説明

RNA投与によって細胞特性を改変する方法

【解決手段】本発明は、RNA分子を用いた細胞特性の改変に関する。特に、本発明は、細胞が動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化する能力の改変に関する。例えば、本発明は、遊走、統合及び増殖する能力の獲得を含む、幹細胞の分化の誘導に関する。また、本発明は、in vivoでの幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化の誘導にも関する。従って、本発明は、幹細胞仲介による機能的修復の促進に関する。また、本発明は、分化細胞の逆分化にも関する。これらの効果は全て、所望の細胞型を有する細胞から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを細胞の集団に、細胞特性の改変が達成される条件下で提供することによってもたらすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に引用した文献は全て、その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
本発明は細胞特性の改変(alteration)に関する。特に、本発明は、細胞が有する動員(mobilise)、遊走、統合(integrate)、増殖及び分化の能力(このような能力は潜在的或いは顕在的であり、各能力は如何なる順序でも顕在化し得る)の一以上の改変に関する。例えば、本発明は、幹細胞特性の改変、例えば、動員、遊走、統合、増殖及び分化のための顕在的或いは潜在的能力の獲得に関する。また、本発明は、幹細胞特性のin vivo改変、例えば、動員、遊走、統合、増殖及び分化のための顕在的或いは潜在的能力の獲得にも関する。また、本発明は、幹細胞特性のin vitro改変、例えば、動員、遊走、統合、増殖及び分化のための能力の獲得にも関するが、このような特性改変はin vitroで顕在的であっても潜在的であってもよく、又はその後in vivoで宿主に導入後、或いは更なるin vitro培養段階への導入(ex vivo調製物への導入等)後にのみ顕在化してもよい。従って、本発明は、機能的修復及び/又は再生の促進に関する。また、本発明は、in vitro及びin vivoでの細胞の遺伝子型の改変にも関する。本発明は更に、幹細胞の分化の誘導と、分化細胞の逆分化(reversal of differentiation)とに関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞及びその再生医療への適用については科学誌や一般誌の中心を占め続けている。幹細胞とは、自己再生が可能で且つ一以上の分化細胞型に分化することも可能な未分化細胞である。このように、更なる幹細胞を産生するための分裂が可能であると共に分化することも可能であるため、幹細胞集団はその数を維持しつつ、多数の分化細胞を産生することができる。
【0003】
幹細胞は植物及び動物の多くの部位に存在する。幹細胞に関して行われた初期の研究の多くは胚性幹細胞に集中したが、成体組織も幹細胞を含有する。幹細胞は正常組織修復等において重要な役割を果たす。幹細胞はまた、分化細胞を生じさせ、体が正常に機能する間に失われる分化細胞と置き換わる。例えば、造血幹細胞は分化して各種前駆細胞を生じ、この前駆細胞は次に免疫系の各種細胞を産生する。こうして成熟免疫細胞が死ぬ際には、造血幹細胞由来の新しい免疫細胞と置き換わる。同様に、ある種の幹細胞が他種の幹細胞を産生することもある。
【0004】
幹細胞集団は常法で分離して体外で培養することもでき、或いはin vivoで操作することもできる。幹細胞は、正常成体組織や着床前胚、胎児組織(様々な生育段階における)、腫瘍等の各種源から単離することができる。成体幹細胞系及び胚性幹細胞系のいずれも確立されている。幹細胞系はほぼ永久的に培養下で維持することができる。また、幹細胞系は、遺伝子ターゲティング等の技法を用いて培養下で操作し特定の遺伝子修飾を導入することもできる。in vitroで培養或いは操作された幹細胞集団は、次いでin vivoで宿主に導入することができ、或いはその後の形態である組織培養に導入してもよい。
【0005】
幹細胞技術を適用する上で中心となるものは、幹細胞の有する動員、遊走、統合、増殖及び分化という能力をin vitroで制御でき、更にはレシピエントであるヒトや動物、植物への移植後に制御できることである。幹細胞がin vivoで動員、遊走、統合、増殖及び分化する能力についてはよく知られているが、幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を人工的に制御して標的組織の成熟細胞となすことができるかどうかについては、まだ揺籃期にある。従来の方法は主に、培養幹細胞を特定の成長因子及び/又は成長条件に曝露することに依存している。このような方法を用いた場合、比較的制限された数の分化細胞型しか産生することができない。
【0006】
WO95/12665には、胚性幹細胞を所望の細胞系に分化するための方法が開示されている。この胚性幹細胞は、該幹細胞の特定の細胞系への分化を促進するタンパク質或いはポリペプチドをコードするDNAによって処理する。このDNAは特定の細胞系に見出される転写因子をコードすることができる。
【0007】
ダイ(Dai)ら(2000年)は、ヒトエリスロポエチンレセプター遺伝子のマウス胚性幹細胞へのレトロウイルス仲介遺伝子導入によって胚様体の分化における赤血球形成が増強可能であることを示した。
【0008】
WO01/00650には、分化の程度が低い細胞型(例えば、卵母細胞)由来の細胞質を導入することによって受容細胞(例えば、ヒト体細胞)を脱分化させるための方法が開示されている。
【0009】
タダ(Tada)ら(2001年)は、成体胸腺細胞を胚性幹細胞と融合することによって、体細胞のエピ遺伝子型(epigenotype)のある局面を胚性幹細胞のある局面にリセットすることができることを示した。例えば、得られたハイブリッドはin vivoで多能性(pluripotency)を示した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は細胞特性の改変に関する。特に、本発明は、分化の改変、及び細胞が動員、遊走、統合、増殖及び分化する能力の改変に関する。また、本発明は、細胞の遺伝子型の改変、及び分化の制御にも関する。
【0011】
いかなる理論によっても拘束されるものではないとはいえ、本発明は、次の二仮説、即ち、(a)組織再生に用いられる細胞の挙動は、再生を必要とする組織からエフェクター細胞へのRNAによる情報転送によって支配されているという仮説、及び(b)細胞の遺伝子型の改変は、一細胞から他の細胞へのRNAによる情報転送によって生じ得るという仮説に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、幹細胞仲介による機能的修復の促進と、細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化に影響を及ぼすことによる各種病態の治療と、成体細胞(一般には幹細胞)の分化と、該細胞による動員、遊走、統合、増殖及び分化する能力の獲得とに関する。また、本発明は、細胞の遺伝子型の改変、及び細胞の遺伝子型の改変による各種病態の治療にも関する。本発明者らは、幹細胞が所望の分化細胞型に分化するように誘導することができること、また逆に、分化細胞を逆分化させて幹細胞を得ることができることを見出した。また、本発明者らは、標的組織に統合する所望の分化細胞型へ幹細胞が動員、遊走、統合、増殖及び分化するように誘導することができること、分化細胞を逆分化させて幹細胞を得ることができること、更には、細胞の遺伝子型を改変することができることも見出した。これは標的細胞に特定のRNA配列を提供することによって達成される。
【0013】
細胞運命や遺伝子型に影響を及ぼす能力によって、様々な臨床的に有用な現象を誘導することができ、例えば、罹患した細胞や組織、器官を修復することができる他、細胞の遺伝子構成を改変することができ、特定の細胞型及び細胞運命を誘導することができ、免疫学的プロファイルを任意に変化させることができ、また、特定の免疫機能を誘導することができる。in vivoで幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導できるということは、幹細胞仲介による機能的修復や遺伝子型改変が無傷の生物、特に動物において有益に促進し得ることを意味する。
【0014】
従って、本発明は、一以上の所望の細胞型の特性に向けて細胞特性を改変するための方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出可能なRNA配列を有する単離されたRNA(以下「単離RNA」という)を、細胞の集団に対し、前記細胞の細胞特性の改変が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。
【0015】
前記単離RNAは、対象とする特性を有する一以上の細胞型から抽出可能なものでもよく、抽出されたものでもよい。前記単離RNAは、対象とする特性を有する一以上の細胞型から抽出可能なRNAの配列を有していてもよい。必ずしも所望の細胞型からRNAを抽出する必要はなく、有益な特性を細胞型に付与するRNA配列を、例えば、組換え発現系を用いて合成的に産生してもよい。単離RNAをin vitroで増殖させることによって所望のRNAを大量に産生することができる。
【0016】
RNAに対して細胞の集団をin vitro或いはin vivoで曝露することができる。in vitroにおいて、細胞の集団は、例えば、細胞培養皿やローラーボトル等における細胞培養物であっても、支持体や膜、インプラント、ステント、マトリックス上で成長している細胞であってもよく、或いは体外で成長した単離組織等の組織であってもよい。in vivoにおいて、細胞の集団は、ヒト患者等の生物であってもよく、或いは、器官や器官の特定部分、特定の細胞型、各種細胞型の収集物等の生物から単離した組織であってもよい。
【0017】
本発明の方法を用いてin vivo或いはin vitroで幹細胞仲介による修復を改善することができる。一実施形態において、本発明のこの様相は、幹細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に分化するように誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出可能なRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。次いで、このようにin vitroで産生した細胞をレシピエントに送達することができる。in vivo処理の場合、患者の体内には上述の幹細胞が存在し得るため、in situで該RNAに曝露することができる。或いは、上述の前処理の有無にかかわらず、幹細胞を単独で或いは本発明に係るRNAと共に組織或いは生物に投与し、処理を行った被験体においてin vivoで幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することができる。また、細胞とRNAの投与については、特定の疾患を治療する上で有効な他の療法によって同時に、別々に或いは逐次的に行うこともできる。一実施形態において、一以上の幹細胞型或いは幹細胞活性組織から抽出できるRNAは、必要に応じ幹細胞等の細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与することができる。例えば、特定の好ましい実施形態において、胚や胎児由来のRNA、或いは全身や器官、器官の特定部分、特定の細胞型、各種細胞型の収集物由来のRNAを、幹細胞或いは幹細胞(特に骨髄幹細胞)のin vitro処理に由来する細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与する。
【0018】
或る場合には、上述の単離RNA自身を用いてin situで分化を誘導することができる。同様に、該単離RNA自身を用いてin situで動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することができる。同様に、該単離RNA自身を用いてin situで遺伝子型の修飾(genotypic modification)を誘導することができる。従って、他の様相において、本発明は、細胞、特に幹細胞の分化を誘導することが可能なRNAの使用であって、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の治療における、或いは組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療(rectifying)に用いる薬剤の製造における該RNAの使用も提供する。また、本発明は、細胞、特に幹細胞の遊走、動員、統合、増殖及び分化を誘導することが可能なRNAの使用であって、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の治療における、或いは組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療、例えば、罹患した細胞の修復や特定の細胞型及び細胞運命の誘導、細胞の免疫学的プロファイルの変更、特定の所望の免疫機能や特性の誘導に用いる薬剤の製造における該RNAの使用も提供する。また、本発明は、細胞、特に幹細胞の遺伝子型の修飾を誘導することが可能なRNAの使用であって、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の治療における、或いは組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療、例えば、罹患した細胞の修復や細胞の遺伝的構成の改変、特定の細胞型及び細胞運命の誘導、細胞の免疫学的プロファイルの変更、特定の所望の免疫機能や特性の誘導に用いる薬剤の製造における該RNAの使用も提供する。上述の単離RNAは、該RNAがその主有効成分となる薬剤として細胞集団に提供することができる。
【0019】
上述の単離RNAを用いて、in vivoで幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することができる。従って、他の様相において、本発明は、幹細胞の分化を誘導することが可能なRNAの治療的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む治療方法を提供する。また、本発明は、幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することが可能なRNAの治療的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む治療方法も提供する。このような方法を用いて、例えば、幹細胞仲介による機能的修復を促進することができるが、この機能的修復としては、罹患した細胞の修復や細胞の遺伝的構成の改変、特定の細胞型及び細胞運命の誘導、細胞の免疫学的プロファイルの変更、特定の所望の免疫機能や特性の誘導等が挙げられる。
【0020】
幹細胞や幹細胞系の特定の所望の型から抽出できるRNAを有する単離RNAを用いて、in vivoで幹細胞仲介による機能的修復を促進することができ、更に、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患を改善或いは治療することができる。このような損傷は、例えば、疾患や年齢、遺伝子構造、遺伝子変異、外傷、外科手術、治療の他のいずれかの形態、疾患、偶発的或いは意図的な病的状態に起因し得る。
【0021】
或いは、上述のRNAを他の活性物質、例えば、幹細胞や、上述の方法に従って幹細胞からin vitroで得た細胞等と共に細胞集団に適用することができる。該RNAと他の活性物質は同時に、逐次的に或いは別々に投与することができる。
【0022】
本発明の方法を用いて、幹細胞が一以上の所望の細胞型に動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化するように誘導することができる。本発明のこの様相は、幹細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化するように誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。或る実施形態においては、前記全能性或いは多能性幹細胞はin vitroで処理する。他の実施形態において、前記全能性或いは多能性幹細胞は患者の体内においてin vivoで処理する。用いる幹細胞は成体幹細胞であってもよい。
【0023】
また、本発明の方法を用いて、成体細胞が一以上の所望の幹細胞型に動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化するように誘導することもできる。この様相において、本発明は幹細胞を得るための方法を提供する。従って、本発明は、細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た分化細胞をin vitroで逆分化させて全能性或いは多能性の幹細胞或いは幹細胞系の所望の型を産生する方法であって、幹細胞或いは幹細胞系の所望の型から抽出できるRNAを有する単離RNAを前記分化細胞の細胞培養物に提供して、前記分化細胞の所望の逆分化によって幹細胞或いは幹細胞系の前記型を得ることを含む方法を提供する。本発明は、このような方法を用いて得られる幹細胞を提供する。また、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造におけるこのような幹細胞の使用も提供する。更なる様相において、本発明は、このような幹細胞の治療的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む治療方法を提供する。
【0024】
或る実施形態においては、用いる幹細胞は成体幹細胞であり、所望の細胞型には胚性幹細胞或いは胚性幹細胞系が含まれる。従って、本発明は、成体幹細胞から胚性幹細胞或いは胚性幹細胞様細胞を産生する方法も提供する。
【0025】
より一般には、用いる幹細胞は、発達の後胚期段階、例えば、胎児や新生児、幼若体(juvenile)、成体の段階、或いはこれらの段階のサブ段階(sub-stage)のいずれに由来してもよく、所望の細胞型には胚性幹細胞或いは胚性幹細胞系が含まれる。従って、本発明は、このような後胚期段階の細胞から胚性幹細胞或いは胚性幹細胞様細胞を産生する方法を提供する。例えば、本発明においては、ある成体から自己(成体)幹細胞を得ることにより、該成体の治療のための胚性幹細胞特性を有する幹細胞を産生することができる。
【0026】
ある種の幹細胞は特定の発達段階にのみ存在する(例えば、ある種の赤血球産生幹細胞はある胎児発達段階の肝臓に存在するが、この種の挙動を示す肝幹細胞は成体には存在しない)。従って、本発明は、ある特定の発達段階にのみ存在する幹細胞或いは幹細胞様細胞を、他の発達段階で入手可能な幹細胞から産生する方法を提供する。
【0027】
本発明の或る実施形態においては、用いる幹細胞は特定の型の幹細胞(例えば、骨髄間葉系幹細胞)であり、所望の細胞型には異なる型の幹細胞(例えば、神経幹細胞)が含まれる。本発明は、ある幹細胞型から他の幹細胞型の特性を有する細胞を産生する方法を提供する。
【0028】
いずれの特定の幹細胞型も、天然宿主の発達段階に応じて様々な能力を有することができる。従って、或る実施形態において、用いる幹細胞は、特定の型で且つ特定の発達段階の幹細胞(例えば、成体由来の骨髄間葉系幹細胞)であり、所望の細胞型には、異なる発達段階に関連する特性を有する同一の或いは異なる型の幹細胞(例えば、新生児の骨髄間葉系幹細胞)が含まれる。従って、本発明は、ある発達段階に由来する特定の型の幹細胞に関連する特性を有する細胞を、異なる発達段階に由来する同一の或いは異なる型の幹細胞から産生する方法も提供する。
【0029】
幹細胞から分化細胞を産生できるということは、所望の分化細胞を多数得ることができることを意味する。また、分化細胞から幹細胞を産生する能力によって、幹細胞を直接単離しなければならない方法と比べて、遥かに簡単に、あまり手間をかけずに、侵襲性を低くして幹細胞が得られる。これは、高多能性幹細胞を成体組織から得ることができ、胚組織を用いる必要がないことも意味する。幹細胞を産生するための技法と幹細胞を分化するための技法を組合せることによって、所望の分化細胞を多数産生することができる。本発明の方法及び薬剤は、組織培養及び無傷の生物(特に動物)の両方において分化を制御できることを意味する。
【0030】
また、本発明の方法を用いて、成体細胞が他の異なる成体細胞型へ分化するように誘導することもできる。このような分化の例としては、罹患した(例えば、癌性の)細胞の修復や細胞の遺伝的構成の改変、特定の細胞型及び細胞運命の誘導、細胞の免疫学的プロファイルの変更、特定の所望の免疫機能や特性の誘導が挙げられる。
【0031】
また、本発明は、上述の方法によって得られる細胞も提供する。このような分化細胞を数々の障害を治療するための薬剤の製造に用いることができる。従って、更なる様相において、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造における本発明の細胞の使用を提供する。本発明は、このような細胞の治療的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む治療方法を包含する。更に、上述の分化細胞を、診断目的及び/又は研究目的のために、及び/又は診断及び/又は研究のために用いる試薬の製造において用いることができる。従って、更なる様相において、本発明は、診断或いは研究における本発明の細胞の使用、及び診断或いは研究のための試薬の製造における該細胞の使用を提供する。
【0032】
本発明の方法によって得られる幹細胞は、本発明に係る方法を用いて動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化するように誘導することができる。従って、更なる様相において、本発明は、分化細胞を産生する方法であって、(a)本発明に係る方法を行って分化細胞から幹細胞或いは幹細胞系を産生することと、(b)前記幹細胞或いは幹細胞系に対して本発明に係る方法を行って分化細胞を産生することとを含む方法を提供する。この方法はin vivo及び/又はin vitroで行うことができる。
【0033】
また、本発明は、このような方法によって得られる細胞も提供する。得られた細胞を用いて多数の疾患を治療することができる。従って、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造におけるこのような細胞の使用、更に、診断或いは研究のための該細胞の使用も提供する。更なる様相において、本発明は、このような細胞の治療的有効量をそれを必要とする患者に投与することを含む治療方法を提供する。
【0034】
或る場合には、本発明の幹細胞、或いは本発明の方法によって該幹細胞から得られる細胞に所望の遺伝子修飾を導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明者らは、特定の源由来のRNA配列を細胞に提供することによって細胞特性に影響を及ぼすことができることを見出した。従って、本発明は、一様相において、幹細胞仲介による機能的修復の促進に関する。「修復」とは、組織の回復や再生、強化、更新(renewal)、若返り、部分的な或いは完全な再増殖や更新を意味する。幹細胞仲介による修復は、in vitroでもin vivoでも生じ得る。また、本発明は、幹細胞の成体分化細胞への分化、成体分化細胞の幹細胞への分化、及び分化成体細胞の異なる専門性を有する他の成体細胞への分化にも関する。これは、特定のRNA配列を標的細胞に提供することによって達成される。本発明は、in vitro或いはin vivoでの細胞の遺伝子型の修飾にも関する。
【0036】
本発明は一般に細胞特性の改変に関する。「特性」とは、細胞の所望の特性のいずれをも意味し、例えば、細胞の表面内や表面上に存在するか、或いは細胞によって分泌される生体分子の型を反映する生物学的特性が挙げられる。所望の特性としては、細胞内の特定の生体分子の活性状態や、細胞が有する特定の挙動のための能力が挙げられる。
【0037】
前記細胞特性は、潜在的な特性であってもよく、或いは細胞内で顕在的であってもよい。前記細胞特性は、特定の表現型(即ち、観測可能な物理的或いは生化学的特性のいずれをも意味する)であってもよい。このような表現型の変化としては、例えば、細胞表面マーカーの発現や免疫機能の変化、MHC制限の変化、一以上のタンパク質の活性の変化等を挙げることができる。所望の表現型の変化はより極端な、例えば、ある組織から他の組織への(例えば、肝細胞から腎細胞への)細胞機能の再指向(redirection)であってもよい。このような表現型の変化は、腫瘍細胞活性から健常細胞活性への逆転(reversal)であってもよい。
【0038】
従って、前記細胞特性は、細胞が有する所望の機能のいずれであってもよい。「機能」とは、所望の細胞型によって得られるいずれの生物活性をも包含することを意味する。機能の例としては、特定の組織、例えば、脳(例えば、皮質や小脳、海馬、網膜、黒質、脳室下帯)や、脊髄、肝臓、腎臓、筋肉、神経組織(末梢、中枢、ニューロン、グリア)、心臓組織(例えば、心房や心室、弁、心臓神経支配(cardiac innervation))、免疫細胞、血液、膵臓細胞、胸腺組織、脾臓、皮膚、消化管、肺、骨、軟骨、腱、毛包、感覚器(例えば、耳や眼)、甲状腺や胸腺、下垂体、副腎、膵臓等の内分泌腺、外分泌腺或いは傍分泌腺、生殖器系(例えば、精巣、前立腺、精嚢、卵巣、子宮、卵管、乳房)、歯、血管、消化管組織(例えば、胃や胆嚢、腸、結腸)に特異的な機能が挙げられる。より詳細なレベルでは、ある組織型内の特定の細胞型の機能が対象となり得るが、例えば、脳組織の中では、神経細胞や皮質ニューロン、或いはグリア細胞が脳内でより分化(専門化)した機能を有する。更に詳細なレベルにおいて、所望の機能は分子レベルであってもよいが、細胞の表面で特定の分子(例えば、免疫系のT細胞の場合の特定のT細胞レセプター)が発現されることが望ましい。所望の機能のリストを完全に網羅的なものにすることは不可能であるが、個々の状況下で所望され得る等価な機能については当業者には明らかとなるであろう。
【0039】
前記細胞特性の改変によって、細胞はより分化した形態や機能へ向けて分化することができ、例えば、幹細胞から分化した機能を有する成体細胞(例えば、肝細胞)へと分化する。また、前記改変によって、細胞は専門性の低い形態や機能へ向けて逆分化することもできる(例えば、成体分化細胞から幹細胞へ分化する)。また、前記改変によって、細胞やその子孫は、動員の挙動や、一以上の組織、器官或いは他の部位への遊走及び/又は統合の挙動、及び増殖の挙動を獲得することもできる。「動員」とは、幹細胞の静止状態からの変化を意味し、in vivoの場合、幹細胞の静止位置からの出発を意味する。「遊走」とは、幹細胞の動員や人工送達(artificial delivery)の地点から標的組織への移動を意味する。「統合」とは、幹細胞間の相互作用や幹細胞の標的細胞集団や環境との統合を意味する。
【0040】
また、前記改変によって、細胞やその子孫は、動員や統合の前、その間、或いはその後に増殖の挙動を獲得することもできる。「増殖」とは、細胞やその子孫の分裂によって新しい組織が得られることを意味する。
【0041】
また、前記改変によって、細胞は改変遺伝性遺伝子型を獲得するように遺伝的形質転換することもできる。このような改変遺伝子型によって、細胞が体細胞変異によって獲得したか或いは細胞が元々受け継いでいる遺伝的変異を逆転することができる。このようにして、遺伝性疾患を治療或いは予防することができる。このような改変遺伝子型によって遺伝的変化がもたらされ、これによって機能の追加、変更、除去或いは無効をもたらすことができる。この形質転換方法は、一種の遺伝子療法の形態であり、これによって、細胞は遺伝学的に、好ましくは相続可能に改変され、この改変がいずれの子孫にも引き継がれる。従って、本発明の方法を遺伝子療法や体細胞或いは生殖系列細胞に用いて、遺伝学的に、好ましくは相続可能に改変された細胞を得ることができる。更なる例については当業者には明らかとなるであろう。
【0042】
従って、一様相において、本発明は、幹細胞の分化を一以上の所望の細胞型へ向かわせる方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを幹細胞の集団に、前記集団の幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。また、本発明は、幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を、in vitroで一以上の所望の細胞型に、或いはin vivoで標的細胞と統合した一以上の所望の細胞型に向かわせる方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを幹細胞の集団に、前記集団の幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。前記RNAは前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。
【0043】
本発明の方法によって、分化が特定の専門性に向かうように指示することができる。例えば、幹細胞を肝機能、より具体的には肝細胞機能へ向かわせることができる。本発明の方法によって、幹細胞の特定の型、例えば、骨髄間葉系幹細胞の動員が可能となる。本発明の方法によって、特定の組織、例えば、左大腿への遊走や統合が可能となる。
【0044】
本発明は、任意の細胞、特に幹細胞を制御操作して該細胞が所望の分化細胞型へ分化するように誘導するための方法及び薬剤を提供する。このような方法には、幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化の指向(directing)によって幹細胞仲介による修復を改善することが含まれる。
【0045】
このような方法には、幹細胞が一以上の所望の成体細胞型へ分化するように誘導することが含まれる。更に、本発明は、分化細胞の逆分化を誘導して幹細胞を得るための方法も提供する。上述の二種類の方法を組合せて、例えば、幹細胞を分化細胞から得た後に分化させて、異なる細胞型或いは同一細胞型の分化細胞を得ることができる。後者の分化の前に、幹細胞の数を増やして、及び/又は所望の方法で操作して、例えば、所望の遺伝子修飾を導入することができる。
【0046】
特定の末端分化状態を達成するために、例えば、幹細胞を誘導して分化させることができる。本発明の方法を用いて、分化細胞が対象レシピエントと免疫学的に適合することを確実にすることも可能である。幹細胞を誘導して分化させる細胞型を選択できるということは、単一幹細胞系或いは幹細胞系から様々な異なる細胞型を産生することができることを意味する。本発明のRNA分子、或いは得られた分化細胞型を各種障害の治療、或いは各種障害の治療用薬剤の製造に用いることができる。特に、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いることができる。また、本発明は、in vivoでの幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化の誘導、及び幹細胞仲介による機能的再生及び/又は修復の促進のための方法及び薬剤も提供する。
【0047】
このような方法には、ある細胞型の幹細胞が一以上の他の所望の幹細胞型に分化するように誘導することや、成体細胞が一以上の所望の幹細胞型に分化するように誘導すること、成体細胞が他の異なる成体細胞型に分化するように誘導することが含まれる。
【0048】
RNAを用いて細胞運命に影響を及ぼすことができることによって、例えば、罹患した細胞を修復することが可能となり、細胞の遺伝子構成を改変することが可能となり、特定の細胞型及び細胞運命を誘導することが可能となり、免疫学的プロファイルを任意に変更することが可能となり、また、特定の免疫機能の誘導が可能となる。
【0049】
幹細胞
本発明を用いて、任意の好適な幹細胞をも産生或いは分化させることができる。また、本発明を用いて、in vivoで幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することもできる。幹細胞は一般に、自己再生が可能で且つ一以上の特定の分化細胞型に分化することも可能な細胞であると考えられている。幹細胞は多能性、即ち、複数の異なる分化細胞型を産生することが可能な細胞であることができる。或る場合には、幹細胞は全能性、即ち、その由来源である生物の全ての異なる細胞型を産生することが可能な細胞であることができる。本発明は、多能性幹細胞或いは全能性幹細胞に適用可能である。
【0050】
特に好ましい実施形態においては、本発明を用いて成体幹細胞を分化或いは獲得する。幹細胞は動物体の多くの部位で発生することが知られている。本発明によって分化或いは獲得される幹細胞は、幹細胞が存在する器官や組織のいずれかに由来するものであることができる。その例としては、骨髄や造血系、神経系、脳に由来する幹細胞や筋肉幹細胞、臍帯幹細胞が挙げられる。幹細胞は特に、骨髄間質幹細胞、神経幹細胞或いは造血幹細胞であることができるが、好ましい例においては、骨髄間質幹細胞或いは神経幹細胞であることができる。特に本発明の方法を用いて幹細胞の分化を誘導する場合、幹細胞は骨髄間質細胞である。
【0051】
幹細胞は植物幹細胞であってもよく動物幹細胞であってもよい。
【0052】
好ましい例においては、幹細胞は動物幹細胞であり、好ましくは哺乳類幹細胞である。好ましい一実施形態においては、幹細胞はヒト幹細胞であることができる。或いは、幹細胞は非ヒト動物由来、特に非ヒト哺乳動物由来であることができる。幹細胞は、家畜或いは農業的に重要な動物の幹細胞であることができる。前記動物としては、例えば、ヒツジやブタ、雌ウシ、ウマ、雄ウシ、家禽、その他の商業用養殖動物を挙げることができる。前記動物はイヌやネコ、トリ、特に飼いならされた動物であってもよい。前記動物は、サル等の非ヒト霊長類であってもよい。例えば、前記霊長類はチンパンジーやゴリラ、オランウータンであってもよい。幹細胞はげっ歯類幹細胞であってもよい。例えば、幹細胞はマウスやラット、ハムスター由来であってもよい。
【0053】
他の好ましい例では、幹細胞は植物幹細胞である。幹細胞は、種子や発達中の或いは成熟した植物の多数の部位で発生することが知られている。本発明で分化或いは獲得された幹細胞は、幹細胞が存在する組織のいずれかに由来するものである。その例としては、頂端分裂組織や根端分裂組織に由来する幹細胞が挙げられる。好ましい一実施形態において、幹細胞は、農業的に重要な植物由来のものである。前記植物としては、例えば、トウモロコシや小麦、米、ジャガイモ、食用の果実を有する植物、その他の商業用栽培植物を挙げることができる。
【0054】
多くの場合、分化細胞は被験体の治療や薬剤の製造のために用いることができる。このような場合、幹細胞は対象レシピエント由来であってもよい。これは特に、分化細胞を逆分化して幹細胞を得るために本発明の方法を用いて幹細胞を得る場合であってもよい。他の場合には、幹細胞は異なる被験体に由来してもよいが、対象レシピエントと免疫学的に適合するように選択する。或る場合には、幹細胞は、対象レシピエントの親族、例えば、兄弟や半兄弟、いとこ、親、子供由来、特に兄弟由来であってもよい。幹細胞は、組織型が判別された親族でない被験体であって、該被験体に害を及ぼさない対象レシピエントからの免疫応答が全くないか極低い免疫応答をもたらす免疫学的プロファイルを有することが見出された被験体に由来してもよい。しかし、多くの場合、本発明を用いて幹細胞を対象レシピエントに免疫学的に適合させるため、幹細胞或いは幹細胞の産生に用いる分化細胞は、親族でない被験体由来であることができる。例えば、幹細胞と対象レシピエントは、組織適合ハプロタイプ(例えば、HLAハプロタイプ)を有していても有していなくてもよい。
【0055】
或る場合には、幹細胞は、胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞であってもよい。胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞は、多能性幹細胞、特に全能性幹細胞であることができる。該細胞は発達の何れの段階或いはサブ段階に由来してもよく、特に胚盤胞の内細胞塊(例えば、胚性幹細胞)に由来することができる。胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞は、本明細書に記載の生物のいずれに由来してもよい。胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞は、ヒト幹細胞或いは非ヒト幹細胞、特に非ヒト動物幹細胞(例えば、非ヒト霊長類)であってもよい。胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞は、げっ歯類幹細胞であってもよく、特にマウス胚性幹細胞であってもよい。或る場合には、胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞を回収した後、通常その生涯のある段階において、該被験体を治療するための薬剤の製造に用いる。一実施形態においては、胚性幹細胞、胎児幹細胞、新生児幹細胞或いは幼若幹細胞を用いる場合、既に確立された胎児幹細胞系、胚性幹細胞系、新生児幹細胞系或いは幼若幹細胞系から得る。これは特にヒト細胞の場合である。或る場合において、幹細胞は胚体外組織から得ることができる。幹細胞は臍帯から得ることができ、特に臍帯血から得ることができる。
【0056】
ある行政管轄地区においては、公の秩序の理由から、幹細胞は人間を形成する能力を有する全能性幹細胞ではないかもしれない。これは特に、幹細胞がヒト胎児幹細胞或いはヒト胚性幹細胞の場合である。
【0057】
また、本発明は幹細胞系にも適用可能である。幹細胞系は一般に、生物から単離され培養下で維持されている幹細胞集団である。従って、本発明は、幹細胞系、例えば、成体幹細胞系や胎児幹細胞系、胚性幹細胞系、新生児幹細胞系、幼若幹細胞系に適用することができる。幹細胞系はクローン幹細胞系であってもよい(即ち、単一幹細胞に由来していてもよい)。好ましい一実施形態において、本発明は、従来の幹細胞系、特に、従来の胚性幹細胞系及び胎児幹細胞系に適用することができる。他の場合において、本発明は、新たに確立された幹細胞系に適用することができる。
【0058】
幹細胞は、従来の幹細胞系であってもよい。本発明に用いることのできる従来の幹細胞系の例としては、ジェロン提供のヒト胚性幹細胞系やリニューロン提供の神経幹細胞系が挙げられる。好ましい例においては、幹細胞系は自由に入手可能で自由にアクセスできるものであり、特にこのような既存の幹細胞系であることができる。
【0059】
ヒト胚性幹細胞系の場合、好ましい例においては、以前から存在する幹細胞系を用いる。本発明の特に好ましい実施形態においては、ヒト胚性幹細胞系を用いる場合、該細胞系は、誘導プロセス(胚の破壊によって開始)が2001年の8月9日、EDT午後9時より前に開始された際のものであることができる。好ましくは、ヒト胚性幹細胞系は、生殖目的で提供されたが、例えば、必要分を超えたために本来の目的には必要のなくなった胚から産生されたものであることができる。好ましくは、胚を用いて幹細胞系を産生するに当ってインフォームド・コンセントを得る。好ましい例において、用いるヒト胚性幹細胞系は、胚性幹細胞研究に対して米国連邦政府資金を得るために必要な2001年8月9日付ブッシュ大統領発表の要求を満たしている。このような幹細胞系としては、ブレサジェン社(オーストラリア)や、CyThera社、カロリンスカ研究所(スウェーデン、ストックホルム)、モナシュ大学(オーストラリア、メルボルン)、国立生物科学センター(インド、バンガロール)、リライアンスライフサイエンス(インド、ムンバイ)、テクニオン−イスラエル工科大学(イスラエル、ハイファ)、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校、ゲーテボルグ大学(スウェーデン、ゲーテボルグ)、ウィスコンシン大学同窓会研究財団の要求を満たしていると認められた幹細胞系が挙げられる。
【0060】
本明細書における幹細胞への言及は、例えば、標的細胞が新たに単離された幹細胞であるか或いは幹細胞がin vivoにおける常在幹細胞であることが明らかでない限り、一般に、幹細胞系にも適用可能な本明細書に記載された実施形態を包含する。本発明は、新たに単離された幹細胞に適用可能であり、更に幹細胞を含む細胞集団にも適用可能である。また、本発明を用いて、in vivoで幹細胞の分化を制御することもできる。
【0061】
本発明の方法の第一段階は、好適な幹細胞の単離であることができる。幹細胞の特定の型を単離するための方法については当該技術分野では周知であり、このような方法を用いて本発明に用いる幹細胞を得ることができる。例えば、このような方法を用いて、本発明の薬剤の対象レシピエントから幹細胞を回収することができる。幹細胞の細胞表面マーカー特性を用いて、例えば、細胞分類によって幹細胞を単離することができる。幹細胞は、本明細書に記載の被験体種のいずれからも得ることができ、特に、本明細書に記載の障害のいずれかに罹患している被験体から得ることができる。
【0062】
ある好ましい実施形態においては、本発明の方法を用いて幹細胞を得て分化細胞を逆分化し、幹細胞を得ることができる。特に、分化細胞を被験体から回収し、幹細胞を産生するためにin vitroで処理した後、得られた幹細胞を必要に応じて操作し、該被験体に戻す前(及び/又は戻した後)に分化させることができる。幹細胞は通常、個体に存在する細胞の内の極少数であるため、このようなアプローチは好ましい。以上のことは、幹細胞を特定の個体からより容易に得ることができ、また、胚性幹細胞の必要性を排除できることも意味する。また、通常このようなアプローチは、幹細胞自身を単離するための方法に比べてあまり手間がかからず安価である。或る場合には、幹細胞を被験体から単離し、in vitroで分化した後、該被験体に戻すことができる。このようなex vivo法は特に好ましい。
【0063】
或る場合には、標的幹細胞はin situ、即ち、被験体内に存在し得る。従って、更なる様相において、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造における、幹細胞の分化を誘導することが可能な本発明に係るRNAの使用を提供する。また、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療において幹細胞の分化を誘導することが可能な本発明に係る単離RNAを用いる方法をも包含する。このような方法は、例えば、退行性脳疾患や脳損傷或いは脊髄損傷を治療するために用いることができる。また、肝疾患や心疾患、骨格筋疾患、心筋疾患、I型糖尿病等の疾患の治療に用いることもできる。更に、加齢に関連する変性疾患に対抗するために用いることができる。
【0064】
このような実施形態において、幹細胞は、本明細書に記載の幹細胞の型のいずれでもあることができ、本明細書に記載の生物のいずれにも存在し得る。標的幹細胞は、幹細胞が存在する体の器官や組織、細胞集団、例えば、本明細書に記載の器官や組織、細胞集団のいずれにも存在し得る。標的幹細胞は通常、被験体内で自然発生する常在幹細胞であるが、或る場合には、本発明の方法を用いて産生した幹細胞を被験体に導入した後、RNAの導入によって分化を誘導することができる。
【0065】
培養下で幹細胞を単離し、維持し、増殖し、特徴付けし、操作するための様々な技法が知られており、このような技法を用いることができる。或る場合には、遺伝子修飾を幹細胞のゲノムに導入することができる。PCRやサザンブロット法等の技法によってクローン株を確立し容易にスクリーニングすることができるため、幹細胞自身がこのような操作に役立つ。遺伝子ターゲティングやランダムインテグレーション等の技法を用いて幹細胞のゲノムに変化を導入することができる。
【0066】
或る場合には、幹細胞は遺伝的欠陥を有する個体に由来してもよい。その後、修飾を行って該欠陥を修正或いは改善することができる。例えば、欠損遺伝子や欠陥遺伝子の機能的コピーを幹細胞のゲノムに導入することができる。遺伝子ターゲティングを用いて所望の特定の変化を導入することができ、特に欠陥遺伝子を修飾して正常にすることができる。部位特異的リコンビナーゼを用いて、遺伝子ターゲティングに関与する選択マーカーを除去することができる。特に好ましい実施形態においては、遺伝的欠陥を有する個体から分化細胞を得、本発明の方法を用いてこの分化細胞から幹細胞を得、前記遺伝的欠陥を修正或いは改善した後、前記幹細胞或いは該幹細胞から得た分化細胞を元の個体の治療に用いるか、或いは該個体の治療用薬剤の製造に用いる。
【0067】
或る場合においては、幹細胞は特定の遺伝子型を有しているという理由で選択することができる。例えば、幹細胞は、分化細胞を産生して遺伝的欠陥を有する被験体を治療するために用いることができる。幹細胞には遺伝的欠陥がない場合がある。例えば、幹細胞は、遺伝的欠陥のない被験体の親族から得ることができるか、或いは該親族から得た分化細胞から産生させることができる。例えば、幹細胞は、上述の障害を有しない兄弟から得ることができる。好ましい例においては、本発明を用いて、幹細胞を対象宿主に対して免疫適合(immunocompatible)させる、或いはより免疫適合させることができる。
【0068】
RNA分子
細胞特性において所望の変化をもたらすため、本発明では特定のRNAを用いる。用いるRNAは、標的細胞に誘導したい細胞特性を有する細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有するものであるか、或いはレシピエントの治療の場合には、用いるRNAは、再生或いは修復したい細胞型或いは組織を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有するものである。従って、例えば、幹細胞が所望の分化細胞型へ分化するように誘導する目的の場合、標的細胞に提供するRNAは通常、所望の分化細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNA配列を有する単離RNAである。該単離RNAは、所望の分化細胞型を有する細胞や組織から抽出できるか或いは抽出されたRNAを有することができる。
【0069】
RNAの源の均質性の程度は、所望の組織型の特異性によって部分的に決定される。RNAの抽出或いはRNA配列の抽出は、特定の組織型、例えば、脳(例えば、皮質や小脳、海馬、網膜、黒質、脳室下帯)や、脊髄、肝臓、腎臓、筋肉、神経組織(末梢、中枢、ニューロン、グリア)、心臓組織(例えば、心房や心室、弁、心臓神経支配)、免疫細胞、血液、膵臓細胞、胸腺組織、脾臓、皮膚、消化管、肺、骨、軟骨、腱、毛包、感覚器(例えば、耳や眼)、甲状腺や胸腺、下垂体、副腎、膵臓等の内分泌腺、外分泌腺或いは傍分泌腺、生殖器系(例えば、精巣、前立腺、精嚢、卵巣、子宮、卵管、乳房(mammary))、歯、血管、消化管組織(例えば、胃や胆嚢、腸、結腸)から行うことができる。このような組織は多数の異なる細胞型から構成されており、例えば、脳組織の構成細胞は、ニューロンやグリア細胞の各種サブタイプ、血管組織、結合組織及び脳常在幹細胞を有する。RNAは、特定部位の特定の組織型、例えば、左脛骨や左前頭葉等に由来し得る。従って、より均質な細胞集団はニューロンを含み得るが、所望の細胞運命自身が特定の場合(例えば、加齢に関連する脳疾患の治療の場合)、RNAをニューロンから抽出することができ、或いはRNA配列をニューロンから抽出することができる。再度より具体的には、RNAは皮質ニューロン等の特定のニューロン型に由来することができる。再度より具体的には、ドーパミン作動性皮質ニューロン等の特定の皮質ニューロン型に由来することができる。このような実施形態において、RNAは精製細胞源に由来する。
【0070】
或る実施形態においては、特定の組織型や一連の細胞、細胞系或いは細胞型、細胞系或いは単一細胞型に由来する本発明で用いるRNA、或いはこのような源に由来するRNA配列に加え、特定の発達段階のドナーに由来するこのような物質の源を用いることができる。従って、RNAは、特定の発達段階、即ち、対象レシピエントの発達段階と同一であるか、或いはそれより前か後の発達段階におけるニューロンに由来し得る。例えば、心臓変性の治療に用いるRNAは、幼若ドナーの心臓組織から抽出することができる。発達段階としては、胚や胎児、新生児、幼若体、成体、或いはこれらの段階のいずれかのサブ段階が挙げられる。
【0071】
或る実施形態においては、ある発達段階のレシピエントの組織や器官を処理するために本発明で用いるRNAは、標的組織の組織型や細胞型に関連する組織型や細胞型から得ることができるが、これは組織源の正確な型が異なる発達段階にのみ存在する場合である。例えば、成体の歯組織は、新生児や幼若体の新生歯組織から得たRNAで処理することができる。
【0072】
本発明に係る使用のための均質な精製RNAの他の好ましい源としては、胎児細胞や新生児細胞、幼若細胞の純粋な調製物、及び胚性幹細胞の純粋な調製物が挙げられる。
【0073】
分化細胞を所望の幹細胞型に逆分化したい場合、提供するRNAは通常、獲得したい所望の幹細胞型から抽出できるRNA配列を有する単離RNAである。該RNAは、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。
【0074】
本発明の或る実施形態においては、in vivoで再生や修復を行うために、用いるRNAを幹細胞から得て、生物全体、器官或いは組織に投与する。これによってレシピエント幹細胞集団自身を再生し活性化することができ、組織に対する二次的な間接再生作用がこれらの幹細胞によって正常に支持される。この場合、提供するRNAは通常、幹細胞型或いは幹細胞活性組織から抽出できるRNA配列を有する単離RNAである。該RNAは、幹細胞型或いは幹細胞活性組織から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。幹細胞に富む組織の例としては、胎児組織や胚組織、成長修復や再生の段階を経た後発達段階の組織が挙げられる。
【0075】
通常、細胞RNA抽出物は様々なRNA分子種の異種集団から成る。異種集団におけるRNA分子型としては、メッセンジャーRNA(mRNA)やリボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、ヘテロ核RNA(hnRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、細胞質低分子RNA(scRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、転写関連RNA、スプライシング関連RNA、シグナル認識粒子RNA、直線状RNA、環状RNA、阻害RNA(例えば、siRNA)、一本鎖RNA、二本鎖RNA等を挙げることができる。好ましい実施形態において、RNAは所望の細胞型を有する細胞や組織のRNA抽出物を含むが、特にRNAは、所望の細胞型由来の抽出物を含むか、或いは本質的に該抽出物から成ることができる。
【0076】
従って、RNAに富む抽出物はドナー物質から調製するのが好ましい。ドナー物質は、例えば、検死で得た器官型源(organotypic source)であることができる。また、ドナー物質は、処理対象細胞と同一の源から得ることもでき、或いは処理対象細胞の対象レシピエントから得ることもできる。例えば、RNA抽出物は、器官、組織、或いは器官や組織から単離された細胞に由来してもよい。例えば、RNA抽出物は、脳や脊椎、心臓、腎臓、脾臓、皮膚、消化管、肝臓から成る(但し、これらに限定されない)群から単離された細胞、組織、或いは器官に由来してもよい。或る実施形態においては、源となる器官、組織或いは細胞は、本発明の方法或いは薬剤で1回以上処理したものであってもよい。RNA抽出物は、特定の選択された表現型の細胞系、一次細胞培養物、或いは特定の免疫学的プロファイルを有するドナー組織に由来してもよい。
【0077】
通常、上述のRNAは、処理対象の標的細胞と同一の種から抽出できるRNA配列を有している。従って、RNAを提供する標的細胞が動物細胞の場合、RNAは通常、動物細胞、特に処理対象の標的細胞と同一の動物種から抽出できるRNA配列、或いは該動物種から抽出されたRNAを有する。同様に、標的細胞が植物細胞の場合、RNAは通常、植物細胞、通常は標的細胞と同一種の植物細胞から抽出できるRNA配列、或いは該植物細胞から抽出されたRNAを有する。
【0078】
上述のRNAは、本明細書に記載の生物或いは生物群のいずれかから抽出できるRNA配列、或いはそれから抽出されたRNAを有することができる。RNAは、本明細書に記載の幹細胞型或いは分化細胞型のいずれかから抽出できるRNA配列、或いはそれから抽出されたRNAを有することができる。
【0079】
或る実施形態において、上述のRNAは、処理対象細胞のレシピエントとは異なる発達段階で抽出できるRNA配列、或いはその段階で抽出されたRNAを有することができる。例えば、この発達段階は、処理対象細胞のレシピエントの発達段階に比べて未成熟であってもよい。或いは、この発達段階は、より活性な細胞生成段階であってもよい。例えば、脊髄損傷の治療は、神経管形成時に得られたドナー胚組織から得たRNAを用いた処理によって行うことができる。また、発達段階は、幹細胞活性の増加を示す段階であってもよい。例えば、本発明のある好ましい実施形態において、RNAは、胎児、新生児、幼若体或いは胚発達段階で抽出できるRNA配列、或いはその段階で抽出されたRNAを有することができる。例えば、RNAが脳細胞或いは組織から抽出できる場合、ドナーは、広範囲の神経形成が起こっている発達段階、例えば、胎児発達段階にあってもよい。本発明者らは、初期発達段階の細胞から抽出できるRNAを提供することによって、特に幹細胞仲介による組織修復を引き出す上で有利な効果が得られることを示した。
【0080】
他の各種実施形態においては、発達段階は、処理対象細胞のレシピエントの発達段階と比べて未成熟でなくてもよく、活性の低い細胞生成段階であってもよい。或る実施形態において、RNAは、抽出できるRNAの活性を修飾するような方法で前処理(例えば、化学的或いは物理的前処理)や予備的コンディショニング(例えば、筋肉組織のための運動や生殖組織のための特定の生殖段階の誘導による)を行った組織から抽出できるRNA配列、或いは該組織から抽出されたRNAを有することができる。例えば、RNAは、ストレスを受けたり損傷したりした組織から抽出することができる。
【0081】
上述の本発明に係るRNAを用いた細胞特性の改変によって、標的細胞は、RNAが抽出できる生物と同様或いは同一の免疫学的プロファイルを得ることができる。「免疫学的プロファイル」は、対象レシピエントにおける標的細胞の免疫学的特性を含むものとする。従って、本発明を用いて、標的細胞の免疫学的プロファイルを所望の方法で変更することができる。本発明を用いて、産生する細胞、或いは該細胞から産生する生成物が特定の免疫学的プロファイルを有することを確実にすることができる。特に、標的細胞に提供するRNAを選択して、得られる細胞、或いは該細胞から産生する生成物が、対象レシピエントにおいて免疫原性でないという免疫学的プロファイル、或いは重要でない低い免疫応答をもたらす免疫学的プロファイル、好ましくは有害な表現型をもたらさない免疫学的プロファイルを有するようにすることができる。従って、好ましい例において、提供されるRNAは、対象レシピエント或いは免疫学的に適合する被験体の細胞や組織から抽出できるRNA配列、或いは該細胞や組織から抽出されたRNA、特に該細胞や組織から抽出されたRNAであることができる。このような方法は、同種移植片や異種移植片を患者に提供する際に、拒絶反応の危険性を最小限に抑えたり予防したりする上で特に有用である。
【0082】
細胞の免疫学的プロファイルを変更できるということは、RNAを提供する幹細胞或いは分化細胞自身が対象レシピエントに対して必ずしも免疫学的に適合する必要がないことを意味し得る。このことは、幹細胞等の細胞を必ずしも対象レシピエントから単離しなくてもよいことを意味し、例えば、既に存在する幹細胞やより簡便な源由来の幹細胞を用いることができることを意味する。また、このことは、細胞、特に特定の所望の遺伝子型を有する幹細胞を用いて、適合性のある免疫学的プロファイルに変換することができることをも意味する。例えば、対象レシピエントが遺伝的欠陥を有している一方で、RNAを提供する幹細胞や分化細胞は、同様の欠陥を有しない異なる被験体に由来してもよい。本発明を用いて、ドナー細胞を対象レシピエントに対して免疫学的に適合させることができ、また、遺伝的欠陥を補償することもできる。
【0083】
本発明に係るRNAを用いた細胞特性の改変を用いて細胞の免疫学的特性を変更し、処理個体に対して同種或いは異種である細胞を、細胞の拒絶反応の危険性を最小限に抑えつつ投与可能なようにすることができる。例えば、注入前にヒトRNAで処理したブタ細胞を、細胞表面分子の発現の改変、及び処理個体によって非自己と認識されかねない自己分子による該分子の置換によって、拒絶反応の危険性を最小限に抑えながらヒト患者に導入することができる。従って、単離RNAは、処理対象の標的細胞の種とは異なる種から抽出できるRNA配列、或いはこの異なる種から抽出されたRNAを有することができる。
【0084】
上述の本発明に係るRNAを用いた細胞特性の改変を用いて、疾患を有する患者の免疫機能を高めることができる。例えば、治療に用いるRNA配列は、該疾患に対し、自然抵抗性或いはワクチン摂取によって免疫があるか或いは比較的免疫がある患者や種から単離することができる。前記RNAは、例えば、その抽出元である個体の細胞が既に有している所望の免疫機能や特性を誘導することによって、処理患者に対し抵抗性を付与する作用を有する。一例は病原性疾患或いはウイルス性疾患の発症にある。このような場合、同一種或いは異種の抵抗性個体の免疫細胞(T細胞等)から抽出したRNAによって、処理個体に必要な免疫機能を付与することができる。チンパンジーやあるヒト群にあまり悪影響を及ぼさないHIVの場合も一例となり得る。ヒト患者にAIDSに対する抵抗性を付与するため、チンパンジーや上述のヒト群から抽出したRNAをヒト或いはヒトから単離した免疫細胞に投与した後、再導入する。
【0085】
上述の本発明に係るRNAを用いた細胞特性の改変を用いて、腫瘍成長を逆転させることができる。本明細書においては、健常細胞或いは初期発達段階の細胞から抽出できるRNA配列、或いは該細胞から抽出されたRNAに腫瘍細胞を曝露することによって、腫瘍細胞が正常な健常表現型に戻るように、或いは、腫瘍細胞が免疫系或いは遺伝的完全性維持系(genetic integrity maintenance systems)(例えば、p53仲介によるアポトーシス)による排除に対して敏感になるように誘導することができると考えられる。
【0086】
RNAの調製
ドナーRNAを抽出するための様々な技法が存在する。このような技法を用いて標的細胞に提供するRNAを得ることができる。或いは、このような技法を用いてRNAを得て、RNA抽出物中の必要なRNA分子の配列を同定(例えば、分画やスクリーニングによる)することができる。従って、本発明は、ある細胞型から他の細胞型へ所望の特性を付与することが可能なRNA配列をスクリーニングする方法であって、次の段階
i.所望の細胞型を有する細胞からRNAを抽出する段階と、
ii.抽出したRNAを異なる画分に分離する段階と、
iii.ある画分を一以上の試験細胞及び/又は試験レシピエントに提供する段階と、
iv.試験細胞又は試験レシピエントを解析し、RNAを抽出した所望の細胞型が有する特性に改変されたかどうか確認する段階とを含む方法において、試験細胞或いは試験レシピエントに改変特性を付与する画分を、所望の特性を付与することが可能なRNA配列を有するものとして同定する方法を包含する。
【0087】
このスクリーニング方法においては、RNA抽出物を分画し、適切なアッセイを用いてRNA機能を解析することによって、ある細胞型から他の細胞型へ所望の特性を付与することが可能なRNA配列を同定する。適切なアッセイの一例は、実施例1にて後述するタイプの試験である。このアッセイは、特定の細胞型を有する細胞から抽出できるRNAを有する単離RNAを細胞集団に提供することと、細胞特性が前記所望の細胞型の特性へ改変されたかどうか確認することと含む。このようにして、抽出物中のRNAを本発明の目的に必要でないものとして同定し、除外する(例えば、RNA組成物を簡素化或いは標準化する)ことができ、最終的には、所望の活性に関与する単一RNA分子或いは一連のRNA分子を残す。
【0088】
従って、本発明は、RNA抽出物においてある細胞型から他の細胞型へ所望の特性を付与することが可能なものとして同定された特定のRNA構造、特定のRNAサブタイプ、或いは特定のRNA配列の使用をも意図するものである。このようなRNA分子は人工的に合成することができる。或る場合において、RNAは、人工或いは合成RNAであってもよく、或いは抽出できる配列に基づくRNA類似物であってもよい。該類似物は、その安定性や標的細胞に入り込む能力、或いは他の望ましい特性によって選択されるものであることができる。
【0089】
従って、本発明で用いるRNAは、標的細胞に誘導により付与したい細胞特性を有する細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNA配列を有するものであることができる。従って、例えば、幹細胞が所望の分化細胞型に分化するように誘導する目的の場合、標的細胞に提供するRNAは通常、所望の分化細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNA配列を有する単離RNAであることができる。
【0090】
或いは、RNAは、例えば、ドナー源から調製することができる。好適な技法としては、冷フェノール法或いは熱フェノール抽出法による調製が挙げられる。或いは、市販のキット、特にタンパク質の変性及び遠沈によるRNAの分離に基づくキットを用いて、特定の組織や細胞からRNAを得ることができる。例えば、好ましい一プロトコル(冷フェノール)抽出においては、主要ドナー組織或いは細胞を多量の生理食塩水中でホモジナイズする。等体積の95%飽和フェノールを添加し、最初に超遠心分離機にて18,000rpmで30分間遠沈する。水相を保持し、1M MgCl2を添加して濃度0.1MのMgCl2溶液とする。次いで、2体積のエタノールを添加し、これを約30分間沈澱させる。6,000rpmで15分間最終回転を行って、エタノール下で保持及び貯蔵可能なRNAリッチ沈澱物を産生する。或いは、活性RNAリッチ抽出物を市販のRNA抽出キット(例えば、RNAzolTM等)のいずれかを用いて調製することができる。しかし、RNAを調製する正確な方法は一般に本発明にとっては重要ではない。
【0091】
或る場合には、RNA抽出物の特定の画分を用いることができる。例えば、標的細胞に提供するRNA種のサイズや特定の重量範囲に基づいてRNA集団を分画することができる。また、分画は、重量や電荷、識別可能で一般的な化学的特徴(例えば、構造、或いはヌクレオチドの特定のコンセンサスやパターンの存在)に基づいてもよく、或いは、サイズや重量、電荷、一般的な化学的特徴のいずれの組合せに基づいてもよい。
【0092】
或る実施形態においては、用いるRNAは、抽出物に存在するmRNA配列を有してもよく該配列から成っていてもよい。また或る実施形態においては、RNA画分やRNA分子は、分化プロセスのある部分に対して特異的に影響を及ぼす一方、他の部分に対してはそうでなくてもよい。例えば、あるRNA型やRNA分子は、遺伝的変化を誘導するのみであって、遊走や末端分化、統合、増殖等の他の作用を有していなくてもよい。他の実施形態においては、該RNA型やRNA分子は、遺伝的修飾以外の因子全てに影響を及ぼしてもよい。他の実施形態においては、該RNA型やRNA分子は、遊走の場所、増殖の程度、或いは末端分化の表現細胞型にのみ影響を及ぼし、他の如何なる局面にも影響を及ぼさなくてもよい。或る場合には、RNAは、様々な細胞型や組織から抽出できる配列の混合物を有することができる。例えば、RNA種は、2種類、3種類、4種類、5種類或いはそれ以上の様々な細胞型から抽出できる配列の混合物を有することができる。幹細胞を分化したい場合、RNAは、例えば、異なる細胞型から抽出できるものであって、両細胞型の特性を有する分化細胞を産生してもよい。遺伝的欠陥を有する標的細胞にRNAを提供しようとする場合、RNAは、該欠陥を有する細胞及び該欠陥がない細胞から抽出できる配列の混合物であってもよい。例えば、RNAは、遺伝的欠陥を有する被験体由来の細胞から得たRNA抽出物と、該欠陥のない他の被験体由来の同型の細胞から得たRNA抽出物との混合物を有することができる。或る場合には、所望の細胞型から抽出できる特定の配列が存在しないかもしれない。例えば、欠陥のある遺伝子の転写物を除去することができる。特定の配列の除去は、例えば、選択的分解やハイブリダイゼーションによって行うことができる。リボザイムを用いて特定の配列を切断することができる。また、ある程度の特異性を有するRNアーゼ分子を用いることもできる。
【0093】
抽出できる配列に対して特定の配列の添加或いは除去を行うことができる。例えば、或る場合、RNAは、産生細胞の最終的なレシピエントとなる予定の被験体に由来してもよく、該被験体は特定の遺伝子配列を欠いていてもよく、或いは欠陥のある遺伝子配列を有していてもよい。このような場合、欠損遺伝子や欠陥遺伝子の発現産物をコードするRNAに対応する追加RNAを抽出物に添加してもよい。このような場合、標的遺伝子配列を修復、修飾、除去或いは選択的に分解してもよい。
【0094】
RNAが幹細胞から抽出できるものである場合、好ましい幹細胞としては、本明細書に記載の幹細胞のいずれかが挙げられ、特に成体幹細胞が挙げられる。幹細胞は、例えば、造血幹細胞や骨髄間質幹細胞、神経幹細胞であってもよい。RNAが分化細胞から抽出できるものである場合、分化細胞はいずれの分化細胞であってもよく、特に成体分化細胞であってもよい。好ましい実施形態において、分化細胞は、骨髄細胞、神経細胞或いは造血細胞から選択することができる。分化細胞は、いずれの哺乳類器官に由来してもよく、例えば、腎臓や肝臓、心臓、膵臓、中枢神経系、生殖器官、或いは他の器官に由来してもよい。
【0095】
或る実施形態においては、細胞から抽出できて本発明の方法に用いる単離RNAは天然由来である。このことは、RNAが非天然配列を含んでおらず、完全に細胞の属する種由来のRNAを有することを意味する。或る実施形態において、RNAはウイルス配列や外因性レトロウイルス配列、病原体配列を含んでいない。或る実施形態において、RNAは、均一混合物であって、siRNAやmiRNA、干渉RNAの他の型を含んでいない。或る実施形態において、RNAはタンパク質をコードしなくてもよい(例えば、RNAは、タンパク質コード領域に隣接するインフレーム開始コドンや終止コドンを有しない)。或る実施形態において、RNAは腫瘍性細胞から抽出できるものではない。或る実施形態において、RNAは、抗ウイルス免疫応答を(例えば、Tollレセプターに結合することによって)直接活性化する種の二本鎖RNAを含んでいない。或る実施形態において、RNAは、アンチセンスRNAを含んでいない(例えば、存在するRNA転写物のセンス鎖に相補的なRNAは存在しない)。本発明に従って用いるRNAは、統合していても統合していなくてもよい。該RNAは複製可能であってもなくてもよい。該RNAは5’キャップを有していても有していなくてもよい。該RNAはポリAテール (poly-A tail) を有していても有していなくてもよい。該RNAは内因性逆転写酵素の基質として作用してもしなくてもよい。
【0096】
修飾RNA及び類似物
本発明は一般にRNAの使用を伴う。このRNAは、所望の特性を有する細胞から抽出できる配列を有する。このRNAを標的細胞に導入することによって、該RNAによって規定される所望の変化が標的細胞にて生じる。
【0097】
本明細書に示すように、変化が規定されているRNAは、開始細胞からのRNAフェノール抽出物内で送達した場合でも活性を有する。このフェノール抽出物は様々なRNA分子を含んでいる。活性が抽出物内の特定のRNA分子及び/又は配列に関連する場合には、調製や品質管理を簡素化するため、複合混合物ではなく特定のRNAだけを送達するのが好ましい。特定のRNAはRNA抽出物から精製によって調製することができるが、その代わりに、合成的或いは人工的に(例えば、少なくとも一部化学合成することによって、或いは鋳型核酸から特定のRNAを転写した後に精製することによって)調製することができる。
【0098】
従って、本発明は、本発明で用いるRNAを調製するためのプロセスであって、少なくとも一部化学的手段で該RNAを合成する段階を含むプロセスを提供する。また、本発明は、本発明で用いるRNAを調製するためのプロセスであって、前記RNAの鋳型をRNAポリメラーゼに接触させ、該ポリメラーゼが該鋳型と相互作用して前記RNAを産生できるようにする段階を含むプロセスも提供する。前記RNAポリメラーゼはRNA依存性RNAポリメラーゼであってもよいが、通常はDNA依存性RNAポリメラーゼである(即ち、鋳型は好ましくはDNA(例えば、プラスミドの形態)である)。
【0099】
RNA分子を修飾して細胞内安定性や半減期を増加させることができる。可能な修飾としては、RNA分子の5’及び/又は3’末端においてフランキング配列を付加することや、RNA分子の骨格内においてホスホジエステラーゼ連鎖ではなくホスホロチオエートや2’O−メチルを用いることが挙げられるが、これらに限定されない。この概念は、RNAの産生において固有のものであるが、イノシンやケオシン(queosine)、ブトシン(butosine)等の非伝統的塩基や、内因性エンドヌクレアーゼによって容易に認識されないアデニンやシチジン、グアニン、チミン、ウリジンのアセチル修飾型、メチル修飾型、チオ修飾型、及び同様の修飾型を含めて、このような分子全てに広げることができる。擬似ウリジンやメチルシトシン、イノシン等の塩基は、このようなRNA分子に存在し得る。また、DNAヌクレオチドを含めてDNA/RNAキメラを形成することも可能である。修飾骨格の使用は、本発明の修飾RNA分子の好ましい特徴である。
【0100】
RNA類似物や模倣物を用いることもできる。天然RNA構造を模倣するポリマーを調製し、本発明等で、例えば、カーシェンバウム(Kirshenbaum)ら(1999年)によって記載されたように用いることができる。このような修飾分子や類似物は、厳密な化学的観点からは単にリボ核酸ではなくても、本明細書では「RNA」として見なすことができる。
【0101】
標的細胞へのRNAの提供
RNAの標的細胞への提供はin vitro或いはin vivoで行うことができる。また、RNAを標的細胞にin situで提供するための薬剤の製造にRNAを用いることもできる。これは特に、動物体においてRNAを標的細胞に提供する場合である。植物の場合、本発明は、in vitro及びin vivoの両方で標的細胞にRNAを提供するための方法も提供する。いずれの好適な技法によってもRNAを標的細胞に提供することができる。
【0102】
核酸分子を細胞に提供するための数多くの方法が知られており、このような方法を用いることができる。例えば、好適な技法としては、リン酸カルシウムトランスフェクションやDEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム封入、リポソーム仲介トランスフェクション、ミクロスフェア封入、ウイルスエンベロープ粒子を用いた形質導入、マイクロインジェクションを挙げることができる。グラハム(Graham)及びファン・デア・エブ(van der Eb)(1978年)のリン酸カルシウム沈澱法を用いることができる。哺乳類細胞宿主系形質転換の一般的な側面については米国特許第4,399,216号に記載されており、これらを用いることができる。哺乳類細胞を形質転換するための各種技法については、キーオン(Keown)ら(1990年)及びマンスール(Mansour)ら(1988年)を参照のこと。或る場合には、RNA或いは封入されたRNAを標的細胞による摂取を高める化学剤に結合することができる。例えば、RNA含有粒子のRNAを、適切なレセプターに特異的な抗体に結合することができる。このような標的化学物質は、全ての細胞型による摂取を高めることができるか、或いは、特定の細胞型や幹細胞型に特異的な作用を有することができる。或いは、RNAの投与をこのような試薬に結合せずに行うことができる(例えば、裸のRNA)。或る場合には、RNAを細胞の培地に好適な時間、単に添加することができる。例えば、細胞とRNAを一緒に1分間〜10日間、好ましくは1時間〜5日間、より好ましくは6時間〜2日間培養することができる。好ましい実施形態においては、RNAを細胞と共に12乃至24時間、特に12時間培養することができる。RNAがRNA配列を含むリポソームの形態で提供される場合には、同様の時間を費やすことができる。
【0103】
他の実施形態においては、RNAを治療方法に用いることもでき、或いは、幹細胞或いは他の細胞へのRNAのin vivo提供を可能とする薬剤の製造に用いることもできる。このような場合、RNAの処方は通常、薬剤が対象被験体に好適な形態で投与されるように行う。
【0104】
薬剤は、RNAが送達促進のためにリポソーム内にあるか、或いはウイルスエンベロープ粒子内に封入されている形態をとることができる。RNAは裸のRNA分子として存在していてもよく、或いはタンパク質、特に核酸の細胞への摂取を高めることが知られているタンパク質と複合体を形成しているRNA分子として存在していてもよい。
【0105】
薬剤の投与は、in vitro或いはin vivoで薬剤が活性状態に保たれる時間を増加させる他の処理と共に行うことができるが、この処理は薬剤の投与前、投与と同時、或いは投与後に行う。例えば、従来のRNアーゼ阻害剤をこのような処理に用いることができる。或いは、不活性RNA或いは犠牲的RNAの飽和量を投与して、存在するRNアーゼ活性をブロックすることができる。
【0106】
薬剤の投与は、in vitro或いはin vivoで薬剤の摂取や作用を高める他の処理と共に行うことができるが、この処理は全身或いは局所的に行い、薬剤の投与前、投与と同時、或いは投与後に行う。例えば、組織損傷後に局所或いは全身で分泌される分子は、薬剤の摂取を高めることができる。このような分子は、損傷した組織自体に由来することもあり、或いは幹細胞源に由来することもある。他の例においては、特定の組織培養で組織分化を誘導する従来の非RNA誘導物質をin vitroで本方法のRNAと共に用いることができ、例えば、レチノイン酸を用いて神経組織の分化を促進することができる。他の例においては、従来の非RNA組織培養支持物を薬剤と共に用いることができ、例えば、脊髄ニューロンの培養に塩基性線維芽細胞成長因子を用いることができる。
【0107】
RNAを含む薬剤は、いずれの好適な経路によっても送達することができる。例えば、薬剤は非経口的に投与してもよく、静脈内経路や直腸経路、経口経路、耳介経路、骨内経路、動脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、皮膚経路、皮内経路、頭蓋内経路、包膜内経路、腹腔内経路、局所経路、胸膜内経路、眼窩内経路、脳脊髄液内経路、経皮経路、鼻腔内経路(或いは他の粘膜経路)、肺経路、吸入経路、或いは他の適切な投与経路によって送達してもよい。薬剤は所望の器官や組織に直接投与してもよく、全身的に投与してもよい。特に好ましい投与経路としては、直接器官注入による経路や血管アクセス経路、或いは筋肉内経路や静脈内経路、皮下経路が挙げられる。標的細胞への送達を容易にするようにRNAを処方することができる。
【0108】
RNAは金属粒子上に設けることができる。或る場合には、裸のRNAが標的細胞に提供されるように薬剤を投与することを意図することがある。リポソームや他の粒子内に存在するRNAを提供する場合、標的分子が粒子表面上に存在して対象幹細胞を標的にできるようになっていることがある。例えば、粒子は、標的幹細胞や標的分化細胞に対するレセプターのリガンドを含んでいてもよい。好ましい一実施形態においては、フェルグナー(Felgner)ら(1987年)の方法で調製されたリポソームによってRNAを細胞に送達する。他の好適なリポソームとしては免疫リポソーム(例えば、米国特許第4,957,735号)が挙げられる。
【0109】
RNA調製物は、幹細胞等の細胞と共に生物へ投与することもできる。この投与は同時に行ってもよく、別々に行っても或いは逐次的であってもよい。また、本発明のRNAと細胞の投与は、特定の疾患の治療に有効な他の療法と同時に、別々に或いは逐次的に行うこともできる。一実施形態においては、一以上の幹細胞型或いは幹細胞活性組織から抽出できるRNAを、幹細胞等の細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与することができる。例えば、好ましい実施形態では、全胚RNA、胎児RNA、新生児RNA或いは幼若RNAを、幹細胞、特に骨髄幹細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与する。本明細書においては、幹細胞仲介による組織修復や再生が、胚由来RNA画分と幹細胞との共注入によって改善されることを示す。
【0110】
細胞及び医薬組成物
本発明は、本発明の方法によって得られる細胞を提供する。該細胞は、好適な容器内で凍結細胞として提供することができる。該細胞は培養下で提供することができる。また、該細胞の抽出物、例えば、全細胞抽出物を提供することもできる。
【0111】
また、本発明は、本発明の各種RNA分子、幹細胞及び/又は分化細胞を含む医薬組成物も提供する。RNA分子、幹細胞及び分化細胞は、医薬技術分野で通常見られるように、標準的な薬学的に許容し得る担体及び/又は賦形剤と共に処方することができる。必要に応じて細胞や核酸を処方するための技法を用いることができる。細胞やRNAは注射用の水や生理食塩水中に用意することができる。処方の内容そのものは、投与される特定の物質や所望の投与経路等の幾つかの因子に依存する。好適な処方型については、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第19版、Mack Publishing Company(米国、東部ペンシルバニア)に十分記載されているが、この文献の開示内容は全て本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。RNAベースの医薬については当該技術分野で知られている。例えば、「アンプリジェン」(ヘミスファークス・ファーマ)は二本鎖RNA分子を含む薬剤である。
【0112】
本発明の組成物は通常、上述の成分に加えて、一以上の「薬学的に許容し得る担体」(これには、該組成物を服用する個体に有害な抗体の産生を自身で誘導しないいずれの担体も含まれる)を含む。好適な担体としては、通常大型で、ゆっくりと代謝される高分子が挙げられ、例えば、タンパク質や多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマー性アミノ酸(polymeric amino acids)、アミノ酸コポリマー、糖類、脂質集合体(油滴やリポソーム等)が挙げられる。このような担体は当業者には周知である。組成物は更に水や生理食塩水、グリセロール等の希釈剤を含んでもよい。更に、湿潤剤や乳化剤、pH緩衝物質等の補助物質が存在してもよい。無菌でパイロジェンフリーのリン酸緩衝生理食塩水が典型的な担体である。薬学的に許容し得る賦形剤についての詳細な考察についてはジェンナーロ(2000年)から入手可能である。
【0113】
本発明の組成物は一般に水性形態(例えば、溶液や懸濁液)をとるが、フライ形態(fried form)(例えば、凍結乾燥)をとることもできる。液体処方の場合、水性媒体で溶く必要がなく、組成物をその包装体から直接投与することができるため、注射には理想的である。組成物はバイアル瓶にて提供することもでき、或いは予め充填した注射器にて提供することもできる。注射器には針が備わっていてもいなくてもよい。注射器には組成物の単回用量が含まれているが、バイアル瓶には単回用量が含まれていることもあり、複数回用量が含まれていることもある。
【0114】
本発明の組成物は、単位用量形態で包装されていてもよく、複数回用量形態で包装されていてもよい。複数回用量形態の場合、予め充填した注射器よりもバイアル瓶の方が好ましい。有効投与体積はごく普通に設定することができるが、典型的なヒトへの注射量は体積で0.5mLである。
【0115】
患者投与のための組成物のpHは、好ましくは6と8との間であり、好ましくは約7である。組成物にバッファー(例えば、ヒスチジンやリン酸バッファー)を含めることによって安定したpHを維持することができる。組成物は一般に無菌及び/又はパイロジェンフリーである。組成物はヒトに対して等張であってもよい。本発明の組成物にはナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)を含ませて張性を付与することができる。
【0116】
本発明の組成物には、特に複数回用量形態で包装する場合に抗菌剤を含ませることができる。本明細書に記載のRNAを標的細胞に提供するのに用いる各種RNA調製物や組成物は更に、RNAの安定性を高める剤を含んでもよい。例えば、RNアーゼ阻害剤や、RNAを安定化させ及び/又はRNAの分解を防ぐ他の剤を含んでもよい。RNA調製物に対して処理を行って他種の分子(例えば、プロテアーゼ)を除去することもでき、また、DNアーゼ処理を用いてタンパク質及び/又はDNAを除去することができる。こうして、組成物はDNA及び/又はタンパク質を実質的に含み得なくなる。
【0117】
本発明のある医薬組成物は、上述のいずれか一実施形態に記載の細胞や組織から抽出されるRNAを単独で、或いは幹細胞と組合せて含む。本発明の細胞は、他の活性剤、例えば、一以上の抗炎症剤、抗凝固剤及び/又はヒト血清アルブミン(好ましくは、組換え型)と共に、通常同一の注射にて患者に投与することができる。該細胞は一般に、本質的に培養から出た形態で患者に投与することができる。しかし、或る場合には、該細胞を産生と投与との間で処理してもよい。該細胞は産生と投与との間で保存(例えば、凍結保存)してもよい。細胞は維持培地に存在していてもよい。
【0118】
特に興味のある特定の組合せとしては、脳組織や神経細胞、皮質ニューロン等から抽出されたRNAと幹細胞(例えば、骨髄間葉系幹細胞)との組合せ、脊椎RNAと幹細胞(例えば、骨髄間葉系幹細胞)との組合せ、胎児RNAと幹細胞(例えば、骨髄間葉系幹細胞)との組合せ、胚性幹細胞RNA等の胚由来RNAと幹細胞(例えば、骨髄間葉系幹細胞)との組合せが挙げられる。処理の例としては、アルツハイマー病の場合の、胎児脳RNAによる骨髄幹細胞の処理;パーキンソン病の場合の、幼若ドナーから得たドーパミン作動性神経細胞の培養物由来のRNAによる骨髄幹細胞の処理;心疾患の場合の、幼若体或いは成体の死体由来のRNAによる骨髄幹細胞の処理;糖尿病の場合の、正常成体の死体から得た膵島細胞由来のRNAによるCD34+循環幹細胞の処理が挙げられる。多発性硬化症の場合には、乏突起膠細胞の初代培養物由来のRNAで骨髄幹細胞を処理する。このような組成物は、本発明に係る処理に影響を受けやすい疾患に罹患している患者に対して同時に、別々に或いは逐次的に投与する(しかし、各々の場合において、RNAのみをレシピエントに直接投与して処理を行うこともできる)。このような疾患の例は上述の通りである。幹細胞とRNAを共に投与する場合、これらは別々に或いは混合状態で包装することができ、その後、別々に或いは混合状態で投与することができる。
【0119】
上述の薬剤、組成物、細胞或いはRNA分子の治療的有効量を被験体に投与する。用量は各種パラメータに応じて決定することができるが、特に、用いる物質や、治療対象患者の種、年齢、重量及び病態(免疫状態等)、投与経路、必要な投与計画に応じて決定する。医師は、いずれの特定の患者に対しても必要な投与経路及び用量を決定することができる。治療対象被験体の年齢や重量、病態、変性の種類や重症度、及び投与の頻度や経路を考慮に入れて用量を決定することができる。
【0120】
標的細胞に提供されるRNAの量は、必要且つ所望の細胞特性改変をもたらすよう十分にする。例えば、RNA濃度(例えば、本発明の組成物において)は10ng〜5mg/mLであることができ、好ましくは100ng/mL〜2.5mg/mL、より好ましくは1μg/mL〜500μg/mL、更に好ましくは5μg/mL〜100μg/mL、更に好ましくは10〜50μg/mLである。特に好ましい例においては、RNA濃度は15〜40μg/mLであることができ、好ましくは20〜35μg/mL、特に25μg/mLであることができる。このような濃度はin vitro投与にもin vivo投与にも適用できる。或る場合には、トータルで100ng〜0.1g、好ましくは1μg〜50mg、より好ましくは100μg〜10mg、更に好ましくは250μg〜1mgのRNAを投与することができる。いずれの好適な濃度及び/又は量のRNAを提供することができる。広範囲の濃度及び/又は量のRNAを用いることができ、正確な濃度及び/又は量はRNAを標的細胞或いは組織に送達する方法やRNAの源に応じて変わり得るが、RNAをin vitroで提供するかin vivoで提供するかでも変わり得る。所望の改変をもたらすために標的細胞に提供するRNAの量を最適化することはごく普通である。
【0121】
本発明は、本発明のRNA(RNA模倣物や類似物、修飾RNA等)を含有する医薬組成物であって、(i)pHが6と8との間であり、(ii)バッファーを含有し、(iii)無菌であり、(iv)実質的にパイロジェンフリーである医薬組成物を提供する。該組成物内のRNAは均質であることが好ましい。該RNAは組成物内で活性な薬理剤であることが好ましい。該組成物は、組成物の医薬目的をラベル表示した容器内に収容することが好ましい。
【0122】
薬剤及び被験体治療方法
本発明で提供される幹細胞やRNA、分化細胞は、多数の障害の治療に用いることができ、また、適切な薬剤の製造に用いることができる。特に、本発明のRNA及び細胞は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いることができ、また、適切な薬剤の製造に用いることができる。
【0123】
このような障害を治療するため、また、適切な薬剤を提供するための多数のアプローチを本発明で用いることができる。特に、本発明の薬剤を治療対象被験体に投与することによって、
(a)in situで幹細胞等の細胞の分化を誘導するための被験体への本発明のRNAの投与、或いは、in situで幹細胞等の細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導するための被験体への本発明のRNAの投与;
(b)本発明によって得られる幹細胞の被験体への投与;
(c)本発明の方法を用いて得られる分化細胞の被験体への投与;
(d)本発明の方法によって改変されていてもいなくてもよい細胞(例えば、幹細胞や分化細胞)を投与する前、投与と同時、或いは投与した後に行う本発明のRNAの被験体への投与;及び/又は
(e)幹細胞を被験体に投与する前或いは後に行う本発明のRNAによる該幹細胞の処理;
(f)本発明の方法を用いて得られる特性が改変された細胞或いは幹細胞の被験体への投与
をもたらすことができる。一般にb)〜f)に基づく本発明の様相において、ある場合には、本発明の方法を用いて、欠損した細胞型や数が減少した細胞型、機能的に欠陥のある細胞型を得ることが望ましい。本発明の細胞は特定の部位或いはより大きい領域に提供することができる。例えば、該細胞を組織や器官の損傷や傷害(例えば、創傷や骨折)部位に提供することができる。該細胞は神経損傷の部位、特に脊柱損傷に提供することができる。該細胞は損傷或いは罹患した肝臓や腎臓、心臓、他の器官に提供することができる。損傷や欠陥による心筋疾患、例えば、心疾患の場合、死細胞や損傷細胞を増強或いは交換することができる。同様に、肝線維症等の肝疾患、或いは他の種類の肝臓障害を有する被験体に細胞を提供することができる。通常、分化細胞、或いは本発明の方法を用いて得た特性が(潜在的に或いは顕在的に)改変された細胞を提供するが、或る場合には、本発明の方法を用いて得た幹細胞を提供してin situで分化させることができる。
【0124】
a)RNA療法
本発明書においては、脳細胞から抽出したRNAを被験体に投与することによって、患者の常在幹細胞を刺激して脳皮質を厚くする効果が得られることを示す。更に、幹細胞活性の上昇を示すことが知られている発達段階から調製したRNAが内因性修復機序を刺激することを示した。上述の手順(a)の一実施形態においては、本発明に係るRNAを被験体に投与して、幹細胞仲介による機能的修復を促進するようにin situで幹細胞等の細胞の分化を誘導する。この投与によって、幹細胞仲介による機能的修復を促進するようにin situで細胞の動員、遊走、統合、増殖及び分化を誘導することができる。
【0125】
従って、本発明のこの様相では、細胞運命の分化を一以上の所望の細胞型や組織の機能や特性に向かわせるin vivo方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを細胞の集団に、前記細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。該RNAは、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。細胞の集団は、好ましくは体外で成長した単離組織等の組織や、ヒト患者等の生物である。
【0126】
また、本発明は、被験体において組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患を改善或いは治療する方法であって、前記被験体の全能性或いは多能性常在幹細胞が分化して(例えば、動員、遊走、統合及び増殖を伴って)一以上の所望の細胞型になる(例えば、標的部位において)ように誘導することを含む方法において、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有する単離RNA配列をin situで常在幹細胞に提供して、前記幹細胞の所望の分化(例えば、動員、遊走、統合及び増殖を伴う)を達成させることを含む方法も提供する。該RNAは、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。本発明の方法を用いて、in vivo或いはin vitroで幹細胞仲介による修復を改善することができる。
【0127】
一実施形態において、本発明のこの様相では、動物や植物の組織内の全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に分化するように誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを前記幹細胞に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。該RNAは、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。前記幹細胞は生物内に常在しており、in situで該RNAに曝露される。
【0128】
本発明を用いて、腫瘍の成長を処理し、改善し、逆転させることができる。上に述べたように、健常細胞或いは初期発達段階の細胞から抽出できるRNA配列(胎児RNAや胚細胞RNA、新生児RNA、幼若体RNA等)に腫瘍細胞を曝露することによって、腫瘍細胞がより正常な健常表現型に戻るように誘導することができる。本発明のこの様相において、腫瘍細胞治療のためのRNA配列は、患者や親族の個体から単離された健常細胞に由来してもよく、親族でない個体、或いは異なる種から単離された健常細胞に由来してもよい。好ましくは、該RNAは近縁関係にある個体に由来する。治療のためのRNAが由来する細胞型は、好ましくは腫瘍原性組織と同様の細胞型か或いは同一の細胞型である。当業者には承知のように、腫瘍細胞をタイピングするための技法は数多く存在する。
【0129】
本発明の他の実施形態においては、本発明の方法を用いて、ある細胞型の所望の特性を他の細胞型に、必要な場合には患者においてin situで付与することができる。例えば、所望の免疫学的プロファイルを標的細胞に付与することができるのと同様に、所望の特性を有する特定の細胞型からRNAを抽出して、このRNAに標的細胞を曝露することによって、該細胞型が有する所望の特性を標的細胞に付与することができる。その例としては、治療患者に所望の機能を付与するために訓練された運動選手の筋肉細胞からRNAを抽出することや、ワクチン接種した個体或いは自然抵抗性を有する個体からの疾患に対する抵抗力の伝達(transferral)、罹患患者の免疫機能を増強することが挙げられる。
【0130】
或る場合において、本発明の薬剤及び方法は、in situで標的幹細胞に提供される本発明のRNAを必要とすることがある。これによって、常在幹細胞が分化して所望の分化細胞型を産生することができる。このようなアプローチは、上述の病態や障害のいずれに対しても用いることができる。このようなアプローチにおいて、該RNAは通常、比較的局在化した幹細胞集団にのみ影響を及ぼすように送達する。好ましくは、標的とする幹細胞は上述の障害に関与する特定の細胞型を産生するものであることができるが、いつもこうであるとは限らない。例えば、被験体が免疫系障害を有していても、造血幹細胞を標的にすることがある。
【0131】
選択された幹細胞集団への送達は、RNAを局所的に、例えば、適切な組織や器官に提供することによって行うことができる。例えば、対象部位へのRNAの投与は、静脈内や直腸、経口、耳介、骨内、動脈内、筋肉内、皮下、皮膚、皮内、頭蓋内、包膜内、腹腔内、局所、胸膜内、眼窩内、脳脊髄液内、節内、病巣内、経皮、鼻腔内(或いは他の粘膜)、肺、吸入によって行うことができる。RNAは例えば局所注射によって提供することができる。RNAは注射によって所望の標的部位に通じる血管や他の導管に提供することができる。RNAは局所注射によって所望の組織に投与することができる。RNAは、本明細書に記載の経路(筋肉内注射等)のいずれかによって、或いは弾道的送達によって投与することができる。或る場合には、RNAが選択された細胞を特異的に標的とする形態で提供されるため、局所的な送達を行うことができる。例えば、特定の所望の幹細胞型を標的とする分子を有するリポソームや他の粒子としてRNAを提供することができる。好ましい実施形態においては、直接器官注入や血管アクセスによって、或いは筋肉内経路や腹腔内経路、皮下経路によってRNAを投与することができる。
【0132】
好ましい一実施形態において、RNAの投与は次のように行う。
・本明細書に記載のいずれかを含む所望の組織型からRNA抽出物を調製し、
・得られたRNAを罹患器官に直接注入するか、或いは上述のように全身送達によって注入し、
・該RNAによって常在幹細胞の分化を誘導し、例えば、所望の細胞型の増殖や遊走、修復をもたらす。
【0133】
或る実施形態において、RNA配列は一以上の分化細胞型から抽出できるものであるか、或いは抽出されたものである。例えば、具体的な実施形態において、RNAは脳組織等の主要な組織に由来する。他の実施形態において、RNAは一以上の幹細胞型や幹細胞活性組織から抽出できるものである。例えば、具体的な実施形態において、RNAは骨髄幹細胞等の成体幹細胞に由来する。他の具体的な実施形態において、RNAは胎児組織や新生児組織、幼若組織、胚組織に由来する。
【0134】
b)幹細胞を用いた療法
或る場合には、幹細胞以外の細胞由来のRNAによって本発明の方法で改変した特性を有する幹細胞や分化細胞ではなく、本発明の方法を用いて得た幹細胞を被験体に投与することができる。該幹細胞を投与して被験体内に既に存在する幹細胞を増加させることができる。或る場合には、該幹細胞を組織損傷部位に投与した後、自然に分化させることができる。或る場合には、幹細胞を添加して、常在幹細胞集団に存在する欠陥(特に遺伝的欠陥)のない追加幹細胞として既に存在する幹細胞を増加させることができる。例えば、被験体は、特定の細胞型や細胞系統の欠如や、特定の細胞型や細胞系統の数の減少、特定の細胞型や細胞系統の欠陥をもたらす遺伝的障害を有する場合がある。その際、欠陥のない幹細胞を導入し、幹細胞が所望の細胞型や細胞系統を産生するように、或いは幹細胞が産生する細胞や系統に機能的欠陥がないようにして遺伝的欠陥を補償することができる。投与された幹細胞は増殖してその数を維持すると共に、分化細胞を産生することができるため、頻繁に治療を行う必要性を減少させる効果が長続きする。実際、幹細胞の導入によって病態の永久的な治療や改善をもたらすことができる。
【0135】
例えば、遺伝的欠陥によって生じる免疫不全を有する被験体もいる。本発明を用いて得た遺伝的欠陥を有しない幹細胞集団を導入することは、産生される免疫細胞の一部が遺伝的欠陥を有さず機能的であるため、免疫不全を治療するのに十分であることができる。或る場合には、免疫不全は感染、特にウイルス感染に起因し、幹細胞は自身が感染しないように多少修飾されることがある。他の場合には、本発明の方法を用いて得た幹細胞を、自身の幹細胞集団が減少した被験体に導入することができる。例えば、該被験体は幹細胞数の減少をもたらす放射線や化学剤に曝露された可能性がある。
【0136】
本発明の好ましい実施形態において、幹細胞をある被験体に導入する場合、本発明を用いて該被験体から幹細胞を抽出し、その分化細胞から幹細胞を産生する。他の場合には、幹細胞を免疫学的に適合する親族でない個体から分化させることができる。或る場合には、幹細胞を得るために用いる分化細胞は異なる個体に由来してもよいが、該細胞に提供するRNAは対象レシピエントや遺伝学的に適合するレシピエントに由来することができる。該RNAを提供することによって幹細胞が対象レシピエントに免疫学的に適合するようにすることができる。
【0137】
c)分化細胞を用いた療法
更なる実施形態においては、本発明を用いて得た分化細胞を被験体に投与することができる。好ましい実施形態においては、分化細胞を得るために用いる幹細胞は対象レシピエントから獲得或いは抽出したものであることができる。本明細書に記載の分化細胞型のいずれも投与することができ、被験体は本明細書に記載の障害や病態のいずれにも罹患し得る。
【0138】
分化細胞は上述の障害に罹患した局所部位に投与することができる。例えば、分化細胞は、糖尿病の場合には膵臓に送達でき、脊髄損傷の場合には脊髄神経に送達でき、脳障害の場合には脳に送達できる等である。或る場合には、分化細胞をある構造上に存在するか或いはその一部として存在する被験体に提供することができる。例えば、分化細胞でコートしたステントを血管に挿入することができ、また、マトリックス上の肝細胞を損傷或いは罹患した肝臓に提供することができる。
【0139】
また、本発明は、被験体において組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患を改善或いは治療する方法であって、幹細胞系由来の或いは動物組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に分化するように誘導することによってin vitroで得た分化細胞の有効量を前記被験体に投与することを含む方法において、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法も提供する。特に好ましい方法において、用いる幹細胞は治療対象被験体から得る。更に好ましい実施形態において、用いる幹細胞は、本発明の方法を用いてin vitroで分化細胞の逆分化を誘導することによって得るが、特に幹細胞を得るために用いる分化細胞は該被験体から得る。
【0140】
d)RNAと細胞との併用療法
本発明に係るRNAは、他の活性物質、例えば、幹細胞(特性の改変の有無や潜在的、顕在的にかかわらず)や分化細胞等と共に細胞集団に適用することができる。該RNAと他の活性物質は同時に、逐次的に或いは別々に投与することができる。
【0141】
このような完全体(integers)の組合せを用いることもできる。例えば、幹細胞を含む薬剤を被験体に投与した後に、本発明に係る分化の誘導が可能なRNAを含む薬剤を、in situで幹細胞の分化や改変を誘導するために投与することができる。他の方法においては、RNAの導入後に幹細胞を導入することができる。本発明のRNAと細胞は同時に、別々に或いは逐次的に投与することができる。本発明のRNAと細胞は、特定の疾患を治療する上で有効な他の療法によって同時に、別々に或いは逐次的に投与することもできる。一実施形態において、一以上の幹細胞型や幹細胞活性組織から抽出できるRNAは、幹細胞等の細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与することができる。例えば、好ましい実施形態においては、全胚RNAや胎児RNA、新生児RNA、幼若RNAは、幹細胞、特に骨髄幹細胞と同時に、別々に或いは逐次的に投与する。本明細書においては、幹細胞仲介による組織修復や再生が、胚由来RNA画分と幹細胞との共注入によって改善されることを示す。
【0142】
e)投与前の細胞のRNA処理
本発明のこの様相に係る本発明の薬剤の投与においては、幹細胞を被験体に投与する前に本発明に係るRNAで幹細胞を処理することが必要な場合がある。このアプローチは、該被験体において幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化を増強させる作用を有する。好ましい実施形態においては、上述の本発明のいずれか一実施形態に従って、一以上の分化細胞型から抽出できるか或いは抽出されたRNA配列で幹細胞を処理する。例えば、具体的な一実施形態では、骨髄幹細胞を被験体、例えば脳への加齢関連損傷を患っている被験体に投与する前に脳RNAで前処理することができる。本明細書においては、この処理によって脳の加齢関連疾患を逆転させ(reverse)、ひいては治療することに成功したことを示す。他の具体的な実施形態では、骨髄幹細胞を被験体、例えば運動ニューロン疾患に罹患している被験体に投与する前に脊椎RNAで前処理する。本明細書においては、この処理が運動ニューロン疾患の認知モデルにおいて有効であることを示した。
【0143】
f)特性を改変した幹細胞を用いた療法
更なる実施形態においては、本発明で得た特性が改変した幹細胞を被験体に投与することができる。好ましい一実施形態では、改変した特性の幾つかが顕在的ではなく潜在的であり、後の遊走、統合、増殖及び分化段階がレシピエントにてin vivoで生じ得る場合には、in vitroでのRNAによる処理の比較的すぐ後に該幹細胞を投与する。他の実施形態においては、増殖及び分化が顕在化した際に該幹細胞を投与する。好ましい実施形態では、潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞を得るために用いる幹細胞は、対象レシピエントから獲得或いは抽出したものであることができる。本明細書に記載の分化細胞型のいずれかに関連して潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞を投与することができ、被験体は本明細書に記載の障害や病態のいずれにも罹患し得る。
【0144】
潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞を障害に罹患した局所部位に投与することができる。例えば、該細胞は、糖尿病の場合には膵臓に送達でき、脊髄損傷の場合には脊髄神経に送達でき、脳障害の場合には脳に送達できる等である。或る場合には、前記細胞をある構造上に存在するか或いはその一部として存在する被験体に提供することができる。例えば、前記細胞でコートしたステントを血管に挿入することができ、また、マトリックス上の肝細胞を損傷或いは罹患した肝臓に提供することができる。他の実施形態においては、特性が改変した細胞をより一般的に、例えば、血流や腹膜内、脳脊髄液内、胸膜内に投与することができる。
【0145】
潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞の送達は、該細胞を局所的に、例えば適切な組織や器官に提供することによって行うことができる。例えば、対象部位への該細胞の投与は、静脈内や骨内、動脈内、筋肉内、皮下、皮膚、皮内、頭蓋内、包膜内、腹腔内、局所、胸膜内、眼窩内、脳脊髄液内、節内、病巣内、経皮、鼻腔内(或いは他の粘膜)、肺、吸入によって行うことができる。該細胞は例えば局所注射によって提供することができる。該細胞は注射によって所望の標的部位に通じる血管や他の導管に提供することができる。該細胞は局所注射によって所望の組織に投与することができる。該細胞は本明細書に記載の経路(筋肉内注射等)のいずれかによって投与することができる。好ましい実施形態においては、直接器官注入や血管アクセスによって、或いは筋肉内経路や腹腔内経路、皮下経路によって該細胞を投与することができる。
【0146】
また、本発明は、被験体において組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患を改善或いは治療する方法であって、幹細胞系由来の或いは動物組織から得た全能性或いは多能性幹細胞の特性を改変することによってin vitroで得た潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞の有効量を前記被験体に投与することを含む方法において、前記所望の細胞型や組織を有する細胞や組織から抽出できるRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の特性の所望の改変が達成される条件下で提供することを含む方法も提供する。特に好ましい方法において、用いる幹細胞は治療対象被験体から得る。他の好ましい実施形態において、用いる幹細胞は、本発明の方法を用いてin vitroで分化細胞の逆分化を誘導することによって得るが、特に幹細胞を得るために用いる分化細胞は該被験体から得る。
【0147】
本発明を用いて退行性脳疾患や脳損傷、脊髄損傷、他の神経障害を治療或いは改善することができる。好ましい実施形態においては、退行性疾患、特に加齢に関連する退行性疾患に罹患している被験体に前記細胞を提供することができる。本発明の薬剤で治療する疾患や損傷は脳に影響を及ぼすことがある。前記被験体は、例えば退行性脳疾患に罹患していることがある。脳障害の例としては、特にパーキンソン病やパーキンソン病様障害、アルツハイマー型認知症、他の加齢に関連する脳病変、運動ニューロン疾患が挙げられる。多発性硬化症を治療することもできる。他の治療可能な障害としては糖尿病、特に1型及び2型糖尿病が挙げられ、インスリン産生ランゲルハンス島細胞を提供して欠陥細胞の置換或いは強化を行う。また、本発明は、関節への損傷に起因する障害(例えば関節炎等)に罹患している被験体にも用いることができる。
【0148】
また、本発明は、組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患を改善或いは治療するための剤であって、本明細書に記載のRNA或いは分化細胞(又は潜在的に或いは顕在的に特性が改変した細胞)のいずれか、或いはこれらの両方の組合せを含む剤も提供する。例えば、本発明は、変性疾患や加齢に関連する器官の変性、例えば、心疾患や鬱血性心不全、心臓弁機能不全、静脈弁機能不全、変性腎疾患、変性肝疾患の治療を提供する。また、本発明は、血管障害、例えば、虚血や血栓形成、動脈瘤、褥瘡に起因する損傷後の組織の再生も提供する。
【0149】
また、本発明は、病変や加齢、記載したいずれかの外傷によって損傷或いは損失した組織を再生、修復或いは置換するための方法も提供する。例えば、本発明は、脊柱に対する外傷性損傷後の再生及び修復のための方法を提供する。
【0150】
被験体を治療する上述の方法において、幹細胞、分化細胞、改変細胞、RNA、RNAを提供する方法及び他の様相については本明細書のいずれの箇所に記載のものであってもよい。上述の剤に関して、RNA、分化細胞或いは改変細胞は本明細書に記載のいずれのものであってもよい。
【0151】
幹細胞を得るために分化細胞を逆分化させるためのin vitro方法
本発明は、分化細胞を逆分化させて幹細胞を産生するための方法を提供する。従って、本発明は、ある細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た分化細胞をin vitroで逆分化させて所望の型の全能性或いは多能性幹細胞或いは幹細胞系を産生する方法であって、所望の幹細胞型或いは幹細胞系型から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを前記分化細胞の細胞培養物に提供して、前記分化細胞の前記幹細胞型或いは幹細胞系型への所望の逆分化を達成させることを含む方法を提供する。該RNAは前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。
【0152】
幹細胞を単離するための従来の方法は困難なことが多く、被験体由来の物質を大量に必要とするため、分化細胞を逆分化して幹細胞を得ることができることによって、あまり時間がかからず、経済的で侵襲性の低いより便利な選択肢が得られる。特に、障害に罹患している被験体から幹細胞を得たい場合には、幹細胞を回収するのに必要な手順が侵襲的であったり、患者から回収可能な物質の量が限られるため、このような被験体から直接幹細胞を単離することが単に実用的でないことがある。また、本発明の方法は、広範囲の幹細胞を得ることができ、得られた幹細胞が広範囲の分化細胞型に分化可能であるという利点も有する。
【0153】
本発明の方法に用いる分化細胞は、本明細書に記載のいずれをも含む好適な分化細胞のいずれであってもよい。特に、該分化細胞は容易に入手可能な細胞であってもよい。該分化細胞は皮膚試料や口腔から得ることができる。特に好ましい例において、該分化細胞は線維芽細胞、特に皮膚線維芽細胞であることができる。或る場合には、該細胞を体液、特に血液から得ることができる。或る場合には、白血球、例えばリンパ球等を用いることができる。
【0154】
本明細書に記載の方法のいずれかを用いて前記RNAを提供することができる。該RNAを分化細胞に提供した後、得られた幹細胞を培養し継代することができる。逆分化については、細胞形態を検討し、幹細胞特異的なマーカーの存在をチェックすることによって確認することができる。幹細胞の自己再生能力についても、幹細胞を数回継代させ、分化が生じないことをチェックすることによって確認することができる。幹細胞が特定の細胞に分化する能力についても検討することができる。得られた幹細胞の核型を決定することができ、特に該細胞の核型が数世代に亘って安定であることを保証するようチェックすることができる。該幹細胞は増殖することができる。該幹細胞の試料を凍結し、後に使用或いは参照することができる。特に、継代を行った回数が少ない細胞の試料、例えば、行った継代が10回以下、5回以下、2回或いは1回の細胞の試料を凍結することができる。クローン幹細胞系を全幹細胞集団から確立し、特定の所望な特性(その発達能力等)について選択することができる。
【0155】
得られた幹細胞を操作して所望の遺伝子修飾を導入することもできる。例えば、元の分化細胞が遺伝的欠陥を有していた場合、該欠陥を修正することができる。欠損配列や欠陥配列を機能的に補償することが可能な配列を導入することができる。欠損遺伝子や欠陥遺伝子或いは他の配列の機能的コピーを導入することができる。PCRやサザンブロット法等の技法を用いて、所望の修飾を有するクローンをスクリーニングし同定することができる。得られた幹細胞を分化した後に評価して、遺伝的欠陥が修正されたことをチェックすることができる。遺伝子ターゲティング等の技法を用いて、内在性遺伝子のコピーに部位特異的変化を導入することができる。このような技法を部位特異的リコンビナーゼと共に用いて、遺伝子ターゲティングに用いた選択可能なマーカーを除去することができる。特に、このような技法を用いて単一遺伝子障害を治療することができる。優性障害及び劣性障害のいずれも治療することができる。
【0156】
得られた幹細胞を、幹細胞を利用する本発明の様相のいずれにおいても用いることができる。また、得られた幹細胞を幹細胞の他の用途のいずれにおいても用いることができる。例えば、非ヒトキメラ動物、よって非ヒトトランスジェニック動物の発生に用いることができる。
【0157】
本明細書においては、胚性幹細胞から抽出したRNAを用いて成体幹細胞から胚性幹細胞様細胞が産生可能であることを示す。更に、他の分化成体組織は様々な幹細胞由来RNA画分に付すと幹細胞様組織に分化可能であることも示す。
【0158】
本発明は上述の方法を用いて得られる細胞を提供する。或る場合には、該細胞を好適な容器にて凍結アリコートとして提供することができる。本発明は該細胞の細胞抽出物も提供する。
【0159】
幹細胞の分化を誘導するためのin vitro方法
本発明は、in vitroで幹細胞の分化を誘導するための方法も提供する。この分化は、幹細胞の所望の分化細胞型から抽出できるRNAを有するRNA配列を有する細胞を提供することによって行う。該RNAは、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出できるものでもよく、抽出されたものでもよい。特に、本発明は、幹細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に分化するようにin vitroで誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出できるRNA配列を有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法を提供する。
【0160】
本発明の方法においてはいずれの幹細胞も用いることができ、例えば、本明細書に記載の幹細胞のいずれも用いることができる。好ましい実施形態において、分化させる幹細胞は、本発明の方法を用いて分化細胞を逆分化して得ることができる。得られた分化細胞を被験体の治療や被験体を治療するための薬剤の製造に用いる場合には、幹細胞は対象レシピエントに由来してもよい。或る場合には、幹細胞は遺伝的欠陥を有するレシピエントに由来してもよく、このような場合、好ましくは、遺伝的欠陥が幹細胞において修正或いは改善されていてもよい。
【0161】
本明細書に記載の方法のいずれかを用いて標的幹細胞に前記RNAを提供することができる。
【0162】
該幹細胞は任意の所望の細胞型、例えば、本明細書に記載の細胞型のいずれにも誘導することができる。好ましい例においては、幹細胞を安定な末端分化細胞型に分化させる。末端分化細胞型は一般に、自然に分化して他の如何なる細胞型を生ずることもないものとして見なすことができ、通常ある系統の末端に位置する。或る場合には、幹細胞を該幹細胞と系統の末端細胞との間の中間細胞に分化させることができる。このような中間体はある程度の増殖能力を有する。
【0163】
分化細胞は、肝臓や脾臓、心臓、腎臓、皮膚、消化管、眼、生殖器官等の器官や組織の分化細胞であることができる。好ましい実施形態において、分化細胞型は、欠損した細胞型、数が減少した細胞型、或いは特定の病態において欠陥した細胞型であることができる。該病態は本明細書に記載の病態のいずれであってもよく、例えば、傷害や変性疾患、遺伝的障害に起因する病態が挙げられる。特に好ましい実施形態において、分化細胞はランゲルハンス島細胞であることができ、得られた細胞を用いて糖尿病を治療することができる。他の場合において、分化細胞は中枢神経系の分化細胞であることができ、これを用いて神経系の障害や損傷、特に脳の疾患や脊髄損傷を治療することができる。好ましい実施形態においては、骨髄間質細胞を神経細胞に分化させることができる。
【0164】
或る場合には、分化する幹細胞は多能性幹細胞であって、全能性幹細胞でなくてもよい。このような場合には、例えば、幹細胞をその単離源である生物内で該幹細胞の分化先として知られた細胞型へ分化させることができる。
【0165】
好ましい実施形態においては、骨髄間質幹細胞を神経細胞に分化させることができる。特に、骨髄間質幹細胞を神経マーカータンパク質(NeuN)を発現する神経細胞に分化させることができる。通常、脳細胞や脳細胞系の一以上の型から抽出できるRNAを有する単離RNAを提供することによって、骨髄幹細胞を神経細胞に分化させることができる。或る場合には、単離RNAは脳組織から抽出できるRNAを有することができ、特に脳組織から抽出されたRNAを有することができる。特に好ましい例において、単離RNAは、皮質ニューロンや皮質神経細胞系から抽出できるRNAを有することができる。或る場合においては、脳以外の部位で見出されるニューロンから抽出できるRNA、或いはこのようなニューロンに由来する細胞系から抽出できるRNAを用いることができる。
【0166】
他の好ましい実施形態においては、骨髄幹細胞が筋細胞、特に骨格筋細胞に分化するように誘導することができる。通常、提供するRNA配列は、筋細胞や筋細胞系、特に筋肉幹細胞から抽出できるか或いは抽出されたRNAを有する。
【0167】
他の好ましい実施形態においては、脊椎由来RNAで骨髄幹細胞を前処理することによって、進行性神経変性疾患の確立モデルにおける幹細胞処理の有効性が劇的に改善された。通常この実施形態において、提供するRNA配列は、脊椎細胞や末梢神経系の他の細胞から抽出できるか或いは抽出されたRNAを有する。また、この方法ではこのようなRNAをin vivoで投与して、in situで幹細胞の増殖、遊走及び機能的統合に影響を及ぼすこともできる。
【0168】
他の好ましい実施形態においては、脳由来RNAで幹細胞を前処理することによって、レシピエント神経系への幹細胞の増殖、遊走及び機能的統合が増加することが示された。更に、より未熟な発達段階、活発な細胞発生段階(active cell generative stage)で得たRNAは、幹細胞刺激やその加齢及び疾患に関連する損傷に対する間接的改善作用により大きな影響を及ぼすように思われる。また、この方法ではこのようなRNAをin vivoで投与して、in situで幹細胞の増殖、遊走及び機能的統合に影響を及ぼすこともできる。
【0169】
本発明は上述の方法を用いて得られる細胞を提供する。或る場合には、該細胞を好適な容器にて凍結アリコートとして提供することができる。本発明は該細胞の細胞抽出物も提供する。
【0170】
或る場合には、幹細胞は分化する際に支持体や膜、インプラント、ステント、マトリックス等の構造体内或いは構造体上に存在していてもよく、或いは、分化細胞をこのような構造体に添加してもよい。その後、該構造体を本明細書に記載の病態のいずれかを治療するための薬剤の製造に用いることができる。また、様々な分化細胞型の混合物を形成して、例えば、in vivoで共に生じる集団を模倣することもできる。
【0171】
好ましい一実施形態において、上述のin vitro方法は、
・確立されたプロトコルに従ってin vitroで幹細胞集団を用意し培養することと、
・所望の標的組織型(例えば、ニューロンやグリア、筋肉、上述の分化細胞型のいずれか)から抽出したRNAを該幹細胞に提供することと、
・培養下で該細胞を維持することとを含むことができる。
【0172】
更なる好ましい実施形態において、上述のin vitro方法は更に、
・所望の標的組織型(例えば、ニューロンやグリア、筋肉、上述の分化細胞型のいずれか)からRNAを抽出する段階を含むことができる。
【0173】
本発明のこれらの実施形態において、RNAは好ましくは、1)裸のRNA抽出物として、2)リポソーム仲介による導入によって、或いは3)レシピエント細胞のエレクトロポレーションや他の確立された方法によって幹細胞に提供することができる。
【0174】
好ましくは、得られた分化細胞を皮下経路や静脈内経路、腹腔内経路等の適切な経路によって被験体に投与可能な薬剤に処方することができる。
【0175】
その他一般
「有する(comprising)」という用語は、「including」や「consisting」を包含し、例えば、Xを「有する(comprising)」組成物の場合、他を排除してXのみから成るものであってもよく、何らかの添加物を含んでいてもよい(例えば、X+Y)。
【0176】
「実質的に(substantially)」という単語は、「completely」を排除するものではなく、例えば、Yを「実質的に(substantially)含まない」組成物の場合、Yを全く含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に(substantially)」という単語を本発明の定義から除外してもよい。
【0177】
数値xに関する「約(about)」という単語は、例えばx±10%を意味する。
【実施例】
【0178】
以下、実施例によって本発明を説明する。
【0179】
実施例1:骨髄間質幹細胞からの神経細胞及び筋細胞の産生
骨髄の採取と培養
成体Sprague Dawleyラットから骨髄間質(間葉系)幹細胞を得た。この技法はオーウェン(Owen)及びフリーデンシュタイン(Friedenstein)(1988年)のプロトコルに基づくものであり、in vitroでの増殖に適した典型的な確立成体幹細胞源である。即ち、実験動物屠殺表1(schedule one killing)の方法(頚椎脱臼)の後、脛骨と大腿骨を死後5分以内に摘出した。全ての結合組織及び筋組織を前記骨から摘出し、更なる手順は全て滅菌条件下で行った。
【0180】
10%ウシ胎仔血清と1%ペニシリン/ストレプトマイシンとを含有する培地(α−MEMS、ギブコ・インビトロジェン社、英国)で前記骨をフラッシュすることによって該骨から骨髄を放出した。フラッシングは、5mLのプラスチック容器に付属の25ゲージの針を該骨の頚部(遠位端及び近位端にて切断)に挿入し、該骨内に2mLの培地を放出することによって行った。培地と骨髄試料は滅菌万能容器に回収した。次いで、19ゲージの針によって約10回適度に粉砕することにより骨髄細胞を分離した。次いで、1mLの吸引物を6ウェルプレート(SLS社、英国)に入れた。次いで、2mLの新しいα−MEMSを各ウェルに添加し、プレーティング濃度を約12,000〜15,000細胞/mLとした。次いで、プレートを37℃、5%CO2にて空気中でインキュベートし、24〜48時間そのままにしておいた(ハリソン(Harrison)及びレイ(Rae)、1997年)。
【0181】
上述の時間経過後、プレートから培地を吸引することによって、骨髄由来幹細胞をプラスチックに付着しなかった細胞から単離した。プラスチックに付着した骨髄間質幹細胞を残し、2mLの新しいα−MEMS(10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加することによって維持した。プレートが顕微鏡解析(オーウェン(Owen)及びフリーデンシュタイン(Friedenstein)、1988年、上述)によって確認されるコロニー形成単位(CFU)でコンフルエントになるまで、48時間毎に新しい培地を添加した。最適条件下、37℃でこの操作に5〜7日間要した。得られた細胞は形態学的及び免疫組織化学的に間質幹細胞であることが確認された。
【0182】
RNA手順
脳ホモジネートを調製し、市販のRNA分離キット或いは標準的なフェノールベースの手順を用いてRNAを分離した。最初の実験においては、カービー(Kirby)の方法(1956年)に基づく冷フェノール抽出法によってRNAを調製した。新たに殺した8匹のラットから脳を新たに摘出した。8グラムの脳(小脳を除く)を計量し、5mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加した。得られた混合物をガラステフロンホモジナイザーにて約4分間ホモジナイズした。等体積の95%飽和フェノールを添加した。得られた溶液を室温で15分間そのままにした後、超遠心分離機にて18,000rpmで30分間遠沈した。水相を保持し、1M MgCl2を添加してMgCl2の濃度を0.1Mとした。次いで、2体積のエタノールを添加し、これを約30分間沈澱させた。6,000rpmで15分間最終回転を行ってRNAリッチ沈澱物を産生し、これをエタノール下で保持及び貯蔵した。得られたRNAを空気乾燥し、新しい上述の培地(6mL)に溶解した。
【0183】
該RNA含有培地(1mL)をコンフルエントな骨髄幹細胞の各ウェルに24時間添加した。24時間後、該RNA含有培地を除去し、新しい培地で置換した。12時間毎に表現型の変化について細胞の観察を行った。
【0184】
更に、細胞を免疫組織化学的解析に付し、骨髄幹細胞内で誘導されたRNAが神経表現型であることを確認した。これは、神経マーカーNeuNの発現について処理細胞を試験することによって行った。得られた結果を下の表に示す。
【0185】
【表1】

【0186】
上述の細胞の試験によって、脳由来RNAを添加して24時間後にはRNAの誘導によって細胞の分化が明らかに神経表現型へ変化したことが分かった。未処理骨髄幹細胞の場合、典型的なコロニー形成単位形態が保持された。しかし、脳RNA処理幹細胞の場合、早くも処理12時間後には典型的な神経細胞形態及びグリア細胞形態が示された。更に、これらの細胞は一般に用いるニューロン用免疫化学マーカーを発現した。対照細胞ではこのような発現がなかった。この表現型の変化は継代が3回まで存続したため、レシピエント幹細胞分化の安定した変化と思われる。ドナー組織RNAが幹細胞分化の変化に関与したことは、引き続き行った実験(RNAの誘導作用はRNアーゼを用いた前処理によってなくなったが、強力なプロテアーゼであるトリプシンによるドナー脳RNAの処理には耐性を示し続けた)によって確認した。
【0187】
骨格筋由来のドナーRNAを用いて実験を繰り返し、誘導される分化の特異性について確認した。上述のように調製し筋肉由来RNA(市販のキットRNAzolを用いて調製)で処理した幹細胞の場合、筋肉表現型への安定した分化の変化を示すことがはっきりと分かった。これはホスホランバン及びファロイジンを用いた免疫染色によって確認した。この筋肉に関する実験においては、異なるRNA送達方法によって幹細胞を筋肉由来RNA(異なるRNA分離技法で抽出)に曝露した。フェルグナー(Felgner)ら(1987年)の方法に従って調製したリポソームによってRNAを幹細胞に送達した。これらの実験から、幹細胞の誘導はドナー組織源に特異的であること、また、核酸を細胞に送達するために一般に用いられる各種技法によってRNAを幹細胞に添加することができることが結論づけられる。
【0188】
実施例2:レシピエント動物の空間学習及び記憶能力によって評価する、ラット脳への加齢関連損傷に対する脳RNA分化幹細胞の作用
実施例1で上述したようにin vitroで骨髄間葉系幹細胞を調製した。コンフルエンスに達した際に、該細胞を脳RNA(上述のように調製)に12時間曝露した。ドナー幹細胞を有色ラット系(Lister Hooded)から抽出した。ドナーRNA及びレシピエント動物は異なるラット系(Sprague Dawley)から用意した。
【0189】
レシピエントSprague Dawleyラットは468〜506日齢のエクスブリーダー(ex-breeder)の雄性ラットであった。このような高齢のラットが水迷路内の隠れた踏み台の場所を突き止めることができないことは十分に確立されている(スチュアート(Stewart)及びモリス(Morris)、1993年;Bagnall&Ray、2000年)。実験ラットには静脈内注射によって脳RNA処理幹細胞を0.5mL投与したが、これは、脳RNA処理細胞の6ウェルプレート一枚当りの産生量に等しい。対照ラットには等量の未処理幹細胞を投与した。即ち、RNA処理細胞(実験対象)或いは未処理細胞(対照)のプレートからの回収は、ラバーポリスマンを用いて該細胞をプラスチックプレートから機械的に除去することによって行い、吸入によって培地に回収した。1000rpmで5分間回転させることによって細胞を濃縮し、上述の濃度とした。注射手順は全て盲検的に行った。両方の群において、注射は尾静脈経由で行った。
【0190】
注射14日後、一般に用いる空間学習タスクであるモリス水迷路によってこれらの高齢ラットを盲検的に評価した。各ラットを1日3回、試行間に10分間休憩させながら泳がせ、これを3日間に亘って行った(スチュアート(Stewart)及びモリス(Morris)、1993年)。各試行でプラットホームを見つけるまでの時間(latency)を各ラットについて記録した。各試行では60秒間泳がせた。休憩後にラットがプラットホームの場所を突き止められなかった場合には、実験者がラットをプラットホームに優しく案内した。プラットホームに到達した際には、ラットをその場所に10秒間向かせた後、ホームケージへ戻した。反復試行におけるプラットホームの場所を突き止めるまでの時間の減少によって空間学習を証明した。
【0191】
実験結果を図1に示す。RNAに曝露していない幹細胞を静脈内投与した対照ラット(n=9)の場合、試行中に反応潜時が減少せず、このタスクを習得できなかった。しかし、脳RNA処理幹細胞を投与した実験対象ラットの場合、幼若ラットに匹敵する驚くべき学習能力を示した(p<0.0000000001)。この実験からは二種類の結論を引き出すことができる。第一には、RNA処理幹細胞によって空間学習における加齢関連の欠陥を大幅に改善することができる。対照の未処理幹細胞の場合にはこのような改善ができない。第二には、提供された幹細胞は異なるラット系に由来したものであり、また、レシピエントラットを免疫不全にさせなかったことに注目すべきである。従って、この結果から、実験対象群の細胞は機能的改善を可能とする適切な神経組織に分化しただけでなく、細胞自身がレシピエントに受け入れられるような免疫学的状態を獲得したことが示唆される。また、ドナー脳RNAはレシピエントの同胞(sibling)ラットから得たが、ドナー細胞は異なる系から得たことに注目すべきである。
【0192】
この結果から、RNA分化幹細胞が行動能力を回復させることによって加齢関連損傷を修復できるだけでなく、このような処理細胞がドナーRNAの免疫特性を獲得することが確認される。これによって、幹細胞系や幹細胞バンクの免疫プロファイルを変更し、レシピエントとの特定の適合性を有する分化細胞を産生するための戦略が提示される。
【0193】
実施例3:外因性RNA刺激による分化、遊走及び統合による常在幹細胞のin vivo刺激
実施例1及び2においては、外因性RNAの幹細胞に対する強力な刺激作用、及び哺乳類モデルにおける加齢関連損傷の修復に対するこれらの細胞の作用を確立したが、更なる実施例では、宿主動物常在幹細胞に対する主要組織由来RNAの作用を確立する。この目的のため、生後1日齢で新生児ラットにドナーGFP発現性粗骨髄を腹腔内注射によって投与した。各ラットには、0.2mLの注射で約800,000の細胞を投与した。これらの異質細胞は宿主骨髄で容易に統合し、この生物環境に寄与することが認められた。90日齢において、GFP骨髄移植ラットをランダムに2グループに割り当てた。
【0194】
実験対象ラットには脳RNAを注射投与し、対照ラットには生理食塩水を注射投与した。実験用脳RNAは実施例1に記載のように調製した。注射は皮下で行った。各ラットには、0.5mLの注射でドナーRNAの一全脳等価物(one whole brain equivalent)を投与した。対照ラットには等量の生理食塩水を注射投与した。
【0195】
得られた結果から、対照ラットに比べて実験対象ラットではレシピエント皮質の有意な肥厚(p<0.0001)が示された。更に、実験対象ラットにおいてはかなりの数の分化ニューロン及びグリアがGFPを発現したが、これは、外因性脳RNA投与後、脳内に常在骨髄幹細胞が浸潤したことを示す。
【0196】
実施例4:皮質ニューロンの初代細胞培養物から単離された外因性RNAによる幹細胞の誘導分化
サネト(Saneto)及びデヴェリス(deVellis)(1987年)のプロトコルに従い実験室にて胎児皮質ニューロンの精製培養物を確立した。即ち、適時交配(time mated)したSprague Dawley雌性ラット妊娠16日目に殺した。腹部を70%アルコールで滅菌し、子宮を露出した。次いで、胎児を含む子宮を切開して胎児を子宮から摘出し、大型の100mmペトリ皿に載置した。上述の手順は全て滅菌フード外部のクリーンベンチ上で行い、汚染を防いだ。更なる手順は全て滅菌条件下で行った。
【0197】
次いで、無傷の子宮を生理食塩水で洗浄し、別の滅菌ペトリ皿に移した。次いで、胎児を子宮から摘出し、新しいペトリ皿に入れて脳を解剖した。脳組織を露出し、スパチュラで優しく摘出し、解剖顕微鏡下で皮質を切開した。次いで、髄膜を生理食塩水中で完全に切開した。皮質を処理した後、10mLのガラスピペットに繰り返し通過させて優しく粉砕した。次いで、得られた細胞浮遊液をNitex130フィルター(メッシュサイズ:130μm)に通し、ろ液を40gで遠沈した。次いで、ペレットを無血清基本培地にて再分散させ(サネト(Saneto)及びデヴェリス(deVellis)、1987年、上述)、Nitex33(メッシュサイズ:33μm)に通し、細胞を計数した。
【0198】
得られた懸濁液にインスリン(5μg/mL)及びトランスフェリン(100μg/mL)を追加してニューロン規定(neurone-defined)培地を形成した。細胞を、ポリリシン(2.5μg/mL)でプレコートした24ウェル培養プレートに1×105個/ウェルの濃度で播種した。ニューロンマーカーであるニューロフィラメントタンパク質を発現するが、星状細胞やオリゴデンドロサイトの生化学的マーカーや免疫学的マーカーを発現しないという免疫学的基準によって細胞が95%超のニューロンを含んでいることを報告する(サネト(Saneto)及びデヴェリス(deVellis)、1987年、上述)。プレーティング後3日毎に培地を交換し、培養物を12日間維持した後、RNA抽出を行った。
【0199】
市販のキット(RNAzol)により該メーカーのプロトコルを用いて初代皮質ニューロン培養物からRNAを抽出した。得られたRNAを回収して骨髄培地(実施例1に記載)に再溶解し、その直後、実施例1のように調製したラット骨髄細胞のコンフルエントなコロニーに添加した。各レシピエント骨髄培養ウェルには、1個の完全24ウェル初代ニューロン培養物から抽出した全RNAを添加した(但し、広範囲の外因性RNA濃度で同様の結果が得られた)。
【0200】
培地に溶解した外因性RNAを添加してから24時間後に骨髄幹細胞を鏡検した。対照骨髄幹細胞には等量のRNAzol調製骨髄幹細胞RNAを添加した。
【0201】
結果から、実験対象の幹細胞ウェルの全てにおいて、ニューロンマーカーに対して陽性に染色され、明確に分化したニューロンが産生したことが分かった。骨髄RNA処理ウェルにおいては、幹細胞分化の観測可能な変化は見られなかった。これらの結果から、精製細胞源由来のドナーRNAによって高度に特異的な幹細胞分化を誘導できることが示唆される。
【0202】
外因性RNA画分の分化誘導作用は、RNアーゼによるドナーRNAの前処理には敏感であったが、トリプシンによる前処理には敏感でなかった。このことから、RNAが該作用を仲介したことが示唆される。このような作用は、リポソームやエレクトロポレーション等の様々な送達方法や媒体によって外部から送達された広範囲のRNA量を用いて繰り返すことができる。
【0203】
実施例5:幹細胞源から得たRNA画分の外部からの適用による末端分化細胞の逆形質転換(RETRO-TRANSFORMATION)
実施例1〜4では幹細胞の分化に対するRNA組織抽出物の強力且つ特異的な作用を示したが、本実施例はこのような技法の最後の例である。本実施例では、提供するRNAリッチ抽出物を培養幹細胞から得る。該抽出物の逆分化能力につての試験は、末端分化成体線維芽細胞に外部から適用し、レシピエント成熟分化細胞が幹細胞由来RNA画分によって逆分化して幹細胞の特性や挙動を示すことができるかどうか調べることによって行った。得られた結果から、分化組織から幹細胞型組織が産生し得ることが分かる。
【0204】
成体ラット(Lister Hooded)の線維芽細胞を得て、カワジャ(Kawaja)ら(1992年)のプロトコルに記載の培養条件下で維持した。生検皮膚(約1cm2)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4を含む滅菌ペトリ皿にいれた。次いで、生検皮膚を70%エタノールで満たした別の皿に浸漬させた(×3)後、新しいPBSに戻し、1〜2mmの断片に切断した。10%ウシ胎児血清(FBS)と0.1%グルタミンとを追加したダルベッコ最小必須培地(1mL)で予め満たした60mmの組織培養皿に上で得た外植片を入れた。10単位/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンを更に添加した。この培養物を5%CO2、37℃でインキュベートした。
【0205】
このような培養条件下で2日間経過した後、線維芽細胞が外植片から遊走し始め、この段階で栄養培地を更に2〜3mL添加した。
【0206】
プレートが約90%コンフルエンスに達した際に、培養物を1〜2mLのトリプシン溶液と共にインキュベートすることによって継代させ、その後、15mLの遠心分離管に移しベンチ型遠心分離機にて室温で10分間遠沈した。上清を廃棄し、ペレットを10mLの培地に再懸濁させた。これらの細胞を、培地(2mL)中の細胞浮遊液(0.5mL)を播種した未処理6ウェルプレートにてコンフルエンスになるまで維持した。この時、該細胞を更に継代させることができた。
【0207】
実施例1に記載の培養下で維持した成体ラット骨髄間葉系幹細胞から、或いはレイノルズ(Reynolds)及びワイス(Weiss)(1992年)のプロトコルに従って培養した神経幹細胞(ニューロスフェア)からドナーRNAを得た。全てのRNAリッチ抽出物はRNAzol分離を該メーカーのプロトコルに従って行うことによって調製した。こうして、二種類のドナーRNA画分、即ち、1)骨髄幹細胞RNA(BMS−RNA)及び2)神経幹細胞RNA(NS−RNA)を得た。これらの画分をそれぞれ、線維芽細胞成長培地に0.75μg/mL〜500μg/mLの各種濃度で溶解し、成体分化線維芽細胞に添加し、最終培養ウェル内で5日間維持した。幹細胞由来外因性RNAによる線維芽細胞の形質転換は広範囲の量に亘って現れた。
【0208】
得られた結果において、外因性幹細胞RNAで処理しなかった分化線維芽細胞は表現型の変化を示さなかった。RNA添加から48時間後、25μg/mLの外因性RNA(NS−RNA或いはBMS−RNA)で処理した線維芽細胞は明確な形態の変化を示した。NS−RNAで処理したレシピエント線維芽細胞はニューロスフェアの外観及び特性を有する浮遊球を形成し、ここから神経表現型細胞が拡散し始め、これらは形態学的に神経細胞及びグリア細胞として容易に同定することができた。BMS−RNA(例えば、25μg/mL)で処理したレシピエント線維芽細胞は間葉系幹細胞の典型的な双極性形状を示し、プラスチック付着性であった。
【0209】
引き続き行った実験によって、これらの細胞は実施例1に記載の外因性RNAで更に誘導すると、ニューロン及び筋肉組織を産生することができることが分かった。外因性幹細胞由来RNA画分の逆分化誘導作用はRNアーゼによるドナーRNAの前処理には敏感であったが、トリプシンによる前処理には敏感でなかった。このことから、該作用がRNAによって仲介されたことが示唆される。このような作用は、リポソームやエレクトロポレーション等の様々な送達方法や媒体によって外部から送達された広範囲のRNA量を用いて繰り返すことができる。
【0210】
このように、分化成体組織は各種幹細胞由来RNA画分に付すと、幹細胞様組織に逆分化させることができる。得られた細胞の特性はドナー幹細胞の形態や挙動、潜在能力を反映する。こうして、再生医療における様々な用途のための全能性及び多能性幹細胞を得るための新規で且つ倫理的論議をあまり起こさない方法が提供される。
【0211】
実施例6:運動ニューロン疾患の動物モデルにおける脊椎RNA処理骨髄幹細胞と未分化骨髄幹細胞との比較
SOD1マウスは、ヒト運動ニューロン疾患の十分に確立した動物モデルである。このようなトランスジェニック動物は、運動ニューロンの多大な損失によって70〜90日間で後肢麻痺を示し始め、120〜135日間で死亡する。
【0212】
30匹のマウスを実験に用いた。これらは全てSOD1遺伝子型を発現することを確認した。ラットをランダムに次の3グループ、即ち、
(i)グループ1−脊椎RNAと共にインキュベートした骨髄幹細胞、
(ii)グループ2−骨髄幹細胞のみ、及び
(iii)グループ3−PBS注射
に割り当てた。
【0213】
実施例1に記載のようにドナー骨髄幹細胞を採取し培養した。実施例1に記載したカービー(Kirby)のプロトコルを用いて新たに解剖した成体C57/B1マウスから脊椎RNAを調製した。グループ1で用いる幹細胞は脊椎RNAと共に5時間インキュベートし(250μg/mL)、新しい培地で2回洗浄した後に濃縮し、0.1mLの注射で約90,000細胞/マウスとなるようにした。グループ2への注射用に調製した幹細胞は、RNAへ曝露せずに培養下で維持した後、新しい培地に対して同等の曝露を5時間行った。
【0214】
各グループのレシピエントマウスには尾静脈経由で注射投与した。注射は30G針を用いて行った。全てのマウスが後肢麻痺を示す72〜86日齢のレシピエントマウスに対して注射を行った。各条件下で生き残ったマウスの数を毎日記録した。更なる肢運動については簡単な走行試験によって週に1回評価し、後肢及び前肢の機能を観察した。
【0215】
本実験の結果を図2に示す。脊椎由来RNAで幹細胞を前処理することによって、進行性神経変性疾患の確立モデルにおける幹細胞処理の有効性が劇的に改善した。未処理骨髄由来幹細胞の場合にもある程度の効果が得られたが、RNAで幹細胞を予備分化させる(pre-differentiating)新規な段階によって効果が劇的に改善する。本実施例から更に注目すべき点は、RNA処理幹細胞グループで生き残ったマウス(6匹)と幹細胞のみのグループで生き残ったマウス(1匹)の全てにおいて前処理により麻痺が完全に回復し、また、この処理によって通常は進行性であるこの疾患の更なる進展が防げたことである。
【0216】
実施例7:幹細胞の遊走、統合及び修復に対するRNAドナー組織の加齢及び発達段階の影響
様々な適用にて幹細胞に対するドナー組織由来RNAの作用を確立したが、更なる実施例では、宿主組織への幹細胞の増殖、遊走及び統合に対するRNA抽出前のドナー組織の発達段階の影響について調べる。
【0217】
実施例1に記載したようにτ−GFP発現性マウスから骨髄幹細胞を採取し培養した。254〜299日齢のC57/B1マウスをレシピエント動物とし(N=24)、ランダムに3レシピエントグループに割り当てた(n=8)。注射前に幹細胞の培養物をRNA処理についての3条件、即ち、
(i)グループ1:胎児(E15)脳RNA+幹細胞、
(ii)グループ2:成体(90日)脳RNA+幹細胞、及び
(iii)グループ3:幹細胞+RNA無し
にランダムに割り当てた。
【0218】
実施例1で詳述したカービー法を用いてRNAを抽出し、上で詳述の適切に得たRNAを培地に溶解して濃度を200μg/mLとした。レシピエント幹細胞の各ウェルのインキュベートを、RNA含有培地(1mL)を追加した新しい培地(2mL)にて(グループ1及び2)、或いは新しい培地のみ(3mL)にて(グループ3)12時間行った。次いで、細胞を2回洗浄し、注射用に濃縮して新しい培地0.3μL当り約40,000個の細胞とした。レシピエントマウスを麻酔し、定位ガイダンスを用いて脳の左側脳室に細胞を注射した。外科処置から20日間後、全てのグループに対し、実施例2に記載したラット用のものと同じ訓練プロトコルを用いてマウスモリス水迷路について評価した。上述の日齢のマウスは、この訓練方法によって高齢ラットと同様の空間学習欠陥を示す。訓練後、レシピエントラットを殺し、脳組織に対して皮質厚さの試験や蛍光顕微鏡検査を行い、GFP発現性細胞の生存、増殖及び遊走について評価した。
【0219】
行動結果を図3に示す。グループ1及び2のマウスは、グループ3のマウスに比べてモリス水迷路について優れた習得を示した。この結果は更に、加齢関連脳損傷を修復する上での幹細胞に対する外因性RNA処理の刺激作用を示す(実施例2及び6参照)。更に、胎児RNA+幹細胞のグループにおいては、成体RNA+幹細胞のグループに比べて有意に(p<1×10-10)速いタスクの習得を示した。これらのデータから、広範囲で神経形成が生じる発達段階で得たRNAを組織修復のための幹細胞の処理に用いると、より大きい効果を得ることができることが分かる。皮質厚さの試験によってこの結論が更に支持された。
【0220】
各マウスにおいて、対応する各解剖学的断面(断面数:20)における皮質厚さの測定によって、成体RNA+幹細胞のレシピエントと幹細胞のみのグループとの間には有意差があることが分かった(p<1×10-5)が、これはラットについての同様のデータ(実施例3参照)を裏付けるものである。しかし、胎児RNA+幹細胞のグループの皮質測定値も成体RNAのグループに比べて有意に大きかった。蛍光顕微鏡下での光学的検査によって、成体RNA+幹細胞のグループにおいては、GFP発現性細胞が注射側半球及び対側半球の全体に亘って広く存在することが分かった。しかし、胎児RNA+幹細胞のラットにおいては、成体RNAのグループよりも約30%多い細胞が両半球の皮質全体に亘って存在していた。幹細胞のみのグループにおいては、GFP発現性細胞は主に、嗅球と注射を行った側脳室の下縁周辺に見出された。同側皮質に見出されたのは副次的細胞(occasional cells)のみであった。
【0221】
本実験から、脳由来RNAで幹細胞を前処理することによって、レシピエント神経系への幹細胞の増殖、遊走及び機能的統合が増加することが結論付けられる。更に、より未熟な発達段階、活性な細胞発生段階で得たRNAは、幹細胞刺激やその加齢及び疾患に関連する損傷に対する間接的改善作用により大きな影響を及ぼすことができる。
【0222】
実施例8:内因性神経幹細胞及びその活性に対する成体幹細胞由来RNAの刺激作用の比較
実施例3で得られた証拠によって、加齢に関連する行動欠陥の回復において外因性RNAが常在骨髄幹細胞に対して刺激作用を示したことが分かる。また、幹細胞由来RNAが分化組織に影響を及ぼし得ることも記載されている(実施例5)。本実施例では、骨髄幹細胞由来RNAを直接注射した場合に、内因性修復機序を刺激して加齢関連行動欠陥が改善できるかどうか調べる。様々な内因性神経修復プロセスが現在知られており、例えば、神経幹細胞の仲介による直接的な神経形成や、損傷分化組織に影響を及ぼし得る、幹細胞からの生存因子の分泌等が挙げられる。
【0223】
実施例1に記載のようにin vitroで骨髄幹細胞を採取し培養した。次いで、コンフルエントな培養物を選択してRNA抽出を行った。RNA抽出は、市販品RNAzolを用い該メーカーの指示に従って行った。得られた骨髄RNAをPBSに溶解し(200μg/15μL)、レシピエントへの注射の準備を行った。
【0224】
レシピエントのSprague Dawleyラットは433〜570日齢のエクスブリーダー雄性ラットであった。CNSへの深い加齢関連損傷のため、これらのラットはモリス水迷路タスクを習得したり思い出したりすることができない。これらのレシピエントを日齢に合わせて次の2グループ(各10匹)、即ち、
(i)グループ1−幹細胞RNAを15μL注射投与、及び
(ii)グループ2−RNアーゼで処理した幹細胞RNAを15μL注射投与(実施例1参照)に分割した。
【0225】
注射は麻酔下で定位ガイダンスの下、右側脳室に行った。即ち、レシピエントラットを麻酔し、剃髪し、定位フレームに入れた。皮膚を100%アルコールで消毒し、縦方向に切開して頭蓋骨を露出させた。ブレグマの前方1.5mm、正中線の側方1.5mmの所に幅1.5mmの穴を開けた。目に見える硬膜を30G皮下注射針の先端で切断した。充填したカニューレを定位ガイダンスによって右側脳室内に沈め、内容物を5μLずつ注入した。カニューレを2分間そのままにした後に除去し、切開部を縫合によって閉じた。
【0226】
注射から14日後、実施例2に記載したように、モリス水迷路についてこれらの高齢ラットを盲検的に評価した。
【0227】
本実験の結果を図4に示す。非活性化幹細胞RNA(RNアーゼ処理)を投与した対照ラットはこのタスクを習得できなかった。試行中に反応潜時の減少はなかった。しかし、幹細胞RNA処理ラットは全てこのタスクを習得し、幼若ラットに匹敵する能力を示した。
【0228】
幹細胞由来RNAは、高齢レシピエントの脳における内因性修復機序の刺激に対して有意な(p=1.28×10-45)作用を示した。これは、常在神経幹細胞の神経形成自体の刺激、或いは組織修復に関与する分泌分子生成物の産生の増加によって仲介されたと思われる。
【0229】
また、この実験ついては、胎児(E12)由来全脳RNAを125μg/μLを注射したラット(n=8)とPBSを注射した対照ラット(n=8)を用い、同様の刺激作用に関して追試を行った。胎児RNAを注射したラットは対照ラットに比べて有意に優れた動作を示した(p<1×10-5)。この追試によって、幹細胞活性の上昇を示すことが知られた発達段階から調製したRNAを用いて内因性修復機序を刺激することもできることが示される。
【0230】
実施例9:in vitroでの損傷脳組織に対する胎児脳抽出RNAの作用
実施例8の二種類の実験の結果から、幹細胞活性組織から得た外因性RNA、或いは幹細胞由来RNAは、内因性幹細胞だけでなく、常在分化細胞にも影響を及ぼし得ることが示唆される。このことは実施例5にも示されている。本実施例では、in vitroに置かれた成体脳皮質細胞に対する胎児脳由来RNAの作用について調べる。
【0231】
組織培養下で胎児ニューロンは生存するが、成体皮質ニューロンは十分に生存しないことは十分に確立されている。この主な理由は、初期細胞調製及びプレーティング時に被った損傷である。分裂外傷は修復不能な損傷を生じることが知られている。活発に発達する(胎児)組織由来のRNAは、このような損傷を修復することが可能であり、このような細胞の生存を高めること可能であると仮定した。
【0232】
実施例1に記載のカービーのプロトコルを用いて、新しい胎児(E18)皮質3gからRNAを抽出した。
【0233】
実施例4に記載の技法(サネト(Saneto)及びデヴァリス(deVallis)、1987年)によって成体神経組織を培養した。このプロトコルによって優れた胎児皮質ニューロンの培養物が産生されるが、成体皮質調製物はこの方法では生存しない。皮質源を48日齢のSprague Dawleyラットから摘出し、24ウェルプレートに約1×105の濃度で播種した。このようして、96個のウェルを調製した。プレーティングから24時間後、どのウェルにも死細胞、壊死細胞及び死にかけた細胞の大集団が入っていることを観察した。24ウェルプレート1枚当り12個のウェルをニューロン培地に溶解した胎児脳RNA(150μg)で処理した。対照ウェルには各々、新しい培地を添加した。細胞を更に48時間そのままにした後、ウェル全ての培地を新しい培地に交換した。培地の交換は3日毎に繰り返した。細胞の観察は24時間毎に行った。
【0234】
培地交換から24時間後に行った最初の観察により、対照ウェル全てにおいて死亡していることが分かった。生存細胞は残っておらず、浮遊残屑の塊が観察され、対照ウェル全ての底には死んだ物質(dead material)の密なコーティングが見られた。対照ウェル全てにおいて、死んだ培養物を示す混濁し変色した培地が見られた。実験対象ウェルは良好な健康状態を示したが、死んだ物質も多少含まれていた。しかし、生存細胞が目に見えた。
【0235】
72時間後(2回目の培地交換後)、対照ウェルは全て死亡した(よって、処分を行った)。実験対象ウェルに含まれていた細胞残屑は培地交換の際に除去したが、ウェル全てにおいて、生存細胞が多少プレートに付着したまま残った。多数の細胞から小さな神経突起の伸長と明確な神経形態がはっきりと分かった。
【0236】
96時間後、全ての実験対象ウェルではニューロンが繁殖し、その多くは軸索と樹状構造を有していることがはっきりと分かった。48個のウェルの内17個(35%)では、広範囲の細胞接触や結合(connectivity)が見られた。
【0237】
120時間後、全ての実験対象ウェルにはニューロン形態及びグリア形態を示す広範囲の細胞集団が含まれていた。全てのウェルにおいて広範囲の神経回路網が顕著であった。
【0238】
細胞を更に30日間維持し、神経形態を完全に発現させた。
【0239】
本実施例では、成体神経組織を培養するための新規な方法を示す。更に、本実施例により、幹細胞リッチ胎児組織源から抽出したRNAは損傷細胞に対して強い救済作用を有することが示された。これは、各種方法によって加齢組織や罹患組織、難治性創傷、外傷へ送達可能な胎児或いは培養幹細胞RNAによる組織の修復や再生に対する新規なアプローチを示唆する。
【0240】
実施例10:組織再生への幹細胞の関与を高めるためのラット胚RNAの使用
成体哺乳動物(人間を含む)では、広範囲な再生能力を有することの多い胎児段階と比べて、多くの組織や器官において再生能力が低い。この再生能力の損失に関連する二種類の主要因子としては、瘢痕組織の形成と傷害組織に新しい細胞を補充する分泌分子の損失とが挙げられる。多くの実験によって、注入された幹細胞が損傷組織に統合されることが報告されているが、これは比較的小規模であった。胎児段階のシグナル伝達機序を成体で繰り返すことができれば、これによって、修復を殆ど示さないか或いは全く示さない構造の主要な再生をもたらす幹細胞の能力が改善されるであろうと仮定できる。これには、幹細胞の遊走、統合及び修復の潜在能力を阻害することが知られている瘢痕に関連する古傷(old established injuries)が含まれるであろう。用いる方法は、全胚RNAと幹細胞との共注入である。本実施例では、全ラット胚RNAと骨髄幹細胞を注入した後に、成体ラットの耳に定着したパンチ穴損傷(punch hole lesion)が完全に再生することを示した。
【0241】
タイムメートLister Hoodedラットの子宮から15日齢の胎児を摘出した。胎児組織を冷PBSにてTurexホモジナイザーにより機械的に粉砕した。実施例1に記載のカービーのプロトコルを用いてRNAを抽出した。
【0242】
骨髄幹細胞を実施例1に記載のように培養し、実施例7に記載のように注射用に濃縮した。
【0243】
注射時に137〜149日齢であった18匹の雄性Lister Hoodedラットを損傷モデルとして用いた。ラット全てに対して注射日の30日前に左耳に1.5mmのパンチ穴損傷を与え、古傷のモデルとした。このような日齢のラットは耳組織を再生しない。
【0244】
実験対象ラット(n=6)には、0.3mLのPBSに溶解した胚RNA(800μg)を尾静脈注射によって投与した。1時間後、2回目の注射によって、0.3mLのα−MEMS培地に懸濁させた約2×105個の骨髄幹細胞を該ラットに投与した。対照ラット(n=6)には、最初の尾静脈注射で約2×105個の骨髄幹細胞を投与し、1時間後に2回目の注射で0.3mLのPBSを投与した。更なるグループである未処理対照(n=6)に対しては耳をにイヤークリップを施したが注射処理は全く行わなかった。
【0245】
ラットを毎日観察し耳損傷再生の何らかの徴候について確認した。その結果、未処理対照グループにおいては組織再生や再構築の徴候が見られなかった。同様に、幹細胞のみを注射した対照グループの場合も、一匹のラットにおいて損傷部位周辺でわずかな炎症反応が17時間続いた以外は修復の徴候は何も見られなかった。胚RNAと幹細胞の組合せで処理した実験対象ラットの場合は、注射後6〜9日間で全てのラットにおいて損傷の完全な閉鎖が見られた。6匹の実験対象ラットの内、5匹においては元の損傷の瘢痕や形跡が見えなくなる程度に損傷が完全に再構築された。ラット3(Animal 3)では損傷は完全に閉鎖したが、皮膚で覆われたくぼみがはっきりと残った。
【0246】
得られた結果から、幹細胞仲介による組織の修復や再生は胚由来RNA画分と幹細胞とを共注入することによって劇的に改善されることがはっきりと分かる。本実施例及び本発明者らによる他の同様の実験から、胚RNAは宿主組織環境を該組織周辺で改変し、注入された幹細胞が損傷部位へ向かうように信号を送ることが明らかである。更に、損傷の古い瘢痕も同様に改変され、幹細胞の浸潤とそれに引き続く損傷の修復を許容する環境が得られた。このような共処理によって、幹細胞は損傷組織に補充され、関連する組織型の再生によりその場で一旦損傷を逆転させる(reverse)ことができる。本実施例に用いた損傷モデルが幹細胞注入のみでは修復できない重い古傷(old well established injury)であるという事実は非常に重要である。本方法は、いずれの潜在的な幹細胞療法の有効性をも改善する新規な方法を提供する。組織培養下で維持した胎児組織から抽出したRNAを用いて、幹細胞注入の48時間前までに注入した場合にも同様の結果が見出された。間隔をより長くした場合についは未だ調べていない。同様に、該RNAと幹細胞を同時に注入することによって、損傷組織の同様の主要な再生が行われる。胚RNAによって胎児段階の受容的再生環境やシグナル伝達環境が再現されると考えられる。
【0247】
実施例11:成体ラット骨髄間葉系幹細胞からのラット胚性幹細胞様細胞の産生
多くの研究所では成体幹細胞の可塑性を非常に重要視してきたが、胚性幹細胞が再生医療の将来において最も有望であると考える人もいる。胚性幹細胞の場合には、胚性幹細胞産生における倫理や細胞系の汚染、好適な細胞の入手性等の実用上の不都合がある。本実施例は、胚性幹細胞抽出RNAを用いて成体骨髄幹細胞を胚性幹細胞様細胞に転換しようとするものである。
【0248】
ラット胚性幹細胞(RESC)の単離、成長及び維持については、ファンドリッヒ(Fandrich)ら(2002年)及びルーンケ(Ruhnke)ら(2003年)のプロトコルに従って行った。即ち、タイムメートSprague Dawleyラット由来の4〜5日齢の未分化胚芽細胞の解離内細胞塊からRESCを単離した。マイトマイシン処理胎児線維芽細胞の支持細胞層上で胚性幹細胞を維持した。培地は、高グルコースダルベッコ変法イーグル培地、10%の熱不活化ウシ胎仔血清、1%の200mM L−グルタミン、1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液(50IU/50μg)、インスリン(0.09mg/mL)、1,000U/mLのLIF、及び5mLのヌクレオシド溶液(ルーンケ(Ruhnke)らに記載、2003年)から構成した。
【0249】
これらの細胞は独特の滑らかな丸い塊に成長し、一般に用いるESマーカーであるアルカリホスファターゼに対して陽性に染色された。
【0250】
これらのRESCからRNAzol調製により該メーカーの支持に従ってRNAを抽出した。実施例1に記載のように成体骨髄幹細胞を6ウェル培養プレートに培養した。コンフルエントな各ウェルを実験対象(n=12)と対照(n=12)の割り当てた。実験対象ウェルには、通常の培地変更において骨髄培地(実施例1参照)(3mL)中のRESC−RNA(150μg)を添加した。対照動物には3mLの骨髄培地を添加した。24時間後、実験対象ウェル内の細胞の一部に顕著な形態変化が生じた。骨髄間葉系幹細胞に特有のコロニー形成単位が分裂し、多数の凝集した滑らかな丸い細胞塊が培地内で浮遊するのが見られた。この形態はRESC培養物を連想させた。このような構造物は対照ウェルでは見られなかった。これらの浮遊凝集構造物を培地で吸引し、上述のRESC培地の支持細胞層上に置き、長期間培養下で維持した。60日間に亘って、該構造物はその浮遊円形凝集形態を保持した。培養下で60日後、これらの細胞はアルカリホスファターゼ(即ち、ESマーカー)に対して陽性に染色された。対照ウェル培地も吸引しRESC培養につながる同一のウェルに入れたが、浮遊凝集構造物は現れなかった。
【0251】
本実験から、対処すべき倫理的問題を少なくして成体幹細胞から胚性幹細胞様細胞を産生するための新規な方法が示唆される。
【0252】
実施例12:運動耐性ラット由来筋肉RNAのin vivo注入によってあまり動かないラットにおける運動耐性を誘導する
運動が筋肉組織や生理機能にとって有益であることは知られている。運動を繰り返す際に骨格筋への微小な損傷によって幹細胞活性及び筋細胞の生物学的変化が誘導される。このような変化は、訓練を伴う運動に対する耐性の増加を促進する。
【0253】
運動ラット由来の後肢筋肉から抽出したRNAをあまり動かないラットに注入して、激しい運動時にこのような処理がレシピエントラットへ及ぼす作用について調べた。運動タスクとして回転ドラム上での走行を行った。ラットは、該ドラムの回転速度によって決まる適切な速度で走行することによって該ドラム上にとどまることを容易に習得した。ラットが疲れて走行を止めると、細かく刻んだ紙で満たしたプラスチック容器内に落下する。一旦走行技能をマスターすると、ラットは疲れ果てるまで該ドラム上で楽しく走行した。該ドラム上での最初の訓練期間終了後、運動耐性の尺度として走行時間を記録した。
【0254】
実験対象ドナーラット(n=10)を次の好適な運動計画に従って毎日訓練した。
1週目−試行間の休憩を1時間とりながらラットを1日5回試行させた(10分間)。回転速度は15mm/秒に設定した。ラットが落下した場合には、ドラムに戻し試行時間いっぱいまで走行させた。このオリエンテーション週間中に全てのラットはこの運動技能を習得した。
2週目−速度を37mm/秒に上げ、試行間の休憩を1時間とりながらラットを1日5回試行させた。ラットが落下した場合には、素早くドラムに戻した。各試行は15分間行った。
3週目−同じ走行速度でラットを1日1回試行させたが、走行は最初に落下するまでとした。
4週目−走行速度を97mm/秒とし、ラットを1日1回、最初に落下するまで試行させた。
【0255】
対照ドナーラット(n=10)は上述の運動用ドラムを体験せずに、4週間の運動期間中、該ラットのホームケージ内に留まった。
【0256】
両グループのドナーラットを4週目の最後に殺し、後肢筋肉を切開した。実施例1に記載の方法によってRNAを抽出した。次いで、RNAを900μgの用量に保存し注射に備えた。
【0257】
レシピエントラット(n=20)を互いにマッチングさせた2グループに分割した。全てのレシピエントラットに対し、ドナー訓練の1週目に記載したように回転ドラム上でオリエンテーション週間の訓練を受けさせた。これらのラットにはそれ以上の訓練を行わなかった。
【0258】
最後のオリエンテーション試行から1日後、レシピエントラットの尾静脈内に0.3mLのPBS(IV)に溶解した900μgのRNAを投与した。実験対象レシピエントには訓練ドナーの筋肉RNAを投与し、対照ラットには未訓練ドナーのRNAを投与した。
【0259】
注射投与1週間後、全てのラットに次の走行試行、即ち、15mm/秒での5分間の軽い走行を行った。この期間、全てのラットはバランスを保ち、楽に走行した。5分間のバランス試行の後、速度を97mm/秒に上げ、落下/飛び降りまでの時間を運動耐性の尺度として記録した。
【0260】
この2グループ間には明らかな差があった。未訓練RNAのレシピエントでは平均運動時間が3.54分であったが、訓練ラット由来の筋肉RNAのレシピエントでは平均運動時間が6.19分であった。
【0261】
訓練したラットから抽出したRNAによって、レシピエントラットの運動耐性が対照と比べて高まった。これらの予備データから、運動によって誘導された筋肉増強がRNAのin vivo適用によってナイーブな筋肉に導入することが可能であることが示唆される。これによって、各種筋肉変性疾患への有用な治療的アプローチ、或いは疾患や老化、加齢に関連する病状において筋力を改善するための新規な方法を提供することができる。更に、このような技法は農業においても価値のあるものとなり得る。
【0262】
実施例のみによって本発明について上で説明したが、本発明の範囲及び精神を逸脱することなしに種々の変更を行い得ることは理解されるであろう。
【0263】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0264】
【図1】レシピエント動物の空間学習及び記憶能力によって評価した、ラット脳への加齢関連損傷に対する脳RNA分化幹細胞の作用。468〜506日齢のエクスブリーダー雄性ラットに未処理骨髄幹細胞或いは脳RNA抽出物で処理した骨髄幹細胞を静脈内投与した。未処理幹細胞を投与した対照ラットの結果(黒四角)及び脳処理幹細胞を投与した実験対象ラットの結果(白丸)を示す。この結果から、実験対象ラットにおいては学習能力が顕著に高まることが分かる。
【図2】運動ニューロン疾患の動物モデルに対する脊椎RNA分化幹細胞の作用。SOD1マウスに対し、脊椎RNA抽出物で処理した骨髄幹細胞、未処理骨髄幹細胞、或いは生理食塩水を静脈内投与した。脊椎RNA処理幹細胞を投与した実験対象マウスの結果(黒四角)、未処理幹細胞を投与した対照マウスの結果(白三角)、及び生理食塩水を投与した対照マウスの結果(黒丸)を示す。この結果から、脊椎由来RNAで幹細胞を前処理することによって進行性神経変性疾患の確立モデルにおける幹細胞処理の有効性が劇的に改善したことが分かる。
【図3】レシピエント動物の空間学習及び記憶能力によって評価した、マウス脳への加齢関連損傷に対する脳RNA分化幹細胞の作用に及ぼすドナー組織発達段階の影響。254〜299日齢のC57/B1マウスに対し、胎児(E15)脳RNA抽出物で処理した骨髄幹細胞、成体(90日)脳RNA抽出物で処理した骨髄幹細胞、或いは未処理骨髄幹細胞を静脈内投与した。未処理幹細胞を投与した対照マウスの結果(黒四角)、胎児脳処理幹細胞を投与した実験対象マウスの結果(黒丸)、及び成体脳処理幹細胞を投与した実験対象マウスの結果(白三角)を示す。この結果から、実験対象マウスにおいて学習能力が高まり、胎児脳処理幹細胞を投与したマウスは顕著に速い習得を示すことが分かる。
【図4】レシピエント動物の空間学習及び記憶能力によって評価した、ラット脳への加齢関連損傷に対する骨髄幹細胞由来RNAの直接注入の作用。433〜570日齢のエクスブリーダー雄性ラットに対し、骨髄幹細胞RNA、或いはRNアーゼで処理した骨髄幹細胞RNAを右側脳室に注射投与した。RNアーゼ処理幹細胞RNAを投与した対照ラットの結果(黒四角)及び幹細胞RNAを投与した実験対象ラットの結果(白丸)を示す。この結果から、対照ラットはこのタスクを習得できなかったが、幹細胞RNA処理のラットはこのタスクを習得し幼若ラットに匹敵する能力を示したことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の所望の細胞型の特性に向けて或る細胞の特性を改変する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞から抽出可能なRNA配列を有する単離RNAを、細胞の集団に対して、前記細胞特性の改変が達成される条件下で提供することを含む方法。
【請求項2】
前記単離RNAは患者における細胞集団に提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特性は表現型である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記特性は細胞機能である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記特性の改変は、前記細胞集団が改変遺伝性遺伝子型を獲得するような遺伝的形質転換を伴う、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞特性の改変は、幹細胞の成体分化細胞への分化である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞特性の改変は、成体分化細胞の幹細胞への逆分化である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞特性の改変は、分化成体細胞の、異なる専門性を有する成体細胞への分化である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞特性の改変は、免疫学的プロファイルの変化である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
患者において幹細胞仲介による修復を改善する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
患者において幹細胞の動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化を誘導する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
罹患した細胞の修復をもたらし、細胞の遺伝的構成を改変し、特定の細胞型及び/又は細胞運命を誘導し、細胞の免疫学的プロファイルを変更し、及び/又は特定の所望の免疫機能や特性を誘導する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者に幹細胞を提供する段階を更に含む、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記幹細胞を提供する段階は、前記単離RNAを提供する段階と逐次的に、同時に或いは別々に行う、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記単離RNAは、処理対象の細胞の発達段階とは異なる発達段階の細胞から抽出可能なRNA配列を有する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記単離RNAは、処理対象の細胞の発生段階よりも活発な細胞発生段階の細胞から抽出可能なRNA配列を有する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記単離RNAは、疾患や病態に対して免疫或いは耐性を示す個体由来の細胞から抽出可能なRNA配列を有する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記単離RNAは、胎児細胞、新生児細胞、幼若細胞或いは胚性幹細胞から抽出可能なRNA配列を有する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
幹細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が一以上の所望の細胞型に分化するようにin vivo或いはin vitroで誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出可能なRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法。
【請求項20】
幹細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た全能性或いは多能性幹細胞が動員、遊走、統合、増殖及び/又は分化するようにin vivo或いはin vitroで誘導する方法であって、前記所望の細胞型を有する細胞や組織から抽出可能なRNAを有する単離RNAを前記幹細胞の細胞培養物に、前記幹細胞の所望の分化が達成される条件下で提供することを含む方法。
【請求項21】
前記細胞は幹細胞である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記幹細胞は成体動物幹細胞或いは成体幹細胞系である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記幹細胞は胚性幹細胞或いはそのような細胞由来の幹細胞系である、請求項20又は請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記成体幹細胞は骨髄間質細胞、造血幹細胞、神経幹細胞或いは対応する派生幹細胞系(derived stem cell line)である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞はヒト幹細胞或いはヒト幹細胞系である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞は一以上の安定な末端細胞型に分化される、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞は分化前に遺伝的に修飾される、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞は、前記所望の細胞の対象レシピエントに由来する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記RNAは、処理対象細胞の源とは異なる個体の細胞や組織から抽出されたRNAを有するものであり、前記抽出されたRNAは、前記所望の細胞の対象レシピエントに適合する免疫学的プロファイルを有するドナーに由来する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
RNA抽出物を前記細胞による摂取のために提供し、該抽出物は全組織或いは全細胞RNA抽出物である、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
脳細胞或いは脳細胞系の一以上の型から抽出可能なRNAを細胞による摂取のために提供する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞は骨髄間質幹細胞であり、供給される単離RNAは、脳細胞或いは骨格筋の一以上の型、或いは脳細胞或いは骨格筋からの対応派生細胞系(corresponding derived cell line of either)から抽出可能なRNAを有する、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造における、請求項1〜31のいずれか一項に記載の幹細胞の分化を誘導することができるRNAの使用。
【請求項34】
前記RNAは、退行性脳疾患、脳損傷或いは脊髄損傷の治療のための全能性或いは多能性幹細胞の分化をin vivoで誘導するのに適している、請求項32に記載の使用。
【請求項35】
前記RNAは、肝疾患、心疾患、骨格筋疾患、心筋疾患或いはI型糖尿病から選択される疾患の治療のための全能性或いは多能性幹細胞の分化をin vivoで誘導するのに適している、請求項32又は請求項33に記載の使用。
【請求項36】
幹細胞の分化をin vivoで誘導して加齢に関連する変性疾患に対抗する、請求項32又は請求項33に記載の使用。
【請求項37】
ある細胞系由来の或いは動物や植物の組織から得た分化細胞をin vitroで逆分化させて所望の型の全能性或いは多能性幹細胞或いは幹細胞系を産生する方法であって、所望の型の幹細胞或いは幹細胞系から抽出可能なRNAを有する単離RNAを前記分化細胞の細胞培養物に提供し、前記分化細胞をして、前記幹細胞型或いは幹細胞系型へと所望の逆分化を達成させることを含む方法。
【請求項38】
前記細胞は請求項20〜24のいずれか一項に記載されている、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記分化細胞は、皮膚細胞、骨髄細胞、造血細胞、或いはこのような細胞に由来する細胞系から選択される、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項40】
前記分化細胞は線維芽細胞或いは線維芽細胞系であり、前記RNAは骨髄幹細胞或いは神経幹細胞から抽出可能な、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項41】
供給される単離RNAは、骨髄間質幹細胞、神経幹細胞、或いはどちらか一方に由来する幹細胞系から抽出可能なRNAを有する、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
分化細胞を産生するin vitro方法であって、
i)請求項36〜40のいずれか一項に記載の方法を行って分化細胞から幹細胞或いは幹細胞系を産生することと、
ii)産生された幹細胞或いは幹細胞系に対して請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法を行って分化細胞を産生することとを含む方法。
【請求項43】
前記幹細胞に遺伝子修飾を導入することを更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
請求項1〜31又は36〜42のいずれか一項に記載の方法によって得られる細胞。
【請求項45】
組織や細胞の損傷又は遺伝性疾患の改善或いは治療に用いる薬剤の製造における、請求項43に記載の細胞の使用。
【請求項46】
或る一細胞型から他の細胞型へ所望の特性を付与することが可能なRNA配列をスクリーニングする方法であって、次の各段階
a)所望の細胞型を有する細胞からRNAを抽出する段階と、
b)抽出したRNAを異なる画分に分離する段階と、
c)ある画分を試験細胞に提供する段階と、
d)試験細胞を解析し、RNAを抽出した所望の細胞型が有する特性に改変されたかどうか確認する段階とを含み、
試験細胞に改変特性を付与する画分を、所望の特性を付与することが可能なRNA配列を有するものとして同定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−527211(P2007−527211A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518366(P2006−518366)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002981
【国際公開番号】WO2005/005622
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506008892)ライボステム・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】