RFID用アンテナおよびRFIDタグ
【課題】RFIDタグを複数の搬送波周波数で使用可能にするアンテナを提供する。
【解決手段】RFIDタグ1のアンテナ2にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。アンテナ2の長さは所望の1つの搬送波周波数の波長λの約半分(λ/2)となっている。アンテナ2には複数の孔5が形成され、これらの孔5を電流が迂回するによって、ICチップ4からアンテナ2の両端に至る電流径路が多様化される。また、アンテナ2の入力インピーダンスは、複数の孔5によって、複数の搬送波周波数において共振するように変化させることが可能となる。なお、孔5aの周回長はλ/10以下となっている。
【解決手段】RFIDタグ1のアンテナ2にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。アンテナ2の長さは所望の1つの搬送波周波数の波長λの約半分(λ/2)となっている。アンテナ2には複数の孔5が形成され、これらの孔5を電流が迂回するによって、ICチップ4からアンテナ2の両端に至る電流径路が多様化される。また、アンテナ2の入力インピーダンスは、複数の孔5によって、複数の搬送波周波数において共振するように変化させることが可能となる。なお、孔5aの周回長はλ/10以下となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグに使用するアンテナに関し、複数の共振周波数を有するとともに、ICチップの入力インピーダンスとの整合を取りやすいRFID用アンテナおよびRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency IDentification)は、電波・電磁波など、無線利用による非接触識別のことを指す。そして、RFIDの技術は、鉄道の定期券や電子マネー用のIDカード、あるいは物流において物の管理などの用途に用いられてきている。
RFIDにおいて使用される周波数は様々であるが、860MHz〜960MHzのUHF帯は、13.56MHz帯や2.45GHz帯に比べて通信距離を長くとれる可能性があるために、物流における物の管理への適用が試みられている。
ただし、860MHz〜960MHzのUHF帯における使用周波数は、欧州では868MHz〜870MHz(以降、868MHzという)、米国では902MHz〜928MHz(以降、915MHzという)、および日本では952MHz〜954MHz(以降、953MHzという)と、地域によって異なっている。
したがって、欧州、米国および日本におけるどの地域でも、共通に使用可能なUHF帯のRFIDタグの開発が課題となっている。
【0003】
RFID用アンテナの開発においては、アンテナの利得(絶対利得)を大きくすることと、アンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの共役整合(以降、インピーダンス共役整合という)を備えること、との2面における特性が、RFIDタグの性能向上(通信距離を長くすること)を決定する要因となる。
従来の一般的なRFIDタグにおいては、アンテナの長さは、半波長(λ/2:ただし、λは使用電波の波長)程度であり、RFIDタグに搭載されるICチップの入力インピーダンスに対して、アンテナの入力インピーダンスが共役整合を取れるように調整される。これによって、RFIDタグは、所望の1つの搬送波周波数付近で共振し、他の周波数帯における通信距離より遠くへ(UHF帯では3mから8m程度)の通信を可能としている。
【0004】
図9は、一般的なRFIDタグの基本構成を示す図である。RFIDタグ11は、アンテナ12と、そのアンテナ12の中央部付近に形成されたインピーダンス共役整合用のスリット13を跨いで搭載されたICチップ14とによって構成されている。アンテナ12はダイポールアンテナの形状となっていて、その長手方向の長さは、搬送波周波数の波長λの約半分(λ/2)程度の長さになっている。
【0005】
図10は、図9に示す一般的なRFIDタグ11における電流径路を示す図である。給電端子16には、不図示のICチップ14が接続されており、図10に示すように、アンテナ12の両端に向かう電流i7が、ほぼ直線状に最短距離をたどって流れる。このとき、アンテナ12の入力インピーダンスは、スリット13の形状を調整することによって、ICチップ14(図9参照)の入力インピーダンスとの共役整合を満足するように決められる。
これによって、RFIDタグ11は、波長がλの1つの搬送波周波数の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタ(不図示)との間で通信を確立することができる。
【0006】
図11は、市場に流通しているアンテナの長さを短縮したRFIDタグの概略的な構成図である。このRFIDタグ21のアンテナ22は、RFIDタグ21の物理的長さをλ/2より短くする(アンテナを小型化する)ために、ジグザク状のミアンダラインによって形成されている。なお、アンテナ22の中央部付近にインピーダンスマッチング用のスリット23を形成して、そのスリット23を跨いでICチップ24を搭載する構成は、図9に示す従来のRFIDタグ用のアンテナ12の場合と同様である。
【0007】
図11に示すようなアンテナ22の形状において、ICチップ24から流れ出した電流はミアンダラインを通ってその終端に至る。したがって、アンテナ22の電気的長さはミアンダラインのジグザグ部分の長さとなる。すなわち、RFIDタグ21は、その物理的長さをλ/2より短くしても、電流の流れる経路を長くすることによって小型化を可能にしている。
【0008】
また、特許文献1には、スロットアンテナに孔を1個開けることによって、電流が孔の周囲を流れるようにし、電流経路の距離を長くすることによって、共振周波数を調節する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−244231号公報(段落番号0016〜0025および図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記したように、RFIDタグ用に許可されている搬送周波数は、UHF帯では各地域の電波事情に応じて異なっている。したがって、ワールドワイドに展開される物流のトレーサビリティなどにおいては、地域ごとに使用する搬送波周波数が異なるために、1つの搬送波周波数付近で共振するRFIDタグを物流品に添付した場合、そのRFIDタグを読み取れない国が存在するという問題が生じる。
【0010】
また、特許文献1に開示されているアンテナや図11に示すミアンダラインを使用したアンテナでは、使用する所望の搬送波周波数の1ポイントでしかインピーダンス共役整合をとることができない。
【0011】
なお、RFIDタグに2〜3個の孔を開けて紐を通して、物品などに吊るして使用時の使い勝手をよくすることが行われている。そのように孔を開けられたアンテナは、共振周波数を変更して使用することを想定したものではないため、予め仕様に定められた1ポイントでの搬送波周波数でしか使用されていない。
【0012】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、アンテナの形状を工夫して、複数の搬送波周波数で所望の通信距離を確保するために、アンテナの利得とインピーダンス共役整合とを満足するRFID用アンテナおよびこのアンテナを有したRFIDタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明のアンテナは、ICチップに記録された情報を無線によってやり取りするRFIDタグに供するアンテナであって、所望の複数の搬送波周波数の波長に対応する長さの電流経路を複数有するように構成されている。
【0014】
また、複数の電流経路は、RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλとしたとき、そのλに応じた大きさの部位により形成される。ここで、その部位の一例として、アンテナに開けられた周回長がλ/10以下の孔がある。この場合の電流経路は、それらの孔を迂回するように形成される。また、部位の他の例として、アンテナの外周部に沿って形成された複数の突起や鋸歯がある。この場合の電流経路は、この突起や鋸歯の一部または全部を電流が通過するように形成される。そして、アンテナにこれらの部位、つまり複数の孔や突起や鋸歯を設けることによって、インピーダンス共役整合を実現する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の搬送波周波数に対応可能なRFIDタグを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以降、「実施形態」という)について、適宜図面を用いながら詳細に説明する。
【0017】
《第1実施形態》
前記したように、860MHz〜960MHzのUHF帯用のRFIDタグの搬送波周波数は、日本(953MHz)、欧州(868MHz)、米国(915MHz)でそれぞれの電波法規制などによって異なっている。そのため、航空貨物などで用いられる物流タグのように、それぞれの国で使用される各搬送波周波数で動作し、全世界共通で利用可能なRFIDタグの開発が課題となっている。しかし、現状のRFIDタグは、1つの搬送波周波数付近で共振させているため、その共振周波数を外れた周波数帯域では動作しないか、または通信距離が著しく短くなって所望の通信距離を満足できない。そこで、第1実施形態では、RFIDタグを複数の搬送波周波数で使用可能とするために、アンテナの利得とインピーダンス共役整合との両方を満足可能なアンテナの構成について、以下に説明する。
【0018】
図1は、第1実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。図1に示すように、第1実施形態のRFIDタグ1は、図9に示すアンテナ12に複数の孔開け加工を施すことによって実現される。つまり、第1実施形態のRFIDタグ1は、アンテナ2に形成した複数の孔5が電流経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。
【0019】
アンテナ2は、使用対象となる複数の搬送波周波数f1,f2,f3・・(ただし、f1>f2>f3・・)の中の最も高い周波数f1の波長λ1(ここで、λ1=c(光速)/f1)の約半分の長さ[(λ1)/2]で形成される。そのアンテナ2において、搬送波周波数f1に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f2,f3・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の孔5を迂回して流れるようにすることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f2,f3・・の波長λ2,λ3・・(ただし、λ1<λ2<λ3・・)の約半分の長さ[(λ2)/2,(λ3)/2・・]に対応している。
【0020】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載される。なお、スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0021】
また、アンテナ2には複数の孔5が4個以上形成される。この孔5は、ICチップ4が接続される給電端子6(図2参照)からの電流径路を多様化させるために形成されたものである。孔5の形状は、図1では正方形となっているが、矩形、三角形、円形などのような形状であっても構わない。
また、孔5の周回長は、使用する搬送波周波数の波長λの10分の1(λ/10)以下である。ただし、孔5の配列パターンは、特に規則性が無くてもよい。
なお、孔5の数や孔5の周回長は実験により検証した結果であり、その理由については後記する。
【0022】
図2は、図1に示す第1実施形態のRFIDタグ1におけるアンテナ2の電流経路の一例を示す図である。図2に示すように、給電端子6から流れ出した電流i1は、ほぼ直線状に最短距離をたどってアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i1の電流経路の長さはほぼ[(λ1)/2]となり、アンテナ2は波長がλ1の搬送波周波数f1の電波に共振して所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0023】
また、給電端子6から流れ出した電流i2は、アンテナ2に開けられた複数の孔5を迂回しながらアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i2の電流経路の長さは[(λ1)/2]より長くなる。したがって、アンテナ2は、波長λ1より長い波長λ2の搬送波周波数f2の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0024】
さらに、給電端子6から流れ出した電流i3は、アンテナ2に開けられた複数の孔5を電流i2の場合より多く迂回しながらアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i3の電流経路の長さは[(λ2)/2]よりさらに長くなる。したがって、アンテナ2は、波長がλ2よりさらに長い波長λ3の搬送波周波数f3の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0025】
すなわち、図1に示すRFIDタグ1は、電流経路がi1、i2、i3と多様に存在することに起因して、搬送波周波数がf1>f2>f3・・(波長がλ1<λ2<λ3・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。言い換えると、RFIDタグ1は、搬送波周波数f1からf3・・の広範囲な周波数帯域の電波に共振して、所望の距離の通信を確立することができる。
【0026】
次に、図1に示す形状のアンテナ2において、複数の搬送波周波数に対してインピーダンス共役整合を設定可能な理由について、図3を用いて、以下に説明する(適宜、図1,2参照)。図3は、回路設計に用いられるスミスチャート上にアンテナの入力インピーダンスとICチップのインピーダンスとを示した図である。
【0027】
図3において、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、円グラフにおける上側の半円周に沿って変化し、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周に沿って変化する。ここで、ωは角周波数を表す。また、円グラフの中心を通る水平線は純抵抗成分(R)を表し、その水平線の左端がインピーダンス=0、右端がインピーダンス=∞を表す。
ここで、図1に示すアンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)を、図3に示すスミスチャート上にプロットすると、最も太い実線で示されるように、ほぼ上側の半円周を描く。また、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、破線で示されるように、ほぼ下側の半円周を描くことになる。
【0028】
スミスチャートでは、下側の半円周の右端が低い周波数であり、下側の半円周の左端に行くにしたがって高い周波数を表す。したがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、周波数の上昇(下側の半円周の左方向に行く)にしたがって小さな値となる。例えば、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、実験によって調べた結果、図3に示す破線のように、下側の半円周を左側へ移動する。
【0029】
それに対して、スミスチャートでは、上側の半円周の左端が低い周波数であり、上側の半円周の右端に行くにしたがって高い周波数を表す。したがって、図1に示すアンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、実験によって調べた結果、最も太い実線で示すように、途中でループ状の過程を含む変化を有し、上側の半円周を右側へ移動する。
なお、図3には示していないが、図9に示すダイポールアンテナによって構成されたアンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、電流経路の長さが1つのパターンであるので、途中でループ状の過程を含まずに、周波数の増加とともに上側の半円周の左側から右側へ移動する。
【0030】
次に、図9に示すRFIDタグ11と図1に示すRFIDタグ1とを比較しつつ、インピーダンス共役整合について、図4(図3のスミスチャートの部分拡大図)を用いて詳細に説明する。
図4(a)は、インピーダンス整合が1箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図であり、(b)は、インピーダンス整合が3箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図である。
【0031】
図4(a)は、比較例として図9に示すRFIDタグ11の場合を示したものである。図4(a)に示すように、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周を右側から左側へ移動する。一方、アンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、搬送波周波数が868MHz,915MHz,963MHzと大きくなるにしたがって、上側の半円周を左側から右側へ移動する。そのため、ICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]とアンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とを共役整合させようとした場合、1箇所の搬送波周波数(図4(a)では、915MHzのとき)のみでしか共役整合させることができない。
【0032】
仮に、868MHz,915MHz,および953MHzの全ての搬送波周波数においてインピーダンス共役整合させるためには、アンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]との両方が、周波数にほとんど依存しないで一つの入力インピーダンスに止まるように(周波数に対して入力インピーダンスが変化しないように)調整されなければならない。このように、周波数に対して、アンテナ12およびICチップ14の両方の入力インピーダンスを変化しないよう一定に保つことは、非常に困難である。
【0033】
次に、図4(b)は、図1に示すRFIDタグ1の場合を示したものである。図4(b)に示すように、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周を右側から左側へ移動する。一方、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、電流の経路長や位相が変わるために、インダクタンスLの値が周波数に対して変化する。そのため、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
【0034】
この理由は、孔5の周回長を、使用する搬送波の最も高い周波数の波長λの10分の1(λ/10)以下とすることによって、この孔5を迂回する電子の流れと飛び越える電子の流れが生じ、電流の経路が変わることで給電点(ICチップとの接続点)部位における位相が変化するためと考えられる。そして、孔5の数を複数(4個以上)開けることによって、複数の搬送波周波数において、図4(b)に示すような、ループ状の過程を含む変化を生じさせることが可能となる。
このことによって、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、図4(b)に示すように、周波数が868MHz,915MHz,953MHzのポイントにおいては、順次減少する。
【0035】
その結果、アンテナ2の電流経路が変化する範囲においては、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]が周波数の増加に伴って減少する傾向と、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)が周波数の増加に伴って減少する傾向とを一致させることが可能となる。そのため、図4(b)に示すように、複数の周波数(868MHz,915MHz,953MHz)において、インピーダンス共役整合を実現させることが可能となる。
【0036】
このインピーダンス共役整合について、さらに、図5に示すように、周波数f−リアクタンス成分X座標に表して説明する。図5は、図3のスミスチャートに示したアンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの周波数に対する変化を周波数f−リアクタンス成分X座標に示した図である。
【0037】
図5では、横軸に周波数fを示し、縦軸にリアクタンス成分Xを示している。すなわち、図5の破線に示すように、ICチップ4の共役インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒−1/(jωC)]は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzとなるにしたがって、小さくなっている。
それに対して、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分Xは、図5の実線に示すように、波を打つように変化する。したがって、周波数が868MHz,915MHz,953MHzのときに、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とICチップ4の入力インピーダンスの共役リアクタンス成分[XC≒−1/(jωC)]とが同じ値となることが可能となる。すなわち、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzの各点において、インピーダンス共役整合が実現される。
【0038】
以上説明したように、図1に示すようなRFIDタグ1のアンテナ2を用いた場合は、複数の電流経路を形成することが可能となるので、共振する周波数帯域を広げることができる。また、孔5を開けることによって、周波数の増加に対してアンテナ2の入力インピーダンスを波を打つように変化させることが可能となるため、既存の任意のICチップの入力インピーダンスに対して、容易にインピーダンス共役整合を実現することが可能となった。その結果、図1に示すRFIDタグ1が添付された物流品が、使用する搬送波周波数の異なる国々へ流通しても、RFIDタグ1の情報をリーダ/ライタによって読み書きすることが可能となる。
【0039】
《第2実施形態》
次に、第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成について、図6を用いて説明する。図6は、第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
図6に示すように、第2実施形態のRFIDタグ1aは、図9に示すRFIDタグ11のアンテナ12の外周部を切り欠いて複数の突起5aを形成することによって実現される。そして、RFIDタグ1aは、アンテナ2aの外周部に形成した複数の突起5aが電流分布経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。
【0040】
アンテナ2aは、使用対象とする複数の搬送波周波数f1,f2,f3・・(ただし、f1>f2>f3・・)の中の最も高い周波数f1の波長λ1(ここで、λ1=c(光速)/f1)の約半分の長さ[(λ1)/2]で形成される。そのアンテナ2aにおいて、搬送波周波数f1に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f2,f3・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の突起5aを経由して流れるようにすることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f2,f3・・の波長λ2,λ3・・(ただし、λ1<λ2<λ3・・)の約半分の長さ[(λ2)/2,(λ3)/2・・]に対応している。
【0041】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。なお、スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0042】
また、アンテナ2aに形成された突起5aの形状は、図6では正方形となっているが、矩形、三角形、半円形などのような形状であっても構わない。また、突起5aが正方形となっている場合は、突起5aの突き出しの長さ(突起の長さ)をpとしたとき、2p<λ/10(ただし、λは使用する搬送波の最も高い周波数の波長)とする。また、突起5a同士の間隔は、第1実施形態に示したアンテナ2に開けられた孔5の場合と同様に、突起5a間を飛び越える電子の流れが生じる程度に離されることを必要とする。ただし、突起5a同士の間隔は、特に規則性が無くてもよい。
【0043】
このように、アンテナ2aを形成することによって、第2実施形態においても、図5に示すように、アンテナ2aのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
その結果、アンテナ2aの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzと増加するにしたがって減少する。
そして、ICチップ4の入力インピーダンスとアンテナ2aの入力インピーダンスとの共役整合は、第1実施形態の場合と同様に調整可能となる。
【0044】
すなわち、図6のようなアンテナ2aの形状を有したRFIDタグ1aにおいても、搬送波周波数がf1>f2>f3・・(波長がλ1<λ2<λ3・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。
【0045】
《第3実施形態》
次に、第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成について、図7を用いて説明する。図7は、第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
図7に示すように、第3実施形態のRFIDタグ1bは、図9に示すRFIDタグ11のアンテナ12の長手方向の一方の外周部を部分的に切り欠いて鋸歯5bを形成することによって実現される。そして、第3実施形態のRFIDタグ1bは、アンテナ2bの一方の外周部に形成した鋸歯5bが電流経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。なお、鋸歯5bは上述のとおり、長手方向の一方の外周部に形成されるのが好適だが、他の外周部に形成されていてもよい。
【0046】
アンテナ2bは、使用対象とする複数の搬送波周波数f4,f5,f6・・(ただし、f4<f5<f6・・)の中の最も低い周波数f4の波長λ4(ここで、λ4=c(光速)/f4)の約半分の長さ[(λ4)/2]で形成される。そのアンテナ2bにおいて、搬送波周波数f4に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f5,f6・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の鋸歯5bを遠端として流れることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f5,f6・・の波長λ5,λ6・・(ただし、λ4>λ5>λ6・・)の約半分の長さ[(λ5)/2,(λ6)/2・・]に対応している。
また、アンテナ2bに設けられた鋸歯5bの歯幅は不揃いであっても構わない。
【0047】
なお、鋸歯5bの切り込みの深さdは、d<λ/10(ただし、λは使用する搬送波の最も高い周波数の波長)とする。また、鋸歯5b同士の間隔は、第1実施形態で示したアンテナ2に開けられた孔5の場合と同様に、鋸歯5b間を飛び越える電子の流れが生じる程度に離されることを必要とする。ただし、鋸歯5b同士の間隔は、特に規則性が無くてもよい。
【0048】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0049】
図8は、図7に示す第3実施形態のRFIDタグ1bにおけるアンテナ2bの電流径路の一例を示す図である。図8に示すように、給電端子6から流れ出した電流i4は、アンテナ2bの最遠端に向かう。これによって、電流i4の電流経路の長さはほぼ[(λ4)/2]となり、アンテナ2bは波長がλ4の搬送波周波数f4の電波に共振して所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0050】
また、給電端子6から流れ出した電流i5は、アンテナ2bの最遠端より手前に設けられた鋸歯5bの歯端部に向かう。これによって、電流i5の電流経路の長さは[(λ4)/2]より短くなる。したがって、アンテナ2bは、波長λ4より短い波長λ5の搬送波周波数f5の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0051】
さらに、給電端子6から流れ出した電流i6は、電流i5の電流経路よりさらに短い距離にある鋸歯5bの歯端部に向かう。これによって、電流i6の電流経路の長さは[(λ5)/2]よりさらに短くなる。したがって、アンテナ2bは、波長がλ5よりさらに短い波長λ6の搬送波周波数f6の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0052】
次に、RFIDタグ1bにおけるインピーダンス共役整合について、以下に説明する。
第3実施形態においても、図5に示すように、アンテナ2bの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
その結果、アンテナ2bの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzと増加するにしたがって減少する。
そして、ICチップ4の入力インピーダンスとアンテナ2bの入力インピーダンスとの共役整合は、第1実施形態の場合と同様に調整される。
【0053】
すなわち、図7に示すRFIDタグ1bは、電流経路がi4、i5、i6と多様に存在することに起因して、搬送波周波数がf4<f5<f6・・(波長がλ4>λ5>λ6・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。言い換えると、RFIDタグ1bは、搬送波周波数f4からf6・・の複数の搬送波周波数に共振して通信を確立することができる。
【0054】
《第4実施形態》
前記した第1実施形態、第2実施形態、および第3実施形態では、インピーダンス共役整合を実現するために、それぞれ孔5、突起5a、および鋸歯5bを備えた場合について示した。そして、第4実施形態では、孔5、突起5aおよび鋸歯5bをそれぞれ組み合わせた場合について以下に説明する。
アンテナ1,1a,1bに設けられた孔5、突起5a、および鋸歯5bの効果は、いずれも、共通していて、電流経路を多様化させること、および図5に示すようにアンテナの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)を周波数に対して波打たせること、を可能としている。したがって、孔5、突起5a、および鋸歯5bを適宜組み合わせてアンテナ1,1a,1bを形成しても、複数の搬送波周波数によって共振させることが可能である。
【0055】
ただし、孔5の形状と数、突起5aの形状と数、および鋸歯5bの形状と数は、アンテナ1,1a,1bの入力インピーダンスを変化させる要因となるので、それぞれを好適に調整する必要がある。さらに、隣接する孔5や突起5aや鋸歯5bの間隔についても、アンテナ1,1a,1bの入力インピーダンスを変化させる要因となるので、それぞれを好適に調整する必要がある。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係るRFIDタグ1(1a,1b)のアンテナ2(2a,2b)の形状は、図1に示すような孔5が複数ある形状、図6に示すような突起5aが複数ある形状、図7に示すような鋸歯5bが複数ある形状、および孔5、突起5a、および鋸歯5bを組み合わせた形状(不図示)がある。
そして、本発明の各実施形態に係るRFIDタグは、それを1つ用いるだけで、世界各地域で許可されている搬送波周波数において対応可能となり、ワールドワイドに展開される物流のトレーサビリティを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図2】図1に示す第1実施形態のRFIDタグ1におけるアンテナ2の電流経路の一例を示す図である。
【図3】回路設計に用いられるスミスチャート上にアンテナの入力インピーダンスとICチップのインピーダンスとを示した図である。
【図4】(a)は、インピーダンス整合が1箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図であり、(b)は、インピーダンス整合が3箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図である。
【図5】図3のスミスチャートに示したアンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの周波数に対する変化を周波数f−リアクタンス成分X座標に示した図である。
【図6】第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図7】第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図8】図7に示す第3実施形態のRFIDタグ1bにおけるアンテナ2bの電流径路の一例を示す図である。
【図9】一般的なRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図10】図9に示す一般的なRFIDタグ11における電流径路を示す図である。
【図11】市場に流通しているアンテナの長さを短縮したRFIDタグの概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1、1a、1b RFIDタグ
2、2a、2b アンテナ
3 スリット
4 ICチップ
5a 孔
5b 突起
5c 鋸歯
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグに使用するアンテナに関し、複数の共振周波数を有するとともに、ICチップの入力インピーダンスとの整合を取りやすいRFID用アンテナおよびRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency IDentification)は、電波・電磁波など、無線利用による非接触識別のことを指す。そして、RFIDの技術は、鉄道の定期券や電子マネー用のIDカード、あるいは物流において物の管理などの用途に用いられてきている。
RFIDにおいて使用される周波数は様々であるが、860MHz〜960MHzのUHF帯は、13.56MHz帯や2.45GHz帯に比べて通信距離を長くとれる可能性があるために、物流における物の管理への適用が試みられている。
ただし、860MHz〜960MHzのUHF帯における使用周波数は、欧州では868MHz〜870MHz(以降、868MHzという)、米国では902MHz〜928MHz(以降、915MHzという)、および日本では952MHz〜954MHz(以降、953MHzという)と、地域によって異なっている。
したがって、欧州、米国および日本におけるどの地域でも、共通に使用可能なUHF帯のRFIDタグの開発が課題となっている。
【0003】
RFID用アンテナの開発においては、アンテナの利得(絶対利得)を大きくすることと、アンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの共役整合(以降、インピーダンス共役整合という)を備えること、との2面における特性が、RFIDタグの性能向上(通信距離を長くすること)を決定する要因となる。
従来の一般的なRFIDタグにおいては、アンテナの長さは、半波長(λ/2:ただし、λは使用電波の波長)程度であり、RFIDタグに搭載されるICチップの入力インピーダンスに対して、アンテナの入力インピーダンスが共役整合を取れるように調整される。これによって、RFIDタグは、所望の1つの搬送波周波数付近で共振し、他の周波数帯における通信距離より遠くへ(UHF帯では3mから8m程度)の通信を可能としている。
【0004】
図9は、一般的なRFIDタグの基本構成を示す図である。RFIDタグ11は、アンテナ12と、そのアンテナ12の中央部付近に形成されたインピーダンス共役整合用のスリット13を跨いで搭載されたICチップ14とによって構成されている。アンテナ12はダイポールアンテナの形状となっていて、その長手方向の長さは、搬送波周波数の波長λの約半分(λ/2)程度の長さになっている。
【0005】
図10は、図9に示す一般的なRFIDタグ11における電流径路を示す図である。給電端子16には、不図示のICチップ14が接続されており、図10に示すように、アンテナ12の両端に向かう電流i7が、ほぼ直線状に最短距離をたどって流れる。このとき、アンテナ12の入力インピーダンスは、スリット13の形状を調整することによって、ICチップ14(図9参照)の入力インピーダンスとの共役整合を満足するように決められる。
これによって、RFIDタグ11は、波長がλの1つの搬送波周波数の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタ(不図示)との間で通信を確立することができる。
【0006】
図11は、市場に流通しているアンテナの長さを短縮したRFIDタグの概略的な構成図である。このRFIDタグ21のアンテナ22は、RFIDタグ21の物理的長さをλ/2より短くする(アンテナを小型化する)ために、ジグザク状のミアンダラインによって形成されている。なお、アンテナ22の中央部付近にインピーダンスマッチング用のスリット23を形成して、そのスリット23を跨いでICチップ24を搭載する構成は、図9に示す従来のRFIDタグ用のアンテナ12の場合と同様である。
【0007】
図11に示すようなアンテナ22の形状において、ICチップ24から流れ出した電流はミアンダラインを通ってその終端に至る。したがって、アンテナ22の電気的長さはミアンダラインのジグザグ部分の長さとなる。すなわち、RFIDタグ21は、その物理的長さをλ/2より短くしても、電流の流れる経路を長くすることによって小型化を可能にしている。
【0008】
また、特許文献1には、スロットアンテナに孔を1個開けることによって、電流が孔の周囲を流れるようにし、電流経路の距離を長くすることによって、共振周波数を調節する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−244231号公報(段落番号0016〜0025および図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記したように、RFIDタグ用に許可されている搬送周波数は、UHF帯では各地域の電波事情に応じて異なっている。したがって、ワールドワイドに展開される物流のトレーサビリティなどにおいては、地域ごとに使用する搬送波周波数が異なるために、1つの搬送波周波数付近で共振するRFIDタグを物流品に添付した場合、そのRFIDタグを読み取れない国が存在するという問題が生じる。
【0010】
また、特許文献1に開示されているアンテナや図11に示すミアンダラインを使用したアンテナでは、使用する所望の搬送波周波数の1ポイントでしかインピーダンス共役整合をとることができない。
【0011】
なお、RFIDタグに2〜3個の孔を開けて紐を通して、物品などに吊るして使用時の使い勝手をよくすることが行われている。そのように孔を開けられたアンテナは、共振周波数を変更して使用することを想定したものではないため、予め仕様に定められた1ポイントでの搬送波周波数でしか使用されていない。
【0012】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、アンテナの形状を工夫して、複数の搬送波周波数で所望の通信距離を確保するために、アンテナの利得とインピーダンス共役整合とを満足するRFID用アンテナおよびこのアンテナを有したRFIDタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明のアンテナは、ICチップに記録された情報を無線によってやり取りするRFIDタグに供するアンテナであって、所望の複数の搬送波周波数の波長に対応する長さの電流経路を複数有するように構成されている。
【0014】
また、複数の電流経路は、RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλとしたとき、そのλに応じた大きさの部位により形成される。ここで、その部位の一例として、アンテナに開けられた周回長がλ/10以下の孔がある。この場合の電流経路は、それらの孔を迂回するように形成される。また、部位の他の例として、アンテナの外周部に沿って形成された複数の突起や鋸歯がある。この場合の電流経路は、この突起や鋸歯の一部または全部を電流が通過するように形成される。そして、アンテナにこれらの部位、つまり複数の孔や突起や鋸歯を設けることによって、インピーダンス共役整合を実現する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の搬送波周波数に対応可能なRFIDタグを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以降、「実施形態」という)について、適宜図面を用いながら詳細に説明する。
【0017】
《第1実施形態》
前記したように、860MHz〜960MHzのUHF帯用のRFIDタグの搬送波周波数は、日本(953MHz)、欧州(868MHz)、米国(915MHz)でそれぞれの電波法規制などによって異なっている。そのため、航空貨物などで用いられる物流タグのように、それぞれの国で使用される各搬送波周波数で動作し、全世界共通で利用可能なRFIDタグの開発が課題となっている。しかし、現状のRFIDタグは、1つの搬送波周波数付近で共振させているため、その共振周波数を外れた周波数帯域では動作しないか、または通信距離が著しく短くなって所望の通信距離を満足できない。そこで、第1実施形態では、RFIDタグを複数の搬送波周波数で使用可能とするために、アンテナの利得とインピーダンス共役整合との両方を満足可能なアンテナの構成について、以下に説明する。
【0018】
図1は、第1実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。図1に示すように、第1実施形態のRFIDタグ1は、図9に示すアンテナ12に複数の孔開け加工を施すことによって実現される。つまり、第1実施形態のRFIDタグ1は、アンテナ2に形成した複数の孔5が電流経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。
【0019】
アンテナ2は、使用対象となる複数の搬送波周波数f1,f2,f3・・(ただし、f1>f2>f3・・)の中の最も高い周波数f1の波長λ1(ここで、λ1=c(光速)/f1)の約半分の長さ[(λ1)/2]で形成される。そのアンテナ2において、搬送波周波数f1に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f2,f3・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の孔5を迂回して流れるようにすることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f2,f3・・の波長λ2,λ3・・(ただし、λ1<λ2<λ3・・)の約半分の長さ[(λ2)/2,(λ3)/2・・]に対応している。
【0020】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載される。なお、スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0021】
また、アンテナ2には複数の孔5が4個以上形成される。この孔5は、ICチップ4が接続される給電端子6(図2参照)からの電流径路を多様化させるために形成されたものである。孔5の形状は、図1では正方形となっているが、矩形、三角形、円形などのような形状であっても構わない。
また、孔5の周回長は、使用する搬送波周波数の波長λの10分の1(λ/10)以下である。ただし、孔5の配列パターンは、特に規則性が無くてもよい。
なお、孔5の数や孔5の周回長は実験により検証した結果であり、その理由については後記する。
【0022】
図2は、図1に示す第1実施形態のRFIDタグ1におけるアンテナ2の電流経路の一例を示す図である。図2に示すように、給電端子6から流れ出した電流i1は、ほぼ直線状に最短距離をたどってアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i1の電流経路の長さはほぼ[(λ1)/2]となり、アンテナ2は波長がλ1の搬送波周波数f1の電波に共振して所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0023】
また、給電端子6から流れ出した電流i2は、アンテナ2に開けられた複数の孔5を迂回しながらアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i2の電流経路の長さは[(λ1)/2]より長くなる。したがって、アンテナ2は、波長λ1より長い波長λ2の搬送波周波数f2の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0024】
さらに、給電端子6から流れ出した電流i3は、アンテナ2に開けられた複数の孔5を電流i2の場合より多く迂回しながらアンテナ2の両端に向かう。これによって、電流i3の電流経路の長さは[(λ2)/2]よりさらに長くなる。したがって、アンテナ2は、波長がλ2よりさらに長い波長λ3の搬送波周波数f3の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0025】
すなわち、図1に示すRFIDタグ1は、電流経路がi1、i2、i3と多様に存在することに起因して、搬送波周波数がf1>f2>f3・・(波長がλ1<λ2<λ3・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。言い換えると、RFIDタグ1は、搬送波周波数f1からf3・・の広範囲な周波数帯域の電波に共振して、所望の距離の通信を確立することができる。
【0026】
次に、図1に示す形状のアンテナ2において、複数の搬送波周波数に対してインピーダンス共役整合を設定可能な理由について、図3を用いて、以下に説明する(適宜、図1,2参照)。図3は、回路設計に用いられるスミスチャート上にアンテナの入力インピーダンスとICチップのインピーダンスとを示した図である。
【0027】
図3において、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、円グラフにおける上側の半円周に沿って変化し、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周に沿って変化する。ここで、ωは角周波数を表す。また、円グラフの中心を通る水平線は純抵抗成分(R)を表し、その水平線の左端がインピーダンス=0、右端がインピーダンス=∞を表す。
ここで、図1に示すアンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)を、図3に示すスミスチャート上にプロットすると、最も太い実線で示されるように、ほぼ上側の半円周を描く。また、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、破線で示されるように、ほぼ下側の半円周を描くことになる。
【0028】
スミスチャートでは、下側の半円周の右端が低い周波数であり、下側の半円周の左端に行くにしたがって高い周波数を表す。したがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、周波数の上昇(下側の半円周の左方向に行く)にしたがって小さな値となる。例えば、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、実験によって調べた結果、図3に示す破線のように、下側の半円周を左側へ移動する。
【0029】
それに対して、スミスチャートでは、上側の半円周の左端が低い周波数であり、上側の半円周の右端に行くにしたがって高い周波数を表す。したがって、図1に示すアンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、実験によって調べた結果、最も太い実線で示すように、途中でループ状の過程を含む変化を有し、上側の半円周を右側へ移動する。
なお、図3には示していないが、図9に示すダイポールアンテナによって構成されたアンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、電流経路の長さが1つのパターンであるので、途中でループ状の過程を含まずに、周波数の増加とともに上側の半円周の左側から右側へ移動する。
【0030】
次に、図9に示すRFIDタグ11と図1に示すRFIDタグ1とを比較しつつ、インピーダンス共役整合について、図4(図3のスミスチャートの部分拡大図)を用いて詳細に説明する。
図4(a)は、インピーダンス整合が1箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図であり、(b)は、インピーダンス整合が3箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図である。
【0031】
図4(a)は、比較例として図9に示すRFIDタグ11の場合を示したものである。図4(a)に示すように、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周を右側から左側へ移動する。一方、アンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、搬送波周波数が868MHz,915MHz,963MHzと大きくなるにしたがって、上側の半円周を左側から右側へ移動する。そのため、ICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]とアンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とを共役整合させようとした場合、1箇所の搬送波周波数(図4(a)では、915MHzのとき)のみでしか共役整合させることができない。
【0032】
仮に、868MHz,915MHz,および953MHzの全ての搬送波周波数においてインピーダンス共役整合させるためには、アンテナ12の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とICチップ14の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]との両方が、周波数にほとんど依存しないで一つの入力インピーダンスに止まるように(周波数に対して入力インピーダンスが変化しないように)調整されなければならない。このように、周波数に対して、アンテナ12およびICチップ14の両方の入力インピーダンスを変化しないよう一定に保つことは、非常に困難である。
【0033】
次に、図4(b)は、図1に示すRFIDタグ1の場合を示したものである。図4(b)に示すように、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzと大きくなるにしたがって、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]は、下側の半円周を右側から左側へ移動する。一方、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、電流の経路長や位相が変わるために、インダクタンスLの値が周波数に対して変化する。そのため、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
【0034】
この理由は、孔5の周回長を、使用する搬送波の最も高い周波数の波長λの10分の1(λ/10)以下とすることによって、この孔5を迂回する電子の流れと飛び越える電子の流れが生じ、電流の経路が変わることで給電点(ICチップとの接続点)部位における位相が変化するためと考えられる。そして、孔5の数を複数(4個以上)開けることによって、複数の搬送波周波数において、図4(b)に示すような、ループ状の過程を含む変化を生じさせることが可能となる。
このことによって、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、図4(b)に示すように、周波数が868MHz,915MHz,953MHzのポイントにおいては、順次減少する。
【0035】
その結果、アンテナ2の電流経路が変化する範囲においては、ICチップ4の入力インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒1/(jωC)]が周波数の増加に伴って減少する傾向と、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)が周波数の増加に伴って減少する傾向とを一致させることが可能となる。そのため、図4(b)に示すように、複数の周波数(868MHz,915MHz,953MHz)において、インピーダンス共役整合を実現させることが可能となる。
【0036】
このインピーダンス共役整合について、さらに、図5に示すように、周波数f−リアクタンス成分X座標に表して説明する。図5は、図3のスミスチャートに示したアンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの周波数に対する変化を周波数f−リアクタンス成分X座標に示した図である。
【0037】
図5では、横軸に周波数fを示し、縦軸にリアクタンス成分Xを示している。すなわち、図5の破線に示すように、ICチップ4の共役インピーダンスのリアクタンス成分[XC≒−1/(jωC)]は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzとなるにしたがって、小さくなっている。
それに対して、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分Xは、図5の実線に示すように、波を打つように変化する。したがって、周波数が868MHz,915MHz,953MHzのときに、アンテナ2の入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)とICチップ4の入力インピーダンスの共役リアクタンス成分[XC≒−1/(jωC)]とが同じ値となることが可能となる。すなわち、搬送波周波数が868MHz,915MHz,953MHzの各点において、インピーダンス共役整合が実現される。
【0038】
以上説明したように、図1に示すようなRFIDタグ1のアンテナ2を用いた場合は、複数の電流経路を形成することが可能となるので、共振する周波数帯域を広げることができる。また、孔5を開けることによって、周波数の増加に対してアンテナ2の入力インピーダンスを波を打つように変化させることが可能となるため、既存の任意のICチップの入力インピーダンスに対して、容易にインピーダンス共役整合を実現することが可能となった。その結果、図1に示すRFIDタグ1が添付された物流品が、使用する搬送波周波数の異なる国々へ流通しても、RFIDタグ1の情報をリーダ/ライタによって読み書きすることが可能となる。
【0039】
《第2実施形態》
次に、第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成について、図6を用いて説明する。図6は、第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
図6に示すように、第2実施形態のRFIDタグ1aは、図9に示すRFIDタグ11のアンテナ12の外周部を切り欠いて複数の突起5aを形成することによって実現される。そして、RFIDタグ1aは、アンテナ2aの外周部に形成した複数の突起5aが電流分布経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。
【0040】
アンテナ2aは、使用対象とする複数の搬送波周波数f1,f2,f3・・(ただし、f1>f2>f3・・)の中の最も高い周波数f1の波長λ1(ここで、λ1=c(光速)/f1)の約半分の長さ[(λ1)/2]で形成される。そのアンテナ2aにおいて、搬送波周波数f1に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f2,f3・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の突起5aを経由して流れるようにすることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f2,f3・・の波長λ2,λ3・・(ただし、λ1<λ2<λ3・・)の約半分の長さ[(λ2)/2,(λ3)/2・・]に対応している。
【0041】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。なお、スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0042】
また、アンテナ2aに形成された突起5aの形状は、図6では正方形となっているが、矩形、三角形、半円形などのような形状であっても構わない。また、突起5aが正方形となっている場合は、突起5aの突き出しの長さ(突起の長さ)をpとしたとき、2p<λ/10(ただし、λは使用する搬送波の最も高い周波数の波長)とする。また、突起5a同士の間隔は、第1実施形態に示したアンテナ2に開けられた孔5の場合と同様に、突起5a間を飛び越える電子の流れが生じる程度に離されることを必要とする。ただし、突起5a同士の間隔は、特に規則性が無くてもよい。
【0043】
このように、アンテナ2aを形成することによって、第2実施形態においても、図5に示すように、アンテナ2aのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
その結果、アンテナ2aの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzと増加するにしたがって減少する。
そして、ICチップ4の入力インピーダンスとアンテナ2aの入力インピーダンスとの共役整合は、第1実施形態の場合と同様に調整可能となる。
【0044】
すなわち、図6のようなアンテナ2aの形状を有したRFIDタグ1aにおいても、搬送波周波数がf1>f2>f3・・(波長がλ1<λ2<λ3・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。
【0045】
《第3実施形態》
次に、第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成について、図7を用いて説明する。図7は、第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
図7に示すように、第3実施形態のRFIDタグ1bは、図9に示すRFIDタグ11のアンテナ12の長手方向の一方の外周部を部分的に切り欠いて鋸歯5bを形成することによって実現される。そして、第3実施形態のRFIDタグ1bは、アンテナ2bの一方の外周部に形成した鋸歯5bが電流経路を多様化させるため、複数の搬送波周波数での使用を可能にする。なお、鋸歯5bは上述のとおり、長手方向の一方の外周部に形成されるのが好適だが、他の外周部に形成されていてもよい。
【0046】
アンテナ2bは、使用対象とする複数の搬送波周波数f4,f5,f6・・(ただし、f4<f5<f6・・)の中の最も低い周波数f4の波長λ4(ここで、λ4=c(光速)/f4)の約半分の長さ[(λ4)/2]で形成される。そのアンテナ2bにおいて、搬送波周波数f4に対する電流経路は、金属面の両端間を直線的に流れることによって形成される。搬送波周波数f5,f6・・の各周波数に対する電流経路は、金属面に設けられた任意の鋸歯5bを遠端として流れることによって形成される。すなわち、それらの電流経路は、搬送波周波数f5,f6・・の波長λ5,λ6・・(ただし、λ4>λ5>λ6・・)の約半分の長さ[(λ5)/2,(λ6)/2・・]に対応している。
また、アンテナ2bに設けられた鋸歯5bの歯幅は不揃いであっても構わない。
【0047】
なお、鋸歯5bの切り込みの深さdは、d<λ/10(ただし、λは使用する搬送波の最も高い周波数の波長)とする。また、鋸歯5b同士の間隔は、第1実施形態で示したアンテナ2に開けられた孔5の場合と同様に、鋸歯5b間を飛び越える電子の流れが生じる程度に離されることを必要とする。ただし、鋸歯5b同士の間隔は、特に規則性が無くてもよい。
【0048】
スリット3は、インピーダンス共役整合を行うために形成されたものである。そして、その中央部付近にはスリット3を跨いでICチップ4が搭載されている。スリット3は、T字型でもL字型でも良い。
【0049】
図8は、図7に示す第3実施形態のRFIDタグ1bにおけるアンテナ2bの電流径路の一例を示す図である。図8に示すように、給電端子6から流れ出した電流i4は、アンテナ2bの最遠端に向かう。これによって、電流i4の電流経路の長さはほぼ[(λ4)/2]となり、アンテナ2bは波長がλ4の搬送波周波数f4の電波に共振して所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0050】
また、給電端子6から流れ出した電流i5は、アンテナ2bの最遠端より手前に設けられた鋸歯5bの歯端部に向かう。これによって、電流i5の電流経路の長さは[(λ4)/2]より短くなる。したがって、アンテナ2bは、波長λ4より短い波長λ5の搬送波周波数f5の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0051】
さらに、給電端子6から流れ出した電流i6は、電流i5の電流経路よりさらに短い距離にある鋸歯5bの歯端部に向かう。これによって、電流i6の電流経路の長さは[(λ5)/2]よりさらに短くなる。したがって、アンテナ2bは、波長がλ5よりさらに短い波長λ6の搬送波周波数f6の電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立する。このとき、インピーダンス共役整合がとられている。なお、このインピーダンス共役整合については後記する。
【0052】
次に、RFIDタグ1bにおけるインピーダンス共役整合について、以下に説明する。
第3実施形態においても、図5に示すように、アンテナ2bの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数の増加に対して単純に増加するのではなく、所望の周波数付近では周波数の上昇に対して減少するように振舞う。
その結果、アンテナ2bの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)は、周波数が868MHz,915MHz,953MHzと増加するにしたがって減少する。
そして、ICチップ4の入力インピーダンスとアンテナ2bの入力インピーダンスとの共役整合は、第1実施形態の場合と同様に調整される。
【0053】
すなわち、図7に示すRFIDタグ1bは、電流経路がi4、i5、i6と多様に存在することに起因して、搬送波周波数がf4<f5<f6・・(波長がλ4>λ5>λ6・・)のそれぞれの電波に共振して、所望の距離にあるリーダ/ライタとの間で通信を確立することができる。言い換えると、RFIDタグ1bは、搬送波周波数f4からf6・・の複数の搬送波周波数に共振して通信を確立することができる。
【0054】
《第4実施形態》
前記した第1実施形態、第2実施形態、および第3実施形態では、インピーダンス共役整合を実現するために、それぞれ孔5、突起5a、および鋸歯5bを備えた場合について示した。そして、第4実施形態では、孔5、突起5aおよび鋸歯5bをそれぞれ組み合わせた場合について以下に説明する。
アンテナ1,1a,1bに設けられた孔5、突起5a、および鋸歯5bの効果は、いずれも、共通していて、電流経路を多様化させること、および図5に示すようにアンテナの入力インピーダンスのリアクタンス成分(XL≒jωL)を周波数に対して波打たせること、を可能としている。したがって、孔5、突起5a、および鋸歯5bを適宜組み合わせてアンテナ1,1a,1bを形成しても、複数の搬送波周波数によって共振させることが可能である。
【0055】
ただし、孔5の形状と数、突起5aの形状と数、および鋸歯5bの形状と数は、アンテナ1,1a,1bの入力インピーダンスを変化させる要因となるので、それぞれを好適に調整する必要がある。さらに、隣接する孔5や突起5aや鋸歯5bの間隔についても、アンテナ1,1a,1bの入力インピーダンスを変化させる要因となるので、それぞれを好適に調整する必要がある。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係るRFIDタグ1(1a,1b)のアンテナ2(2a,2b)の形状は、図1に示すような孔5が複数ある形状、図6に示すような突起5aが複数ある形状、図7に示すような鋸歯5bが複数ある形状、および孔5、突起5a、および鋸歯5bを組み合わせた形状(不図示)がある。
そして、本発明の各実施形態に係るRFIDタグは、それを1つ用いるだけで、世界各地域で許可されている搬送波周波数において対応可能となり、ワールドワイドに展開される物流のトレーサビリティを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図2】図1に示す第1実施形態のRFIDタグ1におけるアンテナ2の電流経路の一例を示す図である。
【図3】回路設計に用いられるスミスチャート上にアンテナの入力インピーダンスとICチップのインピーダンスとを示した図である。
【図4】(a)は、インピーダンス整合が1箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図であり、(b)は、インピーダンス整合が3箇所の場合におけるスミスチャートの部分拡大図である。
【図5】図3のスミスチャートに示したアンテナの入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスとの周波数に対する変化を周波数f−リアクタンス成分X座標に示した図である。
【図6】第2実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図7】第3実施形態に係るRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図8】図7に示す第3実施形態のRFIDタグ1bにおけるアンテナ2bの電流径路の一例を示す図である。
【図9】一般的なRFIDタグの基本構成を示す図である。
【図10】図9に示す一般的なRFIDタグ11における電流径路を示す図である。
【図11】市場に流通しているアンテナの長さを短縮したRFIDタグの概略的な構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1、1a、1b RFIDタグ
2、2a、2b アンテナ
3 スリット
4 ICチップ
5a 孔
5b 突起
5c 鋸歯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップに記録された情報を無線によってやり取りするRFIDタグに供するRFID用アンテナであって、
周波数の異なる複数の搬送波の波長に対応する長さの電流経路を複数有することを特徴とするRFID用アンテナ。
【請求項2】
前記RFIDタグが使用する搬送波の波長をλとしたとき、
前記電流経路は、前記RFID用アンテナに開けられた、周回長がλ/10以下の孔を迂回する経路によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項3】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλとしたとき、
前記電流経路は、前記RFID用アンテナに開けられた、周回長がλ/10以下の孔を迂回する経路と、前記孔を飛び越える経路とによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項4】
前記孔は4個以上存在することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のRFID用アンテナ。
【請求項5】
前記電流経路は、前記アンテナの外周部に沿って形成された複数の突起の一部または全部を電流が通過することによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項6】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλ、前記突起の長さをpとしたとき、2p<(λ/10)であることを特徴とする請求項5に記載のRFID用アンテナ。
【請求項7】
前記電流経路は、前記アンテナの外周部に沿って形成された鋸歯の一部または全部を電流が通過することによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項8】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλ、前記鋸歯の切り込みの深さをdとしたとき、d<λ/10であることを特徴とする請求項7に記載のRFID用アンテナ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のRFID用アンテナを有することを特徴とするRFIDタグ。
【請求項1】
ICチップに記録された情報を無線によってやり取りするRFIDタグに供するRFID用アンテナであって、
周波数の異なる複数の搬送波の波長に対応する長さの電流経路を複数有することを特徴とするRFID用アンテナ。
【請求項2】
前記RFIDタグが使用する搬送波の波長をλとしたとき、
前記電流経路は、前記RFID用アンテナに開けられた、周回長がλ/10以下の孔を迂回する経路によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項3】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλとしたとき、
前記電流経路は、前記RFID用アンテナに開けられた、周回長がλ/10以下の孔を迂回する経路と、前記孔を飛び越える経路とによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項4】
前記孔は4個以上存在することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のRFID用アンテナ。
【請求項5】
前記電流経路は、前記アンテナの外周部に沿って形成された複数の突起の一部または全部を電流が通過することによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項6】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλ、前記突起の長さをpとしたとき、2p<(λ/10)であることを特徴とする請求項5に記載のRFID用アンテナ。
【請求項7】
前記電流経路は、前記アンテナの外周部に沿って形成された鋸歯の一部または全部を電流が通過することによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のRFID用アンテナ。
【請求項8】
前記RFIDタグが使用する搬送波周波数の波長をλ、前記鋸歯の切り込みの深さをdとしたとき、d<λ/10であることを特徴とする請求項7に記載のRFID用アンテナ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のRFID用アンテナを有することを特徴とするRFIDタグ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−253549(P2009−253549A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97465(P2008−97465)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】
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