−N−アセチルガラクトサミン残基を認識するレクチンである。また、UEA−Iは糖鎖の非還元末端に存在するフコースα(1,2)ガラクトース残基を認識するレクチンである。本明細書によって、前立腺癌患者の体内にTJA−II、WFA又はUEA−Iと結合するPSAが存在することが示され、すなわち、図6に示すように、癌化に伴ってPSA糖鎖に、これらの糖鎖構造が出現することが、初めて示されたものである。
更に、後述の実施例3に示すように、前立腺癌患者の血清PSAを、シアル酸α(2,6)結合を切断することのできるシアリダーゼで処理することにより、TJA−IIと結合することのできるPSAの量が増加することを見出した。このことは、シアリダーゼ処理により、シアル酸α(2,6)結合が切断され、シアル酸が結合していたβ−N−アセチルガラクトサミン残基が露出することを示している。すなわち、図6に示すように、前立腺癌の患者の血清中に含まれるPSAが、シアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基(Siaα2→6GalNAcβ1→R)を、有していることを初めて見出したものである。
前記のように前立腺癌由来のLNCaP細胞のPSAは、非還元末端側にHexNAcβ1−HexNAc残基を持つことが報告されている(非特許文献1)。HexNAcには、β−N−アセチルガラクトサミン(GalNAcβ)及びβ−N−アセチルグルコサミン(GlcNAcβ)が含まれるが、質量分析では分子量が同一となり、区別することができない。また、非特許文献1に記載のLNCaP細胞から分泌されるPSAは、その糖鎖は、シアル酸を欠如していることなどから、前立腺癌患者の生体のPSAを反映していないと考えられていた。従って、本明細書において、TJA−IIカラム、WFAカラム及びUEA−Iカラムを用いることによって、前立腺癌患者の血清PSAにおける非還元末端β−N−アセチルガラクトサミン、及びフコースα(1,2)ガラクトース残基を初めて同定できたものである。
癌化に伴うPSA糖鎖構造の変化、すなわちフコースα(1,2)ガラクトース残基、β−N−アセチルガラクトサミン残基、シアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基の出現は、前立腺癌の発症によって、糖鎖の合成に関わる糖転移酵素活性量の変化が背景にあるものと考えられる。
【0060】
また、特許文献1及び非特許文献2に記載のように、前立腺癌における糖鎖の構造変化をNeuAcβ2−3Galβ1−4GlcNAcを特異的に認識するMAAで検出しようとする場合に、一定の割合の血中PSAは、血清α1−アンチキモトリプシンと結合したPSA−ACTの状態で存在している。MAAはα1−アンチキモトリプシンとも結合するため、PSAの糖鎖構造が異なっていても、α1−アンチキモトリプシンと結合したPSAは分別することができない。従って、MAAでPSAを分別した場合は、フリーPSAを測定する必要がある。
一方、本発明で用いることのできるTJA−IIはPSA糖鎖の非還元末端に存在するフコースα(1,2)ガラクトース残基又はβ−N−アセチルガラクトサミン残基を認識し、WFAはPSA糖鎖の非還元末端に存在するβ−N−アセチルガラクトサミン残基を認識するが、これらの糖鎖構造は血清α1−アンチキモトリプシン上には存在しないため、トータルPSA測定キットを用いて定量することが可能である。一般的にフリーPSA量はトータルPSA量の20%以下であり、本発明の分析方法においてはトータルPSA測定キットを用いることできるため、非特許文献2及び特許文献1に記載の発明と比較して感度の上で有利である。
【0061】
[4]糖転移酵素の分析による前立腺癌の検出方法
後述の実施例5に示すように、前立腺癌患者のPSAにおけるフコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)の増加には、フコース転移酵素、すなわちフコース転移酵素1(以下、FUT1と称することがある)の前立腺癌における発現の増加が強く関与している。また、前立腺癌患者のPSAにおけるβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)、及びシアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基(Siaα2→6GalNAcβ1→R)の増加は、β−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、すなわちβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4(以下、β4GALNT4と称することがある)の前立腺癌における発現の増加によるものであると考えられる。従って、前立腺癌患者由来の試料のFUT1及びβ4GALNT4から選択される少なくとも1つの糖転移酵素を分析することによって、前立腺癌患者と、正常人又は前立腺肥大症患者とを鑑別することが可能である。以下に、FUT1又はβ4GALNT4を、それぞれフコース転移酵素又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素の例として、本発明の前立腺癌の検出法について説明する。
【0062】
本発明の検出方法において、FUT1又はβ4GALNT4を分析する方法としては、FUT1又はβ4GALNT4を定量的又は半定量的に決定することができるか、あるいは、FUT1又はβ4GALNT4の存在の有無を判定することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば、FUT1又はβ4GALNT4のmRNA量を測定する分子生物学的分析方法(例えば、サザンブロット法、ノザンブロット法、及びPCR法等)、FUT1又はβ4GALNT4に対する抗体又はその断片を用いる免疫学的手法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法、免疫沈降法、免疫組織染色法、又はウエスタンブロット等)、又は生化学的手法(例えば、酵素学的測定法)などを挙げることができる。
【0063】
《分子生物学的分析方法》
FUT1又はβ4GALNT4の分子生物学的分析方法としては、試料中の遺伝子、例えばmRNA又はそれから得られたcDNAなどと、それらのヌクレオチドにハイブリダイズすることのできるプライマーやプローブとを用い、ハイブリダイズの原理を用いた方法で分析するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、サザンブロット法、ノザンブロット法、及びPCR法を挙げることができるが、特にはリアルタイムPCR法が正確で且つ簡便であり、好ましい。
【0064】
リアルタイムPCR法としては、フォワードプライマー及びリバースプライマーからなるプライマーセットを用い、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発する化合物であるインターカレーター、例えば、SYBR Green IをPCRの反応系に加えるインターカレーター法、並びに前記プライマーセットと、5’末端をレポーター色素で、3’末端をクエンチャー色素で修飾したプローブ(TaqManプローブ)とをPCRの反応系に加えるTaqMan法等を挙げることができる。このようなリアルタイムPCR法自体は周知であり、そのためのキット及び装置も市販されているので、前記プライマーセット、又はプライマーセット及びプローブを合成すれば、市販のキット及び装置を用いて容易に実施することができる。
【0065】
前記フォワードプライマー及びリバースプライマー、並びにプローブは、FUT1又はβ4GALNT4をコードするヌクレオチドの塩基配列に基づいて作成することができる。具体的には、FUT1のフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びにプローブは、配列番号1で表されるFUT1をコードするcDNAの塩基配列(GenBank accession no.NM_000148)から、適当な塩基配列を選択し、作製することができ、例えば、フォワードプライマーとして5’−AACGCCTCCTCTTCCTGTC−3’(配列番号3)を、リバースプライマーとして5’−TGGGGTAGACAGTCCAGGTG−3’(配列番号4)を挙げることができる。また、β4GALNT4のフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びにプローブは、配列番号2で表されるβ4GALNT4をコードするcDNAの塩基配列(GenBank accession no.NM_178537)から、適当な塩基配列を選択し、作製することができ、例えば、フォワードプライマーとして5’−ACTGGGAGCTCCTGGACA−3’(配列番号11)を、リバースプライマーとして5’−TGGTGATAGAAATTCCGCAGT−3’(配列番号12)を挙げることができる。
プライマーの長さは、特に限定する必要はないが、好ましくは、15mer〜35merであり、より好ましくは、16mer〜30merであり、最も好ましくは、19mer〜25merである。プローブの長さは、特に限定する必要はないが、好ましくは、12mer〜30merであり、より好ましくは、13mer〜29merであり、最も好ましくは、14mer〜18merである。
【0066】
前記PCR法、特にはリアルタイムPCR法は、
(1)生体由来の試料からmRNAを抽出する工程、
(2)抽出されたmRNAを鋳型として、逆転写酵素によりcDNAを合成する工程、
(3)プライマーセット、又はプライマーセット及びプローブを用いてDNAを増幅する工程、及び
(4)増幅されたDNAを検出する工程、
を含むことができる。
【0067】
前立腺癌が疑われる患者の生体由来の試料中におけるFUT1のmRNAの発現量を、測定し、健常者生体由来試料中のFUT1の発現量と比較することにより、前記患者が前立腺癌であるか否かを判定することができる。より具体的には、健常者のFUT1の発現量と比べて、前記患者のFUT1の発現量が有意に多い場合に前記患者は前立腺癌であると判定することができる。また、β4GALNT4についても、同様に健常者と比較することにより、前立腺癌の判定が可能である。
例えば、後述の実施例におけるリアルタイムPCRの場合、FUT1又はβ4GALNT4の健常者の平均値を求め、標準偏差(SD)を求める。癌患者の検出のためのカットオフ値は、前立腺癌を検出することのできる値であれば、限定されない。例えば、平均値を超える検体を陽性と判定することも可能であるし、平均値±SD、平均値±2SD、又は平均値±3SDをカットオフ値とすることもできる。
【0068】
《免疫学的分析方法》
FUT1の分析方法として、免疫学的分析方法を用いる場合には、FUT1に結合するモノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体を用いることができる。また、β4GALNT4の分析方法として、免疫学的分析方法を用いる場合には、β4GALNT4に結合するモノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体を用いることができる。
【0069】
モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体は、免疫抗原としてFUT1又はβ4GALNT4を用いること以外は、公知の方法によって作成することが可能であり、例えば、モノクローナル抗体は、KoehlerとMilsteinの方法(Nature 256:495−497,1975)に従って、作製することができる。また、ポリクローナル抗体は、例えば、ウサギの皮内に、FUT1又はβ4GALNT4のタンパク質を単独もしくはBSA、KLHなどと結合させた抗原として、単純あるいはフロイント完全アジュバント等のアジュバントと混合して定期的に免疫する。血中の抗体価が上昇した時点で採血し、そのまま抗血清として、又は抗体を公知の方法で精製して使用することができる。
【0070】
免疫学的分析方法として、酵素免疫測定方法、特にはサンドイッチ法を用いる場合には、以下のように行うことが可能である。例として、β4GALNT4に対する抗体を用いる場合について説明する。
まず、マイクロプレートやビーズなどの不溶性担体に、β4GALNT4に結合する抗体(捕捉抗体、又は一次抗体)を固相化する。次に、捕捉抗体や不溶性担体への非特異的な吸着を防ぐために、適当なブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミンやゼラチン等)で不溶性担体のブロッキングを行う。捕捉抗体が固相化されたプレートやビーズに、β4GALNT4が含まれる被検試料を一次反応液と一緒に加え、捕捉抗体とβ4GALNT4を接触させ、結合させる(一次反応工程)。この後、捕捉抗体に結合しなかった抗原や夾雑物を適当な洗浄液(例えば、界面活性剤を含むリン酸緩衝液)で洗浄する。次に、捕捉されたβ4GALNT4と結合する抗体と西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素とが結合した標識抗体(2次抗体)を添加し、捕捉された抗原に標識抗体を結合させる(二次反応工程)。この反応により、捕捉抗体−β4GALNT4−標識抗体の免疫複合体がマイクロプレート等の担体上に形成される。結合しなかった標識抗体を洗浄液で洗浄し、標識抗体の酵素に対する発色基質や発光基質を添加し、酵素と基質を反応させることによりシグナルを検出する。また、2次抗体を直接標識せずに、2次抗体に結合する抗体を標識しシグナルを検出することも可能である。
抗体を標識する酵素としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、及びルシフェラーゼなどを挙げることができる。また酵素以外にも、標識物質として、アクリジニウム誘導体などの発光物質、ユーロピウムなどの蛍光物質、I125などの放射性物質などを使用することができる。また、標識物質に合わせて基質や発光誘導物質を適宜選択することができる。更に、本発明における標識抗体は、検出マーカーとしてハプテンや低分子量のペプチド、レクチンなどの抗原抗体反応のシグナルの検出に利用できる物質を結合させた抗体も含むことができる。
【0071】
更に被検試料として前立腺の生検試料を用いる場合には、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた免疫組織染色法により、前立腺でのFUT1又はβ4GALNT4の発現を確認することにより、前立腺癌であるか否かを判定することができる。
【0072】
また、被検試料として血液等を用いる場合、前立腺癌の疑いのある患者から血液を採取し、全血のままか、あるいは血清又は血漿とし、その中のFUT1又はβ4GALNT4の量を測定し、健常者から採取した血液等中のFUT1又はβ4GALNT4の量と比較することにより、前記患者が前立腺癌であるか否かを判定することができる。より具体的には、健常者のFUT1又はβ4GALNT4の量と比べて、前記患者のFUT1又はβ4GALNT4の量が有意に多い場合に前記患者は前立腺癌であると判定することができる。
例えば、サンドイッチ法によるELISAの場合、FUT1又はβ4GALNT4の健常者の平均値を求め、標準偏差(SD)を求める。前立腺癌患者の検出のためのカットオフ値は、前立腺癌患者を検出することのできる値であれば、限定されない。例えば、平均値を超える検体を陽性と判定することも可能であるし、平均値±SD、平均値±2SD、又は平均値±3SDをカットオフ値とすることもできる。
【0073】
《生化学的分析方法》
FUT1又はβ4GALNT4の分析方法として、酵素学的測定法を用いる場合は、例えば、Larsenら〔Larsen RD, Ernst LK, Nair RP, Lowe JB. Proc. Natl Acad Sci USA, 87, 6674-6678 (1990)〕又はGotohら〔Gotoh M, Sato T, Kiyohara K, Kameyama A, Kikuchi N, Kwon YD, Ishizuka Y, Iwai T, Nakanishi H, Narimatsu H. FEBS Lett., 562, 134-140 (2004)〕の方法に従って、FUT1又はβ4GALNT4酵素活性を測定することにより、FUT1又はβ4GALNT4の量又は存在の有無を分析することが可能である。
【0074】
本発明の糖転移酵素の分析による前立腺癌の検出方法において、FUT1又はβ4GALNT4の分析に用いる被検試料としては、FUT1又はβ4GALNT4を含有する可能性のある生体試料又は生体由来試料を挙げることができ、例えば、尿、血液、血清、血漿、髄液、唾液等の体液試料、細胞、組織、若しくは器官、又はそれらの調整物(例えば、生検標本、特には、前立腺の生検標本)等を挙げることができ、血液、血清、血漿、又は前立腺の生検標本が好ましく、特には血液、血清、又は血漿(以下、血液等と称することがある)が好ましい。健常者又は前立腺肥大症患者の組織、血液、血清、又は血漿中には、FUT1又はβ4GALNT4は、ほとんど存在しておらず、前立腺癌を検出するための被検試料として適当であるからである。
【0075】
[5]糖転移酵素の分析による前立腺癌の検出キット
本発明の分子生物学的分析による前立腺癌の検出用キットは、FUT1又はβ4GALNT4をコードするヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするプライマーセット、又はプライマーセット及びプローブを含むことができる。本発明の検出用キットにおいてフォワードプライマー、リバースプライマー、及びプローブは、混合物として含まれてもよく、個別の試薬として含まれてもよい。また、本発明のキットは、プライマー及びプローブの他に、リアルタイムPCR法を行うのに必要な試薬及び/又は酵素を更に含むこともできる。更に、本発明のキットは、前立腺癌の検出又は測定用、前立腺癌と健常人又は前立腺肥大症との鑑別用であることを明記した使用説明書を含むことができる。また、これらの記載は、容器に付されていてもよい。
【0076】
本発明の免疫学的分析による前立腺癌の検出用キットは、用いる免疫学的手法に応じて、所望の形態でFUT1又はβ4GALNT4に特異的に結合する抗体、またはその断片を含むことができる。前記抗体としては、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれを用いることもできる。前記抗体断片としては、FUT1又はβ4GALNT4への特異的結合能を有する限り、特に限定されるものではなく、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、又はFvを用いることができる。
例えば、標識化抗体を用いる免疫学的手法、例えば、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、又は放射免疫測定法などの場合には、標識物質で標識した標識化抗体又は標識化抗体断片の形態で含むことができる。標識物質の具体例としては、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、又はグルコースオキシダーゼ等を、蛍光物質としてフルオレセインイソチアネート又は希土類金属キレート等を、放射性同位体としてH、14C、又は125I等を、その他、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質等を挙げることができる。酵素又は化学発光物質等の場合には、それ自体単独では測定可能なシグナルをもたらすことはできないことから、それぞれ対応する適当な基質等を選択して含むことが好ましい。
更に、本発明のキットは、前立腺癌の検出又は測定用、前立腺癌と健常人又は前立腺肥大症との鑑別用であることを明記した使用説明書を含むことができる。また、これらの記載は、容器に付されていてもよい。
【実施例】
【0077】
以下に実施例及び比較例を示し本発明の具体的な説明を行うが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0078】
《TJA−II精製例》
キカラスウリ(Trichosanthes japonica)の根塊20gより、既報(Yamashita et al., J. Biol. Chem., 267, 25441-25422, 1992)に従って、TJA−IIを精製した。具体的には、キカラスウリの塊根を細かく細断し、ワーリングブレンダーを用いて、0.15M NaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.4)16mLでホモジェナイズした。1000xgで30分遠心し、得られた上清の35〜55%飽和の硫安分画沈殿物を水に溶解し、蒸留水で透析した。凍結乾燥後、435mgの35〜55%飽和の硫安沈殿物を6mLのPBSに溶解し、PBSで平衡化したporcine stomach mucinセファロース4B(10mg/mLゲル)カラム10mLにアプライした。カラムを洗浄した後、0.1Mラクトースを含むPBSで溶出し、TJA−IIを得た。
【0079】
《カラム作製例》
精製したTJA−IIを用いて、セファロースカラムにカップリングさせ、TJA−IIカラム及びWFAカラムを作製した。具体的には、CNBr−Sepharose(GE healthcare社製)を用い、メーカーの推奨する添付のプロトコールに従い、ゲル容積1mLあたり3mgの密度でTJA−II結合させ、TJA−IIカラムを作製した。
また、WFA(EYラボラトリー社製)及びCNBr−Sepharose(GE healthcare社製)を用いて、同様にWFAカラムを作製した。
【0080】
《実施例1:TJA−IIを用いたPSAの分析》
本実施例では、前記カラム作製例において作製したTJA−IIカラムを用いて、前立腺癌と診断された15人の患者及び前立腺肥大症と診断されたトータルPSAが4.0ng/mL以上の9人の患者について、本発明のPSAの分析方法によりPSAの量を測定した。
4℃の条件下で、TJA−IIカラム(1mL容量)を0.1%牛血清アルブミン(BSA)含有リン酸緩衝液で平衡化した。血清試料1μL〜50μLをリン酸緩衝液で希釈し、200μLとして、カラムにアプライし、30分保持した。その後、5倍容量の洗浄用緩衝液(0.1%BSA含有リン酸緩衝液)でカラムを洗浄し、各1mLずつ分画してTJA−II非結合画分を得た。カラムを室温に戻した後、5倍容量の溶出緩衝液(10mMラクトース、0.1%BSA含有リン酸緩衝液)で、1mLずつ分画して溶出し、TJA−II結合画分を得た。TJA−IIカラムによる分別前の血清試料、TJA−II非結合画分、及びTJA−II結合画分について、トータルPSA量を、アクセスハイブリテックトータルPSA(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。TJA−IIカラムからのPSA回収率は常に97%〜100%であった。表1に分別前の血清試料のPSA量、TJA−II結合画分のPSA量、及びPSAのTJA−II結合率を示す。なお、TJA−II結合率は次の式により計算した。
TJA−II結合率=(TJA−II結合画分中のPSA量/TJA−II非結合画分及びTJA−II結合画分中のPSA量)×100%
また、分別前の血清試料のフリーPSAを、アクセスハイブリテックフリーPSA(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。前記トータルPSAの量及びフリーPSAの量から、フリーPSA/トータルPSA比を計算した。結果を表1、図2及び図3に示す。なお、癌患者の、年齢、病期(ステージ)、グリソンスコアは表2に示した。病期(ステージ)は、前立腺癌の進展度を示したものである。また、グリソンスコアは、前立腺癌の悪性度を、病理学上の分類によって5段階に分けたものである。「1」が最もおとなしい癌で、「5」が最も悪い癌を意味するが、前立腺癌の多くは、複数の、悪性度の異なる成分を有しているため、最も多い成分と次に多い成分を足し算してスコア化したものが、グリソンスコアである。例えば、最も多い成分が「3」で次に多い成分が「4」の場合、グリソンスコアは「3」+「4」=「7」となる。グリソンスコアが「6」以下は悪性度の低いもの、「7」は中程度の悪性度、「8」〜「10」は悪性度の高い癌と考えられている。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
図2及び図3に示すように、TJA−II結合画分中のPSA量、及びTJA−II結合率は、いずれも前立腺癌患者と前立腺肥大症患者との間で重複することなく、前立腺癌患者と前立腺肥大症患者を鑑別することができることを示している。暫定的に、TJA−II結合画分中のPSA量のカットオフ値を250pg/mL、TJA−II結合率のカットオフ値を2%とすると、100%の精度で前立腺肥大症患者と前立腺癌患者を区別することが可能である。異なる臨床ステージ、グリソンスコアにおいても、TJA−II結合率とTJA−II結合PSA量には有意な差が認められなかった。
【0084】
《実施例2》
本実施例では、前記カラム製造例で製造したWFAカラムを用いて、前立腺癌と診断された3人の患者について、本発明のPSAの分析方法によりPSAの量を測定した。
具体的には、TJA−IIカラムと溶出液(10mMラクトース、0.1%BSA含有リン酸緩衝液)に代えて、WFAカラムと溶出緩衝液(10mM GalNAc、0.1%BSA含有リン酸緩衝液)を用いたことを除いては、前記実施例1の操作を繰り返し、前立腺癌患者の3人の血清試料を分析し、WFA結合画分中のPSA量及びWFA結合率を得た。WFA結合率の結果を表3に示す。
なお、WFA結合率は次の式により計算した。
WFA結合率=(WFA結合画分中のPSA量/WFA非結合画分及びWFA結合画分中のPSA量)×100%
また、比較のためにTJA−II結合率を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
WFAカラムからのPSA回収率は、90%〜98%であった。また、WFAの結合率は、TJA−II結合率とほぼ相関しており、WFAはβ−N−アセチルガラクトサミン残基を有するPSAと結合して、前立腺癌患者のPSAを分別することが可能である。
但し、WFA結合率は、TJA−II結合率よりやや低く、84.0%〜93.8%である。このことは、前立腺癌患者の血液中には、TJA−IIのみに親和性のあるPSAが存在する可能性を示している。すなわち、β−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)を有さず、フコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)のみを有しているPSAが存在する可能性を示唆している。
【0087】
《実施例3》
本実施例では、前立腺癌の患者の血清をシアリダーゼ処理することにより、TJA−IIカラムと結合するPSAが、増加することを確認した。
まず、前立腺癌と診断された患者の血清及び前立腺肥大症と診断された患者の血清を、それぞれ20検体を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返し、それぞれのPSAのTJA−II結合率を調べた。結果を図5Aに示す。前立腺癌では、約2%以上のTJA−II結合率を示し、前立腺肥大症では、約2%未満のTJA−II結合率を示した。
次に、前立腺癌と診断された患者の血清及び前立腺肥大症と診断された患者の血清をそれぞれ5検体用いて、シアリダーゼ処理を行った。具体的には、血清試料1μL〜50μLを、0.1%BSA含有リン酸緩衝液で希釈し、200μLとした。得られた希釈試料に、アリスロバクター・ウレアファシエンス由来のシアリダーゼを50mU添加し、37℃で1時間反応させた。得られたシアリダーゼ処理試料を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返した。結果を図5Bに示す。
図5の矢印は、前立腺癌と診断された患者の5つの血清において、シアリダーゼ処理によって、PSAのTJA−II結合率が上昇したことを示している。一方、前立腺肥大症と診断された患者の血清では、PSAのTJA−II結合率の上昇は見られなかった。
【0088】
更に、サルモネラ・チフィムリウム由来のシアル酸α(2,3)特異的シアリダーゼを用いて、同様の操作を繰り返した。しかしながら、サルモネラ・チフィムリウム由来のシアリダーゼでは、前立腺癌と診断された患者の血清においても、PSAのTJA−II結合率は上昇しなかった。
これらの結果は、以下のことを示している。アリスロバクター・ウレアファシエンス由来のシアリダーゼは、主としてシアル酸α(2,6)及びシアル酸α(2,3)結合を切断する。一方、サルモネラ・チフィムリウム由来のシアリダーゼは、シアル酸α(2,3)結合を切断する。すなわち、前立腺癌患者の血清中のPSAのシアル酸は、シアル酸α(2,3)結合でなく、シアル酸α(2,6)結合により、β−N−アセチルガラクトサミン残基に結合しているものと考えられる(図6)。
【0089】
《実施例4》
本実施例では、前立腺肥大症の患者血清中のPSA、前立腺癌の患者血清中のPSA、及び精漿中のPSAについて、TJA−IIカラム、UEA−Iカラム、又はWFAカラムへのそれぞれのPSAの結合率を調べた。TJA−IIカラムへの結合率については、シアリダーゼ処理を行った検体と、シアリダーゼ処理を行わない検体について、結合率を調べた。
TJA−IIカラムへの結合率の測定は、実施例1に記載の方法に従った。WFAカラムへの結合率の測定は、実施例2に記載の操作に従った。シアリダーゼ処理を行った検体のTJA−IIカラムへの結合率の測定は、実施例3に記載の操作に従った。
また、UEA−Iカラムへの結合率の測定は、以下のように行った。ハリエニシダアグルチニンーI(Ulex europaeus agglutinin−1:UEA−I)の結合したアガロース(UEA−Iアガロース:Jオイルミルズ)を用いて、UEA−Iに結合するPSAの量を測定した。具体的には、TJA−IIカラムと溶出液(10mMラクトース、0.1%BSA含有リン酸緩衝液)に代えて、UEA−Iアガロースと溶出緩衝液(50mM fucose、0.1%BSA含有リン酸緩衝液)を用いたことを除いては、前記実施例1の操作を繰り返し、UEA−I結合率を測定した。結果を表4に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
前立腺肥大症の患者血清中のPSAは、TJA−IIカラム、UEA−Iカラム、又はWFAカラムにほとんど結合しない。一方、前立腺癌患者血清中のPSAは、TJA−IIカラムに16%のPSAが結合し、UEA−Iカラムに5%のPSAが結合し、WFAカラムに11%のPSAが結合する。これらのデータは、前立腺癌患者血清中のPSAは、非還元末端β−N−アセチルガラクトサミン、及びフコースα(1,2)ガラクトース残基を有していることを示している。
更に、前立腺癌患者血清中のPSAをアリスロバクター・ウレアファシエンス由来のシアリダーゼで処理することにより、TJA−IIカラムへの結合率が、11%から59%に上昇した。このデータは、前立腺癌患者血清中のPSAが、シアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基を有していることを示している。
【0092】
《比較例1》
本比較例では、特許文献1に記載のレクチンであるMAAを用いて、前立腺癌患者のPSAの分別及び測定を行った。
MAAの精製は、既報(Kawaguchi et al., J. Biol. Chem., 249, 2786-2792, 1974)の方法に従った。具体的には、イヌエンジュマメ(Maackia amurensis)の種子50gを数百mLのPBSでホモジナイザーにより細かくなるまでホモジナイズし、更に一晩攪拌後、9000rpm30分遠心分離にて沈殿物を除いた。この抽出液(210mL)の50〜80%の硫安分画画分をPBSに透析し、遠心操作で沈殿を除いた後、一部(30mL)をチログロブリンセファロース(19mg/mL、15mL)に添加し、PBSで洗浄後、0.1Mラクトース、0.075M NaCl含有0.15Mグリシン塩酸緩衝液(pH2.5)で溶出する。レクチン活性の高い部分をプールし濃縮後、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)に透析にて置換する。遠心操作で沈殿を除去後、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)で平衡化したSPセファデックスC−50(100mL)に添加し、非吸着画分を集め濃縮し、精製MAAを得た。
【0093】
精製したMAAを用いて、セファロースカラムを作製した。CNBr−Sepharose(GE healthcare社製)を用い、メーカーの推奨する添付のプロトコールに従い、ゲル容積1mLあたり3mgの密度でMAAを結合させ、MAAカラムを作製した。
【0094】
まず、MAAカラムのシアル酸α(2,3)ガラクトース残基との結合特性を確認するため、シアル酸α(2,3)ガラクトースを3残基有するオリゴ糖を用いて結合を確認した。4℃の条件下で、MAAカラム(1mL容量)を0.1%牛血清アルブミン(BSA)及び0.02%Tween含有リン酸緩衝液で平衡化した。シアル酸α(2,3)ガラクトースを3残基有する複合型3本鎖オリゴ糖を含む試料をカラムにアプライし、30分保持した。その後、5倍容量の洗浄用緩衝液(0.1%BSA、0.02%Tween含有リン酸緩衝液)でカラムを洗浄し、各1mLずつ分画してMAA非結合分画を得た。カラムを室温に戻した後、5倍容量の溶出緩衝液(400mMラクトース、0.1%BSA、0.02%Tween含有リン酸緩衝液)で、1mLずつ分画して溶出し、MAA結合画分を得た。前記シアル酸α(2,3)ガラクトースを3残基有するオリゴ糖は、カラムに結合せず、95%以上がMAA非結合分画に回収された。
【0095】
次に、このMAAカラムを用いて、前立腺癌患者のPSAのMAAカラムへの結合を調べた。4℃の条件下で、MAAカラム(1mL容量)を0.1%牛血清アルブミン(BSA)及び0.02%Tween含有リン酸緩衝液で平衡化した。血清試料10μLをリン酸緩衝液で希釈し、200μLとして、カラムにアプライし、30分保持した。その後、5倍容量の洗浄用緩衝液(0.1%BSA、0.02%Tween含有リン酸緩衝液)でカラムを洗浄し、各1mLずつ分画して5つのMAA非結合分画を得た。カラムを室温に戻した後、5倍容量の溶出緩衝液(400mMラクトース、0.1%BSA、0.02%Tween含有リン酸緩衝液)で、1mLずつ分画して溶出し、5つのMAA結合画分を得た。それぞれの画分について、トータルPSA量を、アクセスハイブリテックトータルPSA(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。対照として、精製した正常フリーPSA5ngを用いて、同じ操作を繰り返し、トータルPSA量を測定した。前立腺癌患者のPSAの結果を図4(B)に、正常フリーPSAの結果を図4(A)に示す。
【0096】
正常フリーPSAは、ほとんどが2番目のMAA非結合分画に検出された。しかしながら、すべての画分のPSAの量を合計した正常フリーPSA量は、MAAカラムにアプライした、5ngの正常フリーPSAに対して、3.5ngであり、回収率は70%であり、30%がカラムに結合したままであると考えられた。
一方、前立腺癌患者のPSAは、2番目のMAA非結合分画に検出される未吸着のPSA、3番目のMAA非結合分画の肩の部分に検出されるわずかに吸着するPSA、及び400mMラクトースで溶出される吸着PSAに分かれた。すべての画分のPSA量を合計すると4ng/mLであり、分別前の血清試料のPSA量である10ng/mLに対して、40%程度しか回収されなかった。この回収率は、溶出溶液として、0.1M酢酸溶液を用いても改善されなかった。更に、用いた前立腺癌患者のPSAは、フリーPSA/トータルPSA比が3.6であり、96.4%のPSAがα−アンチキモトリプシンと結合したPSA−ACTの状態で存在している。α−アンチキモトリプシンは、1分子あたりシアル酸α(2,3)ガラクトース残基を1残基有しているため、PSA−ACTは、MAAカラムと結合するはずであるが、多くのPSAが2番目のMAA非結合分画に検出される未吸着のPSA、及び3番目のMAA非結合分画の肩の部分に検出されるわずかに吸着するPSAとして検出された。
【0097】
すなわち、シアル酸α(2,3)ガラクトースを3残基有するオリゴ糖が、MAAカラムに結合しないこと、及びPSA−ACTのうち結合しないものが存在することは、MAAレクチンカラムに対するPSAの結合が弱いことを示している。しかしながら、PSAのMAAへの結合が弱いにもかかわらず、PSAの回収率は悪く、ハプテン糖による溶出が困難であり、MAAで再現性よく正確に測定することは、困難であると考えられた。
【0098】
《実施例5》
本実施例では、前立腺癌患者のPSAにβ−N−アセチルガラクトサミン残基を付加するβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素、フコース残基を付加するフコース転移酵素及びシアル酸を付加するシアル酸転移酵素を特定し、それらの転移酵素の前立腺癌組織における発現を確認した。
【0099】
まず、ヒト前立腺癌由来細胞及び正常ヒト前立腺組織における、フコース転移酵素1(FUT1)、及びフコース転移酵素2(FUT2)、β−N−アセチルガラクトサミン転移酵素2(β4GALNT2)、β−N−アセチルガラクトサミン転移酵素3(β4GALNT3)及びβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4(β4GALNT4)、並びにシアル酸転移酵素1(以下、ST6GAL1と称する)及びシアル酸転移酵素2(以下、ST6GAL2と称する)のmRNAの発現を、リアルタイムポリメレース重合反応(以下、リアルタイムPCRと称する)法によって調べた。ヒト前立腺癌由来細胞として、DU145(RCB2143;理研バイオリソースセンターから提供)及びPC−3(JCRB9110;ヘルスサイエンスリサーチリソースバンクより提供)を用いた。RNA later(Ambion社)を用いて保存した、正常前立腺組織、並びに前記DU145細胞及びPC−3細胞から、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いてトータルRNAを調整し、クロロホルム・イソプロピルアルコール抽出を行った。抽出したRNAは、エタノール沈殿の後、ジエチルカーボネート処理した蒸留水に溶解した。RNAは、Superscript III(インビトロジェン社)を用い、オリゴ(dT)プライマーで逆転写反応を行いcDNAを得た。リアルタイムPCRは、Power SYBR(登録商標)Green PCR master mix(ライフテクノロジー社)、及びそれぞれの糖転移酵素の遺伝子特異的なプライマーを用いて、Dice(登録商標) real time system(TP800,タカラ)により行った。
【0100】
用いたそれぞれの糖転移酵素のプライマーは、以下のとおりである。
FUT1:5’−AACGCCTCCTCTTCCTGTC−3’(配列番号3)、及び5’−TGGGGTAGACAGTCCAGGTG−3’(配列番号4)(GenBank accession no.NM_000148);
FUT2:5’−CCTCAACATCAAAGGCACTG−3’(配列番号5)、及び5’−GGCCTATTGCATTGATCGTC−3’(配列番号6)(GenBank accession no.NM_000511);
B4GALNT2:5’−GATTTTTCCAACCCCTGGAT−3(配列番号7)’、及び5’−GAAGTTGACCACGCCACTG−3’(配列番号8)(GenBank accession no.NM_153446);
B4GALNT3:5’−AGGTCACGCGAGTCTTCTTG−3’(配列番号9)、及び5’−ACAATGCGCTGTAGCTGGTA−3’(配列番号10)(GenBank accession no.NM_173593);
B4GALNT4:5’−ACTGGGAGCTCCTGGACA−3’(配列番号11)、及び5’−TGGTGATAGAAATTCCGCAGT−3’(配列番号12)(GenBank accession no.NM_178537);
ST6GAL1:5’−TCAGCGGGATCTCTGAAGTC−3’(配列番号13)、及び5’−AAACCTCAGGACTGCGTCA−3’(配列番号14)(GenBank accession no.NM_003033);
ST6GAL2:5’−TCCTTGGGCGAGGAAATAG−3’(配列番号15)、及び5’−CCCAACATCTTTCTCATAACCAC−3’(配列番号16)(GenBank accession no.NM_006927)。
内部標準のプライマーとして、GAPDH:5’−ATCCACATCGCTCAGACAC−3’(配列番号17)、及び5’−GCCCAATACGACCAAATCC−3’(配列番号18)(GenBank accession no.NM_002046)を用いてmRNAの発現の補正を行った。
リアルタイムPCRのプログラムは、95℃、10秒、60℃、40秒を40サイクル繰り返した。それぞれのプライマーセットにより単一のシャープなピークが得られ、特異的なPCR産物が増幅されており、プライマーダイマーも見られなかった。すべてのサンプルは、3重で試験された。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表5から明らかなように、FUT1及びβ4GALNT4は、正常組織と比較して、前立腺癌由来細胞におけるmRNAの発現は、顕著に高かった。また、FUT2、β4GALNT2、及びβ4GALNT3は、正常組織では内部標準のGAPDHと同じ程度であったが、前立腺癌由来細胞において、発現が高い細胞が見られた。一方、前立腺癌由来細胞におけるST6GAL1のmRNAのレベルは、正常組織とほとんど差が見られなかった。
【0103】
次に、FUT1及びβ4GALNT4のmRNAについて、前立腺の正常組織及び癌組織での発現を比較した。FUT1及びβ4GALNT4の前記のプライマー、並びに前立腺の正常組織2検体及び癌組織2検体を用い、前記のリアルタイムPCRの操作を繰り返した。結果を図7に示す。
FUT1及びβ4GALNT4のmRNAの発現は、正常組織と比較すると、癌組織において約7倍から20倍増加していた。これらの結果は、前立腺癌患者のPSAにおいて、β4GALNT4がβ−N−アセチルガラクトサミン残基(GalNAcβ1→R)及びシアル酸α(2,6)β−N−アセチルガラクトサミン残基(Siaα2→6GalNAcβ1→R)の増加に関与していること、並びにFUT1がフコースα(1,2)ガラクトース残基(Fucα1→2Galβ1→R)の増加に関与していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のPSAの分析方法及びPSAの分析キットは、前立腺癌と前立腺肥大症の患者を確実に鑑別することが可能である。従って、健康診断において、前立腺癌を早期に発見することができる。また、前立腺癌と前立腺肥大症とを確実に鑑別することができるため、確定診断のために行う前立腺の生検の対象者を減少させることができ、患者の負担を軽減させることができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと、
PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法。
【請求項2】
(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階、
(a)β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンと前記シアリダーゼ処理試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び
(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階
を含む、請求項1に記載のPSAの分析方法。
【請求項3】
前記レクチンに親和性のあるPSA量の判定が、
分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、
分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のあるPSA量の測定による判定、又は
分別前の試料中のPSA量の測定、及び分別されたレクチンに親和性のないPSA量の測定による判定
である請求項2に記載のPSAの分析方法。
【請求項4】
前記PSA量の測定が、トータルPSA又はフリーPSAの測定である、請求項3に記載のPSAの分析方法。
【請求項5】
前記レクチンが、キカラスウリレクチン−II又はノダフジレクチンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のPSAの分析方法。
【請求項6】
前記レクチンが、更にフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のPSAの分析方法。
【請求項7】
前記試料が、前立腺癌の疑いのある患者から得られた試料である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のPSAの分析方法。
【請求項8】
前立腺癌の診断用である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のPSAの分析方法。
【請求項9】
β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加することによって得られたシアリダーゼ処理試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法。
【請求項10】
(s)PSAを含む可能性のある試料にシアリダーゼを添加し、シアリダーゼ処理試料を得る段階、
(a)β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、前記シアリダーゼ処理試料とを接触させることにより、前記レクチンに親和性のあるPSAと前記レクチンに親和性のないPSAとを分別する段階、及び
(b)前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定する段階
を含む、請求項9に記載のPSAの分析方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のPSAの分析方法により、試料中のレクチンに親和性のあるPSAの量を分析することを特徴とする、前立腺癌と前立腺肥大症との鑑別方法。
【請求項12】
β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチンを含む、PSAの分析キット。
【請求項13】
シアリダーゼを更に含む、請求項12に記載のPSAの分析キット。
【請求項14】
抗PSA抗体を更に含む、請求項12又は13に記載のPSAの分析キット。
【請求項15】
前記レクチンが、キカラスウリレクチン−II又はノダフジレクチンである、請求項12〜14のいずれか一項に記載のPSAの分析キット。
【請求項16】
前記レクチンが、更にフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンである、請求項12〜15のいずれか一項に記載のPSAの分析キット。
【請求項17】
β−N−アセチルガラクトサミン残基に親和性のあるレクチン及びフコースα(1,2)ガラクトース残基と親和性を有するレクチンと、シアリダーゼとを含む、PSAの分析キット。
【請求項18】
生体由来の試料中のフコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4の発現を分析することを特徴とする、前立腺癌の検出方法。
【請求項19】
フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4のmRNAの発現量を分析する、請求項18に記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項20】
フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4に特異的に結合する抗体を用いることを特徴とする、請求項18に記載の前立腺癌の検出方法。
【請求項21】
フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4のmRNAの塩基配列に特異的なプライマーセット及び/又はプローブを含むことを特徴とする、前立腺癌の検出用キット。
【請求項22】
フコース転移酵素1又はβ−N−アセチルガラクトサミン転移酵素4に特異的に結合する抗体又はその断片を含むことを特徴とする、前立腺癌の検出用キット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公表番号】特表2013−509565(P2013−509565A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520609(P2012−520609)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/JP2010/054062
【国際公開番号】WO2011/052244
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】