説明

RNA免疫において免疫応答を強化するためのFlt3リガンドの使用

本発明は、細胞へのワクチンRNAの供給に関する。特に、本発明は、(人も含めて)動物に投与する際に免疫応答を誘導、惹起または強化するために、ワクチンRNAとFlt3リガンドを共に使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA、特に、例えば感染症またはがんのような悪性疾患に関連する一つまたは複数の抗原をコードするmRNAを使用することによる、ワクチン接種および免疫刺激の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、非特異的免疫も特異的免疫も示すことができる。一般的に、特異的免疫はBリンパ球およびTリンパ球によって起こり、これらのリンパ球はその細胞表面に、ある特定の抗原に対する特異的受容体を有する。免疫系は、異なる抗原に対して二通りの仕方で応答することができる。つまり、(i)B細胞の刺激および抗体または免疫グロブリンの産生を含む体液性免疫、および(ii)該して細胞傷害性Tリンパ球(CTL)も含めたT細胞を含む、細胞関与性免疫である。
【0003】
抗原特異的なT細胞応答は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の糖タンパク質の結合溝に結合する抗原ペプチドによって、免疫系機構の一部として引き起こされ、それにより外来抗原が同定され、外来抗原に対する反応が起こる。結合した抗原ペプチドは、T細胞受容体と反応し、免疫応答を調節する。抗原ペプチドは、MHCタンパク質結合溝の多型性残基によって形成される、特定の「結合ポケット」に非共有結合で結合している。
【0004】
MHCクラスII分子は、α鎖とβ鎖からなるヘテロ二量体の糖タンパク質である。この分子のα1ドメインとβ2ドメインが一緒にフォールディングされ、ペプチド結合溝を形成する。抗原ペプチドは、ペプチド上のアンカーアミノ酸とα1ドメインおよびβ1ドメインとの相互作用によってMHC分子に結合する。MHCクラスI分子は、MHCクラスII分子とは異なるドメイン構造をもつが、一般的に、膜ドメインから離れた位置にあるペプチド結合部位または結合溝を有する類似した構造をもつ。
【0005】
外来タンパク質抗原を提示する際の最初のステップは、抗原提示細胞(APC)へのネイティブ抗原の結合である。APCに結合後、食作用、受容体仲介エンドサイトーシス、または飲作用のいずれか一つにより抗原が細胞内に侵入する。このような、取り込まれた抗原は、エンドソームと呼ばれる膜結合性細胞内小胞上に局在する。エンドソームとリソソームとの融合後、リソソーム中の細胞プロテアーゼによって抗原は小ペプチドにプロセシングされる。ペプチドは、このリソソーム内でMHCクラスII分子のα鎖およびβ鎖と結合する。前もって粗面小胞体で合成されていたこのMHCクラスII分子は、順にゴルジ体へ、続いてリソソームコンパートメントへ輸送される。T細胞およびB細胞を活性化するために、ペプチド/MHC複合体は、APCの表面上に提示される。
【0006】
非特異的免疫は、マクロファージまたは顆粒球による食作用およびナチュラルキラー細胞(NK)の活性など、様々な細胞および機構を包含している。非特異的免疫は、進化上あまり進歩していない機構に基づいており、特異的免疫応答の重要な特徴である、特異性および記憶能に関する諸性質を有していない。
【0007】
組換えワクチンは、感染症およびがん疾患の予防および治療用の作用物質および医薬品として人間医学および獣医学において特に重要である。組換えワクチンによる予防接種の目的は、特定の疾患に対して予防上または治療上有効な特異的免疫応答を、ある同定された抗原に対して誘導することである。
【0008】
プラスミドDNAの直接筋注が、コードされる遺伝子の、細胞表面上での長期的発現をもたらすことが示されて以来(Wolff, J.A. et al. (1990) Science 247、1465〜1468頁(非特許文献1))、DNAベースのワクチンは、新たな、将来性のある免疫化戦略であるように思われてきた。これらの観察は、核酸ベースのワクチンを開発するための重要な刺激であった。まず最初に、感染性病原体に対するDNAベースのワクチンが試されたが(Cox, G.J. et al. (1993) J. Virol. 67、5664〜5667頁(非特許文献2)、Davis, H.L. et al. (1993) Hum. Mol. Genet. 2、1847〜1851頁(非特許文献3)、Ulmer, J.B. (1993) Science 259、1745〜1749頁(非特許文献4)、Wang, B. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90、4156〜4160頁(非特許文献5))、間もなく腫瘍に対する遺伝子療法においても特異的な抗腫瘍免疫性を誘導するためにさらに研究がなされた(Conry, R. M. et al. (1994) Cancer Res. 54、1164〜1168頁(非特許文献6)、Conry, R.M. et al. (1995) Gene Ther. 2、59〜65頁(非特許文献7)、Spooner, R.A. et al. (1995) Gene Ther. 2、173〜180頁(非特許文献8)、Wang, B. et al. (1995) Hum. Gene Ther. 6、407〜418頁(非特許文献9))。腫瘍免疫のこの戦略は一連の決定的な利点をもつ。核酸ベースのワクチンは、製造の点で容易であり、比較的低コストである。その上、核酸ベースのワクチンは少数の細胞から増幅することができる。
【0009】
DNAはRNAよりも安定であるが、抗DNA抗体の誘導(Gilkeson, G. S. et al. (1995) J. Clin. Invest 95、1398〜1402頁(非特許文献10))および宿主ゲノムへの導入遺伝子の組み込みなど、安全性に対するいくつかの潜在的なリスクを抱えている。これにより、細胞性遺伝子の不活性化、導入遺伝子の無制御長期発現、または腫瘍誘発が起こりかねず、それゆえ、例えばerb−B2(Bargmann, C.I. et al. (1986) Nature 319、226〜230頁(非特許文献11))、およびp53(Greenblatt, M.S. et al. (1994) Cancer Res. 54、4855〜4878頁(非特許文献12))などの、発がん能をもつ腫瘍関連抗原については一般的に使用できない。この潜在的なリスクを回避するためには、RNAの使用が興味をそそる代案を提供する。
【0010】
可逆的な遺伝子療法の一種としてのRNAの利点には、一過性発現および非形質転換特性が挙げられる。RNAは、トランスジェニックに発現するために核に到達する必要がない上、宿主ゲノムに取り込まれることもできないため、腫瘍誘発のリスクがない。DNAと同様に(Condon, C. et al. (1996) Nat. Med. 2、1122〜1128頁(非特許文献13)、Tang, D.C. et al. (1992) Nature 356、152〜154頁(非特許文献14))、RNAを注入することによっても細胞性免疫応答も体液性免疫応答もin vivoで誘導することができる(Hoerr, I. et al. (2000) Eur. J. Immunol. 30、1〜7頁(非特許文献15)、Ying, H. et al. (1999) Nat. Med. 5、823〜827頁(非特許文献16))。
【0011】
in vitro転写RNA(IVT−RNA)またはin vitro増幅RNAを用いた免疫療法については、2つの異なる戦略がとられ、その両方が異なる動物モデルにおける試験で成功を収めることができ、ヒトではじめて使用された。
【0012】
樹状細胞(DC)がリポフェクションもしくは電気穿孔法によりin vitro転写RNAでトランスフェクションされてから投与されるか(Heiser, A. (2000) J. Immunol. 164、5508〜5514頁(非特許文献17))、またはRNAが様々な免疫経路で直接注入される(Hoerr, I. et al. (2000) Eur. J. Immunol. 30、1〜7頁(非特許文献15)、Granstein, R.D. et al. (2000) Journal of Investigative Dermatology 114、632〜636頁(非特許文献18)、Conry, R.M. (1995) Cancer Research 55、1397〜1400頁(非特許文献19))。RNAでトランスフェクトされたDCによる免疫化がin vitroおよびin vivoで抗原特異的なCTLを誘導することが証明できた(Su, Z. (2003) Cancer Res. 63、2127〜2133頁(非特許文献20)、Heiser, A. et al. (2002) J. Clin. Invest. 109、409〜417頁(非特許文献21))。RNAをトランスフェクトした樹状細胞を腫瘍ワクチンとして使用する最初の臨床データは、2001年と2002年のものであり、腫瘍患者において抗原特異的T細胞が誘導可能であることを証明できた(Heiser, A. et al. (2002) J. Clin. Invest. 109、409〜417頁(非特許文献21)、Rains, N. (2001) Hepato-Gastroenterology 48、347〜351頁(非特許文献22))。患者へのRNAの直接皮内注射に関しては、これまでに黒色腫患者のフェーズI/II治験の最初のデータがある(Weide, B. (2008) Journal of Immunotherapy 31、180〜188頁(非特許文献23))。ここでは、ネイキッドRNA注入の安全性およびわずかな毒性が示された。GM−CSF投与後のTH−1免疫性の改善を示した前臨床データをもとに、GM−CSFがアジュバントとして使用された(Carralot, J. P. et al. (2004) Cell Mol. Life Sci. 61、2418〜2424頁(非特許文献24))。しかしながら、治療を受けた黒色腫患者において臨床的な効果は見られなかった。
【0013】
それゆえ、その発現が免疫応答を刺激するタンパク質抗原をコードするRNAで細胞を一過性にトランスフェクトするために、RNAワクチンを使用することができる。この抗原の細胞内での産生、および内在性の経路によるそのプロセシングに基づき、RNAワクチンは、体液性免疫、ならびに細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を産生しながらのT細胞免疫を引き起こす。
【0014】
上記の性質により、RNAは臨床での使用に特に適しているように思われる。しかしながら、特に、細胞質内でのRNAの半減期の短さゆえ、RNAの使用はきわめて制限される。というのも、酵素によって分子が迅速に分解されるため、わずかなタンパク質発現しかもたらさないからである。したがって、作用物質としてのRNAの免疫原能を増幅することが大きな関心の的である。
【0015】
予防接種の作用を増強するために、以前からアジュバントが使用されている(Aguilar, J.C. et al. (2007) Vaccine 25、3752〜3762頁(非特許文献25)、Chiarella, P. et al. (2007) Expert Opinion on Biological Therapy 7、1551〜1562頁(非特許文献26))。CpG、Poly I:C、GM−CSF、Flt3リガンド、またはモノホスホリルリピッドAのような様々な作用物質が、前臨床研究および初期臨床研究においてすでに、腫瘍ワクチン接種戦略の枠内で、その効力に関して研究されてきた(Speiser, D.E. et al. (2005) Journal of Clinical Investigation 115、739〜746頁(非特許文献27)、Cui, Z.R. et al. (2006) Cancer Immunology Immunotherapy 55、1267〜1279頁(非特許文献28)、Jaffee, E.M. (2001) Journal of Clinical Oncology 19、145〜156頁(非特許文献29)、Shackleton M. et al. (2004) Cancer Immunity 4、9〜20頁 (非特許文献30)、Neidhart, J. et al. (2004) Vaccine 22、773〜780頁(非特許文献31))。RNAをトランスフェクトした樹状細胞によるワクチン接種後の免疫応答を強化するために、前臨床研究では様々なアジュバント(IL−12、CD40−L、OX40−L、4−1BBL)がコトランスフェクトされた(Dannull, J. et al. (2005) Blood 105、3206〜3213頁(非特許文献32)、Bontkes, H.J. et al. (2007) Gene Therapy 14、366〜375頁(非特許文献33)、Grunebach, F. (2005) Cancer Gene Therapy 12、749〜756頁(非特許文献34))。別法として、二重鎖RNA(Poly I:C)も抗原をコードするRNAと共にコトランスフェクトされた(Michiels, A. (2006) Gene Therapy 13、1027〜1036頁(非特許文献35))。
【0016】
ネイキッドIVT−RNAによるワクチン接種に関連したアジュバントの使用についての研究の枠内で、これまではGM−CSFの皮下投与のみが試験され、それは前臨床研究においてTH−1免疫性の誘導をわずかに高めた(Carralot, J. P. (2004) Cell Mol. Life Sci. 61、2418〜2424頁(非特許文献24))。ネイキッドRNAの直接投与の枠内で使用されるアジュバントに課される要件は、ペプチドベース、DNAベースまたは細胞ベースワクチンの枠内で使用されるアジュバントに対する要件とは根本的に異なる。その原因は、細胞外空間から細胞内にRNAを取り込むための機構にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,554,512号
【特許文献2】米国特許第6,291,661号
【特許文献3】PCT/EP2006/009448
【特許文献4】米国特許第4,235,871号
【特許文献5】米国特許第4,501,728号
【特許文献6】米国特許第4,837,028号
【特許文献7】米国特許第5,019,369号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Wolff, J.A. et al. (1990) Science 247、1465〜1468頁
【非特許文献2】Cox, G.J. et al. (1993) J. Virol. 67、5664〜5667頁
【非特許文献3】Davis, H.L. et al. (1993) Hum. Mol. Genet. 2、1847〜1851頁
【非特許文献4】Ulmer, J.B. (1993) Science 259、1745〜1749頁
【非特許文献5】Wang, B. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90、4156〜4160頁
【非特許文献6】Conry, R. M. et al. (1994) Cancer Res. 54、1164〜1168頁
【非特許文献7】Conry, R.M. et al. (1995) Gene Ther. 2、59〜65頁
【非特許文献8】Spooner, R.A. et al. (1995) Gene Ther. 2、173〜180頁
【非特許文献9】Wang, B. et al. (1995) Hum. Gene Ther. 6、407〜418頁
【非特許文献10】Gilkeson, G. S. et al. (1995) J. Clin. Invest 95、1398〜1402頁
【非特許文献11】Bargmann, C.I. et al. (1986) Nature 319、226〜230頁
【非特許文献12】Greenblatt, M.S. et al. (1994) Cancer Res. 54、4855〜4878頁
【非特許文献13】Condon, C. et al. (1996) Nat. Med. 2、1122〜1128頁
【非特許文献14】Tang, D.C. et al. (1992) Nature 356、152〜154頁
【非特許文献15】Hoerr, I. et al. (2000) Eur. J. Immunol. 30、1〜7頁
【非特許文献16】Ying, H. et al. (1999) Nat. Med. 5、823〜827頁
【非特許文献17】Heiser, A. (2000) J. Immunol. 164、5508〜5514頁
【非特許文献18】Granstein, R.D. et al. (2000) Journal of Investigative Dermatology 114、632〜636頁
【非特許文献19】Conry, R.M. (1995) Cancer Research 55、1397〜1400頁
【非特許文献20】Su, Z. (2003) Cancer Res. 63、2127〜2133頁
【非特許文献21】Heiser, A. et al. (2002) J. Clin. Invest. 109、409〜417頁
【非特許文献22】Rains, N. (2001) Hepato-Gastroenterology 48、347〜351頁
【非特許文献23】Weide, B. (2008) Journal of Immunotherapy 31、180〜188頁
【非特許文献24】Carralot, J. P. et al. (2004) Cell Mol. Life Sci. 61、2418〜2424頁
【非特許文献25】Aguilar, J.C. et al. (2007) Vaccine 25、3752〜3762頁
【非特許文献26】Chiarella, P. et al. (2007) Expert Opinion on Biological Therapy 7、1551〜1562頁
【非特許文献27】Speiser, D.E. et al. (2005) Journal of Clinical Investigation 115、739〜746頁
【非特許文献28】Cui, Z.R. et al. (2006) Cancer Immunology Immunotherapy 55、1267〜1279頁
【非特許文献29】Jaffee, E.M. (2001) Journal of Clinical Oncology 19、145〜156頁
【非特許文献30】Shackleton M. et al. (2004) Cancer Immunity 4、9〜20頁
【非特許文献31】Neidhart, J. et al. (2004) Vaccine 22、773〜780頁
【非特許文献32】Dannull, J. et al. (2005) Blood 105、3206〜3213頁
【非特許文献33】Bontkes, H.J. et al. (2007) Gene Therapy 14、366〜375頁
【非特許文献34】Grunebach, F. (2005) Cancer Gene Therapy 12、749〜756頁
【非特許文献35】Michiels, A. (2006) Gene Therapy 13、1027〜1036頁
【非特許文献36】Steinman, R.M.、Annu. Rev. Immunol. 9、271〜296頁 (1991)
【非特許文献37】Shimonkevitz, R. et al.、1983、J. Exp. Med. 158、303頁
【非特許文献38】SmithおよびWaterman、1981、Ads App. Math. 2、482
【非特許文献39】NeddlemanおよびWunsch、1970、J. Mol. Biol. 48、443
【非特許文献40】PearsonおよびLipman、1988、Proc. Natl Acad. Sci. USA 85、2444
【非特許文献41】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、J. Sambrook et al.編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989
【非特許文献42】Current Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubel et al.編、John Wiley & Sons, Inc.、New York
【非特許文献43】Science 268、1432〜1434頁、1995
【非特許文献44】Szoka et al.(1980)、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9、467頁
【非特許文献45】Percutaneous Penetration Enhancers, Smith et al.編 (CRC Press, 1995)
【非特許文献46】Lyman, S.D. et al. (1994) Blood 83、2795〜2801頁
【非特許文献47】Hannum, C. et al. (1994) Nature 368、643〜648頁
【非特許文献48】Maraskovsky, E. et al. (1996) Journal of Experimental Medicine 184、1953〜1962頁
【非特許文献49】McNeel, D.G. et al. (2003) Journal of Clinical Immunology 23、62〜72頁
【非特許文献50】Freedman, R.S. et al. (2003) Clinical Cancer Research 9、5228〜5237頁
【非特許文献51】Maraskovsky, E. et al. (2000) Blood 96、878〜884頁
【非特許文献52】Carralot, J.P. et al. (2004) Cell Mol. Life Sci. 61、2418〜2424頁
【非特許文献53】Robinson et al.、2003、BMT、31、361〜369頁
【非特許文献54】Bellone et al.、J. Immunol.、2000、165、2651〜2656頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、RNAワクチンを投与する際に、免疫刺激の程度を増強させる薬剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は、本発明において、各請求項の対象によって解決される。
【0021】
本発明は、抗原提示細胞の細胞質ゾルへのRNAの取り込みをサポートする、および/またはワクチンRNAを投与する際により効果的な免疫応答を起こすことができる、化合物を記載することによってこの必要に対応する。
【0022】
本発明者等は、ワクチン接種および治療に使用可能な抗原をコードするRNA分子を、Flt3リガンド(Flt3−L)の投与とともに投与すると、この抗原に特異的な免疫応答を効果的に起こせることを確認した。
【0023】
本発明によると、公知の様々なアジュバントは、ネイキッドIVT−RNAを用いた直接免疫化後にT細胞プライミング効果を上昇させないのみならず、傾向的にはT細胞の応答を低下させることが確認された。この知見は、意外であり、抗原提示細胞へのRNAの取り込みに及ぼすアジュバントの影響によってしか説明できない。ここで問題となるのは、本発明者によってはじめて記載される方法で長鎖リボ核酸の取り込みをつかさどる機構である。この取り込み機構は、様々なアジュバントによって、その効果が阻害される。Flt3リガンドのみが、RNA免疫化において有意なアジュバント効果を示すことができた。ここで示す研究は、特に、抗原をコードするRNAと一緒にFlt3リガンドを投与した際に、抗原特異的CD8T細胞の大幅な増加を確認できたことを示す。
【0024】
本発明は、概して、細胞へのワクチンRNAの供給に関する。特に、本発明は、(ヒトも含めた)動物に投与する際に免疫応答を誘導、惹起または強化するために、ワクチンRNAとFlt3リガンドを共に使用することに関する。
【0025】
本発明によると、Flt3リガンドは、好ましくはRNAワクチンと共に使用する際に、RNAワクチンの使用によって産生される特異的抗原に対する動物の免疫応答を強化する。この調合物中で使用される典型的なワクチンは、インフルエンザワクチン、ヘルペスワクチン、サイトメガロウイルスワクチン、HIV−1ワクチン、HTLV−1ワクチン、FIVワクチンなどのウイルス性ワクチン、細菌性ワクチン、がんワクチン、および寄生虫ワクチンである。
【0026】
好ましくは、本発明によると、Flt3リガンドと、抗原をコードするRNAとを動物に導入することにより、動物が免疫化される。RNAは、動物の抗原提示細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞または別の細胞)に取り込まれる。RNAの抗原性翻訳産物が形成され、この産物が場合によってはプロセシングされ、主要組織適合遺伝子複合体との関連の下で細胞によって提示され、その結果、この抗原に対する免疫応答が起こる。つまり、RNAは翻訳の際に抗原を産生する。
【0027】
特定の実施形態では、RNAワクチンの投与前、投与と同時、および/または投与後にFlt3リガンドを投与する。好ましくは、RNAワクチンの投与前にFlt3リガンドを投与する。
【0028】
一態様では、本発明は、少なくとも一つの抗原をコードするRNAとFlt3リガンドとを含む免疫原性調製物に関する。RNAとFlt3リガンドは、本発明の免疫原性調製物において、共通の組成物、つまり混合物として存在してもよい。さらに、本発明によると、RNAとFlt3リガンドが共通に存在するものの同一組成物中には存在しない実施形態も企図される。そのような実施形態は、特に、少なくとも2つの容器を備え、一つの容器にはRNAを含む組成物を収容し、別の容器にはFlt3リガンドを含む組成物を収容した、キットに関するものである。
【0029】
本発明の免疫原性調製物においては、RNAは好ましくはmRNAである。好ましくは、RNAはin vitro転写によって得られたものである。
【0030】
本発明の免疫原性調製物は、さらに、RNAを安定化するためのRNアーゼインヒビターなど少なくとも一つのRNA安定化因子を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の免疫原性調製物は、好ましくは、治療上の使用のために調合された調製物である。本発明によると、用語「治療上の使用」は、疾患の治療または予防を包含する。この態様では、本発明は、本発明の免疫原性調製物を含む医薬組成物に関する。
【0032】
典型的には、本発明の免疫原性調製物、または本発明の医薬組成物は、さらに溶媒、例えば水性溶媒またはRNA無傷性の維持を可能にするあらゆる溶媒;水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント、CpGモチーフをもつオリゴヌクレオチド、または当業者に公知の他のあらゆるアジュバントなどのアジュバント;および、プロタミンなどのあらゆる安定化剤を含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、好ましくは、薬学的に許容可能な希釈剤、および/または薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。
【0033】
さらに、一つまたは複数の別のアジュバントの添加により本発明の調製物の免疫原性を高めることが可能である。さらに、本発明の免疫原性調製物のRNAを、カチオン性化合物、好ましくはポリカチオン性化合物、例えばカチオン性またはポリカチオン性のペプチドまたはタンパク質と複合化することによって安定化させることが可能である。本発明の免疫原性調製物の好ましい一実施形態によると、RNAと複合化するペプチドまたはタンパク質は、プロタミン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−アルギニン、またはヒストンである。
【0034】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、生物のワクチン接種に適した形態で存在する。
【0035】
好ましくは、本発明の免疫原性調製物、または本発明の医薬組成物、または少なくともそのうちのRNAを含む成分は、リンパ節内投与用の製剤の形態で存在する。
【0036】
上記の調製物および組成物は、ここで記載される方法、特に免疫化法において使用可能である。
【0037】
別の一態様では、本発明は、細胞を、少なくとも一つの抗原をコードするRNAおよびFlt3リガンドと接触させることを含む、少なくとも一つの抗原を細胞に供給するための方法に関する。好ましくは、細胞は、生物中にin vivoで存在し、本方法は、この生物にRNAおよびFlt3リガンドを投与することを含んでいる。好ましい一実施形態では、細胞は抗原提示細胞であり、さらに好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、またはマクロファージである。
【0038】
この態様では、本発明は、細胞、特に抗原提示細胞、さらに好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、またはマクロファージ内のMHC/ペプチド複合体の量を増大させる方法であって、細胞を、ペプチドまたはそのペプチドを含む発現産物をコードするRNAと接触させること、およびFlt3リガンドを投与することを含む方法にも関する。ペプチドを含む発現産物は、細胞によって好ましくはペプチドにプロセシングされる。
【0039】
好ましくは、本方法はin vivoで行なわれ、MHC/ペプチド複合体量の増大が、T細胞、特にCD4およびCD8リンパ球の一次活性化を増強する。
【0040】
別の一態様では、本発明は、個体中において免疫応答を惹起または強化するための方法であって、免疫応答の対象となる抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む方法に関する。好ましくは、免疫応答は、個体に対して保護および/または治療作用を有し、好ましくは、抗原特異的なT細胞免疫応答を含む。
【0041】
別の一態様では、本発明は、個体中における抗原特異的エフェクター細胞、特にCD8細胞傷害性T細胞、および/またはCD4ヘルパーT細胞の量を増大させるための方法であって、抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む方法に関する。
【0042】
別の一態様は、Flt3リガンドの使用を含む免疫化プロトコルを使用する、がんの予防および/または治療に関する。この態様では、本発明は、特に、免疫応答を向けさせるべき腫瘍抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中においてがんを予防および/または治療するための方法に関する。
【0043】
別の一態様は、Flt3リガンドの使用を含む免疫化プロトコルを使用する、ウイルス感染の予防および/または治療に関する。この態様では、本発明は、特に、免疫応答を向けさせるべきウイルス抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中においてウイルス感染を予防および/または治療するための方法に関する。
【0044】
別の一態様は、Flt3リガンドの使用を含む免疫化プロトコルを使用する、細菌感染の予防および/または治療に関する。この態様では、本発明は、特に、免疫応答を向けさせるべき細菌抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中において細菌感染を予防および/または治療するための方法に関する。
【0045】
別の一態様は、Flt3リガンドの使用を含む免疫化プロトコルを使用する、単細胞生物による感染の予防および/または治療に関する。この態様では、本発明は、特に、免疫応答を向けさせるべき単細胞生物抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中において単細胞生物による感染を予防および/または治療するための方法に関する。
【0046】
別の一態様は、アレルゲン特異的免疫療法と併せたFlt3リガンドの投与を含む、患者におけるアレルギーの予防および/または治療に関する。この態様では、本発明は、特に、アレルギーに関連するアレルゲンをコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中においてアレルギーを予防および/または治療するための方法に関する。
【0047】
別の一態様は、Flt3リガンドの使用を含む免疫化プロトコルであって、ワクチンの有効性、抗原の免疫原性、または抗原および/またはワクチンに対する保護免疫応答が試験動物において検査および評価される、免疫化プロトコルに関する。
【0048】
ここに記載される戦略を使用して疾患または感染を治療および/または予防することの利点は、とりわけ、組換え抗原のような弱免疫原性の抗原の免疫原性を高められること、使用される抗原またはその抗原をコードするRNAの量を低下させることが可能であること、追加免疫のための要件が軽減されること、および免疫化の効率が高まることである。
【0049】
RNAワクチンと共にFlt3リガンドを使用すると、通常は弱い免疫応答を引き起こす特定のウイルスタンパク質およびがん特異的抗原の免疫原性を強化することができる。このワクチン接種技術は、例えば、弱免疫原性ウイルスタンパク質に対する免疫応答の誘導に使用できる。本発明のRNAワクチンでは、タンパク質抗原は、血清抗体にさらされることが決してなく、トランスフェクトされた細胞自体によってmRNAの翻訳後に産生される。そのため、アナフィラキシーが問題となることはないはずである。したがって、本発明は、アレルギー反応のリスクなしに患者を繰り返し免疫化することを可能にする。
【0050】
本発明の免疫化戦略は、RNAベースの免疫化後の抗原特異的Tリンパ球頻度の量的上昇も可能にする。この効率上昇は、臨床的有効性の向上という意味で、または同じ有効性におけるワクチン用量または投与頻度の軽減という意味で、患者の免疫療法に有用となり得る。
【0051】
HLAトランスジェニックマウスでは、本発明による、ヒト腫瘍関連抗原をコードするRNAワクチンを用いた免疫化により、ヒトHLA分子との関連の下で天然にプロセシングされたエピトープを認識する、T細胞クローンまたはT細胞受容体を単離することができる。本発明の免疫化戦略により、より高い確率で抗原特異的T細胞を産生することができる。さらに、本発明の免疫化戦略により、前駆体頻度が低い抗原特異的T細胞を大幅に増幅することも可能である。この効率上昇は、ナイーブなレパートリーで存在する抗原特異的T細胞を、より包括的に単離することを可能にする。さらに、記載される免疫化法による効率上昇はコスト削減を伴う。
【0052】
本発明によると、動物から細胞を取り出し、その細胞をin vitroにおいてFlt3リガンド/RNAでトランスフェクトすることも企図されている。RNAを細胞内に導入し、ポリヌクレオチドの抗原性翻訳産物を形成させる。トランスフェクション後、抗原を発現する細胞を、好ましくは注入によって動物に導入すると、いまや内在性となった抗原に対して免疫系が応答することができ、免疫原に対する免疫応答が引き起こされる。本発明のこの実施形態では、トランスフェクトされる細胞は、好ましくは、リンパ球様細胞、特に動物から取り出された抗原提示細胞である。
【0053】
動物由来の細胞をin vitroでトランスフェクトする場合、クラスI−MHC分子ならびにクラスII−MHC分子を含む細胞の供給源を提供するには、細胞の供給源は、全血から迅速に単離可能な末梢血細胞でよい。これらの細胞は、さらに、B細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、またはマクロファージ/単球に分画することもできる。骨髄細胞は、あまり分化していないリンパ球様細胞の供給源を提供することができる。
【0054】
別の一態様では、本発明によると、in vitroまたは生物中においてT細胞、特にCD4リンパ球およびCD8リンパ球を刺激または活性化するための方法であって、T細胞を準備すること、またはT細胞が特異性をもつはずの少なくとも一つの抗原をコードするRNAとFlt3リガンドとを生物に投与することを含む方法が提供される。このような刺激または活性化は、好ましくは、T細胞の増殖、細胞傷害性の反応性、および/またはサイトカイン放出として現れる。
【0055】
上記の方法は、特に、例えば細菌またはウイルスによって惹起される感染性疾患の治療または予防に適している。特定の実施形態では、本発明に従って使用される抗原は、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、HIV、マイコバクテリウム属、マラリア病原体、SARS病原体、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルスなどの感染性病原体、またはクラミジア属およびマイコバクテリウム属などの細菌性病原体から誘導されたものである。本発明の特に有益な適用分野は、がん免疫療法またはがんワクチン接種にあり、その場合、特に、腫瘍抗原反応性T細胞の活性化が高められ、その結果、腫瘍細胞に対するT細胞免疫療法またはT細胞ワクチン接種の展望が改善される。
【0056】
特定の実施形態では、本発明に従って使用される抗原は、以下の抗原からなる群から選ばれる:p53 ART−4、BAGE、ss−カテニン/m、Bcr−abL CAMEL、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン−6、クローディン−12、c−MYC、CT、Cyp−B、DAM、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE、GnT−V、Gap100、HAGE、HER−2/neu、HPV−E7、HPV−E6、HAST−2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE−A、好ましくはMAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11またはMAGE−A12、MAGE−B、MAGE−C、MART−1/Melan−A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM−1、MUM−2、MUM−3、NA88−A、NF1、NY−ESO−1、NY−BR−1、p190マイナーbcr−abL Pml/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART−1またはSART−3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP−1、TRP−2、TRP−2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT−1。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明によると、組換え核酸の作成、細胞の培養、および細胞への核酸の導入は、標準法を使用できる。酵素反応は、メーカの記載に基づき、またはそれ自体公知の方法で行なわれる。
【0058】
用語「Flt3リガンド」または「Flt3−L」は、「Fms様チロシンキナーゼ3リガンド」に関する。Flt3は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)であり、未熟な造血前駆細胞によって発現される。Flt3のリガンド(Flt3−L)は、膜貫通タンパク質または可溶性タンパク質であり、造血細胞および骨髄間質細胞を含む多数の細胞によって発現される。別の成長因子と組み合わせると、このリガンドは、幹細胞、骨髄系前駆細胞およびリンパ球系前駆細胞、樹状細胞、およびNK細胞を含む様々な細胞タイプの増殖および成長を刺激する。受容体の活性化は、造血細胞における増殖、生存、および他のプロセスを制御する様々なシグナル伝達経路に関与することが公知である様々な鍵になるアダプタータンパク質のチロシンリン酸化をもたらす。
【0059】
用語「Flt3リガンド」は、Flt3受容体に結合し、好ましくは、結合したFlt3受容体を介して刺激シグナルを細胞に伝達する生物活性を示す、あらゆる分子、特にペプチドおよびタンパク質を包含する。
【0060】
用語「Flt3リガンド」は、細胞によって自然に発現される、またはFlt3リガンドをコードする核酸でトランスフェクトされた細胞によって発現される、Flt3リガンドのあらゆる変異体、特にスプライス変異体、および翻訳後修飾された変異体、立体配座、アイソフォーム、および種ホモログを包含する。さらに、用語「Flt3リガンド」は、組換えにより作成された、および作成可能なすべての形態のFlt3リガンドを包含する。
【0061】
用語「Flt3リガンドをコードする核酸」は、好ましくは、(i)配列プロトコルの配列番号3および4、(ii)(i)に基づく核酸配列から誘導された配列、および(iii)(i)または(ii)に基づく核酸配列の一部からなる群から選ばれる核酸配列を含む核酸に関する。
【0062】
Flt3リガンドは、好ましい一実施形態では、(i)配列プロトコルの配列番号3および4、(ii)(i)に基づく核酸配列から誘導された配列、および(iii)(i)または(ii)に基づく核酸配列の一部からなる群から選ばれる核酸配列を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を包含する。別の好ましい一実施形態では、Flt3リガンドは、配列プロトコルの配列番号1および2、それらの配列から誘導された配列、またはその配列の一部からなる群から選ばれるアミノ酸配列を包含する。
【0063】
本発明に従って使用可能なFlt3リガンドの形態としては、それだけに限定されるものではないが、配列プロトコルの配列番号1および2、ならびにそれらの配列から誘導された配列を有するポリペプチドに示されるような、マウスおよびヒトに由来するFlt3リガンドが含まれる。
【0064】
好ましくは、配列番号1および2に関する用語「それから誘導された配列」は、配列番号1および2に関して短縮され、主にタンパク質の細胞外部分を含む、配列に関するものである。このような配列は、好ましくは、膜貫通部分および細胞内部分を含まない。用語「Flt3リガンド」は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,554,512号(特許文献1)および米国特許第6,291,661号(特許文献2)に記載されるようなポリペプチドを包含する。
【0065】
Flt3リガンドの特に好ましい形態は、生物活性のある可溶型であり、特に細胞外ドメインまたは細胞外ドメインの一つまたは複数の断片を含む形態である。このような形態は、好ましくはFlt3リガンドの膜貫通部分および細胞内部分、つまり細胞質部分を含まない。Flt3リガンドの可溶型は、そのポリペプチドが発現される細胞から分泌可能なポリペプチドである。そのような型では、ポリペプチドの細胞内ドメインおよび膜貫通ドメイン、またはその一部が欠失しているため、そのポリペプチドを発現する細胞から、ポリペプチドが完全に分泌される。ポリペプチドの細胞内ドメインおよび膜貫通ドメインは、本発明によると、配列情報を手がかりにそのようなドメインを決定するための公知の方法によって、それ自体公知の仕方で決定することができる。配列番号1に関しては、細胞内ドメインはアミノ酸206〜235と、膜貫通ドメインはアミノ酸185〜205または183〜205と定義できる。
【0066】
ヒトFlt3リガンドは、配列番号1のアミノ酸1〜X、27〜Xもしくは28〜X、またはそれから誘導された配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含んでいてもよく、Xは160〜235のうちの一アミノ酸、好ましくは160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184または185である。
【0067】
マウスFlt3リガンドは、配列番号2のアミノ酸1〜Y、27〜Yもしくは28〜Y、またはそれから誘導された配列からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含んでいてもよく、Yは163〜232のうちの一アミノ酸である。
【0068】
可溶性ヒトFlt3リガンドの実施形態は、配列番号1の残基1〜160(両端を含む)、配列番号1の残基27〜160(両端を含む)、配列番号1の残基28〜160(両端を含む)、配列番号1の残基1〜179(両端を含む)、配列番号1の残基27〜179(両端を含む)、配列番号1の残基28〜179(両端を含む)、配列番号1の残基1〜182(両端を含む)、配列番号1の残基27〜182(両端を含む)、配列番号1の残基28〜182(両端を含む)、配列番号1の残基1〜185(両端を含む)、配列番号1の残基27〜185(両端を含む)、配列番号1の残基28〜185(両端を含む)、配列番号1の残基1〜235(両端を含む)、配列番号1の残基27〜235(両端を含む)、および配列番号1の残基28〜235(両端を含む)のアミノ酸配列を包含する。
【0069】
可溶性マウスFlt3リガンドの実施形態は、配列番号2の残基1〜163のアミノ酸配列(両端を含む)、配列番号2の残基28〜163のアミノ酸配列(両端を含む)、配列番号2の残基1〜188のアミノ酸配列(両端を含む)、配列番号2の残基28〜188のアミノ酸配列(両端を含む)、配列番号2の残基1〜232のアミノ酸配列(両端を含む)、および配列番号2の残基28〜232のアミノ酸配列(両端を含む)を包含する。
【0070】
用語「Flt3リガンド」は、本発明によると、好ましくは共有結合による融合体の形で、一つまたは複数の異種ペプチドまたはタンパク質と連結され、場合によってはリンカーによって隔てられた、上記の配列を含む分子をも包含する。なお、ペプチドまたはタンパク質が天然ではない方式で配列と連結している場合には、ペプチドまたはタンパク質は、それが連結されている配列に対して異種である。例えば、天然Flt3リガンドから誘導された配列と、抗体から誘導された配列とは異種配列である。これら異種ペプチドまたはタンパク質は、例えば、上記配列の宿主細胞からの分泌を制御すること、上記配列を細胞内の特定の小器官にコンパートメント化すること、前記配列の安定性を高めること、および/または精製を可能にしまたは容易にすることができる。一実施形態では、異種ペプチドまたはタンパク質は、抗体、好ましくは抗体の重鎖、特にIgG1、IgG2クラスの抗体、好ましくはIgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgM、IgA、好ましくはIgA1、IgA2、分泌型IgA、IgD、またはIgEから誘導されたものである。好ましくは、異種ペプチドまたはタンパク質は、抗体の定常領域から誘導され、好ましくはこの領域またはこの一部を含む。好ましくは、異種ペプチドまたはタンパク質は、配列番号5に示す配列またはそれから誘導された配列を含む。一実施形態では、Flt3リガンドは、本発明によると、配列番号6に示す配列またはそれから誘導された配列を含む。
【0071】
さらに、用語「Flt3リガンド」は、本発明によると、ここで特に記載される配列から誘導されたアミノ酸配列を含むあらゆるポリペプチドを包含する。
【0072】
用語「免疫応答」は、ここではその従来の意味で用いられ、体液性免疫および細胞性免疫を包含する。免疫応答は、抗原に対する抗体の発生、および様々な増殖試験またはサイトカイン産生試験によりin vitroで検出可能な抗原特異的Tリンパ球、好ましくはCD4Tリンパ球およびCD8Tリンパ球、さらに好ましくはCD8Tリンパ球の増殖から選ばれる一つまたは複数の応答が起きることで明らかになる。
【0073】
用語「免疫療法」は、特異的免疫応答の活性化に基づく治療に関する。
【0074】
「保護する」、「予防の」、「保護用の」などの用語は、ここでは、生物における腫瘍または病原体の出現および/または増加の阻止または処置またはその両方を意味する。ワクチンの予防的投与は、腫瘍成長の起こり、または病原体による感染からレシピエントを守ることができる。ワクチンの治療的投与または免疫療法は、例えば、現存する腫瘍の蔓延または転移からレシピエントを守ることができ、あるいは現存する腫瘍の腫瘍量の低下を引き起こすことができる。
【0075】
ここで用いられる抗原提示細胞またはAPCは、タンパク質抗原のペプチド断片を、MHC分子との関連の下でその細胞表面に提示する細胞である。多くのAPCが抗原特異的T細胞を活性化することができる。
【0076】
APCの例は、それだけに限定されるものではないが、樹状細胞、マクロファージ、単球、B細胞などである。
【0077】
用語「MHC/ペプチド複合体」は、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子の結合ドメインと、MHCクラスI結合ペプチドまたはMHCクラスII結合ペプチドとの非共有結合性複合体に関する。
【0078】
用語「MHC結合ペプチド」または「結合ペプチド」は、MHCクラスI分子および/またはMHCクラスII分子に結合しているペプチドに関する。クラスI−MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には8〜10アミノ酸長であるが、それより長いまたは短いペプチドも有効となり得る。クラスII−MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には10〜25アミノ酸長、特に13〜18アミノ酸長であるが、それより長いまたは短いペプチドも有効となり得る。
【0079】
用語「主要組織適合遺伝子複合体」およびその略語「MHC」は、あらゆる脊椎動物に現れる遺伝子複合体に関する。MHCタンパク質およびMHC分子は、通常の免疫応答におけるリンパ球と抗原提示細胞との間のシグナル伝達において、ペプチドと結合し、それをT細胞受容体(TCR)が認識できるように提示することで機能を果たす。MHC分子は、細胞内のプロセシングコンパートメントにおいてペプチドと結合し、このペプチドを、抗原提示細胞の表面上でT細胞に提示する。HLAとも呼ばれるヒトMHC領域は、第6染色体上に存在し、クラスI領域およびクラスII領域を含む。
【0080】
用語「MHCクラスI」または「クラスI」は、主要組織適合遺伝子複合体のクラスIタンパク質またはクラスI遺伝子に関する。MHCクラスI領域内には、ヒトではHLA−A−、HLA−B−、HLA−C−、HLA−E−、HLA−F−、CD1a−、CD1b−、およびCD1c亜領域が存在する。
【0081】
クラスIのα鎖は、分子量約44kDaの糖タンパク質である。ポリペプチド鎖の長さは350アミノ酸残基よりいくぶん長い。このポリペプチド鎖は、3つの機能領域に分けることができ、つまり細胞外領域、膜貫通領域および細胞質領域である。細胞外領域は、283アミノ酸残基長であり、3つのドメイン、α1、α2およびα3に分けられる。これらのドメインおよび領域は、通常は、クラスI遺伝子の別々のエクソンによってコードされる。膜貫通領域は、原形質膜の脂質二重層を貫通する。膜貫通領域は、大部分は、αへリックスに配列される疎水性の23個のアミノ酸残基からなる。細胞質領域、つまり細胞質側を向いた、膜貫通領域に隣接する部分は、典型的には32アミノ酸残基長であり、細胞骨格の諸要素と相互作用する能力をもつ。α鎖は、β2−ミクログロブリンと相互作用し、細胞表面でα−β2−二量体を形成する。
【0082】
用語「MHCクラスII」または「クラスII」は、主要組織適合遺伝子複合体のクラスIIタンパク質またはクラスII遺伝子に関する。MHCクラスII領域内には、ヒトではクラスIIα鎖およびクラスIIβ鎖遺伝子のDP−、DQ−、およびDR亜領域(つまりDPα、DPβ、DQα、DQβ、DRαおよびDRβ)が存在する。
【0083】
クラスII分子は、それぞれα鎖とβ鎖からなるヘテロ二量体である。両鎖とも糖タンパク質であり、分子量31〜34kDa(α)または26〜29kDa(β)である。α鎖の全長は229〜233アミノ酸残基であり、β鎖の全長は225〜238残基である。α鎖もβ鎖も、細胞外領域、結合ペプチド、膜貫通領域、および細胞質側末端からなる。細胞外領域は、2つのドメイン、α1およびα2、またはβ1およびβ2からなる。結合ペプチドは、α鎖およびβ鎖でそれぞれ13残基および9残基長である。結合ペプチドは、2番目のドメインを、α鎖においてもβ鎖においても23アミノ酸残基からなる膜貫通領域と結びつける。細胞質領域、つまり細胞質側を向いた、膜貫通領域に隣接する部分の長さは、α鎖では、3〜16残基であり、β鎖では8〜20残基である。
【0084】
用語「MHC結合ドメイン」は、「MHCクラスI結合ドメイン」および「MHCクラスII結合ドメイン」に関する。
【0085】
用語「MHCクラスI結合ドメイン」は、MHCクラスI分子またはMHCクラスI鎖の、抗原ペプチドへの結合に必要な領域に関する。MHCクラスI結合ドメインは、主に、MHCクラスIα鎖のα1ドメインとα2ドメインによって形成される。α鎖のα3ドメインおよびβ2ミクログロブリンは、結合ドメインの必須部分ではないものの、おそらく、MHCクラスI分子の全体構造の安定化に重要であり、したがって、用語「MHCクラスI結合ドメイン」は好ましくはこの領域も含む。MHCクラスI結合ドメインは、本質的には、MHCクラスI分子の細胞外ドメインとしても定義可能であり、それにより、膜貫通領域および細胞質領域から区別される。
【0086】
用語「MHCクラスII結合ドメイン」は、MHCクラスII分子またはMHCクラスII鎖の、抗原ペプチドへの結合に必要な領域に関する。MHCクラスII結合ドメインは、主に、MHCクラスIIα鎖およびβ鎖のα1ドメインおよびβ1ドメインによって形成される。しかしながら、このタンパク質のα2ドメインおよびβ2ドメインも、おそらく、MHC結合溝の全体構造の安定化に重要であり、したがって、用語「MHCクラスII結合ドメイン」は、本発明によると好ましくはこの領域も含む。MHCクラスII結合ドメインは、本質的には、MHCクラスII分子の細胞外ドメインとしても定義可能であり、それにより、膜貫通領域および細胞質領域から区別される。
【0087】
本発明によると、用語「抗原」は、少なくとも一つのエピトープを含むあらゆる分子を包含する。本発明によると、好ましくは、抗原は、場合によってはプロセシング後に、好ましくはこの抗原に特異的である免疫応答を引き起こし得る分子である。本発明によると、免疫応答を起こしそうなあらゆる適切な抗原が使用可能であり、その際、免疫応答は体液性のものでも細胞性でのものでもよい。本発明の実施形態では、抗原またはそのプロセシングされた形態が、好ましくは、ある細胞によってMHC分子との関連の下で提示され、その結果、抗原またはそのプロセシングされた形態に対して免疫応答が引き起こされる。
【0088】
用語「抗原」は、特にタンパク質、ペプチド、核酸、特にRNA、ならびにヌクレオチドを包含する。抗原は、好ましくは、アレルゲン、ウイルス、細菌、菌類、寄生生物、他の感染性因子および病原体または腫瘍抗原から誘導された産物である。抗原は、本発明によると、天然に出現する産物、例えばウイルスタンパク質に対応するものでもよく、または、特に免疫原性を高めるために、特に配列の順序および/または長さを変化させる、さらなる配列を付加するまたは挿入するなどによって天然の産物から誘導したものでもよい。しかしながら、使用される抗原は、好ましくは、その抗原が誘導された元の天然物に対しても免疫応答を起こす。したがって、用語「抗原」は、本発明によると、タンパク質、ペプチド、多量体タンパク質、または多量体ペプチド、合成ペプチドなどの形で存在してもよいタンパク質全体またはペプチド全体のうちの免疫原性部分またはエピトープをも包含する。用語「免疫原性」は、抗原の、免疫応答を起こす相対的有効性に関する。
【0089】
用語「抗原」は、誘導体化された抗原、つまり変換により(例えば、分子内で中間的に体内タンパクの補完により)はじめて抗原性に、および感作性に、なる二次的物質も包含する。
【0090】
好ましい一実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、つまり細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得るがん細胞の構成要素であり、特に細胞内に、または表面抗原として腫瘍細胞上に好ましくは多量に生じる抗原である。その例は、がん胎児性抗原、α1−胎児タンパク質、イソフェリチンおよび胎児硫酸糖タンパク質(Sulfoglykoprotein)、α2−H−フェロプロテイン(Ferroprotein)およびγ−胎児タンパク質、および様々なウイルス腫瘍抗原である。別の一実施形態では、抗原は、ウイルスのリボ核タンパク質または外殻タンパク質(Huellproteine)のようなウイルス抗原である。特に、そのうちの抗原またはペプチドは、MHC分子によって提示され、それにより、特にT細胞受容体の活性調節を介して、免疫系細胞、好ましくはCD4リンパ球およびCD8リンパ球を調節、特に活性化することができ、その結果、好ましくはT細胞の増殖を誘発することになる。
【0091】
本発明によると、腫瘍抗原としては、好ましくは、種類および/または量に関して、腫瘍またはがん、ないしは腫瘍細胞またはがん細胞に特徴的な、あらゆる抗原が含まれる。
【0092】
Flt3リガンドは、アレルギーの治療においても使用可能である。ここに記載される、Flt3リガンドを使用する免疫化プロトコルは、アレルゲン特異的なアレルギー免疫療法において使用可能である。アレルゲン特異的免疫療法とは、原因となるアレルゲンにその後さらされることに伴う症状が鎮まった状態を達成するために、一つまたは複数のアレルギーをもつ生物に、アレルゲンワクチンを好ましくは用量を増加させながら投与することと定義される。Flt3リガンドを使用するアレルゲン特異的免疫療法の有効性は、患者に由来するアレルゲン特異的IgG抗体およびIgE抗体の測定など、公知の標準法により評価することができる。
【0093】
免疫原とは、生物において免疫応答を誘導する抗原である。
【0094】
本発明に従って使用される組成物は、RNA分子がコードする抗原の種類および数に関して、限定されない。
【0095】
本発明によると、定義された配列をもつ単独のRNA種を投与することが可能だが、配列の異なる複数の様々なRNAを投与することも可能である。一実施形態では、本発明によると、RNA分子のプールが投与される。RNAが、本発明による、様々な配列のRNA分子を含む場合、これらのRNAをコードする配列は、同一または異なる抗原から誘導されたものでよい。
【0096】
用語「病原体」は、病原性微生物に関するものであり、ウイルス、細菌、単細胞生物および寄生虫を包含する。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウィルス、およびヒトTリンパ好性ウイルス(humanes T−lymphotrophisches Virus:HTLV)が病原性ウイルスの例である。単細胞生物としては、マラリア原虫、トリパノゾーマ、アメーバなどが含まれる。
【0097】
ここで用いられる用語「ワクチン」は、一つまたは複数の抗原、またはそれをコードする核酸を含む、組成物に関する。さらに、ワクチンは、一つまたは複数のアジュバント、希釈剤、担体物質などを含んでもよく、抗原に対する保護免疫応答および/または治療免疫応答を起こさせるために、あらゆる適切な方法で生物に投与される。したがって、ワクチンは疾患の予防に使用することができ、例えば感染前に投与してもよく、疾患の発生後に投与してもよい。ワクチンは、天然抗原、誘導体化抗原、合成抗原、組換え抗原、または非組換え抗原、またはそれをコードする核酸を含むことができる。本発明によると、ワクチンは、一つまたは複数の抗原をコードするポリヌクレオチド配列を有するRNAを含む。RNAは、ネイキッドRNAであってもよく、遺伝子導入用のリポソームもしくは別の粒子に挿入されていてもよい。投与を容易にするためにワクチンに挿入可能な別の物質は、ポリペプチド、ペプチド、多糖類結合体(Polysaccharid−Konjugate)、脂質などである。
【0098】
免疫生物学およびワクチン接種の原理は、治療すべき疾患に関して免疫学上関連のある抗原を用いて生物を免疫化することによって、疾患に対する免疫保護応答が生じるということに基づくことを、当業者は認識するであろう。したがって、本発明の、がん、感染症などの治療法においては、予防または治療すべき疾患に関して免疫学上関連のある抗原を含むワクチンを使用すべきであることが理解される。例を挙げると、がんワクチンは、一つまたは複数のがん抗原を含むであろう。
【0099】
RNAワクチンの場合、免疫原性ペプチドまたはタンパク質を作動可能にコードし、好ましくは薬学的に許容可能な担体中に存在するRNAを、例えばがんまたは病原性感染に罹患した動物の細胞に投与するが、その際、RNAは細胞内に導入され、場合によってはプロセシング後に、保護または治療上有効な免疫応答を起こさせる能力のある、ある量の免疫原性ペプチドまたはタンパク質が産生される。
【0100】
細胞に供給されるRNA材料は、免疫原性ペプチドまたはタンパク質の全配列または一部だけを含んでよい。別のポリペプチド配列をコードする配列を含んでいてもよい。さらに、遺伝子発現の調節に関わる因子(例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、5’−UTR配列または3’−UTR配列など)を含んでいてもよい。RNAは、ある特定の遺伝子産物の免疫原性を増強する免疫刺激性配列を含んでいてもよく、および/またはポリヌクレオチドの取り込みを強化する配列を含んでいてもよい。
【0101】
なお、本発明のワクチンは、有効性に関しては、集団の一部においてしか免疫を引き起こせないことに留意されたい。というのは、強い免疫応答または保護免疫応答を起こさせる能力、または多くのケースではワクチンに対してそれぞれの免疫応答を起こさせる能力をもたないかもしれない個体が相当数あるからである。この能力欠如の原因は、個体の遺伝的背景、または免疫不全状態(後天性または先天性)、または免疫抑制(例えば、拒絶反応を妨げるため、または自己免疫状態を抑制するための、免疫抑制剤による治療)にあるかもしれない。
【0102】
ここで記載されるようなエフェクター細胞は、免疫応答中にエフェクター機能を行なう細胞である。そのような細胞は、例えば、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を殺し、感染または変性した細胞を認識し、場合によっては殺し、抗体を分泌する。その例は、それだけに限定されるものではないが、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、NK細胞、好中球、マクロファージおよび樹状細胞である。
【0103】
樹状細胞は、特定の形態および広い組織内分布をもつ異種細胞集団を包含する。樹状細胞系、および免疫系におけるその役割は、Steinman, R.M.、Annu. Rev. Immunol. 9、271〜296頁 (1991) (非特許文献36)に記載されており、その開示が参照により本明細書に組み込まれている。樹状細胞は、MHC拘束T細胞を感作する能力をもち、T細胞に抗原を提示する際にきわめて有効である。用語「樹状細胞」または「DC」は、リンパ組織または非リンパ組織に見られる、形態的に類似する種々の細胞型の雑多な集団のメンバーに関する。樹状細胞は、「プロフェッショナル」抗原提示細胞の1グループであり、MHC拘束T細胞を感作する能力をもつ。それぞれの系統および成熟度に応じて、樹状細胞は、機能または表現型、特に細胞表面表現型により識別可能である。この細胞は、ある特定の形態、食作用/エンドサイトーシス能力、表面のMHCクラスIIの高い発現度、およびT細胞、特にナイーブT細胞に抗原を提示する能力を特徴とする。機能的には、樹状細胞は、抗原提示能力を確認する試験によって同定することができる。そのような試験は、ある試験用抗原の提示によりT細胞を刺激する能力の評価、および場合によってはT細胞増殖の定量、IL−2の放出などを含み得る。
【0104】
本発明によると、in vivoまたはin vitroでRNAにさらされたリンパ系樹状細胞は、抗原提示細胞として、RNAがコードする抗原に対する免疫応答の誘導に使用することができる。
【0105】
免疫アジュバントまたはアジュバントとは、個体に投与した場合、抗原のみを投与した試験用個体と比べて、抗原に対する免疫応答を上昇させるか、免疫系細胞の特定の活性を強化させる化合物である。
【0106】
本発明によると、一つまたは複数の抗原をコードするRNAは、あらゆるアジュバントと一緒に投与することができる。その際、用語「アジュバント」は、抗原およびFlt3リガンドとは異なる上、ワクチンに組み込むと、抗原に対する宿主の免疫応答を促進、延長、または強化するあらゆる物質に関する。Flt3リガンドは、本発明によると、ここで定義されるようなアジュバントとは見なされないが、それにもかかわらず、記載されるその、免疫応答を強化する作用に基づき、アジュバントと見なすこともできる。しかしながら、明確性のためにFlt3リガンドはここではアジュバントとは呼ばない。アジュバントは、抗原表面の上昇、体内における抗原の滞留の延長、抗原放出の減速、マクロファージへの抗原のターゲティング、抗原の取り込み上昇、抗原プロセシングの増加、サイトカイン放出の促進、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞のような免疫細胞の刺激および活性化、および、他の方法による、免疫系細胞の非特異的活性化の惹起を含めた一つまたは複数の機構により、その生物作用を発揮すると推測される。アジュバントは、油エマルジョン(例えば、フロイントアジュバント)、鉱物性化合物(ミョウバンのような)、細菌産物(例えば百日咳菌毒素)、リポソームおよび免疫刺激複合体のような異種の化合物群を包含する。
【0107】
ここで定義される「補助分子」は、抗原に対する生物の免疫応答を促進、延長、または強化するために、場合によっては生物に投与される分子である。例えば、サイトカイン、成長因子などは、免疫応答を強化または調節する際に使用することができる。サイトカインには、それだけに限定されるものではないが、インターロイキン−1、2、3、4、5、6、7、10、12、15、18および23のようなインターロイキン、ケモカイン、GM−CSF、G−CSF、インターフェロンαおよびインターフェロンγ、TNF−α、TNF−βのようなTNFファミリーのメンバー、CpG配列などが含まれる。
【0108】
細胞に供給されるRNAは、アンチセンスRNAまたはsiRNAでもよい。したがって、本発明によると、ここで記載されるFlt3リガンドを用いて、アンチセンスRNAまたはsiRNAをターゲット細胞に供給することができる。
【0109】
T細胞受容体の活性を調節する組成物の能力は、in vitro試験によって簡単に定量することができる。典型的には、試験用のT細胞は、T細胞ハイブリドーマ、またはヒトのような哺乳類またはマウスのようなげっ歯類から単離されたT細胞のような、形質転換されたT細胞株によって供給される。適切なT細胞ハイブリドーマは、自由に入手可能であり、あるいはそれ自体公知の方法で作製できる。T細胞は、それ自体公知の方法で哺乳類から単離することができる。例えば、Shimonkevitz, R. et al.、1983、J. Exp. Med. 158、303頁(非特許文献37)を参照のこと。
【0110】
組成物がT細胞の活性を調節する能力をもつかどうかを決定するのに適した試験は、以下のステップ1〜4により、次のように行なわれる。T細胞は、T細胞の活性化、または活性化に続くT細胞活性の調節を示す、試験可能なマーカーを、適切な方法で発現する。したがって、活性化の際にインターロイキン−2(IL−2)を発現するマウスT細胞ハイブリドーマDO11.10を使用することができる。組成物が、このT細胞ハイブリドーマの活性を調節する能力があるかどうかを決定するために、IL−2濃度を測定することが可能である。このような適切な試験は、以下のステップにより行なわれる。
【0111】
1.例えば興味のあるT細胞ハイブリドーマから、または単離により哺乳類から、T細胞を獲得する。
【0112】
2.増殖を可能にする条件下でT細胞を培養する。
【0113】
3.成長するT細胞を、抗原とまたはその抗原をコードする核酸と接触させた抗原提示細胞と接触させる。
【0114】
4.T細胞のマーカーを試験する、例えばIL−2産生を測定する。
【0115】
試験に使用されるT細胞を、増殖に適した条件下で培養する。例えば、DO11.10−T細胞ハイブリドーマを約37℃、5%COにおいて完全培地(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L−グルタミン、および5x10−5Mの2−メルカプトエタノールを補充したRPMI 1640)中で培養するのが適切である。適切な抗原ペプチドを加えた抗原提示細胞によってT細胞活性化シグナルが供給される。
【0116】
IL−2のような発現タンパク質を測定する代わりに、公知の放射性標識法によって測定されるような、適切な方法で、抗原依存性T細胞の増殖の変化により、T細胞活性化の調節を決定することができる。例えば、標識化(トリチウム化)されたヌクレオチドを試験用培地に導入してもよい。このような標識化されたヌクレオチドのDNAへの導入が、T細胞の増殖に関する測定量として使用される。この試験は、T細胞ハイブリドーマのような、その成長に抗原提示を必要としないT細胞には適さない。この試験は、哺乳類から単離された、形質転換されていないT細胞の場合に、T細胞活性化の調節を測定するのに適している。
【0117】
標的疾患に対するワクチン接種を可能にすることも含めた免疫応答を誘導する能力は、in vivo試験によって容易に決定することができる。例えば、組成物をマウスのような哺乳類に投与し、最初の投与の時点、およびその後、定期的な間隔で数回にわたり(投与後、1、2、5および8週間というように)、その哺乳類から血液サンプルを採血することができる。血液サンプルから血清を獲得し、免疫化により生成した抗体の出現を試験する。抗体濃度を定量することが可能である。それに加えて、血液ないしリンパ性器官からTリンパ球を単離し、抗原または抗原から誘導されたエピトープに対する反応性を機能的に試験してもよい。ここでは当業者に公知のすべての「読み出し(リードアウト)」系、特に増殖アッセイ、サイトカイン分泌、細胞傷害活性、テトラマー解析を使用できる。
【0118】
核酸分子または核酸配列は、本発明によると、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)である核酸に関する。核酸は、本発明によると、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え分子および化学合成された分子を包含する。核酸は、本発明によると、一本鎖または二本鎖、および線状のまたは共有結合で閉環した分子であってよい。
【0119】
用語「RNA」は、少なくとも一つのリボヌクレオチド残基を含む分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β−D−リボフラノース基の2’−位に水酸基をもつヌクレオチドに関する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製されたRNAのような単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えRNA、ならびに、一つまたは複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる改変RNAを包含する。そのような改変としては、RNAの末端またはその内部において、例えばRNAの一つまたは複数のヌクレオチドにおいて非ヌクレオチド材料を付加することが含まれ得る。RNA分子内のヌクレオチドは、天然には存在しないヌクレオチド、または化学合成されたヌクレオチド、またはデオキシヌクレオチドのような非標準的ヌクレオチドも包含することができる。この改変RNAは、アナログ体、または天然に存在するRNAのアナログ体と呼ばれることがある。
【0120】
「mRNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味し、DNAを鋳型として使用しながら産生され、それ自体はペプチドまたはタンパク質をコードする「転写産物」に関する。mRNAは、典型的には、5’−非翻訳領域、タンパク質コード領域、および3’−非翻訳領域を含む。mRNAは、細胞内およびin vitroで、限られた半減期をもつ。本発明によると、mRNAは、in vitro転写により鋳型DNAから作製することができる。
【0121】
本発明によると、RNAは、例えばRNAの安定性および/またはRNAの翻訳効率を高める改変を含んでいてもよい。したがって、RNAには、例えば、ポリ(A)配列、特に開放末端(offen endenden)のポリ(A)配列が付与されていてもよい。開放末端のポリ(A)配列をもつRNAは、遮蔽末端(verdeckt endenden)のポリ(A)配列をもつRNAよりも効率よく翻訳されることが証明できた。さらに、長いポリ(A)配列、特に約120bpの配列が、RNAの転写産物安定性および翻訳効率の最適化をもたらすことが確認された。二重の3’−非翻訳領域(UTR)、特にヒトβグロビン遺伝子のUTRが、RNA分子内において、2つの単独のUTRを用いた場合に期待される加法的効果を明らかに上回る翻訳効率の改善をもたらすことも証明できた。前記の改変の組み合わせが、RNAの安定化および翻訳の上昇に相乗的な影響を及ぼす可能性がある。このような改変は、ここでは参照により含まれるPCT/EP2006/009448(特許文献3)に記載されており、本発明により考慮されている。
【0122】
本発明によると、好ましくは、RNAの改変、そしてそれによるRNAの安定化および/または翻訳効率の上昇が、好ましくはRNAのin vitro転写用の鋳型として使用される発現ベクターを遺伝子工学的に改変することによって達成される。
【0123】
そのようなベクターは、特に、ポリ(A)配列をもつRNAの転写を可能にするべきであり、その際、ポリ(A)配列は、好ましくはRNA中で開放末端を示す、つまりAヌクレオチド以外のいずれのヌクレオチドもポリ(A)配列にその3’末端で隣接していない。RNA中の開放末端ポリ(A)配列は、5’に位置するRNAポリメラーゼプロモーターの制御下にRNAの転写を可能にし、そしてポリアデニルカセット(ポリ(A)配列)を含む発現ベクター中に、タイプIIsの制限酵素切断部位を導入することによって達成され、その際、認識配列はポリ(A)配列の3’に位置し、切断部位は上流側に、したがってポリ(A)配列内に存在する。タイプIIsの制限酵素切断部位における制限酵素切断により、プラスミドの場合、ポリ(A)配列内でプラスミドを直線化することが可能である。直線化されたプラスミドは、鋳型としてin vitro転写に使用でき、生じる転写産物は遮蔽されていないポリ(A)配列を末端にもつ。
【0124】
さらに、または別法として、本発明によると、2つ以上の3’非翻訳領域をその3’末端に、好ましくはペプチドまたはタンパク質をコードする配列(オープンリーディングフレーム)とポリ(A)配列との間にもつRNAの転写を可能にするように、発現ベクターを遺伝子工学的に改変することによって、RNAの改変、およびそれによるRNAの安定化および/または翻訳効率の上昇を達成することができる。
【0125】
好ましい一実施形態では、本発明によると、RNAは、適切な鋳型DNAのin vitro転写によって得られる。転写を制御するためのプロモーターは、RNAポリメラーゼ用のいかなるプロモーターでもよい。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7−、T3−、SP6−RNAポリメラーゼである。好ましくは、in vitro転写は、本発明によると、T7−またはSP6−プロモーターによって制御される。
【0126】
in vitro転写用の鋳型DNAは、核酸、特にcDNAをクローニングし、その核酸を、in vitro転写に適したベクターに導入することによって製造される。
【0127】
本発明によると、用語「コードするRNA」は、抗原に関して、RNAが適切な環境、好ましくは細胞内にある場合に、抗原を産生するために発現可能であることを意味する。好ましくは、RNAは、それがコードする抗原を供給するために細胞の翻訳機構と相互作用する能力がある。
【0128】
本発明によると、RNAが複数の抗原を発現するという場合、RNAは、これら複数の抗原のうちの様々な抗原を発現する様々なRNA分子を含むことが可能である。しかしながら、本発明は、一つのRNA分子が、場合によっては互いに連結された様々な抗原を発現する場合も包含する。
【0129】
本発明によると、RNAを細胞内に導入するためには、細胞へのRNA導入に適したあらゆる技術を使用することができる。好ましくは、RNAは、標準技術によって細胞にトランスフェクトされる。そのような技術には、電気穿孔法、リポフェクション、およびマイクロインジェクションが含まれる。好ましくは、抗原をコードするRNAを細胞に導入すると、細胞内での抗原の発現が引き起こされる。
【0130】
さらに、用語「核酸」は、ヌクレオチドの塩基、糖、またはホスフェートにおける核酸の化学的誘導体化、ならびに天然には存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ体を含む核酸のような、核酸または核酸配列の誘導体も包含する。
【0131】
「核酸の3’末端」は、本発明によると、遊離の水酸基が存在する末端に関する。二本鎖核酸、特にDNAの模式図では、3’末端は常に右側に存在する。「核酸の5’末端」は、本発明によると、遊離のリン酸基が存在する末端に関する。二本鎖核酸、特にDNAの模式図では、5’末端は常に左側に存在する。
【0132】
5’末端 5’−−P−NNNNNNN−OH−3’ 3’末端
3’−HO−NNNNNNN−P−−5’
【0133】
「機能的な連結」または「機能的に連結されている」は、本発明によると、機能的な関係での連結に関する。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置されている場合、「機能的に連結されている」。例えば、プロモーターは、コード配列の転写に影響を及ぼす場合には、コード配列と機能的に連結されている。機能的に連結された核酸は、典型的には、互いに隣接しており、場合によっては別の核酸配列によって隔てられている。
【0134】
本発明により記載される核酸は、好ましくは単離されている。用語「単離された核酸」は、本発明によると、核酸が、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、in vitroで増幅されたこと、(ii)組換え技術でクローニングによって作製されたこと、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動による分離によって精製されたこと、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。単離された核酸は、組換えDNA技術による操作のために使用できる核酸である。
【0135】
本発明によると、「ある核酸配列から誘導された核酸配列」は、その核酸が誘導された元の核酸と比べて単独または多重のヌクレオチド置換、ヌクレオチド欠失、および/またはヌクレオチド付加が存在する核酸であり、その際、核酸間にはある程度の相同性が存在する、つまり、核酸どうしが、ヌクレオチドの配列順序の点で有意な直接的または相補的な一致を示す。ある核酸から誘導された核酸は、本発明によると、その核酸が誘導された元の核酸の機能特性を示す。そのような特性は、特に、核酸の発現産物の特性によって定義される。Flt3リガンドの場合は、特に、Flt3受容体に結合し好ましくは生物活性を示す、結合したFlt3受容体を介して細胞に刺激性シグナルを伝達する、および/またはワクチンRNAと共に投与した場合にRNAが引き起こす免疫応答を強化できる特性に関する。抗原の場合は、匹敵する特異性および/または反応性で免疫応答を惹起できる特性に関する。「ある核酸配列から誘導された核酸配列」の一例は、その核酸が誘導された元の核酸と比較して、例えば、ある特定の宿主生物またはある特定の宿主細胞中での発現が改善されるようにコドンが最適化された核酸である。
【0136】
ある核酸配列から誘導された配列、または用語「ある核酸配列から誘導された配列」は、好ましくは相同配列に関する。
【0137】
相同な核酸間の同一性の程度は、本発明によると、好ましくは、少なくとも70%、特に、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%である。同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約500、または少なくとも約1000の連続ヌクレオチドの領域に関して記述される。好ましい実施形態では、同一性の程度が、配列プロトコルに挙げられる核酸配列のような参照用核酸の全長に関して記述される。
【0138】
用語「〜%同一性」は、最適なアラインメントにおいて、比較されるべき2つの配列間で同一のヌクレオチドのパーセント値を意味するもので、その際、このパーセント値は、純粋に統計的なものであり、2配列間の差異はランダムかつ配列の全長にわたり分布してよく、比較される配列は、2配列間で最適のアラインメントが達成されるように、参照用配列と比べて付加または欠失を含んでもよい。2配列間の配列比較は、一般的には、局所的な配列一致領域を同定するために、セグメントまたは「比較用ウィンドウ(Vergleichsfenster)」に関する最適アラインメントに基づきこれらの配列を比較することにより行なわれる。比較用の最適アラインメントは、手動で、またはSmithおよびWaterman、1981、Ads App. Math. 2、482(非特許文献38)による局所相同性アルゴリズム、NeddlemanおよびWunsch、1970、J. Mol. Biol. 48、443(非特許文献39)による局所相同性アルゴリズム、PearsonおよびLipman、1988、Proc. Natl Acad. Sci. USA 85、2444(非特許文献40)による類似性検索アルゴリズム、またはこれらのアルゴリズムを使用するコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、およびTFASTA)を使用して行なうことができる。
【0139】
パーセントによる同一性は、比較される配列がその位置で一致する同一位置の数を求め、この数を、比較した位置数で割り、この結果を100倍することで得られる。
【0140】
例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgiから入手可能なBLASTプログラム「BLAST2 sequences」を使用してもよい。
【0141】
核酸は、特に、相補鎖の両配列が互いにハイブリダイズし、安定した二重構造をとることができる場合、別の核酸と「相同」であり、その際、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件下(ストリンジェントな条件)でハイブリダイゼーションが行なわれる。ストリンジェントな条件は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、J. Sambrook et al.編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989(非特許文献41)またはCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M. Ausubel et al.編、John Wiley & Sons, Inc.、New York(非特許文献42)に記載され、例えば、ハイブリダイゼーションバッファー(3.5xSSC、0.02%フィコール(Ficoll)、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5% SDS、2mM EDTA)中での65℃におけるハイブリダイゼーションに関する。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後に、DNAが転写された膜を、例えば、2xSSC中で室温におき洗浄してから、0.1〜0.5xSSC/0.1xSDS中で68℃までの温度において洗浄する。
【0142】
パーセントによる相補性は、ある核酸中において、第2の核酸と水素結合(例えば、ワトソン・クリック塩基対により)を形成し得る連続ヌクレオチドのパーセント値を示す。相補性核酸は、本発明によると、好ましくは、少なくとも40%、特に、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の相補性ヌクレオチドを示す。好ましくは、相補性ヌクレオチドは、完全に相補性であり、それは、すべての連続ヌクレオチドが第2の核酸中の同数の連続ヌクレオチドと水素結合することを意味する。
【0143】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換であるアミノ酸のパーセント値を示す。2ポリペプチド間または2核酸間の「配列同一性」は、これらの配列間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドのパーセント値を示す。
【0144】
核酸の「誘導体」とは、本発明によると、単独または多重のヌクレオチド置換、ヌクレオチド欠失、および/またはヌクレオチド付加が核酸中に存在することを意味する。さらに、用語「誘導体」は、ヌクレオチドの塩基、糖、またはホスフェートにおける核酸の化学的誘導体化も意味する。用語「誘導体」は、天然には存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ体を含む核酸も包含する。
【0145】
ある特定の核酸の誘導体には、特に、核酸の変異体、とりわけ、核酸のスプライス変異体、アイソフォームおよび種ホモログ、特に天然の方法で発現されるようなものが含まれる。
【0146】
核酸は、本発明によると、スプライス変異体のような変異体に関して、それ自体公知の方法で分析することができる。スプライス変異体の分析技術には、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノザンブロッティング、およびin situハイブリダイゼーションが含まれる。
【0147】
「RNAseプロテクション」と呼ばれる技術もまた、選択的にスプライスされたmRNAを同定するために使用可能である。RNAseプロテクションは、合成RNAへの遺伝子配列の転写を包含し、この合成RNAは、例えば別の細胞から誘導されたRNAにハイブリダイズされる。ハイブリダイズしたRNAを、RNA:RNAハイブリッドのミスマッチを認識する酵素とインキュベートする。予想されるよりも小さい断片は、異なってスプライスされたmRNAが存在することを示す。異なってスプライスされたと推定されるmRNAは、公知の方法でクローニングし配列決定することができる。
【0148】
異なってスプライスされたmRNAを同定するためにRT−PCRを使用することもできる。RT−PCRにおいては、逆転写酵素によりそれ自体公知の方法でmRNAがcDNAに変換される。次いでcDNAのコード配列全体が、3’非翻訳領域内にある順方向プライマー、および5’非翻訳領域内にある逆方向プライマーを用いてPCRにより増幅される。増幅産物は、選択的スプライス型に関して、例えば、増幅産物のサイズを、正常にスプライスされたmRNAから予想される産物のサイズと、例えばアガロースゲル電気泳動によって比較することにより分析可能である。増幅産物サイズに関するいかなる変化も、選択的スプライシングを示す可能性がある。
【0149】
突然変異遺伝子から誘導されたmRNAも、選択的スプライス型を同定するための前記技術により容易に同定できる。したがって、例えば、遺伝子の対立型、およびそれにより産生される、本発明によると「変異体」と見なされるmRNAを同定することができる。
【0150】
核酸は、本発明によると、単独で、または、同種もしくは異種であってもよい別の核酸との組み合わせで存在することが可能である。特定の実施形態では、ある核酸は、本発明によると、その核酸に対して同種もしくは異種であってもよい発現制御配列と機能的に連結して存在する。用語「同種」は、ある核酸が、その核酸が組み合わされて存在する核酸と天然の様式で機能的に連結していることを意味し、用語「異種」は、ある核酸が、その核酸が組み合わされて存在する核酸と天然ではない様式で機能的に連結していることを意味する。
【0151】
転写可能な核酸、特にペプチドまたはタンパク質をコードする核酸と発現制御配列は、転写可能な核酸、特にコードされた核酸の転写または発現が発現制御配列の制御下または影響下に置かれるように互いに共有結合されている場合には、「機能的に」互いに連結している。核酸が、機能ペプチドまたは機能タンパク質に翻訳される場合、発現制御配列がコード配列と機能的に連結していれば、コード配列内でのリーディングフレームのずれが生じることも、またはコード配列が所望のペプチドまたはタンパク質に翻訳されないこともなく、発現制御配列の誘導が、コード配列の転写をもたらす。
【0152】
用語「発現制御配列」は、本発明によると、プロモーター、リボゾーム結合配列、および、遺伝子の転写またはその遺伝子から誘導されたRNAの翻訳を制御するその他の制御因子を包含する。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列は調節可能である。発現制御配列の詳細な構造は、種または細胞型に応じて変わり得るが、一般的には、転写または翻訳の開始に関与するTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの5’−非転写配列、および5’−および3’−非翻訳配列が含まれる。特に、5’−非転写発現制御配列は、機能的に連結された遺伝子の転写を制御するためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現制御配列は、エンハンサー配列または上流の適当なアクチベーター配列を含んでもよい。
【0153】
用語「プロモーター」または「プロモーター領域」は、遺伝子のコード配列の上流(5’)に位置し、RNAポリメラーゼの認識部位および結合部位を提供することによりコード配列の発現を制御する、DNA配列に関する。プロモーター領域は、遺伝子の転写調節に関与するさらなる因子用の別の認識部位または結合部位を含んでいてもよい。プロモーターは、原核生物または真核生物の遺伝子転写を制御できる。プロモーターは、「誘導可能」であり誘導剤に反応して転写を開始できるものでもよく、または転写が誘導剤によって制御されない場合は「構成的」であってもよい。誘導型プロモーターは、誘導剤が欠けている場合、全くまたはわずかな量しか発現されない。誘導剤の存在下で、遺伝子が「スイッチオン」され、または転写レベルが上昇する。これは、従来の方法により、特異的な転写因子の結合によって仲介される。
【0154】
本発明によると、好ましいプロモーターは、例えば、SP6−、T3−またはT7−ポリメラーゼ用のプロモーターである。
【0155】
用語「発現」は、本発明によると、そのきわめて一般的な意味で用いられ、RNAの産生、またはRNAおよびタンパク質の産生を包含する。この用語は、核酸の部分的発現も包含する。RNAに関しては、用語「発現」または「翻訳」は、特にペプチドまたはタンパク質の産生に関する。発現は、一過性に起こっても、また安定に起こってもよい。
【0156】
タンパク質またはペプチドをコードする核酸は、本発明によると、あるペプチド配列をコードする別の核酸と連結して存在してよく、このペプチド配列は、例えば、核酸によってコードされるタンパク質またはペプチドの、宿主細胞からの分泌を制御し、または核酸によってコードされるタンパク質またはペプチドの免疫原性を高める。さらに、核酸は、本発明によると、コードされるタンパク質またはペプチドを宿主細胞の細胞膜に固定させる、またはこの細胞の特定の細胞小器官にそれをコンパートメント化させる、ペプチド配列をコードする別の核酸と連結して存在してもよい。
【0157】
同様に、レポーター遺伝子または任意の「タグ」である核酸との連結であることができる。
【0158】
用語「転写」は、本発明によると、DNA配列中の遺伝コードがRNAに転写されるプロセスであり、続いてRNAはタンパク質に翻訳可能である。本発明によると、用語「転写」は「in vitro転写」を包含し、ここで、用語「in vitro転写」は、RNA、特にmRNAが無細胞で、つまり好ましくは、相応に処理された細胞抽出物を用いてin vitroで合成される方法に関する。好ましくは、転写産物を製造するためにクローニングベクターが使用され、このベクターは一般的には転写ベクターと呼ばれ、本発明によると、これも用語「ベクター」に含まれる。
【0159】
用語「翻訳」は、本発明によると、mRNA鎖がアミノ酸配列の組み合わせを制御してタンパク質またはペプチドを製造する、リボゾーム上でのプロセスに関する。
【0160】
3’非翻訳領域は、遺伝子の3’末端でタンパク質コード領域の終止コドンの下流に位置し、転写はされるもののアミノ酸配列には翻訳されない領域に関する。
【0161】
本発明によると、第1ポリヌクレオチド領域の5’末端が、第1ポリヌクレオチド領域のうち第2ポリヌクレオチド領域の3’末端に最も近くにある部分である場合に、第1ポリヌクレオチド領域は、第2ポリヌクレオチド領域の下流に位置すると見なされる。
【0162】
3’非翻訳領域は、典型的には、翻訳産物の終止コドンから、通常の方法で転写プロセス後に付加されるポリ(A)配列まで及ぶ。哺乳類mRNAの3’非翻訳領域は、典型的には、相同領域を示し、これはAAUAAAヘキサヌクレオチド配列として公知である。この配列は、おそらくポリ(A)付加シグナルである。このシグナルは、ポリ(A)付加部位から10〜30塩基上流に位置することが多い。
【0163】
3’非翻訳領域は、一つまたは複数の逆向きの繰り返しを含んでいてよく、この繰り返しは、ステムループ構造に折りたたまれることが可能であり、エキソリボヌクレアーゼへのバリアとして機能し、またはRNA安定性を高めることが公知であるタンパク質(例えば、RNA結合タンパク質)と相互作用する。
【0164】
5’−および/または3’非翻訳領域は、本発明によると、転写可能な核酸と、特にコードされた核酸と機能的に連結していてよく、その結果、この領域は、転写可能な核酸から転写されるRNAの安定性および/または翻訳効率を高めるようにその核酸と関係している。
【0165】
免疫グロブリンmRNAの3’非翻訳領域は比較的短い(約300ヌクレオチド未満)が、別の遺伝子の3’非翻訳領域は比較的長い。例えば、tPAの3’非翻訳領域は約800ヌクレオチド長であり、第VIII因子の3’非翻訳領域は約1800ヌクレオチド長であり、エリスロポエチンの3’非翻訳領域は約560ヌクレオチド長である。
【0166】
本発明によると、3’非翻訳領域またはそれから誘導された核酸配列を、ある遺伝子の3’非翻訳領域に挿入し、この挿入により、合成されるタンパク質の量が増加するかどうかを測定することによって、3’非翻訳領域またはそれから誘導された核酸配列がRNAの安定性および/または翻訳効率を高めるかどうかを確定することができる。
【0167】
前記のことは、本発明によると核酸が2つ以上の3’非翻訳領域を含み、好ましくはそれらの3’非翻訳領域がその間にリンカーを挟んでまたは挟まずに連続して、好ましくは「ヘッド−テールの関係(Kopf−an−Schwanz−Beziehung)」(つまり、3’非翻訳領域が同じ向き、好ましくは核酸中で天然に存在する向きを示す)で連結されている場合にも同様に当てはまる。
【0168】
用語「遺伝子」は、本発明によると、一つまたは複数の細胞産物の産生および/または一つまたは複数の細胞間または細胞内機能の達成を担う、ある特定の核酸配列に関する。特に、この用語は、特定のタンパク質を、または機能性もしくは構造性RNA分子をコードする核酸を含むDNA断片に関する。
【0169】
用語「ポリアデニルカセット」または「ポリ(A)配列」は、典型的にはRNA分子の3’末端に位置するアデニル残基配列に関する。本発明によると、そのような配列は、コード鎖と相補な鎖中の繰り返しチミジル残基をもとに、RNA転写の際に鋳型DNAによって付加されることが企図されている。他方、通常は、そのような配列はDNA中にはコードされておらず、鋳型非依存性RNAポリメラーゼによって、転写後に細胞核内でRNAの遊離3’末端に付加される。本発明によると、少なくとも20、好ましくは少なくとも40、好ましくは少なくとも80、好ましくは少なくとも100の、そして好ましくは500まで、好ましくは400まで、好ましくは300まで、好ましくは200まで、特に150までの連続するAヌクレオチドのヌクレオチド配列、特に約120の連続するAヌクレオチドがそのようなポリ(A)配列と理解され、用語「Aヌクレオチド」はアデニル残基を意味する。
【0170】
「制限エンドヌクレアーゼ」または「制限酵素」は、DNA分子の両鎖において特異的塩基配列内でホスホジエステル結合を切断する一群の酵素を意味する。この酵素は、二本鎖DNA分子上で、認識配列と呼ばれる特異的な結合部位を認識する。DNA内のホスホジエステル結合が酵素によって切断される部位は、切断部位と呼ばれる。タイプIIsの酵素では、切断部位は、DNA結合部位から定められた間隔だけ離れた位置にある。用語「制限エンドヌクレアーゼ」は、本発明によると、例えば、酵素SapI、EciI、BpiI、AarI、AloI、BaeI、BbvCI、PpiIおよびPsrI、BsrD1、BtsI、EarI、BmrI、BsaI、BsmBI、FauI、BbsI、BciVI、BfuAI、BspMI、BseRI、EciI、BtgZI、BpuEI、BsgI、MmeI、CspCI、BaeI、BsaMI、Mva1269I、PctI、Bse3DI、BseMI、Bst6I、Eam1104I、Ksp632I、BfiI、Bso31I、BspTNI、Eco31I、Esp3I、BfuI、Acc36I、AarI、Eco57I、Eco57MI、GsuI、AloI、Hin4I、PpiIおよびPsrIを包含する。
【0171】
「半減期」は、分子の活性、量または数を半分だけ除去するのに必要とされる時間に関する。
【0172】
好ましい一実施形態では、核酸分子は、本発明によるとベクターである。用語「ベクター」は、ここでは、その最も一般的な意味で用いられ、例えば、原核生物および/または真核生物の宿主細胞に核酸を導入し、そして場合によってはゲノムに組み込むことを可能にする、核酸用のあらゆる仲介媒体を包含する。そのようなベクターは、好ましくは、細胞内で複製および/または発現される。ベクターには、プラスミド、ファージミド、またはウイルスゲノムが含まれる。ここで用いられる用語「プラスミド」は、一般的には染色体外の遺伝子材料からなるコンストラクトであり、通常は、染色体DNAに依存せずに複製できる環状DNA二本鎖に関する。
【0173】
用語「宿主細胞」は、本発明によると、外来核酸で、好ましくはDNAまたはRNAで形質転換またはトランスフェクション可能なあらゆる細胞に関する。用語「宿主細胞」は、本発明によると、原核生物(例えば、E.coli)または真核生物の細胞(例えば、哺乳類細胞、特にヒト由来の細胞、酵母細胞および昆虫細胞)を包含する。特に好ましいのは、ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、および霊長類由来の細胞のような哺乳類細胞である。細胞は、多数の組織型から誘導されたものでよく、初代細胞および細胞株も含まれる。特定の例としては、表皮細胞、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚性幹細胞がある。別の実施形態では、宿主細胞は、抗原提示細胞であり、ここでは、用語「抗原提示細胞」は、本発明によると、樹状細胞、単球、およびマクロファージを包含する。核酸は、宿主細胞中において唯一のまたは複数のコピーで存在してよく、一実施形態では宿主細胞内で発現される。
【0174】
用語「ペプチド」は、2つ以上、好ましくは3つ以上、好ましくは4つ以上、好ましくは6つ以上、好ましくは8つ以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは20個以上で、そして好ましくは50個まで、好ましくは100個まで、または好ましくは150個までの連続する、ペプチド結合で相互に結合されたアミノ酸を含む物質に関する。用語「タンパク質」または「ポリペプチド」は、大きなペプチド、好ましくは少なくとも151個のアミノ酸をもつペプチドに関するが、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ここでは一般的に同義語として用いられる。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本発明によると、アミノ酸成分のみならず糖およびリン酸構造のような非アミノ酸成分も含む物質を包含し、エステル結合、チオエーテル結合またはジスルフィド結合のような結合を含む物質も包含する。
【0175】
あるアミノ酸配列から誘導された配列、または用語「あるアミノ酸配列から誘導された配列」は、本発明によると、第1の配列の相同配列および誘導体に関する。
【0176】
あるアミノ酸配列から誘導された配列は、本発明によると、その配列が誘導された元のアミノ酸配列の機能特性を示す。Flt3リガンドの場合は、特に、Flt3受容体に結合し好ましくは生物活性を示し、結合したFlt3受容体を介して細胞に刺激性シグナルを伝達し、および/またはワクチンRNAと共に投与した場合にRNAが引き起こす免疫応答を強化することのできできる特性に関する。抗原の場合は、匹敵する特異性および/または反応性で免疫応答を惹起できる特性に関する。
【0177】
タンパク質またはポリペプチドまたはアミノ酸配列の「ホモログ」または「誘導体」は、本発明の趣旨においては、アミノ酸の挿入変異体、アミノ酸の欠失変異体および/またはアミノ酸の置換変異体を包含する。
【0178】
アミノ酸の挿入変異体は、ある特定のアミノ酸配列におけるアミノ末端および/またはカルボキシ末端側での融合、ならびに、単独または複数のアミノ酸の挿入を含んでいる。挿入を伴うアミノ酸配列変異体では、アミノ酸配列中のあらかじめ決められた位置に一つまたは複数のアミノ酸残基が導入されるが、生じた産物の適切なスクリーニングを伴うランダムな挿入も可能である。アミノ酸の欠失変異体は、配列から一つまたは複数のアミノ酸が除去されることを特徴とする。アミノ酸の置換変異体は、配列中の少なくとも1残基が除去され、その位置に別の1残基が挿入されることを特徴とする。好ましくは、アミノ酸配列中の、相同タンパク質または相同ペプチド間で保存されない位置で改変が生じる。好ましくは、アミノ酸が、疎水性、親水性、電気陰性度、側鎖の大きさなど類似の特性をもつ別のアミノ酸で置換される(保存的置換)。保存的置換は、例えば、アミノ酸が別のアミノ酸で交換されるものであり、その際、両方のアミノ酸とも以下で同一グループに挙げられているものである。
【0179】
1.小さな、非極性または弱極性の脂肪族残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly)
2.負に荷電した残基およびそのアミド:Asn、Asp、Glu、Gln
3.正に荷電した残基:His、Arg、Lys
4.大きな非極性の脂肪族残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys)
5.大きな芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
【0180】
3つの残基は、タンパク質構造に対するその特別な役割から括弧に入れてある。Glyは、側鎖をもたない唯一の残基であり、したがって鎖に可撓性を与える。Proは、鎖を強く制限する特異な幾何形状をもつ。Cysはジスルフィド結合を形成できる。
【0181】
前記のアミノ酸変異体は、公知のペプチド合成技術、例えば「固相合成」(Merrifield、1964)および類似法により、または組換えDNA操作により容易に製造できる。公知または部分的に公知の配列をもつDNAのあらかじめ定められた位置に置換変異を導入する技術はよく知られており、例えば、M13突然変異誘発が含まれる。置換、挿入または欠失をもつタンパク質を製造するためのDNA配列の操作、およびタンパク質を、例えば生物系(哺乳類系、昆虫系、植物系、およびウイルス系)で発現するための一般的な組換え法は、例えばSambrook et al.(1989)(非特許文献41)に詳細に記載されている。
【0182】
タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」は、本発明によると、そのタンパク質またはポリペプチドと結合している、炭水化物、脂質および/またはタンパク質またはポリペプチドなどあらゆる分子の単独または多重の置換、欠失、および/または付加も包含する。
【0183】
一実施形態では、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質分解的切断、または抗体もしくは別の細胞リガンドへの結合によって生じる改変アナログ体を包含する。タンパク質またはポリペプチドの誘導体は、例えば、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBHを用いた化学的切断、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元のような別の方法によっても、またはツニカマイシン存在下に代謝合成することによっても製造できる。
【0184】
さらに、用語「誘導体」は、タンパク質またはポリペプチドのあらゆる機能性化学的等価物にも拡張される。
【0185】
ある特定のタンパク質またはペプチドの誘導体は、タンパク質またはペプチドの翻訳後修飾された変異体、アイソフォーム、および種ホモログ、特に天然の方法で発現するようなものにも関する。
【0186】
本発明により記載されるタンパク質およびペプチドは、好ましくは単離されている。用語「単離タンパク質」または「単離ペプチド」は、タンパク質またはペプチドがその自然環境から単離されたことを意味する。単離タンパク質または単離ペプチドは、本質的に精製された状態で存在してよい。用語「本質的に精製された」とは、タンパク質またはペプチドが、天然またはin vivoでは結合している別の物質を本質的に含まないことを意味する。
【0187】
本発明により記載されるタンパク質またはペプチドは、組織ホモジネートまたは細胞ホモジネートのような生物サンプルから単離することができ、または多数の原核生物および真核生物発現系で発現させることができる。
【0188】
好ましくは、ここで記載されるアミノ酸配列とそのアミノ酸配列から誘導されたアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%である。類似性または同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約60個、少なくとも約80個、少なくとも約100個、少なくとも約150個、少なくとも約200個、少なくとも約250個、または少なくとも約300個の連続するアミノ酸領域に関して記述される。好ましい実施形態では、同一性の程度は、参照用アミノ酸配列の全長に関して記述される。
【0189】
アミノ酸配列の同一性に関しては、核酸配列の同一性に関して前記したことが、同様に当てはまる。
【0190】
タンパク質またはペプチドの一部分つまり断片、または誘導体は、本発明によると、好ましくは、それが誘導された元のタンパク質またはペプチドの機能特性を示す。そのような機能特性は、Flt3リガンドおよび抗原に関して先に述べたが、例えば、免疫反応性、特に抗体との相互作用、または別のペプチドもしくはタンパク質との相互作用がそれに含まれる。重要な特性は、MHC分子もしくはFlt3受容体と複合体を形成する能力、および場合によっては、例えば細胞傷害性T細胞またはヘルパーT細胞を刺激または阻害することにより免疫反応を起こすもしくは阻止する能力、または細胞反応を引き起こす能力である。タンパク質またはペプチドの一部分は、好ましくは、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個で、そして好ましくは8個まで、10個まで、12個まで、15個まで、20個まで、30個まで、または50個までの、タンパク質またはペプチドに由来する連続するアミノ酸の配列を含む。一実施形態では、タンパク質またはペプチドの一部は、本発明によると、完全なペプチドまたはタンパク質に由来する一つまたは複数のエピトープに関し、その際、複数のエピトープが、天然の結合状態で存在してもよく、または人工的、つまり天然には存在しない結合を示してもよく、つまり、エピトープが、例えば人工的リンカーによって互いに隔てられていてもよい。好ましくは、タンパク質またはペプチドの一部分は、本発明によると、患者における免疫応答の標的、特にエピトープであるような配列に関する。好ましい実施形態では、この配列は、抗体および/またはT細胞が仲介する免疫応答の標的である。本発明により使用されるペプチド、タンパク質または誘導体は、その上、抗体またはT細胞用のエピトープであるような配列を複数含んでいてもよい。
【0191】
タンパク質またはペプチドをコードする核酸の一部分つまり断片は、本発明によると、好ましくは、少なくとも、タンパク質またはペプチドおよび/または前記で定義されるような、タンパク質またはペプチドの一部分をコードする核酸部分に関する。タンパク質またはペプチドをコードする核酸の一部分は、好ましくは、オープンリーディングフレームに対応する核酸部分に関する。
【0192】
本発明により記載される医薬調製物および組成物は、既存の疾患を治療するために治療上、またはここに記載される疾患を阻止するための免疫化用のワクチンとして予防上、使用することができる。
【0193】
腫瘍関連抗原を抗原として使用する際に、例えばがんに対する免疫化作用の試験用に、動物モデルを使用することができる。その際、腫瘍を生み出すために、例えば、ヒトがん細胞をマウスに導入し、腫瘍関連抗原をコードするRNAを含む、本発明の調製物または本発明の組成物を投与することが可能である。がん細胞に対する作用(例えば、腫瘍サイズの減少)を、免疫化の有効性の尺度として測定することが可能である。
【0194】
免疫化用組成物の一部分として、一つまたは複数のワクチンRNAを、免疫応答を誘導するまたは高めるための一つまたは複数のアジュバントと共に投与することができる。
【0195】
患者の免疫応答を刺激する別の物質も投与可能である。例えば、リンパ球に対するその調節特性の故に、ワクチン接種の際に、サイトカインを使用することができる。そのようなサイトカインには、例えば、ワクチンの保護作用を強化することが示されたインターロイキン−12(IL−12)(Science 268、1432〜1434頁、1995(非特許文献43)を参照)、GM−CSF、およびIL−18が含まれる。
【0196】
哺乳類で免疫応答を誘導するための本発明の方法は、一般的には、Flt3リガンドと共に投与すると、好ましくは予防上および/または治療上の免疫応答を引き起こす、ある量のワクチンRNAを投与することを含む。
【0197】
用語「トランスフェクション」は、本発明によると、生物または宿主細胞への一つまたは複数の核酸の導入に関する。本発明によると、核酸をin vitroまたはin vivoで細胞に導入するためには、様々な方法が使用できる。そのような方法としては、核酸CaPO沈殿物のトランスフェクション、DEAEに結合した核酸のトランスフェクション、興味のある核酸を運ぶウイルスを用いたトランスフェクションまたは感染、リポソーム仲介トランスフェクションなどが含まれる。特定の実施形態では、特定細胞に核酸を導くことが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために使用される担体(例えば、レトロウイルスまたはリポソーム)は、結合されたターゲティング分子を有する。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体、または標的細胞上の受容体のリガンドのような分子を核酸担体に挿入するか結合させることが可能である。リポソームによる核酸の投与が望ましい場合、ターゲティングおよび/または取り込みを可能にするためには、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合しているタンパク質をリポソーム調合物に組み込んでもよい。そのようなタンパク質としては、ある特定の細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはその断片、内在化するタンパク質に対する抗体、細胞内の部位をめざすタンパク質などが含まれる。
【0198】
本発明によると、核酸の投与は、ネイキッド核酸としてまたは投与用試薬と共に行うことができる。例えば、本発明によると、in vivoでのターゲットリポソームを使用した核酸の投与も企図されている。
【0199】
核酸の投与には、アデノウイルス(AV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルスなど)またはヘルペスウイルスから誘導されたベクターなどが使用可能である。ウイルス性ベクターの向性は、別のウイルスからの外殻タンパク質または別の表面抗原によるベクターのシュードタイプにより、または様々なウイルスキャプシドタンパク質の置換により適切に改変できる。
【0200】
リポソームは、ある特定の組織への核酸の供給を支援し、核酸の半減期を延ばすこともできる。本発明によると、適切なリポソームは、一般的には中性または負に荷電したリン脂質を含む標準の小胞形成脂質、およびコレステロールのようなステロールから形成される。脂質の選択は、一般的には、所望のリポソームサイズ、およびリポソームの半減期のような要因によって決定される。リポソームを調製する多数の方法が公知である。例えば、Szoka et al.(1980)、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9、467頁(非特許文献44)、および米国特許第4,235,871号(特許文献4)、米国特許第4,501,728号(特許文献5)、米国特許第4,837,028号(特許文献6)、米国特許第5,019,369号(特許文献7)を参照のこと。
【0201】
特定の実施形態では、特定細胞に核酸を導くことが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために使用される担体(例えば、レトロウイルスまたはリポソーム)は、結合されたターゲティング分子を有する。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体、または標的細胞上の受容体のリガンドなどの分子を核酸担体に挿入するか結合させることが可能である。リポソームによる核酸の投与が望ましい場合、ターゲティングおよび/または取り込みを可能にするためには、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム調合物に組み込んでもよい。そのようなタンパク質としては、ある特定の細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはその断片、内在化するタンパク質に対する抗体、細胞内の部位をめざすタンパク質などが含まれる。
【0202】
好ましくは、RNaseインヒビターのような安定化物質と共にRNAを投与する。
【0203】
ポリペプチドおよびペプチドの投与は、それ自体公知の方法で行なうことができる。
【0204】
用語「患者」、「個体」または「生物」は、哺乳類に関する。例を挙げると、本発明に考慮される哺乳類は、ヒト、霊長類、イヌ、ネコなどのようなペット、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどのような家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどのような実験動物、ならびに動物園で飼育されている動物のようなおりに入れられた動物である。ここで用いられるように、用語「動物」は、ヒトを含む。
【0205】
「高まった」、「増す」または「強化する」のような用語は、好ましくは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、または少なくとも100%の、あるいは非存在および/または検出不可能状態から存在および/または検出可能状態への上昇、増加、強化に関する。
【0206】
用語「T細胞」および「Tリンパ球」は、ここでは交換可能に用いられ、Tヘルパー細胞、および細胞傷害性T細胞のような細胞溶解性T細胞を包含する。
【0207】
「減少する」または「阻害する」は、20%以上、さらに好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の低下といった低下をもたらす能力に関する。
【0208】
Flt3リガンドを使用する免疫化プロトコルは、疾患または感染を予防および/または治療する目的で、Flt3リガンドとRNAを、混合物中でまたは互いに別々に、場合によっては一つまたは複数の補助物質、ならびに別の付随する分子および/または調合物(希釈剤、担体、賦形剤など)と組み合わせて、生物に投与することに関する。Flt3リガンドおよびRNA、およびここで記載される他のあらゆる成分は、いかなる用量、順序、頻度、および時間的手順でも投与可能である。治療を最適化する目的で、このパラメータを当業者が通例通り変更してもかまわないことを当業者は認めるであろう。
【0209】
本発明による、ワクチンRNA、Flt3リガンドまたはその両方を含む医薬組成物は、好ましくは、薬学的に許容可能な組成物中で投与される。そのような組成物は、通常、薬学的に許容可能な濃度の塩、緩衝物質、保存料、担体、アジュバント(例えば、CpGオリゴヌクレオチド)およびサイトカインのような補助的な免疫増強物質、および場合によっては治療上の作用物質を含んでもよい。
【0210】
本発明の医薬組成物は、注射または注入を含めたあらゆる通常の方法で投与可能である。投与は、例えば、経口、静脈内、腹腔内、筋内、皮下、皮内、経皮、リンパ内に、好ましくはリンパ節、特に鼠径リンパ節、リンパ管および/または脾臓への注射によって行なうことができる。
【0211】
RNAおよびFlt3リガンドの投与は、互いに別々に、つまり異なる組成物により、または共通の組成物により行なってよい。投与が互いに別々に行なわれる場合、RNAとFlt3リガンドの投与は同時に、または異なる時点に行なってもよく、その際、RNAおよび/またはFlt3リガンドの投与は複数回行なってもよい。RNAとFlt3リガンドの投与が異なる時点で行なわれる場合、投与間の時間間隔、あるいは複数回の投与の場合は、RNAまたはFlt3リガンドの最終投与と残りのそれぞれの成分の最初の投与との時間間隔は、6時間以上、12時間以上、24時間以上、2日以上、3日以上、5日以上、7日以上、または9日以上でよい。好ましくは、投与間の時間間隔は、24時間、2日、4日、8日または10日を超えない。好ましくは、RNAを投与する前にFlt3リガンドを投与する。RNAとFlt3リガンドの投与が互いに別々に行なわれる場合は、RNAの投与は好ましくはリンパ内、さらに好ましくはリンパ節内に、そしてFlt3リガンドの投与は、好ましくは静脈内、腹腔内、筋内、皮下、皮内、または経皮、好ましくは腹腔内または皮下に行なわれる。
【0212】
本発明の組成物は、有効な量で投与される。「有効な量」は、単独でまたは別の用量と合わせて所望の応答または所望の作用を達成する量に関する。ある特定の疾患またはある特定の状態を治療する場合、所望の応答とは、病気の進行阻害に関するものである。それには、病気の進行減速、および特に病気の進行妨害が含まれる。ある疾患または状態を治療する際の所望の応答は、疾患または状態の発生の遅延でもまたは発生の阻止でもよい。
【0213】
本発明の組成物の有効量は、治療される状態、病気の重篤さ、患者の個々のパラメータ(年齢、生理状態、身長および体重を含む)、治療期間、付随治療の種類(付随治療がある場合)、特殊な投与法および類似の要因に依存する。
【0214】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、所望の応答または所望の作用を起こすために有効な量の有効物質を含む。
【0215】
本発明の組成物の投与量は、投与法、患者の状態、所望の投与期間などのような様々なパラメータに依存し得る。初期用量における患者の応答が不十分である場合には、より高い用量(または別の、強く局在化された投与法によって達成される実質的に高い用量)を使用することが可能である。
【0216】
一般的には、治療のため、または免疫応答を惹起または上昇するために、好ましくは、1ng〜700μg、1ng〜500μg、1ng〜300μg、1ng〜200μg、または1ng〜100μgの用量のRNAを処方し投与する。
【0217】
本発明の医薬組成物は、一般的には、薬学的に許容可能な量かつ薬学的に許容可能な組成で投与される。そのような組成物は、通常の塩、緩衝物質、保存料、担体、および場合によっては治療上の作用物質を含んでいてもよい。医薬品中で使用する場合、塩は、薬学的に許容可能なものであるべきである。しかしながら、薬学的に許容されない塩を、その薬学的に許容可能な塩を調製するために使用してもよく、これも本発明に包含される。そのような薬理学的および薬学的に許容可能な塩としては、それだけに限定されるものではないが、以下の酸、つまり塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸などから調製される塩が含まれる。薬学的に許容可能な塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩のようなアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として調製してもよい。
【0218】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体を含んでいてもよい。用語「薬学的に許容可能な担体」は、本発明によると、一つまたは複数の、適合性のある固体または液体増量剤、希釈剤、またはヒトに投与する際に適したカプセル物質に関する。用語「担体」は、使用を容易にするために、その中で活性成分が組み合わされる、天然または合成の有機成分または無機成分に関する。本発明の医薬組成物の成分は、通常、所望の薬学的な効果を本質的に損なう相互作用が起こらないものである。
【0219】
好ましくは、担体は、無菌の液体、例えば水または油(石油、動物もしくは植物に由来するまたは合成起源の油、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ごま油、ヒマワリ油などを含む)である。塩溶液ならびにデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液も水性担体物質として使用可能である。
【0220】
補助物質および担体物質の例は、アクリル誘導体、メタクリル誘導体、アルギン酸、α−オクタデシル−ω−ヒドロキシポリ(オキシエチレン)−5−ソルビン酸のようなソルビン酸誘導体、アミノ酸およびその誘導体、特にコリン、レシチンおよびホスファチジルコリンのようなアミン化合物、アラビアゴム、矯味剤、アスコルビン酸;炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、および炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム;ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムのリン酸水素塩およびリン酸塩、カルメロースナトリウム、ジメチコン、染料、調味料、緩衝物質、保存料、増粘剤、可塑剤、ゼラチン、グルコースシロップ、麦芽、高分散シリカ、ヒドロメロース、安息香酸塩、特に安息香酸ナトリウムおよびカリウム、マクロゴール、脱脂粉乳、酸化マグネシウム、脂肪酸ならびにその誘導体および塩、例えば、ステアリン酸およびステアリン酸塩、特にステアリン酸マグネシウムおよびカルシウム、脂肪酸エステルならびに食用脂肪酸のモノおよびジグリセリド、天然および合成ろう、例えば、蜜ろう、黄ろうおよびモンタングリコールろう、塩化物、特に塩化ナトリウム、ポリビドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン;油、例えば、ヒマシ油、ダイズ油、ヤシ油、パーム核油;糖および糖誘導体、特に単糖および二糖類、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、キシロース、スクロース、デキストロースおよびセルロースならびにその誘導体、シェラック、デンプンおよびデンプン誘導体、特にコーンスターチ;獣脂、タルク、二酸化チタン、酒石酸;糖アルコール、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトールおよびキシリトールならびにその誘導体;グリコール、エタノールおよびその混合物である。
【0221】
また、医薬組成物は好ましくは、湿潤剤、乳化剤および/またはpH緩衝剤をさらに含んでもよい。
【0222】
さらなる一実施形態において、医薬組成物は吸収増強剤を含んでもよい。所望の場合、組成物中において等モル量の担体物質をこの吸収増強剤で置き換えてもよい。そのような吸収増強剤の例としては、それだけに限定されるものではないが、オイカリプトール、N,N−ジエチル−m−トルアミド、ポリオキシアルキレンアルコール(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、N−メチル−2−ピロリドン、ミリスチン酸イソプロピル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、尿素、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる(例えば、Percutaneous Penetration Enhancers, Smith et al.編 (CRC Press, 1995)(非特許文献45)を参照)。組成物中の吸収増強剤の量は、達成しようとする所望の作用に依存し得る。
【0223】
ペプチドまたはタンパク質作用物質の分解を予防し、バイオアベイラビリティを高めるために、プロテアーゼインヒビターを本発明の組成物、特にFlt3リガンドを含む組成物に組み込むことができる。プロテアーゼインヒビターの例としては、それだけに限定されるものではないが、アプロチニン、ロイペプシン、ペプスタチン、α2マクログロブリンおよびトリプシンインヒビターが含まれる。これらのインヒビターは、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0224】
本発明の医薬組成物には一つまたは複数のコーティングを施すことができる。好ましくは、固形経口剤形は、胃液に耐性のコーティングを施されるか、または胃液に耐性の硬化軟ゼラチンカプセルの形態にある。
【0225】
本発明の医薬組成物は、酢酸の塩、クエン酸の塩、ホウ酸の塩およびリン酸の塩のような適切な緩衝物質を含んでいてもよい。
【0226】
医薬組成物はまた、場合によっては、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールのような適切な保存料を含んでもよい。
【0227】
医薬組成物は通常、単位剤形で提供され、それ自体公知の方法で製造することができる。本発明の医薬組成物は、例えば、カプセル、錠剤、ロゼンジ、液剤、懸濁剤、シロップ、エリキシル剤の形態であるか、または乳濁液であってもよい。
【0228】
通常、非経口投与に適した組成物は、好ましくはレシピエントの血液と等張の、水性または非水性の無菌調製物を含む。許容可能な担体および溶剤は、例えば、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常は、無菌の不揮発性油を溶解媒体または懸濁媒体として用いる。
【0229】
以下の実施例および図面により本発明を詳細に記載する。これらはもっぱら説明のためのものであり、限定と理解すべきでない。説明および実施例に基づいて、当業者は本発明の範囲および添付の請求項の範囲を逸脱しないさらなる実施形態に至ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】C57Bl/6マウス(n=3〜9)に10μgのFlt3Lを異なる時点(1日目〜3日目または1日目、1日目、3日目、または0日目、3日目)で腹腔内投与した。10日目にリンパ節(LK)ならびに脾臓を調製し、細胞数を決定した。データは、リンパ節の平均細胞数+標準誤差を示す。*:チューキーの多重比較検定においてp<0.05。
【図2】C57Bl/6マウス(n=3)に10μgのFlt3Lを2度(0日目、3日目)腹腔内投与した。10日目に鼠径リンパ節を調製し、適切な抗体で細胞を染色し、樹状細胞の亜集団をフローサイトメトリーで定量した。データは、亜集団の平均細胞数+標準誤差を示す。両側独立t検定において*:p<0.05および**:p<0.001。
【図3】麻酔をかけたC57Bl/6マウス(n=5)にそれぞれ20μgのSIINFEKLをコードするRNAを2度(0日目、3日目)鼠径リンパ節に投与した。マウスに様々なアジュバントを投与した(MPLA 0日目+3日目、20μg皮下;Poly I:C 0日目+3日目、20μg皮下;アルダラクリーム 0日目+3日目、5μg経皮;GM−CSF −2日目、−1日目、1日目、2日目、5μg皮下;IL−2(プロロイキン)1日目〜6日目、80000IU皮下;Flt3L d−7とd−4、10μg腹腔内)。8日目にマウスから採血し、SIINFEKLテトラマーおよび抗CD8抗体で染色した後、フローサイトメトリーでエピトープ特異的Tリンパ球の頻度を定量した。データは、2度の実験によるテトラマー陽性CD8Tリンパ球の平均頻度+標準誤差を示す。チューキーの多重比較検定において*:p<0.05および**:p<0.001。
【図4】C57Bl/6マウス(n=4)に10μgのFlt3LまたはIgG4を2度(0日目、3日目)腹腔内投与した。7日目と10日目に、麻酔をかけたマウスにそれぞれ20μgのSIINFEKLをコードするRNAを鼠径リンパ節に投与した。15日目に脾臓および鼠径リンパ節を調製した。(a)SIINFEKLテトラマーおよび抗CD8抗体で染色した後、フローサイトメトリーでエピトープ特異的Tリンパ球の頻度を定量した。示したデータは、テトラマー陽性CD8Tリンパ球の平均数および平均頻度+標準誤差を表す。(b)IFN−γを産生するSIINFEKL特異的Tリンパ球を測定するために、脾臓細胞を、SIINFEKLペプチドまたは対照ペプチドと共に6時間インキュベートした。1.5時間後にブレフェルジンAを添加した[10μg/ml]。サンプルを固定・透過処理後、抗CD8抗体および抗IFNγ抗体で染色した。示したデータは、非特異的なバックグラウンドを差し引いた、SIINFEKL特異的IFN−γ分泌CD8Tリンパ球の頻度+標準誤差を表す。*:両側独立t検定においてp<0.05。(c)典型的なドットプロット。記載のパーセントは、テトラマー陽性CD8Tリンパ球のそれぞれの頻度を示す。
【図5】(a)Balb/cマウス(n=5)に10μgのCy3蛍光標識されたRNA(赤色)または純粋なCy3リボヌクレオチド(対照)をリンパ節内注入した。5分後および30分後にそれぞれリンパ節標本を作成し、パラホルムアルデヒドで固定し、薄切した。対照リンパ節が最小限のバックグラウンドを示すのに対して、他方は細胞のRNAシグナルが認められ、そのシグナルは5分から30分へと明瞭になる。それは、細胞間に存在するRNAの破壊に起因する。(b)ヒト未成熟樹状細胞(iDC)をin vitroで、Cy3蛍光標識されたRNA(5μg、赤色)およびFITC−デキストラン(1μg/μl、緑色)と10分間コインキュベートし、パラホルムアルデヒドで固定し、対比染色(ヘキスト33342、青色)した。時間動特性は、RNAがFITC−デキストランと最大限に共局在しながら、最初は細胞周辺部に局在し、次いで小胞が細胞質全体に見られるようになり、最後により大きい構造に合流する様子を示す。
【図6】(a)ヒトiDC(n=3)をin vitroで、様々な温度においてルシフェラーゼRNA(20μg)と15分間コインキュベートした。24時間後に、標準的な蛍光アッセイによりルシフェラーゼシグナルを定量した。その結果は、能動的エネルギー消費プロセスを示唆する。(b〜c)ヒトiDCを様々なインヒビター(ジメチルアミロリド、サイトカラシンD、LY294002、ロットレリン)で前処理してから、ルシフェラーゼRNAまたはCy3RNAと15分間コインキュベートした。24時間後に、標準的な蛍光アッセイによりルシフェラーゼシグナルを定量した。特異性の高いマクロ飲作用インヒビター、ロットレリンにより90%を超えるまでのRNA取り込み阻害が起こることが示された。(d)C57Bl/6マウスの鼠径リンパ節をin vivoでロットレリン(10μl[10μM])で前処理してから、ルシフェラーゼRNA(10μg)をリンパ節内注入した。マクロ飲作用のin vivoでの阻害後、リンパ節でのRNA取り込みは劇的に低下した。(e)C57Bl/6マウス(n=3)に、0日目および3日目に、SIINFEKLをコードするRNA(20μg)をリンパ節内投与し免疫化した。どちらの日にも、リンパ節を前記のようにロットレリンで前処理した。8日目に、末梢血中のテトラマー測定により免疫化の成功を定量的に確認した。リンパ節内投与によるRNA免疫化の成功は、マクロ飲作用により細胞がRNAを取り込む能力と直接の相関関係にある。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;(ANOVAとチューキーの多重比較検定)。
【図7】(a〜d)ヒト(a、c)およびマウス(b、d)樹状細胞を様々な薬剤(Poly I:C(50μg/ml)、CD40L(1.0μg/ml)、LPS(20ng/ml)、成熟用混合物(TNFα(10ng/ml)、IL1b(10ng/ml)、PGE(1μg/ml)、IL6(1000U/ml))で40時間成熟化させた。その後、細胞をルシフェラーゼRNAまたはCy3−RNAと15分間コインキュベートした。24時間後に、標準的な蛍光アッセイによりルシフェラーゼシグナルを定量した。Cy3−RNA取り込みを定量するために、細胞を、RNAとのインキュベーションから0.5時間後に洗浄し固定した。続いて、Cy3が仲介する蛍光を免疫蛍光顕微鏡を用いて定量した(Till Vision Software 4.0、Till Photonics)。iDCの成熟後、RNAの取り込みは90%超低下した。(e)Poly I:CがRNA取り込みに及ぼす効果。C57Bl/6マウス(n=4)にPBSまたはPoly I:C(20μg)を皮下注射し、2時間または24時間後にルシフェラーゼRNAをリンパ節内投与した。24時間後に、標準的な生物発光アッセイによりルシフェラーゼシグナルを定量した。アジュバント投与後の時間間隔に応じて、RNA取り込みの激しい低下が起こる。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;(ANOVAとチューキーの多重比較検定)。(f)Flt3−LがRNA取り込みに及ぼす効果。C57Bl/6マウス(n=8)を、0日目と3日目に、Flt3−L10μgで腹腔内処理し、対照群では処理しなかった。10日目にルシフェラーゼRNA20μgをマウスにリンパ節内投与した。24時間後に、in vivo生物発光によりルシフェラーゼシグナルを測定した。Flt3−L投与は、リンパ節でのRNA取り込みを阻害する作用を示さない。
【図8】C57Bl/6マウス(n=5)に、0日目に、0.4モル量のFlt3L−IgG4、Flt3L(Humanzyme社)、Flt3L(Peprotech社)、またはヒトIgG4を腹腔内投与した。10日目にマウスリンパ節を調製し、フローサイトメトリーで特徴づけた。樹状細胞(DC(マーカー:CD11c/NK1.1))、CD4ヘルパーT細胞(マーカー:CD3/CD4/CD8/NK1.1)、CD8T細胞(マーカー:CD3/CD8/CD4/NK1.1)、CD19B細胞(マーカー:CD19/CD3/NK1.1)。
【図9】ナイーブなC57Bl/6マウス(n=7)に、0日目、3日目に、0.4モル量のFlt3L(Flt3L−IgG4、Flt3L(Humanzyme社)、Flt3L(Peprotech社))、またはヒトIgG4を腹腔内投与した。7日目、10日目には、このマウスにSIINFEKLをコードするRNA(20μg)をリンパ内投与し免疫化した。対照群は処理しなかった(n=2)。 15日目に、MHC多量体測定を使用して、末梢血から抗原特異的CD8Tリンパ球の頻度を測定した。
【図10】マウス血清中Flt3L−IgG4 の時間動特性(zeitkinetik)。(a)Balb/cマウス(n=3)に、20μgのFlt3L−IgG4を腹腔内投与した。定められた時点(投与前;3時間、24時間、48時間、3日、5日、7日、9日、14日、21日)にマウスの血清サンプルを保管した。ヒトIgGを定量するために、このサンプルをELISAアッセイで使用した。半減期は、2.14日(=51時間)である。(b)Balb/cマウス(n=3)に、50μgのFlt3L−IgG4を腹腔内投与した。定められた時点(投与前;3時間、24時間、48時間、3日、5日、7日、9日、14日、21日)にマウスの血清サンプルを保管した。ヒトIgGを定量するために、このサンプルをELISAアッセイで使用した。半減期は、1.667日(=40時間)である。
【図11】B16 Ova腫瘍に対する治療のためのワクチン接種。Flt3L投与とRNAワクチン接種の併用の相乗作用を調べるために、治療上の腫瘍実験を行なった。この目的で、C57BL/6マウスによる4群(n=10)を形成した。0日目に全マウスにB16 Ova細胞(2x10)を皮下注射した。このうち一つの対照群はIgG4注射でのみ処理した(10μg;3日目、7日目、14日目、17日目)。第2の対照群にはFlt3L−IgG4注射のみ行なった(15μg;3日目、7日目、14日目、17日目)。最初の治療群は、SIINFEKLをコードするRNAのリンパ節内注入(20μg;11日目、14日目、17日目、24日目)とIgG4投与とを組み合わせて治療し、第2の治療群には、RNA免疫化に加えて、前記のようにFlt3L−IgG4を投与した。マウス生存率のカプラン・マイヤープロットを示す。マウスは、腫瘍直径が一つの軸方向で>1.5cmの場合に屠殺した。
【図12】B16 Ova腫瘍に対する治療のためのワクチン接種。腫瘍成長に関する検査。この目的で、C57BL/6マウスによる4群(n=10)を形成した。0日目に全マウスにB16 Ova腫瘍細胞(2x10)を皮下注射した。このうち一つの対照群はIgG4注射でのみ処理した(15μg;3日目、7日目、14日目、18日目)。第2の対照群にはFlt3L−IgG4注射のみ行なった(15μg;3日目、7日目、14日目、18日目)。最初の治療群は、SIINFEKLをコードするRNAのリンパ節内注入(20μg;10日目、14日目、18日目、21日目)とIgG4投与とを組み合わせて治療し、第2の治療群には、RNA免疫化に加えて、前記のようにFlt3L−IgG4を投与した。腫瘍接種の後定期的に(7日目、10日目、13日目、16日目、19日目、22日目)腫瘍体積を求めた。腫瘍接種後日数[日数]における平均腫瘍体積[mm]を示す。
【実施例】
【0231】
実施例1
この実施例および以下の実施例で使用した組換えヒトFlt3リガンドは、IgG4との融合タンパク質として調製し、配列番号6の配列を有する。そのために、Flt3L−IgG4融合タンパク質をコードする核酸配列を発現ベクターにクローニングした。作成されたプラスミドをリポフェクションによりHEK293細胞(ATCC Nr. CRL−1573)にトランスフェクトした。上清を集め、プロテインAカラム(GE HiTrap MabSelect SuRe、GE Healthcare社)により製造元の記載に従って精製した。産物をPBSで透析し、等量に分け、使用するまで凍結した。
【0232】
ヒトFlt3リガンドの投与がRNAベースの免疫化の効率に及ぼす影響をテストするために、まずマウスモデルで、リンパ節および脾臓の細胞組成の変化を調査した。そのために、組換えFlt3−Lの様々な投与レジメン(2x、3x、5x10μg)を腹腔内投与し、最初の注入から10〜12日後に細胞数(Zellularitaet)を決定した。マウス系に関する文献に記載されているように、脾臓およびリンパ節で細胞数の増加を示すことができた(図1)(Lyman, S.D. et al. (1994) Blood 83、2795〜2801頁(非特許文献46)、Hannum, C. et al. (1994) Nature 368、643〜648頁(非特許文献47)、Maraskovsky, E. et al. (1996) Journal of Experimental Medicine 184、1953〜1962頁(非特許文献48))。さらに、マウスおよびヒトに関して発表されたデータと一致して、Flt3−Lを様々な用量で投与すると樹状細胞が増加することが示された(図2)(Maraskovsky, E. et al. (1996) Journal of Experimental Medicine 184、1953〜1962頁(非特許文献48)、McNeel, D.G. et al. (2003) Journal of Clinical Immunology 23、62〜72頁(非特許文献49)、Freedman, R.S. et al. (2003) Clinical Cancer Research 9、5228〜5237頁(非特許文献50)、Maraskovsky, E. et al. (2000) Blood 96、878〜884頁(非特許文献51))。脾臓およびリンパ節中の樹状細胞のすべての関連する亜集団についてこの増加を示すことができた(図2)。
【0233】
実施例2
以下では、様々な公知のアジュバント(アルダラ、モノホスホリルリピッドA、GM−CSF、Poly I:C、IL2)およびFlt3−Lが、リンパ節内投与によるRNA免疫化後に、末梢血でのナイーブT細胞のプライミングおよびその頻度にどのように影響するかを調査した。このために、アジュバントを皮下投与または腹腔内投与し(詳細は図3のキャプションを参照)、3日おきに2度、H−2K拘束SIINFEKLエピトープをコードするRNAでマウスを免疫化した。2度目の免疫化から5日後に、エピトープ特異的CD8T細胞の頻度を、血中のテトラマー測定により定量した。意外なことに、この分析により、Flt3−Lを除くすべてのアジュバントはT細胞プライミングの効率を低下させることが示された(図3)。ネイキッドIVT−RNAの投与の設定におけるアジュバントの使用に関しては、前述の研究のみがこれまで発表されており、その中では、RNA皮内注射後のGM−CSFの投与のみが、RNA注射に先立つ投与とは対照的にRNA単独注射と比べて利点をもたらすことが示された(Carralot, J.P. et al. (2004) Cell Mol. Life Sci. 61、2418〜2424頁(非特許文献52))。このデータは、GM−CSFがRNA免疫化前(−48時間、−24時間)に投与された、我々の実験と一致する。その上、我々のデータによりはじめて、既成のアジュバントは傾向的にT細胞プライミング効率を悪化させるのに対して、Flt3−Lは有意な上昇を誘導することが示される(図3)。最後の免疫化から7日目の末梢血を材料としたさらなるテトラマー分析は、似かよった結果を示す(データは示さない)。
【0234】
実施例3
さらなる実験では、ヒトFlt3−Lの投与が、リンパ節内投与によるRNA免疫化後に、別の器官(脾臓)においても抗原特異的機能性T細胞の頻度を有意に上昇させることを証明できた。このために、0日目と3日目に、それぞれ10μgのFlt3−LまたはヒトIgG4をマウスに腹腔内注射した。次いで、7日目と10日目に、SIINFEKLをコードするRNAを用いてリンパ節内免疫化を行なった。15日目に、テトラマー測定および細胞内サイトカイン測定により、エピトープ特異的CD8T細胞の頻度を定量した(図4)。その際、テトラマー定量化により、Flt3−Lで前処理した群における、エピトープ特異的CD8T細胞の頻度の有意な上昇が示された(脾臓:8.2%対2.5%)。機能レベルでは、これらの細胞はIFNγを分泌する能力ももつことが示された(図4)。さらなる調査は、2x10μg用量を超えるFlt3−Lの用量上昇が免疫応答の強化を伴わないことを示した(データは示さない)。
【0235】
実施例4
Balb/cマウス(n=5)に10μgのCy3蛍光標識されたRNAまたは純粋なCy3リボヌクレオチド(対照)をリンパ節内注入した。5分後および30分後にリンパ節標本を作成し、パラホルムアルデヒド固定後にクリオスタット切片を免疫蛍光顕微鏡で評価した。図5に示す典型的な切片は、対照リンパ節における最小限のバックグラウンド、および細胞のRNAシグナル(赤色)を示し、そのシグナルは5分から30分へと明瞭になる。これは、細胞間に存在するRNAの破壊に起因する。
【0236】
さらに、ヒト未成熟樹状細胞をin vitroにおいて、Cy3蛍光標識されたRNA(5μg、赤色)およびFITC−デキストラン(1μg/μl、緑色)と10分間コインキュベートし、パラホルムアルデヒドで固定し、対比染色(ヘキスト33342、青色)した。時間動特性は、RNAがFITC−デキストランと最大限に共局在しながら、最初は細胞周辺部に局在し、次いで小胞が細胞質全体に見られるようになり、最後により大きい構造に合流する様子を示す。
【0237】
したがって、ネイキッドRNAは、in vivoでもin vitroでも細胞に取り込まれることが証明できた。
【0238】
実施例5
いくつもの公知のアジュバントについてアジュバント作用の欠如という現象を詳細に調査した。
【0239】
ネイキッドRNA(つまり液体、例えばPBSに溶解)が、例えばリンパ節に注入後、ほとんど樹状細胞によってのみ取り込まれることを確認した。その際、この取り込みは非常に効率がよい。取り込まれたRNAは続いて翻訳される。
【0240】
ネイキッドRNA の取り込みプロセスを特徴づけるために、ヒトiDC(n=3)をin vitroで、様々な温度においてルシフェラーゼRNA(20μg)と15分間コインキュベートした。さらに22時間37℃で培養した後、ルシフェラーゼアッセイによりRNA の取り込みを定量した。平均値+標準誤差を示す。図6(a)に示す結果は、能動的エネルギー消費プロセスを示唆する。
【0241】
iDC中で保存的に活性なマクロ飲作用がネイキッドRNAの取り込みに重要であるかを調査するために、ヒトiDCを様々なインヒビター(ジメチルアミロリド、サイトカラシンD、LY294002、ロットレリン)で前処理してから、ルシフェラーゼRNAまたはCy3−RNAと15分間コインキュベートした。さらに22時間培養した後、ルシフェラーゼアッセイによりRNAの取り込みを定量した。平均値+標準誤差を示す。Cy3−RNA(赤色)とコインキュベートしたiDCを、パラホルムアルデヒドで固定し、対比染色(ヘキスト33342、青色)した。特異性の高いマクロ飲作用インヒビター、ロットレリンにより90%超までのRNA取り込み阻害が起こることが示された。図6(b〜c)を参照。
【0242】
マクロ飲作用が、リンパ節におけるRNAのin vivoでの重要な取り込み機構でもあるかどうかを解明するために、C57/Bl6マウスの鼠径リンパ節をロットレリン(n=4、10μM)で前処理してから、ルシフェラーゼRNA(10μg)をリンパ節内注入した。24時間後に、in vivo生物発光シグナルを測定した。図6(d)には平均値+標準誤差を示す。マクロ飲作用のin vivo阻害後、リンパ節でのRNA取り込みが劇的に低下することを証明できた。
【0243】
マクロ飲作用のin vivo阻害が、リンパ節内投与によるRNA免疫化後のT細胞プライミング効率に影響するかどうかを調査するために、C57Bl/6マウス(n=3)に、0日目および3日目に、SIINFEKLをコードするRNA(20μg)をリンパ節内投与し免疫化した。どちらの日にも、リンパ節を前記のようにロットレリンで前処理した。CD8抗原特異的Tリンパ球の頻度の平均値+標準誤差を示す。リンパ節内投与によるRNA免疫化の成功は、マクロ飲作用により細胞がRNAを取り込む能力と直接の相関関係にあることを証明できた。図6(e)を参照。
【0244】
RNAを取り込む主要取り込み機構はマクロ飲作用である。例えば、マクロ飲作用を阻害する化学物質(例えばロットレリン)でマクロ飲作用を阻害すると、ワクチン作用はほぼ完全に失われる。
【0245】
実施例6
次に、マクロ飲作用のダウンレギュレーションを伴う、iDCの成熟が、RNAの取り込みをどの程度低下させるかを調査した。結果を図7に示す。
【0246】
ヒト(図7(a、c))およびマウス(図7(b、d))樹状細胞を様々な薬剤(Poly I:C(50μg/ml)、CD40L(1.0μg/ml)、LPS(20ng/ml)、成熟用混合物(TNFα(10ng/ml)、IL1b(10ng/ml)、PGE(1μg/ml)、IL6(1000U/ml))で40時間成熟化させた。その後、細胞をルシフェラーゼRNAまたはCy3−RNAと15分間コインキュベートした。さらに22時間培養した後、ルシフェラーゼアッセイによりRNAの取り込みを定量した。平均値+標準誤差を示す。Cy3−RNA(赤色)とコインキュベートしたiDCを、パラホルムアルデヒドで固定し、対比染色(ヘキスト33342、青色)した。Cy3蛍光の定量化でもルシフェラーゼアッセイでも、iDCの成熟後、RNAの取り込みが90%超低下することが示された。このデータは、DCの成熟はマクロ飲作用をダウンレギュレーションさせることを示す発表データと一致する。
【0247】
成熟させるアジュバントがin vivoでもどの程度RNAの取り込みを低下させるかを調査するために、Poly I:CがRNA取り込みに及ぼす効果をテストした。図7(e)を参照のこと。このために、C57Bl/6マウス(n=4)にPBSまたはPoly I:C(20μg)を皮下注射し、2時間または24時間後にルシフェラーゼRNAをリンパ節内投与した。さらに24時間たってから、in vivo生物発光を測定した。平均値+標準誤差を示す。アジュバント投与後の時間間隔に応じて、RNA取り込みの激しい低下が起こることを証明できた。このデータは、DCの完全な成熟化には約24時間が必要とされるという観察と一致する。
【0248】
それとは対照的に、Flt3−L投与は、リンパ節でのRNA取り込みを阻害する作用を示さない。C57Bl/6マウス(n=8)を、0日目と3日目に、Flt3−L10μgで腹腔内処理し、対照群では処理しなかった。10日目にルシフェラーゼRNA20μgをマウスにリンパ節内投与した。24時間後に、in vivo生物発光によりルシフェラーゼシグナルを測定した。図7(f)は、個々の各マウスの測定結果を示す。バーは、一群の全測定値の平均値を示す。この実験は、3つの独立した実験を代表するものである。統計:スチューデントのt検定。
【0249】
さらに、C57Bl/6マウス(n=3〜7)にFlt3Lを2度(0日目と3日目に、それぞれ10μg)投与した。10日目にリンパ節の標本を作製し、樹状細胞の活性化状態(CD86、CD80、MHC−II、CD40)をフローサイトメトリーで決定した。Flt3L投与は、リンパ節内の樹状細胞を成熟化させないことが証明できた。
【0250】
実施例7
様々なFlt3Lがリンパ節の細胞組成に及ぼす影響
この実験では、マウスリンパ節の様々な細胞集団に及ぼす影響に関して、市販のFlt3調製物と共に、Flt3リガンド(Flt3−IgG4)を調査した。市販のFlt3調製物としては、細菌内で組換え発現された産物(Peprotech Flt3L、Peprotech社、Hamburg、Germany)、およびヒトHEK293細胞で発現された産物(Humanzyme Flt3L、Humanzyme社、Chicago IL、U.S.A)を使用した。対照としてはヒトIgG4(Sigma−Aldrich社、Deisenhofen、Germany)を使用した。
【0251】
C57BL/6マウス(n=5)に、0日目に、0.4モル量のFlt3L−IgG4、Flt3L(Humanzyme社)、Flt3L(Peprotech社)、またはヒトIgG4(Sigma−Aldrich社)を腹腔内投与した。10日目にマウス鼠径リンパ節の両方ともを調製し、細胞数をノイバウアーチャンバ(Neubauerkammer)でカウントし、細胞集団をフローサイトメトリーで特徴づけた。
【0252】
様々な細胞集団を以下のマーカー組み合わせにより定義した:樹状細胞(DC(マーカー:CD11c/NK1.1)、CD4ヘルパーT細胞(マーカー:CD3/CD4/CD8/NK1.1)、CD8T細胞(マーカー:CD3/CD8/CD4/NK1.1)、CD19B細胞(マーカー:CD19/CD3/NK1.1)。表面マーカーを検出するための抗体は、Beckton Dickinson社から取り寄せた。図8には、樹状細胞(全DC)、CD4 陽性、CD8 陽性およびCD19 陽性細胞の頻度を、リンパ節の調製された細胞の総数に対して示す。
【0253】
Flt3L−IgG4によって引き起こされる効果は、市販のFlt3L産物によって誘導される効果に類似することが示された。樹状細胞の増殖に関して、Flt3L−IgG4と Humanzyme社のFlt3Lとは高い類似性を示し、この点でPeprotech社のFlt3Lは、わずかな能力しか示さなかった。リンパ球集団の増殖に関しては、Flt3L−IgG4の効果が傾向的には最も著しかった。
【0254】
実施例8
様々なFlt3LがナイーブT細胞の刺激に及ぼす影響
この実験では、Flt3L−IgG4のアジュバント機能が市販のFlt3L産物とどの程度同等であるかを調査した。このために選ばれたのは、細菌内で組換え発現された産物(Peprotech Flt3L)、およびヒトHEK293細胞で発現された産物(Humanzyme Flt3L)であった。例7を参照のこと。対照としてはヒトIgG4を使用した。
【0255】
ナイーブなC57Bl/6マウス(n=7)に、0日目、3日目に、0.4モル量のFlt3L(Flt3L−IgG4、またはFlt3L(Humanzyme社)、またはFlt3L(Peprotech社))、またはヒトIgG4(Sigma社)を腹腔内投与した。7日目、10日目にこのマウスにSIINFEKLをコードするRNA(20μg)をリンパ内投与し免疫化した。対照群は処理しなかった(n=2)。15日目に、MHC多量体測定(Beckman Coulter社)を使用して、末梢血から抗原特異的CD8Tリンパ球の頻度をフローサイトメトリーで測定した。
【0256】
Flt3Lを、等モル量でマウスに腹腔内投与した(0日目、3日目)。加えて、マウスに2度、SIINFEKLをコードするRNAをリンパ節内投与し免疫化した(7日目、10日目)。15日目にテトラマー染色により、免疫化の成功をフローサイトメトリーで定量した。
【0257】
Flt3L−IgG4も市販のFlt3L産物も明らかなアジュバント効果をもつことが示された。免疫化されなかった対照群は、テトラマー陽性T細胞の有意な頻度を示さなかった。Flt3Lを投与せずに免疫化されたマウスと比べて、抗原特異的CD8Tリンパ球の頻度は、2〜3倍に上昇した。傾向的には、Flt3L−IgG4を使用した際に最も強力な効果が観察できた(図9)。
【0258】
実施例9
Flt3L−IgG4 の血清半減期の算定
Flt3L−IgG4の血清半減期を算定するために、Balb/cマウス(n=3)の2群に、20μgまたは50μgのFlt3L−IgG4を腹腔内投与した。定められた時点(投与前;3時間、24時間、48時間、3日、5日、7日、9日、14日、21日)にマウスの血清サンプルを保管した。ヒトIgGを定量するために、このサンプルをELISAアッセイで使用した。我々のコンストラクトではヒトIgG4 がFlt3Lに融合されているため、マウス血清中のヒトIgGを定量することでFlt3L濃度を算出することができる。データは、初期最大値に続き、Flt3Lが注入から5日後までマウス血清中に検出可能であることを示す。算出された半減期は、50μgのFlt3L−IgG4の場合40時間であり、20μgの半減期(HWZ)は51時間である。
【0259】
これらの値は、Flt3Lの半減期として発表された値5時間(Robinson et al.、2003、BMT、31、361〜369頁(非特許文献53))と比べると、IgG4 融合部分を伴わないFlt3Lに対してFlt3L−IgG4の安定性が上昇していることを示す(図10)。
【0260】
実施例10
B16 Ova腫瘍に対する治療上のワクチン接種
Flt3L投与とRNAワクチン接種との併用の相乗作用を調べるために、治療上の腫瘍実験を行なった。この目的で、C57BL/6マウスによる4群(n=10)を形成した。0日目に全マウスにB16 Ova腫瘍細胞(2x10)を皮下注射した(Bellone et al.、J. Immunol.、2000、165、2651〜2656頁(非特許文献54))。このうち一つの対照群はIgG4注射でのみ処理した(10μg;3日目、7日目、14日目、17日目)。第2の対照群にはFlt3L−IgG4注射のみ行なった(15μg;3日目、7日目、14日目、17日目)。最初の治療群は、SIINFEKLをコードするRNAのリンパ節内注入(20μg;11日目、14日目、17日目、24日目)とIgG4投与とを組み合わせて治療し、第2の治療群には、RNA免疫化に加えて、前記のようにFlt3L−IgG4を投与した。
【0261】
Flt3L−IgG4とリンパ節内へのRNAワクチン接種との併用は相乗的に作用することが示された。Flt3L−IgG4を伴わないRNAワクチン接種では1/3のマウスしか長期的に生存しないのに対して、Flt3L−IgG4との組み合わせにより、長期的に生存するマウスの割合は約80%に上昇することができる。RNAワクチン接種を伴わないFlt3L−IgG4は、腫瘍成長に対して最小の治療効果を示し、10%の動物の長期生存しかもたらさない(図11)。
【0262】
実施例11
B16 Ova腫瘍に対する治療上のワクチン接種
Flt3LとRNAワクチンの併用投与の相乗効果を証明するために、さらにもう一つの治療上の腫瘍実験を行なった。この目的で、C57BL/6マウスによる4群(n=10)を形成した。0日目に全マウスにB16 Ova腫瘍細胞(2x10)を皮下注射した(Bellone et al.、J. Immunol.、2000、165、2651〜2656頁(非特許文献54))。このうち一つの対照群はIgG4注射でのみ処理した(15μg;3日目、7日目、14日目、18日目)。第2の対照群にはFlt3L−IgG4注射のみ行なった(15μg;3日目、7日目、14日目、18日目)。最初の治療群は、SIINFEKLをコードするRNAのリンパ節内注入(20μg;10日目、14日目、18日目、21日目)とIgG4投与とを組み合わせて治療し、第2の治療群には、RNA免疫化に加えて、前記のようにFlt3L−IgG4(Flt3L)を投与した。腫瘍接種後の以下の日に腫瘍体積を求めた:d7、d10、d13、d16、d19およびd22(d=日)。
【0263】
Flt3L−IgG4とリンパ節内へのRNAワクチン接種との併用は相乗的に作用することが示された。Flt3Lを単独で投与すると、腫瘍成長のわずかな遅延しか見られず、RNAワクチンを単独接種した場合も、減速はしたものの進行性の腫瘍成長があった。Flt3L投与とRNAワクチン接種を組み合わせてはじめて腫瘍成長の完全な停止が認められた(図12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの抗原をコードするRNAとFlt3リガンドとを含む免疫原性調製物。
【請求項2】
RNAがmRNAである、請求項1に記載の免疫原性調製物。
【請求項3】
RNAがin vitro転写によって得られた、請求項1または2に記載の免疫原性調製物。
【請求項4】
少なくとも一つのRNA安定化因子をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の免疫原性調製物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の免疫原性調製物を含む医薬組成物。
【請求項6】
薬学的に許容可能な希釈剤および/または薬学的に許容可能な担体をさらに含む医薬組成物。
【請求項7】
ワクチンとしての製剤形態にある、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
リンパ節内(intranodale)投与用の製剤形態にある、請求項1〜4のいずれか一つに記載の免疫原性調製物または請求項5〜7のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項9】
細胞を、少なくとも一つの抗原をコードするRNAおよびFlt3リガンドと接触させることを含む、少なくとも一つの抗原を細胞に供給するための方法。
【請求項10】
免疫応答を向けさせるべき少なくとも一つの抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体において免疫応答を惹起または強化するための方法。
【請求項11】
前記免疫応答が、個体に対して保護および/または治療作用を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫応答が抗原特異的なT細胞免疫応答を含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中において抗原特異的エフェクター細胞の量を上昇させるための方法。
【請求項14】
前記抗原特異的エフェクター細胞が、CD8細胞傷害性T細胞、および/またはCD4ヘルパーT細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
免疫応答を向けさせるべき腫瘍抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中でのがんを予防および/または治療するための方法。
【請求項16】
免疫応答を向けさせるべきウイルス抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中でのウイルス感染を予防および/または治療するための方法。
【請求項17】
免疫応答を向けさせるべき細菌性抗原をコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中での細菌感染を予防および/または治療するための方法。
【請求項18】
アレルギーに関連するアレルゲンをコードするRNAを投与すること、およびFlt3リガンドを投与することを含む、個体中でのアレルギーを予防および/または治療するための方法。
【請求項19】
個体の細胞へのRNAの取り込みを促進するのに適した量でFlt3リガンドが投与される、請求項10〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
個体がヒトである、請求項10〜19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
RNAとFlt3リガンドが互いに独立に、静脈内、筋内、皮下、経皮、鼻腔内、およびリンパ内投与からなる群から選択される一つの経路で投与される、請求項10〜20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
ワクチンRNAの免疫原性を高めるためのFlt3リガンドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−511528(P2012−511528A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539947(P2011−539947)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008811
【国際公開番号】WO2010/066418
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(510164267)ビオエヌテヒ・アクチエンゲゼルシャフト (2)
【出願人】(506261523)ヨハネス グーテンベルク ウニベルジテート マインツ (6)
【Fターム(参考)】